JP4019759B2 - 残響付与方法、インパルス応答供給制御方法、残響付与装置、インパルス応答補正装置、プログラム及び該プログラムを記録した記録媒体 - Google Patents
残響付与方法、インパルス応答供給制御方法、残響付与装置、インパルス応答補正装置、プログラム及び該プログラムを記録した記録媒体 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、教会やコンサートホール等の音場空間を再現するのに好適な残響付与方法、インパルス応答供給制御方法、残響付与装置、インパルス応答補正装置、プログラム及び該プログラムを記録した記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
オーディオ信号に残響音を付与する方法として、いわゆるインパルス応答畳み込み方式の残響音付与方法がある。このインパルス応答畳み込み方式の残響音付与方法は、コンサートホール等の音場空間においてインパルス音などの音響測定信号を発生した際に得られるインパルス応答の測定データ(以下、実測インパルス応答と略記する)を予めメモリに記憶させ、音源ソースたるオーディオ信号に対し、該メモリに記憶された実測インパルス応答を畳み込むことによって残響の付与されたオーディオ信号を得るものである。この種の方法によれば、各種音場空間における実測インパルス応答を予め得ておくことにより、それらの各空間に対応した多様な残響音をオーディオ信号に付与することができる。
【0003】
ところで、上記メモリに記憶される実測インパルス応答には、インパルス応答測定時の諸条件により発生する、本来インパルス応答に含まれるべきではない定常的なノイズ成分(詳記すれば、インパルス応答を測定するために用いるマイクロホンの性能や測定環境等に起因して発生するノイズ成分)が含まれている。この定常的なノイズ成分(以下、暗騒音成分という)を含む実測インパルス応答がオーディオ信号に畳み込まれることで、一定レベルのノイズ状の響き(いわゆる、暗騒音)が発生し、聴感上、不自然さを与えてしまうといった問題が生じていた。
【0004】
図14(a)は、測定により得られた暗騒音成分を含む実測インパルス応答の実時間波形を例示した図であり、図14(b)は、図14(a)に示す暗騒音成分を含む実測インパルス応答の音圧レベルをデシベル(dB)表示した模式図である。
図14(b)に示すように、実測インパルス応答は、時間の経過に伴って徐々に減衰し、あるところから該減衰が止まってほぼ一定の値(以下、暗騒音レベルという)を示すようになる。ここで、該暗騒音レベルに到達する前のインパルス応答には、暗騒音成分よりも本来の残響音成分(暗騒音成分を除く成分)が多く含まれているため、当該インパルス応答を残響付与に用いることで自然な残響感を与えることができる。一方、該暗騒音レベルに到達した後のインパルス応答には、暗騒音成分が多く含まれているため、当該インパルス応答を残響付与に用いた場合には耳障りな暗騒音が発生し、不自然な残響感を与えてしまう。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記残響感の不自然さを除去する方法として、音圧レベルが暗騒音レベルに到達した後に検出される部分(以下、暗騒音部分という)を削除する方法があるが、該暗騒音部分を単純に削除した場合には、聴感上、残響が急に途切れた印象を与えてしまう。
【0006】
本発明は以上説明した事情を鑑みてなされたものであり、暗騒音成分を含む実測インパルス応答を利用して残響を付与する場合においても、自然な残響感を付与することが可能な残響付与方法、インパルス応答供給制御方法、残響付与装置、インパルス応答補正装置、プログラム及び該プログラムを記録した記録媒体を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上述した問題を解決するため、本発明に記載の残響付与方法は、オーディオ信号にインパルス応答を畳み込むことにより残響付与を行う残響付与方法であって、実測することにより得られる暗騒音成分を含むインパルス応答を複数の周波数帯域に分割する分割過程と、周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の減衰傾斜を求めると共に、周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の暗騒音部分を検出し、求めた減衰傾斜に応じて、前記各インパルス応答における暗騒音部分を補正する補正過程と、補正した後の各インパルス応答を再合成する再合成過程と、前記オーディオ信号に再合成した後のインパルス応答を畳み込む畳み込み演算過程とを具備することを特徴とする。
【0008】
かかる構成によれば、周波数帯域毎に分割された各々のインパルス応答について、暗騒音部分が検出され、検出された暗騒音部分について補正処理が施される。このように、暗騒音部分についてのみ補正処理を施し、該補正処理後に合成したインパルス応答を畳み込み演算用の係数列として使用することで、聴感上自然な残響を付与することが可能となる。
