JP3986622B2 - 単結晶保持装置及び単結晶保持方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、CZ法による単結晶製造装置に装着され、特に大重量の単結晶の製造に好適な単結晶保持装置及び単結晶保持方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
単結晶シリコンは一般にCZ法を用いて製造されている。CZ法は、単結晶製造装置内に設置した石英るつぼに多結晶シリコンを充填し、石英るつぼの周囲に設けたヒータによって前記多結晶シリコンを加熱溶解した上、シードホルダに取り付けた種結晶を融液に浸漬する。そして、シードホルダ及び石英るつぼを互いに同方向または逆方向に回転させながらシードホルダを引き上げて単結晶シリコンを所定の直径及び長さに成長させる方法である。
【0003】
種結晶には、融液に浸漬したときの熱衝撃で転位が発生する。この転位を単結晶に伝播させないようにするため、ダッシュネック法を用いて直径数mm程度のネック部を種結晶の下方に形成し、転位をネック部の表面に逃がす。そして、無転位化が確認された後、肩部を形成して単結晶を所定の直径まで拡大させ、次いで直胴部形成に移行する。
【0004】
近年、単結晶の直径及び長さの増大に伴ってその重量が増大し、ネック部の強度が限界に近づいている。そのため、従来の結晶引き上げ方法ではネック部が破断するおそれがあり、安全な単結晶育成ができない。この対策として、ダッシュネック法によって無転位化した後の拡径工程において単結晶の直径をいったん絞り込んでくびれ部を形成し、このくびれ部に保持具を掛止して単結晶を保持する種々の工夫がなされている。単結晶重量の大部分を保持具で支えるため、ネック部の破断が防止され、ネック部が破断した場合でも保持具により単結晶の落下を防止することができる。
【0005】
たとえば特公平5−65477号公報で開示された単結晶成長装置は、単結晶に形成したくびれ部に掛止させて前記単結晶を吊り下げる開閉可能なクランプアームを備えている。また、特公平7−515号公報で開示された結晶引上装置は、上下動可能な把持ホルダの下端に一定の角度で停止する複数の爪を備え、これらの爪を単結晶のくびれ部に掛止させて前記単結晶を吊り下げる構成としている。更に、特公平7−103000号公報で開示された結晶引上装置は、単結晶のくびれ部に掛止する爪を有し、ワイヤの巻き取りまたは巻き戻しにより開閉する複数の把持レバーと、把持レバーの開きを防止するリングとを用いて前記単結晶を吊り下げる構成としている。その他、特開平9−2893号公報、特開平5−270934号公報等が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、単結晶に形成したくびれ部を各種の保持具で保持する場合、下記の問題点がある。
(1)くびれ部を形成する場合、結晶引き上げ速度や融液温度を調整して形状を制御するため、ねらいの形状を再現性良く形成することが困難で、保持具の掛止具合が単結晶ごとに異なってしまう。
(2)保持具に機械的な圧力を加えて単結晶を保持する場合、単結晶の冷却に伴う収縮により保持力が低下し、単結晶を確実に保持することができなくなるが、この問題を解決する方策は確立されていない。
(3)一般的に、単結晶の外周面には結晶方位による晶癖線(稜線)が発生し、この稜線は単結晶の外周面から突起している。そのため、単結晶を保持する保持具が稜線に当接して保持力が加えられると、稜線が欠けることがある。そして、欠落した単結晶の破片が融液に落下すると、育成中の単結晶を有転位化させてしまう。また、前記稜線の欠けた部位が破壊起点となって単結晶が破壊し、融液に落下することも起こり得る。従って、保持具と単結晶の稜線とが一致しないように制御する必要があるが、この点を明確化した単結晶保持方法は開示されていない。
【0007】
