JP3972068B2 - 遺伝子クラスター上の構造遺伝子 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、HMG−CoA還元酵素阻害剤ML−236B生産微生物のML−236B生合成を促進するDNA、該DNAを含有するベクター、該ベクターで形質転換された宿主細胞、該宿主細胞を培養し、次いで該培養物からML−236Bを回収することを特徴とするML−236Bの製造法等に関する。
【0002】
【従来の技術】
プラバスタチンナトリウムは、高脂血症改善薬として臨床において使用されている、HMG−CoA還元酵素阻害剤である。プラバスタチンは、ペニシリウム・シトリナムが生産するML−236Bをストレプトミセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)により微生物変換することにより得られる(Endo,A.,et al.,J.Antibiot.,29,1346(1976):Matsuoka,S.,et al.,Eur.J.Biochem.,184,707(1989)記載:特開昭57−2240号公報記載)。
【0003】
プラバスタチンの前駆体ML−236B、及び、プラバスタチンと部分構造を共有するHMG−CoA阻害剤ロバスタチンは、ともにポリケチドを経て生合成されることが示されている(Moore,R.N.,et al.,J.Am.Chem.Soc.,107, 3694(1985):Shiao,M.and Don,H.S.,Proc.Natl.Sci.Counc.Repub.China B,11,223(1987)記載)。
【0004】
ポリケチドとは、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの低分子カルボン酸残基の連続的な縮合反応から生じるβ―ケト炭素鎖から導かれる化合物の総称であり、各β―ケトカルボニル基の縮合・還元様式により、多様な構造が導かれる(Hopwood, D.A. and Sherman, D.H., Annu.Rev.Genet., 24, 37-66(1990):Hutchinson, C.R. and Fujii, I., Annu.Rev.Microbiol., 49, 201-238(1995)記載)。
【0005】
ポリケチドの合成を担うポリケチド・シンターゼ(Polyketide Synthase:以下、「PKS」という。)は糸状菌や細菌の有する酵素であることが知られており、糸状菌では該酵素の分子生物学的研究がなされている(Feng,G.H.and Leonard,T.J.,J.Bacteriol.,177,6246(1995):Takano,Y.,et al.Mol.Gen.Genet.249,162(1995)記載)。ロバスタチン生産菌であるアスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)については、ロバスタチン生合成に関連したPKS遺伝子の解析がなされている(特表平9−504436号公報記載)。
【0006】
ところで、糸状菌の二次代謝産物の生合成関連遺伝子は、ゲノム上でクラスターを形成していることが少なくない。ポリケチドの生合成系にて、該系に関与する遺伝子クラスターの存在が知られている。アスペルギルス・フラヴァス(Aspergillus flavus)、アスペルギルス・パラシティカス(Aspergillus parasiticus)の生産するポリケチドであるアフラトキシンの生合成では、PKSその他ポリケチドの生合成に関与する酵素蛋白質をコードする遺伝子がクラスター構造を形成していることが知られており、両菌のアフラトキシン生合成関連遺伝子のゲノム比較解析が行なわれている(Yu,J.,et al,Appl.Environ.Microbiol.,61,2365(1995)記載)。アスペルギルス・ニジュランス(Aspergillus nidulans)の生産するステリグマトシスチン(sterigmatocystin)の生合成関連遺伝子は、ゲノム上の連続する約60kbの領域においてクラスター構造を形成していることが報告されている(Brown,D.W.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,93,1418(1996)記載)。
【0007】
しかし、ML−236B生合成に関する分子生物学的研究は、現在まで十分にはなされていなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、ペニシリウム・シトリナムのML−236B生合成に関連するゲノムDNA(以下、「ML−236B生合成関連ゲノムDNA」という。)を、ML−236B生産微生物のゲノムDNAライブラリーよりクローニングし、該ゲノムDNAを解析して該ゲノムDNA上に構造遺伝子を見出し、ペニシリウム・シトリナムの(全RNAに含まれる)mRNAを鋳型とした逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応(reverse transcription - polymerase chain reaction:以下、「RT−PCR」という。)により該構造遺伝子に対応するcDNAを得、該cDNAを含有する組換えDNAベクターを用いて該生産微生物を形質転換することにより、該生産微生物においてML−236Bの生合成が促進されることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、
(1)
以下の群から選択されるDNA、
(a)配列表の配列番号37のヌクレオチド番号1乃至1662で示される塩基配列を1つ又は複数含むことからなり、ML−236B生産微生物内に導入されることにより該生産微生物のML−236B生合成を促進することを特徴とするDNA:
(b)(a)記載のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、ML−236B生産微生物内に導入されることにより該生産微生物のML−236B生合成を促進することを特徴とするDNA、
(2)
形質転換大腸菌 E.coli pSAKexpE SANK 72499株(FERM BP−7005)より得ることができる、(1)記載のDNA、
(3)
以下の群から選択されるDNA、
(a)配列表の配列番号41のヌクレオチド番号1乃至1380で示される塩基配列を1つ又は複数含むことからなり、ML−236B生産微生物内に導入されることにより該生産微生物のML−236B生合成を促進することを特徴とするDNA:
(b)(a)記載のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、ML−236B生産微生物内に導入されることにより該生産微生物のML−236B生合成を促進することを特徴とするDNA、
(4)
形質転換大腸菌 E.coli pSAKexpR SANK 72599株(FERM BP−7006)より得ることができる、(3)記載のDNA、
(5)
(1)乃至(4)のいずれか一つに記載のDNAを含む組換えDNAベクター、
(6)
形質転換大腸菌 E.coli pSAKexpE SANK 72499(FERM BP−7005)株より得ることができる、(5)記載の組換えDNAベクター、
(7)
形質転換大腸菌 E.coli pSAKexpR SANK 72599(FERM BP−7006)株より得ることができる、(5)記載の組換えDNAベクター、
(8)
(5)乃至(7)のいずれか一つに記載の組換えDNAベクターで形質転換された宿主細胞、
(9)
ML−236B生産微生物であることを特徴とする、(8)記載の宿主細胞、(10)
ペニシリウム・シトリナム(Penicillium citrinum)であることを特徴とする、(9)記載の宿主細胞、
(11)
(9)又は(10)記載の宿主細胞を培養し、次いで該培養物からML−236Bを回収することを特徴とする、ML−236Bの製造法、
(12)
大腸菌であることを特徴とする、(8)記載の宿主細胞、
(13)
形質転換大腸菌 E.coli pSAKexpE SANK 72499(FERM BP−7005)株である、(12)記載の宿主細胞、
(14)
形質転換大腸菌 E.coli pSAKexpR SANK 72599(FERM BP−7006)株である、(12)記載の宿主細胞、
に関する。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0011】
本発明は、ML−236B生産微生物内に導入されることにより該生産微生物のML−236B生合成を促進し得るcDNA(以下、「ML−236B生合成促進cDNA」という。)等に関する。
【0012】
ML−236B生合成cDNAのような、本発明のポリヌクレオチドは、次の群より選択される;
(I)ML−236B生産微生物のゲノム遺伝子中のML−236B生合成関連ゲノムDNA上に存在する構造遺伝子から転写されたmRNA又は該mRNAを含む全RNAを鋳型として合成されたDNA。
(II)(I)記載のDNA、及び、(I)記載のDNAを第一鎖として合成された第二鎖DNAが会合して生じる二本鎖DNA。
(II)(II)記載の二本鎖DNAをクローニング等の手法により複製又はは増幅することによって得られる二本鎖DNA。
(IV)(I)乃至(III)のいずれか一つに記載のDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
(IV)のDNAとしては、配列表の配列番号37のヌクレオチド番号1乃至1662で示される塩基配列に1つ若しくは2つ以上のヌクレオチドの置換、欠失、付加及び/又は挿入が生じたものであり、且つ、ML−236B生産微生物内に導入されることにより該微生物のML−236Bの生合成を促進するものを挙げることができる。
【0013】
また、(IV)のDNAとしては、配列表の配列番号41のヌクレオチド番号1乃至1380で示される塩基配列に1つ若しくは2つ以上のヌクレオチドの置換、欠失、付加及び/又は挿入が生じたものであり、ML−236B生産微生物内に導入されることにより該微生物のML−236Bの生合成を促進するものを挙げることができる。
【0014】
本発明において、ハイブリダイズとは、2本の一本鎖核酸同士が互いに相補的な領域又は相補性の高い領域において二本鎖を形成することをいい、ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション液の組成が6×SSC(1×SSCの組成は、150mMNaCl、15mMクエン酸三ナトリウム。)であり且つハイブリダイゼーションを行なう際の保温温度が55℃の場合をいう。
【0015】
ML−236B生合成促進cDNAは、ML−236B生産微生物のcDNAライブリーから所望のcDNAを含むクローンを単離する方法、又はML−236B生合成関連ゲノムDNAの塩基配列に基いて作製される一組のプライマー及びML−236B生産微生物のmRNA若しくは全RNAを使用するRT−PCRにより得ることができる。
【0016】
本発明において、ML−236B生産微生物とは、ML−236B生産能を先天的に有する微生物をいう。ML−236B生産微生物としては、例えば、ペニシリウム(Penicillium)属に属するML−236B生産糸状菌が挙げられ、より具体的には、ペニシリウム・シトリナム、ペニシリウム・ブレビコンパクタム(Penicilium brevicompactum:Brown,A.G.,et al.,J.Chem.Soc.Perkin-1.,1165(1976)記載)、ペニシリウム・シクロピウム(Penicillium cyclopium:Doss,S.L.,et al.,J.Natl.Prod.,49,357(1986)記載)等が例示される。また、これら以外に、ユーペニシリウム・エスピー M6603( Eupenicillium sp.M6603:Endo,A.,et al.,J.Antibiot.-Tokyo,39,1609(1986)記載)、ペシロミセス・ビリディス FERM P−6236(Paecilomyces viridis FERM P-6236:特開昭58−98092号公報記載)、ペシロミセス・エスピー M2016(Paecilomyces sp.M2016:Endo,A.,et al.,J.Antibiot.-Tokyo,39,1609(1986)記載)、トリコデルマ・ロンギブラチアタム M6735(Trichoderma longibrachiatum M6735:Endo,A.,et al.,J.Antibiot.-Tokyo,39,1609(1986)記載)、ヒポミセス・クリソスペルムス IFO 7798(Hypomyces chrysospermus IFO 7798:Endo,A.,et al.,J.Antibiot.-Tokyo,39,1609(1986)記載)、グリオクラディウム・エスピー YJ−9515(Gliocladium sp. YJ-9515:WO9806867号公報記載)、トリコデルマ・ビリデ IFO 5836(Trichoderma viride IFO 5836:特公昭62−19159号公報記載)、ユーペニシリウム・レチクリスポルム IFO 9022(Eupenicillium reticulisporum IFO 9022:特公昭62−19159号公報記載)等を例示することができる。
【0017】
これらのML−236B生産微生物のうち、好適にはペニシリウム・シトリナムであり、より好適にはペニシリウム・シトリナム SANK13380株である。ペニシリウム・シトリナム SANK13380株は、平成4年(1992年)12月22日付けで、日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号の通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に国際寄託され、受託番号FERM BP−4129を付与された。これらのML−236B生産微生物には、自然界から単離された株、自然に生じた変異株及び人工的に生じさせた変異株が包含される。
【0018】
ML−236B生合成関連ゲノムDNAは、ML−236B生産微生物のゲノムDNAライブラリーに対して、類似の機能を有するものと推測される糸状菌由来のDNAの塩基配列に基いて設計されるプローブを用いてスクリーニングを行なうことにより得ることができる。
【0019】
ゲノムDNAライブラリーの作製法としては、通常真核生物のゲノムDNAライブラリーを作製するための方法であれば特に限定されないが、例えば、マニアティスらの方法(Maniatis,T.,et al.,Molecular cloning,a laboratory manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)記載)等が挙げられる。
【0020】
ML−236B生産微生物のゲノムDNAは、該微生物培養物から該微生物を回収して物理的に破砕した後、核内DNAを抽出、精製することにより得られる。
【0021】
