JP4013353B2 - 樹脂基材表面への金属膜形成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、樹脂基材表面への金属膜形成方法に関し、具体的には、樹脂基材表面に密着力の高い金属膜を形成する樹脂基材表面への金属膜形成方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
樹脂基材表面への気相成長法による金属膜形成技術は、装飾品、フレキシブルプリント基板などの電子機器部品、包装用フィルムをはじめ、幅広く利用される技術である。しかしながら、樹脂基材表面への気相成長法による金属膜形成技術における大きな問題点として、樹脂基材と金属膜との密着性が挙げられ、樹脂基材表面に強固に密着した金属膜を得ることは非常に難しい。
【0003】
従来、この問題を解決するために様々な方法がとられている。一つには酸、アルカリ等による表面処理を行って樹脂基材表面に凹凸を形成し、アンカー効果等により、金属膜の密着性を高める方法が行われている。しかし、この方法では、金属膜表面に凹凸が生じるため、金属光沢が得られず、高周波用回路基板に使う場合には凹凸による表皮抵抗が生じて電気特性に悪影響があり、凹凸形成のために工程が複雑になるなどの問題があった。
【0004】
また、金属膜を形成する前に、樹脂基材表面にチタンまたはクロム等をプリコートすることにより、金属膜の密着性を高める方法も行われている。しかし、この方法では、回路基板として金属膜をパターンエッチングして使用する際のエッチング性に問題が生じる。つまり、上層となる金属膜をパターンエッチングして使用する際に、下層となるチタンまたはクロム等のプリコート層が残るという問題が生じるのであった。
【0005】
また、特開昭63−270455号公報には、アルゴンガス等の不活性ガスまたは酸素、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素などの活性ガスを用いて、これらの単独または混合ガスのプラズマで表面処理を行った後、金属膜を形成する方法が提案されている。このような表面処理では、樹脂基材表面を活性化させるとともに、−OH等の官能基形成が行われる。そして、この−OH等の官能基は金属との親和性が高く、金属膜の密着性を高める働きをするというのである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のプラズマによる前処理によっても、十分に良好な樹脂基材と金属膜との密着性が得られるというまでには至らなかった。
【0007】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、樹脂基材の表面に凹凸を形成したり、所望の金属膜以外の材料をプリコートしたりすることなく、平滑な樹脂基材の表面に十分に密着力高く金属膜を形成することができる樹脂基材表面への金属膜形成方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1に係る樹脂基材表面への金属膜形成方法は、樹脂基材表面にOH基またはCOOH基を付与する処理を施し、この樹脂基材表面にフタロシアニンを固定化する処理を施し、その後、この樹脂基材表面に湿式めっきあるいは気相成長法にて金属膜を形成することを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2に係る樹脂基材表面への金属膜形成方法は、上記フタロシアニンを固定化する処理が、COOH基を側鎖に有するフタロシアニンを含む溶液を塗布するものであることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3に係る樹脂基材表面への金属膜形成方法は、上記COOH基を側鎖に有するフタロシアニンを含む溶液を塗布した後、熱処理を行うことを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4に係る樹脂基材表面への金属膜形成方法は、上記フタロシアニンを固定化する処理が、脂肪族ジアミンを塗布した後、COOH基を側鎖に有するフタロシアニンを含む溶液を塗布して、脂肪族ジアミンとフタロシアニンを反応させるものであることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5に係る樹脂基材表面への金属膜形成方法は、上記OH基またはCOOH基を付与する処理が、樹脂基材を酸素あるいは酸素を含むプラズマに曝すことで行われるものであることを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳しく説明する。
【0014】
本発明の樹脂基材表面への金属膜形成方法は、樹脂基材表面にOH基またはCOOH基を付与する処理を施し、この樹脂基材表面にフタロシアニンを固定化する処理を施し、その後、この樹脂基材表面に湿式めっきあるいは気相成長法にて金属膜を形成するものである。
【0015】
このような樹脂基材表面への金属膜形成方法によれば、樹脂基材表面に固定化されたフタロシアニンの環中心にある窒素基と遷移金属とが配位結合を形成し化学結合性に優れているので、この樹脂基材表面に湿式めっきあるいは気相成長法により形成した金属膜が強く密着することになる。
【0016】
上記樹脂基材としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、PET樹脂などの様々な合成樹脂材料を用いることができ、板状、フィルム状のものなど様々な形状のものを使用することができるものである。
【0017】
また、上記気相成長法としては、スパッタリング法や真空蒸着法などを代表的に例示することができる。また、金属膜としては、遷移金属が考えられるが、その中でも、銅膜が代表的なものであるが、その他にも、銀、白金、パラジウム、亜鉛、アルミニウム、スズ、クロム、モリブデン、鉄などを用いることができるものである。
【0018】
なお、上記金属膜の厚みは、特に制限されないが、0.01〜数10μm程度の一般的な厚みに形成することができるものである。
【0019】
また、上記フタロシアニンを固定化する処理が、COOH基を側鎖に有するフタロシアニンを含む溶液を塗布するものであると、樹脂基材に付与されたOH基やCOOH基とフタロシアニン側鎖のCOOH基との間で脱水縮合反応が起こり、その結果フタロシアニンが樹脂基材表面に強固に固定化され、金属膜が強く密着することになる。
【0020】
ここで用いるフタロシアニンとしては、例えば、側鎖にCOOH基を有するフタロシアニンを挙げることができるものである。これらのフタロシアニンを溶解する溶媒としては、水、メタノール、エタノールなどのアルコールなどを挙げることができるものである。
【0021】
そして、塗布量は、特に制限されるものでないが、エタノールに溶かして用いる場合には、上記溶液の濃度が0.1重量%以上のエタノール溶液に樹脂基材を浸漬して、フタロシアニンを付着させるのが好ましいものである。
【0022】
さらに、上記COOH基を側鎖に有するフタロシアニンを含む溶液を塗布した後、熱処理を行うものであると、COOH基を側鎖に有するフタロシアニンを含む溶液を塗布したのち熱処理を行うことによって、樹脂基材に付与されたOH基やCOOH基とフタロシアニン側鎖のCOOH基との間で起こる脱水縮合反応が促進され、その結果フタロシアニンが樹脂基材表面にさらに強固に固定化され、金属膜が強く密着することになる。
【0023】
なお、この場合の熱処理は、温度50〜100℃、時間0.5〜2時間程度の条件が特に好ましいものである。
【0024】
また、上記フタロシアニンを固定化する処理が、脂肪族ジアミンを塗布した後、COOH基を側鎖に有するフタロシアニンを含む溶液を塗布して、脂肪族ジアミンとフタロシアニンを反応させるものであると、樹脂基材表面のOH基やCOOH基と脂肪族ジアミンのNH2 基がまず反応し、その後フタロシアニン側鎖のCOOHと脂肪族ジアミンのNH2 基が反応することで脂肪族鎖を介したフタロシアニンの固定化が可能となり、樹脂表面の低応力化が図られることとなり、金属膜がより強く密着することになる。
【0025】
ここで用いる脂肪族ジアミンとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカンなどを挙げることができるものである。
【0026】
特に、上記OH基またはCOOH基を付与する処理が、樹脂基材を酸素あるいは酸素を含むプラズマに曝すことで行われるものであると、プラズマ中の酸素イオンや酸素ラジカルが基材樹脂表面の有機結合を断ち、そこに再結合する形でOH基またはCOOH基が形成される。酸素イオンや酸素ラジカルの有するエネルギーが高いため、前述のアルカリ溶液処理に比較して更にOH基またはCOOH基の形成能力に優れている。
【0027】
ここで用いられるプラズマの形態としては、例えば、マイクロ波放電プラズマ、高周波放電プラズマ、ECRプラズマ等を挙げることができるものである。
【0028】
【実施例】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0029】
(実施例1)
