JP3970947B2 - セルロースエステル化合物 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、新規なセルロースエステル化合物に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、水または食塩水などの塩類水溶液の吸収剤として、カルボキシメチルセルロースの架橋体、セルロースとアクリロニトリルのグラフト重合体の加水分解物、セルロースとアクリル酸金属塩のグラフト重合体などが知られている。
【0003】
しかし、これらはセルロースの特徴である生分解性が損なわれるという問題点があった。
【0004】
また、アルカリ性の水には溶解し、酸性または中性の水には溶解しないカルボン酸エステル系セルロース重合体の製造方法として、カルボン酸アルカリ金属塩を触媒として、酢酸溶媒中でセルロース類と多価カルボン酸無水物とをエステル反応させる方法が特開平5−339301号に開示されている。さらに、同公報には、セルロースアセタートであるヘキサヒドロフタル酸エステルなどのカルボン酸エステル系セルロース誘導体が記載されている。
【0005】
また、一方、高分子多糖類にヒドロキシモノカルボン酸の環状ラクトンであるε−カプロラクトンをエステルグラフトする方法も特開平6−220793号公報に記載されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記した従来のカルボン酸エステル系セルロースは、セルロースの水酸基にエステル結合するカルボン酸が、ヒドロキシモノカルボン酸または水酸基を有しないポリカルボン酸であって、以下のようにその物性が充分に改良されたものではなかった。
【0007】
すなわち、カルボン酸エステル系セルロースのうち、エステル結合するカルボン酸がヒドロキシモノカルボン酸であるものは、カルボキシル基を有しないセルロース化合物となるので、イオン交換体等に利用できる可能性はない。
【0008】
また、カルボン酸エステル系セルロースのうち、エステル結合するカルボン酸が水酸基を有しないポリカルボン酸であるものは、モノマー置換体にはなるが、ポリマー置換体にはなり得ず、すなわち分子置換度(MS)の小さいものしか得られないため、イオン交換体などの担体として利用した場合に充分な担持量がないなどの問題点があった。
【0009】
また、水酸基を有しないポリカルボン酸をエステル結合したセルロースは、それ自体、またはそのアルカリ金属塩においても抗菌性を有するものではなかった。
【0010】
そこで、この発明は上記した問題点を解決して、カルボキシル基を有するセルロースエステル化合物であり、またはポリマー置換体であるために分子置換度(MS)が大きなものとなり得るセルロースエステル化合物であって、しかもセルロース本来の生分解性および親水性を維持しつつ水に不溶なものであり、置換されたポリマーは、エステル結合であるために加水分解が可能でC−C結合からなるポリマー置換体に比べて極めて分解性に優れ、また、抗菌性金属塩でなくてもそれ自体で抗菌性を発揮するセルロースエステル化合物を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、この発明においては、セルロースまたはセルロース誘導体の少なくとも一つの水酸基とヒドロキシポリカルボン酸のカルボキシル基とがエステル結合してなるセルロースエステル化合物としたのである。
【0012】
または、下記式で示される部分構造を有するセルロースエステルグラフト共重合体である上記セルロースエステル化合物としたのである。
【0013】
6 7 2 (OA)3-m (ORx m
(式中、Aは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、カルボキシメチル基または炭素数2〜5のアシル基を表わし、Rはヒドロキシポリカルボン酸であり、 (ORx m は重合度xのヒドロキシポリカルボン酸ポリマーのエステル結合残基を表わし、X≧2、m=1〜3(自然数)である。)
