JP4007439B2 - 非水二次電池 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、非水二次電池に関し、さらに詳しくは、高容量で、かつサイクル特性および貯蔵特性が優れた非水二次電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどのポータブル電子機器の発達や、電気自動車の実用化などに伴い、小型軽量でかつ高容量の二次電池が必要とされるようになってきた。現在、この要求に応える高容量二次電池として、正極活物質としてLiCoO2 を用い、負極活物質として炭素系材料を用いたリチウムイオン二次電池が商品化されている。このリチウムイオン二次電池の正極活物質として使用されているLiCoO2 は、製造が容易であり、かつ取り扱いが簡便なことから、好適な正極活物質として多用されている。
【0003】
しかしながら、LiCoO2 は希少金属であるコバルト(Co)を原料として製造されるために、今後、資源不足が深刻になると予想される。また、コバルト自体の価格も高く、価格変動も大きいために、安価で供給の安定している正極材料の開発が望まれる。
【0004】
そこで、LiCoO2 に代わる正極活物質として、スピネル構造のリチウムマンガン酸化物、ニッケル酸リチウム、チタン酸リチウムなどを用いたリチウムイオン二次電池について研究開発が行われている。これらのリチウム含有複合酸化物の中でも構成元素の価格が安価で、供給が安定しているマンガンを構成元素としたスピネル型構造のリチウムマンガン酸化物が、LiCoO2 に代わる正極活物質として注目されている。
【0005】
このスピネル型構造のリチウムマンガン酸化物は他のリチウム複合酸化物と比べて価格が安く、しかも充電状態での熱安定性が高く電解液との反応性が低いことから、大型電池用途で、かつ大量の電池を必要とするハイブリット電気自動車(HEV)や電気自動車(PEV)用のリチウムイオン二次電池の正極材料として期待されている。
【0006】
そして、このスピネル型構造のリチウムマンガン酸化物には、Li2 Mn4 O9 、Li4 Mn5 O12、LiMn2 O4 などがあり、なかでもLiMn2 O4 がリチウム電位に対して4V領域で充放電が可能であることから、研究が盛んに行われている(特開平6−76824号公報、特開平7−73883号公報、特開平7−230802号公報、特開平7−245106号公報など)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、LiCoO2 の理論放電容量は274mAh/gであるが、深い充放電を行うとLiCoO2 が相変化を起こしてサイクル寿命に影響を与えるため、実際のリチウムイオン二次電池において実用的な放電容量は125〜140mAh/gの範囲になる。これに対して、LiMn2 O4 の理論放電容量は148mAh/gであるが、このLiMn2 O4 もLiCoO2 と同様に充放電中に相変化を起こし、また、負極活物質として炭素系材料を用いた場合には、炭素系材料の不可逆容量が大きいために、実際に電池にした時に使用できる放電容量は90〜105mAh/g程度になる。このことからも明らかなように、LiMn2 O4 を正極活物質として用いる場合には、LiCoO2 を正極活物質として用いた場合よりも電池容量を大きくすることができない。
【0008】
また、LiCoO2 の真密度が4.9〜5.1g/cm3 であるのに対し、LiMn2 O4 の真密度は4.0〜4.2g/cm3 であり、正極活物質としての充填性を考えると、体積あたりの容量面でも不利を生じることになる。さらに、LiMn2 O4 を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池では、充放電中におけるLiMn2 O4 自体の構造が不安定であるため、サイクル特性がLiCoO2 系電池よりも短いという問題もある。
【0009】
さらに、リチウムイオン二次電池は、充電状態で保存されていると自己放電や正極活物質、負極活物質、電解液、その他の電池構成部品の劣化により、電池容量が減少する。これは、電池構成材料中に含まれる不純物や電極活物質の電解液中への溶解による電池内での化学反応や、電極構成材料の劣化などにより進行する。二次電池は長寿命を要求される電池である一方、充放電しない状態で長期間、保存されることもしばしばある。このような使用環境下においては、貯蔵時における電池容量の減少が大きな問題となってくる。
【0010】
本発明は、上記のような従来の事情に照らして、高容量で、かつサイクル特性および貯蔵特性が優れた非水二次電池を提供することを第一の目的とする。また、本発明は、最近の二次電池の使用環境に伴い、正極活物質の利用率を向上させ、負荷特性が優れた非水二次電池を提供することを第二の目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、非水二次電池の正極活物質として、一般式LixMnyO4−z(x+y=3.00とした時、1.00≦x≦1.05、0<z≦0.15、ただし、xは電池組立時の値であり、充放電に際し0<x≦1.05の範囲で変化する値である)で表される球状ないし楕円体状のスピネル型リチウムマンガン酸化物であって、かつS含有量がSO4イオン換算で0.6重量%以下のスピネル型リチウムマンガン酸化物を用いることによって、理論放電容量に近い、高容量で、かつサイクル特性および貯蔵特性が優れた非水二次電池が得られることを見出した。
【0012】
以下、本発明をより具体的に説明する。まず、最初にスピネル型リチウムマンガン酸化物の非水二次電池用正極活物質としての特性について説明すると、スピネル型リチウムマンガン酸化物では、その構成元素であるLi、Mn、Oの含有比が、電気化学的な容量に多大な影響を及ぼす。
【0013】
従来のLiMn2 O4 はその構成比から明らかなように、Mnの平均価数が3.5価であり、通常、3価のMnと4価のMnとが等量混在している。しかしながら、実際に充放電に関与するのは3価のMnだけであり、LiMn2 O4 の組成中の3価のMnが多くなるほど放電容量が大きくなる。従って、3価のMnを多くするために、LiMn2 O4 の結晶構造中の酸素量を少なくしたリチウムマンガン酸化物にすることが考えられる。
【0014】
ところが、3価のMn量が多くなるとLiMn2 O4 の構造が立方晶のスピネル構造から正方晶のLiMnO2 へと相変化を起こす。この正方晶のLiMnO2 はリチウム電位で3V領域では充放電が可能であるが、4V付近の高電位が要求される場合には使用できない。また、LiMn2 O4 中の酸素含有量は、LiMn2 O4 中のMnの価数を決定するのに重要で、酸素含有量が多いと4価のMnが増加し、酸素含有量が少ないと3価のMnが増加する。3価のMnはヤーン・テラー効果のため、価数変化を起こすときに物質自体が相変化を起こしやすく、充放電中のLiMn2 O4 の構造を不安定にし、Liイオンの出入りに伴いスピネル相の破壊が起きやすい。
【0015】
また、LiMn2 O4 は結晶構造中のLiをドープ・脱ドープすることにより、Li量が0〜1.00の範囲で変化し、電気化学的に充放電が可能になるが、結晶構造中のLi量が少ないと充放電に使用できるLi量が減少するため、電気化学的容量が減少する。そのため、できるかぎりLi含有量の多いことが望ましいが、量論組成を超えた過剰なLiはLiMn2 O4 においてMnの占めるべき16dサイトに入り、このMnの16dサイトに入ったLiは充放電に関与しなくなる。さらに、LiがMnの16dサイトに入ると、LiMn2 O4 中の4価のMnが増加し、充放電容量が減少する。従って、Li量をx、Mn量をyとし、x+y=3.00として、リチウムマンガン酸化物を表した時、Li量は1.00が好ましいが、酸素含有量がO4-z (0<z≦0.15)である時は、Li量が1.00以上である場合においても3価のMnを多く含有することができる。一方、Li量が多くなりすぎると、不純物相が多く生成するために、Li量は1.00以上で1.05以下が好ましく、1.01以上で1.03以下がより好ましい。
【0016】
