JP3965660B2 - 鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末を使用している磁気記録媒体の非磁性下地層用針状ヘマタイト粒子粉末、該針状ヘマタイト粒子粉末を用いた非磁性下地層を有する磁気記録媒体 - Google Patents
鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末を使用している磁気記録媒体の非磁性下地層用針状ヘマタイト粒子粉末、該針状ヘマタイト粒子粉末を用いた非磁性下地層を有する磁気記録媒体 Download PDFInfo
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、光透過率が小さく、表面平滑で、強度が大きく、且つ、耐久性に優れているとともに、磁気記録層中に分散されている鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末の腐蝕に伴う磁気特性の劣化が抑制された非磁性下地層を有する磁気記録媒体を得るために、非磁性下地層用非磁性粒子粉末として好適な針状ヘマタイト粒子粉末を提供する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ビデオ用、オーディオ用磁気記録再生用機器の長時間記録化、小型軽量化が進むにつれて、磁気テープ、磁気ディスク等の磁気記録媒体に対する高性能化、即ち、高密度記録化、高出力特性、殊に周波数特性の向上、低ノイズ化の要求が益々強まっている。
【0003】
磁気記録媒体のこれら諸特性を向上させるために、磁性粒子粉末の高性能化及び磁性層の薄層化の両面から、種々の試みがなされている。
【0004】
先ず、磁性粒子粉末の高性能化について述べる。
【0005】
磁気記録媒体に対する上記のような要求を満足させる為に適した磁性粒子粉末の特性は、高い保磁力と大きな飽和磁化とを有することである。
【0006】
近年、高出力並びに高密度記録に適する磁性粒子粉末として針状ゲータイト粒子又は針状ヘマタイト粒子を還元性ガス中で加熱還元することにより得られる鉄を主成分とする針状金属磁性粒子粉末が広く使用されている。
【0007】
鉄を主成分とする針状金属磁性粒子粉末は、高い保磁力と大きな飽和磁化とを有するものであるが、磁気記録媒体用に使用される鉄を主成分とする針状金属磁性粒子粉末は、1μm以下、殊に、0.01〜0.3μm程度の非常に微細な粒子である為、腐蝕しやすく、磁気特性が劣化し、殊に、飽和磁化及び保磁力の減少をきたすという欠点がある。
【0008】
従って、磁性粒子粉末として鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末を使用している磁気記録媒体の特性を長期に亘って維持するためには、鉄を主成分とする針状金属磁性粒子の腐蝕を極力抑制することが強く要求される。
【0009】
次に、磁気記録層の薄層化について述べる。
【0010】
近時におけるビデオテープの高画像高画質化に対する要求は益々強まっており、従来のビデオテープに比べ、記録されるキャリアー信号の周波数が益々高くなっている。即ち、短波長領域に移行しており、その結果、磁気テープの表面からの磁化深度が著しく浅くなっている。
【0011】
短波長信号に対して、磁気記録媒体の高出力特性、殊に、S/N比を向上させる為には、磁気記録層の薄層化が強く要求されている。この事実は、例えば、株式会社総合技術センター発行「磁性材料の開発と磁粉の高分散化技術」(1982年)第312頁の「‥‥塗布型テープにおける高密度記録のための条件は、短波長信号に対して、低ノイズで高出力特性を保持できることであるが、その為には保磁力Hcと残留磁化Brが‥‥共に大きいことと塗布膜の厚みがより薄いことが必要である。‥‥」なる記載の通りである。
【0012】
磁気記録層の薄層化が進む中で、いくつかの問題が生じている。第一に、磁気記録層の平滑化と厚みむらの問題であり、周知の通り、磁気記録層を平滑で厚みむらがないものとするためには、ベースフィルムの表面もまた平滑でなければならない。この事実は、例えば、工学情報センター出版部発行「磁気テープ−ヘッド走行系の摩擦摩耗発生要因とトラブル対策−総合技術資料集(−以下、総合技術資料集という−)」(昭和62年)第180及び181頁の「‥‥硬化後の磁性層表面粗さは、ベースの表面粗さ(バック面粗さ)に強く依存し両者はほぼ比例関係にあり、‥‥磁性層はベースの上に塗布されているからベースの表面を平滑にすればするほど均一で大きなヘッド出力が得られS/Nが向上する。‥‥」なる記載の通りである。
【0013】
第二に、ベースフィルムもまた磁性層と同様に薄層化が進んでおり、その結果、ベースフィルムの強度が問題となってきている。この事実は、例えば、前出「磁性材料の開発と磁粉の高分散化技術」第77頁の「‥‥高密度記録化が今の磁気テープに課せられた大きなテーマであるが、このことは、テープの長さを短くしてカセットを小型化していく上でも、また長時間記録に対しても重要となってくる。このためにはフィルムベースの厚さを減らすことが必要な訳である。‥‥このように薄くなるにつれてテープのスティフネスが急激に減少してしまうためレコーダーでのスムーズな走行がむずかしくなる。ビデオテープの薄型化にともない長手方向、幅方向両方向に渡ってのこのスティフネスの向上が大いに望まれている。‥‥」なる記載の通りである。
【0014】
ところで、現在、特にビデオテープ等の磁気記録媒体の磁気テープ終端の判定は、磁気記録媒体の光透過率の大きい部分をビデオデッキによって検知することにより行われている。磁気記録媒体の薄層化や磁気記録層中に分散されている磁性粒子粉末の超微粒子化に伴って磁気記録層全体の光透過率が大きくなるとビデオデッキによる検知が困難となる為、磁気記録層にカーボンブラック等を添加して光透過率を小さくすることが行われている。そのため、現行のビデオテープにおいては磁気記録層へのカーボンブラック等の添加は必須となっている。
【0015】
しかし、非磁性のカーボンブラック等を多量に添加することは、高密度記録化を阻害するばかりでなく、薄層化をも阻害する原因となる。磁気テープの表面からの磁化深度を浅くして、磁気テープの薄層化をより進めるためには、磁気記録層に添加するカーボンブラック等の非磁性粒子粉末をできるだけ少なくすることが強く要求されている。
【0016】
そこで、磁気記録層に添加すカーボンブラック量を少なくしても光透過率が小さい磁気記録媒体が強く要求されており、この点からも基体の改良が強く要求されている。
【0017】
更に、近時における磁気記録媒体の高性能化の要求はとどまるところがなく、上述した磁気記録層の薄層化や非磁性支持体の薄層化に伴って、磁気記録層表面や磁気記録媒体自体の耐久性が低下することとなるため、磁気記録層表面や磁気記録媒体自体の耐久性を向上させることが強く要求されている。
【0018】
この事実は、特開平5−298679号公報の「‥‥近年、磁気記録の発展と共に高画質、高音質の要求がますます高まっており、電磁変換特性の改良、特に強磁性粉末の微粒子化、高密度化が進められ、更に磁気テープの表面を平滑化することでノイズを下げ、C/Nを上げることが要求されている。‥‥しかしながら、磁気テープの走行中において磁性層と装置系との接触の摩擦係数が増大する結果、短時間の使用で磁気記録媒体の磁性層が損傷を受け、あるいは磁性層が剥離する傾向がある。特にビデオテープではビデオヘッドと磁気記録媒体が高速で接触しながら走行するため、磁性層から強磁性粉末が脱落しやすく、磁気ヘッドの目詰まりの原因ともなる。従って、磁気記録媒体の磁性層の走行耐久性の向上が望まれている。‥‥」なる記載から明らかである。
【0019】
磁気記録層の薄層化や非磁性支持体の薄層化に伴って、磁気記録層を形成するための基体を改良する試みは種々行われており、ベースフィルム等の非磁性支持体上にヘマタイト粒子等の非磁性粒子粉末を結合剤中に分散させてなる下地層(以下、非磁性下地層という。)を少なくとも1層設けることが行われており、既に、実用化されている(特公平6−93297号公報、特開昭62−159338号公報、特開昭63−187418号公報、特開平4−167225号公報、特開平4−325915公報、特開平5−73882号公報、特開平5−182177号公報、特開平5−347017号公報、特開平6−60362号公報等)。
【0020】
また、非磁性下地層用の非磁性粒子粉末としては、ビヒクル中への分散性等を改善する目的で粒子表面をジルコニウム化合物等で処理した非磁性粒子が知られている(特許第2566088号公報、特許第2571350号公報、特許第2582051号公報、特開昭6−60362号公報、特開平9−22524号公報、特開平9−27117号公報、特開平5−73883号公報、特開平6−60360号公報、特開平8−50718号公報、特開平8−255334号公報、特開平9−27116号公報、特開平9−35245号公報等)。
【0021】
【発明が解決しようとする課題】
磁気記録層の薄層化はもちろん、非磁性支持体の薄層化に伴って、光透過率が小さく、表面平滑で、強度が大きく、且つ耐久性が優れており、しかも、磁気記録層中に分散されている鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末の腐蝕を抑制された磁気記録媒体は、現在最も要求されているところであるが、このような磁気記録媒体は未だ得られていない。
