JP4003433B2 - 電磁波シールド用ケース - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電磁波シールド用ケースに関する。
【0002】
【従来の技術】
電磁波シールド用ガスケットは、一般に電磁波シールド用ケース等を構成するケース部材の間隙に用いられる。そのため通常のガスケットと同様にこれらのケース部材間の気密性、水密性を保つことによって電磁波シールド用ケースの内部に水分やダストなどが侵入するのを防ぐ役割の他にケース部材の間隙を電磁波が通過することを遮蔽するという役割を果たす必要がある。
【0003】
この場合ガスケットに電磁波の通過を遮蔽するという電磁波シールド性能を持たせるため、ガスケットに用いるゴム材料等の弾性材料にカーボン繊維、金属繊維、亜鉛華等の電磁波シールド材料を混ぜ込むという手法が取られている。しかし電磁波シールド性能を向上させるためにゴム材料等の弾性材料に大量の電磁波シールド材料を混ぜ込むと、今度はゴム材料が有する弾性が著しく損なわれ、変形が回復しなくなってしまう。その結果今度はガスケットとして必要な水密性、気密性を確保できなくなってしまうという問題が生じていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで水密性、気密性を有すると共に電磁波シールド性能を有する電磁波シールド用ガスケットして、例えば特開2001−160697号公報に電磁波シールドゴムと高弾性ゴムとを組み合わせて形成されたガスケットが開示されている。この電磁波シール用ガスケットにおいては、高弾性ゴムが気密性、水密性を保持する役割を担い、電磁波シールドゴムが電磁波の通過を遮蔽する役割を担っている。
【0005】
このように水密性、気密性を保持する役割と電磁波の通過を遮蔽する役割を異なった部材に分担させる手法が開発されてきた。しかしこのように電磁波の通過を遮蔽する役割を担う部材を水密性、気密性を保持する役割を担う部材とを組み合わせて構成するという手法を取って、電磁波シールド性能を向上させようとすると電磁波の通過を遮蔽する役割を担う部材が大きくなってしまう。その結果電磁波シールド用ガスケット全体の大きさが大きくなってしまう。
【0006】
しかし電子部品の高性能化及び多様化の状況下にあって、電磁波による機能障害が複雑・多岐にわたり発生するようになってきている。そこで電磁波シールド用ガスケットは多様な形状の電磁波シールド用ケースの多様な箇所に用いられることになる。従って電磁波シールド用ガスケットの形状が大きいと電磁波シールド用ケースの多様な箇所に用いることが困難となる。
【0008】
そこで本発明の目的は、小型化できかつ良好な電磁波シールド性能を有する新たな電磁波シールド用ガスケットを備える電磁波シールド用ケースを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段及びその作用】
【0012】
上記課題を解決する本発明の電磁波シールド用ケースは、導電材料からなる第1ケース部材と、該第1ケース部材と対向して配置され導電材料からなるソケット状の第2ケース部材と、該第1ケース部材と該第2ケース部材との間に介在して該第1ケース部材と該第2ケース部材との間隙を封止しかつ該間隙を電磁波が通過することを遮蔽する電磁波シールド用ガスケットと、を有し、該第1ケース部材と該第2ケース部材と該電磁波シールド用ガスケットとで囲まれた内部空間を形成する電磁波シールド用ケースであって、
前記電磁波シールド用ガスケットは、第1弾性材料を主体とし前記間隙を遮断して封止する基材と、第2弾性材料と該第2弾性材料に分散され該第1ケース部材と該第2ケース部材を結ぶ方向に配向した導電性繊維状充填材とを含み該基材の前記内部空間側の表面に被覆された電磁波シールド被覆部材と、を有し、