本発明は上記従来の問題点に着目してなされたもので、大重量の単結晶を保持する際に、形状、寸法の再現性の良い部位を保持し、単結晶の冷却に伴う収縮による保持力の低下に対応することが可能で、かつ、保持部位が単結晶の稜線と一致しないように制御することができる単結晶保持装置及び単結晶保持方法を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明に係る単結晶保持装置は、複数のリンクを連結してなり、リンクピンの位置を移動させることにより水平面内で変形可能な多角形リンク体と、単結晶を挟持するために多角形リンク体を変形させる手段と、多角形リンク体を結晶引き上げワイヤと同期して回転及び昇降させる手段と、結晶引き上げワイヤに加わる荷重を検出する引き上げワイヤ用ロードセルと、結晶引き上げワイヤに加わる荷重と多角形リンク体に加わる荷重との合計荷重を検出する合計荷重用ロードセルと、前記の各手段を制御する制御装置とを備えていることを特徴とする。
本発明の単結晶保持装置は、単結晶を取り囲むように配置した多角形リンク体を変形させて単結晶を挟持するものである。上記構成によれば、多角形リンク体の変形により対向位置にあるリンクの間隔が狭くなるので、単結晶を前記リンクで挟み込むことができる。多角形リンク体は、結晶引き上げワイヤと同期して回転及び昇降するので、単結晶を挟持する際に結晶引き上げワイヤと多角形リンク体との回転速度差あるいは上昇速度差による摩擦が起こらない。多角形リンク体で単結晶を挟持した後の結晶引き上げ速度は、結晶引き上げワイヤのみによる引き上げ速度と同一である。また、結晶引き上げワイヤに加わる荷重すなわちネック部に加わる荷重は引き上げワイヤ用ロードセルが検出し、多角形リンク体に加わる荷重は合計荷重用ロードセルの検出値と引き上げワイヤ用ロードセルの検出値との差として検出され、これらの値に基づいて制御装置が単結晶の育成及び荷重配分の制御を行う。
【0009】
上記単結晶保持装置は、結晶引き上げワイヤ巻き取り機構と、引き上げワイヤ用ロードセルと、多角形リンク体駆動機構とを単結晶製造装置の上部に設けた真空容器に収納し、前記真空容器と、真空容器に加わる荷重を検出する合計荷重用ロードセルと、真空容器回転機構とを昇降自在のキャリッジに搭載したことを特徴とする。
上記構成によれば、結晶引き上げワイヤ巻き取り機構、多角形リンク体駆動機構及び前記2種類のロードセルを昇降自在のキャリッジに搭載したので、単結晶の引き上げは結晶引き上げワイヤの巻き取り、キャリッジの上昇のいずれによっても可能となる。
【0010】
本発明の単結晶保持装置における多角形リンク体駆動機構の第1は、モータまたは流体圧アクチュエータと、単結晶製造装置内に垂直に保持され、前記モータまたは流体圧アクチュエータにより水平方向に移動する2本の保持ロッドとからなる多角形リンク体駆動機構を有し、前記保持ロッドの下端に多角形リンク体の対向位置にあるリンクピンを連結したことを特徴とする。
上記構成によれば、保持ロッドは垂直姿勢を維持しつつ水平方向に動くので、保持ロッドの下端に連結された多角形リンク体が変形して単結晶を保持する。
【0011】
本発明の単結晶保持装置における多角形リンク体駆動機構の第2は、2個のワイヤ巻き取りドラムと、前記ワイヤ巻き取りドラムから垂下する2本の多角形リンク体駆動ワイヤと、真空容器の下端に設置した複数個の滑車と、多角形リンク体駆動ワイヤの巻き取りに伴って多角形リンク体のリンクピンを横方向に移動させるガイドプレートとからなる多角形リンク体駆動機構を有し、前記ワイヤの下端に多角形リンク体の対向位置にあるリンクピンを連結したことを特徴とする。多角形リンク体の対向位置にあるリンクピンにそれぞれ多角形リンク体駆動ワイヤを連結し、これらのワイヤをワイヤ巻き取り機構で巻き取るようにすれば、前記リンクピンが横方向に移動するので、多角形リンク体が変形して単結晶を保持する。
【0012】
また、本発明の単結晶保持装置は、冷却により単結晶が収縮し、単結晶保持装置の保持力が低下した場合の保持力回復機能を有し、引き上げた単結晶を単結晶製造装置から取り出すまで保持力を維持することを特徴とする。
単結晶が収縮すると、結晶引き上げワイヤに加わる荷重が異常に増加し、単結晶保持装置に加わる荷重が減少する。引き上げワイヤ用ロードセルの検出値があらかじめ定められた設定荷重を超えると、制御装置の指令信号により保持ロッドを更に移動させ、あるいは多角形リンク体駆動ワイヤを更に巻き取るので、多角形リンク体の単結晶保持力が回復し、その状態を常に維持することができる。
【0013】
