JP3975110B2 - 鋼線およびその製造方法ならびにばね - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、焼戻しマルテンサイト組織を有する鋼線及びその製造方法ならびにこの鋼線を用いたばねに関するものである。特に、家電や自動車部品に用いられる耐疲労性に優れた圧縮・引張コイルばね、ならびに線ばねなどに好適なばね用鋼線とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車エンジンの排気系に用いられるばね部品素材として、Si-Cr鋼を主体とする高強度オイルテンパー線が用いられてきた。近年、地球環境問題の高まりに対応したエンジンの低燃費化、高効率化への要望に応えるため、動弁系機構や懸架ばねユニットの省重量化、省スペース化が行われている。その結果として、ばねの小型化、即ちばね用鋼線の高強度化が進む傾向にある。オイルテンパー線は耐疲労性も高く、ばね用鋼線として優秀なものであるが、高強度化を進めることで靭性の欠如が発生し、結果としてばね成形中の折損や、靭性の低下から起こる耐疲労性の低下が問題となっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
このような問題に対して、特公平3-6981号公報においては、添加V量と焼入条件を特定して結晶粒度を10以上とすることにより強度と靭性を確保することが提案されている。しかし、結晶粒度を10以上としたところで、実際にはオイルテンパー線は、焼入後の焼戻しによって強度と靭性が決定されており、結晶粒度を決定する焼入工程での改善によって飛躍的に靭性が向上するとは考えにくい。
【0004】
また、特開平3-162550号公報においてはオイルテンパー線の焼戻し後のマトリックス組織である焼戻しマルテンサイト中に残留オーステナイト相を5〜20体積%存在させることにより靭性を確保することが提案されている。しかし、残留オーステナイト相が多量に存在すると、ばねとしての使用中に残留オーステナイト相がマルテンサイト相に変態して、体積膨張により永久歪を生じ、耐へたり性が劣化するおそれがある。
【0005】
このような残留オーステナイト相の制御については、特開平9-71843号公報においても残留オーステナイト相の母相に対する体積率と焼入時の未固溶炭化物のサイズ及び存在確率を規定することで靭性の確保を狙っている。この方法では残留するオーステナイト相の化学成分にまで言及しておらず、オーステナイト相の靭性やオーステナイトと焼戻しマルテンサイト間の粒界の性質によっては必ずしも期待する靭性が得られるとは限らない。
【0006】
従って、本発明の主目的は、高強度で高靭性を有し、疲労限の高い鋼線とその製造方法を提供することにある。
【0007】
また、本発明の他の目的は、上記の鋼線を用いたばねを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は高強度ばね用オイルテンパー線の靭性を向上させて疲労限を向上させるべく鋭意研究を重ねた結果、焼戻しマルテンサイト組織内に残留するオーステナイト相中のCoの質量%が0.02〜2.00%であることによって、靭性が向上し、疲労限が向上するとの知見を得て本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明鋼線の特徴は、化学成分として、質量%でC:0.4〜1.0、Si:1.8〜2.5、Mn:0.4〜1.3、Cr:0.7〜1.2、Co:0.05〜1.00を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分で、焼入れ焼戻しを行って得られる母相が焼戻しマルテンサイト組織と、残留オーステナイト相とを有し、この残留オーステナイト相が焼戻しマルテンサイト中に体積率で1〜10%の範囲で存在しており、さらにマルテンサイト組織内に残留するオーステナイト相中のCoの含有量が0.05〜2.00質量%であることを特徴とする。
【0010】