また、酸素含有量が多くなりすぎると、上記のように4価のMnが増加し、充放電容量が小さくなるため、酸素含有量は4未満で3.85以上であることが好ましく、3.98以下で3.88以上がより好ましい。
【0017】
なお、本発明のスピネル型リチウムマンガン酸化物は、結晶構造中のLi(リチウム)がドープ・脱ドープすることにより充放電サイクルするものであって、電池組立時と充放電サイクル時の組成は次のようになる。
【0018】
電池組立時の組成
Lix Mny O4-z
(x+y=3.00、1.00<x≦1.05、0<z≦0.15)
↓
充放電サイクル時の組成
Lix'Mny O4-z
(0<x’≦1.05、1.95/4.00<y/(4−z)≦2.00/3.85)
【0019】
充放電サイクル時においては、リチウム量は0<x’≦1.05の範囲で変化し、マンガン量と酸素量との比は1.95/4.00<y/(4−z)≦2.00/3.85の範囲内にあることになる。
【0020】
上記のようなスピネル型マンガン酸化物を用いることにより、高容量で、かつサイクル特性が優れた非水二次電池が得られるが、一方、充電後の貯蔵特性が低下しやすいことが判明した。そこで、この原因について検討したところ、上記のような充電後の貯蔵特性の低下はスピネル型リチウムマンガン酸化物中のS(硫黄)含有量に起因することが判明した。スピネル型マンガン酸化物中にS成分を含有することにより充電後の貯蔵特性が低下する理由は、現在のところ必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。すなわち、二次電池では電池使用状態において、充電後長期間放置される場合があるが、この充電状態で長期間放置されるとスピネル型リチウムマンガン酸化物中に含まれているS成分が電解液中に溶出し、これが負極中に侵入したり、あるいは負極表面に析出して、負極活物質に悪影響を及ぼすためであると考えられる。そこで、本発明者らは、そのような貯蔵特性の低下を防止すべく鋭意検討を重ねた結果、スピネル型リチウムマンガン酸化物中のS含有量をSO4 イオン換算で0.6重量%以下にすることにより、上記貯蔵特性の低下を解決できることを見出したのである。
【0021】
本発明は、上記の知見に基づき、リチウムマンガン酸化物に関して、スピネル構造を維持しつつ、できるだけ3価のMnを多く含有させて、放電容量を大きくし、4V級の高電位にも充分に対応でき、しかもサイクル特性が優れ、貯蔵特性が優れるようにしたものである。すなわち、本発明において、正極活物質として用いる一般式Lix Mny O4-z (x+y=3.00とした時、1.00≦x≦1.05、0<z≦0.15、ただし、xは電池組立時の値であり、充放電に際し0<x≦1.05の範囲で変化する値である)で表され、かつそのS含有量がSO4 イオン換算で0.6重量%以下のスピネル型リチウムマンガン酸化物は、3価のMnを多く含有していて、高容量であり、しかも従来のリチウムマンガン酸化物に比べて、結晶構造中の酸素含有量が抑制されていて、3価のMnを多く含む場合においても、サイクル特性が優れているとともに、そのS含有量がSO4 イオン換算で0.6重量%以下であることによって貯蔵特性の低下も少なくすることができるという特性を有するものである。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明のスピネル型リチウムマンガン酸化物は、上記のように一般式Lix Mny O4-z (x+y=3.00とした時、1.00≦x≦1.05、0<z≦0.15、ただし、xは電池組立時の値であり、充放電に際し0<x≦1.05の範囲で変化する値である)で表されるが、このスピネル型リチウムマンガン酸化物について詳細に説明するにあたり、これまでのLiMn2 O4 についても、その形状、製造原料について触れておくと、LiMn2 O4 の製造原料としては一般に電解合成二酸化マンガンが使用されている。しかし、この従来の電解合成二酸化マンガンを用いて製造したLiMn2 O4 は、図2の電子顕微鏡写真に示すように、角張った形状をしている。
【0023】
非水二次電池では正極合剤の密度を上げて高容量化を図る必要があるが、上記のような角張った形状をしたLiMn2 O4 では、その角張った形状のため正極合剤の密度を上げることができず、正極の充填密度が低くなってしまうという問題がある。
【0024】
本発明のスピネル型リチウムマンガン酸化物は、そのような要求にも応えることができるものであり、図1に示すように、球状ないし楕円体状をしているので、活物質粒子内での電気化学的な反応が均一に進行するものと考えられ、それによって、大きな放電容量を期待でき、しかも、このスピネル型リチウムマンガン酸化物を正極活物質として用いた場合、正極合剤の密度を高め、正極の充填密度を高めることができるので、高容量の非水二次電池が得られる。
【0025】
本発明において、上記スピネル型リチウムマンガン酸化物の形状を表現するにあたり、球状ないし楕円体状と表現しているが、これはほぼ球状のものからほぼ楕円体状のものまでのすべて(つまり、ほぼ球状からほぼ楕円体状までの中間的な形状のものも含む)を含み、その中に含まれるいずれの形状であってもよいことを意味している。
【0026】
前記のようなスピネル型リチウムマンガン酸化物を正極活物質として用いることにより、高容量およびサイクル特性が優れた非水二次電池が得られるが、そのままでは前述のように貯蔵特性が低下する。そこで、本発明者らは、上記のような貯蔵特性の低下を抑制すべく検討を重ね、スピネル型リチウムマンガン酸化物中のS(硫黄)含有量をSO4 イオン換算で0.6重量%以下にすることによって、貯蔵特性の低下を抑制できることを見出したのである。
【0027】
すなわち、スピネル型マンガン酸化物中のS含有量をSO4 イオン換算で0.6重量%以下にすることにより、充電後に電池を長期間放置しても正極から電解液へのS成分の溶出が少なくなり、また負極中への侵入や負極表面での析出が少なくなって、貯蔵による電池特性の低下が抑制され、貯蔵特性の低下を抑制できるようになる。このS含有量はSO4 イオン換算で0.3重量%以下が好ましく、より好ましくは0.1重量%以下である。
【0028】
本発明において正極活物質として用いる一般式Lix Mny O4-z で表されるスピネル型リチウムマンガン酸化物は、その組成を示す上記一般式からは本来S(硫黄)を含有しないものであるが、その原料である化学合成二酸化マンガンの製造工程で微量ではあるが後に示すFeなどとともに、二酸化マンガン中に不可避的に混入してきて、前記のように、それが貯蔵特性を低下させる。そこで、本発明では、そのS含有量を上記のようにSO4 イオン換算で0.6重量%に規制することによって、貯蔵特性の低下を抑制することに成功したのである。
【0029】
さらに、本発明のリチウムマンガン酸化物中に含まれるFe含有量を200ppm以下にすることにより、上記リチウムマンガン酸化物を正極活物質として用いたとき、負荷特性も改善することができる。
【0030】
すなわち、本発明のリチウムマンガン酸化物の原料である化学合成二酸化マンガンの製造過程でマンガン以外の遷移金属が混入してくるが、特にFe成分の混入が顕著であり、このFe成分の少ない化学合成二酸化マンガンを原料としてリチウムマンガン酸化物の合成を行うと、生成物の充放電容量をさらに向上でき、負荷特性の優れた非水二次電池が得られるようになる。この理由は現在のところ必ずしも明確ではないが、本発明者らが考察したところでは、Feを含有した二酸化マンガンを用いるとリチウムマンガン酸化物の生成過程において充放電反応に寄与しない酸化鉄あるいはFe含有リチウム酸化物が生成し、それが負荷特性を低下させる原因になっているものと考えられる。そこで、Fe含有量の少ない二酸化マンガンを用いることにより、それらの不純物の生成を抑制してリチウムマンガン酸化物中のFe含有量を200ppm以下にすることにより、充放電反応でドープ、脱ドープするリチウムイオンの固相内拡散の効率を高め、充放電容量の向上のみならず、負荷特性も改善できるようになるものと考えられる。
【0031】
