JP3976660B2 - 容器材料用クロム含有鋼およびその溶接方法、ならびに容器材料 - Google Patents

容器材料用クロム含有鋼およびその溶接方法、ならびに容器材料 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は容器材料、特に200質量ppm以下のハロゲン化物イオンを含有するpH3〜12の水相を含んでなる溶液の保管用の容器材料、具体的には水性塗料の保管容器の素材として用いるクロム含有鋼に関するもので、耐食性および靱性の劣化が問題となる溶接部の耐食性および靱性に優れたクロム含有鋼およびその溶接方法、ならびに容器材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鋼製容器材料としては、塗装した鉄が一般的に使用されている。しかし、内容物が水溶液の場合、塗装した鉄では塗膜欠陥部から腐食が発生する恐れがある。特に、0.01〜200質量ppmのハロゲン化物イオンを含有するpH3〜12の水相を含んでなる水性塗料の保管容器材料として、塗装した鉄を用いた場合、塗膜欠陥部からの腐食の発生は避けられない問題であり、代替材として、耐食性に優れたステンレス鋼の適用が考えられている。
【0003】
しかし、耐食性に優れたステンレス鋼製容器といえども溶接部は耐食性が劣る部分であり、0.01〜200質量ppmのハロゲン化物イオンを含有するpH3〜12の水相を含んでなる水性塗料を保管する場合には、この溶接部での腐食の発生が問題となっている。ステンレス鋼製容器の溶接部分における腐食の発生を防止する方法として、例えば特許文献1および特許文献2には、溶接部の酸化スケールを硝酸とフッ酸の混酸を用いて除去し、耐食性を向上させる方法が開示されている。
【0004】
上記特許文献1、特許文献2には、このステンレス鋼製容器に用いられているステンレス鋼の種類について全く記述がないが、容器材料として使用されているステンレス鋼は、通常、SUS304鋼であることから、前記特許文献1,2において、実質対象としているステンレス鋼は、SUS304鋼であるものと考えられる。しかし、SUS304鋼は、合金コストの高いニッケルを約10質量%含有したステンレス鋼であることから、SUS304鋼を使用するステンレス鋼製容器は、塗装した鉄製容器と比較して大幅なコストアップとなってしまうことが、ステンレス鋼の容器への適用が進まない原因の一つとなっている。
【0005】
現行のSUS304鋼よりも大幅な低コスト化を図るには、素材コストの低減が不可欠であり、それには、ニッケル無添加のクロム含有鋼の適用が望ましい。ただし、ニッケル無添加のクロム含有鋼を0.01〜200質量ppmのハロゲン化物イオンを含有するpH3〜12の水相を含んでなる水性塗料の保管用容器に適用した場合、溶接部での耐食性劣化が顕著であり、前記特許文献1,2に示されている硝酸とフッ酸の混合溶液を用いた酸化スケール層の除去を実施しても、溶接部の耐食性は著しく低いままであるという欠点があった。さらには、ニッケル無添加のクロム含有鋼は、溶接部の靱性が低いという欠点も有する。
【0006】
本発明者らは、0.01〜200質量ppmのハロゲン化物イオンを含有するpH3〜12の水相を含んでなる水性塗料の保管用容器への、ニッケル無添加のクロム含有鋼の適用を試みたが、耐食性に優れるSUS304鋼と比較して、溶接部での耐食性の劣化は顕著であり、溶接部耐食性を向上させない限り、0.01〜200質量ppmのハロゲン化物イオンを含有するpH3〜12の水相を含んでなる溶液の保管用容器への、ニッケル無添加のクロム含有鋼の適用は不可能であることを確認した。
【0007】
さらに、本発明者らは、溶接部耐食性を向上させるために、ニッケル無添加のクロム含有鋼に対して鋼中クロム濃度の増加を試みたが、耐食性の改善は図れるものの、溶接部靭性は劣化してしまい、0.01〜200質量ppmのハロゲン化物イオンを含有するpH3〜12の水相を含んでなる水性塗料の保管用容器に適用するには必要特性を満足し得ないことを確認した。
