JP3984492B2 - 熱成形用ポリ乳酸系多層シートおよびその成形物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は熱成形用ポリ乳酸系多層シート及びこのシートを用いた成形体に関する。
【0002】
【従来技術】
各種商品の展示包装用に広く用いられているブリスター加工品や箱形加工品は、所望された特性を有する樹脂シートを真空成形、圧空成形、折り曲げ成形などの熱成形方法で成形して作られるのが一般的である。ブリスターや箱形用途は成形体を通して中の商品を透視できるように、透明なものが好まれる。このような点から、これまでブリスター用途の樹脂シートにはポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレンなどのシートが使用されている。
また、医薬品の錠剤やカプセルなどの包装に使用されるPTP(プレススルーパツク)包装用の容器も熱成形方法で成形され、樹脂シートには透明性、成形性、水蒸気バリア性があるポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンなどのシートが使用されている。
【0003】
しかしながら、上記樹脂シートは化学的・生物的に安定なため、自然環境下に放置されてもほとんど分解されることなく残留、蓄積される。これらは散乱して動植物の生活環境を汚染するだけでなく、たとえゴミとして埋立てられても、分解することなく、埋立て地の寿命を短くするという問題を生じていた。
【00004】
そこで、環境保護の観点から、近年においては、生分解性の材料の研究、開発が活発に行われている。その注目されている生分解性の材料の1つとして、ポリ乳酸がある。ポリ乳酸系樹脂は、生分解性であるので土中や水中で自然に加水分解が進行し、微生物により無害な分解物となる。また、燃焼熱量が小さいので焼却処分を行ったとしても炉をいためない。さらに、出発原料が植物由来であるため、枯渇する石油資源から脱却できる等の特長も有している。
【0005】
ところが、ポリ乳酸系樹脂は耐熱性が低いので、シート及びその成形体を貯蔵・輸送する場合に、変形や融着等の問題が発生することがあった。特に、夏期等になると貯蔵倉庫内や輸送手段(例えばトラック、また船)の内部は高温になり、変形や融着等が発生しやすい。更に、ポリ乳酸系樹脂は脆く、通常のシート状物などは使用し難い。
【0006】
一方、特開平8−73628号公報にポリ乳酸系シートを2軸に延伸し、所定の配向を施した透明性、耐衝撃性に優れたブリスター用シート及び成形品が示されている。けれど、十分な衝撃強度を得ようとすると、必要なシート厚みが大きくなり成型時の圧力が過大となり、また、所望する形状が得にくく、実用的でない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、成形加工性に優れ、かつ、耐熱性、耐衝撃性のある成形体を得ることができる熱成形用ポリ乳酸系多層シートである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、ポリ乳酸系重合体を主成分とし延伸かつ熱固定された一方の層と、前記一方の層を構成するポリ乳酸系重合体より、融点の低いポリ乳酸系重合体を主成分とする他方の層を有するポリ乳酸系多層シートにおいて、該ポリ乳酸系多層シートの135℃における抗張力が2〜30kg/cm2であることを特徴とする熱成形用ポリ乳酸系多層シートである。
ここで、前記他方の層にポリ乳酸以外の生分解性脂肪族系ポリエステルが含有されることができる。
また、前記一方の層が両外層であり、前記他方の層が両外層に挟まれる層の少なくとも一層であることができる。
本発明の成形体は、上記ポリ乳酸系多層シートを熱成形して成形されたことを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の多層ポリ乳酸シートは、ポリ乳酸系重合体を主成分とし延伸かつ熱固定された一方の層と、前記一方の層を構成するポリ乳酸系重合体より、融点の低いポリ乳酸系重合体を主成分とする他方の層から構成される。