このような化学成分の限定や残留オーステナイト相量の限定ならびに残留オーステナイト相中のCo量を特定することで、靭性を改善し、疲労限を向上させることができる。特に、残留オーステナイト相中のCoの好ましい含有量はCo:0.25〜0.70質量%である。
【0011】
ここで、さらに質量%で、Mo:0.05〜0.50、V:0.05〜0.50、W:0.05〜0.15、Nb:0.05〜0.15、Ti:0.01〜0.20,Ni:0.02〜1.00,Cu:0.02〜1.00のうち1種以上を含有することが好ましい。
【0012】
これらの元素の少なくとも1種を含有することで、より一層の疲労限向上が実現できる。
【0013】
鋼線横断面における焼入時オーステナイト(旧オーステナイト)の平均結晶粒径を1.0〜7.0μmとすることが好ましい。このように金属組織を微細化することで高強度と高靭性を両立させた鋼線を得ることができる。より好ましい旧オーステナイトの平均結晶粒径は1.0〜5.Oμmである。旧オーステナイトの平均結晶粒径を1.0〜7.0μmの範囲とするには、焼入れ加熱温度を980℃以下とすることが好ましい。
【0014】
本発明鋼線の引張強さは1800N/mm2以上2300N/mm2以下が望ましい。このような引張強さを具えることで、加工特性および耐疲労特性に優れたばねを得ることができる。
【0015】
本発明鋼線の断面形状は円形が最も一般的であるが、これに限定されるものではない。例えば、矩形、台形、楕円形など種々の形状であっても構わない。このように断面が非円形の鋼線は、線引きを行う際のダイスの形状などにより調整することができる。
【0016】
また、本発明鋼線の製造方法は、化学成分として、質量%でC:0.4〜1.0、Si:1.8〜2.5、Mn:0.4〜1.3、Cr:0.7〜1.2,Co:0.05〜1.00を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分を持つ鋼材を焼入れ焼戻しして鋼線を得る鋼線の製造方法であって、前記焼入れ時および焼戻し時の加熱を、昇温速度50〜2000℃/s、保持時間を0.5〜30sで行うことを特徴とする。
【0017】
このように焼入れ焼戻し条件を特定することで、高強度で高靭性を有し、疲労限の高い鋼線を得ることができる。この焼入れ時および焼戻し時のより好ましい加熱条件は、昇温速度300〜2000℃/s、保持時間0.5〜10sである。
【0018】
ここで、焼入れに至るまでの工程としては、通常、鋼材の溶解鋳造→鍛造→熱間圧延→熱処理→冷間伸線が行われる。これら溶解鋳造から冷間伸線までの条件は公知の条件で構わない。
【0019】
その後の焼入れにおいて、焼入れ加熱温度は850〜1050℃が好ましい。焼入れ時の冷却速度は、油もしくは水焼入れにより得られる程度の速度でよい。水焼入れにおいて、割れなどが生じる場合、有機溶剤の添加による冷却速度の低減が好ましい。また、焼戻しにおける加熱温度は350〜600℃が好ましい。焼戻し時の冷却は、冷却時の脆化温度域を避けるため、水冷とすることが好ましい。
【0020】
この製造方法において、さらに化学成分として、質量%でMo:0.05〜0.50、V:0.05〜0.50、W:0.05〜0.15、Nb:0.05〜0.15、Ti:0.01〜0.20,Ni:0.02〜1.00,Cu:0.02〜1.00のうち1種以上を含有する鋼材を用いることが好ましい。
【0021】
さらに、本発明ばねは、前述した本発明鋼線を用いて作製したことを特徴とする。前述したように、本発明鋼線は、靭性と引張強さが両立され、高い疲労限を有する鋼線である。そのため、この鋼線をばね加工することで、高い耐疲労特性を有するばねを得ることができる。
【0022】
以下に本発明における構成要素の限定理由を述べる。
<C:0.4〜1.0質量%>
Cは鋼の機械的特性を決定する重要な元素であるが、0.4質量%未満では十分な強度が得られない。逆に1.0質量%を越えると靭性が低下し、さらに鋼線の疵感受性が高くなり信頼性が低下する。そのため、Cの含有量を0.4〜1.0質量%とした。
【0023】
<Si:1.8〜2.5質量%>
