JP4012092B2 - 筒内噴射式2サイクルエンジン - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、筒内噴射用インジェクタに空気を供給する空気ポンプを備えた筒内噴射式2サイクルエンジンに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来のこの種の筒内噴射式2サイクルエンジンとしては、例えば特開平4−209966号公報に開示されたものがある。この公報に示された筒内噴射式2サイクルエンジンは、自動二輪車に搭載されるもので、車載状態でミッションケースの上端部となる部位に往復式の空気ポンプが設けられ、この空気ポンプから供給された空気と、燃料ポンプから供給された燃料とが筒内噴射用インジェクタで混合されて燃焼室に噴射されるように構成されている。
【0003】
前記空気ポンプは、前記ミッションケースに一体に形成されたポンプ用のクランクケースおよびシリンダと、前記クランクケースに回転自在に支持されたクランク軸と、このクランク軸にコンロッドを介して連結されたピストンなどによって構成されている。前記ポンプ用クランクケースの内部は、連通路を介して前記ミッションケースの内部に連通されている。この空気ポンプにおいては、上述したように連通路が形成されていることにより、ミッションケース内からミッションオイルの飛沫が前記ポンプ用クランクケースに入り、クランク軸やシリンダが潤滑される。
【0004】
なお、本出願人は、本明細書に記載した先行技術文献情報で特定される先行技術文献以外には、本発明に関連する先行技術文献を出願時までに発見するには至らなかった。
【0005】
【特許文献1】
特開平4−209966号公報(第3頁、第1図)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述したように構成された従来の筒内噴射式2サイクルエンジンにおいては、空気ポンプの潤滑に問題があった。これは、空気ポンプがミッションケースの上部に設けられ、ミッションオイルによって潤滑されているからである。すなわち、この空気ポンプは、ミッションケース内で上方へ飛散したミスト状のオイルのみが前記連通路に入ることによってオイルが供給されるわけであるから、オイルを確実に供給することができない。しかも、このオイルの供給量は、ミッションケース内のオイル量に大きく影響を受けるから、ミッションオイルの量が減少したときにたとえそれがミッションにとって許容範囲内であったとしても、上方へ跳ね上げられるオイル量が極端に少なくなり空気ポンプに供給されるオイルが不足してしまうおそれがあった。
【0007】
このような不具合は、いわゆる2サイクルエンジン用オイルを吸気装置に供給するオイルポンプに空気ポンプを接続し、前記オイルポンプから空気ポンプにオイルが供給されるように構成することによって、ある程度は解消することができる。しかし、この構成を採るためには、前記オイルポンプの吐出量を増大させなければならない。すなわち、オイルポンプとして吐出量の多いものを使用しなければならず、コストアップになってしまう。
【0008】
本発明はこのような問題点を解消するためになされたもので、コストダウンを図りながら、空気ポンプを確実に潤滑することができる筒内噴射式2サイクルエンジンを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するため、本発明に係る筒内噴射式2サイクルエンジンは、クランク軸のクランクウェブに周面をカム面とする偏心カムを形成し、前記カム面に添接して回転するローラと、このローラを回転自在に支持するピストンと、このピストンが嵌合するシリンダとによって、往復式空気ポンプを構成し、この空気ポンプを、クランクケースの下部におけるクランクウェブの外周面と対向する部位にシリンダの軸線方向がクランクウェブの径方向を指向するように装着したものである。
【0010】
本発明によれば、クランク軸が回転することにより空気ポンプのピストンが往復動し、空気ポンプから空気が吐出される。この空気ポンプは、クランク室内に露出しているから、クランク室内に吸気とともに供給されたオイルの一部が直接または間接的に供給され、このオイルによって潤滑される。特に、空気ポンプがクランクケースの下部に設けられているために、クランクケースの内壁面に付着したオイルが入り易くなる。
【0011】
したがって、本発明によれば、エンジン運転時に吸気系に供給された2サイクルエンジン用オイルを使用して空気ポンプを潤滑することができる。このため、オイルポンプの容量を増大させる必要はなく、しかも、空気ポンプにオイルを略強制的に供給することができる。
【0012】
