JP4018960B2 - 感湿捲縮複合繊維 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、湿度変化により可逆的に捲縮率が変化する感湿捲縮複合繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】
綿や羊毛などの天然繊維の織編物を用いた衣料は、周囲の湿度に応じて織編物の目が開いて通気性が向上し、体と衣料の間や、衣料間にできた空気層の湿度を下げるといった特性、いわゆる通気性自己調節機能を有している。
【0003】
このような天然繊維にならって、合成繊維にも吸湿による捲縮性自己調節機能を付与する試みがなされている。例えば特許文献1では変性ポリエチレンテレフタレートとナイロンをサイドバイサイド型に張り合わせた吸湿によって捲縮率が可逆的に変化する複合繊維が提案されている。しかしながら、かかる複合繊維は、ふとんや枕などの詰綿、防寒衣料の中入れ綿には適しているものの、織編物として衣料などに用いた場合、繰り返しの洗濯により複合繊維を構成するポリマー成分の接合面で剥離が発生しやすく、さらなる改善が要求されている。
【0004】
【特許文献1】
特公昭63−44843号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる従来の技術を背景になされたものであり、湿度変化によって可逆的に捲縮率が変化する通気性自己調節機能を有し、かつ洗濯耐久性に優れた感湿捲縮複合繊維を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記目的を達成するために次の構成を採用するものである。すなわち、本発明によれば、スルホネート基を有する変性ポリトリメチレンテレフタレートと、ナイロンとが、サイドバイサイド型に接合された複合繊維であって、ナイロン成分が捲縮の内側に位置し、変性ポリトリメチレンテレフタレート成分が捲縮の外側に位置する捲縮構造を有しており、該複合繊維の、下記式(1)で表される捲縮率差ΔVCが12%以上で、且つ下記式(2)で表される捲縮応答性VCRが80%以上であることを特徴とする感湿捲縮複合繊維が提案される。
ΔVC=VCd−VCw (1)
ここで、VCdは複合繊維を温度60℃で30分間乾燥した後の捲縮率、VCwは複合繊維を温度30℃、相対湿度90%の雰囲気下に2時間放置した後の捲縮率をそれぞれ示す。
VCR=VC 5 /VC 120 ×100(%) (2)
ここで、VC 5 は複合繊維を温度30℃、相対湿度90%の雰囲気下に5分間放置した後の捲縮率、VC 120 は複合繊維を温度30℃、相対湿度90%の雰囲気下で2時間放置した後の捲縮率をそれぞれ示す。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明においては、感湿捲縮複合繊維が、スルホネート基を有する変性ポリトリメチレンテレフタレートと、ナイロンとが、サイドバイサイド型に接合されている複合繊維であって、ナイロン成分が捲縮の内側に位置し、変性ポリトリメチレンテレフタレート成分が捲縮の外側に位置する捲縮構造をとることが必要である。かかる組合せの複合繊維としたとき、湿度変化によって可逆的に捲縮率が変化する通気性自己調節機能を有する複合繊維とすることができるだけでなく、両者の接着性が極めて高く洗濯耐久性も格段に優れたものとすることができる。
【0008】
本発明の複合繊維に用いるスルホネート基を有する変性ポリトリメチレンテレフタレートとしては、例えば、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−ホスホニウムスルホイソフタル酸、p−ヒドロキシエトキシベンゼンスルホン酸ナトリウムなどの成分が共重合されたポリトリメチレンテレフタレートが好適に選択される。中でも5−ナトリウムスルホイソフタル酸が共重合されたポリトリメチレンテレフタレートであることが好ましい。上記共重合成分の変性ポリトリメチレンテレフタレートに対する共重合量としては全酸成分を基準として0.5〜15モル%の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜7モル%の範囲である。共重合量が0.5モル%以上であれば、変性ポリトリメチレンテレフタレートとナイロンとの接着性がより良好となり、両者の剥離が発生しにくくなる。また、共重合量を15モル%以下とすることで変性ポリトリメチレンテレフタレートの溶融粘度が大きくなり過ぎず、安定した紡糸をすることができる。変性ポリトリメチレンテレフタレートの固有粘度[η](35℃のO−クロロフェノール溶液で測定)が0.4〜1.7の範囲であることが好ましい。
