JP3967809B2 - 免震鉛ダンパーの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、地震による構造物の揺れを抑制して構造物を保護する免震鉛ダンパーの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
建物などの免震構造は、図6に示すように、建物51と基礎52との間に、免震アイソレータ(積層ゴム)53と免震鉛ダンパー54を設けて地震の衝撃を吸収するようなものになっている。
免震アイソレータ53は、ゴムなどの薄い弾性板と鋼板などの剛性板を交互に積層、固定して積層体としたものであり、水平方向の剛性に比べて鉛直方向の剛性が非常に大きい。免震構造においては、免震アイソレータ53の一端部が基礎52の上に載置、固定されると共に、その他端部の上に建物51を載置、固定して、建物51と基礎52との間に水平方向の滑りが生じるようにしている。これにより、建物の水平方向の固有振動周期が地震動の水平成分の周期に比べて大きくなり、地震による入力加速度を低減させ、建物51を地震による破壊から保護する。
【0003】
免震鉛ダンパー54は、図7に示すように、一つの平面に沿って湾曲する部分を設けた鉛部54aと、鉛部54aの両端にフランジ54bを備えている。鉛部54aは、純度99.99%以上の鉛材料でできている。また鉛部54aは、中央部分が所定量(例えば、半円形状に)湾曲し、この湾曲した部分の両端から、逆向きに上記の湾曲した部分の1/2の量(例えば、1/4円形状に)湾曲している。さらに、この湾曲した部分の両端からフランジ54bに至る部分では径が徐々に大きくなる、いわゆるテーパを形成している。このテーパ形状部分の両端はフランジ54bに接合されている。他方、フランジ54bは鋼板でできており、鉛部54aの両端面よりも大きな面を有している。また、フランジ54bの四隅には、構造物および構造物の基礎にボルトで固定するための孔54cが設けられている。
【0004】
免震鉛ダンパー54は、免震構造において、両端のフランジ54bを介して建物51と基礎52とに連結させられている。そして、振動に対し鉛部54aが柔らかく塑性変形することによって、免震アイソレータ53によっては減衰させることができない振動時のエネルギーを吸収し、免震構造に減衰性能を付与して、建物51と基礎52との過大な相対変位を抑制する。
【0005】
このような免震鉛ダンパーは、従来より次のような方法で製造されている。
(1) フランジに、ボルトで固定するための孔開け加工を施し、次いで、鉛部との溶着側の面に錫−鉛合金によるメッキ層を形成する。
(2) 鉛部を金型により鋳込み成形し、成形後に、成形された鉛部の両端面を機械加工して精度及び寸法決めを行う。
(3) 成形された鉛部の端面に、フランジのメッキを施した面に銀ろう材と適量フラックスを介在させ、次いで、加熱することによりその接合部を溶着する。
【0006】
具体的には、図8のフローチャートに示すように、鉛部は、鉛の原材料を溶解し、金型を組み立てて形成した鋳型の中に溶融した鉛を鋳込み、冷却、凝固させた後、金型を離型して製造する(S61〜S63)。次いで、鉛部の両端面をフランジと溶着しやすくするために平滑面となるように機械加工する(S64)。
他方、フランジは、鋼板を所定の寸法に加工し、ボルトを取り付けるための孔をあけると共に、接合面に錫−鉛合金のはんだをメッキし(65,66)、次いで、鉛部と溶着しやすくするために平滑面となるように仕上げる(S67)。
このように処理したフランジをメッキを施した面が上を向くようにし、接合面に銀ろう材と適量フラックスを介在させ、その上に鉛部の一端を置き、裏面よりバーナーなどで加熱して鉛部の一端に溶着する(S68)。次いで、鉛部を上下逆向きして、上記と同様の方法で他端面にフランジを溶着する(S69)。このようにして製造した免震鉛ダンパーは、余分な部分の削除をするための仕上げ加工が施され、所定の検査(S70)を経た後に製品として出荷される。
このように、従来の免震鉛ダンパー製造方法では、フランジを鋳型成形後の鉛部と溶着していた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述のような構造を有する免震鉛ダンパーにおいて、鉛部は免震動作時に建築物等の構造物によって曲げ変形する。そのため、鉛部とフランジとの接合部に大きな応力が作用して鉛部とフランジとが剥離を起こしやすい。したがって、免震鉛ダンパーを、剥離を起こすことなく揺れを抑制するように機能させるためには、上記鉛部とフランジとの間に十分な接合強度をもたせる必要がある。
