JP3973304B2 - 2−オキサゾリドン誘導体の製造方法 - Google Patents

2−オキサゾリドン誘導体の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エポキシ化合物とN−無置換もしくはN−一置換カルバミン酸エステル類とを反応させて2−オキサゾリドン誘導体を製造する効果的な方法に関する。これらの2−オキサゾリドン誘導体は、農医薬品の合成中間体や高分子材料等として極めて重要な化合物である。
【0002】
【従来の技術】
エポキシ化合物とN−無置換カルバミン酸エステル類とを反応させて2−オキサゾリドン誘導体を得ようとする際に、3級アミン、4級アンモニウム塩およびスズ化合物等がその反応を促進するということが特開平5−59022号(文献1)に開示されている。生成する2−オキサゾリドン誘導体の収率は比較的高いものの、これらの触媒活性は未だ充分ではない。またエポキシ化合物とN−一置換カルバミン酸エステル類とを反応される場合には、3級アミン及び4級アンモニウム塩がその反応を促進するということが、ヨシオ イワクラら;ジャーナルオブ オーガニック ケミストリー、29巻、頁379、1964年(文献2)に開示されている。該文献2には、エポキシ化合物、N−一置換カルバミン酸エステル類及び触媒として、それぞれフェニルグリシジルエーテル、N−フェニルカルバミン酸メチル及びトリエチルアミンを用い、これらを90℃で15分間反応させて2−オキサゾリドン誘導体であるN−フェニル−5−フェノキシメチル−2−オキサゾリドンが収率91%で得られるということが同文献頁382の右カラムの10〜23行の実験項に記載されている。一方、同文献の頁380の表1の脚注には90℃で1時間反応させてN−フェニル−5−フェノキシメチル−2−オキサゾリドンが定量的に得られるということが記載されており、いずれの反応時間が正しいか不明である。比較例1に示すように該実験項の記載どうりに90℃、15分で追試したところ、N−フェニル−5−フェノキシメチル−2−オキサゾリドンの収率は僅か51%でしかなく、また90℃、1時間で反応を行っても収率は64%程度でしかなかった。仮に、脚註通りに90℃、1時間の反応で収率が定量的であったとしても、その反応速度は、本発明の式(1)または式(2)の化合物を等モル量存在させて反応させた場合の反応速度の約1/4程度でしかない。また比較例2または3に示すように触媒としてトリエチルアミンを用いて、反応条件または反応基質を変えても目的の2−オキサゾリドン誘導体の収率は低く、その反応速度も低いものであった。このように、文献1または2に記載の公知触媒はその触媒活性が未だ充分ではない。その上、これらの触媒の量や濃度を高めたり、あるいは過酷な条件下で反応を実施し反応を充分に進行させようとしても、そのことによって副反応が起きたり、反応基質あるいは生成物等の分解が生じる場合があり、高活性な触媒が要求されていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、エポキシ化合物とN−無置換もしくはN−一置換カルバミン酸エステル類との反応で、高活性かつ高収率で2−オキサゾリドン誘導体を与える触媒を開発し、効果的な2−オキサゾリドン誘導体の製造方法を提供することである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討を続けてきたところ、式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物及び式(2)で表されるホスファゼニウム化合物が、エポキシ化合物とN−無置換もしくはN−一置換カルバミン酸エステル類との反応に極めて高い触媒活性を示し、高い収率で目的の2−オキサゾリドン誘導体が得られることを見い出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、式(1)〔化3〕
【0005】
【化3】
Figure 0003973304
(式中、Rは同種または異種の、炭素数1ないし10個の炭化水素基である。)で表されるホスフィンオキシド化合物または式(2)〔化4〕
【0006】
【化4】
Figure 0003973304
(式中、Rは式(1)中のRと同一である。Z-はハロゲンアニオン、ヒドロキシアニオン、アルコキシアニオン、アリールオキシアニオンまたはカルボキシアニオンである。)で表されるホスファゼニウム化合物の存在下に、エポキシ化合物とN−無置換もしくはN−一置換カルバミン酸エステル類とを反応させることを特徴とする2−オキサゾリドン誘導体の製造方法である。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の方法における式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物は、一つの極限構造式である。りん原子と酸素原子の間を二重結合で表現しているが、酸素原子上に電子が偏ってアニオンとなり、りん原子上にカチオンが生じた(P+−O-)形の極限構造式もとり得る。またりん原子上のカチオンは共役系を通して全体に非局在化している。本発明の方法における式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物は、これらすべてを含んだ共鳴混成体として理解されるべきである。
【0008】
式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物が水を含む場合に、その水と該ホスフィンオキシドとの相互作用は、該化合物の特性を失わず本発明の方法を阻害しない限り如何なるものでも構わない。
式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物中のRは、同種または異種の、炭素数1ないし10個の炭化水素基であり、具体的には、このRは、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、アリル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、2−ブテニル、1−ペンチル、2−ペンチル、3−ペンチル、2−メチル−1−ブチル、イソペンチル、tert−ペンチル、3−メチル−2−ブチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、4−メチル−2−ペンチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、1−ヘプチル、3−ヘプチル、1−オクチル、2−オクチル、2−エチル−1−ヘキシル、1,1−ジメチル−3,3−ジメチルブチル(通称、tert−オクチル)、ノニル、デシル、フェニル、4−トリル、ベンジル、1−フェニルエチルまたは2−フェニルエチル等の脂肪族または芳香族の炭化水素基から選ばれる。これらのうち、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、tert−ブチル、tert−ペンチルまたは1,1−ジメチル−3,3−ジメチルブチル等の炭素数1ないし8個の脂肪族炭化水素基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。
【0009】
式(1)で表されるこれらのホスフィンオキシド化合物は、ジー.エヌ.コイダン(G.N.Koidan)ら、 ジャーナル オブ ジェネラル ケミストリー オブ ザ ユーエスエスアール(USSR)、55巻、頁1453、1985年に記載の方法で合成することができる。
