JP3982731B2 - 分光分析計の波長補正方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、分光分析計の波長補正方法に関する。
【0002】
【発明の背景】
図8は、例えば水溶液中に含まれる複数の成分の濃度を測定するための分光分析計の概要を示すもので、この図において、1は光源、2はレンズ、3は分光器である。この分光器3は、入射スリット4と出射スリット5との間に、第1ミラー6、両矢印で示される方向に適宜回転操作される回折格子7、第2ミラー8を設けたものである。9は試料が供給されるとともに分光器3から出力された光の照射を受けるフローセル、10はレンズ、11は検出器である。
【0003】
そして、12は増幅器、13はAD変換器、14はメモリを備え、演算・制御を行う演算・制御部(例えばマイクロコンピュータ)、15は表示部、16はインタフェースである。
【0004】
上記分光分析計においては、マイクロコンピュータ14からの指令をインタフェース16を介して回折格子7の駆動部(図示していない)に送って回折格子7を回動制御して、所定の波長間(例えば1400nm〜1850nm)を反復走査させた単色光を、フローセル9中に取り入れた標準液または被検液に対して透過させる。そして、その透過光を検出器11で受光し、そのときの光強度を検出し、その検出信号が増幅器12およびAD変換器13を介してマイクロコンピュータ14に入力する。マイクロコンピュータ14においては、前記検出器出力を吸光度に変換した後、多変量解析法により、被検液の多成分の濃度値を求め、これをメモリ内に記憶したり、表示部15に表示するのである。
【0005】
【従来の技術】
ところで、上記分光分析計においては、分光器3において何らかの原因で波長ずれが生じたり、分光器間において波長ずれ(機差)がある場合には、従来は、ミラー6,8の角度を調整したり、回折格子7の取付け角度を調節するなど、機械的調整を行うことにより、前記波長ずれや機差をなくすようにしていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の機械的調整方法においては、調整精度を、回折格子7などを駆動するモータなど分光分析計を構成する部品の分解能(例えばモータのステップ数)以下にすることは困難であり、また、調整結果が調整を行う技術者の技術的な熟練度に大きく依存し、調整が確実に行われないことがある。そして、機械的調整を行うための治具や工具が必要であったり、調整に多大の時間を要することもある。
【0007】
この発明は、上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、短時間でしかも確実に分光分析計の波長補正を行うことができる分光分析計の波長補正方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、この発明の分光分析計の波長補正方法(以下、単に波長補正方法という)は、測定によって得られた測定吸光度スペクトルを複数の区間に分割し、各区間ごとに基準となる基準吸光度スペクトルとの波長のずれ量を設定し、測定吸光度スペクトルの各測定波長の値に前記波長のずれ量を加えた値または各測定波長の値から前記波長のずれ量を差し引いた値を区間ごとに求めてこれらを各区間におけるシフト後の波長とし、区間ごとにこれらシフト後の波長に測定吸光度スペクトルの前記測定波長の吸光度を対応させるようにプロットして前記波長のずれ量だけシフトさせた曲線を区間ごとに求め、前記曲線におけるシフト後の波長間の補間をカーブフィッティング法を用いて行うことにより各区間の波長補正を行う分光分析計の波長補正方法であって、
前記分割は、前記測定吸光度スペクトルが前記基準吸光度スペクトルに対して長波長側にずれているか、あるいは、短波長側にずれているかというずれ方向の相違に基づいて施されるとともに、ずれ方向が同じでもずれ量が異なる場合にはずれ量を基にして施されるようにしたことを特徴としている(請求項1)。
【0009】
【0010】
上記請求項1に記載の波長補正方法においては、基準となる基準吸光度スペクトルに対する波長ずれ量を設定するだけで、任意の量の波長シフトを簡単に行うことができ、分光分析計を構成する部品の分解能以下の精度にまで調整が可能となる。そして、調整に際して技術的熟練度は不要であるとともに、治具や工具も不要である。また、調整に要する時間も少なくて済む。
【0011】
そして、上記請求項1に記載の波長補正方法では、測定によって得られた測定吸光度スペクトルを複数の区間に分割し、各区間ごとに基準となる基準吸光度スペクトルとの波長のずれ量を設定しているので、補正対象の測定吸光度スペクトルの波形が複雑であっても、短時間でしかも精度よく補正を行うことができる。
【0012】
そして、上記カーブフィッティング法としてはスプライン関数を用いるのが好適である(請求項2)。これは、吸光度スペクトルは形状が簡単であり、計算の簡単なスプライン関数で十分間に合うからである。
【0013】
【発明の実施の形態】
