JP4009378B2 - ディーゼルエンジン用燃料油組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なディーゼルエンジン用燃料油組成物に関する。さらに詳しくは、組成炭素数が20以上のノルマルパラフィンの特定量を含有し、高融点のノルマルパラフィンが特定の炭素数分布を有し、多環芳香族炭化水素の特定量を含有し、かつ硫黄含有量が0.05重量%以下である基材油に、ろ過器目詰まり性向上剤および潤滑性向上剤を添加したディーゼルエンジン用燃料油物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ディーゼルエンジンは、自動車、船舶、建設機械などに搭載されて社会に広く普及しており、更にその量は年々増加する傾向にある。これに伴って、ディーゼルエンジン用燃料油の需要が増大することから、直留軽油の重質化、直留軽油への重質成分の混合使用などによる対応、いわゆるディーゼルエンジン用燃料油の重質化による対応が必至となっている。これらの対応によって、軽油の低温流動性が悪化、すなわち、流動点およびろ過器目詰まり点が高くなり、その結果、ディーゼルエンジン用燃料油が使用される地域の気温条件において、ディーゼルエンジンの燃料通路が閉塞したり、燃料フィルターが目詰まりを起こして、正常な運転が困難となることが懸念されている。さらに、ディーゼルエンジンの排気ガス中の窒素酸化物、粒子状物質などが増加して、大気汚染がさらに悪化することが予想されている。
【0003】
ディーゼルエンジン用燃料油の低温流動性の悪化に対しては、従来より、直留軽油の重質化程度の制限、直留軽油への重質成分の混合割合の制限、軽油への軽質成分の混合、あるいは軽油への流動点降下剤、ろ過器目詰まり性向上剤などの低温流動性向上剤を添加して使用地域の温度条件に適した流動点およびろ過器目詰まり点を有したディーゼルエンジン用燃料油が提案されてきた。たとえば、特開平8−157839号公報には、寒冷地においても使用可能であり、高密度で流動点が十分低く、かつディーゼルエンジン用燃料油として高い出力を与えることを可能とする燃料組成物として、ノルマルパラフィン成分を15重量%以下、炭素数20以上のノルマルパラフィン成分を1.2重量%以下含有し、かつ硫黄濃度が0.15重量%以下である軽油基材を含有する燃料組成物が記載されている。
【0004】
また、特開7−331261号公報には、蒸留性状の終点を320〜340℃に調整した軽油に、炭素数26〜31のn−パラフィンを含む留分を0.1〜2.0容量%とエチレン酢酸ビニル系低温流動性向上剤を100〜600ppm添加した軽油組成物が記載されている。これは、ディーゼルエンジンからのパティキュレート排出量を低減し、ろ過器目詰まり点で測定した低温流動性を向上したものである。
【0005】
しかしながら、ディーゼルエンジン用燃料油の低温流動性を確保するために、直留軽油の重質化程度の制限、直留軽油への重質成分の混合量の制限などの方法は、優れた流動点が得られるものの、優れたろ過器目詰まり点を得ることが困難であり、また、ディーゼルエンジン用燃料油の供給量を増大する効果が小さい。ディーゼルエンジン用燃料油に軽質成分を混合する方法は、ディーゼルエンジン用燃料油の引火点を下げ、ディーゼルエンジンの出力を低減するものである。さらに、流動点降下剤、ろ過器目詰まり性向上剤などの低温流動性向上剤を添加する方法は、流動点降下剤については、流動点は低下するものの、ろ過器目詰まり点が低下せず、ろ過器目詰まり性向上剤については、流動点およびろ過器目詰まり点を低下するものの、軽油を構成する基材油の原料の種類および基材油の蒸留性状が相違した場合に、しばしばろ過器目詰まり点が低下しないという問題があった。
【0006】
