JP3982192B2 - 臨床検査システム - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は臨床検査システムに関し、特に検査結果から再検査の必要の有無を判断する再検判定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
病院の検査室、あるいは検査センター等の検査施設において検査が行われ、検査結果が出た際には、その値の妥当性の検証が行われている。例えば検査の結果、異常値が測定された場合には、被験者の検査値が本当に異常であるのか、測定上の不具合(装置の異常、人為的ミスなど)による異常値なのかを判断し、測定上の不具合による可能性が低い場合にはその検査結果を正しいとして臨床へ報告し、測定上の不具合による可能性が高い場合には、再検査を実施する。再検査の必要性は、検査値の組み合わせや、その患者(受診者)についての前回の検査結果を参照し、臨床検査技師が過去の経験に基づき判断していた。
近年、臨床検査の自動化が進み、検査結果を電子データとして蓄積し管理する臨床検査システムの普及が進んでいる。臨床検査システムの普及に伴い、臨床検査システムに再検査の必要性の有無を判定する論理が組み込まれるようになってきた。このような再検判定論理としては単項目チェック、前回値チェック、項目間チェックが代表的な方式として知られている。
【0003】
単項目チェックとしては例えば特開平5―151282号公報に開示されている技術が知られている。この技術は、検査項目ごとに、男女別、年齢別、妊婦の区分に従った基準範囲を設定し、検査値がこの基準範囲を超えた場合に、異常結果として報告する。また、特開平7―271873号公報には、各検査項目について異常値範囲、パニック値範囲という2種類の基準範囲を設ける方法が記載されている。
【0004】
前回値チェックとしては例えば特開平5―151282号公報に記載されているデルタチェック、特開平11―296605号公報に記載されている累積デルタチェックが知られている。デルタチェックでは検査項目毎に前回値と今回値の差に基準値を設け、前回値と今回値の差が基準値を超えた場合にはエラーとして報告する。また、累積デルタチェックでは、各検査項目毎に個体内標準偏差(同一の患者、受診者についての検査項目毎の検査値の標準偏差)を求め、前回値と今回値の差と、個体内標準偏差との比を計算する。各検査項目毎に得られた前述の比を加算した値に基準値を設けることにより、異常を検出する。
【0005】
項目間チェックとしては例えば特開平11−296605号公報に記載されているように項目間の比に基準値を設け、異常を判定する方法、あるいは複数の検査項目を用いた論理演算式を定義し、論理演算式の真偽に基き異常を判定する方法が知られている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来技術による臨床検査システムにおいては、測定された検査結果を、再検査の必要がある検体、再検査の必要の無い検体、の2種類に分け報告していた。この場合、再検要否判定の誤りには、(1)再検査の必要が無い検体を再検査要、と判定する誤り、(2)再検査の必要がある検体を再検査不要、と判定する誤り、という2種類が存在する。前者の誤りはある程度許容されるが、後者の誤りは最終的に誤った検査結果を報告する可能性が高いため、できる限り少なくする必要がある。そこで、実際の運用上は、再検すべき検査結果の見落とし(検出もれ)が無くなるように判定論理を設定している。
【0007】
しかし、このように設定した判定論理で再検判定を実施した場合、上記(1)の誤りが多く発生する。そのため、システムが再検査要、と自動判定した検体全てに対し再検査を実施すると、本来行わなくても良い不要な再検査を多く実施することになり、試薬等の検査コストの増加を招く。コストを抑えるためには、システムが再検査要と判定した検査結果を、再度検査技師が確認し、本当に再検査が必要な検査結果を抽出する作業を行う必要がある。この場合には、検査技師の手間が増大し、試薬等のコストは抑制できても、検査技師の作業という人的コストが抑制できない、という問題があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、再検査の必要が無い検体を再検査要、と判定する誤りを抑えると同時に、技師が再確認を行うべき検体数を低減することが可能な臨床検査システムを提供すること目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
臨床検査結果を、再検査の必要な検査結果、再検査の不要な検査結果、技師による再確認の必要な検査結果という3種類に分類することにより、前記(1)再検査の必要が無い検体を再検査要と判定する誤り、及び(2)再検査の必要がある検体を再検査不要と判定する誤りを低減することができる。このため、臨床検査システムの内部に臨床検査結果の検査値を3種類に分類するための基準値を備えた再検判定論理を設ける。これらの基準値は、最も簡便には、過去の臨床検査結果の統計平均を基に計算されるが、ニューラルネットワーク等の手法により再検判定論理に学習機能を持たせておき、基準値と検査値の分布カーブの相関関係や、異なる検査項目間での検査値の相関関係等を学習させることにより、より精度の高い基準値を決定することも可能である。
【0010】
また、上記基準値の精度は、基になる臨床検査結果のデータ数が多いほど向上すると考えられるため、臨床検査結果の解析データを適宜追加して基準値を再計算する。すなわち、再検判定論理を最適化する。
【0011】
分類された臨床検査結果は、モニタやディスプレイあるいはプリントアウトされた書類等の表示手段に表示され、臨床検査システム利用者の用に共される。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(実施例1)
本発明による判定の原理を、図1を用いて説明する。図1には、臨床へ報告された初回検査結果の検査値のヒストグラム210と、再検査結果が臨床へ報告された時の、初回検査結果の検査値のヒストグラム212を図示している。図1は模式図ではあるが、発明者は大量の検査データを解析した結果、おおよそ図1に示すようなヒストグラムが得られることを見出した。ここで、初回検査結果とは再検査を実施する前の第一回目の検査結果を意味する。また、再検査の要否を判定する際に用いる数値と言う意味で、判定に用いる検査結果を再検評価値と呼ぶが、理解しやすさを考慮し、図1の横軸は検査値と表記している。再検評価値としては、注目する項目の検査の結果値(検査値)そのもの、あるいは、注目する検査値と、同一患者、同一項目の前回の検査値との差、注目する検査値と相関の強い別の検査項目の検査値等を用いることができる。
【0013】
