JP4026088B2 - 車両の姿勢制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両の姿勢制御装置に関し、例えば、コーナリング時や緊急の障害物回避時や路面状況急変時等において、走行中の車両の横滑りやスピンを抑制するための車両の姿勢制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、走行中の車両のヨーレートやステアリング舵角等の車両状態量を検出して、コーナリング時や緊急の障害物回避時や路面状況急変時等に車両の横滑りやスピンを抑制する制御装置が数多く提案されている。
【0003】
特開平2−151568号や特開平2−151571号には、2つの車両運動の出力量(例えば、ヨー角加速度及び重心点横加速度)の推定値に対して、横風及び路面傾斜に相当する補正を行なって車両状態量の推定誤差をなくすものが提案されている。
【0004】
特開平6−115418号には、車速やステアリング舵角に応じて配分制御の開始条件を変更することにより、本当に必要な場合に限って配分制御を実行するものが提案されている。また、特開平6−321077号には、運転者のブレーキ操作力やアクセルペダルの踏込量等に応じて運転中の余裕度を検出し、その検出された余裕度に基づいて配分制御の開始条件を変更するものが提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、運転者が姿勢制御に頼った運転に慣れてくると、運転者の安全意識が希薄となり制御不能な限界領域に近い状態で運転しがちになり安全性に問題がある。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、姿勢制御に頼った運転になれたため、安全意識が希薄となった運転者に対して、安全性が高まる方向に制御を移行させることができる車両の姿勢制御装置を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上述の問題点を解決し、目的を達成するために、本発明に関わる車両の姿勢制御装置は、以下の構成を備える。即ち、
車両状態量に関する目標値と推定値との偏差が所定偏差以上となると、該推定値を目標値に収束させて車両の姿勢を目標値に制御する装置であって、所定期間当たりの前記推定値を目標値に収束させる姿勢制御の作動頻度を検出し、該作動頻度が大きい程該姿勢制御の開始閾値を小さくして、前記所定偏差を小さくすると共に、前記目標値変化に伴う姿勢制御介入時は、前記推定値変化に伴う姿勢制御介入時より前記開始閾値を小さくする
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係わる実施形態につき添付図面を参照して詳細に説明する。
【0009】
[姿勢制御装置の制御ブロック構成]
先ず、本実施形態に係る車両の姿勢制御装置の制御ブロック構成について説明する。図1は本発明の実施形態に係る車両の姿勢制御装置の制御ブロックの全体構成を示す図である。
【0010】
図1に示すように、本実施形態の姿勢制御装置は、例えば、車両の走行状態がコーナリング時や緊急の障害物回避時や路面状況急変時等において、走行中の車両の横滑りやスピンを抑制するために前後・左右の各車輪への制動力を制御するものである。各車輪には、油圧ディスクブレーキ等のFR(右前輪)ブレーキ31、FL(左前輪)ブレーキ32、RR(右後輪)ブレーキ33、RL(左後輪)ブレーキ34が設けられている。これらFR、FL、RR、RLブレーキ31〜34は油圧制御ユニット30に夫々接続されている。油圧制御ユニット30はFR、FL、RR、RLブレーキ31〜34の各ホイールシリンダ(不図示)に接続され、各ブレーキ31〜34のホイールシリンダに油圧を導入することにより各車輪へ制動力を付加する。油圧制御ユニット30は、加圧ユニット36及びマスタシリンダ37に接続されている。マスタシリンダ37はブレーキペダル38の踏力圧に応じて1次油圧を発生させる。この1次油圧は、加圧ユニット36に導入され、加圧ユニット36で2次油圧に加圧されて油圧制御ユニット30に導入される。油圧制御ユニット30は、SCSECU10に電気的に接続され、ECU10からの制動制御信号に応じてFR、FL、RR、RLブレーキ31〜34への油圧を配分制御して各車輪への制動力を制御する。
【0011】
SCS(STABILITY CONTROLLED SYSTEM)・ECU(ELECTRONIC CONTROLLED UNIT)10は、本実施形態の姿勢制御装置として前後・左右の各車輪への制動制御を司ると共に、従来周知のABS(アンチロックブレーキシステム)制御やTCS(トラクションコントロールシステム)制御をも司る演算処理装置である。SCS・ECU10には、FR車輪速センサ11、FL車輪速センサ12、RR車輪速センサ13、RL車輪速センサ14、車速センサ15、ステアリング舵角センサ16、ヨーレートセンサ17、横方向加速度センサ18、前後方向加速度センサ19、ブレーキ踏力圧センサ35、EGIECU20、TCSオフスイッチ40が接続されている。
【0012】
ABS制御及びTCS制御の概要を説明すると、ABS制御とは、車両走行中に急ブレーキ操作がなされて、車輪が路面に対してロックしそうな場合に車輪への制動力を自動的に制御して車輪のロックを抑制しながら停止させるシステムであり、TCS制御とは、車両走行中に車輪が路面に対してスリップする現象を各車輪への駆動力或いは制動力を制御することにより抑制しながら走行させるシステムである。
【0013】
FR車輪速センサ11は右前輪の車輪速度の検出信号v1をSCS・ECU10に出力する。FL車輪速センサ12は左前輪の車輪速度の検出信号v2をSCS・ECU10に出力する。RR車輪速センサ13は右後輪の車輪速度の検出信号v3をSCS・ECU10に出力する。RL車輪速センサ14は左後輪の車輪速度の検出信号v4をSCS・ECU10に出力する。車速センサ15は車両の走行速度の検出信号VをSCS・ECU10に出力する。ステアリング舵角センサ16はステアリング回転角の検出信号θHをSCS・ECU10に出力する。ヨーレートセンサ17は車体に実際に発生するヨーレートの検出信号ψをSCS・ECU10に出力する。横方向加速度センサ18は車体に実際に発生する横方向加速度の検出信号YをSCS・ECU10に出力する。前後方向加速度センサ19は車体に実際に発生する前後方向加速度の検出信号ZをSCS・ECU10に出力する。ブレーキ踏力圧センサ35は加圧ユニット36に設けられ、ブレーキペダル38の踏力圧の検出信号PBをSCS・ECU10に出力する。TCSオフスイッチ40は、後述するが車輪のスピン制御(トラクション制御)を強制的に停止するスイッチであり、このスイッチ操作信号SをSCS・ECU10に出力する。EGI(ELECTRONIC GASOLINE INJECTION)ECU20は、エンジン21、AT(AUTOMATIC TRANSMISSION)22、スロットルバルブ23に接続され、エンジン21の出力制御やAT22の変速制御、スロットルバルブ23の開閉制御を司っている。
【0014】
SCS・ECU10及びEGI・ECU20は、CPU、ROM、RAMを含み、入力された上記各検出信号に基づいて予め記憶された姿勢制御プログラムやエンジン制御プログラムを実行する。
【0015】
[姿勢制御の概略説明]
本実施形態の姿勢制御は、各車輪を制動制御することで車体に旋回モーメントと減速力を加えて前輪或いは後輪の横滑りを抑制するものである。例えば、車両が旋回走行中に後輪が横滑りしそうな時(スピン)には主に前外輪にブレーキを付加し外向きモーメントを加えて旋回内側への巻き込み挙動を抑制する。また、前輪が横滑りして旋回外側に横滑りしそうな時(ドリフトアウト)には各車輪に適量のブレーキを付加し内向きモーメントを加えると共に、エンジン出力を抑制し減速力を付加することにより旋回半径の増大を抑制する。
【0016】
姿勢制御の詳細については後述するが、概説すると、SCS・ECU10は、上述した車速センサ15、ヨーレートセンサ17、横方向加速度センサ18の検出信号V、ψ、Yから車両に発生している実際の横滑り角(以下、実横滑り角という)βact及び実際のヨーレート(以下、実ヨーレートという)ψactを演算すると共に、実横滑り角βactからSCS制御に実際に利用される推定横滑り角βcontの演算において参照される参照値βrefを演算する。また、SCS・ECU10は、ステアリング舵角センサ等の検出信号から車両の目標とすべき姿勢として目標横滑り角βTR及び目標ヨーレートψTRを演算し、推定横滑り角βcontと目標横滑り角βTRの差或いは実ヨーレートψactと目標ヨーレートψTRの差が所定閾値β0、ψ0を越えた時に姿勢制御を開始し、推定実横滑り角βcont或いは実ヨーレートψactが目標横滑り角βTR或いは目標ヨーレートψTRに収束するよう制御する。
【0017】
[姿勢制御の詳細説明]
次に、本実施形態の姿勢制御(以下、SCS制御という)について詳細に説明する。図2は、本実施形態の姿勢制御を実行するための全体的動作を示すフローチャートである。
【0018】
