この構成によると、インクジェットヘッドをラインヘッドとして用いた場合に、インクジェットヘッドの取り付け角度が傾いていることによって生じる、最離間隣接射影点対に対応したバンディングを目立ちにくくすることができる。したがって、インクジェットヘッドの高い組み付け精度を要求することなく、好適な印字結果を得ることができる。
視覚伝達関数 (VTF:visual transfer function)は、空間周波数に対する人間の視覚認識の感度を表す関数であり、インクジェット方式によるハードコピーの分野においても、印字品質の良否を感覚的に判断してしまう人間の心理的要素を印字という定量的要素に加味して評価するもので、個人的ばらつきを少なくした客観的な印字品質の評価基準である。この視覚伝達関数は、多数の人間に関してサンプリングを行って実験的に求められたものである。視覚伝達関数は、特定周波数で最大値をとり、空間周波数が特定周波数から離れるほど値が小さくなるというカーブを描く。例えば、バンディングという問題を視覚伝達関数を用いて評価した場合、視覚伝達関数の最大値に対応する空間周波数をNとすると、空間周波数がNの場合に人間のバンディングに対する感度が最も高く、空間周波数がNよりも小さくなる程、またはNよりも大きくなる程バンディングに対する感度が低下する。
本発明のインクジェットヘッドにおいて、前記最離間隣接射影点対を構成する2つの射影点に対応する2つのノズルの各々が所属する2つの行の一方が前記複数の行の先頭行であり、他方が前記複数の行の最後尾行であってよい。この構成によると、最もバンディングの発生しやすい最離間隣接射影点対に対応したバンディングを目立ちにくくすることができる。
本発明のインクジェットヘッドでは、前記最離間隣接射影点対の前記一方向に関する出現間隔は、前記仮想直線上において前記複数の行の数だけ離れた2つの射影点の間隔の整数倍となる距離であってよい。この構成によると、発生したバンディングの空間周波数を大幅に低下させることができる。したがって、よりバンディングを目立ちにくくすることができる。
本発明のインクジェットヘッドでは、前記最離間隣接射影点対の前記一方向に関する出現間隔は、前記仮想直線上において前記複数の行の数だけ離れた2つの射影点の間隔の2倍以上となる距離であってよい。この構成によると、発生したバンディングの空間周波数を大幅に低下させることができる。したがって、よりバンディングを目立ちにくくすることができる。
本発明のインクジェットヘッドでは、前記複数の行の各行において、互いに異なる2つの所定間隔が交互に出現するように複数の前記ノズルが配列されていてもよい。この構成によると、ノズルの配列が規則性を有するのでインクジェットヘッドの製造が容易になる。
本発明のインクジェットヘッドにおいて、前記複数の行の各行は、複数の前記ノズルが等間隔で配列されている行、及び、互いに異なる2つの所定間隔が交互に出現するように複数の前記ノズルが配列されている行のいずれかであってよい。この構成によると、ノズルの配列が規則性を有するのでインクジェットヘッドの製造が容易になる。また、前記複数のノズルが、前記仮想直線上で連続した複数の前記射影点に係る前記ノズルの配列パターンである第1の配列パターンと、前記仮想直線上で連続した別の複数の前記射影点に係る前記ノズルの配列パターンである、前記第1の配列パターンとは異なる第2の配列パターンとが前記一方向に関して交互に出現するように配列されており、前記最離間隣接射影点対が、前記第1の配列パターンと前記第2の配列パターンとの境界を前記仮想直線上で互いに挟んで隣接する2つの前記射影点からなると共に、前記一方向に関して前記第1の配列パターンの出現間隔と同じ出現間隔で出現するものであってもよい。
この構成によると、バンディングが発生しやすい最離間隣接射影点対の出現間隔を広くすることができる。したがって、バンディングの空間周波数が小さくなる。その結果、バンディングを目立ちにくくすることができる。また、ノズルの配列が規則性を有するのでインクジェットヘッドの製造が容易になる。
本発明のインクジェットヘッドにおいて、前記最離間隣接射影点対の前記一方向に関する出現間隔に基づいて決まる空間周波数が、視覚伝達関数のピーク値に対応した空間周波数よりも小さくてもよい。この構成によると、確実にバンディングを目立ちにくくすることができる。
本発明のインクジェットヘッドでは、前記第2の配列パターンにおいて、前記一方向に関する前記他方の端部に位置するノズルが前記先頭行及び最後尾行の前記他方に所属していてよい。この構成によると、最離間隔隣接射影点対を構成する2つの射影点に対応する2つのノズルの各々が所属する2つの行が、複数行の先頭行と最後尾行になる。したがって、相対的に他の隣接射影点対によって生じるバンディングが目立ちにくくなり、その結果、最もバンディングの発生しやすい最離間隣接射影点対に対応したバンディングを目立ちにくくすることができる。
本発明のインクジェットヘッドでは、前記最離間隣接射影点対の前記一方向に関する出現間隔は、前記仮想直線上において前記複数の行の数だけ離れた2つの射影点の間隔の2倍以上となる距離であってよい。この構成によると、バンディングの空間周波数を大幅に低下させることができる。したがって、よりバンディングを目立ちにくくすることができる。
この構成によると、本発明のノズルプレートを備えたインクジェットヘッドをラインヘッドとして用いた場合に、インクジェットヘッドの取り付け角度が傾いていることによって生じる、最離間隣接射影点対に対応したバンディングを目立ちにくくすることができる。したがって、インクジェットヘッドの高い組み付け精度を要求することなく、好適な印字結果を得ることができる。
この構成によると、バンディングが発生しやすい最離間隣接射影点対の出現間隔をさらに広くできる。同時に、同じ配列パターンを繰り返しても、それらの継ぎ目でのバンディングが生じにくい。これにより、バンディングの空間周波数がさらに小さくなり、バンディングがより目立ちにくくなる。
本発明のインクジェットヘッドにおいて、前記最離間隣接射影点対の前記一方向に関する出現間隔に基づいて決まる空間周波数が、視覚伝達関数のピーク値に対応した空間周波数よりも小さくてもよい。この構成によると、確実にバンディングを目立ちにくくすることができる。
本発明のインクジェットヘッドでは、前記第2の配列パターンにおいて、前記一方向に関する前記他方の端部に位置するノズルが前記先頭行及び最後尾行の前記他方に所属していてよい。この構成によると、最離間隔隣接射影点対を構成する2つの射影点に対応する2つのノズルの各々が所属する2つの行が、複数行の先頭行と最後尾行になる。したがって、相対的に他の隣接射影点対によって生じるバンディングが目立ちにくくなり、その結果、最もバンディングの発生しやすい最離間隣接射影点対に対応したバンディングを目立ちにくくすることができる。
本発明のインクジェットヘッドでは、前記第2の配列パターンにおいて、前記先頭行及び最後尾行の前記一方に所属するノズルを挟んで、当該ノズルの所属する行から数えて偶数番目の行と奇数番目の行との何れか一方に所属するノズルが前記一方向に関する一方側に配列され、前記偶数番目の行と奇数番目の行との他方に所属するノズルが前記一方向に関する他方側に配列されている。この構成によると、異なる配列パターン間の継ぎ目以外では、どの隣接射影点対についてもその隣接射影点対に対応する行の離間を小さくすることができるので、最離間隣接射影点対に対応したバンディング以外を目立たなくすることができる。
