JP3982246B2 - 工作機械の主軸支持用ころ軸受 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明に係る工作機械の主軸支持用ころ軸受は、工作機械を構成する主軸の回転支持部に組み込んで使用し、当該回転支持部の回転精度の向上に寄与するものである。
【0002】
【従来の技術】
各種機械装置の回転支持部に転がり軸受が組み込まれているが、大きな荷重が加わる回転支持部を構成する為の転がり軸受としては、転動体としてころ(円筒ころ、円すいころ、ニードル等)を使用したころ軸受が使用されている。図13は、この様なころ軸受の1例として、工作機械を構成する主軸の支持部等、大きなラジアル荷重が加わる回転支持部に組み込む、単列円筒ころ軸受1を示している。この単列円筒ころ軸受1は、内周面の軸方向中間部に円筒面状の外輪軌道2を有する外輪3と、外周面の軸方向中間部に円筒面状の内輪軌道4を有する内輪5と、これら外輪軌道2と内輪軌道4との間に保持器6により保持した状態で転動自在に設けられた、複数の円筒ころ7とから成る。又、上記内輪5の軸方向両端部外周面には、それぞれ全周に亙り鍔部8、8を形成して、上記各円筒ころ7が上記両軌道2、4同士の間から脱落するのを防止している。
【0003】
又、上述した単列円筒ころ軸受1と同様、やはり工作機械を構成する主軸の支持部等に組み込んで、当該部分に加わるより大きなラジアル荷重を支承可能な転がり軸受として、図14に示す様な、複列円筒ころ軸受9が知られている。この複列円筒ころ軸受9は、外輪3aの内周面に形成した円筒面状の外輪軌道2と、内輪5aの外周面に形成した、それぞれが円筒面状である1対の内輪軌道4、4との間に、それぞれ円筒ころ7、7を、それぞれ複数個ずつ転動自在に設けて成る。尚、これら各円筒ころ7、7は、図示しない保持器により保持する場合もある。
【0004】
又、図15に詳示する様に、上記単列円筒ころ軸受1及び複列円筒ころ軸受9を構成する、上記各円筒ころ7の外周面である転動面10の軸方向両端部には、それぞれクラウニングを施している。即ち、この転動面10のうち、軸方向中間部に設けた円筒面部11の両側部分に、それぞれクラウニング部12、12を設けている。これら各クラウニング部12、12は、母線の形状(断面形状)が曲率半径Rの大きい円弧である、凸曲面であり、それぞれの軸方向端縁を上記円筒面部11の軸方向両端縁と滑らかに連続させている。そして、この様なクラウニング部12、12を設ける事により、上記外輪軌道2及び内輪軌道4のうち、上記転動面10の両端縁と転がり接触する部分に、エッジロードに基づく過大面圧が加わらない様にしている。又、上記各クラウニング部12、12と上記円筒ころ7の両端面との間は、それぞれ凸曲面状の面取り部13、13により滑らかに連続させている。
【0005】
上述の様な単列円筒ころ軸受1及び複列円筒ころ軸受9により回転支持部を構成するには、例えば、上記外輪3、3aを図示しない工作機械等のハウジングに内嵌支持すると共に、上記内輪5、5aを、やはり図示しない主軸等の回転軸に外嵌支持する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、近年、パーソナルコンピュータ(PC)に組み込まれるハードディスクドライブ装置(HDD)等、所謂IT関連機器の高性能化に伴い、これらの機器を構成する小型部品の加工精度の向上に関する要求が高まっている。又、一般産業用機械を構成する部品の加工精度の向上に関する要求も高まっている。従来、この様な一般産業用機械を構成する部品に就いては、この部品の表面に研削による仕上げ加工を施す事で、必要とする加工精度を確保していた。
【0007】
