JP4299948B2 - 軽油組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は軽油組成物に関し、詳しくは硫黄分含有量の少ない軽油組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ディーゼル自動車においては排出ガス中のPM(粒子状物質)、NOx(窒素酸化物)、HC(炭化水素)といった環境汚染物質の排出量の大幅な低減が求められており、これに対応してエンジンの改良や、酸化触媒、NOx還元触媒、DPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)等の後処理装置の装着等の高性能化が進められている。そして、かかるディーゼル自動車の高性能化においては、燃料噴射やエンジン燃焼、さらには後処理装置の機能等についてシステム全体の最適化を図るために電子制御化が非常に重要である。
【0003】
しかしながら、従来の軽油(軽油組成物)ではこのような高性能化、電子制御化されたディーゼル自動車のシステム全体の性能を有効に引き出すことはできず、そのためディーゼル自動車における環境汚染物質の排出量の低減等には限界があった。すなわち、高性能化、電子制御化されたディーゼル自動車においては燃料となる軽油組成物に対して従来よりさらに厳しい品質が要求されるものの、かかるディーゼル自動車の高性能化や電子制御化に対応してシステム全体の最適化による環境汚染物質の排出量の大幅な低減、ひいては運転性能の向上を十分に達成できる軽油組成物は未だ開発されていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、高性能化、電子制御化されたディーゼル自動車に用いた場合に特に環境汚染物質の排出量の大幅な低減を可能とする、ディーゼル自動車の高性能化や電子制御化に対応し、かつ潤滑性、燃費および出力の何れにも優れた性能を示す軽油組成物を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、硫黄分含有量を低くすると共に蒸留性状と芳香族分含有量が特定の条件を満たすようにすることによって、ディーゼル自動車の高性能化や電子制御化に対応して環境汚染物質の排出量を著しく低減でき、かつ潤滑性、燃費および出力の何れにも優れた性能を示す軽油組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明の軽油組成物は、硫黄分含有量が0.005質量%以下であり、蒸留性状が下記式(1):
1170≦T50+T70+T90+T95 (1)
[式中、T50、T70、T90、T95はそれぞれ、50容量%留出温度(℃)、70容量%留出温度(℃)、90容量%留出温度(℃)、95容量%留出温度(℃)を示す]
の関係を満たし、かつ、密度と全芳香族分含有量と50容量%留出温度とが下記式(2):
{D−(0.001648×TA+0.000398×T50)}<0.690 (2)
[式中、Dは15℃における密度(g/cm3)、TAは一環芳香族分含有量、二環芳香族分含有量及び三環以上の芳香族分含有量の合計量である全芳香族分含有量(容量%)、T50は50容量%留出温度(℃)をそれぞれ示す]
の関係を満たし、全芳香族分含有量が27容量%以下であるとともに二環芳香族分含有量が2.0容量%以下であることを特徴とするものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0008】
本発明の軽油組成物は、硫黄分含有量が0.005質量%以下であることが必要であり、好ましくは0.003質量%以下、より好ましくは0.001質量%以下である。硫黄分含有量が0.005質量%を超える場合は、最新のディーゼル自動車の排ガス浄化システムに硫黄分が影響を与え、排出ガス中のPM、NOxといった環境汚染物質の排出量が増加することとなる。なお、ここでいう硫黄分含有量とは、JIS K 2541「硫黄分試験方法」により測定される硫黄分の含有量を意味する。
【0009】
また、本発明の軽油組成物においては、蒸留性状が下記式(1):
1170≦T50+T70+T90+T95 (1)
[式中、T50、T70、T90、T95はそれぞれ、50容量%留出温度(℃)、70容量%留出温度(℃)、90容量%留出温度(℃)、95容量%留出温度(℃)を示す]
の関係を満たしていることが必要である。以下、{T50+T70+T90+T95}の値を「蒸留性状指数」という。
【0010】
上記蒸留性状指数が1170未満では燃料噴射ポンプ及び燃料噴射弁の潤滑性の確保が困難となる恐れがあることから上記式(1)の通り1170以上であることが必要であり、同様の観点から好ましくは1200以上、より好ましくは1230以上、さらにより好ましくは1250以上である。一方、上記蒸留性状指数は1400以下であることが好ましい。
【0011】
このように本発明の軽油組成物における蒸留性状は上記式(1)の関係を満たすものであればよく、各蒸留性状は特に規定されるものではないが、下記の蒸留性状:
初留点 :140〜210℃
10容量%留出温度(T10):165〜250℃
30容量%留出温度(T30):200〜280℃
50容量%留出温度(T50):240〜300℃
70容量%留出温度(T70):260〜335℃
90容量%留出温度(T90):290〜360℃
95容量%留出温度(T95):295〜365℃
蒸留終点 :300〜390℃
を満たしていることが好ましい。
【0012】
