JP4303407B2 - エンジンのシリンダヘッド及びヘッドカバー間のシール構造 - Google Patents
エンジンのシリンダヘッド及びヘッドカバー間のシール構造 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は,動弁カム室が開口する上端面の少なくとも一部が斜面となっているシリンダヘッドと,このシリンダヘッドの上端面にボルト結合されて動弁カム室を閉じるヘッドカバーとの間にシール部材を介装した,エンジンのシリンダヘッド及びヘッドカバー間のシール構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来一般のエンジンでは,シリンダヘッド及びヘッドカバーの接合面が一平面に形成されており,これら接合面間にOリングやガスケット等のシール部材を介装して,シリンダヘッド及びヘッドカバー間のシールを行っている。こうしたものでは,シリンダヘッド及びヘッドカバーを平行する多数のボルトで結合して,シール部材の締め代を各部均等にすることがシール部材の正常なシール機能を確保する上に必要である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで,エンジンのコンパクト化を図るべく,シリンダヘッドの上端面を動弁カム室の内部機構の形状に合わせて形成すると,その上端面の少なくとも一部が斜面となることがあり,このような場合,従来のように平行する多数のボルトを使用しても,シール部材の締め代を各部均等にすることは困難である。しかも多数のボルトの使用は,コストの低減の妨げとなっている。
【0004】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,ボルトの使用本数に関係なくシール部材の各部に均等の締め代を与えることができて,シール部材が常に良好なシール機能を発揮し得る,前記エンジンのシリンダヘッド及びヘッドカバー間のシール構造を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために,本発明は,動弁カム室が開口するエンジンのシリンダヘッドの上端面を,互いに高低差を有して平行する一対の平坦面と,この両平坦面に対して角度をなして該両平坦面間を連結する斜面とで構成し,この上端面に結合されて動弁カム室を閉じるヘッドカバーに,該上端面に重なるように当接するフランジ部を形成し,このフランジ部を前記平坦面に対応する部分のみでシリンダヘッドにボルトで接合すると共に,該ヘッドカバーに,動弁カム室の内周面に嵌合する嵌合壁部を形成し,この嵌合壁部の外周面に設けたシール溝に,シリンダヘッドの内周面に密接するシール部材を装着したことを第1の特徴とする。
【0006】
この第1の特徴によれば,シリンダヘッドの上端面の少なくとも一部が,動弁カム室の内部機構の形状に合わせて傾斜した斜面を持つものであっても,シリンダヘッドの上端面を,互いに高低差を有して平行する一対の平坦面と,この両平坦面に対して角度をなして該両平坦面間を連結する斜面とで構成し,この上端面に結合されて動弁カム室を閉じるヘッドカバーに,該上端面に重なるように当接するフランジ部を形成し,このフランジ部を前記平坦面に対応する部分のみでシリンダヘッドにボルトで接合したことで,最少のボルトをもって簡単,確実にヘッドカバーを固着することができる。しかも,ヘッドカバーに,動弁カム室の内周面に嵌合する嵌合壁部を形成し,この嵌合壁部の外周面に設けたシール溝に,シリンダヘッドの内周面に密接するシール部材を装着したことで,ボルトの使用本数,軸力に関係なくシール部材の各部に均一な締め代を付与することができて,シリンダヘッド及びヘッドカバー間の良好なシール状態を確保することができる。また,ヘッドカバーのフランジ部をシリンダヘッドに固着するボルトは,シール部材の締め代に関係せず,単にシリンダヘッドへの固着を果たすのみであるから,その使用本数を大幅に少なくすることができ,コストの低減に寄与し得る。
【0007】
また本発明は,第1の特徴に加えて,動弁カム室には,カム軸とロッカアームとが,ロッカアームの揺動支点がカム軸の軸線よりも下方に位置するように配置され,シリンダヘッドの上端面の前記斜面は,カム軸側からロッカアームの揺動支点側へ下るように傾斜して形成されていることを第2の特徴とする。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を,添付図面に示す本発明の実施例に基づいて説明する。