【0009】
本発明の複合繊維を構成するもう一方の成分であるナイロンとしては、ナイロン6もしくはナイロン66が好適であり、固有粘度[η](30℃のm−クレゾール溶液で測定)が1.0〜1.4のものが好ましく選択できる。本発明で用いるナイロンには、熱安定性を向上させる目的で、公知の安定剤、抗酸化剤などが少量添加配合されていても良い。
【0010】
さらに、本発明の複合繊維を構成する両成分には、必要に応じて艶消剤、着色剤等を添加されていても良い。
【0011】
本発明の複合繊維は図1に示すようにナイロン成分Nが捲縮の内側に位置し、変性ポリトリメチレンテレフタレート成分Pが捲縮の外側に位置するような捲縮構造をとることが必要である。この捲縮複合繊維が吸湿すると内側のナイロン成分は伸張するが、外側の変性ポリトリメチレンテレフタレート成分はほとんど長さ変化をきたさない為に、捲縮率が低下する。一方この捲縮繊維を乾燥すると、内側のナイロン成分Nが収縮し、外側の変性ポリトリメチレンテレフタレート成分Pの長さ変化はほとんど起らないので捲縮率が増大する。
【0012】
本発明の複合繊維は前述したように洗濯耐久性に極めて優れており、具体的には、洗濯30回後の複合繊維を構成するポリマー成分の接合面で剥離性が10%以下、好ましくは5%である。
【0013】
本発明の複合繊維の捲縮率は10%以上であることが好ましく、より好ましくは15〜30%の範囲である。
【0014】
また、本発明の複合繊維においては、複合繊維を温度60℃で30分間乾燥した後の捲縮率VCd、複合繊維を温度30℃、相対湿度90%の雰囲気下に2時間放置した後の捲縮率VCwとしたとき、下記式で表される捲縮率差ΔVCが12%以上であることが、これを織編物とし衣料に用いた際、吸湿時に目が開いて充分な通気性を得ることができる上で、必要である。
ΔVC=VCd−VCw
【0015】
さらに、本発明の複合繊維においては、複合繊維を温度30℃、相対湿度90%の雰囲気下に5分間放置した後の捲縮率をVC5、複合繊維を温度30℃、相対湿度90%の雰囲気下で2時間放置した後の捲縮率VC120としたとき、下記式で表される捲縮応答性VCRが80%以上であることが、これを織編物とし衣料に用いて、湿度変化に対する反応性に優れ、充分な通気性自己調節機能を発揮する上で必要である。
VCR=VC5/VC120×100(%)
【0016】
本発明の複合繊維は任意の繊度、断面形状、複合形態を採ることができるが、繊度としては1.2〜4.0dtex程度が適当である。図2は、本発明の複合繊維の例を示す横断面図であり、Pが変性ポリトリメチレンテレフタレート成分、Nがナイロン成分である。特に変性ポリトリメチレンテレフタレート成分とナイロン成分とが互いを包み込まない(イ)、(ロ)のような断面の複合繊維とすることにより、捲縮率差ΔVCを12%以上、捲縮応答性VCRを80%以上とすることができる。しかし、湿度に対する感度を鈍くする必要があるときには(ハ)のようなナイロン成分を変性ポリトリメチレンテレフタレート成分で包み込むような断面としてもよい。また、(ハ)とは逆に変性トリメチレンテレフタレート成分をナイロン成分で包み込むような断面とした場合は捲縮率差ΔVCが低下する傾向にある。
【0017】
さらに、本発明の複合繊維を中空複合繊維にすると湿度に対する感度も大きく、かつ、嵩だか性も大きくなる。両成分の複合比は任意に選択することができるが30:70〜70:30の範囲が好ましい。
【0018】
以下、本発明の複合繊維を得るための製造方法について説明する。
【0019】
変性ポリトリメチレンテレフタレートとナイロンとをサイドバイサイド型に複合紡糸するには従来公知の任意の方法を採用することができる。紡糸して得られた糸条は一旦巻き取ることなく連続して延伸することが好ましい。かかる方法を用いた場合、紡糸速度は大きいほど捲縮性能がよくなり、特に1000〜3000m/分程度の紡糸速度を採用することが好ましい。
【0020】
また、延伸時の温度は、ナイロンのガラス転移点(Tg)以上85℃以下の温度であることが好ましい。延伸温度が85℃を超えると変性ポリトリメチレンテレフタレート成分の配向度が上がりにくくなり、使用時の物理的応力に対して変形しやすく、捲縮性能が低下する傾向にある。延伸倍率は、最終的に得られる捲縮複合繊維の切断伸度を調節するように適宜選択すればよい。好ましい切断伸度は10〜60%、通常は20〜45%程度である。延伸倍率は、紡糸工程での紡糸速度によって当然変わってくるものであり、一般に紡糸速度が高くなればなるほど、適用される延伸倍率は低くなってくる。
