JP4002033B2 - 分割型複合繊維 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱水処理により容易に分割する複合繊維及びその製造方法に関する。より詳細には、眼鏡のレンズ、カメラその他の光学的装置、鏡及び窓ガラス、ショーウインドウ、金属製品、高級な家具、漆器、各種食器、宝飾類など各種製品のワイピングクロス、柔らかい合成紙、極細の高級風合を有する衣料用素材等に好適な分割性良好な複合繊維を断糸や毛羽が生じることなく工程性良好にかつ後加工処理での公害の問題もなく合理的プロセスで安価に提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
清掃用布帛や紙類は、セルロース系繊維などの天然物由来の繊維からなるものが多い。セルロースなどの天然物は、かなり清掃力はあるが、強度、耐久性の点で劣る。例えば、清掃中に布帛から繊維の断片が脱落し、逆に埃を発生する問題点が見られる。一方、合成繊維は、強度、耐久性の点で優れているが、清掃力の点で劣るのが実状であった。
【0003】
近年、合成繊維のフィブリル化技術の進歩により、フィブリル化繊維で構成された布帛も用いられるようになり、一つの技術としてポリエステルとポリアミドからなる分割型複合繊維が提案されているが、布帛とした後のポリエステルとポリアミドの剥離性が十分でないため、目的とするフィブリル化が不十分であったり、また後加工工程でフィブリル化を十分に進めるため、一方の成分が膨潤化する薬剤で処理する手法等が採用されていた。
【0004】
フィブリル化のために布帛を薬剤処理すると(i)薬剤が布帛中に残存しやすく、染色する場合に染斑が発生したり、堅牢度が悪化する;(ii)薬剤の廃液による公害の問題や廃液処理に多大のコストが必要となる;(iii)薬剤処理により布帛が過大に収縮しすぎ、製品として好ましくない;などの問題点があった。
【0005】
また、ポリエステルとポリアミドからなる分割型複合繊維は、紡糸と延伸が別工程のFOY的紡糸工程性、延伸工程性が悪く毛羽、断糸が発生しやすく、収率が悪く、また、DSY又はSDYの合理化プロセスであるワンステップ紡糸でも同様に毛羽、断糸が発生しやすく、コスト的に高くなるという問題点があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、各種衣料用、非衣料用の布帛に好適な熱水処理で容易に分割するポリエステル系複合繊維を提供することであり、また、かかる分割型複合繊維を断糸、毛羽が生じることなく、合理的な複合繊維仕様及びプロセスで提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、粘度平均重合度が200〜500、鹸化度が90〜99.99モル%、ビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率が70〜99.9モル%であり、融点が160℃〜230℃で、アルカリ金属イオンがナトリウムイオン換算で0.0003〜1重量部含有されている水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(A)と、熱可塑性ポリエステル(B)からなり、一方の成分を他方の成分が完全に包囲することなく、両成分が接合された横断面を有する分割型複合繊維であり、かつB成分ポリエステルが無機微粒子を含有しており、該無機微粒子の一次平均粒子径(μm)とポリエステル中の無機微粒子含有量(重量%)が下式(1)〜(3)を満足する分割型複合繊維である。
0.01≦一次平均粒子径(μm)≦5.0 (1)
0.02≦無機微粒子含有量(重量%)≦10.0 (2)
0.001≦X≦5.0 (3)
但し、X=一次平均粒子径(μm)×無機微粒子含有量
また、本発明は、上記分割型複合繊維を含む繊維集合体である。
【0008】
さらに本発明は、上記分割型複合繊維を含む繊維集合体を、熱水処理することによりA成分ポリマーであるポリビニルアルコールを除去し、B成分ポリマーであるポリエステルからなる極細繊維を形成させることを特徴するポリエステル系極細繊維を含有する繊維製品の製造方法である。
本発明における繊維集合体とは、本発明の分割型複合繊維を少なくとも一部に含む糸条や織物、編物、不織布などの布帛等を意味するものであり、繊維製品とは、該繊維集合体からA成分ポリマーが除去された後のものを表す。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明で分割型複合繊維のA成分として使用される水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(以下PVAと略す)とは、ポリビニルアルコールのホモポリマーは勿論のこと、例えば、共重合、末端変性、および後反応により官能基を導入した変性ポリビニルアルコールも包含するものである。
【0010】
PVAの粘度平均重合度(以下、単に重合度と略記する)は200〜500であり、230〜470が好ましく、250〜450が特に好ましい。重合度が200未満の場合には紡糸時に十分な曳糸性が得られず、繊維化できない。重合度が500を越えると溶融粘度が高すぎて、紡糸ノズルからポリマーを吐出することはできない。また重合度500以下のいわゆる低重合度のPVAを用いることにより、水溶液で繊維を溶解するときに溶解速度が速くなるばかりでなく繊維が溶解する時の収縮率を小さくすることができる。
【0011】
PVAの重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、PVAを再鹸化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求められるものである。
P=([η]×103/8.29)(1/0.62)
重合度が上記範囲にある時、本発明の目的がより好適に達せられる。
【0012】
本発明で使用されるPVAの鹸化度は90〜99.99モル%でなければならない。93〜99.98モル%が好ましく、94〜99.97モル%がより好ましく、96〜99.96モル%が特に好ましい。鹸化度が90モル%未満の場合には、PVAの熱安定性が悪く熱分解やゲル化によって満足な溶融紡糸を行うことができないのみならず、後述する共重合モノマーの種類によってはPVAの水溶性が低下し、本発明の複合繊維を得ることができない場合がある。
一方、鹸化度が99.99モル%より大きいPVAは安定に製造することができず、安定した繊維化もできない。
【0013】
本発明において、トライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基とは、PVAのd6−DMSO溶液での500MHz プロトンNMR(JEOL GX−500)装置、65℃測定による水酸基プロトンのトライアッドのタクティシティを反映するピーク(I)を意味する。