このヒストグラム210に含まれる検査結果は、再検査を行わなかった初回検査結果、及び再検査を行ったが、初回検査結果を臨床へ報告した時の初回検査結果、の2種類である。再検査を実施したが、初回検査結果が臨床へ報告されたということは、本来は再検査を実施する必要が無かったことを意味する。そこで、ヒストグラム210は再検査を実施する必要の無い検査値の分布と考えることができる。一方、ヒストグラム212に含まれる検査値は、再検査を実施し、かつ再検査結果を臨床に報告した際の初回検査結果の値なので、本当に再検査を行う必要があった検査値の分布と考えることができる。
【0014】
図1に示すヒストグラムから明らかなように、本当に再検査が必要であった検査値の分布212は、ヒストグラム210の検体数が最大となる検査値、すなわち検査値の最大値Smaxと最小値Sminの中間値に対してSmax側ないしSmin側に分布している。また、分布212の検査値の最大値Rmax1(白丸232で示す)とRmin2(白丸235で示す)の間の領域にはヒストグラム210のみが存在している。すなわち、この領域には再検査を実施する必要の無い検査結果のみが分布している。そこで、新たな検査結果の再検要否を判定する場合も、この領域に分布する検査値については再検査の必要の無い可能性が非常に高いと考えられる。
【0015】
また、ヒストグラム210の存在範囲(図1中、矢印222で示す)と、ヒストグラム212の存在範囲(図1中、矢印224で示す)の重なった領域には、再検査の必要がある検体と、再検査の必要が無い検体が混在している。そのため、新たな検査結果の再検要否を判定する場合も、この領域に分布する検査結果については再検査の必要の有無については定かではないため、技師がその他の詳細情報(他の検査結果、過去の検査結果、患者の病名、等)を参照し、再検査の要否を決定する必要がある。
【0016】
ヒストグラム212のみが存在する領域、すなわちRmin1(白丸230で示す)とSmin(白丸231で示す)の間、またはSmax(白丸236で示す)とRmax2(白丸237で示す)の間には、再検査が必要な検査結果のみが含まれるため、新たな検査結果の再検要否を判定する場合も、この領域に分布する検査結果については再検査を行うべき検査結果である可能性が非常に高いと考えられる。
【0017】
以上を総合すると、再検査を実施する必要が無かった検査値の分布する範囲(領域)と再検査を実施する必要があった検査値の分布する範囲(領域)に基き、検査値の存在領域を(1)再検査が必要であった検査値のみが存在する領域、(2)再検査が必要無かった検査値のみが存在する領域、(3)再検査が必要であった検査値と必要無かった検査値が混在する領域、の3種類に分割することができる。本発明では再検判定論理に備えられた基準値群に基づき、(1)の領域に分布する検査値に対しては再検査要、(2)の領域に分布する検査値に対しては再検不要、(3)の領域に分布する検査値に対しては技師による結果の再確認が必要、と判定する。
ここで、本実施例における再検判定論理とは、検査結果に対して再検査を実施するか否かを臨床検査システムサーバ20において自動的に判定するための処理方法を意味するが、実際に発明が実施される場合には、自動判定を行う処理手順、処理を実行するためのコンピュータアルゴリズム、アルゴリズムが実行される計算回路あるいはマイクロコンピュータ等を、「再検判定論理」と呼ぶ場合もあり得る。
【0018】
従来技術による再検判定論理では、検査結果を再検査が必要な検査結果と、不要な検査結果の2種類に分類していた。そのため、再検査が必要な検査結果を再検査不要とする誤りを抑制するため、通常は上記(1)〜(3)のうち、(1)と(3)の両方を再検要とする再検判定論理を用いていた。従来は自動再検判定により「再検要」と判定された検査結果を技師が再度確認し、同一患者の他の検査結果、あるいは前回の検査結果等を参照し、最終的に再検査を行うべきか否かを決定していた。これに対し、本発明では上記(1)〜(3)の検査値のうち、(3)の検査値についてのみ技師が確認を行えば良く、(1)に含まれる検査値の分だけ技師の再確認作業を減らすことが可能になる。以上、1種類の再検評価値を用いて再検査の要否判定を行う場合について説明したが、ここで説明した本発明の原理は、2種類以上の再検評価値を用いる場合にも容易に適用可能である。
(実施例2)
実施例2では、実施例1で説明した検査結果を3種類に分類する判定論理を構築する方法とこのような判定論理を用いた臨床検査システムの構成例とについて説明する。
図2は本発明を応用した臨床検査システムの構成例を示す図である。システムは病院内、あるいは検査室内等に敷設されたLAN40等のネットワークに接続された、臨床検査システムサーバ20、臨床検査システムクライアント30から構成される。臨床検査システムサーバ20としては例えばディスプレイ22、キーボード24、マウス26、ハードディスク装置等の記憶装置28が接続されたパーソナルコンピュータ21を使用する。また、臨床検査システムクライアント30としては、例えばディスプレイ32、キーボード34、マウス36が接続されたパーソナルコンピュータ31を使用する。またLAN40には複数の検査装置(第1の検査装置11、第2の検査装置12、第3の検査装置13)が接続される。臨床検査システムサーバ20は検査装置から出力される検査結果等の情報をLAN40経由で収集し、記憶装置28に蓄積するとともに、検査結果に対する再検査の必要性の有無を判定する。検査技師は臨床検査システムクライアント30を用いて、臨床検査システムサーバ20に蓄積された検査結果や、臨床検査システムサーバ20によって判定された再検査の必要性の有無、等の情報を参照することができる。また、自動化されていない検査に対する検査結果は、臨床検査システムクライアント30を用いて入力することができる。この場合、入力された検査結果等のデータは臨床検査システムクライアント30から臨床検査システムサーバ20へ送られ、記憶装置28に蓄えられる。
【0019】
なお、構成は本発明を使用した臨床検査システムの一構成例を示したに過ぎず、本発明の適用はこの構成に限られるものでは無い。臨床検査システムクライアントは複数台存在しても良い。また、臨床検査システムサーバも複数台設置し、サーバ処理を分散して行っても良い。記憶装置28もハードディスク装置ではなく、光磁気ディスク装置等でも良く、また、パーソナルコンピュータ21に内蔵されていても良い。また、検査装置の数も特に3台に限定されるものではない。
【0020】
次に、医師が検査をオーダしてから臨床検査システムサーバ20が再検判定を行い、最終的に臨床へ報告する検査結果が確定するまでの処理フローを、図5を用いて説明する。なお、図5は臨床検査技師の行う処理と、臨床検査システムサーバ20の行う処理が混在している。
【0021】
検査は医師の指示に従い、ある患者に対し、医師が必要と判断した検査が実施され、その結果が医師に報告される。そこで、まず医師が必要な検査をオーダする(ステップS90)。医師が指示した検査の種類は、検査オーダと呼ばれる単位により取り扱われ、オーダ番号により管理される。個々のオーダに対しては異なるオーダ番号が割り振られる。オーダには、どの患者に対する検査かを指定するための患者ID、どのような検査を実施するかを指定する検査項目、が含まれる。これらのオーダ情報は、臨床検査システムクライアント30を用いて技師が入力する(ステップS95)。オーダ情報はLAN40を介して臨床検査システムサーバ20に送られた後、記憶装置28に記憶される。
