JP3995760B2 - タイヤ滑り止め装置の締付用ベルト - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、タイヤ滑り止め装置の滑り止め具をタイヤに締め付けて密着させる締付用ベルトに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種の締付用ベルトとしては、たとえばタイヤに密着された滑り止め具の周方向に沿う外側端縁に一定間隔で取り付けてあるフックに掛け止めし、その両端部を適宜の締付金具を介して結着する形式のものが使用されている。
【0003】
上記の締付用ベルトは、フックとの接触面が車両走行中に滑り止め具に負荷された外力によりフックに擦られて摩耗・損傷するので、これを防止する技術として、締付用ベルトの組織構造を改善した考察が、実開平1−99705号公報、実用新案登録第2512491号公報、実公平7−51308号公報等の文献に記載されている。
【0004】
上記実開平1−99705号公報に記載されたものは、ベルトのほぼ長さ方向に延びる高強度低伸度繊維よりなる芯組織を、合成繊維のモノフィラメント糸よりなる縦口袋織りの表面組織により被覆した構成としている。
【0005】
また、上記実用新案登録第2512491号公報に記載されたものは、ベルトの芯組織の外周を被覆する表面組織のうち、滑り止めネットの掛止めフックに接触する底面及び両側面部分をモノフィラメント糸で形成し、他の部分をマルチフィラメント糸で形成するか、または該表面組織の全面を耐摩耗性の樹脂層により被覆するか、あるいは該表面組織のマルチフィラメント糸自体を耐摩耗性の樹脂で被覆した構成としている。
【0006】
さらに、上記実公平7−51308号公報に記載されたものは、ベルトの芯組織の外周を被覆する表面組織を高強力ポリエチレン繊維のマルチフィラメント糸で形成した構成となっている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来技術として掲記した上記文献に記載の3件のベルトは、いずれも外部からの要因による表面組織の耐摩耗性、耐外傷性を改善することに主眼がおかれており、表面組織の繊維束の滑り止め具のフックとの接触による摩耗・損傷を抑制する効果はそれなりに達成できるとしても、芯組織についてはマルチフィラメント糸の高強度低伸度繊維により構成したものを無撚り又は撚りの極めて甘い状態でベルトの長さ方向に引き揃えることが記載されているだけで、それ以上の具体的な組織構造については開示されていない。
【0008】
したがって、これらの従来のベルトにおいては、芯組織を構成する繊維束同士の、あるいは芯組織を構成する繊維束と表面組織を構成する繊維束とが相互に接触して摩擦干渉することにより、芯組織の繊維束が摩耗したり、あるいは芯組織の繊維束の外側面と表面組織の繊維束の内側面とが摩耗する事態が発生することになり、ベルトの寿命が滑り止め具の使用寿命が尽きるまでの期間と合致せず、タイヤ滑り止め装置としての耐久性が必ずしも十分には発揮されていない、という問題があった。
【0009】
この発明は、ほぼ長さ方向に並列して延ばされた複数本の高強度低伸度繊維束の芯糸よりなる芯組織と該芯組織を被覆する二重織り構造の表面組織とを有するタイヤ滑り止め装置の締付用ベルトにおいて、芯組織を構成する繊維束相互間及び芯組織を構成する繊維束と表面組織を構成する繊維束との相互間における耐摩耗性を増大して、タイヤ滑り止め装置全体として均衡のとれた使用寿命を耐久性が得られるようにすることを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するためにこの発明が採用した手段は下記の通りである。
ほぼ長さ方向に並列して延ばされた複数本の高強度低伸度繊維束の芯糸よりなる芯組織と、該芯組織を被覆すべく平織りによる二重織り構造の表面組織とを有するタイヤ滑り止め装置の締付用ベルトにおいて、
前記芯組織の芯糸は、マルチフィラメントの化学繊維束からなり、また、表面組織は、マルチフィラメントの化学繊維束とされた径糸、緯糸及びからみ糸により構成し、該からみ糸は、所定数毎の径糸間に介入して一方の側の表面組織の緯糸からこれに対向する側の表面組織の緯糸へと交互にからみ合わせて締付用ベルトの幅方向に隣り合う芯組織の芯糸相互間を非接触状態に分離すると共に、該からみ糸により芯糸を各別に固定し、かつ、前記表面組織を構成する径糸、緯糸及びからみ糸は、夫々のデニール値が同等もしくはもしくは大差ない繊度を有した構成とする(請求項1)。
