JP4015949B2 - 活性乾燥酵母の製造方法 - Google Patents
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Description
発明の属する技術分野
本発明は、醗酵工程から回収した酵母にトレハロース等の安定化剤を取り込ませることによって乾燥耐性を増強させ、低温下で乾燥することによって醗酵能の高い活性乾燥酵母を製造する方法、および当該活性乾燥酵母を用いた酒類の製造方法、および該製造方法によってえられた酒類に関する。
【0002】
従来の技術
酒類製造のための醗酵工程から回収した酵母は、生の状態で保存すると次第に活性すなわち醗酵能が低下するため、長期間保存した酵母を酒母として酒類を製造すると、酒質の低下や発酵不良を引き起こす。そのため、回収した酵母の活性を維持したまま保存する方法が開発されているが、実用的に十分満足できる方法は未だ存在しない。また酵母の活性および醗酵能を測定し、酒母としての適性を評価する方法が特開平8−266297に開示されている。
【0003】
酵母の活性を維持したまま保存する方法の1つとして乾燥酵母があり、パン酵母の乾燥酵母はパンの製造に広く用いられている。酒類の製造においては、酒母製造設備を持たない生産規模の小さいワイン醸造所において乾燥酵母が酒母として用いられている。
【0004】
乾燥酵母とは、水分含量が8%から12%である酵母の一般的呼称であり、乾燥酵母の製造方法は確立されている(Yeast Technology, 2nd ed., edited by GENALD REED & TILAK W.NAGODAWITHANA, 1991,VAN NOSTRAND REINHOLD,New York)。乾燥酵母は一般に廃糖蜜培地等で好気培養した酵母を上記水分含量まで脱水・乾燥することによって製造されるが、乾燥温度は30℃程度で行われている。ワイン酵母の乾燥工程も一般に室温から35℃までの間で行われている(WINE MICROBIOLOGY AND BIOTECHNOLOGY,edited by Graham H.Fleet,Harwood Academic Publishers)。しかしながら、培養した酵母をそのまま乾燥すると、酵母の生存率および活性が低下することが知られている。こうした問題を克服するために酵母に様々な処理を施し、乾燥耐性を向上させる試みが行われている。例えば、特開昭60−27382には、甜菜搾り粕から調製した食物繊維粉末を混合して30〜40℃で通風乾燥する方法が開示されている。酵母に乾燥耐性を付与するための方策として多くの保湿剤が検討されているが、特公昭41−146号には圧搾酵母1 Kgあたり2〜40gのグリセロールを添加して保湿性を高めた上で、乾燥酵母を製造する方法が開示されている。
【0005】
酒類製造用の酵母として乾燥酵母を用いることには、別の問題も存在する。乾燥酵母の原料となる酵母は菌体の収量を増加させるため好気培養した酵母が用いられる。好気培養した酵母は好気的な代謝系が亢進しており、アルコール醗酵に必要な嫌気的な代謝系は抑制を受けている。従って、好気培養した酵母から調製した乾燥酵母は醗酵能が低下しているので、この乾燥酵母を酒母として酒類の製造を行うと、酒類中の香気成分量の低下などの酒質への悪影響を及ぼすことが知られている。すなわち、好気培養酵母から調製した乾燥酵母を酒母として製造した酒類はエステル類が乏しく、官能的に好ましくない酒質となる。また、このような好気培養乾燥酵母を酒母として用いると醗酵中の二酸化硫黄の生成量が低く、この結果嫌気培養した酵母を酒母とした場合に比較して、製造された酒類の香味安定性が低下する。
【0006】
酒類製造用の酵母として乾燥酵母を用いることには、さらに別の問題も存在する。乾燥酵母の原料となる酵母を培養するための培地として、通常、廃糖蜜が用いられるが、廃糖蜜を培地として培養した酵母から調製した乾燥酵母も酒母として好ましくない。廃糖蜜の糖成分はスクロースであり、スクロースは酵母細胞壁表層に存在するスクラーゼによってグルコースとフラクトースに分解される。グルコースは、麦汁中の主要糖成分であるマルトースの代謝系を抑制すること(グルコース抑制)が知られており、廃糖蜜培地で培養した酵母から調製した乾燥酵母を麦汁を原料とするビールやウィスキーなどの酒類の製造に酒母として用いると、マルトース代謝系が抑制されているために醗酵不良を起こすことが懸念される。こうした従来の乾燥酵母を酒母として用いるためには、乾燥酵母を麦汁中、嫌気的条件で培養する必要があり、酒母培養のための設備が必要となる。
【0007】