図2に示すように、先ず、運転者によりイグニッションスイッチがオンされてエンジンが始動されると、ステップS2でSCS・ECU10、EGI・ECU20が初期設定され、前回の処理で記憶しているセンサ検出信号や演算値等をクリアする。ステップS4ではSCS・ECU10は上述のFR車輪速センサ11の検出信号v1、FL車輪速センサ12の検出信号v2、RR車輪速センサ13の検出信号v3、RL車輪速センサ14の検出信号v4、車速センサ15の検出信号V、ステアリング舵角センサ16の検出信号θH、ヨーレートセンサ17の検出信号ψ、横方向加速度センサ18の検出信号Y、前後方向加速度センサ19の検出信号Z、ブレーキ踏力圧センサ35の検出信号PB、TCSオフスイッチ40のスイッチ操作信号Sを入力する。ステップS6ではSCS・ECU10は上述の各検出信号に基づく車両状態量を演算する。ステップS7では車両状態量に基づいて車輪速補正処理を実行する。ステップS8ではSCS・ECU10は、ステップS6で演算された車両状態量からSCS制御に必要となるSCS制御目標値や制御出力値を演算する。同様に、ステップS10ではABS制御に必要なABS制御目標値や制御出力値等を演算し、ステップS12ではTCS制御に必要なTCS制御目標値や制御出力値等を演算する。
【0019】
ステップS14ではステップS8〜ステップS12で演算された各制御出力値の制御出力調停処理を実行する。この制御出力調停処理では、SCS制御出力値、ABS制御出力値、TCS制御出力値を夫々比較し、最も大きな値に対応した制御に移行させる。また、後述するが、SCS制御出力値とABS制御出力値との調停処理は、運転者のブレーキ踏力圧PBの大きさに応じて実行される。即ち、ステップS14においてABS制御出力値が最も大きな値の場合にはABS制御出力値に基づいてABS制御が実行され(ステップS16)、SCS制御出力値が最も大きな値の場合にはSCS制御出力値に基づいてSCS制御が実行され(ステップS18)、TCS制御出力値が最も大きな値の場合にはTCS制御出力値に基づいてTCS制御が実行される(ステップS20)。その後、ステップS22ではSCS・ECU10は油圧制御ユニット30等が正常に動作されているか否かフェイルセーフ判定し、もし異常があると判定された場合にはその異常箇所に対応する制御を中止して、ステップS2にリターンして上述の処理を繰り返し実行する。
【0020】
[SCS演算処理の説明]
次に、図2のステップS8に示すSCS演算処理の詳細について説明する。尚、ステップS10、12のABS制御演算処理及びTCS制御演算処理については周知であるので説明を省略する。図3は、図2のSCS演算処理を実行するためのフローチャートである。
【0021】
図3に示すように、処理が開始されると、ステップS30ではSCS・ECU10はFR車輪速v1、FL車輪速v2、RR車輪速v3、RL車輪速v4、車速V、ステアリング舵角θ、実ヨーレートψact、実横方向加速度Yactを入力する。ステップS32ではSCS・ECU10は車両に発生する垂直荷重を演算する。この垂直荷重は車速V、横方向加速度Yから周知の数学的手法により推定演算される。ステップS33ではSCS・ECU10は車両に実際に発生する実横滑り角βactを演算する。実横滑り角βactは、実横滑り角βactの変化速度Δβactを積分することにより演算される。また、Δβactは、下記の式1により算出される。
Δβact=−ψact+Yact/V…(1)
次に、ステップS34では、SCS・ECU10はSCS制御に実際に利用される推定横滑り角βcontの演算において参照される参照値βrefを演算する。この参照値βrefは、車両諸元と、車両状態量(車速V、ヨーレートψact、実横方向加速度Yact、実横滑り角βactの変化速度Δβact、ヨーレートψactの変化量(微分値)Δψact)、ブレーキにより生じるヨーモーメントの推定値D1、ブレーキにより生じる横方向の力の低下量の推定値D2に基づいて2自由度モデルを流用して演算される。この参照値βrefは、要するに、検出された車両状態量及びブレーキ操作力に基づいて推定される横滑り角を演算している。その後、ステップS35では、SCS・ECU10はSCS制御に実際に利用される推定横滑り角βcontを演算する。この推定横滑り角βcontは、下記の式2、式3から導かれる微分方程式を解くことにより算出される。即ち、
Δβcont=Δβact+e+Cf・(βref−βcont)…(2)
Δe=Cf・(Δβref−Δβact−e)…(3)
但し、e:ヨーレートセンサと横方向加速度センサのオフセット修正値
Cf:カットオフ周波数
また、後で詳述するが、カットオフ周波数Cfは推定横滑り角βcontを参照値βrefの信頼性に応じてこの参照値βrefに収束するように補正して、推定横滑り角βcontに発生する積分誤差をリセットする際の補正速度の変更ファクタとなり、参照値βrefの信頼性が低い程小さくなるように補正される係数である。また、参照値βrefの信頼性が低くなるのは前輪のコーナリングパワーCpf或いは後輪のコーナリングパワーCprに変化が生じた時である。
【0022】
ステップS36ではSCS・ECU10は各車輪の車輪スリップ率及び車輪スリップ角を演算する。車輪スリップ率及び車輪スリップ角は、各車輪の車輪速v1〜v4、車速V、推定横滑り角βcont、前輪ステアリング舵角θHから周知の数学的手法により推定演算される。ステップS38ではSCS・ECU10は各車輪への負荷率を演算する。車輪負荷率は、ステップS36で演算された車輪スリップ率及び車輪スリップ角とステップS32で演算された垂直荷重から周知の数学的手法により推定演算される。ステップS40ではSCS・ECU10は走行中の路面の摩擦係数μを演算する。路面の摩擦係数μは、実横方向加速度YactとステップS38で演算された車輪負荷率から周知の数学的手法により推定演算される。次に、ステップS42ではSCS・ECU10は実ヨーレートψact及び推定横滑り角βcontを収束させるべく目標値となる目標ヨーレートψTR、目標横滑り角βTRを演算する。目標ヨーレートψTRは、車速V、ステップS40で演算された路面の摩擦係数μ、前輪ステアリング舵角θHから周知の数学的手法により推定演算される。また、目標横滑り角βTRは、下記の式4、式5から導かれる式6の微分方程式を解くことにより算出される。即ち、
βx=1/(1+A・V↑2)・{1−(M・Lf・V↑2)/(2L・Lr・ Cpr)}・Lr・θH/L…(4)
A=M・(Cpr・Lr−Cpf・Lf)/2L↑2・Cpr・Cpf…(5)
ΔβTR=C・(βx−βTR)…(6)
但し、V:車速
θH:前輪ステアリング舵角
M:車体質量
I:慣性モーメント
L:ホイルベース
Lf:前輪から車体重心までの距離
Lr:後輪から車体重心までの距離
Cpf:前輪のコーナリングパワー
Cpr:後輪のコーナリングパワー
C:位相遅れに相当する値
尚、上記式中の「↑」は乗数を表わす。例えば「L↑2」はLの2乗を意味し、以下の説明でも同様である。
【0023】
次に、図4に示すステップS44では、SCS・ECU10は、目標横滑り角βTRから推定横滑り角βcontを減算した値の絶対値がSCS制御開始閾値β0以上か否かを判定する(|βTR−βcont|≧β0?)。ステップS44で目標横滑り角βTRから推定横滑り角βcontを減算した値の絶対値がSCS制御開始閾値β0以上の場合(ステップS44でYes)、ステップS46に進んでSCS制御目標値を目標横滑り角βTRに設定する。一方、ステップS44で目標横滑り角βTRから推定横滑り角βcontを減算した値の絶対値がSCS制御開始閾値β0を超えない場合(ステップS44でNo)、ステップS52に進んでSCS・ECU10は、目標ヨーレートψTRから実ヨーレートψactを減算した値の絶対値がSCS制御開始閾値ψ0以上か否かを判定する(|ψTR−ψact|≧ψ0?)。ステップS52で目標ヨーレートψTRから実ヨーレートψactを減算した値の絶対値がSCS制御開始閾値ψ0以上の場合(ステップS52でYes)、ステップS54に進んでSCS制御目標値を目標ヨーレートψTRに設定する。一方、ステップS52で目標ヨーレートψTRから実ヨーレートψactを減算した値の絶対値がSCS制御開始閾値ψ0を超えない場合(ステップS52でNo)、ステップS30にリターンして上述の処理を繰り返し実行する。
【0024】
次に、ステップS50では、SCS・ECU10はSCS制御に実際に利用されるSCS制御量βamtを演算する。また、ステップS56では、SCS・ECU10はSCS制御に実際に利用されるSCS制御量ψamtを演算する。
【0025】
[SCS制御とABS制御との調停処理]
次に、図5〜図7を参照してSCS制御と、SCS制御とABS制御との調停処理について説明する。図5〜図7は、SCS制御とABS制御との調停処理を実行するためのフローチャートである。
【0026】
以下に示す調停処理は、SCS制御開始条件が成立してもABS制御中であればABS制御を優先させ、或いはABS制御出力値に基づいてSCS制御出力値を補正する。また、SCS制御開始条件とABS制御開始条件とが両方成立した場合には、運転者のブレーキ踏力圧PBの大きさに応じていずれかの制御が実行される。
【0027】
具体的な処理を説明する。
【0028】