【0009】
図1は本発明のハンドヘルド型四サイクルエンジンの一使用例を示す斜視図,図2は上記四サイクルエンジンの縦断側面図,図3は図2の要部拡大図,図4は図3のカム軸周りの拡大縦断面図,図5は図3の5−5線断面図,図6は図3の6−6線断面図,図7は図6の7−7線断面図,図8は図6の8−8線断面図,図9は棒状シール部材の正面図,図10は図9の10矢視図,図11は図5の要部拡大図,図12は図3の12−12線断面図,図13は図12の13−13線断面図,図14は図11の14−14線断面図,図15は図14の15−15線断面図,図16はヘッドカバーの底面図,図17はエンジンの潤滑系統図,図18はエンジンの種々の運転姿勢におけるシリンダヘッドでの溜まりオイルの吸い上げ作用説明図である。
【0010】
図1に示すように,ハンドヘルド型四サイクルエンジンEは,例えば動力トリマTの動力源として,その駆動部に取付けられる。動力トリマTは,その作業状態によりカッタCを色々の方向に向けて使用されるので,その都度エンジンEも大きく傾けられ,あるいは逆さにされ,その運転姿勢は一定しない。
【0011】
先ず,このハンドヘルド型四サイクルエンジンEの全体的構成について,図2〜図5により説明する。
【0012】
図2,図3及び図5に示すように,上記ハンドヘルド型四サイクルエンジンEのエンジン本体1には,その前後に気化器2及び排気マフラ3がそれぞれ取付けられ,気化器2の吸気道入口にはエアクリーナ4が装着される。またエンジン本体1の下面には合成樹脂製の燃料タンク5が取付けられる。
【0013】
エンジン本体1は,クランク室6aを有するクランクケース6,一つのシリンダボア7aを有するシリンダブロック7,並びに燃焼室8a及び該室8aに開口する吸,排気ポート9,10を有するシリンダヘッド8からなっており,シリンダブロック7とシリンダヘッド8とは一体に鋳造され,そのシリンダブロック7の下端に,それと別個に鋳造されたクランクケース6がボルトにより接合される。このクランクケース6は,その中央で左右に分割された第1及び第2ケース半体6L,6Rで構成され,両ケース半体6L,6Rはボルト12で相互に接合される。シリンダブロック7及びシリンダヘッド8に外周には多数の冷却フィン38が形成される。
【0014】
クランク室6aに収容されるクランク軸13は,第1及び第2ケース半体6L,6Rにボールベアリング14,14′を介して回転自在に支承されると共に,シリンダボア7aに嵌装されたピストン15にコンロッド16を介して連接される。また第1及び第2ケース半体6L,6Rには,上記ベアリング14,14′外側に隣接してクランク軸13の外周面に密接するオイルシール17,17′が装着される。
【0015】
図3,図6〜図8に示すように,シリンダブロック7と第1及び第2ケース半体6L,6Rとの接合面間にはガスケット85が介裝される。また第1及び第2ケース半体6L,6R間には棒状シール部材86が次のように介裝される。即ち,第1及び第2ケース半体6L,6Rの接合面の一方には,その内周面に沿ってU字状のシール溝87が形成され,このシール溝87の,シリンダブロック7側の各端部には,両ケース半体6L,6Rの接合面に沿って拡大凹部87aが連設される。一方,シール部材86はゴム等の弾性材からなるもので,棒状部は断面円形であるが,その両端には,それぞれ両側面側に直角に張り出した角形断面の拡大端部86aが形成される。このシール部材86は,棒状部がU字状に曲げられながら前記シール溝87に嵌め込まれ,各拡大端部86aは前記拡大凹部87aに充填される。この場合,シール溝87の中間部内側面に,棒状部の中間部外周面に弾力的に接する一対の小突起88を形成することは,シール部材86の中間部のシール溝87からの浮き上がりを防ぐ上に有効である。
【0016】