一方、トレハロースはD-グルコース2分子が1,1‐結合した非還元性2糖で、菌類や酵母に多量に含まれている。細胞内のトレハロースが酵母の乾燥耐性や凍結耐性を増すことは、良く知られている。酵母細胞内のトレハロース含量が高い酵母を凍結乾燥させる、あるいは高濃度のトレハロース溶液中で酵母を凍結乾燥させると、生存率が上昇する事が開示されている(FEMS Microbiology Letters, 48 (1987), 249-254)。また、酵母中でのトレハロースの生合成はヒートショックによって誘導される。このことから、乾燥酵母の原料となる酵母を培養する際に、培養工程の最後に培養温度を上昇させることによって、トレハロースの生合成を誘導して酵母細胞内のトレハロース含量を高め、その結果乾燥耐性を向上させた乾燥酵母の製造方法が開示されている(FEBS Let., 220, 113-115(1987))。しかし、トレハロースの生合成が強く誘導されるのは好気培養条件下であるため、上記の如く嫌気的代謝系が亢進していることが酒母として重要である醸造用の乾燥酵母では、トレハロースの生合成を強く誘導し、酵母内のトレハロース含量を増加させて乾燥耐性を向上させることはできないと考えられる。
【0008】
発明が解決しようとする課題
本発明は、酒類の製造において、醗酵能が高く、酒母培養なしに香味の優れた酒類を製造することのできる活性乾燥酵母の製造方法、当該活性乾燥酵母を用いた酒類の製造方法、および該製造方法によって造られた香味の優れた酒類を提供する。
【0009】
図面の簡単な説明
図1は、酵母をトレハロース溶液に浸漬したときの上清中トレハロース含量の推移を、約20時間観察した結果を示すグラフである。
図2は、図1と同じ条件下での細胞中トレハロース含量の推移を、約20時間観察した結果を示すグラフである。
図3は、図1と同じ条件下での細胞内pHの推移を、約20時間観察した結果を示すグラフである。
図4は、酵母を8日間トレハロース処理し、その後菌体を集めて再度トレハロース処理したときの、上清中トレハロース含量の推移を観察した結果を示すグラフである。
図5は、図4と同じ条件下で、各試験日における酵母の凍結乾燥菌体内トレハロース含量の推移を観察した結果を示すグラフである。
図6は、図4と同じ条件下での、酵母細胞内pHの推移を観察した結果を示すグラフである。
図7は、図4と同じ条件下で4日間トレハロース処理した酵母について、2Lスケールで醗酵試験した場合の結果を示し、図7−Aは外観エキスの推移を示すグラフであり、図7−Bは生菌数の推移を示すグラフである。
図8は、図4と同じ条件下で8日間トレハロース処理した酵母について、2Lスケールで醗酵試験した場合の結果を示し、図8−Aは外観エキスの推移を示すグラフであり、図8−Bは生菌数の推移を示すグラフである。
図9は、実施例5で製造した本発明の乾燥酵母を用いた70Lスケールでの醗酵試験の外観エキスの推移を示すグラフである。
図10は、本発明の方法により調製したワイン乾燥酵母の醗酵能を示すグラフである。
【0010】
詳細な説明
上記のとおり、乾燥酵母は乾燥工程での活性の損失が大きく、また酒類製造用の酒母として用いるためには、アルコール醗酵の嫌気条件に順応させてから使用する必要があった。そのため、酒類製造の醗酵工程から回収した酵母を乾燥酵母として保存するという試みは存在しなかった。
【0011】
これに対して、本発明者らは、マルトース、またはグルコースとフラクトース、を主要糖成分とする培地で培養した酵母は、マルトースを細胞内へ輸送するα−Glucoside Transporter の遺伝子 (AGT1)の発現が誘導されていること、およびα−Glucoside Transporterがマルトースだけでなくトレハロースを含む様々なα−Glucosideを酵母細胞内に輸送できることが知られている(Mol. Microbiol., 17, 1093-1107 (1995) )ことに着目した。つまり、これらのことから、マルトース、またはグルコースとフラクトースを主要糖成分とする麦汁の醗酵工程から回収した酵母は細胞外のトレハロースを取り込んで細胞内のトレハロースの含量が増加することによって乾燥耐性を有するのではないかと考えた。さらに、当該トレハロースの含量を高めた酵母から乾燥酵母を調製すれば、醗酵能が高く、酒母培養なしに香味の優れた酒類を製造することのできる活性乾燥酵母として、香味の優れた酒類を製造するのに好適であると考えた。さらに、トレハロースと同様の効果を奏する糖または糖アルコールが、他にも存在するのではないかと考えた。
【0012】