ML−236B生産微生物の培養は、各ML−236B生産微生物に適した条件下で行なうことができる。好適なML−236B生産微生物であるペニシリウム・シトリナムの培養は、該微生物を培養したスラントから、MBG3−8培地(組成;7%(w/v)グリセリン、3%(w/v)グルコース、1%(w/v)大豆粉、1%(w/v)ペプトン(極東製薬工業(株)製)、1%(w/v)コーンスチープリカー(ホーネンコーポレーション(株)製)、0.5%(w/v)硝酸ナトリウム 、0.1%(w/v)硫酸マグネシウム七水和物、pH6.5)へ該微生物を接種し、22乃至28℃、3乃至7日間、振盪しつつ保温することにより行なうことができる。該スラントは、溶解させたPGA寒天培地(組成;200g/L馬鈴薯抽出液、15%(w/v)グリセリン、2%(w/v)寒天)を試験管に注ぎ、傾斜させつつ固化させたものに、白金耳を用いてペニシリウム・シトリナムを接種し、22乃至28℃、7乃至15日保温することにより作製する。該スラントを0乃至4℃で保存することにより、該スラント上でML−236B生産微生物を継続的に生存させることができる。
【0022】
液体培地で培養したML−236B生産微生物は、遠心分離により、固体培地で培養した該微生物は、セル・スクレーパー等でかきとることにより、それぞれ回収することができる。
【0023】
ML−236B生産微生物の物理的破砕は、該微生物を液体窒素等で凍結しつつ乳鉢と乳棒ですり潰すことにより行なうことができる。破砕された微生物の核内DNAの抽出は、ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecylsulphate:以下、「SDS」という。)等の界面活性剤を用いて行なうことができる。抽出されたゲノムDNAは、フェノール・クロロホルム抽出を行なうことにより除タンパクされ、エタノール沈澱を行なうことにより沈澱として回収することができる。
【0024】
得られたゲノムDNAを適当な制限酵素で限定分解させ、断片化する。限定分解に使用される制限酵素としては、通常入手可能な制限酵素であれば特に限定されないが、例えば、Sau3AI等を挙げることができる。断片化されたDNAをゲル電気泳動に供し、適当なサイズのゲノムDNAを含むゲルからDNAを回収する。DNA断片のサイズには特に限定はないが、好適には20kb以上である。
【0025】
ゲノムDNAライブラリー作製用のDNAベクターとしては、該DNAベクターで形質転換された宿主細胞内で複製されるのに必要な塩基配列を有するものであれば特に限定されないが、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、コスミドベクター、BACベクター等が挙げられ、好適にはコスミドベクターである。また、これらDNAベクターは発現ベクターであってもよい。さらに、該DNAベクターは、該DNAベクターで形質転換された宿主細胞に表現形質(phenotype)の選択性を付与する塩基配列を有していることが好ましい。
【0026】
該DNAベクターは、クローニング及び機能発現の双方に適用できるものであることが好ましい。該DNAベクターとしては、複数の微生物群に形質転換可能なDNAベクター、すなわちシャトルベクターを用いることが好ましい。該シャトルベクターは、少なくとも一方の微生物群の宿主細胞において複製されるのに必要な塩基配列を有する。また、シャトルベクターは複数の微生物群の宿主にそれぞれ表現形質の選択性を付与する塩基配列を有していることが好ましい。
【0027】
このようなシャトルベクターにより形質転換される微生物群の組合わせとしては、一方の微生物群がクローニングに適用でき且つ他方がML−236B生産能を有していれば特に限定されないが、例えば、細菌及び糸状菌の組合わせ、酵母及び糸状菌の組合わせ等が挙げられ、好適には細菌及び糸状菌の組合わせである。細菌としては、通常遺伝子工学に使用されるものであれば特に限定されないが、例えば、大腸菌、枯草菌等を挙げることができ、好適には大腸菌であり、より好適には大腸菌XL1−BlueMR株である。酵母としては、通常遺伝子工学に用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等を挙げることができる。糸状菌としては、上述のML−236B生産微生物等が挙げられる。なお、本発明において微生物群は、細菌、糸状菌及び酵母から選択される。
【0028】
このようなシャトルベクターとしては、例えば、適当な表現形質選択マーカー遺伝子及びコス(cos)部位を有するコスミドベクター等を挙げることができ、好適には大腸菌ハイグロマイシンBホスフォトランスフェラーゼ遺伝子配列を有するプラスミドpSAK333(特開平3−262486号公報記載)にコスミドベクターpWE15(STRATAGENE社製)の有するコス(cos)部位を挿入して作製されたpSAKcos1が挙げられるが、これらに限定されない。pSAKcos1の構築手順については図1に記載されている。
【0029】
上述のML−236B生産微生物ゲノムDNA断片をライゲーションしたシャトルベクターを宿主細胞に導入することにより、所望のゲノムDNAライブラリーが完成する。宿主細胞には、好適には大腸菌、より好適には大腸菌XL1−BlueMR株がそれぞれ使用される。宿主細胞が大腸菌の場合、該導入はin vitroパッケージングにより行なう。本発明において、形質転換とは、invitroパッケージングによる外来DNAの導入も意味し、in vitroパッケージングにより外来DNAを導入された細胞も形質転換細胞の意味に包含される。
【0030】
所望のクローンのスクリーニングには、抗体又は核酸プローブを用い、好適には、核酸プローブを用いる。該核酸プローブは、糸状菌のポリケチド生合成関連遺伝子の塩基配列に基づいて作製することができる。このような遺伝子としては、ポリケチドの生合成への関与が確認され且つ塩基配列が公知のものであれば特に限定されないが、例えば、アスペルギルス・フラヴァス(Aspergillus flavus)、アスペルギルス・パラシティカス(Aspergillus parasiticus)のアフラトキシンPKS遺伝子、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)のストリグマトシスチンPKS遺伝子等を挙げることができる。
【0031】
該核酸プローブは、上述の公知の塩基配列に基づいて、ゲノムDNAの部分塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプローブの合成により、またオリゴヌクレオチドプライマーを作製し、ゲノムDNAを鋳型としたポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction:以下、「PCR」という。:Saiki,R.K.,et al.,Science,239,487(1988)記載)を行なうことにより、又は、mRNAを鋳型としたRT−PCR等により、取得することができる。
【0032】
核酸プローブのML−236B生産微生物からのPCR又はRT−PCRによる取得方法は、以下に述べる通りである。
【0033】
PCR又はRT−PCRに使用するプライマー(以下、「PCR用プライマー」という。)の設計は、塩基配列が公知であるところのポリケチド生合成関連遺伝子の塩基配列に基づいて、好適にはアスペルギルス・フラヴァス(Aspergillus flavus)、アスペルギルス・パラシティカス(Aspergillus parasiticus)のアフラトキシンPKS遺伝子又はアスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)のストリグマトシスチンPKS遺伝子の塩基配列に基づいて設計することができる。これらのうちいずれか一つのPKSのアミノ酸配列上で種間保存性の高いアミノ酸配列を塩基配列に還元することにより、PCR用プライマーを設計することができる。アミノ酸配列から塩基配列に還元する方法としては、宿主のコドン使用頻度を考慮して単一の配列を導く方法又は多重コドンを使用して混合配列(以下、「ミックス・プライマー」という。)を導く方法の二通りが使用できる。後者の場合、塩基配列にヒポキサンチンを含有させることにより多重度を下げることができる。
【0034】
また、PCR用プライマーには、鋳型鎖とアニーリングするための塩基配列に加え、該プライマーの5’−末端に適宜塩基配列を付加させることが可能である。そのような塩基配列としては、該プライマーがPCRに使用可能であれば特に限定されないが、例えば、PCR産物についてその後のクローニング操作を行なうのに便利な塩基配列等が挙げられ、このような塩基配列としては、制限酵素認識配列を含有するか又は該認識配列からなる塩基配列を例示することができる。
【0035】
さらに、PCR用プライマーの設計においては、グアニン塩基の数とシトシン塩基の数の和が総塩基数の40乃至60%であることが好ましい。また、自己アニーリングし難いことが好ましい。一組のPCR用プライマーにおいては、双方のPCR用プライマー同士がアニーリングし難いことが好ましい。
【0036】
また、PCR用プライマーの塩基数は、PCRに適用できれば特に限定されないが、その範囲の下限は10乃至14、上限は40乃至60であり、好適な範囲は14乃至40である。
【0037】
さらに、PCR用プライマーは、好適にはDNAである。該プライマーを構成するヌクレオシドとしては、デオキシアデノシン、デオキシシチジン、デオキシチミジン及びデオキシグアノシンに加え、デオキシイノシンが挙げられる。
また、PCR用プライマーの5’−末端に位置するヌクレオシドの5’−位は、水酸基であるか、又は、該水酸基に一リン酸がエステル結合した状態である。
【0038】
さらに、PCR用プライマーの合成は、通常核酸の合成に使用される方法、例えば、ホスフォロアミダイト法により行なうことができ、このような方法には、DNA自動合成機が好適に使用される。
【0039】
PCRの鋳型としては、ML−236B生産微生物のゲノムDNAが、RT−PCRの鋳型としては、ML−236B生産微生物のmRNAが、それぞれ使用できる。なお、RT−PCRの鋳型としては、mRNAの代わりに全RNAを使用することも可能である。
【0040】
PCR産物又はRT−PCR産物をこのものに適したDNAベクターに組込むことにより、該PCR産物又はRT−PCR産物をクローニングすることができる。該クローニングに用いるDNAベクターとしては、通常DNA断片をクローニングするのに使用されるDNAベクターであれば特に限定されない。また、PCR産物又はRT−PCR産物のクローニングを簡便に行なうキットが市販されており、このようなキットとして、例えば、Original TA Cloning Kit(Invitrogen製:DNAベクターとしてpCR2.1を使用している。)が好適に使用される。
【0041】
クローニングしたPCR産物の取得は、所望のPCR産物を含んでいることを確認した形質転換宿主細胞を培養し、該細胞からプラスミドを抽出、精製し、得られたプラスミドから挿入DNA断片を回収することにより行なうことができる。
【0042】
形質転換宿主細胞の培養は、各宿主細胞に適した条件下で行なうことができる。好適な宿主細胞である大腸菌の形質転換体の培養は、LB培地(1%(w/v)トリプトン、0.5%(w/v)イーストエキストラクト、0.5%(w/v)塩化ナトリウム)で、30乃至37℃、18時間乃至2日間、振盪しつつ保温することにより行なうことができる。
【0043】
形質転換宿主細胞の培養物からのプラスミドの調製は、該宿主細胞体を回収し、ゲノムDNAやタンパク質を除去することによりなされる。好適な宿主細胞である大腸菌の形質転換体の培養物からのプラスミドの調製は、マニアティスらのアルカリ法(Maniatis,T.,et al.,Molecular cloning,a laboratory manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)記載)により行なうことができる。また、より純度の高いプラスミドを得るためのキットが市販されており、このようなキットとして、例えば、Plasmid Mini Kit(QIAGEN社製)が好適に使用される。さらに、プラスミドの大量調製を行うキットが市販されており、このようなキットとして、例えば、Plasmid Maxi Kit(QIAGEN社製)が好適に使用される。
【0044】
得られたプラスミドのDNA濃度は、DNA試料を適宜希釈して波長260nmにおける吸光度を測定し、50μg/ml濃度のDNA水溶液の波長260nmにおける吸光度を1として算出することができる。DNAの純度は、波長280及び260nmの吸光度の比率から算出することができる(いずれもManiatis,T.,et al.,Molecular cloning,a laboratory manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)記載)。
【0045】
核酸プローブの標識は、放射性標識及び非放射性標識に大別される。放射性標識に使用される放射性核種としては、通常使用されるものであれば特に限定されないが、例えば、32P,35S、14C等を挙げることができ、好適には32Pである。非放射性標識に用いる試薬としては、通常核酸の標識に用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、ジゴキシゲニン、ビオチン等が挙げられ、好適にはジゴキシゲニンである。核酸プローブを標識する方法としては、通常使用される方法であれば特に限定されないが、例えば、標識基質を用いたPCRにより該産物中に取り込ませる方法、ニック・トランスレーション法、ランダム・プライマー法、末端標識法、標識基質を用いてオリゴヌクレオチドDNAを合成する方法等を挙げることができ、核酸プローブの種類等によりこれらの方法から適宜選択できる。
【0046】
核酸プローブの塩基配列と同一の塩基配列がML−236B生産微生物のゲノム中に存在することは、該微生物のゲノムDNAに対するサザンブロット・ハイブリダイゼーションにより確認することができる。
【0047】
サザンブロット・ハイブリダイゼーションは、マニアティスらの方法(Maniatis,T.,et al.,Molecular cloning,a laboratory manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)記載)により行なうことができる。
【0048】
上述の通り作製された標識核酸プローブを用い、ゲノムDNAライブラリーから目的クローンをスクリーニングすることができる。該スクリーニング法としては、通常遺伝子クローニングに使用される方法であれば特に限定されないが、好適にはコロニー・ハイブリダイゼーション法(Maniatis,T.,et al.,Molecular cloning,a laboratory manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)記載)を使用することができる。
【0049】
