JP3969374B2 - 自動車の後輪サスペンション装置 - Google Patents

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Description

本発明は、自動車の後輪サスペンション装置に関し、特に、5本のIリンクによって構成したマルチリンク式サスペンションに関する。
従来より、下記特許文献1に記載される技術のように、マルチリンク式サスペンションとして5本のIリンク(アイ・リンク)からなり、その各リンクの車体側の端部にそれぞれ弾性ブッシュを備えたものは知られている。
このような5本のIリンクからなるマルチリンク式サスペンションは、後車輪の上下ストロークを除く5つの運動の自由度に対してそれぞれの要求に合わせて最適に拘束するよう各Iリンクを配設することが可能であることから、性能的に高いポテンシャルを有しているサスペンション形式であると言える。
また、従来、このような車体側と弾性ブッシュを介して連結された5本のIリンクから成るマルチリンク式サスペンションにおいては、前記リンクは、略車両前後方向に並ぶ少なくとも2本のロワリンクと、略車両前後方向に並ぶ少なくとも2本のアッパリンクとを含むとともに、ロワリンクの内、車体前後方向と成す角が小さいリンクであるロワトレーリングリンクを、弾性ブッシュを介して、後車輪を支持する後車輪支持部材に連結する一方、他の4本のIリンクと後車輪支持部材とは、ボールジョイントを介して連結している。これは、次のような理由による。
つまり、5本のIリンクから成るマルチリンク式サスペンションにおいては、その自由度の高さ故に、走行中の多様な挙動に対して不安定となる場合があるため、5本のIリンク全てと車体側とは弾性ブッシュを介して連結する一方で、後車輪支持部材とは、5本のIリンク全てについて、連結に際し上下方向以外の変位を生じさせないボールジョイントを介して連結させコンプライアンス量を必要最低限に限ることが操安性の観点からは望ましい。
しかしながら、後車輪支持部材に連結される5本全てのIリンクを、ボールジョイントを介して連結するよう構成すると、走行中における後車輪の車両前後方向の変位に対して、Iリンクと車体側とを連結する弾性ブッシュのみで吸収するだけになり、乗り心地の観点から見れば好ましいこととは言い難い。そこで、操安性と乗り心地の両立を図るために5本のリンクの内、路面からの距離が短くて、前後方向の変位を許容しやすいロワトレーリングリンクのみについては、弾性ブッシュを介して後車輪支持部材と連結させ、これにより乗り心地を向上させていた。
特開平2−38106号公報
ところで、上述のように車体側と弾性ブッシュを介して連結された5本のIリンクから成るマルチリンク式サスペンションにおいて、ロワトレーリングリンクを、弾性ブッシュを介して後車輪を支持する後車輪支持部材に連結する一方、他の4本のIリンクと後車輪支持部材とはボールジョイントを介して連結した場合、制動時に、後車輪がトーアウト傾向を示し、走行安定性が悪化することが判明した。
これについて、5本のIリンクから成るマルチリンク式サスペンションについて、特に2本のロワリンクを模式的に示した図18を参照して、具体的に説明する。尚、図18において、実線が制動前の状態を示しており、破線が制動中の状態を示している。後車輪T1を車軸TCjにて支持する後車輪支持部材T2には、車軸TCjよりも下部において、車両前後方向との成す角が小さく(鋭角)、主に車両前後方向の力を調整するロワトレーリングリンクT3と、車両前後方向との成す角が大きく(略90°に近い)、主に車幅方向の力を調整するロワラテラルリンクT4とが、それぞれ弾性ブッシュT5、ボールジョイントT6を介して連結されており、各リンクT4,T5の車体側は、弾性ブッシュT7,T8を介して連結されている。
車両の制動時において、後車輪T1に対して車両後方側を指向する制動力Fbが発生するが、この制動力Fbによって、後車輪支持部材T2の車軸TCjよりも下方側と連結されたロワトレーリングリンクT3と後車輪支持部材T2との連結部分には、制動力Fbが車両後方側に作用するため、ロワトレーリングリンクT3には、当該リンクの延設方向上に、車両後方で車両斜め外方側の方向を指向する力Flが作用することになる(更に図6のFb、Flも参照)。このような車両後方側で、斜め外方側に向かって引っ張れらる力Flにより、ロワトレーリングリンクT3と車両側とを連結する弾性ブッシュT7と、ロワトレーリングリンクT3と後車輪支持部材T2とを連結する弾性ブッシュT5とは、引っ張られる方向に大きく伸長し、ロワトレーリングリンクT3と後車輪支持部材T2との連結部分の位置が、車両後方側で且つ車両外方側に大きく変位することになる(図17において、弾性ブッシュT5が、白丸○から黒丸●に変位)。このような車両外方側への大きな変位によって、後車輪T1はトーアウト方向のモーメント力が働き、後車輪T2はトーアウトとなってしまうのである。
これにより、制動時において、本リンクへの大きなコンプライアンスの確保は走行安定性を悪化させることとなるため必要量のコンプライアンスを確保できず、乗り心地の確保という観点で十分とは言い難いものであった。
斯かる点に鑑み、本願発明の目的とするところは、車体側に対して弾性ブッシュを介して連結した5本のリンクからなるマルチリンク式の後輪サスペンション装置において、制動時に、後車輪がトーアウトとなるのを防止することにより、制動時の走行安定性を確保しつつ、後車輪の前後方向の変位を許容することで、乗り心地を向上することが可能なマルチリンク式サスペンションを提供することにある。
前記の目的を達成するため、本願の請求項1の発明は、自動車の後車輪の支持部材を5本のリンクにより車体に連結して、該各リンクの少なくとも車体側の端部にそれぞれ弾性ブッシュを配設するとともに、コイルバネ及びダンパからなる緩衝装置の下端部を前記後車輪支持部材の車体内方側に枢着してなるマルチリンク式の後輪サスペンション装置において、前記リンクは、少なくとも2本のロワリンクと、少なくとも2本のアッパリンクとから成るとともに、該ロワリンクの内、車体前後方向との成す角が他の該ロワリンクよりも小さいロワトレーリングリンクと、該アッパリンクの内、車体前後方向との成す角が他の該アッパリンクよりも小さいアッパトレーリングリンクを含み、前記アッパトレーリングリンクは、弾性ブッシュにより該後車輪支持部材に連結するとともに、該アッパトレーリングリンク以外の他の4本のリンクは、ボールジョイントにより前記後車輪支持部材に連結することを特徴とするものである。
このような構成により、まず、自動車の後輪サスペンション装置を5本リンクのマルチリンク式とすることで、後車輪の5つの運動自由度をそれぞれ最適に拘束することが可能になるので、AアームやHアームを用いたものに比べて高いポテンシャルを有するとともに、各リンクの車体側端部における弾性ブッシュの介在によって優れた乗り心地を得ることができる。
また、こうした車体側に対して弾性ブッシュを介して連結した5本のリンクからなるマルチリンク式の後輪サスペンション装置において、制動時に、後車輪を確実にトーインにすることができ、制動時の走行安定性を確保することが可能となるとともに、後車輪の前後方向の変位を許容することで、乗り心地の向上を図ることが可能となる。
具体的には、マルチリンク式の後輪サスペンションにおいて、車体側に対して弾性ブッシュを介して連結した5本のリンクの内、更に、少なくとも2本のロワリンクの中で、車体前後方向との成す角が他のロワリンクより小さく、主に車体前後方向の力を調整可能なロワトレーリングリンクは、ボールジョイントを介して後車輪支持部材に連結している。これにより、制動時において、上述のようにロワトレーリングリンクに作用する車両後方側で、車両斜め外方側への引っ張り力により、ロワトレーリングリンクと車体側とを連結する弾性ブッシュが若干伸長するのみであり、ロワトレーリングリンクと後車輪支持部材との連結部分の位置が、車両外方側に大きく変位することはない。寧ろ、ロワトレーリングリンクと後車輪支持部材との連結部分が車両外方側に大きく変位することが抑制されるため、このような引っ張り力により、ロワトレーリングリンクは、ロワトレーリングリンクと車体側との連結部分、つまり車体側端部を中心として後方側に積極的に回動することになり、これによって、後車輪を確実にトーインにすることが可能となる。
一方、2本のアッパリンクの内、車両前後方向との成す角が小さく、主に車体前後方向の力を調整可能なアッパトレーリングリンクは、弾性ブッシュを介して後車輪支持部材に連結している。
アッパトレーリングリンクは、後車輪支持部材の車軸よりも上方側に連結されているため、後車輪に作用する制動力により、アッパトレーリングリンクと後車輪支持部材との連結部分には、車両前方側に指向する力が作用し、これにより、アッパトレーリングリンクには、当該リンクの長手方向に沿うように、車両前方側で、車両斜め内方側の方向を指向する力が作用することになる。こうした車両前方側で、斜め内方側に向かって押すような力により、アッパトレーリングリンクと後車輪支持部材とを連結する弾性ブッシュと、アッパトレーリングリンクと車体側とを連結する弾性ブッシュとの双方が圧縮されるため、アッパトレーリングリンクと後車輪支持部材との連結部分と、アッパトレーリングリンクと車体側との連結部分との間の距離が短くなる。これにより、アッパトレーリングリンクと後車輪支持部材との連結部分の位置は、車両内方側に位置することになり、よって、後車輪をトーインにすることが可能となる。
このように、本発明においては、アッパトレーリングリンク及びロワトレーリングリンクの双方によって、後車輪を確実にトーインにすることが可能となり、走行安定性を向上することができる。
尚、アッパトレーリングリンクと後車輪支持部材との連結、及びロワトレーリングリンクと後車輪支持部材との連結の双方を、弾性ブッシュを介しておこなうことで、これら2本のリンクによって、後車輪へのトーアウト方向へのモーメント力を相殺可能であるが、この場合、トー剛性が比較的弱くなる。これに対し、本発明のように、アッパトレーリングリンクと後車輪支持部材との連結は弾性ブッシュにより行い、ロワトレーリングリンクと後車輪支持部材との連結はボールジョインとにより行うことで、トー剛性を向上できる。
また、本発明においては、後車輪支持部材に対して、5本のリンク全てをボールジョイントを介して連結する場合に比べ、アッパトレーリングリンクと後車輪支持部材との連結のみを、弾性ブッシュを介して連結することで、後車輪から車体側に伝達される振動を低減しつつ、5本のリンクによる自由度の高さ故の不安定な挙動を抑制することが可能となる。
また、アッパトレーリングリンクを、弾性ブッシュを介して後車輪支持部材に連結することによっても、走行中における後車輪の前後の変位を許容することが可能であり、これにより乗り心地を向上することも可能となる。
