JP3959980B2 - 実験計画法に基づくデータ解析方法および装置並びに実験計画法に基づくデータ解析プログラムおよび同プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、実験計画法に基づくデータ解析方法および装置並びに実験計画法に基づくデータ解析プログラムおよび同プログラムを記録した記録媒体に関し、特に、ディーゼルエンジン等の内燃機関の性能(燃焼特性)を解析するのに用いて好適な技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、環境に対する社会的要求が強まる中で、周知のように、自動車産業界においても車両の排出ガスの規制強化が行なわれつつある。特に、トラック等の車両に搭載されるエンジン(ディーゼルエンジン;内燃機関)については、それら規制値を満足した上での高出力化,低燃費化等の市場要求がますます強いものとなっている。
【0003】
自動車産業界では、一般に、相反するこれらの要求を満たすために、エンジンの新しい燃焼法や種々の電子制御等の新技術,新設計で対応してきたが、将来のさらなる規制強化等にそなえて、更に高度な燃焼,制御技術の導入が要求されている。これに伴い、エンジンの設計開発段階においては、マッチングすべきパラメータの数が大幅に増加し、その結果、膨大な試験時間が必要となる。また、各パラメータが互いに影響を及ぼす場合も考慮に入れるとマッチングそのものも複雑なものとなり、既存の試験・評価方法では限界がある。
【0004】
このような試験・評価(実験・解析)を正確且つ効率良く行なうためには、データの解析手法も考慮した無駄のない実験計画と多変量解析技術が必要不可欠となる。一般に、多変量の交互作用を考慮した解析には統計的解析手法が用いられる場合が多いが、エンジンの性能試験に適用されるようになったのはごく最近のことである。
【0005】
ここで、統計的解析手法の一つであり多変量解析が可能な方法の代表的手法として「実験計画法」がある。この「実験計画法」は、当初、市場でのバラツキが少ない安定した製品の製造条件を探る目的で品質工学の分野で用いられ、その効果を発揮したものであるが、後に、設計開発段階にも適用されるようになり、今日では様々な分野,企業において、「実験計画法」を適用した設計開発がなされるようになってきた。
【0006】
なお、「実験計画法」とは、そもそもイギリスのR.A.Fisher氏によって農場実験の合理化のために開発された手法であり、技術研究の世界では、田口玄一氏により、「直交表」の利用法,S/N比の導入,種々の実験への適用例が広く紹介されたため、一般に普及したもので、海外でも“TAGUCHI METHOD”(田口法)として知られている。
【0007】
田口法は、「直交表」を用いた実験と、「S/N比」と呼ばれるバラツキ(誤差)による評価法とを特徴としている。ここで、「直交表」とは、一口に表現すると、試験するパラメータの組み合わせを表す表であり、試験者は試験するパラメータを選定しそのパラメータに応じて予め用意されている「直交表」を選択しさえすれば、実験回数と試験条件が決まり、それに従って実験を進めれば良いようになっている。
【0008】
また、その結果得られたデータに「分散分析」と呼ばれる統計解析処理を施すことで各パラメータの効果の大きさを数値として評価することができる。さらに、この手法は最適化対象(最適化したい特性値)の推定式を求めることもできる。この推定式は算出が容易であり、また、交互作用の項が式中に存在するため、この式で交互作用も考慮した性能予測が可能である。
【0009】
ここで、「交互作用」とは、パラメータ独立の効果ではなく、別のパラメータに依存した効果であり、いくつかのパラメータの水準組み合わせに対し特別に生じる組み合わせ効果をいう。なお、この「交互作用」に対し、パラメータ独立の効果は「主効果」と呼ばれる。「交互作用」は、実験回数に対する依存度が高い。これは、「交互作用」が存在するということは各因子の効果が加法的ではないため、単一因子実験法では誤った結論を招く懸念があり実験回数を減らせないためである。
【0010】
また、「交互作用」には2因子間の交互作用、3因子間の交互作用など多因子間の交互作用を考えることができるが、実際に「交互作用」として意味があるのは2因子交互作用ぐらいで通常の「実験計画法」においても4因子以上の交互作用は無いと考えている。
このように、「実験計画法」は、最適化対象に対する複数パラメータの効果を、同時にまたは互いに関連付けて解析できることから、次のような利点がある。
【0011】
(1)直交表を用いることにより、少ない実験回数で複数パラメータの試験ができる。
(2)得られたデータに分散分析を施すことにより、最適化対象に対する各パラメータの効果(以下、主効果と呼ぶ)の大きさ,各パラメータ間の互いの影響(以下、交互作用と呼ぶ)を定量的に把握できる。
【0012】
(3)直交多項式により、各パラメータを変数とする最適化対象の推定式を求めることができる。
なお、「実験計画法」を設計開発段階に適用した事例としては、例えば、特開平10−207926号公報に記載されているように、構造物の設計開発(構造解析)に適用したものや、特許第2962284号公報に記載されているように、電子装置の設計開発(電子装置の発生するノイズ解析)に適用したものなどがある。
【0013】
ところで、従来、エンジンの設計開発段階においては統計学を用いることは少なく、「実験計画法」もその例外ではなかったが、近年では、「実験計画法」を利用したエンジンの設計開発も各企業で試みられるようになってきており、その成果もいくつか発表されている〔例えば、下記文献(1)〜(3)参照〕。
(1) 「3次元流れ解析による触媒コンバータ内流れの最適化」(戸井,杉浦(TOYOTA):「学術講演会前刷集975」 自技会 1997-10)
(2)“Simultaneous Optimization of Diesel Engine Parameters for Low Emissions Using Taguchi Method”(C.E.hunter et al.:SAE paper 902075)
(3)“Fully Automatic Determination and Optimization of Engine Control Characteristics”(Helmuth Hochschwarzer et al.:SAE paper 920255)
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、「実験計画法」をエンジンの設計開発(性能評価・試験)に適用した例では、或る一定のポイントに対する性能や排出ガスの予測及び評価(推定式の算出)にとどまっており、各国法規で規定されたモード排出ガスと性能(出力,燃費など)の予測およびその最適化にまで言及した例は皆無である。
【0015】
つまり、「実験計画法」を用いた公知技術(上記の特許第2962284号公報に記載された技術を含む)をそのままエンジンの設計開発に適用したとしても、エンジンの或る特定の運転モード(運転条件)での性能や排出ガスの予測及び評価(以下、「性能評価」と総称する)は行なえるものの、複数モードでの総合的な性能評価は行なえないのが現状である。しかも、前述したように、排出ガスの規制強化に伴って、マッチングすべきパラメータの数が大幅に増加するので、複数モードでの総合的な性能評価には、さらに膨大な試験時間が必要となる。
【0016】
本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、「実験計画法」に基づく、内燃機関の複数の運転条件での総合的な性能評価を、効率良く短期間に行なえるようにすることを主目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明の実験計画法に基づくデータ解析方法では、まず、内燃機関の複数の運転条件のそれぞれについてその内燃機関の燃焼特性に関連する複数の試験パラメータに対する実験計画法に基づく試験を行なうことによって上記運転条件毎に得られる試験結果データを、データ入力手段を通じて演算手段に入力し(データ入力過程)、その運転条件毎の試験結果データのそれぞれについて演算手段にて統計解析処理を施す(統計解析処理過程)。
【0018】
そして、この統計解析処理によって得られた上記運転条件毎の統計解析結果のそれぞれに基づいて、それぞれの運転条件での内燃機関の燃焼特性の挙動を表し上記の試験パラメータを変数として有する推定式を演算手段にて上記運転条件毎に求める(推定式生成過程)。その後、得られた運転条件毎の推定式のそれぞれについて上記変数を変更することにより前記運転条件毎の推定値群を生成して、所定の運転条件の前記推定値群の要素推定値である各性能値それぞれについて、他の運転条件の推定値群の要素推定値である各性能値それぞれを加算する和計算を行ない、その計算結果に基づいて、複数の運転条件下で内燃機関の所期の燃焼特性を満足する最適な試験パラメータの組み合わせを選定する最適化計算を実行する(最適化計算過程)。これにより得られた計算結果は、データ出力手段を通じて出力される(データ出力過程)。
【0019】
ここで、上記の最適化計算過程では、上記の各推定式の変数をそれぞれ変更してその推定式による演算を演算手段にて実行することにより、上記推定値群を求めることができる(推定値群生成過程)。このようにして得られた各推定値群はバッファ手段に一時的に保持される(推定値群バッファ過程)。そして、演算手段が、このバッファ手段に保持された複数の推定値群に基づいて、複数の運転条件下で内燃機関の所期の燃焼特性を満足する最適な試験パラメータの組み合わせを選定する(試験パラメータ選定過程)。
【0020】
また、この試験パラメータ選定過程(演算手段)では、上記の加算(以下、和計算あるいは組み合わせ計算ともいう)に用いるべき推定値群又はその要素数を限定して上記組み合わせ計算を行なっても良く、このようにすれば、上記組み合わせ計算に必要な計算量を削減することができる。
【0021】
ここで、例えば、上記の各推定値群の個々の変動率に応じて上記組み合わせ計算に用いるべき推定値群を複数の推定値群の一部に限定すれば、推定値群の変動率によってはあまり有意でない推定値群については組み合わせ計算の対象外として、上記組み合わせ計算の精度低下を抑制しながら、必要な計算量を削減することが可能となる。
【0022】
また、上記組み合わせ計算に用いるべき推定値群の要素数を、上記の各推定値群の個々の変動率や上記の運転条件に応じてその一部に限定すれば、運転条件あるいは得られた推定値群の変動率によってはあまり有意でない推定値群については組み合わせ計算に用いる要素数を減らすことが可能になる。特に、この場合は、要素推定値数を限定するので、上記のように特定の推定値群全てを用いないことがある場合に比して、より組み合わせ計算の精度低下を抑制しながら、必要な計算量を削減することができる。
【0023】
なお、上記の試験パラメータは、上記内燃機関の実車両への搭載環境に関するパラメータ(以下、実車両環境パラメータという)であってもよく、このようにすれば、上記の最適化計算過程において、上記の内燃機関の実車両への搭載環境を考慮した試験パラメータの組み合わせ選定を上記演算手段によって行なうことが可能になる。
【0024】
ここで、上記の実車両環境パラメータを、上記実車両において上記内燃機関に付設される排気通路に関するパラメータとすれば、内燃機関を実際に実車両に搭載することなく、その実車両の排気通路の環境(例えば、長さや触媒の位置など)をも考慮した上で、実車両の排気特性を推定して最適な試験パラメータの組み合わせを求めることができる。
【0025】