請求項2に記載した発明に係る筒内噴射式2サイクルエンジンは、バランサに周面をカム面とする偏心カムを形成し、前記カム面に添接して回転するローラと、このローラを回転自在に支持するピストンと、このピストンが嵌合するシリンダとによって往復式空気ポンプを構成し、この空気ポンプを、クランクケースにおけるバランサ用ハウジングにシリンダの軸線方向がバランサの径方向を指向するように装着し、前記バランサ用ハウジング内とクランク室とを連通孔によって連通させたものである。
【0013】
この発明によれば、バランサが回転することにより空気ポンプのピストンが往復動し、空気ポンプから空気が吐出される。この空気ポンプが設けられているバランサ用ハウジングは、クランク室内に吸気とともに供給されたミスト状のオイルの一部が前記連通孔を通って入る。このため、前記空気ポンプは、上述したようにバランサ用ハウジング内に入ったミスト状のオイルが付着し、このオイルによって潤滑される。特に、バランサ用ハウジング内に入ったミスト状のオイルは、高速で回転するバランサに当たることによってさらに微細化されるから、空気ポンプの被潤滑部の略全体に均分に供給されるようになる。
【0014】
したがって、この発明によれば、エンジン運転時に吸気系に供給された2サイクルエンジン用オイルを使用して空気ポンプを潤滑することができる。このため、オイルポンプの容量を増大させる必要はなく、しかも、空気ポンプにオイルを略強制的に供給することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
(第1の実施の形態)
以下、本発明に係る筒内噴射式2サイクルエンジンの一実施の形態を図1ないし図3によって詳細に説明する。
図1は本発明に係る筒内噴射式2サイクルエンジンを示す図で、同図はクランクケースとシリンダの一部を破断した状態で描いてある。図2は空気ポンプの断面図、図3はクランク軸の平面図である。
【0016】
これらの図において、符号1で示すものは、この実施の形態による自動二輪車用筒内噴射式2サイクルエンジンである。この実施の形態では、単気筒エンジンに本発明を適用する例を示したが、本発明に係るエンジンは、多気筒エンジンにも適用することができることはいうまでもない。図1において、2はクランクケースを示し、3は前記クランクケース2に回転自在に支持されたクランク軸、4はシリンダボディ、5はシリンダヘッド、6は筒内噴射用インジェクタ、7は点火プラグを示す。図1においては、クランク軸3に連結されたコンロッドおよびピストンは省略してある。
【0017】
このエンジン1は、前記クランク軸3の軸線が車幅方向と平行になるように図示していない自動二輪車の車体フレームに搭載される。
前記クランクケース2は、前記車体フレームに搭載された状態で車体前側の上端部となる部位にシリンダボディ4が取付けられるとともに、このシリンダボディ4より車体後側の上端部に吸気装置8が接続されている。この吸気装置8は、従来からよく知られているように、スロットル弁9とリード弁10とを備え、クランク室11に空気が吸入されるように構成されている。また、この吸気装置8は、2サイクルエンジン用オイルが図示していないオイルポンプによって供給され、前記オイルが混合された状態で吸気をエンジンに供給する。
【0018】
さらに、前記クランクケース2は、クランク軸3を収容するクランク室11の後側にミッションケース12が一体に形成されている。この実施の形態によるエンジン1においては、前記ミッションケース12内と前記クランク室11とは、隔壁13によって気密になるように画成されている。
前記シリンダボディ4は、掃気ポート14と排気ポート15とが形成され、車載状態で軸線が前上がりに傾斜するようにクランクケース2に取付けられている。
【0019】
前記筒内噴射用インジェクタ6は、従来の筒内噴射式2サイクルエンジンに装備されているものと同等の構造のもので、図1に示すように、燃料供給装置21と空気供給装置22とが接続され、これらの装置によって供給された燃料と空気とを混合させて燃焼室23内に噴射するように構成されている。
前記燃料供給装置21は、燃料タンク24内の底部に設けられた燃料ポンプ25と、この燃料ポンプ25から吐出された燃料の一部を燃料タンク24へ戻すことにより燃料の圧力を調節する差圧レギュレータ26とを備えている。
【0020】
前記空気供給装置22は、前記クランクケース2の下部に設けられた空気ポンプ27と、この空気ポンプ27から吐出された空気からオイルを分離させるためのオイルセパレータ28と、このオイルセパレータ28とリード弁10内の吸気通路とを連通する連通管29に介装された空気レギュレータ30とを備えている。また、前記オイルセパレータ28と前記インジェクタ6との間の空気パイプ31の途中には、前記差圧レギュレータ26が接続されている。前記オイルセパレータ28は、図示してはいないが、内部に空気通路がラビリンス状を呈するように形成され、この空気通路を空気が通ることによってオイルが分離されて下部に流下するように構成されている。このオイルセパレータ28の下部に滞留したオイルは、前記連通管29を通って吸気通路に戻される。
