JP4004708B2 - 能動型消音装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、音波伝搬路を伝搬する音波に対して、これと実質的に等大で逆位相の制御音を干渉させることによって、上記音波を能動的に消音する能動型消音装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
上記のような能動型消音装置として、例えば船舶や自動車等のエンジンの排気音を消音するものが知られている。その従来例を、図4に示す。同図に示すように、この装置は、排気ダクト1内をその入口側(同図の左側)から出口側(同図の右側)に向かって伝搬する排気音を収音するためのリファレンスマイクロホン2を備えている。このリファレンスマイクロホン2の出力信号は、図示しない増幅器により増幅され、図示しないA/D変換器によりディジタル化された後、騒音信号x(k)(kは、サンプリング時刻を表す所謂タイム・インデックスである。)として、FIR適応型ディジタルフィルタ(以下、単に、適応型フィルタと言う。)3に入力される。適応型フィルタ3は、上記騒音信号x(k)に対して、後述するLMS演算部4により設定されるフィルタ係数Wk(i)(iは、適応型フィルタ3のタップの番号を表わす所謂タップ・インデックスである。)を用いて所定のディジタルフィルタリング処理、例えば次の数1で表されるような畳み込み和演算を施し、その演算結果y(k)を出力する。
【0003】
【数1】
【0004】
ここで、Nは、適応型フィルタ3のタップ数で、Wk(i)は、時刻kにおけるiタップ目のフィルタ係数を表わし、x(k-i)は、時刻k−iにおける騒音信号を表す。
【0005】
排気ダクト1の上記リファレンスマイクロホン2が設けられている位置よりも排気ダクト1の出口側、所謂排気音の伝搬方向における下流側には、排気ダクト1内に音を放出する状態に、二次音源スピーカ(以下、単に、スピーカと言う。)5が設けられている。そして、このスピーカ5に、上記適応型フィルタ3の出力信号y(k)が、加算器6及び図示しないD/A変換器、増幅器を介して入力される。スピーカ5は、この入力信号y(k)に応じた制御音を排気ダクト1内に放出して、排気ダクト1内を伝搬する排気音に干渉させ、これにより排気音を打ち消す。
【0006】
排気ダクト1の上記スピーカ5が設けられている位置よりも更に下流側、例えば排気ダクト1の出口付近には、エラーマイクロホン7が設けられている。このエラーマイクロホン7は、上記制御音により排気音を打ち消した後の音、つまりは排気音のうち制御音によって完全に打ち消されずに残った所謂エラー成分を検出する。そして、このエラーマイクロホン7の出力信号は、図示しない増幅器により増幅され、図示しないA/D変換器によりディジタル化された後、エラー信号e(k)として、上述したLMS演算部4に供給される。このLMS演算部4には、上記エラー信号e(k)の他に、上記騒音信号x(k)を後述するFIRディジタルフィルタ(以下、単に、FIRフィルタと言う。)8によりフィルタリング処理した後の信号(以下、この信号を、フィルタード・リファレンスと言う。)r(k)も供給される。
【0007】
LMS演算部4は、これに供給される上記エラー信号e(k)とフィルタード・リファレンスr(k)とに基づいて、適応型フィルタ3の伝達関数Wと後述する二次音路(error path)の伝達関数(以下、単に、二次音路と言う。)Cとを合成して得られる合成伝達関数[W×C]が、排気ダクト1内のリファレンスマイクロホン2からエラーマイクロホン7までの間に存在する一次音路(primary path)の伝達関数(以下、単に、一次音路と言う。)Pと相補になるように、例えば次の数2で表されるLMSアルゴリズムに従って、適応型フィルタ3のフィルタ係数Wk(i)を更新し、即ちWk+1(i)を求める。
【0008】
【数2】
【0009】
ここで、μwは、適応型フィルタ3のステップ・サイズ・パラメータである。
【0010】
このように、適応型フィルタ3の伝達関数Wと二次音路Cとの合成伝達関数[W×C]を、一次音路Pと相補にすることによって初めて、排気ダクト1内の排気音をスピーカ5の放出する制御音により打ち消すことができる。また、例えばエンジンの回転数や出力等が変化する等により排気ダクト1内の温度が変化し、これに伴って上記一次音路Pが経時的に変化しても、この一次音路Pの変化に応じて適応型フィルタ3の伝達関数Wも上記フィルタ係数Wk(i)の更新により適宜変化するので、常に安定した消音効果を得ることができる。
【0011】
ところで、図4の構成においては、適応型フィルタ3の出力部分から、加算器6、図示しないD/A変換器、増幅器、スピーカ5及び排気ダクト1の一部(スピーカ5の設置位置から騒音の下流側の部分)を経て、エラーマイクロホン7までの間に、上述した二次音路Cが存在する。従って、上記のようにLMS演算部4により適応型フィルタ3の伝達関数Wを制御することによって、この伝達関数Wと二次音路Cとの合成伝達関数〔W×C〕を一次音路Pと相補にするには、当該適応型フィルタ3の伝達関数Wを制御する際に、二次音路Cを補償する必要がある。そこで、この図4の構成では、リファレンスマイクロホン2とLMS演算部4との間に、二次音路Cと等価な伝達関数Seを有する上述したFIRフィルタ8を設けている。そして、このFIRフィルタ8により騒音信号x(k)を処理して得た上記フィルタード・リファレンスr(k)を、上記LMS演算部4に供給することによって、上記二次音路Cを補償している。このような制御系は、一般に、Filtered-x LMSアルゴリズムの制御系と呼ばれている。なお、フィルタード・リファレンスr(k)は、次の数3で表される。
【0012】
【数3】
【0013】
ここで、Mは、FIRフィルタ8のタップ数で、例えば適応型フィルタ3のタップ数Nと同じ値(即ちM=N)に設定される。そして、Sek(i)は、FIRフィルタ8のフィルタ係数を表わし、具体的には時刻kにおけるiタップ目のフィルタ係数を表す。
【0014】
更に、この消音装置は、上記二次音路Cの変化に応じてFIRフィルタ8のフィルタ係数Sek(i)を更新することにより、当該FIRフィルタ8の伝達関数Seをも適宜変化させるよう構成されている。即ち、上記のようにエンジンの回転数や出力等が変化する等により排気ダクト1内の温度が変化すると、一次音路Pが変化するが、この一次音路Pのみならず、二次音路Cも当然に変化する。また、この温度変化に伴ってスピーカ5の出力特性等も変化することがあり、これも二次音路Cが変化する一つの要因となる。従って、常に安定した消音効果を得るには、この二次音路Cの変化に応じて、上記のようにFIRフィルタ8の伝達関数Seをも適宜変化させる、所謂二次音路Cを同定する、必要がある。そこで、この消音装置では、例えば一般に知られているM系列信号(MLS)の疑似信号(疑似ランダムノイズ)m(k)を発生する疑似信号発生器9を設け、この疑似信号m(k)を、図4に点線で示す経路で処理することによって、上記二次音路Cを同定している。
【0015】
