JP3995779B2 - タイヤ滑り止め具の締付用ベルト - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、タイヤ滑り止め具の滑り止め具をタイヤに締め付けて密着させる締付用ベルトに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、非金属製タイヤ滑り止め具をタイヤに装着するときは、タイヤ滑り止め具のタイヤ周方向に沿う側縁に所定間隔毎に止着されているフックに非伸長性の締付用ベルトをリング状に掛け止めし、ゴムバンド、ワンウェイバックル等による締付力を上記締付用ベルトに与えてタイヤ滑り止め具をタイヤに密着させる形式の締付具が使用されている。
【0003】
上記締付用ベルトは、車両走行中にタイヤ滑り止め具のフックとの間での相対的な摺動による摩擦を受けているため、フックとの摺接面に当たる側の表面が摩耗・損傷を受けやすいという問題があり、このような問題を解決するための技術文献として、たとえば実開平1−99705号、実用新案登録第2512491号、実公平7−51308号等の実用新案に関する各種公報が刊行されている。
【0004】
上記実開平1−99705号公報に記載されたタイヤ滑り止め具用紐は、ほぼ長さ方向に延びる高強度低伸度繊維よりなる芯組織と、合成繊維のモノフィラメント糸よりなる表面組織とよりなるものとされている。
【0005】
実用新案登録第2512491号公報に記載されたタイヤ滑り止め具用ベルトは、長さ方向に延びる高強度繊維よりなる芯組織と、該芯組織の外周を被覆する表面組織とからなり、前記表面組織のうち、タイヤ滑り止めネットの掛止フックに接触する底面及び両側面部分はモノフィラメント糸で形成され、他の部分はマルチフィラメント糸で形成されるか、また、前記芯組織と表面組織とにおける表面組織をフィラメント糸で形成し、さらにこの表面組織の全面を耐摩耗性の樹脂層により被覆するか、あるいは前記表面組織を形成する個々のマルチフィラメント糸を耐摩耗性の樹脂で被覆するものである。
【0006】
実公平7−51308号公報に記載されたタイヤ滑り止め具用ベルトは、長さ方向に延びる高強度繊維よりなる芯組織と、該芯組織の外周を被覆する表面組織とからなり、前記表面組織が高強度ポリエチレン繊維のマルチフィラメント糸で形成されているものである。
【0007】
上記技術文献は、いずれもタイヤ滑り止め具の締付用ベルトを芯組織と表面組織とにより構成し、表面組織を形成する繊維ないし糸の材質、撚り構造を特定するか、あるいは耐摩耗性樹脂を被覆したものである。これらの締付用ベルトにはタイヤへの装着作業に支障のない程度の柔軟性が与えられるとともに、タイヤ滑り止め具のフックとの摩擦による損傷を防止する耐摩耗性が増強する利点があり、それなりの評価は得られているけれども、締付用ベルトの柔軟性と耐摩耗性との相反する性質を同時に十分に確保するのは困難であるという問題があった。
【0008】
とくに、締付用ベルト、ゴムバンド、ワンウェイバックルが組み合わされた締付具においては、締付用ベルトの柔軟性を損なわずに、耐摩耗性に優れたものとすることは、締付具としての機能を支障なく保持する上で種々の制約があるため、耐摩耗性が必ずしも十分ではないものとなり、締付用ベルトの寿命がタイヤ滑り止め具の寿命よりも早く消滅するという問題があった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、上記のように、タイヤに装着されたタイヤ滑り止め具の一方の長さ方向側縁に所定間隔をおいて止着されているフックに掛け止めする締付用ベルトにおいて、タイヤ滑り止め具のフックと摺接する面側における締付用ベルトの耐摩耗性を、これとは反対の面側における締付用ベルトの耐摩耗性よりも増強させ、これと同時に締付用ベルトの取扱いに際して必要とされる柔軟性が損なわれないようにすることを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
この発明は、締付用ベルトの表面組織のうち、タイヤ滑り止め具のフックと摺接する面側の表面組織の厚さを、これとは反対側の表面組織の厚さよりも厚くすることによって上記課題を解決するものである。
【0011】
この手段によれば、タイヤ滑り止め具のフックと摺接する面側の表面組織の耐摩耗性が、これとは反対の面側の表面組織の耐摩耗性よりも増強されるが、これにより締付用ベルトの剛性は、その片面側が高くなるだけであるから、柔軟性が損なわれることもない。