軽油組成物の初留点が低すぎる場合には、一部の軽質留分が気化して噴霧範囲が広がりすぎ、未燃分として排ガスに同伴される炭化水素量が増加する傾向があることから、初留点は好ましくは140℃以上、より好ましくは145℃以上、さらにより好ましくは150℃以上、さらにより一層好ましくは155℃以上、最も好ましくは160℃以上である。一方、初留点が高すぎる場合は、低温始動性及び低温運転性に不具合を生じる可能性があるため、初留点は好ましくは210℃以下、より好ましくは200℃以下、さらにより好ましくは195℃以下である。
【0013】
軽油組成物のT10が低すぎる場合は、初留点が低すぎる場合と同様の理由から、排ガスに同伴される炭化水素量の増大が懸念されるため、T10は好ましくは165℃以上、より好ましくは170℃以上、さらにより好ましくは175℃以上、さらにより一層好ましくは180℃以上である。一方、T10が高すぎる場合は、低温始動性及び低温運転性に不具合を生じる可能性があることから、T10は好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下、さらにより好ましくは235℃以下である。
【0014】
軽油組成物のT30が低すぎる場合も、初留点が低すぎる場合と同様の理由から、排ガスに同伴される炭化水素量の増大が懸念されるため、T30は好ましくは200℃以上、より好ましくは205℃以上、さらにより好ましくは210℃以上、さらにより一層好ましくは215℃以上、最も好ましくは220℃以上である。一方、T30が高すぎる場合は、低温始動性及び低温運転性に不具合を生じる可能性があることから、T30は好ましくは280℃以下、より好ましくは275℃以下、さらにより好ましくは270℃以下である。
【0015】
軽油組成物のT50は、燃料噴射ポンプ及び燃料噴射弁の潤滑性の確保の観点、並びに燃料消費率及びエンジン出力の観点から、好ましくは240℃以上、より好ましくは245℃以上、さらにより好ましくは250℃以上、さらにより一層好ましくは255℃以上、最も好ましくは260℃以上である。一方、排出ガス中のPM濃度を増加させない観点から、T50は好ましくは310℃以下、より好ましくは305℃以下、さらにより好ましくは300℃以下である。
【0016】
軽油組成物のT70は、燃料噴射ポンプ及び燃料噴射弁の潤滑性の確保の観点、並びに燃料消費率及びエンジン出力の観点から、好ましくは260℃以上、より好ましくは265℃以上、さらにより好ましくは270℃以上、さらにより一層好ましくは275℃以上、最も好ましくは280℃以上である。一方、排出ガス中のPM濃度を増加させない観点から、T70は好ましくは335℃以下、より好ましくは330℃以下、さらにより好ましくは325℃以下である。
【0017】
軽油組成物のT90は、燃料噴射ポンプ及び燃料噴射弁の潤滑性の確保の観点から、好ましくは290℃以上、より好ましくは300℃以上、さらにより好ましくは305℃以上、さらにより一層好ましくは310℃以上、最も好ましくは315℃以上である。一方、排出ガス中のPM濃度を増加させない観点から、T90は好ましくは360℃以下、より好ましくは355℃以下、さらにより好ましくは350℃以下である。
【0018】
軽油組成物のT95は、燃料噴射ポンプ及び燃料噴射弁の潤滑性の確保の観点から、好ましくは295℃以上、より好ましくは305℃以上、さらにより好ましくは310℃以上、さらにより一層好ましくは315℃以上、最も好ましくは320℃以上である。一方、排出ガス中のPM濃度を増加させない観点から、T95は好ましくは365℃以下、より好ましくは360℃以下、さらにより好ましくは355℃以下である。
【0019】
軽油組成物の蒸留終点は、燃料噴射ポンプ及び燃料噴射弁の潤滑性の確保の観点から、好ましくは300℃以上、より好ましくは310℃以上、さらにより好ましくは315℃以上、さらにより一層好ましくは320℃以上、最も好ましくは325℃以上である。一方、排出ガス中のPM濃度を増加させない観点から、蒸留終点は好ましくは390℃以下、より好ましくは385℃以下、さらにより好ましくは380℃以下である。
【0020】
なお、ここでいう蒸留性状(初留点、T10、T30、T50、T70、T90、T95、蒸留終点)とは、全てJIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」に準拠して測定される値を意味する。
【0021】
また、本発明の軽油組成物においては、上記の密度と全芳香族分含有量と50容量%留出温度とが下記式(2):
{D−(0.001648×TA+0.000398×T50)}<0.690 (2)
[式中、Dは15℃における密度(g/cm3)、TAは全芳香族分含有量(容量%)、T50は50容量%留出温度(℃)をそれぞれ示す]
の関係を満たしていることが必要である。以下、{D−(0.001648×TA+0.000398×T50)}の値を「D−TA−T50関係指数」という。
【0022】
上記D−TA−T50関係指数が0.690以上の場合は燃料消費率及びエンジンの出力・トルクが劣る場合があることから、上記式(2)の通りD−TA−T50関係指数は0.690未満であることが必要であり、同様の観点から好ましくは0.685以下、より好ましくは0.680以下である。一方、上記D−TA−T50関係指数は0.600以上であることが好ましい。
【0023】
本発明の軽油組成物においては、15℃における密度が好ましくは0.810g/cm3以上、より好ましくは0.815g/cm3以上、さらにより好ましくは0.820g/cm3以上、さらにより一層好ましくは0.825g/cm3以上である。密度が上記下限未満では、燃料消費率及びエンジンの出力・トルクが劣る傾向にある。一方、15℃における密度は、好ましくは0.860g/cm3以下、より好ましくは0.850g/cm3以下である。密度が上記上限を超えていると、排出ガス中のPM濃度が増加する傾向にある。なお、ここでいう密度とは、JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」に準拠して測定される密度を意味する。
