JP4009066B2 - ホスファチジルセリンの分画法 - Google Patents
ホスファチジルセリンの分画法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP4009066B2 JP4009066B2 JP2001038430A JP2001038430A JP4009066B2 JP 4009066 B2 JP4009066 B2 JP 4009066B2 JP 2001038430 A JP2001038430 A JP 2001038430A JP 2001038430 A JP2001038430 A JP 2001038430A JP 4009066 B2 JP4009066 B2 JP 4009066B2
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- phospholipid
- precipitate
- added
- salt
- chloroform
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Expired - Lifetime
Links
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、リン脂質混合物からホスファチジルセリンを濃縮するための分画法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ホスファチジルセリン(以下、「PS」と記載する。)は、痴呆症の予防や治療などを目的とした脳機能改善剤の他、免疫性疾患の治療剤や界面活性剤としての利用が期待されている。このPSは動物の脳や筋肉に含まれる他、化学合成法やホスホリパーゼDを使用したホスファチジル基転移反応により人工的に製造することも可能である。
【0003】
PSは主に医薬や食品、化粧品として使用されていることから、前記天然物や反応物等からPSを分画し、PS含量を高めることが重要である。ところが、動物の脳や筋肉に含まれるPS量は少なく、また化学合成法やホスファチジル基転移反応により製造した場合にも、PS含量の多い製品を安価に製造することは難しいことから、使用に際してはPSの濃縮(精製)が必要となる場合が多い。
【0004】
PSの濃縮(精製)法としては、従来、溶媒による分画やカラムクロマトグラフィーが用いられてきた。しかし、溶媒分画のみでは充分なPS純度を得ることは困難であり、一方、クロマトグラフィーのような煩雑な操作は、コスト面、作業性の面で問題があった。このため、PSを安価かつ簡便に濃縮する方法の開発が望まれている。
【0005】
特に、PSは他のリン脂質、すなわち、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)やホスファチジン酸(PA)等と分離することが困難であるため、これらを含むリン脂質混合物から、PSを安価に濃縮する方法を確立することが望まれている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、PSを含むリン脂質混合物をアルコール類に溶解し、さらに金属塩あるいはその溶液を添加することによりPSを沈殿せしめ、沈殿部に濃縮できることを見出した。
【0007】
本発明は、天然あるいは人工的に調製されたリン脂質混合物からPSを簡便に濃縮する分画法を得ることを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載された発明に係るPSの分画法は、スファチジルセリンを含むリン脂質混合物をアルコール類に溶解した後、不溶性成分を除いた該溶解液中に金属塩をリン脂質1gあたり0.15〜10ミリモル添加することによりホスファチジルセリンを不溶化せしめ、該不溶部を分離するものである。
【0009】
請求項2に記載された発明に係るPSの分画法は、請求項1に記載の金属塩として、リチウム塩、カリウム塩及びナトリウム塩から選ばれる1種又は2種以上を用いるものである。
【0010】
請求項3に記載された発明に係るPSの分画法は、請求項1又は2に記載の金属塩として、塩化リチウム、塩化カリウム又は塩化ナトリウムを用いるものである。
【0011】
請求項4に記載された発明に係るPSの分画法は、請求項1〜3の何れかに記載のアルコール類として、エチルアルコールを用いるものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明においては、PSを含むリン脂質混合物をアルコール類に溶解した後、該溶解液中に金属塩を添加するという簡略な操作によって、PSを不溶化(沈殿、凝集等)させることにより、不溶物(沈殿部、凝集部等)を分離・濃縮する。これにより、天然あるいは人工的に調製されたリン脂質混合物からPSを簡便に濃縮することができる。
【0013】
