JP3958634B2 - 芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法およびその製造装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は芳香族ポリカーボネートの製造方法およびその製造装置に関し、さらに詳しくは耐熱性の優れた高分子量ポリカーボネート樹脂の効率的な製造方法およびその製造装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
高分子量ポリカーボネート樹脂を重合反応する際に、乳化状態で重合する方法は良く知られている。
【0003】
例えば特公昭37−2198号公報に開示されている。この方法ではオリゴマー溶液を乳化させた後、攪拌機付反応槽で120〜300rpmの攪拌下に乳化状態で重合反応を行っており、非乳化状態での重合反応に比べ、迅速に高分子量ポリカーボネートを形成する利点を有する反面、極めて安定な乳化状態を形成するため、反応終了後のポリマー溶液から不純物を分離し精製するために多くの労力を要し、また得られる製品はポリマー末端OH基が多く残り、耐乾熱特性が劣る欠点を有する。重合時間は2〜3Hrで長時間を要する欠点もある。
【0004】
オリゴマー溶液を乳化させた後、無攪拌で静置することによって乳化状態を良好に維持し、重合反応を進行させポリカーボネート樹脂を得る方法が、特開平4−277521号公報(特許2535457号)に開示されている。この方法は二価フェノールのアルカリ水溶液とホスゲンとを有機溶媒の存在下で反応させて得られたオリゴマー溶液に分子量調節剤を加えた後、該反応混合物を攪拌し乳化状態とした後、静置することによって乳化状態を良好に維持し重合する方法で、赤外分光光度計によるポリマー末端のOH基と主鎖のCO基の吸光度比で算出したOH/COの値が0.12〜0.20のPCが得られ、反応終了時の水相中の未反応ビスフェノールA濃度は0.6〜1.2g/Lであったことが記されている。
【0005】
しかしながらかかる重合方法は、重合に要する反応時間が2時間と長く、ポリマー末端OH基や水相中未反応ビスフェノールA濃度は、まだ充分とは言えずポリマーの耐乾熱性など改善の余地があり、またバッチ式反応であり生産性に欠けるなど多くの問題点を有している。
【0006】
予め作成したカーボネートオリゴマーの塩化メチレン溶液と二価フェノールのアルカリ溶液とを、多段オリフィス等混合手段を備えた混相流形成域で重合反応を進め、反応液の粘度が上がった時点でオリフィスを有しない層流形成域を層流で流し反応を終了する連続製造方法および装置が特開昭50−22089号公報(特公昭52−36554号公報)に開示されている。具体的には、実施例のすべてが触媒であるトリエチルアミンを重合反応の前にオリゴマー混合液に添加しており、その後に混相流として重合反応を行なっている。分子量分布が狭くなる記述はあるが、末端クロロホーメート基や末端OH基など耐熱性に関係する特性値の具体的、定量的記述が見られない。触媒の添加時期が早いためアルカリによるクロロホーメート基の分解反応が多く発生し、ポリマー末端OH基が多くなり耐乾熱性を悪化させる。またアミンとクロロホーメートとの副反応生成物による熱安定性悪化も問題である。さらに冷却装置の設置は設備・運転の費用負担を増している。
【0007】
また特開平04−255718号公報(特公平7−49475号公報)では、末端停止剤、塩基、水及び有機溶媒、触媒、カーボネートオリゴマーの混合液を、静的ミキサーで微細な分散液を形成し、滞留ゾーンで反応し、この工程を繰り返すポリカーボネートの製造方法が開示されている。この方法の特徴は静的ミキサーと滞留ゾーンの組合わせで、積極的に混ぜ合わせて次に滞留させ、これを繰り返して反応を進めること、および重合反応より前に触媒を添加する点である。
【0008】
