JP4019678B2 - 固体高分子電解質型燃料電池 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体高分子電解質型燃料電池の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年の環境問題、特に自動車の排気ガスによる大気汚染や二酸化炭素による地球温暖化の問題に対して、クリーンな排気及び高効率のエネルギ効率を可能とする燃料電池技術が注目されている。燃料電池はその燃料となる水素あるいは水素リッチな改質ガス、及び空気が供給されることにより電気化学反応を生じ、化学エネルギを電気エネルギに変換するエネルギ変換システムである。その中でも特に高い出力密度を有する固体高分子電解質型燃料電池が、自動車用移動体型電源あるいは家庭用定置型電源として注目されている。
【0003】
固体高分子電解質型燃料電池は、一般に、プロトン導電性の高分子電解質膜(以下、単に高分子膜という。)の両面に一対の電極触媒が接合されて単電池が構成されているが、より高い効率で発電するためには高分子膜の抵抗は小さいことが望ましいため、近年、膜厚のより薄い高分子膜を使用する傾向にある。しかしこのような薄膜の高分子膜を用いた場合には、図6に示すように水素等のガスが高分子膜中を透過してガスが無駄になるばかりか、ガス同士が互いに反応を生じ燃料電池の電圧効率を低下させる、いわゆるガスクロスオーバの問題を生じる。
【0004】
このガスクロスオーバ問題を解決する技術として、特開平8−88012号公報や特開平9−120827号公報に記載されるような高分子膜の表面にガスの透過を抑制するガス遮断層を設ける技術が知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このガス遮断層を高分子膜の表面に設けた場合には以下の問題がある。図7と図8はガス遮断層を設けた場合と設けない場合の燃料電池の反応場である3次元構造を有する三層界面(ガスと触媒と高分子膜とのそれぞれの界面)を模式的に示したものである。
【0006】
図7に示すガス遮断層を設けない構成では、ガスと触媒との界面での酸化反応によるH2のH+(プロトン)への変化に加えて、H2ガスが高分子膜を透過して触媒層に到達することにより高分子膜と触媒との界面においてもH2はH+に変化する。
【0007】
一方、図8に示すガス遮断層を設けた構成の三層界面では、H2ガスが高分子膜を透過することができないため、H2のH+への変化を生じる反応はガスと触媒の界面でのみ生じ、ガス遮断層を設けない場合に比較してH+の生成量が減少し、言い換えると触媒が酸化反応を生じる活性点が減少し、電流電圧特性が低下する。したがって、ガス遮断層を設けた場合には、ガスのクロスオーバによるガス損失両は減少するものの、一方で、燃料電池としての電流電圧特性、つまり電池性能が低下することになるという問題がある。
【0008】
そこで本発明の目的は、クロスオーバ問題と電池性能を両立する固体高分子電解質型燃料電池を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、燃料ガスが供給され、アノード触媒層が形成されたアノード電極と、酸化剤ガスが供給され、カソード触媒層が形成されたカソード電極と、前記アノード電極と前記カソード電極に挟まれる固体高分子膜と、前記2つの電極と前記固体高分子膜との界面の少なくとも一方に位置し、電極に供給されたガスが前記固体高分子膜中に透過することを防止する膜で形成するガス遮断層と、を備えた固体高分子電解質型燃料電池において、前記ガス遮断層とこのガス遮断層に接する電極との界面に、前記触媒層が部分的に開放された領域で前記電極に直接的に接触するガス透過層を設け、前記電極と前記ガス透過層と前記ガス遮断層とを層状に重ねて形成し、前記電極に供給されて前記触媒層が部分的に開放された領域を通って前記ガス透過層を透過したガスが前記触媒層で反応する
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、前記電極は、触媒を担持されたガス拡散可能な電極であり、前記固体高分子型燃料電池は、加熱圧着された、前記高分子電解質膜と前記電極と前記ガス遮断層と前記ガス透過層を備える
【0011】
第3の発明は、第1の発明において、前記ガス透過層は、前記ガス遮断層上にガス透過層を構成する成分を含有する電解質溶液を膜状に塗布して形成される膜状のガス透過層である
【0012】
第4の発明は、第1から3のいずれか一つの発明において、前記ガス透過層は、前記ガス遮断層と前記2つの電極との両界面に形成される。
【0013】
第5の発明は、第1から3のいずれか一つの発明において、前記ガス透過層は、前記ガス遮断層とカソード電極との界面に形成される。
【0014】
【発明の効果】
第1の発明では、ガス遮断層と、このガス遮断層と接する電極との界面に、電極に供給されるガスが透過するガス透過層を設けたので、電極に供給されたガスがガス透過層を透過して固体高分子膜と電極との界面に達するため、電極に担持された触媒の活性点が増加し、燃料電池の発電に必要な反応ガスの供給量が増加し、燃料電池の性能を向上できるとともに、ガス遮断層を有することで固体高分子膜を薄くしてもガスのクロスオーバを防止できる。