而して,第1及び第2ケース半体6L,6Rを相互に接合したとき,シール部材86の棒状部及び拡大端部86aの外側面が対向する相手の接合面に密着し,また両ケース半体6L,6Rの上面にシリンダブロック7をガスケット85を挟んで接合したとき,各拡大端部86aの上面がガスケット85に密着する。こうして,両ケース半体6L,6R及びシリンダブロック7の互いにT字状に交差する接合面は,1個のシール部材86と1枚のガスケット85によってシールされる。特に,各一対の拡大端部86aと拡大凹部87aとの嵌合により,特別な熟練を要することなく,該シール部材86全体を定位置に正確に保持することができ,しかも該シール部材86の棒状部及び拡大端部86aの締め代は,これを収めるシール溝87及び拡大凹部87aの深さによって決められ,各結合面の接合圧力のばらつきによっては殆ど影響されないから,エンジン本体1の組立性の向上を図りゝ,交差する接合面のシールを確実に行うことができる。
【0017】
再び図4及び図5において,シリンダヘッド8には,吸気ポート9及び排気ポート10をそれぞれ開閉する吸気弁18及び排気弁19がシリンダボア7aの軸線と平行に設けられ,また点火栓20が,その電極を燃焼室8aの中心部に近接させて螺着される。
【0018】
吸気弁18及び排気弁19は,シリンダヘッド8に形成された動弁カム室21において弁ばね22,23により閉弁方向に付勢される。また動弁カム室21において,吸気弁18及び排気弁19の頭部には,シリンダヘッド8に上下揺動自在に軸支されたロッカアーム24,25が重ねられ,これらロッカアーム24,25を介して吸気弁18及び排気弁19を開閉するカム軸26が,クランク軸13と平行にして,動弁カム室21の左右両側壁にボールベアリング27,27′を介して回動自在に支承される。一方のボールベアリング27が装着される動弁カム室21の一側壁は,シリンダヘッド8と一体に成形されており,この一側壁には,ベアリング27の外側に隣接してカム軸26の外周面に密接するオイルシール28が装着される。動弁カム室21の他側壁には,該室21へのカム軸26の挿入を可能にする挿入口29が設けられ,カム軸26の挿入後,この挿入口29を閉鎖するベアリングキャップ30に他方のボールベアリング27′が装着される。このベアリングキャップ30は,シール部材31を介して挿入口29に嵌合された上,シリンダヘッド8にボルトで結合される。
【0019】
図4,図11及び図16に明示するように,シリンダヘッド8の上端面には,動弁カム室21の開放面を閉じるヘッドカバー71が接合される。
【0020】
シリンダヘッド8の上端面11は,ロッカアーム24,25の揺動支点よりも上方に軸線を配置したカム軸26側から,ロッカアーム24,25の揺動支点側へ下るように傾斜した斜面11cと,この斜面11cの両端に角度をなして連なる,互いに高低差をもって平行する一対の平坦面11a,11bとで構成され,ヘッドカバー71には,シリンダヘッド8のこのような上端面11に重なるフランジ部71aと,動弁カム室21の内周面に嵌合する嵌合壁部71bとが形成される。この嵌合壁部71bの外周面には環状のシール溝90が設けられており,これに動弁カム室21の内周面に密接するシール部材としてのOリング72が装着される。そしてフランジ部71aは,前記一対の平坦面11a,11bに対応する部分で平行する一対のボルト91,91によってシリンダヘッド8に固着される。
【0021】
このように,ヘッドカバー71の嵌合壁部71bをOリング72を介して動弁カム室21の内周面に嵌合すると,ボルト91の軸力に関係なくOリング72の各部に均一な締め代を付与することができて,シリンダヘッド8及びヘッドカバー71間の良好なシール状態を確保することができる。しかもヘッドカバー71のフランジ部71aをシリンダヘッド8に固着するボルト91は,Oリング72の締め代に関係せず,単にシリンダヘッド8への固着を果たすのみであるから,その使用本数を大幅に少なくすることができる。しかも,ヘッドカバー71のフランジ部71aを,前記一対の平坦面11a,11bに対応する部分のみで,平行する一対のボルト91,91によってシリンダヘッド8に固着しているので,最少のボルトで簡単,確実にヘッドカバー71を固着することができる。
【0022】
カム軸26は,前記オイルシール28が位置する側でシリンダヘッド8の外側方へ一端部を突出させている。これと同じ側でクランク軸13も一端部をクランクケース6の外側方に突出させており,その一端部に歯付きの駆動プーリ32が固着され,これより歯数が2倍の歯付きの被動プーリ33が前記カム軸26の一端部に固着される。そして,両プーリ32,33に歯付きのタイミングベルト34が巻掛けられ,クランク軸13がカム軸26を2分の1の減速比をもって駆動し得るようになっている。上記カム軸26及びタイミング伝動装置35によって動弁機構53が構成される。