一方で、近年、製品の設計変更や生産数量の変更が短期間毎に行なわれる、所謂変種変量生産の要求が増大しており、これらに対応できる、高生産性、高効率加工性を備えた工作機械の実現が望まれている。この様な背景から、上述した仕上げ加工に就いても、この仕上げ加工を研削盤で行なう代わりに、NC旋盤、NCフライス盤、マシニングセンタ等で行なえる様にしたいとの要望がある。この理由は、研削盤の場合には、砥石の交換やワーク軸に対する被加工物の取り付け・付け替えが面倒で、しかも、加工を施す部位(平面、外周面、内周面等)によって使用する機種を変更せざるを得ないと言った不都合があるのに対し、NC旋盤、NCフライス盤、マシニングセンタ等の場合には、被加工物の取り付け作業を一回行なうだけで、その後この被加工物を取り付けたまま、これら各工作機械に標準装備されている装置により工具を自動交換する事で、複数の部位の加工を行なえると言った利点がある為である。又、これらNC旋盤、NCフライス盤、マシニングセンタ等により仕上加工を行なう事ができれば、製造すべき部品の粗加工から仕上加工までを1台の工作機械で行なえると言った利点もある。
【0008】
ところが、従来の汎用型のNC旋盤、NCフライス盤、マシニングセンタ等の場合には、これら各工作機械により被加工物の仕上加工を行なえる程、主軸{NC旋盤の場合には、被加工物を保持して回転する軸。NCフライス盤及びマシニングセンタの場合には、刃物(工具)を保持して回転する軸。}の回転精度が良好ではなかった。例えば、上述した一般産業用機械を構成する部品の場合、この部品の被加工面の真円度を0.4〜0.5μm程度(或はそれ以下)にする事が必要となる場合があるが、従来の汎用型のNC旋盤の場合には、上記主軸の回転精度が十分に良好ではない為、上記被加工面の真円度を0.8〜1.0μm程度にするのが限界であった。従って、上記NC旋盤、NCフライス盤、マシニングセンタ等により上記被加工物の仕上加工を行なえる様にする(即ち、被加工面の真円度、表面粗さ、光沢度等を所望のレベルに到達させる事ができる様にする)為には、上記主軸の回転精度を向上させる必要がある。
【0009】
図16は、上述した従来のNC旋盤、NCフライス盤、マシニングセンタ等を構成する主軸の回転時に於ける、この主軸の軸心の挙動を示している。上記被加工面の真円度、表面粗さ、光沢度等を良好にする為には、上記軸心が1回転毎に同じ軌跡を描くのが好ましい。ところが実際には、図16に示す様に、上記軸心の軌跡は、径方向の幅を持った帯状の範囲内でばらつく。この1回転毎の軸心の軌跡のずれは、回転に同期しない、所謂回転非同期成分が大部分を占めている。尚、径方向に関する上記軌跡のばらつき幅(上記帯状の範囲の幅)の最大値Vを、「NRRO」(回転非同期振れ)と呼んでいる。又、上記主軸の中立軸Oを中心とする、上記帯状の範囲の内接円と外接円との径方向に関する幅Tを、「軸心振れ」と呼んでいる。
【0010】
上記被加工面の真円度、表面粗さ、光沢度等を良好にする為には、上記NRROを小さくする事により、上記軸心振れを小さくすれば良い。このNRROを小さくする為には、上記主軸をハウジングに対して回転自在に支持する、前述した単列円筒ころ軸受1や複列円筒ころ軸受9等のころ軸受の組み付け誤差を小さくする事が重要であるが、上記NRROの更なる低減を図る為には、上記単列円筒ころ軸受1や複列円筒ころ軸受9等のころ軸受自身の回転精度を向上させる事も重要である。
本発明の工作機械の主軸支持用ころ軸受は、上述の様な事情に鑑みて発明したものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の工作機械の主軸支持用ころ軸受は、前述した従来から知られているころ軸受と同様に、内周面に断面形状が直線状の外輪軌道を有する外輪と、外周面に断面形状が直線状の内輪軌道を有する内輪と、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数のころとを備える。そして、これら各ころの外周面である転動面の軸方向両端部に、それぞれクラウニングを施している。又、本発明の工作機械の主軸支持用ころ軸受は、工作機械を構成する主軸をハウジングに対して回転自在に支持する為に使用する。