図5に示すように、ステップS58では、SCS・ECU10はSCS制御に用いる油圧制御ユニット30等に故障が発生しているか否か判定する。ステップS58で故障している場合(ステップS58でYes)、ステップS74に進んでSCS制御を中止して図2に示すステップS2にリターンして上述の処理を繰り返し実行する。一方、ステップS58で故障していない場合(ステップS58でNo)、ステップS60に進む。ステップS60ではSCS・ECU10はSCS制御フラグF1が"1"にセットされているか否かを判定する。SCS制御フラグF1は、"1"がセットされているとSCS制御実行中であることを表わす。ステップS60でSCS制御フラグF1が"1"にセットされている場合(ステップS60でYes)、ステップS76に進んでABS制御フラグF2が"1"にセットされているか否かを判定する。ABS制御フラグF2は、"1"がセットされているとABS制御実行中であることを表わす。一方、ステップS60でSCS制御フラグF1が"1"にセットされていない場合(ステップS60でNo)、ステップS62に進んでABS制御実行中か否かを判定する。ステップS62でABS制御実行中の場合(ステップS62でYes)、後述するステップS80に進む。一方、ステップS62でABS制御実行中でない場合(ステップS62でNo)、ステップS64に進む。ステップS64では、SCS・ECU10はTCS制御実行中か否かを判定する。ステップS64でTCS制御実行中の場合(ステップS64でYes)、ステップS78に進みTCS制御における制動制御を中止して(即ち、エンジンによるトルクダウン制御のみ実行可能とする)ステップS66に進む。一方、ステップS64でTCS制御実行中でない場合(ステップS62でNo)、ステップS66に進む。
【0029】
ステップS66では、SCS・ECU10はSCS制御の対象となる車輪を選択演算し、その選択車輪に配分すべき目標スリップ率を演算し、その目標スリップ率に応じたSCS制御量βamt又はψamtを演算する。その後、ステップS68では必要なトルクダウン量に応じたエンジン制御量を演算する。そして、ステップS70でSCS制御を実行して、ステップS72でSCS制御フラグF1を"1"にセットした後、上述したステップS2にリターンして上述の処理を繰り返し実行する。
【0030】
ステップS76でABS制御フラグF2が"1"にセットされている場合(ステップS76でYes)、図6に示すステップS80に進む。ステップS80では、SCS・ECU10はABS制御量をSCS制御量βamt又はψamtに基づいて補正する。その後、ステップS82では、SCS・ECU10はABS制御が終了したか否かを判定する。ステップS82でABS制御が終了していない(ステップS82でNo)、ステップS84でSCS制御フラグF1を"1"にセットすると共に、ステップS86でABS制御フラグF2を"1"にセットして上述のステップS30にリターンする。一方、ステップS82でABS制御が終了したならば(ステップS82でYes)、ステップS88でSCS制御フラグF1を"0"にリセットすると共に、ステップS90でABS制御フラグF2を"0"にリセットして上述のステップS30にリターンする。
【0031】
更に、ステップS76でABS制御フラグF2が"1"にセットされていない場合(ステップS76でNo)、図7に示すステップS92に進む。ステップS92では、SCS・ECU10はブレーキ踏力圧PBが所定閾値P0以上あるか否かを判定する(PB≧P0?)。ステップS92でブレーキ踏力圧PBが所定閾値P0以上あるならば(ステップS92でYes)、ステップS94に進んでSCS制御を中止して、ステップS96でABS制御に切り換える。そして、ステップS98でABS制御フラグF2を"1"にセットして上述のステップS30にリターンする。一方、ステップS92でブレーキ踏力圧PBが所定閾値P0を超えないならば(ステップS92でNo)、ステップS100に進む。ステップS100では、SCS・ECU10はSCS制御が終了したか否かを判定する。ステップS100でSCS制御が終了していない(ステップS100でNo)、上述したステップS68にリターンしてその後の処理を実行する。一方、ステップS100でSCS制御が終了したならば(ステップS100でYes)、ステップS102でSCS制御フラグF1を"0"にリセットすると共に、ステップS104でABS制御フラグF2を"0"にリセットして上述のステップS30にリターンする。
【0032】
[車輪速補正処理の説明]
次に、図2のステップS7に示す車輪速補正処理の詳細について説明する。図8は、図2の車輪速補正処理を実行するためのフローチャートである。図9は、車輪速補正手順を示す模式図である。
【0033】
例えば、パンク対応時用いる補助車輪(以下、テンパ車輪という)はノーマル車輪よりその径が約5〜15%小さく、他のノーマルタイヤに比べて車輪速が高くなる。車輪速補正処理は、このようなテンパ車輪やノーマル車輪の径のばらつきによる弊害を取り除くために実行される。その弊害とは下記に示す通りである。即ち、
▲1▼ABS制御では、1輪だけ車輪速が高いと基準となる車速が持ち上がってテンパ車輪以外のノーマル車輪がロック傾向にあると誤判定してしまう。
【0034】
▲2▼TCS制御では、駆動輪にテンパ車輪が装着されていると、他方の駆動輪であるノーマル車輪がスピンしていると誤判定してしまう。
【0035】
▲3▼ノーマル車輪ではその径に最大5%の誤差があり、この誤差に基づく車輪速のばらつきがSCS制御に影響する。
【0036】
図9に示すように、処理が開始されると、ステップS110ではSCS・ECU10はFR車輪速v1、FL車輪速v2、RR車輪速v3、RL車輪速v4を入力する。ステップS112ではSCS・ECU10は車両が定常走行中か否かを判定する。この定常走行中とは、車輪速度の信頼性が低下するような極端な加減速時やコーナ走行時ではない状態を表している。ステップS112で定常走行中でない場合(ステップS112でNo)、ステップS110にリターンする。また、ステップS112で定常走行中である場合(ステップS112でYes)、ステップS114に進んでSCS・ECU10はFR車輪速v1、FL車輪速v2、RR車輪速v3、RL車輪速v4のいずれか1輪が所定閾値va以上なのか否かを判定する。ステップS114でいずれか1輪が所定閾値va以上である場合(ステップS114でYes)、ステップS116に進む。一方、ステップS114でいずれも所定閾値を超えない場合(ステップS114でNo)、ステップS122に進んでノーマル車輪に対する車輪速補正を実行する。
【0037】
ステップS116では、SCS・ECU10は1輪のみが所定閾値以上である状態が所定時間継続したか否かを判定する。ステップS116で1輪のみが所定閾値以上である状態が所定時間継続している場合(ステップS116でYes)、ステップS118に進む。一方、ステップS116で1輪のみが所定閾値以上である状態が所定時間継続しなかった場合(ステップS116でNo)、ステップS122に進んでノーマル車輪に対する車輪速補正を実行する。ステップS118では、SCS・ECU10は1輪のみが所定閾値以上である状態が所定時間継続したのでその1輪はテンパ車輪であると判定する。そして、ステップS120でSCS・ECU10はテンパ車輪に対する車輪速補正を実行する。
【0038】
ノーマル輪或いはテンパ車輪に対する車輪速補正は、図9に示す▲1▼〜▲3▼の手順で実行される。即ち、
▲1▼FR車輪速を基準としてRR車輪速を補正し、次に、▲2▼FR車輪速を基準としてFL車輪速を補正し、最後に▲3▼FL車輪速を基準としてRL車輪速を補正する。但し、FR車輪がテンパ車輪である場合は基準となる車輪は他の車輪に設定する。
【0039】
[補正速度の変更処理(1)]
次に、SCS制御において、推定横滑り角βcontを参照値βrefに近づけて推定横滑り角βcontの積分により累積される誤差を補正する補正速度の変更処理について説明する。図10は、推定横滑り角βcontの積分誤差を補正する補正速度の変更処理を実行するためのフローチャートである。図11は、推定横滑り角βcontの積分誤差を補正する補正速度を変更するためのマップを示す図である。
【0040】
上述の式2、式3で算出される推定横滑り角βcontは、実横滑り角変化量Δβactの積分値を含むので、各センサの僅かな出力誤差等により推定横滑り角βcontに積分誤差が累積される。推定横滑り角βcontは、SCS制御で実際に利用される値なので、この推定横滑り角βcontに誤差が発生すると実際の制御に悪影響を及ぼす虞がある。
【0041】
そこで、本実施形態では、推定横滑り角βcontに発生する誤差量を参照値βrefとの差(βref−βcont)から判断し、参照値βrefを基準値として推定横滑り角βcontを参照値βrefに近づけていくことにより推定横滑り角βcontに発生する誤差(βref−βcont)をリセットして(βref←βcont)いる。
【0042】
ここで、カットオフ周波数Cfは、推定横滑り角βcontを参照値βrefに近づけるリセット速度を決定するファクタとなる。即ち、リセット速度を速くする場合にはカットオフ周波数Cfを大きな値とし、反対にリセット速度を遅くする場合にはカットオフ周波数Cfを小さな値とすればよい。
【0043】
式2、式3を参照すると、参照値βrefと推定横滑り角βcontとの差(βref−βcont)は、カットオフ周波数Cfに応じて変化する。そして、その差が大きな値の場合には、推定横滑り角βcontが参照値βrefにより速く収束されるので誤差の補正速度は速くなる。反対に、その差が小さな値の場合には、推定横滑り角βcontが参照値βrefによりゆっくりと収束されるので誤差の補正速度は遅くなる。このように、カットオフ周波数Cfは誤差の補正速度の変更ファクタとなり、参照値βrefの信頼性が低い程小さくなるように補正される係数である。また、参照値βrefの信頼性が低くなるのは前輪のコーナリングパワーCpf或いは後輪のコーナリングパワーCprに変化が生じた時である。
【0044】
参照値βrefは、車両諸元と、車両状態量(車速V、ヨーレートψact、実横方向加速度Yact、Δβact、ヨーレートψactの変化率Δψact)等から演算される横滑り角である。従って、この参照値βrefの信頼性の有無を判断することによって推定横滑り角βcontの信頼性が判断できる。
そこで、本実施形態では、参照値βrefの信頼性に基づいて推定横滑り角βcontの誤差を参照値βrefにリセットする補正速度を変更することにより、参照値βrefと推定横滑り角βcontのうち信頼性の高い方の値を実際に制御に利用する値としていることになり、例えば、車両が旋回走行中であっても参照値βrefと推定横滑り角βcontのうち信頼性の高い方の値が実際に制御に利用されながら、推定横滑り角βcontに累積される誤差を吸収できるようにしている。尚、車両が直進走行時では、参照値βrefはゼロとなるので推定横滑り角βcontがゼロにリセットされて誤差が吸収される。
【0045】
参照値βrefの信頼性が変化する前輪のコーナリングパワーCpf或いは後輪のコーナリングパワーCprは、路面の摩擦係数に応じて変化するので、この補正速度の変更処理(1)では路面の摩擦係数μに応じて参照値βrefの信頼性を判断し、カットオフ周波数Cfを上述のように補正することにより誤差の補正速度を変更する。
【0046】
そして、路面の摩擦係数μに応じて参照値βrefの信頼性を判断し、参照値βrefの信頼性が低い場合には、カットオフ周波数Cfを小さくして参照値βrefへゆっくりと補正して推定横滑り角βcontを実際に制御に利用されるようにし、反対に参照値βrefの信頼性が高い場合には、カットオフ周波数Cfを大きくして参照値βrefにより速く補正して参照値βrefを実際に制御に利用されるようにしている。
【0047】
次に、具体的な処理を説明する。
【0048】
図3のステップS42の後、図10に示すように、ステップS130に進んで、SCS・ECU10は摩擦係数μが所定閾値μ1以下であるか否かを判定する(μ≦μ1?)。ステップS130で摩擦係数μが所定閾値μ1以下である場合(ステップS130でYes)、ステップS132でSCS・ECU10は参照値βrefの信頼性が低いと判定して、ステップS134でカットオフ周波数Cfから所定値k(k>0)を減算(Cf→Cf−k)補正し、ステップS136で補正されたカットオフ周波数Cfに基づいて推定横滑り角βcontの誤差の補正速度をより遅くして推定横滑り角βcontを補正する。また、ステップS130で摩擦係数μが所定閾値μ1を超えない場合(ステップS130でNo)、ステップS138でSCS・ECU10は参照値βrefの信頼性が高いと判定して、ステップS140でカットオフ周波数Cfから所定値kを加算(Cf→Cf+k)補正し、ステップS136で補正されたカットオフ周波数Cfに基づいて推定横滑り角βcontの誤差の補正速度を速くして推定横滑り角βcontを補正する。その後、図4のステップS44に進む。
【0049】
以上のように、路面の摩擦係数μに応じて参照値βrefの信頼性を判断し、推定横滑り角βcontの誤差の補正速度は、その参照値βrefの信頼性が高い程増加する方向に補正され、参照値βrefの信頼性が低い程減少する方向に補正され、その補正速度は図11に示すマップに基づいてカットオフ周波数Cfにより決定される。即ち、推定横滑り角βcontに積分誤差が発生するような参照値βrefの信頼性が低い場合には、カットオフ周波数Cfを小さくしてその積分誤差を参照値βrefにリセットする補正速度をゆっくりとし、反対に積分誤差がわずかでSCS制御に影響しないような参照値βrefの信頼性が高い場合には、カットオフ周波数Cfを大きくして参照値βrefにリセットする補正速度をより速くするので、路面の摩擦係数μに応じて参照値βrefの信頼性を判断し、参照値βrefの信頼性が低い場合には、カットオフ周波数Cfを小さくして参照値βrefへゆっくりと補正して推定横滑り角βcontを実際に制御に利用されるようにし、反対に参照値βrefの信頼性が高い場合には、カットオフ周波数Cfを大きくして参照値βrefにより速く補正して参照値βrefを実際に制御に利用されるようにすることにより、従来のように定常走行時に定期的に横滑り角をリセットして積分誤差を吸収する必要が無くなり、車両旋回中にも補正速度を変更できるのでSCS制御時の安定性を向上できる。
【0050】
[補正速度の変更処理(2)]
次に、補正速度変更処理のその他の実施形態について説明する。図12は、推定横滑り角βcontの積分誤差を補正する補正速度の変更処理を実行するためのフローチャートである。図13は、推定横滑り角βcontの積分誤差を補正する補正速度を変更するためのマップを示す図である。
【0051】
前輪のコーナリングパワーCpf或いは後輪のコーナリングパワーCprは、路面が悪路か否かに応じて変化するので、この補正速度の変更処理(2)では路面が悪路か否かに応じて参照値βrefの信頼性を判断し、カットオフ周波数を補正することにより誤差の補正速度を変更する。
【0052】
次に、具体的な処理を説明する。尚、図10と同様の処理については同一番号を付与してある。
【0053】
図3のステップS42の後、図13に示すように、ステップS145に進んで、SCS・ECU10は路面が悪路であるか否かを判定する。ステップS145で路面が悪路である場合(ステップS145でYes)、ステップS132でSCS・ECU10は参照値βrefの信頼性が低いと判定して、ステップS134でカットオフ周波数Cfから所定値kを減算(Cf→Cf−k)補正し、ステップS136で補正されたカットオフ周波数Cfに基づいて推定横滑り角βcontの誤差の補正速度を遅くして推定横滑り角βcontを補正する。また、ステップS145で路面が悪路でない場合(ステップS145でNo)、ステップS138でSCS・ECU10は参照値βrefの信頼性が高いと判定して、ステップS140でカットオフ周波数Cfから所定値kを加算(Cf→Cf+k)補正し、ステップS136で補正されたカットオフ周波数Cfに基づいて推定横滑り角βcontの誤差の補正速度を速くして推定横滑り角βcontを補正する。その後、図4のステップS44に進む。
【0054】
以上のように、路面が悪路か否かに応じて参照値βrefの信頼性を判断し、推定横滑り角βcontの誤差の補正速度は、その参照値βrefの信頼性が高い程増加する方向に補正され、参照値βrefの信頼性が低い程減少する方向に補正され、その補正速度は図13に示すマップに基づいてカットオフ周波数Cfにより決定されるので、参照値βrefの信頼性が低い場合には、カットオフ周波数Cfを小さくして参照値βrefへゆっくりと補正して推定横滑り角βcontを実際に制御に利用されるようにし、反対に参照値βrefの信頼性が高い場合には、カットオフ周波数Cfを大きくして参照値βrefにより速く補正して参照値βrefを実際に制御に利用されるようにすることで、従来のように定常走行時に定期的に横滑り角をリセットして積分誤差を吸収する必要が無くなり、車両旋回中にも補正速度を変更できるのでSCS制御時の安定性を向上できる。
【0055】
[補正速度の変更処理(3)]
次に、補正速度変更処理のその他の実施形態について説明する。図14は、推定横滑り角βcontの積分誤差を補正する補正速度の変更処理を実行するためのフローチャートである。図15は、推定横滑り角βcontの積分誤差を補正する補正速度を変更するためのマップを示す図である。
【0056】
前輪のコーナリングパワーCpf或いは後輪のコーナリングパワーCprは、車両が直進走行中であるか否かに応じて変化するので、この補正速度の変更処理(3)では車両が直進走行中であるか否かに応じて参照値βrefの信頼性を判断し、カットオフ周波数を補正することにより誤差の補正速度を変更する。
【0057】
次に、具体的な処理を説明する。尚、図10と同様の処理については同一番号を付与してある。
【0058】