【0021】
前記空気ポンプ27は、図2に示すように、ピストン32を有する往復式のもので、クランクケース2に形成されたポンプ支持用ハウジング33に取付けられている。このポンプ支持用ハウジング33は、外側が角筒状を呈しかつ中空穴の断面形状が円形になるように形成され、車載状態にあるクランクケース2の車体前側の下部に軸線方向が前下がりに傾斜するように設けられている。このポンプ支持用ハウジング33の軸線が傾斜する方向は、クランク軸3の径方向を指向するように設定されている。また、このポンプ支持用ハウジング33は、図3に示すように、クランク軸3に二つ設けられたクランクウェブ34,35のうち、出力側端部36とは軸線方向の反対側(車体左側)に位置するクランクウェブ34の外周面と対向する部位に配設されている。
【0022】
前記クランクウェブ34は、前記ピストン32を駆動するための偏心カム37が外周部に形成されている。この偏心カム37は、外周面にカム面37aが形成され、クランク軸3の軸線方向から見てクランク軸3が1回転することにより後述するピストン32が1往復するように構成されている。前記偏心カム37のカムプロフィールは、例えば、クランク軸3の軸心に対して偏心させた真円状や、図示してはいないが4サイクルエンジンの吸・排気弁を駆動するカムシャフトのカムのように、卵状を呈するように形成することができる。
【0023】
空気ポンプ27は、図2に示すように、前記カム面37aに添接して回転するローラ41と、有底円筒状を呈するように形成されて前記ローラ41を回転自在に支持するピストン32と、このピストン32が嵌合するシリンダ42と、このシリンダ42を保持して前記ポンプ支持用ハウジング33に固定するホルダー43などによって構成されている。
【0024】
前記ローラ41は、円板状を呈するように形成され、ピストン32の内部に挿入された状態でピストン32の支軸44に軸受45を介して回転自在に支持されている。また、このローラ41の厚みは、図3に示すように、平面視において前記カム面37aの幅(クランク軸3の軸線方向の幅)より僅かに薄くなるように形成されている。
前記支軸44は、ピストン32にこれを径方向へ貫通する状態で固定されている。このように支軸44によってピストン32とローラ41とを接続することによって、ピストン32は、ローラ41とともにクランクウェブ34に対して往復運動をするようになる。支軸44とローラ41との間に介装された軸受45は、図2においては、この部材の全体にハッチングを施して描いてあるが、玉軸受やころ軸受が用いられている。この実施の形態による空気ポンプ27は、前記ローラ41と、軸受45と、ピストン32およびシリンダ42の内端部(クランクウェブ34側の端部)とがクランク室11内に露出されている。
【0025】
前記ピストン32の頂部の外周部には、ピストン32とシリンダ42との嵌合部分を気密にシールするためのOリング46が装着されている。また、このピストン32は、シリンダ42の外側に位置する受圧用リング47が図示していない連結用ロッドを介して取付けられている。この受圧用リング47は、シリンダ42の周囲を囲む円環状を呈するように形成され、シリンダ42の外端側に形成された大径部48との間に弾装された圧縮コイルばね49によってクランクウェブ34側へ付勢されている。前記連結用ロッドは、シリンダ42に形成された長孔(図示せず)を通ってシリンダ42を貫通しており、ピストン32とともにクランクウェブ34に対して往復動することができるように構成されている。この構成を採ることにより、前記圧縮コイルばね49の弾発力が受圧用リング47から連結用ロッドを介してピストン32に伝達され、前記弾発力によって前記ローラ41がカム面37aに常に押し付けられるようになる。
【0026】
前記シリンダ42は、前記ピストン32が嵌合する小径部51と、この小径部51の外端側(クランクウェブとは反対側)に一体に形成された前記大径部48とからなり、後述するホルダー43の中空部内に嵌合され、このホルダー43に保持されている。ホルダー43は、クランクケース2側の前記ポンプ支持用ハウジング33に図示していない固定用ボルトによって固定される筒体43aと、この筒体43aの開口を閉塞する蓋体43bとから構成され、前記筒体43aの内周部に形成された段部43cと前記蓋体43bとによって前記シリンダ42の大径部48を挟持している。
【0027】
