JP3964694B2 - 分繊用ポリエステルフィラメント及びその製造方法 - Google Patents

分繊用ポリエステルフィラメント及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、難燃性を有するポリエステルマルチフィラメントであって、後加工の延伸仮撚加工及び分繊により、ポリエステル捲縮モノフィラメントを製造することができる親糸となる、分繊用ポリエステルフィラメント及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステル捲縮モノフィラメントを生産するに際しては、特開昭56−31011号公報に記載されているように、高配向未延伸糸を延伸同時仮撚加工を行った後、各フィラメント毎に分繊する製造方法を用いることが生産性の面から有効である。また、その際の仮撚加工方法については、特開昭55−98922号公報や特開昭56−9434号公報などで開示されている。
【0003】
現在では消費者ニーズの多様化から、機能性を有する捲縮ポリエステルモノフィラメントのニーズが高い。中でも防災に対する消費者の意識は高く、一般・公共を問わず難燃製品に対する関心が高まっている。しかしながら、ポリエチレンテレフタレートは難燃性の面では不充分であり、この点での改良が種々行われている。
【0004】
例えば、ポリマー段階で難燃剤を添加し、共重合またはブレンドする方法、さらには繊維製品を後加工し、表面あるいは内部まで難燃剤を付着あるいはしみこませる方法が提案されている。
【0005】
上記方法のうち、後加工により難燃性を付与する方法は、使用期間を経ると洗濯、摩擦により難燃剤が脱落して性能が低下するという欠点がある。
これに対して、ポリマー製造段階で難燃剤を共重合する方法は、上述の問題点を克服することができる。そして、使用する難燃性付与物質としては、難燃性能、コスト、環境汚染、安全性の観点から、リン化合物が有利とされている。
【0006】
しかしながら、難燃性を付与するためにポリエチレンテレフタレートにリン化合物を共重合した場合、紡糸時の熱安定性が欠けるようになり、溶融紡糸段階でポリマーの粘度低下を誘発し、特に紡糸口金部での計量性が悪化するため、マルチフィラメント糸の単糸間の繊度差が大きくなる。このようなマルチフィラメントを分繊加工すると、モノフィラメント間の繊度差が大きくなる。また、分繊工程で張力変動が生じ、段付きを発生させたり、さらに悪化すると、糸切れが多発するなどのトラブルを誘発する。
【0007】
このように、延伸同時仮撚加工に使用可能な高配向未延伸ポリエステルフィラメントで、分繊をトラブルを生じることなく行え、難燃性を有する捲縮モノフィラメントを得ることができる分繊用マルチフィラメント糸(親糸)は提案されていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明らは上述の問題点を解決し、良好な紡糸性と均一な単糸繊度を具備し、延伸同時仮撚加工が可能な高配向未延伸ポリエステルフィラメントであって、その後の分繊加工での工程通過性も良好で品位が高く、難燃性能を有するポリエステル捲縮モノフィラメントを得ることができる分繊用ポリエステルフィラメントを提供しようとするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は次の(イ)、(ロ)を要旨とするものである。
(イ)リン化合物を共重合し、リン原子の含有量が3000〜10000ppm、溶融粘度(280℃、せん断速度1000/Sの条件下で測定)が170pa・s以上のポリエチレンテレフタレートを、ノズルプレートの1つのノズル孔に対して、ポリマーを導入する計量プレートのオリフィスを少なくとも2つ以上設けてなる口金装置を用いて溶融紡糸を行ことにより得られたフィラメントであって、単糸繊度20〜40デシテックス、フィラメント数6〜16本、単糸繊度のCV%が3%以下、複屈折率Δnが20×10−3以上60×10−3以下であることを特徴とする分繊用ポリエステルフィラメント。
ただし、単糸繊度のCV%(%)=(V/X)×100
V:ポリエステルフィラメントを構成する全単糸繊度の不偏分散の平方根
X:ポリエステルフィラメントを構成する全単糸繊度の平均値
(ロ)リン化合物が下記(1)式で表される不飽和脂肪族リン化合物である(イ)記載の分繊用ポリエステルフィラメント。
【化2】
(1)