次に、本発明の実験計画法に基づくデータ解析装置は、次のような各手段をそなえたことを特徴としている。即ち、
(1)試験対象物の複数の試験条件群のそれぞれについてその試験対象物の特性に関連する複数の試験パラメータに対する実験計画法に基づく試験を行なうことによって試験条件群毎に得られる試験結果データについてそれぞれ統計解析処理を施す統計解析手段
(2)この統計解析手段によって上記試験条件群のそれぞれについて得られる統計解析結果に基づいて、その試験条件群での試験対象物の特性の挙動を表し上記試験パラメータを変数として有する推定式を試験条件群のそれぞれについて求める推定式生成手段
(3)この推定式生成手段によって得られた試験条件群毎の推定式のそれぞれについて上記変数を変更することにより該試験条件毎の推定値群を生成して、所定の試験条件の該推定値群の要素推定値である各性能値それぞれについて、他の試験条件の推定値群の要素推定値である各性能値それぞれを加算する和計算を行ない、その計算結果に基づいて、複数の試験条件群下で該試験対象物の所期の特性を満足する最適な試験パラメータの組み合わせを選定する最適化計算を実行する最適化計算手段
上述のごとく構成された本発明のデータ解析装置では、内燃機関に限らず、試験を行ないたい様々な物の試験条件群毎に、統計解析手段によって、その物の特性を解析し、その試験条件群毎の統計解析結果に基づいて前記特性の挙動を表す推定式を試験条件群毎に生成して各推定式による推定値群を得、それらに基づいて複数の試験条件群下で総合的に試験対象物の所期の特性を満足する最適な試験パラメータの組み合わせを求めることができる。
【0026】
ここで、上記の最適化計算手段は、例えば、次のような各手段をそなえることにより、その機能を実現できる。
(1)上記の試験条件群毎の推定式のそれぞれについて上記変数を変更してその推定式による演算を実行することにより、上記試験条件群のそれぞれについて上記推定式による推定値群を生成する推定値群生成手段
(2)この推定値群生成手段によって得られた各推定値群のそれぞれを一時的に保持するバッファ手段
(3)このバッファ手段に保持された複数の推定値群に基づいて複数の試験条件群下で試験対象物の所期の特性を満足する最適な試験パラメータの組み合わせを求める試験パラメータ選定手段
【0027】
なお、本データ解析装置においても、試験対象物は前記と同様に内燃機関としてもよい。即ち、上記の試験パラメータを内燃機関の燃焼特性に関連するパラメータとしてもよく、このようにすれば、内燃機関の複数の運転条件での燃焼特性についての最適な試験パラメータの選定を実現することができる。
【0028】
ここで、上記の試験パラメータには、この場合も、上記内燃機関の実車両への搭載環境に関するパラメータ(実車両環境パラメータ)を含めてもよく、また、この実車両環境パラメータは、実車両において内燃機関に付設される排気通路に関するパラメータであってもよい。このようにすれば、この場合も、実車両の搭載環境(排気通路の長さや触媒の位置など)をも考慮した上で、実車両の排気特性を推定して最適な試験パラメータの組み合わせを求めることができる。
【0029】
次に、本発明の実験計画法に基づくデータ解析プログラムは、コンピュータに内燃機関の燃焼特性に関するデータを解析させるためのデータ解析プログラムであって、具体的には、そのコンピュータを次のような各手段として機能させるプログラムを特徴としている。即ち、
(1)内燃機関の複数の運転条件のそれぞれについてその内燃機関の燃焼特性に関連する複数の試験パラメータに対する実験計画法に基づく試験を行なうことによって前記運転条件のそれぞれについて得られる試験結果データについてそれぞれ統計解析処理を施す統計解析手段
(2)この統計解析手段によって上記運転条件毎に得られる統計解析結果のそれぞれに基づいて、その運転条件での内燃機関の燃焼特性の挙動を表し上記試験パラメータを変数として有する推定式を上記運転条件のそれぞれについて求める推定式生成手段
(3)この推定式生成手段によって得られた上記運転条件毎の推定式のそれぞれについて上記変数を変更することにより前記運転条件毎の推定値群を生成して、所定の運転条件の前記推定値群の要素推定値である各性能値それぞれについて、他の運転条件の推定値群の要素推定値である各性能値それぞれを加算する和計算を行ない、その計算結果に基づいて、複数の運転条件下で上記内燃機関の所期の特性を満足する最適な試験パラメータの組み合わせを選定する最適化計算を実行する最適化計算手段
これにより、本データ解析プログラムは、コンピュータにインストールされることで、そのコンピュータを、内燃機関の燃焼特性に関するデータを解析するデータ解析装置として機能させることができる。
【0030】
なお、本データ解析プログラムは、コンピュータを上記の最適化計算手段として機能させる際に、そのコンピュータをさらに次のような各手段として機能させるようにしてもよい。
(1)上記運転条件毎の推定式のそれぞれについて上記変数を変更して上記推定式による演算を実行することにより、上記運転条件のそれぞれについて推定式による推定値群を生成する推定値群生成手段
(2)この推定値群生成手段によって得られた各推定値群のそれぞれを一時的にバッファ手段に保持させる手段
(3)上記のバッファ手段に保持された複数の推定値群に基づいて複数の運転条件下で内燃機関の所期の燃焼特性を満足する最適な試験パラメータの組み合わせを選定する試験パラメータ選定手段
さらに、本データ解析プログラムは、記録媒体に記録されて流通することにより、あるいは、通信回線などの伝送媒体を介して流通することにより、多数のコンピュータにインストールすることができる。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
(A)システム構成の説明
図1は本発明の一実施形態に係る計算機の構成を示すブロック図で、この図1に示す計算機1は、例えば、汎用のPC(パーソナルコンピュータ)等であって、その要部に着目すると、計算機本体2,ディスプレイ(表示装置)3A,プリンタ(印刷装置)3B,キーボードやマウスなどの入力装置3Cなどをそなえて構成されており、計算機本体2には、さらに、CPU(Central Processing Unit)4,主記憶部(メモリ)5,二次記憶装置(ハードディスク)6,記録媒体ドライブ7Aおよびネットワークカード7Bなどがそなえられている。そして、これらの各コンポーネントは、PCI(Peripheral Component Interconnect)バスなどの内部バス8を介して相互にデータ通信可能に接続されている。
【0032】
ここで、上記の入力装置3Cは、計算機1で計算(演算)させたい事項に応じて必要なデータを入力するために使用されるものであり、ディスプレイ3Aは、計算機1による演算結果を表示するためのものであり、プリンタ3Bは、前記の演算結果を必要に応じて所望の形式で印刷するためのものである。つまり、これらのディスプレイ3Aやプリンタ3Bは、計算機1(CPU4)による演算結果(データ)を出力するデータ出力手段としての機能を果たすのである。
【0033】
また、CPU(演算手段)4は、計算機1としての動作(ディスプレイ3Aの表示制御やプリンタ3Bの印刷制御なども含む)を統括制御するためのもので、例えば、メモリ5やハードディスク6に内部バス8経由でアクセスして必要なソフトウェア(アプリケーション)プログラム(以下、単に「プログラム」ともいう)やアプリケーションデータなどを読み込んで動作することによって、計算機1として必要な機能が発揮されるようになっている。
【0034】
ハードディスク6は、上記のプログラムやアプリケーションデータなど(以下、説明の便宜上、単に「各種データ」と総称することがある)を予め、あるいは、インストールなどによって記憶しておくためのもので、ここに記憶されている各種データが、適宜、メモリ5に読み出されて、CPU4によるプログラムの実行が行なわれるようになっている。なお、メモリ5は、一般にハードディスク6に比してCPU4からのアクセス速度が高速なRAM等によって実現され、これにより、CPU4による上記プログラムの実行が高速に行なわれるようになっている。
【0035】
さらに、記録媒体ドライブ7Aは、FDやCD−ROM,DVD,光磁気ディスク(MO)などの所要の記録媒体9に記録されている各種データをCPU4の制御のもとに読み出してハードディスク6に記憶することによって、各種データのインストールを可能にする機能を提供するもので、例えば、「実験計画法」に基づくデータ解析プログラム10が記録された記録媒体9を本ドライブ7に装填して、その記録媒体9からデータ解析プログラム10をインストールする(ハードディスク6に記憶する)ことによって、計算機1(CPU4)を「実験計画法」に基づくデータ解析装置、特に、本実施形態では、エンジン(内燃機関)のデータ解析装置として機能させることが可能である。
【0036】
なお、上記のデータ解析プログラム10(以下、単に「解析プログラム10」ともいう)がハードディスク6あるいはメモリ5に記憶された時点で、その解析プログラム10を保持したハードディスク6あるいはメモリ5が上記解析プログラム10を記録した記録媒体となることはいうまでもない。
また、この解析プログラム10は、このような記録媒体9からのインストールだけでなく、例えば、計算機1上でプログラミングしたものを用いてもよいし、ネットワークカード7Bを通じて、インターネットやLAN(Local Area Network)などの所望の通信回線(伝送媒体;有線,無線を問わない)を介したオンラインでのインストールも可能である。
【0037】
つまり、解析プログラム10は、計算機1上でプログラミングしたものでもよいし、FDやCD−ROM,DVD,MOなどの記録媒体9や、インターネットなどの所望の通信回線を介して提供されてもよい。このようにして、解析プログラム10が、記録媒体9や通信回線を介して流通することにより、一度に多数の計算機にインストールすることができるので、以下に詳述する実験計画法に基づくデータ解析方法(装置)の普及に大きく寄与することとなる。
【0038】
さて次に、上記の解析プログラム10をインストールすることにより、本実施形態の計算機1が発揮する主要機能について説明する。即ち、例えば図2に示すように、上記の解析プログラム10をCPU4が読み取って動作することにより、計算機1(CPU4)は、少なくとも、分散分析手段41,推定式生成手段42及び最適化計算手段43としての機能をそれぞれ発揮できるようになっている。
【0039】
ここで、分散分析手段(統計解析手段)41は、試験対象物としてのエンジンの性能(特性)を試験する上でマッチングすべき複数の試験パラメータ(以下、単に「パラメータ」、又は「マッチングパラメータ」、若しくは「因子」ともいう)を適合する「直交表」(詳細については後述)にわりつけて、その「直交表」に従って試験することにより得られる、試験結果データについて分散分析(統計解析)処理を施し、最適化対象に対するパラメータの効果の有無,大きさなどを求めるもので、本実施形態では、これらの数値が、表形式のデータとして例えばハードディスク6に記憶されることにより、分散分析表(analysis of variance,略称ANOVA)と呼ばれる表形式のデータとして記憶されるようになっている。
【0040】