シリンダ42の前記小径部51は、大径部48との接続部分の近傍に複数の吸入孔52が穿設されている。これらの吸入孔52は、シリンダ42の軸線と直交する同一平面上に位置付けられるとともに、シリンダ42の径方向に間隔をおいて離間するように形成されており、シリンダ内のポンプ室53とシリンダ外の空間54とを連通している。また、これらの吸入孔52のポンプ室53側の開口は、ピストン32がシリンダ42内を往復動することによって開閉する。この吸入孔52を介してポンプ室53に接続された前記シリンダ外の空間54(シリンダ42とポンプ支持用ハウジング33およびホルダー43によって囲まれた空間)は、シリンダ42の内端部側からクランク室11に連通されている。
【0028】
シリンダ42の前記大径部48は、前記小径部51との接続部分に円環状のシート面55がシリンダ42の軸線方向と直交する仮想平面上に位置するように形成されるとともに、周壁部分に吐出孔56が穿設されている。前記シート面55は、円板状を呈するように形成された弁体57が着座している。この弁体57は、前記ホルダー43の蓋体43bとの間に圧縮コイルばね58が弾装され、この圧縮コイルばね58の弾発力によって前記シート面55に押付けられている。
前記吐出孔56は、前記大径部48の周壁を貫通するように形成されており、大径部48内の空間59と、前記ホルダー43に取付けられた接続用パイプ60とを連通している。このパイプ60は、図1に示すように、空気パイプ61を介して前記オイルセパレータ28に接続されている。
【0029】
上述したように構成されたエンジン1は、運転時には吸気装置8によってオイルの混合された吸気がクランク室11内に供給される。クランク室11内に供給された吸気は、回転しているクランクウェブ34,35やクランクケース2の内壁に当たってクランク室11内で攪拌される。このように吸気が攪拌されることにより、吸気中に含まれているオイルは、ミスト状を呈するような状態になり、その一部がクランクウェブ34,35、クランクケース2の内壁面、空気ポンプ27のピストン32、ローラ41およびシリンダ42などに付着する。
【0030】
また、エンジン運転時には、クランク軸3が回転することにより、空気ポンプ27のローラ41が偏心カム37のカム面37aを転動し、偏心カム37に倣うように往復運動をする。このようにローラ41が往復運動をすることによって、空気ポンプ27のピストン32がシリンダ42内を往復動する。ピストン32は、図2に実線で示した位置が下死点となり、二点鎖線で示した位置が上死点になるようにシリンダ42内を往復動する。
【0031】
空気ポンプ27は、ピストン32が下死点から上死点へ向けて移動して吸入孔52を越えたときからポンプ室53内の空気の圧縮を開始する。そして、さらにピストン32が移動してポンプ室53内の圧力が上昇することによって、弁体57が圧縮コイルばね58の弾発力に抗して開き、シリンダ42の大径部48内の空間59に空気が吐出される。この空気は、吐出孔56と、接続用パイプ60と、空気パイプ61とを通ってオイルセパレータ28に流入し、ここでオイルが分離されてから空気パイプ31を通ってインジェクタ31に供給される。
【0032】
一方、前記ピストン32が上死点から下死点へ向けて移動する行程では、前記弁体57がシート面55に押付けられて閉じた状態でピストン32が移動することによりポンプ室53内に負圧が生じ、吸入孔52が開いたときにポンプ室53内にシリンダ42の外側の空間54から空気が吸入される。この実施の形態では、前記シリンダ42の外側の空間54がクランク室11に連通されているために、ポンプ室53内にクランク室11内の吸気、すなわちオイルが混合されている吸気が供給される。
【0033】
この実施の形態による空気ポンプ27は、クランク室11内に露出しているから、クランク室11内に供給されたオイルの一部が直接または間接的に供給され、このオイルによって潤滑される。空気ポンプ27に直接供給されるオイルは、クランク室11内を吸気に乗るようにして流れるミスト状のオイルである。空気ポンプ27に間接的に供給されるオイルとしては、偏心カム37のカム面37aに付着し、ローラ41がカム面37aを転動することによりカム面37aからローラ41側へ移ったオイルと、クランクケース2の内壁面に付着して自重で空気ポンプ27のシリンダ42内に流下するオイルとがある。この実施の形態による空気ポンプ27は、クランクケース2の下部に設けられており、クランクケース2の内壁面を伝って流下するオイルが流入し易くなるから、クランク室11に供給されたオイルをより一層有効に使うことができる。
【0034】