【0011】
請求項1に記載の発明においては、表面組織のからみ糸により芯組織の芯糸相互間における接触が妨げられると同時に、芯糸が各別に固定され自由な動きを拘束されているため、締付用ベルトの使用時において芯組織の隣り合う芯糸同士の間の摩擦干渉はもとより、芯組織の芯糸とこれを被覆する表面組織の各糸との間での相互摩擦についても著しく緩和されることになる。
【0012】
この発明においては、さらに表面組織を構成する径糸、緯糸及びからみ糸の繊度は、互いに同等もしくは大差のない程度でのデニール値を有している。
【0013】
このように表面組織を構成する各糸の繊度を規制すると、大幅に繊度が不揃いのものに比べ表面組織の表面における平坦性が向上するので、滑り止め具のフックに掛け止めされた使用時における表面の耐摩耗性がより一層増大する。
【0014】
なお、この発明の締付用ベルトが本来の性能として当然備えているべき機械的性質については、芯組織を構成する芯糸が高強度低伸度繊維束であるため、タイヤに装着された滑り止め具のフックに掛け止め締め付けた状態において外部からの荷重に対して緩むことのない強度を保持しており、また、滑り止め具のフックに対して掛け止め又は掛け外すときの作業性の難易度については、芯組織の芯糸や表面組織の各糸の全てがマルチフィラメントの繊維束により構成されているため、剛直性がなく取扱いが容易にできるしなやかで柔軟性に富む性質を有している。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1a〜cは、この発明の締付用ベルト1の組織構造の一例を示したものである。芯組織10は、複数本の高強度低伸度繊維束からなる芯糸11をベルト1のほぼ長さ方向に並列に延ばして配列してある。
【0016】
芯組織10を構成する芯糸11の高強度低伸度繊維束としては、たとえばナイロン、ポリエステル、ポリエチレンその他の合成繊維よりなるマルチフィラメントを使用するのが好ましいが、必要に応じガラス、炭素等の無機繊維を素材として使用することもできる。
【0017】
芯組織10を被覆する表面組織20は、マルチフィラメントとされた化学繊維束からなる経糸21、緯糸22及びからみ糸23を用いて二重織り構造とされている。表面組織20を構成する経糸21、緯糸22及びからみ糸23の化学繊維束の素材としては、たとえばナイロン、ポリエステル等の合成繊維を使用するのが好ましいが、それ以外の無機繊維を使用することもできる。
【0018】
上記表面組織20の経糸21と緯糸22とは、通常用いられる平織りによる二重構造の組織とされている。からみ糸23は2本毎の経糸21間に夫々2本宛を介入させ、一方の側の表面組織の緯糸22aからこれに対向する側の表面組織の緯糸22bへと交互にからみ合わせながら、芯組織10の芯糸11に対してたすきがけ状に配列し、ベルト1の幅方向に隣り合う芯糸11相互間を非接触状態に分離している。
【0019】
このようにして、芯組織10の芯糸11は表面組織20のからみ糸23により各別に固定された構造となっている。
上記図1a〜bに示した実施の形態では、表面組織20のからみ糸23は、緯糸22に対するからみ方向を反対にした2本を1組として、たすきがけ状に交差する配列にしてあるが、からみ糸23の配列本数とからみの方向及び態様については、上記以外の本数を任意の方向にからみ合わせた態様で配列することができる。
【0020】
また、表面組織20の二重織り構造についても、上記実施の形態で説明した平織りに限定されるものではなく、その他の形式の織り構造を任意に採用した組織とすることができる。
【0021】
【実施例】
この発明の締付用ベルトの耐摩耗性と表面組織の表面の平坦性を試験片による試験を行って調査した結果は表1に示すとおりである。表1にはからみ糸を使用しない締付用ベルトとからみ糸のデニール値が経糸及び緯糸のデニール値よりも著しく低い締付用ベルトを比較例として同様な試験を行って得られた結果についても併せて示してある。
【0022】
試験片の芯組織及び表面組織の各繊維束の材質・フィラメントの構造(モノ・マルチの別)は夫々表1に示すとおりの仕様とし、各繊維束の繊度については表1にデニール(指数)として示した比率に調整して、前述の図1a〜cに示した構造のものを製作した。