ピーク(I)はPVAの水酸基のトライアッド表示のアイソタクティシティ連鎖(4.54ppm)、ヘテロタクティシティ連鎖(4.36ppm)およびシンジオタクティシティ連鎖(4.13ppm)の和で表わされ、全てのビニルアルコールユニットにおける水酸基のピーク(II)はケミカルシフト4.05ppm〜4.70ppmの領域に現れることから、本発明のビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率は、100×(I)/(II)で表わされるものである。
【0014】
本発明においては、水酸基3連鎖の中心水酸基の量を制御することで、PVAの水溶性、吸湿性など水に関わる諸物性、強度、伸度、弾性率など繊維に関わる諸物性、融点、溶融粘度など溶融紡糸性に関わる諸物性をコントロールできる。これはトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基は結晶性に富み、PVAの特長を発現させるためと思われる。
【0015】
本発明の繊維におけるPVAのトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基の含有量は70〜99.9モル%であり、72〜99モル%が好ましく、74〜97モル%がより好ましく、75〜96モル%がさらに好ましく、76〜95モル%が特に好ましい。
PVAのトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基の含有量が70モル%未満である場合には、ポリマーの結晶性が低下し、繊維強度が低くなると同時に、溶融紡糸時に繊維が膠着して巻取り後に巻き出しできない場合がある。また本発明で目的とする易分割型の複合繊維が得られない場合がある。
PVAのトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基の含有量が99.9モル%より大の場合には、ポリマーの融点が高いため溶融紡糸温度を高くする必要があり、その結果、溶融紡糸時のポリマーの熱安定性が悪く、分解、ゲル化、ポリマーの着色が起こる。
【0016】
また、本発明のPVAがエチレン変性のPVAである場合、下記式を満足することで本発明の効果は更に高くなるものである。
−1.5×Et+100≧モル分率≧−Et+85
ここで、モル分率(単位:モル%)はビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率を表し、Etはビニルアルコール系共重合体が含有するエチレン含量(単位:モル%)を表す。
【0017】
本発明に用いられるPVAの融点(Tm)は160〜230℃であり、170〜227℃が好ましく、175〜224℃がより好ましく、180〜220℃が特に好ましい。融点が160℃未満の場合にはPVAの結晶性が低下し繊維強度が低くなると同時に、PVAの熱安定性が悪くなり、繊維化できない場合がある。一方、融点が230℃を越えると溶融紡糸温度が高くなり紡糸温度とPVAの分解温度が近づくために目的とする複合繊維を安定に製造することができない。
【0018】
PVAの融点は、DSCを用いて、窒素中、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温後、室温まで冷却し、再度昇温速度10℃/分で250℃まで昇温した場合のPVAの融点を示す吸熱ピークのピークトップの温度を意味する。
【0019】
本発明で使用されるPVAは、ビニルエステル系重合体のビニルエステル単位を鹸化することにより得られる。ビニルエステル単位を形成するためのビニル化合物単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でもPVAを得る点からは酢酸ビニルが好ましい。
【0020】
本発明の複合繊維を構成するA成分のPVA重合体は、ポリビニルアルコールのホモポリマーであっても共重合単位を導入した変性PVAであつてもよいが、溶融紡糸性、水溶性、繊維物性の観点からは、共重合単位を導入した変性ポリビニルアルコールを用いることが好ましい。共重合単量体の種類としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類、アクリル酸およびその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル等のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル類、アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類、オキシアルキレン基を有する単量体、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル類、酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有のα−オレフィン類、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸または無水イタコン酸等に由来するカルボキシル基を有する単量体;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等に由来するスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等に由来するカチオン基を有する単量体が挙げられる。これらの単量体の含有量は、25モル%以下、特に20モル%以下であることが好ましい。
【0021】
これらの単量体の中でも、入手のしやすさなどから、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、エーテルグリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル類、アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類、オキシアルキレン基を有する単量体、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有のα−オレフィン類に由来する単量体が好ましい。
【0022】
特に、共重合性、溶融紡糸性および複合繊維の易分割性の観点からエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンの炭素数4以下のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類がより好ましい。炭素数4以下のα−オレフィン類および/またはビニルエーテル類に由来する単位は、PVA中に0.1〜20モル%存在していることが好ましく、さらに4〜15モル%が好ましく、6〜13モル%が特に好ましい。