更に、本発明の単結晶保持装置は、多角形リンク体を構成するリンクの内側面に、単結晶のくびれ部を保持するための円弧状の断面をもつ保持部材を取着したことを特徴とする。
多角形リンク体に単結晶のくびれ部を包囲する保持部材を取着すれば、単結晶の直胴部のみならずくびれ部を保持することも可能である。その場合、円弧状の断面をもつ保持部材がくびれ部近傍の円錐面を担持し、くびれ部を締めつけないので、くびれ部の損傷、破壊が防止される。
【0014】
次に、本発明に係る単結晶保持方法は、単結晶を取り囲む多角形リンク体を所定の位置に下降させた後、保持ロッドの水平方向移動または多角形リンク体駆動ワイヤの巻き上げにより多角形リンク体を変形させて単結晶の直胴部を挟持することを特徴とする。
上記構成によれば、多角形リンク体を変形させて単結晶の直胴部を挟み込み、所定の力で締めつけることにより、単結晶を保持することができる。
【0015】
また、単結晶を保持する別の方法として、ネック部と単結晶の肩部との間に形成したくびれ部または単結晶の直胴部に形成したくびれ部を、多角形リンク体の内側面に取着した保持部材で保持することを特徴とする。
多角形リンク体を変形させ、保持部材で単結晶のくびれ部を包囲した後、多角形リンク体を僅かに上昇させてくびれ部に当接させれば、くびれ部を締めつけることなく単結晶を保持することができる。
【0016】
本発明の単結晶保持方法は、多角形リンク体が単結晶に当接する位置と単結晶の稜線とが一致しないように、種結晶または単結晶保持装置を設置することを特徴とする。
稜線の発生位置、本数は結晶方位によって異なるが、上記構成によれば、多角形リンク体で単結晶を締め付けても稜線の圧壊が回避され、育成中の単結晶に悪影響を及ぼさない。
【0017】
更に、本発明の単結晶保持方法では、単結晶の育成中に、単結晶重量の一部または全部を単結晶保持装置に負担させ、重量の一部を負担させる場合はネック部が破断しない重量をネック部に負担させることを特徴とする。
上記構成によれば、単結晶保持装置とネック部とに対する負担重量をあらかじめ定めておき、引き上げワイヤ用ロードセル及び合計荷重用ロードセルの検出信号に基づいて制御装置が前記重量配分を制御するので、大重量の単結晶引き上げにおいてもネック部の破断が起こらない。
【0018】
【発明の実施の形態及び実施例】
次に、本発明に係る単結晶保持装置及び単結晶保持方法の実施例について図面を参照して説明する。図1は単結晶保持装置の第1実施例の概略構造を示す模式的縦断面図である。単結晶製造装置1の上端に設置された真空容器2は、支持板2a、2bにより3分割され、支持板2b上に結晶引き上げワイヤ3の巻き取りを行うワイヤ巻き取りドラム4と、結晶引き上げワイヤ3にかかる荷重を検出する引き上げワイヤ用ロードセル5とが設置されている。結晶引き上げワイヤ3は単結晶製造装置1の中心を垂下してその下端にシードホルダ6が釣支され、シードホルダ6に取着された種結晶7の下端にダッシュネック法によるネック部8を形成した後、単結晶9が育成される。
【0019】
また、支持板2a上には、単結晶保持装置10の構成部材である2本の柱状の保持ロッド11を水平方向に移動させる保持ロッド駆動モータ12が設置されている。前記保持ロッド駆動モータ12の左右両端から水平方向に突出するモータ軸13は同期回転するボールネジを有し、モータ軸13には保持ロッド11の上端が螺合されている。保持ロッド11は単結晶製造装置1内に垂直に設置され、下端には多角形リンク体14が装着されている。なお、保持ロッド11の駆動手段として左右両方向に伸縮する油圧シリンダまたは空圧シリンダを用いてもよい。
【0020】
上記真空容器2の下部にはプーリ15が取着され、支持板2bは前記プーリ15上に設置された合計荷重用ロードセル16に担持されている。合計荷重用ロードセル16は、結晶引き上げワイヤ3にかかる荷重と単結晶保持装置10にかかる荷重との合計荷重を検出して図示しない制御装置に入力する。制御装置は、前記合計荷重検出値と引き上げワイヤ用ロードセル5の検出値とに基づいて、単結晶保持装置10が負担している荷重を算出する。真空容器2は、真空シール17を介してキャリッジ18に搭載され、キャリッジ18に設置された回転用モータ19により回転する。また、前記プーリ15はキャリッジ18に設置された支持筒20にスラスト軸受21を介して担持されている。前記キャリッジ18は図示しない昇降手段、たとえばボールネジ軸の回転により昇降可能で、キャリッジ18とともに真空容器2が昇降する。更に、キャリッジ18とゲートチャンバ22とは伸縮自在のベローズ23で連結され、ゲートチャンバ22の下端はトップチャンバ24を介して図示しないメインチャンバに連結されている。
