JP4019345B2 - 耐チッピング性のすぐれた表面被覆超硬合金製切削工具 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、特に各種の鋼や鋳鉄などの高速切削加工に用いた場合に、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具(以下、被覆超硬工具という)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、切削工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるスローアウエイチップ、前記被削材の穴あけ切削加工などに用いられるドリルやミニチュアドリル、さらに前記被削材の面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルなどがあり、また前記スローアウエイチップを着脱自在に取り付けて前記ソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うスローアウエイエンドミル工具などが知られている。
【0003】
また、一般に、例えば特開平9−125249号公報に記載されるように、例えば図1に概略説明図で示される物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置を用い、ヒータで装置内を、例えば雰囲気を20mtorrの真空として、500℃の温度に加熱した状態で、アノード電極と所定組成を有するTi−Al合金がセットされたカソード電極(蒸発源)との間に、例えば電圧:35V、電流:90Aの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガス、または窒素ガスとメタンガスを導入し、一方炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットからなる基体(以下、これらを総称して超硬基体と云う)には、例えばー200Vのバイアス電圧を印加した条件で、前記超硬合金基体の表面に、硬質被覆層の内側層として、組成式:(Ti1-XAlX)Nおよび同(Ti1-XAlX)C1-YNY(ただし、原子比で、Xは0.1〜0.7、Yは0.5〜0.99を示す)を有するTiとAlの複合窒化物[以下、(Ti,Al)Nで示す]層および複合炭窒化物[以下、(Ti,Al)CNで示す]層のうちのいずれか、または両方で構成された硬質被覆層を1〜10μmの平均層厚で形成し、さらに前記内側層の表面に、同じく硬質被覆層の外側層として、通常の化学蒸着装置を用い、酸化アルミニウム(以下、Al2O3で示す)層、および例えば特開昭57−39168号公報や特開昭61−201778号公報に記載されるAl2O3の素地に酸化ジルコニウム(以下、ZrO2で示す)相が分散分布してなるAl2O3−ZrO2混合層(以下、Al2O3−ZrO2混合層と云う)のいずれか、または両方で構成された硬質被覆層を0.5〜10μmの平均層厚で形成することにより被覆超硬工具を製造することが知られている。
【0004】
また、上記の従来被覆超硬工具において、工具の使用前と使用後の識別を容易にするために、黄金色の色調を有する窒化チタン(以下、TiNで示す)層を上記硬質被覆層の外側層を構成するAl2O3層またはAl2O3−ZrO2混合層の表面に、最表面層として0.05〜2μmの平均層厚で化学蒸着することが行われている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
一方、近年の切削加工に対する省力化および省エネ化の要求は強く、これに伴い、切削加工は高速化の傾向にあるが、上記の従来被覆超硬工具において、特にこれの硬質被覆層の表面に、最表面層として使用前後の識別目的でTiN層が蒸着形成されている場合、このTiN層は被削材である各種鋼に対する付着性の強いものであるため、特に高い発熱を伴う高速切削加工では、切粉が高温加熱されることと相まって前記TiN層に強力に付着し、前記TiN層を硬質被覆層から局部的に剥がし取るように作用するが、この場合前記TiN層は硬質被覆層を構成するAl2O3層およびAl2O3−ZrO2混合層、さらに(Ti,Al)N層および(Ti,Al)CN層に対しても密着性のすぐれたものであることから、前記硬質被覆層も前記TiN層と一緒に局部的に剥がし取られ、この結果刃先にチッピング(微小欠け)が発生し、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
【0006】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、上記の硬質被覆層の表面に最表面層として識別目的でTiN層が形成された従来被覆超硬工具に着目し、特にこれの高速切削加工条件下での耐チッピング性の向上を図るべく研究を行った結果、
上記の従来被覆超硬工具の表面に、まず、最表面下地層として、化学蒸着装置を用い、反応ガス組成を、体積%で、
TiCl4:0.2〜10%、
CO2:0.1〜10%、
Ar:5〜60%、
H2:残り、
とし、かつ、
反応雰囲気温度:800〜1100℃、
反応雰囲気圧力:4〜70kPa(30〜525torr)、