コロニー・ハイブリダイゼーションに用いるコロニーの培養は、各宿主細胞に適した条件下で行なうことができ、好適な宿主細胞である大腸菌の形質転換体の培養は、LB寒天培地(1%(w/v)トリプトン、0.5%(w/v)イーストエキストラクト、0.5%(w/v)塩化ナトリウム、1.5%(w/v)アガロース)上で、30乃至37℃、18時間乃至2日間保温することにより行なうことができる。
【0050】
コロニー・ハイブリダイゼーションにより得られる陽性クローンからの組換えDNAベクターの調製は、該陽性クローンの培養物からプラスミドを抽出及び精製することによりなされる。
【0051】
本発明において得られた陽性クローンである形質転換大腸菌 E.coli pML48 SANK71199株は、平成11年(1999年)7月7日付けで、日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号の通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に国際寄託され、受託番号FERM BP−6780を付された。
【0052】
E.coli pML48 SANK71199株が保持する組換えDNAベクターはpML48と命名された。
【0053】
陽性クローンの保持する組換えDNAベクターが所望のML−236B生合成関連ゲノムDNAを含んでいることは、該組換えDNAベクターの挿入塩基配列の決定、サザンブロット・ハイブリダイゼーション又は機能発現により確認できる。
【0054】
DNAの塩基配列は、マキサム−ギルバートの化学修飾法 (Maxiam,A.M.M. and Gilbert,W.,Methods in Enzymology,65,499(1980)記載)又はジデオキシヌクレオチド鎖終結法 (Messing,J. and Vieira,J.,Gene,19,269(1982)記載)等により決定できる。なお、塩基配列決定に供するプラスミドDNAとしては、より純度の高い標品が好ましい。
【0055】
pML48の挿入塩基配列は配列表の配列番号1で示される。配列表の配列番号2で示される塩基配列は、配列番号1で示される塩基配列に対して完全に相補的である。通常ゲノムDNAの塩基配列は同種内において遺伝的多型(ポリモルフィズム:polymorphysm)を有している。また、DNAクローニングの過程及び塩基配列決定の過程において、ヌクレオチドの置換等が一定の確率で生じ得る。従って、本発明のML−236B生合成関連ゲノムDNAは、配列表の配列番号1又は2のヌクレオチド番号1乃至34203に示される塩基配列を有するDNAにハイブリダイズするゲノムDNA、及び配列表の配列番号1又は2のヌクレオチド番号1乃至34203に示される塩基配列を有するDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするゲノムDNAをも包合する。これらゲノムDNAとしては、配列表の配列番号1又は2のヌクレオチド番号1乃至34203で示される塩基配列に1つ又は2つ以上のヌクレオチドの置換、欠失、付加及び/又は挿入が生じたもの、並びに、ML−236B又はその誘導体を生産する、ペニシリウム・シトリナム SANK13380株以外の微生物に由来し、且つ該微生物によるML−236又はその誘導体の生合成に関連するものが包合される。
【0056】
ML−236B生合成関連ゲノムDNAの解析法は次の1)乃至3)に従う。1)遺伝子解析ソフトによる解析
ゲノムDNA配列中の遺伝子領域の推定は、既存の遺伝子解析プログラム(Gene Findingプログラム(以下、「GRAIL」という。)、及び配列の相同性検索プログラム(BLASTN及びBLASTX)により行うことができる。
【0057】
GRAILはゲノム配列の「遺伝子配列らしさ」を評価する7つのパラメータに分割し、それらの結果をニューラルネット法を用いて統合することにより、ゲノムDNA上の構造遺伝子を検索するプログラム(Uberbacher,E.C.& Mural,R.J.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,88,11261(1991)記載)であり、ApoCom GRAIL Toolkit(APOCOM社製)が好適に使用される。
【0058】
BLASTは核酸配列及びアミノ酸配列の相同性検索を行なうアルゴリズム(Altechul,S.F.,Madden,T.L.,et al.,Nucl.Acids Res.,25,3389(1997)記載)を用いたプログラムである。
【0059】
ゲノムDNA配列を適当な長さに分割し、BLASTNを用いて遺伝子データベースに対し相同性検索することにより、被検DNA配列上の構造遺伝子の位置及び方向を推定することができる。また、分割されたゲノムDNA配列を6つの翻訳フレーム(センス配列及びアンチセンス配列に各々3つずつ)に従ってアミノ酸配列に翻訳し、該アミノ酸配列のペプチド・データベースに対する相同性検索をBLASTXを用いて行なうことにより、被検DNA配列上の構造遺伝子の位置及び方向の推定を行なうこともできる。さらに、真核生物においては、ゲノムDNA配列中に含まれる構造遺伝子のコード領域がイントロン配列により分断されている場合があり、このようなギャップを有する構造遺伝子の解析にはギャップ含有配列用のBLASTがより有効であり、Gapped−BLAST(BLAST2:WISCONSIN GCG package ver. 10.0に搭載)が好適に使用される。
2)ノーザンブロット・ハイブリダイゼーション法による解析
ノーザンブロット・ハイブリダイゼーション法により、1)記載の解析法により推定される構造遺伝子の発現を調べることができる。
【0060】
ノーザンブロットに供するML−236B生産微生物の全RNAは、該微生物の培養物より得ることができる。好適なML−236B生産微生物であるペニシリウム・シトリナムの培養は、該菌のスラントからMGB3−8培地に該菌を接種し、22乃至28℃、1乃至4日間、振盪しつつ保温することにより行うことができる。
【0061】
ML−236B生産微生物からのRNAの抽出は、通常全RNAを調製するのに使用される方法であれば特に限定されないが、例えば、グアニジン・チオシアネート・ホットフェノール法、グアニジン・チオシアネート−グアニジン・塩酸法等が挙げられる。また、より純度の高い全RNAを調製するための市販キットとしては、例えば、RNeasy Plant Mini Kit(キアゲン社製)等が挙げられる。さらに、mRNAは、全RNAをオリゴ(dT)カラムに添加し、該カラムに吸着した画分を回収することにより得ることができる。
【0062】
RNAのメンブレンへのトランスファー、プローブの調製、ハイブリダイゼーション及びシグナルの検出は、上述のサザンブロット・ハイブリダイゼーションと同様に行なうことができる。
3)5’−末端及び3’−末端の解析
各構造遺伝子の5’−末端及び3’−末端の解析は、RACE(rapid amplification of cDNA ends)法により行なうことができる。RACEは、mRNAを鋳型とし、塩基配列が決定されている領域から塩基配列が決定されていない5’−末端又は3’−末端領域までを含むcDNAを、RT−PCRの応用により取得する方法である(Frohman,M.A.,Methods in Enzymol.,218,340(1993)記載)。
【0063】
5’RACEは以下の方法に従う。mRNAを鋳型とし、塩基配列中の公知の部分に基いて設計されたアンチセンス側のオリゴヌクレオチドDNA(1)をプライマーとした逆転写酵素反応によりcDNA第一鎖を合成した後、ターミナルデオキシヌクレオチヂルトランスフェラーゼにより該cDNA第一鎖の3’−末端にホモポリメリックな(homopolymeric:単一塩基からなる)ヌクレオチド鎖を付加させる。該cDNA第一鎖を鋳型とし且つ該ホモポリメリックな塩基配列に相補的な塩基配列を含むセンス側のオリゴヌクレオチドDNA、及び、アンチセンス側に存在し且つオリゴヌクレオチドDNA(1)より3’−側に存在するオリゴヌクレオチドDNA(2)をプライマーとしたPCRによって、5’−末端領域の二本鎖cDNAを増幅させる方法である(Frohman,M.A.,Methods in Enzymol.,218,340(1993)記載)。5’RACE用のキットが市販されており、このようなキットとして、例えば、5’RACE System for Rapid Amplification of cDNA ends,Version 2.0(GIBCO社製)等が好適に使用される。
【0064】
3’RACEは、mRNAの3’−末端に存在するポリA領域を利用する方法である。すなわち、mRNAを鋳型として、オリゴd(T)アダプターをプライマーとした逆転写酵素反応によりcDNA第一鎖を合成した後、該cDNA第一鎖を鋳型として、塩基配列中の公知の部分に基いて設計されたセンス側のオリゴヌクレオチドDNA(3)、及び、アンチセンス側のオリゴd(T)アダプターをプライマーとしたPCRによって、3’−末端領域の二本鎖cDNAを増幅させる方法である。3’RACE用のキットが市販されており、このようなキットとして、例えば、Ready−To−Go T−primed First−Strand Kit(Phramacia社製)が好適に使用される。
【0065】
RACEにおける塩基配列中の公知の部分に基いたプライマーの設計には、上記1)及び2)の解析結果が好適に利用できる。
【0066】
以上、1)乃至3)に記載した解析法により、ゲノムDNA配列上の構造遺伝子の方向、並びに、構造遺伝子中の転写開始点の位置、転写終始点の位置、翻訳開始コドンの位置、翻訳終止コドン及びその位置を推定することができる。これらの情報に基づいて、各構造遺伝子及びそれに対応するcDNA、すなわちML−236B生合成促進cDNAを取得し、その塩基配列を決定することが可能である。また、RT−PCR法を用いた転写産物の塩基配列解析に基づき、各構造遺伝子に対応する完全長のcDNAを取得せずに、コード領域及び対応するcDNAの塩基配列を決定することができる。
【0067】
本発明において得られた組換えDNAベクター pML48の挿入配列上には、6つの構造遺伝子の存在が推定され、それぞれmlcA、mlcB、mlcC、mlcD、mlcE及びmlcRと命名された。このうちmlcA、mlcB、mlcE及びmlcRは配列表の配列番号2に示される塩基配列上にコード領域を有し、mlcC及びmlcDは配列表の配列番号1に示される塩基配列上にコード領域を有しているものと推定された。各構造遺伝子の転写レベルでの発現解析には、RT−PCR法又はノーザンブロット・ハイブリダイゼーション法が好適に使用され得る。
【0068】
上述の6つの構造遺伝子に対応するML−236B生合成促進cDNAを取得する方法としては、各構造遺伝子の塩基配列に基づいて設計され得るプライマーを用いたRT−PCRによるクローニング、該塩基配列に基いて得られるDNAプローブを用いたcDNAライブラリーからのクローニング等が挙げられる。また、これらの方法で取得されるcDNAを機能発現させるためには、完全長のcDNAを得ることが好ましい。
【0069】
RT−PCRによるML−236B生合成促進cDNAの取得について述べる。
【0070】
ML−236B生合成促進cDNAを取得するための一組のRT−PCR用プライマーは、各鋳型鎖と選択的にアニーリングし且つcDNAを取得するべく設計されなければならないが、この条件を満たす限りにおいて、一組のRT−PCRの一方又は双方は各鋳型鎖の一部と完全に相補的でなくてもよい。アンチセンス鎖にアニーリングするRT−PCR用プライマー(以下、「センスプライマー」という。)としては、アンチセンス鎖の一部と完全に相補的なセンスプライマー(以下、「無置換センスプライマー」という)又はアンチセンス鎖の一部と完全には相補的でないセンスプライマー(以下、「一部置換センスプライマー」という。)を使用することができる。センス鎖にアニーリングするRT−PCR用プライマー(以下、「アンチセンスプライマー」という。)としては、センス鎖の一部と完全に相補的なアンチセンスプライマー(以下、「無置換アンチセンスプライマー」という)又はセンス鎖の一部と完全には相補的でないアンチセンスプライマー(以下、「一部置換アンチセンスプライマー」という。)を使用することができる。
【0071】
センスプライマーは、それを一方のプライマーとするRT−PCR産物が本来の位置に翻訳開始コドンatgを含み且つ該翻訳開始コドンより開始される翻訳フレーム中には本来の位置以外に翻訳終止コドンを含まないように設計される(なお、配列表の配列番号1のヌクレオチド番号1乃至34203に示される塩基配列及び配列表の配列番号2のヌクレオチド番号1乃至34203に示される塩基配列における、本発明において推定された各構造遺伝子の翻訳開始コドンの位置は、表4に記載されている)。
【0072】
無置換センスプライマーは、cDNAの翻訳開始コドンatg中のa又はそれより5’−側の塩基を5’−末端とする。
【0073】
一部置換センスプライマーは、配列表の配列番号1のヌクレオチド番号1乃至34203に示される塩基配列又は配列表の配列番号2のヌクレオチド番号1乃至34203に示される塩基配列上の特定の領域と選択的にアニーリングする(配列表の配列番号2の全塩基配列は、配列表の配列番号1の全塩基配列に対して完全に相補的である)。
【0074】
また、一部置換センスプライマーが翻訳開始コドンatgより3’−側の塩基配列を含む場合、翻訳開始コドンatgより3’−側の塩基配列上に開始コドンatgから始まる翻訳フレーム中に終始コドンとなるような塩基配列(taa、tag又はtga)は含まれない。なお、開始コドンatgから始まる翻訳フレームとは、翻訳開始コドンatgより3’−側の塩基配列を翻訳開始コドンatgから3塩基単位に分割したときに生じる3塩基からなる配列をいう。
【0075】
さらに、一部置換センスプライマーが、翻訳開始コドンのa、at又はatg(「塩基又は塩基配列m」という。)にその位置で対応する塩基又は塩基配列(「塩基又は塩基配列m’」という。)を含む場合、塩基又は塩基配列mがaのとき、塩基又は塩基配列m’はaであり、且つ、塩基又は塩基配列m’のaは、その一部置換センスプライマーの3’−末端に位置する。塩基又は塩基配列mがatのとき、塩基又は塩基配列m’はatであり、且つ、塩基又は塩基配列m’のatは、その一部置換センスプライマーの3’−末端に位置する。塩基又は塩基配列mがatgのとき、塩基又は塩基配列m’はatgであり、且つ、塩基又は塩基配列m’のatg中のaから3’−方向に数えて3×n+1(nは1以上の整数)番目のヌクレオチドを5’−末端とするトリヌクレオチドがその一部置換センスプライマーに存在する場合、該トリヌクレオチドの塩基配列がtaa、tag及びtgaのいずれかであることはない。
【0076】
また、一部置換センスプライマーの3’−末端が、翻訳開始コドンatg中のaから3’−方向に数えて3×n+1(nは1以上の整数)番目のヌクレオチドであるとき、その一部置換センスプライマーを一方のプライマーとし、ML−236B生産微生物のRNA若しくはmRNAを鋳型とするRT−PCR産物又はゲノムDNA若しくはcDNAを鋳型とするPCR産物において、3×n+1番目のヌクレオチド及びその3’−側に隣接するジヌクレオチドからなるトリヌクレオチドの塩基配列がtaa、tag及びtgaのいずれかであることはない。