さらに、α−オレフィンがエチレンである場合において、繊維物性が高くなることから、特にエチレン単位が4〜15モル%、より好ましくは6〜13モル%導入された変性PVAを使用することが好ましい。
【0023】
本発明で使用されるPVAの重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法が挙げられる。その中でも、無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法が通常採用される。溶液重合時に溶媒として使用されるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。共重合に使用される開始剤としては、α,α’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシジカーボネートなどのアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0℃〜150℃の範囲が適当である。
【0024】
本発明の複合繊維におけるA成分のPVA中のアルカリ金属イオン(B)の含有割合は、PVA(A)100重量部に対してナトリウムイオン換算で0.0003〜1重量部であり、0.0003〜0.8重量部が好ましく、0.0005〜0.6重量部がより好ましく、0.0005〜0.5重量部が特に好ましい。アルカリ金属イオンの含有割合が0.0003重量部未満の場合には、得られた繊維が十分な水溶性を示さず未溶解物が残る場合がある。またアルカリ金属イオンの含有量が1重量部より多い場合には溶融紡糸時の分解及びゲル化が著しく繊維化することができない。
アルカリ金属イオンとしては、カリウムイオン、ナトリウムイオン等があげられる。
【0025】
本発明において、特定量のアルカリ金属イオン(B)をPVA中に含有させる方法は特に制限されず、PVAを重合した後にアルカリ金属イオン含有の化合物を添加する方法、ビニルエステルの重合体を溶媒中において鹸化するに際し、鹸化触媒としてアルカリイオンを含有するアルカリ性物質を使用することによりPVA中にアルカリ金属イオンを配合し、鹸化して得られたPVAを洗浄液で洗浄することにより、PVA中に含まれるアルカリ金属イオン含有量を制御する方法などが挙げられるが後者のほうが好ましい。
なお、アルカリ金属イオンの含有量は、原子吸光法で求めることができる。
【0026】
鹸化触媒として使用するアルカリ性物質としては、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムがあげられる。鹸化触媒に使用するアルカリ性物質のモル比は、酢酸ビニル単位に対して0.004〜0.5が好ましく、0.005〜0.05が特に好ましい。鹸化触媒は、鹸化反応の初期に一括添加してもよいし、鹸化反応の途中で追加添加してもよい。
鹸化反応の溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジエチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどがあげられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましく、含水率を0.001〜1重量%に制御したメタノールがより好ましく、含水率を0.003〜0.9重量%に制御したメタノールがより好ましく、含水率を0.005〜0.8重量%に制御したメタノールが特に好ましい。洗浄液としては、メタノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エステル、ヘキサン、水などがあげられ、これらの中でもメタノール、酢酸メチル、水の単独もしくは混合液がより好ましい。
洗浄液の量としてはアルカリ金属イオン(B)の含有割合を満足するように設定されるが、通常、PVA100重量部に対して、300〜10000重量部が好ましく、500〜5000重量部がより好ましい。洗浄温度としては、5〜80℃が好ましく、20〜70℃がより好ましい。洗浄時間としては20分間〜10時間が好ましく、1時間〜6時間がより好ましい。
【0027】
また本発明の目的や効果を損なわない範囲で、必要に応じて銅化合物等の安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤を重合反応時、またはその後の工程で添加することができる。特に熱安定剤としてヒンダードフェノール等の有機系安定剤、ヨウ化銅等のハロゲン化銅化合物、ヨウ化カリウム等のハロゲン化アルカリ金属化合物を添加すると、繊維化の際の溶融滞留安定性が向上するので好ましい。
【0028】
また必要に応じて平均粒子径が0.01μm以上5μm以下の微粒子を0.05重量%以上10重量%以下、重合反応時、またはその後の工程で添加することができる。微粒子の種類は特に限定されず、たとえばシリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の不活性微粒子を添加することができ、これらは単独で使用しても2種以上併用してもよい。特に平均粒子径が0.02μm以上1μm以下の無機微粒子が好ましく、紡糸性、延伸性が向上する。
【0029】
以上、説明したPVAをA成分ポリマーとして用いることが、本発明の重要な要件である。
一方、B成分ポリマーとして用いるポリエステル成分は、溶融紡糸可能なポリエステルであれば特に制限されないが、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート或いはエチレンテレフタレート単位および/またはトリメチレンテレフタレート単位および/またはブチレンテレフタレート単位および/またはヘキサメチルテレフタレート単位を主たる繰り返し構成単位とし、これに少量の他の共重合単位を含有させた共重合ポリエステルが好ましい。
【0030】
ポリエステルとして、エチレンテレフタレート単位および/またはトリメチレンテレフタレート単位および/またはブチレンテレフタレート単位および/またはヘキサメチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とする共重合ポリエステルを用いる場合は、共重合ポリエステル中における共重合単位の割合が20モル%以下であるのが好ましく、その際の共重合単位の例としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタリンジカルボン酸、5−アルカリ金属スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸:シュウ酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能性カルボン酸:またはそれらのエステル形成性成分に由来するカルボン酸単位:ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブタンジオール、エチレングリコール、ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトールなどから誘導される単位を挙げることができる。そして、共重合ポリエステルは前記した共重合単位の1種または2種以上を含んでいることができる。
