JP3973571B2 - ドラム式洗濯機 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ドラム式洗濯機に関し、より具体的には、洗濯物の偏在によるドラムの偏心回転を防止できるドラム洗濯機に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ドラム式洗濯機(90)は、図13に示すように、洗濯、脱水するドラム(91)を、水平又は傾斜した状態で回転させている。ドラム(91)は、外槽(92)の内部に回転自在に支持されており、外槽(92)に配備された駆動モータ(93)にベルト(94)及びプーリ(95)(95)を介して連繋され、駆動モータ(93)の駆動によって回転する。
このドラム式洗濯機(90)では、特に脱水の際に、遠心力作用によって濡れた洗濯物がドラム(91)の内周壁に偏在する結果、ドラム(91)に偏心荷重が生じて、回転中心周りの重量バランスが不均衡となり、振動や騒音を発生する問題があった。
【0003】
そこで、偏心荷重の発生を抑え、振動と騒音の低減を図るため、ドラム端面に複数の貯液箱(98)を周方向に等間隔に設けると共に、荷重の偏心位置を検出する手段(99)を配したものもある。
各貯液箱(98)は、回転軸の中心方向に向けて開口しており、高速回転状態で先ず配管(図示せず)から水を注入し、偏心荷重検出手段(99)で検出された偏心荷重位置に近い貯液箱(98)が上方に移動したときに、ドラム(91)に瞬間的にブレーキを掛けてドラム(91)を減速させ、偏心荷重位置にある貯液箱(98)の水を重力作用によって落下させ、ドラム(91)の偏心荷重を相殺し、振動や騒音を低減している(例えば、特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】
特開2001−300185号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述の通り、上記ドラム式洗濯機(90)では、貯液箱(98)へ水を注入するための配管を、回転するドラム(91)の近傍まで配設し、さらに、注水のタイミングを規定するなど、構造、制御が複雑であり、また、偏心荷重調整の度に貯液箱(98)へ注水する必要があるためコスト増に繋がるなどの問題があった。
【0006】
本発明は、液体を封入した環状体によってドラムの偏心荷重を調節することのできるドラム式洗濯機であって、環状体の内部形状を規定することにより、偏心荷重調整の所要時間を短縮できるドラム式洗濯機を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明のドラム式洗濯機は、洗濯物を収容し、回転中心が水平又は傾斜した状態で回転して、洗濯物を洗濯、脱水するドラムと、該ドラムと同心且つ一体回転可能に形成され、内部に液体を封入した中空密閉環状体と、を具えるドラム式洗濯機であって、密閉環状体の内部には、外周面側から内周側に向けて複数の区画板が所定間隔で突設されており、隣り合う区画板によって区画され、環状体の内向きに開口する複数の貯液箱を形成し、各貯液箱は、環状体の内部の内周面側で連通し、区画板の高さをa、区画板の先端から環状体の内周面までの距離をdとしたときに、0.1≦d/(a+d)≦0.9としたものである。
また、区画板どうしの間隔をb、貯液箱の開口の周方向の幅をcとしたとき、0.1≦c/b≦0.9としたものである。
さらに、環状体内の貯液箱の総容積Aに対する液体量Lの比、即ちL/Aは、0.1≦L/A≦0.7とすることが望ましい。
【0008】
【作用及び効果】
環状体内部の貯液箱を形成する区画板の高さaと、区画板の先端から環状体の内周面までの距離dを上記のように規定することにより、後述するとおり、ドラムの偏心荷重調整に要する時間を短縮することができる。
区画板どうしの間隔bと、貯液箱の開口の周方向の幅cを上記のように規定することにより、後述するとおり、ドラムの偏心荷重調整に要する時間を短縮することができる。
また、環状体に封入される液体量を上記のように調節することによって、偏心荷重の高い打ち消し効果を得ることができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