【0021】
本発明の製造方法では、かくして得られた延伸した複合繊維を、温度90〜150℃、速度200〜800m/分の条件にて熱処理を行うことが必要である。上記の温度が150℃より高い場合や速度が800m/分を超える場合には、断糸率が増加する。さらに熱処理が緊張または15%以下の弛緩熱処理であることが好ましく、弛緩率で表現すると5〜マイナス15%、さらには2〜マイナス10%であることが好ましい。この熱処理工程での弛緩率をあまり大きくしすぎると、十分な捲縮が発現しなくなる傾向にある。
【0022】
かくして得られた複合繊維は、ナイロン成分が捲縮の内側に変性ポリメチレンテレフタレート成分が捲縮の外側に位置する捲縮構造を有しており、該複合繊維の、下記式(1)で表される捲縮率差ΔVCが12%以上で、且つ下記式(2)で表される捲縮応答性VCRが80%以上である、吸湿によって捲縮率が低下し、乾燥によって捲縮率が増大するという性能をもった感湿捲縮複合繊維となる。
ΔVC=VCd−VCw (1)
ここで、VCdは複合繊維を温度60℃で30分間乾燥した後の捲縮率、VCwは複合繊維を温度30℃、相対湿度90%の雰囲気下に2時間放置した後の捲縮率をそれぞれ示す。
VCR=VC 5 /VC 120 ×100(%) (2)
ここで、VC 5 は複合繊維を温度30℃、相対湿度90%の雰囲気下に5分間放置した後の捲縮率、VC 120 は複合繊維を温度30℃、相対湿度90%の雰囲気下で2時間放置した後の捲縮率をそれぞれ示す。
【0023】
【実施例】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお実施例に示す各物性は次の方法により測定したものである。
【0024】
(1)固有粘度
ナイロン6はm−クレゾール溶液を用い30℃で測定した。また、変性トリメチレンテレフタレートはo−クレゾール溶液を用い35℃で測定した。
【0025】
(2)捲縮率(VC)
捲縮複合繊維糸条を長さ30cmのかせにとり、1.76N/dtex(200mg/de)の荷重を掛け、1分放置した後の長さを測定してその長さをl0とし、その後17.6mN/dtex(2mg/de)の荷重を掛け、1分放置した後の長さを測定してその長さをl1とし、次式により捲縮率(VC)を算出する。
VC=(l0−l1)/l0×100(%)
【0026】
(3)捲縮率差(ΔVC)
捲縮率差ΔVCは、温度60℃で30分間乾燥した後の乾燥時の捲縮率VCdと、温度30℃、相対湿度90%の雰囲気下に2時間放置した後の吸湿時の捲縮率VCwとから、下記式を用いて算出した値である。なお、それぞれの捲縮率の測定は、VCdが温度20℃、相対湿度65%の雰囲気下で、VCwが温度30℃、相対湿度90%の雰囲気下で、上記(2)の捲縮率(VC)の測定方法に基づいて行った。
ΔVC=VCd−VCw
【0027】
(4)捲縮応答性(VCR)
捲縮応答性VCRは、温度60℃で30分間乾燥したサンプルを用い、これを温度30℃、相対湿度90%の雰囲気下に5分間放置した後の捲縮率VC5と、温度30℃、相対湿度90%の雰囲気下で2時間放置した後の捲縮縮率VC120とを測定し、下記式を用いて算出した値である。なお、それぞれの捲縮率の測定は、温度30℃、相対湿度90%の雰囲気下で上記(2)の捲縮率(VC)の測定方法に基づいて行った。
VCR=VC5/VC120×100(%)
【0028】
(5)剥離性
JIS L0217、付表1、番号103の方法で30回洗濯をおこなった後、任意に選んだ10本の複合繊維の断面を観察し、変性ポリトリメチレンテレフタレート成分とナイロン成分が剥離した単糸の割合を計算し、その平均値を求めた。
【0029】
[実施例1]
固有粘度[η]が1.1のナイロン6(Ny6)と、固有粘度[η]が1.03であり5−ナトリウムスルホイソフタル酸を2.6モル%共重合した変性ポリトリメチレンテレフタレート(変性PTT(A))とを常法により、紡糸温度265℃、紡糸速度1000m/分で紡糸し、ついで巻き取ることなく延伸温度80℃、延伸倍率3.5倍で延伸し、さらに120℃で熱セットして糸条を得た。その後弛緩率10%、スリットヒーター温度140℃、速度300m/分にて弛緩熱処理を行い、図2(イ)に示すような断面形状を有し、変性ポリトリメチレンテレフタレートとナイロン6との重量比が50:50でサイドバイサイド型に接合された、83dtex/24filの捲縮複合繊維を得た。この複合繊維は、捲縮の内側にはナイロン成分が位置し、外側には変性ポリトリメチレンテレフタレート成分が位置していた。得られた複合繊維の物性を表1に示した。この複合繊維を製織した布帛は、高湿度では通気度が高く、低湿度では通気度が低い、通気性自己調節機能を有するものであった。
