JP4027724B2 - 動弁装置におけるラッシュアジャスタ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、内燃機関における動弁装置のバルブクリアランスを自動調整するラッシュアジャスタに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
カムの回転によって吸気バルブあるいは排気バルブ(以下、単にバルブという)を開閉させる動弁装置においては、ラッシュアジャスタの組込みによってバルブクリアランスを自動調整している。
【0003】
上記ラッシュアジャスタとして、リフタボディのカムと接触する端板の下面に閉塞端を有するねじ孔を形成し、そのねじ孔にねじ係合されたアジャストスクリュを、ねじ孔の閉塞端部内に組込んだ弾性体によって軸方向に押圧し、上記ねじ孔の雌ねじとアジャストスクリュの雄ねじのそれぞれを、アジャストスクリュに負荷される押し込み荷重を受ける圧力側フランクのフランク角が遊び側フランクのフランク角より大きい鋸歯ねじとしたものが従来から知られている(アメリカ特許4548168号明細書)。
【0004】
上記ラッシュアジャスタは、例えば、カムとバルブに設けられたバルブステム間に組込み、上記バルブステムをカム側に押圧するバルブスプリングの弾力によってバルブステムの端面をアジャストスクリュの端面に押し付け、その力をリフタボディを通してカムに伝え、カムの回転によってバルブが開閉するようにする。
【0005】
上記のようなラッシュアジャスタの内燃機関への組込みにおいて、シリンダヘッドの熱膨張等によりバルブステムとアジャストスクリュ間にバルブクリアランスが生じようとすると、弾性体の押圧力によりアジャストスクリュが遊び側フランクに沿って回転しつつ軸方向に移動して上記バルブクリアランスを吸収する。
【0006】
また、アジャストスクリュがバルブステムによって押込み力を受けると、雄ねじと雌ねじのねじ係合部に形成された軸方向のねじ隙間を詰めるまでアジャストスクリュが後退し、さらに押込み力がかかると互いに圧接する圧力側フランクにより上記押込み力を受けてアジャストスクリュが回転しつつ後退動するのを防止する。
【0007】
反対に、バルブシートの摩耗等によりバルブステムエンドとカム軸間の距離が縮まると、アジャストスクリュはバルブステムから負荷される軸方向の変動荷重により徐々に押し込まれて後退し、その後退によってカムベース円がリフタボディの端板と接触するバルブ閉鎖時にバルブが完全に閉まらなくなり圧縮漏れを引き起こすことを防止する。このとき、アジャストスクリュは前記軸方向の変動荷重の最小値が0となる位置から更にねじのガタ分だけ押し込まれ、それ以上は後退しない。
【0008】
上記では、内燃機関に組み込まれた上記ラッシュアジャスタにおけるバルブクリアランスの調整作業を記述したが、このような調整の殆ど必要のない定常的な運転状態の時、アジャストスクリュは殆ど回転せず、ねじ孔の雌ねじとアジャストスクリュの雄ねじのねじ係合部間に形成されたねじ隙間の範囲内で軸方向変位を繰り返す。
【0009】
すなわち、アジャストスクリュは、雌ねじと雄ねじのねじ山の圧力側フランクが互いに衝突する動作とねじ隙間の範囲内で離反する動作を繰り返す。
【0010】
このような運転状態において、雌ねじにおける圧力側フランクと雄ねじにおける圧力側フランク間にエンジンオイル等の潤滑油が介在すると、アジャストスクリュが軸方向の押し込み荷重を受けたとき、相対的に接近する方向に移動する圧力側フランクは、その間に形成される油膜を排除しようとする。このとき、油膜は圧力側フランクに抗して圧力を生じる。この圧力が軸方向に支えうる力を油膜の荷重支持圧力とした場合、その荷重支持圧力が、カムからラッシュアジャスタを介してバルブに伝わる軸方向荷重より小さい場合、油膜は、圧力側フランク間から迅速に排除され、雌ねじと雄ねじの圧力側フランクは直ちに衝合し、その圧力側フランクの接触部の摩擦力によりアジャストスクリュは回転するのが防止される。
【0011】