前記基材は一端部が前記第2ケース部材に形成された溝に保持され、前記電磁波シールド被覆部材は該溝内で一端が前記第2ケース部材と前記基材との間に挟まれ一端面が前記第2ケース部材と接触することで前記第2ケース部材と導通し、前記基材が前記第1ケース部材に圧接され前記電磁波シールド被覆部材の他端面が前記第1ケース部材に接触することで前記第1ケース部材と導通していることを特徴とする。
【0013】
この電磁波シールド用ケースは2つの電磁波シールド用ケース部材間に介在して2つの電磁波シールド用ケース部材の間隙を封止しかつこの間隙を電磁波が通過することを遮蔽する第1の発明の電磁波シールド用ガスケットを有するので、2つの電磁波シールド用ケース部材間に隙間ができないように密着して確実な気密性と水密性を確保することができ、2つの電磁波シールド用ケース部材の間隙を多様な形状とすることが可能である。また単純に導電性繊維状充填材を分散させた従来の電磁波シールド用ガスケットを用いたものよりも電磁波シールド性能を向上させることができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
〈1〉構成等
本発明に用いられる電磁波シールド用ガスケットは、2つの電磁波シールド用ケース部材間に介在して2つの電磁波シールド用ケース部材の間隙を封止しかつこの間隙を電磁波が通過することを遮蔽する電磁波シールド用ガスケット(以下適宜「ガスケット」と略す)である。
【0015】
このガスケットは、基材とこの基材が有する面のうちの2つの電磁波シールド用部材の間隙を遮断する少なくとも一つの遮断面に被覆された電磁波シールド被覆部材とを有する。
【0016】
基材は第1弾性材料を主体とし、2つの電磁波シールド用部材の間隙を遮断して封止する。この第1弾性材料は、合成ゴム、天然ゴム等の架橋ゴム、更に未架橋の熱可塑性エラストマー等を用いることができる。具体的には、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、エチレンプロピレンゴム(EPM、EPDM)、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(VMQ)、天然ゴム等を挙げることができる。なお第1弾性材料は電磁波シールド用ガスケットが使用される使用環境に適合した材料を選択することができる。
【0017】
またこの第1弾性材料に、基材としての必要な弾性を損なわない範囲において、カーボンブラック等の補強材、また酸化亜鉛等の加硫助剤、更には軟化剤、老化防止剤等を適切に添加することができる。
【0018】
このように電磁波シール用ガスケットの基材は弾性の有する第1弾性材料を主体とするので、この電磁波シールド用ガスケットは用いられる部分に密着して、2つの電磁波シールド用部材の間隙を遮断し封止して、この間隙の気密性、水密性を確保することができる。
【0019】
電磁波シールド被覆部材は、基材が有する面のうちの2つの電磁波シールド用部材の間隙を遮断する少なくとも一つの遮断面に被覆されている。この遮断面に電磁波シールド被覆部材が被覆されることで間隙を通過しようとする電磁波を遮蔽することができる。この場合電磁波シールド用ケース部材で囲まれる内部空間側となる基材の側面即ち内側となる基材の側面に電磁波シールド被覆部材を被覆することが好ましい。電磁波シールド被覆部材を基材の外側の側面に被覆すると外気の湿気等の曝されることになって劣化し易くなる。
【0020】
またこの電磁波シールド被覆部材は、両端が間隙を構成する2つの電磁波シールド用ケース部材に接触していることが好ましい。このように電磁波シール被覆部材が2つの電磁波シールド用ケース部材に接触することで電磁波シールド性能を確実なものとすることができる。
【0021】
この電磁波シールド被覆部材は第2弾性材料とこの第2弾性材料に分散された導電性繊維状充填材とを含んでいる。この電磁波シールド被覆部材はマトリックスとなる第2弾性材料に導電性繊維状充填材が分散されているという構成を有している。
【0022】
