JP4024548B2 - 透光性樹脂材及びその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、樹脂製の光学要素及びその材料に関する。
【0002】
【発明の背景】
古くはガラスで作られていたレンズその他の光学要素は、近年、アクリル樹脂などの樹脂で作られることが多くなってきている。樹脂製の光学要素は、軽量化や量産化の要請に応えることが可能であるため、かかる点による優位性によって、益々普及の度合いが高まっている。
【0003】
ところで、光学要素の材料として樹脂を用いる場合には、それが用いられるようになった経緯などに起因して、ガラスの代用としてこれを用いるという発想が開発者を支配している。従って、樹脂製の光学要素は、ガラス製の光学要素と同一の形状として形成されるのが一般的である。もっとも、樹脂とガラスとでは屈折率に差があるため、この相違に基づく形状の修正が必要となるが、例えば樹脂によりレンズを作った場合には、ガラスで作ったレンズと原則的に同様の形状となる。
【0004】
ここで、本願出願人は、樹脂製の光学要素を製造するために研究を行なっているうちに、樹脂によればガラス製の光学要素とはまったく異なる形状の光学要素を作れるのではないかという発想を得るに至った。それは、樹脂材においては、ガラスによる場合と異なり、その部位により屈折率を変化させられる可能性があるということに基づいている。事実、金属の微小粉末などのドーパントを添加することで各部位により屈折率を変化させた透光性樹脂材が、光ファイバの技術分野で研究されている。
【0005】
しかしながら、かかるドーパントを用いる技術は、樹脂中でのドーパントの分布を制御するのが困難であるため、その応用には非常に高度な技術的知識が要求される。本願出願人は、部位による屈折率の変化を有する樹脂材を、高度な技術的知識がなくとも実施可能とし、樹脂による光学要素の更なる普及に寄与すべく研究を重ね、樹脂の密度を部位によって変化させることで、部位による屈折率の変化を容易に実現できるという知見を見出した。以下に説明する本願発明は、かかる知見に基づいてなされたものであり、従来とはまったく性質の異なる光学用素を提供可能とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の如き知見により創案された本願発明は、各部位毎に樹脂の密度が異なる一体ものの透光性樹脂材である。
かかる透光性樹脂材は、その部位毎に異なる屈折率を有することになるため、厚さの変化がなくてもレンズとして機能しうるものであり、また、逆に厚さに変化があってもレンズとして機能しないこともあるという、屈折率を厚さの変化により制御していた等の従来のレンズとは、まったく異なる性質を有することとなる。
具体的には、本願発明による透光性樹脂材は、密度が高い部分ほど高い屈折率を示すようになり、ガラスのレンズで言えば、その厚さが大きい場合と同様の性質を持つようになる。従ってかかる透光性樹脂材は、それ自体をレンズなどの光学要素に用いる場合はもちろんのこと、光学要素を製造するための加工用素材としても新たな用途を創出しうる魅力的なものとなる。
また、各部位による樹脂の密度を変化させることは、ドーパントを用いるよりも遥かに容易であり、例えば、透光性樹脂材の素材となる透光性の樹脂からなる基礎樹脂材の各部位を異なる圧力で押圧することにより、容易に行なうことができる。従って、かかる透光性樹脂材の製造には、既存の樹脂材加工の技術を応用可能であり、実施についての困難も少ない。
【0007】
本発明による透光性樹脂材はどのような形状に形成されていても良いが、例えば板状に形成することができる。これは透光性樹脂材をレンズとして用いる場合に有効である。特に、均一な厚さの板状に形成された透光性樹脂材であれば、凹凸のないその形状により、薄型レンズの実現に寄与できる。
【0008】
また、本願発明による透光性樹脂材を凸レンズとして用いるのであれば、密度が極大となる所定の点を中心点とし、該中心点から離れるにつれて樹脂の密度が小さくなる同心円状の密度分布が与えられたものとしてこれを構成することができる。