Siは溶解精錬時の脱酸剤として使用される。また、フェライト中に固溶し、強化する効果も併せ持つ。但し、過度の添加は靭性の欠如を招き、熱間加工性の低下や熱処理による脱炭の助長、ばね加工時の折損の原因となり易い。そこで、脱酸効果を持たせ、ばね加工後の強度保持、ばね硬化処理(窒化)時の窒化層より内面の硬度低下を避けるために1.8質量%以上、靭性欠如を防止するために2.5質量%以下とした。
【0024】
<Mn:0.4〜1.3質量%>
MnもSi同様、溶解精錬時の脱酸剤として使用され、鋼の焼入性を向上させ、鋼中のSを固定してその害を阻止する。また、MnはNiを代替するオーステナイト形成元素でもあり靭性の改善効果がある。但し、Mnは線材の中心偏析を生じ易くする元素でもあり、熱間圧延後のパテンティング処理時に中心偏析箇所にマルテンサイトを生じ、著しく線引き加工時の断線率を増加させる。そこで、脱酸作用を持つ下限として0.4質量%以上、靭性劣化を招かない範囲として上限を1.3質量%とした。
【0025】
<Cr:0.7〜1.2質量%>
CrはMn同様に鋼の焼入性を向上させ、かつ熱間圧延後のパテンティング処理により靭性を付与し、焼入れ後、焼戻し時の軟化抵抗を高め、高強度化に有効な元素である。0.7質量%未満ではその効果が少なく、逆に1.2質量%を越えると炭化物の固溶を抑制し、強度の低下を招くとともに、焼入性の過度の増加となって靭性の低下をもたらすためである。
【0026】
<Mo:0.05〜0.50質量%>
Moは焼戻し時に炭化物を形成し、軟化抵抗を増大させる元素である。但し、0.05質量%未満ではその効果は少なく、0.50質量%を越えると伸線加工性を低下させるため、含有量をMo:0.05〜0.50質量%とした。
【0027】
<W:0.05〜0.15、Nb:0.05〜0.15、V:0.05〜0.50質量%>
W,Nb,Vも焼戻し時に鋼中に炭化物を形成し、軟化抵抗を増大させる効果がある。但し、いずれも0.05質量%未満では、その効果を十分に発揮し得ない。逆に、Vでは0.50質量%を超え、W,Nbでは0.15質量%を超えると、いずれも焼入れ加熱時に炭化物を多く形成し、靭性の低下を招く。そのため、含有量をそれぞれ、V:0.05〜0.50質量%、W:0.05〜0.15質量%、Nb:0.05〜0.15質量%と定めた。
【0028】
<Ti:0.01〜0.20質量%>
Tiも焼戻し時に鋼中に炭化物を形成し、軟化抵抗を増大させる効果がある。但し、Tiは高融点非金属介在物であるTiOを生成する。故に精錬時の条件設定などが重要である。軟化抵抗向上効果が期待できる量として0.01質量%以上、炭化物、介在物の過度の増加による靭性劣化を考慮して0.20質量%以下とした。
【0029】
<Ni:0.02〜1.00、Co:0.05〜1.00、Cu:0.02〜1.00質量%>
Ni,Co,Cuはオーステナイト生成元素であり、Ni,Co,Cu添加によって残留オーステナイトを生じ易くする材料である。残留オーステナイトの増加は、鋼線の硬度を低下させる作用を持つが、逆にSiによる固溶強化やMo,W,Nb,V,Tiといった炭化物析出元素で強化された鋼線に靭性を持たせる効果を持つ。また、Niは塩水腐食環境において、Cl元素の侵入を阻止する役割も持つ。靭性向上効果を持つ最低限度として0.02質量%、硬度低下を招かない上限として1.00質量%とした。
【0030】
<残留オーステナイト相中のCo含有量:0.02〜2.00%質量%>
上記成分を有する鋼線の疲労限を向上させるために、焼戻しマルテンサイト相中に残留するオーステナイト相にCoが質量%で0.02〜2.00%存在することが必要である。Coは積層欠陥エネルギーを下げる効果があるため、残留オーステナイト相中に転位を導入しやすく、結果として残留オーステナイト相が極めて硬いマルテンサイト相中で柔軟に変形することで、鋼線全体での靭性を向上させ、疲労限の向上に大きな効果がある。逆に言えば、この柔らかい残留オーステナイト相の存在する鋼線の疲労限を向上させるためには、窒化による硬化を促進するCrなどの炭化物形成元素の存在や熱処理による軟化抵抗向上に効果があるSiなどの元素の存在が欠かせない。そこで、上記化学成分を有する鋼線に対して、残留オーステナイト相中のCoの質量%を決定した。この残留オーステナイト相中のCoの質量%が少なくては靭性改善効果が無くなり、多すぎると鋼線全体の機械的特性の低下を招く。この靭性改善に伴う疲労限向上効果を得るための残留オーステナイト相中の最低量として0.02質量%とし、鋼線全体での引張強さ低下を招かない残留オーステナイト相中の最大量として2.00質量%とした。特に、残留オーステナイト相中のCo含有量はCo:0.25〜0.70質量%とすることが好ましい。