この導電性繊維状充填材は、本発明の電磁波シールド用ガスケットが用いられる間隙を構成する2つの電磁波シールド用ケース部材を結ぶ方向に配向されている。ここで導電性繊維状充填材が2つの電磁波シールド用ケース部材を結ぶ方向に配向しているということは、2つの電磁波シールド用ケース部材の間隙を電磁波シールド用ケース部材の一方側から他方側へと通過する場合の電磁波の進行方向に対して垂直となっているということである。
【0023】
一般に2つの導電体の間隙を電磁波が一方側から他方側へと通過する場合には、電磁波の振動方向が2つの導電体を結ぶ方向と平行な電磁波は通過を制限されることになる。言い換えれば電磁波の振動方向が2つの導電体の間隙が延びる方向と垂直な電磁波は通過を制限されることになる。また電磁波の振動方向が2つの導電体を結ぶ方向と垂直な電磁波は間隙を通過することができる。言い換えれば振動方向が2つの導電体の間隙が延びる方向と平行な電磁波は間隙を通過することができる。従って本発明の電磁波シールド用ガスケットが用いられる2つの電磁波シールド用ケース部材の間隙においても、2つの電磁波シールド用ケース部材によって、電磁波の振動方向が2つの電磁波シールド用ケース部材を結ぶ方向と平行な電磁波は元々この間隙を通過することを制限されることになる。そして電磁波の振動方向が2つの電磁波シールド用ケース部材を結ぶ方向と垂直な電磁波は、2つの電磁波シールド用ケース部材によって遮蔽されることなく、一般に2つの電磁波シールド用ケース部材間の間隙を通過することができることになる。
【0024】
しかし本発明の電磁波シールド用ガスケットは、この間隙において2つの電磁波シールド用ケース部材を結ぶ方向に導電性繊維状充填材が配向するように構成された電磁波シールド被覆部材を有するので、電磁波の振動方向が2つの電磁波シールド用ケース部材を結ぶ方向と垂直な電磁波はこの間隙の通過を制限されることになる。
【0025】
このように電磁波シールド被覆部材に分散された導電性繊維状充填材を2つの電磁波シールド用ケース部材を結ぶ方向に配向することで、電磁波シールド性能を向上させることができる。
【0026】
この電磁波シールド被覆部材のマトリックスとして用いられる第2弾性材料は、第1弾性材料と同じように、合成ゴム、天然ゴム等の弾性のある架橋ゴム、更に未架橋の熱可塑性エラストマー等を用いることができる。具体的には、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、エチレンプロピレンゴム(EPM、EPDM)、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(VMQ)、天然ゴム等を挙げることができる。この第2弾性材料も電磁波シールド用ガスケットが使用される使用環境に適合した材料を選択することができる。更にこの第2弾性材料にもカーボンブラック等の補強材、また酸化亜鉛等の加硫助剤、更には軟化剤、老化防止剤等を適切に添加することができる。
【0027】
導電性繊維状充填材としては、カーボン繊維、亜鉛華、更にアルミニウム繊維等の金属繊維、フェライト(MO・Fe2O)繊維等の金属化合物繊維を挙げることができる。
【0028】
ここで基材に用いる第1弾性材料と電磁波シールド被覆部材に用いる第2弾性材料は同一の弾性材料を用いることが好ましい。同一種類の弾性材料を用いることにより基材と電磁波シールド被覆部材との接着を確実にすることができる。
【0029】
なお電磁波シールド用ガスケットの形状は、間隙の形状に合わせた適切な形状とすることができる。例えばその断面形状は楕円形、矩形等各種の形状とすることができる。
【0030】
▲2▼製造方法等
基材、電磁波シールド被覆部材は、押出成形、型成形等の適切な方法で成形することができる。なお電磁波シールド被覆部材の導電性繊維状充填材を第2弾性材料に分散させて一定の方向に配向させることは、公知の配向制御の手法で行うことができる。この配向制御の手法は、材料が流れる方向に沿って分子の配列(配向)がなされ或いは材料の中の方向性のある充填材が配列(配向)されるという現象を利用した手法であって、例えば金型を用いて射出成形、トランスファー成形などの方法で製品を成形する場合に、金型に材料を流し入れる口(ゲート)の位置或いは長さによって材料の分子配列(配向)或いは充填材の配列(配向)のあり方を設定することができる。