請求項1の発明を説明する実施例を行った。基板ホルダーにポリイミド板を取り付け、真空チャンバー内に配置した。この真空チャンバー内を1×10-3Pa以下になるまで真空排気した。アルゴンガスを導入し、プラズマを発生させ、ポリイミド板の表面処理を行った。
【0030】
次に、この樹脂基材をフタロシアニンの0.5重量%エタノール溶液に浸漬させ、室温のまま、1時間放置し溶媒を揮発除去させた。
【0031】
その後、ガス成分アルゴン、ガス圧2.0×10-1Pa、基板温度室温、ターゲット電圧500Vの条件によるマグネトロンスパッタリング法でポリイミド板の表面に厚み0.2μmの銅膜を形成した。
【0032】
(実施例2)
請求項2の発明を説明する実施例を行った。基板ホルダーにポリイミド板を取り付け、真空チャンバー内に配置した。この真空チャンバー内を1×10-3Pa以下になるまで真空排気した。アルゴンガスを導入し、プラズマを発生させ、ポリイミド板の表面処理を行った。
【0033】
次に、この樹脂基材を側鎖にCOOH基を有するフタロシアニンの0.5重量%エタノール溶液に浸漬させたのち引き上げ、1時間放置し溶媒を揮発除去した。
【0034】
その後、ガス成分アルゴン、ガス圧2.0×10-1Pa、基板温度室温、ターゲット電圧500Vの条件によるマグネトロンスパッタリング法でポリイミド板の表面に厚み0.2μmの銅膜を形成した。
【0035】
(実施例3)
請求項3の発明を説明する実施例を行った。基板ホルダーにポリイミド板を取り付け、真空チャンバー内に配置した。この真空チャンバー内を1×10-3Pa以下になるまで真空排気した。アルゴンガスを導入し、プラズマを発生させ、ポリイミド板の表面処理を行った。
【0036】
次に、この樹脂基材を側鎖にCOOH基を有するフタロシアニンの0.5重量%エタノール溶液に浸漬させたのち引き上げ、恒温チャンバー内で80℃、1時間加熱し室温まで冷却した。
【0037】
その後、ガス成分アルゴン、ガス圧2.0×10-1Pa、基板温度室温、ターゲット電圧500Vの条件によるマグネトロンスパッタリング法でポリイミド板の表面に厚み0.2μmの銅膜を形成した。
【0038】
(実施例4)
請求項4の発明を説明する実施例を行った。基板ホルダーにポリイミド板を取り付け、真空チャンバー内に配置した。この真空チャンバー内を1×10-3Pa以下になるまで真空排気した。アルゴンガスを導入し、プラズマを発生させ、ポリイミド板の表面処理を行った。
【0039】
次に、この樹脂基材をヘキサメチレンジアミンの0.5重量%メタノール溶液に浸漬させた後引き上げ、恒温チャンバー内で50℃、30分加熱した。その後側鎖にCOOH基を有するフタロシアニンの0.5重量%エタノール溶液に浸漬させて引き上げ、恒温チャンバー内で80℃、1時間加熱し室温まで冷却した。
【0040】
その後、ガス成分アルゴン、ガス圧2.0×10-1Pa、基板温度室温、ターゲット電圧500Vの条件によるマグネトロンスパッタリング法でポリイミド板の表面に厚み0.2μmの銅膜を形成した。
【0041】
(実施例5)
請求項5の発明を説明する実施例を行った。基板ホルダーにポリイミド板を取り付け、真空チャンバー内に配置した。この真空チャンバー内を1×10-3Pa以下になるまで真空排気した。酸素ガスを導入し、プラズマを発生させ、ポリイミド板の表面処理を行った。
【0042】
次に、この樹脂基材を側鎖にCOOH基を有するフタロシアニンの0.5重量%エタノール溶液に浸漬させたのち引き上げ、恒温チャンバー内で80℃、1時間加熱し室温まで冷却した。
【0043】
その後、ガス成分アルゴン、ガス圧2.0×10-1Pa、基板温度室温、ターゲット電圧500Vの条件によるマグネトロンスパッタリング法でポリイミド板の表面に厚み0.2μmの銅膜を形成した。
【0044】
(比較例1)
本発明の効果を検証するために、従来発明による比較実験を行った。基板ホルダーにポリイミド板を取り付け、真空チャンバー内に配置した。この真空チャンバー内を1×10-3Pa以下になるまで真空排気した。アルゴンガスを導入し、プラズマを発生させ、ポリイミド板の表面処理を行った。その後、ガス成分アルゴン、ガス圧2.0×10-1Pa、基板温度室温、ターゲット電圧500Vの条件によるマグネトロンスパッタリング法でポリイミド板の表面に厚み0.2μmの銅膜を形成した。
【0045】
上記の実施例1〜5および比較例1に述べた方法によって、樹脂基材の表面に形成した銅膜について、密着性を評価するために碁盤目試験を行った。
【0046】
