JP3970082B2 - コンクリート構造物の補強方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、1液型エポキシ樹脂組成物を用いて、繊維シートをコンクリート構造物に接着させるコンクリート構造物の補強方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、コンクリートは、橋桁や柱などのコンクリート構造物の主要構造として広く利用されている。しかしながら、コンクリートは、中性化によるひび割れ、地震、地盤沈下や過荷重などによるひび割れ、崩壊、一部欠落などの欠陥が生じる場合がある。そのため、これらの欠陥を予防的に補強するため、コンクリート表面に繊維シートを被着させて補強する方法が提案されている。この補強方法は、コンクリート表面にエポキシ樹脂組成物からなるプライマーを塗布して硬化させた後、該プライマー層の表面の凹凸を、エポキシ樹脂組成物からなる不陸調整材により平滑にし、さらに、繊維シートに、エポキシ樹脂組成物からなる繊維シート含浸材を含浸させて、繊維シートをコンクリート表面に接着させることにより、コンクリートの曲げ強度、剪断補強、靱性補強をする工法である。この工法で使用されるエポキシ樹脂組成物としては、従来、2液型エポキシ系樹脂組成物が主に用いられている。このような2液型エポキシ系樹脂組成物を用いた場合、計量や混合などの作業が必要となり、作業性に劣り、その煩雑さから計量ミスや混合不良などの諸問題も抱えていた。このような混合不良や配合ミスにより、硬化物の物性が低下し、優れた補強効果が発揮されなくなる。さらには、2液型エポキシ系樹脂組成物は、2種のもの(エポキシ樹脂および硬化剤など)を混合することにより、化学反応が始まるので、使用できる時間が制限されるという欠点もあった。
【0003】
また、繊維シートに、1液型エポキシ樹脂組成物を含浸させ、該繊維シートを前記1液型エポキシ樹脂組成物を介してコンクリート表面に接着させる補強方法が、特開平11−131823号公報で開示されている。しかしながら、該方法では、繊維シート含浸材のみに1液型エポキシ樹脂組成物が用いられており、下地調整に用いられるプライマーに関しては従来の2液型エポキシ樹脂組成物が用いられており、一方、不陸調整材については記載されていない。そのため、プライマー(や不陸調整材)を塗布する際の作業性の低さや、プライマー層(や不陸調整材層)における混合不良や配合ミスによる硬化物物性の低下などの問題点は解決されていない。従って、プライマー、不陸調整材、繊維シート含浸材などの各種処理剤として、配合ぶれや混合不良などの人為的なミスが防止でき、しかも、可使時間が長いものが求められている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、繊維シートを用いてコンクリート構造物を補強する際に用いられるエポキシ樹脂組成物として、1液型エポキシ樹脂組成物のみを用いて、優れた作業性でコンクリート構造物の補強を行うことができるコンクリート構造物の補強方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、1液型エポキシ樹脂組成物が用いられていても、従来の2液型エポキシ樹脂組成物を用いた場合と同等又はそれ以上の補強効果を、有効に且つ安定して発揮することができるコンクリート構造物の補強方法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、1液型エポキシ樹脂組成物が用いられていても、貯蔵安定性が優れ、しかもその可使時間が長く且つ配合ぶれや混合不良などの人為的なミスが防止されていることにより、優れた作業性及び再現性で補強を行うことができるコンクリート構造物の補強方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、繊維シートを用いてコンクリート構造物を補強する際に、1液型エポキシ樹脂組成物を含有するプライマーをコンクリート表面に塗布し硬化させてプライマー層を形成し、さらに、該プライマー層上に、1液型エポキシ樹脂組成物を含有する不陸調整材を塗布し硬化させて不陸調整材層を形成し、さらに続いて、該不陸調整材層上に、1液型エポキシ樹脂組成物を含有する繊維シート含浸材を塗布して繊維シートを貼り付けて、繊維シートに繊維シート含浸材を含浸させ、さらにこの繊維シートに繊維シート含浸材を含浸させる工程を必要回数繰り返すと、全工程でエポキシ樹脂組成物としては1液型エポキシ樹脂組成物のみを用いているので、従来の2液型エポキシ樹脂組成物のように、主剤(エポキシ樹脂成分;ポリマー成分)と、硬化剤との混合を行う必要がなく、優れた作業性で補強を行うことができ、しかも、混合不良や配合ぶれによる硬化物の物性の低下が防止され、有効に且つ安定して補強効果を発揮することができることを見出した。本発明はこれら知見に基づいて完成されたものである。
【0006】
すなわち、本発明は、プライマー(A)、不陸調整材(B)および繊維シート含浸材(C)とを用いて、コンクリート表面に繊維シート(D)を接着させるコンクリート構造物の補強方法であって、エポキシ樹脂(X1)と、下記式(3)で表されるケチミン系化合物とを含有している1液型エポキシ樹脂組成物(X)を含有するプライマー(A)、前記1液型エポキシ樹脂組成物(X)を含有する不陸調整材(B)および前記1液型エポキシ樹脂組成物(X)を含有する繊維シート含浸材(C)とを用いて、コンクリート表面に繊維シート(D)を接着させることを特徴とするコンクリート構造物の補強方法である。
【化3】
(式(3)において、R 1a 、R 2a は、同一又は異なって、炭素数2以上のアルキル基を示す。R 3 は1価若しくは多価の炭化水素基を示す。nは1以上の整数である。)
【0009】
本発明では、前記プライマー(A)、不陸調整材(B)および繊維シート含浸材(C)とに係る1液型エポキシ樹脂組成物(X)におけるケチミン系化合物としては、下記式(4)で表されるケチミン系化合物が最適である。
【化4】
(式(4)において、R3、nは前記に同じ。)
【0010】
本発明において、「1液型エポキシ樹脂組成物」等の「1液型」とは、エポキシ系接着剤の分野で一般的にいわれている「1液型エポキシ系接着剤や2液型エポキシ系接着剤」における「1液型」のことを意味している。具体的には、1液型エポキシ樹脂組成物とは、例えば、エポキシ樹脂と硬化剤とが1つの容器に入れられた状態(例えば、混合している状態)で、実質的に販売可能なものを意味し、室温で長期間貯蔵(又は保管)されても、ゲル化や硬化がほとんど又は全く生じず、実質的に初期状態(初期の分散状態)を長期間保持することができるものを意味している。従って、1液型エポキシ樹脂組成物は、使用する際に、エポキシ樹脂成分(ポリマー成分)を、他の成分(硬化剤など)と混合する必要がなく、そのまま所定部位に塗布することにより、用いることができる。なお、貯蔵に係る長期間としては、例えば、6月以上、1年以上、1年6月以上など適宜選択可能であるが、少なくとも6月以上であることが好ましい。
【0011】
一方、2液型エポキシ樹脂組成物とは、ポリマー成分と、硬化剤又は助剤等の他の成分とが、それぞれ異なる容器に入れられている状態で販売され、使用する際に、これらのポリマー成分と、該ポリマー成分と異なる容器に入れられた硬化剤又は助剤等の他の成分とを混合し、この混合物を所定の部位に塗布して、使用されるものを意味している。従って、2液型エポキシ樹脂組成物は、使用する際に2液を混合して1液としているだけであって、1液にすると硬化又はゲル化が生じるため、実質的な貯蔵安定性がなく、1液型としては実質的に販売は不可能なものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
[エポキシ樹脂(X1)]