一方、油膜の荷重支持圧力がカムからラッシュアジャスタを通してバルブに伝わる軸方向荷重と釣り合う大きさであると、アジャストスクリュの軸方向への移動は阻害される。このとき、雌ねじと雄ねじの圧力側フランク間に介在する油膜によって圧力側フランクは非接触の状態であり、アジャストスクリュの回転を阻害する回転抵抗は、油膜の剪断抵抗のみであって非常に小さく、アジャストスクリュは回転しつつねじ孔の閉塞端に向けて後退し、バルブリフト量を低下させることになる。
【0012】
一般に、油膜の荷重支持圧力は、接近する二面の面積が小さい程小さく、同じ面積でも細かく分断されている程小さい。
【0013】
このような知見に基づき、前記油膜の排除効果を高めて、バルブリフト量の安定化を図るため、特表平03−501758号公報に記載されたラッシュアジャスタにおいては、アジャストスクリュの圧力側フランクに周方向に延びる複数の溝を形成して、油膜の排除効果を高め、油膜の荷重支持圧力を低く抑えるようにしている。
【0014】
また、特開2000−130114号公報に記載されたラッシュアジャスタにおいては、リフタボディに形成されたねじ孔の内周に複数の軸方向の溝を周方向に間隔をおいて形成して、雌ねじの圧力側フランクを周方向に細かく分断し、油膜の排除効果を高めるようにしている。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、特表平03−501758号公報および特開2000−130114号公報に記載されたラッシュアジャスタにおいては、雌ねじと雄ねじの圧力側フランクが接触によって摩耗し、表面粗さが極端に滑らかになると、圧力側フランクの相互間に、アジャストスクリュの回転を防止するための充分な摩擦力を得ることができない場合がある。
【0016】
そのような不都合を解消するには、雌ねじと雄ねじの圧力側フランクの面粗さを粗くして、圧力側フランクに比較的小さな凹凸を設けることが有効であるが、粗面の形成によって得られる上記凹凸は油膜を排除させる通路としての効果が低く、油膜を効果的に排除することができない。特に、極低温時のように、潤滑油の粘度が非常に高くなる場合においては、油膜の排除に時間を要し、その間にアジャストスクリュが滑り回転をおこしてバルブリフト量が減少することが考えられる。
【0017】
ここで、油膜の荷重支持圧力は、接近する二面の距離、面積、形状、接近距離、潤滑油の粘度等に大きく変化する。一例として、圧力側フランク面間の距離および周囲の温度と荷重支持圧力の関係を計算したグラフを図11に示す。
【0018】
ここで、図11(a)は、リフタボディに形成されたねじ孔の雌ねじにおけるねじ山と、そのねじ孔にねじ係合されたアジャストスクリュの雄ねじのねじ山を圧力側フランクのフランク角が遊び側フランクのフランク角より大きい鋸歯状としたラッシュアジャスタでの温度と荷重支持圧力との関係を示し、一方、図11(b)は上記ラッシュアジャスタにおいて、ねじ孔に雌ねじのねじ山を周方向に分断する複数の軸方向溝を形成したラッシュアジャスタでの温度と荷重支持圧力との関係を示す。
【0019】
図11(a)より、油膜の荷重支持圧力は、温度の低下による潤滑油の粘度の増加に伴い急激に増加することが理解できる。すなわち、雌ねじと雄ねじの圧力側フランク間の距離が比較的大きい瞬間でも、低温時には油膜の荷重支持圧力がカムからラッシュアジャスタを介してバルブに伝わる軸方向荷重と釣り合う可能性がある。
【0020】
また、図11(b)から、圧力側フランク間の距離が接近するほど荷重支持圧力が高くなることから、圧力側フランクの摩耗により、その圧力側フランクが滑らかになった場合には、対向する圧力側フランクが接触する前の最接近距離が小さくなることで、たとえ圧力側フランクが周方向に細かく分断されている場合でも、荷重支持圧力が大きくなり得ることが理解できる。
【0021】