【0024】
また、本発明の軽油組成物においては、含有される芳香族分が下記式(3):
20≦(1-Arom)+5×(2-Arom)+10×(3-Arom)≦50 (3)
[式中、1-Aromは一環芳香族分含有量(容量%)、2-Aromは二環芳香族分含有量(容量%)、3-Aromは三環以上の芳香族分含有量(容量%)を示す]
の関係を満たしていることが好ましい。以下、{(1-Arom)+5×(2-Arom)+10×(3-Arom)}の値を「芳香族指数」という。
【0025】
上記芳香族指数が20未満では燃料消費率及びエンジンの出力・トルクが劣る傾向にあることから上記式(3)の通り20以上であることが好ましく、同様の観点からより好ましくは23以上、さらにより好ましくは25以上、さらにより一層好ましくは27以上である。一方、上記芳香族指数が50を超えると排出ガス中のPM等の環境汚染物質の排出量が増加する傾向にあることから上記式(3)の通り50以下であることが好ましく、同様の観点からより好ましくは45以下、さらにより好ましくは40以下、さらにより一層好ましくは38以下、特に好ましくは35以下、最も好ましくは33以下である。
【0026】
また、本発明の軽油組成物における一環芳香族分、二環芳香族分及び三環以上の芳香族分のそれぞれの含有量は、上記式(3)の関係を満たすものであれば好ましく、各含有量は特に規定されるものではないが、燃料消費率、エンジン出力・トルクの観点から、一環芳香族分含有量は、好ましくは8容量%以上、より好ましくは10容量%以上、さらにより好ましくは15容量%以上である。一方、排出ガスに含まれるNOx及びPMの各濃度を低下させる観点から、一環芳香族分含有量は、好ましくは30容量%以下、より好ましくは25容量%以下である。また、本発明の軽油組成物における二環芳香族分含有量は、排出ガスに含まれるNOx及びPMの各濃度を低下させる観点から、好ましくは4容量%以下、より好ましくは2容量%以下、さらにより好ましくは1容量%以下である。更に、本発明の軽油組成物における三環以上の芳香族分含有量は、排出ガスに含まれるNOx及びPMの各濃度を低下させる観点から、好ましくは2容量%以下、より好ましくは1容量%以下、さらにより好ましくは0.5容量%以下である。
【0027】
なお、ここでいう一環芳香族分含有量、二環芳香族分含有量、三環以上の芳香族分含有量とは、石油学会規格 JPI−5S−49−97に準拠して測定される芳香族環数別の各芳香族成分の容量百分率(容量%)を意味する。
【0028】
本発明の軽油組成物における全芳香族分含有量は、燃料消費率及びエンジン出力・トルクの観点から、好ましくは10容量%以上、より好ましくは15容量%以上、さらにより好ましくは18容量%以上、さらにより一層好ましくは20容量%以上である。一方、排出ガスに含まれるNOx及びPMの各濃度を低下させる観点から、全芳香族分含有量は、好ましくは40容量%以下、より好ましくは35容量%以下、さらにより好ましくは30容量%以下、さらにより一層好ましくは27容量%以下である。
【0029】
また、本発明の軽油組成物における飽和分含有量は、排出ガス中のNOx及びPMの各濃度を低下させる観点から、好ましくは60容量%以上、より好ましくは70容量%以上、さらにより好ましくは73容量%以上である。一方、低温始動性及び低温運転性を良好に維持する観点から、飽和分含有量は、好ましくは90容量%以下、より好ましくは85容量%以下、さらにより好ましくは82容量%以下、さらにより一層好ましくは80容量%以下である。
【0030】
さらに、本発明の軽油組成物におけるオレフィン分含有量は、軽油組成物の安定性の観点から、好ましくは5容量%以下、より好ましくは3容量%以下、さらにより好ましくは1容量%以下である。
【0031】
なお、ここでいう全芳香族分含有量とは、石油学会規格 JPI−5S−49−97に準拠して測定される全芳香族成分の容量百分率(容量%)を意味する。また、飽和分含有量及びオレフィン分含有量とは、JIS K 2536に規定する「石油製品−成分試験方法」の蛍光指示薬吸着法に準拠して測定される飽和分及びオレフィン分の容量百分率(容量%)をそれぞれ意味する。
【0032】
本発明の軽油組成物における動粘度は特に制限されない。しかし、燃料噴射時期の制御及びエンジンに付設された分配型燃料噴射ポンプの潤滑性の観点から、30℃における動粘度は好ましくは1.7mm2/s以上、より好ましくは2.0mm2/s以上、さらにより好ましくは2.5mm2/s以上、さらにより一層好ましくは2.7mm2/s以上である。一方、排出ガス中のPM濃度を増加させない観点並びに低温での始動性に及ぼす影響を小さくする観点から、30℃における動粘度は好ましくは6.0mm2/s以下、より好ましくは5.0mm2/s以下、さらにより好ましくは4.5mm2/s以下である。なお、ここでいう動粘度とは、JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準拠して測定される動粘度を意味する。
【0033】