一方、ディーゼルエンジンの排気ガス中の窒素酸化物、粒子状物質などの排出物質を低減するために、燃焼室の形状、排気ガス再循環装置(EGR装置)、排気ガス浄化用触媒装置、粒子状物質の捕集装置、ディーゼルエンジン用燃料油および潤滑油の品質の改良など、多方面からの努力がなされてきたが、低減効果においても、経済性においても、長期間にわたる性能の安定性においても、いまだ満足できる性能を得るに至っていない。有力な方法の一つとして見なされているEGR装置は、ディーゼルエンジンの排気ガスを、燃焼用空気の一部として、燃焼室に再度循環する装置である。しかし、排気ガス中には、硫酸イオン、粒子状物質などが含有されることから、EGR装置を装着したディーゼルエンジンは、エンジンの耐久性や信頼性の低下、潤滑油の劣化、粒子状物質の排出量の増大、出力の低下などの多くの問題を有する。特に、高負荷運転が求められる直接噴射方式のディーゼルエンジンに装着した場合に、問題が大きい。硫酸イオンは、ディーゼルエンジン用燃料油に含有された硫黄分に起因するものであることから、硫黄分を0.05重量%以下とする「ディーゼルエンジン用燃料油の低硫黄化」は社会的な要請となっている。
【0007】
ディーゼルエンジン用燃料油に含有される硫黄分は、基材油の精製処理、特に接触水素化により低減することができるが、同時に、ディーゼルエンジン用燃料油自体の潤滑性の低下を招くことから、ディーゼルエンジンのインジェクションポンプの損傷を招くという問題がある。特に、硫黄分が0.2重量%以下の場合には、インジェクションポンプの摩耗量は、硫黄分の低下と共に顕著に増大する。
【0008】
また、排出物質を低減するために、燃料油の品質を改良する方法は、ディーゼルエンジンの機構の変更を殆ど必要としないことから、有効な方法として注目されてきた。たとえば、特開平8−225789号公報には、硫黄分を0.05質量%以下、ベンゾチオフェンを硫黄分として30質量ppm以上、かつ3環以上の多環芳香族分を0.2〜1.4質量%含む軽油、およびこの軽油がさらにインドール類を窒素分として13質量ppm以下含むものが記載されている。これらの軽油は、摩擦調整剤等を加えることなく、環境対策上の硫黄分の低減に対応し、かつ、十分な潤滑性を有するとしている。
【0009】
また、特開平8−291292号公報には、0.01〜0.05重量%の硫黄分を含有し、かつ(A)水酸基を有する窒素化合物と直鎖飽和脂肪酸とのエステル化合物と、(B)オレフィン、エチレン性不飽和カルボン酸アルキル及び飽和脂肪酸ビニルから選ばれる少なくとも一種の単量体から得られる重合物とを15〜2000mg/リットル添加した軽油組成物が記載されている。この軽油組成物は、硫黄分が著しく低減されても優れた潤滑性能が維持され、かつ低温流動性が改善され、加えてディーゼルエンジンの燃料噴射ポンプの不具合を起こすことなく、排ガスの悪化を起こさないとしている。
【0010】
しかし、従来の技術のいずれも、低温流動性、排出物質の低減、潤滑性が不十分であり、また、経済性が劣るという問題がある。従って、優れたろ過器目詰まり点および優れた潤滑性を有し、排出ガス中の排出物質、特に粒子状物質の排出量を顕著に低減し、かつ硫黄含有量が0.05重量%以下であるディーゼルエンジン用燃料油組成物を得ることができなかった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、前記従来の技術を改善し、粒子状物質の排出量を顕著に低減し、優れたろ過器目詰まり点と優れた潤滑性を有し、かつ硫黄含有量が0.05重量以下であるディーゼルエンジン用燃料油を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、硫黄含有量が0.05重量%以下のディーゼルエンジン用燃料油の基材油について、ノルマルパラフィンの含有量、ノルマルパラフィンの炭素数分布、多環芳香族炭化水素の含有量と、ろ過器目詰まり性向上剤(以下、FIという。)および潤滑性向上剤を添加したディーゼルエンジン用燃料油の低温流動性、潤滑性および粒子状物質(以下、PMという。)の排出量との関係を鋭意検討した結果、炭素数が20以上のノルマルパラフィンの含有量(以下、Aという。)