【0021】
図2は多角形リンク体の斜視図である。この多角形リンク体14は4個の等辺リンク14aをリンクピン14bで互いに連結したもので、対角線上の2本のリンクピンにそれぞれ保持ロッド11の下端が連結されている。2本の保持ロッド11が中心側に移動したとき多角形リンク体14は正方形となり、保持ロッド11が外方に移動したとき多角形リンク体14は菱形に変形して単結晶9を挟み込む。保持ロッド11、等辺リンク14a、リンクピン14bはモリブデン等の耐熱金属を用いて製作されている。なお、保持ロッド11が中心側に移動したとき多角形リンク体14が菱形に変形する構造としてもよい。
【0022】
単結晶を保持する多角形リンク体の保持能力を高めるため、図3に示すように等辺リンク14aの内側面に凹凸14cを設けてもよく、図4に示すように円弧上の凸部14dを設けてもよい。
【0023】
以下、単結晶の保持方法について説明する。図1に示した種結晶7をシードホルダ6に装着する際、多角形リンク体14が単結晶9に発生する稜線に当接しないように種結晶の装着方向を選択する。絞り工程、肩部形成及び直胴部形成の途中までの育成は、結晶引き上げワイヤ3の巻き取り制御により行う。このときの単結晶成長は、引き上げワイヤ用ロードセル5の検出値に基づいて図示しない制御装置により制御される。単結晶9が保持に適した位置まで成長した後、単結晶保持装置10の多角形リンク体14と単結晶9との位置合わせを行う。第1の単結晶保持方法として、保持に最適な位置に多角形リンク体14を待機させて単結晶9の成長を待ち、単結晶9が最適位置まで成長したとき結晶引き上げワイヤ3の巻き取りを停止し、前記停止直前の結晶引き上げワイヤ3の巻き取り速度でキャリッジ18の上昇を開始する。結晶引き上げワイヤ3からキャリッジ18への移行は瞬時に行う。単結晶9の直径は引き上げワイヤ用ロードセル5、合計荷重用ロードセル16の検出値によって制御しているので、結晶引き上げワイヤ3からキャリッジ18への移行はスムーズに行うことができる。また、前記移行後の単結晶育成は重量検出信号を制御装置がキャリッジ18の上昇速度にフィードバックして制御する。
【0024】
多角形リンク体14が待機姿勢のとき、図5(a)に示すように4個の等辺リンク14aで形成される四辺形は正方形で、等辺リンク14aに囲まれた単結晶の直胴部9a外周面と各等辺リンク14aの内側面との間には一定の隙間が確保されている。結晶引き上げワイヤ3からキャリッジ18への移行時には、図1に示した保持ロッド駆動モータ12が回転して保持ロッド11を外方に移動させる。これにより多角形リンク体14が菱形に変形し、図5(b)に示すように直胴部9aを等辺リンク14aで挟み込んで締めつける。多角形リンク体14が変形して直胴部9aに当接するとき単結晶に振動、衝撃を与えず、また、締めつけにより単結晶に過度の面圧が発生しないようにするため、制御装置が保持ロッド駆動モータ12の回転速度及びトルクを制御する。
【0025】
第2の単結晶保持方法として、たとえば図1に示したベローズ23の下端よりも上方の任意の位置で多角形リンク体14を単結晶9に係合させるため、多角形リンク体14を速度Va (mm/min)で上昇させる場合、引き上げワイヤ用ロードセル5の検出信号に基づいて制御装置が指令する結晶引き上げワイヤ3の巻き取り速度をVb (mm/min)とすると、ワイヤ巻き取り速度をVb −Va (mm/min)に制御する。これとは逆に、多角形リンク体14を速度Va (mm/min)で下降させる場合は、ワイヤ巻き取り速度をVb +Va (mm/min)に制御する。
【0026】