図1は、ドラム式洗濯機(10)の全体構成を示す断面図である。ドラム式洗濯機(10)は、洗濯機筐体(12)の内部に、ダンパ(14)及びスプリング(16)(16)を介して外槽(18)が支持されており、外槽(18)の内部に円筒状のドラム(20)が回転可能に支持されている。
図示のドラム式洗濯機(10)は、洗濯物を筐体(12)の上部から出し入れするタイプのものであり、筐体(12)及び外槽(18)の上面には、洗濯物を出し入れする洗濯物投入口(22)(24)が開設されており、ドラム(20)の周面にも外槽(18)の洗濯物投入口(24)と位置合わせ可能に洗濯物投入口(26)が開設されている。各洗濯物投入口(22)(24)(26)には、夫々、扉(図示せず)が取り付けられている。なお、洗濯物投入口は、洗濯機の側面に設けてもよい。
【0010】
ドラム(20)は、両端が閉塞した円筒体であり、周面に多数の通水孔(図示せず)が穿孔されており、内周面には、洗濯物を掻き上げるバッフル(図示せず)を複数突設することができる。また、洗濯物投入口(26)と対向するドラム(20)の内周面には、洗濯物投入口(26)(扉を含む)の重量バランスを保持するために洗濯物投入口(26)の重さに対応した重量のバランサ(28)が配備されている。
ドラム(20)の両端中央には、回転軸(30)(32)が外向きに突設されており、外槽(18)にベアリング(34)(34)を介して回転自在に支持される。一方の回転軸(30)は、外槽(18)の外側に配置された駆動モータ(50)(後述する)の回転軸を兼ねている。
【0011】
ドラム(20)の一端又は両端には、上記構成の密閉環状体(80)(80)が、ドラム(20)と同心且つ一体回転可能に配備されている。図1の実施例では、ドラム(20)の両端に環状体(80)(80)を配備しているが、何れか一方の端面に環状体(80)を配備してもよい。
【0012】
環状体(80)は、後述及び図1に示すドラム式洗濯機(10)のドラム(20)と同心且つ一体回転可能に、ドラム(20)の端面又は周面に配備される。図2は、図1の線II−IIに沿って、環状体(80)を軸心と垂直な平面で切断した断面図である。図2に示すように、環状体(80)の内部には、複数の区画板(84)(84)が外周面から内向きに突設されている。区画板(84)(84)の先端には、ドラム(20)の回転方向とは逆向きに蓋体(86)(86)が屈曲して形成されており、隣り合う区画板(84)(84)間に形成される領域が貯液箱(82)となっている。貯液箱(82)は、内周側が、環状体(80)の内部で開口(88)しており、貯液箱(82)内へ環状体(80)に封入されている液体が開口(88)から出入りする。
【0013】
外槽(18)には、洗濯、すすぎ用の水を外槽(18)の内部に供給する給水管(図示せず)と、外槽(18)内の水を排出する排水管(44)が接続されている。
また、排水管(44)は、一端が外槽(18)の下部に接続され、排水バルブ(48)を介して、他端が外部の排水口(図示せず)に接続される。排水バルブ(48)を閉じると外槽(18)内に水が貯留し、排水バルブ(48)を開くと外槽(18)内の水が外部に排出される。
【0014】
外槽(18)の側面には、駆動モータ(50)が配備される。駆動モータ(50)として、ダイレクトドライブモータを例示することができ、この場合、駆動モータ(50)の回転軸は、前述のとおり、ドラム(20)の回転軸(30)を兼ねる。
【0015】
また、外槽(18)の外側下面には乾燥機ユニット(64)が配備される。
その他、洗濯機筐体(12)の外面には、操作部や表示部を有する操作パネル(70)を具える。
【0016】
<ドラムの偏心荷重調整>
上記洗濯機(10)において、洗濯物を収容したドラム(20)が脱水回転しているときに、ドラム(20)の偏心荷重と、環状体(80)内の液体との重量バランスを、以下の工程によって調整することができる。