エポキシ樹脂(X1)としては、特に制限されず、公知乃至慣用のエポキシ樹脂を用いることができる。本発明では、エポキシ樹脂(X1)は、ケチミン系化合物の加水分解により生成するアミンと反応し得るエポキシ基を有していることが重要である。エポキシ樹脂(X1)は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0013】
具体的には、エポキシ樹脂(X1)としては、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂やこれらの誘導体(例えば、水添化物や臭素化物など)、ノボラック型エポキシ樹脂(例えば、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂など)、グリシジルエステル型エポキシ樹脂の他、ウレタン結合を有するウレタン変性エポキシ樹脂、含窒素エポキシ樹脂(例えば、メタキシレンジアミンやヒダントイン等のアミンのエポキシ化物、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンやトリグリシジルパラアミノフェノール等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂など)、ゴム変性エポキシ樹脂(例えば、ゴム成分としてポリブタジエン等の合成ゴムや天然ゴムを含有するエポキシ樹脂など)、環状脂肪族型エポキシ樹脂、長鎖脂肪族型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0014】
[ケチミン系化合物(X2)]
ケチミン系化合物(X2)は、下記式(1)で表される基を有している。
【化9】
(式(1)において、R1、R2は、同一又は異なって、炭化水素基を示す。)
【0015】
式(1)において、R1、R2の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基などが挙げられる。
【0016】
R1、R2の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−ペンチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等の炭素数1〜20程度のアルキル基などが挙げられる。アルキル基としては、炭素数が2以上(例えば、2〜6)のアルキル基が好ましく、さらに好ましくは炭素数が2〜4のアルキル基が挙げられる。本発明では、R1、R2のアルキル基としては、特に炭素数が2又は3のアルキル基が好適であり、なかでも炭素数が2のアルキル基が最適である。
【0017】
また、脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロヘキシル基などの環を構成する炭素数が5〜10程度のシクロアルキル基の他、多環式炭化水素環(例えば、ノルボルナンにおける炭化水素環等の橋かけ環など)を有する基などが挙げられる。
【0018】
芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基やナフチル基などのアリール基などが挙げられる。なお、芳香族炭化水素基における芳香族性環としては、ベンゼン環や縮合炭素環(例えば、ナフタレン環等の2〜10個の4〜7員炭素環が縮合した縮合炭素環など)が挙げられる。
【0019】
なお、R1、R2の炭化水素基は、置換基(例えば、炭化水素基など)を有していてもよい。なお、このような置換基としては、エポキシ樹脂(X1)との反応性を有しておらず、また、ケチミン系化合物(X2)の加水分解性や、ケチミン系化合物(X2)の加水分解により生成したアミンとエポキシ樹脂(X1)との反応性を損なわないものであることが重要である。
【0020】
R1、R2としては、それぞれ、脂肪族炭化水素基(特に、アルキル基)が好ましい。R1、R2は、同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0021】
ケチミン系化合物(X2)は、分子中に、前記式(1)で表される基を少なくとも1つ有していればよい。従って、ケチミン系化合物(X2)としては、例えば、下記式(2)で表されるケチミン系化合物を用いることができる。
【化10】
(式(2)において、R3は1価若しくは多価の炭化水素基を示す。nは1以上の整数である。R1、R2は前記に同じ。)
【0022】
式(2)において、R3の1価の炭化水素基としては、前記R1、R2の炭化水素基と同様の炭化水素基(例えば、アルキル基などの脂肪族炭化水素基、シクロアルキル基などの脂環式炭化水素基、アリール基などの芳香族炭化水素基など)を用いることができる。
【0023】
また、R3の多価の炭化水素基としては、多価の脂肪族炭化水素基、多価の脂環式炭化水素基、多価の芳香族炭化水素基の他、これらの多価の炭化水素基が組み合わされた多価の基(「多価の複合炭化水素基」と称する場合がある)などが挙げられる。多価の脂肪族炭化水素基としては、アルキレン基などの2価の脂肪族炭化水素基を用いることができる。アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等の直鎖状のアルキレン基の他、分岐鎖又は置換基を有するアルキレン基(例えば、プロピレン基など)などが挙げられる。
【0024】
多価の脂環式炭化水素基としては、単環式炭化水素環を有する多価の脂環式炭化水素基であってもよく、多環式炭化水素環を有する多価の脂環式炭化水素基であってもよい。多価の脂環式炭化水素基としては、2価の脂環式炭化水素基を好適に用いることができる。なお、前記単環式炭化水素環としては、例えば、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環などの環を構成する炭素数が5〜10程度のシクロアルキレン環が挙げられる。また、多環式炭化水素環としては、例えば、橋かけ環などが挙げられる。該橋かけ環としては、例えば、二環式炭化水素環(例えば、ピナン、ピネン、ボルナン、ノルボルナン、ノルボルネン、ビシクロ[3.2.1]オクタン、ビシクロ[4.3.2]ウンデカンなどにおける炭化水素環など)、三環式炭化水素環(例えば、アダマンタン、エキソトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、エンドトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンなどにおける炭化水素環など)、四環式炭化水素環(例えば、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカンなどにおける炭化水素環など)などが例示できる。このような橋かけ環としては、環を構成する炭素数が6〜16程度(特に炭素数6〜14程度)の二環式ないし四環式炭化水素環(例えば、ピナン、ボルナン、ノルボルナン、ノルボルネン、アダマンタンなどにおける炭化水素環など)を好適に用いることができる。
【0025】
具体的には、シクロヘキサン環を有する2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、1,2−シクロヘキシレン基、1,3−シクロヘキシレン基、1,4−シクロヘキシレン基などのシクロアルキレン基が挙げられる。また、ノルボルナンにおける二環式炭化水素環を有する2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、ノルボルナン−2,3−ジイル、ノルボルナン−2,5−ジイル、ノルボルナン−2,6−ジイルなどのノルボルナン−ジイル基などが挙げられる。
【0026】
多価の芳香族炭化水素基としては、アリレン基などの2価の芳香族炭化水素基を用いることができる。アリレン基としては、例えば、フェニレン基(例えば、1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基など)などのベンゼン環を有する2価の芳香族炭化水素基や、ナフチレン基などのナフタレン環を有する2価の芳香族炭化水素基などが挙げられる。なお、多価の芳香族炭化水素基における芳香族性環としては、ベンゼン環やナフタレン環の他、アズレン、インダセン、アントラセン、フェナントレン、トリフェニレン、ピレンなどの2〜10個の4〜7員炭素環が縮合した縮合炭素環なども挙げられる。