とした条件で、0.1〜3μmの平均層厚を有し、かつ、オージェ分光分析装置で測定して、Tiに対する酸素の割合が原子比で1.25〜1.90、即ち、
組成式:TiOW、
で表わした場合、
W:Tiに対する原子比で1.25〜1.90、
を満足するTi酸化物層を形成し、このTi酸化物層の上に、最表面層として、同じく化学蒸着装置を用い、反応ガス組成を、体積%で、
TiCl4:0.2〜10%、
N2:4〜60%、
H2:残り、
とし、かつ、
反応雰囲気温度:800〜1100℃、
反応雰囲気圧力:4〜90kPa(30〜675torr)、
とした条件で、0.05〜2μmの平均層厚を有するTiN層を形成すると、この最表面層形成時に上記最表面下地層を構成するTi酸化物層の酸素が拡散してきてTi窒酸化物層が形成されるようになり、この場合前記Ti窒酸化物層形成後の最表面下地層は、厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、酸素の割合がTiに対する原子比で1.2〜1.7、即ち、
組成式:TiOV 、
で表わした場合、
V:Tiに対する原子比で1.2〜1.7、
を満足するTi酸化物層となり、一方前記最表面層は、同じく厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、拡散酸素の割合がTiに対する原子比で0.01〜0.4、即ち、
組成式:TiN1−Z(O)Z、
で表わした場合(ただし、(O)は上記最表面下地層からの拡散酸素を示す)、
Z:Tiに対する原子比で0.01〜0.4、
を満足するTi窒酸化物層となり、この結果の上記Ti窒酸化物層およびTi酸化物層が上記硬質被覆層の表面に最表面層および最表面下地層として化学蒸着された被覆超硬工具においては、特に前記最表面層としてのTi窒酸化物層が、上記TiN層と同等の黄金色の表面色調を具備するため、工具の使用前後の識別を可能とし、かつ被削材である各種鋼に対する付着性のきわめて低いものであるため、高熱発生を伴う高速切削加工にも高温加熱された切粉が付着することがなくなることから、切刃のチッピング発生が著しく抑制され、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するようになるという研究結果が得られたのである。
【0007】
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、超硬基体の表面に、物理蒸着形成した内側層と化学蒸着形成した外側層からなり、かつ前記内側層を1〜10μmの平均層厚を有し、かつ組成式:(Ti1−XAlX)Nおよび同(Ti1−XAlX)C1−YNY(ただし、原子比で、Xは0.1〜0.7、Yは0.5〜0.99を示す)を有する(Ti,Al)N層および(Ti,Al)CN層のうちのいずれか、あるいは両方で構成し、前記外側層を0.5〜10μmの平均層厚を有するAl2O3層およびAl2O3−ZrO2混合層のうちのいずれか、あるいは両方で構成した硬質被覆層を蒸着してなる被覆超硬工具において、
上記硬質被覆層の表面に、最表面下地層として、0.1〜3μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:TiOV 、
で表わした場合、厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、
V:Tiに対する原子比で1.2〜1.7、
を満足するTi酸化物層、
最表面層として、0.05〜2μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:TiN1−Z(O)Z、
で表わした場合(ただし、(O)は上記最表面下地層からの拡散酸素を示す)、同じく厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、
Z:Tiに対する原子比で0.01〜0.4、
を満足するTi窒酸化物層、
を化学蒸着してなる、耐チッピング性のすぐれた被覆超硬工具に特徴を有するものである。
【0008】
この発明の被覆超硬工具において、最表面層を構成するTi窒酸物層の拡散酸素の割合(Z値)をTiに対する原子比で0.01〜0.40としたのは、その値が0.01未満では切粉に対する付着性抑制に所望の効果を確保することができず、一方その値が0.40を越えると、層中に気孔が形成され易くなり、健全な最表面層の安定的形成が難しくなるという理由によるものである。
また、上記最表面層を構成するTi窒酸化物層は、上記の通り、まず、最表面下地層として、酸素の割合をTiに対する原子比で1.25〜1.90(W値)としたTi酸化物層を形成し、ついで前記最表面下地層の上に通常の条件でTiN層を蒸着することにより形成されるものであり、したがって前記TiN層形成時における前記最表面下地層からの酸素の拡散が不可欠となるが、前記最表面下地層を構成するTi酸化物層のW値が1.25未満であると、前記TiN層への酸素の拡散反応が急激に低下し、最表面層における拡散酸素の割合(Z値)をTiに対する原子比で0.01以上にすることができず、一方同W値が1.90を越えると、前記最表面層における拡散酸素の割合がTiに対する原子比で0.40を越えて多くなってしまうことから、W値を1.25〜1.90と定めたものであり、この場合最表面層形成後の最表面下地層における酸素の割合(V値)はTiに対する原子比で1.2〜1.7の範囲内の値をとるようになる、言い換えれば最表面層形成後の最表面下地層のV値が1.2〜1.7を満足する場合に、前記最表面層のZ値は0.01〜0.40を満足するものとなるのである。