なお、上記の「試験」とは、実験、あるいは、CAE(Computer Aided Engineering)ソフトウェアを用いた解析(以下、CAE解析という)を意味し、「試験結果データ」とは、実験結果(実験データ)、あるいは、CAE解析結果(CAE解析データ)を意味する。また、この「試験結果データ」は、上述したキーボードやマウスなどの入力装置1Cを通じて手入力により入力されてもよいし、FDやCD−ROM,MOなどの記録媒体9に予め保存されたものを記録媒体ドライブ7Aを通じて入力されたり、LANなどの所要のネットワーク(ネットワークカード7B)を介して他の計算機などから入力されたりしてもよい。つまり、本実施形態においては、入力装置1Cや記録媒体ドライブ7A,ネットワークカード7Bが、試験データのデータ入力手段として機能しうるのである。
【0041】
ただし、本実施形態において、上記の「試験」は、いわゆる10モードや13モード試験などにおけるエンジンの運転モード(運転条件)毎に実施され、試験結果データ(以下、単に「試験データ」ともいう)も運転モード毎に得られる。従って、本分散分析手段43は、これらのモード毎の試験データのそれぞれについて、「分散分析」を実施することになり、その結果、「分散分析表」もモード毎に得られることになる。
【0042】
また、上記の「最適化対象」とは、最適化したい試験対象物の特性値を意味し、本実施形態では、最適化したいエンジンの複数モード毎の性能値(NOx量,燃料消費量など)を意味する。さらに、「分散分析」とは、詳細については後述するが、全試験データの変動(全変動)を求め、この全変動をパラメータ毎に分解して全変動中に対するパラメータの変動の大きさを求めることで、パラメータの性能値に対する効果(影響度)を評価する統計解析の一手法である。
【0043】
次に、上記の推定式生成手段42は、上記のモード毎に得られる分散分析表(分散分析手段41によるモード毎の分散分析結果)のそれぞれに基づいて、それぞれのモードでのエンジンの燃焼特性の挙動を表し上記パラメータを変数として有する推定式(詳細については後述)を複数モードのそれぞれについて求めるためのものである。
【0044】
そして、最適化計算手段43は、この推定式生成手段45によって得られたモード毎の推定式のそれぞれについてその変数(パラメータ値)を変更してその推定式による演算を実行することにより求められる、1モード当たり(1推定式当たり)複数の演算結果(推定値群)に基づいて、複数モードで前記エンジンの所期の特性を満足する最適なパラメータの組み合わせを求めるための最適化計算を実行するものである。
【0045】
このため、本最適化計算手段43は、図2に示すように、さらに、推定値群生成手段43a,記録制御手段43b及び試験パラメータ選定手段43cとしての機能を有している。
ここで、推定値群生成手段43aは、上述のごとく推定式生成手段45によって得られたモード毎の推定式のそれぞれについてその変数(パラメータ値)を変更してその推定式による演算を実行することにより、上記の複数モードのそれぞれについての推定式による演算結果(推定値群)を生成するためのものであり、記録制御手段43bは、その演算結果を、例えば、ハードディスク6に一時的に記憶させるためのものである。
【0046】
つまり、この場合、ハードディスク6は、上記の推定値群生成手段46によってモード毎に得られた各演算結果のそれぞれを一時的に保持するバッファ手段として機能するのである。なお、上記のモード毎の演算結果は、勿論、ハードディスク6(他の計算機のハードディスク6も含む)以外の記憶媒体(前記の記録媒体9やそれに類するものでもよい)に記憶させるようにしてもよい。
【0047】
そして、試験パラメータ選定手段43cは、上記バッファ手段としてのハードディスク6に保持された複数モード分の演算結果に基づいてその複数モードで前記エンジンの所期の特性を満足する最適なパラメータの組み合わせを選定するためのもので、具体的に、本実施形態では、ハードディスク6から上記のモード毎の演算結果の要素(推定値)を読み出して、その要素の組み合わせ計算を実行し、その計算結果に基づいて上記最適なパラメータの組み合わせを選定するようになっている。なお、その計算(選定)結果は、例えば、ディスプレイ3Aやプリンタ3Cなどへ出力される。
【0048】
以下、本実施形態の「実験計画法」に基づくデータ解析手順について、「実験計画法」で用いられる用語やテクニックの説明と併せて詳述する。
(B)実験計画法に基づくデータ解析手順の説明
「実験計画法」には、本手法特有のテクニックや用語が数多く存在する。前記の「直交表」もその一つである。ここでは、本実施形態で用いる「実験計画法」の基本的なテクニックや用語について説明する。なお、「実験計画法」の詳細については、例えば、田口氏の著書〔下記文献(4),(5)参照〕等に記載されている。
【0049】
(4)「実験計画法 上、下(第3版)」(田口玄一:丸善)
(5)「経営工学シリーズ18 実験計画法」(田口他:日本規格協会)
(B1)直交表
「実験計画法」の普及は「直交表」の活用に負うところが大きく、この手法のポイントは「直交表を如何に利用し如何にパラメータをわりつけるか」であるといえるほど「直交表」の役割は大きい。幾つかのパラメータを取り上げた実験において、各因子の効果の推測が可能であるためには、各因子は互いに直交している必要がある。
【0050】
例えば、取り上げたパラメータの全ての水準組み合わせを実験する「要因実験」では各因子は互いに直交するが、パラメータの数が多くなると実験(あるいは、CAE解析)回数が膨大になる。このため、一部の「交互作用」が無いと仮定して、部分的な実験のみで全パラメータを直交させることが望まれるわけだが、このためには難しい理論を知る必要がある。そこで、各因子を直交させることを可能にするための水準組み合わせを誰にでも簡単にしようできるようにしたものが「直交表」である。
【0051】
「直交表」の一例を次表1に示す。「直交表」は、試験を行なう際の各パラメータの組み合わせを示す表であり、いくつかの基本形が予め用意されている。水準数で大別すると2水準系と3水準系の直交表があり、表1は2水準系の直交表(L8と表記されるもの)の一つである。
【0052】
【表1】
【0053】
ここで、「水準数」とは、試験・実験で各パラメータを振る点数(パラメータ値の可変幅)のことで、例えば、或るパラメータについて2種類の設定値があれば2水準であり、3種類の設定値があれば3水準となる。また、表1中に示す「NO.」は実験番号で実験(試験)条件の種類に相当する。つまり、この表1に示す「直交表」では全8回(種類)の実験(あるいは、CAE解析)を行なうことを意味する。一方、列はこの「直交表」で解析できるパラメータの数を表し、この「直交表」では同時に最大7個のパラメータについて解析できることを意味する。
【0054】
したがって、この「直交表」の各列にパラメータを当てはめることにより、8回の実験で最大7つのパラメータに関する実験,解析が行なえることになる。また、表1中の“1”および“2”の数字がパラメータの水準番号を示しており、例えば1番目(「No.1」)の実験は全てのパラメータを第1番目の水準に固定して試験を行なうことを意味する。
【0055】
さらに、表1に示すように、「直交表」の各列は、どの2列をとっても水準番号の組み合わせが同回数だけ現われるようになっている(“1”と“2”の数字4個ずつから構成されている)。したがって、各パラメータは同回数ずつ試験されることになり、全てのパラメータについて平等な評価が行なえることになる。また、同じ数字の組み合わせの行、つまり、同じ試験条件が2つとないことも「直交表」の特徴の一つである。
【0056】
ここで、例えば、「交互作用」を含まない各2水準の因子A(A1,A2),B(B1,B2),C(C1,C2),D(D1,D2)を、それぞれ、表1に示す直交表(L8)の第1,2,3,5列にわりつけ、実験(あるいは、CAE解析)によって得られたデータをX1,X2,…,X8とすると、得られたデータX1,X2,…,X8は、それぞれ、以下のように表すことができる。
【0057】
X1=μ+α1+β1+γ1+δ1+e1
X2=μ+α1+β1+γ1+δ2+e2
X3=μ+α1+β2+γ2+δ1+e3
X4=μ+α1+β2+γ2+δ2+e4
X5=μ+α2+β1+γ2+δ2+e5
X6=μ+α2+β1+γ2+δ1+e6
X7=μ+α2+β2+γ1+δ2+e7
X8=μ+α2+β2+γ1+δ1+e8
ただし、上記の各式において、αiは因子Aiの主効果、βiは因子Biの主効果、γiは因子Ciの主効果、δiは因子Diの主効果、μはデータXiの平均値、eiは実験誤差をそれぞれ表す。
【0058】
そして、例えば、因子A1(水準1)でのデータX1,X2,X3,X4の合計〔Σ(A1でのデータ)と表記する〕と、因子A2(水準2)でのデータX5,X6,X7,X8の合計〔Σ(A2でのデータ)と表記する〕とを求めてみると、
となり、両式(1),(2)に因子B,C,Dの効果がそれぞれ平等に入っていることが解る。したがって、
Σ(A1でのデータ)−Σ(A2でのデータ)=4(α1−α2)+(誤差)…(3)
となり、これから、
(A1でのデータの平均値)− (A2でのデータの平均値)=(α1−α2)+(誤差)…(4)
が得られ、因子A1と因子A2の効果の比較ができることが解る。なお、他の因子B,C,Dについても同様のことが成り立つ。
【0059】
一般に、因子Aの各水準でのデータの平均値をとれば因子Bの影響が平等に入っており、また、その逆も成り立つとき、因子AとBは直交しているという。上の例では、因子A,B,C,Dが互いに直交している。「直交表」と呼ばれる所以はこの性質があるからであり、2水準と呼ばれるのは、列に現われる数字が“1”と“2”の2種類であるからである。なお、「直交表」には、表1に示したL8の他にも、周知のように、2水準ではL16,L32、3水準ではL9,L27などがある。
【0060】
(B2)直交表の選択
さて、「実験計画法」では、例えば図3に示すように、試験目的を決めて(ステップS1)、最適化対象〔例えば、エンジンの場合ならNOx,PM(粒子状物質:ススと未燃HC(炭化水素)が主成分),燃料消費量等のエンジンの燃焼特性に関連する特性(性能)値〕及びパラメータを選択するとともに考慮する「交互作用」を決定し(ステップS2)、各パラメータの必要な水準数を決定(ステップS3)したら、次に、その実験に見合った「直交表」を選択(ステップS4)する必要がある。
【0061】
「直交表」の選択は、因子(主効果)の数,考慮する「交互作用」の数(有無),必要な(上記のステップS3で決定した)水準数を基に行なう。ここで、「自由度」が問題となる。「自由度」とは、簡単に言えば独立な成分の個数であり、例えば、a水準の主効果ではa−1,「交互作用」では(a−1)2となる。つまり、2水準の場合は主効果・交互作用ともに自由度“1”、3水準では主効果“2”,交互作用“4”となる。
【0062】
「直交表」の列の自由度は、2水準で“1”、3水準で“2”であるため、「主効果」では2水準,3水準共に1列、「交互作用」では2水準で1列,3水準で2列必要になる。従って、「主効果」および「交互作用」が必要とする列の合計数よりも「直交表」の列数が大きければ、その「直交表」を選択できる。
以下に、直交表選択の例を示す。
【0063】
(例1)
(1)各パラメータを2水準とした試験を行ないたい。
(2)パラメータを4種類A,B,C,Dとする。
(3)AとBおよびBとCに交互作用があると考える。
この場合、(1)の条件から2水準系の「直交表」を用いること、(2)の条件から4列、(3)の条件から2列の計6列以上の「直交表」であればよいことが解るので、表1に示した「直交表」を選択できる。
【0064】
(例2)
(1)対象データがパラメータに対して1次的な変化をすると考えられる。または、因子の水準が"2"である。
(2)因子は4種類である。
(3)全ての因子間に交互作用はないと考えられる。
【0065】