【0027】
さらにまた、これらの多価の炭化水素基が組み合わされた多価の基(多価の複合炭化水素基)としては、例えば、2価の脂肪族炭化水素基(アルキレン基など)、単環式炭化水素環又は多環式炭化水素環を有する2価の脂環式炭化水素基(シクロアルキレン基やノルボルナン−ジイル基など)、ベンゼン環又は縮合炭素環を有する2価の芳香族炭化水素基(フェニレン基やナフチレン基など)が適宜組み合わされた2価の基(2価の複合炭化水素基)を好適に用いることができる。2価の複合炭化水素基としては、例えば、アルキレン−フェニレン基、アルキレン−フェニレン−アルキレン基などの脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが組み合わされた2価の複合炭化水素基;アルキレン−シクロアルキレン基、アルキレン−シクロアルキレン−アルキレン基、アルキレン−ノルボルナン−ジイル基、アルキレン−ノルボルナン−ジイル−アルキレン基などの脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが組み合わされた2価の複合炭化水素基などが挙げられる。これらの多価の複合炭化水素基が組み合わされた基において、アルキレン部位、フェニレン部位、シクロアルキレン部位、ノルボルナン−ジイル部位としては、前記例示のアルキレン基、フェニレン基、シクロアルキレン基、ノルボルナン−ジイル基などを用いることができる。従って、アルキレン部位としては、例えば、メチレン、エチレン、トリメチレン、プロピレン、テトラメチレンなどが挙げられる。フェニレン部位としては、例えば、1,2−フェニレン、1,3−フェニレン、1,4−フェニレンなどが挙げられる。シクロアルキレン部位としては、例えば、1,2−シクロヘキシレン、1,3−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキシレンなどが挙げられる。ノルボルナン−ジイル部位としては、例えば、ノルボルナン−2,3−ジイル、ノルボルナン−2,5−ジイル、ノルボルナン−2,6−ジイル等のノルボルナン−ジイルなどが挙げられる。
【0028】
具体的には、多価の複合炭化水素基としては、例えば、メチレン−1,3−フェニレン−メチレン(m−キシリレン)基、メチレン−1,3−シクロヘキシレン−メチレン基、メチレン−ノルボルナン−2,5−ジイル−メチレン基、メチレン−ノルボルナン−2,6−ジイル−メチレン基や、これらの基においてメチレン部位が他のアルキレン部位(例えば、エチレン部位、トリメチレン部位、プロピレン部位など)となっている基などが挙げられる。
【0029】
なお、R3の炭化水素基は、置換基(例えば、炭化水素基など)を有していてもよく、該置換基としては、エポキシ樹脂(X1)との反応性を有しておらず、また、ケチミン系化合物(X2)の加水分解性や、ケチミン系化合物(X2)の加水分解により生成したアミンとエポキシ樹脂(X1)との反応性を損なわないものであることが重要である。
【0030】
また、前記式(2)において、nは1以上の整数である。nとしては、1以上の整数であれば特に制限されないが、例えば、1〜10(好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜3)の整数から選択することができる。なお、nとしては、1又は2である場合が多い。
【0031】
このようなケチミン系化合物(X2)としては、下記式(3)で表されるケチミン系化合物を好適に用いることができる。
【化11】
(式(3)において、R1a、R2aは、同一又は異なって、炭素数2以上のアルキル基を示す。R3、nは前記に同じ。)
【0032】
R1a、R2aの炭素数2以上のアルキル基としては、前記R1、R2のアルキル基として例示したアルキル基の中から炭素数が2以上のアルキル基を適宜選択して用いることができる。R1a、R2aのアルキル基としては、前記R1、R2のアルキル基の項で例示したように、炭素数が2のアルキル基が最適である。すなわち、ケチミン系化合物(X2)としては、下記式(4)で表されるケチミン系化合物が特に好ましい。
【化12】
(式(4)において、R3、nは前記に同じ。)
【0033】
このように、ケチミン系化合物(X2)が前記式(3)又は(4)で表されるケチミン系化合物であると[すなわち、前記式(1)におけるR1およびR2が、炭素数が2以上のアルキル基(例えば、エチル基やプロピル基など)であると]、ケチミン系化合物(X2)の加水分解速度が速くなる場合がある。そのため、該加水分解により、アミンの生成速度が速まり、その結果、該アミンとエポキシ樹脂(X1)との反応による架橋構造の形成速度も速まり、優れた速硬化性、すなわち優れた初期密着性(初期接着性または初期付着性など)を発揮させることができる。しかも、R1およびR2が、炭素数が2以上のアルキル基であると、R1及びR2のうちいずれか一方がメチル基である場合よりも、ケチミン系化合物(X2)の加水分解速度が速い場合があり、従来のように、R1及びR2のうちいずれか一方がメチル基である必要性は全くない。なお、ケチミン系化合物(X2)の加水分解は、特に前記式(3)又は(4)で表されるケチミン系化合物の加水分解は、空気中の湿気によって容易に生じる。
【0034】
本発明では、ケチミン系化合物(X2)としては、前記式(3)や(4)で示されるケチミン系化合物のなかでも、R3が1価の炭化水素基で且つnが1であるケチミン系化合物や、R3が2価の炭化水素基(例えば、2価の炭化水素基が組み合わされた2価の炭化水素基など)で且つnが2であるケチミン系化合物が好ましく、特にR3が2価の炭化水素基で且つnが2であるケチミン系化合物が最適である。
【0035】
本発明では、ケチミン系化合物(X2)は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。なお、本発明では、ケチミン系化合物( X2 )として、前記式(3)で表されるケチミン系化合物を用いることを必須とする。
【0036】
なお、ケチミン系化合物(X2)は、例えば、カルボニル化合物(ケトン)とアミンとを反応させることにより調製することができる。具体的には、前記式(2)で表されるケチミン系化合物(X2)は、下記式(5)で表されるカルボニル化合物と、下記式(6)で表される第1級アミン系化合物とを反応させることにより得ることができる。
【化13】
(式(5)において、R1、R2は前記に同じ。)
【化14】
(式(6)において、R3、nは前記に同じ。)
【0037】
より具体的には、ケチミン系化合物(X2)は、前記式(5)で表されるカルボニル化合物と、前記式(6)で表される第1級アミン系化合物とを無溶剤下、または非極性溶剤(例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、ベンゼンなど)の存在下で混合し、その後、加熱環流し、必要に応じて生成する水を共沸により除去することにより調製することができる。なお、カルボニル化合物や第1級アミン系化合物は、それぞれ、単独で又は2種以上組み合わせて使用されていてもよい。なお、反応速度を速くするため、必要に応じて、酸触媒などの触媒を用いてもよい。
【0038】