さらに、上記最表面層および最表面下地層の平均層厚を、それぞれ0.05〜2μmおよび0.1〜3μmとしたのは、その平均層厚が0.05μm未満および0.1μm未満では、前者にあっては所望の表面色調(黄金色)を確保することができず、また後者にあっては最表面層への酸素供給が不十分になり、一方前者の色調付与作用は2μm、後者の酸素供給作用は3μmの平均層厚で十分満足に行うことができるという理由にもとづくものである。
【0009】
また、上記の最表面下地層のTi酸化物層は、これを硬質被覆層の外側層を構成するAl2O3層およびAl2O3−ZrO2混合層の表面に、これのW値が1.25〜1.90の範囲内の低い側、例えば1.25〜1.50の範囲内にある条件や、その平均層厚が0.1〜3μmの範囲内の薄い側、例えば0.1〜1μmの範囲内にある条件で形成した場合には、前記硬質被覆層との間に十分な層間密着性が得られない場合がある(勿論、上記Ti酸化物層の形成条件によっては、この場合でも十分な層間密着性が得られるものである)ので、この場合には上記Ti酸化物層形成後に、下記の雰囲気、即ち、
雰囲気ガス組成を、
TiCl4:0.05〜10体積%、
不活性ガス:残り、
とし、かつ、
雰囲気温度:800〜1100℃、
雰囲気圧力:4〜90kPa(30〜675Torr)、
とした雰囲気中に所定時間、例えば5分〜5時間程度保持して、上記Ti酸化物層と硬質被覆層との界面部に、望ましくは0.05〜2μmの平均層厚で相互拡散層を形成し、これによって層間密着性の向上を図るのがよく、さらにこのTi酸化物層と硬質被覆層との層間密着性向上処理は、上記Ti酸化物層のW値および平均層厚が上記の低い側および薄い側の値以外の値である場合にも、層間密着性のより一層の向上を図る目的で行ってもよい。
【0010】
さらに、この発明の被覆超硬工具において、硬質被覆層の内側層を構成する(Ti,Al)N層および(Ti,Al)CN層におけるAlは靭性の高いTiNおよびTiCNに対して硬さを高め、もって耐摩耗性を向上させるために固溶するものであり、したがって組成式:(Ti1-XAlX)Nおよび同(Ti1-XAlX)C1-YNYのX値が0.1未満では所望の耐摩耗性向上効果が得られず、一方その値が0.7を越えると、具備する靭性が急激に低下し、切刃に欠けやチッピングが発生し易くなると云う理由によりX値を0.1〜0.7(原子比)と定めたものであり、また、(Ti,Al)CN層におけるC成分には、硬さを向上させる作用があるので、(Ti,Al)CN層は上記(Ti,Al)N層に比して相対的に高い硬さをもつが、この場合C成分の割合が0.01未満、すなわちY値が0.99を越えると所定の硬さ向上効果が得られず、一方C成分の割合が0.5を越える、すなわちY値が0.5未満になると靭性が急激に低下するようになることから、Y値を0.5〜0.99、望ましくは0.55〜0.9と定めたのである。
また、上記内側層の平均層厚を、1〜10μmとしたのは、その平均層厚が1μm未満では、硬質被覆層に所望の靭性を付与することができず、この結果切刃に欠けやチッピングが発生し易くなり、一方その層厚が10μmを越えると、切刃における摩耗進行が局部的になり、これが原因で切刃に欠けが発生し易くなるという理由からである。
【0011】
同じく、硬質被覆層の外側層を構成するAl2O3層およびAl2O3−ZrO2混合層は高強度を有し、かつ耐熱性にもすぐれた性質をもつので、硬質被覆層全体の耐摩耗性向上に不可欠であるが、その平均層厚が0.5μmでは所望のすぐれた耐摩耗性向上効果を確保することができず、一方その平均層厚が10μmを越えると、切刃に欠けやチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を0.5〜10μmと定めた。
【0012】
【発明の実施の形態】
つぎに、この発明の被覆超硬工具を実施例により具体的に説明する。
(実施例1)
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr3 C2 粉末、TiN粉末、TaN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPa の圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Paの真空中、温度:1400℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.05のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったWC基超硬合金製の超硬基体A1〜A10を形成した。
【0013】