特に、本発明の工作機械の主軸支持用ころ軸受に於いては、これら各ころの転動面のうち上記クラウニングを施していない軸方向中間部の真円度を、半径法(JISに規定する半径法。本明細書全体に於いて同じ。)により測定した値で0.1μm以下にしている。且つ、上記各ころのうち、上記クラウニングを施していない軸方向中間部の外径が最も大きいころと、同じく最も小さいころとの当該外径の差である、外径相互差を、0.2μm以下にしている。更に、上記各ころの転動面のうち上記クラウニングを施した部分の真円度を、半径法により測定した値で0.2μm以下にすると共に、上記主軸と上記ハウジングとの間に組み付けた状態でのラジアル内部隙間を負の隙間としている。
尚、上記真円度を測定する場合の半径法とは、真円度を測定すべき部位の軸心に対し直角方向の断面に於ける輪郭線を、2つの同心の幾何学的円で挟み、これら両円の間隔が最小となる、これら両円同士の半径の差をもって、当該部位の真円度を表示する方法である。
【0012】
又、請求項2に記載した工作機械の主軸支持用ころ軸受の場合には、1つのころ列に就いてのころの総数をZ個とし、Nを正の整数とした場合に、外輪軌道及び内輪軌道に形成される円周方向に関するうねり中に、それぞれNZ±1個の成分が存在しない。
【0013】
【作用】
上述の様に本発明の工作機械の主軸支持用ころ軸受の場合には、複数のころの転動面のうち、クラウニングを施していない軸方向中間部の真円度(半径法により測定)を0.1μm以下にし、且つ、これら各ころの外径相互差を0.2μm以下にしている。従って、後述する実施例で示す様に、回転時の軸心振れを十分に小さくできる。この為、本発明の工作機械の主軸支持用ころ軸受を、例えば、NC旋盤、NCフライス盤、マシニングセンタ等を構成する主軸の回転支持部に組み込めば、この主軸の軸心振れを十分に小さくでき、これら各工作機械に被加工物の仕上げ加工を行なわせる事ができる。
【0014】
又、上述した様な工作機械以外の一般産業用機械では、回転支持部にころ軸受を組み込む場合に、このころ軸受のラジアル内部隙間を、正の隙間(外輪軌道及び内輪軌道と各ころの転動面との間に、ラジアル方向に関するがたを有する状態)とする事が多い。これに対して、上述した様な工作機械を構成する主軸の回転支持部にころ軸受を組み込む場合には、この主軸の回転精度及び剛性を確保する為、上記ころ軸受のラジアル内部隙間を、−2〜−5μm程度の負の隙間(外輪軌道及び内輪軌道と各ころの転動面との間に、ラジアル方向に関するがたの無い状態)とする事が一般的である。従って、上記主軸の回転時には、上記負の隙間により、上記外輪軌道及び内輪軌道と上記各ころの転動面とが弾性変形し、これら各ころの転動面のうちクラウニングを施した部分の一部も、それぞれ上記外輪軌道及び内輪軌道に対して所定の面圧をもって転がり接触する。これに対し、本発明の工作機械の主軸支持用ころ軸受の場合には、上記クラウニングを施した部分の真円度(半径法により測定)を0.2μm以下にしている。この為、本発明の工作機械の主軸支持用ころ軸受に絶対値が大きい負の隙間が与えられた場合でも、後述する実施例で示す様に、回転精度を良好に保持できる。
【0015】
更に、請求項2に記載した工作機械の主軸支持用ころ軸受の場合には、外輪軌道と内輪軌道とに形成される円周方向に関するうねり中に、それぞれNZ±1個の成分が存在しない為、やはり後述する実施例で示す様に、本発明の工作機械の主軸支持用ころ軸受の軸心振れが大きくなる事はない。
