JP3578121B2 - 耐摩耗被覆層がすぐれた耐熱塑性変形性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具 - Google Patents

耐摩耗被覆層がすぐれた耐熱塑性変形性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、特に高熱発生を伴なう鋼などの高速切削で、耐摩耗被覆層がすぐれた耐熱塑性変形性を発揮して、偏摩耗による摩耗進行を抑制し、もって一段の使用寿命の延命化を可能ならしめた表面被覆超硬合金製工具(以下、被覆超硬工具という)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、切削工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるスローアウエイチップ、前記被削材の穴あけ切削加工などに用いられるドリルやミニチュアドリル、さらに前記被削材の面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルなどがあり、また前記スローアウエイチップを着脱自在に取り付けて前記ソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うスローアウエイエンドミル工具などが知られている。
【0003】
また、一般に、上記の切削工具として、例えば図1に概略説明図で示される物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置を用い、ヒータで装置内を例えば700℃の温度に加熱した状態で、アノード電極と、下地強靭層形成には金属Ti、下側硬質層形成には所定組成を有するTi−Al合金、さらに上側硬質層形成には金属Alがセットされたカソード電極(蒸発源)との間にアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとしてメタンガスおよび/または窒素ガス、あるいは酸素を導入し、一方炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットからなり、かつ前記アノード電極およびカソード電極と所定間隔をもって対向配置された工具基体(以下、これらを総称して超硬基体と云う)には、例えば−120Vのバイアス電圧を印加した条件で、前記超硬基体の表面に、
(a)Tiの炭化物層、窒化物層、および炭窒化物層(以下、それぞれTiC層、TiN層、およびTiCN層で示す)のうちの1種の単層または2種以上の複層からなり、かつ0.1〜10μmの平均層厚を有する下地強靭層、
(b)組成式:(Ti1−XAl)Nおよび同(Ti1−XAl)C1−Y(ただし、原子比で、厚さ方向中央部のオージェ分光分析装置による測定で、Xは0.1〜0.7、Yは0.5〜0.99を示す)を有するTiとAlの複合窒化物層[以下、(Ti,Al)Nで示す]およびTiとAlの複合炭窒化物層[以下、(Ti,Al)CNで示す]のうちのいずれかの単層、または両方の複層からなり、かつ0.1〜15μmの平均層厚を有する下側硬質層、
(c)酸化アルミニウム(以下、Alで示す)層からなり、かつ0.5〜15μmの平均層厚を有する上側硬質層、
以上(a)〜(c)で構成された耐摩耗被覆層を物理蒸着することにより製造された被覆超硬工具が知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
一方、近年の切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は切削機械の高性能化とも相俟って高速化の傾向にあるが、上記の従来被覆超硬工具においては、これを鋼や鋳鉄などの通常の条件での切削加工に用いた場合には問題はないが、これを高速切削条件で用いると、切削加工時に発生する高熱によって、特に耐摩耗被覆層の温度が上昇し、この結果耐摩耗被覆層が熱塑性変形を起し、偏摩耗形態を採るようになって、摩耗進行が一段と促進されることから、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
【0005】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、上記の従来被覆超硬工具を構成する耐摩耗被覆層の耐熱塑性変形性向上を図るべく研究を行なった結果、
上記の従来被覆超硬工具を構成する(Ti,Al)N層および(Ti,Al)CN層からなる下側硬質層とAl層の上側硬質層との間に、
組成式:(Ti1−aAl)C1−cおよび同(Ti1−aAl)C1−(b+c)(ただし、原子比で、厚さ方向中央部のオージェ分光分析装置による測定で、aは0.5〜0.7、bは0.1〜0.55、cは0.1〜0.8を示す)を有するTiとAlの複合炭酸化物[以下、(Ti,Al)COで示す]層および複合炭窒酸化物層[以下、(Ti,Al)CNOで示す]のうちのいずれかの単層、または両方の複層、