【0008】
すなわち、0.01〜200質量ppmのハロゲン化物イオンを含有するpH3〜12の水相を含んでなる水性塗料の保管用容器材料には、素材の低コスト化と、SUS304鋼並みの溶接部耐食性および溶接部靭性が望まれており、低コスト化に対してはニッケル無添加のクロム含有鋼で対応できるものの、溶接部耐食性と溶接部靭性の両立は不可能である。したがって現時点では、これらの特性を満足するクロム含有鋼はない。さらに、通常の容器の形成方法は、かしめや抵抗溶接による接合、あるいはプラズマ、MIG、TIGのような溶融溶接法による接合を用いるため、隙間部や溶接部での耐食性の劣化や溶接部の靱性低下が問題となっている。
【0009】
【特許文献1】
特公平1−35080号公報
【特許文献2】
特公平4−13218号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記課題に応えるべく、溶接部耐食性および溶接部靭性が確保でき、容器材料用素材、特に0.01〜200質量ppmのハロゲン化物イオンを含有するpH3〜12の水相を含んでなる水性塗料の保管容器用素材としてコスト面でも最適なニッケル無添加クロム含有鋼およびその溶接方法、ならびに容器材料を提供することを課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ニッケル無添加のクロム含有鋼を容器材料、特に、0.01〜200質量ppmのハロゲン化物イオンを含有するpH3〜12の水相を含んでなる水性塗料の保管容器材料に適用すべく、容器材料の溶接部における耐食性および靭性を向上させるための種々の検討を行った。
【0012】
その結果、溶接部の耐食性および靭性を向上させるには、鋼中にチタンおよび/またはニオブをそれぞれ規定量以上添加することにより、鋼中の炭素と窒素を安定化し、これに伴い、溶接部の耐食性および靭性が改善されることを新たに見出した。さらに、Alの添加が、溶接部の耐食性及び靭性の向上に有効であることを見出した。またさらに、CaおよびSは、所定量以上の添加で、母材の耐食性と、溶接部の耐食性および靱性の低下を生じさせる元素であることを見出した。そして、溶融溶接時にバックシールドを実施することにより、溶接部およびその周辺部に生成した酸化スケールを化学的処理により簡便に除去できることを見出した。また、接合部における隙間腐食の発生を防止するためには、隙間部を肉盛り溶接することが最も有効であることを見出した。
【0013】
本発明は、上記知見に基づいてなし得たものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)0.01〜200質量ppmのハロゲン化合物イオンを含有するpH3〜12の水相を含んでな水性塗料を保管する容器材料に用いるクロム含有鋼であって、前記鋼が、質量%で、Cr:9〜11.2%、C:0.01%以上でC+N:0.03%以下、Al:0.002〜0.2%S:0.01%以下を含有し、さらに、TiおよびNbを単独または複合して含有し、前記C+N含有量をx(質量%)とすると、Tiの含有量y(質量%)、およびNbの含有量z(質量%)は、
それぞれ単独で含有する場合は、
8x≦y≦0.6、18x≦z≦0.6、
であり、
複合して含有する場合は、
1<(y/8x)+(z/18x)、かつ、y+z≦0.6、
であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる
ことを特徴とする溶接部の耐食性および靭性に優れた容器材料用クロム含有鋼。
(2)前記クロム含有鋼が、さらに、Caを0.005質量%以下含有することを特徴とする(1)記載の容器材料用クロム含有鋼。
(3)(1)または(2)記載の容器材料用クロム含有鋼に、流量20L/分以上のアルゴンガスを用いたバックシールドを実施しながら溶融溶接を行った後、さらに、該溶融溶接部およびその周囲に生じた酸化スケールを化学的に除去することを特徴とする容器材料用クロム含有鋼の溶接方法。
(4)(1)または(2)記載の容器材料用クロム含有鋼に、抵抗溶接またはかしめ構造による機械的接合を行った後、該溶接部または接合部に肉盛り溶接を行い、さらにその後に、該肉盛り溶接部およびその周囲に生じた酸化スケールを化学的に除去することを特徴とする容器材料用クロム含有鋼の溶接方法。
(5)前記肉盛り溶接が、溶接棒にオーステナイト系ステンレス鋼を用いるものであって、該溶接棒の含有成分が、質量%で、Cr:16〜25%、Ni:8〜16%、C:0.03%以下、N:0.05%以下、Mn:2.00%以下で、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、さらに、Cr当量およびNi当量が下記式を満たすことを特徴とする)記載の容器材料用クロム含有鋼の溶接方法。
Cr当量×Ni当量>160
(ただし、Cr当量=Cr(質量%)+Mo(質量%)+1.5Si(質量%),Ni当量=Ni(質量%)+0.5Mn(質量%)+30C(質量%)+30N(質量%)、MoおよびSiは不可避的不純物として含有されるものである。)
(6)(1)または(2)記載の容器材料用クロム含有鋼を加工成形してなる容器材料。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の容器材料は、200質量ppm以下のハロゲン化物イオンを含有するpH3〜12の水相を含んでなる水性塗料の保管容器に用いられることを対象としている。従来の塗装した鉄製の容器では、特に、ハロゲン化物イオン濃度が0.01質量ppm以上の場合で腐食による損傷が問題となる。従って、本発明鋼は、特に0.01〜200質量ppmのハロゲン化物イオンを含有するpH3〜12の水相を含んでなる水性塗料の保管容器に用いられることを対象としている。なお、保管温度は一般的な60℃以下である。
【0015】
200質量ppm以下のハロゲン化物イオンを含有するpH3〜12の水相を含んでなる水性塗料とは、油相を含んでもよく、水相と油相がエマルション化したものであっても構わない。さらに、顔料等の添加剤を配合したものであっても構わない。
【0016】
本発明のニッケル無添加のクロム含有鋼の添加成分の限定理由を以下に示す。なお、以下の説明において鋼の成分組成および化学物質の量はいずれも質量%である。
【0017】
クロムは、母材の耐食性を確保するために必須の元素であり、耐食性を発現するためには9%以上の添加が必要である。しかし、11.2%を超えて添加した場合、溶接部の靱性低下が顕著となることから、11.2%を上限とする。
【0018】
炭素および窒素は、溶接部の耐食性および靱性を劣化させる元素であり、これらの元素の算術和x(質量%)を0.03%以下とする。なお、表1中、本発明鋼2、6の炭素濃度0.01%に基づいて、炭素の下限を0.01%とする。
【0019】
チタンおよびニオブは、炭素と窒素を安定化するために添加する元素である。チタンおよびニオブは、単独あるいは複合で添加する。ただし、Tiの添加量y(質量%)およびNbの添加量z(質量%)は、それぞれ単独添加の場合には、8x≦y≦0.6、18x≦z≦0.6とし、複合添加の場合には、1<(y/8x)+(z/18x)、かつ、y+z≦0.6とする。チタンおよびニオブの添加量が前記関係式を満たす場合には、母材の炭素および窒素の固定による安定化が行われ、それに伴い、溶接部の耐食性および靱性の改善をもたらす。ただし、チタンおよびニオブの添加量が単独または複合添加で0.6%を超えると、逆に靱性に悪影響を及ぼすことから、0.6%を上限とする。
【0020】
Alは、母材の耐食性と、溶接部の耐食性および靱性の向上に必須の添加元素である。Alは、0.002%以上の添加により、母材の耐食性と、溶接部の耐食性および靱性を改善する。しかし、0.2%を超えて添加すると、溶接部の耐食性および靱性を低下させるので、0.2%を上限値とする。
【0021】