なお、前記式(5)で表されるカルボニル化合物としては、例えば、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルt−ブチルケトン、メチルs−ブチルケトン、ジエチルケトン、エチルプロピルケトン、エチルイソプロピルケトン、エチルブチルケトン、エチルイソブチルケトン、エチルt−ブチルケトン、エチルs−ブチルケトン、エチルペンチルケトン、エチルヘキシルケトン、エチルヘプチルケトン、エチルオクチルケトン、エチル2−エチルヘキシルケトン、ジプロピルケトン、プロピルイソプロピルケトン、プロピルブチルケトン、プロピルイソブチルケトン、プロピルt−ブチルケトン、プロピルs−ブチルケトン、プロピルペンチルケトン、プロピルヘキシルケトン、プロピルヘプチルケトン、プロピルオクチルケトン、プロピル2−エチルヘキシルケトン、ジイソプロピルケトン、ジブチルケトン、ジイソブチルケトン、ジt−ブチルケトン、ジs−ブチルケトン、ジペンチルケトン、ジヘキシルケトンなどのケトン(例えば、C1-20アルキル−C1-20アルキルケトン)などが挙げられる。
【0039】
また、前記式(6)で表される第1級アミン系化合物には、1価のアミン(モノアミン)や多価のアミン(ポリアミン)などが含まれる。モノアミンには、脂肪族モノアミン、脂環式モノアミン、芳香族モノアミンなどが含まれる。具体的には、脂肪族モノアミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、t−ブチルアミン、s−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン等のモノC1-20アルキルアミンの他、ジC1-20アルキルアミン(2つのアルキル基は同一であっても異なっていてもよい)、トリC1-20アルキルアミン(3つのアルキル基は部分的に又は全体的に同一であっても異なっていてもよい)などが挙げられる。脂環式モノアミンとしては、例えば、シクロヘキシルアミンなどのシクロアルキルアミン、ノルボルナン−2−アミンなどの橋かけ環を有するアミンなどが挙げられる。芳香族モノアミンとしては、例えば、アニリンなどが挙げられる。また、脂肪族モノアミンとして、ポリオキシアルキレン骨格を有するモノアミンや、アミノシランカップリング剤(例えば、3−アミノプロピルトリアルコキシシランなど)を用いることもできる。この場合、ケチミン系化合物(X2)としては、前記式(2)におけるR3が、ポリオキシアルキレン骨格を有する1価の基[例えば、「H−(R4 m1−O)m2−」(R4はアルキレン基を示す。m1は1以上の整数である。また、m2は1以上の整数である。)など]や、アルコキシシラン基を有するアルキル基などであるケチミン化合物に相当する。
【0040】
また、ポリアミンには、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミン、芳香脂肪族ポリアミンなどが含まれる。脂肪族ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3−トリメチレンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,3−ペンタメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、1,2−ブチレンジアミン、2,3−ブチレンジアミン、1,3−ブチレンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタメチレンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタメチレンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンの他、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンなどが挙げられる。また、脂肪族ポリアミンとして、ポリオキシアルキレン骨格を有するジアミンなどのポリオキシアルキレン骨格を有するポリアミンを用いることもできる。この場合、ケチミン系化合物(X2)としては、前記式(2)におけるR3が、多価のポリオキシアルキレン基[例えば、「−(R4 m1−O)m2−」(R4はアルキレン基を示す。m1は1以上の整数である。また、m2は1以上の整数である。)など]であるケチミン化合物に相当する。
【0041】
脂環式ポリアミンとしては、例えば、1,3−シクロペンタンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、1−アミノ−1−メチル−4−アミノメチルシクロヘキサン、1−アミノ−1−メチル−3−アミノメチルシクロヘキサン、4,4´−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4´−メチレンビス(3−メチル−シクロヘキシルアミン)、メチル−2,3−シクロヘキサンジアミン、メチル−2,4−シクロヘキサンジアミン、メチル−2,6−シクロヘキサンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン{例えば、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタンなど}等の脂環式ジアミンなどが挙げられる。
【0042】
芳香族ポリアミンとしては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,4−トリレンジアミン、2,6−トリレンジアミン、ナフチレン−1,4−ジアミン、ナフチレン−1,5−ジアミン、4,4´−ジフェニルジアミン、4,4´−ジフェニルメタンジアミン、2,4´−ジフェニルメタンジアミン、4,4´−ジフェニルエ−テルジアミン、2−ニトロジフェニル−4,4´−ジアミン、2,2´−ジフェニルプロパン−4,4´−ジアミン、3,3´−ジメチルジフェニルメタン−4,4´−ジアミン、4,4´−ジフェニルプロパンジアミン、3,3´−ジメトキシジフェニル−4,4´−ジアミン等の芳香族ジアミンなどが挙げられる。
【0043】
芳香脂肪族ポリアミンとしては、例えば、1,3−キシリレンジアミン、1,4−キシリレンジアミン、α,α,α´,α´−テトラメチル−1,3−キシリレンジアミン、α,α,α´,α´−テトラメチル−1,4−キシリレンジアミン、ω,ω´−ジアミノ−1,4−ジエチルベンゼン、1,3−ビス(1−アミノ−1−メチルエチル)ベンゼン、1,4−ビス(1−アミノ−1−メチルエチル)ベンゼン、1,3−ビス(α,α−ジメチルアミノメチル)ベンゼン等の芳香脂肪族ジアミンなどが挙げられる。
【0044】
従って、前記式(2)で表されるケチミン系化合物(X2)におけるR3は、アミンの残基に相当する。
【0045】
なお、ケチミン系化合物(X2)は互変異性を有している場合がある。そのため、本発明では、ケチミン系化合物(X2)には、該ケチミン系化合物(X2)の互変異構造を有する化合物に相当するエナミン形の化合物も含まれる場合がある。
【0046】
[1液型エポキシ樹脂組成物(X)]
1液型エポキシ樹脂組成物(X)は、エポキシ樹脂(X1)と、前記式(1)で表される基を有するケチミン系化合物(X2)とを含有している。ケチミン系化合物(X2)自体はエポキシ樹脂(X1)に対する反応性を有していないので、湿気が遮断されている容器中では、1液型エポキシ樹脂組成物(X)は安定的に存在しており、硬化反応が生じない。しかし、1液型エポキシ樹脂組成物(X)が一旦容器から取り出されると、空気中の湿気によって、ケチミン系化合物(X2)の加水分解が生じてアミンが生成し、該アミンがエポキシ樹脂(X1)と反応して架橋構造が形成されて硬化が進行し、優れた機械的強度及び接着性が発現される。しかも、ケチミン系化合物(X2)として適宜選択することにより、空気中の湿気によって容易に加水分解を進行させてアミンを生成させて、このアミンをエポキシ樹脂(X1)と反応させることができるので、接着性を極めて迅速に発現させ、しかも優れた機械的強度を発現させることも可能である。このように、本発明における1液型エポキシ樹脂組成物(X)は、実質的に1液型のエポキシ樹脂組成物であり、貯蔵安定性が優れ、接着剤やコーティング剤等として利用する際には、優れた初期密着性(初期接着性や初期付着性など)を発揮させることができ、実用的に極めて優れた貯蔵安定性および硬化特性を有している。