を蒸着介在させると、上記(Ti,Al)CO層および(Ti,Al)CNO層は著しくすぐれた耐熱性を発揮し、さらに表面層として、
窒化アルミニウム(以下、AlNで示す)層、
を形成すると、上記AlN層はこれ自体の具備するすぐれた熱伝導性および熱的安定性によって、すぐれた放熱性を発揮することから、この結果の耐摩耗被覆層においては、上記(Ti,Al)CO層および(Ti,Al)CNO層によるすぐれた耐熱性、さらに前記AlN層によるすぐれた放熱性によって、耐熱塑性変形性が一段と向上し、高速切削時に発生する高熱に曝されても耐摩耗被覆層自体の熱塑性変形が著しく抑制され、かつ同じく構成層である前記下側硬質層および上側硬質層によってもたらされるすぐれた高温硬さと相俟って、この耐摩耗被覆層を形成してなる被覆超硬工具は、これを特に鋼や鋳鉄などの高熱発生を伴なう高速切削加工に用いても、熱塑性変形が原因の偏摩耗の発生がなくなり、一段とすぐれた耐摩耗性を発揮するようになる、という研究結果を得たのである。
【0006】
この発明は、上記の研究結果にもとづいてなされたものであって、超硬基体の表面に、
(a)TiC層、TiN層、およびTiCN層のうちの1種の単層または2種の複層からなり、かつ0.1〜10μmの平均層厚を有する下地強靭層、
(b)組成式:(Ti1−XAl)Nおよび同(Ti1−XAl)C1−Y(ただし、原子比で、厚さ方向中央部のオージェ分光分析装置による測定で、Xは0.1〜0.7、Yは0.5〜0.99を示す)を有する(Ti,Al)N層および(Ti,Al)CN層のうちのいずれかの単層、または両方の複層からなり、かつ0.1〜15μmの平均層厚を有する下側硬質層、
(c)組成式:(Ti1−aAl)C1−cおよび同(Ti1−aAl)C1−(b+c)(ただし、原子比で、厚さ方向中央部のオージェ分光分析装置による測定で、aは0.5〜0.7、bは0.1〜0.55、cは0.1〜0.8を示す)を有する(Ti,Al)CO層および(Ti,Al)CNO層のうちのいずれかの単層、または両方の複層からなり、かつ0.1〜10μmの平均層厚を有するる中間耐熱層、
(d)Al層からなり、かつ0.5〜15μmの平均層厚を有する上側硬質層、
(e)AlN層からなり、かつ0.5〜15μmの平均層厚を有する表面放熱層、
以上(a)〜(e)で構成された耐摩耗被覆層を物理蒸着してなる、耐摩耗被覆層がすぐれた耐熱塑性変形性を発揮する被覆超硬工具に特徴を有するものである。
【0007】
つぎに、この発明の被覆超硬工具において、これの耐摩耗被覆層を構成する下地強靭層、下側硬質層、中間耐熱層、上側硬質層、および表面放熱層について説明する。
(a)下地強靭層
下地強靭層には、耐摩耗被覆層にすぐれた靭性と強度を付与するほか、上記超硬基体および上記下側硬質層とも強固に密着する作用があるが、その平均層厚が0.1μm未満では、前記作用に所望の効果が得られず、一方その平均層厚が10μmを越えると、切削時に発生する高熱によって熱塑性変形を起し、切刃に偏摩耗が発生し、これが原因で摩耗進行が急激に促進されるようになることから、その平均層厚を0.1〜10μmと定めた。
【0008】
(b)下側硬質層
下側硬質層を構成する(Ti,Al)N層および(Ti,Al)CN層には、耐摩耗被覆層に硬さと靭性を付与せしめ、もってチッピング(微小欠け)の発生なく、すぐれた耐摩耗性を上側硬質層との共存において発揮する作用がある。すなわち前記下側硬質層におけるAlは高靭性を有するTiNに対して硬さを高め、もって耐摩耗性を向上させるために固溶するものであり、したがって組成式:(Ti1−XAl)Nおよび同(Ti1−XAl)C1−YのX値が0.1未満では所望の硬さ向上効果が得られず、一方その値が0.7を越えると、耐摩耗被覆層にチッピングが発生し易くなると云う理由によりX値を0.1〜0.7(原子比)と定めたものであり、また、(Ti,Al)CN層におけるC成分には、さらに硬さを向上させる作用があるので、(Ti,Al)CN層は上記(Ti,Al)N層に比して相対的に高い硬さをもつが、この場合C成分の割合が0.01未満、すなわちY値が0.99を越えると所定の硬さ向上効果が得られず、一方C成分の割合が0.5を越える、すなわちY値が0.5未満になると靭性が急激に低下するようになることから、Y値を0.5〜0.99と定めたのである。
また、この場合その平均層厚が0.5μm未満では所望のすぐれた耐摩耗性を確保することができず、一方その層厚が15μmを越えると、耐摩耗被覆層にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を0.5〜15μmと定めた。
【0009】
(c)中間耐熱層