【0015】
第2の発明では、ガス透過層を備えた燃料電池は、高分子電解質膜と電極とガス遮断層を加熱圧着した燃料電池なので、通常行われているホットプレスによって容易にガス透過層を形成することができる。
【0016】
第3の発明では、ガス透過層は、ガス遮断層上にガス透過層を構成する成分を含有する電解質溶液を膜状に塗布して形成されたガス透過層なので、簡便な方法でガス透過層を形成でき、また、それ自身では成膜不可能であるが、よりガス透過効果の高いガス透過成分をナフィオン等の電解質溶液に溶解せしめてガス遮断層に塗布することで燃料電池の効率を向上できる。
【0017】
第4の発明では、ガス透過層は、ガス遮断層と2つの電極との両界面に形成されるので、ガスクロスオーバを抑制し、発電性能を向上できる。
【0018】
第5の発明では、ガス透過層は、ガス遮断層とカソード電極との界面に形成されるので、カソード電極側の加熱をガス透過層を有さないアノード電極側で放熱することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
図1は固体高分子電解質型燃料電池の高分子膜電極複合体の構成を模式的に表したものである。
【0020】
固体高分子電解質膜(以下、単に高分子膜という。)1のそれぞれの表面に、燃料ガス、例えば水素が供給されるアノード電極2と酸化剤ガス、例えば空気が供給されるカソード電極3とが設けられる。高分子膜1とアノード電極2との界面には高分子膜1側から水素が高分子膜1内に透過することを防止するガス遮断層4と、水素が吸収、透過するガス透過層5と、アノード触媒層6とが形成される。また高分子膜1とカソード電極3との界面にはカソード触媒層7が形成される。
【0021】
具体的には、高分子膜1は厚み約50ミクロンのパーフルオロスルホン酸膜からなり、この高分子膜1の一面にガス遮断層4としてジメチルアセトアミド溶液に溶解せしめた芳香族ポリアミドカルボン酸膜をキャスト法により展開し、約1000Åの厚みの膜を形成する。後に、5%のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を含む低級脂肪族アルコール溶液をガス遮断層4の上に展開して厚さ約5ミクロンのガス透過層5を設ける。アノード電極2とカソード電極3は炭素繊維で織られたカーボンクロスにより形成されており、このカーボンクロスに触媒としての白金または白金と他の金属からなる合金を担持したカーボン粉末がカーボンクロスの隙間に織り込まれ、ガス拡散電極としてのアノード触媒層6及びカソード触媒層7を形成する。
【0022】
また、ガスクロスオーバを防止するガス遮断層4は、水素及び酸素のガス透過係数が小さく、かつプロトン導電率が高いものが望ましく、前述の芳香族ポリアミドカルボン酸膜のほか、プロトン導電性無機材料とナフォオン等フルオロカーボンスルホン酸膜とのハイブリッド膜、あるいは金属パラジウム膜などを用いることができる。
【0023】
ガスの吸収・透過作用を有するガス透過層5としては、ナフィオン等フルオロカーボン系電解質膜、あるいは酸素ガスを溶解透過させることのできるフルオロカーボン化合物を導入したナフィオン、またはリン酸ドープ型芳香族系炭化水素の膜を用いることができる。
【0024】
高分子膜1、各電極2、3及びガス遮断層4とガス透過層5を組んだ状態から約180℃に加熱し、かつ図の左右方向に10MPa程度の圧力で加圧されることで燃料電池を構成する高分子膜電極複合体が完成する。このときに図1のA部が図2に示すように、アノード触媒層6が部分的に開放され、ガス透過層5とアノード電極2(つまり、H2ガス)とが直接的に接触する領域が形成されることになる。この領域の界面の状態を図3に示す。この領域ではアノード触媒層6とアノード電極2との界面、アノード触媒層6と高分子膜1との界面および高分子膜1とアノード電極2との界面の三層界面が形成される。
【0025】
図4は、図3の三層界面での反応を説明するための図である。図3のアノード電極2は簡単のため単にガス相と示す。本発明においては、ガス遮断層4とアノード触媒層6との間にガス透過層5を形成したので、ガス相のガスは、ガス相とアノード触媒層6との界面において、プロトンと電子に分かれるのに加えて、ガスはガス透過層5を透過して高分子膜1とアノード触媒層6との界面に達し、この界面においても、触媒による酸化反応によりガスがプロトンと電子に分かれる。アノード触媒層6とアノード電極(ガス相)2との界面、及び高分子膜1とアノード電極2との界面で触媒の酸化反応によりプロトンと電子に分かれることで、ガス透過層を有しない従来技術に比してアノード触媒層の活性を増大することができるのである。
【0026】
したがって、本発明では、高分子膜1とアノード電極2と間にガス遮断層4を備えた高分子膜電極複合体において、アノード電極2とガス遮断層4との界面にガス透過層5を形成したので、三層界面において、水素ガスがガス透過層4を透過して高分子膜1とアノード触媒6との界面に達し、燃料電池の電池特性を向上することができるとともに、ガス遮断層4を高分子膜1との界面に備えているため水素ガスが高分子膜1を透過して、電池性能を低下させるというガスクロスオーバ問題を解決することができる。
