JP3960529B2 - 女性用簡易和服 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、上衣及び下衣に分離した女性用和服に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、着脱が容易で、着衣者自身による着脱が可能な和服が種々提案されている。例えば、実公昭47-037685号「和 服」や実開平01-074212号「ワンピース風の着物」は、和服全体を上から被る着衣手順を用いる構成を提案している。着衣及び脱衣(以下、合わせて着脱と呼ぶ)を容易にする手段として、前者は後身頃の背筋の部分にファスナを装着し、後者は前身頃にV字状の衿明部を設けている。
【0003】
これに対し、特開2000-144505「二部式着物」は和服を上衣及び下衣に分けて着脱手順を容易にしている。特に、外観上茶羽織を羽織っているようなエレガンスな後姿を呈することを目的として、上衣は縫着した袖付部(身八つ口)の下で前身頃及び後身頃を開くようになっているが、これが上衣の着衣手順を容易にする利点をもたらしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
まず、実公昭47-037685号及び実開平01-074212号は、上衣及び下衣が一体となっているため、着脱に際して裾を手繰ったりする必要があり、これが皺を作る原因となる。個別には、実公昭47-037685号では、袂が邪魔になってファスナの操作が非常に難しい。特に、外観を整えるためにタックを形成して胴部を絞っているので、着衣者の動きはより制約され、着衣者自身がファスナを操作することは事実上不可能である。また、実開平01-074212号は、V字状の衿明部を開いて着脱するため、肩が通過するゆとりが胴部に必要で、着衣後の外観を整える必要がある。
【0005】
特開2000-144505は、上記2つの従来技術に比べて、二部式の構成とすることで、上衣及び下衣別に着衣して着衣手順を容易にし、上衣の裾をお端折として帯から覗かせることで外観を整える手間を省略している。しかし、上衣の着衣手順を容易にするために、身八つ口を縫着して直下を開いた構成は、結果として袖の振りを塞ぐことになり、和服本来の外観を損なう問題がある。また、下衣は腰に巻き付ける態様で、着衣者の動きによっては下方へずれてしまう問題があった。そこで、これら従来技術を踏まえ、着衣手順をより簡略化しつつ、和服本来の外観を損ねない簡易和服について検討した。
【0006】
【課題を解決するための手段】
検討の結果開発したものが、上衣及び下衣に分離した女性用和服において、上衣は脇部の前身頃及び後身頃の突き合せ縁にこの突き合せ縁を開閉自在にする上衣係着手段を設け、下衣は脇部の前身頃及び後身頃の突き合せ縁にこの突き合せ縁を開閉自在にする下衣係着手段を設けた女性用和服である。具体的には、上衣は肩山から帯に隠れる分離下縁までの丈で、抱き幅を調節不要に前記分離下縁に向けて絞り、衿の交差下付近及び帯を締める範囲で上前及び下前を縫着し、脇部の分離下縁から身八つ口に至る前身頃及び後身頃の突き合せ縁にこの突き合せ縁を開閉自在にする上衣係着手段を設け、下衣は帯に隠れる分離上縁から裾までの丈で、抱き幅を調節不要に前記分離上縁に向けて絞り、分離上縁から1/6〜1/3丈の範囲で上前及び下前を縫着し、脇部の分離上縁から前記縫着範囲の前身頃及び後身頃の突き合せ縁にこの突き合せ縁を開閉自在にする下衣係着手段を設ける。ここで、「衿の交差下付近」とは着衣状態で交差した衿よりも下の辺りを、「分離上縁から1/6〜1/3丈の範囲」とは着衣状態で着衣者の足の付け根に当たる付近をそれぞれ意味し、分離上縁から20〜50cm、好ましくは30〜40cmの範囲となる。
【0007】
本発明は基本的に女性用和服に適用する。しかし、通常身八つ口のない男性用和服でも、上衣の袖の振りの付け根までの範囲で脇部の突き合せ縁を開閉自在にすれば、本発明が適用可能である。女性用和服については制限はなく、振り袖、留袖又はその他の女性用和服に本発明が適用可能である。上衣及び下衣を着衣後、別途帯を締めれば着付けが完了する。前記帯は、旧来通りの帯でもよいし、近年見られる簡易帯(いわゆるワンタッチ帯)であってもよい。お端折は、(1)上衣の分離下縁を延長して利用してもよいが、これでは帯から覗くお端折の長さを調節しづらいので、(2)上衣及び下衣とは別体のお端折を前記長さ調節自在に上衣の分離下縁又は下衣の分離上縁に対して取り付けたり、(3)上衣及び下衣とは別体のお端折を帯又は簡易帯に添わせる又は取り付けるようにしてもよい。