図3のステップS42の後、図14に示すように、ステップS150に進んで、SCS・ECU10はステアリング舵角θHが"0"か否かを判断することにより(θH=0?)、車両が直進走行中であるか否かを判定する。ステップS150でステアリング舵角θHが"0"でない場合(ステップS150でNo)、ステップS132でSCS・ECU10は参照値βrefの信頼性が低いと判定して、ステップS134でカットオフ周波数Cfから所定値kを減算(Cf→Cf−k)補正し、ステップS136で補正されたカットオフ周波数Cfに基づいて推定横滑り角βcontの誤差の補正速度を遅くして推定横滑り角βcontを補正する。また、ステップS150でステアリング舵角θHが"0"である場合(ステップS150でYes)、ステップS138でSCS・ECU10は参照値βrefの信頼性が高いと判定して、ステップS140でカットオフ周波数Cfから所定値kを加算(Cf→Cf+k)補正し、ステップS136で補正されたカットオフ周波数Cfに基づいて推定横滑り角βcontの誤差の補正速度を速くして推定横滑り角βcontを補正する。その後、図4のステップS44に進む。
【0059】
以上のように、車両が直進走行中であるか否かに応じて参照値βrefの信頼性を判断し、推定横滑り角βcontの誤差の補正速度は、その参照値βrefの信頼性が高い程増加する方向に補正され、参照値βrefの信頼性が低い程減少する方向に補正され、その補正は図15に示すマップに基づいてカットオフ周波数Cfにより実行されるので、参照値βrefの信頼性が低い場合には、カットオフ周波数Cfを小さくして参照値βrefへゆっくりと補正して推定横滑り角βcontを実際に制御に利用されるようにし、反対に参照値βrefの信頼性が高い場合には、カットオフ周波数Cfを大きくして参照値βrefにより速く補正して参照値βrefを実際に制御に利用されるようにすることで、従来のように定常走行時に定期的に横滑り角をリセットして積分誤差を吸収する必要が無くなり、車両旋回中にも補正速度を変更できるのでSCS制御時の安定性を向上できる。
【0060】
[補正速度の変更処理(4)]
次に、補正速度変更処理のその他の実施形態について説明する。図16は、推定横滑り角βcontの積分誤差を補正する補正速度の変更処理を実行するためのフローチャートである。図17は、推定横滑り角βcontの積分誤差を補正する補正速度を変更するためのマップを示す図である。
【0061】
前輪のコーナリングパワーCpf或いは後輪のコーナリングパワーCprは、車速に応じて変化するので、この補正速度の変更処理(4)では車速に応じて参照値βrefの信頼性を判断し、カットオフ周波数を補正することにより誤差の補正速度を変更する。
【0062】
次に、具体的な処理を説明する。尚、図10と同様の処理については同一番号を付与してある。
【0063】
図3のステップS42の後、図16に示すように、ステップS155に進んで、SCS・ECU10は車速Vが所定閾値V1以上であるか否かを判定する(V≧V1?)。ステップS155で車速Vが所定閾値V1以上でない場合(ステップS155でNo)、ステップS132でSCS・ECU10は参照値βrefの信頼性が低いと判定して、ステップS134でカットオフ周波数Cfから所定値kを減算(Cf→Cf−k)補正し、ステップS136で補正されたカットオフ周波数Cfに基づいて推定横滑り角βcontの誤差の補正速度を遅くして推定横滑り角βcontを補正する。また、ステップS155で車速Vが所定閾値V1以上である場合(ステップS150でYes)、ステップS138でSCS・ECU10は参照値βrefの信頼性が高いと判定して、ステップS140でカットオフ周波数Cfから所定値kを加算(Cf→Cf+k)補正し、ステップS136で補正されたカットオフ周波数Cfに基づいて推定横滑り角βcontの誤差の補正速度を速くして推定横滑り角βcontを補正する。その後、図4のステップS44に進む。
【0064】
以上のように、車速Vに応じて参照値βrefの信頼性を判断し、推定横滑り角βcontの誤差の補正速度は、その参照値βrefの信頼性が高い程増加する方向に補正され、参照値βrefの信頼性が低い程減少する方向に補正され、その補正速度は図17に示すマップに基づいてカットオフ周波数Cfにより決定されるので、参照値βrefの信頼性が低い場合には、カットオフ周波数Cfを小さくして参照値βrefへゆっくりと補正して推定横滑り角βcontを実際に制御に利用されるようにし、反対に参照値βrefの信頼性が高い場合には、カットオフ周波数Cfを大きくして参照値βrefにより速く補正して参照値βrefを実際に制御に利用されるようにすることで、従来のように定常走行時に定期的に横滑り角をリセットして積分誤差を吸収する必要が無くなり、車両旋回中にも補正速度を変更できるのでSCS制御時の安定性を向上できる。
【0065】
尚、より正確に参照値βrefの信頼性を判断するために、上記補正速度の変更処理(1)〜(4)を適宜組み合わせて一連の処理として実行してもよい。
【0066】
[路面の傾斜角演算方法の説明]
次に、路面の傾斜角演算方法について詳細に説明する。図18は、路面の傾斜角演算処理を実行するためのフローチャートである。
【0067】
本実施形態の路面の傾斜角演算方法では、路面傾斜角の演算をヨーレートだけでなく、内外輪の車輪速差からも演算する。即ち、路面の傾斜角θは下記の式7或いは式8を利用して演算される。
(vi↑2−vi↑2)/2・L−Yact=g・sinθ…(7)
但し、vi:内輪の車輪速度
vo:外輪の車輪速度
L:内輪と外輪の車輪間隔
Yact:実横方向加速度
g:重力加速度
V・ψact−Yact=g・sinθ…(8)
但し、V:車速
ψact:実ヨーレート
Yact:実横方向加速度
g:重力加速度
ここで、
Y1cal=(vi↑2−vi↑2)/2・L…(9)
Y2cal=V・ψact…(10)
とすると、式7では、左右車輪速度vi、voと内外輪の車輪間隔Lから演算される第1推定横方向加速度Y1cal(式9参照)と実横方向加速度Yactの偏差に基づいて路面傾斜角θが演算され、式8では、車速Vと実ヨーレートψactから演算される第2推定横方向加速度Y2cal(式10参照)と実横方向加速度Yactの偏差に基づいて路面傾斜角θが演算される。
【0068】
そして、特に車輪速度補正処理前や車両走行状態として悪路走行中、加速中、減速中、急旋回中の少なくとも1つの状態では、検出される車輪速度が必ずしも正確でないため、式8を用いて路面傾斜角θを演算し、或いは第2推定横方向加速度Y2calを繰り返し演算して、それらの平均値、最大値、所定割合で重みづけした値に基づいて路面の傾斜角を演算する。
加えて、路面傾斜角θの演算は、各センサの検出誤差が影響しないように、所定のタイミングで路面傾斜角θを"0"に近づけることにより補正する必要がある。路面傾斜角θを"0"に近づけるタイミングは、常時ゆっくりと実行しても良いし、横方向加速度センサの誤差発生速度に合わせてゆっくりと実行しても良いし、車両の直進走行中に実行してもよい。また、車両の直進走行中に実行する場合には、ヨーレートψが"0"、横方向加速度が"0"、ステアリング舵角θHが"0"、内外車輪速度差が"0"という条件で路面傾斜角θが"0"と判定する。
また、路面傾斜角の有無だけを判定するためには、車速Vとステアリング舵角θHから演算される第1推定ヨーレートψ1calが実ヨーレートψactと不一致となり、且つ車速Vとステアリング舵角θHから演算される第2推定横方向加速度Y2calが実横方向加速度Yactと常に一致する性質と、内外車輪速度差から算出された第1推定ヨーレートY1calが実ヨーレートYactと常に一致し、且つ内外車輪速度差から算出された第2推定横方向加速度ψ2calが実横方向加速度ψactと不一致となる性質を利用して路面の傾斜角θの有無を推定できる。
【0069】
次に、具体的な処理を説明する。
【0070】
図4のステップS50又はステップS56でSCS制御量βamt又はψamtを演算した後、図18に示すように、ステップS160に進んで、SCS・ECU10はステアリング舵角θHが所定閾値θ1以上であるか否か判定する(θH≧θ1?)ことにより車両が急旋回中であるか否か判定する。ステップS160でステアリング舵角θHが所定閾値θ1を越えていないならば(ステップS160でNo)、ステップS162に進み、ステップS160でステアリング舵角θHが所定閾値θ1以上であるならば(ステップS160でYes)、ステップS172に進んで上記式8により、即ち車速Vと実ヨーレートψactから演算される第2推定横方向加速度Y2calと実横方向加速度Yactの偏差に基づいて路面傾斜角θが演算される。
【0071】
ステップS162では、SCS・ECU10は車両がが悪路走行中であるか否か判定する。ステップS162で悪路走行中でないならば(ステップS162でNo)、ステップS164に進み、ステップS162で悪路走行中であるならば(ステップS162でYes)、ステップS172に進んで上記式8により、即ち車速Vと実ヨーレートψactから演算される第2推定横方向加速度Y2calと実横方向加速度Yactの偏差に基づいて路面傾斜角θが演算される。
【0072】
ステップS164では、SCS・ECU10はブレーキ踏力圧PBが所定閾値P1以上か否か判定する(PB≧P1?)ことにより車両が急減速中であるか否か判定する。ステップS164でブレーキ踏力圧PBが所定閾値P1以上でないならば(ステップS164でNo)、ステップS165に進み、ステップS164でブレーキ踏力圧PBが所定閾値P1以上であるならば(ステップS164でYes)、ステップS172に進んで上記式8により、即ち車速Vと実ヨーレートψactから演算される第2推定横方向加速度Y2calと実横方向加速度Yactの偏差に基づいて路面傾斜角θが演算される。