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
〔第1の実施の形態〕
<ヘッド全体構造>
本発明の第1の実施の形態に係るインクジェットヘッドについて説明する。図1は、本実施の形態によるインクジェットヘッド1の斜視図である。図2は、図1のII−II線に沿った断面図である。インクジェットヘッド1は、用紙に対してインクを吐出するための主走査方向に延在した矩形平面形状を有するヘッド本体70と、ヘッド本体70の上方に配置され且つヘッド本体70に供給されるインクの流路である2つのインク溜まり3が形成されたリザーバユニットであるベースブロック71とを備えている。
ヘッド本体70は、インク流路が形成された流路ユニット4と、流路ユニット4の上面にエポキシ系の熱硬化性接着剤によって接着された複数のアクチュエータユニット21とを含んでいる。これら流路ユニット4及びアクチュエータユニット21は共に、複数の薄板を積層して互いに接着させた構成である。また、アクチュエータユニット21の上面には、給電部材であるフレキシブルプリント配線板(FPC:Flexible Printed Circuit)50が半田によって接着され、左又は右に引き出されている。
図3は、ヘッド本体70の平面図である。図3に示すように、流路ユニット4は、一方向(主走査方向)に延在した矩形平面形状を有している。図3において、流路ユニット4内に設けられた共通インク室であるマニホールド流路5が破線で描かれている。マニホールド流路5内へは、複数の開口3aを介してベースブロック71のインク溜まり3からインクが供給される。マニホールド流路5は、流路ユニット4の長手方向と平行に延在する複数の副マニホールド流路5aに分岐している。
流路ユニット4の上面には、平面形状が台形である4つのアクチュエータユニット21が、開口3aを避けるように、千鳥状になって2列に配列されつつ接着されている。各アクチュエータユニット21は、その平行対向辺(上辺及び下辺)が流路ユニット4の長手方向に沿うように配置されている。そして、隣接するアクチュエータユニット21の斜辺同士が、流路ユニット4の幅方向に部分的にオーバーラップしている。
アクチュエータユニット21の接着領域と対向した流路ユニット4の下面は、多数のノズル8(図6参照)がマトリクス状に配列されたインク吐出領域となっている。アクチュエータユニット21に対向する流路ユニット4の表面には、ほぼひし形の圧力室10(図6参照)がマトリクス状に配列された圧力室群9が形成されている。言い換えると、アクチュエータユニット21は、多数の圧力室10に跨る寸法を有している。
図2に戻って、ベースブロック71は、例えばステンレスなどの金属材料からなる。ベースブロック71内のインク溜まり3は、ベースブロック71の長手方向に沿って形成された略直方体の中空領域である。インク溜まり3は、その一端に設けられた開口(図示せず)を介してインクタンク(図示せず)に連通しており、常にインクで満たされている。
インク溜まり3には、その延在方向に沿って開口3bが、2つずつ対になって、アクチュエータユニット21が設けられていない領域において開口3aと接続されるように千鳥状に設けられている。
ベースブロック71の下面73は、開口3bの近傍において周囲よりも下方に飛び出している。そして、ベースブロック71は、下面73の開口3bの近傍に設けられた開口近傍部分73aにおいてのみ流路ユニット4と接触している。そのため、ベースブロック71の下面73の開口近傍部分73a以外の領域は、ヘッド本体70から離隔しており、この離隔部分にアクチュエータユニット21が配されている。
ベースブロック71は、ホルダ72の把持部72aの下面に形成された凹部内に接着固定されている。ホルダ72は、把持部72aと、把持部72aの上面からこれと直交する方向に所定間隔をなして延出された平板状の一対の突出部72bとを含んでいる。アクチュエータユニット21に接着されたFPC50は、スポンジなどの弾性部材83を介してホルダ72の突出部72b表面に沿うようにそれぞれ配置されている。そして、ホルダ72の突出部72b表面に配置されたFPC50上にドライバIC80が設置されている。
FPC50は、ドライバIC80から出力された駆動信号をヘッド本体70のアクチュエータユニット21に伝達するように、両者とハンダ付けによって電気的に接合されている。
ドライバIC80の外側表面には略直方体形状のヒートシンク82が密着配置されているため、ドライバIC80で発生した熱を効率的に散逸させることができる。ドライバIC80及びヒートシンク82の上方であって、FPC50の外側には、基板81が配置されている。ヒートシンク82の上面と基板81との間、および、ヒートシンク82の下面とFPC50との間は、それぞれシール部材84で接着されている。
図4は、図3内に描かれた一点鎖線で囲まれた領域の拡大図である。図4に示すように、アクチュエータユニット21に対向した流路ユニット4内には、流路ユニット4の長手方向と平行に8本の副マニホールド流路5aが延在している。各副マニホールド流路5aには、その出口からノズル8に至る多数の個別インク流路が接続されている。図6は、個別インク流路を示す断面図である。図6から分かるように、各ノズル8は、圧力室10(ここでは、図4に描かれた圧力室10a、10b、10c、10dを代表して圧力室10と記載する)及びアパーチャすなわち絞り13を介して副マニホールド流路5aと連通している。このようにして、ヘッド本体70には、副マニホールド流路5aの出口からアパーチャ13、圧力室10を経てノズル8に至る個別インク流路7が圧力室10ごとに形成されている。
<ヘッド断面構造>
ヘッド本体70は、図6からも分かるように、上から、アクチュエータユニット21、キャビティプレート22、ベースプレート23、アパーチャプレート24、サプライプレート25、マニホールドプレート26、27、28、カバープレート29及びノズルプレート30の合計10枚のシート材が積層された積層構造を有している。これらのうち、アクチュエータユニット21を除いた9枚のプレートから流路ユニット4が構成されている。
アクチュエータユニット21は、後で詳述するように、4枚の圧電シート41〜44(図8参照)が積層され且つ電極が配されることによってそのうちの最上層だけが電界印加時に活性部となる部分を有する層(以下、単に「活性部を有する層」というように記する)とされ、残り3層が活性部を有しない非活性層とされたものである。キャビティプレート22は、圧力室10の空隙を構成するほぼ菱形の孔が、アクチュエータユニット21の貼付範囲内に多数設けられた金属プレートである。ベースプレート23は、キャビティプレート22の1つの圧力室10について、圧力室10とアパーチャ13との連絡孔23a及び圧力室10からノズル8への連絡孔23bがそれぞれ設けられた金属プレートである。