本発明の軽油組成物におけるセタン価及びセタン指数は特に制限されない。しかし、排出ガス中のNOx、PM、アルデヒドの各濃度をより低減させることが出来る観点から、セタン価は好ましくは45以上、より好ましくは50以上、さらにより好ましくは53以上、さらにより一層好ましくは55以上、特に好ましくは57以上であり、セタン指数は好ましくは45以上、より好ましくは48以上、さらにより好ましくは50以上、さらにより一層好ましくは52以上、特に好ましくは54以上である。なお、ここでいうセタン価とは、JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」の「7.セタン価試験方法」に準拠して測定されるセタン価を意味する。また、セタン指数とは、JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」の「8.4変数方程式を用いたセタン指数の算出方法」に準拠して算出した価を意味する。
【0034】
本発明の軽油組成物は、その流動点(PP)について特に限定条件はない。しかし、低温始動性ないしは低温運転性の観点から、流動点は好ましくは5℃以下、より好ましくは−2.5℃以下、さらにより好ましくは−7.5℃以下、さらにより一層好ましくは−10℃以下、特に好ましくは−20℃以下である。なお、ここでいう流動点とは、JIS K 2269「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」に準拠して測定される流動点を意味する。
【0035】
同様に、本発明の軽油組成物は、その目詰まり点(CFPP)について特に限定条件はない。しかし、低温始動性ないしは低温運転性の観点から、目詰まり点は好ましくは−1℃以下、より好ましくは−5℃以下、さらにより好ましくは−8℃以下、さらにより一層好ましくは−10℃以下、特に好ましくは−12℃以下である。なお、ここでいいう目詰まり点とは、JIS K 2288「軽油−目詰まり点試験方法」に準拠して測定される目詰まり点を意味する。
【0036】
また、本発明の軽油組成物は、その曇り点(CP)について特に限定条件はない。しかし、低温始動性ないしは低温運転性の観点から、曇り点は好ましくは2℃以下、より好ましくは0℃以下、さらにより好ましくは−1℃以下、さらにより一層好ましくは−2℃以下、特に好ましくは−6℃以下、最も好ましくは−8℃以下である。
【0037】
また、本発明の軽油組成物は、後述する潤滑性向上剤の添加効果を十分に維持する観点から、HFRR試験における摩耗痕径が550μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。なお、ここでいうHFRR試験における摩耗痕径とは、石油学会法 JPI−5S−50−98「軽油−潤滑性試験方法」に準拠して測定される摩耗痕径を意味する。
【0038】
本発明の軽油組成物は、軽油(ベース軽油)に必要に応じて添加剤等を配合することにより得られる。本発明にかかるベース軽油は、得られる軽油組成物が上記条件を満たすものであればよく、その製法等は特に制限されず、以下の軽油基材を1種もしくは2種以上を適宜選択・混合して得ることが可能である。このような本発明に用いられ得る軽油基材としては、具体的には例えば、原油の常圧蒸留装置から得られる直留軽油;常圧蒸留装置から得られる直留重質油や残査油を減圧蒸留装置にかけて得られる減圧軽油;減圧蒸留装置から得られる減圧軽油を水素化精製して得られる水素化精製軽油;直留軽油を通常の水素化精製より苛酷な条件で一段階又は多段階で水素化脱硫して得られる水素化脱硫軽油;脱硫又は未脱硫の減圧軽油、減圧重質軽油あるいは脱硫重油を接触分解して得られる接触分解軽油;原油の常圧蒸留により得られる直留灯油;直留灯油を水素化精製して得られる水素化精製灯油;原油の常圧蒸留によって得られる軽油留分を分解して得られる分解灯油等が挙げられる。
【0039】
本発明の軽油組成物に用いられ得る添加剤としては、潤滑性向上剤、セタン価向上剤、清浄剤等が挙げられる。このような添加剤は、所期の性能をさらに高める目的で単独でもしくは数種類を組み合わせて用いられ、中でも少なくとも潤滑性向上剤を含有することが好ましい。
【0040】
本発明にかかる潤滑性向上剤としては、例えば、カルボン酸系、エステル系、アルコール系及びフェノール系の各潤滑性向上剤の1種又は2種以上が任意に使用可能である。これらの中でも、カルボン酸系、エステル系の潤滑性向上剤が好ましい。
【0041】
カルボン酸系の潤滑性向上剤としては、例えば、リノ−ル酸、オレイン酸、サリチル酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ヘキサデセン酸及び上記カルボン酸の2種以上の混合物が挙げられる。また、エステル系の潤滑性向上剤としては、例えば、グリセリンのカルボン酸エステルが挙げられる。カルボン酸エステルを構成するカルボン酸は、1種であっても2種以上であってもよく、その具体例としては、リノ−ル酸、オレイン酸、サリチル酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ヘキサデセン酸等が挙げられる。
【0042】
このような潤滑性向上剤の含有量は特に制限されない。しかし、潤滑性向上剤の効能を引き出すためには、具体的には、分配型噴射ポンプを搭載したディーゼルエンジンにおいて、運転中のポンプの駆動トルク増を抑制し、ポンプの摩耗を低減させるためには、潤滑性向上剤の配合量は、組成物全量基準で35質量ppm以上であることが好ましく、50質量ppm以上であることがより好ましい。一方、潤滑性向上剤の配合量は、それ以上加えても添加量に見合う効果が得られないことから、150質量ppm以下であることが好ましく、100質量ppm以下であることがより好ましい。
【0043】