【0009】
また、本発明に記載のインパルス応答供給制御方法は、サンプルデータ列としてオーディオ信号が入力される畳み込み演算手段に、畳み込み演算用の係数列としてインパルス応答を供給する方法であって、実測することにより得られる暗騒音成分を含むインパルス応答を複数の周波数帯域に分割する分割過程と、周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の減衰傾斜を求めると共に、周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の暗騒音部分を検出し、求めた減衰傾斜に応じて、前記各インパルス応答における暗騒音部分を補正する補正過程と、補正した後の各インパルス応答を再合成する再合成過程と、前記再合成した後のインパルス応答を前記畳み込み演算手段に供給する供給過程とを具備することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に記載の残響付与装置は、オーディオ信号にインパルス応答を畳み込むことにより残響付与を行う残響付与装置であって、実測することにより得られる暗騒音成分を含むインパルス応答を記憶する記憶手段と、前記インパルス応答を複数の周波数帯域に分割する帯域分割手段と、前記周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の減衰傾斜を求めると共に、周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の暗騒音部分を検出し、求めた減衰傾斜に応じて、前記各インパルス応答における暗騒音部分を補正する減衰補正手段と、補正した後の各インパルス応答を再合成する再合成手段と、前記オーディオ信号に再合成した後のインパルス応答を畳み込む畳み込み演算手段とを具備することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に記載のインパルス応答補正装置は、サンプルデータ列としてオーディオ信号が入力される畳み込み演算手段に、畳み込み演算用の係数列として供給するインパルス応答を補正するインパルス応答補正装置であって、実測することにより得られる暗騒音成分を含むインパルス応答を記憶する記憶手段と、前記インパルス応答を複数の周波数帯域に分割する帯域分割手段と、前記周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の減衰傾斜を求めると共に、周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の暗騒音部分を検出し、求めた減衰傾斜に応じて、前記各インパルス応答における暗騒音部分を補正する減衰補正手段と、補正した後の各インパルス応答を再合成する再合成手段とを具備することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に記載のプログラムは、サンプルデータ列としてオーディオ信号が入力される畳み込み演算手段に、畳み込み演算用の係数列として供給するインパルス応答を補正するためのプログラムであって、コンピュータを、外部から入力される実測することにより得られた暗騒音成分を含むインパルス応答を複数の周波数帯域に分割する分割手段と、前記周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の減衰傾斜を求めると共に、周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の暗騒音部分を検出し、求めた減衰傾斜に応じて、前記各インパルス応答における暗騒音部分を補正する減衰補正手段と、補正した後の各インパルス応答を再合成する再合成手段として機能させることを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
A.本実施形態
(1)実施形態の構成
図1は、本実施形態に係る残響付与装置100の構成を示すブロック図である。
残響付与装置100は、残響を付与すべきオーディオ信号をサンプルデータ列として出力する音楽ソース200と、実測して得られたインパルス応答に補正処理を施し、補正処理後のインパルス応答を畳み込み演算用の係数列として出力するインパルス応答補正部300と、音楽ソース200から供給されるサンプルデータ列とインパルス応答補正部300から供給される係数列との畳み込み演算を行う畳み込み演算部400とを具備している。
以下、残響付与装置100の特徴を示すインパルス応答補正部300について、図2を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
<インパルス応答補正部300>
図2は、インパルス応答補正部300の機能構成を示すブロック図である。
