JP3992179B2 - 炭酸エステルの製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、二酸化炭素を用いる炭酸エステルの製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
炭酸エステルは、オクタン価向上のためのガソリン添加剤、排ガス中のパーティクルを減少させるためのディーゼル燃料用添加剤などの添加剤として使われるほか、ポリカーボネート類やウレタン類、医薬・農薬等の有機化合物を合成する際のアルキル化剤、カルボニル化剤および溶剤等として有用な化合物である。
従来の炭酸エステルの製造方法としては、ホスゲンをカルボニルソースとしてアルコールと反応させる方法が挙げられるが、この方法では、極めて有害で腐食性の高いホスゲンを用いるため、その輸送や貯蔵などの取り扱いに細心の注意が必要であり、製造設備の維持管理、安全性の確保のため多大なコストがかかっていた。更に、この方法では、腐食性の高い塩酸を大量に発生することから、廃棄物処理等の問題もあった。
【0003】
また一酸化炭素をカルボニルソースとしてアルコール及び酸素と反応させる酸化的カルボニル化法も知られているが、この方法でも極めて有害な一酸化炭素を高圧で用いるために、製造設備の維持管理、安全性の確保のため多大なコストがかかっていた。更に一酸化炭素が酸化して二酸化炭素を生成するなどの副反応が起こる欠点があった。
このため、より安全な炭酸エステルを製造する方法の開発が望まれ、二酸化炭素をカルボニルソースとしてアルコールと反応させる方法が提案されている。
【0004】
アルコールと二酸化炭素から炭酸エステルを得る方法は、生成物として炭酸エステルと水が同時に生成するという平衡反応を利用するものであるが、熱力学的に平衡は原料系に偏っているため、高収率で炭酸エステルを得ようとすれば、生成物のうちの水を除去しなければならないという課題がある。水よりも沸点の低いメタノールを原料と使用とすれば、例えば、金属アルコキシドを触媒とし、脱水剤として高価な有機脱水剤であるDCC等を大量に使用した例(Collect.Czech.Chem.Commun.Vol.60,687−692(1995))が提案されているが、これらの脱水剤は再生されず、多量の廃棄物となる問題点がある。
【0005】
また、有機脱水剤としてカルボン酸オルトエステルを用いて炭酸エステルを製造する方法がある(特開平11−35521号公報)が、この方法も原料が高価なカルボン酸オルトエステルであり、また、酢酸メチルが副生成物として発生することが知られている(化学装置 Vol.41,No.2、52−54(1999))という問題点がある。更に、有機脱水剤として大量のアセタール化合物を使用する方法が提案されている(DE4310109、特開2001−31629号公報)が、このアセタール化合物を収率良く、廃棄物を出さずに合成する方法は示されておらず、多量の廃棄物を副生成物として発生させるという問題点がある。
【0006】
これら有機脱水剤を使う方法においては、触媒の生産性の向上やターンオーバー数の向上を効果としているが、有機脱水剤は炭酸エステルの生成に伴って、炭酸エステルと化学量論量消費されることを意味しており、脱水反応に伴って変性した大量の有機脱水剤の処理及び再生をおこなわなければならない。また、大量の有機脱水剤を使うにも関わらず、触媒の失活の懸念も存在する。これは主に、これら有機脱水剤を適用した製造方法では、超臨界二酸化炭素中で反応をおこなっているため、一般に触媒の溶解度が低く、殊に多量化しやすい有機スズを用いた場合には、炭酸エステルの生成と共に生成する有機酸化スズが超臨界二酸化炭素に溶解しにくかったり、また、この有機酸化スズが徐々に多量化して超臨界二酸化炭素への溶解度を持たなかったりすることで触媒の失活を引き起こす問題点がある。
【0007】
固体脱水剤を使用した方法(Applied Catalysis Vol.142,L1−L3(1996))が提案されているが、この脱水剤は再生されず、多量の廃棄物となる問題点がある。また、固体脱水剤を充填塔に詰めて反応液を循環させ脱水する方法を採用した例[特開2001−247519号公報]もあるが、この場合には、大量の固体脱水剤を必要とするという問題ばかりでなく、モレキュラーシーブ等の固体脱水剤への水の吸着性能が高温では低いため、反応液中に含まれる微量水分を吸着除去する際には、高温高圧の反応液を冷却して固体脱水剤を詰めた充填塔に循環させ、脱水した後に再度高温高圧に戻すことから極めてエネルギー消費量が大きくなるという問題点もある。