【0010】
ポリ乳酸系重合体を主成分とし延伸かつ熱固定された一方の層を説明する。延伸とは一軸延伸、二軸延伸とくに限定されないが、二軸延伸により配向されたシート(以下、「二軸配向シート」と称する。)を得るのがよい。このときの配向の指標は、面配向ΔPで3.0×10-3以上がよい。これを達成するには少なくとも一軸方向に1.5倍以上延伸させることが好ましい。延伸配向された層は成形物の落下や、他物品に付き当てされた際の衝撃に対する、耐衝撃性を高める。
【0011】
この二軸延伸に次いで、固定しながら熱処理を行う。これにより、熱固定された二軸配向シートが得られる。熱固定することで、耐熱性が向上する。熱固定は温度110〜融点未満であり、処理時間は1〜120秒の範囲が通常使用される。この範囲であれば、二軸配向シートの縦方向及び横方向の90℃30分での収縮率が10%以下、更に好ましくは5%以下とすることができる。この収縮率が10%を越えるとシートを成形する際に、熱収縮しやすい。この層に使用されるポリ乳酸系重合体は、D−乳酸またはL−乳酸のどちらかの質量比が3%以下であるポリ乳酸が好ましい。3%以下で特に耐衝撃性・耐熱性に優れる。
【0012】
前記他方の層を説明する。使用されるポリ乳酸系重合体は一方の層で使用される重合体より融点が低い。融点は実施例で示す方法で測定した。各々のの融点差は特に限定されないが、2℃以上が好ましい。この範囲の差があれば、シートに成形性を付与しやすい。具体的には、D−乳酸とL−乳酸の質量比が3:97〜97:3であるポリ乳酸とポリ乳酸以外の脂肪族系ポリエステルの混合物が好ましい。この範囲では成形性を付与しやすい。
【0013】
他方の層と一方の層に使用されるポリ乳酸系重合体の融点差を得る方法は特に限定されなが、例えば、ポリ乳酸系重合体のD−乳酸とL−乳酸の混合比率により得ることができる。また、可塑剤を含有させることによっても得ることができる。
【0014】
さらに、後述したポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルがポリ乳酸系樹脂100質量部に対し0.1〜20質量部であることが好ましい。0.1質量部以上で耐衝撃性改良効果が期待でき、20質量部以下では透明性に優れる。さらに好ましくは、1〜12質量部である。
【0015】
また、本発明のポリ乳酸系多層シートは抗張力が2〜30kg/cm2以下である。抗張力とは以下の様に定義される。
シート一方向(縦方向)の成形品の曲率半径RMD(cm)、それに直行する方向(横方向)の曲率半径RTD(cm)、縦方向のシートの抗張力σMD(kg/cm2)、横方向のシートの抗張力σTD(kg/cm2)、シートの厚みをt(cm)とするとき、成形に必要な圧力P(kg/cm2)は
P=σMD×t/RMD + σTD×t/RTD ・・・・・式(1)
で表せる(第1図参照)。
【0016】
熱成形用シートは均一な賦形を得るために,シートの方向性は無視される範囲で作成される。 そこで、式(1)は
P=2σ×t/R ・・・・・・式(2)
で表せる。
すると、式(2)から抗張力σ
σ=P×R/2t ・・・・・・式(3)
である。
【0017】
すなわち、抗張力σはシート厚みtと成形に要した圧力Pと得られた成形品のコーナーの曲率半径RをRゲージにて計測して得られる値から求めることができる。
【0018】
第1図を説明する。金型2に送り込まれた、シート厚tのシート1は熱盤3によって加熱される。後述する通り、抗張力を測定する場合はシート1の温度は135℃に設定される。圧力Pの圧空4が注入されると、シート1は金型2の形状に合わせて賦形され、成形体5を得る。成形体5のコーナーの曲率半径をRとする。シート厚tと圧力Pと曲率半径Rとから、式(3)により抗張力σを求めることができる。
【0019】
抗張力σはその値が30kg/cm2を越すと金型の形状を的確に賦型できない。2kg/cm2未満では十分な耐熱性を付与できない。好ましくは、4〜25kg/cm2である。
【0020】