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(重量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2 C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を2kPaの窒素雰囲気中、温度:1500℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.03のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったTiCN系サーメット製の超硬基体B1〜B6を形成した。
【0014】
ついで、これら超硬基体A1〜A10およびB1〜B6を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、それぞれ図1に例示される通常のアークイオンプレーティング装置に装入し、一方カソード電極(蒸発源)として種々の成分組成をもったTi−Al合金を装着し、装置内を排気して0.5Paの真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、Arガスを装置内に導入して10PaのAr雰囲気とし、この状態で超硬基体に−800vのバイアス電圧を印加して超硬基体表面をArガスボンバート洗浄し、ついで装置内に反応ガスとして窒素ガス、または窒素ガスとメタンガスを導入して6Paの反応雰囲気とすると共に、前記超硬基体に印加するバイアス電圧を−200vに下げて、前記カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を発生させ、もって前記超硬基体A1〜A10およびB1〜B6のそれぞれの表面に、表3、4に示される目標組成および目標層厚の(Ti,Al)N層および(Ti,Al)CN層のうちのいずれか、あるいは両方で構成され硬質被覆層を内側層として形成し、さらに前記内側層の表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表5に示される条件で同じく表3、4に示される目標層厚のα型またはκ型結晶構造のAl2O3層、またはAl2O3−ZrO2混合層で構成され硬質被覆層を外側層として形成し、さらに引き続いて通常の化学蒸着装置にて、前記硬質被覆層の表面に、
反応ガス組成を、体積%で、
TiCl4:4.2%、
N2:35%、
H2:残り、
とし、
反応雰囲気温度:1040℃、
反応雰囲気圧力:30kPa、
とした条件で最表面層としてのTiN層を同じく表3、4に示される目標層厚で形成することにより、図2(a)に概略斜視図で、同(b)に概略縦断面図で示される形状を有する従来被覆超硬工具としての従来表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ(以下、従来被覆超硬チップと云う)1〜24をそれぞれ製造した。
【0015】
また、表6に示される通り、上記の従来被覆超硬チップ1〜24において、最表面層としてのTiN層の形成を行わない状態で、硬質被覆層の外側層であるAl2O3層またはAl2O3−ZrO2混合層の表面に、通常の化学蒸着装置にて、表7に示される条件で同じく表7に示される目標組成および表6に示される目標層厚のTi酸化物層からなる最表面下地層を形成し、引き続いて上記の従来被覆超硬チップ1〜24における最表面層としてのTiN層の形成と同じ条件でTiN(O)層からなる最表面層を同じく表6に示される目標層厚で形成することにより同じく図2に示される形状をもった本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ(以下、本発明被覆超硬チップと云う)1〜24をそれぞれ製造した。
【0016】
また、上記の本発明被覆超硬チップ1〜24のうちの本発明被覆超硬チップ11および本発明被覆超硬チップ21については、Ti酸化物層からなる最表面下地層の形成直後に、前者では、雰囲気ガス組成をTiCl4:1体積%、Ar:残りとし、雰囲気温度を1020℃、雰囲気圧力を7kPa(50Torr)とした雰囲気中に1時間保持の条件で、また後者では、雰囲気ガス組成をTiCl4:0.2体積%、Ar:残りとし、雰囲気温度を1000℃、雰囲気圧力を20kPa(150Torr)とした雰囲気中に2時間保持の条件で、硬質被覆層の外側層とTi酸化物層からなる最表面下地層の界面部に相互拡散層を形成する層間密着性向上処理を施した。
この結果走査型電子顕微鏡およびオージェ分光分析装置による断面測定で、上記硬質被覆層の外側層と最表面下地層の界面部に、本発明被覆超硬チップ11では平均層厚(5点平均)で0.9μm、本発明被覆超硬チップ21では同じく平均層厚(5点平均)で1.1μmの相互拡散層の形成が観察された。
【0017】
さらに、この結果得られた本発明被覆超硬チップ1〜24において、硬質被覆層の表面に形成された最表面層および最表面下地層について、その厚さ方向中央部の酸素含有割合(Z値およびV値)をオージェ分光分析装置を用いて測定したところ、表8、9に示される値を示した。