【0031】
成形された基材と電磁波シールド被覆部材とは適切な手法で接着することができる。第1弾性材料と第2弾性材料としていずれも架橋ゴムを用いる場合には、型成形の手法で成形するときに同時に加硫成形して基材と電磁波シールド被覆部材とを接着することができる。即ち第1弾性材料と第2弾性材料としていずれも架橋ゴムを用い、これらの架橋ゴムが未架橋の段階で基材の遮断面となる面と電磁波シールド被覆部材とを密着させておいて同時に加硫成形することが好ましい。このようにすることで第1弾性材料と第2弾性材料との接触面を跨って架橋ゴムの架橋が生じて、基材と電磁波シールド被覆部材とを強固に接着することができる。この場合においても第1弾性材料と第2弾性材料には同一種類の架橋ゴムを用いることにより、より強固な接着を得ることができる。
【0032】
また第1弾性材料と第2弾性材料の材質を考慮して適切な接着剤を用いて接着することができる。
【0033】
▲3▼使用形態
本発明の電磁波シールド用ガスケットは、電磁波シールド用ケースに用いられる2つの電磁波シールド用ケース部材の間隙に使用される。このように間隙に使用されることで、2つの電磁波シールド用ケース部材の間隙を封止して水密性、気密性を確保することができ、また間隙を電磁波が通過することを遮蔽することができる。
【0036】
本発明の電磁波シールド用ケースは、共に導電材料から形成された第1ケース部材及び第2ケース部材と、これらのケース部材間に介在する電磁波シールド用ガスケットを有する。この電磁波シールド用ガスケットについては既に述べたとおりである。
【0037】
第1ケース部材及び第2ケース部材とは、電子回路を収納する電磁波シールド用ケースを構成する部材である。この第1ケース部材及び第2ケース部材は、一般的に鉄板のプレス成形品やアルミニウムダイカスト品等の導電材料で形成され、電磁波シールド性能を有している。
【0038】
この第1ケース部材及び第2ケース部材としては、例えば電磁波シールド用ケースの蓋体とその蓋体によって閉じられる開口部を有する本体等を挙げることができる。
なお第1ケース部材及び第2ケース部材の一方の側には電磁波シールド用ガスケットが挿入される溝を形成しておき、他方の側のケース部材には電磁波シールド用ガスケットを圧接しておくことができる。いずれにせよ電磁波シールド用ガスケットは第1ケース部材及び第2ケース部材の間隙を遮断して気密性、水密性を確保すると共に電磁波を遮蔽するものである。
【0041】
この電磁波シールド用ケースを用いることでその内部に収納される電子回路を水その他の液体、空気中のダストから保護することができ、また電磁波を遮蔽することができる。また電磁波シールド用ガスケットを小型化できることから、電磁波シールド用ケースの形状を多様な形状とすることができ、設計上の自由度が大きくなる。
【0042】
(実施例)
以下本発明の電磁波シールド用ガスケットの実施例を具体的に説明する。実施例の電磁波シールド用ケースを図1に示す。この実施例の電磁波シールド用ケースはエアダスト、水、グリコールエーテル等を主成分とするブレーキフルード等の液体が存在する環境での使用を想定している。図1は使用されている状態での実施例の電磁波シールド用ケースの断面図である。
【0043】
〈1〉構成
電磁波シールド用ガスケット30は、基材31とこの基材31が有する遮断面の一つに被覆した電磁波シールド被覆部材32とを有している。ここでこの基材31と電磁波シールド被覆部材32の組成について表1に示す。なお基材31及び電磁波シールド被覆部材32を構成する要素についてはカーボン繊維32aを除いて図示を省略した。
【0044】
【表1】
【0045】
基材31の主体となる第1弾性材料は、エチレンプロピレン共重合体ゴム(以下適宜「EPDMゴム」と略す)を用いた。また電磁波シールド被覆部材32に用いる第2弾性材料についても同様にEPDMゴムを用いた。EPDMゴムはグリコールエーテル等を主体とするブレーキフルードや水に対して耐性が良好である。