中間耐熱層を構成する(Ti,Al)CO層および(Ti,Al)CNO層は、上記の通り下側硬質層と上側硬質層の間にあってすぐれた耐熱性を発揮し、表面放熱層を構成するAlN層との共存において耐摩耗被覆層にすぐれた耐熱塑性変形性を具備せしめる作用があり、この耐熱性は、これらの層の構成成分であるO成分によってもたらされるものであり、したがってO成分の割合を示すc値が、0.1未満では所望のすぐれた耐熱塑性変形性を具備せしめることができず、一方c値が0.8を超えると、層自体が脆化し、チッピングが発生し易くなることから、c値を0.1〜0.8と定めた。
また、AlのTiとの相対割合を示すa値が原子比(以下同じ)で0.5未満になると、Tiに対するAlの割合が少なくなり過ぎて下上側硬質層との密着性が急激に低下するようになり、一方a値が0.7を超えると反対にTiに対するAlの割合が多くなり過ぎて、下側硬質層との密着性が低下するようになることから、a値を0.5〜0.7と定めた。
さらに、(Ti,Al)CNO層におけるN成分には、さらに靭性を向上させる作用があるので、(Ti,Al)CNO層は上記(Ti,Al)CO層に比して相対的に高い靭性をもつが、この場合N成分の割合を示すb値が0.1未満では所望の靭性向上効果が得られず、一方N成分の割合を示すb値が0.55を越えると、層が所定の硬さを保持する目的で含有するC成分の割合が低くなり過ぎて、切削時に発生する高熱によって熱塑性変形を起し、切刃に偏摩耗が発生し易くなることから、b値を0.1〜0.55と定めた。
また、この場合その平均層厚が0.1μm未満では所望のすぐれた密着性を確保することができず、一方その層厚が10μmを越えると、耐摩耗被覆層にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を0.1〜10μmと定めた。
【0010】
(d)上側硬質層
上側硬質層を構成するAl層は、すぐれた高温硬さを有し、上記の下側硬質層と共存した状態で耐摩耗被覆層の耐摩耗性を一段と向上させる作用があるが、その平均層厚が0.5μmでは所望のすぐれた耐摩耗性を確保することができず、一方その平均層厚が15μmを越えると、耐摩耗被覆層にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を0.5〜15μmと定めた。
【0011】
(e)表面放熱層
表面放熱層には、上記の通り自体の具備するすぐれた熱伝導性と熱的安定性によってすぐれた放熱性を発揮し、上記の中間耐熱層との共存において、耐摩耗被覆層にすぐれた耐熱塑性変形性を具備せしめる作用があるが、その平均層厚が0.5μm未満では前記作用に所望の効果が得られず、一方その平均層厚が15μmを越えると耐摩耗被覆層にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を0.5〜15μmと定めた。
【0012】
さらに、上記耐摩耗被覆層の上に、必要に応じてTiN層を0.1〜2μmの平均層厚で形成してもよく、これはTiN層が黄金色の色調を有し、この色調によって切削工具の使用前と使用後の識別が容易になるという理由からで、この場合その層厚が0.1μm未満では前記色調の付与が不十分であり、一方前記色調の付与は2μmまでの平均層厚で十分である。
【0013】
【発明の実施の形態】
ついで、この発明の被覆超硬工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr粉末、TiN粉末、TaN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、1.5×10Paの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を真空中、温度:1400℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.05のホーニング加工を施してISO規格・SPGA120408のチップ形状をもったWC基超硬合金製の超硬基体A−1〜A−8を形成した。
【0014】
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、MoC粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、9.8×10Paの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3×10Paの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.03のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120406のチップ形状をもったTiCN基サーメット製の超硬基体B−1〜B−6を形成した。