【0008】
本発明の女性用和服は、既に着衣した状態で上衣及び下衣をそれぞれ縫製しておきながら、それぞれ脇部に設けた各係着手段を用いて着衣時に前記脇部を開くことにより、着衣手順の簡略化を実現する。特に上衣は、開いた脇部が身八つ口及び袖の振りと連通するため、着衣した状態を想定して抱き幅を絞っていても、着衣が容易になる。しかも、各係着手段は共に脇部に設けるので、仮に和服が振り袖であっても、袂が邪魔にならず、前記係着手段の開閉が可能である。各係着手段を設ける脇部は、左右いずれでもよく、また両脇部に一対設けてもよい。
【0009】
簡易かつ操作容易な上衣又は下衣係着手段は、前身頃及び後身頃の突き合せ縁に設けたホックである。着衣手順の簡略化のためには、上衣及び下衣共に脇部を一定長さ開くことになるので、ホックは多段に配設する方がよいが、1段だけでも脇部を閉じる機能を発揮する。また、開く突き合せ縁を確実に閉じるには、前記係着手段は、前身頃及び後身頃の突き合せ縁に設けたファスナであるとよい。前記ファスナは面ファスナでもよいが、動きを伴う脇部の突き合せ縁を確実に閉じあわせておくことから、通常のスライドファスナが好ましい。スライドファスナは、金属製又は樹脂製を問わない。また、係着手段としてホック又はファスナいずれを使う場合でも、着衣者に直接ホック又はファスナが当たらないように、ホック又はファスナに対して裏当てを施すとよい。
【0010】
本発明の下衣は、抱き幅を調節不要にする程度に絞ったタイトスカート様であるが、着衣者を過剰に締め付けないためには若干のゆとりが必要で、これから着衣後にずり落ちて、着崩れする可能性がある。そこで、下衣には、分離上縁に肩掛けベルトを取り付けるとよい。すなわち、本発明における下衣は、抱き幅で絞った分離上縁により着衣者の腰に係止して保持するだけでなく、肩掛けベルトを着衣者の肩にかけ廻すことで、安定した着衣状態を保ち、着崩れを防止している。本発明にいう「肩掛けベルト」は、従来見られる長さ調節可能なサスペンダのほか、分離上縁に縫着した前後一対の紐又はベルトから構成してもよい。例えば前後一対の紐の場合、互いを結んで長さ固定したり、例えば一方の紐の一端に設けた係止環に他方の紐を挿通し、折り返して締め、自身に結び付けることにより長さ固定してもよい。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。図1は本発明の女性用簡易和服を構成する上衣1の正面図、図2は同上衣1の斜視図、図3は同女性用簡易和服を構成する下衣2の正面図であり、図4は同下衣2の斜視図である。本例は、お端折付簡易帯3(後掲図7参照)を使うものとして、上衣1及び下衣2からなる二部式で女性用簡易和服を構成している。
【0012】
本例の上衣1は、図1及び図2に見られるように、従来の女性用和服を抱き幅から上だけを分離した外観で、肩山4から帯に隠れる分離下縁5までの丈としている。上衣上前6及び上衣下前7は、抱き幅を調節不要に下方へ向けて絞った状態で、衿8の交差下付近及び帯を締める範囲で、上下2段の水平縫着ライン9,9により縫着している。各水平縫着ライン9は表からは見えないようにしている(図2参照)。上段の水平縫着ライン9を衿8の交差下付近としたのは、上衣1を被って着衣する際の剣先10付近(衿8の交差付近)の自由度を確保するためである。これから、剣先10付近にはホック等の剣先係着手段11を取り付け、着衣時には前記剣先係着手段11を外すとよい。
【0013】
上衣1の脇部は、分離下縁5から身八つ口12に至る上衣前身頃13及び上衣後身頃14の上衣突き合せ縁15に上衣係着手段16を設けている。本例の上衣係着手段16は、上衣裏当て17を施した5段のホック18から構成している。着衣持には、この上衣係着手段16を外し、開いた脇部から身八つ口12、振り19に至る部分を大きく開く。着衣後は、上衣係着手段16を閉じれば、外見上、通常の和服のように身八つ口12と振り19としか開いていないように見える。このように、本発明の女性用簡易和服における上衣1は、着衣時に脇部が開くことで、頭から被るだけでよいという着衣手順の簡略化を達成している。裏返せば、本発明の上衣1は脱衣も容易であり、まさに洋服感覚で着脱衣できる簡便性を備えている。
【0014】
本例の下衣2は、図3及び図4に見られるように、従来の女性用和服を抱き幅から下だけ分離した外観で、帯に隠れる分離上縁20から裾21までの丈としている。この下衣2も、抱き幅を調節不要とするため、分離上縁20を絞り、この絞った状態を維持するように分離上縁20から1/6〜1/3丈の範囲、例えば35cm前後の範囲で、左右2列の垂直縫着ライン22,22により下衣上前23及び下衣下前24を縫着している。各垂直縫着ライン22は表からは見えないようにしている(図4参照)。そして、絞った抱き幅のままでは履きづらいため、脇部の分離上縁20から前記縫着範囲の下衣前身頃25及び下衣後身頃26の下衣突き合せ縁38に下衣係着手段27を設けている。本例の下衣係着手段27は、下衣裏当て28を施した金属製スライドファスナ29で構成している。
【0015】
これにより、下衣係着手段27を外して分離上縁20を大きく開けば、容易に下衣2を履くことができ、腰にまで分離上縁20を持ち上げれば、下衣係着手段27を閉じれば絞った抱き幅がちょうど着衣者の腰にかかるように着衣できる。上記上衣1同様、この下衣2も脱衣が容易であり、洋服感覚で着脱衣できる簡便性を備えている。本例では、絞った分離上縁20を腰にかけるだけでは着衣後の着衣者の動きによって下衣2がずり落ち、着崩れを招く虞れがある。この着崩れ防止には、腰を締め付ける紐又はベルトを分離上縁20に設けることが考えられるが、本例では肩掛けベルト30,30の端部を分離上縁20に縫着し、着衣者の肩にかけ廻している。肩掛けベルト30は、調節部31を備えたものが好ましい。
【0016】
本発明の女性用簡易和服は、外観は従来の和服と変わらず、ただ着衣手順を大幅に簡略化できる点が優れている。図5は着衣手順Aとして下衣2を履く段階を示す斜視図、図6は下衣2着衣後に、着衣手順Bとして上衣1を被る段階を示す図5相当斜視図、図7は上衣1着衣後に、着衣手順Cとして簡易帯3を装着する段階を示す図5相当斜視図であり、図8は着付け完了の状態を示す図5相当斜視図である。本例では、もっとも簡易な着衣手順として、簡易帯3を用いる場合を示しているが、本発明の女性用簡易和服では、従来の帯を用いることもできる。
【0017】
着衣者Hは、図5に見られるように、着衣手順Aとして、まず下衣2を履くとよい。本発明の女性用簡易和服では、上衣1及び下衣2に分離しているだけなので、必ずしも上衣1の分離下縁5と下衣2の分離上縁20とを重ねる必要はないが、若干の上下方向の調節を可能にするように、前記両縁5,20が重なる範囲で上衣1及び下衣2の丈を具体的に決定するとよい。本例の場合、下衣2は肩掛けベルト30によって肩から吊り下げるため、下衣2を下に、上衣1を上に重ねることになる。これから、着衣手順Aでは下衣2から先に履く。
【0018】
下衣2は、下衣係着手段27を外し、分離上縁20を大きく開いた状態で、タイトスカート様に履くことができる。分離上縁20が腰に至るまで持ち上げた後、肩掛けベルト30を肩にかけ廻し、下衣係着手段27を閉じれば、着衣が完了する。このように、下衣係着手段27を外すことで脇部が開き、更に下衣上前23及び下衣下前24は上部の垂直縫着ライン22以外は自由に開くため、何ら着衣者Hを拘束するような部位がなく、非常に簡単に下衣2を履くことができる。しかし、分離上縁20を絞っているため、下衣係着手段27を閉じれば、着衣者Hの身体のラインに倣った見映えのよい着衣状態を実現できる。
【0019】
次に、下衣2のみを着衣した状態から、着衣手順Bとして、上衣1を被る。この上衣1は、脇部の上衣係着手段16を外すことで、脇部から身八つ口12及び振り19が連通して大きく開き、着衣者Hは容易に被ることができる。同時に、本例の上衣1では剣先係着手段11をも外しておくと、頭を通過させやすくなり、着衣をより一層容易にできる。また、本例では襦袢を着ることなく上衣1を被ることから、従来にも見られるように、半襟32のみを別途衿8内に装着できるようにしている。本例の半襟32は半襟ホック33により衿8内側に係着する。このほか、掛け襟も前記半襟同様に別途衿外側に装着できる。