まず、比較例について説明する。この波長補正方法は、測定によって得られた測定吸光度スペクトルと基準となる基準吸光度スペクトルとの波長のずれ量を求め、この波長のずれ量だけ測定吸光度スペクトルをシフトさせた曲線を求め、この曲線における波長間をカーブフィッティング法を用いて補間することにより波長補正を行うことを特徴としたもので、以下、これについて、図1〜図4を参照しながら説明する。なお、図2〜図4は吸光度曲線を示す図で、いずれにおいても、横軸は波長(nm)を、縦軸は吸光度を示している。
【0014】
図1は、波長補正方法を実施するための装置の構成を概略的に示すもので、この図において、21は補正対象の分光分析計、22は基準とみなすことができる分光分析計、23はマイクロコンピュータである。
【0015】
そして、今、ある試料について、補正対象の分光分析計21および基準分光分析計22を用いて測定を行い、図2において仮想線Aおよび実線Sで示すような吸光度スペクトルが得られたとする。仮想線で示す吸光度スペクトルAは、補正対象の分光分析計21によって得られた測定吸光度スペクトルで、このスペクトルAは分光器3の経時変化または分光器間の機差によって、実線で示す基準吸光度スペクトルSからΔλ(nm)だけ波長がプラス(+)方向にずれた仮想線で示すような吸光度スペクトルとなっている。これらのスペクトルA,Sはマイクロコンピュータ23に入力される。なお、基準吸光度スペクトルSとは、複数の分光分析計の内から仮に基準機であると設定した分光分析計22によって採取された吸光度スペクトルのことであって、必ずしも絶対的な基準を意味するものではない。
【0016】
前記図2において、測定吸光度スペクトルAを基準吸光度スペクトルSと一致させるには、マイクロコンピュータ23内において、各吸光度に対応する波長をΔλだけマイナス(−)方向にシフトすればよい。なお、分光分析計21,22において実際に得られるデータは、図3に示すように、吸光度のずれとして表される。
【0017】
【0018】
そして、測定吸光度スペクトルAをシフトさせるには、各基準波長の値からΔλを差し引いた値をシフト後の波長とし、各シフト後の波長に吸光度を対応させるようにプロットし、シフト後の曲線(スペクトル)における波長間をカーブフィッティング法を用いて滑らかに補間するのである。この実施の形態においては、例えば、ax3 +bx2 +cx+dというようなスプライン関数を用いて滑らかに補間する。
【0019】
図4は、基準吸光度スペクトルS(図中、●で示す)と、上記スプライン関数を用いて補間した波長シフト後の曲線(スペクトル)A’(図中、□で示す)とを示すもので、この図から、波長シフト後のスペクトルA’の吸光度は、基準吸光度スペクトルSのそれと非常によく一致していることがわかる。
【0020】
したがって、前記得られた波長シフト後のスペクトルA’をマイクロコンピュータ23において、基準波長での吸光度を求めることにより波長シフト後の吸光度を得ることができる。
【0021】
上述の比較例においては、補正対象の分光分析計21や基準分光分析計22のほかにマイクロコンピュータ23を設けて、このマイクロコンピュータ23において所定の波長シフトを行うようにしていたが、これに代えて、分光分析計21内のマイクロコンピュータ14に、波長シフト量を設定し、測定された吸光度に対して上述の補正を行うプログラムを備えさせることにより、上記補正機能を分光分析計21自身に備えさせてあってもよいことはいうまでもない。
【0022】
上述の比較例における波長補正方法は、測定吸光度スペクトルAが基準吸光度スペクトルSに対するずれ方向およびずれ量がスペクトルAの全ての波長領域において同じであるという前提の下に行う方法であったが、現実には、前記波長領域の全てにおいてずれ方向やずれ量が同一であることは少なく、むしろ、ずれ方向が異なったり、また、ずれ方向が同じであってもずれ量が異なる場合が多い。このような場合、上記手法をそのまま採用しても精度よく補正できないことがあり、また、補正のためのシフト量を決定する場合にも試行錯誤を繰り返す必要があり、補正に時間を要するとともに、複雑な場合には誤差が大きくなることもある。
【0023】
そこで、上述のように、スペクトルにおけるずれ方向やずれ量が波長領域において異なるような場合に有効なこの発明の波長補正方法を以下に説明する。
【0024】
今、ある試料について、補正対象の分光分析計21および基準分光分析計22を用いて測定を行い、図5において仮想線Bおよび実線Sで示すようなスペクトルが得られたとする。仮想線で示すスペクトルBは、補正対象の分光分析計21によって得られた測定吸光度スペクトルで、実線で示す基準吸光度スペクトルSに対して、区間1および区間2で示す波長領域では短波長側にずれているとともに、ずれ量が互いに異なっており、区間3で示す波長領域では逆に長波長側にずれている。
【0025】
今仮に、上記形状の測定吸光度スペクトルBを、上記比較例において説明した波長補正方法を用いて、例えば短波長側を基準にして補正を行うと、図6において符号B1 で示すようになり、長波長側において基準吸光度スペクトルSとのずれ量がより大きくなる。また、長波長側を基準にして補正を行うと、図示は省略するが、短波長側においてずれ量が大きくなる。したがって、これらのずれ量を可及的に少なくしようとして中間的にシフト量を少なくすると、いずれの波長領域においても正確な補正を行えなくなってしまう。
【0026】