かかる透光性樹脂材であれば、密度が周囲より高くなっている上記中心点を中心とした凸レンズと同様の機能を発揮できるようになる。ここで、従来の板状のレンズとしては、例えばフレネルレンズが知られているが、フレネルレンズは、同心円状に付された階段形状により、これを撮像素子へ応用した場合に画像の乱れを避けられないものとなっている。本願発明による均一な厚さの板状に形成された透光性樹脂材は、薄い板状のレンズとして機能し得るのみならず、このような不具合がない。かかる優れた性質により、本願発明の透光性樹脂材は、光学装置の設計の自由度を大きく向上させることが期待できる。また、本願発明の透光性樹脂材で上記中心点を複数にすれば、1枚の板状の透光性樹脂材に複数のレンズが含まれているのと同様の機能を発揮させられるようになる。このような性質は、従来のレンズでは製造が非常に困難なものであり、光学装置の設計にあたって様々な利点を生じると考えられる。
【0009】
均一な厚さの板状に形成した上述の如き透光性樹脂材は、これには限られないが例えば以下の如き2通りの方法により製造することができる。
【0010】
第1の方法は、樹脂を均一な厚さの板状に形成してなる基礎樹脂材の少なくとも一方の面を、凹凸が付された当接面を有するプレス部材で押圧することにより、前記当接面の凹凸を前記基礎樹脂材の少なくとも一方の面に転写し、該基礎樹脂材の加圧した面を削ることにより、均一な厚さの板状に形成された透光性樹脂材を得るという、透光性樹脂材の製造方法である。これは均一な厚さの板状に形成された基礎樹脂材を、凹凸が付された当接面を有するプレス部材でプレスし、その部位により樹脂の密度を変化させた上で、その凹凸を除去することで再び均一な厚さの透光性樹脂材を得るという方法である。この方法によれば、密度変化を生じさせるに必要な各部位毎に与えるべき圧縮の程度を予め計算してプレス部材を製造しておくだけで、均一な厚さの板状に形成された透光性樹脂材を容易に得られるようになる。ここで、前記プレス部材の前記当接面は、所定の中心点に向かう滑らかな凸形状が与えられた凸部を有するものとすることができる。この凸部は一つとは限らない。また、上記凸形状は、上記中心点を中心とする対称形状とすることができる。このようにした光学樹脂材の製造方法によれば、密度が極大となる所定の点を中心点とし、該中心点から離れるにつれて樹脂の密度が小さくなる同心円状の密度分布が与えられた上述の如き透光性樹脂材を容易に得られるようになる。
【0011】
第2の方法は、樹脂を部位により厚みの異なる板状に形成してなる基礎樹脂材の少なくとも一方の面を、平滑な当接面を有するプレス部材で加圧することにより、均一な厚さの板状に形成された透光性樹脂材を得るという、透光性樹脂材の製造方法である。かかる製造方法は、基礎樹脂材の厚さを予めその部位により異ならせておき、それをプレス部材で均一な厚さになるように押圧することで均一な厚さの板状に形成した透光性樹脂材を得るものである。この製造方法によれば、上述した第1の方法の場合のような凹凸除去の工程が不用になるという利点がある。かかる製造方法において、基礎樹脂材は、所定の中心点に向かう滑らかな凸形状が与えられた凸部を有するものとすることができる。この凸部は、一つとは限られない。また、凸部の凸形状は、上記中心点を中心とする対称形状とされているものとすることができる。これにより、密度が極大となる所定の点を中心点とし、該中心点から離れるにつれて樹脂の密度が小さくなる同心円状の密度分布が与えられた上述の如き透光性樹脂材を容易に得られるようになる。
【0012】
本願発明における透光性樹脂材を構成する樹脂としては、これには限られないが、光学要素を形成するために広く用いられているアクリル樹脂を利用することができる。本願発明による透光性樹脂材をアクリル樹脂からなるものとすることにより、アクリル樹脂により光学要素を形成することで従来から蓄積されてきたノウハウを、継続的に利用できるようになる。アクリル樹脂以外にも、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリスチレン樹脂(PS)、ABS(Acrylonitrile-butadiene-styrene Resin)樹脂などを、透光性樹脂に使用できる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図1及び図3を参照して、本発明の第1及び第2実施形態について説明する。尚、両実施形態で共通するものには共通の符合を用いることとし、共通する説明は省略することとしている。