【0031】
<残留オーステナイト相の体積率:1.0〜10.0%>
焼戻しマルテンサイト中の残留オーステナイト相の体積率は、鋼線全体の靭性を向上させる手段として大きい方が良い。しかし、残留オーステナイト相が多量に存在するとばねとしての使用中に残留オーステナイト相がマルテンサイト相に変態して、体積膨張により永久歪を生じ、耐へたり性が劣化するおそれがある。そこで、鋼全体の靭性を向上させる最低量として1.0体積%とし、耐へたり性を低下させない最大量として10.0体積%とした。
【0032】
<旧オーステナイト平均結晶粒径:1.0〜7.0μm>
上記の鋼線は、さらに旧オーステナイト平均結晶粒径が1.0〜7.0μmであると、より一層耐疲労性に優れる。これは結晶粒の強化を行い、金属組織を微細化することで高強度と高靭性を両立させた材料が得られることに起因する。結晶粒径は7.0μm以下としたとき微細化効果が現れるが、さらに5.0μm以下に設定したときその微細化による強化の効果は著しい。但し、結晶粒径1.0μm未満のとき、加熱不足となり、熱処理による未固溶炭化物の除去が非常に困難となるため、下限を1.0μmとした。
【0033】
<引張り強さ:1800N/mm2以上2300N/mm2以下>
引張り強さ1800N/mm2以上2300N/mm2以下であるとき、ばね用鋼線として特に優れた性能を発揮する。ばねの疲労限は主に引張強さに比例するため、ばねとして必要な高疲労限を達成する引張強さとして1800N/mm2以上、コイリング時に折損しない靭性を持たせるために2300N/mm2以下とした。
【0034】
<製造条件>
残留オーステナイト相のマルテンサイト相への体積率を制御するためには、極めて短時間の焼戻し加熱が必要である。長時間の加熱は粒内炭化物の球状化、粗大化を引き起こす。また、1.0〜7.0μmといった旧オーステナイト平均結晶粒径を実現するためにも必要である。そこで、焼入れ・焼戻し時の加熱の昇温速度を50〜2000℃/sとし、保持時間を0.5〜30sとすることで靭性と引張強さを兼備した鋼線を製造することが可能となる。
【0035】
このような高速での均熱加熱は、鋼線中の金属元素の拡散を抑制する効果も有する。例えば、加熱に時間をかけるとCrやMoの様な炭化物形成元素が炭化物の形で擬集粗大化する可能性もあり、また本発明の靭性改善の担い手であるCoの均一性を損なう恐れもある。このような事情から、焼入れ焼戻し条件は昇温速度:300〜2000℃/s、保持時間:0.5〜10sで行うことがより好ましい。
【0036】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
(実施例1)
表1のサンプルA〜Mの各実施例、N,Oの各比較例に示される組成の鋼を真空溶解炉にて溶製し、熱間鍛造、熱間圧延により直径6.5mmの線材を作製した。
【0037】
この線材を熱処理、皮剥ぎ、冷間伸線により直径3.2mmに加工した。さらに、得られた線材に、焼入れ加熱温度:1000℃、焼入れ昇温速度:1000℃/s、保持時間:5sとして焼入れ、焼戻し加熱温度:450℃、焼戻し昇温速度:1000℃/s、保持時間:10sとして焼戻し処理を施してオイルテンパー線を得た。
【0038】
表1に得られたオイルテンパー線の化学成分、残留オーステナイト相中のCo質量率、残留オーステナイト(γ)相の体積率、旧オーステナイト平均粒径、および室温での引張強さを示す。旧オーステナイト結晶粒の測定は、各サンプルを550℃で2時間ほど焼鈍し、旧オーステナイト粒界に炭化物を析出させてから鋼線横断面をエッチングし、光学顕微鏡写真から旧オーステナイト結晶粒の平均値を算出することで行った(後述する他の実施例でも同様)。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例と比較例では化学成分中のCo量が異なり、それに従って残留γ相中のCo質量率が異なる。実施例では0.05〜1.0質量%としたのに対し、比較例では0.02〜1.5質量%としている。Coはほぼばねの製造全工程において、Feとの固溶体となるため、鋼材中のCoの含有量と残留γ相中のCoの含有量はほぼ同値である。