【0014】
【発明の実施の形態】
この発明のセルロースエステル化合物は、セルロースまたはセルロース誘導体がヒドロキシポリカルボン酸と以下の▲1▼〜▲3▼のように反応して生成するものと考えられる。
【0015】
すなわち、▲1▼ ヒドロキシポリカルボン酸の1つのカルボキシル基は、セルロースのグルコース残基の水酸基と脱水反応して、エステル結合を生成し、また、架橋結合も生成する。
【0016】
▲2▼ セルロースにエステル結合したヒドロキシポリカルボン酸のカルボキシル基のうち、エステル結合していないカルボキシル基と、セルロースにエステル結合していないヒドロキシカルボン酸の水酸基とが新たに脱水反応してエステル結合を生成し得る。この場合にはグラフト共重合体を構成する。
【0017】
▲3▼ ヒドロキシポリカルボン酸の水酸基がβ位の水素と脱離反応して二重結合を生じ得る。
【0018】
この発明のセルロースエステル化合物は、上記反応によってヒドロキシポリカルボン酸と反応し、この化合物はモノマー置換体に比べて分子置換度(MS)が大きくなっており、特にカルボキシル基も増加して、親水性などの物性が改善される。また、架橋結合を有するので、カルボキシル基が増加しても水に不溶である。
【0019】
また、この発明のセルロースエステル化合物は、分子置換度(MS)が大きくなり得るため、カルボキシル基の量が多くなり、イオン交換量が多くなると考えられる。そして、カルボキシル基それ自体が若干の抗菌性を有しており、上記のようにこれが増加することが、抗菌性の向上に寄与していると考えられる。
【0020】
この発明で用いるヒドロキシポリカルボン酸は、水酸基を有する2価以上のカルボン酸であって、下記の化1の式で表わされるものである。
【0021】
【化1】
Figure 0003970947
【0022】
(式中、Rは水素、メチル、エチル、フェニルまたは−COOHもしくは−CH2 COOH基を表わし、X、Yはそれぞれ水素、メチル基またはエチル基であり、XまたはYの一方が水酸基であってよく、nは0、1、2を示す。ただし、式中のカルボキシル基のうち少なくとも1個を除く残りのカルボキシル基はエステル化されていてもよい。)
このようなヒドロキシポリカルボン酸の具体例としては、リンゴ酸、α−メチルリンゴ酸、α−オキシ−α´−メチルコハク酸、α−オキシ−α´−エチルコハク酸、α−オキシ−α,α´−ジメチルコハク酸、トリメチルリンゴ酸、α−フェニルリンゴ酸、タルトロン酸、α−オキシグルタール酸、クエン酸などが挙げられる。これらは光学活性のd体またはl体またはそれらの混合物であってもよい。
【0023】
このうち、この発明に利用し得るヒドロキシポリカルボン酸ポリマー、例えばリンゴ酸のポリマーであるポリリンゴ酸の製造方法としては、まずリンゴ酸のモノエステルを合成し、脱水剤を用いて重合する方法、またそのモノエステルのラクトンや二量体の環状エステルを合成し、これを無水条件下に重合するという方法があるが、合成が多段階にわたり、反応条件も無水条件を必要とするなど工業的に現実的な方法とはいえない。一方、単にリンゴ酸を減圧下に加熱縮合してポリリンゴ酸を合成する方法は、より工業的な方法であるから、この方法をこの発明に適用した。
【0024】
すなわち、この発明におけるセルロースエステル化合物、例えばリンゴ酸−セルロースエステルの合成方法として、
▲1▼ リンゴ酸からのポリリンゴ酸の生成反応を伴うリンゴ酸とセルロースとの脱水反応をワンポット(one pot)で行なう方法、
▲2▼ 上記方法で生成したポリリンゴ酸とセルロースとの脱水反応による方法を採用した。
【0025】
これらの製造方法は、工程数が少ない点で有利であると考えられる。
【0026】
なお、前記した化1の式の代表例であるリンゴ酸において、式中のカルボキシル基のうち少なくとも1個を除く残りのカルボキシル基がエステル化されている場合を下記の化2式に例示した。
【0027】
【化2】
Figure 0003970947
【0028】
(式中、COORはエステル化されたカルボキシル基を表わす。)