【0047】
エポキシ樹脂(X1)と、ケチミン系化合物(X2)との配合割合としては、エポキシ樹脂(X1)のエポキシ基の当量と、ケチミン系化合物(X2)の加水分解により生成するアミンの活性水素の当量とに応じて適宜選択することができる。具体的には、エポキシ樹脂(X1)と、ケチミン系化合物(X2)との配合割合としては、ケチミン系化合物(X2)の加水分解により生成するアミンの活性水素の当量が、エポキシ樹脂(X1)のエポキシ基の当量に対して0.5〜2.0倍となるような割合であることが好ましい。この配合割合よりもケチミン系化合物(X2)の割合が少ない場合には、エポキシ樹脂(X1)が過剰となり、エポキシ樹脂組成物の硬化物において満足する程度の架橋反応が進まず、実質的な機械的強度が得られなくなる場合がある。一方、ケチミン系化合物(X2)の割合が前記例示の配合割合よりも多い場合には、加水分解により生成するアミンが過剰となり、前記ケチミン系化合物(X2)の割合が少ない場合と同様に、実質的な機械的強度が得られなくなる場合がある。このように、実質的な機械的強度が得られる架橋構造を形成するためには、エポキシ樹脂(X1)と、ケチミン系化合物(X2)との配合割合は前記例示の配合割合であることが好ましく、特に、ケチミン系化合物(X2)の加水分解により生成するアミンの活性水素の当量が、エポキシ樹脂(X1)のエポキシ基の当量に対して0.8〜1.2倍となるような割合であると、理想的な架橋構造を形成することができ、接着剤組成物又はコーティング剤組成物として優れた機械的強度を発揮させることができるようになる。
【0048】
本発明では、1液型エポキシ樹脂組成物(X)は、プライマー(A)、不陸調整材(B)や繊維シート含浸材(C)に応じて、改質剤(例えば、エポキシシランやビニルシランなどのカップリング剤など)や、添加剤[例えば、充填剤(炭酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク、シリカや珪砂など)、可塑剤、顔料(酸化チタン、カーボンブラックなど)、染料、老化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、接着付与剤、分散剤、揺変剤(又はチクソトロピー付与剤)(例えば、ヒュームドシリカ、アマイドワックス、植物油誘導体、ヒィブリル化繊維など)、反応性希釈剤、増量剤など]の他、他の潜在性硬化剤(例えば、他のケチミン系化合物、アルジミン系化合物、オキサゾリジン系化合物など)や粘度調整剤(例えば、ケトン類、芳香族炭化水素類等の溶剤など)などが含まれていてもよい。また、これらの配合割合は、公知乃至慣用の割合の中から適宜選択することができる。なお、これらの改質剤や添加剤などによる水分の影響を可能な限り除去することが、1液型エポキシ樹脂組成物(X)の貯蔵安定性に好結果を与えるため好ましい。
【0049】
1液型エポキシ樹脂組成物(X)の製造方法は特に制限されない。例えば、エポキシ樹脂(X1)と、ケチミン系化合物(X2)と、必要に応じて他の成分(添加剤など)とを、好ましくは窒素雰囲気下及び/又は減圧下で、混合ミキサー等の攪拌機を用いて充分に混練して製造することができる。具体的には、攪拌機、コンデンサー、加熱装置、減圧脱水装置、窒素気流装置を備えた密閉式加工釜を用いて、該釜中にエポキシ樹脂(X1)を仕込み、窒素環流下で、プライマー(A)、不陸調整材(B)や繊維シート含浸材(C)に応じて所望により改質剤や添加剤などを加えた後、最終的にケチミン系化合物(X2)を配合し、均一状態となるように混合して、1液型エポキシ樹脂組成物(X)を得ることができる。そして、窒素置換を施した容器に、前記1液型エポキシ樹脂組成物(X)を収納することにより、製品(市販品)としての1液型エポキシ樹脂組成物(X)を含有するプライマー(A)、不陸調整材(B)や繊維シート含浸材(C)の各処理剤が製造される。
【0050】
なお、改質剤や添加剤などに水分が含まれている場合には、貯蔵中に硬化が生じて貯蔵安定性が低下する場合があるので、改質剤や添加剤の水分を脱水除去していることが好ましく、該水分の脱水処理は、改質剤や添加剤を配合する前に行っていてもよく、エポキシ樹脂(X1)に改質剤や添加剤を配合した後に行ってもよい。このような水分の脱水処理方法としては、例えば、加熱及び/又は減圧による脱水処理方法などが挙げられる。
【0051】
[コンクリート構造物の補強方法]
1液型エポキシ樹脂組成物(X)は、前述のように、1液型のエポキシ樹脂組成物(1液型エポキシ樹脂組成物)であるにもかかわらず、容器中ではエポキシ樹脂の硬化が生じず、貯蔵安定性が優れ、しかも、容器外では速硬化性を発揮することができ、優れた接着性及び機械的強度を発揮させることが可能である。そのため、プライマー(A)および不陸調整材(B)の2つの処理剤と、繊維シート含浸材(C)とを用いて、コンクリート表面に繊維シート(D)を接着させるコンクリート構造物の補強方法において、1液型エポキシ樹脂組成物(X)を用いると、優れた作業性でコンクリート構造物の補強を行うことができ、しかも、その補強効果を有効に且つ安定して発揮させることができる。
【0052】
特に、前記1液型エポキシ樹脂組成物を用いることにより、配合ぶれや混合不良などの人為的なミスが効果的に防止されているので、再現性が優れている。さらに、前記1液型エポキシ樹脂組成物は、その可使時間が長く、各処理剤の塗布作業中又は作業前における増粘が効果的に防止されているので、この点からも、可使時間が長いことにより、塗布する際の作業性が優れており、しかも、増粘による補強効果の低下が防止され、補強効果の再現性が優れている。従って、前記1液型エポキシ樹脂組成物を用いることにより、優れた作業性及び再現性でコンクリート構造物の補強を行うことができる。
【0053】
本発明のコンクリート構造物の補強方法では、1液型エポキシ樹脂組成物(X)は、プライマー(A)、不陸調整材(B)および繊維シート含浸材(C)のすべての処理剤中に含有されている。なお、1液型エポキシ樹脂組成物(X)中のエポキシ樹脂(X1)やケチミン系化合物(X2)は、プライマー(A)、不陸調整材(B)および繊維シート含浸材(C)のうちのいずれか2つの処理剤間若しくはすべての処理剤間で同一であってもよく、またはすべての処理剤間で異なっていてもよい。従って、1液型エポキシ樹脂組成物(X)中のエポキシ樹脂(X1)やケチミン系化合物(X2)は、プライマー(A)、不陸調整材(B)や繊維シート含浸材(C)に応じて適宜選択することができる。
【0054】
プライマー(A)、不陸調整材(B)および繊維シート含浸材(C)における1液型エポキシ樹脂組成物(X)において、エポキシ樹脂(X1)やケチミン系化合物(X2)以外の成分は、公知乃至慣用の成分を用いることができる。エポキシ樹脂(X1)やケチミン系化合物(X2)以外の成分としては、例えば、プライマー(A)の場合は、一般的に、改質剤(カップリング剤など)、粘度調整剤(溶剤など)、増量剤、顔料、安定化剤(イソシアネート化合物、カルボン酸ビニルエステルなど)などが用いられている。
【0055】
また、不陸調整材(B)の場合は、エポキシ樹脂(X1)やケチミン系化合物(X2)以外の成分としては、一般的に、充填剤(炭酸カルシウム、珪砂など)、揺変剤、改質剤(カップリング剤など)、顔料、安定化剤(イソシアネート化合物、カルボン酸ビニルエステルなど)などが用いられている。
【0056】
さらにまた、繊維シート含浸材(C)の場合は、エポキシ樹脂(X1)やケチミン系化合物(X2)以外の成分としては、一般的に、改質剤(カップリング剤など)、充填剤、揺変剤、安定化剤(イソシアネート化合物、カルボン酸ビニルエステルなど)などが用いられている。
【0057】
なお、エポキシ樹脂(X1)やケチミン系化合物(X2)以外の成分の配合割合は、特に制限されず、プライマー(A)、不陸調整材(B)および繊維シート含浸材(C)に応じて、公知乃至慣用の割合の中から適宜選択することができる。