アパーチャプレート24は、キャビティプレート22の1つの圧力室10について、アパーチャ13となる孔のほかに圧力室10からノズル8への連絡孔がそれぞれ設けられた金属プレートである。サプライプレート25は、キャビティプレート22の1つの圧力室10について、アパーチャ13と副マニホールド流路5aとの連絡孔及び圧力室10からノズル8への連絡孔がそれぞれ設けられた金属プレートである。マニホールドプレート26、27、28は、副マニホールド流路5aに加えて、キャビティプレート22の1つの圧力室10について、圧力室10からノズル8への連絡孔がそれぞれ設けられた金属プレートである。カバープレート29は、キャビティプレート22の1つの圧力室10について、圧力室10からノズル8への連絡孔がそれぞれ設けられた金属プレートである。ノズルプレート30は、キャビティプレート22の1つの圧力室10について、ノズル8がそれぞれ設けられた金属プレートである。
これら10枚のシート21〜30は、図6に示すような個別インク流路7が形成されるように、互いに位置合わせして積層されている。この個別インク流路7は、副マニホールド流路5aからまず上方へ向かい、アパーチャ13において水平に延在し、それからさらに上方に向かい、圧力室10において再び水平に延在し、それからしばらくアパーチャ13から離れる方向に斜め下方に向かってから垂直下方にノズル8へと向かう。
図6から明らかなように、各プレートの積層方向において圧力室10とアパーチャ13とは異なるレベルに設けられている。これにより、図4に示すように、アクチュエータユニット21に対向した流路ユニット4内において、1つの圧力室10と連通したアパーチャ13を、当該圧力室に隣接する別の圧力室10と平面視で重複する位置に配置することが可能となっている。この結果、圧力室10同士が密着して高密度に配列されるため、比較的小さな占有面積のインクジェットヘッド1により高解像度の画像印刷が実現される。
ベースプレート23及びマニホールドプレート28の上下面と、サプライプレート25及びマニホールドプレート26、27の上面と、カバープレート29の下面には、余分な接着剤を流すための逃し溝14が、各プレートの接合面に形成された開口を取り囲むように設けられている。この逃し溝14があることによって、プレートどうしを接着する際の接着剤が個別インク流路内にはみ出して流路抵抗が変動することが防止される。
<流路ユニットの詳細>
図4に戻って、アクチュエータユニット21の貼付範囲内には、多数の圧力室10からなる圧力室群9が形成されている。圧力室群9は、アクチュエータユニット21の貼付範囲とほぼ同じ大きさの台形形状を有している。圧力室群9は、各アクチュエータユニット21について1つずつ形成されている。
図4から明らかなように、圧力室群9に属する各圧力室10は、その長い対角線の一端においてノズル8に連通されていると共に、長い対角線の他端においてアパーチャ13を介して副マニホールド流路5aに連通されている。後述するように、アクチュエータユニット21上には、平面形状がほぼひし形で圧力室10よりも一回り小さい個別電極35(図7及び図8参照)が、圧力室10と対向するようにマトリクス状に配列されている。なお、図4において、図面を分かりやすくするために、流路ユニット4にあって破線で描くべき、ノズル8、圧力室10及びアパーチャ13等を実線で描いている。
圧力室10は、配列方向A(第1の方向)及び配列方向B(第2の方向)の2方向にマトリクス状に隣接配置されている。配列方向Aは、インクジェットヘッド1の長手方向、すなわち流路ユニット4の延在方向であって、圧力室10の短い方の対角線と平行である。配列方向Bは、配列方向Aと鈍角θをなす圧力室10の一斜辺方向である。そして、圧力室10の両方の鋭角部は、隣接する別の2つの圧力室の間に位置している。なお、配列方向Aは主走査方向と平行である。
配列方向A及び配列方向Bの2方向にマトリクス状に隣接配置された圧力室10は、配列方向Aに沿って37.5dpiに相当する距離ずつ離隔している。また、圧力室10は、1つのアクチュエータユニット21内において、配列方向Bに16個並べられている。
マトリクス状に配置された多数の圧力室10は、図4に示す配列方向Aに沿って、複数の圧力室列を形成している。圧力室列は、図4の紙面に対して垂直な方向(第3の方向)から見た副マニホールド流路5aとの相対位置に応じて、第1の圧力室列11a、第2の圧力室列11b、第3の圧力室列11c、及び、第4の圧力室列11dに分けられる。これら第1〜第4の圧力室列11a〜11dは、アクチュエータユニット21の上辺から下辺に向けて、11c→11d→11a→11b→11c→11d→…→11bという順番で周期的に4個ずつ配置されている。
第1の圧力室列11aを構成する圧力室10a及び第2の圧力室列11bを構成する圧力室10bにおいては、第3の方向から見て、配列方向Aと直交する方向(第4の方向)に関して、ノズル8が図4の紙面下側に偏在している。第4の方向は副走査方向と平行である。具体的には、圧力室10aについては、ノズル8が、第3の方向から見て、圧力室10aの下端鋭角部とほぼ対向している。圧力室10bについては、ノズル8が、第3の方向から見て、圧力室10bの下端鋭角部の右下に隣接する圧力室10cの長手方向中央部と対向している。一方、第3の圧力室列11cを構成する圧力室10c及び第4の圧力室列11dを構成する圧力室10dにおいては、第3の方向から見て、第4の方向に関して、ノズル8が図4の紙面上側に偏在している。具体的には、圧力室10cについては、ノズル8が、第3の方向から見て、圧力室10cの上端鋭角部からやや左上に離隔した位置に対向している。圧力室10dについては、ノズル8が、第3の方向から見て、圧力室10dの上端鋭角部の右上に隣接する圧力室10cの長手方向下端近傍部と対向している。
第1及び第4の圧力室列11a、11dにおいては、第3の方向から見て、圧力室10a、10dの半分以上の領域が、副マニホールド流路5aと重なっている。第2及び第3の圧力室列11b、11cにおいては、第3の方向から見て、圧力室10b、10cのほぼ全領域が、副マニホールド流路5aと重なっていない。そのため、いずれの圧力室列に属する圧力室10についてもこれに連通するノズル8が副マニホールド流路5aと重ならないようにしつつ、副マニホールド流路5aの幅を可能な限り広くして各圧力室10にインクを円滑に供給することが可能となっている。
図5(a)は、図4に描かれたノズルプレート30に形成されたノズルのみを抜き出して模式的に描いた図である。図5(a)に示すように、ノズル8によって、配列方向Aに平行な複数の行が形成されている。ここで、圧力室10aに連通している複数のノズル8によって形成される行をノズル配列行12a、圧力室10bに連通している複数のノズル8によって形成される行をノズル配列行12b、圧力室10cに連通している複数のノズル8によって形成される行をノズル配列行12c、圧力室10dに連通している複数のノズル8によって形成される行をノズル配列行12dとする。ノズル配列行12a〜12dは合計16行形成されており、図5(a)の紙面上方の先頭行はノズル配列行12cであり、紙面下方に向けて12d→12a→12c→12b→12d→12a→…→12aという順番で周期的に14行並び、最後尾行の16行目は12bとなっている。