抗張力は、融点の低い他方の層の構成する材料および延伸かつ熱固定された一方の層の層厚等によって所望される範囲に調整することができる。尚、上述したシートの方向性が無視される範囲とは、縦・横延伸率比が2.5倍の範囲である。すなわち、縦・横延伸率比が2.5を超えるシートは熱成形用シートとして不適当である。
【0021】
本発明は延伸かつ熱固定された一方の層がシートの硬さを確保し、融点の低い他方の層が柔らかさを確保し、成形しやすさを所望範囲の抗張力によって得る。このようにして、所望する形状を容易に得ることができかつ得られた成形体が適当な強度を有する、生分解性プラスチックからなる熱成形用シートを提供するものである。
【0022】
尚、抗張力を測定する際の成形時のシート温度は135℃とする。この温度はポリ乳酸の融点(Tm)とポリ乳酸以外の生分解性脂肪族ポリエステルの融点(Tm)のほぼ中間である。すなわちポリ乳酸はTg以上であり、生分解性脂肪族ポリエステルは溶融している状態を示す。その状態でのシートの抗張力σが得られる成形体の特性を指し示す。
【0023】
また、抗張力σはシートの二次元(シート平面)での成形性を示す。シートの一次元での成形を示す値として粘弾性があるが、抗張力は実際上のシートの成形適性を示すのに優れている。
【0024】
以下に、本発明の多層シートの構成を説明する。
ポリ乳酸系多層シートの厚さは、通常の熱成形技術に使用できる程度の厚さで有れば、特に制限されないが、通常は総厚さが0.07〜2.0mmの範囲である。本発明の一方の層厚と全層の層厚の関係は、一方の層厚比が全層の層厚に対して0.07〜0.65である。具体的には、一方の層の厚さは、好適には0.005mm以上、更に好適には0.01mm以上ある。他方の層の厚さは全層の厚さから一方の層の厚さを差し引いた厚さである。
【0025】
本発明のポリ乳酸系多層シートは二層以上であればよい。但し、三層以上の場合は上記一方の層が両外層であり、他方の層が両外層に挟まれる層の少なくとも一層である。
また、本発明の目的を損なわない範囲で、製造過程で生じる端材を他方の層に再生混入してもよい。
ポリ乳酸系多層シートのヘーズはJIS K 7105に基づき測定することで求めることができる。ヘーズはシートの透明性を示し、その値が20%を越すとシートをブリスター等に成形した際に、内装される物品を透視しにくい。特に、透明成形体を所望するなら、ポリ乳酸系多層シートのヘーズは20%以下が好ましい。
【0026】
本発明のポリ乳酸系多層シートの製造方法を具体的に説明する。例えば、▲1▼一方の層と他方の層とを共押出しした後に延伸する、▲2▼各層ごとに押出した後、貼り合せる等の方法を採用できる。いずれにせよ、一方の層は延伸され、更に緊張下で熱処理される。
【0027】
上述した▲1▼の方法について説明する。まず、それぞれの層を形成するポリ乳酸系重合体や脂肪族ポリエステル等を含む脂肪族ポリエステルや無機粒子等を共押出積層用押出装置に供給する。予め、別の押出機でストランド形状に押し出してペレットを作製しておいても良い。いずれも、分解による分子量の低下を考慮しなければならないが、均一に混合させるには後者が好ましい。
【0028】
脂肪族ポリエステルを充分に乾燥し、水分を除去した後、押出機で溶融する。ポリ乳酸系重合体のL−乳酸とD−乳酸の組成比による融点の変化、脂肪族ポリエステルの融点、ポリ乳酸系重合体と脂肪族ポリエステルの混合割合等を考慮して、適宜溶融押出温度を選択する。実際には100〜250℃の温度範囲が通常選ばれる。
【0029】
2または3台以上のマルチマニホールドまたはフィードブロックを用いて積層化し、スリット状のダイから3層以上の溶融シートとして押し出す。その際、それぞれの層の厚みはメルトラインに設置したギアポンプ等の定量フィーダーによるポリマーの流量調節により設定することが出来る。
【0030】
ついで、このダイから押し出された溶融シートを、回転冷却ドラム上でガラス転移温度以下で急冷固化し、実質的に非晶質の未配向シートを得る。この際、シートの平滑性や厚さ斑を向上させる目的で、シートと回転冷却ドラムとの密着性を高める事が好ましく、本発明においては、静電印加密着法および、または液体塗布密着法が好ましくは用いられる。