上記の通り単結晶に対して多角形リンク体14を相対的に移動させることにより、任意の位置で直胴部を挟み込むことができる。炉内における単結晶の温度プロファイルをあらかじめ把握しておき、材料力学的にシリコンが安定する温度帯で単結晶を保持したり、汚染を防止する等、温度に対する保持位置の制御が可能である。多角形リンク体14を単結晶に係合した後、結晶引き上げワイヤ3を巻き戻して単結晶重量の一部を単結晶保持装置側に移す。結晶引き上げワイヤ側にはたとえば5kg前後の荷重を残し、結晶引き上げワイヤ3のたるみによるワイヤ巻き取りドラム4からの外れを防止する。引き上げ可能重量を大きくするには、ネック部8が破断しない程度の荷重を結晶引き上げワイヤ側に残しつつ引き上げを行うのが有利である。従って、結晶引き上げワイヤ3にかかる荷重を引き上げワイヤ用ロードセル5でモニタリングし、設定荷重より検出荷重が増えた場合はワイヤ巻き取りドラム4にフィードバックして結晶引き上げワイヤ3を巻き戻し、常に一定の荷重がネック部8にかかるように制御する。
【0027】
単結晶が冷えて収縮すると、単結晶保持装置と単結晶との係合状態がゆるむので、結晶引き上げワイヤ側に荷重が移動する。図1において、引き上げワイヤ用ロードセル5による検出値が結晶引き上げワイヤ3の設定荷重を超えた場合、制御装置の指令信号により保持ロッド駆動モータ12が回転して保持ロッド11が更に外方に移動し、多角形リンク体14を更に偏平にさせる。このときの保持ロッド駆動モータ12のトルクは、単結晶9が欠損しない程度の大きさで与えられる。このような単結晶の収縮に対する多角形リンク体14の増し締め機能は、単結晶の育成中のみならず、冷却工程でチャンバ内が解体可能な温度まで下がり、単結晶が搬出装置に保持されるまでの間継続して維持される。
【0028】
図6は単結晶保持装置の第2実施例の下部構造を示す模式図である。この単結晶保持装置は、図1に示した保持ロッド駆動モータ12及びモータ軸13の上方に90°ずらして保持ロッド駆動モータと1対のモータ軸及び保持ロッドを増設したもので、単結晶9を上下2個の多角形リンク体14、25で保持する。これにより、単結晶保持能力を高めることができる。
【0029】
図7は単結晶保持装置の第3実施例として、単結晶の肩部上端に形成したくびれ部を保持する単結晶保持装置の下部構造の説明図、図8(a)は図7に示した多角形リンク体の上面図、図8(b)は図8(a)のA−A断面図である。この単結晶保持装置では、多角形リンク体14を構成する4個の等辺リンク14aの内側面に円弧状の保持部材14eが取着されており、形状再現性精度の劣るくびれ部9b近傍の外周面を複数箇所で保持することができる。
【0030】
さきに述べた直胴部保持と異なり、くびれ部9bを保持する場合は、4個の保持部材14eによって囲まれた部分の内径がくびれ部の最大径と最小径との間の任意の値となるように多角形リンク体14を変形させればよく、くびれ部を締めつける必要はない。そこで、この単結晶保持装置では2本の保持ロッド11が開き防止板26で連結され、保持ロッド11に取着したガイドピン27が前記開き防止板26に設けたガイド溝26a内をスライドして保持ロッド11の移動量を制限している。そして、ガイドピン27がガイド溝26aの両端に当接すると2本の保持ロッド11の間隔が最大となり、保持部材14eの内径はくびれ部の最大径と最小径との間の所定値となる。開き防止板26は、保持部材14eによるくびれ部9bの圧壊を防止するとともに、くびれ部7bを保持したときの多角形リンク体14の剛性を確保する。
【0031】
上記くびれ部9bに多角形リンク体14を係合させる場合、多角形リンク体14を速度Va (mm/min)で下降させ、ワイヤ巻き取り速度をVb +Va (mm/min)に制御して、制御装置が指令する結晶引き上げ速度Vb (mm/min)を維持する。そして、多角形リンク体14をくびれ部9bの最小径の位置に合わせ、保持ロッド11を外方に駆動して保持部材14eの内径を所定値Dとした後、単結晶保持装置を単結晶に対して相対的に上昇させる。これにより、保持部材14eはくびれ部9bの上側円錐面に当接する。このときの速度操作は第1実施例の場合と同じである。そして、所望の荷重を結晶引き上げワイヤに負荷した時点で単結晶成長速度の制御はキャリッジ上昇手段に瞬時に切り換えられる。
【0032】