これらのホスフィンオキシド化合物は、単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
【0010】
また本発明の方法における式(2)で表されるホスファゼニウム化合物中のカチオンはその電荷が中心のりん原子上に局在する極限構造式で代表しているが、これ以外に無数の極限構造式が描かれ実際にはその正電荷は全体に非局在化している。
式(2)で表されるホスファゼニウム化合物中のRは、式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物のRと同一である。
式(2)で表されるホスファゼニウム化合物中のZ-は、ハロゲンアニオン、ヒドロキシアニオン、アルコキシアニオン、アリールオキシアニオンまたはカルボキシアニオンである。
【0011】
これらのZ-を具体的に例示すれば、例えばフッ素アニオン、塩素アニオン、臭素アニオンまたはヨウ素アニオン等のハロゲンアニオンが挙げられ、ヒドロキシアニオンが挙げられ、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アリルアルコール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、シクロヘキサノール、2−ヘプタノール、1−オクタノール、1−デカノールまたはオクタヒドロナフトール等のアルコール類から導かれるアルコキシアニオンが挙げられ、例えばフェノール、クレゾール、キシレノール、ナフトール、2−メチル−1−ナフトールまたは9−フェナンスロール等の芳香族ヒドロキシ化合物から導かれるアリールオキシアニオンが挙げられ、例えば蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、デカンカルボン酸またはオレイン酸等のカルボン酸から導かれるカルボキシアニオンが挙げられる。
【0012】
これらのうち好ましくは、ヒドロキシアニオンであり、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アリルアルコール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、シクロヘキサノール、2−ヘプタノール、1−オクタノール、1−デカノールまたはオクタヒドロナフトール等のアルコール類から導かれるアルコキシアニオンであり、例えばフェノール、クレゾール、キシレノール、ナフトール、2−メチル−1−ナフトールまたは9−フェナンスロール等の芳香族ヒドロキシ化合物から導かれるアリールオキシアニオンである。
【0013】
これらのうちより好ましくは、ヒドロキシアニオン、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノールまたはtert−ブタノールなどの炭素数1ないし4個の飽和のアルキルアルコールから導かれるアルコキシアニオン、例えばフェノールまたはクレゾールなどの炭素数6ないし8の芳香族ヒドロキシ化合物から導かれるアリールオキシアニオンである。更に好ましくは、ヒドロキシアニオン、メトキシアニオンまたはフェノキシアニオンである。
【0014】
またこれらのホスファゼニウム化合物は、EP0791600の12頁から13頁に記載の方法または類似の方法で合成することができる。
これらのホスファゼニウム化合物は、単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
更に、式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物と式(2)で表されるホスファゼニウム化合物を混合して用いてもよい。
【0015】
本発明の方法は、上述の式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物または式(2)で表されるホスファゼニウム化合物の存在下に、エポキシ化合物とN−無置換もしくはN−一置換カルバミン酸エステル類とを反応させて、2−オキサゾリドン誘導体を製造することである。
そのようなエポキシ化合物とは3員環のエポキシ基を有する有機化合物であり、炭素原子、水素原子およびエポキシ基の酸素原子のみから成るエポキシ化合物、ハロゲン原子を有するエポキシ化合物、ケト基を有するエポキシ化合物、エーテル結合を有するエポキシ化合物、エステル結合を有するエポキシ化合物、三置換アミノ基を有するエポキシ化合物またはシアノ基を有するエポキシ化合物等である。
【0016】
これらを具体的に例示すれば、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシオクタデカン、7,8−エポキシ−2−メチルオクタデカン、2−ビニルオキシラン、2−メチル−2−ビニルオキシラン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−7−オクテン、1−フェニル−2,3−エポキシプロパン、1−(1−ナフチル)−2,3−エポキシプロパン、1−シクロヘキシル−3,4−エポキシブタン、1,3−ブタジエンジオキシドまたは1,2,7,8−ジエポキシオクタン等の炭素原子、水素原子およびエポキシ基の酸素原子のみから成る脂肪族エポキシ化合物が挙げられ、例えばシクロペンテンオキシド、3−メチル−1,2−シクロペンテンオキシド、シクロヘキセンオキシド、シクロオクテンオキシド、α−ピネンオキシド、2,3−エポキシノルボルナン、リモネンオキシド、シクロドデカンエポキシドまたは2,3,5,6−ジエポキシノルボルナン等の炭素原子、水素原子およびエポキシ基の酸素原子のみから成る脂環式エポキシ化合物が挙げられ、例えばスチレンオキシド、3−メチルスチレンオキシド、1,2−エポキシブチルベンゼン、1,2−エポキシオクチルベンゼン、スチルベンオキシド、3−ビニルスチレンオキシド、1−(1−メチル−1,2−エポキシエチル)−3−(1−メチルビニル)ベンゼン、1,4−ジ(1,2−エポキシプロピル)ベンゼン、1,3−ジ(1,2−エポキシ−1メチルエチル)ベンゼンまたは1,4−ジ(1,2−エポキシ−1メチルエチル)ベンゼン等の炭素原子、水素原子およびエポキシ基の酸素原子のみから成る芳香族エポキシ化合物が挙げられ、例えばエピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、ヘキサフルオロプロピレンオキシド、1,2−エポキシ−4−フルオロブタン、1−(2,3−エポキシプロピル)−4−フルオロベンゼン、1−(3,4−エポキシブチル)−2−フルオロベンゼン、1−(2,3−エポキシプロピル)−4−クロロベンゼンまたは1−(3,4−エポキシブチル)−3−クロロベンゼン等のハロゲン原子を有する脂肪族エポキシ化合物が挙げられ、例えば4−フルオロ−1,2−シクロヘキセンオキシドまたは6−クロロ−2,3−エポキシビシクロ[2.2.1]ヘプタン等のハロゲン原子を有する脂環式エポキシ化合物が挙げられ、例えば4−フルオロスチレンオキシドまたは1−(1,2−エポキシプロピル)−3−トリフルオロベンゼン等のハロゲン原子を有する芳香族エポキシ化合物が挙げられ、例えば3−アセチル−1,2−エポキシプロパン、4−ベンゾイル−1,2ーエポキシブタン、4−(4−ベンゾイル)フェニル−1,2−エポキシブタンまたは4,4’−ジ(3,4−エポキシブチル)ベンゾフェノン等のケト基を有する脂肪族エポキシ化合物が挙げられ、例えば3,4−エポキシ−1−シクロヘキサノンまたは2,3−エポキシ−5−オキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン等のケト基を有する脂環式エポキシ化合物が挙げられ、例えば3−アセチルスチレンオキシドまたは4−(1,2−エポキシプロピル)ベンゾフェノン等のケト基を有する芳香族エポキシ化合物が挙げられ、例えばグリシジルメチルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、エチル3,4−エポキシブチルエーテル、グリシジルフェニルエーテル、グリシジル4−tert−ブチルフェニルエーテル、グリシジル4−クロロフェニルエーテル、グリシジル4−メトキシフェニルエーテル、グリシジル2−フェニルフェニルエーテル、グリシジル1−ナフチルエーテル、グリシジル4−インドリルエーテル、グリシジルN−メチル−α−キノロン−4−イルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,2−ジグリシジルオキシベンゼン、2,2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)プロパン、トリス(4−グリシジルオキシフェニル)メタン、ポリ(オキシプロピレン)トリオールトリグリシジルエーテルまたはフェノールノボラックのグリシジルエーテル等のエーテル結合を有する脂肪族エポキシ化合物が挙げられ、例えば1,2−エポキシ−4−メトキシシクロヘキサンまたは2,3−エポキシ−5,6−ジメトキシビシクロ[2.2.1]ヘプタン等のエーテル結合を有する脂環式エポキシ化合物が挙げられ、例えば4−メトキシスチレンオキシドまたは1−(1,2−エポキシブチル)2−フェノキシベンゼン等のエーテル結合を有する芳香族エポキシ化合物が挙げられ、例えば蟻酸グリシジル、酢酸グリシジル、酢酸2,3−エポキシブチル、酪酸グリシジル、安息香酸グリシジル、テレフタル酸ジグリシジル、ポリ(アクリル酸グリシジル)、ポリ(メタクリル酸グリシジル)、アクリル酸グリシジルと他のモノマー類の共重合体またはメタクリル酸グリシジルと他のモノマー類の共重合体等のエステル結合を有する脂肪族エポキシ化合物が挙げられ、例えば1,2−エポキシ−4−メトキシカルボニルシクロヘキサンまたは2,3−エポキシ−5−ブトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプタン等のエステル結合を有する脂環式エポキシ化合物が挙げられ、例えば4−(1,2−エポキシエチル)安息香酸エチル、3−(1,2−エポキシブチル)安息香酸メチルまたは3−(1,2−エポキシブチル)−5−フェニル安息香酸メチル等のエステル結合を有する芳香族エポキシ化合物が挙げられ、例えばN,N−グリシジルメチルアセトアミド、N,N−エチルグリシジルプロピオンアミド、N,N−グリシジルメチルベンズアミド、N−(4,5−エポキシペンチル)−N−メチルベンズアミド、N,N−ジグリシジルアニリン、ビス(4−ジグリシジルアミノフェニル)メタンまたはポリ(N,N−グリシジルメチルアクリルアミド)等の三置換アミノ基を有する脂肪族エポキシ化合物が挙げられ、例えば1,2−エポキシ−3−(ジフェニルカルバモイル)シクロヘキサンまたは2,3−エポキシ−6−(ジメチルカルバモイル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン等の三置換アミノ基を有する脂環式エポキシ化合物が挙げられ、例えば2−(ジメチルカルバモイル)スチレンオキシドまたは4−(1,2−エポキシブチル)−4’−(ジメチルカルバモイル)ビフェニル等の三置換アミノ基を有する芳香族エポキシ化合物が挙げられ、例えば4−シアノ−1,2−エポキシブタンまたは1−(3−シアノフェニル)−2,3−エポキシブタン等のシアノ基を有する脂肪族エポキシ化合物が挙げられ、例えば2−シアノスチレンオキシドまたは6−シアノ−1−(1,2−エポキシ−2−フェニルエチル)ナフタレン等のシアノ基を有する芳香族エポキシ化合物等が挙げらる。更には、本発明の方法を阻害しない限りこれらが上記以外の如何なる結合や置換基またはヘテロ原子を有していてもよい。
【0017】
これらのうち好ましくは、上述の炭素原子、水素原子およびエポキシ基の酸素原子のみから成る脂肪族または芳香族エポキシ化合物であり、上述のエーテル結合を有する脂肪族または芳香族エポキシ化合物であり、上述のエステル結合を有する脂肪族または芳香族エポキシ化合物である。
【0018】
より好ましくは、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシオクタデカン、7,8−エポキシ−2−メチルオクタデカン、2−ビニルオキシラン、2−メチル−2−ビニルオキシラン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−7−オクテン、1−フェニル−2,3−エポキシプロパン、1−(1−ナフチル)−2,3−エポキシプロパン、1−シクロヘキシル−3,4−エポキシブタン、1,3−ブタジエンジオキシドまたは1,2,7,8−ジエポキシオクタン等の炭素原子、水素原子およびエポキシ基の酸素原子のみから成る脂肪族エポキシ化合物であり、例えばグリシジルメチルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、エチル3,4−エポキシブチルエーテル、グリシジルフェニルエーテル、グリシジル4−tert−ブチルフェニルエーテル、グリシジル4−クロロフェニルエーテル、グリシジル4−メトキシフェニルエーテル、グリシジル2−フェニルフェニルエーテル、グリシジル1−ナフチルエーテル、グリシジル4−インドリルエーテル、グリシジルN−メチル−α−キノロン−4−イルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,2−ジグリシジルオキシベンゼン、2,2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)プロパン、トリス(4−グリシジルオキシフェニル)メタン、ポリ(オキシプロピレン)トリオールトリグリシジルエーテルまたはフェノールノボラックのグリシジルエーテル等のエーテル結合を有する脂肪族エポキシ化合物であり、例えば蟻酸グリシジル、酢酸グリシジル、酢酸2,3−エポキシブチル、酪酸グリシジル、安息香酸グリシジル、テレフタル酸ジグリシジル、ポリ(アクリル酸グリシジル)、ポリ(メタクリル酸グリシジル)、アクリル酸グリシジルと他のモノマー類の共重合体またはメタクリル酸グリシジルと他のモノマー類の共重合体等のエステル結合を有する脂肪族エポキシ化合物である。
【0019】
本発明の方法におけるN−無置換もしくはN−一置換カルバミン酸エステル類とは、N−無置換もしくはN−一置換カルバミン酸と炭素数1ないし10個の有機ヒドロキシ化合物とから形成される形のエステルである。
これらの有機ヒドロキシ化合物を具体的に例示すれば、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アリルアルコール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、1−ヘキサノール、2−ヘプタノール、1−オクタノール、1−デカノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、シクロプロパノール、シクロブタノール、シクロヘキサノール、オクタヒドロナフトール、1,4−シクロヘキサンジオール、フェノール、クレゾール、キシレノール、ナフトール、レゾルシンまたはジヒドロキシナフタレン等の炭素数1ないし10個の有機ヒドロキシ化合物挙げられる。