以上記したように、大量の有機脱水剤や大量の固体脱水剤を用いる方法が知られているのみで、大量の廃棄物やエネルギーを消費するという問題があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前述の有機脱水剤や無機脱水剤を用いることなく、高収率で炭酸エステルを製造する方法を提供することを目的とする。更にはメタノールの炭酸エステルを高収率で製造できる方法を提供する。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記従来法の問題点を解決するために鋭意検討した結果、金属酸化物をヒドロキシル化合物と反応させ、発生する水をヒドロキシル化合物よりも低い沸点で蒸留することによって蒸留除去することが有効であるということを見出し、この知見に基づき本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、
[1]アルコールと二酸化炭素から炭酸エステルを製造する方法において、下記工程(I)および工程(II)を含むことを特徴とする炭酸エステルの製造法。
(I)下記化学式(1)で表される金属酸化物と化学式(2)で表されるヒドロキシル化合物(但し、工程(II)で用いるアルコールは除く。)とを脱水反応させ、発生する水を該ヒドロキシル化合物の沸点より低い温度で留去して下記化学式(4)で表される反応生成物を得る工程。
【化1】
[式中、M1は周期律表第4族または第14族の金属原子を表し、R1,R2は、それぞれアルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基を表す。
R1,R2は、同一であっても異なっていても良い。
g,hはそれぞれ0から2の整数で、g+hは0または2の整数、iは1または2の整数であって、g+h+2iは4となる整数を表す。
]
【化2】
[式中、R3は、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基を表す。]
【化3】
[式中、M 1 は、化学式(1)と同様である。 M 2 はM 1 と同様であり、M 1 ,M 2 は同一であっても異なっていても良い。R 1 ,R 2 は、上記化学式(1)と同様である。R 3 は化学式(2)と同様である。化学式d,eはそれぞれ0から2の整数で、d+eは0または2の整数、fは1または3の整数であって、d+e+fは3となる整数を表す。]
(II)工程(I)で得られた金属酸化物とヒドロキシル化合物の反応生成物を、アルコール及び二酸化炭素と反応させて炭酸エステルを製造する工程。
【0013】
[2]工程(II)で使用するアルコール量が、工程(I)で得られた金属酸化物とヒドロキシル化合物の反応生成物の金属原子量に対して、化学量論量の2倍以上1000倍以下であることを特徴とする[1]記載の炭酸エステルの製造法、
[3]化学式(2)で表されるヒドロキシル化合物のR3が炭素数2以上のアルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基であることを特徴とする[1]または[2]記載の炭酸エステルの製造法、
[4]アルコールがメタノールであることを特徴とする[1]、[2]または[3]記載の炭酸エステルの製造法、
[5]周期律表第4族または第14族の金属原子がスズであることを特徴とする[1]、[2]、[3]または[4]記載の炭酸エステルの製造法、
[6]金属酸化物がジブチル酸化スズ(Bu2SnO)であることを特徴とする[5]記載の炭酸エステルの製造法、である。
【0014】
【発明の実施形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、アルコールと二酸化炭素から炭酸エステルを製造するに際して、まず工程(1)において、ヒドロキシル化合物(上記アルコールを除く。)と、化学式(I)で表される金属酸化物との脱水反応で生じた水を留去することで、金属アルコキシド、金属アリールオキシドまたは金属アラルキルオキシドを製造し、次ぎに工程(II)で該金属アルコキシド、金属アリールオキシドまたは金属アラルキルオキシドを、上記アルコールおよび二酸化炭素と共に反応させて、該アルコールの炭酸エステルを製造するものである。
