JP3987751B2 - 噴射ノズルおよび噴射方法 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、流体を噴射するノズルであり、詳細には噴射された流体が横からの力の影響を受けにくい直進性に優れた噴射流を形成する噴射ノズル及びそのノズルを用いた噴射方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
本発明は、例えば鋳片の表面を溶削するホットスカーフの溶削作業により生じる溶融スラグを効果的に除去し得る、ホットスカーフ用高圧水噴射ノズルに適用しうるものである。
【0003】
ブルームやスラブ材等の被溶削材の表面及び表層の疵を熱間で溶削するホットスカーフは、溶削ユニットから酸素ガス及びLPGを被溶削材の表面へ向けて噴射して被溶削材の表層を溶削する技術であるが、溶削に伴って発生する溶融スラグが被溶削材に付着しないように被溶削材の幅方向(溶融スラグの飛散方向と直交する方向)へ飛散させる目的で高圧水噴射装置が溶削ユニットの入り側の片側に配置されている。高圧水噴射装置の指向する被溶削材の幅方向の反対側には対向してフードが設置されており、高圧水によりフード内に導入された溶融スラグは地下斜流溝へ落下し、排出される。これが何らかの原因で溶融スラグがフード外に飛散すると、マシン周辺に溶融スラグが固着・堆積し、それらの除去作業に時間を要するため、稼働率の低下を引き起こすことがある。
【0004】
このような溶融スラグのマシン周辺への飛散を防止するために、実開平1−128971号公報ではノズル先端へ溶融スラグが付着し閉塞することによる機能低下の抑制を目的として、噴射ノズルの噴出孔に内径の大きな筒状のフードを設ける提案がなされている。また実開平6−567号公報では、従来の高圧水の噴射範囲の外側に広角ノズルを付加するとともに、高圧水噴射ノズル群を昇降自在とすることで被溶削材の尾端が溶削ユニットを抜ける前に前記ノズル群を下降遮断することが提案されている。
【0005】
著者らの観察によれば、上述のノズル閉塞等に伴う機能低下や、高圧水の噴射範囲外への溶融スラグ飛散といったことが起こる以前に、高圧水ジェットに向かって定常的に押し寄せる溶融スラグに対して、高圧水の勢いが部分的に溶融スラグの勢いに負け、遮断されずに高圧水の後方に溢れ出す場合が極めて多いことを見出した。これを防止するためには、溶融スラグの勢いに負けないよう高圧噴射水の水量および水圧を適切に設定し、かつ高圧で噴射された水が広がらずに、そのエネルギーが効率的に溶融スラグの遮断に使用されるようにする、すなわち噴射された高圧水ジェットに直進性を持たせる必要がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上述の先行技術では、高圧水噴射ノズルに関していずれも断面形状が円筒状である。このような構造を有するノズルでは円筒状に噴射されたジェットの中心空洞部分が負圧となるため、噴射された水の広がりが少なく直進性が良好であるという特徴を有しており、ホットスカーフ用高圧水噴射ノズルに一般的に採用されている。しかしながら、所定の流量で噴射された水を円筒形状となるようにすると、噴射された水の形成する円筒の厚みが同流量の例えば円柱形状等の場合と比較して相対的に薄くなるため、側方から飛散する溶融スラグの衝突に対して弱くなるという課題を持っていた。また、ノズル内部に中子を設置する必要があり、中子の溶接加工やダイカストなどを用いて製作するため、製作に手間がかかるといった問題も抱えていた。
【0007】
一方、溶融スラグを確実に除去し得る高圧水の水量および水圧条件は、各マシン固有の幾何学的な配置条件や、溶削条件などに密接に関連しているため、噴射条件を決定することは一般的に難しい。したがって、これらの条件の設定は実際の操業の中で溶融スラグの除去具合を観察しながら調整するという方法に頼ることが多かった。しかしながら、このような方法は非効率的であるばかりでなく、新規に高圧水噴射装置を設計する際の指針とはなり得ない。このため、溶融スラグを確実に除去し得る高圧水の水量および水圧条件を決定するための指針が求められていた。