【0012】
この発明において、締付用ベルトの表面組織が、経糸及び緯糸による二重織り(縦口袋織り)構造とされている場合に、タイヤ滑り止め具のフックと摺接する片面側の表面組織の厚さを他の面側の表面組織よりも厚くする手段としては、該片面側を構成する経糸を2本以上用いて1本の緯糸と互いに交錯させるか、又は該片面側を構成する経糸は、他方の面側を構成する経糸よりも太さの大きい糸を用いて、1本の経糸と交錯させるか、あるいは該片面側を構成する経糸は、他方の面側を構成する経糸よりも太さの大きい2本以上の糸を、1本の経糸と互いに交錯させる。
【0013】
このようにすると、従来の織成設備・工程を大きく変えずに単に経糸のみの太さ、配列本数を適宜選択するだけの簡易な手段で締付用ベルトの片面側の表面組織の厚さを所望の厚さに調整することができる。
【0014】
この発明の締付用ベルトは、タイヤ滑り止め具に単独の部品として使用される場合と、後述する実施の形態のように、締付用ベルトに他の部品を組み合わせた複数の部品からなる締付具として使用される場合とがある。
【0015】
【発明の実施の形態】
この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明の締付具を構成部品とする締付具の一例である。
【0016】
同図の締付具1は、非伸長性の化学繊維よりなる締付用ベルト10と、伸縮性のあるゴムバンド30とをワンウェイバックル40を介して二重ループ状に結着したものである。
【0017】
前記ベルト10とゴムバンド30とは無端状に結び合わされ、両端にベルト10による折返し部25,26を設けてつき合わされた二重ループを形成し、外周側ループにはベルト10とゴムバンド30との双方を、内周側ループにはベルト10のみを夫々配し、両端の折返し部25,26がワンウェイバックル40に結合されている。二重ループの両端のうち、一端側の折返し部25はワンウェイバックル40の図示を省略したクリートの周りでベルト10の周回ができるように支承され、他端側の折返し部26はワンウェイバックル40に固定されている。
【0018】
ワンウェイバックル40のクリートは、二重ループの一端側の折返し部25において、外周側ループのベルト25aに矢印A方向の引張り力(緊縮方向)が作用したとき、上記ベルト25aをクリートの周りでA方向に周回させるように作動するが、これと反対方向に引張り力(弛緩方向)が作用したときは、クリートの周りでのベルト25aの反A方向への周回を阻止するロック機構が作動するようになっている。
【0019】
上記構成の締付具1は、タイヤの外周に巻き付けたタイヤ滑り止め具(図示を省略)のタイヤ正面側の周方向側縁に所定間隔毎に止着してあるフック50にベルト10を掛け止めし、ゴムバンド30による締付力をタイヤ滑り止め具に与えた状態で装着される。
【0020】
このようにして、タイヤ滑り止め具が締付具1によってタイヤに装着されると、二重ループの一端側の折返し部25においては、内周側ループのベルト25bの装着時における直径を拡大させる方向(弛緩方向)への周回はロック機構が作動しているので、装着時にゴムバンド30により与えられていた締付力が弛緩することはない。また、装着当初における内周側ループのベルト25bの直径を縮小させる方向(緊縮方向)に対しては、常時ゴムバンド30による引張り力が作用しているのでロック機構が作動することはなく、自動的な増し締め力が与えられている。
【0021】
なお、締付具1のワンウェイバックル40には、ベルト10に対するロック機構を解除するレバー42が設けてあり、締付具1の装着及び脱着時に、内周側ループのベルト25bの直径を拡大する必要があるときに、ロック機構の作動を一時的に阻止できるようになっている。
【0022】
上記締付具1における締付用ベルト10は、高強度低伸長性の繊維束からなる芯糸をベルトのほぼ長さ方向に並列に延ばして配列した芯繊維と、この芯繊維の外周を被覆する化学繊維束の経糸及び緯糸からなる二重織り(縦口袋織り)構造とされた表面組織とにより構成されている。
【0023】
上記芯組織を構成する芯糸の素材としては、たとえばナイロン、ポリエステル、ポリエチレンその他の合成繊維のマルチフィラメント糸を使用するのが好ましい。また、表面組織を構成する経糸及び緯糸の素材についても芯糸と同様にナイロン、ポリエステルその他の合成繊維のマルチフィラメント糸を使用するのが好ましい。
【0024】
この発明において、締付用ベルトの表面組織のうち、タイヤ滑り止め具のフックとの摺接面側の表面組織の厚さを、これと反対側の表面組織の厚さよりも厚くした形態の一例を挙げると図2に示すとおりである。