【0016】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の実施の形態の第1例として、NC旋盤を構成する主軸14a(カートリッジスピンドル)の両端寄り部をハウジング15aに対し、それぞれ本発明の複列円筒ころ軸受9、9により回転自在に支持した例を示している。尚、本例の構造では、上記主軸14aの前端部(主軸に関し前端部とは、被加工物又は工具を保持する側の端部で、図1の右端部。次述する図2の左端部。)に設けた上記複列円筒ころ軸受9に隣接する部分に、1対のアンギュラ型玉軸受21、21を、互いの接触角を逆にした状態で設けている。本例の場合には、図1に誇張して示す様に、上記各アンギュラ型玉軸受21、21を構成する外輪22、22の外周面と上記ハウジング15aの内周面との間に、数十μm程度の隙間を介在させている。これにより、運転時に遠心力が作用した場合でも、上記各アンギュラ型玉軸受21、21内で生じるスラスト荷重を軽減している。又、図2は、本発明の実施の形態の第2例として、マシニングセンタを構成する主軸14bの後端(主軸に関し後端とは、工具を保持する端と反対側の端で、図2の右端。上記図1の左端。)寄り部分をハウジング15bに対し、本発明の単列円筒ころ軸受1により回転自在に支持した例を示している。
【0017】
後述する実施例で示す様に、上述の図1〜2に示した実施の形態の第1〜2例の場合には、上記主軸14a、14bの軸心振れを十分に小さく抑える事ができる。この為、この主軸14a、14bを備えたNC旋盤、マシニングセンタに、被加工物の仕上加工を行なわせる事ができる。
尚、本発明の工作機械の主軸支持用ころ軸受により主軸を支持する位置は、好ましくは、加工精度に直接影響を与える、この主軸の前端部が良い。但し、これに加え、本発明の工作機械の主軸支持用ころ軸受により上記主軸の後端部も支持する様にすれば、回転時の振動をより低下させる事ができ、被加工面の加工精度をより向上させる事ができる。
【0018】
又、軸とハウジングとに対する軸受の組み付け精度を規制する事により、この軸の回転精度をより一層向上させる事ができる。この為に、例えば、図3に示す様に、ハウジング16に内嵌した軸受17、17(図示の例では、玉軸受であるが、本発明の工作機械の主軸支持用ころ軸受でも良い。)の内側に軸18の一端寄り部分(図3の下端寄り部分)を挿通支持すると共に、この軸18の中間部に螺合・緊締した軸受ナット19により上記軸受17、17の軸方向に関する位置決めを図った状態で、この軸受ナット19の上記軸18に対する倒れや偏り締め等に基づいて生じる、この軸18の籾摺り振れの値(振れ回り量)を規制したり(好ましくは、図3のダイヤルゲージ20aによる当該振れ回り量の測定値を2μm以下にする)、更には、他の軸受(本発明の工作機械の主軸支持用ころ軸受等)を組み付ける部分である、上記軸18の他端寄り部分(図の上端寄り部分)の外周面と上記ハウジング16の内周面との偏心量を規制する(好ましくは、図3のダイヤルゲージ20bによる当該偏心量の測定値を10μm以下にする)。
【0019】
尚、本発明の工作機械の主軸支持用ころ軸受は、上述した円筒ころ軸受の他、ニードル軸受、円すいころ軸受等、転動体としてころを使用した各種軸受に適用できる。
【0020】
【実施例】
本発明を完成させる過程で行なった実験に就いて説明する。尚、以下に示す実験では何れも、ころ軸受(工作機械の主軸支持用ころ軸受)として、内径が100mmの、前述の図14に示した様な複列円筒ころ軸受9(JIS呼び番号NN3020)を使用した。本発明者は、先ず、この複列円筒ころ軸受9を構成する各円筒ころ7の転動面10のうち、軸方向中間部に存在する円筒面部11(図15)の真円度(半径法により測定)及び、1つのころ列を構成する各円筒ころ7のうち、上記円筒面部11の外径が最も大きい円筒ころ7と、同じく最も小さい円筒ころ7との当該外径の差である、外径相互差が、それぞれ上記複列円筒ころ軸受9の軸心振れに与える影響を、コンピュータ解析により求めた。図4に、このコンピュータ解析の結果を示す。
【0021】