【0031】
本発明で用いられるポリエステルは、ある一定の条件を満たす無機微粒子を含有することが好ましい。すなわち、本発明においてはポリエステル中の無機微粒子の一次平均粒子径(μm)とポリマー中の含有量(重量%)の積(X)が0.001≦X≦5.0を満足することが好ましい。積Xが0.001未満では、複合繊維にループや毛羽、繊度斑などが発生し工程性不良で好ましくないばかりでなく、得られた繊維中に未延伸部が多発し衣料用途には使用困難であるばかりか、本発明の重要な目的である熱水処理での分割性が悪くなる。分割性が不良となる理由については、現時点では明確になっていないが、後加工工程での熱水処理時にA成分ポリマーとB成分ポリマーの界面に、無機微粒子を核とする歪発生が不十分で、熱水の浸透性が劣り分割速度が遅くなると考えられる。
積Xが5.0を越えると後加工での分割性は良好であるが、繊維化工程中での毛羽、断糸が多発し工程性不良となり好ましくない。
【0032】
無機微粒子の種類は、繊維を形成するポリエステルに対して劣化作用などをもたず、それ自体で安定性に優れる無機微粒子であればいずれも使用できる。本発明で有効に用い得る無機微粒子の代表例としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、酸化チタン、硫酸バリウムなどを挙げることができ、これらの無機微粒子は単独で使用しても、または2種以上を併用してもよい。2種以上を併用して用いる場合は、それぞれの無機微粒子の粒子径(a1,a2,・・・an)と含有量(b1,b2,・・・bn)の積の和が上記範囲を満たす必要がある。つまり、X=a1×b1+a2×b2+…an×bnのXが上記範囲を満たすことが必要である。
【0033】
また、無機微粒子の一次平均粒子径は0.01〜5.0μmであることが好ましく、0.03〜3.0μmであることがより好ましい。無機微粒子の一次平均粒子径が0.01μm未満であると、延伸を行うための加熱帯域の温度や糸条の走行速度、走行糸条にかかる張力などに僅かな変動が生じても、複合繊維にループ、毛羽、繊度斑などが発生するようになる。一方、無機微粒子の一次平均粒子径が3.0μmを越えると繊維の延伸性が低下して製糸性が不良になり、複合繊維の製造時に断糸などが発生し易くなる。なお、無機微粒子の一次平均粒子径とは、遠心沈降法を用いて測定したときの値をいう。
【0034】
さらに、本発明において無機微粒子の含有量は、でポリエステルの重量に基づいて、0.02〜10.0重量%であることが好ましく、0.05〜5.0重量%であることがより好ましい。無機微粒子の含有量がポリエステルの重量に基づいて、0.02重量%未満であると延伸を行うための加熱帯域の温度や糸条の走行速度、走行糸条にかかる張力などに僅かな変動を生じても、得られる複合繊維にループや毛羽、繊度斑などが発生するようになり、一方、無機微粒子の含有量が10.0重量%を超えると、繊維の延伸工程で無機微粒子が走行糸条と空気との間の抵抗を過度なものにして、毛羽の発生、断糸の発生などにつながり工程が不安定になる。
【0035】
ポリエステル中への無機微粒子の添加方法は特に制限されず、ポリエステルを溶融紡出する直前までの任意の段階でポリエステル中に無機微粒子が均一に混合されているようにして添加、混合すればよい。例えば、無機微粒子はポリエステルの重縮合時の任意の時点に添加しても、重縮合の完了したポリエステル中にペレットの製造時なとに後から添加しても、またはポリエステルを紡糸口金から紡出させる前の段階でポリエステル中に無機微粒子を均一に溶融混合するようにしてもよい。
【0036】
本発明で使用されるポリエステル成分は、上記した無機微粒子の他に、必要に応じて、蛍光増白剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加水分解防止剤、帯電防止剤、難燃剤、着色剤およびその他の添加剤の1種または2種以上を含有してもよい。
【0037】
本発明においてポリエステル成分の好ましいもう一つの要件は、ポリエステルが特定の範囲の還元粘度を有することである。粘度測定は、ウベローデ型粘度計を用いて、O−クロルフェノール溶液中、濃度1g/100cc、30℃で測定し、その時の還元粘度(ηsp/C)が0.65〜0.95dl/gであるポリエステルが、紡糸性や得られる複合繊維の分割性の点から好ましい。還元粘度が0.65より低いと繊維化工程中での毛羽、断糸が発生し工程性不良となるのみならず、複合繊維の分割性が悪くなり好ましくない。一方、0.95より高くなると、同様に繊維化工程性が不良でしかも分割性が低下し好ましくない。還元粘度が0.65〜0.95dl/gの範囲が複合繊維の分割性が好適な理由としては、A成分ポリマーであるPVA成分との延伸後の分子構造上の歪差が最大であり、かつ紡糸時の曳糸性が良好となる粘度であるためと思われる。しかも後述するような高速紡糸による製造方法には、かかる粘度範囲が最良である。前述したように、ポリエステルの好適な粘度範囲とPVAの好適な範囲の組合せにより、高速紡糸性が良く、かつ得られた複合繊維の複合二成分界面の分子構造上の歪差が最大となり、後加工工程での良好な熱水処理による分割性が発現すると考えられる。
【0038】
更にポリエステル中に特定の一次平均粒子径と特定の含有量の無機微粒子が存在することにより、化学的及び物理的処理を施した時の易分割性に好適な相乗効果を及ぼしている。
【0039】
本発明における複合繊維は、A成分ポリマーであるPVA及びB成分ポリマーであるポリエステルが、単一フィラメントの横断面において一方の成分が他方の成分を完全に包囲しない複合形態で、単一フィラメントの長手方向に沿って接合されているものをいい、具体的には図1に示される如きサイドバイサイド型(A-B)の複合繊維、図2の如きサイドバイサイドを繰返した型(-A-B-A-B-)の多層積層型複合繊維、図3〜図6の如く放射形状を有する成分Aと該放射部を補完する形状を有する他の成分Bからなる複合繊維、図7の如く放射型の形状を有する成分A、繊維断面中心方向に向いた楔型形状を有する他の成分Aおよびこれら成分Aを補完するV字型の形状を有する成分Bとからなる複合繊維及び図8の如く中心に中空部のあるサイドバイサイド繰返し型複合繊維などを挙げることができる。
【0040】