この発明の課題は、リフタボディに形成されたねじ孔の雌ねじと、そのねじ孔にねじ係合されたアジャストスクリュの雄ねじのねじ山を鋸歯状としたラッシュアジャスタにおいて、各ねじ山の圧力側フランク間の隙間が比較的大きい瞬間から圧力側フランクが互いに接触する瞬間まで安定して迅速に油膜を排除し得るようにし、また、耐久的使用により圧力側フランクが摩耗した後でも圧力側フランクにアジャストスクリュを回り止めし得る摩擦抵抗が確保されるようにして、安定したバルブリフト量が得られるようにすることである。
【0022】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、第1の発明においては、カムとバルブステム間において軸方向にスライド自在に組込まれ、カムと接触する端板の下面に閉塞端を有するねじ孔が設けられたリフタボディと、そのリフタボディの前記ねじ孔にねじ係合されたアジャストスクリュと、前記ねじ孔の閉塞端部内に組込まれて前記アジャストスクリュを軸方向に押圧する弾性体とから成り、前記ねじ孔の雌ねじとアジャストスクリュの外周に形成された雄ねじのねじ山を、アジャストスクリュに負荷される軸方向の押込み荷重を受ける圧力側フランクのフランク角が遊び側フランクのフランク角より大きい鋸歯状とした動弁装置におけるラッシュアジャスタにおいて、前記雌ねじと雄ねじのいずれか一方にねじ山を周方向に分断する複数の軸方向溝を設け、その軸方向溝によって分断されたねじ山の圧力側フランクに凹凸部を設けた構成を採用している。
【0023】
また、第2の発明においては、カムとバルブステム間において軸方向にスライド自在に組込まれ、カムと接触する端板の下面に閉塞端を有するねじ孔が設けられたリフタボディと、そのリフタボディの前記ねじ孔にねじ係合されたアジャストスクリュと、前記ねじ孔の閉塞端部内に組込まれて前記アジャストスクリュを軸方向に押圧する弾性体とから成り、前記ねじ孔の雌ねじとアジャストスクリュの外周に形成された雄ねじのねじ山を、アジャストスクリュに負荷される軸方向の押込み荷重を受ける圧力側フランクのフランク角が遊び側フランクのフランク角より大きい鋸歯状とした動弁装置におけるラッシュアジャスタにおいて、前記雌ねじと雄ねじのいずれか一方に、ねじ山を周方向に分断する複数の軸方向溝を形成し、他方のねじ山における圧力側フランクに凹凸部を設け、その凹凸部がショットピーニングによって形成した梨地状面から成る構成を採用している。
【0024】
第1の発明および第2の発明において、凹凸部は、ねじ山のリードに沿って形成された螺旋状溝であってもよく、あるいは、ショットピーニングによって形成される梨地状面であってもよい。
【0025】
上記第1の発明および第2の発明のいずれの発明においても、圧力側フランク間の隙間が比較的大きい瞬間から圧力側フランクが互いに接触する瞬間まで圧力側フランク間に介在する油膜を迅速に排除することができる。
【0026】
また、周方向に分断された圧力側フランクに凹凸部を形成することによって、耐久的使用により圧力側フランクが接触により摩耗しても、圧力側フランクになお一定の粗さが維持され、圧力側フランクの摩擦係数の低下はきわめて少ない。このため、圧力側フランクの接触時において、アジャストスクリュが回転しつつ後退するのを防止することができ、バルブリフト量の安定化を図ることができる。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態を図に基づいて説明する。図1は、この発明に係るラッシュアジャスタAをダイレクト型動弁装置のカム1とバルブステム2間に組み込んだ状態を示している。
【0028】
バルブステム2は上端部にスプリングリテナ3を有し、そのスプリングリテナ3に付与されるバルブスプリング4の弾力によってバルブステム2は下端のバルブ5がバルブシート6に密着する方向に付勢されている。
【0029】
図2に示すように、ラッシュアジャスタAはリフタボディ11を有している。リフタボディ11は、図1に示すように、シリンダヘッドBに形成されたガイド孔7内においてスライド自在とされる。このリフタボディ11はカム1と接触する端板12を上側に有し、その端板12の下面に凹部13が形成され、その凹部13内にナット部材14の上部が嵌合されている。ナット部材14は凹部13の開口縁の加締めによってリフタボディ11に一体化されている。