なお、潤滑性向上剤と称して市販されている商品は、それぞれ潤滑性向上に寄与する有効成分が適当な溶剤で希釈された状態で入手されるのが通例である。こうした市販品を本発明の軽油組成物に配合した場合にあっては、潤滑性向上剤に関して上述した配合量は、有効成分としての配合量を意味する。
【0044】
また、本発明にかかるセタン価向上剤としては、当業界でセタン価向上剤として知られる各種の化合物を任意に使用することができ、例えば、硝酸エステルや有機過酸化物等が使用可能であり、中でも硝酸エステルを用いることが好ましい。硝酸エステルには、2−クロロエチルナイトレート、2−エトキシエチルナイトレート、イソプロピルナイトレート、ブチルナイトレート、第一アミルナイトレート、第二アミルナイトレート、イソアミルナイトレート、第一ヘキシルナイトレート、第二ヘキシルナイトレート、n−ヘプチルナイトレート、n−オクチルナイトレート、2−エチルヘキシルナイトレート、シクロヘキシルナイトレート、エチレングリコールジナイトレート等の種々のナイトレート等が包含される。これらの中でも、炭素数6〜8のアルキルナイトレートが好ましい。また、セタン価向上剤としては1種の単一の化合物を用いても良く、2種以上の化合物を組み合わせて用いても良い。
【0045】
本発明の軽油組成物におけるセタン価向上剤の含有量は、ディーゼルエンジン排出ガスのNOx濃度、PM濃度、アルデヒド濃度等をより低減させることができることから、組成物全量基準で500質量ppm以上であることが好ましく、600質量ppm以上であることがより好ましく、700質量ppm以上であることがさらにより好ましく、800質量ppm以上であることが特に好ましく、900質量ppm以上であることが最も好ましい。
【0046】
セタン価向上剤の含有量の上限値は特に制限されないが、一般的には、セタン価向上剤の含有量は軽油組成物全量基準で、1400質量ppm以下であることが好ましく、1250質量ppm以下であることがより好ましく、1100質量ppm以下であることがさらにより好ましく、1000質量ppm以下であることが最も好ましい。
【0047】
なお、セタン価向上剤と称して市販されている商品は、セタン価向上に寄与する有効成分、つまり、セタン価向上剤を適当な溶剤で希釈した状態で入手されるのが通例である。こうした市販品を使用して本発明の軽油組成物を調製する場合にあっては、セタン価向上剤に関して上述した含有量は、有効成分としての含有量を意味する。
【0048】
本発明にかかる清浄剤としては、例えば、イミド系化合物;ポリブテニルコハク酸無水物とポリアミン類とから合成されるポリブテニルコハク酸イミドなどのアルケニルコハク酸誘導体;ペンタエリスリトールなどの多価アルコールとポリブテニルコハク酸無水物から合成されるポリブテニルコハク酸エステルなどのコハク酸エステル;ジアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルピロリドンなどとアルキルメタクリレートとのコポリマーなどの共重合系ポリマー、カルボン酸とアミンの反応生成物(塩等)などを挙げることができる。これらの無灰清浄剤は、任意に選ばれる1種又は2種以上が使用可能であって、これらの中でも、アルケニルコハク酸誘導体及び/又はカルボン酸のアミン塩を使用することが好ましい。
【0049】
アルケニルコハク酸誘導体は、下記の一般式(1)〜(4)で表される化合物であることが好ましい。
【0050】
【化1】
【0051】
(式中、Aはn−ブチル基、sec−ブチル基又はtert−ブチル基を表し、R1、R2、R3及びR4は、各々独立に、水素原子、メチル基又はエチル基を表し、但し、R1〜R4の合計炭素数は2であり、R5は炭素数1〜36のアルキレン基を表し、そしてmは1〜100の整数を表す。)
【0052】
【化2】
【0053】
(式中、Aはn−ブチル基、sec−ブチル基又はtert−ブチル基を表し、R1、R2、R3及びR4は、各々独立に、水素原子、メチル基又はエチル基を表し、但し、R1〜R4の合計炭素数は2であり、R5は炭素数1〜36のアルキレン基を表し、mは1〜100の整数を表し、そしてnは1〜10の整数を表す。)
【0054】
【化3】
【0055】
(式中、Aはn−ブチル基、sec−ブチル基又はtert−ブチル基を表し、R1、R2、R3及びR4は、各々独立に、水素原子、メチル基又はエチル基を表し、但し、R1〜R4の合計炭素数は2であり、R5は炭素数1〜36のアルキレン基を表し、mは1〜100の整数を表し、そしてnは1〜10の整数を表す。)
【0056】
【化4】
【0057】
(式中、Aはn−ブチル基、sec−ブチル基又はtert−ブチル基を表し、R1、R2、R3及びR4は、各々独立に、水素原子、メチル基又はエチル基を表し、但し、R1〜R4の合計炭素数は2であり、R5は炭素数1〜36のアルキレン基を表し、mは1〜100の整数を表し、そしてnは1〜10整数を表す。)
上記一般式(1)〜(4)で表されるアルケニルコハク酸誘導体について詳述する。
【0058】
Aは、n−ブチル基、sec−ブチル基又はtert−ブチル基を示す。より優れた清浄性が得られることから、tert−ブチル基であることが好ましい。
【0059】
R1〜R4は、それぞれ水素原子、メチル基又はエチル基を示す。そして、このR1〜R4の合計炭素数は2である。
【0060】
本発明においては、より優れた清浄性が得られることから、R1及びR3が共に水素原子であり、かつR2及びR4が共にメチル基である場合、又はR1及びR3が共にメチル基であり、かつR2及びR4が共に水素原子である場合が好ましい。
【0061】