しかしながら、フランジと鉛を単に溶着させる方法では、十分な接合強度を持たせることが困難である。また、従来の方法のように銀を含む高価な材料を用いるとコストの増大を招くという問題点がある。
本発明は、上記課題を解決するものであり、鉛部とフランジの接合強度が高い免震鉛ダンパーの製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明による免震鉛ダンパーの製造方法は、
一つの平面に沿って湾曲する湾曲部を有する鉛部と、前記鉛部の両端に、構造物の基礎とこの基礎に支持される構造物との間に取り付けるためのフランジを備えてなる免震鉛ダンパーの製造に際し、
少なくとも一方の前記フランジの前記鉛部との接合面に、錫−鉛合金のはんだをメッキすると共に、錫−鉛合金のはんだメッキ層に鉛をホモゲン溶着することによりホモゲン溶着層を形成する工程と、
前記ホモゲン溶着層を備えた前記フランジを、鉛部を形成するための鋳型の少なくとも下側の端部に、該鋳型の底部を構成するような態様で組み込む工程と、
前記鋳型に溶融した鉛を流し込んで、前記鉛部の鋳込み成形と、前記鉛部と前記少なくとも鋳型の下側の端部に組み込まれた一方のフランジのホモゲン溶着とを同時に行う工程と
を具備することを特徴としている。
【0009】
本発明の免震鉛ダンパーの製造方法は、ホモゲン溶着層を備えたフランジを、鉛部を形成するための鋳型の少なくとも下側の端部に、該鋳型の底部を構成するような態様で組み込み、鋳型に溶融した鉛を流し込んで、鉛部の鋳込み成形と、鉛部と少なくとも鋳型の下側の端部に組み込まれたフランジのホモゲン溶着とを同時に行うようにしているので、少なくとも鋳型の下側の端部に組み込まれたフランジをホモゲン溶着により確実に鉛部に溶着することが可能になると共に、鉛部の鋳造と、鉛部と前記フランジの溶着を同時に行うことが可能になり、鉛部とフランジの接合信頼性の高い免震鉛ダンパーを効率よく製造することが可能になる。
【0010】
また、本発明においては、前記鋳型の上端および下端に前記ホモゲン溶着層を備えた前記フランジを組み込み、前記鋳型の上端に組み込まれる前記フランジの前記鉛部との接合面には、上側に向かうにしたがって径が次第に小さくなるテーパ状の側面を有する凹部を設けると共に、前記凹部の中央に鋳込み用の孔を設けておくことが好ましい。
【0011】
また、本発明においては、少なくとも一方の前記フランジには、前記鉛部と溶着する側の面に、最大径が前記鉛部の端面の径にほぼ一致する凹部を切削加工して設けることが好ましい。
【0012】
【発明の実施形態】
以下、本発明の実施形態を、図を用いて説明する。
図1は、本発明による免震鉛ダンパーの製造方法の第1実施形態を含む免震鉛ダンパーの製造手順を示すフローチャートである。
図2(a) ,(b) は、本実施形態においてフランジに形成された凹部および鋳込み孔の形状を示す図であり、(a) は、鉛部の上端に取り付けるフランジの断面図、(b) は下端に取り付けるフランジの断面図である。
図3は、本実施形態において、金型の両端にフランジを組み込んだ状態を示す断面図である。
図4は、本実施形態の変形例を含む免震鉛ダンパーの製造手順を示すフローチャートである。
フランジは、鋼板を所定の寸法に切断加工し、ボルトを取り付けるための孔をあけると共に、ホモゲン溶着する側の面を切削加工して、図2(a) ,(b) に示すように、最大径が鉛部1の端面の径にほぼ一致する大きさの凹部2a,2'aを形成する(S1,S2)。このとき、鉛部の上端に取り付けるフランジ2には、図2(a) に示すように、凹部2aの側面2bを、鉛部1と溶着する側の面より外側に向かうにしたがって径が次第に小さくなるテーパ状に形成すると共に、凹部2aの中央に鉛を鋳込むための孔2cを設けておく。なお、テーパの傾斜角度、および孔の大きさは、鉛を鋳込む際に発生する鉛の酸化などに起因する不純物を逃がし、かつホモゲン溶着の程度を確認できるような範囲の傾斜角度、および大きさに設計しておく。また、鉛部の下端に取り付けるフランジ2'の凹部2'aは、図2(b) に示すような形状に形成する。
【0013】