本発明の複合繊維の大きな特徴は、熱水処理によりA成分ポリマーが選択的に溶出し、容易に分割し、ポリエステル系マイクロファイバーが形成されることである。従来のアルカリ水溶液による処理やポリアミドとポリエステルの分割繊維をポリアミド膨潤剤による処理等の化学的処理や仮撚加工等の物理的な処理を施すことなく容易に分割することが特徴である。
【0041】
次に、本発明の複合繊維の製造方法について説明する。本発明の複合繊維の製造方法は、まず、ポリエステルとPVAをそれぞれ個別の押出機で溶融押出し、各々紡糸ヘッドへ導入し、目的とする個々の複合形状を形成させる紡糸口金を経由して溶融紡出する。この場合の溶融紡出温度、溶融紡出速度などは、複合2成分のうちより高い融点を持つポリエステルの融点Tm(℃)に対して、溶融紡出温度をTm+約20℃(例えば用いるポリエステルがポリエチレンテレフタレートの場合は一般に約280℃)に設定し、かつ溶融紡出速度(溶融紡出量)を約20〜50g/紡糸孔1mm2・分程度とすると、品質の良好な複合繊維を良好な紡糸工程性で得ることができるので好ましい。
【0042】
また、紡糸口金における紡糸孔の大きさや数、紡糸孔の形状なども特に制限されず、目的とする複合繊維の単繊維繊度、総合デニール数、断面形状などに応じて調節することができる。一般に、紡糸孔(単孔)の大きさを約0.018〜0.07mm2程度にしておくのが望ましい。紡糸口金の孔周囲にノズル汚れが堆積して糸切れが発生する場合は、ノズル孔出口がテーパー状に広がった形状にしたり、口金雰囲気をスチームシールして酸素を遮断する手法が好ましい。
【0043】
そして、上記によって溶融紡出した複合繊維を、一旦複合2成分ポリマーのうちガラス転移温度の低い方のポリマーのガラス転移温度以下の温度、好ましくはガラス転移温度よりも10℃以上低い温度に冷却する。この場合の冷却方法や冷却装置としては、紡出した複合繊維をそのガラス転移温度以下に冷却できる方法や装置であればいずれでもよく特に制限されないが、紡糸口金の下に冷却風吹き付け筒などの冷却風吹き付け装置を設けておいて、紡出されてきた複合繊維に冷却風を吹き付けてガラス転移温度以下に冷却するようにするのが好ましい。その際に冷却風の温度や湿度、冷却風の吹き付け速度、紡出繊維に対する冷却風の吹き付け角度などの冷却条件も特に制限されず、口金から紡出されてきた複合繊維を繊維の揺れなどを生じないようにしながら速やかに且つ均一にガラス転移温度以下にまで冷却できる条件であればいずれでもよい。そのうちでも、一般に、冷却風の温度を約20〜30℃、冷却風の湿度を20〜60%、冷却風の吹き付け速度を0.4〜1.0m/秒程度として、紡出繊維に対する冷却風の吹き付け方向を紡出方向に対して垂直にして紡出した複合繊維の冷却を行うのが、高品質の複合繊維を円滑に得ることができるので好ましい。また、冷却風吹き付け筒を用いて前記の条件下で冷却を行う場合には、紡糸口金の直下にやや間隔をあけてまたは間隔をあけないで、長さが約80〜160cm程度の冷却風吹き付け筒を配置するのが好ましい。また、引取り速度は、一旦巻き取ってから延伸処理を行う場合、紡糸直結延伸の一工程で紡糸延伸して巻き取る場合、延伸を行わずに高速でそのまま巻き取る場合でそれぞれ異なるが、おおよそ500m/分〜7000m/分の範囲で引取られる。500m/分未満で紡糸できないことはないが、生産性の点からは意味が少ない。一方、7000m/分を超えるような超高速では、繊維の断糸が起こりやすい。
【0044】
次に、紡糸延伸を一工程で巻き取る好適手法の一例を述べる。
口金から吐出した紡糸原糸をガラス転移温度以下にまで冷却し、該複合繊維を引き続いてそのまま直接加熱帯域に導入して延伸する。加熱帯域の温度はポリエステルの種類などに応じて異なり得るが、一般にポリエステルのガラス転移温度よりも40℃以上高い温度としておくと、得られる複合繊維の物性を実用上満足のゆくものとすることができるので好ましく、例えばポリエチレンテレフタレートを一成分として用いる複合繊維の場合は加熱帯域の温度を約100℃以上とすることが好ましい。加熱帯域の上限温度は、加熱帯域内で繊維間の融着や糸切れ、単糸切れなどが生じないような温度であればよい。加熱帯域の種類や構造は、加熱帯域内を走行する複合繊維を加熱帯域内の加熱手段などに接触せずに加熱することができ、しかも加熱帯域内を走行する糸条とそれを包囲する空気との間に抵抗を生じさせて糸条張力を増大させて、繊維に延伸を生じさせることができる構造であればいずれでもよい。そのうちでも、加熱帯域としては、筒状の加熱帯域がこのましく用いられ、特に管壁自体がヒーターとなっている内径が約20〜50mm程度のチューブヒーターなどが好ましい。加熱帯域の紡糸口金からの設置位置、加熱帯域の長さなどは、複合繊維の種類、複合2成分ポリマーの紡出量、複合繊維の冷却温度、複合繊維の走行速度、加熱帯域の温度、加熱帯域の内径などに応じて調節できるが、一般に紡糸口金直下から加熱帯域の入口までの距離を0.5〜3.0m程度とし、そして加熱帯域の長さを1.0〜2.0m程度としておくと、加熱帯域内で複合繊維を加熱して均一に円滑に延伸することができるので望ましい。
【0045】
そして、加熱帯域で延伸された複合繊維に対して、必要に応じて油剤を付与してから高速で引き取る。本発明では、上記した一連の工程からなる延伸した複合繊維の製造工程を、複合繊維の引取速度を2500m/分以上にして行うことが必要であり、引取速度が3500m/分以上であるのが好ましい。複合繊維の引取速度が2500m/分未満であると、加熱帯域において繊維の延伸が十分に行われなくなり、得られる複合繊維の機械的物性が低下し、しかも上記した一連の工程からなる本発明の方法が円滑に行われず、特に加熱帯域における糸条の張力変動、過加熱などが生じて、均一な延伸が行われにくくなる。また、本発明の方法を行うに当たっては、複合繊維の{引取速度(m/分)}÷{複合繊維の紡出量(25g/紡出孔1mm2・分)}の値が約140〜200の範囲になるようにするのが好ましい。
【0046】
紡糸された繊維には、通常油剤が付与されるが、本発明のA成分ポリマーは水溶性であり、吸湿性も高いので、水を含まないストレート油剤を付与することが好ましい。