また、生成物であるリチウムマンガン酸化物を1当量合成するには、原料である二酸化マンガンが2当量必要であるため、二酸化マンガン中の不純物であるFe成分はリチウムマンガン酸化物中において約2倍の含有量に濃縮されるので、二酸化マンガン中のFe成分濃度は、スピネル型リチウムマンガン酸化物の負荷特性に大きな影響を与えるものと考えられる。
【0032】
本発明者らの検討によれば、リチウムマンガン酸化物中のFe含有量を200ppm以下、より好ましくは100ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下にすることにより、前記リチウムマンガン酸化物を正極活物質として用いたときに、高い充放電容量と優れた負荷特性を有する非水二次電池が得られることが判明した。
【0033】
また、本発明において、正極活物質として用いるスピネル型リチウムマンガン酸化物は、充放電効率を高めるために、その平均粒子径が1〜45μmであることが好ましく、特に平均粒子径が1〜25μmであることが好ましく、その比表面積は、有効反応面積を増やすために、0.5〜3m2 /gであることが好ましく、特に1〜3m2 /gであることが好ましい。本発明で用いるスピネル型リチウムマンガン酸化物を上記のような平均粒子径および比表面積にすることにより、電気化学的反応の進行が有利になり、充放電容量やサイクル特性のみならず、低温時の放電特性も改善できる。
【0034】
上記のように、本発明のスピネル型リチウムマンガン酸化物の平均粒子径を1〜45μm、比表面積を0.5〜3m2 /gにすることにより、優れた充放電容量やサイクル特性のみならず、低温時の放電特性も改善できる理由は、現在のところ必ずしも明確ではないが、次のように考えられる。すなわち、本発明の非水二次電池の正極は前記スピネル型リチウムマンガン酸化物をバインダーとともに溶剤中で分散してペーストにし、これを集電体となる基体上に塗布し、乾燥して作製されるが、このペースト調製時にスピネル型リチウムマンガン酸化物の平均粒子径を1μm以上、比表面積を3m2 /g以下にすることにより、正極合剤ペースト中のスピネル型リチウムマンガン酸化物の粒子同士の凝集を抑制できるとともに、スピネル型リチウムマンガン酸化物粒子の溶剤へのねれ(濡)性を向上させることができるので、ペーストの調製にあたって使用する溶剤量を少なくすることができる。また、ペースト乾燥後に活物質含有層(つまり、正極合剤層)中に残存する溶剤は負荷特性に影響を与えるが、本発明のスピネル型リチウムマンガン酸化物は溶剤使用量を少なくすることができるので、この正極合剤中の残存溶剤を低減できるとともに、正極の製造工程中で電池特性に影響を及ぼす一因となる基体上に塗布したペーストの乾燥温度を低くすることができ、ペースト乾燥後の正極合剤中のスピネル型リチウムマンガン酸化物やバインダー、電子伝導助剤などの分布が均一になり、負荷特性が向上し、それに伴って、充放電容量やサイクル特性のみならず、低温時の放電特性も改善されるようになるものと考えられる。
【0035】
一方、スピネル型リチウムマンガン酸化物の平均粒子径を45μm以下、比表面積を0.5m2/g以上にすることにより、上記スピネル型リチウムマンガン酸化物の粒子表面の電気化学的反応の進行を円滑にするとともに、スピネル型リチウムマンガン酸化物を微粒子にすることができるので、上記の正極合剤層の充填密度をさらに高めることができ、本発明の球状ないし楕円体状の粒子形状の効果をより顕著に発現させることができる。なお、本発明にいう平均粒子径は、電子顕微鏡写真(倍率:500倍)で、写真中の個々の粒子の粒子径を測定し、粒子50個の粒子径の平均値により求めた値をいい、比表面積とは試料1gを120℃で20時間脱気処理し、試料の測定環境真空度が10mTorr以下になった後に試料の1〜100Åの細孔について窒素吸着法(ユアサアイオニオクス製、オートソーブ1)で測定を行い、その際の吸着側での測定値から求めた値をいう。
【0036】
つぎに、本発明のスピネル型リチウムマンガン酸化物の製造方法について説明すると、そのマンガン源としては化学合成二酸化マンガンを用いるが、その際、球状ないし楕円体状のものを用いることが好ましい。この球状ないし楕円体状の化学合成二酸化マンガンを用いることによって、得られるスピネル型リチウムマンガン酸化物が球状ないし楕円体状になりやすい。また、上記平均粒子径および比表面積のスピネル型リチウムマンガン酸化物を製造するためには、二酸化マンガンの粒子径としては、平均粒子径で1〜45μmが好ましく、特に平均粒子径で1〜25μmが好ましい。また、二酸化マンガン中に含まれるS含有量およびFe含有量は、スピネル型リチウムマンガン酸化物中のS含有量およびFe含有量を低減させるためにも、二酸化マンガンに対してS含有量がSO4イオン換算で0.6重量%以下が好ましく、0.3重量%以下がより好ましく、Fe含有量は100ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましく、25ppmがさらに好ましい。
【0037】
また、スピネル型リチウムマンガン酸化物中のS含有量をSO4 イオン換算で0.6重量%以下、Fe含有量を200ppm以下にするためには、上記化学合成二酸化マンガンを使用するとともに、後述の本発明で採用する製造条件の範囲内でLi/Mn仕込み比、温度、雰囲気などを適宜選択することが好ましい。特に二酸化マンガンのS含有量およびFe含有量を上記のようにすることにより、副反応を抑制し、本発明の組成および形状のスピネル型リチウムマンガン酸化物が得られやすくなる。
【0038】
上記のようなS含有量の少ない化学合成二酸化マンガンは従来公知の方法により得ることができ、例えばマンガンを炭酸マンガンとして沈殿させる際に洗浄液のpHに注意をしながら充分な洗浄を行うとともに、炭酸マンガンを焼成して二酸化マンガンを製造する際に焼成温度を高くし、焼成時間を長くすることによって未反応の炭酸マンガン量を低減させることにより得られる。また、焼成処理後の未反応の炭酸マンガンを硫酸により溶解除去する工程においても、その後の工程においても、充分な水洗と焼成を行うことによって、さらにS含有量を低減することができる。
【0039】
また、上記のようなFe含有量が少ない化学合成二酸化マンガンも従来公知の方法により得ることができ、二酸化マンガンを製造する過程において、マンガンをイオンとして水溶液中に溶解させている過程で、炭酸カルシウムなどの添加や硫化などによりFe成分を塩として沈殿させる際に、溶液中のpHや添加量を調整することによって製造することができる。また、マンガンイオンを炭酸アンモニウムなどで沈殿させ、炭酸マンガンとして取り出す過程においても、前述した過程において溶液中のpHや添加量の調整が充分に行われなかった際にFe成分が同時に沈殿してくる可能性があるので、同様に炭酸アンモニウムなどの添加量や溶液中のpHを調整することによって、Fe含有量の少ない二酸化マンガンを製造することができる。
【0040】
リチウム源としては、種々のリチウム塩を用いることができ、例えば、水酸化リチウム・一水和物、硝酸リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム、臭化リチウム、塩化リチウム、クエン酸リチウム、フッ化リチウム、ヨウ化リチウム、乳酸リチウム、シュウ酸リチウム、リン酸リチウム、ピルビン酸リチウム、硫酸リチウム、酸化リチウムなどが挙げられ、それらの中でも、酸化炭素、酸化窒素、酸化硫黄などの環境に悪影響を及ぼすガスを発生しない点で、水酸化リチウム・一水和物が好ましい。
【0041】