この方法は重合反応時間が3.5分と短いこと、ビスフェノールAおよびフェノールの転化率が良いことなど、効率的であることが記述されているが、末端クロロホーメート基や末端OH基など耐熱性に関係する特性値の具体的、定量的記述が見られない。触媒の添加時期が早いためアルカリによるクロロホーメート基の分解反応が多く発生し、ポリマー末端OH基が多くなり耐乾熱性に悪影響を与える。またアミンとクロロホーメートの副反応によるウレタン結合の形成、およびポリマー中の遊離ビスフェノールAの多い点などはポリカーボネートの高温成形時の着色など熱安定性に問題を残す。
【0009】
また特開平08−325371号公報では、カーボネートオリゴマー反応液を油中水型乳化状態とし、オリフィス孔通過と配管内滞留を繰り返した後、触媒を添加し、さらにオリフィス孔通過と滞留を繰り返して重合反応を行う方法が開示されており、オリフィス孔通過により反応液に強力な攪拌混合を与え反応させる所に特徴がある。しかしこの方法は強力な攪拌混合によって、むしろ分散液滴の衝突による合一作用が働き、液滴のサイズアップや乳化状態の破壊すなわち水相・有機相間界面積の大幅減少につながり、界面重合反応は進み難くなり、またオリフィスによる間仕切り効果は反応液の部分滞留とショートパスにつながり、品質が不安定になり易い。また多くのオリフィスを設置するため、装置が複雑で液・ガス漏れの防止対策など設備コストが高くつく。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はポリマー中の残存クロロホーメート基量や末端OH基量が少なく、耐熱性が優れたポリカーボネート樹脂を簡単な設備でかつ効率良く製造する方法を提供せんとするものである。
【0011】
本発明者らは、カーボネートオリゴマー反応液を乳化させた後に槽内で無攪拌で静置することによって乳化を維持し反応を進める方法とは異なり、或いはまた静的ミキサーと滞留ゾーンを組合わせた工程中に、カーボネートオリゴマー反応液を連続的に積極的な混合と滞留を繰り返して反応を進める方法とも異なり、本発明ではカーボネートオリゴマー反応液を連続的に乳化させた後に、攪拌機能のない管型反応器中を層流で流し乳化状態を維持しながら縮重合反応を行い、かつ管型反応器の途中で触媒を添加する方法によって、極めて短時間に縮重合反応を完了させ、かつポリマー中の残存クロロホーメート基量や末端OH基量が少なく、耐熱性に優れたポリカーボネート樹脂が得られ、その収率も向上するという驚くべき事実を究明し、本発明に到達した。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は成形時に着色の少ない熱安定性および耐乾熱性の優れた高分子量ポリカーボネート樹脂を簡単な設備で効率よく製造する方法および製造装置を提供するものである。
【0013】
すなわち本発明の要旨は、二価フェノールのアルカリ水溶液とホスゲンとを有機溶媒の存在下で反応させてカーボネートオリゴマー反応液を形成後、界面縮重合反応を行いポリカーボネート樹脂を連続的に製造する方法において、該オリゴマー反応液を油中水型の乳化状態とした後に、管型反応器を用いて該管型反応器中を流れる該オリゴマー反応液のRe数が2000以下の層流で乳化状態を維持しながら界面縮重合反応を行い、かつ該管型反応器の導入口から該管型反応器の全容量の3分の2の容量の位置までの間に縮重合触媒を添加することを特徴とするポリカーボネート樹脂の連続製造方法にある。
【0014】
本発明によれば、ポリマー中の残存クロロホーメート基量や末端OH基量が少なく、熱安定性、耐乾熱性の優れたポリカーボネート樹脂を簡単な設備で効率よく製造することができる。
【0015】
以下、本発明を更に詳しく説明する。
【0016】
本発明において使用する二価フェノールは、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下ビスフェノールAと称す)をはじめとするジオキシジフェニルアルカン類、ジオキシジフェニルシクロアルカン類、ジオキシジフェニルアリールアルカン類、ジオキシジフェニルエーテル類、ジオキシジフェニル類、ジオキシジフェニルスルホン類、ジオキシジフェニルスルフィド類、ジオキシジフェニルスルホキシド類、ジオキシジフェニルカルボニル類、ジオキシジフェニルカルボキシル類、ジオキシジフェニルフルオレン類、およびこれらのハロゲンまたはアルキル置換誘導体、またはこれらの混合物である。また、これらの二価フェノールの一部をフロログルシン、トリスフェノール、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、ジフェノール酸等の多官能性化合物に置き換えて用いることもできる。