上式のように、本願発明に用いるエステル化されたヒドロキシポリカルボン酸は、α−モノエステル(I)でも、β−モノエステル(II)でもよい。そして、式中のRは、飽和または不飽和の脂肪族基または芳香族基であり、その例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、ビニル、1−プロペニル、アリル、イソプロペニル、エチニル、シクロペンチル、シクロプロピル、シクロヘキシ、フェニル、トリル、キシリル、メシリル、クメニル、ベンジル、フェニチル、スチリル、シナミル、ビフェニルナフチル、アントリル、フェナントリル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシフェニルなどの基が挙げられる。
【0029】
この発明において、これらヒドロキシポリカルボン酸またはそのポリマーと、セルロースとの脱水縮合を行なう反応温度は、原料化合物の種類によって選択されるが、通常50〜200℃の範囲である。なぜなら、50℃未満の低温では反応時間が極めて長くなって実用性がなくなり、200℃を越える高温では、分解が起こり易くなり、しばしば着色を伴うことになるからである。このような傾向から特に好ましい反応温度は、100〜150℃である。
【0030】
反応方法としては、溶媒を用いる方法、または加熱溶融したヒドロキシポリカルボン酸を用いる方法、またはヒドロキシポリカルボン酸の溶液に浸漬し乾燥したものを用いる等の簡便な方法が挙げられる。
【0031】
例えばヒドロキシポリカルボン酸としてリンゴ酸を用い、上記の各方法で得たセルロースエステル化合物のリンゴ酸の結合量は、グルコース残基当たり1以下であった。それ故に、主鎖セルロースの枝ポリマーであるポリリンゴ酸の重合度は1であり、グラフト化していない可能性がある。しかし、反応濾液中のポリリンゴ酸の重合度を測定すると2〜3であり、一般に「ホモポリマーの重合度=枝ポリマーの重合度」といわれていることから、枝ポリマーの重合度は2〜3であると考えられ、このことより本品は、リンゴ酸とセルロースとのグラフト体であるといえる。
【0032】
下記の化3式にリンゴ酸およびα,β−ポリリンゴ酸の構造式を示した。
【0033】
【化3】
Figure 0003970947
【0034】
【実施例】
次に、代表的ヒドロキシポリカルボン酸であるリンゴ酸、またはクエン酸とセルロースとのセルロースエステル化合物の合成例である実施例1〜14について以下に説明する。
【0035】
〔実施例1、実施例2〕
▲1▼常圧下で溶媒を使用せず加熱溶融させる方法(第1法)
DL−リンゴ酸10gを常圧下150℃で加熱溶融させ、ついでセルロースパウダー(ナーゲル社製)0.5gを加え、130℃±10℃の一定温度に調節し20時間加熱を続けた。反応終了後、THFを加えて攪拌し、不溶解物を濾別し、THF、水、エタノール、メチレンクロライドでよく洗い、減圧乾燥し、0.7gのセルロースエステル化合物(実施例1)を得た。
【0036】
また、実施例1の0.1gをとり、炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、相当するナトリウム塩(実施例2)とした。
【0037】
得られたセルロースエステル化合物について、赤外線吸収(IR)スペクトルを調べ、結果を以下に示した。
【0038】
Figure 0003970947
また、実施例1および2について、D2 SO4 を溶媒とした核磁気共鳴スペクトル(プロトンNMR)を調べて下記のようにリンゴ酸の存在を確認し、また純粋のグルコースと比較してグルコースの存在を確認した。
【0039】
Figure 0003970947
〔実施例3、実施例4〕
▲2▼溶媒を使わずに加熱溶融させる方法(第2法)