本発明に用いられるPSを含むリン脂質混合物としては、天然物、天然物からの抽出物又は該抽出物を精製したもの、或いは合成リン脂質等PSを含む混合物であれば、いずれを用いてもよい。具体的には、大豆レシチン、菜種レシチン、卵黄レシチン、トウモロコシレシチン或いは綿実レシチンや、化学合成法やホスファチジル基転移反応により調製したリン脂質混合物、牛脳の溶媒抽出物等が挙げられる。中でも、ホスファチジル基転移反応により調製したPSを含むリン脂質混合物を用いれば、金属塩を添加した場合の濃縮効果が高く、原料の確保のしやすさやコスト面からも好ましい。
【0014】
また、本発明に用いられる金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等の金属塩、あるいはこれらを豊富に含む天然物、例えば、食塩、苦汁、かん水、ドロマイト、食用真珠層粉等いずれを用いても良いが、リチウム塩、ナトリウム塩またはカリウム塩を用いることが濃縮効率の点から好ましく、特に塩化リチウム、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムが好ましい。これらの金属塩は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
これら金属塩の添加量は、PSを沈殿させ得る量であれば特に限定されないが、リン脂質1gあたり、0.15〜10ミリモル、特に0.5〜5ミリモルであることが、PSの回収率および沈殿中のPS含量が高い点から好ましい。
【0016】
また、本発明に用いられるアルコール類としては、リン脂質混合物を溶解可能なアルコール類であればいずれも好適に用いられるが、中でもメチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール類が好ましい。また、これらの混合物を利用することもできるが、エチルアルコールは食品へ利用し易く、安全面での問題も少ないため、これを用いることが特に好ましい。
【0017】
リン脂質混合物をアルコール類に溶解する際の濃度は特に限定されないが、この混合物が完全に溶解できる以上の量とすることが好ましく、アルコール類の重量に対し1〜50%、特に2〜20%とすることが、PS濃縮効率や操作性の点から好ましい。
【0018】
本発明において、リン脂質混合物からのPSの分画は、例えば以下のようにして行うことができる。まず、ホスファチジル基転移反応法等により調製され、PC、PE又はPA等PS以外のリン脂質を成分中に含むリン脂質混合物を、エチルアルコール等のアルコール類に溶解する。この時、溶解温度等の溶解の条件は特に限定されず、混合物の成分の種類、それらの量等に合わせ好適な条件を選択し用いればよい。
【0019】
こうして得られる溶液中では、PSやPC、PA等のリン脂質は溶媒層に抽出されるが、場合によっては一部の不溶性成分が生成する。このため、遠心分離、ろ過等の手段により溶媒から不溶性成分(沈殿物、凝集物等)を除いてから金属塩の添加を行う。不溶性成分中にも少量のPSが残存している場合には、前記アルコール類による抽出処理は、数度繰り返し行ってもよい。
【0020】
次いで、アルコール溶液に対して、金属塩を添加し、溶媒層に抽出されたPSを分画する。すなわち、溶媒層中のPS以外のリン脂質の大部分は、金属塩の添加によっても沈殿しないが、PSはその大部分が沈殿するため、これを回収することによりPSの濃縮を行うことができる。このとき、金属塩は粉末のまま加えても、水やアルコール等の溶媒に溶かしてから加えてもよい。その際の各種条件も特に限定されず、混合物の成分の種類、それらの量等に合わせ好適な条件を選択すればよい。具体的には10℃〜30℃で30分以上保持してPSを不溶化させればよい。
【0021】
金属塩の添加により不溶化されたPSは、遠心分離、ろ過、静置分離等の手段により、回収することができる。また、公知の精製手段、例えばカラムクロマトグラフィー等の手段により、更に精製することも可能である。本発明のPS濃縮物は他のリン脂質等の含量が顕著に低下しているため、このような精製手段も比較的簡便に行うことができる。
【0022】
本発明のPS濃縮物は、医薬品、食品、化粧品等の形態で投与することができる。例えばリン脂質の生理効果を訴求する医薬品や栄養補助食品等の形態で用いる場合であれば、カプセル剤、顆粒剤、錠剤、散剤等の固形製剤、或いはシロップ剤等の液状製剤として経口投与することができる。また、経口投与剤でなくとも、注射剤、皮膚外用剤、直腸投与剤等非経口形態で投与することも可能である。
【0023】
各製剤の製造時には、乳糖、澱粉、結晶セルロース、乳酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、無水ケイ酸等の賦形剤、白糖、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク、モノグリセリド、蔗糖脂肪酸エステル等の滑沢剤や、その他、医薬・食品として許容され得る成分を適宜使用すればよい。
【0024】