そして、上記のようなリチウム塩を上記二酸化マンガンと混合し、焼成することによってスピネル型リチウムマンガン酸化物が得られる。その際、サイクル特性向上のためにMnの一部をAl、Cu、Fe、Ni、Co、Cr、B、Siのような他の元素で置換することもできる。このときの他元素(他元素をAで表す。)の固溶量(b)は、一般式Lix (Mn1-b Ab )y O4-z (x+y=3.00とした時、1.00≦x≦1.05、0<z≦0.15、AはAl、Cu、Fe、Ni、Co、Cr、B、Siのうち少なくとも一つを表す。ただし、xは電池組立時の値であり、充放電に際し0<x≦1.05の範囲で変化する値である)において0<b≦0.1の範囲が好ましい。Mn(マンガン元素)の一部を他の元素で置き換えることにより、スピネル構造中の酸素原子とマンガン原子との結合強度が強まり、結晶構造が安定化し、サイクル特性、特に高温サイクル特性が向上するので好ましい。そして、このような一般式Lix (Mn1-b Ab )y O4-z で表される他元素固溶スピネル型リチウムマンガン酸化物においても、該他元素固溶スピネル型リチウムマンガン酸化物中のS含有量はSO4 イオン換算で0.6重量%以下であることが必要であり、また該他元素固溶スピネル型リチウムマンガン酸化物中のFe含有量は200ppm以下であることが好ましく、さらに該他元素固溶スピネル型リチウムマンガン酸化物の比表面積は0.5〜3m 2/gであることが好ましく、平均粒子径は1〜45μmであることが好ましい。
【0042】
なお、上記のような他元素固溶スピネル型リチウムマンガン酸化物は、結晶構造中のLi(リチウム)がドープ・脱ドープすることにより充放電サイクルし、電池組立時と充放電サイクル時の組成は次のようになる。
電池組立時の組成
Lix (Mn1-b Ab )y O4-z
(x+y=3.00、1.00≦x≦1.05、0<z≦0.15、AはAl、Cu、Fe、Ni、Co、Cr、B、Siのうち少なくとも一つを表し、し0<b≦0.1である)
↓
充放電サイクル時の組成
Lix'(Mn1-b Ab )y O4-z
(0<x’≦1.05、1.95/4.00<y/(4−z)≦2.00/3.85、AはAl、Cu、Fe、Ni、Co、Cr、B、Siのうち少なくとも一つを表し、0<b≦0.1である)
【0043】
上記充放電サイクル時において、リチウム量は0<x’≦1.05の範囲で変化し、マンガン量と酸素量との比は1.95/4.00<y/(4−z)≦2.00/3.85の範囲内にあることになる。
【0044】
また、本発明のスピネル型リチウムマンガン酸化物の製造にあたり、二酸化マンガンとリチウム塩との仕込み比は、LiとMnの混合モル比でLi/Mn≦0.5、特に0.45≦Li/Mn≦0.49にすることが好ましい。上記LiとMnの混合モル比を0.5以下にするのが好ましいとするのは、上記Li/Mnの混合モル比が0.5より大きくなると、反応中間生成物などが残存しやすくなり、その中間生成物が電池系内で充放電反応を阻害して、非水二次電池の充放電容量を小さくするおそれがあるためである。
【0045】
さらに、本発明のスピネル型リチウムマンガン酸化物の製造時に、上記の二酸化マンガンとリチウム塩とを混合して、ペレット化したものを焼成することが好ましい。すなわち、反応を固相反応で行うために、原料の固相内拡散により反応が進行するので、ペレット化しておくことによって、原料のリチウム塩粒子と二酸化マンガン粒子との接触が良くなり、より反応が進行しやすくなる。このペレットの大きさとしては、5〜15mmが好ましい。
【0046】
そして、本発明のスピネル型リチウムマンガン酸化物の製造時の焼成は、780〜820℃まで昇温し、その温度で24〜36時間保持することが好ましい。780〜820℃で焼成することにより、生成するリチウムマンガン酸化物の結晶性が向上し、スピネル型マンガン構造が形成しやすくなる。焼成温度が780℃より低くなると、生成物であるスピネル型リチウムマンガン酸化物の結晶性の低下や中間生成物の残存により放電容量が小さくなり、焼成温度が820℃より高くなるとスピネル型リチウムマンガン酸化物の充電容量と放電容量との差、つまり、不可逆容量が大きくなるために放電容量が小さくなってしまうおそれがある。
【0047】
上記焼成に当たっての加熱処理としては、一気に780〜820℃まで昇温するよりも、室温からリチウム塩の融点である250〜500℃で予備加熱してから780〜820℃に昇温することが好ましい。これは、リチウム塩と二酸化マンガンとの反応が段階的に起こり、中間生成物を経由してスピネル型リチウムマンガン酸化物が生成するために、それぞれの中間生成物を形成するための一段階目の反応として予備加熱するためのものであり、一気に780〜820℃まで昇温すると、リチウム塩と二酸化マンガンとが部分的に最終段階まで反応し、それによって生成したスピネル型リチウムマンガン酸化物が未反応物の反応を妨害するおそれがある。また、目的とするスピネル型リチウムマンガン酸化物を得るための焼成時間を短縮するためにも段階的に加熱を行うのが有効である。この予備加熱の時間は特に制限されるものではないが、通常、12〜30時間が好ましく、室温からリチウム塩の融点付近まで昇温し、さらにその温度を保持して加熱することが好ましい。
【0048】
上記焼成、予備加熱も含め加熱処理の雰囲気としてはアルゴン、ヘリウム、窒素などの不活性ガスと酸素ガスとの混合雰囲気中で行うことが好ましい。これらのガスの混合比としては、不活性ガス/酸素ガスの体積比で5/5〜9/1の範囲にすることが好ましく、8/2〜9/1の範囲にすることがより好ましい。上記のように、不活性ガス/酸素ガスを体積比で5/5〜9/1にすることにより、反応の進行が容易になり、不純物を含有しないスピネル型リチウムマンガン酸化物が容易に得られるようになる。
【0049】
上記不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスの流量としては、出発原料混合物100gあたり1リットル/分以上にするのが好ましく、原料混合物100gあたり1〜5リットル/分がより好ましい。ガス流量が少ない場合、つまりガス流速が遅い場合には、スピネル構造への反応性に差異が生じ、Mn2 O3 やLi2 MnO3 などの不純物が残存するおそれがある。
【0050】
本発明のスピネル型リチウムマンガン酸化物を正極活物質として用いて非水二次電池用の正極を作製するには、例えば、上記スピネル型リチウムマンガン酸化物に、要すれば、例えば、りん片状黒鉛、アセチレンブラックなどのような電子伝導助剤と、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのバインダーを加えて混合し、得られた正極合剤を適宜の手段で成形すればよい。
【0051】
上記正極と対向させる負極の活物質としては、リチウムまたはリチウム含有化合物が用いられるが、そのリチウム含有化合物としてはリチウム合金とそれ以外のものとがある。上記リチウム合金としては、例えば、リチウム−アルミニウム、リチウム−鉛、リチウム−インジウム、リチウム−ガリウム、リチウム−インジウム−ガリウムなどが挙げられる。リチウム合金以外のリチウム含有化合物としては、例えば、錫酸化物、珪素酸化物、ニッケル−珪素系合金、マグネシウム−珪素系合金、乱層構造を有する炭素材料、黒鉛、タングステン酸化物、リチウム鉄複合酸化物などが挙げられる。これら例示のリチウム含有化合物中には、製造時にリチウムを含んでいないものもあるが、負極活物質として作用するときにはリチウムを含んだ状態になる。これらのうち、特に黒鉛が容量密度が大きい点で好ましい。
【0052】
負極は、上記負極活物質に、要すれば、上記正極活物質の場合と同様のバインダーや電子伝導助剤などを加えて混合し、得られた負極合剤を適宜の手段で成形することによって作製される。
【0053】
上記正極や負極の成形手段としては、正極合剤や負極合剤を加圧成形したり、正極合剤や負極合剤を水その他の適宜の溶剤によりペースト状ないしスラリー状に塗料化し、それぞれの塗料を集電体としての作用を兼ねる基体に塗布または含浸させ、乾燥して、基体上に塗膜を形成するなど、種々の手段が採用できるが、後者の基体上に塗膜として形成する方法が適している。
【0054】
上記塗料を基体に塗布する際の塗布方法としては、例えば、押出しコーター、リバースローラー、ドクターブレードなどをはじめ、各種の塗布方法を採用することができる。また、正極、負極などの電極の基体としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、チタン、銅などの金属の網、パンチドメタル、エキスパンドメタル、フォームメタル、箔などが用いられる。
【0055】
上記正極と負極における活物質量の比としては、活物質の種類によっても異なるが、正極活物質/負極活物質=1.5〜3.5(重量比)にすることが好ましい。