具体的には、上記FIRフィルタ8を、上述したLMS演算部4とは別のLMS演算部10により適応制御される適応型フィルタ構成とする。そして、このLMS演算部10とFIRフィルタ8とスピーカ5とに、それぞれ後述するレベル調整部11を介して上記疑似信号m(k)を入力する(ただし、スピーカ5については、加算器6を介して上記疑似信号m(k)を入力する)。そして、このときのエラーマイクロホン7の出力信号e(k)とFIRフィルタ8の出力信号r(k)とを、比較器12により比較して両者の誤差ε(k)を求め、この誤差信号ε(k)を上記LMS演算部10に供給する。LMS演算部10は、これに供給される上記疑似信号m(k)と誤差信号ε(k)とに基づいて、誤差信号ε(k)が極力小さくなるように、即ち疑似信号m(k)を二次音路Cに通過させた後の信号の特性と、疑似信号m(k)をFIRフィルタ8で処理した後の信号の特性とが、互いに近似するように、例えば次の数4で表されるLMSアルゴリズムに従って、FIRフィルタ8のフィルタ係数Sek(i)を更新する。
【0016】
【数4】
【0017】
ここで、μsは、FIRフィルタ8のステップ・サイズ・パラメータである。
【0018】
この数4に基づいて、FIRフィルタ8のフィルタ係数Sek(i)を更新することにより、FIRフィルタ8の伝達関数Sekと二次音路Cとが略等価となり、FIRフィルタ8による二次音路Cの同定を実現できる。
【0019】
ただし、図4の構成においては、FIRフィルタ8は、それ自体がLMS演算部10等と共に二次音路Cを同定(推定)するための言わば同定制御手段を構成する一要素であると同時に、排気音を適応消音するための上記Filtered-x LMSアルゴリズム構成の制御系を実現する一要素(二次音路Cを補償する手段)でもある。具体的には、FIRフィルタ8は、上記二次音路Cの同定時(即ちLMS演算部10によるFIRフィルタ8自体の伝達関数Seの適応制御時)には、疑似信号m(k)を処理するが、排気音の適応消音時(即ちLMS演算部4による適応型フィルタ3の伝達関数Wの適応制御時)には、騒音信号x(k)を処理する。従って、この図4の構成では、上記二次音路Cの同定動作と、排気音の適応消音動作とを、同時に実行することはできない。そこで、このような構成では、排気音の適応消音動作と二次音路Cの同定動作とを、例えば定期的に交互に実施することにより、二次音路Cの経時的な変動に適宜対応している。
【0020】
即ち、今、例えば、図示しないエンジンが停止しており、かつ、消音装置自体の図示しない電源スイッチがOFFされている状態にあるとする。そして、この状態で、上記エンジンを起動すると共に、上記電源スイッチをONするとする。この電源スイッチをONした直後の所謂初期状態において、まず、適応型フィルタ3のフィルタ係数Wk(i)及びFIRフィルタ8のフィルタ係数Sek(i)を、それぞれクリアし、所謂零(0)とする。次に、適応型フィルタ3のフィルタ係数Wk(i)を固定して、この適応型フィルタ3を伝達関数Wが一定の単なるディジタルフィルタとして機能させる。そして、疑似信号発生器9から疑似信号m(k)を出力させると共に、LMS演算部10によりFIRフィルタ8の伝達関数Se(フィルタ係数Sek(t))を適応制御することによる二次音路Cの同定動作を、例えば所定期間(例えば上記数4に基づく計算を所定回数)d1、実行する。
【0021】
上記所定期間d1経過後、二次音路Cの同定動作、即ちLMS演算部10によるFIRフィルタ8の伝達関数Seの適応制御を、停止する。そして、このFIRフィルタ8の伝達関数Seを当該適応制御の停止時点での値に固定して、このFIRフィルタ8を伝達関数Seが当該固定値一定の単なるディジタルフィルタとして機能させる。これと同時に、上記疑似信号発生器9による疑似信号m(k)の出力を停止して、今度は、LMS演算部4により適応型フィルタ3の伝達関数W(フィルタ係数Wk(t))を適応制御することによる排気音の適応消音動作を、所定期間(例えば上記数2に基づく計算を所定回数)d2、実行する。なお、この排気音の適応消音動作に係る時間d2は、通常、上記二次音路Cの同定動作に係る時間d1よりも長め(d2>d1)に設定される。
【0022】
そして、上記所定期間d2にわたる適応消音動作終了後、再度、所定期間d1にわたって二次音路Cの同定動作を実行し、これ以降、上記と同様に、この二次音路Cの同定動作と、上記排気音の適応消音動作とを、交互に実行する。このように、適応消音動作を実行しながら定期的に二次音路Cを同定するという所謂オンライン同定を実現することによって、上記のように排気ダクト1内の温度変化等により二次音路Cが経時的に変化しても、常に所期の消音効果が得られるよう対応している。
【0023】
なお、上記二次音路Cの同定時においては、スピーカ5から、上記排気音を打ち消すための制御音と共に、上記疑似信号m(k)に応じた所謂同定音が放出される。従って、この状態においては、エラーマイクロホン7は、上記同定音と、上述したエラー成分(制御音による消音後の排気音)とを、同時に収音する。ここで、例えば、同定音のレベルが、上記エラー成分のレベルよりも、かなり小さいとする。この場合、同定音がエラー成分に埋もれてしまい、同定音がエラーマイクロホン7により正確に検出されず、ひいては二次音路Cを正確に同定できなくなるという不具合を生じる。一方、同定音のレベルが上記エラー成分よりも大きい場合には、この同定音が聴感上雑音として作用して、却って、消音装置全体としての消音効果が悪化する。
【0024】
そこで、従来は、上記不具合を防止すべく、エラーマイクロホン7から出力されるエラー信号e(k)の信号レベル、好ましくはスピーカ5に疑似信号m(k)が入力されていないとき(即ちスピーカ5から同定音が放出されていないとき)のエラー信号e(k)の信号レベル、を検出するレベル検出部13を設けている。そして、このレベル検出部13による上記エラー信号e(k)の検出レベルVe係る情報を、上述したレベル調整部11に供給する。レベル調整部11は、このレベル検出部13から供給される情報Veに基づいて、スピーカ5から放出される同定音のレベルが、例えば上記エラーマイクロホン7によって収音して得た音波のレベル、即ち消音後の排気音のレベルと、略同等になるように、上記疑似信号m(k)の信号レベル(換言すればレベル調整部11自体の伝達関数(増幅率)L)を調整する。これにより、二次音路Cを正確に同定しつつ、同定音が雑音として作用することによる消音効果の悪化を防止できる。
【0025】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記従来技術によれば、適応消音動作が進み、消音効果が向上するに連れて、同定音のレベルが小さくなる。すると、同定音のレベルが、消音装置自体の有する背景雑音(暗雑音またはバック・グラウンド・ノイズとも言う。)のレベルを基準として、相対的に小さくなり、その結果、同定音の所謂S/N比が低下する。これにより、二次音路Cを同定する際の同定精度が低下して、却って、消音効果が悪化するという問題がある。
【0026】
そこで、本発明は、上記のような二次音路Cの同定精度の低下を防止して、常に安定した消音効果を得ることのできる能動型消音装置を提供することを目的とする。
【0027】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明は、第1の伝達関数を有する音波伝搬路に入力される音波を収音する例えばマイクロホン構成の第1の収音手段と、
上記音波伝搬路から出力される音波を収音する例えばマイクロホン構成の第2の収音手段と、