そこで、ビール醗酵工程中から回収した酵母を、トレハロースおよび種々の糖または糖アルコールを別々に含む水性溶液に浸漬して酵母細胞内にこれらの糖または糖アルコールを取り込ませた後、低温下で脱水および乾燥を行い酵母の水分含量を8〜12%にすることによって乾燥酵母を調製した。そして、トレハロース、マンニトール、マルチトールおよびキシロースを細胞内に取り込ませた乾燥酵母がいずれも実際の醗酵能が良好なこと、細胞内pHの測定により醗酵能あるいは活性が高いこと、および当該乾燥酵母を酒母として製造したビールが乾燥処理をしていない回収酵母を酒母として用いた場合と同様の醗酵能を有し、製造されたビールも乾燥処理をしていない回収酵母を酒母として用いた場合と遜色ないことを確認して本発明を完成した。
【0013】
さらに、トレハロース等の安定化剤の取り込みによる効果を安定させるためには、安定化剤水性溶液に浸漬した後の酵母を、乾燥工程に付する前に、グリセロール、マルチトールおよびキシリトールからなる群から選択される成分少なくとも一種を含有する水性溶液に浸漬して酵母細胞内に取り込ませると、得られる乾燥酵母の醗酵能がさらに高まり、または安定して高い醗酵能をもつ乾燥酵母が得られることも確認した。理論に拘束されるものではないが、グリセロール等は、酵母細胞内の水分活性を低下させることによってトレハロース等の安定化剤を分解するおそれがある酵素の活性を抑制すると推定される。したがって、本明細書中において、グリセロール、マルチトールおよびキシリトールをこの目的で使用する場合には、これらを水分活性低下剤と称する。
【0014】
すなわち本発明には、以下の発明が含まれる。
(1) マルトース、またはグルコースとフラクトース、を主要糖源とした培地中で嫌気的に培養した酵母を、トレハロース、マンニトール、マルチトールおよびキシロースからなる群から選択される安定化剤の少なくとも一種を含む水性溶液に浸漬して、酵母細胞内に該安定化剤を取り込ませ、
上記安定化剤を取り込ませた酵母を、さらにグリセロール、マルチトールおよびキシリトールからなる群から選択される水分活性低下剤の少なくとも一種を含む水性溶液に浸漬して、酵母細胞内に水分活性低下剤を取り込ませ、細胞内の水分活性を低下させ、そして
上記水分活性を低下させた酵母を乾燥することを特徴とする活性乾燥酵母の製造方法。
(2) 嫌気的に培養した酵母が酒類製造の発酵工程から回収された酵母であり、そして、嫌気条件に順応させなくても酒類製造に適する発酵能を有する活性乾燥酵母が製造される、(1)に記載の活性乾燥酵母の製造方法。
(3) 安定化剤がトレハロースであり、トレハロースの酵母菌体内含量が乾燥重量比で10%以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載の活性乾燥酵母の製造方法。
(4) マルトースを主要糖源とした培地が麦汁である(1)ないし(3)のいずれか1つに記載の活性乾燥酵母の製造方法。
(5) ビールの発酵工程から回収した酵母を用いることを特徴とする(1)ないし(4)のいずれか1つに記載の活性乾燥酵母の製造方法。
(6) (1)ないし(5)のいずれか1つに記載の製造方法によって得られる活性乾燥酵母。
(7) (6)に記載の活性乾燥酵母を発酵初液に添加することを特徴とする酒類の製造方法。
(8) 活性乾燥酵母を予め嫌気条件に順応させずに、該酵母を発酵初液に添加することを特徴とする、(7)に記載の酒類の製造方法。
(9) 酒類が醸造酒である(7)または(8)に記載の製造方法。
(10) 醸造酒がビールである(9)に記載の製造方法。
(11) 醸造酒がワインである(9)に記載の製造方法。
(12) (7)または(8)に記載の方法で製造した酒類。
(13) (9)に記載の方法で製造した醸造酒。
(14) (10)に記載の方法で製造したビール。
(15) (11)に記載の方法で製造したワイン。
【0015】
発明の実施の形態
本明細書において、活性乾燥酵母と言うときの「活性」とは、生存酵母の比率が高いことはもちろんであるが、特に酵母を酒類の製造のためのアルコール醗酵に用いたとき、乾燥前の酵母にできるだけ近い良好な醗酵能を維持していることを意味する。
【0016】
また、麦汁とは麦芽から調製したマルトースを主要糖成分とする糖化液、および該糖化液にマルトースを主要糖成分とする糖液が添加された糖化液のことをいう。従って、本明細書において、麦汁を醗酵させて製造された醸造酒であるビールは酒税法上のビールおよび発泡酒を含む。醗酵初液とは酒母添加前の醗酵液のことを意味し、ビールの製造においては酒母添加前の麦汁である。
【0017】