【0030】
なお、ナット部材14はロウ付けによる手段等によってリフタボディ11に固着してもよい。
【0031】
ナット部材14に形成されたねじ孔15の上端は端板12によって閉塞され、そのねじ孔15にねじ係合されたアジャストスクリュ16は、ねじ孔15の閉塞端部内に組み込まれた弾性体17によって軸方向に押圧されている。
【0032】
ナット部材14の外側にはプレス成形品から成るキャップ18が嵌合され、そのキャップ18は凹部13の開口縁の加締めによって嵌合状態に保持されている。キャップ18はナット部材14の下面に衝合するフランジ18aを下端に有し、そのフランジ18aはアジャストスクリュ16がねじ孔15から脱落するのを防止している。
【0033】
図3に示すように、ねじ孔15の雌ねじ15aとアジャストスクリュ16の外周に形成された雄ねじ16aのねじ山は、アジャストスクリュ16に負荷される押し込み力を受ける圧力側フランク19a、19bのフランク角が遊び側フランク20a、20bのフランク角より大きい鋸歯状とされ、その鋸歯状ねじ山に前記弾性体17の押圧によってアジャストスクリュ16が回転しつつ軸方向に移動するリード角が設けられている。
【0034】
上記の構成から成るラッシュアジャスタAの動弁装置への組込みにおいて、シリンダヘッドBの熱膨張等によってバルブステム2とアジャストスクリュ16間にバルブクリアランスが生じると、弾性体17の押圧によってアジャストスクリュ16が遊び側フランク20aに沿って回転しつつ軸方向に移動して上記バルブクリアランスを吸収する。
【0035】
また、アジャストスクリュ16がバルブステム2によって押し込み力を受けると、雌ねじ15aと雄ねじ16aのねじ係合部に形成された軸方向のねじ隙間をつめるまでアジャストスクリュ16が後退し、さらに押し込み力がかかると、互いに圧接する圧力側フランク19a、19bにより上記押し込み力を受けてアジャストスクリュ16が回転しつつ後退動するのを防止する。
【0036】
反対に、バルブシート6の摩耗等によりバルブステム2の上端とカム1間の距離が縮まると、アジャストスクリュ16はバルブステム2から負荷される軸方向の変動荷重により徐々に押し込まれて回転しつつ後退し、カム1のベース円1aがリフタボディ11の端板12と接触するバルブ閉鎖時にバルブ5が不完全に閉鎖するのを防止する。このとき、アジャストスクリュ16は前記軸方向の変動荷重の最小値が0となる位置からさらにねじ隙間分だけ押し込まれ、それ以上は後退しない。
【0037】
一方、バルブクリアランスの調整が必要ない定常的な運転状態の時は、アジャストスクリュ16は殆ど回転せず、ねじ孔15の雌ねじ15aとアジャストスクリュ16の雄ねじ16aのねじ係合部間に形成されたねじ隙間の範囲内で軸方向変位を繰り返す。
【0038】
すなわち、アジャストスクリュ16の雄ねじ16aにおける圧力側フランク19bは雌ねじ15aの圧力側フランク19aに圧接する作動と、その圧力側フランク19a、19bが離反する作動とを繰り返し行う。このとき、圧力側フランク19a、19b間に潤滑油が介在し、その潤滑油が圧力側フランク19a、19b間より迅速に排除されない場合には、従来の技術の項で述べたように、圧力側フランク19a、19bが接近する方向にアジャストスクリュ16が移動した際に、アジャストスクリュ16が回転しつつ後退動してバルブリフト量が低下する等の問題が生じる。
【0039】
そのような問題点を解決するため、ナット部材14の雌ねじ15aに図5(I)乃至(III )で示す加工を施すと共に、アジャストスクリュ16の雄ねじ16aに図6(I)乃至(IV)で示す加工を施し、そのナット部材14とアジャストスクリュ16を単独で使用し、あるいは組み合わせて使用するようにしている。
【0040】
ここで、図5(I)では、ナット部材14の内周に雌ねじ15aのねじ山を周方向に分断する複数の軸方向溝21を形成している。
【0041】
図5(II)では、ナット部材14の雌ねじ15aにおけるねじ山の圧力側フランク19aに凹凸部として複数の螺旋状溝22を形成している。