【0015】
ついで、これら超硬基体A−1〜A−8およびB−1〜B−6を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、それぞれ図1に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、一方カソード電極(蒸発源)として、金属Ti(下地靭性層形成用)、種々の成分組成をもったTi−Al合金(下側硬質層および中間耐熱層形成用)、さらに金属Al(上側硬質層および表面放熱層形成用)をそれぞれ装着し、
装置内を排気して1.3×10−3Paの真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、Arガスを装置内に導入して2.5PaのAr雰囲気とし、この状態で超硬基体に−800Vのバイアス電圧を印加して超硬基体表面をArガスボンバート洗浄し、
ついで装置内を1.3×10−3Paの真空に保持しながら、ヒーターで装置内を600〜700℃の範囲内の所定の温度に加熱した状態で、装置内に反応ガスとしてメタンガスおよび/または窒素ガスを導入して2.8Paの反応雰囲気とすると共に、前記超硬基体に印加するバイアス電圧を−150Vに下げて、前記カソード電極(金属Ti)とアノード電極との間にアーク放電を発生させ、もって前記超硬基体のそれぞれの表面に、表3,5に示される組成および目標層厚の下地強靭層を形成し、
カソード電極(蒸発源)としてTi−Al合金を用い、アノード電極との間にアーク放電を発生させ、装置内に反応ガスとして窒素ガス、またはメタンガスと窒素ガスを導入してする以外は前記下地強靭層形成条件と同一の条件で、前記下地強靭層の表面に、同じく表3,5に示される目標組成および目標層厚の(Ti,Al)N層および(Ti,Al)CN層からなる下側硬質層を形成し、
さらに同じくカソード電極(蒸発源)としてTi−Al合金を用い、アノード電極との間にアーク放電を発生させ、装置内に反応ガスとしてメタンガスと酸素、またはメタンガスと窒素と酸素を導入して1.8Paの反応雰囲気とすると共に、前記超硬基体に印加するバイアス電圧を−200Vとする以外は前記下地強靭層形成条件と同一の条件で、前記下側硬質層の表面に、同じく表5,6に示される目標組成および目標層厚の(Ti,Al)CO層および(Ti,Al)CNO層からなる中間耐熱層を形成し、
引き続いてカソード電極(蒸発源)として金属Alを用い、アノード電極との間にアーク放電を発生させ、装置内に反応ガスとして酸素を導入して1.3Paの反応雰囲気とすると共に、前記超硬基体に印加するパルスバイアス電圧を−300Vとする以外は前記下地強靭層形成条件と同一の条件で、上記中間耐熱層の表面に、同じく表5,6に示される目標層厚のAl層からなる上側硬質層を形成し、
最終的に、同じくカソード電極(蒸発源)として金属Alを用い、アノード電極との間にアーク放電を発生させ、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して3Paの反応雰囲気とすると共に、前記超硬基体に印加するパルスバイアス電圧を−280Vとする以外は上記下地強靭層形成条件と同一の条件で、上記上側硬質層の表面に、同じく表5,6に示される目標層厚のAlN層からなる表面放熱層を蒸着形成することにより、耐摩耗被覆層が以上の下地強靭層、下側硬質層、中間耐熱層、上側硬質層、および表面放熱層からなり、かつ図2(a)に概略斜視図で、同(b)に概略縦断面図で示される形状を有する本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ(以下、本発明被覆超硬チップと云う)1〜22をそれぞれ製造した。
【0016】
また、比較の目的で、表7〜10に示される通り、上記中間耐熱層および表面放熱層の形成を行なわない以外は、それぞれ上記の本発明被覆超硬チップ1〜22の形成条件と同じ条件で同じく図2に示される形状をもった比較被覆超硬工具としての比較表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ(以下、比較被覆超硬チップと云う)1〜22をそれぞれ製造した。
【0017】
ついで、この結果得られた各種の被覆超硬チップのうち、本発明被覆超硬チップ1〜16および比較被覆超硬チップ1〜16について、
被削材:JIS・SCM440の丸棒、
切削速度:350m/min .、
切り込み:1.5mm、
送り:0.2mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件(切削条件aという)での合金鋼の乾式連続高速切削試験、および、