したがって、この実施の形態によるエンジン1においては、運転時に吸気系に供給された2サイクルエンジン用オイルを使用して空気ポンプ27を潤滑することができる。このため、吸気装置8にオイルを供給するオイルポンプの容量を増大させる必要はなく、しかも、空気ポンプ27にオイルを略強制的に供給することができる。
【0035】
上述した実施の形態による空気ポンプ27は、ポンプ室53にクランク室11から空気が吸入されるように構成されているが、この空気ポンプ27は、ポンプ室53にクランクケース2の外の大気が吸込まれるように構成することもできる。この構成を採る場合には、シリンダ42の外側の空間54にクランク室11の代わりにクランクケース2の外の大気を連通させるとともに、前記空間54とクランク室11とが画成されるようにシリンダ42の内端部とクランクケース2との間にシール部材(図示せず)を介装する。
【0036】
(第2の実施の形態)
請求項2に記載された発明に係る筒内噴射式2サイクルエンジンの一実施の形態を図4ないし図6によって詳細に説明する。
図4は筒内噴射式2サイクルエンジンの他の実施の形態を示す側面図、図5は要部を拡大して示す断面図、図6はバランサの断面図である。これらの図において、前記図1〜図3によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
【0037】
図4〜図6に示す筒内噴射式2サイクルエンジン100は、空気ポンプ27の駆動系の構成が異なる他は第1の実施の形態に示したエンジン1と同等の構成が採られている。この実施の形態によるエンジン100は、クランクケース2の上部であってリード弁10とミッションケース12との間の部位にバランサ101が設けられており、バランサ装着部分の近傍に設けられたポンプ支持用ハウジング33に空気ポンプ27が取付けられている。
【0038】
前記バランサ101は、図6に示すように、両端部のバランサ軸102と、これらのバランサ軸102の間に位置するウェイト103とから構成され、軸線がクランク軸3と平行になるようにクランクケース2のバランサ用ハウジング104(図5参照)に軸受105を介して回転自在に支持されている。このバランサ101の両端部のバランサ軸102のうち一方のバランサ軸102は、図示していない伝動機構によってクランク軸3に接続され、クランク軸3の回転が伝達されるように構成されている。
【0039】
前記ウェイト103は、図5および図6に示すように、軸線方向の中央部に空気ポンプ駆動用の偏心カム106が一体に形成されている。この偏心カム106は、円板状を呈し外周面にカム面106aが形成されており、その軸心がバランサ101の軸心に対して偏心するように構成されている。この実施の形態においては、偏心カム106の軸心は、バランサ軸102に対してウェイト103が偏心する方向(図6においては下方)とは垂直な方向(図6においては紙面と直交する方向)へ偏心させてある。また、この偏心カム106は、図5に示す軸線方向視において、バランサ101が1回転することにより空気ポンプ27のピストン32が1往復するように構成されている。前記偏心カム106のカムプロフィールは、例えば、クランク軸3の軸心に対して偏心させた真円状や、4サイクルエンジンの吸・排気弁を駆動するカムシャフトのカムのように、卵状を呈するように形成することができる。
【0040】
このバランサ101を収容するバランサ用ハウジング104には、図5に示すように、ハウジング内とクランク室11内とを連通する連通孔107が形成されるとともに、バランサ収容部分から車体の後斜め上方(図5においては右上方)に延びるように前記ポンプ支持用ハウジング33が一体に形成されている。このポンプ支持用ハウジング33は、バランサ101の前記偏心カム106と対向する位置に形成されており、延設方向(ここに取付けられた空気ポンプ27のシリンダ42の軸線方向)がバランサ101の径方向を指向するように構成されている。
【0041】
この実施の形態による空気ポンプ27は、ローラ41が前記偏心カム106のカム面106aを転動するように、前記ポンプ支持用ハウジング33に図示していない固定用ボルトによって固定されている。この空気ポンプ27の内部の構造や動作は、第1の実施の形態で示した空気ポンプ27と同一であるため、説明は省略する。
【0042】
この実施の形態で示した筒内噴射式2サイクルエンジン100によれば、バランサ101が回転することにより空気ポンプ27のピストン32が往復動し、空気ポンプ27から空気が吐出される。この空気ポンプ27が設けられているバランサ用ハウジング104は、内部が連通孔107を介してクランク室11に連通されているから、クランク室11内に吸気とともに供給されたミスト状のオイルの一部が前記連通孔107を通って入る。
【0043】