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明におけるポリエステルとは、主たる酸成分がテレフタル酸又はそのエステル誘導体、主たるグリコール成分がエチレングリコールからなるポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)である。その効果を損なわない範囲で、酸成分として脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成誘導体、芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成誘導体を共重合成分として含むことができる。また、グリコール成分としてもジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等のグリコールにエチレンオキサイドが付加したグリコール、ポリエチレングリコール等を含むことができる。
【0011】
また、これらポリエステルフィラメント中には、少量の他の任意の重合体や酸化防止剤、染色改良剤、制電剤、染色改良剤、顔料、艶消し剤等の添加剤が含有されていてもよい。
【0012】
そして、本発明に用いるPETには、リン原子を含有するリン化合物が共重合されている。リン化合物とはポリエステルの構成成分であるジカルボン酸やジオールと反応してポリエステルに共重合することができる化合物である。このようなリン化合物の中で好ましい化合物は、ポリエステルの側鎖にリン化合物を導入できるものであり、下記(1)式で表されるリン化合物が好ましい。
【0013】
【化3】
【0014】
リン化合物を共重合したポリエステル中のリン原子の含有量は3000〜10000ppmであり、より好ましくは4000〜8000ppmである。リン原子の含有量が3000ppm未満であると難燃性能が劣るため好ましくない。一方、含有量が10000ppmを超えると、ポリエステルの熱安定性が悪くなるため、ポリマー状態での溶融粘度の低下が生じ、本発明で目的とする単糸繊度のばらつき(CV%)が小さいポリエステルフィラメントを得ることができないばかりか、繊維強度が低下したり、紡糸時の操業性が悪化する。
【0015】
次に、本発明のポリエステルフィラメントは、単糸繊度が20〜40デシテックスであることが必要である。単糸繊度が20デシテックス未満では、最終的なモノフィラメントとした時に実用的でない。一方、単糸繊度が40デシテックスを超えると、紡糸時の冷却性不良により操業性が悪化したり、単糸間での融着が発生しやすくなり、後加工の延伸仮撚工程や分繊工程において糸切れが多発するようになる。
【0016】
さらに、ポリエステルフィラメントの紡糸性及び後加工の延伸仮撚工程、分繊工程時の取扱性や操業性の観点から、ポリエステルフィラメントの単糸数は、6〜16本とする必要があり、さらに好ましくは、8〜12本である。6本未満では捲縮モノフィラメントの分繊時の生産効率が悪いため好ましくなく、一方、16本を超えると、紡糸時の冷却性が悪化し、分繊工程作業が煩雑となるため好ましくない。以上のような構成とするために、ポリエステルフィラメントの総繊度は120〜500デシテックスとするのが好ましい。
【0017】
また、本発明のポリエステルフィラメントの複屈折率は、△nが20×10-3〜60×10-3とする必要がある。このようなポリエステル高配向未延伸糸とするには、溶融紡糸段階での紡糸速度を3000〜4000m/分とすればよい。△nが20×10-3未満、すなわちポリエステルフィラメントの配向度が低い場合には、後の延伸仮撚工程でフィラメント長手方向の繊度斑が大きくなったり、ポリエステルフィラメントの経時変化が大きくなる等の理由から好ましくない。
【0018】
一方、△nが60×10-3を超えるためには、紡糸速度を高くする必要が生じ、紡糸操業性が悪化したり、紡糸口金の単孔吐出量を多くする必要が生じるため、紡糸段階での糸条へのドラフト率が高くなる等により操業性が極めて悪化する。また、後の延伸仮撚工程で捲縮堅牢性を付与しにくくなるとともに、捲縮の経時変化が起こりやすくなるため好ましくない。
【0019】
そして、本発明のポリエステルフィラメントを構成する単糸繊度のCV%は3%以下とすることが重要である。単糸繊度のCV%とは、単糸繊度のばらつきを示す指数である。CV%が3%を超えるとばらつきが大きく、分繊工程での分繊性が悪化したり、分繊後の捲縮モノフィラメントの繊度差が大きくなる等の問題が生じる。
【0020】
以上のように、本発明では、延伸仮撚加工時及び分繊時の操業性を向上させ、品位が高く、難燃性の向上したモノフィラメントを得ることを目的とし、適量のリン化合物を共重合したうえで、単糸繊度のCV%を3%以下としたポリエステルフィラメントとすることが重要である。