Sは、母材の耐食性と、溶接部の耐食性および靱性の低下を生じさせる元素である。従って、Sの含有量は0.01%以下とする必要がある。
【0022】
本発明によるクロム含有鋼は、上記添加成分以外は、Feおよび不可避的不純物であるが、上記添加元素に加えて、必要に応じて、Caを添加しても良い。Caは、溶接部の耐食性および靭性の向上に有効であるが、0.005%超を添加すると、母材の耐食性と、溶接部の耐食性および靱性の低下を生じさせるため、0.005%を上限とする。
【0025】
次に、本発明鋼の溶接方法について説明する。
【0026】
本発明が対象とする溶接方法は、容器の溶接方法として一般的な溶融溶接法による接合方法である。
【0027】
溶融溶接法とは、MIG(Metal Inert Gas)溶接法、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接法、レーザー溶接法、およびプラズマ溶接法を意味する。溶融溶接法による溶接部は、一般的に耐食性が劣る場合が多いが、溶接条件によっては保護的な酸化スケールが形成され、耐食性向上に寄与する場合もある。本発明者らは、本発明鋼の溶接方法に関して、200質量ppm以下のハロゲン化物イオンを含有するpH3〜12の水相を含んでなる水性塗料中での溶接部耐食性を向上するための溶融溶接法について鋭意検討した結果、溶融溶接を行う際にアルゴンガスを用いたバックシールドの実施が、耐食性向上に極めて有効であることを見出した。
【0028】
すなわち、本発明鋼の溶接方法は、MIG溶接、TIG溶接、レーザ溶接、およびプラズマ溶接の溶融溶接法であるが、溶融溶接を行う際に、アルゴンガスを用いたバックシールドを実施する。これは、溶接部に大気中の酸素および窒素が取り込まれることによる耐食性劣化を防止するのに不可欠な処置であり、アルゴンガスの流量は20L/分以上が必要となる。20L/分未満では、溶接時のシールド効果が不十分で、耐食性劣化の原因となる酸化スケールを形成するため、20L/分以上の流量が必要となる。
【0029】
しかし、上記バックシールドを実施して溶融溶接を行っても、溶接部およびその周囲に部分的に薄い酸化スケールが形成されることを全く防止することは困難である。本発明鋼の溶接では、酸化スケールが耐食性低下に関与するため、その除去は不可欠であり、酸化スケールを除去することにより溶接部耐食性が大幅に向上する。
【0030】
本発明に係る前記酸化スケールの除去方法としては、機械的または化学的除去方法が挙げられるが、鋼材表面の粗度によっては、機械的除去方法のみでは酸化スケールの除去が十分に実施できないことがあるため、化学的除去方法の適用が好ましい。さらに、本発明鋼の溶接方法では、溶接時にアルゴンガスによるシールドを実施しているため、形成される酸化スケールの厚さは薄く、従って、ブラストや研磨等の前処理を実施することなく、化学的除去方法によって酸化スケールを除去することが可能である。
【0031】
本発明に係る化学的除去方法は、硝酸とフッ酸の混酸による処理が好ましく、硝酸とフッ酸の濃度は、それぞれ5〜30%、0.5〜5%が好ましい。硝酸濃度が5%未満では、十分な酸化力を得ることができず、酸化スケールの除去が不十分となる。ただし、30%を超えるとNOx(窒素酸化物)の発生量が増大するため好ましくない。フッ酸については、0.5%未満では、鋼の溶解を促進する効果が少なく好ましくない。ただし、5%を超えて添加しても、鋼の溶解促進効果はほぼ飽和するため、5%を上限とする。
【0032】
なお、処理温度および処理時間については、酸化スケールの厚みに依存するため、目視観察で酸化スケ−ルが除去できたと見なすことができる、すなわち着色部分が金属光沢になったと見なすことができる処理温度および時間を選定することが好ましい。
【0033】
前記硝酸とフッ酸の混酸による化学的処理の具体的な実施形態は、溶接部およびその周囲に硝酸とフッ酸を含んだペーストを塗布しても良いし、あるいは硝酸とフッ酸を含んだ溶液をガーゼ、ろ紙等に染み込ませて、溶接部およびその周囲の部分に付着させても良い。ただし、後者の方法では、溶液が揮発しやすいため、ペースト状にしたものの方が扱いやすい。