【0077】
さらに、一部置換センスプライマーのいずれか一つの3’−末端が、翻訳開始コドンatg中のaから3’−方向に数えて3×n+2(nは1以上の整数)番目のヌクレオチドであるとき、その一部置換センスプライマーを一方のプライマーとし、ML−236B生産微生物のRNA若しくはmRNAを鋳型とするRT−PCR産物又はゲノムDNA若しくはcDNAを鋳型とするPCR産物において、3×n+2番目のヌクレオチド及びその3’−側並びに5’−側に隣接する2つのモノヌクレオチドからなるトリヌクレオチドの塩基配列がtaa、tag及びtgaのいずれかであることはない。
【0078】
また、一部置換センスプライマーの3’−末端が、翻訳開始コドンatg中のaから3’−方向に数えて3×n+3(nは1以上の整数)番目のヌクレオチドであるとき、3×n+1乃至3×n+3番目のヌクレオチドからなるトリヌクレオチドの塩基配列がtaa、tag及びtgaのいずれかであることはない。
【0079】
以上がセンスプライマーの要件である。
【0080】
アンチセンスプライマーは、それ自体及び上述のセンスプライマーを一組のプライマーとして使用するRT−PCRにより、各構造遺伝子(mlcA、mlcB、mlcC、mlcD、mlcE及びmlcR)にコードされるペプチドのN末端からC末端までをコードしたcDNAを増幅できるように設計される。
【0081】
無置換アンチセンスプライマーは、cDNA上の翻訳終止領域附近の塩基配列に対して相補的な塩基配列を有するアンチセンスプライマーであれば特に限定されないが、好適には翻訳終止コドンの3’−末端の塩基に対して相補的な塩基又はそれより5’−側の塩基を5’−末端とする塩基配列を有し、より好適には翻訳終止コドンに対して相補的な3塩基の配列を有する(なお、本発明において推定された各構造遺伝子の翻訳終止コドン、該翻訳終止コドンの相補配列、各構造遺伝子にコードされるペプチドのC末端のアミノ酸残基、該アミノ酸残基をコードした塩基配列、並びに、配列表の配列番号1のヌクレオチド番号1乃至34203に示される塩基配列及び配列表の配列番号2のヌクレオチド番号1乃至34203に示される塩基配列におけるそれらの位置は、表8乃至10に記載されている)。
【0082】
一部置換アンチセンスプライマーは、配列表の配列番号1のヌクレオチド番号1乃至34203に示される塩基配列上又は配列表の配列番号2のヌクレオチド番号1乃至34203に示される塩基配列上の特定の領域と選択的にアニーリングする。
【0083】
以上がアンチセンスプライマーの要件である。
【0084】
また、一部置換センスプライマー及び一部置換アンチセンスプライマーは、上述の要件を満たす限りにおいて、それぞれの5’−末端に適宜塩基配列を付加させることが可能である。そのような塩基配列としては、該プライマーがPCRに使用可能であれば特に限定されないが、例えば、PCR産物についてその後のクローニング操作を行なうのに便利な塩基配列等が挙げられ、このような塩基配列として、制限酵素認識配列を含有するか又は該認識配列からなる塩基配列が挙げられる。
【0085】
さらに、センスプライマー及びアンチセンスプライマーの設計は、前述のPCR用プライマーの設計に関する記述に従って行なう。
【0086】
上述の通り、RT−PCRの鋳型には、ML−236B生産微生物のmRNA又は全RNAを使用する。例えば、pML48挿入配列中に存在する構造遺伝子mlcEのコード領域全域を増幅できるような一組のプライマー(それぞれの塩基配列は、配列表の配列番号35及び36参照)を設計及び合成し、ペニシリウム・シトリナム SANK13380株等の全RNA又はmRNAを鋳型してRT−PCRを行うことにより、構造遺伝子mlcEに対応するML−236B生合成促進cDNAが得られる。同様に、pML48挿入配列中に存在する構造遺伝子mlcRのコード領域全域を増幅できるような一組のプライマー(それぞれの塩基配列は、配列表の配列番号39及び40参照)を設計及び合成し、ペニシリウム・シトリナム SANK13380株等の全RNA又はmRNAを鋳型してRT−PCRを行うことにより、構造遺伝子mlcRに対応するML−236B生合成促進cDNAが得られる。
【0087】
また、上述の通り、RT−PCR産物を適当なDNAベクターに組込むことにより、該RT−PCR産物をクローニングすることができる。そのようなクローニングに用いるDNAベクターとしては、通常DNA断片をクローニングするのに使用されるDNAベクターであれば特に限定されない。RT−PCR産物のクローニングを簡便に行なうキットが市販されており、このようなキットとして、例えば、Original TA Cloning Kit(Invitrogen製:DNAベクターとしてpCR2.1を使用している。)が好適に使用される。
【0088】
このようにして取得されるML−236B生合成促進cDNAがML−236B生産微生物内で機能発現し得ることは、該cDNAをML−236B生産微生物体内での機能発現に適したDNAベクターに組換え、その組換えDNAベクターで細胞を形質転換し、該形質転換細胞及び宿主細胞のML−236B生合成能を比較することにより確認できる。すなわち、ML−236B生合成促進cDNAが形質転換細胞内で機能発現していれば、該形質転換細胞のML−236B生合成能が宿主細胞のそれよりも改善されている。
【0089】
ML−236B生産微生物体内での機能発現に適したDNAベクター(以下、「発現ベクター」という。)としては、ML−236B生産微生物を形質転換することができ、且つML−236B生合成促進cDNAの塩基配列に対応するアミノ酸配列を含むことからなるポリペプチドをML−236B生産微生物体内で機能発現させることができ、且つ宿主細胞内で安定に保持され、且つ宿主細胞内で複製されるのに必要な塩基配列を有しているものであれば、特に限定されない。
【0090】
また、発現ベクターは、宿主細胞に表現形質の選択性を付与する塩基配列を有していること、及びシャトルベクターであることが、それぞれ好ましい。
【0091】
さらに、宿主細胞に付与され得る表現形質の選択性としては、薬剤耐性等が挙げられ、好適には抗生物質耐性、より好適にはアンピシリン耐性、ハイグロマイシンB耐性である。
【0092】
また、発現ベクターがシャトルベクターである場合、一方の微生物群の宿主細胞において複製されるのに必要な塩基配列を有し、且つ他方の宿主細胞において挿入配列にコードされたポリペプチドを機能発現させるのに必要な塩基配列を有していなければならない。また、形質転換される複数の微生物群の宿主にそれぞれ異なった表現形質の選択性を付与する塩基配列を有していることが好ましい。複数の微生物群の組み合わせは、本明細書中に記載されたML−236B生合成関連ゲノムDNAのクローニング及び機能発現に使用されるシャトルベクターの要件に準ずる。本発明においては、このようなシャトルベクターとして、DNAベクターpSAK333(特開平3−262486号公報記載)に、該DNAベクター上に存在するアスペルギルス・ニデュランス由来の3−ホスホグリセレートキナーゼ(3-phosphoglycerate kinase:以下、「pgk」という。)遺伝子プロモータ、外来遺伝子挿入用のアダプター、及び該DNA上に存在するpgkターミネータを、この順で組込むことにより作製されたDNAベクターpSAK700 (図4参照)が好適に使用される。
【0093】
上述のような発現ベクターに本発明のML−236B生合成促進cDNAを挿入して得られる組換えDNAベクター(組換え発現ベクター)をML−236B生産微生物体内に導入することにより、該cDNAの塩基配列に対応するアミノ酸配列を含むことからなるポリペプチドを機能発現させることができる。
【0094】
本発明の組換え発現ベクターは、構造遺伝子mlcA、mlcB、mlcC、mlcD、mlcE若しくはmlcR又はそれに対応するcDNAを1つ又は2つ以上含有してもよく、好適には、構造遺伝子mlcE若しくはmlcRに対応するcDNAを1つ又は2つ以上含有する。
【0095】
構造遺伝子mlcE、mlcRに対応するcDNAをpSAK700のアダプター部位にそれぞれ挿入することにより、組換え発現ベクターpSAKexpE及びpSAKexpRが得られた。pSAKexpEの挿入配列は配列表の配列番号37に、pSAKexpRの挿入配列は配列表の配列番号41に、それぞれ記載されている。
【0096】
pSAKexpEで形質転換された大腸菌 E.coli pSAKexpESANK 72499株は、平成12年(2000年)1月25日付けで通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(日本国茨城県つくば市東町1丁目1番3号)に国際寄託され、受託番号FERM BP−7005を付された。
【0097】
pSAKexpRで形質転換された大腸菌 E.coli pSAKexpRSANK 72599株は、平成12年(2000年)1月25日付けで通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(日本国茨城県つくば市東町1丁目1番3号)に国際寄託され、受託番号FERM BP−7006を付された。
【0098】
また、本発明の組換え発現ベクターは、単独で又は組合せによりML−236B生産微生物によるML−236B生合成を促進し得るDNAを1種又は2種以上、それぞれ1つ又は2つ以上含有してもよい。そのようなDNAとしては、構造遺伝子mlcA、mlcB、mlcC、mlcD、mlcE若しくはmlcR又はそれに対応するcDNA、ML−236B生合成関連ゲノムDNA、ML−236B生合成促進cDNAの発現調節因子をコードしたDNA等が例示できる。
【0099】
本発明のML−236B生合成促進cDNA、ML−236B生合成関連ゲノムDNA又はそれらのいずれかの断片を機能発現させるための形質転換法は、宿主細胞により適宜選択される。好適なML−236B生産微生物でるペニシリウム・シトリナムの形質転換は、ペニシリウム・シトリナムの胞子からプロトプラストを調製し、該プロトプラストに組換えDNAベクターを導入することにより行なうことができる(Nara,F.,et al.,Curr.Genet.23,28(1993)記載)。
【0100】
ペニシリウム・シトリナムを培養したスラントからPGA寒天培地のプレートへ該菌を接種し、22乃至28℃、10乃至14日間保温し、該プレートから胞子を回収し、該胞子1×107乃至1×109個を50乃至100mlのYPL−20培地(組成;0.1%(w/v)イーストエキストラクト(Difco社製)、0.5%(w/v)ポリペプトン(日本製薬(株)製)、20%(w/v)ラクトース、pH5.0)に接種し、22乃至28℃、18時間乃至2日間保温する。該培養物から発芽胞子を回収し、細胞壁分解酵素で処理し、プロトプラストを得る。細胞壁分解酵素としては、ペニシリウム・シトリナムの細胞壁を分解するものであり且つ該菌に有害な作用を及ぼさないものであれば特に限定されないが、例えば、ザイモリアーゼ、キチナーゼ等が挙げられる。
【0101】
ML−236B生産微生物又はそのプロトプラストに、ML−236B生合成促進cDNAを挿入した組換え発現ベクターを接触させると、該組換え発現ベクターがプロトプラストの中に取り込まれ、形質転換体が得られる。
【0102】
ML−236B生産微生物の形質転換体の培養は、各宿主細胞に適した条件下で行なうことができるが、好適なML−236B生産微生物であるペニシリウム・シトリナムの形質転換体の場合は、予め形質転換させたプロトプラストを適当な条件下で培養することにより細胞壁を再生させ、その後培養する。すなわち、形質転換されたペニシリウム・シトリナムのプロトプラストを封入したVGS中層寒天培地(組成;Vogel最小培地、2%(w/v)グルコース、1Mグルシトール、2%(w/v)寒天)をVGS下層寒天培地(組成;Vogel最小培地、2%(w/v)グルコース、1Mグルシトール、2.7%(w/v)寒天)及びVGS上層寒天培地(組成;Vogel最小培地、2%(w/v)グルコース、1Mグルシトール、1.5%(w/v)寒天、800μg/mlハイグロマイシン(hygromycin)B)で挟み、22乃至28℃、7乃至15日間保温することにより行なうことができる。得られた菌株はPGA培地上で、22乃至28℃で保温しつつ継代培養する。該菌株をPGA培地で作製したスラントに白金耳を用いて接種し、22乃至28℃、10乃至14日間保温し、0乃至4℃で保存する。
【0103】
上述の通り細胞壁を再生させたペニシリウム・シトリナムの形質転換体を培養したスラントから、MBG3−8培地へ該形質転換体を接種し、22乃至28℃、7乃至12日間、振盪しつつ保温することにより、ML−236Bを効率よく生産することができる。なお、宿主細胞のペニシリウム・シトリナムについても、全く同様の液体培養によりML−236Bを生産させることができる。
【0104】
ML−236B生産微生物の形質転換体の培養物からのML−236Bの精製は、通常天然物の精製に使用される諸技法を組み合わせることによりなされる。該諸技法としては、特に限定されないが、例えば、遠心分離、濾過による固液分離、アルカリ又は酸処理、有機溶媒による抽出、転溶、吸着及び分配等の各種クロマトグラフィー、結晶化等が挙げられる。ML−236Bは、ヒドロキシ酸体とラクトン体の両方の形をとり、相互に変換し、更に、ヒドロキシ酸体は安定な塩を形成する。このような物理化学的特質を利用して、ML−236Bのヒドロキシ酸体(以下、「遊離型ヒドロキシ酸」という。)、ML−236Bのヒドロキシ酸塩(以下、「ヒドロキシ酸塩」という。)、又はML−236Bのラクトン体(以下、「ラクトン」という。)を得ることができる。
【0105】
該培養物を、加熱下又は常温下でアルカリ加水分解することにより開環し、ヒドロキシ酸塩に変換し、該反応溶液を酸性にした後濾過し、濾液を水と混和しない有機溶媒で抽出することにより、目的化合物を遊離型ヒドロキシ酸として得ることができる。水と混和しない有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類、メチレンクロリド、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル等のエーテル類、蟻酸エチル、酢酸エチル等のエステル類、それら2種以上の混合溶媒等が挙げられる。
【0106】
また、この遊離型ヒドロキシ酸を、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属塩類の水溶液に転溶することにより、目的化合物をヒドロキシ酸塩として得ることができる。
【0107】
さらに、この遊離型ヒドロキシ酸を、有機溶媒中で加熱して脱水するか、又は他の方法により閉環することにより、目的化合物をラクトンとして得ることができる。
【0108】
このようにして得ることができる遊離型ヒドロキシ酸、ヒドロキシ酸塩及びラクトンは、カラムクロマトグラフィー等により精製、単離することが可能である。カラムクロマトグラフィーの担体としては、特に限定されるものではないが、例えば、セファデックス LH−20(Pharmacia社製)、ダイヤイオン HP−20(三菱化学(株)製)、シリカゲル、逆相系担体等が挙げられ、好適にはC18系の担体である。