▲1▼ 偏心荷重の位置を検知するための回転数(例えば100rpm:以下「偏心位置検知回転数」という)よりも小さい回転数(例えば70rpm)で、偏心荷重(洗濯物)が入った状態でドラム(20)を回転させる。環状体(80)が、ドラム(20)と一体に回転することによって、各貯液箱(82)の液体には、重力と遠心力が作用する。液体に作用する重力によって、貯液箱(82)に過剰に貯留された液体は一部が貯液箱(82)から落下し、下方に位置する他の貯液箱(82)に流入する。また、遠心力の作用によって、適量の液体が貯液箱(82)内に留まる。環状体(80)の回転を行なうことにより、貯液箱(82)からの液体の落下、貯留が繰り返され、最終的に各貯液箱(82)内に液体が均等に分布する。
▲2▼ 次に、偏心位置検知回転数でドラム(20)を回転させ、ドラム(20)内の偏心荷重(洗濯物)の位置と大きさを検出する。
▲3▼ 検出された偏心位置が上方位置に到達したときに、偏心位置検知回転数から所定の回転数(上方を通過する貯液箱から液体が重力作用により落下する程度の回転数、例えば60rpm)までドラム(20)の回転を減速させ、偏心位置近傍の貯液箱から、180度正対する貯液箱に液体を移動させる。
▲4▼ 偏心荷重の大きさが、所定の閾値以下となるまで、▲2▼と▲3▼を繰り返す。
上記工程により、ドラム(20)の偏心荷重が打ち消される。
【0017】
ところで、上記ドラム(20)の重量バランスを短時間で正確に行なうには、環状体(80)及び内部に封入される液体が、以下の条件を満たすことが必要となる。
▲1▼ 偏心位置検知回転数以下にドラムが減速回転するとき、ドラム(20)に封入された液体が各貯液箱(82)に均等に分布されていること。貯液箱(82)の液体の分布が均等でなければ、偏心荷重の位置を正確に検知できないからである。
▲2▼ 偏心位置検知回転数で、ドラムが回転しているときは、貯液箱間における液体の移動がないこと。偏心位置検知回転数にて貯液箱(82)間で液体が移動すると、移動した液体が偏心荷重となって、偏心荷重の位置を正確に検知できないからである。
▲3▼ 減速動作の際に、偏心位置近傍の貯液箱のみから液体が流出すること。偏心位置近傍以外の貯液箱(82)から液体が流出すると、偏心位置に対向する貯液箱(82)に過剰な液体が流入し、貯液箱(82)から液体が溢れて液体が環状体(80)と一体に回転しなくなるためである。
▲4▼ 減速動作によって、貯液箱間で、液体の移動がスムーズに行なわれること。液体の移動がスムーズでなければ、偏心位置にある貯液箱(82)の液量を減らし、偏心位置と対向する貯液箱(82)の液量を増やすことができないからである。
▲5▼ バランス調整終了時には、偏心荷重位置近傍の貯液箱の液体は少なくなっており、180度正対する貯液箱の液体が多くなっていること。偏心荷重を相殺するには環状体(80)内で偏心荷重と相対する重量バランスを維持する必要があるからである。
【0018】
発明者らは、種々の実験を繰り返すことにより、上記条件を満足させることのできる環状体(80)の最適な液量と、環状体(80)の最適な形状を見出した。
以下、詳述する。
【0019】
1.液量
環状体(80)の内部には、水や塩化カルシウム水溶液(比重1.3)等の液体が封入される。
封入される液体の最適な量を求めるために、図3に示すように、板厚3mm、直径(外径)500mm、区画板高さ30mm、幅35mmの環状体(80)を用い、封入される液体の量を変えて、実験を行なった。
液体として、水と塩化カルシウム水溶液(CaCl2)を用いた。
液体の量は、貯液箱の総容積Aに対する液体量Lの比、即ちL/Aで示している。
結果を表1に示しており、また、各条件による環状体内部の液体の分布状況を図4乃至図6に示している。
表1中、偏心荷重打消能力とは、前述のバランスを調整する工程の実施によって打ち消すことのできる偏心荷重Dの重さ(g)を示している。
【0020】
【表1】
【0021】
表1を参照すると、液体が水、塩化カルシウム水溶液の何れの場合も、貯液箱の総容積Aに対する液体量Lの比、即ちL/Aは、0.1≦L/A≦0.7が望ましく、0.5≦L/A≦0.6がより望ましく、L/A=0.53が最適であることがわかる。また、水よりも比重の高い塩化カルシウム水溶液の方が、打ち消すことのできる偏心荷重Dを大きくできることがわかる。
【0022】
液体の封入量Lによって、偏心荷重打消能力に差が生じたのは、以下の理由による。
封入量Lが少ない場合、図4に示すように、例えばL/Aが0.3のときでは、偏心荷重に正対する貯液箱(82)に、十分な量の液体が入っていないため、偏心荷重を打ち消すことのできる重量差が環状体(80)に生じず、打ち消し効果が低くなったものである。