請求項2記載の発明は、自動車の後車輪の支持部材を5本のリンクにより車体に連結して、該各リンクの少なくとも車体側の端部にそれぞれ弾性ブッシュを配設するとともに、コイルバネ及びダンパからなる緩衝装置の下端部を前記後車輪支持部材の車体内方側に枢着してなるマルチリンク式の後輪サスペンション装置において、前記緩衝装置を、その上下反力が後車輪の仮想キングピン軸の周りにトーインの向きのモーメント力を発生させるように当該仮想キングピン軸に対して配置して、その上下反力が後車輪に対して負キャンバの向きのモーメント力を発生させるように後車輪の車体内方に離間させ、前記緩衝装置の上下反力による負キャンバの向きのモーメント力を、自動車の旋回時に旋回外方に位置する後車輪において横力により発生する正キャンバの向きのモーメント力と比較して、その横力の限界領域まで大きくなるように設定するとともに、前記リンクは、少なくとも2本のロワリンクと少なくとも2本のアッパリンクとから成るとともに、前記ロワリンクの内、車両前方側に位置するロワトレーリングリンクはボールジョイントにより前記後車輪支持部材に連結する一方、前記アッパリンクの内、車両前方側に位置するアッパトレーリングリンクは弾性ブッシュにより該後車輪支持部材に連結することを特徴とする。
このような構成により、まず、自動車の後輪サスペンション装置を5本リンクのマルチリンク式とすることで、後車輪の5つの運動自由度をそれぞれ最適に拘束することが可能になるので、AアームやHアームを用いたものに比べて高いポテンシャルを有するとともに、弾性ブッシュの介在によって優れた乗り心地を得ることができる。
しかも、前記後車輪にはその支持部材を介して緩衝装置反力によりトーインの向きのモーメント力が作用していて、予め各リンクの弾性ブッシュが車輪のトーインの向きに付勢(予圧縮)されているので、自動車の旋回時に弾性ブッシュの撓みによる遅れを排除して旋回外方の後車輪に対し直ちにトーインを付与することが可能になる。これにより、マルチリンク式サスペンションとしては、位相遅れの少ない、即ち極めて剛性感や応答性の高いシャープな運転感覚とすることができる。すなわち、一般的には運転者により操舵が行われると自動車に横加速度が発生し、これに伴い旋回外方への荷重移動が生じて各車輪にコーナリングフォースが発生するのだが、本発明のようにコーナリングフォースが発生する段階よりも早い荷重移動の段階、即ち上下力が発生した段階で、この力によって後車輪にトーインを付与するようにすれば、コーナリングフォースの発生を早めることができ、これにより位相遅れが少なくなるのである。
さらに、前記緩衝装置の上下反力により、後車輪にはその支持部材を介して負キャンバの向きのモーメント力が作用していて、このモーメント力が自動車の旋回外方の後車輪においても横力の限界領域まで常にその横力による正キャンバのモーメント力よりも大きくなるから、後車輪の各リンクの弾性ブッシュにはキャンバ変化について常に一定の向きの付勢力が作用することになり、このことで、微視的な車輪のふらつきが発生しなくなって運転感覚の悪化や不自然な挙動が解消され、極めて高い操縦安定性を備えた後輪サスペンション装置を実現できる。
また、このように、各リンクの車体側の弾性ブッシュを予圧縮することで、自動車の旋回時に、車体側の弾性部材の撓みによる遅れを排除して、極めて剛性感や応答性の高いシャープな運転感覚とすることができるが、このような構成においては、各リンクと車体側とを連結する弾性ブッシュが予圧縮されているために、後車輪から車体側に伝達される振動を、この車体側のブッシュにより大きく低減できない。
しかしながら、アッパトレーリングリンクと後車輪支持部材とを、弾性ブッシュを介して連結することにより、この弾性ブッシュによって、後車輪から車体側へ伝達される振動の低減が可能となる。
更に、アッパトレーリングリンクと後車輪支持部材とを、弾性ブッシュを介して連結するだけでなく、ロワトレーリングリンクと後車輪支持部材とを、ボールジョイントを介して連結することによって、上述の請求項1記載の発明と同様に、制動時において、後車輪をトーインにすることが可能となり、制動時の走行安定性を確保することが可能となる。
また、上述の請求項1記載の発明と同様に、アッパトレーリングリンクを、弾性ブッシュを介して後車輪支持部材に連結しており、これにより、走行中における後車輪の前後の変位を許容し、乗り心地を向上することも可能となる。
請求項3記載の発明は、請求項2において、前記5本のリンクの車体側の端部は、それぞれサブフレームに取付けられており、前記サブフレームは、車体の左右両側において、車体に固定されることを特徴とする。
上述のように、請求項2記載の発明においては、各リンクの車体側の弾性ブッシュを予圧縮することで、自動車の旋回時に、車体側の弾性部材の撓みによる遅れを排除して、極めて剛性感や応答性の高いシャープな運転感覚を実現できる。一方、このように車体側の弾性ブッシュを予圧縮すると、路面から後車輪に入力された振動を、車体側の弾性ブッシュで低減することが多少阻害されるが、アッパトレーリングリンクと後車輪支持部材とを、弾性ブッシュを介して連結することにより、後車輪から車体側へ伝達される振動を積極的に低減する構成が実現されることになる。
このように、請求項2記載の発明に係る構成では、後車輪から車体側へ伝達される振動の抑制がなされているため、請求項3記載の発明において、各リンクの車体側端部と連結されるサブフレームを車体に固定することで、車体側への振動伝達を抑制しつつ、サブフレームによる車体剛性の強化を図ることが可能となる。
ところで、請求項2記載の発明のように、緩衝装置の上下反力によって後車輪をトーインの向きに付勢するためには、その反力の向きや後車輪の支持部材に対する作用点を仮想キングピン軸に対して適切に設定する必要がある。
そこで、請求項4記載の発明においては、後車輪の仮想キングピン軸を上端側ほど車体後方に位置するように傾斜させ、緩衝装置を、その軸心が前記仮想キングピン軸よりも車体内方に位置して当該仮想キングピン軸と非平行であり且つ交わらないとともに、車体側方から見て軸心の方向が仮想キングピン軸と比べて鉛直に近くなるように配置する。
また、緩衝装置の上下反力によって後車輪に負キャンバの向きのモーメント力を作用させるためには、当該緩衝装置の下端部を後車輪の支持部材の車体内方に枢着して、その上下反力が後車輪中心よりも下方位置に作用するようにすればよいが、その一方で、自動車の旋回時に旋回外方に位置する後車輪には横力によって直接に正キャンバの向きのモーメント力が発生する。このとき、後車輪に作用する横力の増大に略比例して車体のロールが大きくなり、緩衝装置のコイルバネが圧縮されてその反力が増大することで、前記負キャンバのモーメント力も増大するから、結局、旋回外方の後車輪では、自動車の横加速度の増大に伴い横力による正キャンバのモーメント力が増大するとともに、緩衝装置の上下反力による負キャンバのモーメント力も増大することになる。
そこで、自動車の旋回外方の後車輪への分担荷重や該後車輪の最大グリップ力、緩衝装置のコイルバネの硬さ(バネ定数)、或いは、緩衝装置反力によって後車輪に生じるモーメント力の腕の長さ等を相互の関係において適切に設定すれば、該緩衝装置の上下反力により後車輪に対して十分に大きな負キャンバのモーメント力を作用させることができ、このモーメント力を横力の限界領域まで横力による正キャンバのモーメント力よりも大きくすることができる。
より具体的には、前記緩衝装置の上下反力によって後車輪に作用する負キャンバの向きのモーメント力は、当該緩衝装置の軸心から後車輪中心までの距離(モーメントの腕の長さ)と緩衝装置反力との積として表される。ここで、緩衝装置の上下反力そのものは後車輪への分担荷重やコイルバネの硬さ、即ち自動車のロール特性に基づいて決定されるものなので、前記負キャンバの向きのモーメント力を十分に大きくしようとすると、実質的にその腕の長さを長くする必要がある。従って、例えば、自動車の旋回時に後車輪に最大の横加速度が発生している限界領域を想定し、そのときに限界の横力によって後車輪に作用する正キャンバのモーメント力よりも緩衝装置反力による負キャンバのモーメント力が大きくなるように、前記モーメントの腕の長さを設定すればよいのである。
前記のような構成の後輪サスペンション装置において、さらに請求項5の発明では、緩衝装置の下端部を、後車輪の支持部材から車体内方に延びるように一体に形成した連結部の先端に枢着するものとする。すなわち、緩衝装置の上下反力によって後車輪に対し大きなモーメント力を作用させるためには、連結部を後車輪の支持部材から車体内方に大きく延ばすのが好ましいが、この連結部を支持部材と一体成形することで、その強度を確保しながら軽量化することが可能になり、いわゆるバネ下重量の増大を抑えることができる。
また、請求項6の発明では、前記請求項5の発明における連結部を、車体前後方向に見て、後車輪の支持部材本体の上下両端側から車体内方に向かって延びて先端部で一体となった上腕部及び下腕部と、該上腕部及び下腕部をそれぞれの車幅方向中間部にて連結するように上下方向に延びる中間腕部とを有し、この中間腕部から連結部の先端に亘って架設した支軸の端部を車体内方に突出させて、ここに緩衝装置の下端部を取り付ける構成とする。
この構成では、まず、連結部を上腕部、下腕部及び中間腕部からなる横向きの略A字形状としたことで、上下方向の荷重に対して十分な剛性を確保しながら軽量化することができる。そして、そのA字の横棒(中間腕部)から先端部に亘って十分に大きな間隔を空けて2点で取り付けた支軸に対して緩衝装置を取り付けることで、該緩衝装置の上下反力を後車輪に対して確実に伝えることができる。
請求項7の発明では、後車輪の仮想キングピン軸をキャスタトレールが負値となるように設定する。すなわち、車体側方から見て、仮想キングピン軸と路面との交点が後車輪の接地点よりも車体後方に位置するようにする。
こうすれば、後車輪への横力の作用点が仮想キングピン軸よりも車体前方に位置することになり、その横力によって直接的にトーインの向きのモーメント力が発生する。すなわち、自動車の旋回外方の後車輪に対して横力によるトーインを付与して、その挙動を安定化させることができる。しかも、後車輪には予め緩衝装置反力によってトーインの向きの付勢力が付与されているので、結局、旋回外方の後車輪は一貫してトーインの向きに付勢されることになり、このことによって自然な運転感覚と高い安定感が得られる。
請求項8の発明では、緩衝装置を、その上下反力によって後車輪に作用する車体前後方向の付勢力が微小ないし零となるように配置する。
このことで、緩衝装置から後車輪の支持部材に作用する上下反力が非常に大きくても、この力によって後車輪に作用する車体前後方向の力は微小なものとすることができ、この力によって自動車の走行中に後車輪の前後方向の変位が過度に規制されることがなくなって、路面不整等に対しても良好な乗り心地が得られるようになる。換言すれば、緩衝装置軸心の傾斜角度や後車輪中心との間の車体前後方向の距離を、該緩衝装置の上下反力によって生じる後車輪への前後力が十分に小さくなるように、乗り心地等の要求に応じて実験的に設定すればよい。
請求項9の発明では、緩衝装置を、その軸心が車体側方から見て略鉛直方向に延びるように配置する。こうすれば、緩衝装置の上下反力が極めて大きくても、それが後車輪に対し直接、前後力を加えることがないので、前記請求項6の発明の作用効果が十分に得られる。また、前記緩衝装置は、その軸心を車体前後方向に見て上端側ほど車体内方に位置するように傾斜させ、且つ後車輪支持部材の車体内方側へ所定距離隔てて配置するのが好ましい(請求項10の発明)。