DL−リンゴ酸10g(mp130℃)を常圧下で150℃に加熱して溶融させた後、セルロースパウダー(ナーゲル社製)0.5gを加え、130℃±10℃の一定温度に調節した。徐々に減圧し生成水の気化による発泡が緩やかになって系内圧力を1.0mmHg以下に保てるようになった時20時間加熱を続けた。反応終了後、THFを加えて攪拌し、不溶解物を濾取し、THF、水、エタノール、メチレンクロライドでよく洗い、減圧乾燥し、0.7gのセルロースエステル化合物(実施例3)を得た。
【0040】
また、実施例3の0.1gに炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、相当するナトリウム塩(実施例4)とした。
【0041】
得られたセルロースエステル化合物について、赤外線吸収(IR)スペクトルを調べ、結果を以下に示した。
【0042】
Figure 0003970947
また、実施例3および4について、D2 SO4 を溶媒とした核磁気共鳴スペクトル(プロトンNMR)を調べて下記のようにリンゴ酸の存在を確認し、また純粋のグルコースとの比較をおこなってグルコースの存在を確認した。
【0043】
Figure 0003970947
そして、下記の方法によって結合リンゴ酸量を測定し、それに基づく元素分析の計算値と実測値を調べた。
【0044】
[結合リンゴ酸量の測定:滴定法(ASTM D871−72に準拠)]
105℃で2時間乾燥したリンゴ酸−セルロースエステル(酸型)の1gに75%エタノール40mlを加えて50℃で30分加熱し、次いで0.5Nの水酸化ナトリウム40mlを加えて15分加温した後、密封して48時間室温で放置し、0.5Nの塩酸を中和点より1.0ml多く加えこれを正確に計量し、一昼夜放置した。そして、フェノールフタレインを指示薬として0.5N水酸化ナトリウムで滴定し、下記の式によって結合リンゴ酸(%)を求めた。
【0045】
結合リンゴ酸(%)=[(D−C)Na+(A−B)Nb]×(F/W)
(式中、A=サンプルに使用した水酸化ナトリウムの量(ml)
B=ブランクに使用した水酸化ナトリウムの量(ml)
Nb=水酸化ナトリウムの規定度
C=サンプルに使用した塩酸量(ml)
D=ブランクに使用した塩酸量(ml)
F=リンゴ酸 6.705
W=使用したサンプルの重量(g)
この結果、結合リンゴ酸量は44.0%で、グルコース残基当たりのリンゴ酸結合量は0.86個であり、元素分析の理論値と実測値との間に良好な一致がみられた。
【0046】
Figure 0003970947
また、実施例3および4について、下記の方法でリンゴ酸とフマル酸の割合を測定した。この結果、リンゴ酸:フマル酸=2:1(リンゴ酸は加熱により分子内脱水してフマル酸になる)であった。
【0047】
[リンゴ酸とフマル酸の割合]
上記のリンゴ酸結合量測定に用いた水溶液を濾過し、セルロースを除去し、濾液を凍結乾燥してD2 O溶媒でNMRを測定し、下記のピークの積分値の比からその割合を求めた。
【0048】
リンゴ酸のメチレン σ=2.2〜2.8
リンゴ酸のメチン σ=4.2〜4.4
フマル酸 σ=6.1と6.5(Na塩・酸型混合のため)
[架橋の程度]
別ロットのNa塩型のリンゴ酸−セルロースエステルについて、上記の分析法1と同様に測定した。これよりNa量を計算し、前記測定した結合リンゴ酸量との比から架橋度を測定した。
【0049】
結合ジカルボン酸 3.0meq/g
架橋の程度 結合ジカルボン酸の19%
〔実施例5、実施例6〕
▲3▼DMSO溶媒を用いる方法(第3法)
DL−リンゴ酸5gをDMSO5gに加熱溶解させ、ついでセルロースパウダー(ナーゲル社製)1gを加え、アスピレータで20mmHgに保って90℃で5時間反応(予備重合)させ、さらに真空ポンプで1mmHg以下に減圧して66時間反応させた。反応終了後、生成物を水、エタノール、メチレンクロライドでよく洗い、減圧乾燥し、1.2gのセルロースエステル化合物(実施例5)を得た。
【0050】
また、実施例5の少量をとり、炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、相当するナトリウム塩(実施例6)とした。
【0051】
得られたセルロースエステル化合物について、赤外線吸収(IR)スペクトルを調べ、結果を以下に示した。