本発明の方法で用いる酵母は、マルトース、またはグルコースとフラクトース、を主要糖成分とした培地中で嫌気的に培養した酵母である。使用する酵母が、それ以外の条件例えば好気的条件で製造されたものなら、マルトース、またはグルコースとフラクトース、を主要糖成分とした培地中で嫌気的に培養してから用いる。このことは、活性な乾燥酵母を製造するために必須の要件である。
【0018】
マルトース、またはグルコースとフラクトース、を主要糖成分とした培地中で嫌気的に培養した酵母に特別な限定はないが、ビール、ワイン、ウイスキー、清酒等の酒類の製造のためのアルコール醗酵工程から回収した酵母が好ましく用いられる。特に好ましいのは、ビール製造のアルコール醗酵工程から回収した酵母であり、通常はそのまま次のバッチのビール製造の酒母として用いられるが、同じ菌株の酵母を用いたビールの製造予定がないときは廃棄されるものである。本発明では、そのような酵母を乾燥酵母にして同じ菌株の酵母を用いたビールの製造まで保存しておき酒母として再利用することが可能である。
【0019】
出発酵母は、トレハロース、マンニトール、マルチトールおよびキシロースからなる群から選択される安定化剤の少なくとも一種を含む水性溶液に浸漬して細胞内に安定化剤を取り込ませ、それにより、脱水・乾燥時の酵母の活性低下を防止する。安定化剤溶液へ酵母を浸漬するため、5%以上、好ましくは約10〜20%の安定化剤水性溶液を、例えばビール製造工程から回収したスラリー状の酵母1重量部に対して、約0.5〜5重量部、好ましくは約1〜2重量部用意する。酵母と安定化剤水溶液を混合し、温度約5〜30℃、好ましくは約10〜20℃にて、1〜21時間、好ましくは1〜3時間放置する。その間できる限り好気的条件にならないようにするが、必要に応じて適宜攪拌しても良い。
【0020】
上記操作により、酵母は安定化剤を能動的に細胞内に取り込み、細胞内の安定化剤濃度は、乾燥酵母細胞当たり、約8〜25重量%、好ましくは約10〜20重量%となり、一方、外液中の安定化剤濃度は徐々に低下する。細胞内に取り込まれた安定化剤例えばトレハロースの濃度を測定する必要があれば、後記実施例1の記載にしたがって、外液中または細胞内中のトレハロース含量を測定することができる。
【0021】
本発明の方法における安定化剤処理は、酵母を安定化剤を含む水性溶液に浸漬させて、酵母の生物学的機能により細胞内に安定化剤を取り込ませることが特徴である。従来、トレハロースを多く含む酵母株の研究や、トレハロースを含む水溶液中に酵母を浸漬させてから凍結する方法は、研究されていたが、乾燥酵母の生産のためにトレハロース等の安定化剤を外部から細胞内に取り込ませることは、知られていなかった。
【0022】
安定化剤の細胞内濃度を高めた酵母は、そのまま脱水・乾燥することも可能であるが、好ましい態様においては、脱水・乾燥操作の前に、グリセロール、マルチトールおよびキシリトールからなる群から選択される水分活性低下剤の少なくとも一種を含む水溶液に浸漬して水分活性低下剤を細胞内に取り込ませる。グリセロール等の水分活性低下剤は、細胞内の水分活性を低下させることにより、取り込まれたトレハロース等の安定化剤が酵母細胞内のトレハラーゼ等により分解することを防止し、且つ脱水・乾燥操作における酵母の活性低下も防止する。
【0023】
水分活性低下剤は、約5〜30%、好ましくは約10〜20%の水溶液として酵母を浸漬する。酵母を浸漬するため、約10〜60%、好ましくは約20〜40%の水分活性低下剤、例えばグリセロール、の水溶液を、例えば、遠心分離、濾過またはフィルタープレスなどの適当な手段で脱水した半固形ないしスラリー状の酵母1重量部に対して、約0.2〜5重量部、好ましくは約0.5〜2重量部用意する。酵母と水分活性低下剤水溶液を混合し、十分に懸濁させて温度約5〜30℃、好ましくは約10〜20℃にて、0.1〜1時間、好ましくは0.2〜0.3時間放置する。
【0024】
水分活性低下剤で処理した酵母は、水分含量が約8〜12%になるよう、脱水・乾燥する。その際、従来の乾燥酵母の製造に比べて低温下、例えば0〜25℃、好ましくは5〜10℃で脱水・乾燥する。この温度の管理により、活性の大きい乾燥酵母の製造が可能である。脱水・および乾燥のための、温度以外の条件は、従来乾燥酵母の製造に使用されている条件を適宜選択して用いてよい。例えば、遠心分離、濾過またはフィルタープレスなどの手段が脱水に利用できる。脱水した酵母を押し出し造粒し、これを流動床・トンネルドライヤーなどで乾燥させることにより、本発明の乾燥酵母を得ることができる。
【0025】
本発明の活性乾燥酵母は、ビール酵母、ワイン酵母、清酒用酵母、ウイスキー用酵母等の種々の醸造用酵母であることができる。したがって、各酵母の目的に応じて、本発明の活性乾燥酵母を酒母として種々の酒類を製造することが可能である。