請求項11の発明では、緩衝装置を、その上下反力によって後車輪を車体前方に付勢するように配置する。すなわち、本発明において最も重要な点は、マルチリンク式の後輪サスペンション装置において緩衝装置の上下反力を後車輪に対して負キャンバの向きで且つトーインの向きに作用させることであるが、こうしたときには、前記請求項8の発明のように緩衝装置反力によって後車輪に作用する車体前後方向の力を小さくすることはできても、それを零にすることはできない場合がある。
そこで、この発明では、そのように後車輪に作用する車体前後方向の力の向きを車体前方へ向かうものとしている。こうすることで、後車輪の各リンクの弾性ブッシュにはそれぞれ車体前方への付勢力が作用することになり、この状態で後車輪に路面不整等によるショックが入力すると、弾性ブッシュに作用する力の向きが反転して該弾性ブッシュが逆向きに撓むことにより、後車輪が車体後方に変位してショックを逃がすことができるようになる。従って、緩衝装置の上下反力によって後車輪に車体前後方向の力が作用しても、良好な乗り心地を得ることが可能になる。
請求項12の発明では、前記請求項8の発明における緩衝装置をその軸心が車体側方から見て後車輪中心よりも車体後方に位置するように配置するとともに、5本のリンクのうちのロワリンクの車体側端部の弾性ブッシュをアッパリンクの車体側端部の弾性ブッシュと比べて柔らかなものとする。
こうすると、緩衝装置の上下反力によって支持部材には後車輪の軸心周りのモーメント力が発生し、このモーメント力が後車輪を支持するアッパリンク及びロワリンクに対してそれぞれ車体前後方向の付勢力を付与することになる。すなわち、例えば後車輪を車体の左側から見たとき、緩衝装置の上下反力は後車輪中心よりも向かって右側(車体後方)で支持部材に対し略鉛直上方から作用するようになり、この結果として時計回りのモーメント力が発生する。このモーメント力により、アッパリンクが向かって右側(車体後方)に付勢されてその弾性ブッシュに車体後方への付勢力が作用する一方、ロワリンクは向かって左側(車体前方)に付勢されてその弾性ブッシュには車体前方への付勢力が作用することになる。
そして、前記ロワリンクの弾性ブッシュを比較的柔らかなものとしたことで、後車輪に路面不整等によるショックが入力したときには、ロワリンクの弾性ブッシュが力の反転によって逆向きに撓み、これにより後車輪の車体後方への変位が許容されることになり、このことで、請求項9の発明と同様に良好な乗り心地を得ることが可能になる。
請求項13の発明では、前記請求項11又は12のいずれかの発明において、後車輪を自動車の駆動輪とする。すなわち、前記請求項9又は10の発明に係る後輪サスペンション装置では、上述したように、緩衝装置の上下反力によって後車輪の所定のリンクの弾性ブッシュを予め車体前方へ付勢するようにしており、このため、後車輪が駆動輪であると、自動車の加速時等に駆動輪である後車輪に駆動力(前向きの力)が作用したときに弾性ブッシュの撓みによる遅れが軽減されることになる。これにより、アクセル操作に対する自動車の加速応答性を向上することができる。
しかも、自動車の加速時には車体のスクォットによって後輪サスペンションのバンプ量が増大し、これにより緩衝装置のコイルバネが圧縮されるから、バンプ量の増大に応じて、即ち駆動力の増大に応じて緩衝装置の上下反力が増大することになる。従って、急加速時ほど弾性ブッシュへの付勢力が増大することになり、大きな駆動力に対しても遅れなく高い加速応答性が得られる。
一方、そのように弾性ブッシュを予め車体前方へ付勢していると、自動車の制動時に後車輪に対し路面から制動力(後ろ向きの力)が作用したときには、この制動力が前記の付勢力に打ち勝って弾性ブッシュの撓みの向きが逆向きになった後に初めて、車体に制動力が伝達されることになるから、車体の制動が遅れてブレーキフィーリングが悪化する虞れがある。
しかし、自動車の制動時には車体のノーズダイブによって後輪サスペンション装置のリバウンド量が増大し、これに応じて、即ち制動力の増大に応じて緩衝装置の上下反力が低下することになるから、この反力による弾性ブッシュへの付勢力も減少して、その分、早く弾性ブッシュの撓みの向きが逆転することになり、結局、ブレーキフィーリングの悪化はあまり問題にはならないと考えられる。
尚、前記各リンク及び緩衝装置の配置により、サスペンションのバンプ時に緩衝装置の軸心が車体側方視で後車輪の中心から離れるように構成してもよく、こうすれば、自動車の加速時に後輪サスペンションのバンプ量が増大するときに、このバンプ量の増大に対して比例関係よりも急な割合で弾性ブッシュへの付勢力を増大させることができる。同様に、リバウンド時に緩衝装置軸心が後車輪中心に近づくように構成すれば、そのリバウンド量の増大に対して反比例関係よりも急な割合で弾性ブッシュへの付勢力を減少させることができる。従って、そのようにすれば、前記発明の作用効果を高めることが可能になる。
請求項14の発明では、請求項11又は12のいずれかの発明において、5本のリンクのうちの少なくとも2本をロワリンクとし、この2本のロワリンクを車体上方から見て車体外方側に向かって互いに接近するように配置するものとする。すなわち、前記請求項11又は12のいずれかの発明に係る後輪サスペンション装置では、前記したように緩衝装置の上下反力によって後車輪の弾性ブッシュを予め車体前方へ付勢するようにしており、このことによって制動時に車体への制動力の伝達が遅れてブレーキフィーリングが悪化する可能性がある。
これに対し、この発明では、2本のロワリンクの配置により、制動時に後車輪の車体後方への変位によって幾何学的にトーインが付与されるようにしており、このことで、後車輪と路面との間での制動力の発生が早まるので、上述した弾性ブッシュの撓みによる制動力の伝達遅れを補完して、ブレーキフィーリングの悪化を防止することができる。
請求項15の発明に係る自動車の後輪サスペンション装置は、旋回外方に位置する後車輪のトーイン量がバンプ時のロールステアによって増大するとともに、横力によるコンプライアンスステアによっても増大するように構成する。この構成では、自動車の旋回外方の後車輪においてロールステア及び横力コンプライアンスステアにより横力の増大に応じてトーイン量が大きくなるので、旋回時の自動車の挙動を安定化することができる。
請求項16の発明では、車体に対する後車輪の近接変位を規制するバンプストッパが緩衝装置と同軸上に配設されており、緩衝装置の上下反力によって後車輪に作用するトーインの向きのモーメント力を、バンプストッパの作用によって前記緩衝装置反力が増大することにより増大するように構成した。
すなわち、一般的に、自動車の旋回時の挙動を安定化させるためには、横加速度の増加に略比例するように後車輪のトーイン量を増大させることが好ましく、このトーインの変化の度合いが途中で変化すると、そのときに自動車の挙動に大きな変化が生じる虞れがある。しかし、バンプストッパを設けた場合には、これによりサスペンションのストロークが規制されることによって、例えばロールステアによるトーイン量の増大の度合いが急低下することが避けられない。このことは従来、多くの自動車において旋回時に横力の限界付近で後車輪がグリップを失い、大きな挙動変化を招くという好ましくない性質を持つことの原因となっていた。
これに対し、この発明では、サスペンションのバンプ時に緩衝装置のコイルバネが圧縮されて、その反力が横力に対し略比例して増大するとともに、これと同軸に設けられたバンプストッパが作用することによって緩衝装置全体としてのバネ定数が一段、高くなり、該緩衝装置の上下反力が急増して、この反力によるトーインのモーメント力が相乗的に増大することになる。このことで、上述したロールステア等によるトーイン量の急変化を相殺して、自動車の限界領域での挙動変化を抑制し、その走行安定性を向上することができる。
本願の請求項17の発明は、自動車の後車輪の支持部材を5本のリンクにより車体に連結して、該各リンクの少なくとも車体側の端部にそれぞれ弾性ブッシュを配設するとともに、コイルバネ及びダンパからなる緩衝装置の下端部を前記後車輪支持部材の車体内方側に枢着してなるマルチリンク式の後輪サスペンション装置において、前記後車輪の仮想キングピン軸は、上端側ほど車体後方に位置するように傾斜し且つキャスタトレールが負値となるように設定され、前記緩衝装置は、その軸心が前記仮想キングピン軸よりも車体内方に位置して当該仮想キングピン軸と非平行であり且つ交わらず、且つ、車体側方から見ると後車輪の中心よりも車体後方で略鉛直方向に延びるように配置されるとともに、当該緩衝装置の上下反力によって後車輪に作用する負キャンバの向きのモーメント力が、自動車の旋回時に旋回外方に位置する後車輪において横力により発生する正キャンバの向きのモーメント力と比べてその横力の限界領域まで常に大きくなるように、後車輪の車体内方側へ所定距離隔てて配置されており、前記リンクは、少なくとも2本のロワリンクと少なくとも2本のアッパリンクとから成るとともに、前記ロワリンクの内、車両前方側に位置するロワトレーリングリンクはボールジョイントにより前記後車輪支持部材に連結する一方、前記アッパリンクの内、車両前方側に位置するアッパトレーリングリンクは弾性ブッシュにより該後車輪支持部材に連結することを特徴とする。
前記の構成により、請求項2及び4の発明と同様の作用効果が得られる。
以上、説明したように、請求項1の発明に係る自動車の後輪サスペンション装置によると、制動時に、後車輪を確実にトーインにして、制動時の走行安定性を確保することが可能となるとともに、後車輪の前後方向の変位を許容することで、乗り心地の向上を図ることが可能となる。
請求項2の発明に係る自動車の後輪サスペンション装置によると、車体側の端部に弾性ブッシュを備えた5本のリンクからなるマルチリンク式の後輪サスペンション装置において、緩衝装置の上下反力を積極的に利用して後車輪に予め負キャンバで且つトーインの向きのモーメント力を作用させるとともに、その負キャンバの向きのモーメント力が横力による正キャンバの向きのモーメント力と比較して、横力の限界領域まで常に大きくなるようにしたことで、弾性ブッシュの介在による良好な乗り心地を確保しながら、その撓みに起因する剛性感の低下等を解消し、且つ車輪の微視的なふらつきをなくして、スポーツカーにも適用し得る極めてシャープな運転感覚と高い操縦安定性とを実現できる。
更に、制動時に、後車輪を確実にトーインにして、制動時の走行安定性を確保することが可能となるとともに、後車輪の前後方向の変位を許容することで、乗り心地の向上を図ることが可能となる。
請求項3の発明によると、後車輪から車体側へ伝達される振動を抑制した状態で、サブフレームによる車体剛性の強化を図ることが可能となる。
請求項4の発明によると、緩衝装置の軸心を後車輪の仮想キングピン軸に対して適切に配置することで、後車輪にトーインの向きの付勢力を付与することができ、よって、前記請求項2の発明の効果が十分に得られる。