【0008】
本発明は以上述べた問題点を鑑みなされたもので、ホットスカーフの溶削作業時に発生する溶融スラグを確実にフード内に導き入れ、フード外へ溶融スラグが飛散することを防止できる高圧水噴射ノズルとその噴射条件を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するための手段が、
噴射ノズルの噴射孔が開口する噴射面が、ノズルの外周側がリング状に噴射方向に対して凸、内側が噴射方向に対して凹であり、且つ、当該凹と凸の境界部に複数の噴射孔を前記境界部が当該各々の噴射孔の中心部を通るように配置し、当該各々の噴射孔の前記境界部よりも外側部分が噴射方向に対して凸で内側部分が噴射方向に対して凹になるように配置したことを特徴とする噴射ノズル。及び、前記噴射ノズルの噴射条件として次式の範囲で移動媒体に向けて流体を噴射することを特徴とする噴射方法。
Q>[(M・V・sinθ)・L]/[(8ρ)1/2c・H・p1/2] (1)
但し、Q:単位時間当たりの噴射流体の流量(m3/sec)
M:移動媒体の単位時間当たり質量流量(kg/sec)
V:移動媒体の流速(m/sec)
L:移動媒体の幅(m)
ρ:噴射流体の密度(kg/m3
c:噴射ノズルの流量係数(−)
H:噴射流体軌跡のずれ量最大値(m)
p:噴射圧力(N/m2=kg/m/sec2
θ:流体の噴射方向と移動媒体の運動方向とがなす角度(°)
であることを要旨とする。
【0010】
ここで、移動媒体とは噴射ノズルから噴射する流体によって進路を変更すべき媒体を示し、例えばホットスカーフの溶削作業で使用する高圧水噴射ノズルの場合であれば移動媒体とは溶融スラグを意味する。また、噴射流体軌跡のずれ量最大値Hとは、移動媒体との衝突による噴射流体の軌跡のずれの最大値を示し、移動媒体はHの範囲に広がって吹き飛ばされる。例えばホットスカーフの溶削作業であれば、Hが溶融スラグを収容すべきフードの幅より小さければ、溶融スラグをフード内に導入することが可能になる。
【0011】
【発明の実施の形態】
高圧水噴射ノズルとして、本発明は図1に示すように噴射孔8の形状を同心円上に中心をもつ多孔式としたことで、図7に示すような従来の円筒状の噴射孔8を有するノズルと比較して、同流量条件であれば水膜厚みを増加することが可能になる。その結果、側方からの溶融スラグの衝突に強くなる。また、噴出孔8の形状を多孔式にした上で、ノズルの外周側にリング状に凸部10を設け、内側に凹部11を設け、噴射孔8を凸部と凹部の境界部9に配置することにより、凸部10がノズル径方向への高圧水広がり防止用のガイドとして機能し、優れた直進性を得ることができる。さらに本発明のノズルは円柱の材料にリーマー等を用いて加工することにより容易に製作することができる。
【0012】
また、高圧水噴射条件として上記(1)式の条件を設定すると、噴射ノズルから噴射した流体が移動媒体、例えば溶融スラグの勢いに負けることなく、幅Hの範囲内において溶融スラグを後方に押し出すことができる。フードの幅をHより大きな幅としておけば、後方へ溶融スラグが溢れ出すことを防ぎ、確実にフード内に溶融スラグを導入することができる。
【0013】
【実施例】
以下、図面に基づいて本発明の実施例を説明する。
図6に、ホットスカーフ装置の概要図を示す。図中1は矢印1Aの方向に移動するスラブ等の被溶削材、2は該被溶削材の表面へ向けて酸素ガス及びLPGを吹き付ける溶削ユニット、3は溶削ユニット前方に配設したフード、4は搬送ロールである。5、6は溶削ユニット2の入り側で被溶削材1の幅方向の片側に設けてあり、溶削によって発生する溶融スラグ11は高圧水噴射ノズル5、6から噴射される高圧水ジェットにより被溶削材1の進行方向と直交する方向へ飛散させられフード3内を通過して地下斜流溝内に落下する。
【0014】
図7に従来の円筒形状のノズルを噴射孔側から見た図とその断面図を、図1に本発明の多孔式形状のノズルを噴射孔側から見た図とその断面図を示す。図1において、ノズルの外周側にリング状に凸部10を設け、内側に凹部11を設け、噴射孔8を凸部と凹部の境界部9に配置することにより、円の外側部分の凸部10が高圧噴射水の広がりを防止するガイドを形成している。