また、同様の生理効果を期待して一般食品形態(「明らか食品」の形態)で用いる場合には、本発明の方法により得られたPS濃縮物をそのまま或いは適宜精製処理したものを油脂、錠菓、発酵乳、飴、調味料、ふりかけ等の飲食品に添加し、常法を用いて製造すればよい。
【0025】
これら医薬品、食品等の形態での使用に際しては、本発明の方法により得られたPSが濃縮されたリン脂質組成物を適宜配合することができる。また、PSの生理効果を訴求する場合であれば、その効果を得られかつ過剰摂取等の問題が生じない程度の量、50mg〜1000mg/日程度の摂取が見込まれる量を適宜配合しておけばよい。
【0026】
更に、本発明のリン脂質は乳化剤として用いてもよく、その際には、医薬品、食品、化粧品等へ0.01〜10%添加するのが好ましい。
【0027】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
実施例1
大豆レシチン(PC80:クロクラーン社製)10.0gと大豆油2.0gを100ccメジウム瓶に取り、ここに90.0g(100mL)の酢酸エチルを加えてスターラーで撹拌しながら加温溶解した。L−セリン1.2gとPLD−Y1((株)ヤクルト本社製)1,500単位を秤り取り、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)5.8mLを加えて溶解した。
【0029】
PC80溶液全量の入ったメジウム瓶を50℃に保温しておき、ここに50℃に保温した(L−セリン+PLD−Y1)溶液の全量を加えて反応を開始し、スターラーで緩やかに攪拌しながら50℃で5時間反応させた。30分間氷冷してリン脂質を沈殿させて回収した後、熱湯中に20分放置して酵素を失活させた。
【0030】
回収したリン脂質層にエタノール40mLを加えて良く混合し、4℃に一晩放置することにより沈殿を形成させ、上清を回収した。沈殿部にはさらにエタノール12mLを加えて良く混合後30分間放置し、遠心分離により上清を集め、先の上清と混合することにより大豆転移レシチン/エタノール溶液を得た。
【0031】
このようにして得た大豆転移レシチン/エタノール溶液2.0mL(固形分約0.33g,リン脂質中のPS含量=32.5%)に0.1M酢酸ナトリウム/エタノール溶液を1.0mL加えて−20℃で1時間放置し、生じた沈殿(60mg)を遠心操作により分離してエタノールで洗浄した(PptNa−1)。上清を−20℃で数日間保存した結果、さらに沈澱(7mg)を生じたので遠心操作により上清(SupNa,乾固重量=227mg)と分離し、エタノールで洗浄した(PptNa−2)。
【0032】
各試料を乾固した後、希釈溶媒(ヘキサン:ジエチルエーテル:イソプロパノール=2:2:1)に溶解し、薄層クロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム:メタノール:酢酸=13:5:2)で展開してから、Dittmer−Lester試薬によりリン脂質を発色させ、ゲルパターン画像解析システムによりリン脂質含量を定量した。結果を次の表1に示す。
【0033】
表1に示す通り、リン脂質中のPS含量(モル%)は分画前は32.5%であったのに対して、分画後のPptNaでは81.9%、SupNaでは5.6%であることがわかり、PSが効率よく濃縮できることが確認された。
【0034】
【表1】
【0035】
実施例2
実施例1で調製した大豆転移レシチン/エタノール溶液を減圧乾燥し、そのうちの900mgを50ccメジウム瓶に取り、クロロホルム22.5mLとメタノール15mLの混合液に溶解させた。こうして調製した大豆転移レシチン/クロメタ溶液を4.0mLずつ6.0ccメジウム瓶に分注し、ここに1M塩類溶液(a.塩化リチウム、b.塩化カリウム、c.塩化ナトリウム、d.塩化マグネシウム、e.塩化カルシウム、f.塩化アンモニウム、g.硫酸アンモニウム)を0.8mL加えた。瓶を振って数回混合した後、静置してクロロホルム層を回収し、その内の1.0mLを秤量した試験管に取り窒素下に乾燥した。
【0036】
こうして得られた乾燥物(約50mg,リン脂質含量=約25mg)に対して0.10mlのジエチルエーテルを加えて溶解し、ここに1.0mLのエタノールを徐々に加えて沈澱を形成させ、懸濁液全体を遠心分離して上清と沈澱とを分けた。
【0037】
エタノール抽出液は2.5倍希釈液を5μL、沈澱は全体を2.5mLのクロロホルムに溶解したもの5μLを薄層板にアプライし、実施例1の条件で展開後、Dittmer−Lester試薬によりリン脂質を発色させゲルパターン画像解析システムによりリン脂質含量を定量した。結果を次の表2に示す。
【0038】
表2に示すように、使用した8種類の塩の中で塩化リチウムが最も成績が良く、1回のエタノール沈澱により純度80%のPS標品を得ることができた。さらに、塩化リチウムでは全PAのうちの約4分の3がエタノール上清に分画されており、PAの除去効率が際立って良いことがわかった。