【0022】
即ち、非磁性支持体上に非磁性粉末を結合剤樹脂中に分散させた非磁性下地層を形成した基体を用いて製造した磁気記録媒体は、光透過率が小さく、表面が平滑で、強度が大きいものではあるが、耐久性が悪いという問題があった。
【0023】
この事実は、特開平5−182177号公報の「‥‥支持体表面の非磁性の厚い下塗層を設けてから磁性層を上層として設けるようにすれば前記の支持体の表面粗さの影響は解消することができるが、ヘッド磨耗や耐久性が改善されないという問題があった。これは、従来、非磁性下層として熱硬化系樹脂を結合剤として用いているので、下層が硬化し、磁性層とヘッドとの摩擦や他の部材との接触が無緩衝状態で行われることや、このような下層を有する磁気記録媒体がやや可撓性に乏しい等のことに起因していると考えられる。‥‥」なる記載の通りである。
【0024】
また、磁気記録層中に分散されている鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末は、製造後、腐蝕が生起し、大幅な磁気特性の減少をきたすという問題も指摘されている。
【0025】
そこで、本発明は、非磁性下地層の表面平滑性と強度を向上させることができ、当該非磁性下地層の上に磁気記録層を設けた場合に、光透過率が小さく、表面平滑で、強度が大きく、且つ、耐久性に優れているとともに、磁気記録層中に分散されている鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末の腐蝕に伴う磁気特性の劣化を抑制された磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末として好適な針状ヘマタイト粒子粉末及び該針状ヘマタイト粒子粉末を用いた非磁性下地層を有する磁気記録媒体を得ることを技術的課題とする。
【0026】
【課題を解決する為の手段】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0027】
即ち、本発明は、粒子内部にZr換算で0.05〜30重量%のジルコニウムを含有している針状ヘマタイト粒子からなり、平均長軸径が0.3μm以下であって、粉体pH値が8以上、且つ、可溶性ナトリウム塩の含有量がNa換算で300ppm以下、可溶性硫酸塩の含有量がSO4 換算で150ppm以下である針状ヘマタイト粒子粉末であることを特徴とする鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末を使用している磁気記録媒体の非磁性下地層用針状ヘマタイト粒子粉末である。
【0028】
また、本発明は、針状ヘマタイト粒子の粒子表面がアルミニウムの水酸化物、アルミニウムの酸化物、ケイ素の水酸化物及びケイ素の酸化物の少なくとも1種で被覆されている前記針状ヘマタイト粒子粉末からなることを特徴とする鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末を使用している磁気記録媒体の非磁性下地層用針状ヘマタイト粒子粉末である。
【0029】
また、本発明は、非磁性支持体と該非磁性支持体上に形成される非磁性粒子粉末と結合剤樹脂とからなる非磁性下地層と該非磁性下地層の上に形成される鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末と結合剤樹脂とからなる磁気記録層とからなる磁気記録媒体において、前記非磁性粒子粉末が前記いずれかの針状ヘマタイト粒子粉末であることを特徴とする鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末を使用している磁気記録媒体である。
【0030】
本発明の構成をより詳しく説明すれば、次の通りである。
【0031】
先ず、本発明に係る鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末を使用している磁気記録媒体の非磁性下地層用針状ヘマタイト粒子粉末について述べる。
【0032】
本発明に係る針状ヘマタイト粒子粉末は、粒子内部にZr換算で0.05〜30重量%のジルコニウムを含有している。
【0033】
ジルコニウム量がジルコニウムを含有している針状ヘマタイト粒子に対しZr換算で0.05重量%未満の場合には、得られた磁気記録媒体は十分な耐久性を有しない。30重量%を越える場合には、得られた磁気記録媒体は十分な耐久性を有しているが、効果が飽和するため必要以上に含有させる意味がない。磁気記録媒体の耐久性を考慮すると好ましくは0.1〜25重量%、より好ましくは0.5〜25重量%、更により好ましくは1.0〜20重量%である。
【0034】
本発明に係る針状ヘマタイト粒子粉末は、軸比(平均長軸径:平均短軸径、以下、単に「軸比」という。)が2:1以上、好ましくは3:1以上の粒子が好ましい。ビヒクル中での分散性を考慮すれば、その上限値は、20:1、好ましくは10:1の粒子が好ましい。ここで、針状粒子とは、針状はもちろん、紡錘状、米粒状等を含む意味である。
【0035】
軸比が2:1未満の場合には、所望の塗膜強度が得られ難くなる。
【0036】
本発明に係る針状ヘマタイト粒子粉末の平均長軸径は0.3μm以下である。平均長軸径が0.3μmを越える場合には、粒子サイズが大きすぎる為、塗膜の表面平滑性を害するので好ましくない。針状ヘマタイト粒子の平均長軸径が0.005μm未満の場合には、ビヒクル中における分散が困難となるので好ましくない。ビヒクル中における分散性及び塗膜の表面平滑性を考慮すれば0.02〜0.2μmが好ましい。
【0037】
本発明に係る針状ヘマタイト粒子は、平均短軸径が0.0025〜0.15μmが好ましい。0.0025μm未満の場合には、ビヒクル中における分散が困難となるので好ましくない。平均短軸径が0.15μmを越える場合には、粒子サイズが大きすぎる為、塗膜の表面平滑性を害するので好ましくない。ビヒクル中における分散性及び塗膜の表面平滑性を考慮すれば0.01〜0.10μmが好ましい。
【0038】
針状ヘマタイト粒子の粉体pH値は8以上である。粉体pH値が8未満の場合には、非磁性下地層の上に形成されている磁気記録層中に含まれる鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末を徐々に腐蝕させ、磁気特性の劣化を引き起こす。鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末の腐蝕防止効果を考慮すると、粉体pH値は8.5以上が好ましく、より好ましくは粉体pH値が9.0以上である。その上限値は粉体pH値が12、好ましくは粉体pH値11、より好ましくは粉体pH値10.5である。
【0039】
針状ヘマタイト粒子の可溶性ナトリウム塩の含有量はNa換算で300ppm以下である。300ppmを越える場合には、非磁性下地層の上に形成されている磁気記録層中に含まれる鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末を徐々に腐蝕させ、磁気特性の劣化を引き起こす。また、ビヒクル中における針状ヘマタイト粒子の分散特性が害されやすくなったり、磁気記録媒体の保存状態、特に湿度の高い環境下においては白華現象を生じる場合がある。鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末の腐蝕防止効果を考慮すると、好ましくは250ppm以下、より好ましくは200ppm以下、更により好ましくは150ppm以下である。生産性等の工業性を考慮すれば、その下限値は0.01ppm程度である。
【0040】
針状ヘマタイト粒子の可溶性硫酸塩の含有量はSO4 換算で150ppm以下である。150ppmを越える場合には、非磁性下地層の上に形成されている磁気記録層中に含まれる鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末を徐々に腐蝕させ、磁気特性の劣化を引き起こす。また、ビヒクル中における針状ヘマタイト粒子の分散特性が害されやすくなったり、磁気記録媒体の保存状態、特に湿度の高い環境下においては白華現象を生じる場合がある。鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末の腐蝕防止効果を考慮すると、好ましくは70ppm以下、より好ましくは50ppm以下である。生産性等の工業性を考慮すれば、その下限値は0.01ppm程度である。
【0041】
本発明に係る針状ヘマタイト粒子粉末は、BET比表面積値が35m2 /g以上であることが好ましい。35m2 /g未満の場合には、ヘマタイト粒子が粗大であったり、粒子及び粒子相互間で焼結が生じた粒子となっており、塗膜の表面平滑化に悪影響を与えるので好ましくない。好ましくは37m2 /g以上、より好ましくは40m2 /g以上であり、その上限値は150m2 /gである。ビヒクル中における分散性を考慮すると好ましくは100m2 /g以下、より好ましくは80m2 /g以下である。