油剤成分は水を含まない静電剤成分と平滑剤成分とからなるが、たとえば、ポリオキシエチレンラウリルホスフェートジエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンセチルホスフェートジエタノールアミン塩、アルキルイミダゾリウムエトサルフェート、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテルカチオン化物、モノステアリン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンモノステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレントリステアリン酸ソルビタン、ステアリン酸グリセライド、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリエチレングリコールステアレート、ポリエチレングリコールアルキルエステル、ポリオキシエチレンカスターワックス、プロピレンオキサイド/エチレンオキサイド(PO/EO)ランダムエーテル、PO/EOブロックエーテル、PO/EO変性シリコーン、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド、高分子アマイド、ブチルセロソルブ、鉱物油、中性油から選んで配合したものを用いることができる。
油剤を付与する方法は、通常行われているローラータッチ、烏口による方法でよい。
【0047】
また、本発明で使用されるPVAは生分解性を有しており、活性汚泥処理あるいは土壌に埋めておくと分解されて水と二酸化炭素になる。該PVAは水溶液の状態で活性汚泥で連続処理すると2日〜1ケ月でほぼ完全に分解される。生分解性の点から該繊維の鹸化度は90〜99.99モル%が好ましく、92〜99.98モル%がより好ましく、93〜99.97モル%が特に好ましい。また該繊維の1,2−グリコール結合含有量は1.2〜2.0モル%が好ましく、1.25〜1.95モル%がより好ましく、1.3〜1.9モル%が特に好ましい。
PVAの1,2−グリコール結合量が1.2モル%未満の場合には、PVAの生分解性が悪くなるばかりでなく、溶融粘度が高すぎて紡糸性が悪くなる場合がある。PVAの1,2−グリコール結合含有量が2.0モル%以上の場合にはPVAの熱安定性が悪くなり紡糸性が低下する場合がある。
【0048】
PVAの1,2−グリコール結合含有量はNMRのピークから求めることができる。鹸化度99.9モル%以上に鹸化後、十分にメタノール洗浄を行い、次いで90℃減圧乾燥を2日間したPVAをDMSO−D6に溶解し、トリフルオロ酢酸を数滴加えた試料を500MHzのプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて80℃で測定する。
ビニルアルコール単位のメチン由来のピークは3.2〜4.0ppm(積分値A)、1,2−グリコール結合の1つのメチン由来のピークは3.25ppm(積分値B)に帰属され、次式で1,2−グリコール結合含有量を算出できる。ここでΔは変性量(モル%)を表す。
1,2−グリコール結合含有量(モル%)=100B/{100A/(100−Δ)}
【0049】
本発明では、最終的に得られる分割型複合繊維の単繊維繊度や総デニール数などは特に制限されず、複合繊維の用途などに応じて適宜調節することができるが、本発明の方法は特に単繊維繊度が0.5から6デニール、総デニール数が30〜150デニールの複合繊維(マルチフイラメント糸)を製造するのに適している。
【0050】
本発明の複合繊維は、各種繊維集合体(繊維構造物)として用いることが可能である。本発明にいう繊維集合体とは、分割型複合繊維単独よりなる編織布、不織布は言うに及ばず、分割型複合繊維を一部使用してなる編織布や不織布、例えば通常の天然繊維、化学繊維、合成繊維との交編織布、或いは混紡糸としての編織布、不織布等であってもよいが、編織布或いは不織布に占める分割型複合繊維の場合は、10重量%以上、特に30重量%以上である事が本発明の十分な効果が得られる点で好ましい。また編成、製織或いは不織布となした後に、必要に応じて針布起毛等による起毛を行ったものであっても本発明には何ら差しつかえない。
【実施例】
次に本発明を具体的に実施例で説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部及び%はことわりのない限り重量に関するものである。
【0051】
[PVAの分析方法]
PVAの分析方法は特に記載のない限りはJIS−K6726に従った。
変性量は変性ポリビニルエステルあるいは変性PVAを用いて500 MHzプロトン−NMR(JEOL GX−500)装置による測定から求めた。
アルカリ金属イオンの含有量は原子吸光法で求めた。
【0052】
本発明のPVAのトライアッド表示による3連鎖の水酸基量の割合は以下の測定により求めた。
PVAを鹸化度99.5モル%以上に鹸化後、十分にメタノール洗浄を行い、次いで90℃減圧乾燥を2日間したPVAを用いて、d6−DMSOに溶解した後、500 MHz プロトン−NMR(JEOL GX−500)装置により65℃測定を行った。PVA中のビニルアルコールユニットの水酸基由来のピークはケミカルシフト4.05ppmから4.70ppmの領域に現れ、この積分値をビニルアルコールユニット量(II)とする。PVAのトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基はそれぞれアイソタクティシティ連鎖の場合4.54ppm、ヘテロタクティシティ連鎖の場合4.36ppmおよびシンジオタクティシティ連鎖の場合は4.13ppmに現れる。この3者の積分値の和をトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基量(I)とする。
本発明のPVAのビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率は、100×(I)/(II)で表される。
【0053】
[融点]
PVAの融点は、DSC(メトラー社、TA3000)を用いて、窒素中、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温後室温まで冷却し、再度、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温した場合のPVAの融点を示す吸熱ピークのピークトップの温度で表した。
【0054】
また、ポリエステル中の無機微粒子の一次平均粒子径、複合繊維の紡糸性は、以下のように測定または評価した。
【0055】
無機微粒子の一次平均粒子経の測定:遠心粒経測定器(堀場製作所製「CAPA−5000型」)を用いて得られた遠心沈降曲線に基づいて算出した。
【0056】
複合繊維の紡糸性:
複合繊維を100kg紡糸し、紡糸時の断糸の有無を調べると共に得られた分割型複合繊維における毛羽の発生の有無を目視により観察し、下記に示す評価基準にしたがって評価した。
【0057】
複合繊維の紡糸性の評価基準
◎:紡糸時に断糸が何ら発生せず、しかも得られた複合繊維には毛羽が全く発生しておらず、紡糸性が極めて良好である。
○:紡糸時に断糸が発生せず、そして得られた複合繊維には毛羽が僅かに発生していたが、紡糸性がほぼ良好である。
△:100kgを紡糸したときに、断糸が3回まで発生し、紡糸性が不良である。
×:100kgを紡糸したときに、断糸が3回よりも多く発生し、紡糸性が極めて不良である。