【0022】
記憶装置28には、図3に示すように初回検査結果テーブル110と、再検査結果テーブル120と、報告用検査結果テーブル130が含まれる。上記のオーダ情報は、初回検査結果テーブル110に記憶される。図4に初回検査結果テーブルに記憶されるデータの一例を示す。入力された検査オーダに関する、受付日時、オーダ番号、患者ID、検査項目が、初回検査結果テーブル110の受付日時記憶領域111、オーダ番号記憶領域112、患者ID記憶領域113、検査項目記憶領域114にそれぞれ記憶される。
【0023】
臨床検査システムサーバ20はこのオーダ内容に従い、検査装置11、12、13にどの患者の検体に対し、どのような検査を実施するかを指示する信号を、LAN40を介して出力する。検査装置は臨床検査システムサーバ20の指示に従い、検査を実施する(ステップS100)。また、自動化されていない検査については、技師が臨床検査システムクライアント30を用いて臨床検査システムサーバ20に実施すべき検査を問い合わせることにより、どの患者の検体に対し、どのような検査を実施するかがディスプレイ32に表示される。技師は表示された内容に従い、必要な検査を実施する。
【0024】
検査装置11〜13により検査が実施された場合には検査結果はLAN40を経由して臨床検査システムサーバ20に入力される(ステップS105)。また、検査がLAN40に接続されていない装置で実施された場合、あるいは検査技師により実施された場合には、技師が臨床検査システムクライアント30を用いて検査結果を入力する。入力された検査結果はLAN40を経由して臨床検査システムサーバ20に転送され、記憶装置28に記憶される。検査結果は図4に示すように、該当するオーダ番号、検査項目に対応する検査結果記憶領域115に記憶される。
【0025】
臨床検査システムサーバ20は、検査装置11、12、13、あるいは臨床検査システムクライアント30から入力された検査結果に対する再検査の要否を判定する(ステップS107)。再検査の要否判定は、各検査項目に対し、1種類以上の再検評価値を求め、得られた再検評価値に基き、検査結果を(1)再検査の必要な検査結果、(2)再検査の不要な検査結果、(3)技師による結果の再確認が必要な検査結果、の3種類に分類する。
【0026】
再検査の要否判定結果は記憶装置28内の初回検査結果テーブル110における自動再検判定結果記憶領域116(図4に示す)に記憶される。図では再検査が必要な検査結果を「再検要」、不要な検査結果を「再検不要」、技師による再確認が必要な検査結果を「要確認」により表している。
【0027】
技師は臨床検査システムクライアント30により、自動再検判定結果記憶領域116の内容を参照し、注目している検査結果に対する自動再検判定結果が「要確認」であるかどうかを確認する(ステップS110)。自動再検判定結果が「要確認」であった場合には、同一オーダの他の検査結果、同一患者の過去の検査結果、病名等の他の診療情報を参照し、検査技師が再検査の必要性の有無を判定する(ステップS120)。技師が再検査の必要があると判断した場合には、再検査実施の指示を臨床検査システムクライアント30により入力する(ステップS130)。再検査実施の指示は、LAN40を介して臨床検査システムサーバ20に送られ、記憶装置28の初回検査結果テーブル110(図3に示す)に記録される。具体的には図4に示す初回検査結果テーブル110の技師再検判定結果記憶領域117に、「再検要」と書きこまれる。更に、臨床検査システムサーバ20が検査装置に対して再検査の実施を指示する信号をLAN40を介して送ることにより、検査装置が再検査を実施する(ステップS135)。検査が装置ではなく技師により実施される場合には、検査の担当者が臨床検査システムクライアント30により再検査の指示を参照し、再検査を実施する。
【0028】
検査装置が再検査を行った場合には、再検査結果は検査装置からLAN40を介して臨床検査システムサーバ20に転送される。技師が再検査を行った場合には、臨床検査システムクライアント30を用いて再検査結果を入力し、入力された再検査結果がLAN40を介して臨床検査システムサーバ20に転送される。転送された再検査結果は記憶装置28の再検査結果テーブル120(図3に示す)に記憶される(ステップS145)。図6は再検査結果テーブルの一例を示す図であり、オーダ番号、検査項目、再検査結果がそれぞれオーダ番号記憶領域122、検査項目記憶領域124、再検査結果記憶領域126に記憶される。
【0029】
再検査が終了した後、検査技師は臨床検査システムクライアント30により、初回検査結果と再検査結果を比較し(ステップS155)、どちらの検査結果がより妥当な結果であり、臨床に報告すべき検査結果であるか(再検査結果の有効性)を判断する(ステップS160)。再検査結果の方がより妥当であり、再検査が有効であると判断した場合には、臨床検査システムクライアント30を用いて再検査結果を臨床への報告用の結果として指定する(ステップS165)。再検査結果を臨床への報告用結果として指定するという情報はLAN40を介して臨床検査システムサーバ20に送られ、記憶装置28の報告用検査結果テーブル130(図3に示す)に必要なデータが記憶される。図7は報告用検査結果テーブル130の一例を示し、オーダ番号、検査項目、検査結果がそれぞれオーダ番号記憶領域132、検査項目記憶領域134、検査結果記憶領域136に書きこまれる。また、採用結果種別記憶領域138には初回検査結果、再検査結果のどちらを臨床への報告用として採用したかが記憶される。ここでは再検査結果を採用したので「再検査」が書き込まれる。
【0030】
ステップS160において検査技師が初回検査結果の方が再検査結果よりも妥当であると判断した場合には、臨床検査システムクライアント30を用いて初回検査結果を臨床への報告用の結果として指定する(ステップS170)この場合には報告用検査結果テーブル130の検査結果記憶領域136に初回検査結果が記憶されると共に、採用結果種別記憶領域138には初回検査結果を採用したことを示す「初回検査」が書き込まれる。
【0031】
また、ステップS120において技師が詳細情報を参照した結果、再検査の必要は無いと判断した場合には、技師は臨床検査システムクライアント30を用いて再検査を実施しない旨を入力する(ステップS125)。この時、初回検査結果テーブル110の技師再検判定結果記憶領域117(図4に示す)には「再検不要」が書きこまれ、初回検査結果が臨床への報告用結果として報告用検査結果テーブル130に記憶される(ステップS170)。このとき、報告用検査結果テーブル130の採用結果種別記憶領域138(図7に示す)には初回検査結果を採用したことを示す「初回検査」が書き込まれる。