また、上記の本発明被覆超硬チップ1〜24および従来被覆超硬チップ1〜24について、硬質被覆層を構成する内側層および外側層の組成については、オージェ分光分析装置を用い、また前記硬質被覆層、最表面下地層、および最表面層の層厚については、走査型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、それぞれ目標組成および目標層厚と実質的に同じ値(層厚については5点平均の平均層厚と比較)を示した。この目標組成および目標層厚と実測値の関係は以下の実施例2、3でも同じ結果を示した。
【0018】
つぎに、上記本発明被覆超硬チップ1〜24および従来被覆超硬チップ1〜24について、これを工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、
被削材:JIS・SCM440の丸棒、
切削速度:280m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.3mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件での合金鋼の乾式高速連続旋削加工試験、並びに、
被削材:JIS・SNCM439の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:180m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.3mm/rev.、
切削時間:5分、
の条件での合金鋼の乾式高速断続旋削加工試験を行い、いずれの旋削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表8、9に示した。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
【表3】
【0022】
【表4】
【0023】
【表5】
【0024】
【表6】
【0025】
【表7】
【0026】
【表8】
【0027】
【表9】
【0028】
(実施例2)
原料粉末として、平均粒径:5.5μmを有する中粗粒WC粉末、同0.8μmの微粒WC粉末、同1.3μmのTaC粉末、同1.2μmのNbC粉末、同1.2μmのZrC粉末、同2.3μmのCr3C2粉末、同1.5μmのVC粉末、同1.0μmの(Ti,W)C粉末、同1.8μmのCo粉末、および同1.2μmの炭素(C)粉末を用意し、これら原料粉末をそれぞれ表10に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体にプレス成形し、これらの圧粉体を、6Paの真空雰囲気中、7℃/分の昇温速度で1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に1時間保持後、炉冷の条件で焼結して、直径が8mm、13mm、および26mmの3種の超硬基体形成用丸棒焼結体を形成し、さらに前記の3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、表10に示される組合せで、切刃部の直径×長さがそれぞれ6mm×13mm、10mm×22mm、および20mm×45mmの寸法をもった超硬基体(エンドミル)a〜hをそれぞれ製造した。
【0029】
ついで、これらの超硬基体(エンドミル)a〜hの表面に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に例示される通常のアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、表11に示される目標組成および目標層厚をもった(Ti,Al)N層および(Ti,Al)CN層のうちのいずれか、あるいは両方で構成された硬質被覆層を内側層として形成し、さらに前記内側層の表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表5に示される条件で同じく表11に示される目標層厚のα型またはκ型結晶構造のAl2O3層およびAl2O3−ZrO2混合層のうちのいずれか、あるいは両方で構成された硬質被覆層を外側層として形成し、さらに引き続いて通常の化学蒸着装置にて、上記実施例1におけると同一の条件で、表11に示される目標層厚をもった最表面層としてのTiN層を蒸着形成することにより、図3(a)に概略正面図で、同(b)に概略横断面図で示される形状を有する従来被覆超硬工具としての従来表面被覆超硬合金製エンドミル(以下、従来被覆超硬エンドミルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
【0030】
また、表12に示される通り、上記の従来被覆超硬エンドミル1〜8において、最表面層としてのTiN層の形成を行わない状態で、硬質被覆層の外側層であるAl2O3層またはAl2O3−ZrO2混合層の表面に、通常の化学蒸着装置にて、表7に示される条件で同じく表7に示される目標組成および表12に示される目標層厚のTi酸化物層からなる最表面下地層を形成し、引き続いて上記実施例1の従来被覆超硬チップ1〜24における最表面層としてのTiN層の形成と同じ条件でTiN(O)層からなる最表面層を同じく表12に示される目標層厚で形成することにより同じく図3に示される形状をもった本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬合金製エンドミル(以下、本発明被覆超硬エンドミルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