図9、図10は本発明による単結晶保持装置を用いる単結晶保持方法の他の実施例を示す説明図である。図9は単結晶の育成に当たり、ネック部8の下端に拡径部9cを形成し、これに続いて拡径部9cより小径の直胴部9dを形成した後、所定の直径に拡大する単結晶の製造において、前記直胴部9dを多角形リンク体14で保持する方法を示す。また、図10はネック部8の下端に所定寸法の直胴部より小径の直胴部9dを形成した後、所定の直径に拡大する単結晶の製造において、前記直胴部9dを多角形リンク体14で保持する方法を示している。いずれの場合も、形状、寸法の再現性の良い直胴部を保持する方法であるため、直胴部9dの寸法制御が容易で、かつ、単結晶を確実に保持することができる。また、図9、図10に示した単結晶保持装置の場合は、多角形リンク体を小型化することができる。
【0033】
図11は単結晶保持装置の第4実施例として、保持ロッドごとに独立した駆動モータを用い、上下2組の多角形リンク体を装着した単結晶保持装置における保持ロッド駆動機構の平面図、図12は図11のZ視図である。制御装置の指令信号により同期回転する4個の保持ロッド駆動モータ28が真空容器2の外部に真空シール29を介して90°ピッチに取着され、各保持ロッド駆動モータ28に取着されたボールネジ軸30はスライドブロック31に螺合されている。前記スライドブロック31は、図12に示すように支持板2a上に敷設されたスライドガイド32によって拘束されながら支持板2a上を滑動する。保持ロッド11の上端は前記スライドブロック31に結合され、支持板2aに設けられた切り欠き穴2c内を外方または内方に移動する。対向する2個のスライドブロックに結合された1対の保持ロッドの下端に1個の多角形リンク体が連結され、対向する他の2個のススライドブロックに結合された1対の保持ロッドの下端に他の1個の多角形リンク体が連結されている。前記保持ロッド駆動モータ28及び保持ロッド11を真空容器2の対向する位置に1対だけ設け、保持ロッドの下端に1個の多角形リンク体のみを連結する構成としてもよい。
【0034】
図13は単結晶保持装置の第5実施例を示す模式的縦断面図、図14は図13のZ視図、図15はガイドプレートの平面図で、この保持装置は多角形リンク体をワイヤの操作で変形させて単結晶を保持する構成である。図13に示すように、真空容器2内には、結晶引き上げワイヤ3の巻き取りを行うワイヤ巻き取りドラム4の上方にモータ34が設置され、このモータ34の両側にそれぞれワイヤ巻き取りドラム35が取着されている。また、真空容器2の下面の左右両側には図13、図14に示すように、滑車押さえ板36が取着され、これらの滑車押さえ板36に挟まれて左右各3個の滑車37、38、39が取着されている。前記ワイヤ巻き取りドラム35に巻き付けられたワイヤ40は真空容器2内を垂下し、滑車37、38、39を介してブロック41に繋着され、このブロック41はリンクピン延長軸42を介して多角形リンク体14のリンクピン14bに連結している。前記ブロック41には左右方向に水平に突出する移動軸43が取着されている。
【0035】
前記滑車押さえ板36の外側には2枚のガイドプレート44、44が取着されている。ガイドプレート44は図15に示すように、中央部にガイド溝44aを備えている。このガイド溝44aは図13、図14に示した移動軸43がスライドする溝で、多角形リンク体14が待機姿勢のとき、移動軸43はガイド溝44a内のA位置に静止している。この単結晶保持装置では上記以外の構造は図1に示した単結晶保持装置と同一であり、同一構成要素には図1と同一符号を付して説明を省略する。
【0036】
単結晶保持装置の多角形リンク体14を単結晶に係合させる場合、制御装置の指令信号によりモータ34が回転してワイヤ40が所定量だけ巻き取られ、ブロック41が滑車39の方向に引き寄せられる。このとき、移動軸43はガイドプレート44のガイド溝44aをA位置からB位置にスライドし、ブロック41とともにリンクピン延長軸42及びリンクピン14bも外方に移動するため、多角形リンク体14が正方形から菱形に変形して単結晶を保持する。
【0037】
第5実施例の単結晶保持装置では、第1実施例の単結晶保持装置における保持ロッドに代えてワイヤを用いて多角形リンク体を駆動する方式としたので、単結晶保持装置の重量を軽減することができる。
【0038】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の単結晶保持装置及び保持方法によれば、次の効果が得られる。