請求項5の発明によると、緩衝装置の下端部を後車輪の支持部材に一体に形成した連結部に枢着することで、その連結部の強度を確保しながら軽量化して、バネ下重量の増大を抑制できる。
請求項6の発明によると、後車輪の支持部材の連結部を車体前後方向に見て横向きの略A字状をなすものとしたことで、十分な剛性の確保と軽量化とを併せて実現できる。
請求項7の発明によると、後車輪の仮想キングピン軸をキャスタトレールが負値となるように設定したことで、旋回外方の後車輪に対して横力により直接的にトーインの向きのモーメント力を作用させることができ、これにより自動車の挙動を安定化できる。
請求項8の発明によると、緩衝装置からの上下反力が後車輪に対して車体前後方向についてあまり大きく作用しないようにして、路面不整等による乗り心地の悪化を防止することができる。
請求項9の発明によると、緩衝装置の軸心を車体側方から見て略鉛直とすることで、前記請求項8の発明の効果を十分に得ることができる。
請求項11の発明によると、弾性ブッシュが緩衝装置反力によって車体後方へ付勢されることがないので、路面不整等による乗り心地の悪化を防止することができる。
請求項12の発明によると、緩衝装置の軸心を後車輪中心よりも車体後方に位置付けて、その上下反力によりロワリンクに車体前方への付勢力を付与するとともに、そのロワリンクの弾性ブッシュを柔らかなものとしたことで、前記請求項11の発明と同様に路面不整等によるショックを吸収、緩和して良好な乗り心地を得ることができる。
請求項13の発明によると、後車輪が自動車の駆動輪である場合には、緩衝装置の上下反力によって弾性ブッシュを予め車体前方へ付勢するようにしたことで、その弾性ブッシュの撓みによる駆動力の伝達遅れを軽減して、加速応答性を向上することができる。
請求項14の発明によると、2本のロワリンクの配置構成により、自動車の制動時に制動力によって後車輪にトーインを付与して路面との間での制動力の発生を早めることができるので、弾性ブッシュの撓みによって車体への制動力の伝達が遅れても、自動車全体としてブレーキフィーリングの悪化を防止できる。
請求項15の発明によると、自動車の旋回時に横加速度の増大に応じて後車輪のトーイン量を大きくすることができ、挙動の安定化が図られる。
請求項16の発明によると、緩衝装置と同軸に設けたバンプストッパが作用することによって当該緩衝装置の上下反力が一段、大きくなるようにしたことで、バンプストッパの作用に伴うロールステアトーインの減少を相殺して、限界領域における後車輪のトーイン量の変化を緩やかなものとすることができ、これにより自動車の走行安定性を向上できる。
本願の請求項17の発明に係る自動車の後輪サスペンション装置によると、前記請求項2及び4の発明と同様の効果を得ることができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基いて説明する。
図1、2は、本発明に係る自動車の後輪サスペンション装置A(以下、単にリヤサスペンションという)を自動車の左右両側の後車輪に適用した実施形態を示し、この実施形態の自動車は、図示しないが、車体前部のエンジンルームにエンジンを搭載する一方、車体後部にディファレンシャル1(図2にのみ示す)を配設して後車輪2(図1に車体右側のもののみ示す)を駆動するようにした後輪駆動車である。尚、図1は、左右一対のリヤサスペンションA,Aとサブフレーム3とからなるリヤサスペンションアッセンブリを車体前方の斜め右側から見た斜視図である。また、図2は、前記リヤサスペンションアッセンブリにディファレンシャル1等の動力伝達系を組み付けた状態で見た上面図であって、符号4は、トランスミッションからの回転出力をディファレンシャル1に伝達するプロペラシャフトであり、また、符号5,5は、ディファレンシャル1からの回転出力を後車輪2,2に伝達するためのドライブシャフトである。
この実施形態のサスペンション装置Aは、独立した5本のIリンク6〜10によって後車輪2のホイールサポート11(後車輪支持部材)を車体に対しストローク可能に連結したマルチリンク式のものであり、仮想的にアッパアームを構成する車体前側及び後側の2本のアッパリンク6,7と、仮想的にロワアームを構成する車体前側及び後側の2本のロワリンク8,9と、該仮想のアッパアーム及びロワアームの配置によって決まる仮想キングピン軸K周りの後車輪2の回動変位を規制するトーコントロールリンク10とを備えている。そして、前記アッパリンク6,7及びロワリンク8,9がそれぞれ車体側の端部を中心に上下に揺動することによって、ホイールサポート11及び後車輪2が所定の軌跡に沿って上下にストロークするようになっている。
尚、アッパリンク6,7の内、前側アッパリンク6は、平面視における車体前後方向との成す角が鋭角で小さく、主に車両前後方向の力を調整可能なアッパトレーリングリンクであり、後側アッパリンク7は、車体前後方向との成す角が略直角に近く、主に車幅方向の力を調整可能なアッパラテラルリンクである。また、ロワリンク8,9の内、前側ロワリンク6は、平面視における車体前後方向との成す角が鋭角で小さく、主に車両前後方向の力を調整可能なロワトレーリングリンクであり、後側リンク7は、車体前後方向との成す角が略直角に近く、主に車幅方向の力を調整可能なロワラテラルリンクである。
但し、前側アッパリンク6や、前側ロワリンク8は、それぞれホイールサポート11との連結部分から車両後方で車両内方側に斜めに傾斜して車体側に連結されるコンプレッションリンクであっても構わない。
また、そのような後車輪2のストロークを許容しながら、同時に適度の付勢力及び減衰力を付与するように、コイルバネ12及びダンパ13からなる緩衝装置14が配設されている。この緩衝装置14は、コイルバネ12とダンパ13とが略同軸に配置されて大略、上下方向に長い円筒状をなし、その上端側に配設された円筒状ブラケット15が図示しない車体に取り付けられる一方、ダンパ13の下端部(緩衝装置14の下端部)がホイールサポート11の車体内方側に枢着されている。従って、自動車の車体後部の分担荷重及び後車輪2のストロークに対応するコイルバネ12の反力(緩衝装置の上下反力)は直接、ホイールサポート11に作用することになる。
−サブフレームの構成−
前記サブフレーム3は、大別して4つの鋼板製部材を平面視で概ね矩形枠状に組み合わせてなるもので、各々車幅方向に延びるフロント及びリヤクロスメンバ17,18と、それらの左右両側の端部同士を連結するように車体の左右両側において前後方向に延びる一対のサイドクロスメンバ19,20とからなる。前記フロントクロスメンバ17は、車体上方から見ると略真っ直ぐに車幅方向に延びていて、車幅方向の両端部がそれぞれ左右のサイドクロスメンバ19,20の各前端側に接合されているとともに、車体前後方向に見ると、長手方向の中央部分が左右両端部よりも上方に位置するように全体に亘って大きく湾曲するアーチ形状とされている。また、フロントクロスメンバ17の左右両端側には、各々サイドクロスメンバ19,20との接合部に近接して下方に突出する取付座(図示せず)が配設されていて、この各取付座にそれぞれトーコントロールリンク10の車体側の端部が取り付けられるようになっている。
一方、リヤクロスメンバ18は、車体上方から見ると略真っ直ぐに車幅方向に延びていて、車幅方向の両端部がそれぞれ左右のサイドクロスメンバ19,20の各後端側に接合されているとともに、車体前後方向に見ると、上縁部の長さが下縁部よりも大きい逆台形状であり、その下縁部の左右両端側から下方に延出するようにして、後側ロワリンク9,9の車体側の端部を取り付ける取付部18a,18aが形成されている。また、リヤクロスメンバ18の上縁部には、前記後側ロワリンク9の取付部18a,18aに対応する位置にそれぞれ取付座18b,18bが配設されていて、この各取付座18bに弾性マウント21を介して取り付けられたブラケット22(図2にのみ示す)によりディファレンシャル1が吊設されている。
また、左右のサイドクロスメンバ19,20は、それぞれ、長手方向の中央部分が両端側に比べて車体内方に位置するよう緩やかに湾曲するとともに、車体側方視では後端部から略中央部までが略水平に延びる一方、それよりも前側の部分が車体前方に向かって斜め下方に延びていて、中央よりも前側の部分が後側の部分よりも低くなるように配置されている。そして、該各サイドクロスメンバ19,20の前側の部分には、フロントクロスメンバ17との接合部の前側に近接して下方に突出するように第1取付座19a,20aが配設されていて、この第1取付座19a,20aにそれぞれ前側ロワリンク8の車体側の端部が取り付けられるようになっており、また、前記接合部の後側に近接して上方に突出するように第2取付座19b,20bが配設されていて、この第2取付座19b,20bにはそれぞれ前側アッパリンク6の車体側の端部が取り付けられるようになっている。一方、各サイドクロスメンバ19,20の後側部分には、後側アッパリンク7の車体側の端部を取り付けるための第3取付座19c,20cが配設されている。
さらに、前記サイドクロスメンバ19,20には、サブフレーム3全体を車体に対して強固に支持するためのマウント23,23,…が各サイドクロスメンバ19,20毎にその前端部、及び後端部の2点に配設されている。前端部のマウント23は後端部のマウント23,23と比較して車体外方に位置している。
つまり、前記サブフレーム3は、車体の左右両側で各々2点ずつ、合計4個のマウント23,23,…により車体に連結されている。このようにサブフレーム3を合計4個のマウント23,23,…によって車体に取り付けることにより、サブフレーム3が車体剛性を高めることが可能となる。
尚、マウント23,23,…は、弾性力が極めて低く固めの弾性材料を用いたものであっても構わない。
尚、図1、3等に示す符号24は、フロントクロスメンバ17の左右両端側からサイドクロスメンバ19,20の各前側部分に跨って架設した補強部材であり、また、符号25は、前記補強部材24,24の下端部からリヤクロスメンバ18の下縁部に亘って筋交い状に架設した補強部材である。
−サスペンション装置の構成−
次に、図3〜5を参照しながら、車体右側のサスペンション装置Aについてそのリンク6〜10の配置構成等を詳細に説明する。まず、図3に示すように車体上方から見て、前側アッパリンク6は、その車体側の端部がゴムブッシュ26(弾性ブッシュ)を介してサイドクロスメンバ19の第2取付座19bに連結され、そこから車体外方に向かうほど徐々に後方に位置するように後傾して延びていて、車輪側の端部が弾性ブッシュ27aによりホイールサポート11に連結されている。また、後側アッパリンク7は、前記前側アッパリンク6と略同じ長さであり、その車体側の端部がゴムブッシュ26を介してサイドクロスメンバ19の第3取付座19cに連結され、そこから車体外方に向かうほど徐々に前方に位置するように前傾して延び、車輪側の端部がボールジョイント27bによりホイールサポート11に連結されている。