【0021】
次に、本発明の分繊用ポリエステルフィラメントの製造方法について説明する。図1は本発明の製造方法の一実施態様を示す概略工程図である。
図1に示すように溶融押出機にポリエステルチップを供給し、紡糸温度280〜310#テで溶融混練後、口金装置1から6〜16本の単糸として紡出し、糸条Yとした後、冷却装置2にて冷却し、紡糸油剤を油剤付与装置3で付与した後、3000〜4000m/分の一対のゴデットローラ4を介して、捲取機5にてパッケージ6として捲き取ることにより、得ることができる。
【0022】
本発明に使用するポリエステルは、ポリエステルフィラメントの単糸繊度のばらつきを小さくするため、口金装置内部での計量性を向上させるべく、紡糸時の溶融粘度を170pa・s以上とする。ポリエステルの溶融粘度が低下するに従い、紡糸口金内部を通過時及び口金部から吐出時の計量性が悪くなり、単糸繊度のばらつきCV%を小さくすることが難しくなる。
【0023】
使用する口金装置1は、図2に示すような計量プレート7とノズルプレート8を重ね合わせ、1つのノズル孔10に対して計量プレート7には2つ以上、好ましくは3〜4のオリフィスを有する構成とすることが好ましい。このように溶融状態のポリエステルを計量プレート7の複数のオリフィスから吐出させることによって、導入溝11を通じて各ノズル孔10に計量性よく供給できるため、各ノズル孔10から吐出されるポリマーの量のばらつきを抑えることが可能となり、単糸繊度のばらつきの小さいマルチフィラメントとすることができる。
【0024】
なお、オリフィスの吐出孔9の直径は0.3〜1.0mm程度とすることが吐出時の計量性、口金装置1にかかる圧力損失の面から好ましい。
【0025】
以上のように、紡糸時のポリエステルの溶融粘度と口金装置を特定のものとすることにより、溶融状態のポリエステルが口金装置内部を通過する際、計量性が向上し、単糸繊度のばらつきを小さくすることが可能となる。
これにより、本発明のポリエステルフィラメントは、リン化合物を共重合しており、ホモポリエステルと比べ、溶融紡糸時の熱安定性が悪いにも関わらず、単糸繊度間のばらつきが小さいマルチフィラメントとすることができ、その後の延伸仮撚・分繊工程での工程通過性に優れ、品質の安定した難燃性の捲縮モノフィラメントを得ることが可能となる。
【0026】
【実施例】
次に、実施例によって本発明を具体的に説明する。
なお、実施例における特性値の測定方法は次の通りである。
(a)単糸繊度
ポリエステルフィラメントを10cm程度の長さに切断後、各単糸毎に分割し、サーチ社製 DENIIR COMPUTER DC−11を使用し、全ての単糸繊度を測定した。なお、表1中の単糸繊度は全ての単糸の平均値とした。
(b)単糸繊度CV%
(a)にて測定した単糸繊度から求めた。
単糸繊度CV%(%)=(V/X)×100
V:ポリエステルフィラメントを構成する全単糸繊度の不偏分散の平方根
X:ポリエステルフィラメントを構成する全単糸繊度の平均値
(c)複屈折率 △n
POE偏光顕微鏡を用い、ベレックコンペンセーター法により測定した。
(d)溶融粘度
島津製作所製フローテスタCFT500を用いて、温度280℃、せん断速度1000/Sの条件で測定した。
(e)捲縮性
得られたポリエステルフィラメントを、仮撚機ST-5(仮撚条件:仮撚数2100T/M、仮撚温度160#テ、延伸倍率1.60、糸速150m/分)にて仮撚を行い、仮撚後の状態を目視にて下記のように2段階で評価した。
○・・・捲縮の発現性良好。
×・・・捲縮発現不良があり、部分的若しくは全体的に捲縮が発現していない。
(f)分繊性
(e)で延伸仮撚を行った後の加工糸を一連分繊機にて分繊を行った。それぞれ加工糸100本(100パッケージ)を用いて、分繊後の捲縮モノフィラメントの満捲き率にて下記のように2段階で評価した。
○・・・満捲き率 85%以上
×・・・満捲き率 85%未満
(g)難燃性
(f)で得た捲縮モノフィラメントを筒編みし、JIS K 7201 A2号又はB2号に従い、酸素指数(LOI)法によって測定した。なお、LOI値が28%以上を合格とした。
【0027】
実施例1
テレフタル酸をカルボン酸成分とし、エチレングリコールをグリコール成分とし、前記(1)式のリン含有化合物をリン原子含有量が6500ppmとなるよう共重合した溶融粘度190pa・sのリン含有共重合PETを、溶融温度290℃で溶融後、図2の記載した計量プレート(オリフィス数:3、オリフィスの吐出孔径:0.4mm)とノズルプレート(ノズル孔数:10孔、吐出孔径:0.6mm)から構成された口金装置を使用した。なお、図3に図2のX−X’方向の断面模式図を示すように、計量プレートのオリフィス数とは、ノズルプレートのノズル孔1つに対して設けられた数である。