が0<A≦4.0(重量%)であって、[B/C]が0.04≦[B/C]≦0.40を満足し、多環芳香族炭化水素の含有量(以下、Dという。)が0<D≦8.0(容量%)であって、かつ硫黄含有量が0.05重量以下である基材油に、FIを有効成分として0.01〜0.10重量%、および潤滑性向上剤を有効成分として0.002〜0.10重量%添加したディーゼルエンジン用燃料油組成物によって、PMの排出量を顕著に低減し、優れたろ過器目詰まり点(以下、CFPPという。)と優れた潤滑性を達成できることを見いだし、本発明を完成するに至った。ここで、Bは、炭素数がn+5のノルマルパラフィンの含有量(重量%)、Cは、炭素数がnのノルマルパラフィンの含有量(重量%)、[B/C]は、B/Cの平均値である。ただし、nは、炭素数がn以上のノルマルパラフィンの合計含有量が、基材油中のノルマルパラフィンの全含有量に対して、3.0重量%以下かつそれに最も近い含有量となる場合における正整数である。
【0013】
すなわち、本発明によれば、下記の式(1)、式(2)および式(3)を満足し、CFPPが−5〜−3℃であり、かつ硫黄含有量が0.05重量%以下の基材油に、ろ過器目詰まり性向上剤を有効成分として0.01〜0.10重量%、および潤滑性向上剤を有効成分として0.002〜0.10重量%添加することにより、そのCFPPを6〜11℃低下させたことを特徴とするディーゼルエンジン用燃料油組成物が提供される。
(a)0<A≦4.00 (1)
(式中、Aは、基材油中のノルマルパラフィンの全含有量を基準として、炭素数が20以上のノルマルパラフィンの含有量(重量%)である。)
(b)0.04≦[B/C]≦0.40 (2)
(式中、Bは、炭素数がn+5のノルマルパラフィンの含有量(重量%)、Cは、炭素数がnのノルマルパラフィンの含有量(重量%)、[B/C]は、B/Cの平均値である。ただし、nは、炭素数がn以上のノルマルパラフィンの合計含有量が、基材油中のノルマルパラフィンの全含有量に対して、3.0重量%以下かつそれに最も近い含有量となる場合における正整数である。)
(c)0<D≦8.0 (3)
(式中、Dは、基材油の全重量を基準として、多環芳香族炭化水素の含有量(容量%)である。)
【0014】
本発明は、上記のようなディーゼルエンジン用燃料油組成物に係るものであるが、その好ましい実施の態様として、次のものを包含する。
(1)前記基材油の[B/C]が、0.07〜0.20であることを特徴とする前記ディーゼルエンジン用燃料油組成物。
(2)前記基材油のDが、0〜5.0容量%であることを特徴とする前記ディーゼルエンジン用燃料油組成物。
(3)前記基材油のDが、0〜5.0容量%であることを特徴とする上記(1)に記載のディーゼルエンジン用燃料油組成物。
(4)前記FIの有効成分が、エチレングリコールエステル系化合物およびエチレン−酢酸ビニル系共重合体から選ばれる1種以上であることを特徴とする前記ディーゼルエンジン用燃料油組成物。
(5)前記FIの有効成分が、エチレングリコールエステル系化合物およびエチレン−酢酸ビニル系共重合体から選ばれる1種以上であることを特徴とする上記(1)〜上記(3)のうちのいずれかに記載のディーゼルエンジン用燃料油組成物。
(6)前記FIの添加量が、有効成分として0.03〜0.07重量%であることを特徴とする前記ディーゼルエンジン用燃料油組成物。
(7)前記FIの添加量が、有効成分として0.03〜0.07重量%であることを特徴とする上記(1)〜上記(5)のうちのいずれかに記載のディーゼルエンジン用燃料油組成物。
(8)前記潤滑性向上剤の有効成分が、エステル系化合物であることを特徴とする前記ディーゼルエンジン用燃料油組成物。
(9)前記潤滑性向上剤の有効成分が、エステル系化合物であることを特徴とする上記(1)〜上記(7)のうちのいずれかに記載のディーゼルエンジン用燃料油組成物。