また、前側ロワリンク8は、前記アッパリンク6,7よりも長く、その車体側の端部がゴムブッシュ26を介してサイドクロスメンバ19の第1取付座19aに連結される一方、車輪側の端部がボールジョイント27bによりホイールサポート11に連結されており、車体上方から見て前側アッパリンク6よりも大きく後傾している。さらに、後側ロワリンク9は、前記前側ロワリンク8よりもさらに長く、その車体側の端部がゴムブッシュ26を介してリヤクロスメンバ18の取付部18aに連結されるとともに、そこから車体外方に向かって僅かに前傾して延びていて、車輪側の端部がボールジョイント27bによりホイールサポート11に連結されている。
換言すれば、前記2本のロワリンク8,9は、車体上方から見て、車体外方側に向かって互いに接近するように配置されており、この配置によって後車輪2にはその車体後方への変位に伴い幾何学的にトーインが付与されるようになる(前後力コンプライアンスステア)。すなわち、例えば自動車の制動時等に路面からの制動力Fbが後車輪2に対し車体後方に作用すると、図6、図7に模式的に示すように、このような制動力により、ホイールサポート11の車軸Cj(図7、8参照)より下側のホイールサポート11に連結された前側ロワリンク8には、該リンクの長手方向に沿って車両後方側で、車両の斜め外方側に指向する力Flが作用することになる。
これに対して、前側ロワリンク8は、ボールジョイント27bによりホイールサポート11に連結されているため、このような、前側ロワリンク8に作用する車両後方側で車両斜め外方側への引っ張り力Flに対し、前側ロワリンク8とサブフレーム6とを連結するゴムブッシュ26が若干伸長するのみであり、前側ロワリンク8とホイールサポート11との連結部分8aの位置、つまり前側ロワリンク8の車輪側端部が、車両外方側に大きく変位することはない。寧ろ、前側ロワリンク8とホイールサポート11との連結部分が車両外方側に大きく変位することが抑制されるため、このような引っ張り力Flにより、前側ロワリンク8は、前側ロワリンク8とサブフレーム3との連結部分、つまり車体側端部を中心として後方側に積極的に回動し、後傾の度合を強めることになる。(図7の破線参照)
こうして、2本のロワリンク8,9がそれぞれゴムブッシュ26の伸縮によって車体側の端部の周りに僅かに回動変位し、これにより車輪側の端部が車両外方側を除く車体後方に変位することで、後車輪2のアライメントをトーイン方向に変化させることができる。
特に、このとき、前側ロワリンク8が車体外方に向かって後傾し、且つ後側ロワリンク9が車体外方に向かって前傾していると、それらの各リンクの回動変位に伴い、前側ロワリンク8の車輪側端部が車体内方に変位するとともに、後側ロワリンク9の車輪側端部は車体外方に変位することになるから、後車輪2のトーイン傾向を強めることが可能となる。
一方、2本のアッパリンク6,7についても、ロワリンク8,9と同様に配置しているが、前側アッパリンク6は、ゴムブッシュ27aを介してホイールサポート11に連結させており、これにより、制動時、後車輪2に対し、より確実にトーインの向きの前後力コンプライアンスステアを得ることが可能となる。
つまり、図6、図8に模式的に示すように、前側アッパリンク6は、ホイールサポート11の車軸Cjよりも上方側に連結されているため、後車輪2に作用する制動力Fbは、前側アッパリンク6に対しては、該リンクの長手方向に沿うように、車両前方側で、車両斜め内方側の方向を指向する力Fuが作用することになる。このような、車両前方側で、斜め内方側に向かって押すような力Fuにより、前側アッパリンク6とホイールサポート11とを連結する弾性ブッシュ27aと、前側アッパリンク6とサブフレーム3とを連結する弾性ブッシュ26との双方が圧縮されるため、前側アッパリンク6とホイールサポート11との連結部分と、前側アッパリンク6とサブフレーム3との連結部分との間の距離が短くなる(図8の破線参照)。これにより、前側アッパリンク6とホイールサポート11との連結部分の位置は、車両内方側に位置することになり後車輪2をトーインにすることが可能となるとともに、この後車輪2のトーインにより、前側アッパリンク6とホイールサポート11との連結部分の位置を、更に後方側に変位させることになり、よりトーイン傾向を強めることができる。
こうして、2本のアッパリンク6,7がそれぞれゴムブッシュ26の撓みによって車体側の端部の周りに僅かに回動変位し、車輪側の端部が車体後方に変位することで、2本のアッパリンク6,7によっても、後車輪2のアライメントをトーイン方向に変化させることができる。
特に、ロアリンク8,9と同様に、前側アッパリンク6が車体外方に向かって後傾し、且つ後側アッパリンク7が車体外方に向かって前傾していると、それらの各リンクの回動変位に伴い、前側アッパリンク6の車輪側端部が車体内方に変位するとともに、後側アッパリンク7の車輪側端部は車体外方に変位することになるから、後車輪2のトーイン傾向を強めることが可能となる。
このように、本実施形態の特徴として、前側アッパリンク6及び前側ロワリンク8の双方によって、後車輪2のアライメントを確実にトーイン方向に変化させることができ、制動時における走行安定性を確実に向上できる。
尚、ロアリンク8,9、アッパリンク6,7に関して、このようなコンプライアンスステアを得るためには、この実施形態のように前側のリンクを後傾させ且つ後側のリンクを前傾させる必要はなく、車体上方から見て2本のリンクを車体外方側に向かうほど互いに接近するように配置すればよい。或いは、2本のリンクが平行な場合でもそれらの長さを異ならせて、例えば前側のリンクを後側のリンクよりも短くすれば、トーインの向きの前後力コンプライアンスステアを得ることが可能である。
前記トーコントロールリンク10は、図3に示すように車体上方から見て、車体側の端部がゴムブッシュ26を介してフロントクロスメンバ17の取付座17aに連結され、そこから車体外方に向かって略真横(車幅方向)に延びていて、車輪側の端部がボールジョイント27bによりホイールサポート11に連結されている。また、図5に示すように車体後方から見ると、前記アッパリンク6,7は、サイドクロスメンバ19から車体外方のホイールサポート11に向かって僅かに上向きに傾斜しており、これとは反対に前側ロワリンク8は車体外方に向かって僅かに下向きに傾斜しており、さらに、後側ロワリンク9及びトーコントロールリンク10はいずれも略水平に延びている。
前記仮想キングピン軸Kは、後車輪2の操向方向(トー方向)への回動の瞬間回転中心であり、図3のように車体上方から見ると、同図に仮想線で示すように、2つのアッパリンク6,7の軸心の交点と2つのロワリンク8,9の軸心の交点とを通る仮想の軸となる。この実施形態では、後車輪2の仮想キングピン軸Kは、図4に示すように車体側方から見て上端側ほど車体後方に位置するように僅かに後傾するとともに、車体前後方向に見て上端側ほど車体外方に位置するように僅かに傾斜している(図5参照)。
また、車体側方から見た仮想キングピン軸Kの路面との交点k1(図4参照)は後車輪2の接地点Gよりも車体後方に離間していて、後車輪2のキャスタトレールが負値となっている。このことで、自動車の旋回時に後車輪2の路面との接地点Gに作用する横力は仮想キングピン軸Kの車体前方を横切ることになり、この横力によって後車輪2には直接にトーインの向きのモーメント力が作用する。これにより、主に2本のロワリンク6,7のゴムブッシュ26,26が撓んで、車輪2のトーイン量が増大する(横力コンプライアンスステア)。
つまり、この実施形態のリヤサスペンションAの場合、自動車の制動時には前後力コンプライアンスステアによって左右の後車輪2,2のトーイン量が増大し、また、自動車の旋回時には旋回外方の後車輪2のトーイン量が横力コンプライアンスステアによって増大するようになっている。尚、詳しい説明は省略するが、このリヤサスペンションAでは各リンク6〜10の配置構成により、バンプ時のロールステアによっても後車輪2のトーイン量が増大するようになっている。
前記緩衝装置14は、図3に示すように車体上方から見て、前側のリンク6,8と後側のリンク7,9の中間を上下方向に貫通するように配置され、その軸心Xは、車体側方から見て略鉛直に延びるとともに(図4参照)、車体後方から見ると上端側ほど車体内方に位置するように傾斜している(図5参照)。この緩衝装置14の上端部では、図4にのみ破線で示すが、ダンパ13のロッド13aの上端部が円筒状ブラケット15内でその上端部にゴムブッシュ等を介して固定されており、さらに、そこから下方に向かって延びるように円筒状の樹脂製バンプストッパ28がロッド13aと同心状に配設されている。このバンプストッパ28は、サスペンション装置Aのバンプ時にコイルバネ12が所定量以上、縮んだときにダンパ13の外筒の上端部に当接するものであり、その当接後は緩衝装置14全体としてバネ定数が一段、高くなるので、後車輪2の車体側への近接変位が規制されることになる。
また、前記緩衝装置14のブラケット15の下端部には特に車体前後方向に長い異形の鍔部29が設けられていて、その上面が車体の下部フレームに接合されて締結されるようになっている。一方、鍔部29の下面にはコイルバネ12の上端部を保持するアッパシートが形成されており、ダンパ13の外筒を囲むように配置されたコイルバネ12の下端部は該ダンパ13外筒の下端側に設けられたロワシート部13bによって保持されている。さらに、ダンパ13の下端部には円環状の取付部13cが突設されていて、これが後車輪2のホイールサポート11から車体内方に延びる連結部30の端部に枢着されている。
詳しくは、前記ホイールサポート11の連結部30は、後車輪2の車軸が貫通するホイールサポート11本体の内側に一体に形成されたものであり、図5に示すように車体前後方向に見て、ホイールサポート11本体の上下両端側から車体内方に向かって延びて先端部で一体となった上腕部31及び下腕部32と、該上腕部31及び下腕部32をそれぞれの車幅方向中間部にて連結するように上下方向に延びる中間腕部33とを有し、全体として横向きの略A字形状をなす。そして、そのA字の横棒である中間腕部33から、A字の上端である上腕部31及び下腕部32の先端部(連結部30の車体内方の先端部)に亘って鋼製の支軸34が配設され、その支軸34の端部が連結部30の端部よりも車体内方に突出していて、これがダンパ13の下端取付部13cに挿通された状態でゴムブッシュ等を介して固定されている。このように連結部30を略A字形状としたことで、上下方向の荷重に対して十分な剛性を確保しながら、連結部30、ひいてはホイールサポート11全体の軽量化が図られ、連結部30を設けたことによるバネ下重量の増大を抑えて、運動性能の悪化を防止することができる。
前記のように緩衝装置14の上端部をブラケット15を介して車体の下部フレームに取り付けたことで、後車輪2から緩衝装置14に入力する力の大部分が車体の下部フレームに伝達されるのみとなり、車体の上部には殆ど伝達されない。従って、車体の剛性を確保するためには主に下部フレームを強化すればよく、このことで自動車のデザインの自由度が向上する。また、車体後部の分担荷重や緩衝装置14の上下反力はホイールサポート11の連結部30を介して直接、後車輪2に作用することになるが、前記したように、A字の横棒(中間腕部33)から先端部に亘って十分に大きな間隔を空けて2点で取り付けた支軸34に対してダンパ13の下端部を取り付けているから、緩衝装置14の上下反力は確実に伝達されるようになる。