【0056】
本発明のスピネル型リチウムマンガン酸化物を正極活物質として用いた非水二次電池において、電解液としては有機溶媒に電解質を溶解させた有機溶媒系の非水電解液が用いられる。その電解液の溶媒は特に限定されるものではないが、鎖状エステルを主溶媒として用いることが特に適している。そのような鎖状エステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、酢酸エチル(EA)、プロピロン酸メチル(MP)などの鎖状のCOO−結合を有する有機溶媒が挙げられる。この鎖状エステルが電解液の主溶媒であるということは、これらの鎖状エステルが全電解液溶媒中の50体積%より多い体積を占めるということを意味しており、特に鎖状エステルが全電解液溶媒中の65体積%以上、とりわけ鎖状エステルが全電解液溶媒中の70体積%以上を占めることが好ましく、なかでも鎖状エステルが全電解液溶媒中の75体積%以上を占めることが好ましい。
【0057】
電解液の溶媒として、この鎖状エステルを主溶媒にすることが好ましいとしているのは、鎖状エステルが全電解液溶媒中の50体積%を超えることによって、電池特性、特に低温特性が改善されるからである。
【0058】
ただし、電解液溶媒としては、上記鎖状エステルのみで構成するよりも、電池容量の向上をはかるために、上記鎖状エステルに誘電率の高いエステル(誘電率30以上のエステル)を混合して用いることが好ましい。そのような誘電率の高いエステルの全電解液溶媒中で占める量としては、10体積%以上、特に20体積%以上が好ましい。すなわち、誘電率の高いエステルが全電解液溶媒中で10体積%以上になると容量の向上が明確に発現するようになり、誘電率の高いエステルが全電解液溶媒中で20体積%以上になると容量の向上がより一層明確に発現するようになる。ただし、誘電率の高いエステルの全電解液溶媒中で占める体積が多くなりすぎると、電池の放電特性が低下する傾向があるので、誘電率の高いエステルの全電解液溶媒中で占める量としては、上記のように好ましくは10体積%以上、より好ましくは20体積%以上の範囲内で、40体積%以下が好ましく、より好ましくは30体積%以下、さらに好ましくは25体積%以下である。
【0059】
上記誘電率の高いエステルとしては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、γ−ブチロラクトン(γ−BL)、エチレングリコールサルファイト(EGS)などが挙げられ、特にエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの環状構造のものが好ましく、とりわけ環状のカーボネートが好ましく、具体的にはエチレンカーボネート(EC)が最も好ましい。
【0060】
また、上記誘電率の高いエステル以外に併用可能な溶媒としては、例えば、1,2−ジメトキシエタン(1,2−DME)、1,3−ジオキソラン(1,3−DO)、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチル−テトラヒドロフラン(2−Me−THF)、ジエチルエーテル(DEE)などが挙げられる。そのほか、アミン系またはイミド系有機溶媒や、含イオウ系または含フッ素系有機溶媒なども用いることができる。
【0061】
電解液の電解質としては、例えば、LiClO4 、LiPF6 、LiBF4 、LiAsF6 、LiSbF6 、LiCF3 SO3 、LiC4 F9 SO3 、LiCF3 CO2 、Li2 C2 F4 (SO3 )2 、LiN(CF3 SO2 )2 、LiC(CF3 SO2 )3 、LiCnF2n+1SO3 (n≧2)などが単独でまたは2種以上混合して用いられる。特にLiPF6 やLiC4 F9 SO3 などが充放電特性が良好なことから好ましい。電解液中における電解質の濃度は、特に限定されるものではないが、0.3〜1.7mol/l、特に0.4〜1.5mol/l程度が好ましい。
【0062】
また、上記電解液以外に、ゲル状電解質や固体電解質も用いることができる。それらのゲル状電解質や固体電解質としては、無機系電解質のほか、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、エポキシ樹脂、ポリアクリロニトリル、ウレタン樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、またはそれらの誘導体などを主材にした有機系電解質を挙げることができる。
【0063】
セパレータとしては、強度が充分でしかも電解液を多く保持できるものが好ましく、そのような観点から、厚さが10〜50μmで、開孔率が30〜70%のポリエチレン製、ポリプロピレン製、エチレンとプロピレンとのコポリマー製の微孔性フィルムや不織布などが好ましい。
【0064】
【実施例】
以下に本発明の実施例に関して説明する。ただし、本発明はそれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0065】
実施例1
球形状をした化学合成二酸化マンガン(この化学合成二酸化マンガン中のS含有量はSO4 イオン換算で0.38重量%であり、Fe含有量は18ppmである)をあらかじめ45μm以下に分級を行った。また、リチウム源である顆粒状の水酸化リチウム・一水和物を遊星ボールミルにより微粉末になるまで粉砕した。つぎに、上記の化学合成二酸化マンガン20.02gと水酸化リチウム・一水和物4.64gとを混合し、さらに遊星ボールミル中で充分に粉砕混合を行った。この混合物をプレス機を用いて、ペレット状に圧縮成形し、このペレットをアルミナボート中に入れ、管状電気炉中で焼成した。上記化学合成二酸化マンガン中のMn量と水酸化リチウム・一水和物中のLi量とのモル比Li/Mnは0.48であった。
【0066】
焼成雰囲気は、アルゴンガス/酸素ガス=8/2(体積比)の混合ガスを原料混合物(すなわち、出発原料である化学合成二酸化マンガンと水酸化リチウム・一水和物との混合物)100gあたり1.0リットル/分の流量で供給して制御した。焼成は、まず200℃/hで470℃まで昇温し、470℃で24時間保持して予備加熱をし、その後、100℃/hで810℃まで昇温し、810℃の温度で36時間保持することによって行った。その後、自然放冷を行い、焼成物の温度が80℃以下になった後、管状電気炉から焼成物を取り出し、乳鉢上で充分に粉砕混合を行った。
【0067】
上記のように焼成物を充分に粉砕混合した後、再度ペレット状に圧縮成形し、このペレットを上記と同様に焼成を行った。すなわち、200℃/hの昇温速度で810℃まで昇温し、810℃の温度で36時間保持して焼成した。その後、自然放冷で室温まで降温し、降温後、ペレットを瑪瑙製の乳鉢で充分に粉砕し、粉砕後の粉末を分級し、45μm以下の球状ないし楕円体状の粉末を得た。このリチウムマンガン酸化物の粒子構造の倍率1510倍の電子顕微鏡写真を図1に示す。図1において、白っぽく写っている部分がリチウムマンガン酸化物であるが、図1に示すように、得られたリチウムマンガン酸化物は球状ないし楕円体状をしていた。
【0068】
また、得られたリチウムマンガン酸化物をエックス線回折により分析したところ、スピネル構造のLiMn2 O4 に固有の回折線が観察され、不純物に基因するピークが認められなかったことから、得られたリチウムマンガン酸化物はスピネル構造のリチウムマンガン酸化物であることが確認された。さらに、得られたリチウムマンガン酸化物のLi、Mn、Oの組成を原子吸光分析装置で測定した。試料の調製は次のように行った。製造されたリチウムマンガン酸化物0.25gにイオン交換水10mlと12N塩酸10mlを加え、リチウムマンガン酸化物が完全に溶解するまで加熱した。その後、室温まで放冷し、イオン交換水を加え、全量を100mlにして、分析用試料を調製した。各元素の分析は標準添加法で行った。分析結果より、製造されたリチウムマンガン酸化物の組成はLi1.04Mn1.96O3.95であることが判明した。また、リチウムマンガン酸化物中のS含有量およびFe含有量を上記Li、Mn、Oの組成分析と同様に原子吸光分析装置により測定したところ、S含有量はSO4 イオン換算で0.26重量%で、Fe含有量は38ppmであった。