この図4に示したコンピュータ解析の結果より、上記円筒面部11の真円度を0.1μm以下にし、且つ、上記各円筒ころ7の外径相互差を0.2μm以下にすれば、上記軸心振れの大きさを、切削により仕上加工を行なうべき被加工面の真円度の要求レベルである、0.5μm以下にできる事が分かる。そこで、本発明の場合には、上記円筒面部11の真円度を0.1μm以下にし、且つ、上記各円筒ころ7の外径相互差を0.2μm以下にする事とした。尚、この図4に示した結果より、上記円筒面部11の真円度が0.15μmであり、且つ、上記各円筒ころ7の外径相互差が0.5μmである、従来品レベルの場合には、上記軸心振れの大きさが0.7〜0.8μm程度になり、この結果は、従来の汎用型NC旋盤により加工できる、上記被加工面の真円度の限界値とほぼ一致している。
【0022】
次に、本発明者は、本発明の効果を確認する為の実験(上述の図4に示したコンピュータ解析の結果を検証する為の実験)を行なった。実験では、本発明品を含む、次の表1に示す諸元を持つ4個の複列円筒ころ軸受9(本発明品1個、比較品3個)を用意した。
【表1】
比較品A〜Cは、従来品(精度等級P4〜5レベルの軸受)をベースとしたサンプル品であり、このうちの比較品A、Bは、上記各円筒ころ7の円筒面部11の真円度を本発明品の場合と同様に0.1μmにしているが、上記各円筒ころ7の外径相互差を本発明品の場合よりも悪く(大きく)したものであり、比較品Cは、上記円筒面部11の真円度を本発明品の場合よりも悪く(大きく)しているが、上記各円筒ころ7の外径相互差を本発明品の場合と同様に0.2μmにしたものである。
【0023】
実験では、上述の様な4種類の複列円筒ころ軸受9を、それぞれ前述の図1に示したNC旋盤用カートリッジスピンドル(主軸14a)の回転支持部に、ラジアル内部隙間を−2μmにした状態で組み込んだ。そして、この状態で、上記主軸14aの回転速度を1000〜4000min-1 の範囲(実際に使用される速度範囲)で種々変え、この主軸14aの前端部(被加工物を支持する側の端部で、図1の右端部)の軸心振れを測定した。尚、上記各複列円筒ころ軸受9の場合、転がり軸受の高速性を表すファクターであるdm n値(ころ列のピッチ円直径dm mmと、当該複列円筒ころ軸受9の回転速度n min-1とを掛け合わせた値)は、上記回転速度が4000min-1 の場合に約50万mm・ min-1である。この様な回転速度は、旋盤の場合、中速回転から高速回転に相当する。この様にして行なった実験の結果を図5に示す。
【0024】
この図5に示した結果から明らかな通り、上述した総ての回転速度範囲で、軸心振れの要求値である0.3μm以下を十分に満足しているのは、本発明品だけである。尚、比較品Bも、軸心振れに関して比較的良い結果が得られているが、ばらつきを考慮すると、十分に良い結果(常に要求値をクリアできると言った保証)が得られているとは言えない。
【0025】
前述したコンピュータ解析の結果(図4)及び上述した検証実験の結果(図5)から、次の事が分かる。即ち、上記各円筒ころ7の円筒面部11の真円度とこれら各円筒ころ7の外径相互差とは、何れか一方でも悪くなると、軸心振れは大きくなり、ばらつきを考慮すると、被加工面の真円度を確実に要求値(0.4μm)以下にする事が難しくなる。これに対し、本発明の場合には、上述した検証実験の結果(図5)からも分かる様に、dm n値が少なくとも50万mm・ min-1までは、回転速度の増加に伴う不都合も発生せず、被加工面の真円度を確実に要求値(0.4μm)以下にできる。
【0026】
次に、本発明者は、この様な効果が実際に得られる事を確認する為に、表1に示した本発明品を回転支持部に組み込んだ、図1に示したNC旋盤用カートリッジスピンドルと、表1に示した比較品Aを回転支持部に組み込んだ、図1に示したNC旋盤用カートリッジスピンドルとを使用して、それぞれ被加工物の切削試験を行なった。試験条件は、以下の通りである。
被加工物の材料 : アルミニウム
被加工面 : 外周面(外径60mm、切削油をミスト噴霧)
使用バイト(刃物) : ダイヤモンド(先端縁の曲率半径0.6mm)
切り込み深さ : 0.02mm
前記主軸14aの回転速度(min-1 )と刃物送り速度(mm/回転)との関係は、次の表2の通りである。