【0027】
図5は、ガス透過層5を有する高分子膜電極複合体の単セルでの電圧電流特性の一例を示したもので、比較としてガス透過層を有さない高分子膜電極複合体の特性も記載する。測定条件としては、アノード電極2に供給される燃料ガスとして水素ガス、カソード電極3に供給される酸化剤ガスとして空気を用い、大気圧下、ガス温度は80℃、ガス加湿温度80℃で測定を実施した。ガス利用率は水素67%、酸素50%とした。結果から明らかなように水素ガスがガス透過層5を透過して触媒の活性点が増加することによって、ガス透過層を有さない従来構成に対して電池特性が向上している。
【0028】
本実施形態では、アノード電極2側にガス遮断層4とガス透過層5を設けたが、カソード電極3側に形成しても両側に形成してもよい。
【0029】
この場合には、例えばカソード電極3側にガス遮断層として厚さ500Åのパラジウム金属膜を真空蒸着法により形成することができる。またカソード電極3側にガス透過層として直径0.1ミクロンのパーフロオロデカリン粒子を含むパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂ガス透過層を形成してもよい。これらの構成の電池特性が、図5に示した特性とほぼ同等であることは発明者等によって確認された。さらには空気を加湿せず、水素ガスのみの加湿でもガス透過層を備えた高分子膜電極複合体は、図5に示す水素と空気の両方を加湿したものとほぼ同等の電池特性を示すことが確認されており、ガス透過層を有することで空気の無加湿運転を可能とすることができる。または空気を加湿し、水素を無加湿としてもよい。これは燃料電池の出力向上のため高分子膜1の薄膜化が進んだ場合に、水の逆拡散による燃料電池の無加湿(あるいは低加湿)運転が可能となる。つまり、カソード電極3で生成した水がアノード電極2側に拡散し、アノード電極1で加湿に必要となる水を廃止、または低減することができる。またカソード電極3側にのみガス遮断層4とガス透過層5を設けた場合には、カソード電極3側での発熱をこれら層4、5を有さないアノード電極2側から放熱することができる。
【0030】
本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内でさまざまな変更がなしうることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の高分子膜電極複合体の構成図である。
【図2】同じく図1のA部拡大図である。
【図3】同じく三層界面を説明する図である。
【図4】同じく三層界面でのガスの透過を説明する図である。
【図5】同じく電圧電流特性図である。
【図6】クロスオーバを説明する概念図である。
【図7】従来の三層界面を説明する図である。
【図8】従来のガス遮断層を有する場合の三層界面を説明する図である。
【符号の説明】
1 高分子膜
2 アノード電極
3 カソード電極
4 ガス遮断層
5 ガス透過層
6 アノード触媒層
7 カソード触媒層

Claims (5)

  1. 燃料ガスが供給され、アノード触媒層が形成されたアノード電極と、
    酸化剤ガスが供給され、カソード触媒層が形成されたカソード電極と、
    前記アノード電極と前記カソード電極に挟まれる固体高分子膜と、
    前記2つの電極と前記固体高分子膜との界面の少なくとも一方に位置し、電極に供給されたガスが前記固体高分子膜中に透過することを防止する膜で形成するガス遮断層と、
    を備えた固体高分子電解質型燃料電池において、
    前記ガス遮断層とこのガス遮断層に接する電極との界面に、前記触媒層が部分的に開放された領域で前記電極に直接的に接触するガス透過層を設け、前記電極と前記ガス透過層と前記ガス遮断層とを層状に重ねて形成し、前記電極に供給されて前記触媒層が部分的に開放された領域を通って前記ガス透過層を透過したガスが前記触媒層で反応するようにしたことを特徴とする固体高分子電解質型燃料電池。
  2. 前記電極は、触媒を担持されたガス拡散可能な電極であり、
    前記固体高分子型燃料電池は、加熱圧着された、前記高分子電解質膜と前記電極と前記ガス遮断層と前記ガス透過層を備えることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子電解質型燃料電池。
  3. 前記ガス透過層は、前記ガス遮断層上にガス透過層を構成する成分を含有する電解質溶液を膜状に塗布して形成される膜状のガス透過層であることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子電解質型燃料電池。
  4. 前記ガス透過層は、前記ガス遮断層と前記2つの電極との両界面に形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の固体高分子電解質型燃料電池。
  5. 前記ガス透過層は、前記ガス遮断層とカソード電極との界面に形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の固体高分子電解質型燃料電池。
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