JP4004320B2 - テトラシクロドデカンジカルボニトリル類、およびそれらの製造方法 - Google Patents
テトラシクロドデカンジカルボニトリル類、およびそれらの製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なテトラシクロドデカンジカルボニトリル類、およびそれらの製造方法に関するものであり、詳しくはテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,8−ジカルボニトリル、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,9−ジカルボニトリルシリルノルボルネン、およびそれらの製造方法に関するものである。
本発明のテトラシクロドデカンジカルボニトリル類は、加水分解反応などによって相当するジカルボン酸誘導体を合成することができ、さらに(チオ)アルコールとの反応によってポリ(チオ)エステル重合体を製造することができる。このポリ(チオ)エステル重合体は、透明性、機械的特性、熱的特性が良好であり、且つ、光学特性に優れ[高屈折率、低色収差(高アッベ数)、低複屈折率]、さらには溶融流動性が高く成形加工性が良好である特徴を有している。このため、視力矯正用眼鏡レンズ(眼鏡レンズ)、ピックアップレンズ、撮影機器レンズなどを代表とするプラスチック光学用レンズ、情報記録用光ディスク基板、液晶セル用プラスチック基板、光ファイバー、光導波路などの各種光学用の成形材料として有用である。また、本発明のテトラシクロドデカンジカルボニトリル類は、医薬中間体、農薬中間体等の各種有機化学工業における原料としても有用である。
【0002】
【従来の技術】
近年、ポリ(チオ)エステル重合体に、透明性、低吸水性、光学特性[高屈折率、低色収差(高アッベ数)、低複屈折率]等の物性を付与する目的で、脂環式の骨格を有する化合物を導入する検討がなされている。例えば、脂環式の骨格としては、シクロヘキサン、ノルボルネン等が知られている。
一方、カルボニトリル基を二つ含有するテトラシクロドデカンジカルボニトリル類については、3位と4位にカルボニトリル基を含有するテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,4−ジカルボニトリル(特許第3185807号公報)、および1位と6位にカルボニトリル基を含有するテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−1,6−ジカルボニトリル(Tetrahedron Letters、第27巻、第36号、第4347頁、1986年)が知られている。しかしながら、3位と8位にカルボニトリル基を含有するテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,8−ジカルボニトリル、および3位と9位にカルボニトリル基を含有するテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,9−ジカルボニトリルシリルノルボルネンは知られていなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、透明性、低吸水性、光学特性等の各種物性の他に耐熱性に優れたポリ(チオ)エステル重合体の、脂環式の骨格を導入可能なジカルボン酸誘導体の原料となるテトラシクロドデカンジカルボニトリル類を提供すると共に、その工業的な生産性で高収率に製造し得る方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記の課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明に係わるテトラシクロドデカンジカルボニトリル類は、
▲1▼下記式(I)(化6)で表されるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,8−ジカルボニトリル。
【0005】
【化6】
【0006】
▲2▼下記式(II)(化7)で表されるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,9−ジカルボニトリルである。
【0007】
【化7】
【0008】
さらに、本発明に係わるテトラシクロドデカンジカルボニトリル類の製造方法、すなわち、
▲3▼一般式(III)(化8)で表されるゼロ価ニッケル錯体触媒およびルイス酸の存在下で、下記式(V)(化10)で表されるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリルにシアン化水素付加することを特徴とする▲1▼〜▲2▼記載のテトラシクロドデカンジカルボニトリル化合物の製造方法である。
【0009】
【化8】
【0010】
[但し、式中、Lはそれぞれ独立に、一般式(IV)(化9)で表される配位子を表す。
【0011】
【化9】
【0012】