インパルス応答補正部300は、実測インパルス応答記憶手段310と、帯域分割手段320と、減衰補正手段330と、波形再合成手段340とを具備している。
実測インパルス応答記憶手段310は、実測して得られた実測インパルス応答を記憶するための記憶手段である。かかる実測インパルス応答は、例えばホールのステージ等に設置された音源からインパルス音などの音響測定信号を発生させ、客席等に設置したマイクロホン等を利用して測定される。実測インパルス応答記憶手段310には、このようにして得られた実測インパルス応答が記憶されている。
【0015】
帯域分割手段320は、実測インパルス応答記憶手段310から供給される実測インパルス応答を周波数帯域別に切り出す(すなわち、分割する)手段であり、複数のフィルタ等によって構成されている。
図3は、帯域分割手段320の構成を示す図であり、図4は、帯域分割手段320を構成するFIR型ハイパスフィルタ(HPF)321−kを説明するための図である。
図3に示すように、帯域分割手段320は、複数のハイパスフィルタ321−k(1≦k≦n)と、各ハイパスフィルタ321−kに対応して設けられた複数の減算器322−k(1≦k≦n)によって構成されている。
【0016】
各ハイパスフィルタ321−kには、実測インパルス応答記憶手段310から供給される様々な周波数成分を含む実測インパルス応答が入力される。これら各ハイパスフィルタ321−kのカットオフ周波数は、それぞれ異なる値に設定されており、図4に示すようにハイパスフィルタ321−1のカットオフ周波数はa(Hz)に設定され、ハイパスフィルタ321−2のカットオフ周波数はa(Hz)よりも高いb(Hz)に設定され、・・・ハイパスフィルタ321−nのカットオフ周波数はy(Hz)よりも高いz(Hz)に設定されている。この結果、同図に示すようにa(Hz)以上の周波数成分を含むインパルス応答Aがハイパスフィルタ321−1を通過し、b(Hz)以上の周波数成分を含むインパルス応答Bがハイパスフィルタ321−2を通過し、・・・、z(Hz)以上の周波数成分を含むインパルス応答Zがハイパスフィルタ321−nを通過する。
【0017】
ここで、上記ハイパスフィルタ321−kを何段設けるか及び各ハイパスフィルタ321−kのカットオフ周波数をどのように設定するかは、特に言及しなかったが、これらはインパルス応答補正部300の設計等に応じて適宜変更可能である。ただし、本実施形態に係るインパルス応答補正部300は、暗騒音成分(前掲図14(b)参照)を多く含む周波数帯域のインパルス応答を分離することを目的とする。従って、予め暗騒音成分を多く含む周波数帯域(例えば、低周波帯域等)がわかっていれば、該周波数帯域に基づいてハイパスフィルタ321−kの段数及びカットオフ周波数を決定すれば良い。
【0018】
また、一般に残響時間はオクターブバンド(或いは1/3オクターブバンド)毎に測定され、その結果もオクターブバンド毎に異なることが知られている。かかる事情に鑑み、実測インパルス応答をオクターブバンド(あるいは1/3オクターブバンド)毎に分割するようにハイパスフィルタ321−kの段数及び各ハイパスフィルタ321−kのカットオフ周波数を決定しても良い。また、どのような遮断特性を有するハイパスフィルタ321−kを用いるかは適宜変更可能であるが、遮断特性が急なフィルタを用いて周波数帯域分割した場合には、合成(後述)した際に周波数帯域毎の減衰の様子が判別されてしまう。かかる問題を回避すべく、当該フィルタの遮断特性をなだらかにすることで、隣り合う周波数帯域が緩やかに重なり合うようにしても良い。さらに、本実施形態では、FIR型のフィルタを用いることでフィルタリングによる位相の反転を抑制しているが、かかるフィルタの種類は設計等に応じて適宜変更可能である。
【0019】
図3に戻り、各減算器322−k(減算器322−1を除く)は、対応するハイパスフィルタ321−kを通過したインパルス応答と、当該ハイパスフィルタ321−kの前段に設けられているハイパスフィルタ321−(k−1)を通過したインパルス応答とを用いて減算処理を行い、減算処理結果を出力する。
各減算器322−kの動作について具体的に説明すると、減算器322−1にfmin(Hz)からfmax(Hz)の帯域の周波数成分を持つ実測インパルス応答D.Cとハイパスフィルタ321−1を通過したインパルス応答Aが入力されると、減算器322−1は、減算処理を行ってfmin(Hz)〜a(Hz)の周波数成分を含むインパルス応答を出力する(図5に示す、a参照)。同様に、減算器322−2にハイパスフィルタ321−1を通過したインパルス応答Aとハイパスフィルタ321−2を通過したインパルス応答Bが入力されると、該減算器322−2は、減算処理を行ってa(Hz)〜b(Hz)の周波数成分を含むインパルス応答を出力する(図5に示す、b参照)。
【0020】