被削材:JIS・FC300の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:200m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.3mm/rev.、
切削時間:5分、
の条件(切削条件bという)での鋳鉄の乾式断続高速切削試験を行なった。
【0018】
また、本発明被覆超硬チップ17〜22および比較被覆超硬チップ17〜22については、
被削材:JIS・S45Cの丸棒、
切削速度:330m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.2mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件(切削条件cという)での炭素鋼の乾式連続高速切削試験、および、
被削材:JIS・SUS304の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:180m/min.、
切り込み:1.3mm、
送り:0.25mm/rev.、
切削時間:5分、
の条件(切削条件dという)でのステンレス鋼の乾式断続高速切削試験を行ない、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表11に示した。
【0019】
【表1】
Figure 0003578121
【0020】
【表2】
Figure 0003578121
【0021】
【表3】
Figure 0003578121
【0022】
【表4】
Figure 0003578121
【0023】
【表5】
Figure 0003578121
【0024】
【表6】
Figure 0003578121
【0025】
【表7】
Figure 0003578121
【0026】
【表8】
Figure 0003578121
【0027】
【表9】
Figure 0003578121
【0028】
【表10】
Figure 0003578121
【0029】
【表11】
Figure 0003578121
【0030】
(実施例2)
原料粉末として、平均粒径:5.5μmを有する中粗粒WC粉末、同0.8μmの微粒WC粉末、同1.3μmのTaC粉末、同1.2μmのNbC粉末、同1.2μmのZrC粉末、同2.3μmのCr粉末、同1.5μmのVC粉末、同1.0μmの(Ti,W)C粉末、および同1.8μmのCo粉末を用意し、これら原料粉末をそれぞれ表12に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体にプレス成形し、これらの圧粉体を、6Paの真空雰囲気中、7℃/分の昇温速度で1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に1時間保持後、炉冷の条件で焼結して、直径が8mm、13mm、および26mmの3種の超硬基体形成用丸棒焼結体を形成し、さらに前記の3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、表12に示される組合せで、切刃部の直径×長さがそれぞれ6mm×13mm、10mm×22mm、および20mm×45mmの寸法をもった超硬基体(エンドミル)C−1〜C−8をそれぞれ製造した。
【0031】
ついで、これらの超硬基体(エンドミル)C−1〜C−8の表面に、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に例示される通常のアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同じ条件で、表13,14に示される目標組成および目標層厚をもった下地強靭層、下側硬質層、中間耐熱層、上側硬質層、および表面放熱層で構成された耐摩耗被覆層を形成することにより、図3(a)に概略正面図で、同(b)に切刃部の概略横断面図で示される形状を有する本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬合金製エンドミル(以下、本発明被覆超硬エンドミルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
【0032】
また、比較の目的で、表15,16に示される通り、中間耐熱層および表面放熱層の形成を行なわない以外は、それぞれ上記の本発明被覆超硬エンドミル1〜8の製造条件と同じ条件で同じく図3に示される形状をもった比較被覆超硬工具としての比較表面被覆超硬合金製エンドミル(以下、比較被覆超硬エンドミルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
【0033】
つぎに、上記本発明被覆超硬エンドミル1〜8および比較被覆超硬エンドミル1〜8のうち、本発明被覆超硬エンドミル1〜3および比較被覆超硬エンドミル1〜3については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S45Cの板材、