【0042】
本発明に係る針状ヘマタイト粒子粉末は、長軸径の粒度分布の幾何標準偏差値が1.50以下であることが好ましい。1.5を越える場合には、存在する粗大粒子が塗膜の表面平滑化に悪影響を与えるので好ましくない。塗膜の表面平滑性を考慮すれば、好ましくは1.48以下、より好ましくは1.45以下である。工業的な生産性を考慮すれば、得られる針状ヘマタイト粒子の長軸径の粒度分布の下限値は、幾何標準偏差値で1.01である。
【0043】
本発明に係る針状ヘマタイト粒子粉末は、密度化の程度が高いものである。密度化の程度をBET法により測定した比表面積SBET 値と電子顕微鏡写真に示されている粒子から計測された長軸径及び短軸径から算出した表面積STEM 値との比で示した場合、0.5〜2.5を有しているものが好ましい。
【0044】
SBET /STEM の値が0.5未満の場合には、粒子及び粒子相互間の焼結により癒着し、粒子径が増大しており、塗膜の表面平滑性が十分ではない。SBET /STEM の値が2.5を越える場合には、粒子表面に多数のポアが存在するためビヒクル中における分散性が不十分となる。塗膜の表面平滑性及びビヒクル中における分散性を考慮するとSBET /STEM の値は0.7〜2.0が好ましく、より好ましくは0.8〜1.6である。
【0046】
本発明に係る針状ヘマタイト粒子粉末は、樹脂吸着強度が60%以上であり、好ましくは65%以上であり、より好ましくは68%以上である。その上限値は95%程度である。
【0047】
本発明に係る針状ヘマタイト粒子は、必要により、アルミニウムの水酸化物、アルミニウムの酸化物、ケイ素の水酸化物及びケイ素の酸化物の少なくとも1種で粒子表面が被覆されていてもよい。粒子表面が被覆物で被覆されている針状ヘマタイト粒子は、結合剤樹脂とのなじみがよくビヒクル中における分散性が優れたものとなり、容易に所望の分散度が得られ易い。
【0048】
上記被覆物の量は、アルミニウムの水酸化物やアルミニウムの酸化物の場合はAl換算で、ケイ素の水酸化物やケイ素の酸化物の場合はSiO2 換算で粒子の全重量に対し0.01〜50重量%が好ましい。0.01重量%未満である場合には、被覆による分散性向上効果が殆どなく、50重量%を越える場合には、被覆効果が飽和するため、必要以上に添加する意味がない。ビヒクル中における分散性を考慮すれば、0.05〜20重量%がより好ましい。
【0049】
粒子表面が表面被覆物で被覆されている針状ヘマタイト粒子粉末は、平均長軸径、粉体pH値、可溶性ナトリウム塩の含有量、可溶性硫酸塩の含有量、軸比(長軸径/短軸径)、平均短軸径、BET比表面積、長軸径の粒度分布、及び密度化の程度等の諸特性において、表面被覆物で被覆されていない針状ヘマタイト粒子粉末とほぼ同じである。
【0050】
次に、本発明に係る磁気記録媒体について述べる。
本発明における非磁性下地層は、非磁性支持体上に形成されており、針状ヘマタイト粒子粉末と結合剤樹脂とからなる。
【0051】
非磁性支持体としては、現在、磁気記録媒体に汎用されているポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド等の合成樹脂フィルム、アルミニウム、ステンレス等金属の箔や板および各種の紙を使用することができ、その厚みは、材質により種々異なるが、通常は1.0〜300μm、より好ましくは2.0〜200μmのものが用いられている。磁気ディスクの場合は、非磁性支持体としてポリエチレンテレフタレートが通常用いられ、その厚みは、通常50〜300μm、好ましくは60〜200μmである。磁気テープの場合、その厚みは材質により異なりポリエチレンテレフタレートの場合は、通常3〜100μm、好ましくは4〜20μmであり、ポリエチレンナフタレートの場合は、通常3〜50μm、好ましくは4〜20μm、ポリアミドの場合、その厚みは、通常2〜10μm、好ましくは3〜7μmである。
【0052】
本発明における非磁性支持体上に形成された非磁性下地層の塗膜厚さは、0.2〜10.0μmの範囲である。0.2μm未満の場合には、非磁性支持体の表面粗さを改善することが困難となり、強度も不十分になりやすい。薄層の磁気記録媒体を得るためには上限値は10.0μm程度が好ましく、より好ましくは0.5〜5.0μmの範囲である。
【0053】
結合剤樹脂としては、現在、磁気記録媒体の製造にあたって汎用されている塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、ウレタンエラストマー、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリビニルブチラール、ニトロセルロース等セルロース誘導体、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン等の合成ゴム系樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイソシアネート、電子線硬化型アクリルウレタン樹脂等とその混合物を使用することができる。また、各結合剤樹脂には−OH、−COOH、−SO3 M、−OPO2 M2 、−NH2 等の極性基(但し、MはH、Na、Kである。)が含まれていてもよい。粒子の分散性を考慮すれば、極性基−COOH、−SO3 Mが含まれている結合剤樹脂が好ましい。
【0054】
非磁性下地層における針状ヘマタイト粒子粉末と結合剤樹脂との配合割合は、結合剤樹脂100重量部に対し、針状ヘマタイト粒子が5〜2000重量部、好ましくは100〜1000重量部である。
【0055】
尚、非磁性下地層に、通常の磁気記録媒体の製造に用いられる潤滑剤、研磨剤、帯電防止剤等が必要により含まれていてもよい。
【0056】
本発明における表面被覆物が被覆されていない針状ヘマタイト粒子粉末を含有する非磁性下地層は、塗膜の光沢度が185〜280%、好ましくは190〜280%、より好ましくは195〜280%、塗膜表面粗度Raが2.0〜10.0nm、好ましくは2.0〜9.0nm、より好ましくは2.0〜8.0nmである。 本発明に係る表面被覆物で被覆されている針状ヘマタイト粒子を含有する非磁性下地層は、塗膜の光沢度が190〜280%、好ましくは193〜280%、より好ましくは196〜280%、塗膜表面粗度Raが2.0〜9.0nm、好ましくは2.0〜8.0nm、より好ましくは2.0〜7.4nmである。
【0057】
本発明に係る磁気記録媒体は、非磁性支持体上に形成された非磁性下地層の上に、鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末と結合剤樹脂と溶剤とからなる磁気記録層とから形成されている。
【0058】
鉄を主成分とする針状金属磁性粒子は、平均長軸径が0.01〜0.50μm、好ましくは0.03〜0.30μmであって、軸比が3:1以上、好ましくは5:1以上の粒子であり、ビヒクル中での分散性を考慮すれば、その上限値は、15:1、好ましくは10:1の粒子であり、粒子の形状は、針状はもちろん、紡錘状、米粒状等であってもよい。
【0059】
その組成は、鉄を50〜99重量%、好ましくは60〜95重量%含有している粒子であり、必要により、鉄以外のCo、Al、Ni、P、Si、B、Nd、La、Y等を含有していてもよい。
【0060】
鉄を主成分とする針状金属磁性粒子粉末の磁気特性は、高密度記録化等の特性を考慮すれば、保磁力は900〜3200Oeが好ましく、より好ましくは1500〜3200Oeであり、飽和磁化は100〜170emu/gが好ましく、より好ましくは120〜170emu/gである。
【0061】
磁気記録層における結合剤樹脂としては、前記非磁性下地層を形成するのに用いた結合剤樹脂を使用することができる。
【0062】
非磁性下地層上に設けられた磁気記録層の塗膜厚さは、0.01〜5.0μmの範囲である。0.01μm未満の場合には、均一な塗布が困難で塗りむら等が生じやすくなるため好ましくない。5.0μmを越える場合には、反磁界の影響のため、磁気記録媒体の電磁変換特性が得られにくくなる。好ましくは0.05〜1.0μmの範囲である。
【0063】
磁気記録層における鉄を主成分とする針状金属磁性粒子粉末と結合剤樹脂との配合割合は、結合剤樹脂100重量部に対し、鉄を主成分とする針状金属磁性粒子粉末が200〜2000重量部、好ましくは300〜1500重量部である。
【0064】
磁気記録層中には、通常用いられる潤滑剤、研磨剤、帯電防止剤等が必要により含まれていてもよい。
【0065】
本発明に係る針状ヘマタイト粒子を含有する非磁性下地層を有する磁気記録媒体は、保磁力が900〜3500Oe、好ましくは1000〜3500Oe、より好ましくは1500〜3500Oe、角形比(残留磁束密度Br/飽和磁束密度Bm)が0.85〜0.95、好ましくは0.86〜0.95、塗膜の光沢度が200〜300%、好ましくは210〜300%、塗膜表面粗度Raが10.0nm以下、好ましくは2.0〜9.0nm、より好ましくは2.0〜8.0nm、塗膜の線吸収係数が1.10〜2.00μm-1好ましくは1.20〜2.00μm-1、耐久性のうち走行耐久性は15分以上、好ましくは17分以上、さらに好ましくは22分以上であり、すり傷性はB以上、好ましくはAである。そして、保磁力の変化率(%)で示す腐蝕性が10.0%以下、好ましくは9.5%以下、Bmの変化率(%)で示す腐蝕性が10.0%以下、好ましくは9.5%以下である。