【0031】
つぎに、この結果得られた本発明被覆超硬エンドミル1〜8において、硬質被覆層の表面に形成された最表面層および最表面下地層について、その厚さ方向中央部の酸素含有割合(Z値およびV値)をオージェ分光分析装置を用いて測定したところ、表12に示される値を示した。
つぎに、上記本発明被覆超硬エンドミル1〜8および従来被覆超硬エンドミル1〜8のうち、本発明被覆超硬エンドミル1〜3および従来被覆超硬エンドミル1〜3については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCM440の板材、
切削速度:80m/min.、
溝深さ(切り込み):3mm、
テーブル送り:500mm/分、
の条件での合金鋼の乾式高速溝切削加工試験、本発明被覆超硬エンドミル4〜6および従来被覆超硬エンドミル4〜6については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCM440の板材、
切削速度:90m/min.、
溝深さ(切り込み):6mm、
テーブル送り:500mm/分、
の条件での合金鋼の乾式高速溝切削加工試験、本発明被覆超硬エンドミル7,8および従来被覆超硬エンドミル7,8については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCM415の板材、
切削速度:90m/min.、
溝深さ(切り込み):15mm、
テーブル送り:500mm/分、
の条件での合金鋼の乾式高速溝切削加工試験、
をそれぞれ行い、いずれの溝切削加工試験でも切刃部先端面の直径が使用寿命の目安とされる0.2mm減少するまでの切削溝長を測定した。この測定結果を表15にそれぞれ示した。
【0032】
【表10】
【0033】
【表11】
【0034】
【表12】
【0035】
(実施例3)
上記の実施例2で製造した直径が8mm(超硬基体a〜c形成用)、13mm(超硬基体d〜f形成用)、および26mm(超硬基体g、h形成用)の3種の丸棒焼結体を用い、この3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、溝形成部の直径×長さがそれぞれ4mm×13mm(超硬基体a‘〜c’)、8mm×22mm(超硬基体d‘〜f’)、および16mm×45mm(超硬基体g‘、h’)の寸法をもった超硬基体(ドリル)a‘〜h’をそれぞれ製造した。
【0036】
ついで、これらの超硬基体(ドリル)a‘〜h’の表面に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に例示される通常のアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同じ条件で、表13に示される目標組成および目標層厚をもった(Ti,Al)N層および(Ti,Al)CN層のうちのいずれか、あるいは両方で構成された硬質被覆層を内側層として形成し、さらに前記内側層の表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表5に示される条件で同じく表13に示される目標層厚のα型またはκ型結晶構造のAl2O3層およびAl2O3−ZrO2混合層のうちのいずれか、あるいは両方で構成された硬質被覆層を外側層として形成形成し、さらに引き続いて通常の化学蒸着装置にて、上記実施例1におけると同一の条件で、表13に示される目標層厚をもった最表面層としてのTiN層を蒸着形成することにより、図4(a)に概略正面図で、同(b)に溝形成部の概略横断面図で示される形状を有する従来被覆超硬工具としての従来表面被覆超硬合金製ドリル(以下、従来被覆超硬ドリルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
【0037】
また、表14に示される通り、上記の従来被覆超硬ドリル1〜8において、最表面層としてのTiN層の形成を行わない状態で、硬質被覆層の外側層であるAl2O3層またはAl2O3−ZrO2混合層の表面に、通常の化学蒸着装置にて、表7に示される条件で同じく表7に示される目標組成および表14に示される目標層厚のTi酸化物層からなる最表面下地層を形成し、引き続いて上記実施例1の従来被覆超硬チップ1〜24における最表面層としてのTiN層の形成と同じ条件でTiN(O)層からなる最表面層を同じく表14に示される目標層厚で形成することにより同じく図4に示される形状をもった本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬合金製ドリル(以下、本発明被覆超硬ドリルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
【0038】
この結果得られた本発明被覆超硬ドリル1〜8において、硬質被覆層の表面に形成された最表面層および最表面下地層について、その厚さ方向中央部の酸素含有割合(Z値およびV値)をオージェ分光分析装置を用いて測定したところ、表14に示される値を示した。