この場合も、(1)の条件から2水準の「直交表」を用いること、(2),(3)の条件から4列以上の「直交表」であれば良いことが解るので、表1に示した「直交表」を選択すればよい。
(例3)
(1)対象データがパラメータに対して2次的な変化をする。または、因子の水準が"3"である。
【0066】
(2)因子は5種類ある。
(3)1組の因子間にのみ交互作用がある。
この場合は、(1)の条件から3水準の直交表を用いること、(2),(3)の条件から7列必要であることが解るので、直交表(L27)を選択すればよい。
以上のようにして、実験条件に合致する「直交表」を選択した後、列のわりつけを行なう。
【0067】
(B3)「わりつけ」と「線点図」
「わりつけ」とは「直交表」の各列に各パラメータおよび「交互作用」を当てはめていくことである。このときパラメータを当てはめなかった列は誤差列(e)となる。実際には、パラメータ(主効果)をわりつけると自動的に「交互作用」の出る列も決まってしまう。そのため、「交互作用」の出る列に他のパラメータをわりつけないよう注意する必要がある。
【0068】
これを避けるために、「実験計画法」では、「線点図」と呼ばれるものが利用される。「線点図」は、主効果の列と交互作用の列との対応を模式的に示したものであり、「直交表」毎に数パターンずつ用意されている。例えば、表1に示した「直交表(L8)」であれば、図4(A)及び図4(B)に示すような2種の線点図が用意されている。これらの図4(A)及び図4(B)中にそれぞれ示す「点」と「線」は「直交表」の各列を表し、これらの「点」(黒丸で図示),「線」に付されている数値は「直交表」の列の番号を表している。
【0069】
ここで、「点」にはパラメータの主効果をわりつけることができ、「線」には両端にわりつけられたパラメータの「交互作用」が現われる。つまり、図4(A)の場合は、「直交表」の第1列および第2列にパラメータAおよびBをわりつけると、その「交互作用A×B」が「直交表」の第3列に現われ、さらに、第4列に別のパラメータCをわりつけるとそれらの「交互作用A×C」が第5列に現われ、第6列に「交互作用B×C」が現われることを意味する。
【0070】
一方、図4(B)の場合は、「直交表」の第1列,第2列,第4列および第7列にそれぞれパラメータA,B,C,Dをわりつけると、「交互作用A×B」が第3列に現われ、「交互作用(A×C)」が第5列に現われ、「交互作用A×D」が第6列に現われることを意味する。なお、前者の図4(A)の場合で、試験者が「交互作用A×B」を考慮しないと判断した場合は、第3列に別のパラメータをわりつけることも可能であり、わりつけなければその列は誤差列となる。
【0071】
例えば、試験者が、パラメータCとDとの間に「交互作用C×D」が無いと判断すれば、図5に示すように、「直交表」の第6列にパラメータAをわりつけることが可能である。なお、この図4では、第7列にパラメータがわりつけられていないために、その列は誤差列(e)となっている。このように、線点図は、一定の制約はあるが、試験者の要求に応じて適宜に変形が可能である。
【0072】
以上のようにして、試験者は、試験目的に合致する「直交表」と「線点図」とを選択してパラメータの「直交表」への「わりつけ」を行ない(図3のステップS5)、その「直交表」に従って、決められたパラメータの組み合わせ(試験条件)で、決められた回数の直交実験(あるいは、CAE解析)を行なうことになる(図3のステップS6)。
【0073】
そして、本実施形態では、前述したように13モード等のモードのそれぞれについて、上記の「直交表」の選択,「わりつけ」,「実験(あるいは、CAE解析)」を行なうことで、各モードのそれぞれについて試験結果データが得られる。その後、試験者は、このようにしてモード毎に得られる試験結果データを、入力装置1Cや記録媒体9,ネットワーク(ネットワークカード7B)を介して計算機1に接続された他の計算機などを用いて計算機1に入力する(図3のステップS7)。
【0074】
つまり、このステップS7は、エンジンの複数モードのそれぞれについてエンジンの燃焼特性に関連する複数の試験パラメータに対する実験計画法に基づく試験を行なうことによって上記モードのそれぞれについて得られる試験結果データを、データ入力手段を通じて演算手段としてのCPU4に入力するデータ入力過程に相当する。
【0075】
そして、計算機1では、前述した解析プログラム10に従ってCPU4が動作することによって、上述のごとく入力された試験結果データに対して、分散分析手段41による「分散分析」(図3のステップS8),推定式生成手段42による「推定式の生成(作成)」(図3のステップS9)および最適化計算手段43による「最適化計算」(図3のステップS10)を実施する。以下、これらの各処理内容について詳述する。
【0076】
(B4)分散分析
上記の直交実験(あるいは、CAE解析)で得られた実験データ(あるいは、CAE解析データ;以下、「試験データ」あるいは単に「データ」と総称する)には必ず誤差が含まれているので、試験データの解析はこの誤差を考慮して結論を出す必要がある。そこで、「実験計画法」では、「分散分析」を用いて誤差を含むデータの解析(統計解析)を行なう。
【0077】
「分散分析」では、試験データの変動をパラメータの効果による部分と誤差の部分とに分解し、誤差の大きさに対する各パラメータの大きさを比較することで、パラメータの効果の有無および大きさを評価することが行なわれる。この「分散分析」により得られる、最適化対象に対するパラメータの効果の有無,大きさを数値として表に表したものが分散分析表(ANOVA)である。分散分析表の一例を次表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
以下、この表2に示す「変動」,「自由度」,「分散」,「分散比(F0値)」,「純変動」および「寄与率」について説明する。
まず、「変動」とは、各パラメータを変化させたときの最適化対象が変化する大きさ(ばらつき)を示すもので、試験データの全平均からの差の二乗和(残差二乗和)によって求められる。つまり、この「変動」が大きいほど、そのパラメータが最適化対象に対して大きな効果をもつことを意味する。
【0080】
「変動」には、各パラメータの変動,「交互作用」の変動,誤差の大きさを表す誤差変動,全データの大きさを表す全変動があり、全変動は、これらの各パラメータの変動,交互作用の変動,誤差変動の和と一致する。これを変動の分解という。なお、上記の表2において、「変動」欄の最下段が全変動を示している。「変動」の計算方法を以下に示す。
(1)2水準の場合
2水準の2つの因子A,Bを考え、各因子A,Bの水準をa1,a2,b1,b2とすると、全変動STは、
全変動ST=(個々のデータの2乗の和)−CT …(5)
により求められる。ここで、
CT=(全データの和)2/データ総数 …(6)
である。また、因子Aの変動SAは、
SB={Σ(a1でのデータ)−Σ(a2でのデータ)}2/データ総数…(7)
により求めることができ、因子Bの変動SBは、
SB={Σ(b1でのデータ)−Σ(b2でのデータ)}2/データ総数…(8)
により求めることができる。また、「交互作用」の変動SA×Bは、
SA×B={((A×B)1でのデータの和)−((A×B)2でのデータの和)}2/データ総数 …(9)
により求めることができ、誤差変動Seは、
Se=ST−SA−SB−SA×B …(10)
により求めることができる。
(2)3水準の場合
3水準の2つの因子A,Bを考え、各因子A,Bの水準をa1,a2,a3,b1,b2,b3とすると、因子Aの変動SAは
SA={(a1でのデータの和)2+(a2でのデータの和)2+(a3でのデータの和)2}/データ総数−CT …(11)
により求めることができ、因子Bの変動SBは、
SB={(B1でのデータの和)2+(B2でのデータの和)2+(B3でのデータの和)2}/データ総数-CT …(12)
により求めることができる。また、全変動STは、
ST=(個々のデータの2乗の和)−CT …(13)
により求めることができる。ただし、
CT=(全データの和)2/データ総数 …(14)
である。さらに、交互作用SA×Bは、
により求めることができ、誤差変動Seは、
Se=ST−SA−SB−SA×B …(16)
により求めることができる。
【0081】
次に、前記の表2において、「分散」とは、各パラメータの1自由度あたりの変動を表し、「変動」を「自由度」で割ることにより得られる(平均平方とも呼ばれる)。ここで、「自由度」とは、JISでは、“残差全体またはある要因効果の推定値のうち、独立なものの個数”と定義している。この中の“独立なものの数”は言い換えると“未知数の数”である。つまり、「実験計画法」では、「自由度」を、或るパラメータ効果の推定値のうちの未知数の個数と定義している。
【0082】
例えば、通常n個のデータを取り扱えば、「自由度」はnであるが、このデータの間にk個の関係式が存在するとき、このデータの変動の自由度は(n−k)となる。ここで、「分散分析」での各パラメータの変動は各データの平均からの偏差で処理するため、
Σ(Ai−全データの平均)=0 …(17)
が成立する。よって、実際にはa個のうちa−1個が解れば、あとの一つは決まってしまう。すなわち、aから1を引いたa−1がこの場合の「自由度」である。
このことは、次のことからも直感的に理解できる。即ち、例えば、空間を自由に運動する一質点は3座標によってその位置が決まる、つまり、自由度は“3”であるが、その運動が平面あるいは曲面上ということに束縛されれば自由度は“2”となる。
【0083】
したがって、一般にa水準のパラメータAおよびb水準のパラメータBの自由度はそれぞれa−1,b−1、交互作用A×Bの自由度は(a−1)(b−1)と覚えればよい。
次に、前記の表2において、「F0値」とは、各パラメータの「分散」と「誤差分散」との比であり(このため、「分散比」とも呼ばれる)、誤差の大きさに対する各パラメータの効果の大きさを表す尺度である。この値からパラメータあるいは「交互作用」が有意(意味がある,効果がある)か、有意ではない(意味がない,効果がない)かを判断できる。
【0084】
これをF検定(又は仮説検定)という。即ち、「分散比」は、因子の水準を変えることによってデータが変化したときにこの変化が本当に因子を変えたことから来ているのか、それとも測定誤差等から偶然に変化したものなのかを定量的に評価するのに用いられるものである。
例えば、この「分散比」の値が大きい場合、そのパラメータの効果は誤差と見なし得ない(このパラメータは無視できない)と判断でき、逆に、小さい場合は誤差と同等とみなされる。この際の判断は「F表」と呼ばれる表を用いて行なう。パラメータが有意でない場合、そのパラメータの分散比F0の値は、分散比の分子の項(パラメータの分散の自由度)と分母の項(誤差分散の自由度)とに対応する「F表」の値より大きくなることはほとんどあり得ない。「F表」にはこれらの限界値が示されており、その“あり得ない”程度として確率5%の値と1%の値がよく使われる。この確率を危険率という。
【0085】
以下に、「分散」および「分散比」の求め方を示す。
パラメータAの分散をVA、自由度をφAとし、変動をSAとすると、分散VAは、
VA=SA/φA …(18)
により求められる。また、誤差分散をVe、自由度をφeとし、変動をSeとすると、誤差分散Veは、
Ve=Se/φe …(19)
により求められる。したがって、パラメータAの分散比F0は、
F0=VA/Ve …(20)
により求めることができる。
【0086】
ここで、分子の自由度φA,分母の自由度φeより、「F表」から5%および1%のF値を求める。分散比F0が1%のF値よりも大きければ間違える確率1%以下で“パラメータAは有意ではない”という仮説を棄却できる。また、分散比F0が1%のF値より小さいが5%のF値よりは大きい場合、間違える確率5%以下で“パラメータAは有意ではない”仮説を棄却できる。