【0032】
ステップS110で自動判定結果が「要確認」でない検査結果、すなわち技師が詳細な情報を参照しなかった検査結果については、臨床検査システムサーバが自動再検判定結果を参照し(ステップS115)、再検不要である検査結果については初回検査結果を臨床への報告用結果として採用することを決定する(ステップS170)。また、ステップS115で自動再検判定結果が再検要である結果については、ステップS135以下の処理を行う。このとき、再検査実施の指示は、検査技師ではなく臨床検査システムサーバが行う。
図8は本発明により判定論理を構築し、構築した判定論理を使用して検査業務を実施するまでの処理フローを示した図である。
【0033】
まず、初期判定論理を設定し(ステップS210)、初期判定論理を利用して検査業務を実施し、検査値、及び再検査実施の有無に関するデータを蓄積する(ステップS220)。その後、蓄積されたデータを解析し(ステップS230)、実際の再検判定論理を構築する(ステップS240)。最終的にはステップS240で構築された再検判定論理を用いて検査業務を実施する(ステップS250)ことにより、初期判定論理を用いた再検判定よりも高精度の再検判定を行うことが可能となる。なお、図14は初期判定論理を利用して検査業務を実施し、データを蓄積する処理(ステップS220)のより詳しい処理フローを示す図であり、図9は蓄積データを解析する処理(ステップS230)の詳細な処理フローを示す図である。また、構築後の再検判定論理を用いた検査業務の実施(ステップS250)については、既に実施例1において図5に示すフローチャートを用いて説明した通りである。
【0034】
ここでは単一の再検評価値を用いて再検要否判定を行う場合を例として説明する。単一の再検評価値としては検査結果の値(検査値)そのもの、今回の検査値と前回の検査値の差、または比、等の値を用いることができる。以下では再検評価値として検査値そのものを用いる例を説明するが、前回値との差、比、あるいはその他、再検要否の判断を行う際に指標となる数値は全て同様に適用可能である。
【0035】
一般に検査値が異常に低い、あるいは異常に高い場合は、検査時の人為的ミス、あるいは装置の異常が発生している可能性が高いことが経験的に知られている。そこで、ステップS210では再検要否判定を行う検査項目の検査値rに、2種類の閾値Bmin、Bmax(Bmin<Bmaxとする)を設け、Bmin<r<Bmaxの場合には再検不要、それ以外の場合には再検要、または技師による確認が必要、と判定する初期判定論理を設定する。このような再検判定方法は、単項目チェックとして公知の方法であり、上記の閾値Bmin、Bmaxは経験に基き、再検の必要な検体を再検不要とする見落としが生じないように設定する。
【0036】
図8のステップS220では、上述のように設定した初期判定論理を使用し、図14に示す処理フローに従い検査業務を実施し、初回検査結果テーブル110、再検査結果テーブル120、報告用検査結果テーブル130(図3に示す)にデータを蓄積する。図14と図5とに共通する処理は同じ符号を付している。医師が検査をオーダしてから自動再検判定が実施されるまでの処理(ステップS90、S95、S100、S105、S107)は図5と共通である。ステップS112において自動判定結果が再検要であったか否かが調べられ、再検不要であった場合には自動的に初回検査結果が臨床へ報告される(ステップS170)。また、ステップS112において再検要であった場合には技師により再度再検要否の確認が行われる(ステップS120)。ステップS120以降の処理は図5と同じであるので、説明を省略する。
【0037】
次にステップS230における蓄積データの解析について説明する。ここでは、ある一種類の検査項目(例えばGOT)に関する判定論理構築のための蓄積データ解析方法について説明する。実際には、各検査項目について同じ解析を行う必要がある。
【0038】
ステップS230では、臨床への報告用に使用された初回検査結果の分布範囲と、臨床へ報告された再検査結果に対する初回検査結果の分布範囲を求める。詳細な処理フローを、図9を用いて説明する。なお、図9に示す処理は臨床検査システムサーバ20が行う。
【0039】
まず、変数i、j、kを0に初期化し(ステップS310)、報告用検査結果テーブル130(図3に示す)から検査項目、検査結果、及び採用結果種別を読み取る(ステップS315)。取得した検査結果の項目名が、解析を行う検査項目(例えばGOT)であるか否かを調べ(ステップS320)、解析対象とする検査項目で無い場合には処理をステップS340に移す。解析対象とする検査項目であった場合には、更に採用結果種別が初回検査結果であるか否かを調べる(ステップS325)。初回検査結果では無い場合には処理をステップS430に移し、初回検査結果であった場合には変数Siに検査値を記憶し(ステップS330)、iを1だけ増加する(ステップS335)。
【0040】
ステップS325において、採用結果種別が初回検査結果では無く再検査結果であった場合には、この再検査結果に対する初回検査結果を初回検査結果テーブル110(図3に示す)から読み取り、変数rに初回検査結果の検査値を記憶する(ステップS430)。ステップS435で、初期判定論理で用いた閾値Bminとrとを比較する。rがBminより大きい時には、処理をステップS440に移し、rがBmin以下の場合には変数R1jにrを記憶し(ステップS445)、jを1だけ増加する(ステップS455)。また、ステップS440では初期判定論理で用いた閾値Bmaxとrとを比較し、rがBmaxより小さい場合には処理をステップS340に移し、rがBmax以上の場合にはrを変数R2kに記憶し(ステップS450)、kを1だけ増加する(ステップS460)。
【0041】
ステップS340では、報告用検査結果テーブル130内の全ての検査結果を調べたかどうかを確認し、まだ残っている検査結果があった場合には、残りの検査結果についてステップS315以降の処理を再び繰り返す。以上の処理により、臨床に報告された初回検査値はSiに記憶される。また、臨床に報告された再検査結果に対する初回検査結果のうち、Bmin以下のものはR1jに、Bmax以上のものはR2kに記憶される。
【0042】
次にステップS340において全ての検査結果について処理が終了したと判断された場合には、変数Siに蓄積されたデータの最小値、最大値を求め、それぞれSmin、Smaxとする(ステップS345)。また、変数R1jに蓄積されたデータの最小値、最大値を求め、それぞれRmin1、Rmax1とする(ステップS470)。更に、変数R2kに蓄積されたデータの最小値、最大値を求め、それぞれRmin2、Rmax2とする(ステップS475)。以上の処理により、臨床へ報告された初回検査結果の検査値の分布範囲がSmin以上Smax以下として求められる。また、臨床へ報告された再検査結果に対する初回検査結果の検査値の分布がRmin1以上Rmax1以下、及びRmin2以上Rmax2以下として求められる。