【0017】
これらの二価フェノールはアルカリ水溶液に溶解させて使用される。この場合アルカリとしては苛性ソーダ、苛性カリなどのアルカリ金属水酸化物が好ましく用いられ、また水溶液中のアルカリ濃度は5〜10重量%が好ましい。溶解させる二価フェノールとアルカリのモル比は1:1.8〜1:3.5が好ましく、さらに1:2.0〜1:3.2がより好ましい。二価フェノールのアルカリ水溶液濃度は溶解度から150〜180g/Lが好ましい。またアルカリはその一部をホスゲン化反応の後に添加使用することも可能である。二価フェノールの酸化着色を防止するために窒素雰囲気下で行うか、酸化防止剤として重亜硫酸ソーダ、ハイドロサルファイトなどの還元剤を添加しても良い。
【0018】
さらにホスゲン化反応および重合反応を容易にするために有機溶剤を用いる。使用される有機溶剤は、水に対して実質的に不溶でかつ反応に対して不活性であり、しかもホスゲンおよびポリカーボネートを溶解する有機化合物である。例えば、ジクロルメタン(塩化メチレンとも言う)、テトラクロルエタン、1,2−ジクロルエチレン、クロロホルム、トリクロルエタン、ジクロルエタン等の塩素化脂肪族炭化水素;クロルベンゼン、ジクロルベンゼン、クロルトルエン等の塩素化芳香族炭化水素;アセトフェノン、シクロヘキサン、アニソール等が挙げられ、これらの溶剤の単独または混合物を使用することができる。これらのうちジクロルメタン(塩化メチレン)が最も好ましく、また一般的である。溶剤の使用量は特に制限されないが、生成するポリカーボネートの濃度が8〜30重量%になる程度である。
【0019】
生成するポリカーボネートの分子量調節を目的として、一般に分子量調節剤が使用される。この分子量調節剤としては、例えばフェノール、p−クレゾール、p−ターシャリーブチルフェノール、クミルフェノール等の一価フェノール;メタノール、エタノール、シクロヘキサノール等の一価アルコールが挙げられ、反応系への添加時期は、ホスゲン化反応の終了以後が好ましく、またその添加量は、目的とする分子量によって変化するが、通常は二価フェノール1モルに対し0.001〜0.2モル程度である。
【0020】
本発明によって得られるポリカーボネートの粘度平均分子量は10000〜100000であり、好ましくは12000〜50000であり、より好ましくは13000〜40000である。また本発明でカーボネートオリゴマーと称するものは相対粘度ηrelでおよそ1.15以下のものである。(粘度平均分子量および相対粘度については後述の実施例において説明する)。
【0021】
ホスゲンを導入してのホスゲン化反応によりカーボネートオリゴマーを得る方法は、従来から良く知られた条件下で行うことが出来る。例えば、二価フェノールのアルカリ水溶液と非混和性有機溶剤の攪拌下ホスゲンを導入し反応させる方法(特公昭37−2198号公報)、二価フェノールのアルカリ水溶液と有機溶剤を管型反応器に導入し混相流を形成せしめ、これにホスゲンを導入し反応させる方法(特公昭46−21460号公報)、二価フェノールが特定の濃度となる様に、二価フェノールのアルカリ水溶液、有機溶剤、ホスゲンを冷却された循環反応混合物に供給反応させる方法(特公平6−55810号公報)、等の方法によりカーボネートオリゴマーを得ることが可能である。
【0022】
導入するホスゲンは液状またはガス状で、また単独あるいは有機溶剤の溶液として使用される。連続ホスゲン化反応における好ましい使用量は、反応条件、とくにホスゲン化反応温度の影響および二価フェノールのアルカリ水溶液の濃度の影響を受け、該温度が25℃を超える時や該濃度が55g/L未満の時は、二価フェノール1モルに対するホスゲンのモル数は1.2モルを超え、しばしば1.3モルを超えることがあるが、通常条件下では1.0〜1.2モルで充分であり、さらには1.05〜1.15モルがより好ましい。
【0023】