上記第1の収音手段の出力信号を処理して、その処理結果に応じた制御音をスピーカから上記音波伝搬路中に放出させる適応型フィルタ手段と、
上記第1及び第2の収音手段の各出力信号が入力され、これら各信号に応じて、上記適応型フィルタ手段の伝達関数と、この適応型フィルタ手段の出力側から上記音波伝搬路を経て上記第2の収音手段までの間に存在する第2の伝達関数と、の合成による合成伝達関数が、上記第1の伝達関数と相補する状態に、上記適応型フィルタ手段の伝達関数を適応制御する適応型フィルタ制御手段と、
疑似信号を生成して、この疑似信号を断続的または連続的に上記第2の伝達関数に入力する疑似信号生成手段と、
上記第1の収音手段と上記適応型フィルタ制御手段との間に介在する同定フィルタ手段を含み、上記疑似信号と、この疑似信号が上記第2の伝達関数に入力されている状態にあるときの上記第2の収音手段の出力信号と、が入力され、これら各信号に応じて、上記同定フィルタ手段の伝達関数と上記第2の伝達関数とが近似する状態に、上記同定フィルタ手段の伝達関数を適応制御する同定フィルタ制御手段と、
上記第2の収音手段の出力信号が入力され、その信号レベルに基づいて、該第2の収音手段により収音して得た音波のレベルと、上記疑似信号が上記第2の伝達関数に入力されることにより上記スピーカから上記音波伝搬路中に放出される同定音のレベルと、が略同等となる状態に、上記疑似信号の信号レベルを調整するレベル調整手段と、
上記第2の収音手段の出力信号が入力され、その信号レベルと所定の基準レベルとを比較して、該第2の収音手段の出力信号レベルが該基準レベルよりも大きいとき、上記同定フィルタ制御手段による上記同定フィルタ手段の伝達関数の適応制御を実行可能とし、上記第2の収音手段の出力信号レベルが上記基準レベル以下のとき、上記同定フィルタ制御手段による上記同定フィルタ手段の伝達関数の適応制御を実行不可能とする状態に、上記同定フィルタ制御手段の動作を制御する同定動作制御手段と、
を具備するものである。
【0028】
本発明によれば、第1の収音手段が、音波伝搬路に入力される言わば消音対象である騒音等の音波を収音する。そして、適応型フィルタ手段が、この第1の収音手段の出力信号を処理して、この処理結果に応じた制御音、例えば上記消音対象である音波と実質的に等大で逆位相の音を、音波伝搬路中に設けられたスピーカから放出させ、この制御音を上記消音対象である音波に干渉させることによって、当該音波を打ち消す。この打ち消された後の音波、換言すれば打ち消されずに残った言わばエラー成分は、第2の収音手段によって収音される。
【0029】
第2の収音手段の出力信号は、適応型フィルタ制御手段に入力される。適応型フィルタ制御手段は、この第2の収音手段の出力信号と、第1の収音手段の出力信号、厳密にはこの第1の収音手段の出力信号を同定フィルタ手段により処理した後の信号と、に基づいて、上記エラー成分が極力小さくなるように、適応型フィルタ手段の伝達関数を制御する。具体的には、適応型フィルタ制御手段は、適応型フィルタ手段の伝達関数と、この適応型フィルタ手段の出力側から音波伝搬路の一部を経て第2の収音手段までの間に存在する第2の伝達関数、所謂上述した二次音路Cと、の合成による合成伝達関数が、音波伝搬路の第1の伝達関数と相補する状態に、例えばLMSアルゴリズム等の演算式に基づいて、上記適応型フィルタ手段の伝達関数を適応制御する。これによって初めて、スピーカから放出する制御音により、消音対象である音波を、打ち消すことができる。
【0030】
なお、上記のように適応型フィルタ制御手段によって適応型フィルタ手段の伝達関数を制御することにより、この伝達関数と上記二次音路Cとの合成伝達関数を第1の伝達関数と相補にするには、当該適応型フィルタ手段の伝達関数を制御する際に、何らかの手段により上記二次音路Cを補償する必要がある。そこで、本発明では、第1の収音手段と適応型フィルタ制御手段との間に、二次音路Cと等価な伝達関数を有する上記同定フィルタ手段を設け、これにより上述したFiltered-x LMSアルゴリズム構成の制御系を実現している。そして、第1の収音手段の出力信号を適応型フィルタ制御手段に入力する際、事前に第1の収音手段の出力信号を同定フィルタ手段で処理し、この処理後の信号を適応型フィルタ手段に入力することによって、上記二次音路Cを補償する。
【0031】
ところで、上記二次音路Cは、例えば音波伝搬路中の温度が変化したり、この温度変化に伴ってスピーカの出力特性が変化したりする等の様々な環境変化によって、変動することがある。そこで、本発明では、二次音路Cが変動したとき、これに応じて、二次音路Cと同定フィルタ手段の伝達関数とが常に略等価となるように、当該同定フィルタ手段の伝達関数を適応制御し、即ち当該同定フィルタにより二次音路Cを同定するための、同定フィルタ制御手段を設けている。
【0032】
具体的には、例えば、疑似信号生成手段の生成する疑似信号を、二次音路C、例えば適応型フィルタ手段の出力部分と、同定フィルタ手段とに、それぞれ入力する。なお、ここで言う疑似信号としては、例えば上述したM系列信号やホワイトノイズ等を用いることができる。そして、このときの第2の収音手段の出力信号と、疑似信号を同定フィルタ手段により処理して得た信号と、の各特性の差異が極力小さくなるように、上記同定フィルタ手段の伝達関数を適応制御する。これにより、二次音路Cと同定フィルタ手段の伝達関数とが近似して、同定フィルタ手段による二次音路Cの正確な同定を実現できる。
【0033】
ただし、上記構成によれば、同定フィルタ手段は、第1の収音手段と適応型フィルタ手段との間に介在して消音対象である音波を適応消音する際に上記二次音路Cを補償するというそれ本来の機能の他に、上記二次音路Cを同定する(即ち二次音路Cを正確に補償するための伝達関数を推定する)という機能をも奏することになる。そして、同定フィルタ手段は、上記二次音路Cを補償するというそれ本来の機能を奏する場合には、第1の収音手段の出力信号を処理し、上記二次音路Cを同定するという機能を奏する場合には、疑似信号を処理する。従って、これらの各機能を、同時に実現することはできず、即ち、適応型フィルタ制御手段により適応型フィルタ手段の伝達関数を適応制御するという適応消音動作と、同定フィルタ制御手段により同定フィルタ手段の伝達関数を適応制御するという二次音路Cの同定動作とを、同時に実行することはできない。
【0034】
そこで、このような場合には、上記適応消音動作と二次音路Cの同定動作とを、例えば定期的に交互に実行すればよい。このようにすれば、二次音路Cが変動しても、この変動に応じて、常に安定した消音効果が得られる。なお、二次音路Cの変動は、特に音波伝搬路内の温度変化に大きく依存することが知られている。従って、上記のように適応消音動作と二次音路Cの同定動作とを定期的に交互に実行するのではなく、例えば、適応消音動作を実行しながら音波伝搬路内の温度を監視して、この監視して得た温度の変化量が大きいときに、上記二次音路Cの同定動作を所定期間実行するよう構成してもよい。
【0035】
なお、上記二次音路Cの同定時においては、消音対象である音波を打ち消すための制御音の他に、上記疑似信号に応じた同定音が、スピーカから放出されて、この同定音が聴感上雑音として作用する場合がある。従って、二次音路Cの同定時以外のとき、即ち適応消音動作を実行しているときには、同定音を放出しないようにするのが、望ましい。よって、上記のように適応消音動作と二次音路Cの同定動作とを交互に実行する場合には、二次音路Cの同定動作時にのみスピーカから同定音を放出させるように、疑似信号生成手段から二次音路Cへの疑似信号の入力を断続的に行うのか望ましい。