これらの混合物には、諸物性を調整する目的で、熱安定剤、光安定剤、光吸収剤、可塑剤、無機充填材、着色剤、顔料等を添加することもできる。
【0031】
さらに前述した▲2▼の方法、各層ごとに押出した後、貼り合せる等の方法、いわゆる押し出しラミについて説明する。具体的には、予め二軸に延伸配向されたシート(一方の層)と、ダイから押し出された溶融シート(他方の層)とを、回転冷却ドラムおよびシリコンライニングロールで貼り合わせて、ガラス転移温度以下で急冷固化する。こうして、一方の層は結晶配向し、他方の層は低結晶質のシートを得る。
【0032】
上記の▲1▼および▲2▼で得られたシートを熱成形する方法は、真空成形法、プラグアシスト成形法、圧空成形法、雄雌型成形法、成形雄型に沿ってシートを変形した後、成形雄型を拡張する方法などがある。なお、成形物の形状、大きさなどは用途などに応じて適宜選択されるものとする。シートの加熱方法には赤外線ヒーター、熱板ヒーター、熱風などがある。シートを成形温度まで予熱し、熱成形することで、ブリスター成形物、容器状成形物などを成形する。
【0033】
尚、表裏層がポリ乳酸系重合体から成る3層以上のシートは、外層が食品衛生上に優れたポリ乳酸系重合体で覆われているので、製造された容器状成形物は直接食品に触れる容器としても使用可能である。
【0034】
以下、ポリ乳酸とポリ乳酸以外の生分解性脂肪族系ポリエステルを詳細に説明する。
本発明でいうポリ乳酸とは構造単位がL−乳酸又はD−乳酸であるホモポリマー、すなわち、ポリ(L−乳酸)又はポリ(D−乳酸)、構造単位がL−乳酸及びD−乳酸の両方である共重合体、すなわち、ポリ(DL−乳酸)や、これらの混合体が挙げられる。
【0035】
ポリ乳酸系樹脂の重合法としては、縮重合法、開環重合法など公知のいずれの方法を採用することができる。例えば、縮重合法ではL−乳酸又はD−乳酸、あるいはこれらの混合物を、直接脱水縮重合して任意の組成を有するポリ乳酸系樹脂を得ることができる。
【0036】
また、開環重合法では乳酸の環状二量体であるラクチドを、必要に応じて重合調整剤等を用いながら、適宜選択された触媒を使用してポリ乳酸系樹脂を得ることができる。ラクチドにはL−乳酸の2量体であるL−ラクチド、D−乳酸の2量体であるD−ラクチド、さらにL−乳酸とD−乳酸からなるDL−ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより任意の組成、結晶性を有するポリ乳酸系樹脂を得ることができる。
【0037】
さらに、耐熱性向上等の必要に応じて、少量共重合成分を添加することもでき、テレフタル酸等の非脂肪族ジカルボン酸、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等の非脂肪族ジオール等を用いることもできる。
さらにまた、分子量増大を目的として、少量の鎖延長剤、例えばジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を使用することもできる。
【0038】
ポリ乳酸系樹脂は、さらにα−ヒドロキシカルボン酸等の他のヒドロキシカルボン酸単位との共重合体であっても、脂肪族ジオール/脂肪族ジカルボン酸との共重合体であってもよい。
【0039】
他のヒドロキシ−カルボン酸単位としては、乳酸の光学異性体(L−乳酸に対してはD−乳酸、D−乳酸に対してはL−乳酸)、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシ−カルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
【0040】
ポリ乳酸系樹脂に共重合される脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール,1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。また、脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸及びドデカン二酸等が挙げられる。
【0041】