【0043】
図8のステップS230で、上述のように蓄積データを解析した後、ステップS240で判定論理を構築する。判定論理の構築方法を、図1を用いて説明する。図1には、臨床へ報告された初回検査結果の検査値のヒストグラム210と、再検査結果が臨床へ報告された時の、初回検査結果の検査値のヒストグラム212を図示している。
【0044】
ヒストグラム210は、図9に示す蓄積データの解析処理において、Siとして抽出された検査値のヒストグラムに相当する。図9のステップS345で求めた最小値(Smin)と最大値(Smax)はそれぞれヒストグラム210の左端の値、右端の値に相当し、図1中では検査値の軸上、白丸231、236で示している。このヒストグラム210に含まれる検査結果は、再検査を行わなかった初回検査結果、及び再検査を行ったが、初回検査結果を臨床へ報告した時の初回検査結果、の2種類である。再検査を実施したが、初回検査結果が臨床へ報告されたということは、本来は再検査を実施する必要が無かったことを意味する。そこで、ヒストグラム210は再検査を実施する必要の無い検査値の分布と考えることができる。
【0045】
また、ヒストグラム212は図9に示す蓄積データの解析処理において、R1j、R2kとして抽出された検査値のヒストグラムに相当する。図9のステップS470で求めた最小値(Rmin1)、最大値(Rmax1)はそれぞれヒストグラム212のBmin(検査値の軸上、白丸233で示す)の左側に存在する部分の左端及び右端に相当し、図中では検査値の軸上、白丸230、232で示している。S475で求めた最小値(Rmin2)、最大値(Rmax2)はそれぞれヒストグラム212のBmax(検査値の軸上、白丸234で示す)の右側に存在する部分の左端及び右端に相当し、図中では検査値の軸上、白丸235、237で示している。このヒストグラム212に含まれる検査値は、再検査を実施し、かつ再検査結果を臨床に報告した際の初回検査結果の値なので、本当に再検査を行う必要があった検査値の分布と考えることができる。ここで、Rmax1(白丸232)がBmin(白丸233)より小さく、Rmin2(白丸235)がBmax(白丸234)より大きいのは、図8に示す初期判定論理の設定(ステップS210)において、再検査を実施すべき検体の見落としが生じないようにBmin、Bmaxを設定したためである。初期判定論理では、r≦Bmin、r≧Bmaxの領域(矢印220で示す領域)に存在する検査値が再検要と判定され、それらを技師が再確認するため、技師により再検査が必要と判定された検査値もこの領域にしか存在しない。
【0046】
図1に示すヒストグラムから明らかなように、Rmax1<r<Rmin2の領域にはヒストグラム210のみが存在している。すなわち、この領域には再検査を実施する必要の無い検査結果のみが分布している。そこで、新たな検査結果の再検要否を判定する場合も、この領域に分布する検査値については再検査の必要の無い可能性が非常に高いと考えられる。
【0047】
また、ヒストグラム210の存在範囲(図1中、矢印222で示す)と、ヒストグラム212の存在範囲(図1中、矢印224で示す)の重なった領域には、再検査の必要がある検体と、再検査の必要が無い検体が混在している。そのため、新たな検査結果の再検要否を判定する場合も、この領域に分布する検査結果については再検査の必要の有無については定かではないため、技師がその他の詳細情報(他の検査結果、過去の検査結果、患者の病名、等)を参照し、再検査の要否を決定する必要がある。
【0048】
ヒストグラム212のみが存在する領域、すなわちRmin1<r<SminまたはSmax<r<Rmax2には、再検査が必要な検査結果のみが含まれるため、新たな検査結果の再検要否を判定する場合も、この領域に分布する検査結果については再検査を行うべき検査結果である可能性が非常に高いと考えられる。
【0049】
以上を総合すると、図8に示す蓄積データの解析(ステップS230)では、再検査を実施する必要が無かった検査値の分布する範囲(領域)と再検査を実施する必要があった検査値の分布する範囲(領域)を抽出することにより、検査値の存在領域を(1)再検査が必要であった検査値のみが存在する領域、(2)再検査が必要無かった検査値のみが存在する領域、(3)再検査が必要であった検査値と必要無かった検査値が混在する領域、の3種類に分割する。再検判定論理の構築(S240)では、(1)の領域に分布する検査値に対しては再検査要、(2)の領域に分布する検査値に対しては再検不要、(3)の領域に分布する検査値に対しては技師による結果の再確認が必要、と判定する判定論理を構築する。この判定論理により、再検査の必要な検体を再検不要とする誤りを抑えた高精度な判定が可能になり、同時に技師の再確認作業を低減することができる。また、図1において、Rmin1(白丸230で示す)よりも左側の領域、及びRmax2(白丸237で示す)よりも右側の領域(矢印226で示す領域)にはヒストグラム210もヒストグラム212も存在しない。このような領域については(1)、(2)、(3)どの領域に含めるかは、分布の形状を参考にして決定することができる。例えば図1の場合には、この領域はヒストグラム212のみが存在する領域に隣接していることから、再検要否を判定する際に、この領域に分布する検査結果が現れた場合には再検査を実施する、と判定することが妥当であると考えられる。しかし、必要に応じ、技師による確認要、としても良い。
【0050】
図1を基に構築した再検判定論理の例を図11に示す。新たな検査値rが入力されると、まずRmax1<r<Rmin2であるかどうかを判定し(ステップS510)、条件が成立した場合には再検不要と判定する(ステップS520)。また、ステップS510の条件が不成立の場合にはr>Smaxであるか、またはr<Sminであるかを判定する(ステップS515)。条件が成立した場合には再検要と判定し(ステップS525)、不成立の場合には検査技師による再確認が必要と判定する(ステップS530)。
【0051】
以上の再検判定論理は、臨床へ報告された初回検査結果の検査値の分布と、臨床へ報告された再検査結果に対する初回検査結果の検査値の分布が図1に示すような関係にある場合の判定論理である。当然、これら2種類の検査値分布の関係が図1と異なる場合には判定論理も異なる。例えば2種類の分布が図10に示すような関係になることも有り得る。図10では臨床へ報告された再検査結果に対する初回検査のうち、Bmin以下である値が分布するRmin1<r<Rmin2の範囲と、臨床へ報告された初回検査結果の検査値が分布するSmin<r<Smaxの範囲に重なりが存在しない。この場合には、臨床へ報告された初回検査結果の検査値のみが分布する範囲はSmin<r<Rmin2であり、新たに入力された検査値のうち、この領域に入る検査値は再検不要と判定する。また、臨床へ報告された再検査結果に対する初回検査結果の値のみが分布するRmin1<r<Rmax1、Smax<r<Rmax2の範囲に入る検査値は再検査要、と判定する。2種類の検査値の分布の重なるRmin2≦r≦Smaxの範囲に入る検査値は技師による確認要、と判定する。検査値の分布しない範囲については、臨床へ報告された再検査結果に対する初回検査結果の値の分布範囲(矢印224で示す)のみに隣接する範囲に入る検査は再検査不要とすることが妥当と考えられる。また、臨床へ報告された再検査結果に対する初回検査結果の検査値の分布範囲(矢印224で示す)と、臨床へ報告された初回検査結果の検査値の分布範囲(矢印222で示す)の両方に接する領域にも、検査値の分布しない範囲(矢印228で示す)が存在する。この領域に新たに検査値が入ってきた場合には、再検要と判定しても、技師による確認要としてもどちらでも良い。