【表2】
【0027】
上述の様にして行なった切削試験の結果を、図6〜9に示す。このうちの図6は、被加工面の真円度に就いての測定結果である。この図6に示した試験結果から明らかな通り、本発明品の場合には、上記表2に示した総ての回転速度範囲に於いて、被加工面の真円度を、要求値である0.4μmよりも十分に小さくできる。これに対し、比較品Aの場合には、回転速度が2500min-1 以上で、被加工面の真円度が要求値である0.4μmよりも大きくなっている。この様に、本発明品の場合には、被加工面の真円度を確実に要求値(0.4μm)以下にできる事が確認できた。尚、上記図6に示した被加工面の真円度の測定値と、前記図5に示した軸心振れの測定値とを比較すると、両測定値が互いに近似した値になっている。従って、この事から、本発明品を使用して前記主軸14aの軸心振れを抑える事が、被加工面の真円度の向上につながる事を確認できる。
【0028】
又、上述した切削試験結果(図6〜9)のうち、図7〜8は、被加工面の軸方向表面粗さに就いての測定結果である。このうち、図7に示した測定結果から明らかな通り、本発明品の場合には、上記表2に示した総ての回転速度範囲に於いて、被加工面の軸方向表面粗さが0.08μmRa以下と、研削加工面並みの表面粗さを実現できる。これに対し、比較品Aの場合には、上記表2に示した総ての回転速度範囲に於いて、被加工面の軸方向表面粗さが0.10μmRaを越えており、研削加工面並みの表面粗さを実現できない。又、図8は、上記主軸14aの回転速度が1000min-1 及び4000min-1 の場合に於ける、被加工面の軸方向の表面粗さ形状の測定値(生データ)を示している。この図8に示した表面粗さ形状から、本発明品が比較品Aに比べて、被加工面の軸方向表面粗さが非常に良好である事を確認できる。
【0029】
又、上述した切削試験結果(図6〜9)のうち、図9は、上記主軸14aの回転速度が1000min-1 及び4000min-1 の場合に於ける、被加工面の軸方向に関する表面粗さ形状(ひき目形状)の測定結果を示している。この図9に示した、ひき目形状に関する測定結果から明らかな通り、本発明品の場合には、うねりの振幅が小さく、且つ、このうねりに周期性が認められない、良好な軸方向ひき目形状が得られる。これに対し、比較品Aの場合には、うねりの振幅が大きく、且つ、このうねりに周期性が(特に、4000min-1 の場合に顕著に)認められ、良好なひき目形状が得られているとは言えない。
上述した様な切削試験結果から、本発明品をNC旋盤用カートリッジスピンドルの回転支持部に組み込む事により、仕上げ加工に要求される被加工面の真円度や表面粗さ等を実現できる事が分かった。
【0030】
次に、本発明者は、前記各円筒ころ7の転動面10のうち軸方向両端部に形成したクラウニング部12、12(図15)の真円度(半径法により測定)が、軸心振れに与える影響を、実験により調べた。実験では、次の表3に示す諸元を持つ2種類の複列円筒ころ軸受9(比較品及び本発明品)を用意した。
【表3】
このうちの比較品は、上記各クラウニング部12、12の真円度を0.5μmにしている。又、本発明品は、請求項1に対応するものであり、上記各クラウニング部12、12の真円度を0.2μmにしている。
【0031】
本実験では、前述した検証実験(図5)の場合と同様、上記2種類の複列円筒ころ軸受9を、それぞれ前述の図1に示したNC旋盤用カートリッジスピンドル(主軸14a)の回転支持部に組み込んだ。但し、組み込んだ状態でのこれら各複列円筒ころ軸受9のラジアル内部隙間を、それぞれ−15μm{前述した検証実験(図5)では−2μm}にした。これにより、上記各円筒ころ7の転動面10並びに外輪軌道2及び内輪軌道4の弾性変形量を多くして、上記各複列円筒ころ軸受9を構成する外輪、内輪両軌道2、4に対する上記各クラウニング部12、12の接触長さを大きくした。そして、この状態で、上記主軸の回転速度を1000〜4000min-1 の範囲で種々変え、この主軸の先端部の軸心振れを測定した。この様にして行なった実験の結果を図10に示す。