【0015】
本発明の工程(I)では、工程(II)で使用するアルコール以外のヒドロキシル化合物を使用する。
本発明の方法によれば、メチル炭酸エステルを製造するに際に、工程(I)においてメタノールを用いずに、脱水反応で発生する水の留去の容易なヒドロキシル化合物、例えばヘキサノール等を使用することが可能となる。
本発明の工程(I)において使用する金属酸化物は、下記化学式(1)で表される。
【0016】
【化5】
【0017】
[式中、M1は周期律表第4族または第14族の金属原子を表し、R1,R2は、それぞれアルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基を表す。 R1,R2は、同一であっても異なっていても良い。g,hはそれぞれ0から2の整数で、g+hは0または2の整数、iは1または2の整数であって、g+h+2iは4となる整数を表す。]
金属は、周期律表第4族または第14族の金属を使うことができるが、中でもチタン、スズ、ジルコニアが好ましい。金属アルコキシドの製造に要する時間や収率等の生産性を考慮すれば、スズがより好ましい。工程(I)と工程(II)を繰り返して炭酸エステルを製造するに際しては、特にスズが好ましい。
【0018】
R1,R2としては、それぞれアルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基であって、例えばメチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、2−ブテニル等の炭素数1〜12の飽和及び不飽和のアルキル基、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロペンタジエニル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル等の炭素数3〜12の飽和及び不飽和のシクロアルキル基、ベンジル、フェニルエチル等のアラルキル基、フェニル、3,5−ジメチルフェニル、4−メチルフェニル、ナフチル、アントラニル等の炭素数6〜14のアリール基を挙げることができる。もちろん以上に記した炭素数以上のものも使用することができるが、流動性が悪くなったり、生産性を損なったりする恐れがある。R1,R2は、同じであっても異なっていてもよい。
【0019】
化学式(I)で示される酸化物の例としては、酸化スズ、ジメチル酸化スズ、ジエチル酸化スズ、ジプロピル酸化スズ、ジブチル酸化スズ、ジシクロヘキシル酸化スズ、ブチル,シクロヘキシル酸化スズ、ジフェニル酸化スズ、ブチル,フェニル酸化スズ、ジトリル酸化スズ、ジナフチル酸化スズなどが挙げられる。これらを単独で用いてもよいし、2種類以上併用してもよいし、他の触媒成分を加えても良い。好ましい例としてはジエチル酸化スズ、ジプロピル酸化スズ、ジブチル酸化スズ、ジシクロヘキシル酸化スズ、ジフェニル酸化スズが挙げられ、更に好ましくはジブチル酸化スズである。
【0020】
本発明の工程(I)において使用されるヒドロキシル化合物は、下記化学式(2)で表される(但し、工程(II)で使用するアルコールは除く。)。R3としてアルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基が使用される。ヒドロキシル化合物の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘキセノールなどの飽和及び不飽和アルキルアルコール、シクロプロパノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘキセノール等の飽和及び不飽和脂環式アルコール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等のアラルキルアルコール、フェノール、キシレノール、ナフトールなどの芳香族ヒドロキシル化合物が挙げられる。
【0021】
また、多価ヒドロキシル化合物も使用できる。このような例としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオールなどの飽和及び不飽和アルキル多価アルコール、シクロヘキサンジオール、シクロペンタンジオールなどの飽和及び不飽和脂環式多価アルコール、ベンゼンジメタノールなどのアラルキルアルコール、カテコールなどの芳香族多価ヒドロキシル化合物などが挙げられる。