このため、前記空気ポンプ27は、上述したようにバランサ用ハウジング104内に入ったミスト状のオイルが付着し、このオイルによって潤滑される。特に、バランサ用ハウジング104内に入ったミスト状のオイルは、高速で回転するバランサ101に当たることによってさらに微細化されるから、空気ポンプ27の被潤滑部の略全体に均分に供給されるようになる。
したがって、エンジン運転時に吸気系に供給される2サイクルエンジン用オイルを使用して空気ポンプ27を潤滑することができる。このため、吸気装置8にオイルを供給するオイルポンプの容量を増大させる必要はなく、しかも、空気ポンプ27にオイルを略強制的に供給することができる。
【0044】
この実施の形態で示したように、バランサ101に形成された偏心カム106によって空気ポンプ27を駆動する構成を採ることにより、第1の実施の形態で示したように空気ポンプ27をクランクウェブの偏心カムによって駆動する場合に較べて、ローラ41の回転速度を低下させることができる。これは、バランサ101とクランクウェブは回転数が等しくなるにもかかわらず、バランサ101の偏心カム106はクランクウェブの偏心カムより回転方向の長さが短くなるからである。このようにローラ41の回転速度が低下することにより、ローラ41がカム面37aを転動することにより発生する騒音が低減されるとともに、ローラ41を回転自在に支持する軸受45の耐久性が向上するようになる。
【0045】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、エンジン運転時に吸気系に供給される2サイクルエンジン用オイルを使用して空気ポンプを潤滑することができる。このため、オイルポンプの容量を増大させる必要はなく、空気ポンプにオイルを略強制的に供給することができるから、コストダウンを図りながら、空気ポンプを確実に潤滑することができる筒内噴射式2サイクルエンジンを提供することができる。
【0046】
空気ポンプをクランクケースの下部に設けてクランクウェブと一体の偏心カムによって駆動する構成を採ることにより、クランクケースの内壁を伝って流下するオイルが空気ポンプに流入するようになるから、クランク室に供給されたオイルを有効に使用して空気ポンプを潤滑することができる。
空気ポンプをバランサの近傍に設けてバランサの偏心カムによって駆動する構成を採るとともに、バランサ用ハウジング内をクランク室に連通させる構成を採ることにより、クランク室内から前記ハウジング内に入ったミスト状のオイルをバランサに当ててさらに微細化することができるから、空気ポンプの被潤滑部の略全体に均分にオイルを供給することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る筒内噴射式2サイクルエンジンを示す図である。
【図2】 空気ポンプの断面図である。
【図3】 クランク軸の平面図である。
【図4】 筒内噴射式2サイクルエンジンの他の実施の形態を示す側面図である。
【図5】 要部を拡大して示す断面図である。
【図6】 バランサの断面図である。
【符号の説明】
1,100…筒内噴射式2サイクルエンジン、2…クランクケース、3…クランク軸、11…クランク室、27…往復式空気ポンプ、32…ピストン、33…ポンプ支持用ハウジング、34,35…クランクウェブ、37a,106a…カム面、41…ローラ、42…シリンダ、101…バランサ、104…バランサ用ハウジング、106…偏心カム、107…連通孔。
Claims (2)
- 筒内噴射用インジェクタに空気を供給する空気ポンプを備えた筒内噴射式2サイクルエンジンにおいて、クランク軸のクランクウェブに周面をカム面とする偏心カムを形成し、前記カム面に添接して回転するローラと、このローラを回転自在に支持するピストンと、このピストンが嵌合するシリンダとによって往復式空気ポンプを構成し、この空気ポンプを、クランクケースの下部におけるクランクウェブの外周面と対向する部位にシリンダの軸線方向がクランクウェブの径方向を指向するように装着したことを特徴とする筒内噴射式2サイクルエンジン。
- 筒内噴射用インジェクタに空気を供給する空気ポンプを備えた筒内噴射式2サイクルエンジンにおいて、バランサに周面をカム面とする偏心カムを形成し、前記カム面に添接して回転するローラと、このローラを回転自在に支持するピストンと、このピストンが嵌合するシリンダとによって往復式空気ポンプを構成し、この空気ポンプを、クランクケースにおけるバランサ用ハウジングにシリンダの軸線方向がバランサの径方向を指向するように装着し、前記バランサ用ハウジング内とクランク室とを連通孔によって連通させたことを特徴とする筒内噴射式2サイクルエンジン。
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