【0023】
こうして,エンジンEはOHC型に構成され,またタイミング伝動装置35は,エンジン本体1外側に配置される乾式とされる。
【0024】
図3及び図12に示すように,エンジン本体1とタイミング伝動装置35との間には,エンジン本体1にボルト37で固定される合成樹脂製のベルトカバー36が配置され,エンジン本体1の放射熱のタイミング伝動装置35への影響を避けるようになっている。
【0025】
またエンジン本体1には,タイミング伝動装置35に一部の外側面を覆うように配置される合成樹脂製のオイルタンク40がボルト41により固着され,さらにこのオイルタンク40の外側面にリコイル式スタータ42(図2参照)が取付けられる。
【0026】
再び図2において,クランク軸13の,タイミング伝動装置35と反対側の他端部もクランクケース6の外側方に突出しており,その一端部にはフライホイール43がナット44で固着される。このフライホイール43は,冷却ファンを兼ねるべく内側面に多数の冷却羽根45,45…を一体に備えている。またフライホイール43の外側面には,複数の取付けボス46(図2には,そのうちの1個を示す)が形成されており,この各取付けボス46に遠心シュー47が揺動自在に軸支される。この遠心シュー47は,後述する駆動軸50に固着されるクラッチドラム48と共に遠心クラッチ48を構成するもので,クランク軸13の回転数が所定値を超えると,遠心シュー47が,それ自体の遠心力によりクラッチドラム48の内周壁に圧接して,クランク軸13の出力トルクを駆動軸50に伝達するようになる。この遠心クラッチ48よりも,フライホイール43は大径になっている。
【0027】
エンジン本体1及び付属機器を覆うエンジンカバー51は,タイミング伝動装置35の部分で,フライホイール43側の第1カバー半体51aと,スタータ42側の第2カバー半体51bとの分割され,それぞれエンジン本体1に固着される。第1カバー半体51aには,クランク軸6と同軸に並ぶ円錐台状の軸受ホルダ75が固着され,この軸受ホルダ75は,前記カッタCを回転駆動するベアリング59を介して支持するものであり,この軸受ホルダ75に空気取り入れ口52が設けられ,冷却羽根45,45…の回転に伴い外気をエンジンカバー51内に取り入れるようになっている。またエンジンカバー51及び軸受ホルダ75には,燃料タンク5の下面を覆う台座54が固着される。
【0028】
第2カバー半体51bは,前記ベルトカバー36と協働して,タイミング伝動装置35を収容するタイミング伝動室92を画成する。
【0029】
而して,クランク軸13及びカム軸26間を連動させるタイミング伝動装置35が乾式に構成されて,エンジン本体1の外側に配設されるので,エンジン本体1の側壁には,該装置35を収容する室を特別に設ける必要がなくなり,したがってエンジン本体1の薄肉化及びコンパクト化を図り,エンジンE全体の大幅な軽量化を達成することができる。
【0030】
しかも,シリンダブロック7を間に置いて,クランク軸13の両端部にタイミング伝動装置35と遠心クラッチ48の遠心シュー47とが連結されるので,クランク軸13の両端部での重量バランスが良好で,エンジンEの重心をクランク軸13の中央部に極力近づけることができ,軽量化と相俟って,エンジンEの作業性を向上させることができる。のみならず,エンジンEの作動中,タイミング伝動装置35及び駆動軸50による負荷は,クランク軸13の両端部に分散して作用することになるため,クランク軸13及びそれを支持するベアリング14,14′への荷重の集中を回避して,それらの耐久性をも向上させることができる。
【0031】
またエンジン本体1と遠心シュー47との間において,遠心シュー47より大径で冷却羽根45を有するフライホイール43がクランク軸13に固着されるので,フライホイール43によるエンジンEの大型化を極力回避しながら,冷却羽根45の回転により,遠心クラッチ48に邪魔されることなく,空気取り入れ口52から外気を吸入してシリンダブロック7及びシリンダヘッド8周りに的確に供給でき,それらの冷却性を高めることができる。
【0032】