切削速度:160m/min.、
溝深さ(切り込み):2.5mm、
テーブル送り:550mm/分、
の条件での炭素鋼の乾式高速溝切削加工試験、本発明被覆超硬エンドミル4〜6および比較被覆超硬エンドミル4〜6については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SKD61(硬さ:HRC52)の板材、
切削速度:70m/min.、
溝深さ(切り込み):5mm、
テーブル送り:130mm/分、
の条件での焼入れ鋼の乾式高速溝切削加工試験、本発明被覆超硬エンドミル7,8および比較被覆超硬エンドミル7,8については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・FC250の板材、
切削速度:180m/min.、
溝深さ(切り込み):8mm、
テーブル送り:240mm/分、
の条件での鋳鉄の乾式高速溝切削加工試験をそれぞれ行い、いずれの溝切削加工試験でも外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果を表14,16にそれぞれ示した。
【0034】
【表12】
Figure 0003578121
【0035】
【表13】
Figure 0003578121
【0036】
【表14】
Figure 0003578121
【0037】
【表15】
Figure 0003578121
【0038】
【表16】
Figure 0003578121
【0039】
(実施例3)
上記の実施例2で製造した直径が8mm(超硬基体C−1〜C−3形成用)、13mm(超硬基体C−4〜C−6形成用)、および26mm(超硬基体C−7,C−8形成用)の3種の丸棒焼結体を用い、この3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、溝形成部の直径×長さがそれぞれ4mm×13mm(超硬基体D−1〜D−3)、8mm×22mm(超硬基体D−4〜D−6)、および16mm×45mm(超硬基体D−7,D−8)の寸法をもった超硬基体(ドリル)D−1〜D−8をそれぞれ製造した。
【0040】
ついで、これらの超硬基体(ドリル)D−1〜D−8の表面に、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に例示される通常のアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同じ条件で、表17,18に示される目標組成および目標層厚をもった下地強靭層、下側硬質層、中間耐熱層、上側硬質層、および表面放熱層で構成された耐摩耗被覆層を形成することにより、図4(a)に概略正面図で、同(b)に溝形成部の概略横断面図で示される形状を有する本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬合金製ドリル(以下、本発明被覆超硬ドリルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
【0041】
また、比較の目的で、表19,20に示される通り、中間耐熱層および表面放熱層の形成を行なわない以外は、それぞれ上記の本発明被覆超硬ドリル1〜8の製造条件と同じ条件で同じく図4に示される形状をもった比較被覆超硬工具としての比較表面被覆超硬合金製ドリル(以下、比較被覆超硬ドリルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
【0042】
つぎに、上記本発明被覆超硬ドリル1〜8および比較被覆超硬ドリル1〜8のうち、本発明被覆超硬ドリル1〜3および比較被覆超硬ドリル1〜3については、
被削材:平面寸法:100mm×250厚さ:50mmのJIS・SCM440の板材、
切削速度:90m/min.、
送り:0.12mm/rev、
の条件での合金鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験、本発明被覆超硬ドリル4〜6および比較被覆超硬ドリル4〜6については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S45Cの板材、
切削速度:140m/min.、
送り:0.25mm/rev、
の条件での炭素鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験、本発明被覆超硬ドリル7,8および比較被覆超硬ドリル7,8については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SKD61(硬さ:HRC50)の板材、