【0036】
また、上記二次音路Cの同定時においては、第2の収音手段は、消音対象である音波を制御音によって打ち消した後のエラー成分と、同定音とを、同時に収音する。ここで、例えば、同定音のレベルが、上記エラー成分のレベルよりも、かなり小さい場合には、同定音がエラー成分に埋もれてしまい、第2の収音手段が同定音を正確に収音できなくなり、その結果、二次音路Cを正確に同定できなくなるという不具合を生じる。一方、同定音のレベルが上記エラー成分よりも大きい場合には、この同定音が聴感上際立ってしまい、却って、消音装置全体としての消音効果が悪化するという不具合を生じる。
【0037】
この不具合を防止するには、同定音のレベルを上記エラー成分のレベルと略同等にすればよいことが知られている。これを実現するために、本発明の消音装置は、第2の収音手段の出力信号レベルに基づいて、同定音のレベルと上記エラー成分のレベルとが略同等になるように疑似信号のレベルを調整するレベル調整手段を、設けている。このように、同定音のレベルをエラー成分のレベルと略同等とすることによって、二次音路Cを正確に同定しつつ、同定音が雑音として作用することによる消音効果の悪化を防止できる。
【0038】
ただし、適応消音動作が進み、消音効果が向上するに連れて、同定音のレベルが小さくなる。すると、同定音のレベルが、本発明の消音装置自体の有する背景雑音のレベルを基準として、相対的に小さくなり、その結果、同定音のS/N比が低下する。このように同定音のS/N比が低下している状況下で、二次音路Cを同定すると、当該同定の精度が低下して、却って、消音効果の悪化を招くことがある。
【0039】
そこで、本発明では、消音効果の程度に応じて、二次音路Cの同定動作を実行可能または不可能とする同定動作制御手段を備えている。具体的には、同定動作制御手段は、第2の収音手段の出力信号レベル、即ちエラー成分のレベルと、所定の基準レベルと、を比較する。なお、ここで言う所定の基準レベルとは、例えば、エラー成分のレベルから、所期の消音効果が十分に得られているか否かを判断するための判断基準となるレベル、換言すれば二次音路Cを同定したときに当該二次音路Cの同定精度を低下させる恐れがあるか否かの判断基準となるレベル、を言う。
【0040】
ここで、例えばエラー成分のレベルが上記所定の基準レベルよりも大きいとき、同定動作制御手段は、現時点で二次音路Cを同定しても当該二次音路Cの同定精度が低下する恐れはないものと判断する。そして、同定動作制御手段は、二次音路Cの同定動作、即ち同定フィルタ制御手段による同定フィルタ手段の伝達関数の適応制御、を実行可能とするよう、同定フィルタ制御手段の動作を制御する。この場合、例えば、上述したように、二次音路Cの同定動作が定期的に実行される。
【0041】
一方、エラー成分のレベルが、上記所定の基準レベル以下であるときには、同定動作制御手段は、現時点で二次音路Cを同定すると却って当該二次音路Cの同定精度が低下する恐れがあると判断する。そして、同定動作制御手段は、二次音路Cの同定動作を実行不可能とするよう、同定フィルタ制御手段の動作を制御する。この場合、上記のように二次音路Cの同定動作を実行する期間が定期的に到来しても、当該二次音路Cの同定動作は実行されず、例えば適応消音動作のみが継続して実行される。
【0042】
このように、本発明によれば、適応消音動作を実行しながら二次音路Cを同定するというオンライン同定を実現できる消音装置において、二次音路Cを同定すると却って同定精度が低下するものと予想される場合には、意図的に二次音路Cの同定動作が実行不可能とされ制限される。従って、二次音路Cの同定精度が低下することによる消音効果の悪化を防止できる。なお、このように二次音路Cの同定動作が制限されているときには、エラー成分のレベルが上記所定の基準レベル以下であり、即ち敢えて二次音路Cを同定しなくても十分な消音効果が得られている状態にある。
【0043】
なお、本発明において、上記同定フィルタ制御手段を、例えば次のように構成すれば、適応消音動作と二次音路Cの同定動作とを並行して同時に実行することができる。即ち、上記同定フィルタ手段とは別のディジタルフィルタ手段を設ける。これと共に、このディジタルフィルタ手段によって上記疑似信号を処理した後の信号と、上記疑似信号が上記第2の伝達関数に入力されている状態にあるときの上記第2の収音手段の出力信号と、の各特性が、互いに近似するように、上記ディジタルフィルタ手段の伝達関数を更新制御する更新制御手段を設ける。更に、この更新制御手段によって更新して得た上記ディジタルフィルタの伝達関数を、上記同定フィルタ手段の伝達関数として設定する設定手段を設ける。そして、同定フィルタ手段については、第1の収音手段の出力信号のみを処理対象とし、この処理後の信号を適応型フィルタ制御手段に入力するよう構成する。
【0044】
この構成によれば、同定フィルタ手段は、二次音路Cを補償するというそれ本来の機能のみを奏する。そして、この同定フィルタ手段とは別に設けられたディジタルフィルタ手段が、二次音路Cを正確に補償するために同定フィルタ手段に設定すべく伝達関数を推定(同定)するという機能を奏する。このように、二次音路Cを補償するための同定フィルタ手段とは別に、この同定フィルタ手段に設定すべく伝達関数を推定するためのディジタルフィルタ手段を設けることによって、適応消音動作と二次音路Cの同定動作とを並行して同時に実行できる。従って、これら各動作を交互に実行するという上記の場合に比べて、よりリアルタイム性に優れた適応消音動作及び二次音路Cの同定動作を実現できる。なお、このように適応消音動作と二次音路Cの同定動作とを同時に実行するには、疑似信号生成手段から二次音路Cに対して常に疑似信号を連続的に入力しなければならないことは、言うまでもない。
【0045】
このように適応消音動作と二次音路Cの同定動作とを同時に実行できるように構成した場合において、例えば、今、エラー成分の信号レベルが上記所定の基準レベルよりも大きいとする。すると、同定動作制御手段は、現時点で二次音路Cを同定しても当該二次音路Cの同定精度が低下する恐れはないものと判断して、当該二次音路Cの同定動作を実行可能とする。これにより、適応消音動作と二次音路Cの同定動作とが同時に実行される。一方、エラー成分のレベルが上記所定の基準レベル以下であるときには、同定動作制御手段は、現時点で二次音路Cを同定すると却って当該二次音路Cの同定精度が低下する恐れがあると判断して、二次音路Cの同定動作を実行不可能とする。この場合、適応消音動作のみが実行される。
【0046】
また、上記では、同定動作制御手段により、エラー成分のレベル(第2の収音手段の出力信号レベル)と所定の基準レベルとを比較して、その比較結果に応じて、二次音路Cの同定動作を実行可能とするか否かを判断したが、これに限らない。例えば、上記エラー成分のレベルの変化速度(即ち単位時間内におけるレベルの変化量)等、当該レベルの変化の度合いを検出し、この検出して得た変化の度合いと所定の基準度合い値とを比較して、その比較結果に応じて、二次音路Cの同定動作を実行可能とするか否かを判断するよう構成してもよい。