さらにエンジン本体1にはオイルタンク40がタイミング伝動装置35の外側に隣接して取付けられるので,オイルタンク40がタイミング伝動装置35の少なくとも一部を覆うことになり,該伝動装置35の他の部分を覆う第2カバー半体51bと協働して,該伝動装置35を保護することができる。しかもこのオイルタンク40とフライホイール43との,エンジン本体1を間に置いた対向配置により,エンジンEの重心をクランク軸13の中心部により近づけることができる。
【0033】
図5,図14及び図15に示すように,シリンダヘッド8の一側面には,前記吸気ポート9有する吸気管94が一体に突設されており,この吸気管94に,ゴム等の弾性材からなる吸気パイプ95を介して前記気化器2が接続される。吸気パイプ95の一端部は,吸気管94の外周に嵌合され,更にその外周に締め付け環96が嵌合され,この締め付け環96には複数条の環状かしめ溝96aが形成される。こうして吸気パイプ95は吸気管94に接続される。吸気パイプ95の他端にはフランジ95aが形成されており,このフランジ95aを挟むようにして,支持板97と,断熱材からなるインシュレータ98とが重ねて配置される。支持板97には,一対の連結ボルト99の頭部が溶接されており,これら連結ボルト99は,インシュレータ98,気化器2及び前記エアクリーナ4のケース4a底壁を貫通する一連のボルト孔100に挿通され,それらの先端にナット101を螺合,緊締することにより,支持板102に吸気パイプ95,インシュレータ98,気化器2及びエアクリーナ4が取り付けられる。
【0034】
上記支持板97には,上方に延びるステー97aが一体に形成されており,このステー97aがシリンダヘッド8にボルト109で固着される。
【0035】
エンジン本体1及び気化器2間には遮熱兼導風板102が配設される。この遮熱兼導風板102は合成樹脂製であって,前記ベルトカバー36の一側に一体に連設されたものであり,前記吸気パイプ95が通過する開口部103を有すると共に,下端部が前記フライホイール,即ち冷却ファン43の近傍まで延びている。
【0036】
而して,冷却ファン43から送られた冷却風は遮熱兼導風板102によりエンジン本体1,特にシリンダヘッド8に誘導され,それを効果的に冷却することができる。また上記遮熱兼導風板102は,エンジン本体1の放射熱を遮断して,気化器2の過熱を防ぐものである。このような遮熱兼導風板102をベルトカバー36と一体成形することにより,部品線数の削減,延いては構成の簡素化を図ることができる。
【0037】
次に,図3,図13,図16〜図18により上記エンジンEの潤滑系について説明する。
【0038】
図3に示すように,クランク軸13の一端部は,オイルタンク40の内外両側壁に装着されたオイルシール39,39′に密接しながらオイルタンク40を貫通するように配置されており,オイルタンク40の内部とクランク室6aとの間を連通する通孔55がクランク軸13に設けられる。オイルタンク40には潤滑用オイルOが貯留されれており,その貯留量は,上記通孔55のオイルタンク40内への開口端をエンジンEの如何なる運転姿勢でも常にオイルOの液面上に露出させるように設定される。
【0039】
オイルタンク40の外側壁には,該タンク40内に凹入した椀状部40aが形成される。このオイルタンク40内では,クランク軸13にオイルスリンガ56がクランク軸13にナット57で固着される。オイルスリンガ56は,クランク軸13に嵌着される中心部から互いに半径方向反対側へ延出する2枚のブレード56a,56bを備え,一方のブレード56aは,中間部からエンジン本体1側へ屈曲し,他方のブレード56bは中間部から前記椀状部40aの湾曲面に沿うように屈曲しており,クランク軸13によりオイルイルスリンガ56が回転されると,エンジンEの如何なる運転姿勢でも,2枚のブレード56a,56bの少なくとも何れか一方が,オイルタンク40内にオイルOを飛散させ,オイルミストを生成するようになっている。
【0040】
特に,オイルタンク40の外側壁に椀状部40aを形成することにより,オイルタンク40のデッドスペースを削減することができ,しかも椀状部40aを下向きとしたエンジンEの横転姿勢でも,椀状部40a周りに存在するオイルをブレード56bによって攪拌,飛散させることができる。
【0041】
また椀状部40aの中心部には,これを貫通するクランク軸13の外周面に密接する前記オイルシール39が取り付けられ,椀状部40a内には,クランク軸13の先端に固着されて前記リコイルスタータ42によって駆動される被動部材84が配置される。