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
なお、全体的な傾向としては陽イオンの原子番号が小さいほどPAの除去効率が良く、2価の陽イオンではPCも沈澱することがわかった。また、アンモニウム塩の場合にはPSを含む大部分のリン脂質が沈殿せず分離には適さなかった。沈殿の成績のよい塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムに関して、エタノール沈澱および上清画分中のリン脂質含量を表3に示す。
【0042】
実施例3
実施例1で調製した大豆転移レシチン/エタノール溶液を減圧乾燥し、そのうちの900mgを50ccメジウム瓶に取り、クロロホルム22.5mLとメタノール15mLの混合液に溶解させた。こうして調製した大豆転移レシチン/クロロホルム−メタノール溶液に1M塩化リチウム溶液を8.0mL加え、瓶を振って数回混合した後、静置してクロロホルム層を回収し減圧乾固した。
【0043】
得られた乾燥物に5.0mLのジエチルエーテルを加えて溶解し、ここに40mLのエタノールを徐々に加えて溶解し(20℃)、懸濁液全体を遠心分離して上清(S1)と沈澱(P1)とを分離した。P1に再び5.0mLのジエチルエーテルを加えて溶解し、ここに50mLのエタノールを徐々に加えて溶解し(20℃)、懸濁液全体を遠心分離して上清(S2)と沈澱(P2)とを分けた。
【0044】
大豆転移レシチンは10mg/mL、P2(湿潤状態)は20mg/mLのクロロホルムに溶解したものを5μL,S1はクロロホルムで2.5倍に希釈したものを5μL、そしてS2は原液10μLを薄層板にアプライし、実施例1の条件で展開後、Dittmer−Lester試薬によりリン脂質を発色させゲルパターン画像解析システムによりリン脂質含量を定量した。
【0045】
エタノール沈澱物をもう一度エタノールで洗浄して得たP2画分中のPS含量は96.9%であった。CMセルロースを用いたイオン交換法における回収率は20%程度(参考例参照)であったが、本発明による分画法における回収率は約90%と高く、高純度品を用いた効力評価や作用機構の解明、あるいは医薬品開発に際しての有用な精製手段となり得る。
【0046】
【表4】
【0047】
実施例4
実施例1で調製した大豆転移レシチン/エタノール溶液を減圧乾燥し、そのうちの900mgを50ccメジウム瓶に取り、クロロホルム22.5mLとメタノール15mLの混合液に溶解させた。こうして調製した大豆転移レシチン/クロロホルム−メタノール溶液を4.0mLずつ6.0ccメジウム瓶に分注し、ここに種々のpHのクエン酸−クエン酸ナトリウム緩衝液(pH2.8,3.6,4.1,4.6,5.0)に溶解した2M食塩水を0.8mL加えた。瓶を振って数回混合した後、静置してクロロホルム層を回収し、その内の2.5mLを秤量した試験管に取り窒素下に乾燥した。
【0048】
乾燥物(約120mg)に対して0.2mLのジエチルエーテルを加えて溶解し、ここに2.0mLのエタノールを徐々に加えて溶解し、懸濁液全体を遠心分離して上清と沈澱とを分離した。エタノール抽出液は10倍希釈液を10μL、沈澱は全体を10.0mLのクロロホルムに溶解したものを5μL、薄層板にアプライし、実施例1の条件で展開後Dittmer−Lester試薬によりリン脂質を発色させ、ゲルパターン画像解析システムによりリン脂質含量を定量した。
【0049】
pH3.6以上の条件ではPSもPAも共に沈澱画分に回収され(PA/PS=0.23)、両者を分離することはできなかった。これに対してpH2.8では沈澱に含まれるPA量が相対的に低く(PA/PS=0.15)、この条件でのエタノール処理を繰り返せばナトリウム塩の状態でPSを分画できる可能性が示された。
【0050】
実施例5
PC含量40%の大豆レシチン200gにセリン水溶液190g(セリン70g+水120g)とホスホリパーゼD(PLD−Y1、(株)ヤクルト本社製)の水溶液(24mg/mL)を10mL練り込んで55℃で5時間反応させた結果、リン脂質中のPS含量が46.7%の反応生成物が得られた。
【0051】
反応生成物5.0gにエチルアルコール20mLを加え45℃で抽出後、残渣(沈殿)をさらにエチルアルコール5mLで2回抽出した。3回の抽出液を混合し、そのうちの5mLに25%食塩水0.20mLを加え、45℃に加温後、室温に放置して沈殿を形成させた。その結果、上清中のPS含量は乾燥固形分中3.3%であったのに対して、沈殿物では62.1%であり、PSは沈殿部に効率よく濃縮されることがわかった。
【0052】
実施例6
実施例5で調製した抽出液の混合物5mLに酢酸ナトリウム粉末50mgを加え45℃に加温後、室温に放置して沈殿を形成させた。その結果、上清中のPS含量は乾燥固形分中3.5%であったのに対して、沈殿物では61.8%であり、食塩水を用いた場合と同じく、PSは沈殿部に効率よく濃縮されることがわかった。
【0053】
実施例7