また、液体の封入量Lが多い場合、図6に示すように、例えばL/Aが0.7のときでは、偏心荷重に正対する貯液箱(82)には十分な量の液体が入っている。しかしながら、封入量が多いために、偏心荷重近傍の貯液箱にも液体が残留している。つまり、相対する貯液箱間の液体の重量差が小さく、打ち消し効果が低くなっている。
一方、封入量Lが適正である場合には、図5に示すように、例えばL/Aが0.53の場合には、偏心荷重に正対する貯液箱(82)に十分な量の液体が入っており、偏心荷重近傍の貯液箱(82)には殆んど液体が残留していない。つまり、相対する貯液箱間の液体の重量差が大きいために、高い打ち消し効果を得られた。
【0023】
2.環状体の形状
偏心荷重をより効果的に打ち消すためには、液体が、上記図5の状態になっていることが望ましい。このように液体を分布させるには、環状体(80)を以下の条件で製作することが望まれる。
【0024】
2.1 環状体の回転速度について
偏心荷重位置の検知精度は、低速であるほど向上するため、検知の際の回転数は低いことが望まれる。また、正確に検知するためには、検知時は封入されている液体は貯液箱(82)(82)間を移動しないこと、各貯液箱(82)内の液体量が均一であること、ドラム(20)内の洗濯物の移動がないこと等が必要である。回転中における貯液箱(82)内の液体状況は、図7及び図8に示すとおりである。液面傾斜は、重力Aと遠心力Bの合力Eの方向に対し垂直となるように、貯液箱の位置に応じて貯液箱毎に決定される(実際には、慣性力の影響によりあてはまらない場合もある)。
回転数が小さく、液体にかかる力のうち、重力Aが遠心力Bの鉛直成分に比べて大きい場合、これらの合力の鉛直成分が大きくなる図8中の丸印付近で、貯液箱間の液体の落下が生じる。また、回転数上昇(合力の内、遠心力の割合が増加)に伴い、液体移動を生じる貯液箱(82)の位置が上方へ移動する。その位置が図8の破線以上となったときに、全周均一に液体を分布させることができる。また、偏心荷重打消能力と関連する各貯液箱内の液体量を考慮し、適切な液量を全周均一に分布させるには、前記破線よりも上方の位置、即ち、図8中二重丸印位置付近で示す位置よりも上方でのみ液体が貯液箱(82)から落下するように液体にかかる力を設定することが望ましい。二重丸印位置で液体が移動するのは、液面がほぼ垂直になるとき、即ち図8中、ζがほぼ90°となったときである。この関係から、図8及び表2を用いて、以下のように適切な検知回転数(ω(rad/秒))と貯液箱半径(r(m))の関係が導かれる。なお、貯液箱半径とは、図8に示すように、回転中心から貯液箱(82)の中心高さまでの半径長さを意味する。
【0025】
【表2】
【0026】
ζ=90°のとき、検知回転数(ω)と貯液箱半径(r)の関係は、表2より、
【数1】
【0027】
上の式が、検知回転数(ω)と貯液箱半径(r)の関係の最小値である。従って、適切な検知回転数(ω)と貯液箱半径(r)との関係は、
【数2】
となる。
【0028】
2.2 貯液箱の区画板高さについて
図9中、区画板(84)の高さaと、隣り合う区画板(84)(84)どうしの間隔bについて、前提条件はa<2bである。a<2bを満たさない場合、即ちa≧2bの場合には、液体を移動させるための減速を急激に行なう必要があり、各機構の負担が大きくなるからである。
上記2.1にて設定された回転速度において、液体をすべての貯液箱(82)に均一に分布できる液体の量は、図8中二重丸印付近の貯液箱(82)で、ζがほぼ90°となるときの貯液箱内の液体量×貯液箱の数であるから、隣り合う区画板(84)(84)どうしのなす角度をα(rad)とすると、単位の貯液箱の保有液体量は、約1.4×a2/2(1.4は補正係数であって実験的に算出した)であるから、全貯液箱の保有液体量は、1.4×a2/2・2π/αで表わされる(但し、環状体の幅方向は単位長さとしている)。従って、上記1.で求められた適切な液量比の最大値(Wmax)、最小値(Wmin)を用いると、
【数3】
となって、適切な区画板(84)の高さaと区画板どうしの角度αの条件が得られる。
【0029】
2.3 貯液箱どうしを結ぶ流路の高さ