【0034】
前記方法の他に、中性塩溶液を用いた電解処理を行っても良い。中性塩電解は、10〜30%の硝酸ソーダや硫酸ソーダ等の電解質を溶解した水溶液を用い、前記水溶液を入れた電解槽中に本発明鋼とカソードとなるステンレス鋼板(たとえばSUS304鋼)を浸漬し、本発明鋼をアノードとして、0.05〜3A/cm2の電流密度で、酸化スケールの除去が目視で確認できるまで電解を行うことが好ましい。電流密度が0.05A/cm2未満では、酸化皮膜を過不働態溶解させることが難しく、酸化スケールが残存しやすいため好ましくない。ただし、3A/cm2を超える電解電流密度では、過不働態溶解よりも、水の電気分解による酸素発生に電力が消費される割合が増大するため好ましくない。電解酸洗後は水洗することが好ましい。
【0035】
前記化学的処理後、さらに、溶接部に研磨を行ってもよい。研磨によって、溶接部の表面粗度が低減し、溶接部の耐食性向上に寄与する。研磨は、研磨ベルト、カーボンブラシを用いて行うことができるが、溶接部の耐食性向上に寄与しないものの使用は好ましくなく、例えば、鉄系ブラシは、もらい錆びの原因となるため好ましくない。
【0036】
なお、前記化学的処理および/または研磨を行った後に、フッ酸を含有しない硝酸溶液中への浸漬、あるいは前記硝酸を含んだペーストを塗布する、いわゆる不働態化処理も耐食性向上に有効に働く。前記硝酸濃度は、10〜40質量%が望ましい。硝酸濃度が10質量%未満では酸化力が不十分なため、鋼表面にクロムを主体とした保護性の高い不働態皮膜を形成することが難しい。なお、硝酸濃度が40質量%を超えると、硝酸の酸化力が極めて強くなるため、薬液のハンドリングに注意を必要とするため好ましくない。
【0037】
なお、本発明鋼の溶接方法は、上記溶融溶接の他に、シーム溶接やスポット溶接のような抵抗溶接法、あるいはかしめ構造による機械的な接合方法も適用可能である。
【0038】
抵抗溶接法は、溶融部分が直接外部環境と触れることがなく、かつ、溶接時間も短いことから、上述の溶融溶接の場合のようなバックシールドを実施する必要はないが、溶接により生成した酸化スケールの化学的除去の実施は不可欠であり、上述の化学的除去方法を行えばよい。
【0039】
さらに、抵抗溶接やかしめ構造による接合では、接合部に隙間が形成されることによる隙間部における耐食性の劣化、すなわち、隙間腐食の発生を防止する必要がある。本発明者らは、隙間腐食の発生を確実に防止する方法について鋭意検討した結果、隙間部を肉盛り溶接する方法が最も防食効果が高いことを見出した。
【0040】
すなわち、本発明に係る抵抗溶接部やかしめ構造による接合部では、肉盛り溶接を実施し、その後、溶接部およびその周囲の酸化スケール形成部に対して、上述の酸化スケールの化学的除去方法を行う。
【0041】
本発明に係る肉盛り溶接は、溶接棒に、フェライト系ステンレス鋼の共金系、あるいはオーステナイト系ステンレス鋼のいずれも使用できる。
【0042】
フェライト系ステンレス鋼の溶接棒としては、一般的なものが使用できる。ただし、フェライト系ステンレス鋼を用いた場合は、オーステナイト系ステンレス鋼を用いた場合と比較して、靱性に劣るため、オーステナイト系ステンレス鋼を用いることが好ましい。
【0043】
次に、本発明に係る肉盛溶接に用いるオーステナイト系ステンレス鋼の溶接棒について説明する。
【0044】
クロムは、溶接部の耐食性を確保するために16%以上を必要とする。しかし、溶接部の耐食性は、溶接金属中のクロム含有量の増加と共に向上するが、25%を超えると溶接部でのδフェライトの相分率が増加し、溶接部靱性の劣化原因となるので、25%を上限とする。
【0045】
ニッケルは、γ組織を得るのに不可欠な元素であり、8%以上の添加を必要とする。しかし、16%を超えると、δフェライトの相分率が少ないため粒界にリンあるいは硫黄が偏析し、溶接冷却時の粒界割れを引き起こすので、16%を上限とする。