【0052】
従来技術の単項目チェックを利用し、再検査の必要な検査結果を再検不要とする見落としが無く、かつ再検査の必要が無い検体を再検査要、とする誤りをできるだけ少なくするような判定を行うとすると、図1に示すケースではRmax1、Rmin2を閾値とし、Rmax1以上Rmin2以下の検査値を再検不要、それ以外を再検要、とすれば良い。このように設定すると、再検査が必要な検体を再検不要、とする誤りを無くし、かつ再検査が不要な検体を再検要、とする誤りを最も少なくすることができる。このように、ステップS230(図8に示す)における蓄積データの解析は、従来技術による判定論理の最適化にも有効である。この場合には、ステップS240で述べた判定論理の構築に代え、従来技術による再検判定論理の最適化を行えば良い。
【0053】
しかし、従来技術によりRmax1以上Rmin2以下の検査値を再検不要、それ以外を再検要、とする判定処理を行った場合、Smin以上Rmax1以下の領域、及びRmin2以上Smax以下の領域には再検査の必要の無い検体も含まれる。そのため、再検要と判定された検査値全てに再検査を実施すると再検査の必要が無い検体にまで再検査を実施することになり、検査のコストが増大する。本当に再検査が必要な検査結果に絞りこむためには、再検要と判定された検査結果を検査技師が見直す必要がある。しかし、図1から判るように、Smin以下、またはSmax以上の検査値は検査技師が見直すまでも無く高確率で再検査の必要な検査値である。
【0054】
上述のように、本発明を適用し、検査結果を(1)再検査の必要な検査結果、(2)再検査の不要な検査結果、(3)技師による再確認の必要な検査結果、の3種類に分類することにより、高確率で再検査の必要な検査については技師が再確認を行うこと無く再検査を実施することができ、技師の再確認作業が軽減される。また、再検が必要な検体を再検要とする誤りをおさえつつ再検査が不要な検体に対して再検査を実施するという無駄を省くことが可能になる。
(実施例3)
実施例1,2では1種類の再検評価値により再検判定を行う例について説明したが、2種類以上の再検評価値を用いる場合にも拡張して応用可能である。再検評価値としては、検査値そのものではなく、今回値と前回値の差や比など検査結果から算出される値も使用できる。2種類の再検評価値を用いて検査結果を(1)再検査の必要な検査結果、(2)再検査の不要な検査結果、(3)技師による再確認の必要な検査結果、の3種類に分類する例を図12に示す。2種類の再検評価値としては、今回の検査値と前回の検査値、あるいは注目している検査値と、その検査項目との相関が強い項目の検査値、等の様々な組み合わせが考えられる。
【0055】
図12は2種類の再検評価値を横軸、縦軸とした時、図8のステップS220で蓄積した検査結果の分布を模式的に示した図である。図中、符号310で示すマークは再検査が必要であった検査結果、符号320で示すマークは再検査の必要が無かった検査結果を示している。図8のステップS230で示す蓄積データの解析においては、図12に示す散布図を作成し、内側に再検査の必要の無かった検査結果のみが含まれる閉曲線340と、閉曲線340を含み、外側に再検査が必要であった検査結果のみが存在する閉曲線330を設定する。平曲線340、330としては例えば再検査が不要であった検査結果の再検評価値の分布を正規分布と仮定した際に計算される、等確率楕円を用いることができる。閉曲線340としては再検査が不要であった検査結果が内部に含まれないような最大の等確率楕円を設定する。平曲線330としては再検査が必要な検査結果のみが外側に存在するような最小の等確率楕円を設定する。
【0056】
図8における判定論理の構築S240では、新しい検査結果が入力された場合に、図12に示す平面において、閉曲線340の内側であった場合には再検不要、閉曲線340と閉曲線330の間であった場合には技師による確認要、閉曲線330の外側であった場合には再検要、と判定する論理を構築すれば良い。この方法は3種類以上の再検判定評価値を用いる場合にも容易に拡張可能である。
【0057】
また、再検評価値として今回の検査結果の値(今回値)rと、同一の患者の、同一の検査項目に対する前回の検査結果の値(前回値)rpを2種類の再検評価値として用いる場合には、図13に示す原理に基き、再検評価値の分布する領域を分割しても良い。前回値と今回値との間には強い相関があり、今回値が前回値と大きく異なる場合には、再検査を実施すべき検査結果である可能性が高いことが経験的に知られている。図13では、横軸に前回値、縦軸に今回値をとり、過去に再検が不要であった(再検が不要であったことを示す技師判定情報と共に記憶されていた)検査結果と、再検が必要であった(再検が必要であったことを示す技師判定情報と共に記憶されていた)検査結果の分布を、それぞれ符号320で示すマークと、符号310で示すマークにより表している。この平面上、今回値と前回値が同じ検査結果は、直線r=rp上に分布し、今回値と前回値の差が大きいほど、この直線から外れた領域に分布する。そこで、図13では、直線r=rpからの距離に応じ、(1)再検査が必要であった検査値のみが存在する領域、(2)再検査が必要無かった検査値のみが存在する領域、(3)再検査が必要であった検査値と必要無かった検査値が混在する領域、の3種類の領域を定義している。
【0058】
より具体的には、今回値rに閾値rt1、rt2を設け、r<rt1、rt1≦r<rt2、r≧rt2、という3領域に区切り、それぞれの領域において、まず、r=rpに平行な傾き1の2本の線分により、内部に再検が不要である検査結果(符号320で示すマーク)のみを含む第1の領域を定義する。r<rt1の領域では線分404、406により囲まれる領域、rt1≦r<rt2の領域では線分412、414で囲まれる領域、r≧rt2の領域では線分420、422で囲まれる領域が第1の領域である。
【0059】
更に、r=rpに平行な2本の線分により、再検査の必要な検査結果のみを含む第2の領域を定義する。r<rt1の領域では線分402、408よりも外側(線分402の右下及び線分408の左上)の領域、rt1≦r<rt2の領域では線分410、416よりも外側(線分410の右下及び線分416の左上)の領域、r≧rt2の領域では線分418、424よりも外側(線分418の右下及び線分424の左上)の領域が第2の領域である。