(式中、Pはリン原子、x,y,zはそれぞれ独立に、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜18のアリール基、炭素数1〜18のアルコキシ基、炭素数1〜18のアリールオキシ基のいずれかを表す。)]
【0013】
【化10】
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係わるテトラシクロドデカンジカルボニトリル類、およびそれらの製造方法について具体的に説明する。
本発明に係わるテトラシクロドデカンジカルボニトリル類は、下記式(I)(化11)で表されるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,8−ジカルボニトリル、および下記式(II)(化12)で表されるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,9−ジカルボニトリルである。
【0015】
【化11】
【0016】
【化12】
【0017】
本発明に係わるテトラシクロドデカンジカルボニトリル類の製造方法では、下記式(V)(化13)で表されるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリルにシアン化水素を付加する。
【0018】
【化13】
【0019】
上述の式(I)で表されるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,8−ジカルボニトリルおよび式(II)で表されるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,9−ジカルボニトリルを製造する際に使用される一般式(V)で表されるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリルは、ビシクロ〔2.2.1〕−5−ヘプテン−2−カルボニトリルとシクロペンタジエンあるいはジシクロペンタジエンを加熱反応するディールス・アルダー反応により製造されたもの、あるいは、アクリロニトリルとシクロペンタジンあるいはジシクロペンタジエンを加熱反応するディールス・アルダー反応によってビシクロ〔2.2.1〕−5−ヘプテン−2−カルボニトリルを製造する際に同時に生成するもの等を使用することができる。
【0020】
また、上記式(I)で表されるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,8−ジカルボニトリルおよび式(II)で表されるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,9−ジカルボニトリルを製造する際に使用されるシアン化水素は、メタンあるいはメタンを主成分とする天然ガスをアンモニアおよび空気と反応させるアンモ酸化法によって製造されたもの、プロピレンをアンモニアおよび空気と反応させるアンモ酸化法によってアクリロニトリルを製造する際に副生したもの、あるいは硫酸中にシアン化ナトリウムを添加して発生したもの等の、工業的に製造されるものを使用することができる。
また、工業的に製造されたものを更に蒸留等で精製し、高純度化したものを使用してもかまわない。
【0021】
本発明に係わる式(I)で表されるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,8−ジカルボニトリルおよび式(II)で表されるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,9−ジカルボニトリルを製造する際に使用されるゼロ価ニッケル錯体触媒は一般式(III)(化14)で表される。
【0022】
【化14】
式中、Lはそれぞれ独立に、一般式(IV)(化15)で表される配位子を表す。
【0023】
【化15】
(式中、Pはリン原子、x,y,zはそれぞれ独立に、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜18のアリール基、炭素数1〜18のアルコキシ基、炭素数1〜18のアリールオキシ基のいずれかを表す。)
【0024】
前記一般式(IV)で表される配位子の具体例としては、トリフェニルホスファイト、トリ(m−クロロフェニル)ホスファイト、トリ(p−クロロフェニル)ホスファイト、トリ(m−メトキシフェニル)ホスファイト、トリ(p−メトキシフェニル)ホスファイト、トリ(m−クレジル)ホスファイト、トリ(p−クレジル)ホスファイト、トリ(m−ノニルフェニル)ホスファイト、トリ(p−ノニルフェニル)ホスファイト等のトリアリールホスファイト類、トリエチルホスファイト、トリイソプロピルホスファイト、トリブチルホスファイト等のトリアルキルホスファイト類、トリフェニルホスフィン、トリ(m−クロロフェニル)ホスフィン、トリ(p−クロロフェニル)ホスフィン、トリ(m−メトキシフェニル)ホスフィン、トリ(p−メトキシフェニル)ホスフィン、トリ(m−クレジル)ホスフィン、トリ(p−クレジル)ホスフィン、トリ(m−ノニルフェニル)ホスフィン、トリ(p−ノニルフェニル)ホスフィン等のトリアリールホスフィン類、トリエチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン等のトリアルキルホスフィン類、およびこれらの混合物が挙げられ、好ましくは、トリアリールホスファイト類およびトリアリールホスフィン類であり、さらに好ましくは、トリフェニルホスファイト、トリ(m−クレジル)ホスファイト、トリ(p−クレジル)ホスファイト、トリ(m−ノニルフェニル)ホスファイト、トリ(p−ノニルフェニル)ホスファイト、トリフェニルホスフィン、トリ(m−クレジル)ホスフィン、トリ(p−クレジル)ホスフィン、トリ(m−ノニルフェニル)ホスフィン、トリ(p−ノニルフェニル)ホスフィン等である。
【0025】
また、前記一般式(III)で表されるゼロ価ニッケル錯体触媒の具体例としては、テトラキス(トリフェニルホスファイト)ニッケル、テトラキス〔トリ(m−クロロフェニル)ホスファイト〕ニッケル、テトラキス〔トリ(p−クロロフェニル)ホスファイト〕ニッケル、テトラキス〔トリ(m−メトキシフェニル)ホスファイト〕ニッケル、テトラキス〔トリ(p−メトキシフェニル)ホスファイト〕ニッケル、テトラキス〔トリ(m−クレジル)ホスファイト〕ニッケル、テトラキス〔トリ(p−クレジル)ホスファイト〕ニッケル、テトラキス〔トリ(m−ノニルフェニル)ホスファイト〕ニッケル、テトラキス〔トリ(p−ノニルフェニル)ホスファイト〕ニッケル等のテトラキス(トリアリールホスファイト)ニッケル類、テトラキス(トリエチルホスファイト)ニッケル、テトラキス(トリイソプロピルホスファイト)ニッケル、テトラキス(トリブチルホスファイト)ニッケル、等のテトラキス(トリアルキルホスファイト)ニッケル類、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、テトラキス〔トリ(m−クロロフェニル)ホスフィン〕ニッケル、テトラキス〔トリ(p−クロロフェニル)ホスフィン〕ニッケル、テトラキス〔トリ(m−メトキシフェニル)ホスフィン〕ニッケル、テトラキス〔トリ(p−メトキシフェニル)ホスフィン〕ニッケル、テトラキス〔トリ(m−クレジル)ホスフィン〕ニッケル、テトラキス〔トリ(p−クレジル)ホスフィン〕ニッケル、テトラキス〔トリ(m−ノニルフェニル)ホスフィン〕ニッケル、テトラキス〔トリ(p−ノニルフェニル)ホスフィン〕ニッケル等のテトラキス(トリアリールホスフィン)ニッケル類、テトラキス(トリエチルホスフィン)ニッケル、テトラキス(トリイソプロピルホスフィン)ニッケル、テトラキス(トリブチルホスフィン)ニッケル、等のテトラキス(トリアルキルホスフィン)ニッケル類、が挙げられ、好ましくは、テトラキス(トリアリールホスファイト)ニッケル類およびテトラキス(トリアリールホスフィン)ニッケル類であり、さらに好ましくは、テトラキス(トリフェニルホスファイト)ニッケル、テトラキス〔トリ(m−クレジル)ホスファイト〕ニッケル、テトラキス〔トリ(p−クレジル)ホスファイト〕ニッケル、テトラキス〔トリ(m−ノニルフェニル)ホスファイト〕ニッケル、テトラキス〔トリ(p−ノニルフェニル)ホスファイト〕ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、テトラキス〔トリ(m−クレジル)ホスフィン〕ニッケル、テトラキス〔トリ(p−クレジル)ホスフィン〕ニッケル、テトラキス〔トリ(m−ノニルフェニル)ホスフィン〕ニッケル、テトラキス〔トリ(p−ノニルフェニル)ホスフィン〕ニッケル等である。
【0026】
本発明において、前記一般式(III)のゼロ価ニッケル錯体触媒の活性および寿命を高めるため、前記一般式(IV)の配位子をゼロ価ニッケル錯体触媒と共に反応に供するのがよい。配位子は、ゼロ価ニッケル錯体触媒1モルを基準として、通常1モル以上の範囲が使用されるが、好ましくは2〜32モルの範囲であり、より好ましくは3〜24モルの範囲であり、さらに好ましくは4〜16モルの範囲で使用される。1モル以上が使用されることで十分なゼロ価ニッケル錯体触媒の活性および寿命の向上効果が得られるため好ましい。
【0027】
本発明に係わる前記一般式(III)のゼロ価ニッケル錯体触媒は、市販されている触媒をそのまま使用することができるが、例えば、米国特許第3328443号、Journal of Chemical Society、London、第1378頁、1960年、Journal of American Chemical Society、第81巻、第4200頁、1959年などに記載されている方法で合成し、使用することができる。
本発明に係わる前記一般式(III)のゼロ価ニッケル錯体触媒の使用量は、ゼロ価ニッケル錯体触媒と前記一般式(V)で表されるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリルのモル比が1:5000〜1:20の範囲であり、好ましくは、1:2000〜1:100の範囲である。1:5000〜1:20の範囲で十分な反応速度が得られるため好ましい。