【0020】
更には本発明の方法を阻害しない限り如何なる置換基や結合またはヘテロ原子を有する炭素数1ないし10個の有機ヒドロキシ化合物でもよい。
これらのうち好ましくは、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アリルアルコール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、1−ヘキサノール、シクロプロパノール、シクロブタノール、シクロヘキサノールまたはフェノール等の1個の水酸基を有する炭素数1ないし6個の有機ヒドロキシ化合物である。
より好ましくは、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アリルアルコール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、シクロプロパノールまたはシクロブタノール等の1個の水酸基を有する炭素数1ないし4個のアルコール類である。
【0021】
本発明の方法におけるN−無置換カルバミン酸エステル類としては、N−無置換カルバミン酸と上述の炭素数1ないし10個の有機ヒドロキシ化合物とから形成される形であるN−無置換カルバミン酸エステル類が挙げられる。
【0022】
これらのうち好ましいものを具体的に例示すれば、例えばカルバミン酸メチル、カルバミン酸エチル、カルバミン酸n−プロピル、カルバミン酸イソプロピル、カルバミン酸アリル、カルバミン酸n−ブチル、カルバミン酸sec−ブチル、カルバミン酸tert−ブチル、カルバミン酸1−ヘキシル、カルバミン酸シクロプロピル、カルバミン酸シクロブチル、カルバミン酸シクロヘキシルまたはカルバミン酸フェニル等のN−無置換カルバミン酸と1個の水酸基を有する炭素数1ないし6個の有機ヒドロキシ化合物とから形成される形であるN−無置換カルバミン酸エステル類である。
【0023】
より好ましくは、例えばカルバミン酸メチル、カルバミン酸エチル、カルバミン酸n−プロピル、カルバミン酸イソプロピル、カルバミン酸アリル、カルバミン酸n−ブチル、カルバミン酸sec−ブチル、カルバミン酸tert−ブチル、カルバミン酸シクロプロピルまたはカルバミン酸シクロブチル等のN−無置換カルバミン酸と1個の水酸基を有する炭素数1ないし4個のアルコール類とから形成される形であるN−無置換カルバミン酸エステル類である。
【0024】
本発明の方法におけるN−一置換カルバミン酸エステル類としては、そのN−一置換基が脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基または含ヘテロ芳香族炭化水素基であるN−一置換カルバミン酸類と上述の炭素数1ないし10個の有機ヒドロキシ化合物とから形成される形であるN−一置換カルバミン酸エステル類等が挙げられる。
【0025】
更には、本発明の方法を阻害しない限りこれらが如何なる結合や置換基またはヘテロ原子を有していてもよい。
これらのうち好ましくは、例えばN−メチルカルバミン酸メチル、N−エチルカルバミン酸エチル、N−プロピルカルバミン酸プロピル、N−ブチルカルバミン酸イソプロピル、N−ヘキシルカルバミン酸アリル、N−オクチルカルバミン酸ブチル、N−エチルカルバミン酸ヘキシル、N−プロピルカルバミン酸シクロプロピル、N−ブチルカルバミン酸シクロブチル、N−ヘキシルカルバミン酸シクロヘキシル、N−アリルカルバミン酸フェニル、N,N’−エチレンビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−トリメチレンビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−テトラメチレンビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−ヘキサメチレンビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−オクタメチレンビスカルバミン酸ジメチル、N,N’,N”−1,2,3−プロパントリイルトリスカルバミン酸トリメチル、N,N’−m−キシリレンビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−1,3−ジイソプロピルベンゼン−1’(1),1”(3)−ジイルビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−1,4−ジイソプロピルベンゼン−1’(1),1”(4)−ジイルビスカルバミン酸ジメチルまたはN,N’−3−オキシ−1,5−ペンタンジイルビスカルバミン酸ジメチル等のN−一置換基が炭素数1ないし12個の脂肪族炭化水素基であるN−一置換カルバミン酸と1個の水酸基を有する炭素数1ないし6個の有機ヒドロキシ化合物とから形成される形であるN−脂肪族置換カルバミン酸エステル類であり、例えばN−シクロプロピルカルバミン酸メチル、N−シクロブチルカルバミン酸エチル、N−シクロヘキシルカルバミン酸プロピル、N−シクロヘプチルカルバミン酸アリル、N−シクロオクチルカルバミン酸ブチル、N−4−メチルシクロプロピルカルバミン酸ヘキシル、N−シクロヘキシルカルバミン酸シクロヘキシル、N−シクロヘキシルカルバミン酸フェニル、N,N’−1,2−シクロヘキサンジイルビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−1,3−ジメチルシクロヘキサン−1’(1),1”(3)−ジイルビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−3,5−ジメチルノルボルナン−1’(3),1”(5)−ジイルビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−1−イソプロピル−4−メチルシクロヘキサン−1’(1),4−ジイルビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−1,1,3,3−テトラメチルシクロヘキサン−1’(1),5−ジイルビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイルビスカルバミン酸ジメチルまたはN,N’−3,3’−ジメチルビスシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイルビスカルバミン酸ジメチル等のN−一置換基が炭素数3ないし15個の脂環族炭化水素基であるN−一置換カルバミン酸と1個の水酸基を有する炭素数1ないし6個の有機ヒドロキシ化合物とから形成される形であるN−脂環族置換カルバミン酸エステル類であり、例えばN−フェニルカルバミン酸メチル、N−トリルカルバミン酸エチル、N−ナフチルカルバミン酸イソプロピル、N−4−クロロフェニルカルバミン酸ヘキシル、N−トリルカルバミン酸シクロヘキシル、N−ナフチルカルバミン酸フェニル、N,N’−m−フェニレンビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−p−フェニレンビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−トリレンビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−ジフェニルメタン−4,4’−ジイルビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−3,3’−ジエチルビスフェニルメタン−4,4’−ジイルビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−ジフェニルスルフォン−4,4’−ジイルビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−2,6−ナフタレンジイルビスカルバミン酸ジメチル、N,N’,N”−1,3,5−ベンゼントリイルトリスカルバミン酸トリメチル、N,N’−1,3−ジ(4−メチルフェニル)ウレチジンジオン−3’,3”−ジイルビスカルバミン酸ジメチルまたはN,N’,N”−1,3,5−トリ(4−メチルフェニル)イソシアヌレート−3’,3”,3”’−トリイルトリスカルバミン酸トリメチル等のN−一置換基が炭素数6ないし24個の芳香族炭化水素基であるN−一置換カルバミン酸と1個の水酸基を有する炭素数1ないし6個の有機ヒドロキシ化合物とから形成される形であるN−芳香族置換カルバミン酸エステル類であり、例えばN−3−フリルカルバミン酸メチル、N−4−ピリジルカルバミン酸エチル、N−4−メチル−3−フリルカルバミン酸ブチル、N−2−メトキシ−4−ピリジルカルバミン酸シクロヘキシル、N−2−ブチル−4−ピリジルカルバミン酸フェニルまたはN,N’,N”−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリイルトリスカルバミン酸トリメチル等のN−一置換基が炭素数3ないし9個の含ヘテロ芳香族炭化水素基であるN−一置換カルバミン酸と1個の水酸基を有する炭素数1ないし6個の有機ヒドロキシ化合物とから形成される形であるN−含ヘテロ芳香族置換カルバミン酸エステル類である。
【0026】
より好ましくは、例えばN−シクロプロピルカルバミン酸メチル、N−シクロブチルカルバミン酸エチル、N−シクロヘキシルカルバミン酸プロピル、N−シクロヘプチルカルバミン酸アリル、N−シクロオクチルカルバミン酸ブチル、N,N’−1,2−シクロヘキサンジイルビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−1,3−ジメチルシクロヘキサン−1’(1),1”(3)−ジイルビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−3,5−ジメチルノルボルナン−1’(3),1”(5)−ジイルビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−1−イソプロピル−4−メチルシクロヘキサン−1’(1),4−ジイルビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−1,1,3,3−テトラメチルシクロヘキサン−1’(1),5−ジイルビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイルビスカルバミン酸ジメチルまたはN,N’−3,3’−ジメチルビスシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイルビスカルバミン酸ジメチル等のN−一置換基が炭素数3ないし15個の脂環族炭化水素基であるN−一置換カルバミン酸と1個の水酸基を有する炭素数1ないし4個のアルコール類とから形成される形であるN−脂環族置換カルバミン酸エステル類であり、例えばN−フェニルカルバミン酸メチル、N−トリルカルバミン酸エチル、N−ナフチルカルバミン酸イソプロピル、N,N’−m−フェニレンビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−p−フェニレンビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−トリレンビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−ジフェニルメタン−4,4’−ジイルビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−3,3’−ジエチルビスフェニルメタン−4,4’−ジイルビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−ジフェニルスルフォン−4,4’−ジイルビスカルバミン酸ジメチル、N,N’−2,6−ナフタレンジイルビスカルバミン酸ジメチル、N,N’,N”−1,3,5−ベンゼントリイルトリスカルバミン酸トリメチル、N,N’−1,3−ジ(4−メチルフェニル)ウレチジンジオン−3’,3”−ジイルビスカルバミン酸ジメチルまたはN,N’,N”−1,3,5−トリ(4−メチルフェニル)イソシアヌレート−3’,3”,3”’−トリイルトリスカルバミン酸トリメチル等のN−一置換基が炭素数6ないし24個の芳香族炭化水素基であるN−一置換カルバミン酸と1個の水酸基を有する炭素数1ないし4個のアルコール類とから形成される形であるN−芳香族置換カルバミン酸エステル類である。
【0027】
本発明の方法における反応に際しては、式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物または式(2)で表されるホスファゼニウム化合物、エポキシ化合物およびN−無置換もしくはN−一置換カルバミン酸エステル類とを有効に接触させる方法であれば如何なる方法でもよい。反応は連続式、回分式または半回分式のいずれの方法でも構わない。通常、式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物または式(2)で表されるホスファゼニウム化合物、エポキシ化合物およびN−無置換もしくはN−一置換カルバミン酸エステル類とを一括して接触させる方法、式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物または式(2)で表されるホスファゼニウム化合物とN−無置換もしくはN−一置換カルバミン酸エステル類を含む混合物にエポキシ化合物を加える方法、エポキシ化合物とN−無置換もしくはN−一置換カルバミン酸エステル類を含む混合物に式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物または式(2)で表されるホスファゼニウム化合物を加える方法、更には式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物または式(2)で表されるホスファゼニウム化合物とエポキシ化合物を含む混合物にN−無置換もしくはN−一置換カルバミン酸エステル類を加える方法がとり得る。加える方法は一括でも、間欠的または連続的であっても構わない。
【0028】
N−無置換もしくはN−一置換カルバミン酸エステル類の使用量は、目的に応じて変わるが、通常これらの化合物中のカルバモイル基がエポキシ化合物中のエポキシ基1モルに対して、0.5ないし1.5モルとなる範囲であり、好ましくは0.7ないし1.3モルとなる範囲である。
式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物または式(2)で表されるホスファゼニウム化合物の使用量は特に制限はないが、エポキシ化合物中のエポキシ基1モルに対して、通常0.2モル以下であり、好ましくは1×10-5ないし0.1モルであり、より好ましくは1×10-4ないし5×10-2モルである。