【0109】
ML−236Bの定量法としては、通常有機化合物の定量に用いられる方法であれば特に限定されないが、例えば、逆相高性能クロマトグラフィー(reverse phase high performance liquid chromatography:以下、「逆相HPLC」という。)法等が挙げられる。逆相HPLC法による定量は、ML−236B生産微生物の培養物をアルカリ加水分解し、可溶性画分をC18カラムを用いた逆相HPLCに供し、紫外吸収を測定し、該吸収を定量化することにより行なうことがきる。C18カラムラムとしては、通常の逆相HPLCに使用されるC18カラムであれば特に限定されないが、例えば、SSC−ODS−262(直径6mm、長さ100mm:センシュー科学(株)製)等が挙げられる。移動相としては、通常逆相HPLCに使用される溶媒であれば特に限定されないが、例えば、75%(v/v)メタノール−0.1%(v/v)トリエチルアミン−0.1%(v/v)酢酸等が挙げられる。移動相に流速2ml/分の75%(v/v)メタノール−0.1%(v/v)トリエチルアミン−0.1%(v/v)酢酸を用いてSSC−ODS−262カラムにML−236Bを室温で添加すると、4.0分後に溶出される。ML−236Bの検出は、HPLC用UV検出器を用いて行なうことができ、UV検出器の吸収波長は、220乃至280nmであり、好適には220乃至260nm、より好適には236nmである。
【0110】
なお、本明細書においては、アデニンを「a」、グアニンを「g」、チミンを「t」、シトシンを「c」とそれぞれ記載する。配列表の各配列番号に示される塩基配列は、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン(特許庁公表、平成10年6月)」に従って記載した。
【0111】
【実施例】
以下に実施例及び試験例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0112】
実施例1.pSAKcos1ベクターの作製
1)大腸菌由来のハイグロマイシンBホスフォトランスフェラーゼ遺伝子(hygromycin B phosphotransferase gene:以下、「HPT」という。)を含有するプラスミドpSAK333(特開平3−262486号公報記載)を制限酵素BamHI(宝酒造(株)製)で消化し、T4DNAポリメラーゼ(宝酒造(株)製)で末端を平滑化した。
2)DNA ligation kit Ver.2(宝酒造(株)製)を用いて上記DNA断片を自己環状化し、大腸菌のコンピーテント・セルJM109株(宝酒造(株)製)を形質転換した。形質転換大腸菌からBamHI部位を欠失したプラスミドを保有する株を選抜し、この株が保有するプラスミドをpSAK360と命名した。
3)pSAK360を制限酵素Pvu2で消化した後、アルカリフォスファターゼ処理を行い、5’末端の脱リン酸化を行なった。コスミドベクターpWE15(STRATAGENE社製)からコス(cos)部位を含む[Sal1−Sca1]断片(約3kb)を取得し、T4 DNAポリメラーゼにより末端を平滑化した後、pSAK360のPvu2部位に連結し、JM109株を形質転換した。該形質転換大腸菌から[Sal1−Sca1]断片(約3kb)をPvu2部位に挿入したプラスミドを保有する株を選抜し、この株が保有するプラスミドをpSAKcos1と命名した。pSAKcos1は、pWE15由来のBamH1、EcoR1及びNot1の各制限酵素認識部位を1つずつ有する。また、pSAKcos1は選択マーカーとして、アンピシリン耐性遺伝子及びハイグロマイシン耐性遺伝子を有している。以下の実施例において、大腸菌を宿主とする場合、pSAKcos1又は外来DNAを挿入したpSAKcos1による形質転換体の選択は、40μg/mlのアンピシリン(Ampicillin:Sigma社製)を培地に添加して行なった。ペニシリウム・シトリナム SANK13380を宿主とする場合、pSAKcos1又は外来DNAを挿入したpSAKcos1による形質転換体の選択は、200μg/mlのハイグロマシシンB(hygromycin B:Sigma社製)を培地に添加して行なった。
【0113】
pSAKcos1の構築手順を図1に記載した。
実施例2.ペニシリウム・シトリナム SANK13380株のゲノムDNAの調製
1)ペニシリウム・シトリナム SANK13380株の培養
ペニシリウム・シトリナム SANK13380株の種菌の培養はPGA寒天培地を用いたスラントにて行なった。すなわち、ペニシリウム・シトリナム SANK13380株を白金耳により接種し、26℃にて14日間保温した。このスラントは4℃で保存した。
【0114】
本培養は、液体通気培養にて行なった。上述のスラント5mm角の菌体を50mlのMBG3−8培地を入れた500ml容の三角フラスコに接種し、26℃、210rpmの条件下で5日間振盪培養した。
2)ペニシリウム・シトリナム SANK13380株の培養物からのゲノムDNAの調製
1)の培養物を、室温、1000×Gの条件下で10分間遠心分離し、菌体を回収した。湿重量3gの菌体を、ドライアイスで冷却した乳鉢上で粉末になるまで破砕した。菌体破砕物を20mlの62.5mM EDTA・2Na(和光純薬(株)製)−5%(w/v)SDS−50mM Tris(和光純薬(株)製)−塩酸(和光純薬(株)製)緩衝液(pH8.0)で満たした遠心管に入れ、穏やかに混合した後、0℃にて1時間静置した。10mM Tris-塩酸−0.1mM EDTA・2Na(pH8.0:以下「TE」という。)で飽和した10mlのフェノールを添加し、50℃にて1時間穏やかに攪拌した。室温、10000×Gの条件下で10分間遠心分離した後、15mlの上層(水相)を別の遠心管に分注した。
【0115】
この上層(水相)に0.5倍容のTE飽和フェノール及び0.5倍容のクロロホルム溶液を加え、2分間穏やかに攪拌した後、室温、10000×Gの条件下で10分間遠心分離した(以下、「フェノール・クロロホルム抽出」という。)。
【0116】
10mlの上層(水相)に10mlの8M 酢酸アンモニウム(pH7.5)及び25mlの2−プロパノール(和光純薬(株)製)を添加し、−80℃にて15分間冷却した後、4℃、10000×Gの条件下で10分間遠心分離した。沈澱を5mlのTEに溶解させた後、20μlの10mg/mlリボヌクレアーゼA(Sigma社製)及び250単位のリボヌクレアーゼT1(GIBCO社製)を添加し、37℃にて20分間保温した。これに20mlの2−プロパノールを添加し、穏やかに混合した後、糸状のゲノムDNAをパスツールピペットの先端に巻きつけ、1mlのTEに溶解させた。
【0117】
このDNA溶液に0.1倍容の3M 酢酸ナトリウム(pH6.5)及び2.5倍容のエタノールを加え、−80℃にて15分冷却した後、4℃、10000×Gの条件下で5分間遠心分離した(以下、「エタノール沈澱」という。)。
【0118】
得られた沈澱を200μlのTEに溶解し、ゲノムDNA画分とした。
実施例3.ペニシリウム・シトリナム SANK13380株のゲノムDNAライブラリーの作製
1)ゲノムDNA断片の調製
実施例2において得られたペニシリウム・シトリナム SANK13380株のゲノムDNA(50μg)を含む100μlの水溶液に、0.25単位のSau3A1(宝酒造(株)製)を添加した後、10、30、60、90及び120秒経過後に20μlずつサンプリングし、各サンプルに20μlずつの0.5MEDTA(pH8.0)を加えて制限酵素反応を停止した。アガロースゲル電気泳動により、得られた部分消化DNA断片を分離し、30kb以上の大きさをもつDNA断片を含むアガロースゲルを回収した。
【0119】
回収したゲルを細かく砕き、ウルトラフリーC3遠心式ろ過ユニット(日本ミリポア(株)製)に入れた。−80℃にて15分間冷却し、ゲルを凍結した後、37℃にて10分間保温してゲルを融解した。5000×G、5分間遠心分離し、DNA抽出液を得た。このDNA抽出液について、フェノール・クロロホルム抽出及びエタノール沈澱を行ない、得られた沈澱を少量のTEに溶解した。
2)DNAベクター pSAKcos1の前処理
pSAKcos1を制限酵素BamH1(宝酒造(株)社製)により消化した後、65℃にて30分間アルカリフォスファターゼ(宝酒造(株)製)反応を行った。反応終了液について、フェノール・クロロホルム抽出及びエタノール沈澱を行ない、得られた沈澱を少量のTEに溶解した。
3)ライゲーション及びin vitroパッケージング
上記1)記載のゲノムDNA断片(2μg)及び上記2)記載の前処理済みpSAKcos1(1μg)を混合し、DNA ligation kit Ver.2(宝酒造(株)製)を用い、16℃にて16時間ライゲーション反応を行なった。反応終了液について、フェノール・クロロホルム抽出及びエタノール沈澱を行ない、得られた沈澱を5μlのTEに溶解させた。ライゲーション生成物溶液を、GIGAPAK II Gold (STRATAGENE社製)キットを用いたin vitroパッケージングに供し、組換えDNAベクターを含む形質転換大腸菌を得た。形質転換大腸菌のコロニーを形成させたプレートに3mlのLB培地を注ぎ、セルスクレーパーを用いてプレート上のコロニーを回収した(回収液1という)。さらに3mlのLB培地でプレートを洗浄、回収した(回収液2という。)。回収液1及び2の混合液にグリセリンを終濃度18%となるよう加えたものを大腸菌菌体液と称し、ペニシリウム・シトリナム SANK13380株のゲノムDNAライブラリーとして、−80℃にて保存した。
実施例4.ペニシリウム・シトリナム SANK13380株のゲノムDNAを鋳型としたPCRによるPKS遺伝子断片の増幅
1)PCR用プライマーの設計及び合成
アスペルギルス・フラヴァス(Aspergillus flavus)のPKS遺伝子のアミノ酸配列(Brown,D.W.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,93,1418(1996)記載)に基づき、配列表の配列番号3及び4に示されるミックス・プライマーを設計及び合成した。該合成はホスフォロアミダイト法により行った。
【0120】
配列表の配列番号3:gayacngcntgyasttc
配列表の配列番号4:tcnccnknrcwgtgncc
なお、配列表の配列番号3及び4に示される塩基配列において、nはイノシンの塩基(ヒポキサンチン)を、yはt又はcを、sはg又はcを、kはg又はtを、rはg又はaを、wはa又はtを、それぞれ表わす。
2)PCRによるDNA断片の増幅
上記2)記載のPCR用プライマー(各100pmol)、実施例2で得られたペニシリウム・シトリナム SANK13380株のゲノムDNA(500ng)、0.2mM dATP、0.2mM dCTP、0.2mM dGTP、0.2mM dTTP、50mM 塩化カリウム、2mM 塩化マグネシウム及び1.25単位のEx.Taq DNAポリメラーゼ(宝酒造(株)製)を含む50μlの反応液を、94℃にて1分間、58℃にて2分間、70℃にて3分間、の連続する3工程からなるサイクル反応に供した。このサイクルを30回繰り返すことによりDNA断片を増幅した。PCRは、TaKaRa PCR Thermal Cycler MP TP3000(宝酒造(株)製)を使用して行なった。
【0121】
増幅されたDNA断片を、アガロースゲル電気泳動に供した後、約1.0乃至2.0kbの大きさをもつDNA断片を含むアガロースゲルを回収した。ゲルからDNAを回収し、フェノール・クロロホルム抽出及びエタノール沈澱を行ない、得られた沈澱を少量のTEに溶解した。
3)ライゲーション及び形質転換
2)で得られたDNA断片、及び、TAクローニング・システムpCR2.1(Invitrogen社製)を用いて、このキットに含まれるプラスミドpCR2.1にライゲーションし、形質転換株を得た。
【0122】
得られたクローンを数個選び、マニアティスら(Maniatis,T.,et al.,Molecular cloning,a laboratory manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)記載)の方法に従って培養した。すなわち、2mlのLB培地を含む24ml容の試験管に各コロニーを接種し、37℃にて18時間、振盪培養した。
【0123】
この培養物からの組換えDNAベクターの調製は、アルカリ法(Maniatis,T.,et al.,Molecular cloning,a laboratory manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)記載)に従った。すなわち、1.5mlの培養液を、室温、10000×Gの条件下で2分間遠心分離し、沈澱より菌体を回収した。菌体に100μlの50mM グルコース−25mM Tris-塩酸−10mM EDTA(pH8.0) を加えて懸濁し、200μlの0.2規定水酸化ナトリウム−1%(w/v)SDSを加えて穏やかに攪拌し、溶菌させた。これに150μlの3M 酢酸カリウム−11.5%(w/v)氷酢酸を加えてタンパク質を変成させ、室温、10000×Gの条件下で10分間遠心分離し、上清を回収した。上清について、フェノール・クロロホルム抽出及びエタノール沈澱を行ない、得られた沈澱を40μg/mlのリボヌクレアーゼA(Sigma社製)を含有する50μlのTEに溶解させた。
【0124】
各組換えDNAベクターを制限酵素消化して電気泳動に供し、電気泳動パターンの異なる組換えDNAベクター中の挿入塩基配列を、DNAシークエンサー(モデル377:パーキンエルマー・ジャパン社製)を用いて決定した。
【0125】
その結果、PKS遺伝子断片を含む組換えDNAベクターを保有する株の存在が確認された。
【0126】
実施例5.ペニシリウム・シトリナム SANK13380株のゲノミック・サザンブロットハイブリダイゼーション
1)電気泳動及びメンブレンへのトランスファー
実施例2において得られたのペニシリウム・シトリナム SANK13380株のゲノムDNA(10μg)を、制限酵素EcoRI、SalI、Hind3又はSac1(いずれも宝酒造(株)製)を用いて消化し、アガロースゲル電気泳動に供した。アガロースゲルの調製には、Agarose L03「TAKARA」(宝酒造(株)製)を用いた。泳動後、ゲルを0.25規定塩酸(和光純薬(株)製)に浸し、室温にて10分間穏やかに振盪した。このゲルを0.4規定水酸化ナトリウム(和光純薬(株)製)中に移し、室温にて30分間穏やかに振盪した。マニアティスらのアルカリトランスファー法(Maniatis,T.,et al.,Molecular cloning,a laboratory manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)記載)により、ゲル中のDNAをナイロン・メンブレンHybondTM−N+(アマシャム社製)にトランスファーし、固定した。メンブレンを2×SSC(1×SSCの組成は、150mM NaCl、15mM クエン酸三ナトリウム)で洗浄した後風乾した。