【0042】
さらに、図5(III )では、ナット部材14の内周に図5(I)で示す場合と同様に雌ねじ15aのねじ山を周方向に分断する複数の軸方向溝21を形成し、その軸方向溝21によって分断されたねじ山の圧力側フランク19aに凹凸部としての複数の螺旋状溝22を設けている。
【0043】
ここで、図5(II)、(III )に示される螺旋状溝22は、タップにより切削された溝である。この螺旋状溝22の溝深さは、0.1〜0.5mm程度が好ましい。
【0044】
一方、図6(I)では、アジャストスクリュ16の雄ねじ16aにおける圧力側フランク19bにショットピーニング加工を施して凹凸部としての梨地状面23を形成している。
【0045】
図7は、ショットピーニングにより形成された梨地状面23の表面粗さ曲線を示し、縦軸は面粗さを示し、横軸は周方向長さを示している。
【0046】
図6(II)では、雄ねじ16aの圧力側フランク19bに凹凸部としての複数の螺旋状溝24を形成している。この螺旋状溝24は、転造により形成してもよく、あるいは切削により形成してもよい。螺旋状溝24の深さは、図5(II)、(III)に示される場合と同様に、0.1〜0.5mm程度が好ましい。
【0047】
図6(III )では、アジャストスクリュ16の雄ねじ16aのねじ山を周方向に分断する複数の軸方向溝25を形成している。
【0048】
さらに、図6(IV)では、図6(III)で示す場合と同様に、アジャストスクリュ16の雄ねじ16aを周方向に分断する複数の軸方向溝25を形成し、その軸方向溝25によって分断されたねじ山の圧力側フランク19bに凹凸部としての複数の螺旋状溝24を設けている。
【0049】
表1は、ナット部材14とアジャストスクリュ16の組み合わせの一例を示している。
【0050】
【表1】
【0051】
因みに、図4は、No.3の組み合わせ例を示している。
【0052】
上記組み合わせ例のNo.1およびNo.2で示すように、ナット部材14の雌ねじ15aとアジャストスクリュ16の雄ねじ16aのいずれか一方に、ねじ山を周方向に分断する複数の軸方向溝21、25を形成し、その軸方向溝21、25によって分断されたねじ山の圧力側フランク19a又は19bに螺旋状溝22、24を設け、あるいは、No.3〜No.5で示すように、雌ねじ15aと雄ねじ16aのいずれか一方に、ねじ山を周方向に分断する複数の軸方向溝21、25を形成し、他方のねじ山における圧力側フランク19a又は19bに梨地状面23や螺旋状溝22、24を設けることによって、圧力側フランク19a、19b間に介在する潤滑油をスムーズに確実に排除することができる。
【0053】
すなわち、アジャストスクリュ16が雌ねじ15aと雄ねじ16aのねじ係合部間に形成されたねじ隙間の範囲内で軸方向に繰り返し移動する定常的な運転状態において、雄ねじ16aの圧力側フランク19bが雌ねじ15aの圧力側フランク19aに向けて移動すると、その移動開始から圧力側フランク19a、19bが互いに接触し始める少し手前の間は、圧力側フランク19a、19b間の潤滑油は軸方向溝21、25に沿ってスムーズに排除されると共に、圧力側フランク19a、19bが接触し始めると、圧力側フランク19a、19bに形成された梨地状面23あるいは螺旋状溝22、24に沿って流れて軸方向溝21、25に流れ、その軸方向溝21、25から迅速に排除される。
【0054】
このように、圧力側フランク19a、19b間から潤滑油が迅速に、かつ確実に排除されることによって、圧力側フランク19a、19bが互いに圧接する位置までアジャストスクリュ16を確実に移動させることができ、その圧力側フランク20の接触によってアジャストスクリュ16が回転しつつ後退するのを防止することができる。
【0055】
また、圧力側フランク19a、19bが接触により摩耗しても、その圧力側フランク19a、19bには梨地状面23あるいは螺旋状溝22、24が形成されているため、一定の粗さが維持される。このため、圧力側フランク19a、19bの接触部での摩擦係数の低下が少なく、圧力側フランク19a、19bの接触部にアジャストスクリュ16を回り止めするのに充分な摩擦抵抗を得ることができ、安定したバルブリフト量を得ることができる。