【0041】
次に、以上のサンプルを中村式回転曲げ疲労試験機にかけた結果を表2に示す。試験はひずみ一定で応力をかけ、繰り返し回数1×107回で折損のなかった振幅応力の平均をとった(n数=8)。この試験方法は、後述する他の実施例における疲れ強さの評価方法でも同様である。
【0042】
【表2】
【0043】
サンプルA〜Fは、Co量の異なるN,Oに対して30〜85MPaの疲れ強さ上昇が確認できた。また、試料Dに対してMo、V、W、Nb、Ti、Ni、Cuの少なくとも1種を含有したサンプルG〜Mにおいては、さらに高い疲れ強さを得ることができることが確認できた。実施例A〜Fと比較例N,Oの結果から、Co量が0.05〜1.00質量%で、残留オーステナイト相量が1〜10体積%の場合に疲れ強さ上昇に有効であることがわかる。特に、Co:0.3〜0.5質量%において優れた疲れ強さを示すことが確認できた。また、比較例P,Qの結果から、残留オーステナイト相中のCo量が0.05〜2.00質量%の範囲を満たす場合でも、Si量が1.8〜2.5質量%を外れる場合やCr量が0.7〜1.2質量%を外れる場合は、疲れ強さの向上は得られないことが確認できた。
【0044】
(実施例2)
次に、サンプルDと同成分の鋼を用いて、焼入れ時の冷却速度を変え、残留オーステナイト相の体積率を変化させた実施例R,S、比較例T,Uを作製した。実施例Rは加熱後水冷を行い、急冷を行った。実施例Sは加熱後、空気中に放冷することで冷媒に油を用いるよりも比較的遅く冷却した。また、比較例Tは加熱後、加熱炉の熱源を切り、そのまま炉中でゆっくりと冷却させ、比較例Uは加熱直後に液体窒素中に試料を浸漬して急冷させた。焼入れ時の冷却条件以外は実施例1と同様の焼入れ焼戻し条件である。そして、各サンプルの焼入れ冷却速度、残留オーステナイト相中のCo質量率、残留オーステナイト(γ)相の体積率、旧オーステナイト平均粒径、室温での引張強さおよび疲れ強さを求めた。その結果を表3に示す。冷却速度は、炉の温度、冷媒の種類・温度より推定している。
【0045】
【表3】
【0046】
表3から明らかなように、残留オーステナイト相の体積率は1.0〜10.0%の範囲で疲れ強さ向上に有効であり、特に実施例Dの約7体積%程度で優れていることがわかる。
【0047】
(実施例3)
さらに試料D、Gと同成分の鋼を用いて焼入れ時の加熱温度を変え、残留オーステナイトの旧オーステナイト結晶粒径を変化させた実施例V,W,X,Yを作製した。試料Dと加熱温度の異なる試料がV,Wであり、試料Gと加熱温度の異なる試料がX,Yである。これらの試料は、高周波加熱を行い、加熱速度:1000℃/sで、加熱温度:950℃、980℃、保持時間3秒(線径に応じて均一に加熱が可能な保持時間に設定)にそれぞれ設定して焼入れを行った。焼入れ時の加熱温度以外は実施例1と同様の焼入れ焼戻し条件である。そして、各サンプルの焼入れ加熱温度、残留オーステナイト相中のCo質量率、残留オーステナイト(γ)相の体積率、旧オーステナイト平均粒径、室温での引張強さおよび疲れ強さを求めた。その結果を表4に示す。
【0048】
【表4】
【0049】
表4から明らかなように、旧オーステナイト平均粒径を1.0〜7.0μmの範囲とすることで、更なる疲労限の向上が確認できた。特に、加熱を高周波加熱で行うことにより、均一な加熱によるオーステナイト化、炭化物の母相への溶け込みが可能になり、オーステナイト相の結晶粒径の変化を材料全体にわたって均一にすることができる。上記の試料の他、MoやTiといった炭化物を形成する成分を有する実施例鋼線でも、高周波加熱を用いることで同様の均一なオーステナイト化と炭化物の溶け込みが確認できた。
【0050】
(実施例4)