2)ハイブリダイゼーション及びシグナルの検出
1)で得られたメンブレンに対し、実施例4で得られたPKS遺伝子断片をプローブとして用いたハイブリダイゼーションを行なった。
【0127】
プローブには、実施例4において得られたPKS遺伝子断片DNA(1μg)をDIG DNA Labeling Kit(ベーリンガー・マンハイム社製)で標識し、使用直前に10分間煮沸後急冷したものを用いた。
【0128】
ハイブリダイゼーション液(DIGイージーハイブ:ベーリンガー・マンハイム社製)に1)記載のメンブレンを浸し、20rpmで振盪しつつ、42℃にて2時間プレハイブリダイゼーションを行なった後、上述の標識プローブをハイブリダイゼーション液に添加し、マルチシェーカー・オーブンHB(TAITEC社製)を用い、20rpmで振盪しつつ42℃にて18時間ハイブリダイゼーションを行なった。ハイブリダイゼーションを行なったメンブレンについて、2×SSCを用いた室温、20分間の洗浄を3回、0.1×SSCを用いた55℃、30分間の洗浄を2回、それぞれ行なった。
【0129】
洗浄したメンブランをDIG Luminescent DetectionKit for Nucleic Acids(ベーリンガー・マンハイム社製)で処理し、X線フィルム(ルミフィルム:ベーリンガー・マンハイム社製)に露光した。感光は富士メディカルフィルムプロセサーFPM800A(Fuji Film社製)を用いて行なった。
【0130】
その結果、実施例4において得られたPKS遺伝子断片はペニシリウム・シトリナムのゲノム上に存在することが確認された。
【0131】
実施例6.PKS遺伝子断片をプローブとしたペニシリウム・シトリナム SANK13380株のゲノムDNAライブラリーのスクリーニング
PKS遺伝子を含むゲノムDNAのクローニングは、コロニーハイブリダイゼーション法により行なった。
1)メンブレンの調製
ペニシリウム・シトリナム SANK13380株のゲノムDNAライブラリーとして保存した大腸菌菌体液(実施例3記載)を、LB寒天培地のプレートに、プレート1枚あたり5000乃至10000個のコロニーが生育するよう希釈して撒いた。このプレートを26℃にて18時間保温した後、4℃にて1時間冷却した。HybondTM−N+(アマシャム社製)をプレートにのせ、1分間接触させた。コロニーを付着させたメンブレンをプレートから注意深く離し、コロニー接触面を上にして、200mlの1.5M 塩化ナトリウム−0.5規定 水酸化ナトリウムに7分、200mlの1.5M 塩化ナトリウム−0.5M Tris-塩酸−1mM EDTA(pH7.5)に3分ずつ2回浸した後、400mlの2×SSCで洗浄した。洗浄したメンブレンを30分風乾した。
2)ハイブリダイゼーション
プローブには、実施例4において得られたPKS遺伝子断片DNA(1μg)をDIG DNA Labeling Kit(ベーリンガー・マンハイム社製)で標識し、使用直前に10分間煮沸後急冷したものを用いた。
【0132】
ハイブリダイゼーション液(DIGイージーハイブ:ベーリンガー・マンハイム社製)に1)記載のメンブレンを浸し、20rpmで振盪しつつ、42℃にて2時間プレハイブリダイゼーションを行なった後、上述の標識プローブをハイブリダイゼーション液に加え、マルチシェーカー・オーブンHB(TAITEC社製)を用い、20rpmで振盪しつつ42℃にて18時間ハイブリダイゼーションを行なった。ハイブリダイゼーションを行なったメンブレンについて、2×SSCを用いた室温、20分間の洗浄を3回、0.1×SSCを用いた68℃、30分間の洗浄を2回、それぞれ行なった。
【0133】
洗浄したメンブランをDIG Luminescent DetectionKit for Nucleic Acids(ベーリンガー・マンハイム社製)で処理し、X線フィルム(ルミフィルム:ベーリンガー・マンハイム社製)に露光した。感光は富士メディカルフィルムプロセサーFPM800A:Fuji Film社製)を用いて行なった。
【0134】
以上、1)及び2)記載の操作をスクリーニングという。
【0135】
一回目のスクリーニングで陽性シグナルが検出されたクローンのコロニー周辺をかきとってLB培地に懸濁した後、適宜希釈してプレートに撒いて培養し、同様に二回目のスクリーニングを行ない、陽性クローンを純化した。
【0136】
なお、本実施例で得られた陽性クローン、すなわち形質転換大腸菌 E.coli pML48 SANK71199は、平成11年(1999年)7月7日付けで通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(日本国茨城県つくば市東町1丁目1番3号)に国際寄託され、受託番号FERM BP−6780を付された。
【0137】
実施例7.組換えDNAベクターpML48の挿入配列の解析(1)
実施例6で得られたE.coli pML48 SANK71199株の培養及び該培養物からの組換えDNAベクターの調製は、実施例4記載の方法に準じて行なった。
【0138】
得られた組換えDNAベクターをpML48と命名した。ML−236B生合成関連ゲノムDNAである、pML48挿入配列を、各種制限酵素消化し、pUC119(宝酒造(株)製)に組込むことにより、サブクローニングした。得られたサブクローンをプローブとして、実施例5記載の方法に準じてサザンブロット・ハイブリダイゼーションを行なった。すなわち、pML48の各種制限酵素消化物を電気泳動に供し、DNAをメンブレンへトランスファーしたものに対して、ハイブリダイゼーションを行なった。
【0139】
その結果、pML48挿入配列の制限酵素地図が作成された。
【0140】
また、上述の各サブクローンの挿入配列の塩基配列を、DNAシークエンサーモデル377(パーキンエルマー・ジャパン社製)を用いて決定し、pML48の全塩基配列を決定した。
【0141】
pML48の挿入配列は全34203塩基であった。
【0142】
pML48の挿入配列の塩基配列は、配列表の配列番号1及び2に記載されている。配列表の配列番号1及び2に示される塩基配列は、互いに、完全に相補的である。
【0143】
該挿入配列上の構造遺伝子の存在について、遺伝子検索プログラムGRAIL(ApoCom GRAIL Toolkit:APOCOM社製)及び相同性検索プログラムBLAST(Gapped−BLAST(BLAST2):WISCONSIN GCG package ver.10.0に搭載)を用いて解析した。
【0144】
その結果、pML48の挿入塩基配列中には、6種類の異なる構造遺伝子の存在が推定され、それぞれをmlcA、mlcB、mlcC、mlcD、mlcE及びmlcRと命名した。また、mlcA、mlcB、mlcE及びmlcRは配列表の配列番号2記載の塩基配列中に、mlcC及びmlcDは配列表の配列番号1に示される塩基配列中に、それぞれコード領域を有していることが推定された。さらに、該挿入配列における各推定構造遺伝子の相対的位置及び大きさが推定された。
【0145】
本実施例の結果を図2に記載した。
実施例8.組換えDNAベクターpML48の挿入配列の解析(2)
ノーザンブロット・ハイブリダイゼーション法及びRACEにより、実施例7において存在が示唆された構造遺伝子の発現解析、及び5’−末端並びに3’−末端領域の解析を行なった。
1)ペニシリウム・シトリナム SANK13380の全RNAの調製
ペニシリウム・シトリナム SANK13380株を培養したスラント(実施例2記載)より5mm角の菌体を10mlのMGB3−8培地を入れた100ml容の三角フラスコに接種し、26℃にて3日間、振盪培養した。
【0146】
培養物からの全RNAの調製は、グアニジン・イソチオシアネート法を利用したRNeasy Plant Mini Kit(キアゲン社製)を用いて行った。すなわち、培養物を、室温、5000×Gの条件下で10分間遠心分離して菌体を回収し、湿重量2gの菌体を液体窒素により凍結した後、乳鉢上で粉末になるまで破砕した。この破砕物をグアニジン・イソチオシアネートを含む4mlの菌体溶解バッファー(このキットに含まれる。)に懸濁した。懸濁液をこのキットに含まれるQIAshredderスピンカラム10本に450μlずつ分注し、室温、1000×G、10分間遠心分離した後、溶出液をそれぞれ回収した:各溶出液に225μずつのエタノールを加えた後、このキットに含まれるRNAミニスピンカラムに添加した。このカラムをこのキットに含まれる洗浄用緩衝液で洗浄した後、50μlずつのリボヌクレアーゼ・フリー蒸留水で吸着物を溶出させ、溶出液を全RNA画分とした。
2)ノーザンブロット・ハイブリダイゼーション
20μgのペニシリウム・シトリナム SANK13380の全RNAを含む2.25μlの水溶液に、1μlの10×MOPS(組成;200mM 3−モルフォリノプロパンスルホン酸、50mM 酢酸ナトリウム、10mM EDTA・2Na、pH7.0:121℃にて20分間オートクレーブ滅菌してから使用した。:同仁化学研究所(株)製)、1.75μlのホルムアルデヒド及び5μlのホルムアミドを添加して混合し、RNAサンプルとした。このRNAサンプルを、65℃にて10分間保温した後、氷水中で急冷し、アガロースゲル電気泳動に供した。電気泳動のゲルは、10mlの10×MOPS及び1gの Agarose L03「TAKARA」(宝酒造(株)製)を72mlのピロカルボニック・アシッド・ジエチルエステル(Sigma社製)処理水に混合し、加熱してアガロースを溶解させた後冷却させ、18mlのホルムアルデヒドを添加することにより作製した。サンプルバッファーは、1×MOPS(10×MOPSを水で10倍希釈したもの。)を使用した。ゲル中のRNAを、10×SSC中でHybondTM−N+(アマシャム社)へトランスファーした。
【0147】
プローブには、pML48挿入配列を下記表1記載の制限酵素1及び2で消化することにより得られるDNA断片(a、b、c、d及びe)を用いた。
【0148】
【表1】
Figure 0003972068
【0149】
プローブの標識、ハイブリダイゼーション及びシグナルの検出は、実施例5のサザンブロット・ハイブリダイゼーションに従って行なった。
【0150】
本実施例の結果を図3に記載した。
【0151】
各シグナルは各プローブの塩基配列と相同な転写産物の存在を示す。
【0152】
本実施例でpML48挿入配列上に存在が推定された6つの構造遺伝子mlcA、mlcB、mlcC、mlcD、mlcE及びmlcRはペニシリウム・シトリナム SANK13380株内で転写されていることが確認された。
【0153】
各シグナルの位置は、転写産物の相対的なサイズを示すものではない。
3)5’RACEによる5’−末端配列の決定
各構造遺伝子の5’−末端領域を含むcDNAの取得は、5’RACE System for Rapid Amplification of cDNAends,Version 2.0(GIBCO社製)を用いて行なった。
【0154】
実施例7及び本実施例の2)の結果より推定されたpML48の挿入配列上の各構造遺伝子において、コード領域であり且つ該遺伝子の5’−末端近傍に位置すると考えられる塩基配列に基いて設計されたアンチセンス側のオリゴヌクレオチドDNAを2種類作製した。
【0155】
表2に、各構造遺伝子の、より3’−側に位置する塩基配列に基いて設計されたアンチセンス側のオリゴヌクレオチドDNA(1)の塩基配列を、表3に、より5’−側に位置する塩基配列に基いて設計されたアンチセンス側のオリゴヌクレオチドDNA(2)の塩基配列を、それぞれ記載した。
【0156】
【表2】
Figure 0003972068
【0157】
【表3】
Figure 0003972068
【0158】
オリゴヌクレオチドDNA(1)をプライマーとし、ペニシリウム・シトリナム SANK13380株の全RNAを鋳型とした逆転写反応によりcDNA第一鎖を合成した。すなわち、1μgの全RNA、2.5pmolのオリゴヌクレオチドDNA(1)、1μlのSUPER SCRIPTTM II reverse transcriptase(このキットに含まれる。)を含む24μlの反応液を、16℃にて1時間保温した後、生成物をこのキットに含まれるGLASSMAXスピンカートリッジに添加してcDNA第一鎖を精製した。
【0159】
cDNA第一鎖の3’−末端に、このキットに含まれるterminal deoxyribonucleotidyl transferaseによりポリC鎖を付加させた。
【0160】
3’−末端にポリC鎖の付加したcDNA第一鎖、40pmolのオリゴヌクレオチドDNA(2)及び40pmolのAbriged Anchor Primer(このキットに含まれる)を含む50μlの反応液を、94℃にて2分間保温し、続いて、94℃にて30秒、55℃にて30秒、及び、72℃にて2分間を1サイクルとする反応を35回行なった後、72℃にて5分間、4℃にて18時間保温した。得られた産物をアガロースゲル電気泳動に供した後、ゲルからDNAを回収し、フェノール・クロロホルム抽出及びエタノール沈澱により産物を精製し、実施例4記載の方法に準じてpCR2.1を用いてクローニングした。
【0161】
以上の操作を5’RACEという。
【0162】
5’−末端を含むcDNA断片の塩基配列を決定し、転写開始点及び翻訳開始コドンの位置を推定した。
【0163】
5’RACEにより得られた各構造遺伝子に対応する5’−末端cDNA断片の塩基配列を記載した配列表の配列番号を表4に表示した。また、表5に、各構造遺伝子の転写開始点及び翻訳開始の存在する配列番号、転写開始点の位置及び翻訳開始点の位置を記載した。
【0164】
【表4】
Figure 0003972068
【0165】
【表5】
Figure 0003972068
【0166】
4)3’RACEによる3’−末端配列の決定
各構造遺伝子の3’−末端領域を含むcDNAの取得は、Ready To Go:T−Primed First−Strand kit(ファルマシア社製)を用いて行なった。
【0167】
実施例7及び本実施例の2)の結果より推定されたpML48の挿入塩基配列上の各構造遺伝子において、コード領域であり、構造遺伝子の3’−末端近傍に位置すると考えられるセンス側のオリゴヌクレオチドDNA(3)を1種類ずつを作製した。
【0168】
表6に各構造遺伝子について作製したオリゴヌクレオチドDNA(3)の塩基配列を表示した。
【0169】
【表6】
Figure 0003972068
【0170】
オリゴヌクレオチドDNA(3)をプライマーとし、ペニシリウム・シトリナム SANK13380株の全RNA(1μg)を鋳型とした逆転写反応によりcDNA第一鎖を合成した。
【0171】
cDNA第一鎖、40pmolのオリゴヌクレオチドDNA(3)及びNotI−d(T)18プライマー(このキットに含まれる。)を含む100μlの反応液を、94℃にて2分間保温し、続いて、94℃にて30秒、55℃にて30秒、及び、72℃にて2分間を1サイクルとする反応を35回行なった後、72℃にて5分間、4℃にて18時間保温した。得られた産物をアガロースゲル電気泳動に供した後、ゲルからDNAを回収し、フェノール・クロロホルム抽出及びエタノール沈澱により産物を精製し、実施例4記載の方法に準じてpCR2.1を用いてクローニングした。