【0015】
従来品のサイズは、
外径;60mm
外周円高さ;12mm
噴射孔形状;リング状2.5mm幅
本発明品のサイズは、
外径;60mm
外周円高さ;15mm
噴射孔形状;11mmφ×9孔
【0016】
上記従来品と本発明品とで比較すると、同じ外形のノズルを使用しても従来品に比較して本発明品は、2倍以上の流量の高圧水を噴射することができる。しかも筒状の噴射水の肉厚は、従来品では、2.5mmであるのに対し、本発明品では、最大11mmを確保でき、噴射水流の側面からの力に対し、抵抗力があるということができる。
【0017】
また、従来品として6mm幅のリング状の噴射孔形状とすれば、上記本発明品と同じ流量の高圧水を噴射することが可能であるが、本発明品の噴射水の肉厚が11mmであるのに対し、従来品の噴射水の肉厚は6mmしかなく、同一流量の噴射水を得た場合において本発明品の方が噴射水の肉厚を厚くすることができ、噴射水流の側面からの力に対して高い抵抗力を実現することができる。
【0018】
実施例では、上記本発明の噴射ノズルを図6に示すホットスカーフ装置の高圧水噴射ノズル5に採用した。以下、その結果を説明する。
【0019】
噴射ノズルからの噴射流体(高圧噴射水)と移動媒体(溶融スラグ)の勢いを定量化するために、噴射流体を質量流量mの質点と考え、幅Lにわたって質量流量Mで流れる移動媒体に連続的に衝突するモデルを考案した(図2)。幅Lをn等分する。各区分の長さΔx=L/nである。移動媒体を各区分毎の長さΔx当たりM/L・Δxの質点と考え、n=1〜nにおける運動量保存則を下記のように立てる。下記方程式において、V、vi(i=0〜n)はベクトルである。
n=1:(M/L)・Δx・V+mv0={(M/L)・Δx+m}v1
n=2:(M/L)・Δx・V+{(M/L)・Δx+m}v1={2・(M/L)・Δx}v2
・・・・・・
n=n:(M/L)・Δx・V+{(M/L)・Δx+m}vn-1={n・(M/L)・Δx}vn
上記運動量保存則において辺々足し合わせ整理すると、質点mは距離Lだけ進む間に、移動媒体の進行方向に距離(MLV)/2mv0だけ流される。従って、高圧噴射ノズルからフードによりカバーされる限界までの距離をHとすると、噴射流体軌跡のずれ量がHより小さければ移動媒体(溶融スラグ)をフードによりカバーされる範囲内に押し出して除去することができる。即ち、
(MLV)/2mv0<H
であればよい。ここで側面ノズルの流量をQ、背圧をpとして上式を書き直すと、m=ρQ、v0=c・(2p/ρ)1/2であるから、除去が可能な噴射ノズルの水量および水圧の条件は
Q>[(M・V・sinθ)・L]/[(8ρ)1/2c・H・p1/2] (1)
但し、Q:単位時間当たりの噴射流体の流量(m3/sec)
M:移動媒体の単位時間当たり質量流量(kg/sec)
V:移動媒体の流速(m/sec)
L:移動媒体の幅(m)
ρ:噴射流体の密度(kg/m3
c:噴射ノズルの流量係数(−)であり、図1に示すような噴射ノズルではc≒3.5×10-5で与えられる。
H:噴射流体軌跡のずれ量最大値(m)
p:噴射圧力(N/m2=kg/m/sec2
θ:流体の噴射方向と移動媒体の運動方向とがなす角度(°)であり、図2の例ではθ=90°である。
【0020】
図3において、ハッチングを伴う曲線は上記(1)式の境界を表し、ハッチング側が除去可能範囲である。一方、図中の○と●は高圧噴射水および溶融スラグの両者に水を用いた模型実験を行った実験結果を示し、●は除去良好、○は除去不良の例である。この結果から、実際のホットスカーフにおける高圧噴射水による溶融スラグの除去現象も、上記(1)式によって表されるのと同様の物理法則に支配されているものと推定される。
【0021】