【0047】
即ち、本発明において、二次音路Cの同定動作を実行可能とするか否かの判断材料となる所期の消音効果が十分に得られているか否かについては、エラー成分のレベルそのものに限らず、上記エラー成分のレベルの変化速度等の当該エラー成分のレベルの変化の度合いによっても、判断できる。例えば、エラー成分のレベルの変化の度合いが比較的に大きい場合には、安定した消音効果が得られていないものと判断できる。一方、エラー成分のレベルの変化の度合いが比較的に小さい場合には、安定した例えば所期の消音効果が得られているものと判断できる。
【0048】
そこで、上記所定の基準度合い値として、例えば、上記エラー成分のレベルの変化の度合いから、所期の消音効果が十分に得られているか否かの判断基準となる値を設定する。そして、上記エラー成分のレベルの変化の度合いが、この所定の基準度合いよりも大きいときには、所期の消音効果が得られていないものと判断し、換言すれば現時点で二次音路Cを同定しても当該二次音路Cの同定精度が低下する恐れはないものと判断して、二次音路Cの同定動作を実行可能とする。一方、エラー成分のレベルの変化の度合いが、上記所定の基準度合い値以下のときには、所期の消音効果が得られているものと判断し、換言すれば現時点で二次音路Cを同定すれば却って当該二次音路Cの同定精度が低下する恐れがあると判断して、二次音路Cの同定動作を実行不可能とする。このようにすれば、上記のようにエラー成分のレベルと所定の基準レベルとを比較して、その比較結果に応じて、二次音路Cの同定動作を実行可能とするか否かを判断する場合と、同様の作用及び効果が、得られる。
【0049】
本発明におけるレベル調整手段は、第2の収音手段の出力信号レベルからエラー成分を検出し、このエラー成分のレベルと同定音のレベルとが略等価になるように、疑似信号の信号レベルを調整する。従って、レベル調整手段により、第2の収音手段の出力信号レベルに基づいてエラー成分のレベルを検出する際には、上記同定音の放出を停止して、第2の収音手段がエラー成分のみを収音できるよう構成するのが望ましい。
【0050】
そこで、本発明では、二次音路Cに対する疑似信号の入力を一時的に、例えば間欠的に停止する期間を形成するよう、疑似信号生成手段を構成する。このとき、同時に、二次音路Cの同定動作も停止する。そして、この二次音路Cに対する疑似信号の入力が停止されている期間内に第2の収音手段により収音して得たエラー成分のレベルと、上記同定音のレベルと、が略同等となる状態に、上記レベル調整手段により疑似信号の信号レベルを調整する。このようにすれば、純粋なエラー成分のみに基づいて、同定音のレベルを適切に調整できる。
【0051】
なお、本発明の消音装置が、適応消音動作と二次音路Cの同定動作とを交互に実行するよう構成されている場合には、上記のように二次音路Cに対する疑似信号の入力を一時的に停止する期間を、故意に形成する必要はない。この場合、適応消音動作時に、疑似信号の二次音路Cへの入力が停止されるので、このときに第2の収音手段によって検出して得たエラー成分のレベルに基づいて、疑似信号のレベルを調整すればよい。一方、本発明の消音装置が、適応消音動作と二次音路Cの同定動作とを並行して同時に実行するよう構成されている場合には、二次音路Cに対する疑似信号の入力を一時的に停止する期間を、例えば定期的に故意に形成する。
【0052】
また、レベル調整手段は、同定音のレベルが第2の収音手段により収音して得たエラー成分のレベルよりも僅かに小さくなるように、上記疑似信号の信号レベルを調整するものであってもよい。
【0053】
即ち、同定音のレベルは、エラー成分のレベルと略同等のレベルでなくても、エラー成分のレベルよりも僅かに小さ目のレベルであれば、二次音路Cを正確に同定できる、ということが知られている。従って、同定音が聴感上雑音として作用するのを極力抑制するためにも、同定音のレベルはエラー成分のレベルよりも若干小さ目とするのが望ましい。
【0054】
また、上記同定音(疑似信号)のレベル調整に係る部分の制御系は、レベル調整手段→スピーカを含む二次音路C→第2の収音手段→レベル調整手段という、所謂閉ループ回路を構成する。従って、このような閉ループ回路の制御系においては、上記のように、その制御対象である同定音(疑似信号)のレベルを、その調整基準となるエラー成分のレベルよりも、若干小さ目になるよう調整した方が、この制御系を安定させる上でも望ましい。例えば、同定音のレベルをエラー成分のレベルよりも僅かでも大き目に調整すると、同定音レベルが無限に増大する傾向を辿り、このレベル調整に係る制御系が所謂発散する。一方、上記のように同定音のレベルをエラー成分のレベルよりも僅かでも小さ目に調整すると、少なくとも制御系の発散を防止でき、安定した同定音のレベル調整を実現できる。
【0055】
【発明の実施の形態】
本発明に係る能動型消音装置の一実施の形態について、図1から図3を参照して説明する。
【0056】
図1は、本実施の形態の概略構成を示すブロック図である。同図に示すように、本実施の形態は、上述した図4に示す従来の消音装置において、レベル検出部13の出力する情報Veが入力されると共に、この情報Veに応じてLMS演算部10の動作を制御する例えばCPU(中央演算処理装置)構成の制御部14を設けたものである。なお、これ以外の構成については、上記図4の従来技術と同様であるので、同等部分には図4と同一符号を付して、それらの詳細な説明を省略する。
【0057】
この図1に示す消音装置もまた、上記従来の消音装置と同様に、FIRフィルタ8の伝達関数Seを固定した状態でLMS演算部4により適応型フィルタ3の伝達関数Wを適応制御するという排気音の適応消音動作と、適応型フィルタ3の伝達関数Wを固定した状態でLMS演算部10によりFIRフィルタ8の伝達関数Seを適応制御するという二次音路Cの同定動作とを、交互に切り替えて実行する所謂オンライン同定を実現するものである。そして、レベル検出部13によって検出して得たエラー信号e(k)の信号レベル、即ちエラー成分のレベルVeに基づいて、このエラー成分のレベルVeと同定音のレベルとが略同等になるように、レベル調整部11により疑似信号m(k)のレベルを調整することを前提とするものである。ただし、本実施の形態では、上記エラー成分のレベルVeに基づいて、LMS演算部10によるFIRフィルタ8の伝達関数Seの適応動作、即ち二次音路Cの同定動作、を制限すべく上記制御部14を設けた、ところに特徴を有しており、この点が本実施の形態の上記従来技術と大きく異なるところである。
【0058】
即ち、制御部14は、図示しない例えば半導体メモリ構成の記憶部内に、予め所定の基準レベルVoを記憶している。そして、この基準レベルVoと、上記レベル検出部13から与えられる情報、厳密にはこの情報に含まれるエラー成分のレベルVeと、を比較する。なお、この基準レベルVoとは、例えばエラー成分のレベルVeから、所期の消音効果が十分に選られているか否かを判断するための判断基準となるレベル、換言すれば二次音路Cを同定したときに当該二次音路Cの同定精度を低下させる恐れがあるか否かの判断基準となるレベル、を言う。また、以下に説明するように制御部14を動作させるためのプログラムは、上記記憶部内に記憶されている。
【0059】