【0052】
Figure 0003970947
また、実施例5および6について、D2 SO4 を溶媒とした核磁気共鳴スペクトル(プロトンNMR)を調べて下記のようにリンゴ酸の存在を確認し、また純粋のグルコースとの比較をおこなってグルコースの存在を確認した。
【0053】
Figure 0003970947
〔実施例7、実施例8〕
▲4▼浸漬法(第4法)
セルロースパウダー(ナーゲル社製)2.0gにリンゴ酸水溶液(50%)20mlを加え、1昼夜浸漬した後、濾過した。この濾過物4.0gを130℃±10℃の一定温度に調節し、アスピレータで減圧して20時間加熱を続けた。反応終了後、炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて攪拌し、不溶解物を濾取し、水、エタノールでよく洗い、減圧乾燥し、3.0gのセルロースエステル化合物のナトリウム塩(実施例8)を得た。
【0054】
また、実施例8の一部をとり、1Nの塩酸を加え、相当する酸型の誘導体(実施例7)とした。
【0055】
得られたセルロースエステル化合物について、赤外線吸収(IR)スペクトルを調べ、結果を以下に示した。
【0056】
Figure 0003970947
また、実施例7および8について、D2 SO4 を溶媒とした核磁気共鳴スペクトル(プロトンNMR)を調べて下記のようにリンゴ酸の存在を確認し、また純粋のグルコースと比較してグルコースの存在を確認した。
【0057】
Figure 0003970947
以上の実施例1〜8の結果をみると、主鎖セルロースの枝ポリマーであるポリリンゴ酸の重合度は1であったが、グラフト反応濾液中のポリリンゴ酸の重合度を測定すると2〜3であり、ホモポリマーの重合度=枝ポリマーの重合度であることは一般的に認められていることから、実施例1〜8は、リンゴ酸とセルロースのグラフト共重合体であるといえる。また、実施例1〜8は、全て水に不溶であり、吸水した際に膨潤が殆ど起こらなかった。
【0058】
〔実施例9〕
次に、ポリリンゴ酸の置換度または枝ポリマーであるポリリンゴ酸の重合度を向上させるために、実施例1のグラフト共重合体に対して、さらにαβ型ポリリンゴ酸とを反応させた。
【0059】
すなわち、αβ型ポリリンゴ酸5.0gをDMSO5.0mlに溶かし、これに実施例1のリンゴ酸−セルロースエステル化合物を2.0g添加した。これをアスピレータで20mmHgに保ち、90℃で5時間、予備重合反応させた。次いでポンプで1mmHg以下に減圧して66時間反応させ、反応終了後、水、エタノール、メチレンクロライドでよく洗い、減圧乾燥させた。
【0060】
得られたセルロースエステル化合物について、赤外線吸収(IR)スペクトルを調べ、結果を以下に示した。
【0061】
1730cm-1、 −COO−、COOH、
また、反応前後の結合量、リンゴ酸とフマル酸の比を水酸化ナトリウムによる生成物の加水分解および滴定法によって求め、結果を下記に示した。
【0062】
Figure 0003970947
このように実施例9では、前記の結合量の比較から、反応後結合したリンゴ酸およびフマル酸の量はともに増加しており、全結合量に対するフマル酸の割合も増加したといえる。
【0063】
次に、リンゴ酸とセルロース誘導体を均一系で反応させて得られる混成セルロースエステルの実施例について以下に述べる。
【0064】
〔実施例10、実施例11〕
アセチルセルロース(コダック社製、DS=2.46)10.0gとリンゴ酸20.0gを常圧下で約180℃に加熱溶融して均一な溶液とし、その後減圧し系内圧力を1mmHgに減圧して3時間加熱を続けた。反応終了後、水を加えて析出物を濾取し、2.0gのセルロースエステル化合物(実施例10)を得た。
【0065】
得られたセルロースエステル化合物の酢酸、リンゴ酸、フマル酸の量比(グルコース残基当たり)を前記した滴定法およびNMRによって求め、結果を下記に示した。
【0066】
Figure 0003970947