次に、凹部の表面に錫−鉛合金のはんだをメッキし、次いでメッキを施した面に、酸化防止のための鉛をホモゲン溶着して盛りつけてホモゲン溶着層を形成する(S3)。さらに、このホモゲン溶着層を鉛部とホモゲン溶着しやすくするために平滑面となるように機械加工する(S4)。
【0014】
このように処理したフランジを、図3に示すように、鉛を鋳込む金型3の上下端に、ホモゲン溶着層A,A'を形成した面が鉛部の一端面に溶着できるように位置をあわせて組み込んで、鋳型を組み立てる(S5,S6)。次に、鋳造に用いる鉛を溶融させ(S7)、金型の中に鋳込む(S8)。このとき鋳込まれた鉛の熱により金型に組み込まれたフランジのホモゲン溶着層が溶けて、フランジは、鉛部の両端にホモゲン溶着される。すなわち、鉛部の鋳込みと、鉛部の両端部へのフランジの接合が同時に行われる。それから、鋳込んだ鉛を冷却、凝固させた後、金型を離型して、免震鉛ダンパーができあがる。
このようにして製造した免震鉛ダンパーは、鋳込み口付近のバリなど余分な部分の削除をするための仕上げ加工が施され、所定の検査(S9)を経た後に製品として出荷される。
【0015】
本実施形態の方法によれば、鉛部の鋳造と、鉛部とフランジのホモゲン溶着とを同時に行うようにしたので、フランジと鉛部との溶着に際し、鉛を鋳込んだ熱を利用できる。
このとき、メッキ層に溶着しておいたホモゲン溶着層は、鋳込まれた鉛の熱によって溶融されるので、フランジと鉛部とが確実にホモゲン溶着され、フランジと鉛部の接合強度が強くなる。このため、従来の製造方法のように銀を含んだ高価な材料を用いないで済み、溶着材の費用が半分以下に低減する。また、鋳込まれた鉛は、フランジと溶着した状態で凝固していき、フランジとの接合部の境目に隙間を作らないので、鉛部とフランジとの接合部分の周りをホモゲン溶接する必要がない。さらには、鉛部を別途成形しておく必要がないため、フランジと溶着するために鉛部の端部を予め平坦に加工しておく必要もなくなる。さらにまた、従来の製造方法のように鉛部の鋳込み成形とは別個にフランジと溶着するための加熱処理が不要となる。
また、鉛部の上端に取り付けるフランジの凹部の側面をテーパ状に形成すると共に、凹部の中央に孔を設けたので、鋳型に鉛を鋳込む際に発生する鉛の酸化等に起因する不純物を鋳型の外部に逃がして、鉛部の純度を高純度に維持することができる。
【0016】
なお、本実施形態の方法は、鉛部の鋳込み成形と、鉛部とフランジの溶着とを同時に行うことができれば、上で述べた手順に限定されるものではなく、例えば図4に示すように、鉛を鋳込む前には、鉛部の下端に取り付けるフランジのみを金型に組み込み(S6')、鉛を鋳込んだ直後に、鉛部の上端に取り付けるフランジを金型に組み込むようにしてもよい(S81 '〜S83 ')。
【0017】
また、本発明による免震鉛ダンパーの製造方法は、一方のフランジに鉛を鋳込む孔と凹部にテーパを設けないで、両方とも同じ形状の凹部を有するフランジを用いてもよい。その場合、一方のフランジを金型に組み込んで、鉛部の鋳造と、鉛部の一端と金型に組み込んだフランジのホモゲン溶着とを同時に行った後に、鉛部の他端を従来と同様の方法を用いてホモゲン溶着する。
図5は、請求項の発明の実施例ではないが、本発明に関連する免震鉛ダンパーの製造方法を示すフローチャートである。
すなわち、図5のフローチャートに示す免震鉛ダンパーの製造方法においては、下側のフランジの鉛部への接合方法が本発明を利用したものとなっている。以下に説明を行う。
フランジは、鋼板を所定の寸法に切断加工し、ボルトを取り付けるための孔をあけると共に、ホモゲン溶着する側の面を切削加工して凹部を形成する(S11)。
次に、一方のフランジには、凹部の表面に錫−鉛合金のはんだをメッキし、次いでメッキを施した面に鉛をホモゲン溶着して盛りつけてホモゲン溶着層を形成する。さらに、ホモゲン溶着層を鉛部とホモゲン溶着しやすくするために平滑に機械加工する。
次に、他方のフランジには、凹部の表面に錫−鉛合金のはんだをメッキし、次いで、そのメッキした面に錫−銀合金のはんだをホモゲン溶着して盛りつけホモゲン溶着層を形成する。さらに、ホモゲン溶着層を鉛部とホモゲン溶着しやすくするために平滑に機械加工する(S12,S13)。
【0018】
このように鉛をホモゲン溶着した一方のフランジを、鉛を鋳込む金型の下に溶着面が成形される鉛部の下端面に溶着できるように位置をあわせて組み込んで、鋳型を組み立てる(S14,S15)。次に、鋳造に用いる鉛を溶融し、金型の中に鋳込む(S16,S17)。このとき鋳込まれた鉛の熱により金型に組み込まれたフランジのホモゲン溶着層が溶けて、フランジは、鉛部の下端にホモゲン溶着される。鋳込んだ鉛を冷却、凝固させた後、金型を離型する。