【0087】
なお、一般に、パラメータを「直交表」に多くわりつけると誤差項の自由度が小さくなり、F検定の感度が悪くなる。そこで、「実験計画法」では、上述したF検定により“有意でない”と判断されたパラメータによるばらつき(変動)は誤差とみなして誤差項に含めてしまい(これを「プーリング」という)、改めて分散分析を行なう。
【0088】
例えば、パラメータmをプーリングした後の誤差分散は、
V′e=(SA×C+Se)/(φA×C+φe) …(21)
となり、プーリング後の「自由度」は、
φ′e=φm+φe …(22)
となる。誤差の「自由度」が増えれば誤差分散が減少し、有意でなかったパラメータが有意になる場合もある。以下に、分散分析結果(分散分析表)として次表3に示すものが得られた場合のプーリング例について示す。
【0089】
【表3】
【0090】
この表3から解るように、分子の自由度が“2”、分母の自由度が“8”のときのF値は4.46、分子の自由度が“4”,分母の自由度が“8”のときのF値は3.84である。したがって、表3に示す分散分析結果では因子A,B,C,交互作用A×B,B×Cが有意となり、交互作用A×Cが有意ではなくなる。このため、有意ではない交互作用A×Cを誤差にプールすると、
となる。したがって、プーリング後の分散分析結果(分散分析表)は次表4に示すようになる。
【0091】
【表4】
【0092】
なお、各パラメータの「変動」には、自由度数分の誤差分散が含まれているので、その分を引いた値が最適化対象に対するそのパラメータの真の効果の大きさということができる。この値を「純変動」(表2〜表4参照)という。つまり、純変動S′Aは、
S′A=SA−φAVe …(25)
により求めることができる。また、前記の表2〜表4において、「寄与率」とは、全変動に対する各パラメータの純変動の百分率(つまり、寄与率ρA=S′A/ST)である。したがって、この「寄与率」の大きさで各パラメータの効果の大きさを判断することができることになる。即ち、「寄与率」によって、全体のバラツキ(全変動)のうち、そのパラメータは何%を担っているかを知ることができる。例えば、表3の場合では、パラメータAおよびBの効果が大きく、また、A×Cの「交互作用」はほとんど無い(考えられない)ことが解る。
【0093】
以上のような各種演算式による分散分析処理が、上記のステップS8(図3参照)においてCPU4(分散分析手段41)によって実行されることで、その最終的な処理結果が分散分析表(表5参照)として例えばハードディスク6にCPU4による記憶制御の下に保持されるのである。
ただし、このとき、分散分析手段41は、モード毎の試験結果データ〔性能値(NOx,PM,燃料消費量など)〕のそれぞれについて、上記の分散分析処理を施すので、分散分析表も性能値毎及びモード毎に得られることになる。
【0094】
(B5)推定式(直交多項式)の作成
次に、前記のステップS9(図3参照)での「推定式」の作成について詳述する。
データを変化させるパラメータが連続量の場合、データの変化をそのパラメータの多項式で表現することができる。「実験計画法」では、チェビシェフ(P.L. Chebyshev)の直交関数を利用した直交多項式を用いることにより、パラメータの間隔が等間隔にとられていれば簡単にデータの推定式を求めることができる。
【0095】
一般に、データの推定式を作る場合は「最小二乗法」、「一次回帰式」等が多く用いられてきた。また、「直交多項式」も、同様に、多変数,多次項の推定式を求めることができ、さらに、「交互作用」もとり入れることができる。
例えば、「交互作用」のない場合、データの全平均をm,パラメータ変数をA,水準の平均をAm,水準数をa,水準間隔をhA,繰り返し回数をrとしたときの推定式yは、
y=m+b1(A-Am)+b2[(A-Am)2-(a2-1)hA 2/12]
+b3[(A-Am)3-(3a2-27)(A-Am)hA 2/20]+………(26)
となる。ここで、この式(26)において、各項の係数biは、
bi=(W1A1+W2A2+…+WaAa) / (rλShA i) …(27)
である。この式(27)における係数bi(Wi,λS)は、次表5に示す係数表から求めることができる。なお、上式(26)は、パラメータ数が“1”の場合であるが、複数パラメータがある場合は、他のパラメータの項も同様に作り、足し合わせればよい。
【0096】
【表5】
【0097】
一方、A,Bという2つのパラメータと、これらのパラメータA,B間の「交互作用」A×Bを考慮する場合の推定式yは、
y=m+b10(A-Am)+b01(B-Bm)+b20[(A-Am)2-(a2-1)hA 2/12]
+b11(A-Am)(B-Bm)+b02[(B-Bm)2-(a2-1)hB 2/12]+………(28)
となる。この式(28)において、(A−Am)(B−Bm)の項が交互作用を表す項である。ただし、各項の係数bijは、
bij=ΣWk i [ΣWn j(AkBn)] / [r(λS)AhA i(λS)BhB j
] …(29)
であり、この式(29)における係数bij(Wi,λS)についても、上記の表5から簡単に求められる。このように、「直交多項式」には、パラメータの水準が等間隔で、且つ、各水準のデータ数が一定の場合、係数bi(bij)(以下、単に「係数b」と表記することがある)が上記の係数表(表5参照)から簡単に求めることができるという利点がある。なお、上記の「係数表」は、例えばハードディスク6に保持しておけばよい。
【0098】
さて、ここで、上記のパラメータA,Bが3水準で、主効果については2次の項までしか考えていない場合、「交互作用」についてAB以外の高次の項を考えるのはおかしいことになる。このため、本実施形態においてもデータの推定式は、「交互作用」の初項のみを考慮に入れて作成する。例えば、パラメータの水準数が“2”ならば1次まで、水準数が“3”ならば2次まで求めればよいことになる。
【0099】
したがって、パラメータAおよびBの水準数をそれぞれ2,3とした場合の基本式は、次のように表せることになる。
y=c0+b10(A−Am)+b01(B−Bm)+b02(B−Bm)2+b11(A−Am)(B−Bm) …(30)
ただし、c0は定数項である。
【0100】
このように、「直交多項式」では、各係数bが独立であるため他の項に関わらず一定の値となり、任意の次数の式が作成可能である。換言すれば、必要に応じて2次式を1次式までにとどめたり、逆に、1次式を2次式まで展開したりといった操作が容易である。
この「直交多項式」は、誤差を含む試験データから求められるものであり、誤差を考慮した関数である。このような「誤差関数」には、信頼限界と呼ばれる特性値があり、「直交多項式」で求めた値はこの値を中心とした信頼限界の範囲内で保証される。
【0101】
なお、直交実験での水準範囲外での推定式による計算値は、水準内でのものよりも相関が悪いことが解っている〔例えば、文献(6)「疑問に答える実験計画法問答集」(富士ゼロックス(株)QC研究会:日本規格協会)参照〕ため、推定式による予測は内挿の範囲で行なうのが望ましい。
前記のステップS9では、以上のような理論に基づいて、CPU4(推定式生成手段42)が、例えばハードディスク6に保持された前記の「係数表」(表5参照)にアクセスして推定式の係数bを読み出しながら、上述した必要な演算を実行することで、「推定式」が作成されるのである。
【0102】
そして、本実施形態では、前述したように分散分析手段41によって分散分析表がモード毎に生成されて(ハードディスク6に記憶されて)いるので、推定式生成手段42は、モード毎の分散分析表のそれぞれに基づいて、上述したような推定式作成処理を実行することにより、モード毎に推定式を求める。
(B6)最適化計算手順
次に、図3のステップS10での「最適化計算」について詳述する。
【0103】
「最適化計算」では、最適化計算手段43(推定値群生成手段43a,記録制御手段43b,試験パラメータ選定手段43c)として機能するCPU4が、上述のごとくモード毎に求められた推定式による各モードの計算結果について組み合わせ計算を実行することによって、13モードNOx値、13モード燃料消費量の算出および最適化を行なう。
【0104】
即ち、まず、推定値群生成手段43aが、モード毎の推定式のそれぞれについて各パラメータ変数を変化させてその推定式による演算を実行し、モード毎に計算データ群(推定値群)を生成する(推定値群生成過程)。例えば、13モードの場合、1つのモードのデータ群をブロックと呼ぶこととすると、13ブロック分の計算データが得られることになる(図6参照)。そして、これら13ブロック分のデータ群はそれぞれ記録制御手段43bによって一時的にハードディスク6などに記録される(推定値群バッファ過程)。
【0105】
次いで、試験パラメータ選定手段43cが、上述のごとく一旦ハードディスク6に記憶された上記13ブロックのデータ群から1データ(要素)ずつ抜き出して(読み出して)、性能値(NOx,PM,Gfなど)毎に13個のデータの和を計算し、13モードNOx,PM及び13モード燃料消費量(燃費)を算出する。つまり、モード(ブロック)数を“k”、1モード(1ブロック)当たりの計算データ数を“n”とすると、CPU4(最適化計算手段)47は、性能値毎にそれぞれnk回の組み合わせ計算を行なうことになる。例えば、図6に示す計算データ数“n”を仮に“100”とすると、13モードの場合、CPU4は、性能値毎に10013回の計算を行なうことになる。
【0106】
そして、CPU4(試験パラメータ選定手段43c)は、上記計算結果から13モードNOxレベルで13モード燃料消費率(燃費)が最小となる結果(パラメータの組み合わせ)を求める。つまり、13モードでのエンジンの所期の燃焼特性(性能値)を総合的に満足する最適なパラメータ条件(組み合わせ)を選定するのである(試験パラメータ選定過程)。なお、これにより、得られたパラメータ条件(解析結果)は、ディスプレイ3Aやプリンタ3B(あるいは、所望の記録媒体9などでもよい)に出力される(図3のステップS11;データ出力過程)。
【0107】
その後、試験者は、このようにして求められた最適パラメータ条件にて検証実験を実施する(図3のステップS12)。
以上のようにして、エンジンの噴射系のようにマッチングすべきパラメータの数が非常に多く、しかも、複数モードでの総合的なエンジンの性能(燃焼特性)評価が必要な場合でも、その性能評価試験を効率良く短期間に実施することができる。
【0108】
なお、上述のごとく1モード当たりの計算データ数nが“100”であった場合、10013回の組み合わせ計算を一般の多機能PC(パーソナルコンピュータ)等の計算機1で行なうのには限界がある。そこで、計算機1として多機能PCを用いる場合には、13モード中で特にNOx,燃費が低減できる見込みのあるモードのみに限定して計算を行なうのがよい。このときの判断基準(モード選択判断基準)としては、例えば、「分散分析」で得られたモード毎の「全変動」を用いればよい。
【0109】
即ち、「全変動」(変動率)の大きいモードはパラメータを変化させたときに最適化対象の性能値の変化が大きいモードであることを意味するので、最適化計算手段43は、「全変動」が他のモードに比して大きいモードについての計算データ(ブロック)のみを組み合わせ計算に用いるデータとして限定した上で、その一部のブロックについてのみ上記の組み合わせ計算を行なう。
【0110】