【0042】
こうすることにより,椀状部40a内のスペースが被動部材84の配置に有効利用されると共に,リコイルスタータ42のオイルタンク40への近接配置が可能となり,エンジンE全体のコンパクト化に寄与することができる。
【0043】
図3,図12及び図17において,クランク室6aはオイル送り導管60を介して動弁カム室21に接続され,そのオイル送り導管60には,クランク室6aから動弁カム室21側への一方向のみの流れを許容する一方向弁61が介裝される。オイル送り導管60は前記ベルトカバー36に,その一側縁に沿って一体に形成され,このオイル送り導管60の下端部は弁室62に形成される。ベルトカバー36には,弁室62からベルトカバー36の裏側に突出する入口管63が一体に形成され,この入口管63は,クランク室6aに連通するように,クランクケース6下部の接続孔64にシール部材65を介して嵌合される。弁室62には,入口管63から弁室62への一方向への流れを許容させるべく,前記一方向弁61が配設される。この一方向弁61は,図示例の場合,リード弁からなっている。
【0044】
またベルトカバー36には,オイル送り導管60の上端からベルトカバー36の裏側に突出する出口管66が一体に形成され,この出口管66は,動弁カム室21に連通するように,シリンダヘッド8側部の接続孔67に嵌合される。
【0045】
ヘッドカバー71は,前記フランジ部71aを有する合成樹脂製のカバー外側板105と,前記嵌合壁部71bを有する合成樹脂製のカバー内側板106とを相互に摩擦溶接して構成される。これらカバー外側及び内側板105,106は,その間に吸い上げ室74を画成するように形成される吸い上げ室74は,動弁カム室21の上面に沿った偏平な形状を成しており,その底壁,即ち内側板105の四隅に4つのオリフィス73,73…が穿設される。またその底壁には,その中央部でカム軸26の軸線と直交する方向に間隔を置いて並んで動弁カム室21内に突出する長短2本の吸い上げ管74,75が一体に形成されており,これらにオリフィス73,73が設けられる。
【0046】
図12,図13及び図17に示すように,吸い上げ室74は,他方において,オイル戻し導管78を介してオイルタンク40内と連通される。オイル戻し導管78はベルトカバー36に,オイル送り導管60と反対側の他側縁に沿って一体に形成される。ベルトカバー36には,オイル戻し導管78の上端からベルトカバー36の裏側に突出する入口管78が一体に形成されており,この入口管78は,吸い上げ室74と連通するように,ヘッドカバー71に形成された出口管80にコネクタ81を介して接続される。
【0047】
またベルトカバー36には,オイル戻し導管78の下端からベルトカバー36の裏側に突出する出口管82が一体に形成されており,この出口管82は,オイルタンク40内に連通するように,オイルタンク40に設けられた戻し孔83に嵌合される。戻し孔83の開口端は,エンジンEの如何なる運転姿勢でもオイルタンク40内のオイルの液面上に露出するように,オイルタンク40内の中心部近傍に配置される。
【0048】
図4に明示するように,カム軸26には,ブリーザ通路68が設けられる。このブリーザ通路68は,カム軸26の軸方向中間部から動弁カム室21に向かって開口する,入口としての短い横孔68aと,この横孔68aに連通すると共に,カム軸26の中心部を通って,ベアリングキャップ30側の端面に開口する長い縦孔68bとからなっている。ベアリングキャップ30には,上記縦孔68bの出口と連通する拡大したブリーザ室69と,このブリーザ室69に連通してベアリングキャップ30外側面に突出するパイプ接続管107とが形成されており,そのパイプ接続管107に接続されるブリーザパイプ70を介してブリーザ室69は前記エアクリーナ4内に連通される。
【0049】
ベアリングキャップ30に保持されるボールベアリング27′は,ブリーザ室69に臨む側にシール部材108を備えるシール付きに構成される。したがって,動弁カム室21内のオイルミストは,ボールベアリング27′を潤滑し得るが,該ベアリング27′を通過してブリーザ室69に到達することはできない。
【0050】