【0058】
また、本発明では、プライマー(A)、不陸調整材(B)、繊維シート含浸材(C)などの各処理剤には、接着性や付着性を損なわない範囲で、例えば、変性シリコーン、シリル基末端ウレタンポリマー、シリル基を有し且つ主鎖がポリオキシアルキレン骨格を有しているポリマーなどが添加されていてもよい。
【0059】
本発明のコンクリート構造物の補強方法としては、前記1液型エポキシ樹脂組成物(X)を含有するプライマー(A)、および前記1液型エポキシ樹脂組成物(X)を含有する不陸調整材(B)の2つの処理剤と、前記1液型エポキシ樹脂組成物(X)を含有する繊維シート含浸材(C)とを用いて、コンクリート表面に繊維シート(D)を接着させる方法であれば特に制限されない。プライマー(A)、不陸調整材(B)、繊維シート含浸材(C)におけるエポキシ樹脂組成物として、すべて1液型エポキシ樹脂組成物を用いると、作業性を大きく改善することができる。
【0060】
具体的には、次にようにして、コンクリート構造物の補強を行うことが好ましい。まず、必要に応じて、コンクリート表面から高水圧等によりゴミを除去するとともに、コンクリート表面のレイタンス層をサンダーやコンクリート鉋等を用いて取り除く。その後、コンクリート表面に、前記1液型エポキシ樹脂組成物(X)を含有するプライマー(A)を塗布し、該プライマー(A)層を硬化させる。前記プライマー(A)層が指触乾燥した後、前記1液型エポキシ樹脂組成物(X)を含有する不陸調整材(B)を、プライマー(A)層上に表面が平滑になるように塗布して、該不陸調整材(B)層を硬化させる。前記不陸調整材(B)層が硬化した後、前記1液型エポキシ樹脂組成物(X)を含有する繊維シート含浸材(C)を不陸調整材(B)層上に塗布し、次いで、繊維シート(D)を1枚貼り付け、ローラー等により押さえて気泡を抜き、さらに繊維シート(D)上から同様の繊維シート含浸材(C)を塗布し、さらにゴムへら等により繊維シート(D)を充分にしごき、繊維シート含浸材(C)を繊維シート(D)に含浸させるとともに脱泡を行うことにより、コンクリート表面への繊維シート(D)の接着を行うことができる。
【0061】
なお、プライマー(A)、不陸調整材(B)や繊維シート含浸材(C)を塗布する方法としては、特に制限されず、公知乃至慣用の塗布方法(例えば、ローラーやコテ、スプレー等による塗布方法)を採用することができる。
【0062】
本発明では、補強効果を高めるために、繊維シート(D)を複数積層してもよい。複数の繊維シート(D)を積層する際には、繊維シート(D)に含浸させた繊維シート含浸材(C)が硬化した後、該繊維シート(D)及び繊維シート含浸材(C)からなる層上に、繊維シート含浸材(C)を塗布し、繊維シート(D)を1枚貼り付け、ローラー等により押さえて気泡を抜き、さらに繊維シート(D)上から同様の繊維シート含浸材(C)を塗布し、さらにゴムへら等により繊維シート(D)を充分にしごき、繊維シート含浸材(C)を繊維シート(D)に含浸させるとともに脱泡を行う操作を必要回数繰り返すことにより、複数の繊維シート(D)の積層を行うことができる。
【0063】
このような繊維シート(D)としては、特に制限されず、目的とする補強強度などに応じて種々の繊維シートを適宜選択して用いることができ、例えば、炭素繊維シート、プラスチック繊維シート[例えば、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリエチレン繊維シート(特に、ハイインパクトタイプのポリエチレンによる繊維シート)、ポリイミド繊維シート(東洋紡績社製の商品名「ザイロン」など)等]、ガラス繊維シートなどを用いることができる。なお、繊維シート(D)は、単一の種類の繊維のみからなっていてもよく、複数の種類の繊維からなっていてもよい。
【0064】
繊維シート(D)としては、連続繊維シートが好ましい。連続繊維シートであると、補強効果をより一層高めることができる。
【0065】
繊維シート(D)において、例えば、炭素繊維シートやアラミド繊維シート等としては、少なくとも、その素材である繊維のうち主とする繊維が炭素繊維やアラミド繊維等であることを意味している。従って、例えば、炭素繊維シートには、炭素繊維のみからなる繊維シート、繊維の主成分としての炭素繊維および他の繊維からなる繊維シートが含まれる。
【0066】
本発明は、コンクリート構造物を補強することを目的としており、繊維シート(D)として、高剛性または高強度を有する繊維シートを用いることにより、コンクリート構造物の補強効果を高めることができる。具体的には、繊維シート(D)の破断強度としては、2000N/mm2以上(好ましくは2300N/mm2以上)であることが望ましい。なお、繊維シート(D)の破断強度の上限としては特に制限されない。従って、繊維シート(D)としては、炭素繊維シート、アラミド繊維シート(特に、炭素繊維シート)が好適である。繊維シート(D)の破断強度は、JIS K 7073(引張強度)に準拠して測定することができ、この際、繊維シート(D)に繊維シート含浸材(C)を含浸させて測定してもよく、また、繊維シート(D)に繊維シート含浸材(C)を含浸させずに繊維シート(D)を単独で用いて測定してもよい。すなわち、繊維シート含浸材(C)を含浸している繊維シート(D)の破断強度、および繊維シート(D)単独の破断強度のうち少なくともいずれか一方の破断強度(JIS K 7073に準じる)が、2000N/mm2以上を満たせばよい。
【0067】
高剛性又は高強度を有する繊維シートでは、通常、高剛性又は高強度を有する繊維(例えば、炭素繊維、アラミド繊維など)が用いられており、高剛性又は高強度を有する繊維とともに、高剛性又は高強度を有していない繊維が用いられていてもよい。すなわち、本発明では、繊維シートの剛性や強度を規定する場合、例えば、繊維シートが高剛性や高強度を発揮できる破断強度を有していれば、その素材としての繊維は特に制限されない。
【0068】
なお、コンクリート表面に必要枚数の繊維シート(D)を積層して接着させた後、該繊維シート(D)層上に、必要に応じて、塗装によるコート層や、モルタルやセメント等による保護層を形成してもよい。
【0069】
このようにして、コンクリート表面に、繊維強化プラスチック(FRP;Fiber Reinforced Plastic)のような繊維強化層を形成して、コンクリート構造物を補強することができる。なお、このようなコンクリート構造物としては、橋梁や建築物の梁や柱の他、トンネル、港湾施設、煙突、サイロ、水槽、煙害被害コンクリート構造物、桟橋、河川構造物などのコンクリートを用いて構造された物が挙げられる。
【0070】
【発明の効果】
本発明のコンクリート構造物の補強方法によれば、繊維シートを用いてコンクリート構造物を補強する際に用いられるエポキシ樹脂組成物として、1液型エポキシ樹脂組成物のみが用いられているので、優れた作業性でコンクリート構造物の補強を行うことができる。しかも、1液型エポキシ樹脂組成物が用いられていても、従来の2液型エポキシ樹脂組成物を用いた場合と同等又はそれ以上の補強効果を、有効に且つ安定して発揮することができる。さらには、1液型エポキシ樹脂組成物が用いられていても、貯蔵安定性が優れ、しかもその可使時間が長く且つ配合ぶれや混合不良などの人為的なミスが防止されていることにより、優れた作業性及び再現性で補強を行うことができる。
【0071】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、以下、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を示す。
【0072】
(ケチミン系化合物の調製例1)