また、実施例10の0.1gに炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、相当するナトリウム塩(実施例11)とした。
【0067】
得られたセルロースエステル化合物について、赤外線吸収スペクトル(KBr法)を調べ、結果を以下に示した。
【0068】
Figure 0003970947
なお、前記した実施例10を製造する際、アセチルセルロース(DS=2.46)10.0gとリンゴ酸20.0gを常圧下で約180℃に加熱して溶融して均一な溶液とし、その後減圧し系内圧力を1mmHgで20時間加熱を続けたところ、固化し、水、アセトン、メタノールに溶けなかった。
【0069】
次に、セルロースエステル化合物とその金属塩の抗菌性について説明する。
【0070】
実施例1および実施例2のリンゴ酸−セルロースエステル化合物に対して、繊維製品衛生加工協議会が規定するシェークフラスコ法に準拠し、振盪速度190±10rpm、振盪時間1時間とし、試験菌株は黄色ブドウ球菌(スタフィロコッカス アウレウス、Staphylococcus aureus)(IFO12732)を用いて行ない、結果を表1に示した。
【0071】
【表1】
Figure 0003970947
【0072】
〔実施例12〕
実施例2(リンゴ酸−セルロースエステルのNa塩)から銀塩の合成
実施例2(ワットマン社製:CF−11使用)の3.1450g(交換容量1.62meq/g)を水300mlに懸濁した後、硝酸銀水溶液(AgNO3 :水=0.8396g:10ml)を加え、遮光下にて16.8時間攪拌反応させた。
【0073】
沈澱物は、ガラスフィルターによって濾過し、固形分を50%エタノール、100%エタノールの順に洗浄し、乾燥処理(P2 5 +シリカゲル、3日間)し、リンゴ酸−セルロースエステル(銀塩)3.501g(水分率3.11%)を得た。
【0074】
得られたリンゴ酸−セルロースエステル(銀塩)の銀含有率をチオシアン酸アンモニウム定量法(Vollhard法)によって測定したところ、銀含有率12.98%(無水物)、12.58%(含水試料)であった。
【0075】
このようにして得られた実施例12に対して、前記した抗菌性試験を行ない、結果を表1中に併記した。
【0076】
なお、チオシアン酸アンモニウム定量法(Vollhard法)においては、試料を乾燥し、秤量後に900℃で灰化し、生成した金属銀を硝酸水溶液で溶解して硝酸銀溶液とし、加温してNO2 ガスを追い出し、指示薬として硫酸第2鉄アンモニウムを加えて標準チオシアン酸アンモニウムで滴定した。
【0077】
〔実施例13〕
セルロース(ワットマン社製:CF−11)5.0gにクエン酸水溶液(50%)50mlを加えて3時間浸漬し、これを濾過して固形分17.5gをアスピレーター減圧下140℃で2時間反応させ、さらに真空ポンプの減圧下155℃で10時間反応させた。これに水を加えて濾過し、水、アセトンでよく洗い、乾燥させて収量5.6gのクエン酸−セルロースエステル(H型、水分4.57%)の実施例13を得た。
【0078】
このようにして得られた実施例13に対して、前記した抗菌性試験を行ない、結果を表1中に併記した。
【0079】
〔実施例14〕
実施例13の3.0gに炭酸水素ナトリウムを加えてナトリウム塩とし、このクエン酸−セルロースエステル(Na塩)2.4071g(交換容量1.78meq/g)を水300mlに懸濁した後、硝酸銀水溶液(AgNO3 :水=0.673g:10ml)を加えて遮光下に18時間攪拌反応した。
【0080】
沈殿物は、ガラスフィルターにて濾過し、50%エタノール100%エタノールの順に洗浄し、乾燥処理(P2 5 +シリカゲル、3日間)し、クエン酸−セルロースエステル(銀塩)2.6484g(水分率2.06%)を得た。
【0081】
得られたクエン酸−セルロースエステル(銀塩)の銀含有率をチオシアン酸アンモニウム定量法(Vollhard法)によって測定したところ、銀含有率14.44%(無水物)、14.15%(含水物)であった。