偏心荷重調整に要する時間をパラメータとして、図10に示すように、貯液箱(82)の高さ、即ち区画板(84)の高さaと、流路の高さ、即ち区画板(84)の先端から環状体(80)の内周面までの距離dについて、その関係について調べたところ、表3の結果を得た。
【0030】
【表3】
【0031】
表3より、偏心荷重調整に要する時間を短縮するのに有効な流路幅比は、
0.1≦d/(a+d)≦0.9であり、0.25≦d/(a+d)≦0.35が最も望ましいことがわかる。
【0032】
2.4 貯液箱の開口の周方向の幅比
偏心荷重調整に要する時間をパラメータとして、時間短縮に最適な貯液箱の開口の周方向の幅比(c/b)を測定した。
結果を表4に示している。
【0033】
【表4】
【0034】
表4より、偏心荷重調整に要する時間を短縮するのに有効な開口幅比(c/b)は、0.1≦c/b≦0.9であり、0.3≦c/b≦0.4が最も望ましいことがわかる。
【0035】
環状体及び貯液箱の形状に関する異なる実施の形態
偏心荷重調整を短時間で行なうには、ドラム(20)に封入された液体を各貯液箱(82)に素速く均等に分布させる必要がある。
偏心荷重調整の際に液体が環状体(80)の中で偏った状態であると、正確な偏心位置を検知することができないからである。
【0036】
貯液箱(82)の液体を均等に分布させるには、環状体(80)をより高速で回転させる必要がある。しかしながら、環状体(80)を高速で回転させると、遠心力作用によって貯液箱(82)から液体が落下せず、貯液箱(82)間の液体の移動がなくなる。従って、貯液箱(82)から液体が落下することのできる最大の回転数で環状体(80)を回転させると、液体は各貯液箱(82)に均等に分散する。
図11において、環状体(80)の外周半径をR、ドラム中心から貯液箱(82)内に貯留する液体の液面までの距離をl、貯液箱(82)を形成する隣り合う区画板(84)の夫々の角度(鉛直下方向に対する角度)をβ1、β2としたときに、液体の張力、摩擦等を無視すると、封入された液体を貯液箱(82)から落下させることのできる最大回転数φ=30/π×ωは、次の▲1▼及び▲2▼の条件を同時に満たす最小の角速度ωより求まる。
▲1▼ 区画板(84)の端部から液体が落下しないための条件は、図11を参照するとわかるとおり、液体にかかる遠心力(m(R−a)ω2)が、液体にかかる重力の回転中心方向の成分(mgcos(π−β)=−mgcosβ)以上である必要があるから、次の通り表わされる。
【数4】
▲2▼ 各貯液箱(82)の液体の量が一定(封入される液体量/区画数)となるための条件は、貯液箱(82)内に貯留した液体の断面積(奥行は単位長さとして算出)から次の通り導かれる。
【数5】
【0037】
上記▲1▼と▲2▼の条件を外径(半径)がR=240mm、区画板(84)の高さがa=39mm、液体量900ccである環状体(80)に当てはめると、▲1▼からφ=66.8rpmとなる。しかしながら、この回転数では、条件▲2▼を満たすことができないため、実験的に求めた値は70rpmであった。即ち、このような大きさ、形状、液体量の環状体では、液体を均等に分布させるために適した回転数φは70rpmである。
ところが、実際の使用環境下では、この回転数では、ドラム(20)内に濡れた衣類が入っており、この衣類がドラム内で移動し、ドラム回転数が大きく変動するため、液体を精度良く均等に分散させることが困難な場合がある。
ドラム内に衣類が張り付いた状態で回転させるには、衣類の移動が起こらない75rpm以上にすることが望ましい。この回転数は、上記表1で示したように、偏心荷重の打消しに効果的な液体量(例えば表1のL/A=0.53)の状態で実現する必要がある(条件▲3▼)。また、上記のように区画板(84)の高さは、貯液箱(82)の液体の封入量に影響を与え、偏心荷重の打消し効果に影響を及ぼすから、区画板(84)の高さも変更することなく実現する必要がある(条件▲4▼)。
【0038】
上記条件▲1▼にて、φ=75rpm(=30/π×ω)としたときに、条件▲3▼及び条件▲4▼を満足しつつ、条件▲2▼が一定となるように貯液箱(82)の形状を決定することが望ましいことがわかる。
【0039】