実機の設備条件に上記モデルを適用した結果を図4に示す。図中、ハッチングを伴う曲線は上記(1)式の境界を表し、ハッチング側が除去可能範囲である。このとき、(M・V)の値として溶融スラグの運動量を与えることは困難であるため、溶削ガスのスラブ面方向の運動量を用いることが要点である。図4中には、従来の噴射条件と実施例の噴射条件に相当する点をともに●としてプロットした。実際に高圧水ジェットの後方への溶融スラグ流出状況を観察すると、改善後は高圧水ジェットにより溶融スラグが完全に遮断されていることが確認された。なお(1)式中のHの値としては、実施例では高圧噴射ノズルからフードによりカバーされる限界までの距離としたが、設備の配置条件によっては高圧噴射ノズルから最も近い溶融ノロの付着対象物までの距離とする必要がある。
【0022】
図5にフード外に飛散・堆積した溶融スラグ除去作業の時間比率を比較した例を示す。本発明により溶融スラグの除去に伴う整備作業時間が1ヶ月あたり5%以下まで低減されたことを確認した。
【0023】
なお、本発明を鋳片溶削時のスカーファーに適用した例で説明したが、本発明による噴射ノズル及びそれを使用した噴射方法は、スカーファーの高圧水への適用に限定されるものではなく、広く噴射流の直進性を要する噴射媒体の噴射に供することのできるものである。
【0024】
【発明の効果】
以上述べたように本発明によれば、例えば、ホットスカーフの溶削作業時に発生する溶融スラグを確実にフード内に導き入れ、フード外への飛散を防止することができる。すなわち、マシン周辺への溶融スラグの飛散・堆積を抑制する結果、その整備除去作業を著しく低減でき、マシンの稼働率を向上させることができるなど、噴射した流体の直進性にする下駄噴射流を形成できるものであり、従来にない優れた噴射ノズル及び噴射方法である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の多孔式形状のノズルを示す図であり、(a)は噴射孔側から見た図、(b)はB−B矢視断面斜視図である。
【図2】高圧噴射水と溶融スラグの勢いを定量化するために考案したモデルの概要図である。
【図3】噴射流体の圧力と水量と除去可否を示す図であり、図中丸印は水を用いた模型実験結果であり、ハッチングを伴う曲線は(1)式の境界を示す。
【図4】噴射流体の圧力と水量と除去可否を示す図であり、図中丸印は実機での実施例であり、ハッチングを伴う曲線は(1)式の境界を示す。
【図5】溶融スラグの除去に伴う整備作業時間の比較結果を示す図である。
【図6】ホットスカーフ装置概要図である。
【図7】従来の円筒形状のノズルを示す図であり、(a)は噴射孔側から見た図、(b)はA−A矢視断面斜視図である。
【符号の説明】
1 被溶削材
2 溶削ユニット
3 フード
4 搬送ロール
5 高圧水噴射ノズル
6 高圧水噴射ノズル
7 溶融スラグ
8 噴射孔
9 凸部と凹部の境界部
10 凸部
11 凹部
12 噴射ノズル

Claims (2)

  1. 噴射ノズルの噴射孔が開口する噴射面が、ノズルの外周側がリング状に噴射方向に対して凸、内側が噴射方向に対して凹であり、且つ、当該凹と凸の境界部に複数の噴射孔を前記境界部が当該各々の噴射孔の中心部を通るように配置し、当該各々の噴射孔の前記境界部よりも外側部分が噴射方向に対して凸で内側部分が噴射方向に対して凹になるように配置したことを特徴とする噴射ノズル。
  2. 請求項1に記載の噴射ノズルを用い、次式の範囲で移動媒体に向けて流体を噴射することを特徴とする噴射方法。
    Q>[(M・V・sinθ)・L]/[(8ρ)1/2c・H・p1/2] (1)
    但し、Q:単位時間当たりの噴射流体の流量(m3/sec)
    M:移動媒体の単位時間当たり質量流量(kg/sec)
    V:移動媒体の流速(m/sec)
    L:移動媒体の幅(m)
    ρ:噴射流体の密度(kg/m3
    c:噴射ノズルの流量係数(−)
    H:噴射流体軌跡のずれ量最大値(m)
    p:噴射圧力(N/m2=kg/m/sec2
    θ:流体の噴射方向と移動媒体の運動方向とがなす角度(°)
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