なお、このとき、その他のモードについての計算データ(ブロック)は特定の条件に固定する。また、このときの組み合わせ計算に用いるべきブロックの限定は、試験者が入力装置1Cを通じて指示してもよいし、ソフトウェアにより自動判別できるようにしてもよい。
このように、組み合わせ計算に用いるべきブロックを「全変動」の大きい一部のモードのみに限定することで、最適化計算の精度低下は最小限に抑制しながら、CPU4による演算量を大幅に削減できるので、それほど高い演算能力を有しない多機能PC等でも充分に上記最適化計算を実行することが可能となる。その結果、本データ解析手法の汎用性を大きく向上できる。
【0111】
なお、この他にも、上記の最適化計算時においては、各ブロックの中で組み合わせ計算に用いるべきデータ〔推定値(要素)〕数を「全変動」やモードに応じてその一部に限定して(つまり、組み合わせ計算に用いるべきデータ数に「全変動」やモードによって重みを付けて)上記組み合わせ計算を行なうことも可能である。
【0112】
また、他の計測データを用いて組み合わせ計算に用いるべきデータ数を削減することもできる。例えば、いくら排出ガス,燃費性能が良くても、排ガス温度が高すぎる条件はパラメータとしてふさわしくない。そこで、排ガス温度データも計測して、推定式を作成しておいて、排ガス温度が所定温度以下の条件に絞ることも非常に有効である。いずれの場合も、或る特定ブロックのデータ全てを用いない場合に比して、より最適化計算の精度低下を抑制しながら、CPU4による演算量を削減することができる。
【0113】
【実施例】
次に、本発明を「エンジン性能のマッチング」に適用した場合の一実施例についてさらに具体的に説明する。ただし、以下に説明する実施例は、あくまでも一例であって、本発明は、その趣旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0114】
1.供試機関および試験条件
供試機関としては、ディーゼルエンジンを使用し、国内13モード排出ガスおよび13モード燃料消費量(燃費)の最適化を行なう。
ここで、上記の供試機関は、コモンレールシステムを具備しており、噴射系の制御パラメータ数は従来のエンジンに比べ多く、コモンレール圧や噴射タイミング等のパラメータは任意の機関回転数,負荷毎に独立した値を設定できるため、パラメータマッチングの自由度も大きい。しかし、これを逆に捉えると、国内13モード排出ガス試験のような場合では、モード毎に最適なパラメータを設定し、性能の改善を図ることが必要であると言える。さらに、このシステムにマッチしたノズル仕様の選定をも含めると性能の最適化は非常に複雑になり、従来の試験方法では自ずと限界が見えてくる。
【0115】
2.「実験計画法」による試験計画
そこで、今回の試験では、次表6に示すように、3種の性能値〔最適化対象;NOx値,PM値及び燃料消費量Gf〕に対し、マッチングパラメータとして、燃料噴射ノズルの油圧流量(Fr)および噴孔角(θ),VG開度(VG),コモンレール圧(PC),噴射タイミング(T)の5種を取り上げて、上述した「実験計画法」に基づくデータ解析を実施することにより、13モードNOx値,PM値及び燃量消費量(燃費)の改善(最適化)を試みた。
【0116】
【表6】
【0117】
なお、上記性能値のマッチングパラメータとしては、上記表6に挙げた5種のパラメータ以外に3種の交互作用〔ノズル油圧流量×ノズル噴孔角(Fr×θ),ノズル油圧流量×噴射タイミング(Fr×T),ノズル噴孔角×噴射タイミング(θ×T)〕を取り上げた。これらの「交互作用」をマッチングパラメータとしてとり入れることにより、エンジン燃料の噴射ノズルの設計値である油圧流量と噴孔角との間の影響の有無を知ることができる。なお、最適化対象のNOx値,PM値および燃料消費量(Gf)にはそれぞれ13モード重み係数を乗じた値を用いる。
【0118】
また、今回は、上記の各パラメータ3水準の試験を行なうので、次表7に示す直交表(L27)を用いて各パラメータをわりつけた。この直交表(L27)に対する線点図を図7に示す。なお、この図7中に示す“VG”や“PC”などの記号は上記の表6中で用いた記号に対応している。また、直交表(L27)の第12列及び第13列に相当する「点」にはパラメータをわりつけていないため、これらの各列は誤差列(e)となっている。
【0119】
【表7】
【0120】
3.マッチングパラメータの設定
次に、今回の試験で取り上げたパラメータの設定値を次表8及び表9に示す。
【0121】
【表8】
【0122】
【表9】
【0123】
なお、推定式の精度が補償されるのは試験で設定した水準の範囲内であることから、コモンレール圧(PC)および噴射タイミング(T)は可能な範囲でできるだけ大きくとった。
4.直交実験結果
上記の直交表(L27)及びパラメータ設定に従って、前記の実施形態で述べた要領で27回の直交実験を行ない、その実験結果(実験データ)について、計算機1(分散分析手段41)による分散分析処理を行なった。その結果(分散分析結果)の一例(第11モード点)を次表10〜12に示す。
【0124】
【表10】
【0125】
【表11】
【0126】
【表12】
【0127】
これらの表10〜12に示す分析結果より、NOx値に関しては噴射タイミング(T),VG開度(VG)およびコモンレール圧(PC)、PM値にはコモンレール圧(PC)、燃料消費量(Gf)にはノズル油圧流量(Fr),噴射タイミング(T)およびコモンレール圧(PC)のパラメータがそれぞれ効くことが解る。なお、上記の表12〜14において、純変動及び寄与率の欄が“−”となっているパラメータは、プーリングにより誤差に組み込まれたことを表す。
【0128】
上記の分散分析結果では、どの性能値に対しても、連続量であるコモンレール圧(PC)と噴射タイミング(T)の効果が顕著に現われ、各交互作用の寄与率は極めて低い結果となった。寄与率については、今回、コモンレール圧(PM)や噴射タイミング(T)の水準間隔を大きくとったため、その効果が大きく評価された結果となっている。これは、「寄与率」は試験データの全変動に対する比率を求めており、通常、水準間隔を大きくとると、そのパラメータの変動が大きくなり、相対的に寄与率が大きくなるためである。したがって、各パラメータの変動値そのものも考慮する必要がある。
【0129】
例えば、表10に示すNOx分散分析結果における油圧流量の変動は、219.799であるが、この値から油圧流量がF1とF3とではどの程度NOx値に差があるかを見積もると、219.7991/2≒14.83(g/h)となる。この差はマッチングを行なう上では見逃すことのできない効果といえる。また、交互作用についても同様である。分散分析結果を解析する上での一つの注意点といえる。
【0130】
また、このモードでの各最適化対象(性能値)の推定式yNOx,yPM,yGfは推定式生成手段42によって、それぞれ次のように求められる。
5.推定式の検証
ここで、上記の推定式による計算値と実験値との比較・検討を行なった。図8(A)〜図8(C)に、第11モード点での各性能値の推定式と実験値との相関を示す。このときの各パラメータは直交実験で振った(変更した)水準範囲内の条件である。NOx値,Gf値に関しては水準範囲内では良い相関を示すことが解る。一方、PM値はNOx値,Gf値に比べてやや相関が悪い。これはPM値が実験に使用したスモークメータ値とHC値とから推定(計算)されたものであり、データ自体のバラツキが大きいためである。
【0131】
しかし、相関は悪いが全ての実験値は推定式の95%信頼限界内にあり、その意味では、上記の推定式はPMの実験値を十分に予測し得ているといえる。また、前述したように、推定式による予測は内挿の範囲で行なうのが望ましい。これらのことから最適化計算時の各パラメータ範囲は直交実験で設定した水準範囲内とし、最適化は推定値と実験値との相関が良いNOx値およびGf値についてのみ行なった。
【0132】
6.最適ノズルの選定
今回取り上げたノズル油圧流量(Fr)とノズル噴孔角(θ)は不連続量のパラメータであるため、推定式よりも前述した「効果」を用いて最適条件を求める方が妥当である。そこで、これらの両パラメータについて、性能値毎に13モードトータルでの「効果」を求め、最適条件ノズルの検討を行なう。ここで、「効果」とは、各パラメータが変化したときのデータと全平均との差をいう。
【0133】
例えば、次表13に示すような簡単な実験を考える。即ち、パラメータA,Bを用意し、パラメータA,Bの水準(条件)を“1〜3”として、計9回の直交実験を行ない、その実験結果についての分散分析結果(データ)の全平均が6.491であった場合を考える。
【0134】
【表13】
【0135】
この場合、パラメータAについて各水準(条件)の「効果」を求める式は、
A(1)=(パラメータAが条件1の時のデータの平均)−全平均 …(34)
A(2)=(パラメータAが条件2の時のデータの平均)−全平均 …(35)
A(3)=(パラメータAが条件3の時のデータの平均)−全平均 …(36)
と定義される。
【0136】
ここで、パラメータAが条件1の時のデータの和は実験NO.1-3の和(=20)、平均は6.667であり、パラメータAが条件2の時のデータの和は実験NO.4-6の和(=19.307)、平均は6.436であり、パラメータAが条件3の時のデータの和は実験NO.7-9の和(=19.116)、平均は6.732である。従って、各水準の効果A(1),A(2),A(3)は、上記の各式(34)〜(36)から、
A(1)=6.667-6.491=0.175
A(2)=6.436-6.491=-0.056
A(3)=6.372-6.491=-0.119
となる。
【0137】
これをグラフにすると、図9に示すようなる。この図9から、パラメータAの水準を“1”とすれば、得られるデータは平均よりも約0.175ポイント高いと期待でき、水準を“3”とすれば、平均よりも約0.12ポイント低い期待値であることが解る。従って、パラメータAの最適値は、目的とする性能が大きければ大きいほど良いのであれば水準1、逆に小さければ小さいほど良いのであれば水準3となる。
【0138】
以上を踏まえた上で、例えば、前記のノズル油圧流量(Fr)およびノズル噴孔角(θ)について「効果」を求めると、次表14,図10(A)〜図10(C)及び図11(A)〜図11(C)に示すようになる。
【0139】
【表14】
【0140】
これらから、ノズル油圧流量(Fr)の増大に伴ってNOx値についての「効果」は大きくなり、油圧流量F2〜F3の間では油圧流量の違いによってPM値,Gf値の「効果」にそれほど明確な差は見られないことが解る。したがって、ノズル油圧流量(Fr)は油圧流量F3が最適と考えられる。一方、噴孔角(θ)は、NOx値とPM値又はGf値との間で傾向が異なり、NOx最適条件の噴孔角θ3ではPM値,Gf値の「効果」は高く、噴孔角θ1ではその逆となる。技術者(試験者)の考え方(どの性能に重きをおくか等)によるが、ここでは、ノズル噴孔角(θ)は第2水準のθ2が適当であると判断できる。
【0141】
以上の結果から、最適ノズルは、油圧流量F3,噴孔角θ2(以下、「F3−θ2」と表記する)となる。今回、この「効果」による検討結果と検証結果との比較のため、上記最適条件ノズルを含めた4種のノズルチップ(次表17)について最適化計算を行ない、実機による検証を行なった。
【0142】
【表15】
【0143】
7.推定式による最適化計算
今回の実験で取り上げたパラメータの中にはノズルの仕様である油圧流量(Fr)と噴孔角(θ)が含まれており、これらの組み合わせにより、全部で9種類のノズルを試験した。即ち、ノズルの仕様毎の計算データを前記の式(31)〜(33)により作成し、最適化計算を行なった。このとき、図12(A),図12(B)に示すNOx値,燃料消費量(Gf値)のモード別全変動を比較し、相対的に、NOx値,Gf値(燃費)の変動が大きい、“6,9,10,11,12”の5モードのみに絞って、最適化計算を行ない、計算時間を短縮した。なお、その他のモードは計算データをもとに各パラメータを設定した。