R5は、炭素数1〜36のアルキレン基を表す。R5は、好ましくは炭素数1〜18のアルキレン基、より好ましくは炭素数1〜6のアルキレン基、特に好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基を表す。炭素数1〜4のアルキレン基としては、具体的には例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基(1−メチルエチレン基、2−メチルエチレン基)、トリメチレン基、ブチレン基(1−エチルエチレン基、2−エチルエチレン基)、1,2−ジメチルエチレン基、2,2−ジメチルエチレン基、1−メチルトリメチレン基、2−メチルトリメチレン基、3−メチルトリメチレン基、テトラメチレン基などが挙げられる。これらの中でも、R5は、メチレン基、エチレン基、プロピレン基(1−メチルエチレン基、2−メチルエチレン基)又はトリメチレン基である場合が最も好ましい。
【0062】
一般式(1)〜(4)におけるmは1〜100の整数を示す。mは軽油組成物への分散性保持、清浄性保持の点から、5以上が好ましく、10以上がより好ましい。また、粘度上昇によるバルブスティックや熱分解性悪化による燃焼室デポジットへの影響の点から、50以下が好ましく、40以下がより好ましい。
【0063】
また、一般式(2)〜(4)におけるnは1〜10の整数を表す。nは、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜3の整数である。
【0064】
なお、下記式(5)で表される基は、下記式(6)で表される基を構成単位とする、一般式(1)〜(4)で表されるアルケニルコハク酸誘導体の重合骨格を示すものである。
【0065】
【化5】
【0066】
(上記式(5)及び(6)におけるR1、R2、R3、R4及びmは、一般式(1)〜(4)におけるR1、R2、R3、R4及びmと同一の基、整数を示す。)
上記式(1)〜(4)及び(5)において、上記式(6)で表されるm個の基は同一分子中で同じでも異なっていてもよい。つまり、上記式(1)〜(4)で表される化合物及び上記式(5)で表される基は、単独重合体であっても、共重合体であっても良い。共重合体は、ランダム共重合体、交互重合体、あるいはブロック共重合体のいずれであっても良い。
【0067】
また、アルケニルコハク酸誘導体の数平均分子量については何ら制限はないが、軽油組成物中への分散性保持、清浄性保持の点から、その数平均分子量は500以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましく、1500以上であることがさらにより好ましく、2000以上であることが最も好ましい。また、粘度上昇によるバルブスティックや熱分解性悪化による燃焼室デポジットへの影響の点から、その数平均分子量は6000以下であることが好ましく、5000以下であることがより好ましい。
【0068】
アルケニルコハク酸誘導体としては、一般式(1)〜(4)で表される化合物から選ばれる1種のみの化合物を単独で用いてもよく、2種以上の化合物を混合して用いてもよい。
【0069】
2種以上を用いる場合には、一般式(2)で表される化合物と一般式(3)で表される化合物の混合物であることが好ましい。その際の混合比(質量比)は、(2):(3)=1:99〜99:1であることが好ましく、10:90〜90:10であることがより好ましく、20:80〜80:20であることがさらにより好ましく、30:70〜70:30であることが最も好ましい。
【0070】
アルケニルコハク酸誘導体の好ましい具体例を以下に挙げる。
【0071】
下記式で表される化合物1(数平均分子量:2000〜3000)
【0072】
【化6】
【0073】
(A:tert−ブチル基、R1、R3:水素原子、R2、R4 :メチル基、R5:トリメチレン基)。
【0074】
下記式で表される化合物2(数平均分子量:2000〜3000)
【0075】
【化7】
【0076】
(A:tert−ブチル基、R1、R3:水素原子、R2、R4:メチル基、R5:エチレン基、n:1〜3)。
【0077】
下記式で表される化合物3(数平均分子量:4000〜5000)
【0078】
【化8】
【0079】
(A:tert−ブチル基、R1、R3:水素原子、R2、R4:メチル基、R5:エチレン基、n:1〜3)。
【0080】
下記式で表される化合物4(数平均分子量:2000〜3000)
【0081】
【化9】
【0082】
(A:tert−ブチル基、R1、R3:水素原子、R2、R4:メチル基、R5:エチレン基、n:1〜3)。
【0083】
次に、カルボン酸のアミン塩について詳述する。
【0084】
カルボン酸は、炭素数が5〜50のものであることが好ましく、更に好ましくは炭素数7〜30のもの、特に好ましくは炭素数9〜20のものである。カルボン酸は、モノカルボン酸、あるいは多価カルボン酸のいずれであっても良いが、モノカルボン酸であることが好ましい。またカルボン酸は、脂肪酸、脂環族カルボン酸、芳香族カルボン酸のいずれであっても良いが、脂肪酸であることが好ましい。脂肪酸としては、直鎖のものでも分岐鎖のものでも良く、飽和でも不飽和でも良い。
【0085】