【0022】
【化6】
【0023】
[式中、R3は、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基を表す。]
このような多価ヒドロキシル化合物を、工程(I)で使用した場合に得られる金属アルコキシドまたは金属アリールオキシドまたは金属アラルキルオキシドの構造は後述の化学式(3)及び化学式(4)よりもさらに複雑となるが、本発明においては充分使用することができる。
【0024】
これらのヒドロキシル化合物は、必要に応じて精製や、濃度調整のために蒸留操作をすることがある。そのために、好ましい例としては常圧での沸点が300℃以下のヒドロキシル化合物が好ましい。
また、これらヒドロキシル化合物は、金属酸化物との反応で生じる水を留去によって容易に除去できるように、水よりも沸点の高いことが好ましい。このような好ましい例としては、n−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘキセノールなどの炭素数4以上の飽和及び不飽和アルキルアルコール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘキセノール等の炭素数4以上の飽和及び不飽和脂環式アルコール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等のアラルキルアルコール、フェノール、キシレノール、ナフトールなどの芳香族ヒドロキシル化合物が挙げられる。また多価ヒドロキシル化合物も使用できる。
【0025】
このような例としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオールなどの飽和及び不飽和アルキル多価アルコール、シクロヘキサンジオール、シクロペンタンジオールなどの飽和及び不飽和脂環式多価アルコール、ベンゼンジメタノールなどのアラルキルアルコール、カテコールなどの芳香族多価ヒドロキシル化合物などが使用できる。
【0026】
工程(I)における金属酸化物とヒドロキシル化合物との脱水反応で生じた水の除去は、通常の蒸留によって実施できる。金属酸化物は一般に固体であり、ヒドロキシル化合物に溶解しながら脱水反応が進行するため、ヒドロキシル化合物の量としては金属酸化物に対して、化学量論量以上でおこなうことが好ましい。更に好ましくは、化学量論量の2倍から100倍の間で実施することが好ましい。このような条件であれば、水の沸点よりも高い沸点を持つヒドロキシル化合物の場合には、加熱蒸留することによって水を留去することができる。
【0027】
工程(I)の脱水反応は、ヒドロキシル化合物の沸点より低く、水が蒸気圧をもつ範囲であれば、どのような温度であっても構わないが、反応を速く完結させたい場合には、水とヒドロキシル化合物の共沸温度で実施することが好ましく、水とヒドロキシル化合物が共沸混合物を生成しない場合には水の沸点で実施することが好ましい。
工程(I)における金属酸化物とヒドロキシル化合物との脱水反応によって、化学式(3)で表される金属アルコキシド、金属アリールオキシドまたは金属アラルキルオキシドおよび/または化学式(4)で表される金属アルコキシド、金属アリールオキシドまたは金属アラルキルオキシドが得られる。
【0028】
【化7】
【0029】
[式中、M1,R1,R2は、上記化学式(1)と同様である。R3は化学式(2)と同様である。a,bはそれぞれ0から2の整数で、a+bは0または2の整数、cは2または4の整数であって、a+b+cは4となる整数を表す。]
【0030】
【化8】
【0031】
[式中、M1は、化学式(1)と同様である。M2はM1と同様であり、M1,M2は同一であっても異なっていても良い。R1,R2は、上記化学式(1)と同様である。R3は化学式(2)と同様である。化学式d,eはそれぞれ0から2の整数で、d+eは0または2の整数、fは1または3の整数であって、d+e+fは3となる整数を表す。]
化学式(4)で表される化合物がアルコールと二酸化炭素と反応して炭酸エステルを生成するという知見は本発明者によって初めて見出され、この知見に基づいて本発明はなされたものである。
【0032】
工程(I)において、ヒドロキシル化合物が、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、フェノール等のように水と共沸混合物を生成する場合には、水の沸点よりも低温で脱水反応で生じた水の留去を行うことができる。また、ヒドロキシル化合物が水と共沸混合物を生成しない場合であっても、水と共沸する溶媒を加えて、共沸蒸留によって水を除去することができ、該方法は低温で水を留去できることから好ましい。このような溶媒の例としては、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、ナフタレン、アニソール、1,4−ジオキサン、クロロホルム等の、一般に水と共沸混合物を生成するような飽和及び不飽和炭化水素、エーテル類、ハロゲン化炭化水素等が使用できる。
【0033】
共沸蒸留後の共沸混合物からの水の分離を考えれば、水の溶解度の低い飽和及び不飽和炭化水素を溶媒として使用することが好ましい。このような溶媒を使用する場合には、共沸によって水を充分除去できる量以上を使うことが必要である。蒸留塔などを用いて共沸蒸留を行う場合には、共沸した水を蒸留分離して、溶媒を反応系内に戻せるので、比較的少量の溶媒の使用で良い。
【0034】
反応からの水の生成が殆どなくなれば蒸留を終了することができる。水の除去量によって、工程(II)で得られる炭酸エステルの収量は決まるために、なるべく理論量の水を除去しておくことが好ましい。工程(I)では化学式(3)で表される金属アルコキシド、金属アリールオキシドまたは金属アラルキルオキシドおよび/または化学式(4)で表される金属アルコキシド、金属アリールオキシドまたは金属アラルキルオキシドが生成するため、蒸留によって除去される水の理論量はこれらの生成物がどのような割合で生成するかで異なってくる。本発明者によれば、通常除去しうる水の量は、化学式(3)で表される金属アルコキシド、金属アリールオキシドまたは金属アラルキルオキシドのみが生成したとして求めた理論量の0.1〜1倍の範囲内であった。
【0035】
工程(I)終了後、必要に応じて、過剰量のヒドロキシル化合物を除去してよい。工程(II)で得られる炭酸エステルの純度を考えれば、除去しておくことが好ましい。過剰量のヒドロキシル化合物の除去は、得られる金属アルコキシド、金属アリールオキシドまたは金属アラルキルオキシドが固体の場合には、濾過によって濾液として除くことができるが、金属アルコキシド、金属アリールオキシドまたは金属アラルキルオキシドが液体の場合と同様に蒸留によって除いても構わない。液体の場合には蒸留によって除く。蒸留によって除く場合には、一般に行われる減圧蒸留によって除くこともできるし、または窒素などの不活性ガスを送り込んで蒸気圧分のヒドロキシル化合物を除去し続けてもよい。
【0036】
この際に注意すべきことは、充分に乾燥させた不活性ガスを使用しなければ、得られた金属アルコキシド、金属アリールオキシドまたは金属アラルキルオキシドが、原料の金属酸化物とヒドロキシル化合物に加水分解してしまい、工程(II)で得られる炭酸エステルの収量が極めて低くなってしまうために、水の管理を充分に行うことが望ましい。
【0037】
工程(I)から工程(II)は連続的に実施してもよいし、バッチ式に実施してもよい。その際に反応液を冷却してもよいし、加温状態であってもよい。
本発明の工程(II)においては、工程(I)で得られた反応生成物を、アルコールと、二酸化炭素と共に反応させて炭酸エステルを製造する工程である。
工程(II)の実施は、工程(I)で得られた反応液にアルコールを加え、更に二酸化炭素を加えて、加熱する操作からなる。
【0038】
本発明の工程(II)で使用されるアルコールは、工程(I)で使用されたヒドロキシル化合物とは異なる。本発明においては、工程(II)で使用するアルコールは、最終生成物である炭酸エステルの構成成分となるものである。本発明においては、得られる炭酸エステルを高純度で得ようとする場合には、工程(I)終了後に、過剰量のヒドロキシル化合物を除去しておくことが好ましい。
使用されるアルコールの例としては、アルキルアルコール、シクロアルキルアルコール、アラルキルアルコールなどが使用できる。このような例として、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘキセノールなどの飽和及び不飽和アルキルアルコール、シクロプロパノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘキセノール等の飽和及び不飽和脂環式アルコール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等のアラルキルアルコールが使用できる。