【0028】
本発明に係わる一般式(I)で表されるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,8−ジカルボニトリルおよび一般式(II)で表されるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,9−ジカルボニトリルを製造する際に使用されるルイス酸は、前記一般式(III)のゼロ価ニッケル錯体触媒の助触媒であり、陰イオンと元素周期律表の2族〜15族の金属陽イオンの組み合わせを挙げることができる。
【0029】
金属イオンの例としては、亜鉛、カドミウム、ベリリウム、スカンジウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、銅、銀、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、スズ、ビスマス、ランタン、エルビウム、イッテルビウム、およびトリウムがある。
【0030】
一方、陰イオンの例としては、塩素、臭素、フッ素、およびヨウ素のハロゲン陰イオン、炭素数2〜7の低級脂肪酸の陰イオン、HPO3 2-、H2PO2-、CF3COO-、CF3SO3 -、OSO2C7F15 -、及びSO4 2-がある。
更に、ルイス酸の例としては、トリエチルボロン等のトリアルキルボロン、トリフェニルボロン等のトリアリールボロン、およびアルミニウムトリイソプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド等の金属アルコキシド等を挙げることができる。
【0031】
ルイス酸の好ましい例としては、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、塩化スズ、塩化カドミウム、ヨウ化カドミウム、塩化クロム、三塩化ボロン、およびトリフェニルボロンであり、さらに好ましくは塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛である。
【0032】
助触媒としてのルイス酸の添加は、触媒の寿命を延長させる効果があり、使用量は、ゼロ価ニッケル錯体触媒1モルに対し、通常0.05〜10モルの範囲であり、好ましくは0.1〜5モルの範囲であり、さらに好ましくは0.2〜3モルの範囲である。
【0033】
本発明に係わるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリルのシアン化水素付加は、配位子が溶媒の役割を担うことができるが、これ以外に新たに溶媒を用いても何ら差し支えない。使用される溶媒は、例えば、少なくとも1個以上の水酸基を有する炭素数6〜20、好ましくは6〜10のアリール化合物であり、場合によっては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、ニトロ基、シアノ基、および炭素数1〜9の炭化水素基からなる群から選択した置換基を1個以上有する前記のアリール化合物である。例えば具体的には、フェノール、p−クレゾール、レゾルシノール、β−ナフトール、p−クロロフェノール、p−ニトロフェノール、p−ブチルフェノール等が挙げられる。また、その他の溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類、ジオキサン、o−ジメトキシベンゼン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン等のエーテル類、o−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン等の塩素化芳香族炭化水素類である。
【0034】
本発明に係わるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリルのシアン化水素付加は、例えば、反応器に前記のゼロ価ニッケル錯体触媒、ルイス酸、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリル、配位子、および溶媒の所定量を仕込んだ後、所定温度で攪拌下、反応液中へシアン化水素を供給することによって実施することができる。供給するシアン化水素は、気体状のシアン化水素、および液体状のシアン化水素のどちらでも使用することができる。これらの場合、気体状のシアン化水素は、窒素、ヘリウム、アルゴン等の反応に不活性なガスに希釈したものも使用することができ、また液体状のシアン化水素は、ベンゼン、トルエン、キシレン等の溶媒に希釈したものも使用することができる。
【0035】