【0066】
次に、本発明に係る針状ヘマタイト粒子粉末の製造法について述べる。
【0067】
先ず、本発明に係る粒子内部にジルコニウムを均一に含有している針状ヘマタイト粒子の出発原料である粒子内部にジルコニウムをほぼ均一に含有している針状ゲータイト粒子粉末の製造法について述べる。
【0068】
粒子内部にジルコニウムをほぼ均一に含有している針状ゲータイト粒子は、後に詳述する通り、第一鉄塩と、水酸化アルカリ、炭酸アルカリ又は水酸化アルカリ・炭酸アルカリのいずれかとを用いて反応して得られる鉄の水酸化物や炭酸鉄等の鉄含有沈澱物を含む懸濁液に空気等の酸素含有ガスを通気して針状ゲータイト粒子を生成させるにあたり、空気等の酸素含有ガスを通気する前にジルコニウム化合物をFeに対しZr換算で0.04〜40mol%存在させておくことにより得ることができる。具体的には、第一鉄塩水溶液、水酸化アルカリや炭酸アルカリ水溶液、鉄含有沈澱物を含む懸濁液のいずれかに添加すればよく、最も好ましくは第一鉄塩水溶液である。
【0069】
ジルコニウム化合物としては、硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム等を使用することができる。
【0070】
このようにして得られる針状ゲータイト粒子は、粒子の中心部から粒子表面に至るまでジルコニウムが実質的に均一に含有されている粒子である。
【0071】
尚、針状ゲータイト粒子の代表的な基本反応は、▲1▼第一鉄塩水溶液に当量以上の水酸化アルカリ水溶液を加えて得られる水酸化第一鉄コロイドを含む懸濁液をpH11値以上にて80℃以下の温度で酸素含有ガスを通気して酸化反応を行うことにより針状ゲータイト粒子を生成させる方法、▲2▼第一鉄塩水溶液と炭酸アルカリ水溶液とを反応させて得られるFeCO3 を含む懸濁液を、必要により熟成した後、酸素含有ガスを通気して酸化反応を行うことにより紡錘状を呈したゲータイト粒子を生成させる方法、▲3▼第一鉄塩水溶液と炭酸アルカリ、水酸化アルカリとを反応させて得られる鉄含有沈澱物を含む懸濁液を、必要により熟成した後、酸素含有ガスを通気して酸化反応を行うことにより紡錘状を呈したゲータイト粒子を生成させる方法、▲4▼第一鉄塩水溶液に当量未満の水酸化アルカリ水溶液又は炭酸アルカリ水溶液を添加して得られる水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩水溶液に酸素含有ガスを通気して酸化反応を行うことにより針状ゲータイト核粒子を生成させ、次いで、該針状ゲータイト核粒子を含む第一鉄塩水溶液に、該第一鉄塩水溶液中のFe2+に対し当量以上の水酸化アルカリ水溶液を添加した後、酸素含有ガスを通気して前記針状ゲータイト核粒子を成長させる方法、▲5▼第一鉄塩水溶液に当量未満の水酸化アルカリ水溶液又は炭酸アルカリ水溶液を添加して得られる水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩水溶液に酸素含有ガスを通気して酸化反応を行うことにより針状ゲータイト核粒子を生成させ、次いで、該針状ゲータイト核粒子を含む第一鉄塩水溶液に、該第一鉄塩水溶液中のFe2+に対し当量以上の炭酸アルカリ水溶液を添加した後、酸素含有ガスを通気して前記針状ゲータイト核粒子を成長させる方法及び▲6▼第一鉄塩水溶液と当量未満の水酸化アルカリ又は炭酸アルカリ水溶液を添加して得られる水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩水溶液に酸素含有ガスを通気して酸化反応を行うことにより針状ゲータイト核粒子を生成させ、次いで、酸性乃至中性領域で前記針状ゲータイト核粒子を成長させる方法等がある。
【0072】
尚、ゲータイト粒子の生成反応中に、粒子の長軸径、短軸径、軸比等の諸特性向上の為に通常添加されているNi、Zn、P、Si等の異種元素が添加されていても支障はない。得られる針状ゲータイト粒子粉末は、通常、平均長軸径が0.005〜0.4μm、平均短軸径が0.0025〜0.20μmであって、BET比表面積値が50〜250m2 /g程度であり、可溶性ナトリウム塩をNa換算で300〜1500ppm、可溶性硫酸塩をSO4 換算で100〜3000ppm含有している。
【0073】
次に、粒子内部にジルコニウムをほぼ均一に含有している針状ヘマタイト粒子粉末の製造法について述べる。
【0074】
粒子内部にジルコニウムをほぼ均一に含有している針状ヘマタイト粒子は、粒子内部にジルコニウムをほぼ均一に含有している前記針状ゲータイト粒子を加熱脱水することにより得ることができる。
【0075】
加熱脱水温度は、250〜800℃程度である。得られる粒子内部にジルコニウムを均一に含有している針状ヘマタイト粒子の密度化の程度を考慮すれば、550〜850℃の温度範囲で加熱脱水することにより高密度化された針状ヘマタイト粒子がより好ましい。
【0076】
殊に、550℃以上の高温で加熱脱水する場合には、周知の通り、針状ゲータイト粒子の加熱脱水に先立ってあらかじめ針状ゲータイト粒子の粒子表面を焼結防止剤で被覆しておくことが好ましい。
【0077】
焼結防止剤としては、通常使用されるヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸、オルトリン酸等のリン化合物、3号水ガラス、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、コロイダルシリカ等のケイ素化合物、ホウ酸等のホウ素化合物、酢酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム等のアルミニウム塩や、アルミン酸ソーダ等のアルミン酸アルカリ塩、アルミナゾル、水酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物、オキシ硫酸チタン等のチタン化合物を使用することができる。
【0078】
針状ゲータイト粒子の表面に存在する焼結防止剤の量は、焼結防止剤の種類や量、アルカリ水溶液中におけるpH値や加熱処理温度等の諸条件により異なるが、粒子の全重量に対し0.05〜10重量%程度が好ましい。
【0079】
粒子表面が焼結防止剤で被覆されている針状ゲータイト粒子粉末は、通常、可溶性ナトリウム塩をNa換算で500〜2000ppm、可溶性硫酸塩をSO4 換算で300〜3000ppm含有しており、BET比表面積値は50〜250m2 /g程度である。焼結防止剤による被覆処理は、針状ゲータイト粒子を含む水懸濁液中に焼結防止剤を添加し、混合攪拌した後、濾別、水洗、乾燥すればよい。
【0080】
針状ゲータイト粒子の粒子形態を保持継承した高密度針状ヘマタイト粒子を得るためには、あらかじめ、針状ゲータイト粒子の粒子表面を焼結防止剤で被覆した後、250〜500℃で低温加熱処理して粒子内部にジルコニウムを含有している低密度針状ヘマタイト粒子を得、次いで、該低密度針状ヘマタイト粒子を550〜850℃で高温加熱処理することが好ましい。
【0081】
加熱温度が250℃未満の場合には、脱水反応に長時間を要する。加熱温度が500℃を越える場合には、脱水反応が急激に生起し、粒子の形状が崩れやすくなったり、粒子相互間の焼結を引き起こしやすくなる。低温加熱処理して得られる低密度針状ヘマタイト粒子は、ゲータイト粒子からH2 Oが脱水され、脱水孔を多数有する低密度粒子であり、BET比表面積値が出発原料である針状ゲータイト粒子の1.2〜2倍程度となる。低密度針状ヘマタイト粒子粉末は、通常、平均長軸径が0.005〜0.30μm、平均短軸径が0.0025〜0.15μmであって、BET比表面積値が70〜350m2 /g程度であり、可溶性ナトリウム塩をNa換算で500〜2000ppm、可溶性硫酸塩をSO4 換算で300〜4000ppm含有している。
【0082】
次いで、低密度針状ヘマタイト粒子粉末は、550℃以上で高温加熱して高密度化された針状ヘマタイト粒子とする。加熱温度の上限値は好ましくは850℃である。加熱温度が550℃未満の場合には、高密度化が不十分であるためヘマタイト粒子の粒子内部及び粒子表面に脱水孔が多数存在しており、その結果、ビヒクル中における分散性が不十分であり、非磁性下地層を形成した時、表面平滑な塗膜が得られにくい。加熱温度が850℃を越える場合には、ヘマタイト粒子の高密度化は十分なされているが、粒子及び粒子相互間の焼結が生じるため、粒子径が増大し、同様に表面平滑な塗膜は得られにくい。高密度針状ヘマタイト粒子粉末は、通常、可溶性ナトリウム塩をNa換算で500〜4000ppm、可溶性硫酸塩をSO4 換算で300〜5000ppm含有しており、BET比表面積値は35〜150m2 /g程度である。
【0083】
高密度針状ヘマタイト粒子は、乾式で粗粉砕をして粗粒をほぐした後、スラリー化し、次いで、湿式粉砕することにより更に粗粒をほぐす。湿式粉砕は、少なくとも44μm以上の粗粒が無くなるようにボールミル、サンドグラインダー、コロイドミル等を用いて行えばよい。湿式粉砕の程度は44μm以上の粗粒が10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは0%である。44μm以上の粗粒が10%を越えて残存していると、次工程におけるアルカリ水溶液中の処理効果が得られ難い。