【0025】
同図に示した締付用ベルト10は、前記のようにベルトのほぼ長さ方向に並列に延びる複数本の芯糸11aからなる芯組織11の外周が、経糸21及び緯糸22からなる二重織り(縦口袋織り)構造の表面組織20により被覆されている。上記締付用ベルト10の芯組織11の上下両面側に織成されている表面組織20a,20bのうち、何れか一方の側、図示した例では紙面の上端側の表面組織20aを、タイヤ滑り止め具のフック50に摺接させる側とする。
【0026】
同図において、前記上面側の表面組織20aは、下面側の表面組織20bの経糸21bと同一種の経糸21aが2本ずつ1本の緯糸22と互いに交錯して織り込まれており、下面側の表面組織20bは、従来と同じく経糸21と緯糸22とが1本毎に浮沈しながら交錯している。上下両面側の表面組織20a,20bを構成する緯糸22は1本の共通する糸が上下両面に2往復、織り込まれて順次筒状を形成している。
【0027】
図3に示した実施の形態は、締付用ベルト10の上面側の表面組織20aの経糸21aとして、下面側の表面組織20bの経糸21bの太さよりも大きい太さのものを用いて経緯二重織りにしてある。上記以外の構成は図2で説明したところと変わりがない。
【0028】
上記2例の実施の形態のほか、締付用ベルトの上面側の表面組織に下面側の表面組織の経糸の太さよりも大きい太さの経糸を2本毎に1本の緯糸と交錯させた経緯二重織り構造を採用することもできる。
【0029】
なお、締付用ベルトの上面側の表面組織に配列する経糸の本数については、2本に限定されるものではなく、必要に応じ3本又はそれを超える複数本を配列してもよい。
【0030】
上記の実施の形態においては、締付用ベルトの表面組織がいわゆる平織りによる経緯二重織り構造とされている場合について説明したが、この発明は経緯二重織り構造を平織りに限定するものではなく、その他の形式の織成構造による表面組織を採用してもよい。
【0031】
上記の各実施の形態を有する締付用ベルトは、タイヤ滑り止め具のフックと摺接する面側(上面側)における使用寿命が増大すると共に、取扱上の柔軟性が損なわれることはないから、装着作業性に支障を来すこともない。というそれ自体に固有の著しい効果が得られるのはもとより、上記構成の締付用ベルトが図1の締付具の部品として組み合わされている場合は、上記効果に加えて次のような効果を奏する。
【0032】
締付用ベルトの剛性が必要以上に高くなることのない適度の剛性を有するものとなるため、車両走行時に締付具の自動増し締め効果が制約されることなく、より確実に発現される。
【0033】
締付具のワンウェイバックルを大型化することなく、コンパクトな形体のものとすることができるため、締付具を安価なコストで製作できる。
締付用ベルトの剛性が必要以上に高くなることはないため、ゴムバンドとの二重ループの形成及びワンウェイバックルへの組み付け等、締付具の組立てが容易にできる。
【0034】
なお、この発明の締付用ベルトが適用される締付具としては図1の締付具に限定されるものではなく、これと同等の機能を有する他の形式の締付具においても適用することができる。
【0035】
上記の実施の形態において、締付用ベルトの上面側の表面組織の厚さを下面側の表面組織の厚さよりも厚くするために、経糸の本数及び又は太さを増大させる手段を採用し、緯糸については除外しているのは、表面組織が経緯二重織りの構造とされている場合は、前記のように表面組織の上面側の緯糸と下面側の緯糸とは一本の共通する糸が用いられているので、緯糸の本数及び又は太さを増大させると、下面側の表面組織の厚さまでもが厚くなり、この発明の目的にそぐわないだけでなく、却って締付用ベルトの剛性が過大になるという好ましくない結果を招くからである。
【0036】
【実施例】
この発明の締付用ベルトの耐摩耗性を従来のものと比較するために実施した試験結果を表1に示す。
【0037】
各試験片の構造は、芯組織の外周を被覆する表面組織を経緯二重織り(縦口袋織り)としたものである。
表1に示した「経糸の材質」は上下両面の表面組織を構成する経糸に共通する材質であり、「経糸のデニール数」及び「経糸の本数」は上面(フックとの摺接面)側の表面組織を構成する経糸についての数値を指数表示したものである。上記以外の芯組織を構成する芯糸、表面組織を構成する緯糸、下面側の表面組織を構成する経糸に関するデータは、各試験片に共通するので表示を省略した。
【0038】