【0020】
こうして、上衣1及び下衣2の着衣が終われば、図7に見られるように、簡易帯3を締めれば着付けが完了する。本例では、上衣1及び下衣2の着衣が容易になっている利点を損ねないように、簡易帯3を用いている。本例の簡易帯3は、帯本体34と太鼓35が別体となっている。帯本体34は、予めお端折39を縫い付けてあり、太鼓35には帯本体34上方から差し込む樹脂製係止片36を設けてある。まず、帯本体34は、上衣1の分離下縁5及び下衣2の分離上縁20が隠れるようにかけ廻し、背面の帯係着手段37で留めて、装着を終える。そして、前記帯係着手段37を隠すように太鼓35を差し込めば、帯締めが完了する。
【0021】
こうして、図8に見られるように、着衣を終えた簡易女性和服は、外見上従来の和服となんら変わりはない。しかし、従来の和服と異なり、帯締めまでを含めた着付け全部にかかる時間は5分以下であり、時間的にも着衣手順が簡略化されていることが分かる。また、他の同様な簡易な構成の先行技術に比べて、上衣1及び下衣2それぞれが予め抱き幅を絞っているため、着付け後の外観は従来の和服と比べて遜色なく、非常に綺麗に見える。本発明の簡易和服は、この着衣手順の簡略化と、和服本来の外観を損ねない(着付け後の審美性に優れている)点とを両立している。
【0022】
【発明の効果】
本発明の簡易女性和服は、従来の簡易な着付けをうたった同様な先行技術に比べて、着衣手順の簡略化と、和服本来の外観を損ねない点とを両立している点に効果を有する。着衣手順の簡略化は、予め着衣した状態で調えた上衣及び下衣をそれぞれ頭から被る又は足から履くといった洋服感覚で着脱衣できる簡便さによる。先行技術にも、同等の簡便な着脱衣を実現するものがあるが、本発明は着衣した状態、すなわち抱き幅を絞って調節不要にした状態で着衣が完了するため、着付けを完了した状態で和服本来の外観を損ねない効果を発揮する。しかも、本発明の簡易和服、抱き幅を調節不要に絞り、特に下衣では肩掛けベルトで吊り下げることができるため、着衣者がする通常の動きでは着崩れを招かない特徴がある。このように、本発明は着脱衣の不便さから敬遠されがちな和服の前記不便さを解消し、簡易に和服の美しさを体験できるようにする効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の女性用簡易和服を構成する上衣の正面図である。
【図2】同上衣の斜視図である。
【図3】同女性用簡易和服を構成する下衣の正面図である。
【図4】同下衣の斜視図である。
【図5】着衣手順Aとして下衣を履く段階を示す斜視図である。
【図6】下衣着衣後に、着衣手順Bとして上衣を被る段階を示す図5相当斜視図である。
【図7】上衣着衣後に、着衣手順Cとして簡易帯を装着する段階を示す図5相当斜視図である。
【図8】着衣完了の状態を示す図5相当斜視図である。
【符号の説明】
1 上衣
2 下衣
4 肩山
5 分離下縁
6 上衣上前
7 上衣下前
9 水平縫着ライン
12 身八つ口
13 上衣前身頃
14 上衣後身頃
15 突き合せ縁
16 上衣係着手段
19 振り
20 分離上縁
21 裾
22 垂直縫着ライン
23 下衣上前
24 下衣下前
25 下衣前身頃
26 下衣後身頃
27 下衣係着手段
30 肩掛けベルト
H 着衣者
Claims (1)
- 上衣及び下衣に分離した女性用和服において、上衣は肩山から帯に隠れる分離下縁までの丈で、抱き幅を調節不要に前記分離下縁に向けて絞り、衿の交差下付近及び帯を締める範囲で上前及び下前を縫着し、脇部の分離下縁から身八つ口に至る前身頃及び後身頃の突き合せ縁に該突き合せ縁を開閉自在にする上衣係着手段を設け、下衣は帯に隠れる分離上縁から裾までの丈で、抱き幅を調節不要に前記分離上縁に向けて絞り、分離上縁から 1/6 〜 1/3 丈の範囲で上前及び下前を縫着し、脇部の分離上縁から前記縫着範囲の前身頃及び後身頃の突き合せ縁に該突き合せ縁を開閉自在にする下衣係着手段を設けたことを特徴とする女性用和服。
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