【0084】
粗粒を除去した高密度針状ヘマタイト粒子を含むスラリーは、該スラリーに水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液を添加してpH値を13以上に調整した後、80℃以上の温度で加熱処理する。
【0085】
高密度針状ヘマタイト粒子粉末を含むpH値が13以上のアルカリ性懸濁液の濃度は、50〜250g/lが好ましい。
【0086】
高密度針状ヘマタイト粒子粉末を含むアルカリ性懸濁液中のpH値が13未満の場合には、ヘマタイト粒子の粒子表面に存在する焼結防止剤に起因する固体架橋を効果的に取りはずすことができず、粒子内部及び粒子表面に存在する可溶性ナトリウム塩、可溶性硫酸塩等の洗い出しができない。その上限は、pH値が14程度である。ヘマタイト粒子表面に存在する焼結防止剤に起因する固体架橋の取りはずしや可溶性ナトリウム塩、可溶性硫酸塩等の洗い出しの効果、更には、アルカリ性水溶液処理中にヘマタイト粒子表面に付着したナトリウム等のアルカリを除去するための洗浄効果を考慮すれば、pH値は13.1〜13.9の範囲が好ましい。
【0087】
高密度針状ヘマタイト粒子粉末を含むpH値が13以上のアルカリ性水溶液の加熱温度は、80℃以上が好ましく、より好ましくは90℃以上である。80℃未満の場合には、ヘマタイト粒子表面に存在する焼結防止剤に起因する固体架橋を効果的に取りはずすことが困難となる。加熱温度の上限値は103℃が好ましく、より好ましくは100℃である。103℃を越える場合には、固体架橋は効果的に取りはずすことはできるが、オートクレーブ等が必要となったり、常圧下おいては、被処理液が沸騰するなど工業的に有利でなくなる。
【0088】
アルカリ水溶液中で加熱処理した高密度針状ヘマタイト粒子は、常法により、濾別、水洗することにより、粒子内部及び粒子表面から洗い出した可溶性ナトリウム塩や可溶性硫酸塩やアルカリ水溶液処理中にヘマタイト粒子表面に付着したナトリウム等のアルカリを除去し、次いで、乾燥する。
【0089】
上述した方法により、本発明に係る粒子内部にジルコニウムを含有している針状ヘマタイト粒子を得ることができる。
【0090】
水洗法としては、デカンテーションによって洗浄する方法、フィルターシックナーを使用して希釈法で洗浄する方法、フィルタープレスに通水して洗浄する方法等の工業的に通常使用されている方法を使用すればよい。
【0091】
尚、高密度ヘマタイト粒子の粒子内部に含有されている可溶性ナトリウム塩や可溶性硫酸塩を水洗して洗い出しておけば、それ以降の工程、例えば、後出する被覆処理工程においてヘマタイト粒子の粒子表面に可溶性ナトリウム塩や可溶性硫酸塩が付着しても水洗により容易に除去することができる。
【0092】
本発明に係る針状ヘマタイト粒子は、必要により、アルカリ水溶液中で加熱処理した後、常法により濾別、水洗し、次いで、アルミニウムの水酸化物、アルミニウムの酸化物、ケイ素の水酸化物及びケイ素の酸化物の少なくとも1種により被覆することができる。
【0093】
被覆処理は、針状ヘマタイト粒子のケーキ、スラリー、乾燥粉末を水溶液中に分散して得られる水懸濁液に、アルミニウム化合物、ケイ素化合物又は当該両化合物を添加して混合攪拌することにより、または、必要により、pH値を調整することにより、前記針状ヘマタイト粒子の粒子表面に、アルミニウムの水酸化物、アルミニウムの酸化物、ケイ素の水酸化物及びケイ素の酸化物を被覆し、次いで、濾別、水洗、乾燥、粉砕すればよい。必要により、更に、脱気・圧密処理等を施してもよい。
【0094】
本発明におけるアルミニウム化合物としては、前出焼結防止剤と同じものが使用できる。
【0095】
アルミニウム化合物の添加量は、針状ヘマタイト粒子粉末に対しAl換算で0.01〜50重量%である。0.01重量%未満である場合には、得られる針状ヘマタイト粒子粉末のビヒクル中における分散が不十分であり、50重量%を越える場合には、被覆効果が飽和するため、必要以上に添加する意味がない。
【0096】
本発明におけるケイ素化合物としては、前出焼結防止剤と同じものが使用できる。
【0097】
ケイ素化合物の添加量は、針状ヘマタイト粒子粉末に対しSiO2 換算で0.01〜50重量%である。0.01重量%未満である場合には、得られる針状ヘマタイト粒子粉末のビヒクル中における分散が不十分であり、50重量%を越える場合には、被覆効果が飽和するため、必要以上に添加する意味がない。
【0098】
アルミニウム化合物とケイ素化合物とを併せて使用する場合には、針状ヘマタイト粒子粉末に対し、Al換算量とSiO2 換算量との総和で0.01〜50重量%が好ましい。
【0099】
次に、本発明における非磁性下地層を有する磁気記録媒体用基体の製造法について述べる。
【0100】
本発明における磁気記録媒体用基体は、非磁性支持体上に、本発明に係る針状ヘマタイト粒子粉末と結合剤樹脂と溶剤とを含む非磁性塗料を塗布し塗膜を形成した後、乾燥することにより得られる。
【0101】
溶剤としては、現在、磁気記録媒体の製造にあたって汎用されているメチルエチルケトン、トルエン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン及びその混合物等を使用することができる。
【0102】
溶剤の使用量は、針状ヘマタイト粒子粉末100重量部に対しその総量で50〜1000重量部である。50重量部未満では非磁性塗料とした場合に粘度が高くなりすぎ塗布が困難となる。1000重量部を越える場合には、塗膜を形成する際の溶剤の揮散量が多くなりすぎ工業的に不利となる。
【0103】
次に、本発明に係る磁気記録媒体の製造法について述べる。
【0104】
本発明に係る磁気記録媒体は、非磁性下地層上に、鉄を主成分とする針状金属磁性粒子粉末と結合剤樹脂と溶剤とを含む磁性塗料を塗布し塗膜を形成した後、乾燥して磁気記録層を形成することにより得られる。
【0105】
溶剤としては、前記と同様にメチルエチルケトン、トルエン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン及びその混合物等を使用することができる。
【0106】
溶剤の使用量は、磁性粒子粉末100重量部に対しその総量で65〜1000重量部である。65重量部未満では磁性塗料とした場合に粘度が高くなりすぎ塗布が困難となる。1000重量部を越える場合には、塗膜を形成する際の溶剤の揮散量が多くなりすぎ工業的に不利となる。
【0107】
【発明の実施の形態】
本発明の代表的な実施の形態は、次の通りである。
【0108】
尚、フルイ残量は、湿式粉砕後のスラリー濃度を別途に求めておき、固形分100gに相当する量のスラリーを325メッシュ(目開き44μm)のフルイに通し、フルイに残った固形分の量を定量することによって求めた。
【0109】
粒子の平均長軸径、平均短軸径は、電子顕微鏡写真(×30000)を縦方向及び横方向にそれぞれ4倍に拡大した写真に示される粒子約350個について長軸径、短軸径をそれぞれ測定し、その平均値で示した。軸比は、平均長軸径と平均短軸径との比である。
【0110】
粒子の長軸径の幾何標準偏差値(σg)は、下記の方法により求めた値で示した。即ち、上記拡大写真に示される粒子の長軸径を測定した値を、その測定値から計算して求めた粒子の実際の長軸径と個数から統計学的手法に従って対数正規確率紙上に横軸に粒子の長軸径を、縦軸に所定の長軸径区間のそれぞれに属する粒子の累積個数(積算フルイ下)を百分率でプロットする。そして、このグラフから粒子の個数が50%及び84.13%のそれぞれに相当する長軸径の値を読みとり、幾何標準偏差値(σg)=積算フルイ下84.13%における長軸径/積算フルイ下50%における長軸径(幾何平均径)に従って算出した値で示した。幾何標準偏差値が小さい程、粒子の長軸径の粒度分布が優れていることを意味する。
【0111】
比表面積はBET法により測定した値で示した。
【0112】
針状ヘマタイト粒子の密度化の程度は、前述した通り、SBET /STEM で示した。ここで、SBET は、上記BET法により測定した比表面積の値である。STEM は、前記電子顕微鏡写真から測定した粒子の平均長軸径lcm、平均短軸径wcmを用いて粒子を直方体と仮定して下記式に従って算出した値である。
【0113】
STEM (m2 /g)=〔(4lw+2w2 )/(lw2 ・ρp )〕×10-4
(但し、ρp はヘマタイトの真比重であり、5.2g/cm3 を用いた。)
STEM は、粒子内部及び粒子表面に脱水孔が全くなく表面が平滑な粒子の比表面積であるから、SBET /STEM の値が1に近いと、ヘマタイト粒子の内部及び表面に脱水孔が少なく表面が平滑な粒子、換言すれば、高密度な粒子であることを意味する。
【0114】
針状ヘマタイト粒子の内部や表面に存在するZr、Al、Si、P及びBのそれぞれの量は蛍光X線分析により測定した。
【0115】