【0058】
実施例1
[エチレン変性PVAの製造]
攪拌機、窒素導入口、エチレン導入口および開始剤添加口を備えた100L加圧反応槽に酢酸ビニル29.0kgおよびメタノール31.0kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が5.9kg/cm2となるようにエチレンを導入仕込みした。開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(AMV)をメタノールに溶解した濃度2.8g/L溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の重合槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液170mlを注入し重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽圧力を5.9kg/cm2に、重合度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて610ml/hrでAMVを連続添加して重合を実施した。10時間後に重合率が70%となったところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去しポリ酢酸ビニルのメタノール溶液とした。得られた該ポリ酢酸ビニル溶液にメタノールを加えて濃度が50%となるように調整したポリ酢酸ビニルのメタノール溶液200g(溶液中のポリ酢酸ビニル100g)に、46.5g(ポリ酢酸ビニルの酢酸ビニルユニットに対してモル比(MR)0.10)のアルカリ溶液(NaOHの10%メタノール溶液)を添加して鹸化を行った。アルカリ添加後約2分で系がゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、60℃で1時間放置して鹸化を進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾瀘別して得られた白色固体のPVAにメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥PVAを得た。
【0059】
得られたエチレン変性PVAの鹸化度は98.4モル%であった。また該変性PVAを灰化させた後、酸に溶解したものを用いて原子吸光光度計により測定したナトリウムの含有量は、変性PVA100重量部に対して0.03重量部であった。
また、重合後未反応酢酸ビニルモノマーを除去して得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をn−ヘキサンに沈殿、アセトンで溶解する再沈精製を3回行った後、80℃で3日間減圧乾燥を行って精製ポリ酢酸ビニルを得た。該ポリ酢酸ビニルをDMSO−d6に溶解し、500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて80℃で測定したところ、エチレンの含有量は10モル%であった。上記のポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をアルカリモル比0.5で鹸化した後、粉砕したものを60℃で5時間放置して鹸化を進行させた後、メタノールソックスレーを3日間実施し、次いで80℃で3日間減圧乾燥を行って精製されたエチレン変性PVAを得た。該PVAの平均重合度を常法のJIS K6726に準じて測定したところ330であった。該精製PVAの1,2−グリコール結合量および水酸基3連鎖の水酸基の含有量を500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)装置による測定から前述のとおり求めたところ、それぞれ1.50モル%および83%であった。
さらに該精製された変性PVAの5%水溶液を調整し厚み10ミクロンのキャスト製フィルムを作成した。該フィルムを80℃で1日間減圧乾燥を行った後に、DSC(メトラー社、TA3000)を用いて、前述の方法によりPVAの融点を測定したところ206℃であった。以上のPVAをA成分ポリマーとした。
【0060】
一方、B成分ポリマーとして用いたポリエステルは、イソフタル酸8モル%共重合し、かつ一次平均粒子径0.04μmのシリカを1.0重量含有し、かつ還元粘度0.85(オルソクロロフェノール中濃度1g/dl,30℃)の変性ポリエチレンテレフタレートを常法によりポリマー作成した。
【0061】
次に、A成分ポリマーとB成分ポリマーを個別に溶融押出し、その後それぞれのポリマー部を図2で示されるような変性ポリエステルが6層、PVAが5層となる多層型複合形状を形成させる紡糸ヘッドへ供給し、計量部分の径が0.25mmφ、ランド長0.5mmでしかもノズル孔出口がラッパ状に広がり出口径が0.5mmφになっている24ホール丸孔ノズルから、紡糸温度260℃で溶融紡出した。
【0062】
紡糸口金直下に長さ1.0mの横吹き付け型の冷却風吹き付け装置を設置しておき、口金から紡出した複合繊維を直ちにその冷却風吹き付け装置に導入して、温度25℃、湿度65RH%に調整した冷却空気を0.5m/秒の速度で紡出繊維に吹き付けて、繊維を50℃以下(冷却風吹き付け装置の出口での繊維の温度=40℃)にまで冷却した。
【0063】
上記で50℃以下に冷却した複合繊維を、紡糸口金直下から1.6mの位置に設置した長さ1.0m、内径30mmのチューブヒーター(内壁温度180℃)に導入してチューブヒーター内で延伸した後、チューブヒーターから出てきた繊維にガイドオイリング方式で油剤を付与し、引き続いて1対(2個)の引き取りローラーを介して4000m/分の引取速度で巻取って、延伸した75デニール24フィラメント複合繊維を製造した。
【0064】
繊維化工程性は良好で問題なかった。得られた複合繊維で筒編地を作成し、98℃×60分間熱水中で処理したところ、A成分が完全に溶出し、変性ポリエステルの分割繊維が得られることが確認できた。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
実施例2〜5
実施例1で用いたA成分ポリマーPVAの代わりに表1に示すPVAを用い、他の条件は実施例1と同様の方法で複合繊維を得、同様の方法で編地を作成し、その後98℃×60分の熱水処理を実施したところ、実施例1と同様の良好なポリエステル系分割繊維が得られた。また、いずれも繊維化工程性は良好で問題なかった。
【0068】
実施例6〜7
実施例6は、変性ポリエチレンテレフタレート中のシリカ含有量を5.0重量%とし、実施例7は変性ポリエチレンテレフタレート中の一次平均粒子径0.3μmのシリカを用い、含有量を2.5重量%としたこと以外は実施例1と同様に実施した。いずれも繊維化工程性良好でかつ得られた複合繊維の熱水分割性も良好であった(表2)。