(10)前記潤滑性向上の添加量が、有効成分として0.005〜0.05重量%であることを特徴とする前記ディーゼルエンジン用燃料油組成物。
(11)前記潤滑性向上剤の添加量が、有効成分として0.005〜0.05重量%であることを特徴とする上記(1)〜上記(9)のうちのいずれかに記載のディーゼルエンジン用燃料油組成物。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明のディーゼルエンジン用燃料油組成物は、Aの特定量を含有し、[B/C]が特定範囲にあって、Dの特定量を含有し、かつ硫黄含有量が0.05重量%以下である基材油に、FIを0.01〜0.10重量%および潤滑性向上剤を0.002〜0.10重量%添加したものである。
【0016】
本発明で使用する基材油は、鉱油を主成分とし、引火点が40℃以上、かつ蒸留性状の90%留出温度が360℃以下のものである。本発明で使用する鉱油は、石油留分であって、原油を常圧蒸留して得られる石油留分のほか、原油を常圧蒸留または減圧蒸留して得られる石油留分を、水素化精製、水素化分解、接触分解などを組み合わせた処理をして得られる石油留分などを挙げることができる。これらの石油留分は、単独にまたは混合して使用することができる。鉱油以外の成分は、たとえば、大豆油、ヤシ油、なたね油などの植物油、鯨油、魚油などの動物油などを使用することができる。
【0017】
本発明のディーゼルエンジン用燃料油組成物は、基材油が、炭素数が20以上のノルマルパラフィンの含有量(A)を、0<A≦4.0(重量%)とするものである。Aが、4.0重量%を超える場合は、周囲温度の低下と共に析出したノルマルパラフィンに起因して、ディーゼルエンジンの燃料通路が閉塞したり、燃料フィルターが目詰まりを起こす。
【0018】
さらに、本発明のディーゼルエンジン用燃料油組成物は、基材油が、B/C比の平均値(以下、[B/C]という。)を、0.04〜0.40とするものである。好ましくは0.07〜0.20である。ここで、Bは、炭素数がn+5のノルマルパラフィンの含有量(重量%)、Cは、炭素数がnのノルマルパラフィンの含有量(重量%)である。ただし、nは、炭素数がn以上のノルマルパラフィンの合計含有量が、基材油中のノルマルパラフィンの全含有量に対して、3.0重量%以下かつそれに最も近い含有量となる場合における正整数である。たとえば、基材油中のノルマルパラフィンの全含有量に対して、基材油中の炭素数が20以上のノルマルパラフィンの含有量が3.0重量%である場合に、(n−C25)/(n−C20)比、(n−C26)/(n−C21)比、(n−C27)/(n−C22)比などを順次計算して得た値の平均値を、0.04〜0.40とするものである。[B/C]が0.04未満の場合、周囲温度が低下した時、Aが0<A≦4.0(重量%)の場合においても、ノルマルパラフィンが巨大な平板結晶として析出して、容易に燃料フィルターの目詰まりを起こす。この場合、ディーゼルエンジン用燃料油組成物のCFPPが高い。[B/C]が0.40を超える場合においても、同様である。
【0019】
また、本発明のディーゼルエンジン用燃料油組成物は、基材油が、多環芳香族炭化水素の含有量(D)を、0<D≦8.0(容量%)とするものである。Dが、8.0重量%を超える場合は、排気ガス中のPMが増大する。好ましくは0<D≦5.0(容量%)である。さらに好ましくは0<D≦3.0(容量%)である。通常、基材油は、芳香族炭化水素を20〜40容量%含有するが、単環芳香族炭化水素として12〜30容量%、多環芳香族炭化水素(2環以上)として2〜15容量%含有する。
【0020】
従って、本発明のディーゼルエンジン用燃料油組成物は、基材油の性状が、0<A≦4.0(重量%)、0.04≦[B/C]≦0.40、かつ0<D≦8.0(容量%)である場合においてのみ、周囲温度が低下した時、優れたCFPPが得られる。
【0021】