【0039】
使用されるアルコールの量は、金属アルコキシド、金属アリールオキシドまたは金属アラルキルオキシドの金属原子に対して、化学量論量で2倍以上1000倍以下であることが好ましい。更に好ましくは、化学量論量で10倍以上1000倍以下の範囲である。過剰のアルコールを添加することによって、逆反応を抑制でき、目的とする炭酸エステルを得ることができる。用いるアルコールに含まれる水分量は、得られる炭酸エステルの収量を悪化させるので、アルコール中に含まれる水分が、金属アルコキシドまたは金属アリールオキシドまたは金属アラルキルオキシドの金属原子に対して、化学量論量で0.1倍以下、好ましくは0.01倍以下であるように予め脱水しておくことが必要である。
【0040】
工程(II)の反応温度は、20℃(室温を修正)から300℃で実施できる。反応をはやく完結させたい場合には、なるべく高温でおこなうことが好ましい。好ましくは80〜200℃で10分から500時間の範囲で行う。二酸化炭素は、金属アルコキシドまたは金属アリールオキシドまたは金属アラルキルオキシドに対して室温(20℃)であれば、化学量論量の1倍で充分であるが、高温で反応させたい場合にはアルコールへの二酸化炭素の溶解度が制限されるため、高圧条件でおこなうことが望ましい。従って工程(II)の反応条件は、常圧から200MPa(2000気圧を修正)の範囲内で、好ましくは常圧から100MPaとなるように、必要であれば二酸化炭素を充填しながら反応をおこなう。二酸化炭素の充填は断続的に充填しても、連続的に充填してもよい。
【0041】
工程(II)終了後は常圧に戻して反応液を取り出してもよいし、または反応液をリアクターから直接抜き出してもよい。
必要に応じて、反応液からの炭酸エステルの分離は、一般におこなわれる溶媒抽出方法によって行うことができる。この際に用いられる抽出溶媒は、炭酸エステルと反応しない溶媒が使用できる。このような例としては、ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、クロロホルム、ジクロロメタン、トリクロロメチレンなどのハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類、エーテル、アニソールなどのエーテル類が好ましく使用できる。工程(II)で使用したアルコールがメタノールであって、生成する炭酸エステルが炭酸ジメチルの場合には、反応液から直接、蒸留によって炭酸ジメチルを分離することができる。
【0042】
本発明の好ましい実施態様は、アルコールとしてメタノールを用いた炭酸メチルの場合である。以下にアルコールとしてメタノールを用いた炭酸メチルの製造方法について更に詳細に述べる。
工程(I)で使用する化学式(2)で表されるヒドロキシル化合物としては、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘキセノールなどの飽和及び不飽和アルキルアルコール、シクロプロパノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘキセノール等の飽和及び不飽和脂環式アルコール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等のアラルキルアルコール、フェノール、キシレノール、ナフトールなどの芳香族ヒドロキシル化合物が挙げられる。また多価ヒドロキシル化合物も使用できる。
【0043】
このような例としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオールなどの飽和及び不飽和アルキル多価アルコール、シクロヘキサンジオール、シクロペンタンジオールなどの飽和及び不飽和脂環式多価アルコール、ベンゼンジメタノールなどのアラルキルアルコール、カテコールなどの芳香族多価ヒドロキシル化合物などが挙げられる。
【0044】
工程(I)で得られた金属アルコキシド、金属アリールオキシドまたは金属アラルキルオキシドを、メタノール及び二酸化炭素と反応させて炭酸エステルを製造する工程は、金属アルコキシド、金属アリールオキシドまたは金属アラルキルオキシドに、メタノールを加え、二酸化炭素を注入して、加熱する操作からなる。