【0030】
[実施例2]
変性ポリトリメチレンテレフタレート(変性PTT(A))を、固有粘度[η]が0.78であり、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を6.0モル%共重合した変性ポリトリメチレンテレフタレート(変性PTT(B))に変更した以外は、実施例1と同様にして捲縮複合繊維を得た。得られた繊維の物性を表1に併せて示した。この複合繊維を製織した布帛も、実施例1と同様に通気性自己調節機能を有するものであった。
【0031】
[実施例3]
変性ポリトリメチレンテレフタレート(変性PTT(A))を、固有粘度[η]が1.50であり、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を1.0モル%共重合した変性ポリトリメチレンテレフタレート(変性PTT(C))に変更した以外は、実施例1と同様にして捲縮複合繊維を得た。得られた繊維の物性を表1に併せて示した。この複合繊維を製織した布帛も、実施例1と同様に通気性自己調節機能を有するものであった。
【0032】
[比較例1]
変性ポリトリメチレンテレフタレート(変性PTT(A))を、固有粘度[η]が0.6であり、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を2.6モル%共重合した変性ポリエチレンテレフタレート(変性PET)に変更し、紡糸温度を265℃から285℃に、延伸温度を80℃から95℃に、弛緩熱処理のスリットヒーター温度を140℃から180℃に変更した以外は、実施例1と同様にして捲縮複合繊維を得た。得られた繊維の物性を表1に併せて示した。この複合繊維を製織した布帛も、実施例1と同様に通気性自己調節機能を有するものであったが、洗濯耐久性が極めて劣るものであった。
【0033】
【表1】
【0034】
【発明の効果】
本発明の感湿捲縮複合繊維は、湿度変化によって可逆的に捲縮率が変化するため、これを製編織して布帛としさらに衣料とした際、優れた通気性自己調節機能を発揮する。また、本発明の感湿捲縮複合繊維は洗濯耐久性にも優れているため、衣料用繊維として極めて実用的なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の複合繊維の、捲縮発現後における湾曲構造の形態を例示した模式図である。
【図2】本発明の複合繊維の横断面を例示した模式図である。
【符号の説明】
P スルホネート基を有する変性ポリトリメチレンテレフタレート
N ナイロン
Claims (3)
- スルホネート基を有する変性ポリトリメチレンテレフタレートと、ナイロンとが、サイドバイサイド型に接合された複合繊維であって、ナイロン成分が捲縮の内側に位置し、変性ポリトリメチレンテレフタレート成分が捲縮の外側に位置する捲縮構造を有しており、該複合繊維の、下記式(1)で表される捲縮率差ΔVCが12%以上で、且つ下記式(2)で表される捲縮応答性VCRが80%以上であることを特徴とする感湿捲縮複合繊維。
ΔVC=VCd−VCw (1)
ここで、VCdは複合繊維を温度60℃で30分間乾燥した後の捲縮率、VCwは複合繊維を温度30℃、相対湿度90%の雰囲気下に2時間放置した後の捲縮率をそれぞれ示す。
VCR=VC 5 /VC 120 ×100(%) (2)
ここで、VC 5 は複合繊維を温度30℃、相対湿度90%の雰囲気下に5分間放置した後の捲縮率、VC 120 は複合繊維を温度30℃、相対湿度90%の雰囲気下で2時間放置した後の捲縮率をそれぞれ示す。 - 変性ポリトリメチレンテレフタレートが5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分を共重合したポリトリメチレンテレフタレートである請求項1記載の感湿捲縮複合繊維。
- 5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分の共重合量が全酸成分を基準として0.5〜15モル%の範囲である請求項2記載の感湿捲縮複合繊維。
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2002
- 2002-10-03 JP JP2002290781A patent/JP4018960B2/ja not_active Expired - Lifetime
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