本発明に使用されるポリ乳酸系重合体の重量平均分子量の好ましい範囲としては、6万〜70万であり、より好ましくは、6万〜40万、とくに好ましくは6万〜30万である。分子量が6万より小さいと機械物性や耐熱性等の実用物性がほとんど発現せず、70万より大きいと溶融粘度が高すぎ成形加工性に劣る場合がある。
【0042】
本発明に用いられるポリ乳酸以外の脂肪族系ポリエステルを説明する。脂肪族ポリエステルはガラス転移温度(Tg)が0℃以下、融点(Tm)が60℃以上のポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルが好ましい。Tgが0℃以下でシートの耐衝撃性の改良効果を生じ、また脂肪族ポリエステルの球晶結晶化を防止することより透明性が悪化しない。Tmが60℃以上では耐熱性が改善される。
【0043】
ポリ乳酸以外の生分解性脂肪族系ポリエステルとしては、例えば、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸を縮合して得られる脂肪族ポリエステル、環状ラクトン類を開環重合した脂肪族ポリエステル、合成系脂肪族ポリエステル、菌体内で生合成される脂肪族ポリエステル等が上げられる。
【0044】
脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸を縮合して得られる脂肪族ポリエステルは、脂肪族ジオールであるエチレングリコール、1,4−ブタンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノール等、脂肪族ジカルボン酸であるコハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸およびドデカン二酸等の中から、それぞれ1種以上選んで縮重合して得られる。さらに、必要に応じてイソシアネート化合物等でジャンプアップして所望のポリマーを得ることができる。
【0045】
開環ラクトン類を開環重合した脂肪族ポリエステルとしては、環状モノマーであるε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン等が代表的に挙げられ、これらから1種以上選ばれて重合される。
【0046】
合成系脂肪族ポリエステルとしては、環状酸無水物とオキシラン類、例えば、無水コハク酸とエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等との共重合体などが挙げられる。
【0047】
菌体内で生合成される脂肪族ポリエステルとしては、アルカリゲネスユートロファスを始めとする菌体内でアセチルコエンチームA(アセチルCoA)により生合成される脂肪族ポリエステルが知られている。この脂肪族ポリエステルは、主にポリ−β−ヒドロキシ酪酸(ポリ3HB)であるが、プラスチックとしての実用性向上の為に、吉草酸ユニット(HV)を共重合し、ポリ(3HB−co−3HV)の共重合体にすることが工業的に有利である。HV共重合比は一般的に0〜40%である。更に長鎖のヒドロキシアルカノエートを共重合しても良い。
【0048】
本発明に使用できる脂肪族ポリエステルを例示すると、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリエステルカーボネート、ポリヒドロキシブチレートとポリヒドロキシバリレートの共重合体及びポリヒドロキシブチレートとポリヒドロキシヘキサノエートの共重合体、脂肪族または脂環式ジオールと脂肪族ジカルボン酸と脂肪族オキシカルボン酸の共重合体からなる群から選択された少なくとも1種であることができる。
【0049】