使用されるメタノールの量は、工程(I)で得られる金属アルコキシド、金属アリールオキシドまたは金属アラルキルオキシドの金属原子に対して、化学量論量で2倍以上1000倍以下であることが好ましい。本発明者が鋭意検討した結果、メタノールが極めて少ない条件で実施した場合には、炭酸エステルは全く得られないか、少量生成するのみであった。
【0045】
これは逆反応によるものと考えられる。また、メタノールの少ない条件では、反応液中では非対称炭酸エステルが生成して、工業的に有効である炭酸ジメチルの成分が少なくなる。反応後、得られる炭酸ジメチルが、メタノールと炭酸ジメチルが最低共沸として蒸留されるように、メタノールは金属アルコキシド、金属アリールオキシドまたは金属アラルキルオキシドの金属原子に対して、化学量論量で10以上であって、蒸留操作が煩雑とならないため、化学量論量で1000以下の範囲であることがより好ましい。
【0046】
本発明においては、工程(I)で得られた金属アルコキシド、金属アリールオキシドまたは金属アラルキルオキシドと、二酸化炭素とを反応させる際に、過剰のメタノールを存在させることによって、高収率で炭酸ジメチルを得ることができる。金属アルコキシド、金属アリールオキシドまたは金属アラルキルオキシドと二酸化炭素の反応は、上記したように、炭酸エステルと金属酸化物を生成する平衡反応であるが、ここに過剰量のアルコールを存在させることで、金属酸化物へのアルコール付加反応が共存し、上記逆反応と競争する。しかし、上記した競争反応を起こしうるアルコールの沸点よりも炭酸エステルの沸点が高い場合には、蒸留操作の際に逆反応によって、反応液中に得られた炭酸エステルが消費されてしまう。
【0047】
工程(I)で得られた金属アルコキシド、金属アリールオキシドまたは金属アラルキルオキシドを過剰のメタノール存在下で二酸化炭素と反応させることで、蒸留の際にも反応液中に生成した炭酸ジメチルは、最も沸点の低い炭酸ジメチルとメタノールの最低共沸混合物として蒸留分離しうる。
反応液から炭酸ジメチルを蒸留する方法は、通常の蒸留方法が使用できる。温度は−20℃からメタノールの沸点の間で実施することが好ましい。蒸留塔を使用して低温で減圧蒸留する場合には、蒸留塔によって、炭酸ジメチルとメタノールを分離することができるので更に好ましい。蒸留分離された金属酸化物とヒドロキシル化合物類は、再度脱水反応に供することによって再利用してよい。
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
【実施例】
(分析方法)
1)工程(I)で得られた金属アルコキシド、金属アリールオキシドまたは金属アラルキルオキシドのNMR分析方法
装置:日本電子(株)製JNM−A400 FTNMRシステム(400MHz)
(1)1H、13C−NMR分析サンプル溶液の作成。
反応溶液を0.1g計り取り、重クロロホルム(アルドリッチ社製)を0.9g加えてNMR分析サンプル溶液とする。
(2)119Sn−NMR分析サンプル溶液の作成
反応溶液を0.1g計り取り、更に0.05gのテトラメチルスズ(和光純薬工業(株)社製 1級)、0.85gの重クロロホルムを加えてサンプル溶液とする。
【0049】
2)炭酸エステルのガスクロマトグラフィー分析法
装置:(株)島津製作所製 GC−2010システム
(1)分析サンプル溶液の作成
反応溶液を0.06gを計り取り、脱水されたジメチルホルムアミド(和光純薬工業(株)社製 脱水グレード)を2.5ml加える。さらに内部標準としてジフェニルエーテル(東京化成(株)社製 特級)0.06gを加えて、ガスクロマトグラフィー分析サンプル溶液とする。
(2)ガスクロマトグラフィー分析条件
カラム:DB−1(J&W Scientific)
液相:100%ジメチルポリシロキサン
長さ:30m
内径:0.25mm
フィルム厚さ:1μm
カラム温度:50℃(10℃/minで昇温)300℃
インジェクション温度:300℃
検出器温度:300℃
検出法:FID
(3)定量分析法
各標準物質の標準サンプルについて分析を実施し作成した検量線を基に、分析サンプル溶液の定量分析を実施する。
【0050】
3)炭酸エステルの収率計算方法