各減算器がこのような処理を実行することにより、減算器322−3からb(Hz)〜c(Hz)の周波数成分を含むインパルス応答が出力され(図5に示す、c参照)、・・・、減算器322−nからy(Hz)〜z(Hz)の周波数成分を含むインパルス応答が出力される(図5に示す、z参照)。なお、ハイパスフィルタ321−nを通過したz(Hz)以上の周波数成分を含むインパルス応答Zは、減算器322−nに出力されると共に、減算器322−nを介すことなく直接減衰補正手段330に出力される(図3参照)。
【0021】
帯域分割手段320は、このようにして実測インパルス応答D.Cを各周波数帯域毎に分割すると、分割後の各インパルス応答(以下、帯域別インパルス応答という)を減衰補正手段330に出力する。
図6は、減衰補正手段330によって実行されるフェードアウト(補正)処理のフローチャートを示す図であり、図7は、フェードアウト処理を説明するための図である。なお、かかるフェードアウト処理は、帯域分割手段320から供給される全ての帯域別インパルス応答について行われるが、説明の理解を容易にするために、以下ではある特定の帯域別インパルス応答(例えば、a(Hz)〜b(Hz)の周波数成分を含むインパルス応答等)を例に説明を行う。
【0022】
減衰補正手段330は、帯域分割手段320から帯域別インパルス応答を受け取ると、まず、該帯域別インパルス応答の減衰傾斜(すなわち、残響の傾き)を検出する(ステップS1;図7(a)参照)。次に、減衰補正手段330は、該帯域別インパルス応答の減衰がほぼ止まったときの音圧レベル(すなわち、暗騒音レベル)を検出する(ステップS2;図7(b)参照)。さらに、減衰補正手段330は、ステップS1において検出した残響の傾きを延長した直線と、ステップS2において検出した暗騒音レベルとの交点を求め(ステップS3;図7(c)参照)、求めた交点に対応する時間よりも後の時間に検出されるインパルス応答(すなわち、暗騒音部分)を、上記残響の傾きを延長した直線に沿うようにフェードアウトし(ステップS4;図7(d)参照)、フェードアウト処理を終了する。
【0023】
減衰補正手段330は、帯域分割手段320から供給される全ての帯域別インパルス応答に対して該フェードアウト処理を実行する。ここで、図8は、該減衰補正手段330によってフェードアウト処理が施された後の帯域別インパルス応答波形を例示した図であり、図8(a)は、ある周波数帯域(便宜上、第1周波数帯域という)の帯域別インパルス応答波形を例示し、図8(b)は、第1周波数帯域よりも高い周波数帯域(便宜上、第2周波数帯域という)の帯域別インパルス応答波形を例示し、図8(c)は、第2周波数帯域よりも高い周波数帯域(便宜上、第3周波数帯域という)の帯域別インパルス応答を例示した図である。
【0024】
図8(a)〜図8(c)を比較して明らかなように、各帯域分割インパルス応答毎に、減衰補正手段330によって検出される残響の傾き、暗騒音レベル、交点は異なっている。詳述すると、第1周波数帯域の帯域別インパルス応答は、残響の傾きが緩やかであり、かつ、検出される暗騒音レベルも高く(図8(a)参照)、第2周波数帯域の帯域別インパルス応答は、第1周波数帯域の帯域別インパルス応答に比して、残響の傾きが急であり、かつ、検出される暗騒音レベルも低く(図8(b)参照)、第3周波数帯域の帯域別インパルス応答は、第2周波数帯域の帯域別インパルス応答に比して、さらに残響の傾きが急であり、かつ、検出される暗騒音レベルも低い(図8(c)参照)。このように、各帯域別インパルス応答において検出される暗騒音レベル及び暗騒音部分は異なっている。
【0025】
ここで、実測インパルス応答を周波数帯域分割することなく、フェードアウト処理を施した場合には、1つの減衰傾斜で全周波数特性が処理されるため、特定の周波数帯域においてのみ自然な減衰となり、その他の周波数帯域においては不自然な減衰となってしまう。これに対し、本実施形態に係る減衰補正手段330は、各帯域別インパルス応答毎に暗騒音レベル及び暗騒音部分を検出し、検出結果に応じてフェードアウト処理を行うため、全ての周波数帯域において自然な減衰を得ることが可能となる。なお、減衰補正手段330によって検出される残響の傾き、暗騒音レベル、交点等は、各帯域別インパルス応答毎に異なるが、フェードアウト処理の基本的な流れは、前掲図6を用いて同様に説明することができるため、これ以上の説明は省略する。
【0026】
さて、フェードアウト処理が施された各帯域別インパルス応答は、減衰補正手段330から波形再合成手段340へ順次供給される(図2参照)。波形再合成手段340は、減衰補正手段330から各帯域別インパルス応答を受け取ると、これら各帯域別インパルス応答の時間軸を揃えて足し合わせ、再合成することにより目的とするインパルス応答、すなわち暗騒音部分がフェードアウトされたインパルス応答を得る。波形再合成手段340は、このようにして得た合成後のインパルス応答を畳み込み演算用の係数列として畳み込み演算部400に順次供給する。畳み込み演算部400は、波形再合成手段340から供給される合成後のインパルス応答を畳み込み演算用の係数列として用い、当該係数列と音楽ソース200から供給されるサンプルデータ列との畳み込み演算を行うことにより、聴感上、不自然さを感じさせることない、すなわち自然な残響感を付与することが可能となる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態に係る残響付与装置100によれば、実測インパルス応答を複数の周波数帯域に分割し、分割後の各帯域別インパルス応答にフェードアウト処理(図6、図7参照)を施し、合成して得られたインパルス応答を畳み込み演算用の係数列として用いることで、自然な残響感を付与することが可能となる。