従来例の表面組織は、通常の仕様の経糸及び緯糸が一本毎に互いに浮沈して交錯する平織りによる構造である。実施例1はこの発明の請求項2に該当する構造、実施例2はこの発明の請求項3に該当する構造、実施例3はこの発明の請求項3に該当する構造に夫々織成したものである。
【0039】
試験条件としては、各試験片を湿潤状態にしたものを、試験機のアンカー(1辺の長さ6mmの正六角形断面金属棒)に掛け渡し、両端に25Kgの引張り力を与えながら、ストローク15mmの往復摺動を5回/secのサイクルで行い、5時間を経過する毎に試験片の表面組織を観察して摩耗の程度を評価した。
【0040】
表1の評価結果の欄に記載した記号○,△,×の意義は次のとおりである。
○ 問題とする程の摩耗は見られない
△ 表面組織の摩耗による毛羽立ちが発生
× 表面組織の摩耗により芯糸が露出
表1に示した評価結果に基づいて総合判定したところ、従来例は試験開始後15時間を経過すると、表面組織に毛羽立ちが発生するようになり、20時間後では、表面組織の摩耗が進行して内部の芯糸が露出する程度まで著しくなるのに対し、この発明の実施例1は試験開始後20時間を経過しても何ら異常がなく、実施例2は試験開始後20時間を経過した時点で漸く毛羽立ちが発生する程度であり、実施例3は実施例1と同程度の耐摩耗寿命を有していることが確認された。
【0041】
【表1】
【0042】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明によれば、締付用ベルトのタイヤ滑り止め具のフックとの摺接面とされる側の表面組織の厚さを、これとは反対側の表面組織の厚さよりも厚くしてあるから、タイヤへの装着作業その他の取扱いに支障がない程度の柔軟性が確保されると同時に、車両走行時における耐摩耗寿命が増強されるので、タイヤ滑り止め具の使用寿命と変わりのない長寿命を有する耐久性の高い締付用ベルトが得られる。
【0043】
また、この発明において、締付用ベルトの表面組織が経緯二重織りによる構造とされている場合は、前記フックとの摺接面側の表面組織を構成する経糸を2本以上の本数として緯糸と交錯させるか、又は前記経糸の太さがフックとの摺接面とは反対側の表面組織の経糸よりも大きいものを緯糸と交錯させるか、あるいは前記フックとの摺接面とは反対側の表面組織の経糸よりも太さの大きい経糸を2本以上の本数として緯糸と交錯させるかのうち、何れかの手段によれば、この発明の課題が簡易な手段により解決されるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の締付用ベルトが組み付けられた締付具の一例を示す正面図である。
【図2】締付用ベルトの実施の形態を示す横断面図aと縦断面図bである。
【図3】締付用ベルトの他の実施の形態を示す横断面図aと縦断面図bである。
【符号の説明】
10 締付用ベルト
11 芯組織
11a 芯糸
20 表面組織
20a 上面側の表面組織
20b 下面側の表面組織
21a 上面側の表面組織の経糸
21b 下面側の表面組織の経糸
22 上下両面側の表面組織に共通する緯糸
50 タイヤ滑り止め具のフック
Claims (2)
- タイヤに装着されたタイヤ滑り止め具の一方の長さ方向側縁に所定間隔をおいて止着されているフックに掛け止める締付用ベルトにおいて、
前記締付用ベルトは該ベルトのほぼ長さ方向に並列に延ばされた芯糸よりなる芯組織と、該芯組織の外周を被覆すべく経糸及び緯糸からなる二重織り構造をした表面組織とを有し、
かつ、該表面組織のうち、前記タイヤ滑り止め具のフックと摺接する面側は、その厚さをこれとは反対の面側の厚さよりも厚くすべく、2本以上の経糸を1本の緯糸と互いに交錯させてなることを特徴とするタイヤ滑り止め具の締付用ベルト。 - タイヤに装着されたタイヤ滑り止め具の一方の長さ方向側縁に所定間隔をおいて止着されているフックに掛け止める締付用ベルトにおいて、
前記締付用ベルトは該ベルトのほぼ長さ方向に並列に延ばされた芯糸よりなる芯組織と、該芯組織の外周を被覆すべく経糸及び緯糸からなる二重織り構造をした表面組織とを有し、
かつ、該表面組織のうち、前記タイヤ滑り止め具のフックと摺接する面側は、その厚さをこれとは反対の面側の厚さよりも厚くすべく、該反対の面側の経糸よりも太さの大きい2本以上の経糸を1本の緯糸と互いに交錯させてなることを特徴とするタイヤ滑り止め具の締付用ベルト。
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