つぎに、上記本発明被覆超硬ドリル1〜8および従来被覆超硬ドリル1〜8のうち、本発明被覆超硬ドリル1〜3および従来被覆超硬ドリル1〜3については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCM440の板材、
切削速度:50m/min.、
送り:0.2mm/分、
の条件での合金鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験、本発明被覆超硬ドリル4〜6および従来被覆超硬ドリル4〜6については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCM440の板材、
切削速度:60m/min.、
送り:0.2mm/分、
の条件での合金鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験、本発明被覆超硬ドリル7,8および従来被覆超硬ドリル7,8については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCM415の板材、
切削速度:75m/min.、
送り:0.35mm/分、
の条件での合金鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験、
をそれぞれ行い、いずれの湿式(水溶性切削油使用)高速穴あけ切削加工試験でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表15にそれぞれ示した。
【0039】
【表13】
【0040】
【表14】
【0041】
【表15】
【0042】
【発明の効果】
表3〜15に示される結果から、硬質被覆層の最表面層がTiN層の形成時に最表面下地層から拡散してきた酸素と反応して形成されたTi窒酸化物層で構成された本発明被覆超硬工具は、いずれも高い発熱を伴う鋼の高速切削加工でも、前記Ti窒酸化物層が高温加熱の切粉との親和性がきわめて低く、切粉が前記Ti窒酸化物層に付着することがないことから、切刃にチッピングの発生なく、すぐれた耐摩耗性を発揮するのに対して、硬質被覆層の最表面層がTiN層で構成された従来被覆超硬工具においては、いずれも切粉が前記TiN層に付着し易く、前記TiN層が他の構成層とともに前記切粉によって剥がし取られることから、切刃にチッピングの発生し易く、これが原因で比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆超硬工具は、使用前後の識別工具の特に各種鋼や鋳鉄などの高速切削加工での実用を可能とするものであり、かつ実用に際しては切刃にチッピングの発生なく、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】アークイオンプレーティング装置の概略説明図である。
【図2】(a)は被覆超硬チップの概略斜視図、(b)は被覆超硬チップの概略縦断面図である。
【図3】(a)は被覆超硬エンドミル概略正面図、(b)は同切刃部の概略横断面図である。
【図4】(a)は被覆超硬ドリルの概略正面図、(b)は同溝形成部の概略横断面図である。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金基体または炭窒化チタン系サーメット基体の表面に、物理蒸着形成した内側層と化学蒸着形成した外側層からなり、かつ前記内側層を1〜10μmの平均層厚を有し、かつ組成式:(Ti1−XAlX)Nおよび同(Ti1−XAlX)C1−YNY(ただし、原子比で、Xは0.1〜0.7、Yは0.5〜0.99を示す)を有するTiとAlの複合窒化物層およびTiとAlの複合炭窒化物層のうちのいずれか、または両方で構成し、前記外側層を0.5〜10μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層、および酸化アルミニウムの素地に酸化ジルコニウム相が分散分布してなる酸化アルミニウム−酸化ジルコニウム混合層のうちのいずれか、または両方で構成した硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆超硬合金製切削工具において、
上記硬質被覆層の表面に、最表面下地層として、0.1〜3μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:TiOV 、
で表わした場合、厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、
V:Tiに対する原子比で1.2〜1.7、
を満足するTi酸化物層、
最表面層として、0.05〜2μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:TiN1−Z(O)Z、
で表わした場合(ただし、(O)は上記最表面下地層からの拡散酸素を示す)、同じく厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、
Z:Tiに対する原子比で0.01〜0.4、
を満足するTi窒酸化物層、
を化学蒸着してなる、耐チッピング性のすぐれた表面被覆超硬合金製切削工具。
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