【0172】
以上の操作を3’RACEという。
【0173】
得られたcDNAの3’−側断片の塩基配列を決定し、翻訳終止コドンの位置を推定した。
【0174】
3’RACEにより得られた各構造遺伝子に対応する3’−末端cDNA断片の塩基配列を記載した配列表の配列番号を表7にまとめた。また、表8に、各構造遺伝子の翻訳終止コドン及び該コドンの位置を配列表の配列番号1又は2に基いて記載した。
【0175】
【表7】
Figure 0003972068
【0176】
【表8】
Figure 0003972068
【0177】
さらに、各構造遺伝子がコードすると推定されるポリペプチドのC末端のアミノ酸残基、そのアミノ酸残基をコードするトリヌクレオチドの塩基配列及びそのトリヌクレオチドの位置を表9に記載した。
【0178】
【表9】
Figure 0003972068
【0179】
さらに、表8記載の翻訳終止コドンに対する相補配列、該相補配列の存在する配列番号、及び、該相補配列の位置を表10にまとめた。
【0180】
【表10】
Figure 0003972068
【0181】
以上の通り、各構造遺伝子の存在、その方向及びその位置が明らかとなった。これらの情報に基いて、各構造遺伝子の転写産物及び翻訳産物を取得することが可能である。
実施例9.構造遺伝子mlcEに対応するcDNAの取得
1)全RNAの調製
ペニシリウム・シトリナムの全RNAは実施例8の方法に従って調製した。
2)プライマーの設計
実施例8により決定された構造遺伝子mlcEに対応する完全長のcDNAを取得するために、mlcEの5’−上流域のヌクレオチド配列よりセンス・プライマー(5'-gttaacatgtcagaacctctaccccc-3':配列表の配列番号35番参照)を、3’−下流域のヌクレオチド配列よりアンチセンス・プライマー(5'-aatatttcaagcatcagtctcaggcac-3':配列表の配列番号36番参照)を、それぞれ設計及び合成した。該合成はホスフォロアミダイト法により行った。
3)RT−PCR
mlcEの遺伝子産物をコードする完全長のcDNAを取得するために、Takara RNA LA PCR kit(AMV)Ver.1.1を用いた。
【0182】
1μgの全RNA、キットに添付のRandom 9mersプライマーを2.5pmol、1μlの逆転写酵素(キットに含まれる。)を含む20μlの反応液を42℃にて30分保温し、cDNA第1鎖を合成した後、99℃にて5分間加熱して逆転写酵素を失活させた。
【0183】
cDNA第1鎖反応溶液全量、40pmolのセンス・プライマー及び40pmolのアンチセンス・プライマーを含む総容100μlの反応液を、94℃にて2分間保温し、続いて、94℃にて30秒、60℃にて30秒、及び、72℃にて2分間を1サイクルとする反応を30回行なった後、72℃にて5分間、4℃にて18時間保温した。得られた産物をアガロースゲル電気泳動に供した後、ゲルからDNAを回収し、フェノール・クロロホルム抽出及びエタノール沈澱により産物を精製した。つづいて、実施例4記載の方法に準じてpCR2.1を用いて、大腸菌のコンピーテント・セルJM109株(宝酒造(株)製)を形質転換し、形質転換大腸菌から該DNA断片を所有したプラスミドを保持する株を選抜し、この株が保有するプラスミドをpCRexpEと命名した。
【0184】
得られた組換えDNAベクターpCRexpE中の挿入DNAの塩基配列を決定したところ、該挿入DNAは構造遺伝子mlcEに対応する完全長のcDNAを含んでいた。その塩基配列及びその塩基配列によりコードされるポリペプチドの推定アミノ酸配列は、配列表の配列番号37及び/又は38に記載されている。
実施例10.構造遺伝子mlcRに対応するcDNAの取得
1)全RNAの調製
ペニシリウム・シトリナムの全RNAは実施例8の方法に従って調製した。
2)プライマーの設計
実施例8により決定された構造遺伝子mlcRに対応する完全長のcDNAを取得するために、mlcRの5’−上流域のヌクレオチド配列よりセンス・プライマー(5'-ggatccatgtccctgccgcatgcaacgattc-3':配列表の配列番号39参照)を、3’−下流域のヌクレオチド配列よりアンチセンス・プライマー(5'-ggatccctaagcaatattgtgtttcttcgc-3':配列表の配列番号40参照)を、それぞれ設計及び合成した。該合成はホスフォロアミダイト法により行った。
3)RT−PCR
mlcRの遺伝子産物をコードする完全長のcDNAを取得するために、Takara RNA LA PCR kit(AMV)Ver.1.1を用いた。
【0185】
1μgの全RNA、キットに添付のRandom 9mersプライマーを2.5pmol、1μlの逆転写酵素(キットに含まれる。)を含む20μlの反応液を42℃にて30分保温し、cDNA第1鎖を合成した後、99℃にて5分間加熱して逆転写酵素を失活させた。
【0186】
cDNA第1鎖反応溶液全量、40pmolのセンス・プライマー及び40pmolのアンチセンス・プライマーを含む総容100μlの反応液を、94℃にて2分間保温し、続いて、94℃にて30秒、60℃にて30秒、及び、72℃にて2分間を1サイクルとする反応を30回行なった後、72℃にて5分間、4℃にて18時間保温した。得られた産物をアガロースゲル電気泳動に供した後、ゲルからDNAを回収し、フェノール・クロロホルム抽出及びエタノール沈澱により産物を精製した。つづいて、実施例4記載の方法に準じてpCR2.1を用いて、大腸菌のコンピーテント・セルJM109株(宝酒造(株)製)を形質転換し、形質転換大腸菌から該DNA断片を所有したプラスミドを保持する株を選抜し、この株が保有するプラスミドをpCRexpRと命名した。
【0187】
得られた組換えDNAベクターpCRexpR中の挿入DNAの塩基配列を決定したところ、該挿入DNAは構造遺伝子mlcRに対応する完全長のcDNAを含んでいた。その塩基配列及びその塩基配列によりコードされるポリペプチドの推定アミノ酸配列は、配列表の配列番号41及び/又は42に記載されている。
実施例11.発現ベクターpSAK700の構築
実施例1記載のベクターpSAK333及びpSAK360を用いて、cDNA発現ベクターpSAK700の構築を行なった。
1)pSAK333を制限酵素BamH1とHind3(宝酒造(株)製)で二重消化し、アガロースゲル電気泳動後、4.1kb断片をゲルより回収し、T4DNAポリメラーゼ(宝酒造(株)製)で該DNA断片の末端を平滑化した。
2)DNA ligation kit Ver.2(宝酒造(株)製)を用いて上記DNA断片に、EcoR1−Not1−BamH1アダプター(宝酒造(株)製)を連結し、大腸菌のコンピーテント・セルJM109株(宝酒造(株)製)を形質転換した。形質転換大腸菌からアダプターを所有したプラスミドを保有する株を選抜し、この株が保有するプラスミドをpSAK410と命名した。
3)pSAK360を制限酵素Pvu2及びSsp1で二重消化した後、電気泳動を行ない、アスペルギルス・ニデュランス由来の3−ホスホグリセレートキナーゼ(3-phosphoglycerate kinase:以下、「pgk」という。)遺伝子のプロモーター及びターミネーター、大腸菌由来のHPTを含有するDNA断片(約2.9kb)をゲルより回収した。
4)回収した上記DNA断片を、pSAK410のPvu2部位に、DNA ligation kit Ver.2(宝酒造(株)製)を用いて連結し、大腸菌のコンピーテント・セルJM109株(宝酒造(株)製)を形質転換した。形質転換大腸菌から該DNA断片を所有したプラスミドを保持する株を選抜し、この株が保有するプラスミドをpSAK700と命名した。
【0188】
pSAK700の構築手順を図4に記載する。
【0189】
pSAK700は、アダプター由来のBamHI及びNotIの各制限酵素認識部位を1つずつ有する。また、pSAK700は選択マーカーとして、アンピシリン耐性遺伝子(Ampicillin resistant gene:以下、「Ampr」という。)及びハイグロマイシン耐性遺伝子であるHTPを有している。以下の実施例において、大腸菌を宿主とする場合、pSAK700又は外来DNAを挿入したpSAK700による形質転換体の選択は、40μg/mlのアンピシリンを培地に添加して行なった。ペニシリウム・シトリナム SANK13380を宿主とする場合、pSAK700又は外来DNAを挿入したpSAK700による形質転換体の選択は、200μg/mlのハイグロマシシンBを培地に添加して行なった。
実施例12.組換え発現ベクターpSAKexpEの構築
1)実施例9で得られた組換えDNAベクターpCRexpEを制限酵素HpaI及びSspI(ともに,宝酒造(株)製)の存在下で37℃にて2時間反応させ、該反応物をアガロースゲル電気泳動に供し、mlcEの完全長cDNAを含む1.7kb付近のバンドをゲルより回収した。
2)pSAK700を制限酵素NotI(宝酒造(株)製)で37℃1時間反応させた後、T4DNAポリメラーゼ(宝酒造(株)製)と37℃5分間反応させることにより末端を平滑化し、フェノール・クロロホルム抽出及びエタノール沈殿を行った。得られた沈殿を少量のTEに溶解させ、アルカリホスファターゼ(宝酒造(株)製)を添加し、65℃30分間反応させた。このように平滑末端化したpSAK700のNot1消化物と、1)で得られた1.7kbのDNA断片を、DNA ligation kit Ver.2(宝酒造(株)製)を用いて連結し、大腸菌のコンピーテント・セルJM109株(宝酒造(株)製)を形質転換した。その結果、組換え発現ベクターで形質転換された大腸菌株が得られた。
【0190】
本実施例で得られた形質転換大腸菌 E.coli pSAKexpE SANK 72499株は、平成12年(2000年)1月25日付けで通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(日本国茨城県つくば市東町1丁目1番3号)に国際寄託され、受託番号FERM BP−7005を付与された。
実施例13.組換え発現ベクターpSAKexpRの構築
1)実施例10で得られた組換えDNAベクターpCRexpRを制限酵素BamH1(宝酒造(株)製)の存在下で37℃にて2時間反応させ、該反応物をアガロースゲル電気泳動に供し、mlcRの完全長cDNAを含む1.4kb付近のバンドをゲルより回収した。
2)pSAK700を制限酵素BamHI(宝酒造(株)製)で37℃1時間反応させた後、アルカリフォスファターゼ(宝酒造(株)製)を添加して65℃にて30分間反応させた。このようにBamH1消化されたpSAK700と、1)で得られた1.4kbのDNA断片を、DNA ligation kit Ver.2(宝酒造(株)製)を用いて連結し、大腸菌のコンピーテント・セルJM109株(宝酒造(株)製)を形質転換した。その結果、組換え発現ベクターで形質転換された大腸菌株が得られた。
【0191】
本実施例で得られた形質転換大腸菌 E.coli pSAKexpR SANK 72599株は、平成12年(2000年)1月25日付けで通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(日本国茨城県つくば市東町1丁目1番3号)に国際寄託され、受託番号FERM BP−7006を付与された。
実施例14.ML−236B生産微生物の形質転換
1)プロトプラストの調製
ペニシリウム・シトリナム SANK13380株を培養したスラントより、白金耳を用いてPGA寒天培地に接種し、26℃にて14日間保温した。該培養物よりペニシリウム・シトリナム SANK13380株の胞子を回収し、1×108個の胞子を80mlのYPL−20培地に接種し、26℃にて1日間保温した。胞子の発芽を顕微鏡観察により確認した後、発芽胞子を、室温、5000×Gの条件下で10分間遠心分離して胞子を沈澱として回収した。胞子を滅菌水で3回洗浄した後、プロトプラスト化を行なった。すなわち、200mgのザイモリアーゼ20T(生化学工業(株)製)及び100mgのキチナーゼ(Sigma社製)を10mlの0.55M 塩化マグネシウムに溶解し、室温、5000×Gの条件下で10分間遠心分離して得られた上清を酵素液とし、20mlの酵素液及び湿重量0.5gの発芽胞子を100ml容三角フラスコに入れ、30℃にて60分間穏やかに振盪し、発芽胞子がプロトプラスト化したことを顕微鏡観察により確認した後、反応液を3G−2ガラスフィルター(HARIO社製)で濾過した。該濾液を、室温、1000×Gの条件下で10分間遠心分離し、プロトプラストを沈澱として回収した。
2)形質転換
1)で得られたプロトプラストを30mlの0.55M 塩化マグネシウム溶液で2回、30mlの0.55M 塩化マグネシウム−50mM 塩化カルシウム−10mM 3−モルフォリノプロパンスルホン酸(pH6.3:以下、「MCM溶液」という。)で1回それぞれ洗浄し、100μlの4%(w/v)ポリエチレングリコール8000−10mM 3−モルフォリノプロパンスルホン酸−0.0025%(w/v)ヘパリン(Sigma社製)−50mM 塩化マグネシウム(pH6.3:以下、「形質転換用溶液」という。)に懸濁した。約5×107個のプロトプラストを含む96μlの形質転換溶液及び120μgのpSAKexpE(実施例12記載)又はpSAKexpR(実施例13記載)を含む10μlのTEを混合し、氷上で30分間静置した。これに1.2mlの20%(w/v)ポリエチレングリコール−50mM 塩化マグネシウム−10mM 3−モルフォリノプロパンスルホン酸(pH6.3)を加えて穏やかにピペッティングし、室温、20分間静置した。これに10mlのMCM溶液を加えて穏やかに混合し、室温、1000×Gの条件下で10分間遠心分離した。沈澱より形質転換プロトプラストを回収した。
3)形質転換プロトプラストにおける細胞壁の再生
2)で得られた形質転換プロトプラストを5mlの液状のVGS中層寒天培地に懸濁し、固化した10mlのVGS下層寒天培地プレートに重層した。該プレートを、26℃にて1日間培養した後、プレート1枚につき5mgのハイグロマイシンB(Hygromycin B:Sigma社製)を含む10mlの液状のVGS上層寒天培地を重層した(ハイグロマイシンBの終濃度は200μg/ml)。26℃にて14日間保温して得られた菌株を、200μg/mlのハイグロマイシンBを含有するPGA寒天培地上で継代培養した後、PGA寒天培地で作製したスラントに植え継ぎ、26℃にて14日間保温した。
【0192】
該スラントは4℃で保存した。
実施例15.構造遺伝子mlcA、mlcB、mlcC及びmlcDに対応する各cDNA配列の決定
1)構造遺伝子mlcAに対応するcDNA配列の決定
TAKARA LA PCR kit ver1.1(宝酒造(株)製)を用いてcDNA第1鎖を合成した。
【0193】
所望のcDNAの全長又はその部分領域を増幅するために多種のプライマーを設計し、該cDNA第1鎖を鋳型として以下の条件によるPCRを行った;The Big Dye Primer/Terminator Cycle Sequenceing及びKitとThe AB1 Prism 377 Sequencer(ともに、PEアプライド・バイオシステムズ社製)を用い、94℃にて30秒、62℃にて30秒、72℃にて5分からなる反応サイクルを30回反復した。