【0032】
この図10に示した結果から分かる様に、比較品の場合には、上記各クラウニング部12、12の真円度が大きい為、上述のラジアル内部隙間を−2μmにした場合(図5に示す本発明品)と比べ、軸心振れが大きく(要求値である0.3μmに近く)なる。これに対し、本発明品の場合には、上述のラジアル内部隙間を−2μmにした場合(図5に示す本発明品)と同様、軸心振れを十分に小さく抑えた状態(軸心振れが要求値である0.3μmよりも十分に小さい状態)を維持できる。
【0033】
ところで、近年、工作機械を構成する主軸の駆動方法として、ベルト駆動やギヤ駆動を採用する事なく、この主軸の内部にロータとステータとを内蔵する事により、この主軸自体を駆動軸として機能させた、所謂モータビルトインスピンドルが増加している。主軸としてこのモータビルトインスピンドルを使用する場合、モータ部の発熱により主軸の温度が上昇し、この主軸に外嵌した転がり軸受の内輪の温度が、同じく外輪の温度よりも高くなり易い。一方、通常、工作機械の場合には、機台の熱変形を抑える為、主軸の周囲に存在するハウジングを冷却する構造を採用している。この為、このハウジングに内嵌する上記転がり軸受の外輪の温度が、同じく内輪の温度よりも低くなり易い。従って、主軸として上記モータビルトインスピンドルを使用する場合には、この主軸の回転支持部に組み込む転がり軸受の内輪と外輪との温度差が大きくなり易い。そして、この様に温度差が大きくなると、上記内輪と上記外輪との間に比較的大きな熱膨張量差が生じて、上記転がり軸受のラジアル内部隙間が、上述した実験(図10)の場合の様に、−15μm程度になる可能性がある。これに対して、上述した本発明品(請求項1に対応する発明)によれば、この様な条件下で使用する場合でも、軸心振れを十分に小さくできる。
【0034】
次に、本発明者は、上記各円筒ころ7の転動面10と外輪軌道2及び内輪軌道4とのそれぞれに形成される、円周方向に関するうねりの山の数(多角数)が、それぞれ軸心振れに与える影響を、コンピュータ解析により求めた。尚、このコンピュータ解析では、1つのころ列に就いての円筒ころ7の総数Zを30個(Z=30)とし、上記転動面10に形成される円周方向に関するうねりの振幅を0.05μmとし、上記外輪軌道2及び内輪軌道4に形成される円周方向に関するうねりの振幅を0.2μmとした。このコンピュータ解析の結果を図11に示す。
【0035】
この図11にその結果を示したコンピュータ解析から明らかな通り、上記各円筒ころ7の転動面10に形成されるうねりの山の数を変化させた場合、軸心振れは、このうねりの山の数が奇数の場合と偶数の場合とで僅かに変化するだけである。これに対し、上記外輪軌道2及び内輪軌道4に形成されるうねりの山の数を変化させた場合、軸心振れは、このうねりの山の数が29個及び31個{NZ±1個(N:正の整数)}の場合に、それぞれ他の山の数の場合と比べて特に(10倍程度)大きくなる。この為、軸心振れを抑える観点から、請求項2に記載したころ軸受の場合には、上記外輪軌道2及び内輪軌道4に形成されるうねりの中に、それぞれNZ±1個の成分が存在しない様にする。
【0036】
尚、本発明者は、上記外輪軌道2及び内輪軌道4に形成されるうねりの山の数を、それぞれNZ±1個(29個及び31個)にした場合に就いて、このうねりの振幅と軸心振れとの関係を、やはりコンピュータ解析により調べた。このコンピュータ解析の結果を図12に示す。この図12に示した結果より、上記うねりの山の数がNZ±1個の場合でも、上記うねりの振幅を0.03〜0.04μm以下にすれば、軸心振れを要求値である0.3μm以下にできる事が分かる。
【0037】
【発明の効果】