脂肪族または脂環式ジオールと脂肪族ジカルボン酸と脂肪族オキシカルボン酸の共重合体について、更に説明すると脂肪族または脂環式ジオールの具体例としては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールが好適に挙げられる。得られる共重合体の物性面から1,4−ブタンジオールであることが好ましい。脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、およびそれらの低級アルコールエステル、無水コハク酸、無水アジピン酸などが挙げられる。得られる共重合体の物性面からコハク酸、無水コハク酸またはこれらの混合物が好ましい。脂肪族オキシカルボン酸の具体例としては、乳酸、グリコール酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシ3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸、あるいはこれらの混合物が挙げられる。なかでも、本発明の目的から乳酸またはグリコール酸が好ましい。
【0050】
【実施例】
以下に実施例を用いて具体的に説明するが、これらにより本発明が何ら制限を受けるものではない。
【0051】
本発明に用いられる測定方法および評価方法を示す。
(1)重量平均分子量;東ソー製HLC−8120GPCゲルパーミエーションクロマトグラフ装置を用い、以下の測定条件で、標準ポリスチレンで検量線を作製し、重量平均分子量を求めた。
使用カラム:島津製作所製Shim−Packシリーズ
GPC−801C
GPC−804C
GPC−806C
GPC−8025C
GPC−800CP
溶媒:クロロホルム
サンプル溶液濃度:O.2wt/vol%
サンプル溶液注入量:200μl
溶媒流速:1.0ml/分
ポンプ、カラム、検出器温度:40℃
【0052】
(2)シート厚み;(株)テクロック製ダイヤルゲージSM−1201で十点測定を行い、その平均値で厚みとした。単位はμmである。
【0053】
(3)シートのガラス転移温度および融点の測定
JIS−K−7121に基づき、示差走査熱量測定法(DSC)にて昇温速度が10℃/minでポリエステルのガラス転移温度(Tg)及び融点(Tm)を測定した。
【0054】
(4)シートの抗張力
得られたシートを135℃に予熱した後、第1図に示すφ100mm、深さ30mm、絞り比0.3、底部コーナー部Rが0.01(cm)の成形金型を用いて、金型温度50℃,圧空成形(空気圧:4kg/cm2)条件で成形を行った。得られた成形品のコーナーRをRゲージで計測し、成形時の抗張力を、上述した式σ=P×R/2tから求めた。
【0055】
(5)成形体の形状
上記(4)で得られる成形体の型賦形状態を観察し、3段階で評価を行った。評価基準は、良好な形態の成形体が形成されている場合を「○」、実用可能なレベル程度の場合を「△」、不良形状の成形体の場合を「×」で示した。
【0056】
(6)成形体の耐衝撃性:落下試験
上記(4)で得られる成形体に水を充填し、開口部をシールして、1mの高さからコンクリート上に落下させ、成形体の破損の有無を調べた。
【0057】
(7)成形体の耐熱性
上記(4)で得られる成形体を、恒温槽において60℃、30分間放置した後、成形体の容積減容率(%)を下記式にて算出した。
容積減容率={1−(熱処理後の成形体容積/熱処理前の成形体容積)}×100
容積変化率が3%未満では優れており、6%以下では実用範囲であり、6%を越えると使用できない。
【0058】
(8)総合評価
上記(4)で得られる成形体の総合評価を示す。評価基準は実用上良好に使用できるもの「○」、実用可能なレベル程度の場合を「△」、実用に適さないものを「×」で示した。
【0059】
(ポリ乳酸系樹脂の製造例)
製造例1
ピューラックジャパン社製のL−ラクチド(商品名:PURASORB L)100kgに、オクチル酸スズを15ppm添加したものを、攪拌機と加熱装置を備えた500Lバッチ式重合槽に入れた。窒素置換を行い、185℃、攪拌速度100rpmで、60分間重合を行った。得られた溶融物を、真空ベントを3段備えた三菱重工社製の40mmφ同方向2軸押出機に供給し、ベント圧4torrで脱揮しながら、200℃でストランド状に押出してペレット化した。
得られたポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量は20万であり、L体含有量は99.5%であった。またDSCによるガラス転移温度は58℃、融点は171℃であった。