【0046】
基材31はEPDMゴムとカーボンブラックと亜鉛華(ZnO)を主成分として無機物とから構成されている。第1弾性材料のEPDMゴムは基材全体の質量を100質量%として56質量%であり、3.7質量%の硫黄が含まれている。そして補強材として用いられるカーボンブラックは43質量%含まれ、無機物は1質量%含まれている。
【0047】
電磁波シールド被覆部材32はEPDMゴムとカーボンブラックとカーボン繊維32aと亜鉛華(ZnO)を主成分として無機物とから構成されている。第2弾性材料のEPDMゴムは基材全体の質量を100質量%として65質量%であり、3.2質量%の硫黄が含まれている。そして補強材として用いられるカーボンブラックは27質量%含まれ、カーボン繊維は導電性繊維状充填材であって、15質量%含まれている。また無機物は3質量%含まれている。なおこのカーボン繊維32aは、図1において第1ケース部材10と第2ケース部材20を結ぶ方向即ち垂直方向に配向して分散されている。
【0048】
電磁波シールド被覆部材32は、図1において、基材10の左側に被覆されている。この基材31と電磁波シールド被覆部材32との接着は、それぞれのEPDMゴムが架橋する前の段階で基材31と電磁波シールド被覆部材32を接触させておいて、基材31に用いるEPDMゴム及び電磁波シールド被覆部材32に用いるEPDMゴムを同時に加硫成形することで接着させた。このように接触させた状態で加硫成形することで基材31と電磁波シールド被覆部材32との接触面を跨って架橋が生じ、基材31と電磁波シールド被覆部材32との接着が強固になる。
【0049】
〈2〉使用形態
電磁波シールド用ガスケット30は第1ケース部材10とソケット状の第2ケース部材20との間隙に用いられている。この第1ケース部材10と第2ケース部材20は共に導電性材料からなり、電磁波シールド用ケース部材である。
【0050】
電磁波シールド用ガスケット30の一端は第1ケース部材10の端面に圧接されている。そしてソケット状の第2ケース部材20に挿入されている。このように電磁波シールド用ガスケット30は一端を第1ケース部材10に圧接され、他端をソケット状の第2ケース部材20に挿入されることでこの第1ケース部材10と第2ケース部材20の間隙を遮断し封止してこの間隙における気密性、水密性を確保している。またこの電磁波シールド用ガスケット30に用いたEPDMゴムは、上述したようにグリコールエーテル等を主成分とするブレーキフルードや水等に対する耐性に優れているので、このようなブレーキフルードや水が存在する環境に使用しても長く使用することができる。
【0051】
また電磁波シールド用ガスケット30の電磁波シールド被覆部材32は第1ケース部材10と第2ケース部材との間隙を遮断しているので、この間隙を電磁波が通過することを遮蔽することができる。また電磁波シールド被覆部材32に分散されているカーボン繊維32aは第1ケース部材10と第2ケース部材20との間隙を通過しようとする電磁波を効果的に遮蔽することができる。
【0052】
本実施例においては、導電体である第1ケース部材10と第2ケース部材20の位置関係からは、図1において電磁波の振動方向が垂直方向の電磁波は元々通過が制限され、電磁波の振動方向が水平方向の電磁波がこの間隙を通過することが可能である。しかしカーボン繊維32aがこの間隙において垂直方向に配向しているので、電磁波の振動方向が水平方向の電磁波はこのカーボン繊維32aによって通過を遮蔽されることになる。
【0053】
またこの電磁波シールド被覆部材32は第1ケース部材10と第2ケース部材20と接触しているので、電磁波シールド性能を確保することができる。
【0054】
(測定試験)
上記実施例の電磁波シールド用ガスケット30の基材31に用いた組成物と電磁波シールド被覆部材32に用いた組成物とを用いて以下に述べる測定試験を行った。なお以下の測定試験において、基材31に用いた組成物を一般ゴム、電磁波シールド被覆部材に用いた組成物を電磁波シールドゴムという。即ち一般ゴムと電磁波シールドゴムの組成は、上記表1に記載した組成である。