【0060】
このように定義した第1の領域、第2の領域に含まれない領域を第3の領域として定義する。r<rt1の領域では線分402、404に囲まれる領域、及び線分406、408に囲まれる領域、rt1≦r<rt2の領域では線分410、412に囲まれる領域、線分414、416に囲まれる領域、r≧rt2の領域では線分418、420に囲まれる領域、及び線分422、424に囲まれる領域が第3の領域である。
【0061】
ここで今回値rに閾値rt1、rt2を設け、予め平面をrt1、rt2により区切ったのは、より複雑な境界による第1、第2、第3の領域の形成を可能とし、高精度な判定を実現するためである。
【0062】
以上述べた方法の他にも、様々な方法により1種類または2種類以上の再検評価値が分布する領域を、再検査の必要な検査結果のみが分布する領域と、再検査の不要な検査結果のみが分布する領域と、再検査の必要な検査結果と再検査の不要な検査結果が混在して分布する領域に分割することができる。再検評価値が分布する領域をこのような3種類の領域に分割することにより、検査結果を(1)再検査の必要な検査結果、(2)再検査の不要な検査結果、(3)技師による再確認の必要な検査結果、3種類に分類することが可能となり、技師の再確認作業を軽減するとともに再検査が不要な検体に対して再検査を実施する、という無駄を省くことが可能になる。
(実施例4)
実施例4では、臨床検査システムの別の構成要素について述べる。
例えば、再検査が必要であるか否かを技師が判定した情報を検査結果と共に記憶し、データとして蓄積することにより再検査の必要な検査結果の分布と、不要な検査結果の分布を解析し、高精度な再検判定論理を構築することが可能になる。本実施例で述べたように、報告用検査結果テーブル130(図3に示す)に、図7に示すように初回検査結果と再検査結果のどちらを臨床への報告結果として採用したかを示す採用結果種別を記憶することにより、初回検査結果が採用された検査結果を再検査の必要がなかった検査結果、再検査結果が採用された検査結果を再検査が必要であった検査結果として分布を解析することが可能となる。
【0063】
また、再検査が必要であるか否かを技師が判定した情報として、再検査を実施した否か、という情報を使用しても良い。この方法は再検査を行った結果、最終的には再検査の必要が無かった(初回検査結果を採用した)検査結果についても、念のため再検査を行いたい、あるいは技師による再確認を行いたい場合に適している。
【0064】
また、前述の実施例においては、図8に示す蓄積データの解析(ステップS230)により得られた再検査の必要の無い検体のみが分布する領域と、再検査の必要な検体と再検の必要の無い検体が混在して分布する領域の境界(図1の例ではSmin、Rmax1、Rmin2、Smax、図12の例では閉曲線330、340)をそのまま判定論理の判別境界として使用したが、判別境界は技師が設定、あるいは変更可能としても良い。この場合には、上記3種類の領域の境界(再検査の必要な検体の分布範囲と不要な検体の分布範囲)や過去の検査結果の分布を、参考情報として臨床検査システムクライアント30のディスプレイ32上に表示することにより、技師が設定・変更を行う際の補助情報とすることができる。例えば図12に示す図をディスプレイ32に表示する。解析に使用したデータ数が少ない場合などには、ディスプレイ32上に表示された分布形状と、領域の境界を参考にし、再検査が必要な結果を再検不要とする見落としが生じないように余裕をもたせた判定論理の判別境界を設定する、というような運用が可能になる。また、再検判定評価値の分布する領域中、全く検査結果の存在しない領域を、再検要、再検不要、技師による確認要、のどれに当てはめるかを技師が決めることも可能になる。分布範囲、あるいは分布の境界は上記のように図によって示すだけでは無く、数値あるいは数式により表示することも可能であり、同様の効果を得ることができる。
【0065】
また、特に再検評価値が1種類の場合には、分布を示す図として図1または図10に示すようなヒストグラムを表示することにより、同様の効果を得ることができる。ヒストグラムを表示すると、現在の論理により、どの程度の数の検査結果が再検要と判断されるのか、等の情報を視覚的に把握しやすい。また、判定論理の閾値(判別境界)を調整した際、判定結果がどのように変化するかを把握しやすいため、閾値の調整が容易になる。
【0066】
更に、判定論理を調整した際に、どのように判定結果が変化するかを、記憶手段28に記憶された過去の検査結果を用いてシミュレートし、その結果を臨床検査システムクライアント30のディスプレイ32に表示することにより、技師による判定論理の調整を効率化できる。具体的には記憶手段28に記憶された、過去に再検査が必要であった検査結果(再検査が必要であることを示す技師判定情報と共に記憶された検査結果)と、必要無かった検査結果(再検査が不要であることを示す技師判定情報と共に記憶された検査結果)に対し、調整後の判定論理により再検要否を判定すれば良い。判定結果は個々の検査結果について、調整前の判定論理による判定結果、技師による判断結果(技師判定情報が再検要であるか不要であるか)、調整後の判定論理による判定結果を並べて表示することにより、判定結果がどのように変化するか、また、調整後の判定結果が妥当であるかを効率的に把握することができる。また、記憶手段28に記憶された過去に再検査が必要であった検査結果(再検査が必要であることを示す技師判定情報と共に記憶された検査結果)、あるいは必要無かった検査結果(再検査が不要であることを示す技師判定情報と共に記憶された検査結果)のうち、調整後の判定論理により再検要、再検不要、技師による確認要、と判定される検体がどの程度の割合で存在するか、という情報を表示することによっても技師による調整作業を効率化できる。
【0067】
上述のように、判定論理を調整した際にどのように判定結果が変化するかを、記憶手段28に記憶された過去の検査結果を用いてシミュレートする機能は、検査結果を再検要、不要の2種類に分類する従来技術による判定論理を使用する場合にも有効である。
【0068】
【発明の効果】
以上のように、臨床検査の検査結果を3種類に分類することにより、再検査の必要が無い検体を再検査要と判定する誤りを低減することができるので、臨床検査技師の負担が減り、臨床検査の検査コストの低減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による再検判定論理の構築方法及び原理を示す図。
【図2】本発明による臨床検査システムの構成例を示す図。
【図3】記憶装置に含まれるテーブルを示す図。
【図4】初回検査結果テーブルに記憶されるデータの例を示す図。
【図5】本発明による再検判定論理の運用例を示す図。
【図6】再検査結果テーブルに記憶されるデータの例を示す図。
【図7】報告用検査結果テーブルに記憶されるデータの例を示す図。