よって、条件▲1▼〜▲4▼を満たしつつ、貯液箱(82)に素速く液体を均等に分布させ、且つ、ドラムの偏心荷重調整時に行なう減速動作において、液体をスムーズに落下させるためには、蓋体(86)を以下の形状とすることが望ましい。
【0040】
蓋体(86)は、区画板(84)の先端から環状体(80)の内周面側に向けて傾斜するように形成し、蓋体(86)を傾斜させないときと比べて、液体を貯液箱(82)から落下させることのできる最大回転数も高くさせる必要がある。
例えば、図12に示すように、蓋体(86)は、区画板(84)の先端から屈曲して延びるように形成することが望ましい。
【0041】
図12に示すように、蓋体(86)を含む区画板(84)の高さをa、蓋体(86)のみの高さをfとし、上記したd/(a+d)の最適値を代えることなく、蓋体(86)の高さfを種々変えて貯液箱(82)内の溶液の分散状態(液体分散能力)と、打ち消すことのできる最大の偏心荷重の大きさ(偏心荷重打消能力)を比較し、夫々5段階評価した。結果を表5に示す。
【0042】
【表5】
【0043】
表5を参照すると、蓋体(86)を含む区画板(84)の高さaと、区画板(84)の蓋体(86)の根元までの高さ(a−f)の比が、0.45≦(a−f)/a≦0.9のとき、すぐれた液体分散能力と偏心荷重打消能力を発揮し、さらに、0.6≦(a−f)/a≦0.75のとき、これら能力が最も発揮されることがわかる。
さらに液体分散能力と偏心荷重打消能力の評価値を総合して評価すると、上記と同様に0.45≦(a−f)/a≦0.9のときが望ましく、0.6≦(a−f)/a≦0.75のときが最も望ましいことがわかる。
【0044】
上記実施例の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本発明の各部構成は上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のドラム式洗濯機の断面図である。
【図2】環状体の断面図である。
【図3】貯液箱の総容積Aと封入される液体量Lとの関係を示す断面図である。
【図4】液体量L/貯液箱の総容積Aが0.3である環状体の断面図である。
【図5】液体量L/貯液箱の総容積Aが0.53である環状体の断面図である。
【図6】液体量L/貯液箱の総容積Aが0.7である環状体の断面図である。
【図7】回転中における貯液箱内の液体状況及び液面傾斜を示す環状体の断面図である。
【図8】環状体内部の液体が受ける力を示す断面図である。
【図9】貯液箱を拡大して示す断面図である。
【図10】貯液箱を拡大して示す断面図である。
【図11】環状体の拡大断面図である。
【図12】蓋体の望ましい形状を示す断面図である。
【図13】従来のドラム式洗濯機の断面図である。
【符号の説明】
(10) ドラム式洗濯機
(20) ドラム
(80) 環状体
(82) 貯液箱
(84) 区画板
(86) 蓋体
(88) 開口
Claims (4)
- 洗濯物を収容し、回転中心が水平又は傾斜した状態で回転して、洗濯物を洗濯、脱水するドラムと、
該ドラムと同心且つ一体回転可能に形成され、内部に液体を封入した中空の密閉環状体と、
該密閉環状体の内部に、外周面側から内周側に向けて所定間隔で突設された複数の区画板と、各区画板の先端からドラムの回転方向と逆向きに延び、貯液箱の開口の一部を塞ぐ蓋体とを有する複数の貯液箱と、を具え、
各貯液箱は、環状体の内部の内周面側で連通したドラム式洗濯機であって、
蓋体を含む区画板の高さをa、流路の高さをdとしたときに、0 . 1≦d/ ( a+d ) ≦0 . 9であり、
蓋体は、区画板の先端から円弧状に湾曲して延びていることを特徴とするドラム式洗濯機。 - 蓋体を含む区画板の高さをa、蓋体のみの高さをfとしたときに、区画板の蓋体の根元までの高さ ( a−f ) は、0 . 45≦ ( a−f ) /a≦0 . 9である請求項1に記載のドラム式洗濯機。
- 区画板どうしの間隔をb、貯液箱の開口の周方向の幅をcとしたとき、0.1≦c/b≦0.9である請求項1又は請求項2に記載のドラム式洗濯機。
- 環状体内の貯液箱の総容積Aに対する液体量Lの比は、0.1≦L/A≦0.7である請求項1乃至請求項3の何れかに記載のドラム式洗濯機。
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