実施例5で調製した抽出液の混合物に対して25%食塩水を加えてPSの不溶物を形成させ、沈殿リン脂質中のPS含量と、沈殿部に回収されるPS量とを測定した。その結果として、食塩添加量と沈殿へのPS回収率及びリン脂質中のPS含量との関係を表5に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
表5に示す通り、何れの条件でもPSは沈殿画分に濃縮されたが、特に抽出液混合物中のリン脂質1gあたりに加える食塩の量が10ミリモル以下の範囲において、沈殿リン脂質中のPS含量は55%以上であり、沈殿部にPSが効率よく濃縮されていた。一方、食塩添加量が0.05ミリモル以下の場合には、沈殿へのPSの回収率は60%以下であり、40%以上が上清部に存在していた。以上の結果から、何れの添加量でもPSを沈殿に濃縮することが可能であるが、アルコールに溶解したリン脂質1gに対する食塩の添加量が0.15〜10ミリモルの範囲が特に実用に適した添加量と考えられた。
【0056】
参考例 CM−セルロース・カラムクロマトグラフィーによる精製
牛脳からのPSの精製例(新生化学実験講座4、脂質IIリン脂質、p.127)に準じて実施例1で得た大豆転移レシチンからPSを精製することを試みた。
【0057】
(1) Na+型CM−セルロースの調製:CM−52(Whatmann社、膨潤型)50gを0.5N水酸化ナトリウム500mL中に徐々に加えて約30分間静置した後に吸引瀘過した。瀘液が中性になるまで蒸留水で洗浄(500mL×2回)した後、0.5N塩酸500mLを流し蒸留水で瀘液が中性になるまで再度洗浄(500mL×2回)した。このゲルを0.5N水酸化ナトリウム500mL中にかきまぜながら加え30分間静置したのち、蒸留水で中性になるまで洗浄(500mL×1回)し、さらにメタノール500mLで洗浄後、最終的にメタノール懸濁液として室温に保存した。
【0058】
(2) クロマトグラフィー:(1)で調整したCM−52を内径30mmのカラムに充填(ベッド体積70mL)し、クロロホルムを500mL流してコンディショニングした後、実施例1の大豆転移レシチン1.0gを10mLのクロロホルムに溶解して沈澱を除いた溶液をカラムにアプライした後、クロロホルムで溶出させ、200mLのクロロホルム溶出画分(Fr.1)を得た。
【0059】
更に、クロロホルム−メタノール(85:15,v/v)400mL(Fr.2+3)、クロロホルム−メタノール(75:25,v/v)400mL(Fr.4+5)、クロロホルム−メタノール(65:35,v/v)400mL(Fr.6+7)、クロロホルム−メタノール(50:50,v/v)400mL(Fr.8+9)を流して200mLずつを分画し、シリカゲル薄層クロマトグラフィーによりリン脂質を分析した。
【0060】
その結果、クロロホルム溶出画分(Fr.1)にはほとんどリン脂質が検出されなかったが、クロロホルム−メタノール(85:15,v/v)画分の前半(Fr.2)には白濁状態でアプライしたエタノール沈澱物とほぼ同じ組成の物が0.29g(乾燥重量)溶出された。クロロホルム−メタノール(75:25,v/v)画分(Fr.4+5)にはPCは含まれなかったがPSとPAの両方が含まれており、特にPAが多く溶出されていた。そして、クロロホルム−メタノール(65:35,v/v)画分の前半(Fr.6)にはまだ8.0%のPAが含まれていたが、後半(Fr.7)以降にはPAが含まれておらず、PS以外には原点にわずかの発色が見られるのみで純度は97.7%であった。なお、クロロホルム−メタノール(50:50,v/v)画分の前半(Fr.8)には相当量のPSが含まれていたが、後半(Fr.9)にはほとんど溶出物がなかった。
【0061】
以上の結果から、大豆転移レシチンからも牛脳分画物とほぼ同様の条件の陽イオン交換クロマトによりPSを精製できることが明らかになったが、回収率は極めて低く(Fr.7以降のみを回収した場合,20%程度)、大量の精製PSを得るには適さない方法であることがわかった。
【0062】
【発明の効果】
本発明は以上説明した通り、天然あるいは人工的に調製されたリン脂質混合物からPSを簡便に濃縮する分画法を得ることができるという効果がある。
Claims (4)
- ホスファチジルセリンを含むリン脂質混合物をアルコール類に溶解した後、不溶性成分を除いた該溶解液中に金属塩をリン脂質1gあたり0.15〜10ミリモル添加することによりホスファチジルセリンを不溶化せしめ、該不溶部を分離することを特徴とするホスファチジルセリンの分画法。
- 前記金属塩として、リチウム塩、カリウム塩及びナトリウム塩から選ばれる1種又は2種以上を用いることを特徴とする請求項1に記載のホスファチジルセリンの分画法。
- 前記金属塩として、塩化リチウム、塩化カリウム又は塩化ナトリウムを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のホスファチジルセリンの分画法。