【0023】
耐摩耗性試験は、上記試験片を湿潤状態にしたものを試験用アンカー(1辺の長さ6mmの正六角形断面金属棒)に掛け渡して荷重25kgの引張り力を与えた状態とし、15mmのストローク・5回/秒のサイクルで往復摺動させ、所定時間を経過する毎に芯組織及び表面組織の各繊維束のフィラメントの切断の有無及び本数を調査した。
【0024】
表1の耐摩耗性の欄に記した記号○,△,×の意義は次のとおりである。
○:切断したフィラメントがない
△:モノフィラメント又はマルチフィラメントを構成する単位フィラメントの一部が切断した
×:モノフィラメント又はマルチフィラメントを構成する単位フィラメントの80%以上が切断した(使用不能と判定し、それ以後の試験を中止)
表面組織の平坦性は、試験片の製作直後における表面の凹凸の度合、手触り感の良否を観察・評価した。
【0025】
表1に示した耐摩耗性の試験結果によれば、比較例のうち、からみ糸を用いない試験片1〜4は、試験開始後5時間を経過した時点で芯組織と表面組織との何れかの繊維束のフィラメントの一部が切断し始め、15時間を超えると殆ど使用不能の状態となるのに対し、この発明の試験片は、その何れもが20時間を経過しても、繊維束のフィラメントの一部が切断する程度であって、その後も長時間の使用に耐える性能を保持していることが確認された。
【0026】
また、表面組織の平坦性についての評価結果によれば、比較例のものはからみ糸を用いない試験片1〜4はもとより、からみ糸を用いた試験片5であっても、からみ糸のデニール値が経糸及び緯糸のデニール値に比べ著しく低いため、平坦性が不良となるのに対し、この発明の試験片はすべて良好な平坦性を有していることが立証された。
【0027】
なお、比較例の試験片5は、からみ糸を用いているにも拘わらず表面組織の平坦性が不良であるため、20時間経過後は耐摩耗性が低下して使用不能の状態となることが分かる。
【0028】
【表1】
【0029】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明によれば、芯組織を構成する複数本の芯糸相互間が表面組織のからみ糸により非接触状態に分離・固定されるため、芯組機の隣り合う芯糸同士の摩擦による摩耗ないし折損が低減し、芯組織自体の摩擦干渉に対する耐摩耗性が向上すると同時に、締付用ベルトの寸法安定性が合わせて向上するだけでなく、芯組織の芯糸とこれを被覆する表面組織を構成する各糸との相互間における摩擦も緩和されるので、締付用ベルトの組織構造それ自体に由来する耐摩耗性が改善され、タイヤ滑り止め装置の滑り止め具の使用寿命と匹敵する耐久性を備えた締付用ベルトが得られる。
【0030】
また、この発明によれば、表面組織を構成する径糸、緯糸及びからみ糸の繊度を規制しているので、表面組織の平坦性が良好で凹凸度の小さい表面となり、滑り止め具のフックとの摩擦による摩耗が著しく低減し、さらに耐久性の高い締付用ベルトが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の締付用ベルトの一例を一部を破断して示す平面図a、図1aのA−A線断面を緯糸を省略して示す図b、図1aのB−B線断面図cである。
【符号の説明】
1 締付用ベルト
10 芯組織
11 芯糸
20 表面組織
21 経糸
22 緯糸
23 からみ糸
Claims (1)
- ほぼ長さ方向に並列して延ばされた複数本の高強度低伸度繊維束の芯糸よりなる芯組織と、該芯組織を被覆すべく平織りによる二重織り構造の表面組織とを有するタイヤ滑り止め装置の締付用ベルトにおいて、
前記芯組織の芯糸は、マルチフィラメントの化学繊維束からなり、
前記表面組織は、マルチフィラメントの化学繊維束とされた径糸、緯糸及びからみ糸により構成され、該からみ糸は、所定数毎の径糸間に介入して一方の側の表面組織の緯糸からこれに対向する側の表面組織の緯糸へと交互にからみ合わせて締付用ベルトの幅方向に隣り合う芯組織の芯糸相互間を非接触状態に分離すると共に、該からみ糸により芯糸を各別に固定し、
かつ、前記表面組織を構成する径糸、緯糸及びからみ糸は、夫々のデニール値が同等もしくは大差ない繊度を有していることを特徴とするタイヤ滑り止め装置の締付用ベルト。
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