基材油のAは、ノルマルパラフィンの含有量の異なる石油留分から適宜選択して得ることができる。たとえば、ノルマルパラフィンの含有量の異なる原油を常圧蒸留して得られる石油留分、原油を常圧蒸留または減圧蒸留して得られる石油留分を溶剤脱ろう処理または接触脱ろう処理して得られる石油留分などから得ることができる。また、基材油の[B/C]は、蒸留操作において精留の程度を適宜調節して得ることができる。精留の程度が低い場合には、[B/C]は大きく、精留の程度が高い場合には、[B/C]は小さい。さらに、基材油のDは、多環芳香族炭化水素の含有量の異なる石油留分や、溶剤抽出、水素化処理などの方法で多環芳香族炭化水素の含有量を調整した石油留分などを適宜組み合わせて得ることができる。多環芳香族炭化水素の含有量は、石油学会法 JPI−5S−49−97(HPLC法)により測定することができる。本発明で使用する基材油のA、[B/C]およびDは、上に述べた方法によって製造された石油留分を単独にまたは数種を組み合わせて使用することができる。
【0022】
本発明で使用するFIは、公知のものを使用することができる。たとえば、エチレングリコールエステル系化合物、エチレン−酢酸ビニル系共重合体、エチレン−アルキルアクリレート系共重合体、塩素化ポリエチレン、ポリアルキルアクリレート、アルケニルこはく酸アミド系化合物などを挙げることができる。好ましくはエチレングリコールエステル系化合物および/またはエチレン−酢酸ビニル系共重合体である。FIの添加量が、0.01重量%未満の場合には、CFPPが低下する効果が得られず、0.1重量%を超える場合には、添加量に見合うだけのCFPPを低下する効果が得られないので経済的でない。好ましくは0.03〜0.07重量%である。これらのFIは、単独にまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0023】
本発明で使用する潤滑性向上剤は、公知のものを使用することができる。たとえば、ステアリン酸、リノール酸、オレイン酸などの脂肪酸系化合物、リノール酸とグリセリンのエステルに代表される脂肪酸と多価アルコールとのエステルなどのエステル系化合物などを挙げることができる。好ましくはエステル系化合物である。潤滑性向上剤の添加量が、0.002重量%未満の場合には、潤滑性を向上する効果が得られず、0.10重量%を超える場合には、添加量に見合うだけの潤滑性を向上する効果が得られないので経済的でない。好ましくは0.005〜0.05重量%である。これらの潤滑性向上剤は、単独にまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0024】
所望により、本発明のディーゼルエンジン用燃料油組成物は、その性能を損なわない範囲で、公知の燃料油添加剤を使用することができる。たとえば、セタン価向上剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、清浄剤、腐食防止剤、流動点降下剤、氷結防止剤、微生物殺菌剤、助燃剤、帯電防止剤、着色剤などを挙げることができる。これらの添加剤の添加量は、たとえば、流動点降下剤の場合、0.1〜0.5重量%であるが、この添加量に限定するものでない。これらの添加剤は、1種または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0025】
さらに、本発明のディーゼルエンジン用燃料油組成物は、その性能を損なわない範囲で、含酸素化合物を使用することもできる。たとえば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、n−ヘプチルアルコール、トリデシルアルコール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノールなどの脂肪族アルコール、メチルtert−ブチルエーテル、エチルtert−ブチルエーテルなどのエーテル類、ジエチルフタレート、ジプロピルフタレート、ジブチルフタレートなどのジアルキルフタレート系化合物、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノn−ブチルエーテルなどのグリコール・エーテル系化合物、ヒドロキシルアミン系化合物、アセチルアセトンなどのジケトン化合物などを挙げることができる。含酸素化合物の添加量は、1〜15重量%の範囲であるが、この添加量に限定するものではない。