このような口金装置を用いて、吐出量115g/分で溶融吐出し、図1に示す工程図に従って紡糸、捲き取りを行った。まず、紡糸糸条を冷却した後、油剤を付与し、3500m/分の速度にて総繊度330デシテックス、10フィラメントのポリエステルフィラメントを捲き取った。
得られたポリエステルフィラメントの複屈折率、単糸繊度のCV%、捲縮性、分繊性、難燃性の評価結果を表1に示す。
【0028】
実施例2〜3、比較例1〜6
ポリエステルの溶融粘度、使用したノズルの計量プレートのオリフィス数、ポリエステル中のリン含有量、フィラメントの単糸繊度、フィラメント数を表1記載のように変更した以外は実施例1と同様に行った。
得られたポリエステルフィラメントの複屈折率、単糸繊度のCV%、捲縮性、分繊性、難燃性の評価結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
表1より明らかなように、実施例1〜3のフィラメントは、適量のリン原子が含有されており、単糸繊度のばらつきが小さいため、後加工での操業性(捲縮性、分繊性)が良好であった。
一方、比較例1のフィラメントは、ポリエステル中のリン原子の含有量が少ないため、難燃性に劣っていた。比較例2のフィラメントは、ポリエステル中のリン原子の含有量が多すぎたため、難燃性は良好であるものの、単糸繊度ばらつきが大きく、分繊加工時の操業性が不調であった。比較例3のフィラメントは、単糸繊度が太く、複屈折率が低かったため、延伸仮撚工程でフィラメントの長さ方向の繊度ばらつきが大きくなり、捲縮が不均一であり、分繊時の操業性も悪化した。比較例4のフィラメントは、溶融粘度が低く、ノズル孔1つに対して計量プレートのオリフィス数が1つの口金装置を用いて製造したため、単糸繊度のCV%が大きいフィラメントとなり、分繊時の操業性が不調であった。比較例5のフィラメントは、単糸繊度が細く、複屈折率が高いため、仮延伸仮撚工程における捲縮発現性が不良であった。比較例6はフィラメント数が多く、紡糸時に単糸間の密着が生じ、切糸が多発したためフィラメントを得ることができなかった。また、比較例7は、ポリエステル中のリン原子の含有量が多すぎたため、溶融粘度が低下し、紡糸時の糸切れが多発し、フィラメントを得ることができなかった。
【0031】
【発明の効果】
本発明のポリエステルフィラメントは、難燃性を有し、良好な紡糸性と均一な単糸繊度を具備しているので、延伸仮撚加工やその後の分繊加工工程の通過性が良好で、品位の高い捲縮モノフィラメントを得ることが可能となる。
そして、本発明の製造方法によれば、本発明の分繊用ポリエステルフィラメントを操業性よく得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の分繊用ポリエステルフィラメントの製造方法の一実施態様を示す概略工程図である。
【図2】本発明の分繊用ポリエステルフィラメントの製造において使用する口金装置の計量プレートとノズルプレートの一実施態様を示す模式図である。
【図3】図2の X−X’方向の断面模式図である。
【符号の説明】
1 口金装置
2 冷却装置
3 油剤付与装置
4 ゴデットローラ
5 捲取機
6 パッケージ
7 計量プレート
8 ノズルプレート
9 オリフィスの吐出孔
10 ノズル孔
11 導入溝
Y 糸条

Claims (2)

  1. リン化合物を共重合し、リン原子の含有量が3000〜10000ppm、溶融粘度(280℃、せん断速度1000/Sの条件下で測定)が170pa・s以上のポリエチレンテレフタレートを、ノズルプレートの1つのノズル孔に対して、ポリマーを導入する計量プレートのオリフィスを少なくとも2つ以上設けてなる口金装置を用いて溶融紡糸を行ことにより得られたフィラメントであって、単糸繊度20〜40デシテックス、フィラメント数6〜16本、単糸繊度のCV%が3%以下、複屈折率Δnが20×10−3以上60×10−3以下であることを特徴とする分繊用ポリエステルフィラメント。
    ただし、単糸繊度のCV%(%)=(V/X)×100
    V:ポリエステルフィラメントを構成する全単糸繊度の不偏分散の平方根
    X:ポリエステルフィラメントを構成する全単糸繊度の平均値
  2. リン化合物が下記(1)式で表される不飽和脂肪族リン化合物である請求項1記載の分繊用ポリエステルフィラメント。
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