【0144】
8.最適化計算結果および実機による検証
最適化計算により得られた条件で実機による確認試験を行なった。油圧流量F3,噴孔角θ2のノズルで13モードNOx値を所定の値に設定する場合の最適化計算での検証実験結果を次表16に示す。
【0145】
【表16】
【0146】
計算で求めた各性能の推定値と実測値とを比較すると、13モード燃費は非常によい一致を示したが、13モードNOx値は約9.10%の差が出た。同ノズルにて各NOxレベルについて同様の検討を行なった〔図13(A),図13(B)参照〕が、いずれのNOxレベルにおいても同様の傾向が見られた。また、PM値の精度が悪いのは、前述したように、スモークメータ値とHC(炭化水素)値とから推定(計算)されたもので、データ自体のバラツキが大きいためである。
【0147】
9.最適計算結果の考察
次に、NOxの推定値と実測値とが合わなかったことについて考察を行なう。
今回求めた各モードの推定式そのものの精度は非常に良く、また、推定値と実測値に9.1%の誤差が出たが、これは13モード推定値の95%信頼限界±0.887の範囲内にある。したがって、推定式は実測値を十分に推測し得ている。
【0148】
しかし、今回の13モードの推定値は、各モードの計算値の和であるため、この計算値と実測値との差は小さくても、その和は大きくなってしまったと考えられる。したがって、推定式での予測値が信頼限界内にある中で更なる精度の良い推定式が必要となる。
一般に、実験データに対して有意なパラメータや交互作用を見落とすと分散分析結果の誤差が大きく出たりして、推定式の精度が悪くなる。そこで、他の交互作用の検討を行なった。即ち、図14に示す線点図(ここで、今までの図4(A)に示す線点図による「わりつけ」を「わりつけA」,この図14に示す線点図による「わりつけ」を「わりつけB」とする)を用い、新たに、噴射タイミング×コモンレール圧(T×PC)と噴射タイミング×VG開度(T×VG)の各交互作用を考慮して分散分析を行なった。「わりつけB」での11モード点の新たな分析結果(NOx)を次表18に、「わりつけA」での分析結果を次表17にそれぞれ示す。
【0149】
【表17】
【0150】
【表18】
【0151】
これらの表17,表18から、主効果に比べれば小さいものの交互作用の中では噴射タイミング×VG開口(T×VG)の効果が大きいことが解る。また、噴射タイミング×コモンレール圧(T×PC)の効果は小さいが他のモードも総合してみると比較的大きい効果であった。そこで、「わりつけB」での推定式を求め、再度、最適化計算を行なってみる。
【0152】
その結果を次表19および図15(A),図15(B)に示す。
【0153】
【表19】
【0154】
このように、「わりつけB」での計算では、NOx値の精度が良く、また、このときの13モード燃費も満足のいくものである。以上のことから、実験データに効果のあるパラメータを見逃さないことが重要であることが解る。このため、どの交互作用を考慮し、どの線点図による「わりつけ」を使えば推定式の精度がより良いものとなるのかという判断が必要になる。
【0155】
10.ノズル毎の検証結果
「わりつけB」での最適化計算および検証実験を行なった4種類(「F3−θ3」,「F1−θ3」,「F3−θ2」,「F3−θ1」)のノズルについての検証結果を図16(A),図16(B)に示す。
まず、噴孔角同一で油圧流量の違う「F1−θ3」と「F3−θ3」との比較では、各NOxレベルでPM値はほぼ同等ではあるが、13モード燃費は油圧流量がF1→F3となるにつれて低下傾向を示し、「効果」による検討結果とおおよそ一致する。一方、噴孔角θ1→θ3となるにつれて、PM値は悪化傾向となり、これも「効果」による結果と相関がある。
【0156】
しかし、燃費に関しては、噴孔角θ2が最も良い燃費を示し、「効果」の結果と一致しない。したがって、今回のように複数データのバランシング(NOxと燃費)を考慮するような場合、「効果」による検討を行なう際にも、両者データの「効果」を総合して考慮する必要がある。
また、前述したように最適ノズルと判断した「F3−θ2」は、検証実験の結果、他の供試ノズルに比べてPM値,燃費共に良好なレベルにあり、NOx値,燃費バランシングを考慮した「効果」の検討によって最適条件の推測が可能であることを示している。
【0157】
11.結論
以上のように、実験計画法を利用した複数パラメータマッチング試験の統計解析および推定式を利用した最適化計算手法の構築を試み、本手法をエンジン実機のマッチング試験に適用した結果、以下のことが得られた。
(1)本手法により性能最適化を図ることができ、その有効性を実証した。
【0158】
(2)また、この計算手法により、任意の13モードNOxでの13モード燃費が最小となる最適点のパラメータ条件(組み合わせ)を直接求めることが可能となり、その結果、従来の試験方法に比べ、試験時間を半分以下に短縮でき、エンジンの性能試験の大幅な効率化を図ることができるようになり、エンジンの設計開発期間の大幅な短縮化も大いに期待できる。
【0159】
(3)特に、上述した例では、噴射ノズルの油圧流量および噴孔角をパラメータに含めることにより、13モードNOxでの13モード燃費を最小にする最適な噴射ノズルの仕様選定も可能になるので、噴射ノズルの設計指針等にも役立つ。
(4)「推定式」と「効果」をうまく使い分けることにより、連続パラメータおよび固定値(不連続)パラメータの双方の最適化が可能である。
【0160】
(5)NOxおよび燃料消費量のモード毎の全変動を比較することにより、各性能値に対し重点的に低減すべきモードを見極めることができる。
(6)各モードでNOx,燃料消費量に対する各パラメータの影響度を寄与率という形で把握でき、低減すべき対象に対しどのパラメータを変化させれば有効かが明確にできる。
【0161】
12.その他
なお、上記のパラメータには、エンジンの実車両への搭載環境(例えば、実車両において搭載されるエンジンに付設される排気通路の長さやNOxを低減するための触媒の排気通路上での配置位置など)に関するパラメータ(以下、実車両環境パラメータという)を含めることもできる。
【0162】
つまり、この場合、実車両環境パラメータを上記のパラメータの一種として含めて前述した直交実験を行なうことにより得られる試験データを前記の分散分析対象のデータとして計算機1に入力することになる。そして、計算機1において、その入力データについて、前述したごとく分散分析,推定式の生成,推定値群の生成および最適化計算の一連の処理が実行されることにより、エンジンの実車両への搭載環境をも考慮した上で、13モードNOxおよび13モード燃費がともに所期の値を満足する最適なパラメータ条件(組み合わせ)を求めることができる。
【0163】
従って、例えば、車種毎に排気通路の長さや排気通路上の触媒の配置位置等のエンジンの搭載環境が異なることによって車種毎に排気特性が変化するような場合でも、その車種毎の排気特性を推定してその性能評価が行なえることになり、全ての車種毎にエンジンを実際に搭載して試験を行なわなくても、13モードNOxおよび13モード燃費がともに所期の値を満足する車種毎の最適なエンジン搭載環境を決定することができる。その結果、車両全体としての設計開発期間をも大幅に短縮できることが期待できる。
【0164】
なお、上記の実車両環境パラメータは、必ずしも、上述した排気通路の長さや排気通路上の触媒の配置位置等の排気通路に関するものである必要はなく、例えば、搭載環境によってNOx値やPM値,燃費などに変化が生じる因子(例えば、DPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)の仕様等)であれば、同様に適用できる。
【0165】
また、上述した例では、試験対象物として内燃機関、特に、ディーゼルエンジンを適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、ガソリンエンジンや、エンジン以外の構造物にも適用でき、特に、エンジンの場合のモードと同じように、複数の試験条件群における最適なパラメータ条件を総合的に求める必要がある物に適用すると非常に有効である。
【0166】
さらに、上述した例では、分散分析,推定式作成,最適化計算の各処理をソフトウェア化(プログラミング)しているが、勿論、実際の「実験」以外の各処理全てをソフトウェア化してもよい。即ち、図3において、ステップS6(ただし、CAE解析の場合を除く),S12を除く各処理を全てデータ解析プログラム10としてソフトウェア化してもよい。
【0167】
そして、本発明は、上述した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、上記以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0168】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、次のような利点が得られる。
(1)実験計画法に基づく試験により試験対象物(内燃機関)の運転条件(試験条件群;以下、単に「条件」ということがある)毎に得られた試験データについて統計解析処理を施してそれぞれの条件での推定式を求めたのち、得られた条件毎の推定式により条件毎の推定値群を生成し、上記条件毎のそれらの推定値群の要素推定値の前記条件間での組み合わせによる和計算を実行し、その計算結果に基づいて、複数条件下で試験対象物(内燃機関)の所期の(燃焼)特性を満足する最適な試験パラメータの組み合わせを選定する最適化計算を行なうので、試験対象物(内燃機関)の複数条件下での総合的な特性(性能)評価を効率良く短時間で行なえる。
【0169】
(2)最適化計算において、組み合わせ計算に用いるべき推定値群又は要素推定値数をその一部に限定することにより、演算手段による演算量(組み合わせ計算に必要な計算量)を削減することが可能となるので、それほど高い演算能力のない計算機でも本発明を実施することができ、本発明の汎用性を大きく向上することができる。
【0170】
(3)特に、上記組み合わせ計算に用いるべき推定値群又は要素推定値数を、上記の各推定値群の個々の変動率や上記の運転条件(試験条件群)に応じてその一部に限定すれば、条件あるいは得られた推定値群の変動によってはあまり有意でない推定値を組み合わせ計算から除外することが可能になるので、上記(3)の場合のように或る特定ブロックのデータ全てを用いない場合に比して、より最適化計算の精度低下を抑制しながら、必要な演算量を削減することができる。
【0171】
(4)また、上記の試験パラメータとして、上記内燃機関の実車両への搭載環境に関するパラメータ(実車両環境パラメータ)を含めれば、上記の最適化計算において、内燃機関の実車両への搭載環境を考慮した試験パラメータの組み合わせ選定を行なうことが可能になるので、内燃機関が搭載される実車両の車種等毎にその搭載環境が変わるような場合でも、それを考慮した性能評価を行なうことができ、全ての車種等毎に実際に内燃機関を搭載して試験を行なう必要が無い。従って、内燃機関の設計開発期間を大幅な短縮化が期待できる。
【0172】