【0056】
因みに、ナット部材14のねじ孔15内周に雌ねじ15aのねじ山を周方向に分断する複数の軸方向溝21を形成し、その軸方向溝21によって分断されたねじ山の圧力側フランク19aに螺旋状溝22を設けたラッシュアジャスタ、およびナット部材14の内周に雌ねじ15aのねじ山を周方向に分断する複数の軸方向溝21を設け、アジャストスクリュ16の雄ねじ16aの圧力側フランク19bにショットピーニングを施して梨地状面23を形成したラッシュアジャスタの耐久的使用後の低温特性試験を行ったところ、図8(a)、(b)で示す結果を得た。
【0057】
図8(a)、(b)に示すグラフにおいて、グラフの下側の折れ線A1 はクランクシャフトの回転数を示しており、クランクシャフトを一定の回転数で回転させている。
【0058】
また、グラフの上側はバルブ5のリフト曲線B1 を示している。なお、グラフでは、一つのリフト曲線のみを拡大した形で示しているが、実際には、上記リフト曲線がグラフの横軸(時間軸)方向に連続した形で現れ、その連続するリフト曲線のバルブ閉位置およびバルブ開位置を線で結んで表示している。
【0059】
なお、図9(a)、(b)は、ナット部材14のねじ孔15の内周に雌ねじ15aのねじ山を周方向に分断する複数の軸方向溝21のみを形成したラッシュアジャスタの回転数のスイープ試験を行った場合の試験結果を示し、図9(a)は耐久前の試験結果、図9(b)は耐久後の試験結果を示す。
【0060】
また、図10(a)、(b)は、ナット部材14の雌ねじ15aの圧力側フランク19aに複数の螺旋状溝22のみを形成したラッシュアジャスタの回転数スイープ試験を行った場合の試験結果を示し、図10(a)は常温時の試験結果、図10(b)は低温時の試験結果を示す。
【0061】
図9(a)、(b)および図10(a)、(b)におけるグラフにおいて、グラフ下側の折れ線A2 、A3 はクランクシャフトの回転数を示しており、アイドリング回転の800(r/min)からMAX6000(r/min)まで直線状に加速し、再び800(r/min)まで直線状に減速している。
【0062】
また、グラフ上側はバルブ5のリフト曲線B2 、B3 を示している。このリフト曲線B2 、B3 の表示は図8(a)、(b)のリフト曲線B1 の表示と同じである。
【0063】
これらの結果から明らかなように、ナット部材14のねじ孔15に軸方向溝21を形成し、その軸方向溝21によって周方向に分断されたねじ山の圧力側フランク19aに螺旋状溝22を形成したラッシュアジャスタ、あるいは、ねじ孔15に軸方向溝21を形成し、雄ねじ16aのねじ山における圧力側フランク19aに梨地状面23を形成したラッシュアジャスタにおいては、低温時にも油膜が確実に排除され、かつ耐久使用後にも圧力側フランク19aの摩擦係数が低下しないで常に安定したバルブリフト特性を得ることが理解できる。
【0064】
図1に示す実施形態では、この発明に係るラッシュアジャスタをダイレクト型動弁装置に組み込んでバルブクリアランスを自動調整するようにしたが、エンドピボット型の動弁装置にも適用することができる。また、エンジンの動弁装置に用いるオートテンショナやチェーンテンショナにも適用することができる。
【0065】
【発明の効果】
以上のように、この発明においては、ナット部材の雌ねじとアジャストスクリュの雄ねじのいずれか一方にねじ山を周方向に分断する複数の軸方向溝を形成し、その軸方向溝によって分断されたねじ山の圧力側フランクまたは分断ねじ山にねじ係合される他方のねじ山の圧力側フランクに凹凸部を設けたことによってアジャストスクリュが雌ねじと雄ねじのねじ係合部間に形成されたねじ隙間の範囲内で軸方向に繰り返し移動する移動時に、圧力側フランク間に介在する油膜を安定して迅速に排除することができる。
【0066】