【0028】
また、実測インパルス応答を複数の周波数帯域に分割し、分割後の各帯域別インパルス応答にフェードアウト処理を施すため、周波数帯域分割することなくフェードアウト処理を施した場合と異なり、全ての周波数帯域において自然な減衰を得ることが可能となる。
【0029】
また、本実施形態に係る残響付与装置100によれば、実測インパルス応答そのものを利用して、すなわち実測インパルス応答からパルス列を抽出して暗騒音成分等を除去することなく、自然な残響感を付与することが可能となる(なお、特開平6−351095号公報には、実測インパルス応答からパルス列を抽出することで暗騒音成分等を除去する技術が開示されているが、本願発明はあくまで実測インパルス応答そのものを利用し、かつ、帯域分割したインパルス応答の暗騒音分を検出し、検出した暗騒音部分のみをフェードアウトさせる点に特徴があり、上記公報に開示された発明とは着想等が異なることに留意されたい)。
【0030】
また、本実施形態に係る残響付与装置100によれば、実測インパルス応答のうちの検出された暗騒音部分のみをフェードアウトさせ、暗騒音部分以外の部分については何ら処理を施さないため、フェードアウト処理後に各帯域別インパルス応答を合成する場合には、暗騒音部分以外の部分は単に足し合わせるだけで復元することが可能となる。また、実測インパルス応答を周波数帯域毎に分割するハイパスフィルタ321−kについて、遮断特性が緩やかなものを利用することにより、フェードアウトさせた暗騒音部分を合成した場合においても自然な減衰を得ることが可能となる。
【0031】
B.変形例
以上この発明の一実施形態について説明したが、上記実施形態はあくまで例示であり、上記実施形態に対しては、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で様々な変形を加えることができる。変形例としては、例えば以下のようなものが考えられる。
【0032】
<変形例1>
上述した本実施形態では、帯域分割手段320が複数のハイパスフィルタ321−kと、各ハイパスフィルタ321−kに対応して設けられた複数の減算器322−kによって構成されている場合を例に説明を行ったが、複数のハイパスフィルタ321−kの代わりに複数のローパスフィルタ321’−kを設けることも可能である。
【0033】
図9は、変形例1に係る帯域分割手段320’の構成を示す図であり、図10は、帯域分割手段320’を構成するFIR型ローパスフィルタ(LPF)321’−kを説明するための図である。
図9に示すように、帯域分割手段320’は、複数のローパスフィルタ321’−k(1≦k≦n)と、各ローパスフィルタ321’−kに対応して設けられた複数の減算器322’−k(1≦k≦n)によって構成されている。
【0034】
各ローパスフィルタ321’−kには、実測インパルス応答記憶手段310から供給される様々な周波数成分を含む実測インパルス応答が入力される。これら各ローパスフィルタ321’−kのカットオフ周波数は、それぞれ異なる値に設定されており、図10に示すようにローパスフィルタ321’−1のカットオフ周波数はa(Hz)に設定され、ローパスフィルタ321’−2のカットオフ周波数はaよりも低いb(Hz)に設定され、・・・ローパスフィルタ321’−nのカットオフ周波数はyよりも低いz(Hz)に設定されている。この結果、図10に示すようにa(Hz)以下の周波数成分を含むインパルス応答Aがローパスフィルタ321’−1を通過し、b(Hz)以下の周波数成分を含むインパルス応答Bがローパスフィルタ321’−2を通過し、・・・、z(Hz)以下の周波数成分を含むインパルス応答Zがローパスフィルタ321’−nを通過する。
【0035】
図9に戻り、各減算器322’−kは、上述した本実施形態に係る減算器とほぼ同様の処理を実行する。この結果、減算器322’−1からa(Hz)〜fmax(Hz)の周波数成分を含むインパルス応答が出力され(図11に示す、a参照)、減算器322’−2からb(Hz)〜a(Hz)の周波数成分を含むインパルス応答が出力される(図11に示す、b参照)。
【0036】
このような処理が各減算器によって実行されることにより、減算器322’−3からb(Hz)〜c(Hz)の周波数成分を含むインパルス応答が出力され(図11に示す、c参照)、・・・、減算器322’−nからy(Hz)〜z(Hz)の周波数成分を含むインパルス応答が出力される(図11に示す、z参照)。なお、ローパスフィルタ321’−nを通過したz(Hz)以下の周波数成分を含むインパルス応答Zは、減算器322’−nに出力されると共に、減算器322’−nを介すことなく直接減衰補正手段330に出力される(図9参照)。