粉体pH値は、試料5gを300mlの三角フラスコに秤り取り、煮沸した純水100mlを加え、加熱して煮沸状態を約5分間保持した後、栓をして常温まで放冷し、減量に相当する水を加えて再び栓をして1分間振り混ぜ、5分間静置した後、得られた上澄み液のpHをJIS Z 8802−7に従って測定し、得られた値を粉体pH値とした。
【0116】
可溶性ナトリウム塩の含有量及び可溶性硫酸塩の含有量は、上記粉体pH値の測定用に作製した上澄み液をNo.5Cの濾紙を用いて濾過し、濾液中のNa+ 及びSO4 2-を誘導結合プラズマ発光分光分析装置(セイコー電子工業株式会社製)を用いて測定した。
【0117】
塗料粘度は、得られた塗料の25℃における塗料粘度を、E型粘度計EMD−R(株式会社東京計器製)を用いて測定し、ずり速度D=1.92sec-1における値で示した。
【0118】
樹脂吸着強度(T)は、樹脂が針状ヘマタイト粒子に吸着される程度を示すものであり、下記の方法により求めたT%が100に近い程、樹脂が針状ヘマタイト粒子表面に強く吸着され、良好であることを示す。
【0119】
先ず、樹脂吸着量Waを求める。針状ヘマタイト粒子粉末20gとスルホン酸ナトリウム基を有する塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂2gを溶解させた混合溶剤(メチルエチルケトン27.0g、トルエン16.2g、シクロヘキサノン10.8g)56gとを3mmφスチールビーズ120gとともに100mlポリビンに入れ、60分間ペイントシェーカーで混合分散する。
【0120】
次に、この塗料組成物50gを取り出し50mlの沈降管に入れ回転数10000rpmで15分間遠心分離を行い、固形部分と溶剤部分とを分離する。そして、溶剤部分に含まれる樹脂固形分濃度を重量法によって定量し、仕込みの樹脂量との差し引きにより、固形部分に存在する樹脂量を求め、これを針状ヘマタイト粒子に対する樹脂吸着量Wa(mg/g)とする。
【0121】
次に、先に分離した固形部分のみを100mlトールビーカーに全量取り出し、これに混合溶剤(メチルエチルケトン25.0g、トルエン15.0g、シクロヘキサノン10.0g)50gを加え、15分間超音波分散を行って懸濁状態とした後、50ml沈降管に入れ回転数10000rpmで15分間遠心分離を行い、固形部分と溶剤部分とを分離する。そして、溶剤部分の樹脂固形分濃度を測定することによって、針状ヘマタイト粒子表面に吸着していた樹脂のうち溶剤相に抽出された樹脂量を定量する。
【0122】
さらに、上記固形部分のみの100mlトールビーカーへの全量取り出しから溶剤相に溶け出した樹脂量の定量までの操作を2回繰り返し、合計3回の溶剤相中における樹脂の抽出量の総和We(mg/g)を求め、下記の式に従って求めた値を樹脂吸着強度T(%)とした。
【0123】
T(%)=〔(Wa−We)/Wa〕×100
【0124】
非磁性下地層及び磁気記録層の塗膜表面の光沢度は、「グロスメーターUGV−5D」(スガ試験機株式会社製)を用いて塗膜の45°光沢度を測定して求めた。
【0125】
表面粗度Raは、「Surfcom−575A」(東京精密株式会社製)を用いて塗布膜の中心線平均粗さを測定した。
【0126】
磁気記録媒体の耐久性については、下記の走行耐久性とすり傷特性を求めることにより評価した。
【0127】
走行耐久性は、「Media Durability Tester MDT−3000」(Steinberg Associates社製)を用いて、負荷200gw、ヘッドとテープとの相対速度16m/sにおける実可動時間で評価した、実可動時間が長い程走行耐久性が良いことを示す。
【0128】
すり傷特性は、走行後のテープの表面を顕微鏡で観察し、すり傷の有無を目視で評価し、下記の4段階の評価を行った。
A:すり傷なし
B:すり傷若干有り
C:すり傷有り
D:ひどいすり傷有り
【0129】
塗膜強度は、「オートグラフ」(株式会社島津製作所製)を用いて塗膜のヤング率を測定して求めた。ヤング率は市販ビデオテープ「AV T−120(日本ビクター株式会社製)」との相対値で表した。相対値が高いほど良好であることを示す。
【0130】
磁気特性は、「振動試料型磁力計VSM−3S−15」(東英工業株式会社製)を使用し、外部磁場10KOeまでかけて測定した。
【0131】
磁気記録層中の鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末の腐蝕に伴う磁気記録媒体の磁気特性の経時変化は、磁気記録媒体を温度60℃、関係湿度90%の環境下に14日間放置し、放置前後の保磁力値及び飽和磁束密度値を測定し、その変化量を放置前の値で除した値を変化率として百分率で示した。
【0132】
光透過の程度は、「自記分光光度計UV−2100」(株式会社島津製作所製)を用いて磁気記録媒体について測定した光透過率の値を下記式に挿入して算出した線吸収係数で示した。線吸収係数は、その値が大きい程、光を透しにくいことを示す。
【0133】
尚、光透過率の値を測定するにあたっては、上記磁気記録媒体に用いた非磁性支持体と同一の非磁性支持体をブランクとして用いた。
【0134】
線吸収係数(μm-1)=〔ln(1/t)〕/FT
t:λ=900nmにおける光透過率(−)
FT:測定に用いたフィルムの塗布層(非磁性下地層の膜厚と磁気記録層の膜厚との総和)の厚み(μm)
【0135】
磁気記録媒体を構成する非磁性支持体、非磁性下地層及び磁気記録層の各層の厚みは、下記のようにして測定した。
デジタル電子マイクロメーターK351C(安立電気株式会社製)を用いて、先ず、非磁性支持体の膜厚(A)を測定する。次に、非磁性支持体と該非磁性支持体上に形成された非磁性下地層との厚み(B)(非磁性支持体の厚みと非磁性下地層の厚みとの総和)を同様にして測定する。更に、非磁性下地層上に磁気記録層を形成することにより得られた磁気記録媒体の厚み(C)(非磁性支持体の厚みと非磁性下地層の厚みと磁気記録層の厚みとの総和)を同様にして測定する。そして、非磁性下地層の厚みはB−Aで示し、磁気記録層の厚みはC−Bで示した。
【0136】
<紡錘状ヘマタイト粒子の製造>
硫酸第一鉄水溶液とオキシ硫酸ジルコニウム水溶液と炭酸ナトリウム水溶液とを用いて、前記ゲータイト粒子の製造法▲2▼により得られたZr換算で2.56重量%のジルコニウムを粒子内部に均一に含有している紡錘状ゲータイト粒子粉末(平均長軸径0.189μm、平均短軸径0.0207μm、軸比9.1、BET比表面積値141.3m2 /g、可溶性ナトリウム塩の含有量がNa換算で1380ppm、可溶性硫酸塩の含有量がSO4 換算で821ppm、粉体pH値5.9及び幾何標準偏差値1.33)1200gを水中に懸濁させてスラリーとし、固形分濃度を8g/lに調整した。このスラリー150lを加熱し、温度を60℃とし、0.1NのNaOH水溶液を加えてスラリーのpH値を10.0に調整した。
【0137】
次に、上記アルカリ性スラリー中に、焼結防止剤として3号水ガラス30.0gを徐々に加え、添加が終わった後、60分間熟成を行った。次に、このスラリーに0.1Nの酢酸溶液を加え、スラリーのpH値を6.0に調整した。その後、常法により、濾別、水洗、乾燥、粉砕を行い、ケイ素の酸化物が粒子表面に被覆されている紡錘状ゲータイト粒子粉末を得た。SiO2 量は0.69wt%であった。
【0138】
得られた紡錘状ゲータイト粒子粉末1000gを、ステンレス製回転炉に投入し、回転駆動させながら空気中で340℃で30分間熱処理を行って脱水し、低密度紡錘状ヘマタイト粒子を得た。得られたジルコニウムを含有している低密度紡錘状ヘマタイト粒子は、平均長軸径0.151μm、平均短軸径0.0198μm、軸比7.6、BET比表面積値(SBET )159.8m2 /g、密度の程度SBET /STEM は3.86、可溶性ナトリウム塩の含有量はNa換算で2123ppm、可溶性硫酸塩の含有量はSO4 換算で1016ppm、Zr含有量は、2.81重量%、SiO2 量は0.75重量%、粉体pH値5.7及び幾何標準偏差値1.34であった。
【0139】
次に、上記低密度紡錘状ヘマタイト粒子粉末850gをセラミック製の回転炉に投入し、回転駆動させながら空気中650℃で30分間熱処理を行い、脱水孔の封孔処理を行った。高密度化された紡錘状ヘマタイト粒子は、平均長軸径が0.150μm、平均短軸径が0.0200μm、軸比が7.5、BET比表面積値(SBET)が51.6m2/g、密度化の程度SBET/STEMが1.26、可溶性ナトリウム塩の含有量がNa換算で3104ppm、可溶性硫酸塩の含有量がSO4換算で2656ppm、粉体pH値が5.1及び幾何標準偏差値が1.34であった。Zr含有量は2.81重量、SiO2量は0.75重量%であった。また、樹脂吸着強度は54.05%であった。
【0140】
得られた高密度紡錘状ヘマタイト粒子粉末800gをあらかじめ奈良式粉砕機で粗粉砕した後、純水4.7lに投入し、ホモミキサー(特殊機化工業株式会社製)を用いて60分間解膠した。
【0141】
次に、得られた高密度紡錘状ヘマタイト粒子のスラリーを横型SGM(ディスパマットSL:エスシー・アディケム株式会社製)で循環しながら、軸回転数2000rpmのもとで3時間混合・分散した。得られたスラリー中の紡錘状ヘマタイト粒子の325mesh(目開き44μm)における篩残分は0%であった。