炭素数9〜20の脂肪酸としては、具体的には例えば、以下のものを挙げることができる。直鎖又は分岐鎖のノナン酸、直鎖又は分岐鎖のデカン酸、直鎖又は分岐鎖のウンデカン酸、直鎖又は分岐鎖のドデカン酸、直鎖又は分岐鎖のトリデカン酸、直鎖又は分岐鎖のテトラデカン酸、直鎖又は分岐鎖のペンタデカン酸、直鎖又は分岐鎖のヘキサデカン酸、直鎖又は分岐鎖のヘプタデカン酸、直鎖又は分岐鎖のオクタデカン酸、直鎖又は分岐鎖のノナデカン酸、直鎖又は分岐鎖のイコサン酸、直鎖又は分岐鎖のノネン酸、直鎖又は分岐鎖のデセン酸、直鎖又は分岐鎖のウンデセン酸、直鎖又は分岐鎖のドデセン酸、直鎖又は分岐鎖のトリデセン酸、直鎖又は分岐鎖のテトラデセン酸、直鎖又は分岐鎖のペンタデセン酸、直鎖又は分岐鎖のヘキサデセン酸、直鎖又は分岐鎖のヘプタデセン酸、直鎖又は分岐鎖のオクタデセン酸(オレイン酸を含む)、直鎖又は分岐鎖のノナデセン酸、直鎖又は分岐鎖のイコセン酸等。また、リノール酸等の水酸基を有する脂肪酸も含まれる。上記のカルボン酸は、1種のカルボン酸を単独で用いても良く、2種以上のカルボン酸を組み合わせて用いても良い。
【0086】
アミンは炭素数1〜30のものであることが好ましい。更に好ましくは炭素数5〜20ものであり、特に好ましくは炭素数8〜18のものである。アミンとしては、例えば、モノアミン、ポリアミン、アルカノールアミン等が挙げられるが、モノアミンであることが好ましい。
【0087】
モノアミンとしては、一つの炭化水素基を有するモノ置換アミン、二つの炭化水素基を有するジ置換アミン、三つの炭化水素基を有するトリ置換アミン等が挙げられるが、モノ置換アミンが好ましい。
【0088】
モノ置換アミンとしては、例えば、アルキルアミン、アルケニルアミン、芳香族置換アルキルアミン、シクロアルキルアミン、及びアルキルシクロアルキルアミン等が挙げれられる。アルキルアミン及びアルケニルアミンであることが好ましい。
【0089】
炭素数8〜18のアルキルアミンとしては、例えば、直鎖又は分岐鎖のオクチルアミン、直鎖又は分岐鎖のノニルアミン、直鎖又は分岐鎖のデシルアミン、直鎖又は分岐鎖のウンデシルアミン、直鎖又は分岐鎖のドデシルアミン、直鎖又は分岐鎖のトリデシルアミン、直鎖又は分岐鎖のテトラデシルアミン、直鎖又は分岐鎖のペンタデシルアミン、直鎖又は分岐鎖のヘキサデシルアミン、直鎖又は分岐鎖のヘプタデシルアミン、直鎖又は分岐鎖のオクタデシルアミン等が挙げられる。
【0090】
炭素数8〜18のアルケニルアミンとしては、例えば、直鎖又は分岐鎖のオクテニルアミン、直鎖又は分岐鎖のノネニルアミン、直鎖又は分岐鎖のデセニルアミン、直鎖又は分岐鎖のウンデセニルアミン、直鎖又は分岐鎖のドデセニルアミン、直鎖又は分岐鎖のトリデセニルアミン、直鎖又は分岐鎖のテトラデセニルアミン、直鎖又は分岐鎖のペンタデセニルアミン、直鎖又は分岐鎖のヘキサデセニルアミン、直鎖又は分岐鎖のヘプタデセニルアミン、直鎖又は分岐鎖のオクタデセニルアミン(オレイルアミンを含む)等が挙げられる。
【0091】
上記アミンは、1種のアミンを単独で用いても良く、2種以上のアミンの混合物を用いても良い。
【0092】
カルボン酸のアミン塩の好ましい具体例としては、オレイン酸を主成分とする炭素数13〜20の混合脂肪酸と炭素数8〜16のアルキル基を有するモノ置換アミン及び炭素数8〜16のアルケニル基を有するモノ置換アミンの混合物との塩を挙げることができる。
【0093】
本発明の軽油組成物における清浄剤の配合量も特に制限されない。しかし、清浄剤を配合した効果、具体的には、燃料噴射ノズルの閉塞抑制効果を引き出すためには、清浄剤の配合量を組成物全量基準で30質量ppm以上とすることが好ましく、60質量ppm以上とすることがより好ましく、80質量ppm以上とすることがさらにより好ましい。30質量ppmに満たない量を添加しても効果が現れない可能性がある。一方、配合量が多すぎても、それに見合う効果が期待できず、逆にディーゼルエンジン排出ガス中のNOx、PM、アルデヒド等を増加させる可能性があることから、清浄剤の配合量は300質量ppm以下であることが好ましく、180質量ppm以下であることがより好ましい。
【0094】
なお、先のセタン価向上剤の場合と同様、清浄剤と称して市販されている商品は、それぞれ清浄に寄与する有効成分が適当な溶剤で希釈された状態で入手されるのが通例である。こうした市販品を本発明の軽油組成物に配合した場合にあっては、清浄剤に関して上述した配合量は、有効成分としての配合量を意味する。
【0095】
さらに、本発明の軽油組成物においては、他の性能をさらに高める目的でその他の公知の燃料油添加剤を単独で、又は数種類組み合わせて添加することもできる。このような添加剤としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アルケニルコハク酸アミド等の低温流動性向上剤;フェノール系、アミン系等の酸化防止剤;サリチリデン誘導体等の金属不活性化剤;ポリグリコールエーテル等の氷結防止剤;脂肪族アミン、アルケニルコハク酸エステル等の腐食防止剤;アニオン系、カチオン系、両性系界面活性剤等の帯電防止剤;アゾ染料等の着色剤;シリコン系等の消泡剤等が挙げられる。これらその他の添加剤の添加量は特に制限されないが、各添加剤の添加量は軽油組成物全量基準で0.5質量%以下が好ましく、0.2質量%以下がより好ましい。
【0096】
なお、上記の添加剤のうち、帯電防止剤は従来の軽油にはあまり用いられていない添加剤であったが、本発明のように硫黄分を0.005質量%以下にまで脱硫した場合には、帯電による発火をより確実に防止するため帯電防止剤を使用することが好ましい。
【0097】