ここで、例えばエラー成分のレベルVeが上記基準レベルVoよりも大きいとき(即ちVe>Voのとき)、制御部14は、現時点で二次音路Cを同定しても当該二次音路Cの同定精度が低下する恐れはないものと判断する。そして、制御部14は、二次音路Cの同定動作、即ちLMS演算部10によるFIRフィルタ8の伝達関数Seの適応制御、を実行可能とするよう、LMS演算部10の動作を制御する。この場合、上記従来技術と同様に、二次音路Cの同定動作と、排気音の適応消音動作(即ちLMS演算部4による適応型フィルタ3の伝達関数Wの適応制御)とを、それぞれ所定期間d1、d2ずつ交互に実行する。
【0060】
一方、エラー成分のレベルVeが、上記基準レベルVo以下であるとき(即ちVe≦Voのとき)には、制御部14は、現時点で二次音路Cを同定すると却って当該二次音路Cの同定精度が低下する恐れがあると判断する。そして、制御部14は、二次音路Cの同定動作を実行不可能とする、即ちLMS演算部10によるFIRフィルタ8の伝達関数Seの適応制御を停止するよう、LMS演算部10の動作を制御する。この場合、上記のように二次音路Cの同定動作を実行すべく期間d1が到来しても、当該二次音路Cの同定動作を実行せずに、例えば排気音の適応消音動作のみを継続して実行する。
【0061】
上記制御部14の動作を、エラー成分のレベルVeとの関係に基づいて、時系列的に表現すると、例えば図2に示すようになる。
【0062】
即ち、今、図示しないエンジンが運転状態にあり、消音装置自体の図示しない電源スイッチがOFFされているとする。そして、この状態で、或る時刻t1において、上記電源スイッチをONするとする。すると、上記従来技術と同様に、初期設定を行った後、二次音路Cの同定動作と排気音の適応消音動作とを、それぞれ所定期間d1、d2(d1<d2)ずつ交互に実行する。
【0063】
上記排気音の適応消音動作と二次音路Cの同定動作との繰り返しにより、消音効果が向上すると、これに伴い、エラー成分のレベルVeが低下する。そして、或る時刻t2において、エラー成分のレベルVeが、上記基準レベルVo以下になると、制御部14は、二次音路Cの同定動作を実行不可能とするよう、LMS演算部10の動作を制限する。具体的には、時刻t2の時点で二次音路Cの同定動作を実行している最中にあるときは、この二次音路Cの同定動作を停止すると共に、FIRフィルタ8の伝達関数Seを当該停止時点での値に固定する。そして、上記エラー成分のレベルVeが基準レベルVoを超えるときが来るまで、排気音の適応消音動作を継続して実行する。一方、上記時刻t2の時点で排気音の適応消音動作を実行している最中にあるときには、上記エラー成分のレベルVeが基準レベルVoを超えるときが来るまで、この排気音の適応消音動作を継続して実行する。なお、このように二次音路Cの同定動作を強制的に停止している状態にあるときには、エラー成分のレベルVeが上記基準レベルVo以下であり、即ち敢えて二次音路Cを同定しなくても十分な消音効果が得られている状態にある。
【0064】
上記二次音路Cの適応動作を強制的に停止している間に、例えば排気ダクト1内の温度変化等により二次音路Cが変動し、これによってエラー成分のレベルVeが徐々に増大するとする。そして、或る時刻t3において、エラー成分のレベルVeが、上記基準レベルVoを超えたとする。すると、制御部14は、二次音路次音路Cの同定動作を実行可能とするよう、LMS演算部10を制御する。これにより、(厳密には、二次音路Cの同定動作を実行すべき期間d1が到来した時点で)二次音路Cの同定動作が再開される。
【0065】
このように、本実施の形態によれば、エラー成分のレベルVeが基準レベルVoよりも大きいとき、即ち二次音路Cを同定しても当該二次音路Cの同定精度が低下する恐れのないとき、にのみ、二次音路Cの同定動作を実行可能とする。そして、エラー成分のレベルVeが基準レベルVo以下のとき、即ち二次音路Cを同定すると却って当該二次音路Cの同定精度が低下するものと予想される場合には、意図的に二次音路Cの同定動作を実行不可能とするよう、LMS演算部10の動作を制限する。従って、二次音路Cの同定精度を低下させるおそれがあるか否かに関係なく単に定期的に二次音路Cの同定動作を実行するという上述した従来技術とは異なり、二次音路Cの同定精度の低下を招くことなく、常に安定した消音効果を得ることができる。
【0066】
なお、上記においては、エラー成分のレベルVeが基準レベルVoよりも大きいとき、二次音路Cの同定動作と排気音の適応消音動作とを、それぞれ所定期間d1、d2ずつ交互に実行するよう構成したが、これに限らない。例えば、排気音の適応消音動作を実行しながら、排気ダクト1内の温度を監視して、この監視して得た温度の変化量が大きいときに、上記二次音路Cの同定動作を例えば所定期間d2、実行するよう構成してもよい。即ち、二次音路Cの変動は、排気ダクト1内の温度変化に大きく依存することが知られている。従って、このように排気ダクト1内の温度の変化量に基づいて、二次音路Cを適宜同定するようにすれば、二次音路Cの変動に適切に対応した当該二次音路Cの同定を実現できる。
【0067】
また、上記では、エラー成分のレベルVeが基準レベルVo以下であるときは、このエラー成分のレベルVeが基準レベルVoを超えるときが来るまで、排気音の適応消音動作を継続して実行するようにしたが、これに限らない。即ち、エラー成分のレベルVeが基準レベルVo以下であるとき、本来、二次音路Cの同定動作を実行すべき期間d1については、二次音路Cの同定動作と排気音の適応消音動作との両方を停止させ、排気音の適応消音動作を実行すべき期間d2中のみ、当該適応消音動作を実行するよう構成してもよい。
【0068】
上記図1の構成では、排気音の適応消音動作と二次音路Cの同定動作とを同時に実行することができないので、これら各動作を交互に実行したが、例えば図3に示すように構成すれば、これら各動作を並行して同時に実行できる。
【0069】
即ち、この図3に示す構成は、上記図1におけるFIRフィルタ8に代えて、これとは別個のFIRフィルタ15を、リファレンスマイクロホン2とLMS演算部4との間に設けたものである。そして、このFIRフィルタ15を、純粋に二次音路Cの補償用フィルタとしてのみ機能させる。一方、FIRフィルタ8については、これを純粋に二次音路Cの同定(推定)用のフィルタとしてのみ機能させ、このFIRフィルタ8により二次音路Cを同定して得た伝達関数Seを、上記FIRフィルタ15の伝達関数として、逐次設定する。
【0070】
このように二次音路Cを補償するためのFIRフィルタ15と、このFIRフィルタ15に設定すべく伝達関数Seを推定するためのFIRフィルタ8とを、別個に設けることによって、排気音の適応消音動作と二次音路Cの同定動作とを並行して同時に実行できる。従って、これら各動作を交互に実行するという上記図1の構成に比べて、よりリアルタイム性に優れた排気音の適応消音動作及び二次音路Cの同定動作を実現できる。なお、このように排気音の適応消音動作と二次音路Cの同定動作とを同時に実行する場合には、常にスピーカ5から同定音を連続的に放出させなければならないことは、言うまでもない。
【0071】