【0194】
PCR産物をそれぞれプラスミドpCR2.1へ挿入した。
【0195】
組換プラスミドでそれぞれ大腸菌を形質転換した。
【0196】
形質転換大腸菌から得られた組換プラスミドの各挿入配列のヌクレオチド配列と構造遺伝子mlcAのヌクレオチド配列とを比較することにより、エキソンとイントロンの構造を決定した。
【0197】
このようにして、構造遺伝子mlcAに対応するcDNAの配列が決定され(配列表の配列番号43)、該cDNAによりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列が推定された(配列表の配列番号44)。また、該ポリペプチドの機能が、アミノ酸配列の相同性検索により推定された。
【0198】
構造遺伝子mlcAによりコードされるポリペプチドと最も高い相同性を示すアミノ酸配列を有する公知物質はロバスタチン生合成遺伝子クラスター上に存在するLNKS(lovE)であり、60%同一であった。
2)構造遺伝子mlcBに対応するcDNA配列の決定
1)と同様に、構造遺伝子mlcBに対応するcDNAのヌクレオチド配列が決定され(配列表の配列番号45)、該cDNAによりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列が推定された(配列表の配列番号46)。また、該ポリペプチドの機能が、アミノ酸配列の相同性検索により推定された。
【0199】
構造遺伝子mlcBによりコードされるポリペプチドと最も高い相同性を示すアミノ酸配列を有する公知物質はロバスタチン生合成遺伝子クラスター上に存在するLDKS(lovF)であり、61%同一であった。
3)構造遺伝子mlcCに対応するcDNA配列の決定
1)と同様に、構造遺伝子mlcCに対応するcDNAのヌクレオチド配列が決定され(配列表の配列番号47)、該cDNAによりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列が推定された(配列表の配列番号48)。また、該ポリペプチドの機能が、アミノ酸配列の相同性検索により推定された。
【0200】
構造遺伝子mlcCによりコードされるポリペプチドと最も高い相同性を示すアミノ酸配列を有する公知物質はロバスタチン生合成遺伝子クラスター上に存在するlovAであり、72%同一であった。
4)構造遺伝子mlcDに対応するcDNA配列の決定
1)と同様に、構造遺伝子mlcDに対応するcDNAのヌクレオチド配列が決定され(配列表の配列番号49)、該cDNAによりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列が推定された(配列表の配列番号50)。また、該ポリペプチドの機能が、アミノ酸配列の相同性検索により推定された。
【0201】
構造遺伝子mlcDによりコードされるポリペプチドと最も高い相同性を示すアミノ酸配列を有する公知物質はロバスタチン生合成遺伝子クラスター上に存在するORF8であり、63%同一であった。
5)構造遺伝子mlcA、mlcB、mlcC及びmlcDの各エキソンの、pML48挿入配列上の位置は、表13に示す通りである。
【0202】
【表11】
Figure 0003972068
【0203】
また、構造遺伝子mlcA、mlcB、mlcC、mlcD、mlcE及びmlcRの転写終結点の、pML48挿入配列上の位置は、表12に示す通りである。
【0204】
【表12】
Figure 0003972068
【0205】
実施例16.構造遺伝子mlcA、mlcB又はmlcDの破壊
DNAの相同組換(homologous recombination)手法を用いた部位特異的変異(site directed mutagenesis)により、ペニシリウム・シトリナムの構造遺伝子mlcA、mlcB又はmlcDを破壊した。
1)構造遺伝子mlcA破壊株の取得とその解析
pSAK333を用い、ペニシリウム・シトリナムの構造遺伝子mlcAを破壊するための組換プラスミドを作製した。
【0206】
pML48挿入配列を制限酵素Kpn1で消化し、構造遺伝子mlcA中の4.1断片を回収、精製した後、DNA Blunting Kit(宝酒造(株)製)を用いて平滑末端化し、制限酵素Pvu2で消化したpSAK333に連結した。得られたプラスミドをpdismlcAと命名した。
【0207】
ペニシリウム・シトリナム SANK 13380株をpdismlcAで形質転換した。
【0208】
pdismlcA形質転換株のゲノムDNAを用いてサザンブロット・ハイブリダイゼーションを行い、構造遺伝子mlcAの破壊を確認した。
【0209】
得られた構造遺伝子mlcA破壊株は、ML−236B及びその前駆体を全く生産しなかった。
2)構造遺伝子mlcB破壊株の取得とその解析
pSAK333を用い、ペニシリウム・シトリナムの構造遺伝子mlcBを破壊するための組換プラスミドを作製した。
【0210】
pML48挿入配列を制限酵素Pst1及びBamH1で消化し、構造遺伝子mlcB中の1.4kb断片を回収、精製した後、DNA Blunting Kit(宝酒造(株)製)を用いて平滑末端化し、制限酵素Pvu2で消化したpSAK333に連結した。得られたプラスミドをpdismlcBと命名した。
【0211】
ペニシリウム・シトリナム SANK 13380株をpdismlcBで形質転換した。
【0212】
pdismlcB形質転換株のゲノムDNAを用いてサザンブロット・ハイブリダイゼーションを行い、構造遺伝子mlcBの破壊を確認した。
【0213】
得られた構造遺伝子mlcB破壊株は、ML−236Bを生産せず、ML−236Bの前駆体であるML−236Aを生産した。
3)構造遺伝子mlcD破壊株の取得とその解析
pSAK333を用い、ペニシリウム・シトリナムの構造遺伝子mlcDを破壊するための組換プラスミドを作製した。
【0214】
pML48挿入配列を制限酵素Kpn1及びBamH1で消化し、構造遺伝子mlcD中の1.4kb断片を回収、精製した後、DNA Blunting Kit(宝酒造(株)製)を用いて平滑末端化し、制限酵素Pvu2で消化したpSAK333に連結した。得られたプラスミドをpdismlcDと命名した。
【0215】
ペニシリウム・シトリナム SANK 13380株をpdismlcDで形質転換した。
【0216】
pdismlcD形質転換株のゲノムDNAを用いてサザンブロット・ハイブリダイゼーションを行い、構造遺伝子mlcDの破壊を確認した。
【0217】
得られた構造遺伝子mlcD破壊株のML−236B生産量は、対照のmlcD非破壊株の30%であった。
実施例17.pSAKexpR形質転換株における構造遺伝子mlcRの機能解析
実施例13において得られた2つのpSAKexpR形質転換株(TR1及びTR2)及び対照の非形質転換株(ペニシリウム・シトリナム SANK13380株)を、それぞれMBG3−8培地に接種し、実施例8記載の方法により培養した。
【0218】
培養終了後、実施例8記載の方法により、全RNAを抽出した。
【0219】
全RNAを鋳型とし、構造遺伝子mlcA、mlcB、mlcC、mlcD、mlcE又はmlcRのヌクレオチド配列に基づいて設計されたオリゴヌクレオチド(表13参照)をプライマーとして、RT−PCRを行った。
【0220】
【表13】
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【0221】
TR1、TR2及びペニシリウム・シトリナム SANK13380株に関するRT−PCR分析の結果を図5に示す。
【0222】
形質転換株(TR1及びTR2)において、構造遺伝子mlcA、mlcB、mlcC、mlcD並びにmlcRは、培養1日目、2日目及び3日目のいずれにおいても発現していた。
【0223】
これに対し、非形質転換対照株(ペニシリウム・シトリナム SANK13380株)において、これらの構造遺伝子は、培養3日目においてのみ発現していた。
【0224】
構造遺伝子mlcEの発現は、形質転換株と非形質転換対照株とで、差が見られなかった。
【0225】
これらの結果は、構造遺伝子mlcRに対応するcDNAによりコードされるタンパク質が、ML−236B生合成関連ゲノムDNA上に位置する他の構造遺伝子(mlcA、mlcB、mlcC、mlcD等)のいくつかの転写を誘導することを示唆するものである。
実施例18.pSAKexpE形質転換株における構造遺伝子mlcEの機能解析
実施例13において得られたpSAKexpR形質転換株(TE1)及び対照の非形質転換株(ペニシリウム・シトリナム SANK13380株)を、それぞれMBG3−8培地に接種し、実施例8記載の方法により培養した。
【0226】
培養終了後、実施例8記載の方法により、全RNAを抽出した。
【0227】
全RNAを鋳型とし、実施例17の表13に記載オリゴヌクレオチドをプライマーとして、RT−PCRを行った。
【0228】
TE1及びペニシリウム・シトリナム SANK13380株に関する、構造遺伝子mlcEのRT−PCR分析の結果を図6に示す。
【0229】
形質転換株(TE1)において、構造遺伝子mlcEは、培養1日目、2日目及び3日目のいずれにおいても発現していた。
【0230】
これに対し、非形質転換対照株(ペニシリウム・シトリナム SANK13380株)において、構造遺伝子mlcEは、培養3日目においてのみ発現していた。
【0231】
一方、構造遺伝子mlcA、mlcB、mlcC、mlcD及びmlcRの発現は、形質転換株と非形質転換対照株とで、差が見られなかった。
【0232】
これらの結果は、構造遺伝子mlcEに対応するcDNAによりコードされるタンパク質が、ML−236B生合成関連ゲノムDNA上に位置する他の構造遺伝子mlcA、mlcB、mlcC、mlcD及びmlcRの転写誘導を伴わずに、ML−236Bの生合成を促進し得ることを示唆するものである。
試験例1.形質転換株及び親株の有するML−236B生合成能の比較
実施例14において得られた形質転換株及び対照の非形質転換株であるペニシリウム・シトリナム SANK13380株を培養し、該培養物中のML−236B量を測定した。
【0233】
形質転換株を培養した実施例14記載のスラント又はペニシリウム・シトリナム SANK13380株を培養した実施例2記載のスラントより、5mm角の菌体を、10mlのMBG3−8培地を入れた100ml容の三角フラスコに接種し、24℃にて2日間、振盪培養した後、3.5mlの50%(w/v)グリセリン溶液を添加し、さらに24℃にて10日間、振盪培養した。
【0234】
該培養物10mlに50mlの0.2規定水酸化ナトリウムを加え、26℃にて1時間、振盪しつつ保温した後、室温、3000×Gの条件下で2分間遠心分離し、1mlの上清を回収し、9mlの50%メタノールと混合してHPLCに供した。
【0235】
HPLCのカラムには、SSC−ODS−262(直径6mm、長さ100mm:センシュー科学(株)製)を用い、移動相には75%(v/v)メタノール−0.1%(v/v)トリエチルアミン−0.1%(v/v)酢酸を用い、室温にて2ml/分の流速で溶出した。これら条件下において、ML−236Bはカラム添加後4.0分に溶出された。検出はUV検出器の吸収波長を236nmに設定して行なった。
【0236】
pSAKexpE形質転換株のうち、ML−236B生合成能の上昇した株3つが得られた。これらのML−236B生合成能は、対照の非形質転換株より平均10%高かった。これら3株のML−236B生合成能は、モノスポア処理等の継代を行なった後も安定に維持された。
【0237】
pSAKexpR形質転換株のうち、ML−236B生合成能の上昇した株5つが得られた。これらのML−236B生合成能は、対照の非形質転換株より平均15%高かった。これら5株のML−236B生合成能は、モノスポア処理等の継代を行なった後も安定に維持された。
【0238】
これらの結果より、pSAKexpE又はpSAKexpRの挿入配列は、ML−236B生合成促進cDNAであることが示された。
【0239】
【発明の効果】
本発明においてML−236B生産微生物より得られたML−236B生合成促進cDNAは、ML−236B生産微生物内に導入されることにより該生産微生物のML−236B生合成を促進する。
【図面の簡単な説明】
【図1】大腸菌及び糸状菌に導入させることができ且つ長いDNAを挿入することができるDNAベクターpSAKcos1の構築図。
【図2】pML48挿入配列の構造遺伝子解析。
【図3】pML48挿入配列のノーザンブロット・ハイブリダイゼーション。
【図4】大腸菌及び糸状菌に導入させることができる発現ベクターpSAK700の構築図。
【図5】pSAKexpR形質転換株及び非形質転換対照株における、構造遺伝子mlcA、mlcB、mlcC、mlcD、mlcE及びmlcRの、RT−PCRを用いた発現解析。
【図6】pSAKexpE形質転換株及び非形質転換対照株における、構造遺伝子mlcEの、RT−PCRを用いた発現解析。
【配列表】
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Claims (10)

  1. 以下の群から選択されるDNA。
    (a)配列表の配列番号41のヌクレオチド番号1乃至1380で示される塩基配列を1つ又は複数含むことからなり、ML−236B生産微生物内に導入されることにより該生産微生物のML−236B生合成を促進することを特徴とするDNA:
    (b)(a)記載のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、ML−236B生産微生物内に導入されることにより該生産微生物のML−236B生合成を促進することを特徴とするDNA。
  2. 形質転換大腸菌 E.coli pSAKexpR SANK 72599株(FERM BP−7006)より得ることができる、請求項1記載のDNA。
  3. 請求項1又は2に記載のDNAを含む組換えDNAベクター。
  4. 形質転換大腸菌 E.coli pSAKexpR SANK 72599(FERM BP−7006)株より得ることができる、請求項3記載の組換えDNAベクター。
  5. 請求項3又は4に記載の組換えDNAベクターで形質転換された宿主細胞。
  6. ML−236B生産微生物であることを特徴とする請求項5記載の宿主細胞。
  7. ペニシリウム・シトリナム(Penicillium citrinum)であることを特徴とする、請求項6記載の宿主細胞。
  8. 請求項7記載の宿主細胞を培養し、次いで該培養物からML−236Bを回収することを特徴とする、ML−236Bの製造法。
  9. 大腸菌であることを特徴とする、請求項5記載の宿主細胞。
  10. 形質転換大腸菌 E.coli pSAKexpR SANK 72599(FERM BP−7006)株である、請求項9記載の宿主細胞。
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