アミンとしての1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(商品名「1,3−BAC」三菱ガス化学社製):142部と、カルボニル化合物としてのジエチルケトン:258部(ジエチルケトン/1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(モル比)=3/1)と、トルエン:200部とをフラスコに入れ、生成する水を共沸により除きながら、トルエンとジエチルケトンとが環流する温度(120〜150℃)で20時間環流して反応を行った。その後、過剰のジエチルケトンとトルエンとを蒸留により取り除き、ケチミン系化合物(「ケチミン系化合物A」と称する場合がある)を得た。
【0073】
(ケチミン系化合物の調製例2)
カルボニル化合物としてジプロピルケトン:342部を用いたこと以外は、前記ケチミン系化合物の調製例1と同様にして、ケチミン系化合物(「ケチミン系化合物B」と称する場合がある)を調製した。
【0074】
(ケチミン系化合物の調製例3)
カルボニル化合物としてメチルエチルケトン:154部を用いたこと以外は、前記ケチミン系化合物の調製例1と同様にして、ケチミン系化合物(「ケチミン系化合物C」と称する場合がある)を調製した。
【0075】
(プライマーの調製例1)
エポキシ樹脂として商品名「エピコート828(油化シェルエポキシ社製)」:100部と、ケチミン系化合物A:50部と、エポキシシランカップリング剤(商品名「KBM403」信越化学工業社製):40部とを減圧下で攪拌して、プライマーとしての1液型エポキシ樹脂組成物(「プライマーA」と称する場合がある)を調製した。
【0076】
(プライマーの調製例2)
ケチミン系化合物としてケチミン系化合物B:55部を用いたこと以外は、前記プライマーの調製例1と同様にして、プライマーとしての1液型エポキシ樹脂組成物(「プライマーB」と称する場合がある)を調製した。
【0077】
(プライマーの調製例3)
ケチミン系化合物としてケチミン系化合物C:45部を用いたこと以外は、前記プライマーの調製例1と同様にして、プライマーとしての1液型エポキシ樹脂組成物(「プライマーC」と称する場合がある)を調製した。
【0078】
(不陸調整材の調製例1)
エポキシ樹脂として商品名「エピコート828(油化シェルエポキシ社製)」:100部、重質炭酸カルシウム(商品名「NS100」日東粉化社製):40部、表面処理炭酸カルシウム(商品名「MS700」丸尾カルシウム社製):80部、および7号珪砂:160部を、100℃および15トール(torr)で2時間、減圧・加熱し、均一になるまで攪拌混合する。その後、室温まで冷却し、ケチミン系化合物A:50部、およびエポキシシランカップリング剤(商品名「KBM403」信越化学工業社製):40部を加え、さらに減圧下で攪拌して、不陸調整材としての1液型エポキシ樹脂組成物(「不陸調整材A」と称する場合がある)を調製した。
【0079】
(不陸調整材の調製例2)
ケチミン系化合物としてケチミン系化合物B:55部を用いたこと以外は、前記不陸調整材の調製例1と同様にして、不陸調整材としての1液型エポキシ樹脂組成物(「不陸調整材B」と称する場合がある)を調製した。
【0080】
(不陸調整材の調製例3)
ケチミン系化合物としてケチミン系化合物C:45部を用いたこと以外は、前記不陸調整材の調製例1と同様にして、不陸調整材としての1液型エポキシ樹脂組成物(「不陸調整材C」と称する場合がある)を調製した。
【0081】
(繊維シート含浸材の調製例1)
エポキシ樹脂として商品名「エピコート828(油化シェルエポキシ社製)」:100部と、揺変剤(商品名「アエロジルRY200S」日本アエロジル社製):10部、ケチミン系化合物A:50部と、エポキシシランカップリング剤(商品名「KBM403」信越化学工業社製):40部とを減圧下で攪拌して、繊維シート含浸材としての1液型エポキシ樹脂組成物(「繊維シート含浸材A」と称する場合がある)を調製した。
【0082】
(繊維シート含浸材の調製例2)
ケチミン系化合物としてケチミン系化合物B:55部を用いたこと以外は、前記繊維シート含浸材の調製例1と同様にして、繊維シート含浸材としての1液型エポキシ樹脂組成物(「繊維シート含浸材B」と称する場合がある)を調製した。
【0083】
(繊維シート含浸材の調製例3)
ケチミン系化合物としてケチミン系化合物C:45部を用いたこと以外は、前記繊維シート含浸材の調製例1と同様にして、繊維シート含浸材としての1液型エポキシ樹脂組成物(「繊維シート含浸材C」と称する場合がある)を調製した。
【0084】
なお、前記プライマーの調製例1〜プライマーの調製例3で得られたプライマーA〜プライマーC、前記不陸調整材の調製例1〜不陸調整材の調製例3で得られた不陸調整材A〜不陸調整材C、前記繊維シート含浸材の調製例1〜繊維シート含浸材の調製例3で得られた繊維シート含浸材A〜繊維シート含浸材Cは、それぞれ、カートリッジに密封充填し30日間保管した。
【0085】
(実施例1)
室温(約23℃)且つ65%RHの環境下で24時間放置したコンクリート柱(寸法:7.5cm×7.5cm×43cm)の表面をディスクサンダーで研磨した後、前記プライマーAを開封してすぐに150g/m2塗布し、23℃且つ65%RHの環境下で24時間硬化させた。硬化後、前記プライマーA層上に、前記不陸調整材Aを開封してすぐに1000g/m2塗布し、同様に23℃且つ65%RHの環境下で24時間硬化させた。その後、前記不陸調整材A層上に、繊維シート含浸材Aを開封してすぐに500g/m2塗布し、引き続き、該繊維シート含浸材Aの塗布面の全面に、炭素繊維系の連続繊維シート(寸法:7.5cm×43cm)を被着させローラーで押さえて、連続繊維シートの気泡を抜き、その上に、さらに前記繊維シート含浸材Aを300g/m2塗布して、ゴムへらにて、連続繊維シートを押さえ込んで、繊維シート含浸材Aを連続繊維シートに含浸させた。そして、23℃且つ65%RHの環境下で7日間養生し、連続繊維シートをコンクリート柱に接着させて、繊維シート被着コンクリート柱を作製した。
【0086】
(実施例2)
プライマーとしてプライマーBを用い、不陸調整材として不陸調整材Bを用い、繊維シート含浸材として繊維シート含浸材Bを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、繊維シート被着コンクリート柱を作製した。
【0087】
(比較例5)
プライマーとしてプライマーCを用い、不陸調整材として不陸調整材Cを用い、繊維シート含浸材として繊維シート含浸材Cを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、繊維シート被着コンクリート柱を作製した。
【0088】
(実施例3)
繊維シート含浸材Aを、開封した後90分室温で放置してから塗布すること以外は実施例1と同様にして、繊維シート被着コンクリート柱を作製した。
【0089】
(比較例1)
プライマーとして、2液型エポキシ樹脂系接着剤からなるプライマー(商品名「E810LS」コニシ社製)を用い、不陸調整材として2液型エポキシ樹脂系接着剤からなる不陸調整材(商品名「E395S」コニシ社製)を用い、繊維シート含浸材として2液型エポキシ樹脂系接着剤からなる繊維シート含浸材(商品名「E2500S」コニシ社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、繊維シート被着コンクリート柱を作製した。
なお、前記プライマー(商品名「E810LS」コニシ社製)、前記不陸調整材(商品名「E395S」コニシ社製)、前記繊維シート含浸材(商品名「E2500S」コニシ社製)は、2液型エポキシ樹脂系接着剤であるので、主剤と硬化剤とを正規の配合量で評取し、均一になるまで混合してから用いた。
【0090】
(比較例2)
比較例1で用いた2液型エポキシ樹脂系接着剤からなる繊維シート含浸材(商品名「E2500S」コニシ社製)の主剤と硬化剤とを、主剤/硬化剤(重量比)=1/1[正規の配合割合は、主剤/硬化剤(重量比)=2/1である]の割合で評取し、均一になるまで混合した後、塗布したこと以外は、比較例1と同様にして、繊維シート被着コンクリート柱を作製した。