この図3の構成において、例えばエラー成分のレベルVeが上記基準レベルVoよりも大きいとき、制御部14は、現時点で二次音路Cを同定しても当該二次音路Cの同定精度が低下する恐れはないものと判断して、この二次音路Cの同定動作と排気音の適応消音動作とを、並行して同時に実行する。一方、エラー成分のレベルVeが基準レベルVo以下になると、制御部14は、現時点で二次音路Cを同定すると却って当該二次音路Cの同定精度が低下する恐れがあると判断して、二次音路Cの同定動作のみ停止する。そして、改めてエラー成分のレベルVeが上記基準レベルVoを超えたときに、制御部14は、二次音路Cの同定動作を再開する。
【0072】
なお、この図3の構成においては、排気音の適応消音動作と二次音路Cの同定動作とを同時に実行しているとき(即ち上記エラー成分のレベルVeが上記基準レベルVoよりも大きいとき)には、エラーマイクロホン7は、上記エラー成分と同定音とを同時に収音することになる。従って、レベル検出部13が、このエラーマイクロホン7の出力するエラー信号e(k)の信号レベルに基づいて、エラー成分のレベルVeを検出する際、上記同定音の影響を排除して、純粋にエラー成分のレベルVeのみを検出できるようにするのが望ましい。
【0073】
そこで、排気音の適応消音動作と二次音路Cの同定動作とを同時に実行しているときには、スピーカ5からの同定音の放出、即ち疑似信号発生器9からスピーカ5への疑似信号m(k)の入力を、一時的に、例えば間欠的に、停止する。このとき、同時に、二次音路Cの同定動作をも停止する。そして、この同定音が放出を停止している期間内にエラーマイクロホン7によって収音して得たエラー信号e(k)の信号レベルから、エラー成分のレベルVeを検出するように、レベル検出部13を構成する。このようにすれば、レベル検出部13により、同定音の影響を受けない純粋なエラー成分のレベルVeのみを検出でき、ひいては同定音のレベルを適切に調整できる。
【0074】
上記図1の構成においては、排気音の適応消音動作と二次音路Cの同定動作とを交互に実行するので、上記のように、純粋なエラー成分のレベルVeのみを検出するために、同定音の放出を一時的に停止する期間を故意に設ける必要はない。即ち、排気音の適応消音動作時に、エラーマイクロホン7から出力されるエラー信号e(k)の信号レベルに基づいてエラー成分のレベルVeを検出すれば、同定音の影響を受けることなく、純粋にエラー成分のレベルVeのみを検出できる。
【0075】
本実施の形態では、制御部14により、エラー成分のレベルVe(エラー信号e(k)の信号レベル)と所定の基準レベルVoとを比較して、その比較結果に応じて、二次音路Cの同定動作を実行可能とするか否かを判断したが、これに限らない。例えば、上記エラー成分のレベルVeの変化速度(即ち単位時間当たりにおけるレベルVeの変化量ΔVe)等、当該レベルVeの変化の度合いを検出し、この検出して得た変化の度合いと所定の基準度合い値とを比較して、その比較結果に応じて、二次音路Cの同定動作を実行可能とするか否かを判断するよう、制御部14を構成してもよい。
【0076】
即ち、本実施の形態において、二次音路Cの同定動作を実行可能とするか否かの判断材料となる所期の消音効果が十分に得られているか否かについては、エラー成分のレベルVeそのものに限らず、上記レベルVeの変化速度(即ちΔVe/sec)等、当該エラー成分のレベルVeの変化の度合いによっても、判断できる。そこで、上記所定の基準度合い値として、例えば、上記エラー成分のレベルVeの変化速度[ΔVe/sec]から、所期の消音効果が十分に得られているか否かの判断基準となる速度を設定する。そして、上記エラー成分のレベルVeの変化速度[ΔVe/sec]が、この基準速度よりも大きいときには、所期の消音効果が得られていないものと判断し、換言すれば現時点で二次音路Cを同定しても当該二次音路Cの同定精度が低下する恐れはないものと判断して、二次音路Cの同定動作を実行可能とする。一方、エラー成分のレベルVeの変化速度[ΔVe/sec]が、上記基準速度以下のときには、現時点で二次音路Cを同定すれば却って当該二次音路Cの同定精度が低下する恐れがあると判断して、二次音路Cの同定動作を実行不可能とするよう、制御部14を構成する。このようにすれば、上記のようにエラー成分のレベルVeと所定の基準レベルVoとを比較して、その比較結果に応じて、二次音路Cの同定動作を実行可能とするか否かを判断する場合と、同様の作用及び効果が、得られる。
【0077】
また、レベル調整部11により疑似信号m(k)のレベルを調整する際、この疑似信号m(k)に基づいてスピーカ5から放出させる同定音のレベルが、エラー成分のレベルVeよりも僅かに小さくなるように、当該レベル調整を行ってもよい。即ち、同定音のレベルは、上記のようにエラー成分のレベルVeと略同等のレベルでなくてもよく、このエラー成分のレベルVeよりも僅かに小さ目のレベルであっても、二次音路Cを正確に同定できる、ということが知られている。従って、同定音が聴感上雑音として作用するのを極力抑制するためにも、同定音のレベルはエラー成分のレベルVeよりも若干小さ目とするのが好ましい。
【0078】
また、上記同定音(疑似信号m(k))のレベル調整に係る部分の制御系は、レベル調整部11→スピーカ5を含む二次音路C→エラーマイクロホン7→レベル検出部13→レベル調整部11という、所謂閉ループ回路を構成する。従って、このような閉ループ回路の制御系においては、上記のように、その制御対象である同定音のレベルを、その調整基準となるエラー成分のレベルVeよりも、若干小さ目になるよう調整した方が、この制御系を安定させる上でも望ましい。例えば、同定音のレベルをエラー成分のレベルVeよりも僅かでも大き目に調整すると、同定音レベルが無限に増大する傾向を辿り、このレベル調整に係る制御系が所謂発散する。一方、上記のように同定音のレベルをエラー成分のレベルVeよりも僅かでも小さ目に調整すると、少なくとも当該制御系の発散を防止でき、安定した同定音のレベル調整を実現できる。
【0079】
本実施の形態においては、制御部14をCPU構成としたが、この制御部14は、純粋なハードウェア回路によっても構成できる。また、制御部14は、レベル検出部13によって検出して得たエラー成分のレベルVeに基づいて動作するよう構成したが、これに限らない。例えば、制御部14に対して、エラーマイクロホン7から出力されるエラー信号e(k)を直接入力し、この制御部14自体が、これに入力されるエラー信号e(k)の信号レベルから上記エラー成分のレベルVeを検出するよう構成してもよい。更に、この制御部14は、LMS演算部10に内蔵させた構成としてもよい。
【0080】
また、レベル調整部11を、疑似信号発生器9の出力部分に設けたが、これに限らない。例えば、疑似信号発生器9の出力側と加算器6の入力側との間や、或いは加算器6の出力側とスピーカ5の入力側との間等の他の位置に、上記レベル調整期11を設けてもよい。そして、このレベル調整部11内に、上記レベル検出部13を内蔵させる構成としてもよい。
【0081】
また、FIRフィルタ8の伝達関数Seを適応制御して二次音路Cを同定するのにLMSアルゴリズムを用いたが、これ以外のアルゴリズムを用いてもよいし、これらのアルゴリズムを用いない他の方法によって、上記二次音路Cを同定してもよい。例えば、疑似信号m(k)と誤差信号ε(k)との相関によって二次音路Cを同定(推定)するという、所謂M系列信号を用いた相関法により上記二次音路Cを同定してもよい。また、二次音路Cの出力(二次音路Cを通過させた後の疑似信号m(k))を、この二次音路Cの入力信号(即ち疑似信号m(k))で除算する(詳しくは、これら各入出力信号を周波数領域に変換した上で上記除算を行う)ことによっても、上記二次音路Cを求めることができる。更に、一般に知られているクロススペクトル法を用いて、上記二次音路Cを求めてもよい。