【0029】
反応温度は、使用する原料および式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物または式(2)で表されるホスファゼニウム化合物の種類により一様ではないが、通常、250℃以下であり、好ましくは30ないし200℃である。反応時の圧力は、いずれの場合も用いる原料の種類により一様ではないが、通常3.0MPa(絶対圧、以下同様)以下であり、好ましくは0.01ないし1.5MPa、より好ましくは0.1ないし1.0MPaの範囲である。反応時間は、通常、48時間以内であり、好ましくは0.1分ないし24時間であり、より好ましくは0.6分ないし10時間である。反応は、必要であれば窒素またはアルゴン等の不活性ガスの存在下に実施することもできる。
【0030】
本発明の方法においては必要であれば溶媒を用いることもできる。その際用いる溶媒としては、例えばn−ペンタン、n−ヘキサンまたはシクロヘキサン等の脂肪族または脂環式炭化水素類であり、例えばジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、o−ジメトキシベンゼン、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテルまたはo−ジエトキシベンゼン等のエーテル類であり、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、メシチレン、テトラリン、ブチルベンゼン、p−シメン、ジエチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、トリエチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、ジペンチルベンゼンまたはドデシルベンゼン等の芳香族炭化水素類であり、例えばクロルベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、ブロモベンゼン、o−ジブロモベンゼン、ブロモクロロベンゼン、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、p−クロロエチルベンゼンまたは1−クロロナフタレン等のハロゲン化芳香族炭化水素類であり、例えばジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミドまたはN,N’−ジメチルイミダゾリジノン等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。その他、本発明の方法の目的を阻害しなければ如何なる溶媒でも構わない。これらの溶媒は単独で用いても、複数個を併用しても構わない。
【0031】
この反応液から目的の2−オキサゾリドン誘導体を単離する方法は、使用した原料の種類、目的の2−オキサゾリドン誘導体の種類または用いた場合の溶媒の種類や量などにより一様でないが、通常、反応液から、または溶媒を使用した場合にはその溶媒を留去した液から、蒸留、再結晶またはカラムクロマトグラフィー等の分離法により目的の2−オキサゾリドン誘導体を得ることができる。
【0032】
このようにして式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物または式(2)で表されるホスファゼニウム化合物の存在下に、エポキシ化合物とN−無置換もしくはN−一置換カルバミン酸エステル類とを反応させて、2−オキサゾリドン誘導体を高い触媒活性と高い収率で製造することができる。
【0033】
【実施例】
次に実施例により本発明を更に詳しく説明するが、これらは限定的でなく単に説明のためと解されるべきである。
【0034】
実施例1
還流冷却器を装備した100mlのフラスコにフェニルグリシジルエーテル(東京化成社品の蒸留品:沸点125.0ないし126.0℃(15mmHg)の留分、以下同様)15.0g(100mmol)、N−フェニルカルバミン酸メチル(東京化成社品の再結晶品:融点47.0ないし47.5℃、以下同様)15.1g(100mmol)およびトリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフィンオキシド:[(Me2N)3P=N]3P=O(Meはメチル基を表す。以下同様)0.579g(1.00mmol)を精秤した。これら仕込みモル量は前述の文献2の実験項に示されるものと全く同じであり、触媒の種類のみが異なっている。これを加熱し、内温を90℃に保ちながら15分間攪拌した。その後、このフラスコを急冷し、約1分後に室温に戻した。この反応混合物の一部を採取して1,3,5−トリクロロベンゼンを内部標準とし、ガスクロマトグラフィーで定量分析を行ったところ、原料のフェニルグリシジルエーテルは88%消費されていた。またビフェニルを内部標準とし、液体クロマトグラフィーで定量分析を行ったところ、目的とするN−フェニル−5−フェノキシメチル−2−オキサゾリドンのフェニルグリシジルエーテルを基準とした生成収率は85%であった。反応速度を表す指標となる該ホスフィンオキシドの触媒活性(単位時間あたりの触媒の作用回数、TON/hで表す。以下同様)は340TON/hであった。この反応混合物を直接カラムクロマトグラフィーに供し、N−フェニル−5−フェノキシメチル−2−オキサゾリドンを21.5g得た。このものの元素分析、1H−NMRおよび赤外吸収スペクトル等の分析データは標品のものと同一であった。
【0035】
比較例1
実施例1で使用したトリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフィンオキシドの代わりに等モル(1.00mmol)のトリエチルアミン(東京化成社品の蒸留品:沸点89.0ないし89.5℃(常圧)の留分、以下同様)を用いた以外は実施例1と全く同様に行った。即ち文献2の実験項に記載された実験の追試である。原料のフェニルグリシジルエーテルの消費率は61%であり、目的とするN−フェニル−5−フェノキシメチル−2−オキサゾリドンのフェニルグリシジルエーテルを基準とした生成収率は僅か51%であった。触媒活性は200TON/hであった。これは該ホスフィンオキシドの触媒活性の約1/2である。
【0036】
また上記の反応時間を1時間に変えた。即ち文献2の表1の脚註の反応時間で行ったところ、原料のフェニルグリシジルエーテルの消費率は72%であり、目的とするN−フェニル−5−フェノキシメチル−2−オキサゾリドンの生成収率は僅か64%であった。触媒活性は僅か65TON/hであった。これは該ホスフィンオキシドの触媒活性の約1/6である。いずれの反応においても文献記載の収率を再現することはできなかった。
【0037】
実施例2
実施例1で使用した100mlのフラスコを200mlのフラスコに変え、ジグリム50.0gを反応溶媒として新たに使用し、反応温度および反応時間をそれぞれ100℃および5時間に変えた以外は実施例1と全く同様に行った。フェニルグリシジルエーテルの消費率は98%であり、目的のN−フェニル−5−フェノキシメチル−2−オキサゾリドンの生成収率は95%であった。触媒活性は19TON/hであった。
【0038】
比較例2