【0026】
本発明の活性乾燥酵母は、酒母培養工程を要せず、醗酵初液に酒母として添加して香味の優れた酒類を製造できる。添加方法としては、活性乾燥酵母を直接醗酵初液に投入してもよいし、活性乾燥酵母を水または醗酵初液、例えばビール製造においては麦汁に懸濁後、醗酵初液に添加してもよい。
実施例
以下実施例に従って、発明の詳細を述べる。
【0027】
実施例1 . 回収酵母のトレハロース取り込み能および活性
ビール醗酵工程から回収したスラリー状の酵母(回収酵母)50gに10%(w/w)または20%(w/w)のトレハロース水溶液50gを添加し攪拌してトレハロース処理を行った。トレハロースの濃度は回収酵母と混合後のトレハロース処理液中では、5%(w/w)あるいは10%(w/w)になる。トレハロース処理の温度は10℃または20℃で行った。経時的にトレハロース処理液のサンプルを採取し、遠心分離によって菌体と上清に分けた。上清のトレハロース含量をShim-pack CLC-NH2カラム(島津製作所製)を装填した液体クロマトグラフィーで測定し、湿菌体を用いて公知の方法(European Brewery Convention 26th Congress, EBC; 423-430(1997))で31P−NMRにより細胞内pHを測定した。菌体を凍結乾燥後、エッペンドルフチューブに100mg測り取り、滅菌水1mlに良く懸濁して、100℃で30分間処理して菌体中の糖を抽出した。12000rpm、1分間の遠心分離で菌体を取り除き、上清のトレハロース含量を上記の液体クロマトグラフィー方法で測定して、乾燥菌体重量当たりのトレハロース含量を測定した。
【0028】
図1に上清中のトレハロース含量の推移を、図2に菌体中のトレハロース含量の推移を示した。トレハロース濃度(5%または10%)、処理温度(10℃または20℃)が何れの条件であっても上清中のトレハロースは減少を続け、5%トレハロース、20℃、約20時間の処理では上清中のトレハロース含量は0になった。一方菌体中のトレハロース含量は、何れの条件下でも、処理開始後3時間後には乾燥菌体重量当たり12%以上に達し、それ以後は、10%トレハロース、20℃の条件でトレハロース含量の増加が認められる以外、他の条件下ではトレハロース含量の大きな変化はなかった。大きな変化が認められなかった条件下では、トレハロースの取り込みと、トレハロースのグルコースへの分解と解糖系代謝による菌体内トレハロース量の減少とがバランスがとれているものと考えられる。実際、トレハロース処理した酵母菌体中に解糖系の中間代謝物量が増加することが31P−NMRによって確認された。以上のことから、トレハロース処理によって酵母はトレハロースを取り込み3時間の処理で乾燥菌体内の含量が12%以上になることがわかった。
【0029】
トレハロース処理中の細胞内pHの変化を図3に示したが、水処理した酵母は、同温度でトレハロース処理した酵母に比較して細胞内pHが低下していることが認められた。酵母の細胞内pHは酵母の活性と相関すること、すなわち細胞内pHが低いほど活性も低いことが特開平8−266297に開示されているから、この結果はトレハロース処理は水処理よりも酵母の活性低下を抑制できることを示している。
【0030】
実施例2 . トレハロース取り込みによる乾燥耐性の向上
20%トレハロース水溶液50gを回収酵母50gに添加し、20℃で3時間攪拌してトレハロースを取り込ませた。トレハロースを取り込ませた酵母をヌッチェを使用してNo.2ろ紙上に吸引ろ過し、得られた酵母を14メッシュの篩に通した後、30℃の恒温器にて約20時間乾燥させて乾燥酵母を得た。この乾燥酵母0.1gを室温で1mlの蒸留水に懸濁・復水し、メチレンブルー染色率で酵母の死滅率を測定した。なお、死滅した酵母はメチレンブルーを還元できないので、メチレンブルーで染色された酵母を死滅した酵母とみなしたから、メチレンブルー染色率は酵母の死滅率となる。表1に示した如く、回収酵母を用いてトレハロース処理をせずに上記の方法で乾燥酵母を調製した場合、乾燥処理により約90%の細胞が死滅してしまった。そこで実施例1と同様の方法でトレハロースを取り込ませて乾燥させた。
【0031】
表1に乾燥前と乾燥酵母を上記の方法で復水させた際の死滅率を示した。取り込ませるトレハロースの濃度が5%、温度が10℃の条件では1時間または3時間のトレハロース処理で、死滅した細胞の割合が約60%まで減少したが、21時間処理して乾燥・復水すると約90%が死滅した。処理温度が20℃の場合は、トレハロース処理を1時間行い、乾燥・復水した場合のみ死滅率の減少が確認できた。取り込ませるトレハロースの濃度が10%の場合には、処理温度が10℃であっても20℃であっても1時間ないし3時間処理で死滅細胞の割合が60−70%にまで減少した。この結果から、5%または10%のトレハロースで3時間処理した後、乾燥・復水を行うと回収酵母に乾燥耐性を付与できることがわかった。
