JP3991455B2 - 光学活性な菊酸エステルの製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学活性な菊酸エステルの製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
光学活性な菊酸エステルは医薬、農薬の中間体として重要な化合物である。例えば、第一菊酸として知られている(+)−2,2−ジメチル−3−(2−メチル−1−プロペニル)シクロプロパンカルボン酸は、合成ピレスロイド系殺虫剤の酸成分を構成するものである。
これまでに、合成的手法により、光学活性菊酸誘導体を直接製造する方法としては、例えば、配位子として光学活性ビス〔2−(4,5−ジフェニル−1,3−オキサゾリニル)〕メタンを用いた不斉銅錯体の存在下に、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンとジアゾ酢酸エステルを反応させる方法(TetrahedronLett.,32,7373(1991))等が知られている。
しかしながら、この方法では配位子合成に使用する原料が高価であることや、配位子合成法が複雑という問題があり、工業的に有利な方法とはいえなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明者らは、銅化合物に安価な光学活性なアミノ酸を原料として、容易な方法で製造し得るビスオキサゾリン化合物配位子を作用させて得られる銅錯体存在下、光学活性な菊酸エステルの製造法を開発するべく鋭意検討した結果、本発明に至った。
【0004】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、一般式(1)
(式中、Rは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を示す。)
で示される光学活性なビスオキサゾリン系配位子と銅化合物を反応させて得られる銅錯体の存在下に、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンと一般式(3)
(式中、R5は炭素数1〜6のアルキル基、低級アルキル基で置換されていてもよいシクロアルキル基、ベンジル基またはアルキル基もしくはアルコキシ基で置換されていてもよいフェニル基を示す。)
で示されるジアゾ酢酸エステル類とを反応させることを特徴とする光学活性な菊酸エステルの製造法を提供するものである。
【0005】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンとジアゾ酢酸エステル類(3)とを反応させるにあたり、銅化合物にビスオキサゾリン系配位子(1)を作用させて得られる銅錯体を使用することを特徴とするものである。
本発明で用いられる銅化合物としては、例えばトリフロメタンスルホン酸銅、酢酸銅、臭化銅、塩化銅などの1価または2価の銅化合物が挙げられ、好ましくはトリフルオロメタンスルホン酸銅(II)が挙げられる。これらはそれぞれ単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0006】
光学活性なビスオキサゾリン系配位子(1)の具体的化合物としては、ビス[2-[4(R)-フェニル-2-オキサゾリン]]メタン、2,2−ビス[2-[4(R)-フェニル-2-オキサゾリン]]プロパン、3,3-ビス[2-[4(R)-フェニル-2-オキサゾリン]]ヘプタン等およびこれら化合物の光学活性(R)が(S)である化合物が挙げられる。
これらビスオキサゾリン系配位子(1)は公知の方法により得ることができ、例えば、(R)−フェニルグリシノールとマロン酸ジメチルとを反応させて、ジアミド化合物にした後、塩化チオニルで塩素化し、水酸化ナトリウムのエタノール−テトラヒドロフラン溶液を加えて反応させることによりビス[2-[4(R)-フェニル-2-オキサゾリン]]メタンが得られる(HELVETICA CHEMICA ACTA Vol. 74, 1991)。
【0007】
本発明に用いられる銅錯体は、前記の銅化合物に、ビスオキサゾリン系配位子(1)を反応させて得ることができる。
上記反応には通常溶媒が使用され、かかる溶媒としては、例えば、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロンゲン化炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等を挙げることができる。また、次の工程で用いる原料の2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンを溶媒として用いることもできる。
溶媒の使用量は銅化合物に対し、通常、10〜500重量倍である。
【0008】
ビスオキサゾリン系配位子(1)の使用量は、銅化合物に対し、通常、0.8〜5モル倍であり、好ましくは1〜2モル倍である