【0091】
(比較例3)
比較例1で用いた2液型エポキシ樹脂系接着剤からなる繊維シート含浸材(商品名「E2500S」コニシ社製;可使時間60分)の主剤と硬化剤とを、正規の配合割合で評取し、均一になるまで混合した後、90分間放置してから塗布すること以外は、比較例1と同様にして、繊維シート被着コンクリート柱を作製した。
なお、可使時間に関しては、建設省総合技術開発プロジェクトの「コンクリートの耐久性向上技術の開発」(発行日:平成元年5月)の補修材料規格試験方法(案)に記載されている可使時間の測定方法に準じて測定した。
【0092】
(評価)
実施例1〜3および比較例1〜3、5において得られた繊維シート被着コンクリート柱について、下記の補強効果測定方法により、繊維シートを接着させたことによるコンクリート柱の補強効果を評価した。
【0093】
また、実施例1〜3、比較例5に係るプライマー、不陸調整材および繊維シート含浸材において用いられている1液型エポキシ樹脂組成物の安定性を、下記の安定性試験方法により評価した。
【0094】
さらにまた、実施例1〜3および比較例1〜3、5において、プライマーの塗布、不陸調整材の塗布、および繊維シートの接着の各工程での作業性を、下記の作業性評価方法により評価した。
【0095】
(補強効果測定方法)
実施例1〜3および比較例1〜3、5において得られた繊維シート被着コンクリート柱(寸法:7.5cm×7.5cm×43cm)を、図1に示されるように、繊維シート側の面が下になるように、4点曲げ試験機にセットし、23℃且つ65%RHの環境下、繊維シートの反対側の面から荷重をかけて、補強面(繊維シートが接着されている面)に対して垂直方向へ圧縮速度1.5mm/minで圧縮し、4点曲げ試験を実施した。試験体が破壊して荷重が低下するまで行い、そのときの最大荷重及び破壊状況を確認した。なお、破壊状況は、接着剤層(プライマー層と、不陸調整材層と、繊維シート含浸材及び繊維シートからなる層とからなる層)の凝集破壊ではなく、コンクリートの凝集破壊である方が、繊維シートがコンクリートに対して一体化できているために好ましい。測定結果は、表1の「補強効果」の欄に示した。
【0096】
なお、ブランクとして、繊維シートが接着されていないコンクリート柱についても、該補強効果測定方法により、4点曲げ試験を実施して、試験体が破壊して荷重が低下するときの最大荷重を読みとり、同時に破壊状況を確認し、該ブランクを比較例4として表1に示した。
【0097】
図1は、コンクリート柱をセットして、補強効果の測定方法を示す概略図である。図1において、1は繊維シート被着コンクリート柱、2はコンクリート柱、3はプライマー層、4は不陸調整材層、5は繊維シート含浸材および繊維シートからなる層(「含浸材層」と称する場合がある)である。繊維シート被着コンクリート柱1は、コンクリート柱1の何れかの面に、プライマー層3、不陸調整材層4、含浸材層5がこの順で形成されている。また、含浸材層5では、連続繊維シートに繊維シート含浸材が含浸されている。もちろん、上面側の2つの支点、下面側の2つの支点は、それぞれ、繊維シート被着コンクリート柱1の中心軸に対して対称となっている。
【0098】
(安定性試験方法)
実施例1〜3、比較例5に係るプライマー、不陸調整材および繊維シート含浸材についての各粘度をそれぞれ調製直後に測定し、さらに、それぞれをカートリッジに充填密封して、23℃且つ65%RHの環境下で60日間放置した後に、それぞれの粘度を測定した。放置前後での粘度の値を比較して、下記の評価基準により、実施例1〜3、比較例5に係るプライマー、不陸調整材および繊維シート含浸材に関する1液型エポキシ樹脂組成物の安定性(貯蔵安定性)をそれぞれ評価した。評価結果は、表1の「安定性」の欄に示した。なお、粘度測定は、23℃且つ65%RHの環境下で、BH型粘度計(10r/min)の条件で行った。
(評価基準)
○:[(放置後の粘度)/(調製直後の粘度)]が2未満である。
△:[(放置後の粘度)/(調製直後の粘度)]が2以上3未満である。
×:[(放置後の粘度)/(調製直後の粘度)]が3以上である。
【0099】
(作業性評価方法)
プライマーの塗布、不陸調整材の塗布、および繊維シートの接着の各工程において、主剤と硬化剤との計量および混合が必要か不要かで評価した。評価結果は、表1の「作業性」の欄に示した。
【0100】
【表1】
【0101】
表1より、実施例1〜3に係る繊維シート被着コンクリート柱は、比較例4(ブランク)と比較して、強度が大幅に向上している。従って、実施例1〜3に係るコンクリート構造物の補強方法により、コンクリート柱を十分に補強することができ、優れた補強性を発揮できることが確認された。
【0102】
また、実施例1〜3に係る繊維シート被着コンクリート柱は、比較例1と比較して、同程度の強度と破壊状態を示している。従って、実施例1〜3に係る1液型エポキシ樹脂組成物からなる処理剤(プライマー、不陸調整材、繊維シート含浸材)は、従来の2液型エポキシ樹脂系接着剤からなる処理剤と同等の性能を有していることが確認された。
【0103】
さらにまた、比較例2に係る繊維シート被着コンクリート柱では、配合ぶれにより、架橋密度が低くなり、十分な補強効果が発現していない。このことから、実施例1〜3で示されるように、各処理剤(プライマー、不陸調整材、繊維シート含浸材)のエポキシ樹脂組成物として1液型のエポキシ樹脂組成物を用いることにより、人為的なミスを防止して、優れた再現性で補強を行うことができることは明らかである。
【0104】
特に、比較例3では、2液型エポキシ樹脂系接着剤の主剤と硬化剤とを混合してから特定の時間が経過しているために、エポキシ樹脂系接着剤が増粘し、塗布しにくいだけでなく、繊維シート含浸材が繊維シートに含浸されにくくなっており、十分な補強効果が発現していない。これに対して、実施例3では、比較例3と同程度の時間放置されていても、開封直後と同程度の粘度が保持されており、繊維シート含浸材の塗布性や繊維シートへの含浸性が優れ、安定した補強効果を発揮させることが可能であることは明らかである。
【0105】
しかも、実施例1〜3に係るプライマー、不陸調整材および繊維シート含浸材は、安定性は良好であり、長期間保存しても、粘度変化がほとんど又は全く生じていない。
【0106】
このように、実施例1〜3に係るコンクリート構造物の補強方法では、用いられるプライマー、不陸調整材や繊維シート含浸材における主剤と硬化剤とを計量したり混合したりする必要がなく、しかも、これらのプライマー、不陸調整材や繊維シート含浸材は安定性も良好であるので、コンクリート構造物の補強を優れた作業性で且つ良好な再現性で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】コンクリート柱をセットして、補強効果の測定方法を示す概略図である。
【符号の説明】
1 繊維シート被着コンクリート柱
2 コンクリート柱
3 プライマー層
4 不陸調整材層
5 繊維シート含浸材および繊維シートからなる層(含浸材層)
Claims (2)
- プライマー(A)、不陸調整材(B)および繊維シート含浸材(C)とを用いて、コンクリート表面に繊維シート(D)を接着させるコンクリート構造物の補強方法であって、エポキシ樹脂(X1)と、下記式(3)で表されるケチミン系化合物とを含有している1液型エポキシ樹脂組成物(X)を含有するプライマー(A)、前記1液型エポキシ樹脂組成物(X)を含有する不陸調整材(B)および前記1液型エポキシ樹脂組成物(X)を含有する繊維シート含浸材(C)とを用いて、コンクリート表面に繊維シート(D)を接着させることを特徴とするコンクリート構造物の補強方法。
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