【0032】
【表1】
【0033】
実施例3 . トレハロースの取り込みによる保存性の向上
回収酵母250gを、等重量の純水または20%トレハロース水溶液に懸濁し、5℃で約2週間保持した。経時的に上清および菌体内のトレハロース含量や細胞内pHを実施例1に記載した方法で測定した。上清中のトレハロース量を実施例1に記載の方法で測定したところ、図4に示すように、処理開始時10%あったトレハロースが、7日後には酵母に取り込まれて4%に減少していた。処理開始8日で上清中のトレハロースが2%になったため、トレハロース処理中の酵母を遠心分離し、菌体に再度20%トレハロース水溶液を加えて懸濁して、トレハロース処理を継続した。またトレハロース処理または水処理4日後および8日後の酵母を一部採取し、それぞれを生菌数を28 x 106 cells/mlになるように糖度14%の麦汁2Lに添加し、15℃で発酵試験を行った。
【0034】
図5に示すように、菌体内のトレハロース含量は処理開始3日後には乾燥菌体当たり20%に達し、20%以上のままで16日後まで持続した。図6に示す如く、酵母の細胞内pHは、水処理の条件では処理開始時の6.84から16日で6.35まで低下したのに対し、トレハロース処理の条件では変化しなかった。また、2Lスケールでの発酵試験の結果は、トレハロース処理した回収酵母の方が水処理した回収酵母よりも、図7、8に示す如く、醗酵度(図7-A,図8-A)および酵母増殖(図7-B,図8-B)の点で発酵パフォーマンスが良好であった。以上のように、回収酵母にトレハロース処理を施すことにより酵母の醗酵能および活性が水処理に比較して高まり、トレハロース処理が酵母の保存性を向上させることが確認された。
【0035】
実施例4.乾燥温度の検討
実施例2の結果が示すように、トレハロース処理のみでは乾燥・復水後の死滅率の低下が十分でなかったので、乾燥処理温度を低下することを検討した。実施例2に記載の方法で酵母のトレハロース処理を行い、30℃または5℃で乾燥を行い、復水後の死滅率をメチレンブルー染色率で測定した。表2に示すようにトレハロース処理および乾燥温度を下げることにより、生存率が向上した事が示された。
【0036】
【表2】
【0037】
実施例5.グリセロール処理の効果
実施例4に示したように、トレハロース処理、5℃乾燥だけではまだ乾燥・復水後の生存率が十分でなかったため、グリセロール処理をすることにより酵母菌体内の水分活性を低下させて各種酵素活性、たとえばトレハロース分解酵素および解糖系の酵素の活性を抑制して、脱水・乾燥処理を行った。ビール醗酵工程から回収したスラリー状の回収酵母50gに、実施例2に記載の方法でトレハロース処理を行った後、酵母を遠心分離し、50gの300g/Lグリセロール水溶液に懸濁し室温で15分間保持した。その後、実施例2に記載の方法で、No.2ろ紙上に吸引ろ過し、得られた酵母を14メッシュの篩に通した後、5℃の恒温器にて約20時間乾燥させた。得られたドライ酵母を実施例2に記載の方法で復水し、メチレンブルー染色率で酵母の死滅率を測定した。
【0038】
【表3】
【0039】
表3に示すように、グリセロール処理直後の酵母はメチレンブルー還元酵素の活性がグリセロールによって抑制されるため、メチレンブルーを還元できず、ほとんどの細胞が染色されてしまう。しかしながら、この酵母を脱水・乾燥させて乾燥酵母とした後に、復水してメチレンブルー染色率を測定すると、復水による酵素活性の回復とともにメチレンブルーの染色率、すなわち酵母の死滅率が大幅に低下し、トレハロース処理後にグリセロール処理を行うことが、乾燥・復水後の酵母の生存率の向上に著しい効果があることが確認できた。
【0040】
実施例6. 70L スケール醸造テストの結果
糖度14%の麦汁70Lを調製し、回収酵母、実施例5に記載の方法で調製した活性乾燥酵母、及び市販のビール醸造用乾燥酵母(Lasaffre社製 Saflager S-189)を、生菌数が28 x 106 cells/mlになるように添加した。15℃で醗酵を行い、醗酵度を経時的に測定し醗酵終了時にエステル類および二酸化硫黄を測定して、ビールの官能評価を行った。
【0041】
図9に示すように、3種類の酒母の間で、エキス消費すなわち外観エキスの低下でみた醗酵度に大きな差は見られなかった。表4に発酵終了時のエステル類と二酸化硫黄の含量を示した。