本発明に係わるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリルのシアン化水素付加の際に使用するシアン化水素の量は、特に制限はないが、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリルの1モルに対して、通常0.1〜2モルの範囲であり、好ましくは0.2〜1.5の範囲であり、さらに好ましくは、0.5〜1.2の範囲である。
本発明に係わるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリルのシアン化水素付加の際の反応温度は、通常−20〜200℃の範囲であり、好ましくは10〜150℃の範囲であり、さらに好ましくは30〜100℃の範囲である。また、反応圧力は、特に制限はないが、常圧下の条件で十分である。
本発明に係わるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリルのシアン化水素付加の際の反応形式は、回分式、あるいはゼロ価ニッケル錯体触媒、ルイス酸、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリル、配位子、および溶媒を反応器に連続的に供給する連続式のいずれの形式においても実施することができる。
【0036】
本発明に係わるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリルのシアン化水素付加後に生成するテトラシクロドデカンジカルボニトリル類は、式(I)で表されるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,8−ジカルボニトリルおよび式(II)で表されるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,9−ジカルボニトリルを成分とする混合物として得られる。このテトラシクロドデカンジカルボニトリル類を含有する反応液からは、例えば、抽出等によってゼロ価ニッケル錯体触媒、ルイス酸、配位子等を除去し、さらに蒸留等によって未反応のテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリル、溶媒および副生物を除去することで、高濃度の式(I)で表されるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,8−ジカルボニトリルおよび式(II)で表されるテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,9−ジカルボニトリルを成分とする混合物を得ることができる。
【0037】
【実施例】
以下、実施例により本発明の有用性を更に詳細に説明する。
【0038】
【実施例1】
攪拌機、温度計、窒素導入口、シアン化水素導入口、冷却器等を備えた1Lガラス製平底セパラブルフラスコに、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリルを248.1g(1.338mol)、トルエン88.1g、テトラキス(トリフェニルホスファイト)ニッケル4.40g(3.4mmol)、塩化亜鉛0.43g(3.2mmol)、トリフェニルホスファイト4.21g(13.6mmol)を仕込み、室温で気相部の窒素置換を行い、その後60℃に昇温した。次いで、液体シアン化水素36.1g(1.334mol)を2時間に亘り供給した。
シアン化水素供給後の反応液をガスクロマトグラフィーを使用して分析した結果、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリルの転化率は99.7mol%、テトラシクロドデカンジカルボニトリル類(テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,8−ジカルボニトリルとテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,9−ジカルボニトリルを成分とする混合物)の選択率は100mol%であった。
次に、上記で得られた反応液に40%−硫酸2.51gとイオン交換水1.10gを加えて60℃で3時間攪拌した後、25%−水酸化ナトリウム水溶液50.63gを加えて40℃で1時間攪拌処理した。この処理液にトルエン475.8gを添加して40℃で0.5時間攪拌した後、0.5時間静置してトルエン層と水層に2層分離させた。水層を除去した後、残ったトルエン層からトルエンを留去することで、純度99.8%のテトラシクロドデカンジカルボニトリル類(テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,8−ジカルボニトリルとテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,9−ジカルボニトリルを成分とする混合物)282gを得た。