【0046】
マンガンも、γ組織を選るのに有効な元素であるが、2%を超えると耐食性に悪影響を及ぼすため、2%を上限とする。
【0047】
モリブデンおよびシリコンは、特に積極的に添加する元素ではなく、不純物として存在するレベルで良いが、通常、モリブデンは0.2%以下、シリコンは0.4〜0.8%の含有量とすることが多い。
【0048】
炭素および窒素の含有量は、炭素含有量は0.03%以下、窒素含有量は0.05%以下とする。炭素および窒素の含有量が前記範囲を超えると、母材粒界にクロム炭窒化物の析出を生じ、耐粒界腐食性を劣化させる。特に、耐食性と溶接割れの両者をバランスさせるには、下式(1)に基づいて、Cr当量およびNi当量を乗したもの(Cr当量×Ni当量)が160超となることが望ましい。
【0049】
Cr当量×Ni当量>160 式(1)
(ただし、Cr当量=Cr%+Mo%+1.5Si%、Ni当量=Ni%+0.5Mn%+30C%+30N%、MoおよびSiは不可避的不純物として含有されるものである。)
本発明のニッケル無添加のクロム含有鋼は、電気炉あるいは溶銑のいずれを用いても製造することができる。本発明鋼は、上述の理由により、鋼中の炭素および窒素濃度を低減する必要があるため、電気炉あるいは溶銑のいずれの場合も、2次精錬工程が重要であり、鋼中の炭素および窒素濃度を十分低減する必要がある。このように成分調整された溶鋼は、通常、連続鋳造され、スラブ形状となる。スラブは、1050〜1200℃の温度範囲で、鋼種に応じて選択される温度域で十分均熱後、所定の厚さになるまで熱間圧延する。続いて、800〜950℃の温度域で固溶化熱処理を受け、ショット、酸洗工程を経て、製品とする。
【0050】
【実施例】
ここで、本発明の実施例について説明するが、本発明は、実施例で用いた条件に限定されるものではない。
(実施例1)
表1に示す参考鋼1、本発明鋼2、4、6と比較鋼1〜5について、長さ100mm×幅50mm×厚み1.2mmの試験片を作製した。次に、同一鋼種の試験片2枚に対して、長手方向に突き合わせで、30L/minの流量のアルゴンガスを用いてバックシールドを行いながらTIG溶接を行った。
【0051】
【表1】
Figure 0003976660
【0052】
溶接後、溶接部および溶接部周辺を10質量%硝酸水溶液と3質量%フッ酸水溶液の混合溶液で酸洗して、溶接時に形成された酸化スケールを除去した。酸洗は、目視観察で酸化スケ−ルが除去できたと見なすことができる、すなわち着色部分が金属光沢になったと見なすことができる状態になるまで行った。酸洗後、水洗・乾燥した。
【0053】
次に、上記溶接した試験片を用いて、(1)液温50℃、pH3で塩化物イオン濃度が100質量ppmの水溶液中に1ヶ月間浸漬、(2)液温50℃、pH5で塩化物イオン濃度が100質量ppmの水相と油相からなる溶液中に1ヶ月間浸漬、(3)液温40℃、pH11で塩化物イオン濃度が200質量ppmのエマルション中に1ヶ月間浸漬、の3条件で浸漬試験を行った。
【0054】
浸漬試験後の試験片の母材部および溶接部の耐食性の評価は目視観察により行い、◎:赤錆およびしみの発生が全くない、○:極めて軽微なしみ発生、△:明確なしみ発生、×:明らかな赤錆発生、の4段階で評価した。
【0055】
表2に浸漬試験の結果を示す。本発明鋼2、4、6の評価は、上記3条件のいずれの条件でも◎または〇であり、母材および溶接部での優れた耐食性を示したのに対して、比較鋼1〜5の評価は、上記3条件のいずれの条件でも×または△であり、いずれも溶接部において赤錆が発生した。
【0056】
【表2】
Figure 0003976660
【0057】
(実施例2)
表1に示す本発明鋼を用いて、実施例1と同様の形状の試験片を作製した。次に、同一鋼種の試験片2枚に対して、長手方向に突き合わせでシーム溶接を行い、さらに表3に示すオーステナイト系ステンレス鋼の溶接棒(本発明の溶接棒1〜3、比較例の溶接棒1、2)を用いて、表4の組み合わせで肉盛り溶接を行った。