【0037】
帯域分割手段320は、このようにして実測インパルス応答D.Cを各周波数帯域毎に分割すると、分割後の各インパルス応答(以下、帯域別インパルス応答という)を減衰補正手段330に出力する。なお、この後の動作については、上述した本実施形態と同様に説明することができるため、省略する。
【0038】
<変形例2>
また、上述したハイパスフィルタ321−k若しくはローパスフィルタ321’−kの代わりに、バンドパスフィルタを用いて帯域分割手段を構成することも可能である。
図12は、変形例2に係る帯域分割手段320’’の構成を示す図である。
図12に示すように、帯域分割手段320’’は、それぞれ通過域が異なる複数のバンドパスフィルタ(BPF)321’’−k(1≦k≦n)によって構成されている。
【0039】
バンドパスフィルタ321’’−1の低い方のカットオフ周波数(以下、第1カットオフ周波数という)はfmin(Hz)に設定され、高い方のカットオフ周波数(以下、第2カットオフ周波数という)はa(Hz)に設定されている。同様に、バンドパスフィルタ321’’−2の第1カットオフ周波数はa(Hz)に設定され、第2カットオフ周波数はb(Hz)に設定され、・・・バンドパスフィルタ321’’−nの第1カットオフ周波数はz(Hz)に設定され、第2カットオフ周波数はfmax(Hz)に設定されている。この結果、上述した本実施形態とほぼ同様にfmin(Hz)〜a(Hz)の周波数成分を含むインパルス応答がバンドパスフィルタ321’’−1を通過し、a(Hz)〜b(Hz)の周波数成分を含むインパルス応答がバンドパスフィルタ321’’−2を通過し、・・・z(Hz)〜fmax(Hz)の周波数成分を含むインパルス応答がバンドパスフィルタ321’’−nを通過する。
【0040】
このように、ハイパスフィルタ321−k若しくはローパスフィルタ321’−kの代わりに、バンドパスフィルタ321’’−kを用いて帯域分割手段320’’を構成することも可能である。また、帯域分割手段では、FFTなどの手法により、実測インパルス応答D.Cの単位時間ごとの各周波数帯域の特性を求めて帯域別インパルス応答の周波数特性を得、それに基づいて本実施形態等に記載の減衰補正を行っても良い。
【0041】
<変形例3>
また、本実施形態に係る減衰補正手段330は、残響の傾きを延長した直線に沿うように、暗騒音部分をフェードアウトさせる構成であったが(図7(d)参照)、該暗騒音部分を該残響の傾きよりも緩やかに(若しくは急峻に)フェードアウトさせることも可能である。
【0042】
図13は、変形例3に係るフェードアウト処理を説明するための図であり、図7(d)に対応する図である。減衰補正手段は、暗騒音部分を検出すると、残響の傾きを延長した直線(図13に示す、A参照)ではなく、残響の傾きよりも緩やかな傾きの直線(図13に示す、B参照)若しくは残響の傾きよりも急峻な傾きの直線(図13に示す、C参照)に沿うように、検出した暗騒音部分をフェードアウトさせる。ここで、残響の傾きよりも緩やかな傾きの直線を用いた場合は、聴感上、より自然な残響を付与することが可能となる。なお、かかる直線の傾きをどのような値に設定するかは、残響付与装置100の設計等に応じて適宜変更可能である。また、上記残響の傾き、および残響の傾きを延長した直線等に限らず、対数曲線などの任意の曲線に沿うように、検出した暗騒音部分をフェードアウトさせても良い。さらにまた、帯域分割手段320から供給される複数の帯域別インパルス応答のうち、どの帯域別インパルス応答(一部の帯域別インパルス応答、全ての帯域別インパルス応答等)の暗騒音部分を残響の傾きよりも緩やかに(若しくは急峻に)フェードアウトさせるかは、上記と同様、残響付与装置100の設計等に応じて適宜変更可能である。
【0043】
<変形例4>
また、本実施形態に係る波形再合成手段340は、減衰補正手段330から各帯域別インパルス応答を受け取ると、これら各帯域別インパルス応答の時間軸を揃えて足し合わせる構成であったが、これら各帯域別インパルス応答の時間軸を意図的にずらして合成し、各帯域毎に残響付与の開始タイミング若しくは終了タイミングをずらすようにしても良い。かかる構成によれば、非現実的な効果を奏する残響を付与することが可能となる。さらに、各帯域分割インパルス応答の振幅を適宜調整して合成すれば、既知のイコライザ(帯域別のレベル調整、音量調整等)を使用した場合とほぼ同様の効果を得ることが可能となる。
【0044】
<変形例5>
また、上述した残響付与装置100に係る諸機能をソフトウェアによって実現することも可能である。インパルス応答補正部300の機能を例に説明すると、記録媒体(例えば、CD−ROM等)から残響付与装置100にフェードアウト処理(図6等参照)に係るプログラムをインストールする、あるいは該ソフトウェアを備えたサーバから種々のネットワーク(例えば、インターネット等)を介して残響付与装置100にインストールする。このように、上述した諸機能をソフトウェアによって実現することも可能である。