実施例2で使用したトリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフィンオキシドの代わりに等モルのトリエチルアミンを用いた以外は実施例2と全く同様に行った。フェニルグリシジルエーテルの消費率は18%であり、目的のN−フェニル−5−フェノキシメチル−2−オキサゾリドンの生成収率は11%であった。触媒活性は2.2TON/hであった。これは実施例2に示した該ホスフィンオキシドの触媒活性の約1/9である。
【0039】
実施例3
実施例1で使用したN−フェニルカルバミン酸メチルの代わりに等モルのN−(4−クロロフェニル)カルバミン酸メチルを用いた以外は実施例1と全く同様に行った。フェニルグリシジルエーテルの消費率93%であり、目的のN−(4−クロロフェニル)−5−フェノキシメチル−2−オキサゾリドンの生成収率は89%であった。触媒活性は360TON/hであった。
【0040】
比較例3
実施例3で使用したトリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフィンオキシドの代わりに等モルのトリエチルアミンを用いた以外は実施例3と全く同様に行った。フェニルグリシジルエーテルの消費率は66%であり、目的のN−(4−クロロフェニル)−5−フェノキシメチル−2−オキサゾリドンの生成収率は僅か53%であった。触媒活性は僅か210TON/hであった。これは実施例3に示した該ホスフィンオキシドの触媒活性の約1/2である。
【0041】
実施例4
実施例1で使用したトリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフィンオキシドの代わりに等モルの式(2)で表される水酸化テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフォニウム:[(Me2N)3P=N]4+,OH-を用いた以外は実施例1と全く同様に行った。原料のフェニルグリシジルエーテルの消費率は99%であり、目的とするN−フェニル−5−フェノキシメチル−2−オキサゾリドンのフェニルグリシジルエーテルを基準とした生成収率は極めて高く95%であった。触媒活性は380TON/hであり、トリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフィンオキシドの触媒活性とほぼ同等であった。式(2)で表される該ホスファゼニウムの場合においても、トリエチルアミンの触媒活性は該ホスファゼニウム化合物の触媒活性に比べ約1/2または約1/6程度でしかなかった。
【0042】
実施例5
還流冷却器を装備した100mlのフラスコにエポキシ化合物であるフェニルグリシジルエーテル15.0g(100mmol)、N−無置換カルバミン酸エステル類であるカルバミン酸メチル7.51g(100mmol)および式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物であるトリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフィンオキシド0.579g (1.00mmol)を精秤した。これを加熱し、内温を150℃に保ちながら1時間攪拌した。その後、約10分かけて室温に戻した。この反応液の一部を採取して1,3,5−トリクロロベンゼンを内部標準とし、ガスクロマトグラフィーで定量分析を行ったところ、原料のフェニルグリシジルエーテルはほぼ完全に消費されていた。またビフェニルを内部標準とし、液体クロマトグラフィーで定量分析を行ったところ、目的とする5−フェノキシメチル−2−オキサゾリドンのフェニルグリシジルエーテルを基準とした生成収率は94%であった。反応はほとんど定量的に進行していた。この反応液を直接カラムクロマトグラフィーに供し、5−フェノキシメチル−2−オキサゾリドンを17.1g得た。このものの各種の分析データは標品のものと同一であった。トリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフィンオキシドの触媒活性は、94TON/hであった。N−一置換カルバミン酸エステル類のみならずN−無置換カルバミン酸エステル類においても該ホスフィンオキシドの触媒活性は、比較4、5または6に例示したトリエチルアミン、塩化テトラブチルアンモニウムまたはスズ等の触媒活性に対して、それぞれ約4倍、3倍または3倍高いものであった。
【0043】
実施例6
実施例5で使用したトリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフィンオキシドの代わりに等モルの式(2)で表されるホスファゼニウム化合物である水酸化テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフォニウムを用いた以外は実施例5と全く同様に行った。目的の5−フェノキシメチル−2−オキサゾリドンの生成収率は極めて高く98%であった。触媒活性は98TON/hであり、実施例5で使用したトリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフィンオキシドの触媒活性とほぼ同等であった。
【0044】
比較例4
実施例5で使用したトリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフィンオキシドの代わりに等モルのトリエチルアミンを用いた以外は実施例5と全く同様に行った。目的の5−フェノキシメチル−2−オキサゾリドンの生成収率は僅か25%であった。触媒活性は僅か25TON/hであった。
【0045】
比較例5
実施例5で使用したトリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフィンオキシドの代わりに等モルの塩化テトラブチルアンモニウムを用いた以外は実施例5と全く同様に行った。目的の5−フェノキシメチル−2−オキサゾリドンの生成収率は僅か37%であった。触媒活性は僅か37TON/hであった。
【0046】
比較例6
実施例5で使用したトリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフィンオキシドの代わりに等モルのジラウリン酸ジ−n−ブチルスズとN,N−ジメチルベンジルアミンを用いた以外は実施例5と全く同様に行った。目的の5−フェノキシメチル−2−オキサゾリドンの生成収率は僅か32%であった。触媒活性は僅か32TON/hであった。
【0047】
実施例7
実施例5で使用したフェニルグリシジルエーテルの代わりに等モルのスチレンオキシドを用い、カルバミン酸メチルの代わりに等モルのカルバミン酸n−ヘキシルを用い、トリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフィンオキシドの代わりに等モルのビス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ][トリス(n−オクチルメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフィンオキシド:[(Me2N)3P=N]2[(n−Oct(Me)N)3P=N]P=O(n−Octはn−オクチル基を表す。以下同様)を用いた以外は実施例5と全く同様に行った。目的の5−フェニル−2−オキサゾリドンの生成収率は87%であった。
【0048】
実施例8