そして、本実施形態において、更なる特徴は、前記の如く緩衝装置14から作用する反力を積極的に利用してホイールサポート11を予め所定の向きに付勢することにより、後車輪2のアライメントを最適化し且つ各リンク6〜10のゴムブッシュ26,26,…にそれぞれ最適な向きの付勢力を付与して、即ち、各ゴムブッシュ26を緩衝装置14の上下反力によって最適な向きに予圧縮して、マルチリンク式サスペンションにおいてもスポーツカーに適用可能なシャープな運転感覚を得られるようにしたことにある。具体的には前記緩衝装置14の上下反力により、(1)後車輪2に対して旋回時の横力にも打ち勝つように負キャンバの向きのモーメント力を作用させ、且つ、(2)旋回時の横力等が作用する以前からトーインの向きのモーメント力を付与するとともに、(3)特に乗り心地への影響が大きいロワリンク8,9のゴムブッシュ26,26に対して車体前方への付勢力を付与するようにしている。
以下、前記3つの特徴点についてそれぞれ説明すると、まず第1に、図9に模式的に示すように、車体右側のリヤサスペンションAを後方から見て、緩衝装置14は、その軸心X方向の反力Fcがホイールサポート11を介して後車輪2に十分に大きな負キャンバの向きのモーメント力Mnを発生させるように、言い換えると、緩衝装置14の上下反力によるモーメント力Mnの腕の長さが十分に大きくなるように、車体内方に比較的大きく離間して配置されている。具体的には、例えば、後車輪2の中心Cから当該緩衝装置14の軸心Xに下ろした垂線の長さd(緩衝装置14反力による負キャンバのモーメント力Mnの腕の長さ)を、後車輪2の半径D(横力による正キャンバのモーメント力Mpの腕の長さ)に対して予め設定した所定比率以上とするのが好ましい。
ここで、前記の所定比率の設定について説明すると、まず、前記緩衝装置14の上下反力Fcによって後車輪2に作用する負キャンバの向きのモーメント力Mnの大きさは、当該緩衝装置14の軸心Xから後車輪中心Cまでの距離(モーメントの腕の長さ)と緩衝装置反力Fcとの積として表される。しかし、一般的に、自動車のリヤサスペンションAにおいては、自動車の目標とする旋回性能、例えば旋回時に目標とする最大横加速度が得られるように、旋回外方の後車輪2への分担荷重、緩衝装置14のコイルバネ12の硬さ、後車輪2の最大グリップ力等を設定しており、これにより緩衝装置反力Fcそのものは概ね決定されてしまう。
それ故、前記負キャンバの向きのモーメント力Mnを十分に大きくしようとすると、実質的にはモーメントの腕の長さを長くする必要がある。例えば、自動車の旋回時に後車輪に最大の横加速度が発生している限界領域を想定し、そのときに限界の横力Fsによって後車輪2に作用する正キャンバのモーメント力Mpよりも緩衝装置反力Fcによる負キャンバのモーメント力Mnが大きくなるように、前記のモーメントの腕の長さを設定すればよい。換言すれば、横力Fsの限界領域において後車輪2に作用する負キャンバのモーメント力Mnが正キャンバのモーメント力Mpよりも大きくなるように、該モーメント力Mnの腕の長さdとモーメントMpの腕の長さDとの比率を実験等により設定してもよい。
より詳しくは、一般に、自動車の旋回時には横力Fsにより旋回外方の後車輪2に対し直接に正キャンバの向きのモーメント力Mpが作用し、このモーメント力Mpは横力Fsとともに増大する。一方、前記の如く緩衝装置14の上下反力Fcによって後車輪2に負キャンバ方向のモーメント力Mnを作用させるようにした場合、自動車の旋回時に横加速度が増大して車体のロールが大きくなると、緩衝装置14のコイルバネ12が圧縮されてその反力Fcが増大し、この反力Fcによる負キャンバのモーメント力Mnも増大することになる。
従って、この実施形態のように緩衝装置14を配置して、該緩衝装置14の上下反力Fcによる負キャンバのモーメント力Mnの初期値(停車時、或いは一定の速度で直進走行しているときの値)をある程度、大きくすれば、旋回時に横力Fsによる正キャンバのモーメント力Mpが増大しても、これに打ち勝つだけの負キャンバのモーメント力Mnを後車輪2の横力の限界領域まで発生させることができるのである。このことで、旋回外方の後車輪2においてはそのキャンバ変化の方向について、即ち各リンク6〜10のゴムブッシュ26,26,…においてそれぞれ車体の横方向について、後車輪2を負キャンバの向きに付勢するような一定の向きの付勢力が付与されることになり(予圧縮)、これにより、微視的な後車輪2のふらつきをなくしてシャープな運転感覚を得ることができる。
第2に、この実施形態のリヤサスペンションAでは、図4に示すように車体側方から見て僅かに後傾する後車輪2の仮想キングピン軸Kに対して、緩衝装置14の軸心Xを略鉛直方向に延びるように位置付けるともに、この緩衝装置軸心Xを仮想キングピン軸Kよりも車体内方において(図5参照)当該仮想キングピン軸Kと非平行であり且つ交わらないように位置付けている。このことで、図10に模式的に示すように車体右側の後車輪2を車体上方から見ると、緩衝装置14の上下反力Fcは仮想キングピン軸Kの周りに反時計回りのモーメント力、即ちトーインの向きのモーメント力Mtを発生させることになる。つまり、緩衝装置14の上下反力を利用して、自動車に横方向の加速度や姿勢変化が生じる以前(初期状態)からその後車輪2,2をトーインの向きに付勢するようにしているので、旋回初期に後車輪2に横力が作用してトーインが付与されるときに、各リンク6〜10のゴムブッシュ26,26,…の撓みに因る遅れが発生しなくなり、このことによっても、剛性感や応答性の高いシャープな運転感覚が得られるものである。
第3に、この実施形態のリヤサスペンションAでは、図11に模式的に示すように、緩衝装置14をその軸心Xが後車輪2の車体内方において後車輪2の中心Cよりも車体後方に位置付け、且つ略鉛直方向に延びるように配置している。このことで、図示の如く車体左側から見て、緩衝装置14の上下反力Fcが後車輪2の中心Cよりも車体後方(図の右側)でホイールサポート11に対し略鉛直上方から作用して、時計回りのモーメント力Mwを発生させることになる。これにより、アッパリンク6,7がそれぞれ車体後方に付勢されて、その各リンク6,7のゴムブッシュ26,26に車体後方への付勢力が作用するとともに、ロワリンク8,9はそれぞれ車体前方に付勢されて、その各リンク8,9のゴムブッシュ26、26に車体前方への付勢力が作用するようになる。
そうして、前記アッパリンク6,7のゴムブッシュ26,26がいずれも極めて硬いものとされ、一方、ロワリンク8,9のゴムブッシュ26は、それが比較的柔らかなものとされている。すなわち、相対的に乗り心地への影響が大きいロワリンク8,9についてそれぞれゴムブッシュ26を比較的柔らかなものにするとともに、このゴムブッシュ26を緩衝装置14の上下反力によって予め車体前方へ予圧縮しているのである。この状態では、ゴムブッシュ26には車体前方への撓み代が殆ど残されていないので、後車輪2へ車体前方への力(例えば駆動力)が作用したときにはゴムブッシュ26が殆ど撓むことなく、車体への力の伝達が行われる。
一方、前記のようにゴムブッシュ26を予め車体前方へ予圧縮した状態で、後車輪2へ車体後方への力(例えば不整路面からのショック)が入力した場合、この入力によってゴムブッシュ26に作用する力が前記の付勢力よりも大きくなって合力の向きが反転すると、当該ゴムブッシュ26が初期の状態とは反対に後ろ向きに撓んで、後車輪2が車体後方へ変位することになる。つまり、後ろ向きの入力は後車輪2から車体への伝達が遅れるか、或いは吸収されることになる。
−作用効果−
次に、上述の如く構成されたこの実施形態のリヤサスペンションAによる作用及び効果を説明する。
まず、自動車の後輪サスペンション装置Aを5本リンクのマルチリンク式とすることで、後車輪2の5つの運動自由度をそれぞれ最適に拘束することが可能になるので、AアームやHアームを用いたものに比べて高いポテンシャルを有するとともに、ゴムブッシュ26,26,…,27aの介在によって優れた乗り心地を得ることができる。
また、前側アッパリンク6とホイールサポート11とを、ゴムブッシュ27aにより連結することにより、制動時に前側アッパリンク6に作用する車両前方で車両斜め内方を指向する力に対し、前側アッパリンク6とホイールサポート11との連結位置を車両外方側を除く車両後方に変位させることができる。これにより、後車輪2のアライメントをトーイン方向に変化させることができる。
更に、前側ロワリンク8とホイールサポート11とを、ボールジョイント27bにより連結することにより、制動時に前側ロワリンク8に作用する車両後方で車両斜め外方を指向する力に対し、前側ロワリンク8とホイールサポート11との連結位置を車両外方側を除く車両後方に変位させることができる。これにより、後車輪2のアライメントをトーイン方向に変化させることができる。
このように、前側アッパリンク6と前側ロワリンク8とのよって、後車輪2のトーイン傾向を強化できるため、後車輪2を確実にトーインにすることが可能となり、制動時における走行安定性を向上できる。
尚、このようなトーイン傾向を強化するには、前側ロワリンク8、前側アッパリンク6の内、少なくとも一方のリンクの車体外方への後傾を、より強めれば良い。(つまり、車体前後方向との成す角をより小さくする。)
これにより、前側ロワリンク8においては、上述するように予圧縮が、前側ロワリンク8のゴムブッシュ26に作用しているため、予圧縮によりゴムブッシュ26の伸縮の余裕代が少なく、前側ロワリンク8の動きが規制されるが、前側ロワリンク8の車体外方への後傾を強めることで、予圧縮の度合を小さくしてゴムブッシュ26の伸縮の余裕代を大きくすることができる。従って、前側ロワリンクの自由度を高めることができ、トーイン傾向を強めることが可能となる。
前側アッパリンク6においては、同様に予圧縮によるゴムブッシュ26の伸縮の余裕代が大きくできるだけでなく、ゴムブッシュ27aの伸縮の余裕代も増大でき、前側アッパリンクの自由度を高めて、トーイン傾向を強めることが可能となる。
また、前側アッパリンク6とホイールサポート11との連結を、ゴムブッシュ27aを介して連結するため、後車輪2から車体側に伝達される振動を低減することも可能となる。
また、前側アッパリンク6を、ゴムブッシュ27aを介してホイールサポート11に連結しても、前側ロワリンク8をゴムブッシュを介してホイールサポート11に連結する場合と同様に、走行中における後車輪2の車両前後方向の変位を許容することが可能であり、これにより乗り心地を向上することも可能となる。
更に、自動車が停車しているか或いは一定の速度で直進しているときには、左右のリヤサスペンションA,Aにおいてそれぞれ車体後部の分担荷重に対応する力が緩衝装置14から後車輪2のホイールサポート11に作用していて、後車輪2には負キャンバの向きで且つトーインの向きのモーメント力が作用している(初期状態)。そして、直進中の自動車において運転者の操舵がなされると、自動車の前車輪及び後車輪に横力が発生して旋回状態に移行し、このとき、旋回外方の後車輪2には横力によってトーインが付与されるとともに、やや遅れて車体のロールによってもトーインが付与される。これにより、自動車の挙動が安定化される。