以下に、得られたテトラシクロドデカンジカルボニトリル類(テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,8−ジカルボニトリルとテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,9−ジカルボニトリルを成分とする混合物)のマススペクトルを図1に示す。
【0039】
【実施例2】
実施例1において、反応温度を80℃とし、シアン化水素36.1g(1.337mol)を4時間に亘って供給する以外は、全て同様に操作した。
その結果、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリルの転化率は99.9mol%、テトラシクロドデカンジカルボニトリル類の選択率は100mol%であった。
【0040】
【実施例3】
実施例1において、トルエン248.0gを仕込み、反応温度を40℃とし、シアン化水素35.9g(1.328mol)を供給する以外は、全て同様に操作した。
その結果、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリルの転化率は99.2mol%、テトラシクロドデカンジカルボニトリル類の選択率は100mol%であった。
【0041】
【実施例4】
実施例1において、トルエン247.5gを仕込み、シアン化水素36.0g(1.331mol)を4時間に亘って供給する以外は、全て同様に操作した。その結果、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリルの転化率は99.4mol%、テトラシクロドデカンジカルボニトリル類の選択率は100mol%であった。
【0042】
【実施例5】
攪拌機、温度計、窒素導入口、シアン化水素導入口、冷却器等を備えた1Lガラス製平底セパラブルフラスコに、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリルを251.7g(1.358mol)、トルエン90.6g、テトラキス(トリフェニルホスファイト)ニッケル2.20g(1.7mmol)、塩化亜鉛0.22g(1.6mmol)、トリフェニルホスファイト2.11g(6.8mmol)を仕込み、室温で気相部の窒素置換を行い、その後60℃に昇温した。次いで、液体シアン化水素36.6g(1.355mol)を4時間に亘り供給した。
シアン化水素供給後の反応液をガスクロマトグラフィーを使用して分析した結果、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリルの転化率は99.8mol%、テトラシクロドデカンジカルボニトリル類(テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,8−ジカルボニトリルとテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,9−ジカルボニトリルを成分とする混合物)の選択率は100mol%であった。
【0043】
【実施例6】
実施例5において、塩化亜鉛0.14g(1.0mmol)を仕込み、シアン化水素36.6g(1.354mol)を供給する以外は全て同様に操作した。その結果、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリルの転化率は99.7mol%、テトラシクロドデカンジカルボニトリル類の選択率は100mol%であった。
【0044】
【実施例7】
実施例5において、塩化亜鉛0.70g(5.1mmol)を仕込み、シアン化水素36.5g(1.351mol)を供給する以外は全て同様に操作した。その結果、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリルの転化率は99.5mol%、テトラシクロドデカンジカルボニトリル類の選択率は100mol%であった。
【0045】
【実施例8】
実施例5において、トルエン251.9g、およびトリフェニルホスファイト8.42g(13.6mmol)を仕込み、シアン化水素36.5g(1.349mol)を供給する以外は、全て同様に操作した。
その結果、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−3−ドデセン−8−カルボニトリルの転化率は99.3mol%、テトラシクロドデカンジカルボニトリル類の選択率は100mol%であった。
【0046】
【参考例】
(参考例1)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカンジカルボン酸類の製造