- 前記アルコール類として、エチルアルコールを用いることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のホスファチジルセリンの分画法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2001038430A JP4009066B2 (ja) | 2001-02-15 | 2001-02-15 | ホスファチジルセリンの分画法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2001038430A JP4009066B2 (ja) | 2001-02-15 | 2001-02-15 | ホスファチジルセリンの分画法 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2002241385A JP2002241385A (ja) | 2002-08-28 |
JP4009066B2 true JP4009066B2 (ja) | 2007-11-14 |
Family
ID=18901400
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2001038430A Expired - Lifetime JP4009066B2 (ja) | 2001-02-15 | 2001-02-15 | ホスファチジルセリンの分画法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP4009066B2 (ja) |
Families Citing this family (5)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
IL158139A0 (en) * | 2003-09-25 | 2004-09-27 | Enzymotec Ltd | Stabilized formulations of phosphatidyl serine |
US8052992B2 (en) | 2003-10-22 | 2011-11-08 | Enzymotec Ltd. | Glycerophospholipids containing omega-3 and omega-6 fatty acids and their use in the treatment and improvement of cognitive functions |
US20050130937A1 (en) | 2003-10-22 | 2005-06-16 | Enzymotec Ltd. | Lipids containing omega-3 and omega-6 fatty acids |
EP1739183A4 (en) * | 2004-03-18 | 2010-10-13 | Nagase Chemtex Corp | METHOD OF ENZYME REMOVAL AND PROCESS FOR BASE EXCHANGE OR HYDROLYSIS OF PHOSPHOLIPIDE USED THEREOF |
TW200808817A (en) * | 2006-04-20 | 2008-02-16 | David Stevenson | Product and process |
-
2001
- 2001-02-15 JP JP2001038430A patent/JP4009066B2/ja not_active Expired - Lifetime
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JP2002241385A (ja) | 2002-08-28 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
CN101522055B (zh) | 非变应原性的成分和食品 | |
US11066432B2 (en) | Ether phospholipids and method for producing the same | |
JP2021508343A (ja) | リゾホスファチジルコリン組成物 | |
CN103025749A (zh) | 2’-o-岩藻糖基乳糖的多晶型物及其制备 | |
AU2009205116B2 (en) | Liver function-protecting agent | |
US20240082276A1 (en) | Lipid compositions | |
WO2008062559A1 (fr) | Supplément diététique, agent anti-fatigue, activateur d'endurance physique, aliment fonctionnel, ou produit cosmétique | |
JP4129566B2 (ja) | 肝臓脂肪蓄積抑制組成物及び肝臓脂肪蓄積抑制用食品添加剤 | |