(1)従来の単結晶保持装置のように、形状、寸法の再現性が劣るくびれ部を保持せず、単結晶の直胴部を多角形リンク体で挟み込んで保持することにしたので、保持状態が一定し、大重量の単結晶をより確実に保持することができる。また、くびれ部を保持する場合に比べて保持装置の上下方向の位置調整が著しく容易である。
(2)単結晶を保持する際に、多角形リンク体の変形速度を制御することにより、単結晶との接触時に振動、衝撃を与えず、円滑に保持することができる。
(3)多角形リンク体を駆動するモータのトルクまたは流体圧アクチュエータの流体圧を制御することにより、常に所望の締めつけ力で単結晶を保持することができ、単結晶を損傷させない。
(4)ロードセルの検出値に基づいてネック部に加わる荷重と多角形リンク体に加わる荷重とを配分し、ネック部荷重を許容範囲内に制御するようにしたので、ネック部の破断が確実に防止される。また、ネック部荷重を許容範囲内で任意に設定することができるので、単結晶保持装置の許容荷重を考慮しつつ前記両者の荷重配分を設定することにより、引き上げ可能な単結晶重量を増加することが可能である。
(5)結晶引き上げワイヤと多角形リンク体とを同一のモータで回転させるので、両者の回転速度が正確に一致する。従って、単結晶を多角形リンク体で保持する際に、回転速度の微妙な相違によって生じる単結晶と多角形リンク体との摩擦が起こり得ず、円滑かつ安全に保持することができる。
(6)結晶引き上げワイヤと単結晶保持装置とを併用した単結晶引き上げにおいて、結晶引き上げワイヤのみによる単結晶引き上げ時と同様に、単結晶の育成速度を所望の値に制御しつつ単結晶を保持することが可能のため、従来から行われている高精度の結晶育成技術を容易に適用することができる。
(7)種結晶をシードホルダに装着する際に、多角形リンク体が単結晶の稜線に当接しないように装着方向を選択することにしたので、稜線の欠損を避けることができ、育成中の単結晶に悪影響を与えない。
(8)単結晶の収縮により保持力が低下した場合、保持力を回復させることができるので、単結晶が落下するおそれがなく、安全性が高い。
(9)多角形リンク体にアタッチメントとして保持部材を取着すれば、形状、寸法にバラツキをもつくびれ部を保持することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】単結晶保持装置の第1実施例の概略構造を示す模式的縦断面図である。
【図2】多角形リンク体の斜視図である。
【図3】多角形リンク体を構成する等辺リンクの内側面形状の一例を示す説明図である。
【図4】多角形リンク体を構成する等辺リンクの内側面形状の他の例を示す説明図である。
【図5】多角形リンク体の変形状態を示す説明図で、(a)は単結晶保持前、(b)は単結晶保持後を示す。
【図6】単結晶保持装置の第2実施例の下部構造を示す模式図である。
【図7】単結晶保持装置の第3実施例の下部構造を示す説明図である。
【図8】第3実施例の単結晶保持装置に装着する多角形リンク体を示し、(a)は上面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図9】本発明の単結晶保持装置を用いる単結晶保持方法の他の実施例を示す説明図である。
【図10】本発明の単結晶保持装置を用いる単結晶保持方法の他の実施例を示す説明図である。
【図11】単結晶保持装置の第4実施例の上部構造を示す平面図である。
【図12】図11のZ視図である。
【図13】単結晶保持装置の第5実施例の概略構造を示す模式的縦断面図である。
【図14】図13のZ視図である。
【図15】位置決めプレートの平面図である。
【符号の説明】
1…単結晶製造装置、2…真空容器、3…結晶引き上げワイヤ、4,35…ワイヤ巻き取りドラム、5…引き上げワイヤ用ロードセル、7…種結晶、8…ネック部、9…単結晶、9a,9d…直胴部、9b…くびれ部、10…単結晶保持装置、11…保持ロッド、12,28…保持ロッド駆動モータ、14,25…多角形リンク体、14a…等辺リンク、14b…リンクピン、14e…保持部材、16…合計荷重用ロードセル、18…キャリッジ、26…開き防止板、37,38,39…滑車、40…多角形リンク体駆動ワイヤ、44…ガイドプレート。