攪拌装置、冷却管を付けたディーンスタークおよび温度計を備えた500ml四つ口フラスコを用いて、水酸化ナトリウム 120g(3.00モル)を蒸留水150gに溶解させた水溶液に対して、80℃で、実施例1で得られたテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカンジカルボニトリル類のトルエン溶液(53重量%) 194.6g(ジカルボニトリル化合物として、0.487モル)を1時間要して滴下した。引き続き、100℃〜105℃まで昇温しながら、トルエンを共沸留去させた後、120℃で15時間を攪拌、反応させた。ガスクロマトグラフ分析で原料が加水分解されて消失していることを確認した後、反応液を室温に冷却し、不溶物を濾別した。濾液を2000mlのフラスコに移した後、33%塩酸水 400g(塩化水素として、3.61モル)をゆっくりと滴下して、酸性になったところで析出した固体を濾過、水洗した。濾別された固体を取り出して減圧乾燥させて、白色粉末状固体として、下記式(VI)(化16)および式(VII)(化17)でそれぞれ表されるテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン−3,8−ジカルボン酸およびテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン−3,9−ジカルボン酸の混合物を 114.8g(0.463モル)を得た。収率95%。
H1−NMR δ(DMSO−d6):
FD−MS : 248(M+)
【0047】
【化16】
【0048】
【化17】
【0049】
(参考例2)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカンジカルボン酸クロリド類の製造
攪拌装置、冷却管を付けたディーンスターク分離器および温度計を備えた1000ml四つ口フラスコに、窒素雰囲気下、参考例1で得られたジカルボン酸類200.0g(0.806モル)、トルエン 500gを秤取し、105〜120℃に加熱、トルエンを共沸させて水を抜き出して脱水を行なった。その後、60℃で、N,N−ジメチルホルムアミド 0.37gを加え、引き続いて、塩化チオニル 230.19g(1.934モル;ジカルボン酸に対して2.4倍モル)を3時間要して65〜70℃で滴下した。さらに同温度で、2時間加熱、攪拌させた後、ガスクロマトグラフで原料が残っていないことを確認して、トルエンを減圧下留去した。得られた粗生成物のジカルボン酸クロリドを、175〜185℃/0.2mmHgで減圧蒸留して、主留分を取り出し、無色透明液体として下記式(VIII)(化18)および式(IX)(化19)でそれぞれ表されるテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン−3,8−ジカルボン酸クロリドおよびテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン−3,9−ジカルボン酸クロリドの混合物を 183.8g(0.645モル)を得た。収率80%。
【0050】
【化18】
【0051】
【化19】
【0052】
(参考例3)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカンジカルボン酸ジメチルエステル類の製造
攪拌装置、冷却管および温度計を取り付けた200ml四つ口フラスコに、窒素雰囲気下、参考例2で得られたジカルボン酸クロリド類 28.50g(0.100モル)およびトルエン50gを秤取し、メタノール 9.60g(0.30モル)を80℃で30分を要して滴下した。副生する塩化水素を留去しながら、さらに同温度で2時間を行なった後、トルエンを留去して、微黄色透明液体の粗生成物を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒; トルエン)により精製して、無色透明液体として下記式(X)(化20)および下記式(XI)(化21)でそれぞれ表されるテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン−3,8−ジカルボン酸メチルエステルおよびテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン−3,9−ジカルボン酸メチルエステルの混合物を 26.20g(0.095モル)を得た。収率95%。
H1−NMR δ(DMSO−d6):
FD−MS: 276(m+)
【0053】
【化20】
【0054】
【化21】
【0055】
(参考例4)ポリ(チオ)エステル重合体の製造および物性測定
撹拌装置、還流冷却管、温度計を設けた内容量300mlの四つ口フラスコに、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド 5.40g(0.035モル)、1,4−シクロヘキサンジオール 7.55g(0.065モル)およびクロルベンゼン 20gを秤取し、窒素雰囲気下で、100℃に加熱、攪拌して溶解させた。一方、前記参考例2で製造したジカルボン酸クロリド類(異性体混合物)28.79g(0.101モル)を100℃で1時間を要して滴下した後、窒素気流下で副生する塩化水素を反応系外へ除去しながら、130℃で8時間反応させた。GPC分析で重量平均分子量8.0万であることを確認した後、100℃で、分子量調節剤(末端停止剤)としてp−tert−ブチルフェノール 0.451g(0.003モル ; ジヒドロキシ化合物およびジチオール化合物の総モル数に対して3モル%)を添加し、同温度で1時間反応させた。