本実施の形態に係るインクジェットヘッド1において、共に配列方向Aに37.5dpiに相当する幅(678.0μm)を有し、第4の方向に延在しており、互いに隣接する2つの帯状領域R11、R12について考える。各帯状領域R11、R12の中では、図5(a)に示した16行のノズル配列行12a〜12dの内の何れの行についても、1つのノズル8しか配列されていない。すなわち、1つのアクチュエータユニット21に対応したインク吐出領域内の任意の位置に、このような帯状領域R11、R12を区画した場合、この帯状領域R11、R12内には、常にそれぞれ16個のノズル8が分布している。そして、これら各16個の各ノズル8を配列方向Aに延びる仮想直線L上に第4の方向から射影した射影点P1、P2、…、P16の位置は、印字時の解像度である600dpiに相当する間隔ずつ等間隔に離隔している。
1つの帯状領域R11に属する16個のノズル8を配列方向Aに延びる仮想直線L上に射影した射影点が左にあるものから順に番号(1)〜(16)を付して記することにしたとき、これら16個のノズル8は、下から、(1)、(2)、(3)、(4)、…、(16)の順番に並んでいる。つまり、図5(a)に示すように、帯状領域R11内では16個のノズル8が左下から右上に向かってほぼ一直線状に並んでいる。以下の説明において、帯状領域R11内におけるノズル8の配列パターンを、配列パターンAP11と称する。この配列パターンAP11は、配列方向Aに関して左端に位置するノズル8が最後尾行に属し、一方の右端に位置するノズル8が先頭行に属している点に特徴がある。
また、1つの帯状領域R12に属する16個のノズル8を配列方向Aに延びる仮想直線L上に射影した射影点が左にあるものから順に番号(1)〜(16)を付して記することにしたとき、これら16個のノズル8は、下から、(8)、(9)、(7)、(10)、(6)、(11)、(5)、(12)、(4)、(13)、(3)、(14)、(2)、(15)、(1)、(16)の順に並んでいる。つまり、図5(a)に示すように、帯状領域R12内では、下に凸となるようにほぼV字状に16個のノズル8が並んでいる。以下の説明において、帯状領域R12内におけるノズル8の配列パターンを、配列パターンAP12と称する。この配列パターンAP12は、配列方向Aに関して右端に位置するノズル8が先頭行に属し、一方の左端に位置するノズル8は最後尾行以外の行に属する点に特徴がある。また、左端から8番目の射影点に係わるノズル8が最後尾行に属し、左端に位置するノズル8が先頭行から1行分最後尾側に寄った行に属している。
帯状領域R11と帯状領域R12は交互に現れる。つまり、配列パターンAP11及び配列パターンAP12は、配列方向Aに関して交互に出現する。したがって、各ノズル配列行12a〜12dにおいて、ノズル8は、互いに異なる2つの所定間隔で交互に出現する。
帯状領域R11内のノズル8に対応して仮想直線L上で隣接した2つの射影点に対応する2つのノズル8が所属する行は、どの2つの射影点についても1行ずれているだけである。一方、帯状領域R12内のノズルに対応して仮想直線L上で隣接した2つの射影点に対応する2つのノズル8が所属する行は、射影点P8とP9について1行ずれている以外は、どの2つの射影点についても2行ずれている。すなわち、V字型のノズル配列をする帯状領域R12内では、最後尾行のノズル8に対応する射影点P8を中心に、左側にある射影点に係わるノズル8は配列方向Aの方向に紙面(図5参照)左上から右下に順次変位しながら配置され、一方の右側にある射影点に係わるノズル8は逆に紙面左下から右上に順に変位しながら配置されている。また、配列方向Aと直交する方向においては、射影点P8に隣接して射影点P9に係わるノズル8が配置され、さらに、先頭行方向について、射影点P8の左側にある射影点に係わるノズル8と右側にある射影点に係わるノズル8とが交互に、且つ射影点P8に対応するノズル8に近いものから順に配置されている。そのため、仮想直線L上の全ての射影点を対象としたとき、仮想直線L上で隣接する2つの射影点からなる複数の隣接射影点対のうちで、対応する2つのノズル8の各々が所属する2つの行が最も離れているのは、帯状領域R11の左端に対応する射影点P1と帯状領域R12の右端に対応する射影点P16とからなる隣接射影点対(最離間隣接射影点対)である。最離間隣接射影点対については、対応する2つのノズル8の所属する行が15行ずれている。最離間隣接射影点対は、配列方向Aに沿って周期的に出現する。その出現間隔は、37.5dpiの半分である18.75dpiに相当する距離であり、この距離を空間周波数で表すと0.74/mmになる。
また、図4に示されるように、ヘッド本体70には、台形である圧力室群9の対となる平行辺のうちの長辺に沿って、圧力室10と同じ形状及び同じ大きさを有する多数の周縁空隙15が長辺の全域に亘って一直線状に配列されている。周縁空隙15は、キャビティプレート22に形成された圧力室10と同じ形状及び同じ大きさを有する孔がアクチュエータユニット21及びベースプレート23によって塞がれることによって画定されている。つまり、周縁空隙15にはインク流路が接続されておらず、しかも周縁空隙15には対向する個別電極35が設けられていない。つまり、周縁空隙15はインクで満たされることがない。
また、ヘッド本体70には、台形である圧力室群9の対となる平行辺のうちの短辺に沿って、多数の周縁空隙16が短辺の全域に亘って一直線状に配列されている。さらに、ヘッド本体70には、台形である圧力室群9の両斜辺に沿って、多数の周縁空隙17が両斜辺の全域に亘って一直線状に配列されている。周縁空隙16、17は、共に平面視正三角形の領域においてキャビティプレート22を貫通している。周縁空隙16、17にはインク流路が接続されておらず、しかも周縁空隙16、17には対向する個別電極35が設けられていない。つまり、周縁空隙15と同様、周縁空隙16、17はインクで満たされることがない。
<アクチュエータユニットの詳細>
次に、アクチュエータユニット21の構成について説明する。アクチュエータユニット21上には、圧力室10と同じパターンで多数の個別電極35がマトリクス状に配置されている。各個別電極35は、平面視において圧力室10と重複する位置に配置されている。
図7は個別電極35の平面図である。図7に示すように、個別電極35は、圧力室10と重複する位置に配置されて平面視において圧力室10内に収容される主電極領域35aと、主電極領域35aにつながっており且つ平面視において圧力室10外に配置された補助電極領域35bとから構成されている。
図8は、図7のVII−VII線に沿った断面図である。図8に示すように、アクチュエータユニット21は、それぞれ厚みが15μm程度で同じになるように形成された4枚の圧電シート41、42、43、44を含んでいる。これら圧電シート41〜44は、ヘッド本体70内の1つのインク吐出領域内に形成された多数の圧力室10に跨って配置されるように連続した層状の平板(連続平板層)となっている。圧電シート41〜44が連続平板層として多数の圧力室10に跨って配置されることで、例えばスクリーン印刷技術を用いることにより圧電シート41上に個別電極35を高密度に配置することが可能となっている。そのため、個別電極35に対応する位置に形成される圧力室10をも高密度に配置することが可能となって、高解像度画像の印刷ができるようになる。圧電シート41〜44は、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなるものである。