また、上記した▲1▼潤滑性向上剤、▲2▼セタン価向上剤、▲3▼清浄剤、▲4▼低温流動性向上剤、▲5▼酸化防止剤、▲6▼金属不活性化剤、▲7▼氷結防止剤、▲8▼腐食防止剤、▲9▼帯電防止剤、(10)着色剤、(11)消泡剤等の各添加剤は、1種のみで使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用してもよい。添加剤を組み合わせて用いる場合の組み合わせの具体例としては、▲1▼▲2▼、▲1▼▲3▼、▲1▼▲4▼、▲1▼▲9▼、▲1▼(11)、▲2▼▲3▼、▲2▼▲4▼、▲2▼▲9▼、▲2▼(11)、▲3▼▲4▼、▲3▼▲9▼、▲3▼(11)、▲4▼▲9▼、▲4▼(11)、▲1▼▲2▼▲3▼、▲1▼▲2▼▲4▼、▲1▼▲2▼▲9▼、▲1▼▲2▼(11)、▲1▼▲3▼▲4▼、▲1▼▲3▼▲9▼、▲1▼▲3▼(11)、▲1▼▲4▼▲9▼、▲1▼▲4▼(11)、▲1▼▲9▼(11)、▲2▼▲3▼▲4▼、▲2▼▲3▼▲9▼、▲2▼▲3▼(11)、▲2▼▲4▼▲9▼、▲2▼▲4▼(11)、▲2▼▲9▼(11)、▲3▼▲4▼▲9▼、▲3▼▲4▼(11)、▲3▼▲9▼(11)、▲4▼▲9▼(11)、▲1▼▲2▼▲3▼▲4▼、▲1▼▲2▼▲3▼▲9▼、▲1▼▲2▼▲3▼(11)、▲1▼▲2▼▲4▼▲9▼、▲1▼▲2▼▲4▼(11)、▲1▼▲2▼▲9▼(11)、▲1▼▲3▼▲4▼▲9▼、▲1▼▲3▼▲4▼(11)、▲1▼▲3▼▲9▼(11)、▲1▼▲4▼▲9▼(11)、▲2▼▲3▼▲4▼▲9▼、▲2▼▲3▼▲4▼(11)、▲2▼▲3▼▲9▼(11)、▲2▼▲4▼▲9▼(11)、▲3▼▲4▼▲9▼(11)、▲1▼▲2▼▲3▼▲4▼▲9▼、▲1▼▲2▼▲3▼▲4▼(11)、▲1▼▲2▼▲3▼▲9▼(11)、▲1▼▲2▼▲4▼▲9▼(11)、▲1▼▲3▼▲4▼▲9▼(11)、▲2▼▲3▼▲4▼▲9▼(11)、▲1▼▲2▼▲3▼▲4▼▲9▼(11)等が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0098】
【実施例】
以下、実施例により本発明の内容をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
実施例1〜4及び比較例1〜3
表1に示す組成、蒸留性状及び諸特性を有する軽油組成物を調製し、各軽油組成物について以下に示す排出ガス試験、潤滑性試験、及び出力・燃費試験を行なった。得られた結果を同表に示す。なお、潤滑性向上剤としては、グリセリンとリノール酸、オレイン酸とのモノ、ジエステルを主成分とする混合物を使用した。
【0099】
(1)排出ガス試験
下記のエンジンを用いて台上試験によるディーゼル13モード試験を行い、排出ガス性能評価として粒子状物質(PM)の排出量を測定した。排出ガス中のPMは堀場製作所製のダイリュウショントンネルを用いてフィルター上に捕集し、捕集されたPMの重量を測定した。そして、PM排出量が0.25g/kWhr以下の場合を「少ない」、0.20g/kWhr以下の場合を「非常に少ない」と評価した。
【0100】
(試験エンジン)
エンジン :直列4気筒
排気量 :5.3L
噴射方式 :直噴式
噴射ポンプ:列型電子制御噴射ポンプ
後処理 :酸化触媒
触媒容量 :2L(白金系触媒)。
【0101】
(2)潤滑性試験
石油学会法 JPI−5S−50−98「軽油−潤滑性試験方法」に準拠して、HFRR試験における摩耗痕径を測定した。そして、摩耗痕径が400μm以下の場合を極めて良好とし、合格(○)と評価した。
【0102】
(3)出力・燃費試験
下記のエンジンを用いて台上試験によるエンジン出力試験(JIS D1001)を行い、全負荷状態における最大出力、最大トルク及び最小燃料消費率を測定した。最大出力、最大トルクについてはエンジンの仕様値と比較して、増又は1%未満減の場合に「低下なし」と評価した。また、最小燃料消費率についてはエンジンの仕様値と比較して、減又は1%未満増の場合に「悪化なし」と評価した。
【0103】
(試験エンジン)
エンジン :直列4気筒エンジン
排気量 :5.3L
噴射方式 :直噴式
噴射ポンプ:列型噴射ポンプ
最大出力=107kW/2900rpm
最大トルク=373Nm/1700rpm
全負荷時最小燃料消費率=208g/kWh。
【0104】
【表1】
【0105】
表1に示した結果から明らかなように、本発明に係る軽油組成物を電子制御化されたディーゼルエンジン並びにディーゼル自動車に用いた場合には、環境汚染物質の排出量が大幅に低減され、更に潤滑性、燃費および出力の何れにも優れた性能が発揮された。
【0106】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の軽油組成物によれば、高性能化、電子制御化されたディーゼル自動車に用いた場合に特に環境汚染物質の排出量の大幅な低減、更には潤滑性、燃費および出力の何れにも優れた性能を発揮することができ、ひいては運転性能の向上を十分に達成することが可能となる。したがって、本発明によれば、ディーゼル自動車の高性能化や電子制御化に対応した最適な軽油組成物を得ることが可能となる。
Claims (1)
- 硫黄分含有量が0.005質量%以下であり、蒸留性状が下記式(1):
1170≦T50+T70+T90+T95 (1)
[式中、T50、T70、T90、T95はそれぞれ、50容量%留出温度(℃)、70容量%留出温度(℃)、90容量%留出温度(℃)、95容量%留出温度(℃)を示す]
の関係を満たし、かつ、密度と全芳香族分含有量と50容量%留出温度とが下記式(2):
{D−(0.001648×TA+0.000398×T50)}<0.690 (2)
[式中、Dは15℃における密度(g/cm3)、TAは一環芳香族分含有量、二環芳香族分含有量及び三環以上の芳香族分含有量の合計量である全芳香族分含有量(容量%)、T50は50容量%留出温度(℃)をそれぞれ示す]
の関係を満たし、全芳香族分含有量が27容量%以下であるとともに二環芳香族分含有量が2.0容量%以下であることを特徴とする軽油組成物。
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