さらに、銅化合物にビスオキサゾリン系配位子(1)を反応させるにあたっては、通常、アルゴン、窒素等不活性ガスの雰囲気下で実施される。なお、上記反応においては水が存在しない方が、反応収率の点で好ましい。
上記反応温度は特に限定されないが通常0〜50℃の範囲で実施される。
また、本発明においては、2価の銅化合物を用いて錯体を調整する場合は、フェニルヒドラジン等の還元剤で1価の銅化合物に還元しなくてもよい。
かくして、銅錯体が得られるが、銅錯体は単離してもよいし、単離することなく、プロキラルなオレフィン類(2)とジアゾ酢酸エステル類(3)との反応に、そのまま使用することができる。
該銅錯体の使用量は、ジアゾ酢酸エステル類(3)に対し、銅化合物換算量で通常、0.0001〜0.01当量倍であり、好ましくは、0.0005〜0.01当量倍である。
【0009】
本発明の原料化合物として用いられるジアゾ酢酸エステル(3)は、公知の方法で得ることができ、例えば、対応するアミノ酸エステル類をジアゾ化反応に付し、次いでクロロホルム等のハロゲン化炭化水素で抽出することにより得ることができる。必要に応じて蒸留等により単離することができる。
【0010】
ジアゾ酢酸エステル(3)の一般式において、R5は炭素数1〜6のアルキル基、低級アルキル基で置換されていてもよいシクロアルキル基、ベンジル基またはアルキル基もしくはアルコキシ基で置換されていてもよいフェニル基を示し、R5の具体例としては、例えば、メチル,エチル,プロピル,イソプロピル,ブチル,イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、l−メンチル、d−メンチル、ベンジル、シクロヘキシル、フェニル、m−メチルフェニル、m−メトキシフェニル、3,5−ジメチルフェニル、3,5−ジメトキシフェニル、4−メチル−2,6−ジ−t−ブチルフェニルなどが挙げられる。
【0011】
2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンの使用量は、ジアゾ酢酸エステル類(3)に対し、通常2モル倍以上であり、好ましくは5〜50モル倍である。
【0012】
本発明は、前記の銅錯体の存在下に2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンとジアゾ酢酸エステル類(3)とを反応させるものであるが、その具体的な方法としては、例えば、前記のようにして得られた銅錯体と2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンの混合物に、溶媒に溶解させたジアゾ酢酸エステル類(3)を加える方法が挙げられる。ここで溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類が挙げられ、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンを溶媒として用いることもできる。また、これらは混合して用いることもできる。
溶媒の使用量は、ジアゾ酢酸エステル類(3)に対し、通常、2〜30重量倍、好ましくは5〜20重量倍である。
【0013】
2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンとジアゾ酢酸エステル類(3)とを反応させる際には、通常、アルゴン、窒素等不活性ガスの雰囲気下で実施される。なお、上記反応においては水が存在しない方が、反応収率の点で好ましい。
上記反応温度は、特に限定されず、溶媒を用いた場合には、該溶媒の沸点以下で実施することができるが、通常、0〜100℃で、好ましくは5〜80℃で実施される。
【0014】
上記反応で得られた光学活性な菊酸エステルは、必要に応じ、蒸留、カラムクロマトグラフィー等の通常の方法により単離することができる。
【0015】
本発明で得られる光学活性な菊酸エステルの具体的な化合物としては、2,2−ジメチル−3−(2−メチル−1−プロペニル)シクロプロパンカルボン酸エステルの光学活性体を挙げることができる。
【0016】
ここで光学活性な菊酸エステルのエステル残基としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、i-ブチル、t-ブチル、シクロヘキシル、メンチル、4−メチル−2,6−ジt-ブチルフェニル等を挙げることができる。
【0017】
かくして得られた光学活性な菊酸エステルは、公知の方法により脱エステル化反応に付して、光学活性な菊酸に変換することができる。その際、本発明の反応に従って製造した光学活性な菊酸エステルは単離することなく脱エステル化反応に付すこともできる。
【0018】
上記脱エステル化反応の方法は特に限定されず、公知の方法に準拠して実施されるが、例えば、アルカリ金属の水酸化物等で加水分解する方法、酸触媒存在下、加熱により熱分解する方法等により実施することができる。
【0019】
【発明の効果】