そこで、前記ずれの生じている測定吸光度スペクトルBを3つの区間1,2,3に分割し、短波長側にずれている区間1と区間2においては、既に説明したように、区間1と区間2とにおけるずれ量が互いに異なっているので、長波長側へのシフト量Δλを、区間1では0.8nm、区間2では0.4nmと設定する。一方、長波長側にずれている区間3においては、短波長側へのシフト量Δλを、−1.0nmと設定する。
【0027】
そして、測定吸光度スペクトルの各測定波長の値に前記波長のずれ量を加えた値または各測定波長の値から前記波長のずれ量を差し引いた値を区間ごとに求めてこれらを各区間におけるシフト後の波長とし、区間ごとにこれらシフト後の波長に測定吸光度スペクトルの前記測定波長の吸光度を対応させるようにプロットして前記波長のずれ量だけシフトさせた曲線を区間ごとに求め、前記曲線におけるシフト後の波長間の補間をカーブフィッティング法を用いて行う。そして、前記カーブフィッティング法としてスプライン関数を用いる。
【0028】
図7は、上記ずれの生じている測定吸光度スペクトルBを区間ごとにシフトさせて得られたスペクトルB2 (仮想線で示す)と基準吸光度スペクトルS(実線で示す)とを示すもので、両者B2 ,Sが非常によく一致していることがわかる。
【0029】
この実施の形態によれば、補正対象の測定吸光度スペクトルBの波形が複雑であっても、短時間でしかも精度よく補正を行うことができる。
【0030】
上述のような波長補正方法を行うためには、補正対象の分光分析計21や基準分光分析計22のほかにマイクロコンピュータ23を設けて、このマイクロコンピュータ23において分割する区間数や各分割区間におけるシフト量を設定し、これらを補正対象の分光分析計21に送り込んで所定の波長シフトを行うようにしてもよいが、分光分析計21内のマイクロコンピュータ14に、分割する区間数および各分割区間におけるシフト量を設定する機能(プログラム)を持たせ、これらが設定されると、測定された吸光度に対して上述の補正を行うようにしてもよい。
【0031】
【発明の効果】
この発明によれば、波長ずれ量を設定するだけで任意の波長シフトを簡単に行うことができ、分光分析計の構成部品の分解能以下の調整が可能となり、分光器の経時変化や分光器間の機差の補正を確実に行うことができる。そして、上記波長補正方法においては、治具や工具が不要であるとともに、技術的熟練度が不要であり、誰にでも簡単に行え、調整時間も大いに短縮できる。
【0032】
更に、この発明によれば、補正対象の測定吸光度スペクトルの波形が複雑であっても、短時間でしかも精度よく補正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 比較例の波長補正方法を実施するための構成の一例を概略的に示す図である。
【図2】 比較例における波長補正方法を説明するための図で、波長ずれの生じている測定吸光度スペクトルと基準吸光度スペクトルとを表す図である。
【図3】 比較例における波長補正方法を説明するための図で、吸光度のずれの生じている測定吸光度スペクトルと基準吸光度スペクトルとを表す図である。
【図4】 比較例における波長補正方法を説明するための図で、スプライン関数を用いて補間したスペクトルと基準吸光度スペクトルとを表す図である。
【図5】 この発明の実施の形態における波長補正方法を説明するための図で、波長ずれの生じている測定吸光度スペクトルと基準吸光度スペクトルとを表す図である。
【図6】 図5に示す測定吸光度スペクトルを、比較例の波長補正方法を用いて補正したときの図である。
【図7】 上記実施の形態における波長補正方法を説明するための図で、スプライン関数を用いて補間したスペクトルと基準吸光度スペクトルとを表す図である。
【図8】 上記波長補正方法が適用される分光分析計の一例を示す図である。
【符号の説明】
B…測定によって得られた測定吸光度スペクトル、B2 …波長シフト後の曲線(スペクトル)、S…基準となる基準吸光度スペクトル。
Claims (2)
- 測定によって得られた測定吸光度スペクトルを複数の区間に分割し、各区間ごとに基準となる基準吸光度スペクトルとの波長のずれ量を設定し、測定吸光度スペクトルの各測定波長の値に前記波長のずれ量を加えた値または各測定波長の値から前記波長のずれ量を差し引いた値を区間ごとに求めてこれらを各区間におけるシフト後の波長とし、区間ごとにこれらシフト後の波長に測定吸光度スペクトルの前記測定波長の吸光度を対応させるようにプロットして前記波長のずれ量だけシフトさせた曲線を区間ごとに求め、前記曲線におけるシフト後の波長間の補間をカーブフィッティング法を用いて行うことにより各区間の波長補正を行う分光分析計の波長補正方法であって、
前記分割は、前記測定吸光度スペクトルが前記基準吸光度スペクトルに対して長波長側にずれているか、あるいは、短波長側にずれているかというずれ方向の相違に基づいて施されるとともに、ずれ方向が同じでもずれ量が異なる場合にはずれ量を基にして施されるようにしたことを特徴とする分光分析計の波長補正方法。 - カーブフィッティング法としてスプライン関数を用いて行うようにした請求項1に記載の分光分析計の波長補正方法。
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