【0055】
▲1▼硬さ等
一般ゴム及び電磁波シールドゴムについてそれぞれの硬さ(Hs)、引張破断強度(MPa)、引張破断伸び(%)及び圧縮永久歪み(%)を測定した。その測定結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
硬さ、引張破断強度、引張破断伸びの測定方法はJIS K6253及び6251に規定された測定方法で行った。また圧縮永久歪みについてはJIS K6262に規定された測定方法で行い、100℃で70時間経過後のデータを測定した。
【0058】
これらの測定結果から以下のことが分かる。一般ゴムは、硬さ、引張破断強度、引張破断伸び、圧縮永久歪み等について良好な結果を得ている。従って一般ゴムは良好な弾力性を有し、気密性、水密性を確保することに優れている。また水密性、液密性を確保するために重要な特性である圧縮永久歪みに優れている。従って一般ゴムは気密性、水密性を確保することに優れた材料であることが分かる。
【0059】
これに対してカーボン繊維を分散した電磁波シールドゴムは、一般ゴムと比較すると、硬くまた弾性が低下していることが分かる。従って電磁波シールドゴムだけでは水密性、気密性を確保することが困難ということが分かる。特に水密性、液密性を確保するために重要な特性である圧縮永久歪みが劣るために電磁波シールドゴム単独では気密性、水密性を良好に機能させることができない。
【0060】
▲2▼電磁波シールド性能
アドバンテスト社製シールド性能試験装置を用いて、透過減衰性測定方法により電磁波シールドゴムと一般ゴムについて電界シールド性能及び磁界シールド性能の測定試験を行った。
【0061】
この電界シールド性能及び磁界シールド性能の測定試験においては、板状に形成した電磁波シールドゴム及び一般ゴムを試片として用いた。そして電波暗室の中において、図2に模式的に示すように、1cmの間隔を置いて設置された送信アンテナSAと受信アンテナRAの間に板状の試片TPを垂直に立てた状態で、送信アンテナSAから受信アンテナRAに電波を送信し、板状の試片TPの電界シールド性能及び磁界シールド性能を測定した。
【0062】
なお電磁波シールドゴムに分散されたカーボン繊維は、繊維長が概ね140〜200μmで、繊維径が概ね7μmであった。
【0063】
第1の測定試験として、厚さ4mm、厚さ3mm、厚さ2mm及び厚さ0.5mmの電磁波シールドゴムの試片と厚さ2mmの一般ゴムの試片を用意して、これらの試片の電界シールド性能及び磁界シールド性能を上述の透過減衰測定方法で測定した。
【0064】
なおこの測定試験では、電磁波シールドゴムの試片については、電磁波シールドゴムに分散されているカーボン繊維が送信アンテナから受信アンテナに送信される電波の進行方向及び電波の振幅方向の双方に対して垂直に配向した状態となるようにした。
【0065】
この第1の測定試験の測定結果を図3と図4に示す。図3において電界シールド性能を示し、図4において磁界シールド性能を示す。
【0066】
図3に示す測定結果から、一般ゴムの試片より電磁波シールドゴムの試片の方が電界シールド性能が優れていることが分かる。詳しく述べると一般ゴムは450MHz以下の周波数帯域では僅かながら電界シールド性能を示し、450MHzを超える周波数帯域では殆ど電界シールド性能を有していない。これに対して電磁波シールドゴムは100〜1000MHzの周波数帯域でも良好な電界シールド性能を示している。また厚み依存性が大きいことも分かる。
【0067】
また図4に示す測定結果から、磁界シールド性能についても電磁波シールドゴムの方が、一般ゴムよりも優れている。また電磁波シールドゴムについても厚み依存性が大きいことが分かる。
【0068】
従って電磁波シールド用ガスケットを構成する場合に、一般ゴムだけでは電磁波シールド性能を得ることはできず、電磁波シールド性能を得るためには電磁波シールドゴムを用いる必要があることが分かる。