最上層の圧電シート41上に形成された個別電極35の主電極領域35aは、図7に示すように、圧力室10とほぼ相似である略菱形の平面形状を有している。略菱形の主電極領域35aにおける下方鋭角部は延出されて、圧力室10外に対向する補助電極領域35bにつながっている。補助電極領域35bの先端には、個別電極35と電気的に接続された円形のランド部36が設けられている。図8に示すように、ランド部36は、キャビティプレート22において圧力室10が形成されていない領域に対向している。ランド部36は、例えばガラスフリットを含む金からなり、図7に示すように、補助電極領域35bにおける延出部表面上に接着されている。図8ではFPC50の図示を省略しているものの、ランド部36は、FPC50に設けられた接点と電気的に接合されている。この接合を行う際に、FPC50の接点を、ランド部36に対して押圧する必要がある。ランド部36に対向するキャビティプレート22の領域に、圧力室10が形成されていないため、十分な押圧により確実な接合を行うことができる。
最上層の圧電シート41とその下側の圧電シート42との間には、圧電シート41と同じ外形及び略2μmの厚みを有する共通電極34が介在している。個別電極35及び共通電極34は共に、例えばAg−Pd系などの金属材料からなる。
共通電極34は、図示しない領域において接地されている。これにより、共通電極34は、すべての圧力室10に対応する領域において等しく一定の電位、本実施の形態ではグランド電位に保たれている。また、個別電極35は、各圧力室10に対応するものごとに電位を制御することができるように、各個別電極35に対応して独立した複数のリード線を含むFPC50を介してドライバIC80に接続されている。
<アクチュエータユニットの駆動方法>
次に、アクチュエータユニット21の駆動方法について述べる。アクチュエータユニット21における圧電シート41の分極方向はその厚み方向である。つまり、アクチュエータユニット21は、上側(つまり、圧力室10とは離れた)1枚の圧電シート41を活性部が存在する層とし且つ下側(つまり、圧力室10に近い)3枚の圧電シート42〜44を非活性層とした、いわゆるユニモルフタイプの構成となっている。従って、個別電極35を正又は負の所定電位とすると、例えば電界と分極とが同方向であれば圧電シート41中の電極に挟まれた電界印加部分が活性部(圧力発生部)として働き、圧電横効果により分極方向と直角方向に縮む。
本実施の形態では、圧電シート41において主電極領域35aと共通電極34とによって挟まれた部分は、電界が印加されると圧電効果によって歪みを発生する活性部として働く。一方、圧電シート41の下方にある3枚の圧電シート42〜44は、外部から電界が印加されることが無く、そのために活性部としてほとんど機能しない。したがって、圧電シート41において主に主電極領域35aと共通電極34とによって挟まれた部分が、圧電横効果により分極方向と直角方向に縮む。
一方、圧電シート42〜44は、電界の影響を受けないため自発的には変位しないので、上層の圧電シート41と下層の圧電シート42〜44との間で、分極方向と垂直な方向への歪みに差を生じることとなり、圧電シート41〜44全体が非活性側に凸となるように変形しようとする(ユニモルフ変形)。このとき、図8に示したように、圧電シート41〜44で構成されたアクチュエータユニット21の下面は圧力室を区画する隔壁(キャビティプレート)22の上面に固定されているので、結果的に圧電シート41〜44は圧力室側へ凸になるように変形する。このため、圧力室10の容積が低下して、インクの圧力が上昇し、ノズル8からインクが吐出される。その後、個別電極35を共通電極34と同じ電位に戻すと、圧電シート41〜44は元の形状になって圧力室10の容積が元の容積に戻るので、インクを副マニホールド流路5a側から吸い込む。
なお、他の駆動方法として、予め個別電極35を共通電極34と異なる電位にしておき、吐出要求があるごとに個別電極35を共通電極34と一旦同じ電位とし、その後所定のタイミングにて再び個別電極35を共通電極34と異なる電位にすることもできる。この場合は、個別電極35と共通電極34とが同じ電位になるタイミングで、圧電シート41〜44が元の形状に戻ることにより、圧力室10の容積は初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加し、インクが副マニホールド流路5a側から圧力室10内に吸い込まれる。その後再び個別電極35を共通電極34と異なる電位にしたタイミングで、圧電シート41〜44が圧力室10側へ凸となるように変形し、圧力室10の容積低下によりインクへの圧力が上昇し、インクが吐出される。上述のようなインクジェットヘッド1において、アクチュエータユニット21を印字媒体の搬送に合わせて適宜駆動させると、600dpiの解像度を有する文字や図形等を描画することができる。
<印字時の動作例>
印字時の動作例として、600dpiの解像度で配列方向Aに延びる直線を印字する場合を説明する。尚、ここでは、印刷媒体がヘッド本体70に対して図5(a)における下側から上側に搬送されるものとする。帯状領域R11内の16個のノズル8については、印字媒体が搬送されるのに対応して、図5(a)中1番下のノズル配列行12bに属するノズル(1)からインクの吐出を始め、順次ノズル(2)、(3)、(4)というように1つ上の行に属するノズル8を選択してインクを吐出する。このとき、下側から上側に1ノズル配列行上がるごとのノズル位置の配列方向Aへの変位が同じなので、帯状領域R11に対応した範囲では、インクのドットが配列方向A右側に向かって順次600dpiの間隔で等間隔に隣接しながら形成されていく。
一方、帯状領域R12内の16個のノズル8については、印字媒体が搬送されるのに対応して、図5(a)中1番下のノズル配列行12bに配列されるノズル8からインクの吐出を始め、順次1つ上の行に属するノズル8を選択してインクを吐出する。このとき、下側から上側に1ノズル配列行上がるごとのノズル位置の配列方向Aへの変位が同じでないので、帯状領域R12に対応した範囲では、印字媒体が搬送されるのに伴って配列方向Aに沿って順次形成されるインクのドットは、600dpiの間隔で等間隔にはならない。
すなわち、図5(a)に示したように、印字媒体が搬送されるのに対応して、まず図中一番下のノズル配列行12bに配列されるノズル(8)からインクが吐出され、印字媒体上にドット列が形成される。この後、印字媒体の搬送に伴って、直線の形成位置が下から2番目のノズル配列行12aに配列されるノズル(9)の位置に達すると、このノズル(9)からインクが吐出される。これにより、始めに形成されたドット位置から600dpiに相当する間隔分だけ配列方向A左側に変位した位置に2番目のインクドットが形成される。