【0073】
ステップS165では、SCS・ECU10は車両加速度ΔV(車速Vの微分値)が所定閾値V2以上か否か判定する(ΔV≧V2?)ことにより車両が急加速中であるか否か判定する。ステップS165で車両加速度ΔV(車速Vの微分値)が所定閾値V2以上でないならば(ステップS165でNo)、ステップS166に進み、ステップS165で車両加速度ΔV(車速Vの微分値)が所定閾値V2以上であるならば(ステップS165でYes)、ステップS172に進んで上記式8により、即ち車速Vと実ヨーレートψactから演算される第2推定横方向加速度Y2calと実横方向加速度Yactの偏差に基づいて路面傾斜角θが演算される。
【0074】
ステップS166では、SCS・ECU10は車輪速度補正処理が終了しているか否か判定する。ステップS166で車輪速補正処理が終了していないならば(ステップS166でNo)、ステップS168に進み、ステップS166で車輪速度補正処理が終了しているならば(ステップS166でYes)、ステップS172に進んで上記式8により、即ち車速Vと実ヨーレートψactから演算される第2推定横方向加速度Y2calと実横方向加速度Yactの偏差に基づいて路面傾斜角θが演算される。
【0075】
ステップS168では、SCS・ECU10は車輪速度補正処理においてテンパ車輪を装着しているか否か判定する。ステップS168でテンパ車輪を装着していないならば(ステップS168でNo)、ステップS170に進み、ステップS168でテンパ車輪を装着しているならば(ステップS168でYes)、ステップS172に進んで上記式8により、即ち車速Vと実ヨーレートψactから演算される第2推定横方向加速度Y2calと実横方向加速度Yactの偏差に基づいて路面傾斜角θが演算される。
【0076】
ステップS170では、上記式7により、左右車輪速度vi、voと内外輪の車輪間隔Lから演算される第1推定横方向加速度Y1calと実横方向加速度Yactの偏差に基づいて路面傾斜角θが演算される。
【0077】
以上のように、路面傾斜角の演算をヨーレートだけに依存するのでなく、内外輪の車輪速差からも演算でき、更に路面傾斜角を演算する際にヨーレートから演算される横方向加速度と内外車輪速差から演算される横方向加速度とを車両の走行状態量(ステアリング舵角θH、悪路走行中か否か、ブレーキ踏力圧PB、車速V等)に応じて切り換えてより信頼性の高い値を選択できるので、傾斜した路面走行中のようにステアリング舵角が略0にもかかわらずヨーレートが検出される状況でも横滑り角の誤差を低減して誤制御を防止できる。
【0078】
[路面傾斜角に応じたSCS制御の説明]
次に、上述の路面の傾斜角演算方法により算出された路面傾斜角に応じたSCS制御ついて詳細に説明する。
【0079】
通常、傾斜した路面を常に走行している場合には、ヨーレートセンサや横方向加速度センサからの検出値に誤差が発生するため、特に推定横滑り角βcontはそれら検出値を積算して算出するのでその積分値に誤差が累積されていく。このため、目標横滑り角βTRから推定横滑り角βcontを減算した値の絶対値がSCS制御開始閾値β0を超え易くなって、誤ってSCS制御介入してしまう虞がある。
【0080】
そこで、本実施形態のSCS制御では、左右車輪速度vi、voと内外輪の車輪間隔Lから演算される第1推定横方向加速度Y1calと実横方向加速度Yactの偏差に基づいて演算された路面傾斜角θv、或いは車速Vと実ヨーレートψactから演算される第2推定横方向加速度Y2calと実横方向加速度Yactの偏差に基づいて演算されたθψが所定閾値θB以上の場合に、図4のステップS44に示すSCS制御介入閾値β0、或いは図4のステップS52に示すSCS制御介入閾値ψ0を大きくしてSCS制御の介入を抑制し、或いは推定横滑り角cont及び実ヨーレートψactに基づく制御を中止して、実横方向加速度Yactから演算されるSCS制御量Yamtに基づく制御に切り換えている。
【0081】
次に、具体的な処理を説明する。
【0082】
<SCS制御開始閾値による制御介入抑制処理>
先ず、上述の図4のステップS44に示すSCS制御介入閾値β0、或いは図4のステップS52に示すSCS制御介入閾値ψ0を大きくしてSCS制御の介入を抑制する方法について説明する。図19は、SCS制御開始閾値による制御介入抑制処理を実行するためのフローチャートである。
【0083】
図19に示すように、図18のステップS170において左右車輪速度vi、voから路面傾斜角θvを演算し、又はステップS172において実ヨーレートψactから路面傾斜角θψを演算した後、ステップS174では、SCS・ECU10は路面傾斜角θv又はθψを入力する。その後、ステップS176では、SCS・ECU10は路面傾斜角θv又はθψが所定閾値θB以上であるか否かを判定する。ステップS176で路面傾斜角θv又はθψが所定閾値θB以上でないならば(ステップS1176でNo)、図4のステップS44に進み、ステップS176で路面傾斜角θv又はθψが所定閾値θB以上であるならば(ステップS176でYes)、ステップS178に進む。ステップS178では、SCS・ECU10はSCS制御開始閾値β0又はψ0に所定値l(l>0)を加算(β0→β0+l又はψ0→ψ0+l)してSCS制御開始閾値を大きくし、図4のステップS44に進む。
【0084】
以上のように、路面傾斜角θv又はθψが所定閾値θB以上であるならば、SCS制御開始閾値β0又はψ0に所定値lを加算(β0→β0+l又はψ0→ψ0+l)してSCS制御開始閾値を大きくし、SCS制御介入を抑制することにより、傾斜した路面を走行中であっても姿勢制御の誤介入を防止できる。
【0085】
<SCS制御の切り換えによる制御介入抑制処理>
次に、推定横滑り角cont及び実ヨーレートψactに基づく制御を中止して、実横方向加速度Yactから演算されるSCS制御量Yamtに基づく制御に切り換える方法について説明する。図20は、SCS制御切り換え処理を実行するためのフローチャートである。尚、図19と同様の処理については同一番号を付与してある。
【0086】
図20に示すように、図18のステップS170において左右車輪速度vi、voから路面傾斜角θvを演算し、又はステップS172において実ヨーレートψactから路面傾斜角θψを演算した後、ステップS174では、SCS・ECU10は路面傾斜角θv又はθψを入力する。その後、ステップS176では、SCS・ECU10は路面傾斜角θv又はθψが所定閾値θB以上であるか否かを判定する。ステップS176で路面傾斜角θv又はθψが所定閾値θB以上でないならば(ステップS176でNo)、図4のステップS44に進み、ステップS176で路面傾斜角θv又はθψが所定閾値θB以上であるならば(ステップS176でYes)、ステップS180に進む。ステップS180では、SCS・ECU10はSCS制御に実際に利用されるSCS制御量Yamtを演算し、推定横滑り角cont及び実ヨーレートψactに基づく制御を中止して、実横方向加速度Yactから演算される制御量Yamtに基づく制御に切り換えて、図4のステップS44に進む。
【0087】
以上のように、路面傾斜角θv又はθψが所定閾値θB以上であるならば、推定横滑り角cont及び実ヨーレートψactに基づく制御を中止して、実横方向加速度Yactから演算される制御量Yamtに基づく制御に切り換えることにより、傾斜した路面を走行中であっても姿勢制御の誤介入を防止できる。
【0088】
[実横方向加速度に基づくSCS制御量の演算方法の説明]
次に、図20のステップS180におけるSCS制御において、横方向加速度YactからSCS制御量Yamtを演算する処理について説明する。図21は、実横方向加速度に基づくSCS制御量の演算処理を実行するためのフローチャートである。
【0089】
以下に説明する実横方向加速度Yactに基づく制御は、横方向加速度センサにより検出される実横方向加速度Yactが目標横方向加速度YTR以下の場合にのみ実行される。
【0090】
具体的な処理を説明する。
【0091】
図21に示すように、ステップS182では、SCS・ECU10は、路面の摩擦係数μ、実横方向加速度Yact、路面の摩擦係数μで許容される最大横方向加速度Ymaxを演算する。その後、ステップS184では、SCS・ECU10は実横方向加速度Yactを収束させるべく目標値となる目標横方向加速度YTRを演算する。ステップS186では、目標横方向加速度YTRが所定閾値Y1以上であるか否かを判定する(Yact≦Y1?)。ステップS186で目標横方向加速度YTRが所定閾値Y1以上でない場合(ステップS186でNo)、ステップS188に進み、ステップS186で目標横方向加速度YTRが所定閾値Y1以上である場合(ステップS186でYes)、ステップS190に進んで目標横方向加速度YTRを所定閾値Y1に設定した後、ステップS188に進む。
【0092】