【0082】
そして、エラーマイクロホン7の出力するエラー信号e(k)を、例えば積分する等により時間的に平均化する手段を設け、この平均化した後の信号を制御部14に入力するよう構成してもよい。このようにすれば、エラー信号e(k)に係る外部雑音等の影響を抑制でき、本実施の形態における作用及び効果をより安定かつ確実に奏することができる。
【0083】
なお、本実施の形態においては、エンジンの排気音を消音対象とする場合について説明したが、当該排気音以外の音を消音対象とする場合にも、本発明を応用できることは言うまでもない。
【0084】
本実施の形態における排気ダクト1が、特許請求の範囲に記載の音波伝搬路に対応し、リファレンスマイクロホン2及びエラーマイクロホン7が、それぞれ特許請求の範囲に記載の第1及び第2の各収音手段に対応する。そして、適応型フィルタ3及びLMS演算部4が、それぞれ特許請求の範囲に記載の適応型フィルタ手段及び適応型フィルタ制御手段に対応する。更に、図1におけるFIRフィルタ8及び図3におけるFIRフィルタ15が、特許請求の範囲に記載の同定フィルタ手段に対応し、図3におけるFIRフィルタ8が、特許請求の範囲に記載のディジタルフィルタ手段に対応する。そして、FIRフィルタ8(及び15)、疑似信号発生器9、LMS演算部10及び比較器12から成る部分が、特許請求の範囲に記載の同定フィルタ制御手段に対応する。そして、レベル検出部13及びレベル調整部11から成る部分が、特許請求の範囲に記載のレベル調整手段に対応し、レベル検出部13及び制御部14から成る部分が、特許請求の範囲に記載の同定動作制御手段に対応する。
【0085】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、適応消音動作を実行しながら断続的または連続的に二次音路Cを同定するというオンライン同定を実現し、かつ、エラー成分のレベルと略同等になるよう同定音のレベルを調整する機能を備えた消音装置において、或る程度精度よく二次音路Cを同定できる状態にあるときにのみ、当該二次音路Cの同定動作を実行する。そして、二次音路Cを同定すると却って同定精度の低下を招く恐れのある状況下では、意図的に二次音路Cの同定動作を実行不可能とする。従って、二次音路Cを精度よく同定できる状態にあるか否かに関係なく単に定期的に二次音路Cの同定動作を実行するという上述した従来技術とは異なり、二次音路Cの同定精度の低下を招くことなく、常に安定した消音効果を得ることができる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る能動型消音装置の一実施の形態を示す概略構成図である。
【図2】同実施の形態における制御部の動作タイミングを表わす図である。
【図3】本実施の形態の別の例を示す概略構成図である。
【図4】従来の能動型消音装置の一例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
1 排気ダクト
2 リファレンスマイクロホン
3 適応型フィルタ
4 LMS演算部
5 二次音源スピーカ
7 エラーマイクロホン
8 FIRディジタルフィルタ
9 疑似信号発生器
10 LMS演算部
11 レベル調整部
13 レベル検出部
14 制御部
Claims (5)
- 第1の伝達関数を有する音波伝搬路に入力される音波を収音する第1の収音手段と、
上記音波伝搬路から出力される音波を収音する第2の収音手段と、
上記第1の収音手段の出力信号を処理して、その処理結果に応じた制御音をスピーカから上記音波伝搬路中に放出させる適応型フィルタ手段と、
上記第1及び第2の収音手段の各出力信号が入力され、これら各信号に応じて、上記適応型フィルタ手段の伝達関数と、この適応型フィルタ手段の出力側から上記音波伝搬路を経て上記第2の収音手段までの間に存在する第2の伝達関数と、の合成による合成伝達関数が、上記第1の伝達関数と相補する状態に、上記適応型フィルタ手段の伝達関数を適応制御する適応型フィルタ制御手段と、
疑似信号を生成して、この疑似信号を断続的または連続的に上記第2の伝達関数に入力する疑似信号生成手段と、
上記第1の収音手段と上記適応型フィルタ制御手段との間に介在する同定フィルタ手段を含み、上記疑似信号と、この疑似信号が上記第2の伝達関数に入力されている状態にあるときの上記第2の収音手段の出力信号と、が入力され、これら各信号に応じて、上記同定フィルタ手段の伝達関数と上記第2の伝達関数とが近似する状態に、上記同定フィルタ手段の伝達関数を適応制御する同定フィルタ制御手段と、
上記第2の収音手段の出力信号が入力され、その信号レベルに基づいて、該第2の収音手段により収音して得た音波のレベルと、上記疑似信号が上記第2の伝達関数に入力されることにより上記スピーカから上記音波伝搬路中に放出される同定音のレベルと、が略同等となる状態に、上記疑似信号の信号レベルを調整するレベル調整手段と、
上記第2の収音手段の出力信号が入力され、その信号レベルの変化速度を検出すると共に、検出した該変化速度と所定の基準速度とを比較して、該変化速度が該基準速度よりも大きいとき、上記同定フィルタ制御手段による上記同定フィルタ手段の伝達関数の適応制御を実行可能とし、該変化速度が該基準速度以下のとき、該同定フィルタ制御手段による該同定フィルタ手段の伝達関数の適応制御を実行不可能とする状態に、該同定フィルタ制御手段の動作を制御する同定動作制御手段と、
を具備する能動型消音装置。 - 上記同定フィルタ制御手段が、
上記同定フィルタ手段とは別のディジタルフィルタ手段と、
このディジタルフィルタ手段によって上記疑似信号を処理した後の信号と、上記疑似信号が上記第2の伝達関数に入力されている状態にあるときの上記第2の収音手段の出力信号と、の各特性が、互いに近似する状態に、上記ディジタルフィルタ手段の伝達関数を更新制御する更新制御手段と、
この更新制御手段によって更新して得た上記ディジタルフィルタの伝達関数を上記同定フィルタ手段の伝達関数として設定する設定手段と、を備え、
上記同定フィルタ手段が、上記第1の収音手段の出力信号のみを処理対象とし、この処理後の信号を上記適応型フィルタ制御手段に入力するよう構成された、
請求項1に記載の能動型消音装置。 - 上記疑似信号生成手段が、上記第2の伝達関数に対する上記疑似信号の入力を一時的に停止する期間を形成し、
上記レベル調整手段が、上記第2の伝達関数に対する上記疑似信号の入力が停止されている期間内に上記第2の収音手段により収音して得た音波のレベルと、上記同定音のレベルと、が略同等となる状態に、上記疑似信号の信号レベルを調整するよう構成された、請求項1に記載の能動型消音装置。 - 上記レベル調整手段が、上記第2の収音手段により収音して得た音波のレベルよりも上記同定音のレベルが僅かに小さくなる状態に、上記疑似信号の信号レベルを調整するよう構成された、請求項1に記載の能動型消音装置。
- 上記音波が、エンジンの排気音である、請求項1に記載の能動型消音 装置。
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