【0014】
第1実施形態: この実施形態では、以下のような製造方法により、密度が極大となる所定の点を中心点とし、該中心点から離れるにつれて樹脂の密度が小さくなる同心円状の密度分布が与えられ、且つ均一な厚さの板状に形成された一体ものの透光性樹脂材を得た。まず、その製造方法につき説明する。
【0015】
この実施形態による透光性樹脂材の製造方法では、所定の樹脂材料を所定の形状とした基礎樹脂材10を用い、これに以下のような加工を行う。
具体的には、この実施形態では、アクリル樹脂を均一な厚さの板状に形成したものを基礎樹脂材10として使用し、これを加工することとしている。もっとも、アクリル樹脂の代わりに、アクリル樹脂以外の樹脂、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂を、基礎樹脂材10の材料として用いることも可能である。
この実施形態における透光性樹脂材の製造方法では、まず最初に、基礎樹脂材10を、プレス部材20により押圧する(図1(A))。
プレス部材20は、基礎樹脂材10と当接する部位である当接面21を備えている。この実施形態におけるプレス部材20の当接面21は、プレスを行ったときに、基礎樹脂材10の各部位における密度が異なるものとなるようなものとされている。この実施形態では、これには限られないが、当接面21には、所定の中心点22に向かう滑らかな凸形状が与えられた凸部23が設けられている。この凸部23の凸形状は、中心点22を中心とする対称形状とされている。プレス部材20による押圧は、プレス部材20の当接面21が基礎樹脂材10の表面に当接するまで行なうものとする。プレス部材20による押圧を行なう場合、基礎樹脂材10の破損などを防止するために、基礎樹脂材10の温度をガラス転移点(Tg)程度以上に上げておくこともできる。
尚、この実施形態では、基礎樹脂材10の片面側のみをプレス部材20で押圧することとしているが、プレス部材20による押圧を基礎樹脂材10の両面側から行なうようにすることもできる。
【0016】
このようにプレス部材20による押圧を行なうことで、基礎樹脂材10の一表面に、プレス部材20の当接面21上に形成された凸部23の形状を転写する。この状態を図1(B)で示す。
【0017】
次に、図1(B)の基礎樹脂材10のうち、斜線を付した部分を削り取り、(図1(C))均一な厚さの板状に形成された一体ものの透光性樹脂材30とする。削り取りの範囲は、必ずしも図示した範囲で行なわなければならないというわけではない。
【0018】
このようにして得た透光性樹脂材30の部位毎の屈折率を調べた。この透光性樹脂材30は、プレス部材20の中心点22で押圧された部分で密度が最大となっており、そこから外周方向に進むにつれて密度が徐々に小さくなり、当接面21で押圧されていない外周部において密度が最小となっている。従って、その屈折率は、プレス部材20の中心点22で押圧された部分で最大となり、そこから離れるにつれて徐々に小さくなり、プレス部材20により押圧されていない外周部分で最小且つ一定になるという、図2の表で示した如き変化を呈した。この透光性樹脂材は、画像の乱れを生じることのない平板レンズとして価値が高い。
【0019】
第2実施形態: この実施形態では、以下のような製造方法により、密度が極大となる所定の点を中心点とし、該中心点から離れるにつれて樹脂の密度が小さくなる同心円状の密度分布が与えられ、且つ均一な厚さの板状に形成された一体ものの透光性樹脂材を得た。まず、その製造方法につき説明する。
【0020】
この実施形態による透光性樹脂材の製造方法では、まず最初に、基礎樹脂材10、例えば、アクリル樹脂を板状に形成してなる基礎樹脂材10を、プレス部材20により押圧する(図3(A))。この実施形態における基礎樹脂材10は、これには限られないが、その一面に、所定の中心点11に向かう滑らかな凸形状が与えられた凸部12を有する。この凸部12の凸形状は、前記中心点11を中心とする対称形状とされている。