本発明によれば、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンとジアゾ酢酸エステル類(3)とを反応させるに当たり、光学活性なビスオキサゾリンと銅化合物とで調製した銅錯体を存在させることで、選択性よく光学活性な菊酸エステルを製造することができる。
【0020】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでない。
【0021】
(実施例1)
窒素置換された50mlシュレンク管にトリフルオロメタンスルホン酸銅18.05mg(0.05mmol)、ビス[2-[4(R)-フェニル-2-オキサゾリン]]メタン16.9mg(0.055mmol)、1,2-ジクロロエタン14ml加えた後、室温にて10分攪拌した。この後2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエン6.0g(55mmol)を添加した後,25℃にてジアゾ酢酸エチル1.1g(10mmol)を2時間かけて滴下した。ジアゾ酢酸エチル滴下終了後,さらに1時間25℃にて攪拌した。菊酸エチルエステルの生成量をガスクロマトグラフィーにより定量すると1.58gであり,ジアゾ酢酸エチルに対する収率は80.5%,トランス/シス=72/28であった。反応混合物より2,5-ジメチル−2,4−ヘキサジエン(沸点51℃/30mmHg)を留去した後,濃縮液1gを分取し、1規定水酸化ナトリウム水溶液10ml、エタノール5mlを加え,100℃にて1時間攪拌しアルカリ加水分解した。得られた菊酸をl−メントールと反応させ生成するジアステレオマーエステルをガスクロマトグラフィーで分析した。
トランス体の光学純度は64%e.e.,シス体の光学純度は39%e.e.であった。
【0022】
(実施例2)
反応溶媒を1,2-ジクロロエタンの代わりに酢酸エチルを用いる以外は実施例1に準拠して実施した。菊酸エチルのジアゾ酢酸エチルに対する収率は、78.7%、トランス/シス=72/28、トランス体の光学純度は65%e.e., シス体の光学純度は35%e.e.であった。
【0023】
(実施例3)
ジアゾ酢酸エチルの代わりにジアゾ酢酸t−ブチルを用い、実施例1に準拠して反応を行った。菊酸t−ブチルの収量は 1.8gであり,収率81.4%,トランス/シス=82/18であった。2,5-ジメチル-2,4-ヘキサジエンを濃縮後、濃縮液を1g分取し、液体クロマトグラフィーで光学純度を測定した。トランス体の光学純度は77%e.e.、シス体の光学純度は57%e.e.であった。
【0024】
(実施例4)
ジアゾ酢酸エチルの代わりにジアゾ酢酸イソブチルを用い、実施例1に準拠して反応を行った。菊酸イソブチルの収量は 1.2gであり,収率54.4%、トランス/シス=76/24であった。光学純度の算出方法は実施例1に準拠した。トランス体の光学純度は67%e.e.、シス体の光学純度は31%e.e.であった。
【0025】
(実施例5)
ビス[2-[4(R)-フェニル-2-オキサゾリン]]メタンの代わりに、2,2−ビス[2-[4(R)- フェニル-2-オキサゾリン]]プロパン18.4mg(0.055mmmol)を用いた以外は実施例1に準拠して反応を行った。菊酸エチルエステルの生成量は1.55gであり、収率 78.8%、トランス/シス=69/31であった。トランス体の光学純度は67%e.e.、シス体の光学純度は21.8%e.e.であった。
【0026】
(比較例1)
ビス[2-[4(R)-フェニル-2-オキサゾリン]]メタンの代わりに、ビス[2-[4(R)-イソプロピル-2-オキサゾリン]]メタン13.1mg(0.055mmmol)を用いた以外は実施例1に準拠して反応を行った。菊酸エチルエステルの生成量は1.28gであり、収率65.3%、トランス/シス=63/37であった。トランス体の光学純度は36.4%e.e.、シス体の光学純度は24.2%e.e.であった。
【0027】
(比較例2)
ビス[2-[4(R)-フェニル-2-オキサゾリン]]メタンの代わりに、 ビス[2-[4(R)-t-ブチル-2-オキサゾリン]]メタン 16.0mg(0.055mmmol)を用いた以外は実施例1に準拠して反応を行った。菊酸エチルエステルの生成量は1.29gであり、収率66.0%,トランス/シス=66/34であった。トランス体の光学純度は14.9%e.e.、シス体の光学純度は0.9%e.e.であった。
【0028】
(比較例3)
ビス[2-[4(R)-フェニル-2-オキサゾリン]]メタンの代わりに、2,2-ビス[2-[4(R)-メチル,5(S)-フェニル-2-オキサゾリン]]メタン18.39mg(0.055mmmol)を用いた以外は実施例1に準拠して反応を行った。菊酸エチルエステルの生成量は1.32gであり、収率67.1%、トランス/シス=65/35であった。トランス体の光学純度は32.2%e.e.、シス体の光学純度は18.4%e.e.であった。
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