【0042】
【表4】
【0043】
市販乾燥酵母を酒母とした場合は、エステル類や二酸化硫黄の生成が回収酵母を酒母とした場合と比較して低かったが、本発明の方法で製造した活性乾燥酵母を酒母とした醗酵ではエステル類や二酸化硫黄の生成量は回収酵母と大差が見られなかった。表5に示すように、市販乾燥酵母を使用して醸造した酒類の香味は回収酵母を使用したものより劣っていたのに対し、本発明の方法で製造した活性乾燥酵母を酒母として使用したものは回収酵母を使用したものと同等の香味を呈した。
【0044】
【表5】
【0045】
実施例7.グリセロール処理濃度検討
実施例5では300g/Lのグリセロール水溶液を使用したが、より低濃度のグリセロール水溶液でも同様の効果が得られるかどうか検討した。
【0046】
ビール醗酵工程から回収したスラリー状の回収酵母50gに約20%トレハロース水溶液50gを添加し、20℃で3時間攪拌した後、酵母を遠心分離し、300g/L、200g/L、150g/L、100g/Lのグリセロール水溶液50gに懸濁し室温で15分間保持した。その後、実施例2に記載の方法で、No.2ろ紙上に吸引ろ過し、得られた酵母を14メッシュの篩に通した後、5℃の恒温器にて約20時間乾燥させた。得られた乾燥酵母を調製直後及び25℃8日保存後に実施例2に記載の方法で復水し、メチレンブルー染色率を測定した。
【0047】
【表6】
【0048】
グリセロール水溶液の濃度は200g/Lの場合は300g/Lの際と同様の効果が得られたが、150g/Lと100g/Lでは乾燥前のメチレンブルー染色率は300g/Lの場合ほど高くなかった。乾燥直後に復水してメチレンブルーを測定した際のメチレンブルー染色率はいずれのグリセロール濃度においても大きな差は見られなかったが、乾燥してから25℃で8日間保存して復水した場合のメチレンブルー染色率は150g/L及び100g/Lのグリセロール濃度では300g/Lの場合より高くなり、乾燥酵母の品質として劣ったものであることが確認された。
【0049】
実施例8.トレハロース代替物質検討
実施例5に示したようにトレハロース処理後にグリセロール処理を行うことが、乾燥・復水後の酵母の生存率の向上に著しい効果があることが確認できたが、トレハロース以外の糖や糖アルコールでも同様の効果が得られないか検討した。
【0050】
ビール醗酵工程から回収したスラリー状の回収酵母50gに各種糖類及び糖アルコールの約20%水溶液50gを添加し、20℃で3時間攪拌した後、酵母を遠心分離し、50gの300g/Lグリセロール水溶液に懸濁し室温で15分間保持した。その後、実施例2に記載の方法で、No.2ろ紙上に吸引ろ過し、得られた酵母を14メッシュの篩に通した後、5℃の恒温器にて約20時間乾燥させた。得られた乾燥酵母を実施例2に記載の方法で復水し、メチレンブルー染色率で酵母の死滅率を測定した。
【0051】
【表7】
【0052】
表に示すように、キシロースやマンニトールやマルチトールなどはトレハロースと同様に乾燥酵母の復水後の生存率の向上に効果があることが確認できた。
【0053】
実施例9.グリセロール代替物質検討
実施例5に示したようにトレハロース処理後にグリセロール処理を行うことが、乾燥・復水後の酵母の生存率の向上に著しい効果があることが確認できたが、グリセロール以外の糖アルコールでも同様の効果が得られないか検討した。
【0054】
ビール醗酵工程から回収したスラリー状の回収酵母50gに約20%トレハロース水溶液50gを添加し、20℃で3時間攪拌した後、酵母を遠心分離し、約300g/Lの各種糖アルコール水溶液50gに懸濁し室温で15分間保持した。その後、実施例2に記載の方法で、No.2ろ紙上に吸引ろ過し、得られた酵母を14メッシュの篩に通した後、5℃の恒温器にて約20時間乾燥させた。得られた乾燥酵母を実施例2に記載の方法で復水し、メチレンブルー染色率で酵母の死滅率を測定した。
【0055】
【表8】
【0056】
表に示すように、マルチトールやキシリトールなどはグリセロールと同様に乾燥酵母の復水後の生存率の向上に効果があることが確認できた。
【0057】
実施例10.乾燥条件検討結果
実施例4でトレハロース処理後の酵母の乾燥温度について検討した結果、乾燥温度を5℃に下げることにより酵母の生存率が向上したことが示されたが、ここではトレハロース処理、グリセロール処理後の酵母の乾燥温度をさらに細かく検討した。この際、30℃の乾燥でも速く行えば酵母の生存率が向上するのではないかと考え、流動床乾燥機による乾燥も検討した。
【0058】