【0082】
このようにして得られた実施例14に対して、前記した抗菌性試験を行ない、結果を表1中に併記した。
【0083】
〔比較例1、比較例2〕
セルロース(ワットマン社製:CF−11)10.0gに無水マレイン酸40.0g、炭酸ナトリウム0.2gを、油浴上で140℃(マレイン酸のmp140〜142℃)3時間攪拌しながら加熱した。これにアセトンを加えて濾過し、固形分を乾燥して収量11.72gのマレイン酸−セルロースエステル(H型、水分3.72%)を得た(比較例1)。
【0084】
さらに、比較例1のマレイン酸−セルロースエステル(H型)に炭酸水素ナトリウムを加え、攪拌後濾過し、固形分を水洗してNa塩を得た。交換容量1.50meq/g(灰分アルカリ度法)(比較例2)
このようにして得られた比較例1および2に対して、前記した抗菌性試験を行ない、結果を表1中に併記した。
【0085】
〔比較例3〕
比較例2(Na塩)の3.0377g(交換容量1.50meq/g)を水300mlに懸濁した後、硝酸銀水溶液(AgNO3 :水=0.8412g:10ml)を加えて遮光下に18時間攪拌し反応させた。
【0086】
沈澱物は、ガラスフィルターにて濾過し、固形分を50%エタノール、100%エタノールの順に洗浄し、乾燥処理(P2 5 +シリカゲル、3日間)し、マレイン酸−セルロースエステル(銀塩)3.2984g(水分率1.55%)を得た。
【0087】
得られたマレイン酸−セルロースエステル(銀塩)の銀含有率をチオシアン酸アンモニウム定量法(Vollhard法)によって測定したところ、銀含有率12.92%(無水物)、12.72%(含水物)であった。
【0088】
このようにして得られた比較例3に対して、前記した抗菌性試験を行ない、結果を表1中に併記した。
【0089】
〔比較例4〕
セルロース(CF11)10.0gに無水フタル酸40.0g、炭酸ナトリウム0.2gを、油浴上で140℃(フタル酸のmp210℃)3時間攪拌しながら加熱した。これにアセトンを加えて濾過し、固形分を乾燥して収量9.55gのフタル酸−セルロースエステル(H型、水分2.89%)を得た。
【0090】
得られた比較例4に対して、前記した抗菌性試験を行ない、結果を表1中に併記した。
【0091】
表1の結果からも明らかなように、リンゴ酸と類似のマレイン酸をセルロースに化合させた比較例1〜3は、H型、Na塩、銀塩共に防菌作用は発揮されなかった。また、H型のフタル酸−セルロースエステルである比較例4については、却って菌が増殖した。
【0092】
これに対して、ヒドロキシポリカルボン酸であるリンゴ酸またはクエン酸をセルロースに化合させた実施例1、2、13では、H型またはNa塩で添加率1mg/mlで充分な防菌作用が認められた。また、銀塩である実施例12、14では、前記の1万分の1の添加量でも銀イオンが12.5ng/ml以上存在すれば、充分な防菌作用が発揮された。
【0093】
【効果】
この発明は、以上説明したように、ヒドロキシポリカルボン酸のカルボキシル基を、セルロースのグルコース残基の水酸基と脱水反応して、エステル結合を生成させたセルロースエステル化合物としたので、セルロースの諸物性を改善し得る新規なセルロースエステル化合物となり、このものは、セルロース本来の生分解性および親水性を維持しつつ水に不溶なものとなり、置換されたポリマーは、エステル結合であるために加水分解が可能でC−C結合からなるポリマー置換体に比べて極めて分解性に優れ、また抗菌性金属塩でなくてもそれ自体で抗菌性のあるセルロースエステル化合物となる利点がある。さらに銀イオンを担持させると顕著な抗菌性を示す。

Claims (2)

  1. セルロースまたはアセチルセルロースの少なくとも一つの水酸基とαβ型ポリリンゴ酸のカルボキシル基とがエステル結合してなるセルロースエステル化合物。
  2. 請求項1に記載のセルロースエステル化合物の銀塩からなる抗菌剤。
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