【0069】
また、得られたスピネル型リチウムマンガン酸化物の平均粒子径は、生成物の電子顕微鏡写真(倍率:500倍)を撮影し、写真中の個々の粒子の粒子径を測定し、粒子50個の粒子径の平均値を算出することによって求めた。その結果、平均粒子径は23μmであった。また、得られたスピネル型リチウムマンガン酸化物の比表面積をユアサアイオニオクス製オートソーブー1を使用し、試料細孔の測定範囲を1〜100Åとして120℃で20時間脱気処理を行い、試料の測定環境真空度が10mTorr以下になったことを確認した後に、窒素ガスをプローブガスとして測定したところ、1.0m2 /gであった。
【0070】
上記方法で製造されたスピネル型リチウムマンガン酸化物を用い、モデルセルを作製した。まず、上記スピネル型リチウムマンガン酸化物1.6g、アセチレンブラック0.3gおよびポリテトラフルオロエチレン0.1gをそれぞれ計り取り、乳鉢上で充分に混合した。これらの混合物がガム状になるまで充分に乳鉢上ですりつぶし、このガム状混合物を500μmのメッシュの篩に押しつけ、粉末状態にした。この粉末を40mg取り、直径10mmの白金網とともにプレス機で圧縮成形し、ペレット状電極を作製した。
【0071】
上記のように作製したペレット状電極を作用極とし、対極および参照極にリチウム箔を用い、LiPF6 をエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの体積比1:3の混合溶媒に1.0mol/lの濃度に溶解させた非水溶液を電解液とし、モデルセルを作製して、正極活物質の評価を行った。
【0072】
さらに、サイクル特性評価用の電池を以下の示すように作製した。バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン20gにN−メチル−2−ピロリドンを250g加え、60℃に加熱してポリフッ化ビニリデンをN−メチル−2−ピロリドンに溶解させ、バインダー溶液を調製した。このバインダー溶液に正極活物質として上記のリチウムマンガン酸化物を450g加え、さらに電子伝導助剤としてカーボンブラック5gとグラファイト25gを加え、攪拌してペースト状の塗料を調製した。
【0073】
この塗料を厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に均一に塗布し、乾燥した後、ローラープレス機により圧縮成形し、ついで裁断して、平均厚さが190μmで483mm×54mmの帯状正極を作製した。
【0074】
また、上記と同様のバインダー溶液を調製し、そのバインダー溶液に負極活物質として黒鉛180gを加え、攪拌してペースト状の塗料を調製した。この塗料を厚さ18μmの銅箔の両面に均一に塗布し、乾燥した後、ローラープレス機により圧縮成形し、ついで裁断して、平均厚さが140μmで522mm×56mmの帯状負極を作製した。
【0075】
つぎに、上記帯状正極と帯状負極との間に厚さ25μmの微孔性ポリエチレンフィルムからなるセパレータを配置し、渦巻状に巻回して、渦巻状電極体にした後、外径18mmで高さ67mmの有底円筒状の電池ケース内に挿入し、正極リード体および負極リード体の溶接を行った。
【0076】
その後、電池ケース内に1.0mol/lLiPF6 /EC+EMC(1+3)からなる電解液〔すなわち、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との体積比1:3の混合溶媒にLiPF6 を1.0mol/l溶解させてなる非水電解液〕を4.0cc注入した。
【0077】
ついで、上記電池ケースの開口部を常法にしたがって封口し、図3に示す構造の筒形非水二次電池を作製した。
【0078】
図3に示す電池について概略的に説明すると、1は前記の正極で、2は前記の負極である。ただし、図3では、繁雑化を避けるため、正極1や負極2の作製にあたって使用された基体としての金属箔などは図示しておらず、これらの正極1と負極2はセパレータ3を介して渦巻状に巻回され、渦巻状電極体として、上記組成の電解液とともに、ステンレス鋼製の電池ケース4内に収容されている。
【0079】
上記電池ケース4は負極端子を兼ねていて、その底部には絶縁体5が配置され、渦巻状電極体上にも絶縁体6が配置されている。そして、電池ケース4の開口部には環状の絶縁パッキング7を介して封口体8が配置され、電池ケース4の開口端部の内方への締め付けにより電池内部を密閉構造にしている。ただし、上記封口体8には、電池内部に発生したガスをある一定圧力まで上昇した段階で電池外部に排出して、電池の高圧下での破裂を防止するための不可逆式のベント機構が組み込まれている。
【0080】
実施例2
焼成温度を810℃から790℃に変更し、焼成雰囲気のアルゴンガス/酸素ガスの体積比を8/2から9/1にした以外は、実施例1と同様にリチウムマンガン酸化物を製造し、モデルセルと電池を作製した。製造されたリチウムマンガン酸化物を実施例1と同様に電子顕微鏡で観察したところ、形状は球状ないし楕円体状であった。また、上記リチウムマンガン酸化物をエックス線回折分析により確認したところ、スピネル構造のリチウムマンガン酸化物であることが確認された。また、実施例1と同様にLi、Mn、Oの組成を原子吸光分析装置で測定したところ、製造されたリチウムマンガン酸化物の組成はLi1.03Mn1.97O3.99であった。さらに、このスピネル型リチウムマンガン酸化物のS含有量とFe含有量を実施例1と同様に原子吸光分析装置で測定したところ、S含有量はSO4イオン換算で0.24重量%でFe含有量は42ppmであった。また、実施例1と同様に平均粒子径および比表面積を測定したところ、平均粒子径は21μmで、比表面積は1.1m2/gであった。
【0081】
実施例3
焼成温度を810℃から820℃に変更し、ガス流量を1.0リットル/分から1.2リットル/分にした以外は、実施例1と同様にリチウムマンガン酸化物を製造し、モデルセルと電池を作製した。製造されたリチウムマンガン酸化物を実施例1と同様に電子顕微鏡で観察したところ、形状は球状ないし楕円体状であった。また、上記リチウムマンガン酸化物をエックス線回折分析により確認したところ、スピネル構造のリチウムマンガン酸化物であることが確認された。また、実施例1と同様にLi、Mn、Oの組成を原子吸光分析装置で測定したところ、製造されたリチウムマンガン酸化物の組成はLi1.01Mn1.99O3.95であった。さらに、このスピネル型リチウムマンガン酸化物中のS含有量とFe含有量を実施例1と同様に原子吸光分析装置で測定したところ、S含有量はSO4イオン換算で0.23重量%で、Fe含有量は34ppmであった。また、実施例1と同様に平均粒子径および比表面積を測定したところ、平均粒子径は19μmで、比表面積は1.5m2/gであった。
【0082】
実施例4
実施例1において原料の化学合成二酸化マンガン中のS含有量がSO4イオン換算で0.55重量%で、かつFe含有量が90ppmである化学合成二酸化マンガンを用い、生成物のリチウムマンガン酸化物の分級を63μm以下の粒子にした以外は、実施例1と同様にリチウムマンガン酸化物を製造し、モデルセルと電池を作製した。製造されたリチウムマンガン酸化物を実施例1と同様に電子顕微鏡で観察したところ、形状は球状ないし楕円体状であった。また、上記リチウムマンガン酸化物をエックス線回折分析により確認したところ、スピネル構造のリチウムマンガン酸化物であることが確認された。また、実施例1と同様にLi、Mn、Oの組成を原子吸光分析装置で測定したところ、製造されたリチウムマンガン酸化物の組成はLi1.02Mn1.98O3.94であった。さらに、このスピネル型リチウムマンガン酸化物中のS含有量とFe含有量を実施例1と同様に原子吸光分析装置で測定したところ、S含有量はSO4イオン換算で0.48重量%で、Fe含有量は190ppmであった。また、実施例1と同様に平均粒子径および比表面積を測定したところ、平均粒子径は33μmで、比表面積は0.5m2/gであった。
【0083】
実施例5