この試験は、銅膜に2mm間隔に碁盤目状の切り目をナイフで入れた後、この表面にセロハンテープを貼って剥がすことによって行い、銅膜が剥離しなければ「○」と評価し、また碁盤目状の切り目を入れなくとも剥離すれば「×」と評価し、碁盤目状の切り目を入れた場合のみ剥離すれば「△」と評価した。この結果を下記の表1に示しておいた。
【0047】
【表1】
【0048】
上記表1の実施例1〜5と比較例1とを対比するとわかるように、本発明による各実施例のものは、いずれも比較例1に比べて銅膜の密着性が高いことがいえるものであり、本発明による金属膜の密着性の向上の効果が確認されるものである。
【0049】
【発明の効果】
本発明の請求項1に係る樹脂基材表面への金属膜形成方法によると、樹脂基材表面にOH基あるいはCOOH基を付与する活性化処理を施し、この樹脂基材表面にフタロシアニンを固定化する処理によって、金属膜を強く樹脂基材に密着させることができる。このような前処理は、従来の微細な凹凸形成による前処理に比較して工程が簡単であって、容易に行うことができるものである。
【0050】
また、樹脂基材の表面に凹凸を形成する必要がないので、形成した金属膜に金属光沢が得られ、装飾用、反射鏡用などの用途に有用である。また、高周波用回路基板に使う場合を想定すると、凹凸による表皮抵抗が生じる心配がなく、電気特性の良好な高周波用回路基板を製造することができる。
【0051】
また、所望の金属膜の下層にチタンまたはクロム等のプリコート層を存在させる必要がないものである。したがって、電子材料用途の回路基板などに用いる場合、導体回路となる金属層のエッチングに悪影響を与えることがなく、回路形成が容易であって、樹脂基材をベースとした回路板の製造に好適に用いられる金属膜形成方法になっている。
【0052】
本発明の請求項2に係る樹脂基材表面への金属膜形成方法によると、請求項1記載の場合に加えて、樹脂基材表面にフタロシアニンを固定化する方法として、COOH基を側鎖に有するフタロシアニンを含む溶液を塗布する処理により、樹脂基材に付与されたOH基やCOOH基とフタロシアニン側鎖のCOOH基との間で脱水縮合反応が起こり、その結果フタロシアニンが樹脂基材表面に強固に固定化され、金属膜がより一層確実に強く密着する。
【0053】
本発明の請求項3に係る樹脂基材表面への金属膜形成方法によると、請求項2記載の場合に加えて、COOH基を側鎖に有するフタロシアニンを含む溶液を塗布したのち熱処理を行うことによって、樹脂基材に付与されたOH基やCOOH基とフタロシアニン側鎖のCOOH基との間で起こる脱水縮合反応が促進され、その結果フタロシアニンが樹脂基材表面にさらに強固に固定化され、金属膜がさらに強く密着する。
【0054】
本発明の請求項4に係る樹脂基材表面への金属膜形成方法によると、請求項1記載の場合に加えて、樹脂基材表面にフタロシアニンを固定化する処理が、脂肪族ジアミンを塗布したのちCOOH基を側鎖に有するフタロシアニンを含む溶液を塗布して、脂肪族ジアミンとフタロシアニンを反応させることによって、脂肪族鎖を介したフタロシアニンの固定化が可能となり、樹脂表面の低応力化が図られることとなり、金属膜がより一層確実に強く密着する。
【0055】
本発明の請求項5に係る樹脂基材表面への金属膜形成方法によると、請求項1ないし請求項4何れか記載の場合に加えて、比較的容易な方法でフタロシアニン固定化の前処理を行うことができ、金属膜がより一層確実に強く密着する。
Claims (5)
- 樹脂基材表面にOH基またはCOOH基を付与する処理を施し、この樹脂基材表面にフタロシアニンを固定化する処理を施し、その後、この樹脂基材表面に湿式めっきあるいは気相成長法にて金属膜を形成することを特徴とする樹脂基材表面への金属膜形成方法。
- 上記フタロシアニンを固定化する処理が、COOH基を側鎖に有するフタロシアニンを含む溶液を塗布するものであることを特徴とする請求項1記載の樹脂基材表面への金属膜形成方法。
- 上記COOH基を側鎖に有するフタロシアニンを含む溶液を塗布した後、熱処理を行うことを特徴とする請求項2記載の樹脂基材表面への金属膜形成方法。
- 上記フタロシアニンを固定化する処理が、脂肪族ジアミンを塗布した後、COOH基を側鎖に有するフタロシアニンを含む溶液を塗布して、脂肪族ジアミンとフタロシアニンを反応させるものであることを特徴とする請求項1記載の樹脂基材表面への金属膜形成方法。
- 上記OH基またはCOOH基を付与する処理が、樹脂基材を酸素あるいは酸素を含むプラズマに曝すことで行われるものであることを特徴とする請求項1ないし請求項4何れか記載の樹脂基材表面への金属膜形成方法。
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