ビール醗酵工程から回収したスラリー状の回収酵母50gに約20%トレハロース水溶液50gを添加し、20℃で3時間攪拌した後、酵母を遠心分離し、約300g/Lのグリセロール水溶液50gに懸濁し室温で15分間保持した。その後、実施例2に記載の方法で、No.2ろ紙上に吸引ろ過し、得られた酵母を14メッシュの篩に通した後、5℃〜30℃の恒温器にて約20時間乾燥させた。あるいは、流動床乾燥機を用いて30℃で1時間で乾燥させた。得られた乾燥酵母を実施例2に記載の方法で復水し、メチレンブルー染色率で酵母の死滅率を測定した。
【0059】
【表9】
【0060】
表に示すように、恒温器乾燥の場合、20℃以下であれば復水後のメチレンブルー染色率は乾燥温度にかかわらずほぼ同じであり、30℃の場合のみ約70%が死滅した。一方、30℃乾燥でも流動床乾燥機を用いて速く行えば酵母の生存率が向上したことが示された。
【0061】
実施例11.ワイン乾燥酵母調製・試醸結果
本発明の乾燥酵母の調製方法が、ビール以外の酒類の製造工程において適用できる事をワイン醗酵酵母を用いて確認した。
【0062】
ブドウ果汁を比重(15℃測定)が1.0857になるように希釈し、別途培養したワイン発酵酵母を添加した。ブドウ果汁の主成分はグルコースとフラクトースでほぼ等量含まれる(醗酵ハンドブック549頁, 2001年, 共立出版株式会社)。20℃で3日間保持した発酵液から酵母を遠心回収した。スラリー状の回収酵母50gに約20%トレハロース水溶液50gを添加し、20℃で3時間攪拌保持した後、酵母を遠心分離し、約150g/Lのグリセロール水溶液50gに懸濁し室温で15分間保持した。その後、実施例2に記載の方法で、No.2ろ紙上に吸引ろ過し、得られた酵母を14メッシュの篩に通した後、5℃の恒温器にて約20時間乾燥させた。得られた乾燥酵母を実施例2に記載の方法で復水し、メチレンブルー染色率で酵母の死滅率を測定したところ、生存率は70.15%であった。また、1.5L容量の希釈したブドウ果汁(比重1.0857)に復水したドライ酵母を添加して20℃での醗酵を行ったところ良好な発酵経過を示した(図10参照)。
【0063】
発明の効果
本発明により、酒類製造用の酵母を高生菌率、高醗酵能を保ったまま長期間保存できるようにするための技術を提供した。通常、酒類製造のための醗酵から回収した酵母は、次回の酒類製造の酒母として用いることが行われているが、生の酵母はすぐに劣化して醗酵能を損なうため、長くて1週間程度しか保持する事ができない。本発明は、この劣化しやすい酵母の保存性を飛躍的に増す事により、酒類の製造現場での生産性を高める事ができる。本発明によれば、酒類製造用の酵母を準備するために種酵母を一旦好気培養で増殖させ、その後嫌気条件に馴らすという、いわゆる酒母だてのために従来必要としていた設備および工数を飛躍的に減少させることができ、酒類製造における多くの労力と時間とコストを低減することができる。
Claims (6)
- マルトース、またはグルコースとフラクトース、を主要糖源とした培地中で嫌気的に培養した酵母を、トレハロース、マンニトール、マルチトールおよびキシロースからなる群から選択される安定化剤の少なくとも一種を含む水性溶液に浸漬して、酵母細胞内に該安定化剤を取り込ませ、
上記安定化剤を取り込ませた酵母を、さらにグリセロール、マルチトールおよびキシリトールからなる群から選択される水分活性低下剤の少なくとも一種を含む水性溶液に浸漬して、酵母細胞内に水分活性低下剤を取り込ませ、細胞内の水分活性を低下させ、そして
上記水分活性を低下させた酵母を乾燥することを特徴とする活性乾燥酵母の製造方法。 - 嫌気的に培養した酵母が酒類製造の発酵工程から回収された酵母であり、そして、嫌気条件に順応させなくても酒類製造に適する発酵能を有する活性乾燥酵母が製造される、請求項1に記載の活性乾燥酵母の製造方法。
- 安定化剤がトレハロースであり、トレハロースの酵母菌体内含量が乾燥重量比で10%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の活性乾燥酵母の製造方法。
- マルトースを主要糖源とした培地が麦汁である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の活性乾燥酵母の製造方法。
- ビールの発酵工程から回収した酵母を用いることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の活性乾燥酵母の製造方法。
- 請求項1ないし5のいずれか1項に記載の製造方法によって得られる活性乾燥酵母。
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