実施例5で使用したフェニルグリシジルエーテルの代わりに等モルの酢酸グリシジルを用い、カルバミン酸メチルの代わりに等モルのN−メチルカルバミン酸エチルを用い、トリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフィンオキシドの代わりに等モルのテトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフォニウムメトキシド:[(Me2N)3P=N]4+-OMeを用いた以外は実施例5と全く同様に行った。目的のN−メチル−5−アセトキシメチル−2−オキサゾリドンの生成収率は82%であった。
【0049】
実施例9
実施例5で使用したフェニルグリシジルエーテルの代わりに等モルの4−フェノキシスチレンオキシドを用い、カルバミン酸メチルの代わりに等モルのN−(4−メトキシブチル)カルバミン酸シクロヘキシルを用い、トリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフィンオキシドの代わりに等モルのテトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフォニウムt−ブトキシド:[(Me2N)3P=N]4+-O-t-C49を用いた以外は実施例5と全く同様に行った。目的のN−(4−メトキシブチル)−5−(4−フェノキシフェニル)−2−オキサゾリドンの生成収率は89%であった。
【0050】
実施例10
実施例5で使用したフェニルグリシジルエーテルの代わりに等モルの4−メトキシカルボニルスチレンオキシドを用い、カルバミン酸メチルの代わりに等モルのN−シクロヘキシルカルバミン酸フェニルを用い、トリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフィンオキシドの代わりに等モルのテトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフォニウムフェノキシド:[(Me2N)3P=N]4+-OC65を用いた以外は実施例5と全く同様に行った。目的のN−シクロヘキシル−5−(4−メトキシカルボニルフェニル)−2−オキサゾリドンの生成収率は78%であった。
【0051】
実施例11
実施例1で使用したフェニルグリシジルエーテルの代わりに等モルの2,2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)プロパンを用い、N−フェニルカルバミン酸メチルの代わりに2倍モルのN−(4−クロロフェニル)カルバミン酸プロピルを用い、反応時間を1時間に変えた以外は実施例1と全く同様に行った。目的の2,2−ビス{4−[N−(4−クロロフェニル)−2−オキサゾリドン−5−イルメチル]フェニル}プロパンの生成収率は98%であった。
【0052】
実施例12
実施例1で使用したN−フェニルカルバミン酸メチルの代わりに等モルのN−4−ピリジルカルバミン酸プロピルを用い、反応時間を1時間に変えた以外は実施例1と全く同様に行った。目的のN−(4−ピリジル)−5−フェノキシメチル−2−オキサゾリドンの生成収率は98%であった。
【0053】
実施例13
トリメチレンビスカルバミン酸ジメチル41.8g(220mmol)と0.855g(1.00mmol)の水酸化トリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ][トリス(n−オクチルメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフォニウム:[(Me2N)3P=N]3[(n−Oct(Me)N)3P=N]P+,OH-を精秤し、200mlのオートクレーブに仕込んだ。内容物の温度を130℃に昇温した後、プロピレンオキシド27.9g(480mmol)を反応時圧力が0.5MPa(絶対圧)を保つように間欠的に供給しながら、同温度で6時間反応させた。約30分かけて、内容物を室温まで冷却した。この一部を採取して、ガスクロマトグラフィーで定量分析を行ったところ、目的のN−(5−メチル−2−オキサゾリドン−3−イル)プロピル−5−メチル−2−オキサゾリドンの生成収率は90%であった。この反応液から目的物を蒸留して、N−(5−メチル−2−オキサゾリドン−3−イル)プロピル−5−メチル−2−オキサゾリドンを42.2g得た。
【0054】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、エポキシ化合物とN−無置換もしくはN−一置換カルバミン酸エステル類との反応を、従来の方法に比べて温和な条件下で実施でき、しかも高い収率で目的の2−オキサゾリドン誘導体を製造することができる。

Claims (7)

  1. 式(1)〔化1〕
    Figure 0003973304
    (式中、Rは同種または異種の、炭素数1ないし10個の炭化水素基である。)で表されるホスフィンオキシド化合物または式(2)〔化2〕
    Figure 0003973304
    (式中、Rは式(1)中のRと同一である。Z-はハロゲンアニオン、ヒドロキシアニオン、アルコキシアニオン、アリールオキシアニオンまたはカルボキシアニオンである。)で表されるホスファゼニウム化合物の存在下に、エポキシ化合物とN−無置換もしくはN−一置換カルバミン酸エステル類とを反応させることを特徴とする2−オキサゾリドン誘導体の製造方法。
  2. 式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物または式(2)で表されるホスファゼニウム化合物中のRが同種または異種の、炭素数1ないし8個の脂肪族炭化水素基である請求項1記載の方法。
  3. 式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物または式(2)で表されるホスファゼニウム化合物中のRが同種または異種の、メチル基またはエチル基である請求項1記載の方法。
  4. 式(2)で表されるホスファゼニウム化合物中のZ-が、ヒドロキシアニオン、炭素数1ないし4個のアルコール類から導かれるアルコキシアニオンまたは炭素数6ないし8個の芳香族ヒドロキシ化合物から導かれるアリールオキシアニオンである請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
  5. エポキシ化合物が炭素原子、水素原子およびエポキシ基の酸素原子のみから成る脂肪族もしくは芳香族エポキシ化合物、エーテル結合を有する脂肪族もしくは芳香族エポキシ化合物またはエステル結合を有する脂肪族もしくは芳香族エポキシ化合物である請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
  6. N−無置換カルバミン酸エステル類がN−無置換カルバミン酸と1個の水酸基を有する炭素数1ないし6個の有機ヒドロキシ化合物から形成される形のN−無置換カルバミン酸エステル類である請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
  7. N−一置換カルバミン酸エステル類が、そのN−一置換基が炭素数1ないし12個の脂肪族炭化水素基、炭素数3ないし15個の脂環族炭化水素基、炭素数6ないし24個の芳香族炭化水素基または炭素数3ないし9個の含ヘテロ芳香族炭化水素基であるN−一置換カルバミン酸類と1個の水酸基を有する炭素数1ないし6個の有機ヒドロキシ化合物とから形成される形であるN−一置換カルバミン酸エステル類である請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
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