(5)ここで、上記の実車両環境パラメータを、上記実車両において上記内燃機関に付設される排気通路に関するパラメータとすることにより、実車両に内燃機関を実際に搭載してその排気特性を試験しなくても、その実車両の排気通路の環境(例えば、長さや触媒の位置など)をも考慮した上で、複数の運転条件での実車両の排気特性を推定して最適な試験パラメータの組み合わせを求めることができるので、内燃機関の設計開発期間のさらなる短縮化が期待できる。
【0173】
(6)なお、本発明(実験計画法に基づくデータ解析方法および解析装置)は、例えば、専用のデータ解析プログラム(請求項11)をコンピュータにインストールすることで実現でき、また、そのプログラムは、記録媒体(請求項12)に記録されて流通することにより、あるいは、通信回線などの伝送媒体を介して流通することにより、一度に多数のコンピュータにインストールすることができるので、本発明の普及に大きく寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る計算機の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示すCPUが本実施形態において果たす主要機能を説明するためのブロック図である。
【図3】本実施形態に係る実験計画法に基づくデータ解析方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】(A),(B)はいずれも「直交表」に対する「線点図」の一例を示す図である。
【図5】図4(A)に示す「線点図」の変形を説明するための図である。
【図6】本実施形態の最適化計算過程で得られる計算データの一例を説明するための模式図である。
【図7】本発明の一実施例に係る「線点図」の一例を示す図である。
【図8】(A)〜(C)はいずれも本発明の一実施例に係る推定式による計算値と実験値との相関を示す図である。
【図9】本発明の一実施例に係るパラメータの「効果」を示す図である。
【図10】(A)〜(C)はいずれも本発明の一実施例に係るパラメータとしての「ノズル油圧流量」の「効果」を示す図である。
【図11】(A)〜(C)はいずれも本発明の一実施例に係るパラメータとしての「ノズル噴孔角」の「効果」を示す図である。
【図12】(A),(B)はいずれも本発明の一実施例に係るモード毎の変動割合を示す図である。
【図13】(A),(B)はいずれも本発明の一実施例に係る推定値と検証実験結果とを比較して説明するための図である。
【図14】本発明の一実施例に係る他の「線点図」による「わりつけ」例を示す図である。
【図15】(A),(B)はいずれも図14に示す「わりつけ」を基にした推定値と検証実験結果とを比較して説明するための図である。
【図16】(A),(B)はいずれも本発明の一実施例に係る噴射ノズル毎の検証実験結果の一例を示す図である。
【符号の説明】
1 計算機
2 計算機本体
3A ディスプレイ(表示装置)
3B プリンタ(印刷装置)
3C 入力装置(キーボード,マウス等)
4 CPU
5 主記憶部(メモリ)
6 二次記憶装置(ハードディスク)
7A 記録媒体ドライブ
7B ネットワークカード
8 内部バス
9 記録媒体
10 データ解析プログラム
41 分散分析手段
42 推定式生成手段
43 最適化計算手段
43a 推定値群生成手段
43b 記録制御手段
43c 試験パラメータ選定手段
Claims (16)
- データ入力手段と演算手段とデータ出力手段とをそなえることにより、内燃機関の燃焼特性に関するデータを解析する方法において、
該内燃機関の複数の運転条件のそれぞれについて該燃焼特性に関連する複数の試験パラメータに対する実験計画法に基づく試験を行なうことによって該運転条件毎に得られる試験結果データを、該データ入力手段を通じて該演算手段に入力するデータ入力過程と、
該データ入力過程で入力された該運転条件毎の試験結果データのそれぞれについて該演算手段にて統計解析処理を施す統計解析処理過程と、
該統計解析処理によって該運転条件毎に得られる統計解析結果のそれぞれに基づいて、該運転条件での該内燃機関の燃焼特性の挙動を表し該試験パラメータを変数として有する推定式を該運転条件のそれぞれについて該演算手段にて求める推定式生成過程と、
該推定式生成過程で得られた該運転条件毎の推定式のそれぞれについて該変数を変更することにより該運転条件毎の推定値群を生成して、所定の運転条件の該推定値群の要素推定値である各性能値それぞれについて、他の運転条件の推定値群の要素推定値である各性能値それぞれを加算する和計算を行ない、その計算結果に基づいて、複数の運転条件下で該内燃機関の所期の燃焼特性を満足する最適な試験パラメータの組み合わせを選定する最適化計算を該演算手段にて実行する最適化計算過程と、
該最適化計算の計算結果を、該データ出力手段を通じて出力するデータ出力過程とを有することを特徴とする、実験計画法に基づくデータ解析方法。 - 該最適化計算過程が、
該運転条件毎の推定式のそれぞれについて該変数を変更して該推定式による演算を該演算手段にて実行することにより、該内燃機関の運転条件のそれぞれについて該推定式による推定値群を生成する推定値群生成過程と、
該運転条件のそれぞれについて得られた各推定値群をバッファ手段に一時的に保持させる推定値群バッファ過程と、
該演算手段にて、該バッファ手段に保持された複数の推定値群に基づいて複数の運転条件下で該内燃機関の所期の燃焼特性を満足する最適な試験パラメータの組み合わせを選定する試験パラメータ選定過程とを含むことを特徴とする、請求項1記載の実験計画法に基づくデータ解析方法。 - 該試験パラメータ選定過程において、
該演算手段が、該和計算に用いるべき推定値群又は要素推定値を限定して該和計算を実行することを特徴とする、請求項2記載の実験計画法に基づくデータ解析方法。 - 該試験パラメータ選定過程において、
該演算手段が、上記の各推定値群の個々の変動率に応じて該和計算に用いるべき推定値群を該複数の推定値群の一部に限定して該和計算を実行することを特徴とする、請求項3記載の実験計画法に基づくデータ解析方法。 - 該試験パラメータ選定過程において、
該演算手段が、上記の各推定値群の個々の変動率に応じて該和計算に用いるべき推定値群の要素数をその一部に限定して該和計算を実行することを特徴とする、請求項3記載の実験計画法に基づくデータ解析方法。 - 該試験パラメータ選定過程において、
該演算手段が、該運転条件に応じて該和計算に用いるべき推定値群の要素数をその一部に限定して該和計算を実行することを特徴とする、請求項3記載の実験計画法に基づくデータ解析方法。 - 該データ入力過程において、
該データ入力手段を通じて、該内燃機関の実車両への搭載環境に関するパラメータ(以下、実車両環境パラメータという)を該試験パラメータの一種として含めることにより得られる試験結果データを入力することにより、
該最適化計算過程において、該演算手段が、該内燃機関の該実車両への搭載環境を考慮して該最適化計算を実行することを特徴とする、請求項1記載の実験計画法に基づくデータ解析方法。 - 該実車両環境パラメータが、該実車両において該内燃機関に付設される排気通路に関するパラメータであることを特徴とする、請求項7記載の実験計画法に基づくデータ解析方法。
- 試験対象物の複数の試験条件群のそれぞれについて該試験対象物の特性に関連する複数の試験パラメータに対する実験計画法に基づく試験を行なうことによって該試験条件群毎に得られる試験結果データについてそれぞれ統計解析処理を施す統計解析手段と、
該統計解析手段によって該試験条件群のそれぞれについて得られる統計解析結果に基づいて、該試験条件群での該試験対象物の特性の挙動を表し該試験パラメータを変数として有する推定式を該試験条件群のそれぞれについて求める推定式生成手段と、
該推定式生成手段によって得られた該試験条件群毎の推定式のそれぞれについて該変数を変更することにより該試験条件毎の推定値群を生成して、所定の試験条件の該推定値群の要素推定値である各性能値それぞれについて、他の試験条件の推定値群の要素推定値である各性能値それぞれを加算する和計算を行ない、その計算結果に基づいて、複数の試験条件群下で該試験対象物の所期の特性を満足する最適な試験パラメータの組み合わせを選定する最適化計算を実行する最適化計算手段とをそなえたことを特徴とする、実験計画法に基づくデータ解析装置。 - 該最適化計算手段が、
該試験条件群毎の推定式のそれぞれについて該変数を変更して該推定式による演算を実行することにより、該試験条件群のそれぞれについて該推定式による推定値群を生成する推定値群生成手段と、
該推定値群生成手段によって得られた各推定値群のそれぞれを一時的に保持するバッファ手段と、
該バッファ手段に保持された複数の推定値群に基づいて複数の試験条件群下で該試験対象物の所期の燃焼特性を満足する最適な試験パラメータの組み合わせを選定する試験パラメータ選定手段とをそなえて構成されたことを特徴とする、請求項9記載の実験計画法に基づくデータ解析装置。 - 該試験パラメータが、内燃機関の燃焼特性に関連するパラメータであることを特徴とする、請求項9又は10に記載の実験計画法に基づくデータ解析装置。
- 該試験パラメータに、該内燃機関の実車両への搭載環境に関するパラメータ(以下、実車両環境パラメータという)が含まれることを特徴とする、請求項11記載の実験計画法に基づくデータ解析方法。
- 該実車両環境パラメータが、該実車両において該内燃機関に付設される排気通路に関するパラメータであることを特徴とする、請求項12記載の実験計画法に基づくデータ解析方法。
- コンピュータに内燃機関の燃焼特性に関するデータを解析させるためのデータ解析プログラムであって、
該コンピュータを、
内燃機関の複数の運転条件のそれぞれについて該燃焼特性に関連する複数の試験パラメータに対する実験計画法に基づく試験を行なうことによって該運転条件のそれぞれについて得られる試験結果データについてそれぞれ統計解析処理を施す統計解析手段と、
該統計解析手段によって該運転条件毎に得られる統計解析結果のそれぞれに基づいて、該運転条件での該内燃機関の燃焼特性の挙動を表し該試験パラメータを変数として有する推定式を該運転条件のそれぞれについて求める推定式生成手段と、
該推定式生成手段によって得られた該運転条件毎の推定式のそれぞれについて該変数を変更することにより該運転条件毎の推定値群を生成して、所定の運転条件の該推定値群の要素推定値である各性能値それぞれについて、他の運転条件の推定値群の要素推定値である各性能値それぞれを加算する和計算を行ない、その計算結果に基づいて、複数の運転条件下で該内燃機関の所期の特性を満足する最適な試験パラメータの組み合わせを選定する最適化計算を実行する最適化計算手段として機能させることを特徴とする、実験計画法に基づくデータ解析プログラム。 - 該データ解析プログラムが、
該コンピュータを該最適化計算手段として機能させる際に、該コンピュータを、さらに、
該試験条件群毎の推定式のそれぞれについて該変数を変更して該推定式による演算を実行することにより、該試験条件群のそれぞれについて該推定式による推定値群を生成する推定値群生成手段と、
該推定値群生成手段によって得られた各推定値群のそれぞれを一時的にバッファ手段に保持させる手段と、
該バッファ手段に保持された複数の推定値群に基づいて複数の試験条件群下で該内燃機関の所期の燃焼特性を満足する最適な試験パラメータの組み合わせを求める試験パラメータ選定手段として機能させることを特徴とする、請求項14記載の実験計画法に基づくデータ解析プログラム。 - 請求項14又は請求項15に記載のデータ解析プログラムが記録されたことを特徴とする、実験計画法に基づくデータ解析プログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
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