【0058】
【表3】
Figure 0003976660
【0059】
溶接後、実施例1と同様の混合溶液を用いて、溶接部および溶接部周辺を酸洗して、溶接時に形成された酸化スケールを除去した。酸化スケールが除去できたか否かの確認は、実施例1と同様の基準で行い、酸洗後、水洗・乾燥した。
【0060】
次に、上記溶接した試験片を用いて、実施例1と同様の3条件で浸漬試験を行い、実施例1と同様の方法で、浸漬試験後の試験片の母材部および溶接部の耐食性の観察および評価を行った。
【0061】
表4に浸漬試験結果を示す。本発明鋼および本発明法の溶接棒を使用した本発明例1は、上記3条件のいずれの条件でも◎または〇であり、極めて良好な耐食性を示すのに対し、本発明鋼および比較例の溶接棒を使用した比較例1は、上記3条件のいずれの条件でも×であり、いずれも溶接部において赤錆が発生した。
【0062】
【表4】
Figure 0003976660
【0063】
【発明の効果】
本発明は、溶接部耐食性および溶接部靭性が確保でき、容器用素材としてコスト面でも最適なニッケル無添加クロム含有鋼およびその溶接方法、ならびに容器材料を提供することができる。

Claims (6)

  1. 0.01〜200質量ppmのハロゲン化合物イオンを含有するpH3〜12の水相を含んでな水性塗料を保管する容器材料に用いるクロム含有鋼であって、前記鋼が、質量%で、Cr:9〜11.2%、C:0.01%以上でC+N:0.03%以下、Al:0.002〜0.2%S:0.01%以下を含有し、さらに、TiおよびNbを単独または複合して含有し、前記C+N含有量をx(質量%)とすると、Tiの含有量y(質量%)、およびNbの含有量z(質量%)は、
    それぞれ単独で含有する場合は、
    8x≦y≦0.6、18x≦z≦0.6、
    であり、
    複合して含有する場合は、
    1<(y/8x)+(z/18x)、かつ、y+z≦0.6、
    であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる
    ことを特徴とする溶接部の耐食性および靭性に優れた容器材料用クロム含有鋼。
  2. 前記クロム含有鋼が、さらに、Caを0.005質量%以下含有することを特徴とする請求項1記載の容器材料用クロム含有鋼。
  3. 請求項1または2記載の容器材料用クロム含有鋼に、流量20L/分以上のアルゴンガスを用いたバックシールドを実施しながら溶融溶接を行った後、さらに、該溶融溶接部およびその周囲に生じた酸化スケールを化学的に除去することを特徴とする容器材料用クロム含有鋼の溶接方法。
  4. 請求項1または2記載の容器材料用クロム含有鋼に、抵抗溶接またはかしめ構造による機械的接合を行った後、該溶接部または接合部に肉盛り溶接を行い、さらにその後に、該肉盛り溶接部およびその周囲に生じた酸化スケールを化学的に除去することを特徴とする容器材料用クロム含有鋼の溶接方法。
  5. 前記肉盛り溶接が、溶接棒にオーステナイト系ステンレス鋼を用いるものであって、該溶接棒の含有成分が、質量%で、Cr:16〜25%、Ni:8〜16%、C:0.03%以下、N:0.05%以下、Mn:2.00%以下で、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、さらに、Cr当量およびNi当量が下記式を満たすことを特徴と請求項4記載の容器材料用クロム含有鋼の溶接方法。
    Cr当量×Ni当量>160
    (ただし、Cr当量=Cr(質量%)+Mo(質量%)+1.5Si(質量%),Ni当量=Ni(質量%)+0.5Mn(質量%)+30C(質量%)+30N(質量%)、MoおよびSiは不可避的不純物として含有されるものである。)
  6. 請求項1または2記載の容器材料用クロム含有鋼を加工成形してなる容器材料。
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