切削速度:50m/min.、
送り:0.20mm/rev、
の条件での焼入れ鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験、
をそれぞれ行い、いずれの湿式(水溶性切削油使用)高速穴あけ切削加工試験でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表18,20にそれぞれ示した。
【0043】
【表17】
Figure 0003578121
【0044】
【表18】
Figure 0003578121
【0045】
【表19】
Figure 0003578121
【0046】
【表20】
Figure 0003578121
【0047】
なお、この結果得られた本発明被覆超硬工具としての本発明被覆超硬チップ1〜22、本発明被覆超硬エンドミル1〜8、および本発明被覆超硬ドリル1〜8、さらに比較被覆超硬工具としての比較被覆超硬チップ1〜22、比較被覆超硬エンドミル1〜8、および比較被覆超硬ドリル1〜8の耐摩耗被覆層について、その構成層のそれぞれの厚さ方向中央部の組成をオージェ分光分析装置を用いて測定すると共に、前記耐摩耗被覆層の構成層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標組成および目標層厚と実質的に同じ値を示した。
【0048】
【発明の効果】
表3〜20に示される結果から、中間耐熱層として(Ti,Al)CO層および(Ti,Al)CNO層、さらに表面放熱層としてAlN層を形成した本発明被覆超硬工具は、いずれも各種鋼の切削加工を高い発熱を伴う高速で行っても、前記中間耐熱層および表面放熱層によって耐摩耗被覆層はすぐれた耐熱塑性変形性を具備するようになり、耐摩耗被覆層自体が耐熱塑性変形することがなくなることから、同じく構成層である下地強靭層、下側硬質層、および上側硬質層の作用と相俟って、切刃に偏摩耗の発生なく、すぐれた耐摩耗性を発揮するのに対して、耐摩耗被覆層の構成層として前記中間耐熱層および表面放熱層の形成がない比較被覆超硬工具においては、いずれも高速切削時に発生する高熱によって耐摩耗被覆層自体の温度が上昇し、偏摩耗の原因となる熱塑性変形が起り、前記偏摩耗は切刃の摩耗進行を著しく促進することから、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆超硬工具は、各種の鋼などの通常の条件での切削加工は勿論のこと、特に高速切削加工においてもすぐれた耐摩耗性を発揮するものであるから、切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】アークイオンプレーティング装置の概略説明図である。
【図2】(a)は被覆超硬チップの概略斜視図、(b)は被覆超硬チップの概略縦断面図である。
【図3】(a)は被覆超硬エンドミル概略正面図、(b)は同切刃部の概略横断面図である。
【図4】(a)は被覆超硬ドリルの概略正面図、(b)は同溝形成部の概略横断面図である。

Claims (1)

  1. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
    (a)Tiの炭化物層、窒化物層、および炭窒化物層のうちの1種の単層または2種の複層からなり、かつ0.1〜10μmの平均層厚を有する下地強靭層、
    (b)組成式:(Ti1−XAl)Nおよび同(Ti1−XAl)C1−Y(ただし、原子比で、厚さ方向中央部のオージェ分光分析装置による測定で、Xは0.1〜0.7、Yは0.5〜0.99を示す)を有するTiとAlの複合窒化物層およびTiとAlの複合炭窒化物層のうちのいずれかの単層、または両方の複層からなり、かつ0.1〜15μmの平均層厚を有する下側硬質層、
    (c)組成式:(Ti1−aAl)C1−cおよび同(Ti1−aAl)C1−(b+c)(ただし、原子比で、厚さ方向中央部のオージェ分光分析装置による測定で、aは0.5〜0.7、bは0.1〜0.55、cは0.1〜0.8を示す)を有するTiとAlの複合炭酸化物層および複合炭窒酸化物層のうちのいずれかの単層、または両方の複層からなり、かつ0.1〜10μmの平均層厚を有する中間耐熱層、
    (d)酸化アルミニウム層からなり、かつ0.5〜15μmの平均層厚を有する上側硬質層、
    (e)窒化アルミニウム層からなり、かつ0.5〜15μmの平均層厚を有する表面放熱層、
    以上(a)〜(e)で構成された耐摩耗被覆層を物理蒸着してなる、耐摩耗被覆層がすぐれた耐熱塑性変形性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具。
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