ステップS188では、SCS・ECU10は実横方向加速度Yactが目標横方向加速度YTR以上であるか否かを判定する(Yact≦YTR?)。ステップS188で実横方向加速度Yactが目標横方向加速度YTR以上でない場合(ステップS188でNo)、図3のステップS30にリターンしてその後の処理を繰り返し実行する。一方、ステップS188で実横方向加速度Yactが目標横方向加速度YTR以上である場合(ステップS188でYes)、ステップS192に進んで目標横方向加速度YTRに基づいてSCS制御量Yamtを演算した後、図5のステップS58に進みその後の処理を繰り返し実行する。
【0093】
尚、図18〜図21に説明した路面傾斜角θに応じたSCS制御方法は、車両走行中の横風による押圧力に対しても適用できる。この場合、路面傾斜角θの代わりに横風による押圧力を演算し、その押圧力が所定閾値以上の場合、SCS制御の介入を抑制するようにすればよい。
【0094】
[走行状態にによるSCS制御介入許可処理]
次に、車両の走行状態によるSCS制御介入許可処理について説明する。図22は、車両の走行状態によるSCS制御介入許可処理を実行するためのフローチャートである。図23は、SCS制御介入許可領域を変更するためのマップを示す図である。
【0095】
上述のように、傾斜した路面や横風を受けながら走行しているからといってSCS制御介入を抑制してしまうと、実際に車両に横滑りが発生したときにSCS制御が実行されなくなってしまう。
【0096】
このような弊害を取り除くため、車速V、ステアリング舵角θH、ステアリング舵角θHの変化速度ΔθH、実横滑り角βactの変化速度Δβact、実ヨーレートψactの変化速度Δψact、路面の摩擦係数μ等によりSCS制御介入許可領域を設けて、実際に車両に横滑りが発生そうな状況ではSCS制御介入が許可されるようにした。
【0097】
具体的な処理を説明する。
【0098】
図22に示すように、ステップS200では、SCS・ECU10は車速V、ステアリング舵角θH、実ヨーレートψact、実横方向加速度Yactを入力する。その後、ステップS202では、現在の車両の走行状態が図23に示すステアリング舵角θH、車速V、路面の摩擦係数μにより決定されるSCS制御介入禁止領域A内にあるか否かを判定する。ステップS202で現在の車両の走行状態がSCS制御介入禁止領域A内にある場合(ステップS202でYes)、ステップS204に進み、ステップS202で現在の車両の走行状態がSCS制御介入禁止領域A内にない場合(ステップS202でNo)、ステップS212に進んでSCS制御介入を許可する。
【0099】
ステップS204では、SCS・ECU10はステアリング舵角θHの変化速度ΔθH(ステアリング舵角θHの微分値)が所定閾値α1以上であるか否かを判定する(ΔθH≧α1?)。ステップS204でステアリング舵角θHの変化速度ΔθHが所定閾値α1以上でない場合(ステップS204でNo)、ステップS206に進み、ステップS204でステアリング舵角θHの変化速度ΔθHが所定閾値α1以上である場合(ステップS204でYes)、ステップS212に進んでSCS制御介入を許可する。
【0100】
ステップS206では、SCS・ECU10は実横滑り角βactの変化速度Δβact(実横滑り角βactの微分値)が所定閾値α2以上であるか否かを判定する(Δβact≧α2?)。ステップS206で実横滑り角βactの変化速度Δβactが所定閾値α2以上でない場合(ステップS206でNo)、ステップS208に進み、ステップS206で実横滑り角βactの変化速度Δβactが所定閾値α2以上である場合(ステップS206でYes)、ステップS212に進んでSCS制御介入を許可する。
【0101】
ステップS208では、SCS・ECU10は実ヨーレートψactの変化速度Δψact(実ヨーレートψactの微分値)が所定閾値α3以上であるか否かを判定する(Δψact≧α3?)。ステップS208で実ヨーレートψactの変化速度Δψactが所定閾値α3以上でない場合(ステップS208でNo)、ステップS210に進みSCS制御介入を禁止し、ステップS208で実ヨーレートψactの変化速度Δψactが所定閾値α3以上である場合(ステップS208でYes)、ステップS212に進んでSCS制御介入を許可する。
【0102】
以上のように、車速V、ステアリング舵角θH、ステアリング舵角θHの変化速度ΔθH、実横滑り角βactの変化速度Δβact、実ヨーレートψactの変化速度Δψact、路面の摩擦係数μ等によりSCS制御介入許可領域を設けることにより、実際に車両に横滑りが発生そうな状況ではSCS制御介入を確実に実行させることができると共に、傾斜した路面や横風を受けながら走行している可能性の高いSCS制御禁止領域AではSCS制御介入を抑制して誤介入を防止できる。
【0103】
[SCS制御の作動頻度に基づくSCS制御方法の説明]
次に、SCS制御の作動頻度に基づいてSCS制御開始閾値を変更する処理について説明する。図24は、SCS制御の作動頻度に基づいてSCS制御開始閾値を変更する処理を実行するためのフローチャートである。図25〜図28は、SCS制御開始閾値を変更するためのマップを示す図である。
【0104】
上述のSCS制御では、コーナリング時や緊急の障害物回避時や路面状況急変時等に走行中の車両に発生する横滑りやスピンを有効に抑制することができる。
【0105】
しかしながら、運転者が上述のSCS制御に頼った運転に慣れてくると、運転者の安全意識が希薄となりSCS制御不能な限界領域に近い状態で運転しがちになり安全性に問題でてくる可能性がある。
【0106】
そこで、以下に説明するSCS制御の作動頻度に基づくSCS制御開始閾値の変更処理では、単位時間当たりのSCS制御の作動頻度を検出し、SCS制御の作動頻度が大きい場合にはSCS制御開始閾値を減じる方向に補正することによりSCS制御に介入しやすくする。即ち、SCS制御の作動頻度の大きい運転者に対しては、本来のように車両が限界に達する直前にSCS制御を実行するのではなく、車両が限界に達するより充分前にSCS制御に介入させることにより、SCS制御に頼った不得手な運転者に対する安全性を高めると共に、特にSCS制御におけるエンジンのトルクダウン制御が、SCS制御が頻繁に作動するような危険な運転をする運転者に対する戒めとして作用することになるのである。
【0107】
具体的な処理を説明する。
【0108】
図24に示すように、ステップS220では、SCS・ECU10は車速V、ステアリング舵角θH、路面の摩擦係数μを入力する。ステップS222では、SCS・ECU10はSCS制御の作動頻度を演算する。この作動頻度は、単位時間当たりのSCS制御の作動回数又はSCS制御の作動時間と非作動時間との割合である。ステップS224では、SCS・ECU10はステップS222で演算された作動頻度に応じてSCS制御開始閾値β0、ψ0を補正する(β0→β0・x0、ψ0→ψ0・x0)。即ち、図25に示すマップに基づいて、SCS制御開始閾値β0、ψ0に補正係数x0を乗算し、SCS制御の作動頻度が大きい程SCS制御開始閾値β0、ψ0が小さくなるように補正する。
【0109】
ステップS226では、SCS・ECU10はステップS224で補正されたSCS制御開始閾値β0、ψ0を車速Vに応じて更に補正する(β0→β0・x0・x1、ψ0→ψ0・x0・x1)。即ち、図26に示すマップに基づいて、ステップS224で補正されたSCS制御開始閾値β0、ψ0に補正係数x1を乗算し、車速Vが大きい程SCS制御開始閾値β0、ψ0が小さくなるように更に補正する。
【0110】
ステップS228では、SCS・ECU10はステップS226で補正されたSCS制御開始閾値β0、ψ0をステアリング舵角θHに応じて更に補正する(β0→β0・x0・x1・x2、ψ0→ψ0・x0・x1・x2)。即ち、図27に示すマップに基づいて、ステップS226で補正されたSCS制御開始閾値β0、ψ0に補正係数x2を乗算し、ステアリング舵角θHが大きい程SCS制御開始閾値β0、ψ0が小さくなるように更に補正する。
【0111】
ステップS230では、SCS・ECU10はステップS228で補正されたSCS制御開始閾値β0、ψ0を路面の摩擦係数μに応じて更に補正する(β0→β0・x0・x1・x2・x3、ψ0→ψ0・x0・x1・x2・x3)。即ち、図28に示すマップに基づいて、ステップS228で補正されたSCS制御開始閾値β0、ψ0に補正係数x3を乗算し、路面の摩擦係数μが小さい程SCS制御開始閾値β0、ψ0が小さくなるように更に補正する。
【0112】
次に、ステップS232では、SCS・ECU10は目標横滑り角βTR又はψTRが変化してSCS制御開始閾値β0、ψ0以上となったか否かを判定する(図4のステップS44、S52参照)。ステップS232で目標横滑り角βTR又はψTRが変化した場合(ステップS232でYes)、ステップS234に進み、ステップS232で目標横滑り角βTR又はψTRが変化したのではない場合(ステップS232でNo)、ステップS236に進む。
【0113】
ステップS234ではSCS・ECU10は補正係数x4としてd1を設定し、一方ステップS236ではSCS・ECU10は補正係数x4としてd2を設定する。但し、d1d2とする。
【0114】