次に、印字媒体の搬送に伴って、直線の形成位置が下から3番目のノズル配列行12dに配列されるノズル(7)の位置に達すると、ノズル(7)からインクが吐出される。これにより、始めに形成されたドット位置から600dpiに相当する間隔分だけ配列方向A左側に変位した位置に3番目のインクドットが形成される。さらに、印字媒体の搬送に伴って、直線の形成位置が下から4番目のノズル配列行12bに配列されるノズル(10)の位置に達すると、ノズル(10)からインクが吐出される。これにより、始めに形成されたドットの位置から600dpiに相当する間隔分の2倍だけ配列方向A右側に変位した位置に4番目のインクドットが形成される。さらに、印字媒体の搬送に伴って、直線の形成位置が下から5番目のノズル配列行12cに配列されるノズル(6)の位置に達すると、ノズル(6)からインクが吐出される。これにより、始めに形成されたドット位置から600dpiに相当する間隔分の2倍のだけ配列方向A左側に変位した位置に5番目のインクドットが形成される。
以下同様にして、順次図中下側から上側に位置するノズル配列行に配列されるノズル8を選択しながらインクドットが形成されていく。このとき、図5(a)中に示したノズル8の番号をNとすると、(倍率n=N−8)×(600dpiに相当する間隔)に相当する分だけ、始めに形成されたドット位置から配列方向Aに変位した位置にインクドットが形成される。ただし、倍率nの符号は、正の場合に配列方向A右側に変位し、負の場合に配列方向A左側に変位することを表す。最終的に16個のノズル8を選択し終わったときには、図中一番下のノズル配列行12b中のノズル(8)により形成されたインクドットの配列方向A右側に8個、配列方向A左側に7個のドットが600dpiに相当する間隔毎に離れて形成される。帯状領域R11内のノズル8と帯状領域R12内のノズル8とは、同じ行に属しているのであれば同時にインクを吐出する。その結果、全体で600dpiの解像度で配列方向Aに延びる直線を描くことが可能になっている。
なお、各インク吐出領域の配列方向Aについての両端部(アクチュエータユニット21の斜辺)近傍では、ヘッド本体70の幅方向に対向する別のアクチュエータユニット21に対応するインク吐出領域の配列方向Aについての両端部近傍と相補関係となることで2つのアクチュエータユニット21による配列方向Aに連続した600dpiの解像度での印刷が可能となっている。
印字時の別の動作例として、600dpiの間隔で等間隔に隣接する副走査方向(第4の方向)に延びる多数の直線を印字する場合を説明する。この場合、帯状領域R11、R12のいずれにあるノズル8についても、各ノズル8から短い吐出間隔で順次インクを吐出する。図5(b)は、インクジェットヘッド1がほとんど傾くことなく高精度に組み付けられた場合における印字例である。600dpiの解像度でこのような多数の直線が印刷された範囲は、塗りつぶされた領域であるかのように観察されるが、ここでは説明のために多数の線の集合として示している。図5(b)からも分かるように、この場合には、印字面にバンディングが現れない。
また、図5(c)は、インクジェットヘッド1の組み付け角度が僅かに傾いていて、副走査方向と配列方向Aとが直交していない場合の印字例である。図5(c)からも分かるように、この場合には、印字面にバンディング91が現れている。このバンディング91は最離間隣接射影点対に対応した位置に現れている。したがって、バンディング91の出現間隔は、最離間隣接射影点対の配列方向Aにおける間隔と同じく、18.75dpiに相当する距離となる。このようにバンディング91が最離間隣接射影点対に対応した位置に現れるのは、インクジェットヘッド1の組み付け角度が傾いたとき、隣接した2つの射影点に対応した2つのノズルの属する行が離れているほど印字された隣接2直線間の距離が大きくなるからである。
図9に、バンディングの出現間隔に基づいて決まる空間周波数と、空間周波数に対する人間の視覚認識の感度との関係を表す関数である視覚伝達関数を描いたグラフを示す。図9に描かれた視覚伝達関数(VTF)曲線は、xを観察距離、fを空間周波数として、VTF=5.05*exp{−0.138*x*f*π/180}*{1−exp(−0.1*x*f*π/180)}という式から求められたものである。
図9に示す視覚伝達関数では、空間周波数が約1/mmであるときに感度が最大値をとる。つまり、バンディングは、その空間周波数が1/mm程度である場合に最も目立つ。
そして、空間周波数が1/mmよりも小さくなる程、または、大きくなる程、視覚認識の感度は小さくなり、バンディングは目立ちにくくなる。
本実施の形態では、最離間隣接射影点対及びこれに対応したバンディング91の空間周波数が約0.74/mmである。このとき、視覚伝達関数の感度の値は、空間周波数1/mmのときが1であるのに対して、0.9程度である。したがって、空間周波数1/mmのときよりも、印字媒体上に形成されるバンディングを目立ちにくくすることができる。
その結果、インクジェットヘッド1を高精度で組み付けなくても、見た目の画質劣化が抑制された好適な印字結果を得ることができる。しかも、インクジェットヘッド1の組み付けに要するコストを低下させることができ、低コストでのプリンタ製造が可能となる。
特に、本実施の形態では、最離間隣接射影点対を構成する2つの射影点に対応する2つのノズル8の各々が所属する2つの行が16行のうちの最外側行(先頭行と最後尾行)であるため、わずかにヘッドが傾いただけでもバンディングが発生しやすく、バンディング自体の幅も大きくなる。しかし、その反面、最離間隣接射影点対以外の隣接射影点対によるバンディングが相対的に目立たなくなるため、視覚によりバンディングとして認識されるものは、最離間隣接射影点対によるもののみとなる。このため、空間周波数がより小さくなり、結果として、バンディングを目立ちにくくすることができる。
また、最離間隣接射影点対の配列方向Aに関する出現間隔は、各帯状領域R11、R12の幅(37.5dpi)の2倍となる距離である。したがって、インクジェットヘッド1の取り付け角度が傾いていることによって生じる、バンディング91の空間周波数を大幅に低下させることができる。その結果、よりバンディングを目立ちにくくすることができる。
また、各ノズル配列行12a〜12dには、互いに異なる2つの所定間隔が交互に出現するように多数のノズル8が配列されている。したがって、ノズル8の配列が規則性を有するのでインクジェットヘッド1の製造、特にノズル8が形成されるノズルプレート30の製造が容易になる。
バンディングを目立ちにくくする観点から、バンディング91の空間周波数は約0.74/mmよりも小さい程よい。例えば、空間周波数は約0.65/mm(最大感度値の80%に対応した空間周波数)以下であることがより好ましく、約0.5/mm(最大感度値の70%に対応した空間周波数)以下であることがさらに好ましい。バンディング91の空間周波数をより小さくするには、最離間隣接射影点対の出現間隔を大きくすればよい。
〔第2の実施の形態〕
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態によるインクジェットヘッドの構成は、ノズルの配列以外は、第1の実施の形態と同様であって、図1〜図8で説明したものと同じである。そこで、以下の説明では、両者の相違点に焦点を当てて説明することとし、可能な限りにおいて重複する説明を省略する。
図10(a)は、ノズルプレート30に形成されたノズル8の配列を示す模式図であって、第1の実施の形態の図5(a)に対応する。多数のノズル8は、第1の実施の形態と同様に、配列方向Aに平行な16行のノズル配列行12a〜12d上に配列されている。