【0069】
実施例8〜11
実施例8は、B成分ポリエステルの還元粘度を0.75としたこと以外は実施例1と同様に実施した。実施例9は、複合断面形状を図6の形状とし、実施例10は、複合断面形状を図8の形状としたこと以外は実施例1と同様に実施した。実施例11は、複合比率をA/B=1/3としたこと以外は実施例1と同様に実施した。いずれも繊維化工程性良好でかつ得られた複合繊維の熱水分割性も良好であった(表2)。
【0070】
実施例12〜13
実施例12は、実施例1で用いたシリカの代わりに、一次平均粒子径の0.4μmの酸化チタンを用い、変性ポリエチレンテレフタレート中の酸化チタン含有量を0.5重量%とし、実施例13は、シリカの代わりに一次平均粒子径0.6μmの硫酸バリウムを用い、変性ポリエチレンテレフタレートの硫酸バリウム含有量を1.0重量%としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。いずれも繊維化工程性良好でかつ得られた複合繊維の糸物性、熱水処理分割性とも満足のいくものであった(表2)。
【0071】
実施例14〜16
B成分ポリマーとして、実施例14は、ポリブチレンテレフタレートを用い、実施例15はポリヘキサメチレンテレフタレートを用い、実施例16はポリエチレンテレフタレートを用い、それぞれのポリマーの融点に応じて紡糸口金温度を変更したこと以外は実施例1と同様に複合繊維を得た。該複合繊維は熱水処理による分割性も良好であった。また、繊維化工程性も良好であった(表2)。
【0072】
比較例1〜5
実施例1で用いたPVAの代わりに表1に示すPVAを用い、実施例1と同様にして複合紡糸を実施した。比較例1及び4は、A成分ポリマーであるPVAの溶融粘度が高すぎ、B成分ポリマーとの複合流形成が不安定となり、安定な紡糸原糸採取ができなかった。紡糸温度を260℃から更に上げるとPVAの熱分解及びゲル化が発生し、長時間紡糸原糸巻取りができなかつた。
【0073】
比較例2は、PVAの溶融粘度が低すぎて曳糸性不良となり単糸切れが頻発した。比較例3は、PVAが熱分解、ゲル化して紡糸性が悪く巻き取れなかった。比較例5は、PVAの結晶性が低下しているためと推定される、紡糸原糸が一部熱や吸湿で膠着して糸を解舒することが安定してできず、延伸性不良であった。
【0074】
比較例6
表2に示すように無機微粒子を何ら添加していない変性ポリエチレンテレフタレートを用いたこと以外は、実施例1と同様にして複合繊維を製造したが、糸質の均斉度が悪く毛羽発生も多く、繊維化工程性も不十分なレベルであった。また、得られた複合繊維の熱水分割性も実施例1より1.5倍程度時間が長くかかった。
【0075】
比較例7〜10
比較例7は、一次平均粒子径0.04μmのシリカを0.02重量%含有した変性ポリエチレンテレフタレートを用い、比較例8は、一次平均粒子径0.4μmのシリカを15重量%含有した変性ポリエチレンテレフタレートを用い、比較例9,10は、それぞれ一次平均粒子径0.4μmの酸化チタンを0.002重量%と15重量%含有した変性ポリエチレンテレフタレートを用いたこと以外は実施例1と同様に実施した。比較例2と4は、得られた複合繊維の分割性が実施例1と比較して低いレベルであり、かつ工程性も不満足なものであった。比較例3,5は、いずれも繊維化工程性不良であった(表2)。
【0076】
【発明の効果】
本発明によれば、毛羽の発生や太さ斑などがなく、しかも強度や伸度などの力学的特性にも優れる高品質のポリエステルとポリビニルアルコールによる分割型複合繊維を断糸することなく良好な工程性で直接紡糸延伸法によって生産性よく合理的に製造することができる。しかも得られた分割型複合繊維は、後加工工程での化学的又は物理的処理によることなく、熱水処理により容易に分割しうる特徴を有している。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の分割型複合繊維の複合形態の一例を示す繊維断面図。
【図2】本発明の分割型複合繊維の複合形態の他の一例を示す繊維断面図。
【図3】本発明の分割型複合繊維の複合形態の他の一例を示す繊維断面図。
【図4】本発明の分割型複合繊維の複合形態の他の一例を示す繊維断面図。
【図5】本発明の分割型複合繊維の複合形態の他の一例を示す繊維断面図。
【図6】本発明の分割型複合繊維の複合形態の他の一例を示す繊維断面図。
【図7】本発明の分割型複合繊維の複合形態の他の一例を示す繊維断面図。
【図8】本発明の分割型複合繊維の複合形態の他の一例を示す繊維断面図。
【符号の説明】
A:分割型複合繊維の一成分
B:分割型複合繊維の他の一成分
Claims (5)
- 粘度平均重合度が200〜500、ケン化度が90〜99.99モル%、ビニルアルコールユニットに対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率が70〜99.9モル%であり、融点が160〜230℃であるポリビニルアルコールで、かつアルカリ金属イオンをナトリウムイオン換算で0.0003〜1重量部含有している水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール成分(A)と熱可塑性ポリエステル成分(B)からなり、一方の成分を他方の成分が完全に包囲することなく、両成分が接合された横断面を有する分割型複合繊維であり、かつ、B成分ポリマーである熱可塑性ポリエステルに無機微粒子が含有されており、該無機微粒子の一次平均粒子径(μm)とポリエステル中の無機微粒子含有量(重量%)が下式(1)〜(3)を満たすことを特徴とする分割型複合繊維。
0.001≦一次平均粒子径(μm)≦5.0 (1)
0.02≦無機微粒子含有量(重量%)≦10.0 (2)
0.001≦X≦5.0 (3)
但し、X=一次平均粒子径(μm)×無機微粒子含有量 - A成分ポリマーであるポリビニルアルコールが、炭素数4以下のαオレフィン単位および/またはビニルエーテル単位を0.1〜20モル%含有する変性ポリビニルアルコールである請求項1記載の分割型複合繊維。
- A成分ポリマーであるポリビニルアルコールがエチレン単位を4〜15モル%含有する変性ポリビニルアルコールである請求項2に記載の分割型複合繊維。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の分割型複合繊維を少なくとも一部に含む繊維集合体。
- 請求項4に記載の繊維集合体を熱水処理することにより、分割型複合繊維のA成分ポリマーを除去し、B成分であるポリエステルからなる極細繊維を形成させることを特徴とするポリエステル系極細繊維を含有する繊維製品の製造方法。
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