その際、直進状態でも予め後車輪2が負キャンバ且つトーインの向きに付勢されているから、横力やロールによって後車輪2にトーインが付与されるときにはリンク6〜10のゴムブッシュ26,26,…の撓みによる遅れが生じず、マルチリンク式サスペンションとしては過去に類を見ないほど剛性感が高く且つ位相遅れの少ないシャープな運転感覚が得られる。しかも、自動車の旋回外方の後車輪2は直進状態から旋回初期に亘って一貫して負キャンバ且つトーインの向きに付勢されることになるから、自然な運転感覚と高い安定感が得られる。
続いて、旋回中の自動車の横加速度が増大して後車輪2に作用する横力が増大すると、この横力やロールステアによるトーイン量が増大するとともに、リヤサスペンションAのバンプ量の増大に伴い緩衝装置14の、即ちコイルバネ12の反力が略比例的に増大して、これによるトーインの向きのモーメント力も増大する。そして、さらにバンプ量が大きくなってダンパ13の外筒の上端部がバンプストッパ28に当接すると、このことによって緩衝装置14全体としてバネ定数が一段、高くなり、該緩衝装置14反力が急増してこれによるトーインの向きのモーメント力が相乗的に増大する。このことで、バンプストッパ28の作用に伴い、ロールステアによるトーイン量が急減しても、このことは前記緩衝装置14反力によるトーインのモーメント力が急増することで相殺されることになり、後車輪2のトーイン量が急変することがないので、自動車の限界領域での挙動変化を抑制して、走行安定性を向上できる。
また、前記の旋回中の横加速度の増大に伴い、横力によって後車輪2に作用する正キャンバの向きのモーメント力が大きくなるが、その横加速度の増大に応じて緩衝装置14の上下反力も増大して、旋回外方の後車輪2には負キャンバの向きのモーメント力が横力の限界領域まで作用するようになる。すなわち、旋回外方の後車輪2の各リンク6〜10のゴムブッシュ26,26,…にはキャンバ変化の方向、即ち車体の横方向について常に一定の向きの付勢力が作用することになり、微視的な後車輪2のふらつきが発生しなくなるから、マルチリンク式サスペンションとして従来にないシャープな運転感覚が得られる。
この点について、自動車の操舵角を略一定に保持して徐々に車速を上げていき、グリップ限界付近に達するまでの間、旋回外方の後車輪2におけるサスペンションリンク6〜10のゴムブッシュ26,26,…にそれぞれ作用する付勢力を計測した実験結果を説明する。まず、図12のグラフは、時間の経過に対して(a)車速の変化と(b)横加速度の変化とをそれぞれ示し、この実験では車速を途中まで相対的に急に上昇させ、その後はやや緩やかに所定車速まで上昇させている。このとき、車速の上昇に対応して横加速度も途中までは相対的に早く上昇し、その後はやや緩やかに上昇して、約0.8G(重力加速度)で後車輪2のグリップ限界に達している。
そのような車速及び横加速度の変化に対応して、図13〜17のグラフにそれぞれ示すように、前側アッパリンク6、後側アッパリンク7、前側ロワリンク8、後側ロワリンク9及びトーコントロールリンク10の各ゴムブッシュ26に作用する付勢力が変化する。すなわち、図13(a)に示すように、前側アッパリンク6においては初期状態で横方向についてマイナス、即ち車体外方に向かう約200Nの付勢力が作用しており、時間の経過とともに車速及び横加速度が増大すると、付勢力の絶対値は一時、減少した後に増大して、グリップ限界付近で車体外方に約1600Nとなる。また、同図(b)に示すように、前後方向の付勢力は初期状態では略零であり、車速及び横加速度の増大に伴い車体後方に向かって増大する。
また、図14に示す後側アッパリンク7の場合、初期状態では横方向について車体内方に向かって3000N以上の極めて大きな付勢力が作用するとともに、車体後方に向かって約100Nの付勢力が作用している。そして、車速及び横加速度の増大に伴い横方向の付勢力は減少して、グリップ限界付近では車体内方に約1900Nとなっている。
同様に、図15に示す前側ロワリンク8では、初期状態で横方向に車体内方に向かって約800Nの付勢力が作用するとともに、車体前方に向かって約2.5Nの付勢力が作用しており、車速及び横加速度の増大に伴い横方向の付勢力が増大して、グリップ限界付近で車体内方に約2300Nとなる。さらに、図16に示す後側ロワリンク9では、初期状態で横方向に車体外方に向かって約4000Nの付勢力が作用するとともに、車体前方に向かって約25Nの付勢力が作用しており、車速及び横加速度の増大に伴い横方向の付勢力が減少して、グリップ限界付近で略零になる。
以上の実験結果について考察すると、初期状態では、緩衝装置14の上下反力によってホイールサポート11に対し負キャンバの向きのモーメント力Mnが作用するとともに(図9参照)、車体左側から見て時計回りのモーメント力Mwが作用しており(図11参照)、そのうちのキャンバ方向のモーメント力Mnは主に緩衝装置14反力の作用点に近い後側のアッパ及びロワリンク7,9が受け止めることになるから、後側アッパリンク7には圧縮の軸力が作用し、後側ロワリンク9には引張りの軸力が作用する。しかも、後側のリンク7,9においては前記モーメント力Mwもそれぞれ圧縮及び引張りの軸力となるから、結局、後側アッパリンク7には軸方向に非常に大きな圧縮力が作用して、そのゴムブッシュ26には横方向について車体内方に向かう非常に大きな付勢力(3000N以上)が作用することになる。また、後側のロワリンク9には軸方向に非常に大きな引張り力が作用して、そのゴムブッシュ26には横方向について車体外方に向かう非常に大きな付勢力(約4000N)が作用することになる。
一方、前記後側のリンク7,9に比べて前後方向への傾斜度合いが大きい前側のリンク6,8では、前記キャンバ方向のモーメント力Mnの影響が小さくなり、しかも、2つのモーメント力Mn,Mwが軸方向について反対向きに作用して相殺し合うことになる。この結果、前側アッパリンク6には軸方向に比較的小さな引張り力が作用し、そのゴムブッシュ26には横方向について車体外方に向かう比較的小さな付勢力(約200N)が作用するとともに、前後方向についての付勢力は略零になる。また、前側のロワリンク8には軸方向に比較的小さな圧縮力が作用して、そのゴムブッシュ26には横方向について車体内方に向かう付勢力(約800N)が作用するとともに、車体前方へは僅かな付勢力(約2.5N)が作用するのみとなる。
そして、自動車の旋回時に車速及び横加速度が増大すると、これに応じて、前記実験データのように各ゴムブッシュ26,26,…の付勢力が変化することになるが、その際、アッパ及びロワの4本のリンク6〜9の各ゴムブッシュ26,26,…において横方向の付勢力が原点(0)を横切ることはなく、初期状態から後車輪2の横力の限界領域まで、常に同じ向きに作用している。このことから、実験に用いた自動車のリヤサスペンションAにおいて、該自動車の旋回中に後車輪2,2はそのグリップ限界付近まで常に初期状態と同じく負キャンバの向きに付勢されていることが分かる。
尚、トーコントロールリンク10については、図17のグラフに示すように、初期状態で横方向に車体内方に向かって約300Nの付勢力が作用するとともに、車体前後方向の付勢力は略零になっており、車速及び横加速度の増大に伴い横方向の付勢力が増大して、グリップ限界付近で車体内方に約1000Nになっている。このことから、後車輪2には初期状態からグリップ限界付近まで一貫してトーインの向きの付勢力が作用していることが分かる。
さらに、この実施形態のリヤサスペンションAでは、5本のリンク6〜10のうち、特に乗り心地への影響が大きい前側及び後側ロワリンク8,9のゴムブッシュを比較的柔らかなものとし、その上で、前記実験データにも明らかなように、該2つのロワリンク8,9のゴムブッシュ26,26には、緩衝装置14の上下反力によって初期状態で車体前方へ弱い付勢力を付与するようにしている。このことで、自動車の走行中に例えば路面不整等によるショック(車体後ろ向きの衝撃力)が後車輪2に入力しても、ゴムブッシュ26,26の撓みによってショックを吸収して、良好な乗り心地を得ることができる。しかも、前記図15、14のグラフから明らかなように、ロワリンク8,9のゴムブッシュ26,26にそれぞれ初期状態で作用する付勢力はいずれも小さく、特に乗り心地への影響の大きい前側ロワリンク8については僅かな付勢力(約2.5N)しか作用していないので、この付勢力がゴムブッシュ26の撓みを阻害することがなく、ショックの吸収は極めて効果的に行われる。
また、そのように、比較的柔らかいロワリンク8,9のゴムブッシュ26,26をそれぞれ初期状態で車体前方へ予圧縮しているので、例えば自動車の加速時に後車輪2に駆動力が作用するときには、ゴムブッシュ26に残されている撓み代が小さくて車体への力の伝達遅れが少なくなり、このことでアクセル操作に対する自動車の加速応答性は十分に高くなる。しかも、加速時には車体のスクォットによって急加速時ほどゴムブッシュ26への付勢力が大きくなるから、大きな駆動力に対しても遅れなく高い加速応答性が得られる。
反対に、自動車の制動時にはゴムブッシュ26の撓みによって後車輪2から車体への制動力の伝達が遅れることになるが、制動時にはリヤサスペンションAのリバウンド量が増大して緩衝装置14の上下反力が低下し、ゴムブッシュ26への付勢力が小さくなるから、その撓みの向きが比較的早く反転するようになるし、この実施形態の場合は、上述のように、制動時の前後力コンプライアンスステアによって後車輪2のトーイン量を増大させて、路面との間での制動力の発生を早めるようにしているから、ゴムブッシュ26の撓みによって車体への制動力の伝達に遅れが生じても、自動車全体としては制動力の立ち上がりの遅れは軽微なものとなり、ブレーキフィーリングは実質的に悪化しない。
また、本実施形態では、上述の如き構成のリアサスペンションA,Aを、サブフレーム3により合計4個のマウントを介して車体に取付けている。
上述のように各リンク6,7,8,9,10の車体側のゴムブッシュ26,26,…を、予圧縮させた場合には、ゴムブッシュ26,26,…は予め圧縮され、弾性力が低減されているため、路面から後車輪2に入力され、ホイールサポート11と各リンク6,7,8,9,10を介して車体側に伝達される振動を、大幅に低減することはできない。そこで、サブフレーム3を柔らかい弾性マウントを介して車体に接続させる等して、振動を低減する必要がある。
しかしながら、上述のように、前側アッパリンク6を、ゴムブッシュ27aを介してホイールサポート11と連結させることで、このゴムブッシュ27aにより振動を吸収させることができ、車体側に伝達される振動の積極的な低減が可能となる。
特に、前側アッパリンク6は、前側ロワリンク8に比べて上方の位置で、ホイールサポート11と連結しており、ゴムブッシュ27aに働く上述の負キャンバのモーメント力Mnも比較的小さいため、ゴムブッシュ27aが予圧縮される程度も小さく、より確実に振動吸収が可能となる。