而して,エンジンEの運転中,クランク軸13の回転によりオイルタンク40においてオイルスリンガ56が潤滑油Oを飛散させてオイルミストを生成すると,ピストン15の上昇運動によりクランク室23が減圧したとき,そのオイルミストは通孔55を通してクランク室6aに吸入され,クランク軸13ピストン15周りを潤滑する。次いでピストン15の下降運動によりクランク室6aが昇圧すると,一方向弁61の開弁により上記オイルミストはクランク室6aで発生したブローバイガスと共にオイル送り導管60を昇って動弁カム室21に供給され,カム軸26やロッカアーム24,25等を潤滑する。
【0051】
動弁カム室21内のオイルミスト及びブローバイガスが回転中のカム軸26のブリーザ通路68の横孔68aに流入すると,この回転する横孔68aにおいて遠心力の作用により気液分離され,オイル分は動弁カム室21に戻され,ブローバイガスは,ブリーザ通路68の横孔68aから縦孔68b,ブリーザ室69,ブリーザパイプ70及びエアクリーナ4を順次経由してエンジンEに吸入される。
【0052】
上記ブリーザ室69と,ブリーザパイプ70を接続するパイプ接続管107とは,前述のように,カム軸26支持のためのボールベアリング27′を保持するベアリングキャップ30に形成されるので,ベアリングキャップ30がブローバイガスをブリーザパイプに受け渡すガス受け渡し部材を兼ねることになり,構造の簡素化及び部品点数の削減を図ることができる。
【0053】
ところで,動弁カム室21は,上記のようにブリーザ通路68,ブリーザ室69及びブリーザパイプ70を介してエアクリーナ4内に連通しているので,動弁カム室21の圧力は,大気圧もしくはそれより若干低圧に保たれる。
【0054】
一方,クランク室6aは,その圧力脈動の正圧成分のみを一方向弁61から吐出することから平均的に負圧状態となり,その負圧は,通孔55を介してオイルタンク40に伝達し,更にオイル戻し導管78を介して吸い上げ室74に伝達するので,吸い上げ室74は,動弁カム室21よりも低圧,オイルタンク40内は吸い上げ室74よりも低圧となる。その結果,圧力の移動が動弁カム室21から吸い上げ管75,76及びオリフィス73,73…を通して吸い上げ室74へ,更にオイル戻し導管78を通してオイルタンク40へと生ずるので,それに伴い動弁カム室21内のオイルミストや,動弁カム室21内で液化して溜まったオイルは吸い上げ管75,76及びオリフィス73,73…を通して吸い上げ室74に吸い上げられ,そしてオイル戻し導管78を下ってオイルタンク40に還流する。
【0055】
その際,前述のように,吸い上げ室74の底壁の四隅に4つのオリフィス73,73…が穿設され,またその底壁の中央部から動弁カム室21に突出して,カム軸26の軸線と直交する方向に間隔を置いて並ぶ長短2本の吸い上げ管74,75にオリフィス73,73が設けられているので,図18に示すように,エンジンEの正立状態(A)は勿論,左方傾け状態(B),右方傾け状態(C),左方横転状態(D),右方横転状態(E),倒立状態(F)など,如何なる運転姿勢でも,動弁カム室21に溜まったオイルには,6つのオリフィス73,73…の何れかが浸かることになり,そのオイルを吸い上げ室74に吸い上げることができる。
【0056】
かくして,オイルタンク40内でミスト化されたオイルを,クランク室6aの圧力脈動と,一方向弁61の機能を利用して,OHC型四サイクルエンジンEのクランク室6a及び動弁カム室21に供給し,それをオイルタンク40に還流させるので,エンジンEの如何なる運転姿勢においても,そのエンジン内部をオイルミストにより確実に潤滑することができ,しかもそのオイルミストの循環のための専用のオイルポンプは不要であり,構造の簡素化を図ることができる。
【0057】
また合成樹脂製のオイルタンク40のみならず,クランク室6a及び動弁カム室21間を結ぶオイル送り導管60,並びに吸い上げ室74及びオイルタンク40間を結ぶオイル戻し導管78は,エンジン本体1外に配設されるので,エンジン本体1の薄肉化及びコンパクト化を何ら妨げず,エンジンEの軽量化に大いに寄与することができる。特に,外部配置のオイル送り導管60及びオイル戻し導管78は,エンジン本体1からの熱の影響を受け難くなるので,潤滑用オイルOの過熱を回避することができる。またオイル送り導管60及びオイル戻し導管78とベルトカバー36との一体化により,部品点数の削減と組立性の向上に寄与し得る。
【0058】