共に配列方向Aに37.5dpiに相当する幅(678.0μm)を有し、配列方向Aと直交する方向(第4の方向)に延在しており、互いに隣接する3つの帯状領域R21、R22、R23について考える。各帯状領域R21、R22、R23の中では、図10(a)に示した16行のノズル配列行12a〜12dの内の何れの行についても、1つのノズルしか配列されていない。すなわち、1つのアクチュエータユニット21に対応したインク吐出領域内の任意の位置に、このような帯状領域R21、R22を区画した場合、この帯状領域R21、R22内には、常にそれぞれ16個のノズル8が分布している。そして、これら各16個の各ノズル8を配列方向Aに延びる仮想直線L上に第4の方向から射影した射影点P1、P2、…、P16の位置は、印字時の解像度である600dpiに相当する間隔ずつ等間隔に離隔している。
1つの帯状領域R21に属する16個のノズル8を配列方向Aに延びる仮想直線L上に射影した位置が左にあるものから順に番号(1)〜(16)を付して記することにしたとき、これら16個のノズル8は、下から、(16)、(15)、(14)、(13)、…、(1)の順番に並んでいる。つまり、図10(a)に示すように、帯状領域R21内ではノズル8が左上から右下に向かってほぼ一直線状に並んでいる。以下の説明において、帯状領域R21内でのノズル8の配列を配列パターンAP21とする。
また、1つの帯状領域R22に属する16個のノズル8の配列方向Aに延びる直線上に射影した位置が左にあるものから順に、番号(1)〜(16)を付して記することにしたとき、これら16個のノズル8は、下から、(16)、(15)、(14)、(13)、(12)、(11)、(10)、(9)、(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)の順に並んでいる。つまり、図10(a)に示すように、帯状領域R22内の左上部分では8個のノズル8(1)〜(8)が左下から右上に向かってほぼ一直線状に、また、帯状領域R22内右下部分では8個のノズル8(9)〜(16)が右下から左上に向かってほぼ一直線状に並んでいる。帯状領域R22の右下部分にある8個のノズル8(9)〜(16)の当該領域内での相対位置は、帯状領域R21の右下部分にある8個のノズル8(9)〜(16)の当該領域内での相対位置とそれぞれ同じである。また、1つの帯状領域R23に属する16個のノズル8の配列は、帯状領域R22内と同様である。以下の説明において、帯状領域R22及びR23内に分布する32個のノズル8の配列を配列パターンAP22とする。
帯状領域R21、R22、R23は、R21→R22→R23→R21→R22→R23→…の順番で、繰り返して規則的に形成されている。つまり、配列パターンAP21と配列パターンAP22とは、配列方向Aに関して交互に出現する。したがって、16行のノズル配列行のうち下8行の各ノズル配列行上では、ノズル8が等間隔で出現し、上8行のノズル配列行上では、ノズル8は、互いに異なる2つの所定間隔で交互に出現する。
帯状領域R21内のノズル8に対応して仮想直線L上で隣接した2つの射影点に対応する2つのノズル8が所属する行は、どの2つの射影点についても1行ずれているだけである。一方、帯状領域R22、R23内のノズルに対応して仮想直線L上で隣接した2つの射影点に対応する2つのノズル8が所属する行は、射影点P8とP9について8行ずれている以外は、どの2つの射影点についても1行ずれている。また、帯状領域R21の右端に対応する射影点P16と帯状領域R22の左端に対応する射影点P1とからなる隣接射影点対、及び、帯状領域R22の右端に対応する射影点P16と帯状領域R23の左端に対応する射影点P1とからなる隣接射影点対については、対応する2つのノズル8の所属する行が8行ずれている。そのため、仮想直線L上の全ての射影点を対象としたとき、仮想直線L上で隣接する2つの射影点からなる複数の隣接射影点対のうちで、対応する2つのノズル8の各々が所属する2つの行が最も離れているのは、帯状領域R21の左端に対応する射影点P1と帯状領域R23の右端に対応する射影点P16とからなる隣接射影点対(最離間隣接射影点対)である。最離間隣接射影点対については、対応する2つのノズル8の所属する行が14行ずれている。最離間隣接射影点対は、配列方向Aに沿って周期的に出現する。その出現間隔は、37.5dpiの1/3である12.5dpiに相当する距離であり、この距離を空間周波数で表すと0.49/mmになる。
印字時の動作例として、600dpiの解像度で配列方向Aに延びる直線を印字する場合を説明する。帯状領域R21内の16個のノズル8については、印字媒体が搬送されるのに対応して、図10(a)中1番下のノズル配列行12bに属するノズル(16)からインクの吐出を始め、順次ノズル(15)、(14)、(13)というように1つ上の行に属するノズル8を選択してインクを吐出する。このとき、下側から上側に1ノズル配列行上がるごとのノズル位置の配列方向Aへの変位が同じなので、帯状領域R21に対応した範囲では、インクのドットが配列方向A右側に向かって順次600dpiの間隔で等間隔に隣接しながら形成されていく。
一方、各帯状領域R22、R23内の16個のノズル8については、印字媒体が搬送されるのに対応して、図10(a)中1番下のノズル配列行12bに配列されるノズル(16)からインクの吐出を始め、順次1つ上の行に属するノズル8を選択してインクを吐出する。このとき、ノズル(9)までは、下側から上側に1ノズル配列行上がるごとに、ノズル位置は600dpiに相当する間隔ずつ配列方向A左側に変位する。それが、ノズル(9)からノズル(1)では、ノズル位置は8×(600dpiに相当する間隔)に相当する距離だけ配列方向A左側に変位する。その後、下側から上側に1ノズル配列行上がるごとに、ノズル位置は、600dpiに相当する間隔ずつ配列方向A右側に変位する。帯状領域R21、R22、R23内のノズル8は、同じ行に属しているのであれば同時にインクを吐出する。その結果、全体で600dpiの解像度で配列方向Aに延びる直線を描くことが可能になっている。
印字時の別の動作例として、600dpiの間隔で等間隔に隣接する副走査方向(第4の方向)に延びる多数の直線を印字する場合を説明する。この場合、帯状領域R21、R22、R23のいずれにあるノズル8についても、各ノズル8から短い吐出間隔で順次インクを吐出する。図10(b)は、インクジェットヘッド1がほとんど傾くことなく高精度に組み付けられた場合における印字例である。600dpiの解像度でこのような多数の直線が印刷された範囲は、塗りつぶされた領域であるかのように観察されるが、ここでは説明のために多数の線の集合として示している。図10(b)からも分かるように、この場合には、印字面にバンディングが現れない。