実施例1において原料の化学合成二酸化マンガン中のS含有量がSO4イオン換算で0.16重量%で、かつFe含有量が20ppmである化学合成二酸化マンガンを用い、生成物のリチウムマンガン酸化物の分級を32μm以下の粒子とし、混合ガスを原料混合物100gあたり1.5リットル/分の流量で供給した以外は、実施例1と同様にリチウムマンガン酸化物を製造し、モデルセルと電池を作製した。製造されたリチウムマンガン酸化物を実施例1と同様にその形状を電子顕微鏡で観察したところ、形状は球状ないし楕円体状であった。また、上記リチウムマンガン酸化物をエックス線回析分析により確認したところ、スピネル構造のリチウムマンガン酸化物であることが確認された。また、実施例1と同様にLi、Mn、Oの組成を原子吸光分析装置で測定したところ、製造されたリチウムマンガン酸化物の組成はLi1.02Mn1.98O3.91であった。さらに、このスピネル型リチウムマンガン酸化物中のS含有量とFe含有量を実施例1と同様に原子吸光分析装置で測定したところ、S含有量はSO4イオン換算で0.09重量%で、Fe含有量は37ppmであった。また、実施例1と同様に平均粒子径および比表面積を測定したところ、平均粒子径は9μmで、比表面積は2.1m2/gであった。
【0084】
実施例6
実施例1で用いたものと同様の化学合成二酸化マンガンをあらかじめ45μm以下に分級を行った。また、リチウム源である顆粒状の水酸化リチウム・一水和物および三酸化二ホウ素をそれぞれ遊星ボールミルにより微粉末になるまで粉砕した。
【0085】
つぎに、上記の化学合成二酸化マンガン19.50gと三酸化二ホウ素0.20gと水酸化リチウム・一水和物4.64gとを混合し、さらに遊星ボールミル中で充分に粉砕混合を行った。この混合物をプレス機を用いて、ペレット状に圧縮成形し、このペレットをアルミナボート中に入れ、管状電気炉中で焼成した。上記化学合成二酸化マンガンと三酸化二ホウ素中のMn+B量と水酸化リチウム・一水和物中のLi量とのモル比Li/(Mn+B)は0.48であった。
【0086】
その後の焼成、粉砕操作は実施例1と同様にして他元素固溶スピネル型リチウムマンガン酸化物を製造した。同様に実施例1と同じくモデルセルと電池を作製した。
【0087】
製造されたリチウムマンガン酸化物を実施例1と同様に電子顕微鏡で観察したところ、形状は球状ないし楕円体状であった。また、上記他元素固溶スピネル型リチウムマンガン酸化物をエックス線回折分析により確認したところ、スピネル構造のリチウムマンガン酸化物であることが確認された。また、実施例1と同様にLi、Mn、B、Oの組成を原子吸光分析装置で測定したところ、製造されたリチウムマンガン酸化物の組成はLi1.03Mn1.92B0.05O3.93であった。さらに、このスピネル型リチウムマンガン酸化物のS含有量とFe含有量を実施例1と同様に原子吸光分析装置で測定したところ、S含有量はSO4イオン換算で0.23重量%で、Fe含有量は37ppmであった。また、実施例1と同様に平均粒子径および比表面積を測定したところ、平均粒子径は23μmで、比表面積は1.0m2/gであった。
【0088】
比較例1
市販のLiMn2 O4 (平均粒子径31μm、比表面積0.8m2 /g)を正極活物質として用いた以外は、実施例1と同様にモデルセルと電池を作製した。上記市販のLiMn2 O4 について、実施例1と同様に電子顕微鏡で観察したところ、形状は図2(倍率1500倍の電子顕微鏡写真)に白っぽく写っている部分で示しているように角張った形状をしていた。また、このLiMn2 O4 中のS含有量とFe含有量を実施例1と同様に原子吸光分析装置で測定したところ、S含有量はSO4 イオン換算で0.76重量%で、Fe含有量は600ppmであった。
【0089】
比較例2
実施例1において原料の化学合成二酸化マンガン中のS含有量がSO4 イオン換算で1.28重量%で、かつFe含有量が462ppmである化学合成二酸化マンガンを分級を行わずに使用し、化学合成二酸化マンガン中のMn量と水酸化リチウム・一水和物中のLi量との比がモル比で0.53となるように原料の混合を行い、さらに生成物の分級を行わなかった以外は、実施例1と同様にリチウムマンガン酸化物を製造し、モデルセルと電池を作製した。製造されたリチウムマンガン酸化物をエックス線回折分析により確認したところ、スピネル構造のリチウムマンガン酸化物であることが確認された。また、実施例1と同様にLi、Mn、Oの組成を原子吸光分析装置で測定したところ、製造されたリチウムマンガン酸化物の組成はLi1.10Mn1.90O3.94であった。さらに、このスピネル型リチウムマンガン酸化物中のS含有量とFe含有量を実施例1と同様に原子吸光分析装置で測定したところ、S含有量はSO4 イオン換算で1.04重量%で、Fe含有量は942ppmであった。また、実施例1と同様に平均粒子径および比表面積を測定したところ、平均粒子径は54μmで、比表面積は0.1m2 /gであった。
【0090】
比較例3
実施例1において原料の化学合成二酸化マンガン中のS含有量がSO4 イオン換算で0.28重量%で、かつFe含有量が322ppmである化学合成二酸化マンガンを分級を行わずに使用し、化学合成二酸化マンガン中のMn量と水酸化リチウム・一水和物中のLi量との比がモル比で0.53となるように原料の混合を行い、かつ焼成温度を850℃に変更し、生成物の分級を行わなかった以外は、実施例1と同様にリチウムマンガン酸化物を製造し、モデルセルと電池を作製した。製造されたリチウムマンガン酸化物をエックス線回折分析により確認したところ、スピネル構造のリチウムマンガン酸化物であることが確認された。また、実施例1と同様にLi、Mn、Oの組成を原子吸光分析装置で測定したところ、製造されたリチウムマンガン酸化物の組成はLi1.10Mn1.90O3.98であった。さらに、このスピネル型リチウムマンガン酸化物中のS含有量とFe含有量を実施例1と同様に原子吸光分析装置で測定したところ、S含有量はSO4 イオン換算で0.22重量%で、Fe含有量は640ppmであった。また、実施例1と同様に平均粒子径および比表面積を測定したところ、平均粒子径65μm、比表面積0.1m2 /gであった。
【0091】
比較例4
Mnの原料としてあらかじめ45μmに分級した電解合成二酸化マンガン(この電解合成二酸化マンガン中のS含有量はSO4 イオン換算で0.35重量%であり、Fe含有量は201ppmである)を用い、電解合成二酸化マンガンのMn量と、水酸化リチウム・一水和物中のLi量との比がモル比で0.525となるように原料の混合を行い、かつ焼成温度を750℃とし、生成物の分級を行わなかった以外は、実施例1と同様にリチウムマンガン酸化物を製造し、モデルセルと電池を作製した。製造されたリチウムマンガン酸化物をエックス線回折分析により確認したところ、スピネル構造のリチウムマンガン酸化物であることが確認された。また、実施例1と同様に電子顕微鏡で観察したところ、形状は比較例1と同様の角張った形状をしていた。さらに、実施例1と同様にLi、Mn、Oの組成を原子吸光分析装置で測定したところ、製造されたリチウムマンガン酸化物の組成はLi1.10Mn1.90O3.91であった。また、このスピネル型リチウムマンガン酸化物中のS含有量とFe含有量を実施例1と同様に原子吸光分析装置で測定したところ、S含有量はSO4 イオン換算で0.26重量%で、Fe含有量は398ppmであった。また、実施例1と同様に平均粒子径および比表面積を測定したところ、平均粒子径は37μmで、比表面積は0.5m2 /gであった。
【0092】
比較例5
実施例1において原料の化学合成二酸化マンガン中のS含有量がSO4 イオン換算で2.52重量%で、かつFe含有量が630ppmである化学合成二酸化マンガンを分級を行わずに使用し、アルゴンガスと酸素ガスとの混合ガスの流量を原料混合物100gあたり0.6リットル/分に変更した以外は、実施例1と同様にリチウムマンガン酸化物を製造した。製造されたリチウムマンガン酸化物をエックス線回折分析により確認したところ、得られたリチウムマンガン酸化物はLiMn2 O4 とLi2 MnO3 との混合物であり、その他に反応中間生成物としてMn2 O3 が生成しており、スピネル構造のみのリチウムマンガン酸化物は得られていなかった。