【00045】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、暗騒音成分を含む実測インパルス応答を利用して残響感を付与する場合においても、自然な残響感を付与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本実施形態における残響付与装置の構成を示すブロック図である。
【図2】 同実施形態に係るインパルス応答補正部の機能構成を示すブロック図である。
【図3】 同実施形態に係る帯域分割手段の構成を示す図である。
【図4】 同実施形態に係るFIR型ハイパスフィルタを説明するための図である。
【図5】 同実施形態に係る帯域分割手段による帯域分割処理を説明するための図である。
【図6】 同実施形態に係るフェードアウト処理のフローチャートである。
【図7】 同実施形態に係るフェードアウト処理を説明するための図である。
【図8】 同実施形態に係るフェードアウト処理後における各帯域別インパルス応答波形を例示した図である。
【図9】 変形例1に係る帯域分割手段の構成を示す図である。
【図10】 同変形例に係るFIR型ローパスフィルタを説明するための図である。
【図11】 同変形例に係る帯域分割手段による帯域分割処理を説明するための図である。
【図12】 変形例2に係る帯域分割手段の構成を示す図である。
【図13】 変形例3に係るフェードアウト処理を説明するための図である。
【図14】 (a)は、暗騒音成分を含むインパルス応答の実時間波形を例示した図であり、(b)は、(a)に示す暗騒音成分を含むインパルス応答をデシベル(dB)表示した模式図である。
【符号の説明】
100・・・残響付与装置、200・・・音楽ソース、300・・・インパルス応答補正部、400・・・畳み込み演算部、310・・・実測インパルス応答記憶手段、320、320’、320’’・・・帯域分割手段、330・・・減衰補正手段、340・・・波形再合成手段、321・・・ハイパスフィルタ、321’・・・ローパスフィルタ、321’’・・・バンドパスフィルタ、322、322’・・・減算器。
Claims (15)
- オーディオ信号にインパルス応答を畳み込むことにより残響付与を行う残響付与方法であって、
実測することにより得られる暗騒音成分を含むインパルス応答を複数の周波数帯域に分割する分割過程と、
周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の減衰傾斜を求めると共に、周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の減衰がほぼ止まったときの音圧レベルを求め、前記減衰傾斜と該音圧レベルとの交点以降を暗騒音部分として検出し、求めた減衰傾斜に応じて、前記各インパルス応答における暗騒音部分のみを補正する補正過程と、
補正した後の各インパルス応答を再合成する再合成過程と、
前記オーディオ信号に再合成した後のインパルス応答を畳み込む畳み込み演算過程と
を具備することを特徴とする残響付与方法。 - 前記再合成過程は、補正した後の各インパルス応答の時間軸をずらして再合成することを特徴とする請求項1に記載の残響付与方法。
- 前記補正過程において、周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の周波数帯域が高いほど急な傾きの前記減衰傾斜に応じて、該インパルス応答における暗騒音部分のみを補正することを特徴とする請求項1に記載の残響付与方法。
- 前記補正過程は、前記各インパルス応答における暗騒音部分のうち、一部のインパルス応答における暗騒音部分を、前記求めた減衰傾斜とは異なる減衰傾斜に沿うように補正することを特徴とする請求項1に記載の残響付与方法。
- 前記異なる減衰傾斜は、前記求めた減衰傾斜よりも緩やかな傾斜であることを特徴とする請求項4に記載の残響付与方法。
- サンプルデータ列としてオーディオ信号が入力される畳み込み演算手段に、畳み込み演算用の係数列としてインパルス応答を供給する方法であって、
実測することにより得られる暗騒音成分を含むインパルス応答を複数の周波数帯域に分割する分割過程と、
周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の減衰傾斜を求めると共に、周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の減衰がほぼ止まったときの音圧レベルを求め、前記減衰傾斜と該音圧レベルとの交点以降を暗騒音部分として検出し、求めた減衰傾斜に応じて、前記各インパルス応答における暗騒音部分のみを補正する補正過程と、
補正した後の各インパルス応答を再合成する再合成過程と、
前記再合成した後のインパルス応答を前記畳み込み演算手段に供給する供給過程と