【図8】判定論理を構築するための処理フローを示す図。
【図9】蓄積データの解析を行う処理フローを示す図。
【図10】本発明による再検判定論理の構築方法及び原理を示す図。
【図11】本発明による再検判定の一例の処理フローを示す図。
【図12】本発明による再検判定論理の構築方法及び原理を示す図。
【図13】本発明による再検判定論理の構築方法及び原理を示す図。
【図14】初期判定論理を用いた検査業務の処理フローを示す図。
【符号の説明】
11:第1の検査装置
12:第2の検査装置
13:第3の検査装置
20:臨床検査システムサーバ
21:パーソナルコンピュータ
22:ディスプレイ
24:キーボード
26:マウス
28:記憶装置
30:臨床検査システムクライアント
31:パーソナルコンピュータ
32:ディスプレイ
34:キーボード
36:マウス
40:LAN
110:初回検査結果テーブル
111:受付日時記憶領域
112:オーダ番号記憶領域
113:患者ID記憶領域
114:検査項目記憶領域
115:検査結果記憶領域
116:自動再検判定結果記憶領域
117:技師再検判定結果記憶領域
120:再検査結果テーブル
122:オーダ番号記憶領域
124:検査項目記憶領域
126:再検査結果記憶領域
130:報告用検査結果テーブル
132:オーダ番号記憶領域
134:検査項目記憶領域
136:検査結果記憶領域
138:採用結果種別記憶領域
210:再検査の必要がない検査値のヒストグラム
212:再検査の必要がある検査値のヒストグラム
220:初期判定論理により再検要と判定される検査値の範囲を示す矢印
222:再検査の必要がない検査値の分布範囲を示す矢印
224:再検査の必要がある検査値の分布範囲を示す矢印
226:再検査の必要がない検査値
必要がある検査値のどちらも分布しない範囲を示す矢印
228:再検査の必要がない検査値
必要がある検査値のどちらも分布しない範囲を示す矢印
230:Rmin1を示す丸印
231:Sminを示す丸印
232:Rmax1を示す丸印
233:Bminを示す丸印
234:Bmaxを示す丸印
235:Rmin2を示す丸印
236:Smaxを示す丸印
237:Rmax2を示す丸印
310:再検査の必要がある検査結果を示すマーク
320:再検査の必要が無い検査結果を示すマーク
330:再検評価値の分布する領域を分割する閉曲線
340:再検評価値の分布する領域を分割する閉曲線
402:今回値と前回値で張られる領域を領域に分割する線分
404:今回値と前回値で張られる領域を領域に分割する線分
406:今回値と前回値で張られる領域を領域に分割する線分
408:今回値と前回値で張られる領域を領域に分割する線分
410:今回値と前回値で張られる領域を領域に分割する線分
412:今回値と前回値で張られる領域を領域に分割する線分
414:今回値と前回値で張られる領域を領域に分割する線分
416:今回値と前回値で張られる領域を領域に分割する線分
418:今回値と前回値で張られる領域を領域に分割する線分
420:今回値と前回値で張られる領域を領域に分割する線分
422:今回値と前回値で張られる領域を領域に分割する線分
424:今回値と前回値で張られる領域を領域に分割する線分。

Claims (3)

  1. 入出力装置、臨床検査結果を格納した装置、臨床検査システムサーバを有する臨床検査システムであって、
    前記臨床検査システムサーバは、
    初回検査結果記憶領域、再検査結果記憶領域、及び報告用検査結果記憶領域を備えた記憶装置と、
    前記臨床検査結果を、再検査の必要な結果と、再検査の不要な結果と、再確認が必要な結果とに分類する再検判定手段とを備え、
    前記初回検査結果記憶領域は、初回検査結果を記憶しており、
    前記再検査結果記憶領域は、臨床検査結果について再検査要とされ再検査をした結果を記憶しており、
    前記報告用検査結果記憶領域は、前記再検査をした結果と、前記初回検査結果とについて、どちらを報告用に使用したかを記憶しており、
    前記再検判定手段は、前記入出力装置によって入力された検査結果について、前記初回検査結果記憶領域に記憶された、報告用に使用された初回検査結果値の第1の分布範囲と、報告用に使用された再検査結果値に対する初回検査結果値の第2の分布範囲に基いて、前記第1の分布範囲であり、かつ前記第2の分布範囲に含まれない第3の分布範囲と、前記第1の分布範囲であり、かつ前記第2の分布範囲である第4の分布範囲と、前記第2の分布範囲であり、かつ前記第1の分布範囲に含まれない第5の分布範囲とを求め、前記第3の分布に含まれる検査結果を再検査の不要な結果、前記第4の分布範囲に含まれる検査結果を再確認が必要な結果、前記第5の分布範囲に含まれる検査結果を再検査の必要な結果として、再検判定を行い、前記入出力装置に出力することを特徴とする臨床検査システム。
  2. 請求項1に記載の臨床検査システムにおいて、前記入出力装置は、前記第1の分布範囲と、前記第2の分布範囲を表示することを特徴とする臨床検査システム。
  3. 入出力装置、臨床検査結果を格納した装置、臨床検査システムサーバを有する臨床検査システムであって、
    前記臨床検査システムサーバは、
    初回検査結果記憶領域、再検査結果記憶領域、及び報告用検査結果記憶領域を備えた記憶装置と、
    前記臨床検査結果を、再検査の必要な結果と、再検査の不要な結果と、再確認が必要な結果とに分類する再検判定手段とを備え、
    前記初回検査結果記憶領域は、初回検査結果を記憶しており、
    前記再検査結果記憶領域は、臨床検査結果について再検査要とされ再検査をした結果を記憶しており、
    前記報告用検査結果記憶領域は、前記再検査をした結果と、前記初回検査結果とについて、どちらを報告用に使用したかを記憶しており、
    前記再検判定手段は、前記入出力装置によって入力された検査結果について、前記初回検査結果記憶領域に記憶された、報告用に使用された初回検査結果値の第1の分布範囲と、報告用に使用された再検査結果値に対する初回検査結果値の第2の分布範囲に基いて、再検査を行うものであって、
    記再検判定手段は、前記第2の分布範囲のうち、前記第1の分布範囲の最小値と最大値の中間値を基準として、前記中間値よりも最小値側に表れる側を第3の分布範囲とし、前記中間値よりも最大値側に表れる側を第4の分布範囲とし、さらに、前記第3の分布範囲のうち、前記第1の分布範囲に対して重複しない範囲を第5の分布範囲、重複する範囲を第6の分布範囲とし、前記第4の分布範囲のうち、前記第1の分布範囲に対して重複する範囲を第7の分布範囲とし、重複しない範囲を第8の分布範囲として、前記第5,8の分布範囲を再検査の必要な結果、前記第1の分布範囲で前記第6,7の分布範囲以外を再検査の不要な結果と、前記第6,7の分布範囲を再確認が必要な結果として再検判定をし、前記入出力装置に出力することを特徴とする臨床検査システム。
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