【0069】
第2の測定試験として、電磁波シールドゴムの厚さ4mmの試片の電界シールド性能を上述の透過減衰測定方法で測定した。この測定試験では測定試験に用いる電磁波の振幅方向に対して、この厚さ4mmの電磁波シールドゴムの試片についてカーボン繊維の配向の方向を垂直とした場合と平行とした場合とを測定した。なおいずれも場合の電磁波の進行方向に対しては、カーボン繊維の配向の方向は垂直である。この第2の測定試験の結果を図5に示す。
【0070】
また第3の測定試験として、電磁波シールドゴムの厚さ4mmの試片、厚さ3mmの試片、厚さ2mmの試片及び厚さ0.5mmの試片を用意した。そしてこれらの電磁波シールドゴムの試片のそれぞれについて、電磁波の振幅方向に対してカーボン繊維が垂直に配向した場合と平行にした場合において電界シールド性能が最大となるときの数値を上述の透過減衰測定方法で測定した。なおこの場合の電磁波の進行方向に対しては、カーボン繊維の配向の方向は垂直である。その測定結果を図6に示す。
【0071】
図5及び図6に示す測定結果から、電磁波の振幅方向に対してカーボン繊維を垂直に配向した場合の方が、平行に配向した場合よりも電界シールド性能が優れていることが分かる。従ってカーボン繊維の配向方向を電磁波の進行方向と振幅方向の双方に対して垂直となるように電磁波シールドゴムを用いることで電界シールド性能を向上させることができる。従って同じ電界シールド性能を得ようとするならば、電磁波の振幅方向に対してカーボン繊維を垂直に配向した場合の方が電磁波シールドゴムの厚さは薄くてもよいことになる。
【0072】
例えば図6から最大電界シールド性能として30dBの数値が必要とした場合に、カーボン繊維が電磁波の振幅方向に対して垂直に配向している場合には0.5mm程度の厚さでよいが、カーボン繊維が電磁波の振幅方向に対して平行に配向している場合には2mm程度の厚さが必要である。従ってカーボン繊維の配向方向を振幅方向に対して垂直とした場合には、平行とした場合の4分の1程度の厚さでよいことになる。
【0073】
従って電磁波シールドゴムが用いられる箇所を通過しようとする電磁波の進行方向と振幅方向を考慮して、カーボン繊維の配向方向をその両者に垂直になるように定めれば、良好な電界シールド性能を得ることができることが分かる。
【0074】
なおこのカーボン繊維の配向方向が電磁波の進行方向と振幅方向の両者に対して垂直ということは、2つの電磁波シールド用ケース部材の間隙に電磁波シールド用ガスケットが用いられた場合に、電磁波シールド被覆部材に分散されているカーボン繊維が2つの電磁波シールド用ケース部材を結ぶ方向に配向しているということである。
【0075】
その結果電磁波シールドゴムの厚さを薄くすることができ、電磁波シールド用ガスケットを小型化することが可能となり、設計上の自由度が大きくなる。
【0076】
▲3▼密着性
更に電磁波シールドゴムと一般ゴムの密着性について測定した。まず図7に示すように架橋する前の段階の幅30mmの長方形の電磁波シールドゴムAと同様に幅30mmの長方形の一般ゴムBとが部分的に重なるように直列に並べた。電磁波シールドゴムAと一般ゴムBとが重なっている部分Cの長さは30mmであり、電磁波シールドゴムAと一般ゴムBの部分的に重ねて直列に並べた長さは150mmである。
【0077】
そしてこの状態で同時に加硫成形を行って、電磁波シールドゴムAと一般ゴムBとの接触面とを跨ぐように架橋を生じさせた。この結果電磁波シールドゴムAと一般ゴムBとが30mmの長さに亘って接着して長さ150mm、幅30mmの一つに繋がった成形体を得た。
【0078】
この成形体についてJIS K6251に規定された方法で引張試験を実施した。その結果電磁波シールドゴムAと一般ゴムBとが重なっている部分Cは接触面で解離することなく、この成形体自体が破断した。
【0079】