このため、アジャストスクリュを圧力側フランクが互いに圧接する位置まで確実に移動させることができ、圧力側フランクの接触部に作用する摩擦抵抗によってアジャストスクリュが回転しつつ後退動するのを防止することができ、安定したバルブリフト量を得ることができる。
【0067】
また、圧力側フランクが接触により摩耗しても、その圧力側フランクに形成された凹凸部によって圧力側フランクに一定の粗さが維持され、アジャストボルトを回り止めするのに充分な摩擦抵抗を確保することができ、長期にわたって安定したバルブリフト量を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に係るラッシュアジャスタを組み込んだ動弁装置の縦断正面図
【図2】図1に示すラッシュアジャスタの縦断正面図
【図3】図2の一部を拡大して示す断面図
【図4】図2のナット部材とアジャストスリュとを示す一部切欠分解斜視図
【図5】(I)乃至(III )はナット部材の雌ねじ部の各例を示す断面図
【図6】(I)乃至(IV)はアジャストスクリュの雄ねじ部の各例を示す断面図
【図7】図6(I)に示される梨地状面の表面粗さ曲線を示すグラフ
【図8】(a)、(b)は耐久的使用後の低温特性の試験結果を示すグラフ
【図9】(a)、(b)はねじ孔に軸方向溝を形成したラッシュアジャスタの耐久前後の回転数スイープ試験の試験結果を示すグラフ
【図10】(a)、(b)は雌ねじの圧力側フランクに螺旋状溝を形成したラッシュアジャスタの回転数スイープ試験を行った試験結果を示すグラフ
【図11】温度と油膜の荷重支持圧力の関係を示すグラフ
【符号の説明】
1 カム
2 バルブステム
11 リフタボディ
12 端板
15 ねじ孔
15a 雌ねじ
16 アジャストスクリュ
16a 雄ねじ
19a、19b 圧力側フランク
20a、20b 遊び側フランク
21 軸方向溝
22 螺旋状溝
23 梨地状面
24 螺旋状溝
25 軸方向溝
Claims (4)
- カムとバルブステム間において軸方向にスライド自在に組込まれ、カムと接触する端板の下面に閉塞端を有するねじ孔が設けられたリフタボディと、そのリフタボディの前記ねじ孔にねじ係合されたアジャストスクリュと、前記ねじ孔の閉塞端部内に組込まれて前記アジャストスクリュを軸方向に押圧する弾性体とから成り、前記ねじ孔の雌ねじとアジャストスクリュの外周に形成された雄ねじのねじ山を、アジャストスクリュに負荷される軸方向の押込み荷重を受ける圧力側フランクのフランク角が遊び側フランクのフランク角より大きい鋸歯状とした動弁装置におけるラッシュアジャスタにおいて、前記雌ねじと雄ねじのいずれか一方にねじ山を周方向に分断する複数の軸方向溝を設け、その軸方向溝によって分断されたねじ山の圧力側フランクに凹凸部を設けたことを特徴とする動弁装置におけるラッシュアジャスタ。
- 前記凹凸部が、ねじ山のリードに沿って形成された螺旋状溝から成る請求項1に記載の動弁装置におけるラッシュアジャスタ。
- カムとバルブステム間において軸方向にスライド自在に組込まれ、カムと接触する端板の下面に閉塞端を有するねじ孔が設けられたリフタボディと、そのリフタボディの前記ねじ孔にねじ係合されたアジャストスクリュと、前記ねじ孔の閉塞端部内に組込まれて前記アジャストスクリュを軸方向に押圧する弾性体とから成り、前記ねじ孔の雌ねじとアジャストスクリュの外周に形成された雄ねじのねじ山を、アジャストスクリュに負荷される軸方向の押込み荷重を受ける圧力側フランクのフランク角が遊び側フランクのフランク角より大きい鋸歯状とした動弁装置におけるラッシュアジャスタにおいて、前記雌ねじと雄ねじのいずれか一方に、ねじ山を周方向に分断する複数の軸方向溝を形成し、他方のねじ山における圧力側フランクに凹凸部を設け、その凹凸部がショットピーニングによって形成された梨地状面から成ることを特徴とする動弁装置におけるラッシュアジャスタ。
- 前記凹凸部がねじ山のリードに沿って形成された螺旋状溝から成る請求項3に記載のラッシュアジャスタ。
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