次いで、離型した未完成の免震鉛ダンパーのフランジが溶着されていない側の鉛部の端面をフランジとホモゲン溶着しやすくするために平滑面となるように機械加工する(S18)。次いで、錫−銀合金のはんだがホモゲン溶着されている他方のフランジをホモゲン溶着層が上を向くようにし、裏面よりバーナーなどで加熱してホモゲン溶着層を溶かす(S19)。その上に、離型した未完成の免震鉛ダンパーを上下逆向きにし、フランジが溶着されていない側の鉛部の端面を置いて、鉛部の端面とフランジとをホモゲン溶着する(S20)。その後さらに、この鉛部とフランジの接合部分の外周をホモゲン溶接することで(S21)、免震鉛ダンパーができあがる。
このようにして製造した免震鉛ダンパーは、鋳込み口付近のバリなど余分な部分の削除をするための仕上げ加工が施され、所定の検査(S22)を経た後に製品として出荷される。
【0019】
この図5にフローチャートを示した免震鉛ダンパーの製造方法の場合にも、鉛部の鋳造と、鉛部とフランジの溶着を同時に行うようにした部分については、第1実施形態とほぼ同様の効果を奏する。
【0020】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明の方法によれば、鉛部とフランジとの接合強度の高い免震鉛ダンパーを、製造工程を簡略化し、作業負担、製造コストを格段に低減させて、製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による免震鉛ダンパーの製造方法の第1実施形態を含む免震鉛ダンパーの製造手順を示すフローチャートである。
【図2】 本実施形態においてフランジに形成された凹部および鋳込み孔の形状を示す図であり、(a) は、鉛部の上端に取り付けるフランジの断面図、(b) は下端に取り付けるフランジの断面図である。
【図3】 本実施形態において、金型の両端にフランジを組み込んだ状態を示す断面図である。
【図4】 本実施形態の変形例を含む免震鉛ダンパーの製造手順を示すフローチャートである。
【図5】 本発明が関連する免震鉛ダンパーの製造方法を示すフローチャートである。
【図6】 建物の免震構造の一例を示す正面図である。
【図7】 免震鉛ダンパーの一例を示す正面図である。
【図8】 従来の免震鉛ダンパーの製造方法による免震鉛ダンパーの製造手順の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
1 鉛部
2,2' フランジ
2a,2'a 凹部
2b,2'b 側面
2c 孔
3 金型
A ,A’ 溶着層
Claims (3)
- 一つの平面に沿って湾曲する湾曲部を有する鉛部と、前記鉛部の両端に、構造物の基礎とこの基礎に支持される構造物との間に取り付けるためのフランジを備えてなる免震鉛ダンパーの製造に際し、
少なくとも一方の前記フランジの前記鉛部との接合面に、錫−鉛合金のはんだをメッキすると共に、錫−鉛合金のはんだメッキ層に鉛をホモゲン溶着することによりホモゲン溶着層を形成する工程と、
前記ホモゲン溶着層を備えた前記フランジを、鉛部を形成するための鋳型の少なくとも下側の端部に、該鋳型の底部を構成するような態様で組み込む工程と、
前記鋳型に溶融した鉛を流し込んで、前記鉛部の鋳込み成形と、前記鉛部と前記少なくとも鋳型の下側の端部に組み込まれた一方のフランジのホモゲン溶着とを同時に行う工程と
を具備することを特徴とする免震鉛ダンパーの製造方法。 - 前記鋳型の上端および下端に前記ホモゲン溶着層を備えた前記フランジを組み込み、前記鋳型の上端に組み込まれる前記フランジの前記鉛部との接合面には、上側に向かうにしたがって径が次第に小さくなるテーパ状の側面を有する凹部を設けると共に、前記凹部の中央に鋳込み用の孔を設けておくことを特徴とする請求項1に記載の免震鉛ダンパーの製造方法。
- 少なくとも一方の前記フランジには、前記鉛部と溶着する側の面に、最大径が前記鉛部の端面の径にほぼ一致する凹部を切削加工して設けることを特徴とする請求項1または2に記載の免震鉛ダンパーの製造方法。
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