以上のような評価を鋼線の引張強さで1800、2200MPa級の試料についても実施した。引張強さの調整は、焼戻し時の温度調整で行った。1800MPa級の試料における焼戻し時の加熱温度は400℃、2200MPa級の試料における焼戻し時の加熱温度は550℃である。他の条件は実施例1と同様である。得られた試料について中村式回転曲げ疲労試験の結果、いずれも発明材は引張強さ×0.43(MPa)程度の高い疲れ強さを示した。そして、これらをばね加工したところ、何ら問題なくばね加工することができた。
【0051】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明鋼線は、主に焼き戻しマルテンサイト組織を母相に持つ鋼線において、残留オーステナイト相の化学組成と、残留オーステナイト層の体積率を制御することによって高い疲労特性を得ることができる。
【0052】
さらに、Mo,V,W,Nb,Tiといった炭化物生成元素を添加することで析出強化を行い、Ni,Cuといったオーステナイト生成元素添加による靭性向上を行うことで、従来鋼線では得られない高い靭性・耐疲労特性を得ることが可能となる。高い靭性に伴う耐疲労性は、例えば腐食ピットが破壊起点となる腐食応力破壊についても有効である。本発明の鋼線を用いることで、弁ばね、懸架ばねなどに要求される高疲労強度ばね用鋼線、もしくは耐腐食疲労ばねを得ることが可能である。
Claims (8)
- 化学成分として、質量%でC:0.4〜1.0、Si:1.8〜2.5、Mn:0.4〜1.3、Cr:0.7〜1.2,Co:0.05〜1.00を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分で、
焼入れ焼戻しを行って得られる母相が焼戻しマルテンサイト組織と、残留オーステナイト相とを有し、
この残留オーステナイト相が焼戻しマルテンサイト中に体積率で1〜10%の範囲で存在しており、
さらにマルテンサイト組織内に残留するオーステナイト相中のCoの含有量が0.05〜1.06質量%であることを特徴とする鋼線。 - さらに化学成分として、質量%でMo:0.05〜0.50、V:0.05〜0.50、W:0.05〜0.15、Nb:0.05〜0.15、Ti:0.01〜0.20,Ni:0.02〜1.00,Cu:0.02〜1.00のうち1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の鋼線。
- 鋼線横断面における旧オーステナイトの平均結晶粒径が1.0〜7.0μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の鋼線。
- 引張強さが1800N/mm2以上2300N/mm2以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鋼線。
- 鋼線断面が非円形であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の鋼線。
- 化学成分として、質量%でC:0.4〜1.0、Si:1.8〜2.5、Mn:0.4〜1.3、Cr:0.7〜1.2,Co:0.05〜1.00を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分を持つ鋼材を焼入れ焼戻しして鋼線を得る鋼線の製造方法であって、
前記焼入れ時および焼戻し時の加熱を、昇温速度50〜2000℃/s、保持時間を0.5〜30sで行うことを特徴とする鋼線の製造方法。 - さらに化学成分として、質量%でMo:0.05〜0.50、V:0.05〜0.50、W:0.05〜0.15、Nb:0.05〜0.15、Ti:0.01〜0.20,Ni:0.02〜1.00,Cu:0.02〜1.00のうち1種以上を含有することを特徴とする請求項6に記載の鋼線の製造方法。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の鋼線を用いて作製したことを特徴とするばね。
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