反応溶液を室温まで放冷した後、クロロホルム300gを加えて溶解させた。得られたポリエステル重合体のクロロホルム溶液を3回に分けた上で、1リットル容量のホモミキサーを用いて、それぞれ、メタノール800gに対して滴下して、ポリマーを微粒状固体として析出させた。このポリマーを濾過して集め、80℃で20時間減圧乾燥して、白色粉末状固体として目的とする下記式(XII)(化22)および下記式(XIII)(化23)で表される繰り返し構造単位を有するポリ(チオ)エステル共重合体 38.00gを得た。得られた重合体の重量平均分子量は、8.0万であった。
1H−NMRのピーク積分比の解析結果より、該ポリ(チオ)エステル共重合体に含まれる2種類の繰り返し構造単位のモル比率、式(XII)で表される繰り返し構造単位/式(XIII)で表される繰り返し構造単位=65/35であった。
【0056】
【化22】
【0057】
【化23】
【0058】
得られたポリ(チオ)エステル共重合体の物性測定を行ったところ、ガラス転移温度(Tg)は143℃、屈折率(nd)は1.556、アッベ数(νd)は48.0、および吸水率は0.15%であった。また複屈折率は汎用ポリカーボネートと比較して低い値を示した。
なお、以上の参考例で製造したポリ(チオ)エステルの物性測定は、以下の方法により行った。
[重量平均分子量〕
得られたポリ(チオ)エステルの0.2重量%クロロホルム溶液を、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)〔昭和電工(株)製、System−11〕により測定し、重量平均分子量(Mw)を求めた。なお、測定値は標準ポリスチレンに換算した値である。
〔溶融流動開始温度および溶融粘度〕
島津高化式フローテスター(CFT500A)を使用し、荷重100kgで直径0.1cm、長さ1cmのオリフィスを用いて測定した。
[屈折率、アッベ数]
得られたポリ(チオ)エステル共重合体を240℃でプレス機によりプレス成形してシート状試験片を作成し、プルフリッヒ屈折計を用いて20℃で屈折率(nd)およびアッベ数(νd)を求めた。
[複屈折率]
得られたポリ(チオ)エステル共重合体の厚さ5μmの薄膜をシリコンウエハー上に作成した。すなわち、該ポリ(チオ)エステル共重合体の1,1,1−トリクロロエタン溶液(20%濃度)をテフロン(登録商標)製フィルター(ポア径0.45μm)で濾過した後、シリコンウエハー(直径5インチ)上に回転数2000rpm、5秒間の条件下でスピンコートした。その後、70℃で15分間乾燥して溶媒を留去させて、厚さ5μmの該成形材料の薄膜を作成した。プリズムカプラ(メトリコン社製モデル2020)を使用して632nmレーザー光源で、該薄膜のTEモード光およびTMモード光での屈折率を測定し、それらの差として複屈折率を求めた。
[吸水率]
ADTM D−0570に準じて、測定を行なった。
【0059】
【発明の効果】
本発明に係わるのテトラシクロドデカンジカルボニトリル類は、加水分解反応などによって相当するジカルボン酸誘導体を合成することができ、さらに(チオ)アルコールとの反応によってポリ(チオ)エステル重合体を製造することができる。このポリ(チオ)エステル重合体は、透明性、機械的特性、熱的特性が良好であり、且つ、光学特性に優れ[高屈折率、低色収差(高アッベ数)、低複屈折率]、さらには溶融流動性が高く成形加工性が良好である特徴を有している。このため、視力矯正用眼鏡レンズ(眼鏡レンズ)、ピックアップレンズ、撮影機器レンズなどを代表とするプラスチック光学用レンズ、情報記録用光ディスク基板、液晶セル用プラスチック基板、光ファイバー、光導波路などの各種光学用の成形材料として有用である。また、本発明のテトラシクロドデカンジカルボニトリル類は、医薬中間体、農薬中間体等の各種有機化学工業における原料としても有用である。
また本発明に係わるテトラシクロドデカンジカルボニトリル類の製造方法によれば、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,8−ジカルボニトリルやテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,9−ジカルボニトリルを、工業的な生産性で高収率に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、実施例1の同定結果で、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,8−ジカルボニトリルとテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカン−3,9−ジカルボニトリルの混合物のマススペクトル図である。
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