【0093】
上記のようにして作製した実施例1〜6および比較例1〜4のモデルセルについて放電容量と負荷特性を調べ、電池についてはサイクル特性と貯蔵特性を調べた。その結果を表1に示す。放電容量は、20℃の環境下でそれぞれのモデルセルを4.3Vvs.Li/Li+ まで充電した後、20℃の環境下で0.5mA/cm2 の電流密度で3.0Vvs.Li/Li+ まで放電させた時の放電容量を測定し、それを正極活物質の重量当たりの放電容量に換算して示した。
【0094】
また、サイクル特性は、20℃の環境下で1Aの定電流で4.2Vまで充電した後、定電圧方式で充電を行い、充電時間の合計が2.5時間となるように充電した後、20℃の環境下で1Aの定電流で3.0Vまで放電した時のサイクル試験において、サイクル1回目の放電容量とサイクル500回目の放電容量との比〔(500サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)×100〕を求めて、容量保持率とし、そのサイクル500回目の容量保持率で評価するものとした。
【0095】
さらに、貯蔵特性は、作製した電池を3.0V〜4.2Vの範囲で5サイクル充放電を繰り返し、5サイクル目の放電容量を測定し、それを貯蔵前の容量とし、続いて、電池を4.2Vまで充電し、60℃で20日間貯蔵した後、3.0Vまで放電した時の放電容量を測定し、それを貯蔵後容量とし、貯蔵前容量と貯蔵後容量との比〔(貯蔵後容量/貯蔵前容量)×100〕を求めて、貯蔵後の容量保持率とした。
【0096】
また、負荷特性は、0.5mA/cm2 の電流密度で3.0Vvs.Li/Li+ まで放電させた時の放電容量に対する4.0mA/cm2 の電流密度で3.0Vvs.Li/Li+ まで放電させた時の放電容量との割合〔(4.0mA/cm2 の電流密度での放電容量)/(0.5mA/cm2 の電流密度での放電容量)×100〕を求めて示した。それらの結果を表1にまとめて示す。
【0097】
【表1】
【0098】
表1に示すように、実施例1〜6は、比較例1〜4に比べて、放電容量が大きく、高容量であり、かつ500サイクル目の容量保持率が大きく、サイクル特性が優れ、貯蔵後の容量保持率が大きく、貯蔵特性が優れ、しかも負荷特性が優れていた。
【0099】
上記のように、実施例1〜6の放電容量が大きかったのは、実施例1〜6で用いたスピネル型リチウムマンガン酸化物が球状ないし楕円体状の粒子であって、正極の作製にあたっての充填性が良好であったことなどによるものと考えられる。また、実施例1〜6のサイクル特性が優れていたのは、正極活物質として用いたスピネル型リチウムマンガン酸化物の組成(すなわち、酸素含有量が従来のLiMn2O4などに比べて小さいこと)などに基づくものであり、実施例1〜6の貯蔵特性が優れていたのは、正極活物質として用いたスピネル型リチウムマンガン酸化物のS含有量をSO4イオン換算で0.6重量%以下にしたことによるものと考えられる。そして、実施例1〜6の負荷特性が優れていたのは、正極活物質として用いたスピネル型リチウムマンガン酸化物のFe含有量を200ppm以下にしたことによるものと考えられる。なお、上記の結果から、実施例6で用いたような他元素固溶スピネル型リチウムマンガン酸化物においても実施例1〜5で用いたスピネル型リチウムマンガン酸化物と同様の効果が得られていることがわかる。
【0100】
これに対して、比較例1〜4は、実施例1〜6に比べて、放電容量が小さく、サイクル特性も悪かった。また、S含有量がSO4 イオン換算で0.6重量%より大きいリチウムマンガン酸化物を正極活物質とした比較例1〜2の電池は、貯蔵特性の低下が顕著であった。さらに、Fe含有量が200ppmより大きい比較例1〜4の電池では、負荷特性が劣っていた。また、比較例5ではS含有量およびFe含有量が多いなどの反応条件が適切でないため、スピネル構造のみのリチウムマンガン酸化物を得ることができなかった。
【0101】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明では、一般式LixMnyO4−z(x+y=3.00とした時、1.00≦x≦1.05、0<z≦0.15、ただし、xは電池組立時の値であり、充放電に際し0<x≦1.05の範囲で変化する値である)で表される球状ないし楕円体状のスピネル型リチウムマンガン酸化物であって、かつ、そのS含有量がSO4イオン換算で0.6重量%以下のスピネル型リチウムマンガン酸化物を正極活物質として用いることにより、資源的に豊富で安価なマンガンを構成元素として用い、高容量で、かつサイクル特性および貯蔵特性が優れた非水二次電池を提供することができた。
【0102】
また、一般式Lix(Mn1−bAb)yO4−z(x+y=3.00とした時、1.00≦x≦1.05、0<z≦0.15、AはAl、Cu、Fe、Ni、Co、Cr、B、Siのうち少なくとも一つを表し、0<b≦0.1、ただし、xは電池組立時の値であり、充放電に際し0<x≦1.05の範囲で変化する値である)で表される球状ないし楕円体状の他元素固溶スピネル型リチウムマンガン酸化物であって、かつ、そのS含有量がSO4イオン換算で0.6重量%以下の他元素固溶スピネル型リチウムマンガン酸化物を正極活物質として用いることによっても、資源的に豊富で安価なマンガンを構成元素として用い、高容量で、かつサイクル特性および貯蔵特性が優れた非水二次電池を提供することができた。
【0103】
また、本発明では、上記スピネル型リチウムマンガン酸化物中のFe含有量を200ppm以下にすることによって、負荷特性の優れた非水二次電池を提供することができた。
【0104】
さらに、本発明のスピネル型リチウムマンガン酸化物は、球状ないし楕円体状の粒子であるから、正極の作製にあたって充填性が良く、また、資源的に豊富で安価なマンガンを構成元素としているので、大量生産にも適しており、その産業上の意義が大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のスピネル型リチウムマンガン酸化物の粒子構造を示す倍率1510倍の電子顕微鏡写真である。
【図2】市販のLiMn2 O4 の粒子構造を示す倍率1500倍の電子顕微鏡写真である。
【図3】非水二次電池の一例を模式的に示す部分断面斜視図である。
【符号の説明】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4 電池ケース
5 絶縁体
6 絶縁体
7 絶縁パッキング
8 封口体
Claims (4)
- 少なくとも正極、負極およびセパレータを有する非水二次電池において、上記正極における正極活物質が、一般式LixMnyO4−z(x+y=3.00とした時、1.00≦x≦1.05、0<z≦0.15、ただし、xは電池組立時の値であり、充放電に際し0<x≦1.05の範囲で変化する値である)で表される球状ないし楕円体状のスピネル型リチウムマンガン酸化物であって、かつ上記スピネル型マンガン酸化物中のS含有量がSO4イオン換算で0.6重量%以下であることを特徴とする非水二次電池。
- スピネル型リチウムマンガン酸化物中のFe含有量が200ppm以下であることを特徴とする請求項1記載の非水二次電池。
- スピネル型リチウムマンガン酸化物の比表面積が0.5〜3m2/gであり、平均粒子径が1〜45μmであることを特徴とする請求項1記載の非水二次電池。
- 少なくとも正極、負極およびセパレータを有する非水二次電池において、上記正極における正極活物質が、一般式Lix(Mn1−bAb)yO4−z(x+y=3.00とした時、1.00≦x≦1.05、0<z≦0.15、AはAl、Cu、Fe、Ni、Co、Cr、B、Siのうち少なくとも一つを表し、0<b≦0.1、ただし、xは電池組立時の値であり、充放電に際し0<x≦1.05の範囲で変化する値である)で表される球状ないし楕円体状の他元素固溶スピネル型リチウムマンガン酸化物であって、かつ上記他元素固溶スピネル型リチウムマンガン酸化物中のS含有量がSO4イオン換算で0.6重量%以下であることを特徴とする非水二次電池。
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