【0026】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお本発明は、以下の実施例によって何等限定されるものではない。また、以下の実施例および比較例では、次に示す基材およびFIおよび潤滑性向上剤を使用した。併せて、CFPP、A、[B/C]およびDの測定方法を示した。
(1)基材
19種類(A〜S)の基材の性状を表1〜3に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
(3)FI
ECA9911(エクソン化学(株)製のエチレングリコールエステル系ろ過器目詰まり性向上剤)およびPF240(エクソン化学(株)製のエチレン−酢酸ビニル系ろ過器目詰まり性向上剤)を使用した。
(4)潤滑性向上剤
PDN655(エクソン化学(株)製のエステル系化合物を有効成分とする潤滑性向上剤)を使用した。
(5)CFPPの測定方法
JIS K−2288に準拠して測定した。
(6)Aの測定方法
ガスクロマト法によって、基材油が含有する個々のノルマルパラフィンの含有量を測定した。炭素数20以上の個々のノルマルパラフィンの含有量の合計量を、Aとした。キャピラリーカラム(内径0.25mm×長さ15m、メチルシリコンを膜厚0.1μmで担持)を装着したガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製のGC−6AM)を使用して、50〜350℃の昇温条件で測定した。
(7)[B/C]の測定方法
ガスクロマト法によって、基材油が含有する個々のノルマルパラフィンの含有量を測定した。最も大きな炭素数のノルマルパラフィンからそれより小さな炭素数のノルマルパラフィンの含有量を順次合計して、その合計含有量が、基材油中の全含有量に対して、3.0重量%以下かつそれに最も近い含有量となる炭素数をnとした。次に、(炭素数がn+5のノルマルパラフィンの含有量)/(炭素数がnのノルマルパラフィンの含有量)比を順次計算し、その平均値を[B/C]とした。ガスクロマト法は、Aの測定方法と同様にして行った。
(8)Dの測定方法
石油学会法(JPI−5S−49−97)(HPLC法)に準拠して測定される2環芳香族分と3環以上芳香族分の合計量をDとした。
【0031】
(実施例および比較例)
表1〜3に示した基材、FIおよび潤滑性向上剤を配合して、表4〜7に示した燃料油を調製した。各燃料油(実施例1〜9、比較例1〜13)について、CFPP、潤滑性および排気ガス中のPMの排出量を測定した。その結果を、同じく表4〜7に示した。また、潤滑性および排気ガス中のPMの排出量の測定方法を、次に示した。
【0032】
【表4】
【0033】
【表5】
【0034】
【表6】
【0035】
【表7】
【0036】
(1)潤滑性の測定方法
潤滑性は、燃料油の耐摩耗性によって評価した。耐摩耗性の試験方法は、JPI−5S−50−97(軽油−潤滑性試験方法)に準拠した。High Frequency Reciprocating Rig(HFRR、PCS社製)を使用して、表8に示した試験条件で、摩耗痕径(μm)を測定した。潤滑性が優れた燃料油は摩耗痕径が小さく、逆に潤滑性が劣る燃料油は摩耗痕径が大きい。
【0037】
【表8】
【0038】
(2)排気ガス中のPMの測定方法
排気ガス中のPMの排出量の測定方法は、「ディーゼル自動車10・15モード排出ガス試験方法」(TRIAS−24−4−1993)に準拠した。
(a)試験エンジンおよび運転条件