CA2610575C (en) | Process for the preparation and isolation of phosphatides | |
JP4009066B2 (ja) | ホスファチジルセリンの分画法 | |
JPH11269074A (ja) | 脂質の消化吸収機能改善剤 | |
US20110124061A1 (en) | Method for preparation of polyunsaturated fatty acid-containing phosphatidylserine | |
KR101995643B1 (ko) | 레시틴으로부터 식품원료로 이용가능한 콜린알포세레이트의 제조방법 | |
AU2019200757A1 (en) | Lipid extraction processes | |
JP2002193982A (ja) | ホスファチジルセリンの精製方法 | |
CN107529805A (zh) | 包含胆碱及其衍生物的组合物,其制备方法和用途 | |
US20160243061A1 (en) | Compositions comprising choline and derivatives thereof, uses thereof and processes for their preparation | |
JP4958339B2 (ja) | 脂質代謝改善剤 | |
JP2584602B2 (ja) | デセン酸・グリセロリン脂質複合体及びその製造方法並びに食品組成物 | |
JPH0662648B2 (ja) | 高純度レシチンの製造方法 | |
JP3401176B2 (ja) | 生活習慣病予防健康飲食品 | |
JPH1084879A (ja) | 肝臓中性脂肪合成抑制作用を有する粗大豆レシチン分画物 | |
JP4344039B2 (ja) | 夢見促進剤 | |
JPH06239761A (ja) | 食欲亢進作用を有する経口投与剤及び飲食品 | |
JP2003171302A (ja) | 抗炎症剤および組成物 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20041001 |
|
A977 | Report on retrieval |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007 Effective date: 20061102 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20070307 |
|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20070507 |
|
TRDD | Decision of grant or rejection written | ||
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 Effective date: 20070816 |
|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20070831 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20100907 Year of fee payment: 3 |
|
R151 | Written notification of patent or utility model registration |
Ref document number: 4009066 Country of ref document: JP Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R151 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20100907 Year of fee payment: 3 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20110907 Year of fee payment: 4 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20110907 Year of fee payment: 4 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20120907 Year of fee payment: 5 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20130907 Year of fee payment: 6 |
|
EXPY | Cancellation because of completion of term |