を具備することを特徴とするインパルス応答供給制御方法。 - オーディオ信号にインパルス応答を畳み込むことにより残響付与を行う残響付与装置であって、
実測することにより得られる暗騒音成分を含むインパルス応答を記憶する記憶手段と、
前記インパルス応答を複数の周波数帯域に分割する帯域分割手段と、
周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の減衰傾斜を求めると共に、周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の減衰がほぼ止まったときの音圧レベルを求め、前記減衰傾斜と該音圧レベルとの交点以降を暗騒音部分として検出し、求めた減衰傾斜に応じて、前記各インパルス応答における暗騒音部分のみを補正する減衰補正手段と、
補正した後の各インパルス応答を再合成する再合成手段と、
前記オーディオ信号に再合成した後のインパルス応答を畳み込む畳み込み演算手段と
を具備することを特徴とする残響付与装置。 - 前記再合成手段は、補正した後の各インパルス応答の時間軸をずらして再合成することを特徴とする請求項7に記載の残響付与装置。
- 前記減衰補正手段は、周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の周波数帯域が高いほど急な傾きの前記減衰傾斜に応じて、該インパルス応答における暗騒音部分のみを補正することを特徴とする請求項7に記載の残響付与装置。
- 前記減衰補正手段は、前記各インパルス応答における暗騒音部分のうち一部のインパルス応答における暗騒音部分を、前記求めた減衰傾斜に沿うように補正することを特徴とする請求項7に記載の残響付与装置。
- 前記異なる減衰傾斜は、前記求めた減衰傾斜よりも緩やかな傾斜であることを特徴とする請求項10に記載の残響付与装置。
- サンプルデータ列としてオーディオ信号が入力される畳み込み演算手段に、畳み込み演算用の係数列として供給するインパルス応答を補正するインパルス応答補正装置であって、
実測することにより得られる暗騒音成分を含むインパルス応答を記憶する記憶手段と、
前記インパルス応答を複数の周波数帯域に分割する帯域分割手段と、
周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の減衰傾斜を求めると共に、周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の減衰がほぼ止まったときの音圧レベルを求め、前記減衰傾斜と該音圧レベルとの交点以降を暗騒音部分として検出し、求めた減衰傾斜に応じて、
前記各インパルス応答における暗騒音部分のみを補正する減衰補正手段と、
補正した後の各インパルス応答を再合成する再合成手段と
を具備することを特徴とするインパルス応答補正装置。 - サンプルデータ列としてオーディオ信号が入力される畳み込み演算手段に、畳み込み演算用の係数列として供給するインパルス応答を補正するためのプログラムであって、
コンピュータを、
外部から入力される実測することにより得られる暗騒音成分を含むインパルス応答を複数の周波数帯域に分割する分割手段と、
前周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の減衰傾斜を求めると共に、周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の減衰がほぼ止まったときの音圧レベルを求め、前記減衰傾斜と該音圧レベルとの交点以降を暗騒音部分として検出し、求めた減衰傾斜に応じて、前記各インパルス応答における暗騒音部分のみを補正する減衰補正手段と、
補正した後の各インパルス応答を再合成する再合成手段と
して機能させるためのプログラム。 - サンプルデータ列としてオーディオ信号が入力される畳み込み演算手段に、畳み込み演算用の係数列としてインパルス応答を供給するためのプログラムであって、
コンピュータを、
外部から入力される実測することにより得られる暗騒音成分を含むインパルス応答を複数の周波数帯域に分割する分割手段と、
周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の減衰傾斜を求めると共に、周波数帯域毎に分割された各インパルス応答の減衰がほぼ止まったときの音圧レベルを求め、前記減衰傾斜と該音圧レベルとの交点以降を暗騒音部分として検出し、求めた減衰傾斜に応じて、
前記各インパルス応答における暗騒音部分のみを補正する減衰補正手段と、
補正した後の各インパルス応答を再合成する再合成手段と、前記再合成した後のインパルス応答を前記畳み込み演算手段に供給する供給手段と
して機能させるためのプログラム。 - 請求項13または14に記載のプログラムを記録したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
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