Claims (10)
- 複数のリンクを連結してなり、リンクピンの位置を移動させることにより水平面内で変形可能な多角形リンク体と、単結晶を挟持するために多角形リンク体を変形させる手段と、多角形リンク体を結晶引き上げワイヤと同期して回転及び昇降させる手段と、結晶引き上げワイヤに加わる荷重を検出する引き上げワイヤ用ロードセルと、結晶引き上げワイヤに加わる荷重と多角形リンク体に加わる荷重との合計荷重を検出する合計荷重用ロードセルと、前記の各手段を制御する制御装置とを備えていることを特徴とする単結晶保持装置。
- 結晶引き上げワイヤ巻き取り機構と、引き上げワイヤ用ロードセルと、多角形リンク体駆動機構とを単結晶製造装置の上部に設けた真空容器に収納し、前記真空容器と、真空容器に加わる荷重を検出する合計荷重用ロードセルと、真空容器回転機構とを昇降自在のキャリッジに搭載したことを特徴とする請求項1記載の単結晶保持装置。
- モータまたは流体圧アクチュエータと、単結晶製造装置内に垂直に保持され、前記モータまたは流体圧アクチュエータにより水平方向に移動する2本の保持ロッドとからなる多角形リンク体駆動機構を有し、前記保持ロッドの下端に多角形リンク体の対向位置にあるリンクピンを連結したことを特徴とする請求項1記載の単結晶保持装置。
- 2個のワイヤ巻き取りドラムと、前記ワイヤ巻き取りドラムから垂下する2本の多角形リンク体駆動ワイヤと、真空容器の下端に設置した複数個の滑車と、多角形リンク体駆動ワイヤの巻き取りに伴って多角形リンク体のリンクピンを横方向に移動させるガイドプレートとからなる多角形リンク体駆動機構を有し、前記ワイヤの下端に多角形リンク体の対向位置にあるリンクピンを連結したことを特徴とする請求項1記載の単結晶保持装置。
- 冷却により単結晶が収縮して単結晶保持装置の保持力が低下し、前記引き上げワイヤ用ロードセルによる検出値が所定の設定荷重を超えたときには、前記多角形リンク体を変形させる手段に対し前記制御装置から指令信号を出し、単結晶を挟持する力が増加する方向に前記多角形リンク体を変形させることを特徴とする請求項1記載の単結晶保持装置。
- 多角形リンク体を構成するリンクの内側面に、単結晶のくびれ部を保持するための円弧状の断面をもつ保持部材を取着したことを特徴とする請求項1記載の単結晶保持装置。
- 複数のリンクを連結してなり、リンクピンの位置を移動させることにより水平面内で変形可能な多角形リンク体と、単結晶を挟持するために多角形リンク体を変形させる手段と、多角形リンク体を結晶引き上げワイヤと同期して回転及び昇降させる手段と、結晶引き上げワイヤに加わる荷重を検出する引き上げワイヤ用ロードセルと、結晶引き上げワイヤに加わる荷重と多角形リンク体に加わる荷重との合計荷重を検出する合計荷重用ロードセルと、前記の各手段を制御する制御装置とを備えている単結晶保持装置を使用する単結晶保持方法であって、
単結晶を取り囲む多角形リンク体を所定の位置に下降させた後、前記多角形リンク体を変形させる手段により多角形リンク体を変形させて単結晶の直胴部を挟持する工程と、
単結晶が冷えて収縮し、多角形リンク体と単結晶の係合状態がゆるむことにより、引き上げワイヤ用ロードセルによる検出値が結晶引き上げワイヤの設定荷重を超えた場合には、単結晶の挟持力を増加させる方向に多角形リンク体を更に変形させる工程と、
を含むことを特徴とする単結晶保持方法。 - 前記単結晶保持装置は多角形リンク体の内側面に保持部材を取着しており、ネック部と単結晶の肩部との間に形成したくびれ部または単結晶の直胴部に形成したくびれ部を、多角形リンク体の内側面に取着した前記保持部材で保持することを特徴とする請求項7記載の単結晶保持方法。
- 多角形リンク体が単結晶に当接する位置と単結晶の稜線とが一致しないように、種結晶または単結晶保持装置を設置することを特徴とする請求項7記載の単結晶保持方法。
- 単結晶の育成中に、単結晶重量の一部または全部を単結晶保持装置に負担させ、重量の一部を負担させる場合はネック部が破断しない重量をネック部に負担させることを特徴とする請求項7記載の結晶製造方法。
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