ステップS238では、ステップS230で補正されたSCS制御開始閾値β0、ψ0に所定係数x4を乗算し、目標横滑り角βTR又はψTRが変化した場合には実横滑り角βact又はψactが変化した場合よりSCS制御開始閾値β0、ψ0が小さくなるように補正する。
【0116】
以上のように、SCS制御の作動頻度が大きい場合或いはその他車両状態量に応じてSCS制御開始閾値β0、ψ0を開始しやすい方向に補正することにより、SCS制御に頼った不得手な運転者に対する安全性を高めると共に、特にSCS制御におけるエンジンのトルクダウン制御が、SCS制御が頻繁に作動するような危険な運転をする運転者に対する戒めとして作用することになるのである。
【0117】
[SCS制御中におけるTCS制御方法の説明]
次に、SCS制御中におけるTCS制御について説明する。図29は、SCS制御中においてTCS制御を実行するためのフローチャートである。
【0118】
上述のSCS制御では、SCS制御中にTCS制御の車輪に対するブレーキ制御は中止され、エンジンによるトルクダウン制御のみ実行可能となっている。
【0119】
しかしながら、TCS制御中であっても運転者のアクセル操作によりエンジン出力が増加されると、SCS制御の対象となる制動車輪とそれ以外の駆動車輪との車輪速差が目標値より大きくなり車両の挙動変化が狙い通りに制御できないことがある。
【0120】
そこで、以下に説明するSCS制御では、SCS制御中においてTCS制御によるエンジンのトルクダウン制御が実行されやすくすることにより、車輪制動を伴うSCS制御に対してTCS制御によるトルクダウン制御を補助的に作用させて制動装置の負担を軽減できると共に、運転者のアクセル操作で発生する車輪速変化を抑えることで車両の挙動変化が狙い通りに制御できるようにしている。
【0121】
具体的な処理を説明する。
【0122】
図28に示すように、ステップS250では、SCS・ECU10はSCS制御中であるか否かを判定する。ステップS250でSCS制御中の場合(ステップS250でYes)、ステップS252に進み、ステップS250でSCS制御中でない場合(ステップS250でNo)、ステップS262に進んでTCSの通常制御、即ち、車輪に対する制動制御及びエンジンのトルクダウン制御を実行する。
【0123】
ステップS252では、SCS・ECU10はTCS制御(但し、エンジンのトルクダウン制御のみ)の開始閾値を20%低下してTCS制御を開始されやすくする。ステップS254では、SCS・ECU10はTCS制御の基準となる車輪速の平均値を車輪速の最大値に変更して(セレクトHigh)、見かけ上スリップ車輪が発生しやすい状況にしてTCS制御を開始されやすくする。
【0124】
ステップS256では、SCS・ECU10は図1に示すTCSオフスイッチ40を強制的にオンにして、TCSオフスイッチ40がオフされた状態であってもTCS制御を開始できるように設定する。
【0125】
ステップS258では、SCS・ECU10はTCS制御に用いられる目標値を10%低下してTCS制御を開始されやすくする。
【0126】
ステップS260では、SCS・ECU10はエンジンの出力値の上限をSCS制御の開始時点での出力値に制限する。
【0127】
以上のように、SCS制御中においてTCS制御によるエンジンのトルクダウン制御が実行されやすくすることにより、車輪制動を伴うSCS制御に対してTCS制御によるトルクダウン制御を付加的に作用させて制動装置の負担を軽減できると共に、運転者のアクセル操作で発生する車輪速変化を抑えることで車両の挙動変化が狙い通りに制御できる。
【0128】
<SCS制御中における他のエンジン制御方法の説明>
次に、SCS制御中における他のエンジン制御方法について説明する。
【0129】
上述のSCS制御では、SCS制御中においてTCS制御によるエンジンのトルクダウン制御が実行されやすくすることにより車輪速変化を抑制したが、他の方法として、図1に示すスロットルバルブ23を開閉制御し、SCS制御中にスロットルバルブ23の開度を一定にしてエンジン出力が略一定になるように制御することで運転者のアクセル操作で発生する車輪速変化を抑えることもできる。
【0130】
尚、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で上記実施形態を修正又は変更したものに適用可能である。
【0131】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、所定期間当たりの姿勢制御の作動頻度を検出し、作動頻度が大きい程該姿勢制御の開始閾値を小さくして、所定偏差を小さくすることにより、姿勢制御に頼った不得手な運転者に対する安全性を高めると共に、姿勢制御が頻繁に作動するような危険な運転をする運転者に対する戒めとなる。
【0132】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の姿勢制御装置の制御ブロックの全体構成を示す図である。
【図2】本実施形態の姿勢制御を実行するための全体的動作を示すフローチャートである。
【図3】図2のSCS演算処理を実行するためのフローチャートである。
【図4】図2のSCS演算処理を実行するためのフローチャートである。
【図5】SCS制御とABS制御との調停処理を実行するためのフローチャートである。
【図6】SCS制御とABS制御との調停処理を実行するためのフローチャートである。
【図7】SCS制御とABS制御との調停処理を実行するためのフローチャートである。
【図8】図2の車輪速補正処理を実行するためのフローチャートである。
【図9】車輪速補正手順を示す模式図である。
【図10】推定横滑り角の誤差の補正速度の変更処理(1)を実行するためのフローチャートである。
【図11】推定横滑り角の誤差の補正速度を変更するためのマップを示す図である。
【図12】推定横滑り角の誤差の補正速度の変更処理(2)を実行するためのフローチャートである。
【図13】推定横滑り角の誤差の補正速度を変更するためのマップを示す図である。
【図14】推定横滑り角の誤差の補正速度の変更処理(3)を実行するためのフローチャートである。
【図15】推定横滑り角の誤差の補正速度を変更するためのマップを示す図である。
【図16】推定横滑り角の誤差の補正速度の変更処理(4)を実行するためのフローチャートである。
【図17】推定横滑り角の誤差の補正速度を変更するためのマップを示す図である。
【図18】路面の傾斜角演算処理を実行するためのフローチャートである。
【図19】SCS制御開始閾値による制御介入抑制処理を実行するためのフローチャートである。
【図20】SCS制御切り換え処理を実行するためのフローチャートである。
【図21】実横方向加速度に基づくSCS制御量の演算処理を実行するためのフローチャートである。
【図22】車両の走行状態によるSCS制御介入許可処理を実行するためのフローチャートである。
【図23】SCS制御介入許可領域を変更するためのマップを示す図である。
【図24】SCS制御の作動頻度に基づいてSCS制御開始閾値を変更する処理を実行するためのフローチャートである。
【図25】SCS制御開始閾値を変更するためのマップを示す図である。
【図26】SCS制御開始閾値を変更するためのマップを示す図である。
【図27】SCS制御開始閾値を変更するためのマップを示す図である。
【図28】SCS制御開始閾値を変更するためのマップを示す図である。
【図29】SCS制御中においてTCS制御を実行するためのフローチャートである。
【符号の説明】
10…SCS・ECU
11…FR車輪速センサ
12…FL車輪速センサ
13…RR車輪速センサ
14…RL車輪速センサ
15…車速センサ
16…ステアリング舵角センサ
17…ヨーレートセンサ
18…横方向加速度センサ
19…前後方向加速度センサ
20…EGI・ECU
21…エンジン
22…オートマチックトランスミッション
23…スロットルバルブ
30…油圧制御ユニット
31…FRブレーキ
32…FLブレーキ
33…RRブレーキ
34…RLブレーキ
35…ブレーキ踏力圧センサ
36…加圧ユニット
37…マスタシリンダ
38…ブレーキペダル
40…TCSオフスイッチ

Claims (4)

  1. 車両状態量に関する目標値と推定値との偏差が所定偏差以上となると、該推定値を目標値に収束させて車両の姿勢を目標値に制御する装置であって、
    所定期間当たりの前記推定値を目標値に収束させる姿勢制御の作動頻度を検出し、該作動頻度が大きい程該姿勢制御の開始閾値を小さくして、前記所定偏差を小さくすると共に、前記目標値変化に伴う姿勢制御介入時は、前記推定値変化に伴う姿勢制御介入時より前記開始閾値を小さくすることを特徴とする車両の姿勢制御装置。
  2. 路面の摩擦係数が低い程前記開始閾値の低下量を抑制することを特徴とする請求項1に記載の車両の姿勢制御装置。
  3. 車速が大きい程前記開始閾値を小さくすることを特徴とする請求項1に記載の車両の姿勢制御装置。
  4. ステアリング舵角が大きい程前記開始閾値を小さくすることを特徴とする請求項1に記載の車両の姿勢制御装置。
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