【0060】
製造例2
L−ラクチド90KgとDL−ラクチド10Kgを用いた以外は実験例1と同様にして重量平均分子量は20万、L体含有量は94.8%のポリ乳酸系樹脂を得た。DSCによるガラス転移温度は56℃、融点は165℃であった。
【0061】
製造例3
L−ラクチド80KgとDL−ラクチド20Kgを用いた以外は実験例1と同様にして重量平均分子量は20万、L体含有量は89.7%のポリ乳酸系樹脂を得た。DSCによる融点は存在せず、非晶であることを確認した。
【0062】
(実施例1〜7、比較例1,2)
製造例2で得られたポリ乳酸系樹脂(L−乳酸:D−乳酸=94.8:5.2、ガラス転移温度56℃、融点165℃)100質量部にガラス転移点が−45℃で融点94℃の生分解性脂肪族ポリエステルであるポリブチレンサクシネート/アジペート(商品名:ビオノーレ#3003、昭和高分子(株)製)0.1質量部を各々乾燥した後、混合して溶融押し出しにてペレット形状にした得られたペレットから40mmφ単軸押し出し機にて210℃でマルチマニホールド式の口金より中間層(他方の層用)として押し出した。
【0063】
また、製造例1で得られたポリ乳酸系樹脂(L−乳酸:D−乳酸=99.5:0.5、ガラス転移温度58℃、融点171℃)100重量部に乾燥した平均粒径1.4μmの粒状シリカ(商品名:サイシリア100、富士シリシア化学(株)製)0.1重量部を混合して25mmφの同方向2軸押し出し機にて上記口金より表裏層(一方の層用)として210℃で押し出した。
【0064】
表層、中間層、裏層の厚み比はおよそ1:5:1となるように押し出し量を調整した。この共押し出しシートを約43℃のキャスティングロールにて急冷し、未延伸シートを得た。続いて得られたシートを三菱重工業(株)製フィルムテンターを用い、温水循環式ロールと接触させつつ赤外線ヒーターを併用して75℃に加熱し、周速差ロール間で縦方向に2.0倍、次いでこの縦延伸シートをクリップで把持しながらテンターに導き、シート流れの垂直方向に75℃で2.8倍に延伸した後、135℃で約30秒間熱処理し、300μm厚みのシートを作成した。このシートを実施例1のシートとした。
【0065】
尚、表裏層が本願で指す一方の層であり,中間層が本願で指す他方の層である。また、上述した通り、表裏層のポリ乳酸系重合体部分の融点は171℃であり、中間層のポリ乳酸系重合体部分の融点は165℃である。
【0066】
以下、生分解性脂肪族ポリエステルであるポリブチレンサクシネート/アジペートの量を表1に示すように変化して実施例2〜5、表裏層の構成を変化させて実施例5〜8及び比較例1,2を作成した。
得られたシートの抗張力を表1に示した。実施例は本発明の範囲にあり、比較例は範囲外である。さらに、シートから得られる成形体の形状を示す成形性、耐熱性、耐衝撃性、総合評価を表1に示した。
【0067】
【表1】
【0068】
実施例1〜8は上記各評価測定に実用範囲以上の結果を示し、総合評価は△以上である。特に、抗張力が4〜25kg/cm2の範囲にある実施例2〜6は総合評価は○である。一方、抗張力が本発明の範囲外である比較例1は得られた成形体の形状が不良であり、比較例2は耐熱性が不足している。
【0069】
(実施例9〜11、比較例3〜5)
表2に示すように、後述する以外は実施例4と同様にして、実施例9〜11と比較例3,4を得た。
実施例9〜11は中間層に用いる生分解性脂肪族ポリエステルとして、以下に示す化合物を使用した。実施例9はポリカプロラクトン(商品名セルグリーンP−H7、ダイセル化学工業(株)製、ガラス転移温度−60℃、融点60℃)を使用し、実施例10はポリブチレンサクシネート(商品名ビオノーレ#1001、昭和高分子(株)製、ガラス転移温度−40℃、融点111℃)を使用し、実施例11はポリブチレンアジペートテレフタレート(商品名Ecoflex、BASF社製、ガラス転移温度−30℃、融点109℃)を使用した。
比較例3は中間層にポリヒドロキシブチレート(商品名ビオグリーン、三菱ガス化学製、ガラス転移温度4℃、融点180℃)を使用した。比較例4は延伸後、熱処理を行っていない。また、比較例5は延伸および熱処理を行っていない。