本発明の工作機械の主軸支持用ころ軸受は、以上に述べた通り構成され作用する為、回転時のNRROを小さくして、軸心振れを十分に小さくできる。この為、例えば、本発明の工作機械の主軸支持用ころ軸受を、NC旋盤、NCフライス盤、マシニングセンタ等を構成する主軸の回転支持部に組み込めば、この主軸の軸心振れを十分に小さくでき、これら各工作機械に被加工物の仕上加工を行なわせる事ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す断面図。
【図2】同第2例を示す断面図。
【図3】回転支持部に対するころ軸受の組み付け精度を説明する為の、回転機械装置の半部断面図。
【図4】円筒ころの外径相互差及び円筒ころの円筒面部の真円度が、軸心振れに及ぼす影響を調べる為に行なったコンピュータ解析の結果を示す3次元グラフ。
【図5】本発明の効果を確認する為(図4に示したコンピュータ解析の結果を検証する為)に行なった実験の結果を示すグラフ。
【図6】本発明品及び比較品Aを適用して行なった切削試験の結果のうち、被加工面の真円度の測定結果を示すグラフ。
【図7】同じく、被加工面の軸方向表面粗さの測定結果を示すグラフ。
【図8】同じく、被加工面の軸方向の表面粗さ形状の測定値を示す図。
【図9】同じく、被加工面の軸方向のひき目形状の測定値を示す図。
【図10】本発明の効果を確認する為(円筒ころのクラウニング部の真円度が軸心振れに及ぼす影響を調べる為)に行なった実験の結果を示すグラフ。
【図11】外輪軌道及び内輪軌道と円筒ころの転動面とのそれぞれに形成される円周方向に関するうねりの山の数が、軸心振れに及ぼす影響を調べる為に行なったコンピュータ解析の結果を示す3次元グラフ。
【図12】外輪軌道及び内輪軌道に形成される円周方向に関するうねりの振幅が、軸心振れに及ぼす影響を調べる為に行なったコンピュータ解析の結果を示すグラフ。
【図13】単列円筒ころ軸受の部分断面図。
【図14】複列円筒ころ軸受の部分断面図。
【図15】クラウニングの径方向の落ち量を誇張して示す、円筒ころの半部正面図。
【図16】回転する主軸の軸心の軌跡を示す図。
【符号の説明】
1 単列円筒ころ軸受
2 外輪軌道
3、3a 外輪
4 内輪軌道
5、5a 内輪
6 保持器
7 円筒ころ
8 鍔部
9 複列円筒ころ軸受
10 転動面
11 円筒面部
12 クラウニング部
13 面取り部
14a、14b 主軸
15a、15b ハウジング
16 ハウジング
17 軸受
18 軸
19 軸受ナット
20a、20b ダイヤルゲージ
21 アンギュラ型玉軸受
22 外輪
Claims (2)
- 内周面に断面形状が直線状の外輪軌道を有する外輪と、外周面に断面形状が直線状の内輪軌道を有する内輪と、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数のころとを備え、これら各ころの外周面である転動面の軸方向両端部にそれぞれクラウニングを施している、工作機械を構成する主軸をハウジングに対して回転自在に支持する為の工作機械の主軸支持用ころ軸受に於いて、上記各ころの転動面のうち上記クラウニングを施していない軸方向中間部の真円度を、半径法により測定した値で0.1μm以下にし、且つ、上記各ころのうち、上記クラウニングを施していない軸方向中間部の外径が最も大きいころと同じく最も小さいころとの当該外径の差である外径相互差を0.2μm以下にし、更に、上記各ころの転動面のうち上記クラウニングを施した部分の真円度を、半径法により測定した値で0.2μm以下にすると共に、上記主軸と上記ハウジングとの間に組み付けた状態でのラジアル内部隙間を負の隙間とした事を特徴とする工作機械の主軸支持用ころ軸受。
- 1つのころ列に就いてのころの総数をZ個とし、Nを正の整数とした場合に、外輪軌道及び内輪軌道に形成される円周方向に関するうねり中に、それぞれNZ±1個の成分が存在しない、請求項1に記載した工作機械の主軸支持用ころ軸受。
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