【0142】
得られた高密度紡錘状ヘマタイト粒子のスラリーの濃度を100g/lとし、スラリーを7lを採取した。このスラリーを攪拌しながら、6NのNaOH水溶液を加えてスラリーのpH値を13.5に調整した。次に、このスラリーを攪拌しながら加熱して95℃まで昇温し、その温度で3時間保持した。
【0143】
次に、このスラリーをデカンテーション法により水洗し、pH値が10.5のスラリーとした。正確を期すため、この時点でのスラリー濃度を確認したところ98g/lであった。
【0144】
次に、得られた水洗スラリー2lをブフナーロートを用いて濾別し、純水を通水して濾液の電導度が30μs以下になるまで水洗し、その後、常法によって乾燥させた後、粉砕して、紡錘状ヘマタイト粒子粉末を得た。得られたZr換算で2.81重量%のジルコニウムを粒子内部に均一に含有している紡錘状ヘマタイト粒子粉末は、長軸径が0.150μm、短軸径が0.0199μm、軸比が7.5、粒子サイズ(長軸径)の幾何標準偏差値σgが1.34、BET比表面積値(SBET )が50.9m2 /g、密度化の程度(SBET /STEM )が1.23、粉体pH値が9.3、可溶性ナトリウム塩の含有量がNa換算で96ppm、可溶性硫酸塩の含有量がSO4 換算で21ppmであった。また、樹脂吸着強度は76.5%であった。
【0145】
<非磁性下地層の製造>
上記で得られたZr換算で2.81重量%のジルコニウムを粒子内部に均一に含有している紡錘状ヘマタイト粒子粉末12gと結合剤樹脂溶液(スルホン酸ナトリウム基を有する塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂30重量%とシクロヘキサノン70重量%)及びシクロヘキサノンとを混合して混合物(固形分率72%)を得、この混合物を更にプラストミルで30分間混練して混練物を得た。
【0146】
この混練物を140mlガラス瓶に1.5mmφガラスビーズ95g、結合剤樹脂溶液(スルホン酸ナトリウム基を有するポリウレタン樹脂30重量%、溶剤(メチルエチルケトン:トルエン=1:1)70重量%)、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン及びトルエンとともに添加し、ペイントシェーカーで6時間混合・分散を行って塗料組成物を得た。
【0147】
得られた紡錘状ヘマタイト粒子を含む塗料の組成は、下記の通りであった。
【0148】
得られた紡錘状ヘマタイト粒子を含む塗料を厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上にアプリケーターを用いて55μmの厚さに塗布し、次いで、乾燥させることにより非磁性下地層を形成した。非磁性下地層の厚みは3.5μmであった。
【0149】
得られた非磁性下地層は、光沢が207%、表面粗度Raが6.3nmであり、基体のヤング率(相対値)は130であった。
【0150】
<磁気記録層の製造>
鉄を主成分とする針状金属磁性粒子粉末(平均長軸径0.153μm、平均短軸径0.0212μm、軸比7.2、保磁力1866Oe、飽和磁化値130.6emu/g)12g、研磨剤(商品名:AKP−30、住友化学(株)製)1.2g、カーボンブラック(商品名:#3250B、三菱化成(株)製)0.36g、結合剤樹脂溶液(スルホン酸ナトリウム基を有する塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂30重量%とシクロヘキサノン70重量%)及びシクロヘキサノンとを混合して混合物(固形分率78%)を得、この混合物を更にプラストミルで30分間混練して混練物を得た。
【0151】
この混練物を140mlガラス瓶に1.5mmφガラスビーズ95g、結合剤樹脂溶液(スルホン酸ナトリウム基を有するポリウレタン樹脂30重量%、溶剤(メチルエチルケトン:トルエン=1:1)70重量%)、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン及びトルエンとともに添加し、ペイントシェーカーで6時間混合・分散を行って磁性塗料を得た。その後、潤滑剤及び硬化剤を加え、さらに、ペイントシェーカーで15分間混合・分散した。
【0152】
得られた磁性塗料の組成は下記の通りであった。
【0153】
磁性塗料を前記非磁性下地層の上にアプリケーターを用いて15μmの厚さに塗布した後、磁場中において配向・乾燥し、次いで、カレンダー処理を行った後、60℃で24時間硬化反応を行い0.5インチ幅にスリットして磁気テープを得た。磁気記録層の厚みは1.0μmであった。
【0154】
得られた磁気テープは、Hcが1961Oe、角型比(Br/Bm)が0.87、光沢度が231%、表面粗度Raが6.2nm、ヤング率(相対値)が134、線吸収係数が1.26、走行耐久性が28.8分、すり傷特性がAであった。磁気テープの磁気特性の経時変化は、保磁力については4.6%、飽和磁束密度Bmについては4.8%であった。
【0155】
【作用】
本発明において最も重要な点は、粒子内部にZr換算で0.05〜30重量%のジルコニウムを含有している針状ヘマタイト粒子からなり、平均長軸径が0.3μm以下であって、粉体pH値が8以上、且つ、可溶性ナトリウムの含有量がNa換算で300ppm以下、可溶性硫酸塩の含有量がSO4 換算で150ppm以下である高密度針状ヘマタイト粒子粉末を、非磁性下地層用の非磁性粒子粉末として使用した場合には、該結合剤樹脂中における分散性が優れていることに起因して、非磁性下地層の表面平滑性と基体の強度を向上させることができ、当該非磁性下地層の上に磁気記録層を設けた場合に、磁気記録層の光透過率を小さくし、表面平滑で、強度が大きく、且つ、耐久性に優れている磁気記録媒体を得ることができるとともに、磁気記録層中に分散させている鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末の腐蝕に伴う磁気特性の劣化を抑制することができるという事実である。
【0156】
非磁性下地層の表面平滑性と基体の強度をより向上させることができた理由について、本発明者は、高密度針状ヘマタイト粒子相互を強固に架橋して凝集させる原因となっている可溶性ナトリウム塩や可溶性硫酸塩を十分水洗除去することができたことに起因して、凝集物が解きほぐされて、実質的に独立している粒子とすることができ、その結果、ビヒクル中における分散性が優れた針状ヘマタイト粒子粉末が得られることによるものと考えている。
【0157】
本発明に係る針状ヘマタイト粒子粉末はビヒクル中における分散性が優れているという事実について、以下に説明する。
【0158】
出発原料として使用する針状ゲータイト粒子粉末は、前述した通り、各種製造法により製造されるが、いずれの方法においても針状ゲータイト粒子を製造する主な原料が硫酸第一鉄である場合には当然反応母液中に硫酸塩〔SO4 2-〕が多量に存在するのである。
【0159】
特に、酸性溶液中からゲータイト粒子を生成する場合には、同時に、Na2 SO4 等水可溶性硫酸塩を生じるとともに、反応母液にはK+ 、NH4 + 、Na+ 等アルカリ金属を含んでいるので、アルカリ金属や硫酸塩を含む沈澱を生じ易く、この沈澱はRFe3 (SO4 )(OH)6 (R=K+ 、NH4 + 、Na+ )で示される。これら沈澱物は難溶性の含硫鉄塩で常法による水洗によっては除去することができない。この難溶性塩はその後の加熱処理工程において可溶性ナトリウム塩や可溶性硫酸塩になるが、この可溶性ナトリウム塩や可溶性硫酸塩は、高密度化のための高温加熱処理工程において針状ヘマタイト粒子の形状の変形、粒子相互間の焼結を防止するために必須である焼結防止剤によって、針状ヘマタイト粒子相互を架橋しながら粒子内部及び粒子表面に強固に結合されることにより、針状ヘマタイト粒子相互間の凝集が一層強まる。その結果、殊に、粒子内部や凝集物内部に閉じ込められた可溶性硫酸塩や可溶性ナトリウム塩は、常法による水洗によって除去することが極めて困難となる。
【0160】
硫酸第一鉄と水酸化ナトリウムとを用いてアルカリ性水溶液中で針状ゲータイト粒子を生成する場合には、同時に生成される硫酸塩はNa2 SO4 であり、また、母液中にNaOHが存在し、これらは共に可溶性であるため針状ゲータイト粒子を十分水洗すれば本質的にはNa2 SO4 およびNaOHを除去できるはずである。しかし、一般には針状ゲータイト粒子の結晶性が小さい為、水洗効率が悪く、常法により水洗した場合、なお、粒子中に可溶性硫酸塩〔SO4 2-〕、可溶性ナトリウム塩〔Na+ 〕等水可溶性分を含んでいる。そして、この水可溶性分は、前述した通り、焼結防止剤によって針状ヘマタイト粒子相互を架橋しながら粒子内部及び粒子表面に強固に結合されることにより、針状ヘマタイト粒子相互間の凝集が一層強まる。その結果、殊に、粒子内部や凝集物内部に閉じ込められた可溶性硫酸塩や可溶性ナトリウム塩は、常法による水洗によって除去することが極めて困難となる。
【0161】