試験に使用したディーゼルエンジンの主要諸元を表9に示す。また、エンジンの運転条件は、表10に示すとおりである。
【0039】
【表9】
【0040】
【表10】
【0041】
(b)排気物質の捕集方法および測定方法
排気管から、排気ガスをダイリューショントンネルシステム(堀場製作所株式会社製)に導き、PMの排出量(g/km)を測定した。
【0042】
表4および表5に示す実施例から明らかなように、Aの特定量を含有し、[B/C]が特定範囲であって、Dの特定量を含有し、かつ硫黄含有量が0.05重量%以下である基材油に、FIおよび潤滑性向上剤を添加した燃料油は、CFPPは、−9〜−16℃で顕著に低く、基材油のCFPPに較べて、6〜11℃低い値であり、また、PMの排出量が顕著に低く、耐摩耗性は、408〜421μmであって、優れたものであった。これに対して、表6および表7に示す比較例から明らかなように、Aおよび[B/C]の何れかが特定の範囲でない基材油に、FIおよび潤滑性向上剤を添加した燃料油(比較例1〜3、比較例9〜12)は、そのCFPPは、それぞれの基材油のCFPPと殆ど同じであって高い値であった。また、Aの特定量を含有し、[B/C]が特定範囲であって、Dが特定範囲である基材油であっても、FIが添加されていない燃料油(比較例4、比較例7)は、基材油のCFPPと殆ど同じであって高い値であった。同様に、Aの特定量を含有し、[B/C]が特定範囲であって、Dが特定範囲である基材油であっても、潤滑性向上剤が添加されていない燃料油(比較例5、比較例8)は、潤滑性が顕著に劣るものであった。さらに、Aの特定量を含有し、かつ[B/C]が特定範囲であって、Dが特定範囲にない基材油に、FIおよび潤滑性向上剤を添加した燃料油(比較例6、比較例13)は、PMの排出量が著しく高った。すなわち、Aの特定量を含有し、[B/C]が特定範囲であり、Dの特定量を含有し、かつ硫黄含有量が0.05重量%以下である基材油に、FIおよび潤滑性向上剤を添加したディーゼルエンジン用燃料油組成物においてのみ、PMの排出量が顕著に低減し、優れたCFPPおよび優れた潤滑性を達成することができた。
【0043】
【発明の効果】
以上、詳細かつ具体的に説明したように、本発明によれば、0<A≦4.0(重量%)、0.04≦[B/C]≦0.40、0<D≦8.0(容量%)であって、かつ硫黄含有量が0.05重量%以下である基材油に、FIおよび潤滑性向上剤を添加したディーゼルエンジン用燃料油組成物によって、PMの排出量を顕著に低減し、優れたCFPPおよび優れた潤滑性を有したディーゼルエンジン用燃料油組成物を提供することができる。
Claims (1)
- 下記の式(1)、式(2)および式(3)を満足し、CFPPが−5〜−3℃であり、かつ硫黄含有量が0.05重量%以下の基材油に、ろ過器目詰まり性向上剤を有効成分として0.01〜0.10重量%、および潤滑性向上剤を有効成分として0.002〜0.10重量%添加することにより、そのCFPPを6〜11℃低下させたことを特徴とするディーゼルエンジン用燃料油組成物。
(a)0<A≦4.00 (1)
(式中、Aは、基材油中のノルマルパラフィンの全含有量を基準として、炭素数が20以上のノルマルパラフィンの含有量(重量%)である。)
(b)0.04≦[B/C]≦0.40 (2)
(式中、Bは、炭素数がn+5のノルマルパラフィンの含有量(重量%)、Cは、炭素数がnのノルマルパラフィンの含有量(重量%)、[B/C]は、B/Cの平均値である。ただし、nは、炭素数がn以上のノルマルパラフィンの合計含有量が、基材油中のノルマルパラフィンの全含有量に対して、3.0重量%以下かつそれに最も近い含有量となる場合における正整数である。)
(c)0<D≦8.0 (3)
(式中、Dは、基材油の全重量を基準として、多環芳香族炭化水素の含有量(容量%)である。)
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