得られたシートの抗張力を表2に示した。実施例9〜11と比較例4は本発明の範囲にあり、比較例3,5は範囲外である。さらに、シートから得られる成形体の形状を示す成形性、耐熱性、耐衝撃性、総合評価を表2に示した。
表裏層(一方の層)のポリ乳酸系重合体部分の融点は171℃であり、中間層(他方の層)のポリ乳酸系重合体部分の融点は165℃である。
実施例9〜11は上記各評価測定に実用範囲以上の結果を示し、総合評価は△以上である。特に、実施例10,11は特に総合評価は○である。一方、抗張力が発明範囲より大きい比較例3は成形体の形状が不良である。また熱処理を施していない比較例4は抗張力が発明範囲内であっても耐熱性が不足している。さらに延伸かつ熱固定されておらず、表裏層が延伸されていない比較例5は抗張力が発明範囲内であっても耐熱性と耐衝撃性が劣る。
【0070】
(実施例12,13)
製造例1で得られたポリ乳酸系樹脂(L−乳酸:D−乳酸=99.5:0.5)を実施例1と同様にして押し出しシートを得た。続いて得られたシートを三菱重工業(株)製フィルムテンターを用い、温水循環式ロールと接触させつつ赤外線ヒーターを併用して75℃に加熱し、周速差ロール間で縦方向に3.0倍、次いでこの縦延伸シートをクリップで把持しながらテンターに導き、シート流れの垂直方向に75℃で3.0倍に延伸した後、135℃で約15秒間緊張間熱処理し、15μmと25μm厚みの延伸シートを作成した。
【0071】
次いで、製造例2で得られたポリ乳酸系樹脂(L−乳酸:D−乳酸=94.8:5.2)に対して生分解性ポリエステルとしてビオノーレ3003を7質量部混合した混合物を十分乾燥後、単軸押し出し機に供給し、中間層としてダイから押し出された溶融シートを、前述の、2軸に延伸配向された15μm厚のシートを表裏層とし、前記表裏シートを沿わせた40℃以下に温調した回転冷却ドラムおよびシリコンライニングロール間ではさみ急冷固化し、実質的に表層は結晶配向し、中間層は低結晶質の300μm厚の実施例12のシートを得た。
【0072】
さらに、中間層を製造例3で得られたポリ乳酸系樹脂(L−乳酸:D−乳酸=89.7:10.3、融点存在せず非晶)の原料を使用、表層を前述の25μmの2軸延伸シートを使用した他は、実施例12と同様にして、300μmの実施例13シートを得た。
得られたシートの抗張力を表2に示した。さらに、シートから得られる成形体の形状を示す成形性、耐熱性、耐衝撃性、総合評価を表2に示した。
実施例12,13は上記各評価測定に実用範囲以上の結果を示し、総合評価は△である。
【0073】
【表2】
【0074】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の熱成形用ポリ乳酸系多層シートから熱成形により得られる成形体は成形性、耐熱性、耐衝撃性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の成形物を形成するための装置の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
1 シート
2 金型
3 熱盤
4 圧空
5 成形体
Claims (3)
- ポリ乳酸系重合体を主成分とし延伸かつ熱固定された一方の層と、前記一方の層を構成するポリ乳酸系重合体より、融点の低いポリ乳酸系重合体を主成分とする他方の層を有するポリ乳酸系多層シートにおいて、該ポリ乳酸系多層シートの135℃における抗張力が2〜30kg/cm2であり、かつ、前記一方の層が両外層に配置されていて他方の層が両外層に挟まれる層の少なくとも一層であることを特徴とする熱成形用ポリ乳酸系多層シート。
- 前記他方の層にポリ乳酸以外の生分解性脂肪族系ポリエステルが含有されることを特徴とする請求項1記載の熱成形用ポリ乳酸系多層シート。
- 請求項1〜2のいずれか1項に記載のポリ乳酸系多層シートを熱成形して成形されたことを特徴とする成形体。
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