また、図10(c)は、インクジェットヘッド1の組み付け角度が僅かに傾いていて、副走査方向と配列方向Aとが直交していない場合の印字例である。図10(c)からも分かるように、この場合には、印字面にバンディング92が現れている。このバンディング92は最離間隣接射影点対に対応した位置に現れている。したがって、バンディング91の出現間隔は、最離間隣接射影点対と同じく、12.5dpiに相当する距離となる。したがって、本実施の形態において、最離間隣接射影点対及びこれに対応したバンディング92の空間周波数は、約0.49/mmである。このとき、図9を参照すると、視覚伝達関数の感度の値は、空間周波数1/mmのときが1であるのに対して、0.65程度である。したがって、空間周波数1/mmのときよりも、印字媒体上に形成されるバンディングを大幅に目立ちにくくすることができる。その結果、インクジェットヘッド1を高精度で組み付けなくても、見た目の画質劣化が抑制された好適な印字結果を得ることができる。
特に、本実施の形態では、最離間隣接射影点対を構成する2つの射影点に対応する2つのノズル8の各々が所属する2つの行が16行のうちの最外側行(先頭行と最後尾行)であるため、わずかにヘッドが傾いただけでもバンディングが発生しやすく、バンディング自体の幅も大きくなる。しかし、その反面、最離間隣接射影点対以外の隣接射影点対によるバンディングが相対的に目立たなくなるため、視覚によりバンディングとして認識されるものは、最離間隣接射影点対によるもののみとなる。このため、空間周波数がより小さくなり、結果として、バンディングを目立ちにくくすることができる。
また、最離間隣接射影点対の配列方向Aに関する出現間隔は、各帯状領域R21、R22、R23の幅(37.5dpi)の3倍となる距離である。したがって、インクジェットヘッド1の取り付け角度が傾いていることによって生じる、バンディング92の空間周波数を大幅に低下させることができる。その結果、よりバンディングを目立ちにくくすることができる。
また、各ノズル配列行12a〜12dには、互いに異なる2つの所定間隔が交互に出現するように多数のノズル8が配列されている行と、複数のノズル8が等間隔で配列されている行とがある。このようにノズル8の配列が規則性を有するのでインクジェットヘッド1の製造、特にノズル8が形成されたノズルプレート30の製造が容易になる。
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。例えば、ノズルの配列は、上述の第1及び第2の実施の形態のものに限られず、最離間隣接ドット対の出現間隔に対応するバンディングの出現周期に基づいて決まる空間周波数が、視覚伝達関数のピーク値に対応する値よりも小さくなる範囲であれば任意に変更可能である。また、流路や圧力室の形状などは適宜変更されてよい。
また、上述の第1及び第2の実施の形態では、最離間隣接ドット対の配列方向Aに関する出現間隔は、16行のノズル配列行にそれぞれ1つのノズルが配列される帯状領域の配列方向Aに沿う幅の整数倍である場合について説明しているが、これに限られない。したがって、最離間隣接ドット対の配列方向Aに関する出現間隔は、帯状領域の幅の整数倍でなくてもよい。整数倍とする場合であっても、2倍、3倍に限らず、4倍以上としてよい。
また、上述の第1及び第2の実施の形態では、各ノズル配列行上のノズルの配列が規則性を有している場合について説明しているが、ノズルの配列は規則性を有していなくてもよい。また、ノズル配列行が等間隔に配列されてもよい。
また、上述の第1の実施の形態では、ノズル8の配列パターンが異なる2つの領域R11とR12とが交互に繰り返す構成としていたが、異なるパターン領域の継ぎ目に生じるバンディング(白縞)をさらに目立ち難くするという観点から、1つの配列パターンAP11に複数の配列パターンAP12を加えた組み合わせにより構成される配列パターン群を、配列方向Aに向かって繰り返す構成としても良い。このような構成とした第1の実施の形態の変形例において、図11(a)〜(c)は、本発明の第1の実施の形態の変形例に係るインクジェットヘッドのノズル配列及びそのノズルを用いて描いた線を示す図であって、第1の実施の形態の図5(a)〜(c)に対応する。また、図11(a)において、帯状領域R31には、第1の実施の形態における上記配列パターンAP11に対応する、16個のノズル8の配列パターンが図示され、帯状領域R32及びR33には、第1の実施の形態における上記配列パターンAP12に対応する、それぞれ16個のノズル8の配列パターンが図示されている。以下の説明において、帯状領域R31内でのノズル8の配列を配列パターンAP31とし、帯状領域R32及びR33内でのノズル8の配列を配列パターンAP32とする。本変形例の場合、第2の実施の形態とは異なり、配列パターンAP32において、配列方向Aに関して一方の端部に位置するノズル8と他方の端部に位置するノズル8とが、互いに隣接する2つの行にそれぞれ属している点に特徴がある。
そのため、この変形例においては、図11(c)に示されるように、少なくとも、配列パターンAP32が繰り返されたときの継ぎ目である領域R32と領域R33の継ぎ目では、全くバンディングの発生を心配する必要がなくなる。
さらに、本変形例では、配列パターンAP32において、配列方向Aに関して両端のノズル8の一方は、先頭行に属している。また、最後尾行に属するノズル8を挟んで、その左側には、先頭行から数えて偶数番目の行(最後尾行から数えて奇数番目の行)に属するノズル8が配列されている。一方、その右側では、先頭行から数えて奇数番目の行に属するノズル8が配列されている。このような配列パターンの構成により、配列パターンAP32が繰り返されている範囲では、仮想直線上で互いに隣接する2つの射影点に対応するノズル8の属する行は、どの射影点の組み合わせについても、1行分又は2行分隔たっていることになる。すなわち、上記配列パターン群において、配列パターンAP32が繰り返し配置される場合、その配列パターンAP32の繰り返しの継ぎ目以外の部分についても、全くバンディングの発生を心配する必要がなくなる。従って、図11(c)に示されるように、最離間隣接射影点対によって生じるバンディング93の空間周波数は小さくなり、その結果、バンディングを目立ちにくくすることができる。
さらに、本変形例では、配列パターン群を複数(3以上)の配列パターンで構成しているので、異なる配列パターン間で生じるバンディング93がより目立ちにくくなっている。
具体的には、配列パターン群を3つの配列パターンで構成する場合で、バンディング93による空間周波数は約0.49/mmである。このとき、図9を参照すると、視覚伝達関数の感度の値は、空間周波数1/mmのときが1であるのに対して、0.65程度である。したがって、空間周波数1/mmのときよりも、印字媒体上に形成されるバンディングを大幅に目立ちにくくすることができる。その結果、インクジェットヘッド1を高精度で組み付けなくても、見た目の画質劣化が抑制された好適な印字結果を得ることができる。
特に、本変形例では、最離間隣接射影点対を構成する2つの射影点に対応する2つのノズル8の各々が所属する2つの行が16行のうちの最外側行(先頭行と最後尾行)であるため、わずかにヘッドが傾いただけでもバンディングが発生しやすく、バンディング自体の幅も大きくなる。しかし、その反面、最離間隣接射影点対以外の隣接射影点対によるバンディングが相対的に目立たなくなるため、視覚によりバンディングとして認識されるものは、最離間隣接射影点対によるもののみとなる。このため、空間周波数がより小さくなり、結果として、バンディングを目立ちにくくすることができる。