このように、ゴムブッシュ27aにより振動を低減できるため、サブフレーム3を車体に固定することが可能となり、これによって車体剛性の向上が図れる。
(他の実施形態)
尚、本願発明の構成は前記実施形態のものに限定されず、その他の種々の構成を包含するものである。すなわち、前記の実施形態では左右のリヤサスペンションA,Aをサブフレーム3により車体に取り付けるようにしているが、これに限らず、リヤサスペンションA,Aを直接、車体に取り付けるようにしてもよい。
また、前記実施形態のリヤサスペンションAでは、弾性ブッシュとしてはゴムブッシュ26、27aに限らず、所要の弾性を備える樹脂製のものであってもよい。
本発明に係る自動車の後輪サスペンション装置を適用した自動車のリヤサスペンションアッセンブリの斜視図である。 動力伝達系路を取り付けたリヤサスペンションアッセンブリの上面図である。 車体右側のリヤサスペンションの上面図である。 図3のリヤサスペンションの左側面図である。 図3のリヤサスペンションの後面図である。 後車輪を車幅方向から見た時における制動力などの説明図である。 ロワリンクの配置による前後力コンプライアンスステアの説明図である。 アッパリンクの配置による前後力コンプライアンスステアの説明図である。 緩衝装置の上下反力による負キャンバの向きのモーメント力の説明図である。 緩衝装置の上下反力によるトーインの向きのモーメント力の説明図である。 緩衝装置の上下反力による車軸周りのモーメント力の説明図である。 自動車の旋回試験において時間の経過に対する(a)車速の変化と(b)横加速度の変化とをそれぞれ示すグラフ図である。 自動車の旋回試験において前側アッパリンクのゴムブッシュに作用する(a)横方向及び(b)前後方向の力の変化を示すグラフ図である。 後側アッパリンクについての図13相当図である。 前側ロワリンクについての図13相当図である。 後側ロワリンクについての図13相当図である。 トーコントロールリンクについての図13相当図である。 従来のサスペンションのロワリンクにおけるトーアウトを説明する説明図である。
符号の説明
A:リヤサスペンション(後輪サスペンション装置)
K:仮想キングピン軸
X:緩衝装置の軸心
2:後車輪
3:サブフレーム
6:前側アッパリンク(アッパトレーリングリンク)
7:後側アッパリンク
8:前側ロワリンク(ロワトレーリングリンク)
9:後側ロワリンク
10:トーコントロールリンク
11:ホイールサポート(支持部材)
12:コイルバネ
13:ダンパ
14:緩衝装置
23:マウント
26:ゴムブッシュ(弾性ブッシュ)
27a:ゴムブッシュ(弾性ブッシュ)
27b:ボールジョイント
28:バンプストッパ
30:ホイールサポートの連結部
31:上腕部
32:下腕部
33:中間腕部
34:支軸

Claims (17)

  1. 自動車の後車輪の支持部材を5本のリンクにより車体に連結して、該各リンクの少なくとも車体側の端部にそれぞれ弾性ブッシュを配設するとともに、コイルバネ及びダンパからなる緩衝装置の下端部を前記後車輪支持部材の車体内方側に枢着してなるマルチリンク式の後輪サスペンション装置において、
    前記リンクは、少なくとも2本のロワリンクと、少なくとも2本のアッパリンクとから成るとともに、該ロワリンクの内、車体前後方向との成す角が他の該ロワリンクよりも小さいロワトレーリングリンクと、該アッパリンクの内、車体前後方向との成す角が他の該アッパリンクよりも小さいアッパトレーリングリンクを含み、
    前記アッパトレーリングリンクは、弾性ブッシュにより該後車輪支持部材に連結するとともに、該アッパトレーリングリンク以外の他の4本のリンクは、ボールジョイントにより前記後車輪支持部材に連結することを特徴とする自動車の後輪サスペンション装置。
  2. 自動車の後車輪の支持部材を5本のリンクにより車体に連結して、該各リンクの少なくとも車体側の端部にそれぞれ弾性ブッシュを配設するとともに、コイルバネ及びダンパからなる緩衝装置の下端部を前記後車輪支持部材の車体内方側に枢着してなるマルチリンク式の後輪サスペンション装置において、
    前記緩衝装置を、その上下反力が後車輪の仮想キングピン軸の周りにトーインの向きのモーメント力を発生させるように当該仮想キングピン軸に対して配置して、その上下反力が後車輪に対して負キャンバの向きのモーメント力を発生させるように後車輪の車体内方に離間させ、
    前記緩衝装置の上下反力による負キャンバの向きのモーメント力を、自動車の旋回時に旋回外方に位置する後車輪において横力により発生する正キャンバの向きのモーメント力と比較して、その横力の限界領域まで大きくなるように設定するとともに、
    前記リンクは、少なくとも2本のロワリンクと、少なくとも2本のアッパリンクとから成るとともに、該ロワリンクの内、車体前後方向との成す角が他の該ロワリンクよりも小さいロワトレーリングリンクと、該アッパリンクの内、車体前後方向との成す角が他の該アッパリンクよりも小さいアッパトレーリングリンクを含み、
    前記アッパトレーリングリンクは、弾性ブッシュにより該後車輪支持部材に連結するとともに、該アッパトレーリングリンク以外の他の4本のリンクは、ボールジョイントにより前記後車輪支持部材に連結することを特徴とする自動車の後輪サスペンション装置。
  3. 請求項2において、
    前記5本のリンクの車体側の端部は、それぞれサブフレームに取付けられており、前記サブフレームは、車体の左右両側において、車体に固定されることを特徴とする自動車の後輪サスペンション装置。
  4. 請求項2において、
    後車輪の仮想キングピン軸が上端側ほど車体後方に位置するように後傾して設定され、
    緩衝装置は、その軸心が前記仮想キングピン軸よりも車体内方に位置して当該仮想キングピン軸と非平行であり且つ交わらないとともに、車体側方から見て、軸心の方向が仮想キングピン軸と比べて鉛直に近くなるように配置されていることを特徴とする自動車の後輪サスペンション装置。
  5. 請求項2又は4のいずれかにおいて、
    緩衝装置の下端部は、後車輪の支持部材から車体内方に延びるように一体に形成された連結部の先端に枢着されていることを特徴とする自動車の後輪サスペンション装置。
  6. 請求項5において、
    後車輪の支持部材の連結部は、車体前後方向に見て、該後車輪支持部材本体の上下両端側から車体内方に向かって延びて先端部で一体となった上腕部及び下腕部と、該上腕部及び下腕部をそれぞれの車幅方向中間部にて連結するように上下方向に延びる中間腕部とを有し、
    前記連結部の中間腕部から先端部に亘って架設された支軸の端部が該連結部の端部よりも車体内方に突出していて、この支軸の端部に緩衝装置の下端部が取り付けられていることを特徴とする自動車の後輪サスペンション装置。
  7. 請求項2又は4のいずれかにおいて、
    後車輪の仮想キングピン軸は、キャスタトレールが負値となるように設定されていることを特徴とする自動車の後輪サスペンション装置。
  8. 請求項2又は4のいずれかにおいて、
    緩衝装置は、その上下反力によって後車輪に作用する車体前後方向の付勢力が微小ないし零となるように配置されていることを特徴とする自動車の後輪サスペンション装置。
  9. 請求項8において、
    緩衝装置は、その軸心が車体側方から見て略鉛直方向に延びるように配置されていることを特徴とする自動車の後輪サスペンション装置。
  10. 請求項9において、
    緩衝装置は、その軸心を車体前後方向に見て上端側ほど車体内方に位置するように傾斜させ、且つ後車輪支持部材の車体内方側へ所定距離隔てて配置されていることを特徴とする自動車の後輪サスペンション装置。
  11. 請求項8において、
    緩衝装置は、その上下反力によって後車輪を車体前方に若干量付勢するように配置されていることを特徴とする自動車の後輪サスペンション装置。
  12. 請求項6において、
    緩衝装置の軸心が車体側方から見て後車輪中心よりも車体後方に位置し、
    5本のリンクのうち、ロワリンクの車体側端部の弾性ブッシュが、アッパリンクの車体側端部の弾性ブッシュに比べて柔らかいものであることを特徴とする自動車の後輪サスペンション装置。
  13. 請求項11又は12のいずれかにおいて、
    後車輪が駆動輪であることを特徴とする自動車の後輪サスペンション装置。
  14. 請求項11又は12のいずれかにおいて、
    5本のリンクのうちの少なくとも2本がロワリンクであり、この2本のロワリンクが車体上方から見て車体外方側に向かって互いに接近するように配置されていることを特徴とする自動車の後輪サスペンション装置。
  15. 請求項2において、
    旋回外方に位置する後車輪のトーイン量がバンプ時のロールステアによって増大するとともに、横力によるコンプライアンスステアによっても増大するように構成されていることを特徴とする自動車の後輪サスペンション装置。
  16. 請求項15において、
    車体に対する後車輪の近接変位を規制するバンプストッパが緩衝装置と同軸上に配設されており、
    緩衝装置の上下反力によって後車輪に作用するトーインの向きのモーメント力が、バンプストッパの作用によって前記緩衝装置反力が増大することにより増大するように構成されていることを特徴とする自動車の後輪サスペンション装置。
  17. 自動車の後車輪の支持部材を5本のリンクにより車体に連結して、該各リンクの少なくとも車体側の端部にそれぞれ弾性ブッシュを配設するとともに、コイルバネ及びダンパからなる緩衝装置の下端部を前記後車輪支持部材の車体内方側に枢着してなるマルチリンク式の後輪サスペンション装置において、
    前記後車輪の仮想キングピン軸は、上端側ほど車体後方に位置するように傾斜し且つキャスタトレールが負値となるように設定され、
    前記緩衝装置は、その軸心が前記仮想キングピン軸よりも車体内方に位置して当該仮想キングピン軸と非平行であり且つ交わらず、且つ、車体側方から見ると後車輪の中心よりも車体後方で略鉛直方向に延びるように配置されるとともに、当該緩衝装置の上下反力によって後車輪に作用する負キャンバの向きのモーメント力が、自動車の旋回時に旋回外方に位置する後車輪において横力により発生する正キャンバの向きのモーメント力と比べてその横力の限界領域まで常に大きくなるように、後車輪の車体内方側へ所定距離隔てて配置されており、
    前記リンクは、少なくとも2本のロワリンクと、少なくとも2本のアッパリンクとから成るとともに、該ロワリンクの内、車体前後方向との成す角が他の該ロワリンクよりも小さいロワトレーリングリンクと、該アッパリンクの内、車体前後方向との成す角が他の該アッパリンクよりも小さいアッパトレーリングリンクを含み、
    前記アッパトレーリングリンクは、弾性ブッシュにより該後車輪支持部材に連結するとともに、該アッパトレーリングリンク以外の他の4本のリンクは、ボールジョイントにより前記後車輪支持部材に連結することを特徴とする自動車の後輪サスペンション装置。





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