本発明は,上記実施例に限定されるものではなく,その要旨の範囲を逸脱することなく種々の設計変更が可能である。
【0059】
【発明の効果】
以上のように本発明の第1の特徴によれば,シリンダヘッドの上端面の少なくとも一部が,動弁カム室の内部機構の形状に合わせて傾斜した斜面を持つものであっても,シリンダヘッドの上端面を,互いに高低差を有して平行する一対の平坦面と,この両平坦面に対して角度をなして該両平坦面間を連結する斜面とで構成し,この上端面に結合されて動弁カム室を閉じるヘッドカバーに,該上端面に重なるように当接するフランジ部を形成し,このフランジ部を前記平坦面に対応する部分のみでシリンダヘッドにボルトで接合したことで,最少のボルトをもって簡単,確実にヘッドカバーを固着することができる。しかも,ヘッドカバーに,動弁カム室の内周面に嵌合する嵌合壁部を形成し,この嵌合壁部の外周面に設けたシール溝に,シリンダヘッドの内周面に密接するシール部材を装着したことで,ボルトの使用本数,軸力に関係なくシール部材の各部に均一な締め代を付与することができて,シリンダヘッド及びヘッドカバー間の良好なシール状態を確保することができる。また,ヘッドカバーのフランジ部をシリンダヘッドに固着するボルトは,シール部材の締め代に関係せず,単にシリンダヘッドへの固着を果たすのみであるから,その使用本数を大幅に少なくすることができ,コストの低減に寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のハンドヘルド型四サイクルエンジンの一使用例を示す斜視図。
【図2】上記四サイクルエンジンの縦断側面図。
【図3】図2の要部拡大図。
【図4】図3のカム軸周りの拡大縦断面図。
【図5】図3の5−5線断面図。
【図6】図3の6−6線断面図。
【図7】図6の7−7線断面図。
【図8】図6の8−8線断面図。
【図9】棒状シール部材の正面図。
【図10】図9の10矢視図。
【図11】図5の要部拡大図。
【図12】図3の12−12線断面図。
【図13】図12の13−13線断面図。
【図14】図11の14−14線断面図。
【図15】図14の15−15線断面図。
【図16】ヘッドカバーの底面図。
【図17】エンジンの潤滑系統図。
【図18】エンジンの種々の運転姿勢におけるシリンダヘッドでの溜まりオイルの吸い上げ作用説明図。
【符号の説明】
E・・・・・エンジン
8・・・・・シリンダヘッド
11・・・・上端面
11a・・・平坦面
11b・・・平坦面
11c・・・斜面
21・・・・動弁カム室
24,25・・・・ロッカアーム
26・・・・カム軸
71・・・・ヘッドカバー
71a・・・フランジ部
71b・・・嵌合壁部
72・・・・シール部材(Oリング)
90・・・・シール溝
Claims (2)
- 動弁カム室(21)が開口するエンジンのシリンダヘッド(8)の上端面(11)を,互いに高低差を有して平行する一対の平坦面(11a,11b)と,この両平坦面(11a,11b)に対して角度をなして該両平坦面(11a,11b)間を連結する斜面(11c)とで構成し,この上端面(11)に結合されて動弁カム室(21)を閉じるヘッドカバー(71)に,該上端面(11)に重なるように当接するフランジ部(71a)を形成し,このフランジ部(71a)を前記平坦面(11a,11b)に対応する部分のみでシリンダヘッド(8)にボルト(91)で接合すると共に,該ヘッドカバー(71)に,動弁カム室(21)の内周面に嵌合する嵌合壁部(71b)を形成し,この嵌合壁部(71b)の外周面に設けたシール溝(90)に,シリンダヘッド(8)の内周面に密接するシール部材(72)を装着したことを特徴とする,エンジンのシリンダヘッド及びヘッドカバー間のシール構造。
- 請求項1記載のエンジンのシリンダヘッド及びヘッドカバー間のシール構造において,
動弁カム室(21)には,カム軸(26)とロッカアーム(24,25)とが,ロッカアーム(24,25)の揺動支点がカム軸(26)の軸線よりも下方に位置するように配置され,シリンダヘッド(8)の上端面(11)の前記斜面(11c)は,カム軸(26)側からロッカアーム(24,25)の揺動支点側へ下るように傾斜して形成されていることを特徴とする,エンジンのシリンダヘッド及びヘッドカバー間のシール構造。
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