上述した通り、可溶性ナトリウム塩や可溶性硫酸塩が焼結防止剤を介在して粒子内部や粒子表面及び凝集物内部に強く結合されている高密度ヘマタイト粒子は、湿式粉砕して粗粒をほぐした後、スラリーのpH値を13以上に調整し、80℃以上の温度で加熱処理すると、アルカリ性水溶液が高密度ヘマタイト粒子の粒子内部まで十分浸透し、その結果、粒子内部や粒子表面及び凝集物内部に強く結合している焼結防止剤の結合力が徐々に弱まり、粒子内部や粒子表面及び凝集物内部から解離され、同時に水可溶性ナトリウム塩や水可溶性硫酸塩も水洗除去しやすくなるものと考えられる。
【0162】
磁気記録媒体表面及び磁気記録媒体自体の耐久性が向上した理由については未だ明らかではないが、本発明者は、粒子内部にジルコニウムが均一に含有されているヘマタイト粒子を非磁性粒子として用いたことや、該ヘマタイト粒子の可溶性塩の含有量が少ないこと及びpH値が特定範囲であることなどの相乗効果に起因して、後出実施例に示す通り、ヘマタイト粒子のビヒクル中における結合剤樹脂との樹脂吸着強度が高まり、その結果、非磁性下地層中におけるヘマタイト粒子と結合剤樹脂との密着度や非磁性下地層自体の非磁性支持体への密着度が高まったことによるものと考えている。
【0163】
磁気記録層中に分散されている鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末の腐蝕に伴う磁気特性の劣化が抑制される理由について、本発明者は、金属の腐蝕を促進する可溶性ナトリウム塩や可溶性硫酸塩等の可溶性分が高密度針状ヘマタイト粒子中に少ないこと及びヘマタイト粒子自体の粉体pH値が8以上と高いことに起因して鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末の腐蝕の進行が抑制できたものと考えている。
【0164】
事実、本発明者は、後出の実施例及び比較例に示す通り、湿式粉砕後の高密度針状ヘマタイト粒子を80℃以上の温度、pH値が13未満のアルカリ水溶液で加熱処理した場合、湿式粉砕後の高密度針状ヘマタイト粒子を80℃未満の温度、pH値が13以上のアルカリ水溶液で加熱処理した場合、高密度針状ヘマタイト粒子を湿式粉砕をすることなく粗粒を含んだままで80℃以上の温度下、pH値13以上のアルカリ性水溶液中で加熱処理した場合のいずれの場合にも、鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末の腐蝕の進行を十分には抑制できないことから、可溶性分が少ないことと、粉体pH値が8以上であることの相乗効果により鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末の腐蝕の進行が抑制できるという現象を確認している。
【0165】
【実施例】
次に、実施例並びに比較例を挙げる。
【0166】
<針状ゲータイト粒子粉末の種類>
針状ヘマタイト粒子を製造するための出発原料として下記の出発原料A乃至Eを準備した。
【0167】
【表1】
【0168】
<低密度針状ヘマタイト粒子粉末の製造>
実施例1〜9及び比較例1〜14
出発原料である針状ゲータイト粒子粉末の種類、焼結防止剤の種類及び添加量、加熱脱水温度及び時間を種々変化させた以外は、前記本発明の実施の形態と同様にして低密度針状ヘマタイト粒子を得た。尚、比較例4で得られた粒子は、ゲータイト粒子である。
【0169】
この時の主要製造条件及び諸特性を表2乃至表5に示す。
【0170】
【表2】
【0171】
【表3】
【0172】
【表4】
【0173】
【表5】
【0174】
<高密度針状ヘマタイト粒子粉末の製造>
実施例10〜18及び比較例15〜27
低密度針状ヘマタイト粒子粉末の種類、高密度化加熱処理の温度及び時間を種々変化させた以外は、前記本発明の実施の形態と同様にして高密度針状ヘマタイト粒子を得た。
【0175】
この時の主要製造条件及び諸特性を表6及び表7に示す。
【0176】
【表6】
【0177】
【表7】
【0178】
<針状ヘマタイト粒子のアルカリ水溶液中における処理>
実施例19〜27及び比較例28〜35
高密度針状ヘマタイト粒子粉末の種類、湿式粉砕の有無、アルカリ水溶液中における加熱処理の有無、スラリーのpH値、加熱温度及び加熱時間を種々変化させた以外は、前記本発明の実施の形態と同様にして針状ヘマタイト粒子を得た。
【0179】
この時の主要製造条件及び諸特性を表8乃至表11に示す。
【0180】
【表8】
【0181】
【表9】
【0182】
【表10】
【0183】
【表11】
【0184】
<針状ヘマタイト粒子の表面被覆処理>
実施例28
アルカリ性水溶液中における加熱処理後にデカンテーション法により水洗して得られた実施例19のpH値が10.5のスラリーは、スラリー濃度が98g/lであった。このスラリー5lを再度加熱して60℃とし、このスラリー中に1.0NのNaAlO2 溶液272ml(針状ヘマタイト粒子に対しAl換算で1.5重量%に相当する。)を加え、30分間保持した後、酢酸を用いてpH値を8.5に調整した。次いで、前記本発明の実施の形態と同様にして濾別、水洗、乾燥、粉砕して粒子表面がアルミニウムの水酸化物により被覆されている針状ヘマタイト粒子粉末を得た。
【0185】
この時の主要製造条件及び諸特性を表12及び表13に示す。
【0186】
実施例29〜36
針状ヘマタイト粒子粉末の種類、表面処理物の種類及び添加量を種々変化させた以外は、実施例28と同様にして表面被覆針状ヘマタイト粒子を得た。
【0187】
この時の主要製造条件及び諸特性を表12及び表13に示す。
【0188】
【表12】
【0189】
【表13】
【0190】
<非磁性下地層の製造>
実施例37〜54及び比較例36〜50
実施例19〜36、出発原料E及び比較例3、15〜18、23、28〜35で得られた針状ヘマタイト粒子を用いて前記本発明の実施の形態と同様にして非磁性下地層を得た。
【0191】
この時の主要製造条件及び諸特性を表14及び表15に示す。
【0192】
【表14】
【0193】
【表15】
【0194】
<鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末を使用している磁気記録媒体の製造>
実施例55〜72及び比較例51〜65
実施例37〜54及び比較例36〜50で得られた非磁性下地層の種類、鉄を主成分とする針状金属磁性粒子粉末の種類を種々変化させた以外は、前記本発明の実施の形態と同様にして鉄を主成分とする金属磁性粉末を使用している磁気記録媒体を製造した。
【0195】
この時の主要製造条件及び諸特性を表16及び表17に示す。
【0196】
【表16】
【0197】
【表17】
【0198】
【発明の効果】
本発明に係る針状ヘマタイト粒子粉末は、前出実施例に示した通り、非磁性下地層用非磁性粉末として用いた場合、粉体pH値が8以上であって可溶性塩の含有量が少ないことに起因してビヒクル中での分散性が優れているので基体としての強度と表面性に優れている非磁性下地層を得ることができ、該非磁性下地層を用いて磁気記録媒体とした場合において光透過率が小さく、表面平滑で、強度が大きい磁気記録媒体を得ることができ、しかも、該磁気記録媒体は、非磁性下地層用非磁性粉末である針状ヘマタイト粒子が粒子内部にジルコニウムを均一に含有していることに起因して耐久性に優れたものであるので、高密度磁気記録媒体の非磁性下地層用非磁性粒子粉末として好ましいものである。
【0199】
そして、本発明に係る磁気記録媒体は、上述した通り、光透過率が小さく、表面平滑で、強度が大きく、且つ、耐久性に優れているとともに、磁気記録層中の鉄を主成分とする針状金属磁性粒子粉末の腐蝕に伴う磁気特性の劣化を抑制することができるので、高密度磁気記録媒体として好ましいものである。
Claims (3)
- 粒子内部にZr換算で0.05〜30重量%のジルコニウムを含有している針状ヘマタイト粒子からなり、平均長軸径が0.3μm以下であって、粉体pH値が8以上、且つ、可溶性ナトリウム塩の含有量がNa換算で300ppm以下、可溶性硫酸塩の含有量がSO4 換算で150ppm以下である針状ヘマタイト粒子粉末であることを特徴とする鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末を使用している磁気記録媒体の非磁性下地層用針状ヘマタイト粒子粉末。
- 針状ヘマタイト粒子の粒子表面がアルミニウムの水酸化物、アルミニウムの酸化物、ケイ素の水酸化物及びケイ素の酸化物の少なくとも1種で被覆されている請求項1記載の鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末を使用している磁気記録媒体の非磁性下地層用針状ヘマタイト粒子粉末。
- 非磁性支持体と該非磁性支持体上に形成される非磁性粒子粉末と結合剤樹脂とからなる非磁性下地層と該非磁性下地層の上に形成される鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末と結合剤樹脂とからなる磁気記録層とからなる磁気記録媒体において、前記非磁性粒子粉末が請求項1又は請求項2記載の針状ヘマタイト粒子粉末であることを特徴とする鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末を使用している磁気記録媒体。
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