ここから第1弾性材料及び第2弾性材料として用いる架橋ゴムが架橋する前の段階で基材と電磁波シールド部材とを接触させておいて同時に加硫成形して接触面を跨ぐように架橋することで基材と電磁波シールド部材とを強固に接着することができることが分かる。従って基材と電磁波シールド部材とが剥がれることで水密性、気密性が損なわれるということが生じないことが分かる。
【0080】
【発明の効果】
本発明に用いられる電磁波シールド用ガスケットは、小型化できかつ良好な電磁波シールド性能を得ることができる。即ち電磁波シールド被覆部材を薄くしても良好な電磁波シールド性能を維持することができるので、電磁波シールドガスケットを小型化することができる。
【0081】
また電磁波シールドガスケットは、基材に用いる第1弾性材料と電磁波シールド被覆部材に用いる第2弾性材料を同一種類の架橋ゴムとし、重ね合わされた状態で加硫成形することで基材と電磁波シールド被覆部材とが強固に接着することができる。
【0082】
本発明の電磁波シールド用ケースは、小型化できかつ良好な電磁波シールド性能を得ることができる電磁波シールド用ガスケットを用いることで、多様の形状とすることができ、設計上の自由を得ることできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 使用した状態における実施例の電磁波シールド用ガスケットの断面図である。
【図2】 透過減衰測定方法において用いる試片と送信アンテナと受信アンテナの位置関係を模式的に示した図である。
【図3】 第1の測定試験で得た各試片の電界シールド性能を示したグラフである。
【図4】 第1の測定試験で得た各試片の磁界シールド性能を示したグラフである。
【図5】 第2の測定試験で得た電界シールド性能を示したグラフである。
【図6】 第3の測定試験で得た最大電界シールド性能を示したグラフである。
【図7】 密着試験で用いる一般ゴムと電磁波シールドゴムとを重ね合わせて接着させた様子を示す図である。
【符号の説明】
10:第1ケース部材
20:第2ケース部材
30:電磁波シールド用ガスケット
31:基材
32:電磁波シールド被覆部材
32a:カーボン繊維
TP:試片
SA:送信アンテナ
RA:受信アンテナ
A:電磁波シールドゴム
B:一般ゴム
C:電磁波シールドゴムと一般ゴムとが重なっている部分
Claims (3)
- 導電材料からなる第1ケース部材と、該第1ケース部材と対向して配置され導電材料からなるソケット状の第2ケース部材と、該第1ケース部材と該第2ケース部材との間に介在して該第1ケース部材と該第2ケース部材との間隙を封止しかつ該間隙を電磁波が通過することを遮蔽する電磁波シールド用ガスケットと、を有し、該第1ケース部材と該第2ケース部材と該電磁波シールド用ガスケットとで囲まれた内部空間を形成する電磁波シールド用ケースであって、
前記電磁波シールド用ガスケットは、第1弾性材料を主体とし前記間隙を遮断して封止する基材と、第2弾性材料と該第2弾性材料に分散され該第1ケース部材と該第2ケース部材を結ぶ方向に配向した導電性繊維状充填材とを含み該基材の前記内部空間側の表面に被覆された電磁波シールド被覆部材と、を有し、
前記基材は一端部が前記第2ケース部材に形成された溝に保持され、前記電磁波シールド被覆部材は該溝内で一端が前記第2ケース部材と前記基材との間に挟まれ一端面が前記第2ケース部材と接触することで前記第2ケース部材と導通し、前記基材が前記第1ケース部材に圧接され前記電磁波シールド被覆部材の他端面が前記第1ケース部材に接触することで前記第1ケース部材と導通していることを特徴とする電磁波シールド用ケース。 - 前記導電性繊維状充填材は、カーボン繊維、亜鉛華及び金属繊維のうちの少なくとも1種以上である請求項1記載の電磁波シールド用ケース。
- 前記第1弾性材料及び前記第2弾性材料は同一種類の架橋ゴムであって、重ね合わされた状態で加硫成形されたことによって前記基材と前記電磁波シールド被覆部材とが接着されている請求項1又は2記載の電磁波シールド用ケース。
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