プレス部材20は、基礎樹脂材10と当接する部位である当接面21を備えている。この実施形態におけるプレス部材20の当接面21は、平面とされている。そして、プレス部材20によって、基礎樹脂材10の凸部12が平面状になるまで、換言すれば、基礎樹脂材10が均一な厚さとなるまでプレスを行なった。尚、この場合にも、ガラス転移点程度以上の温度に基礎樹脂材10を加熱しておくことができる。
【0021】
プレス部材20による押圧を行なうことで、基礎樹脂材10を、密度が極大となる所定の点を中心点とし、該中心点から離れるにつれて樹脂の密度が小さくなる同心円状の密度分布が与えられ、且つ均一な厚さの板状に形成された一体ものの透光性樹脂材30とした。この状態を図3(B)で示す。
【0022】
このようにして得た透光性樹脂材30の部位毎の屈折率を調べたところ、第1実施形態の透光性樹脂材30と同様の性質を示した。
【0023】
尚、以上説明した第1及び第2実施形態では、透光性の樹脂としてアクリル樹脂を用いたが、他の樹脂としてポリカーボネート樹脂(PC)、ポリスチレン樹脂(PS)、ABS樹脂を用い、第1及び第2実施形態で説明したと同様の方法により得た透光性樹脂材によっても同様の結果を得ることができた。
【0024】
【発明の効果】
以上のように、本発明による透光性樹脂材は、ガラスや単体の樹脂を用いた場合とはまったく異なる光学的性質を有するものとなり、薄いレンズの製造などに役立つ。また、この透光性樹脂材によれば、平面状のレンズなど、今まで実現がほとんど不可能と考えられていた光学要素の実現が可能となる。また、本発明による透光性樹脂材の製造方法は、本発明による透光性樹脂材を極めて簡単に製造し得る点で価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態による透光性樹脂材の製造方法を概略で示す図。
【図2】本発明の第1実施形態による製造方法により得た透光性樹脂材の屈折率を表す表。
【図3】本発明の第2実施形態による透光性樹脂材の製造方法を概略で示す図。
【符号の説明】
10 基礎樹脂材
11 中心点
12 凸部
20 プレス部材
21 当接面
22 中心点
23 凸部
30 透光性樹脂材

Claims (9)

  1. 均一な厚さの板状に形成されており、広い面を平面視した場合の各部位毎に樹脂の密度が異なる一体ものの透光性樹脂材であって、
    密度が極大となる所定の点を中心点とし、該中心点から離れるにつれて樹脂の密度が小さくなる同心円状の密度分布が与えられた透光性樹脂材。
  2. 前記樹脂はアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂のいずれかである、請求項に記載の透光性樹脂材。
  3. 樹脂を均一な厚さの板状に形成してなる基礎樹脂材の少なくとも一方の面を、凹凸が付された当接面を有するプレス部材で押圧することにより、前記当接面の凹凸を前記基礎樹脂材の少なくとも一方の面に転写し、該基礎樹脂材の加圧した面を削ることにより、均一な厚さの板状に形成された透光性樹脂材を得る、透光性樹脂材の製造方法。
  4. 前記プレス部材の前記当接面は、所定の中心点に向かう滑らかな凸形状が与えられた凸部を有する、請求項記載の透光性樹脂材の製造方法。
  5. 前記凸形状は、前記中心点を中心とする対称形状とされている、請求項記載の透光性樹脂材の製造方法。
  6. 樹脂を部位により厚みの異なる板状に形成してなる基礎樹脂材の少なくとも一方の面を、平滑な当接面を有するプレス部材で加圧することにより、均一な厚さの板状に形成された透光性樹脂材を得る、透光性樹脂材の製造方法。
  7. 前記基礎樹脂材は、所定の中心点に向かう滑らかな凸形状が与えられた凸部を有する、請求項記載の透光性樹脂材の製造方法。
  8. 前記凸形状は、前記中心点を中心とする対称形状とされている、請求項記載の透光性樹脂材の製造方法。
  9. 前記樹脂はアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂のいずれかである、請求項乃至請求項のいずれか1項に記載の透光性樹脂材の製造方法。
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