上記1)のNMR分析方法によって、金属アルコキシド、金属アリールオキシドまたは金属アラルキルオキシドのアルコキシドまたはアリールオキシドまたはアラルキルオキシド基を定量する。炭酸エステルは2つのアルコキシドまたはアリールオキシドまたはアラルキルオキシド基より生成することから、上記2)ガスクロマトグラフィー分析法で得られた炭酸エステルの収量より、炭酸エステルの収率を下記式(5)で求めた。
炭酸エステルの収率(%)=[炭酸エステル生成モル数/{(アルコキシド、アリールオキシドまたはアラルキルオキシド基のモル相当数)×1/2}]×100 ………(5)
【0051】
【実施例1】
[ジブチル酸化スズをn−ヘキサノールと反応させた後に、メタノールを加えて二酸化炭素と反応させる方法]
冷却管とディーンスターク型水分受器を備えた500mlなす形フラスコに、ジブチル酸化スズ(アルドリッチ社製)5.1gとn−ヘキサノール(和光純薬工業(株)社製 特級)82gおよびトルエン(和光純薬工業(株)社製 特級)300mlを加える。攪拌子で攪拌しながら120℃に保温されたオイルバスで12時間加熱環流する。フラスコを冷却後、減圧蒸留法によって過剰のn−ヘキサノールを蒸留除去する。12.7gの金属アルコキシドを得た。119Sn NMR分析で −130ppm,−177ppm,−186ppmにピークが見られた。得られた金属アルコキシド1.27g、メタノール0.64gおよび振とう攪拌のためのボール(SUS316製)を、配管(SUS316製)とバルブを装着したチューブリアクター(容積8ml、外径12.7mm、肉厚2.1mmのSUS316製)に入れた。リアクターをドライアイスーエタノールで冷却し、SUS配管とバルブを通して、減圧弁で約2MPaとした高純度二酸化炭素をボンベから静かに注入した。
【0052】
注入された二酸化炭素は2.8gであった。リアクターを130℃オイルバスに浸漬して14時間振とうさせた。振とう後、リアクターを20℃に冷却したのち、過剰の二酸化炭素をパージして常圧に戻し、白色スラリー状のの反応液を得た。分析結果、炭酸ジメチルの収率は44%、炭酸メチルヘキシルの収率は14%、炭酸ジヘキシルの収率は1%であった。反応液を室温で減圧蒸留してメタノールと炭酸ジメチルを蒸留物として得た。炭酸ジメチルの収率は44%で、蒸留によって反応液中の炭酸ジメチルはほぼ全量蒸留分離された。
【0053】
【発明の効果】
本発明により、二酸化炭素とアルコールとを反応させて、高い収率で炭酸エステルを製造することができる。二酸化炭素は毒性、腐食性がなく廉価であり、炭酸ジメチルの場合は蒸留分離されるため、本発明方法は産業上、大いに有用である。
Claims (6)
- アルコールと二酸化炭素から炭酸エステルを製造する方法において、下記工程(I)および工程(II)を含むことを特徴とする炭酸エステルの製造法。
(I)下記化学式(1)で表される金属酸化物と化学式(2)で表されるヒドロキシル化合物(但し、工程(II)で用いるアルコールは除く。)とを脱水反応させ、発生する水を該ヒドロキシル化合物の沸点より低い温度で留去して下記化学式(4)で表される反応生成物を得る工程。
R1,R2は、同一であっても異なっていても良い。
g,hはそれぞれ0から2の整数で、g+hは0または2の整数、iは1または2の整数であって、g+h+2iは4となる整数を表す。
]
(II)工程(I)で得られた金属酸化物とヒドロキシル化合物の反応生成物を、アルコール及び二酸化炭素と反応させて炭酸エステルを製造する工程。 - 工程(II)で使用するアルコール量が、工程(I)で得られた金属酸化物とヒドロキシル化合物の反応生成物の金属原子量に対して、化学量論量の2倍以上1000倍以下であることを特徴とする請求項1記載の炭酸エステルの製造法。
- 化学式(2)で表されるヒドロキシル化合物のR3が炭素数2以上のアルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基であることを特徴とする請求項1または2記載の炭酸エステルの製造法、
- アルコールがメタノールであることを特徴とする請求項1、2または3記載の炭酸エステルの製造法。
- 周期律表第4族または第14族の金属原子がスズであることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の炭酸エステルの製造法、
- 金属酸化物がジブチル酸化スズ(Bu2SnO)であることを特徴とする請求項5記載の炭酸エステルの製造法。
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