また分子量調節剤の反応系への添加時期は、該分子量調節剤とホスゲン、或いはビスフェノールAのクロロホーメート化合物との反応による低分子量化合物の生成を抑えるために、ホスゲン化反応終了後から縮重合反応初期の間に添加することが好ましい。
【0024】
本発明方法においては、ホスゲン化反応によってカーボネートオリゴマーを形成し、次いで該オリゴマー反応液に必要により分子量調節剤および/またはアルカリ水溶液を加えた後に、該反応液を連続的に乳化設備によって油中水型の乳化でかつ分散水相の液滴サイズの小さい高度の乳化状態とするが、この際、良好な乳化状態を得るための重要な条件として、反応液中の有機相と水相との比率があり、この比率は通常体積比で有機相1.0に対して水相0.1〜3.0が好適であり、さらに0.5〜2.5がより好適である。
【0025】
反応液を油中水型の乳化状態にさせる方法としては、攪拌下にアルカリ水溶液を添加する方法、攪拌速度を変化させる方法、攪拌下の有機相中に反応液を注入する方法など種々がある。単純な攪拌機(プロペラ、タービン、錨型翼、カイ型翼など)を用いて、その回転速度を高くして乳化させることも可能であるが乳化の程度に限界がある。さらに高度の乳化状態を得るための装置としては、ホモジナイザー、ミキサー、ホモミキサー、コロイドミル、フロージェットミキサーなどの高速攪拌を行う動的乳化機、およびスタティックミキサー、オリフィスミキサー、超音波乳化装置などの静的乳化機が適しており、これらを用いると単純な攪拌機で得られる液滴径の乳化状態に比べて微細な液滴径の高度の乳化状態が得られる。本発明の方法においては後者の高度乳化装置を単独或いは複数用いて、また必要に応じて前段で単純な攪拌機も併用して、反応液を連続的にこれらの乳化設備に流すことで、高度の乳化状態を得ることが出来る。
【0026】
乳化設備によって得られる油中水型乳化液の分散水相の平均液滴径は5μm〜50μmが好ましく、さらに10μm〜40μmがより好ましい。即ち、分散水相の平均液滴径と、水相・有機相間の全界面積はほぼ反比例の関係が成立つので、平均液滴径の微小化は、界面反応であるポリカーボネートの縮重合反応の速度に直接的に影響してくる。
【0027】
界面縮重合反応速度を向上させるためには、該液滴径を50μm以下とすることが好ましく、さらに40μm以下とするとより好ましい。しかしながら該液滴径の微小化には問題点があり、5μmより小さい場合には反応速度が速すぎまた副反応が増加し、縮重合反応のコントロールが困難となり、得られる製品品質(例えば平均分子量など)のバラツキが大きくなり、また微小化するためには反応液を攪拌する動力が必要であり、5μmより小さい場合には単位容量当りの攪拌エネルギーが過大なものとなる。従って該液滴径は5μm以上とすることが好ましく、10μm以上とすることがより好ましい。
【0028】
次に、高度の乳化状態となった反応液は、従来公知の重合方法では、反応槽でそのまま攪拌を続ける方法、反応槽で攪拌せず静置して重合する方法、連続多段反応槽で攪拌して重合する方法、微細な分散液を形成しスタティックミキサーと滞留ゾーンを組合わせた管式反応器に連続的に流すことによって重合する方法などがあった。しかし本発明の方法は、高度の乳化状態となった反応液を攪拌機能のない管型反応器の中を連続的に層流で流し縮重合反応を行う方法である。
【0029】
また従来公知の連続管式反応器による重合方法がスタティックミキサー等を用い、強制的に攪拌を行い水相と有機相の接触を向上させることを意図しているが、この強制的な攪拌はむしろ液滴の合一作用や乳化状態を破壊する効果が大きく、分散水相の液滴サイズ、量に起因する水相・有機相間の反応界面積の減少に通じ、界面縮重合反応を円滑に進めることが出来ない。
【0030】
一方、本発明の連続管型反応器による縮重合方法の特徴は、上述の如く、攪拌機能のない管型反応器の中を連続的に層流で流し重合反応を進める方法である。即ち、攪拌を排除することによって高度の乳化状態を維持することが可能となり、分散水相の液滴サイズ、量に起因する水相・有機相間の反応界面積維持が可能となり、界面縮重合反応を円滑に進めることが出来る。
【0031】
次に管型反応器の形状は最も単純には断面が円形の管で良く、また断面が四角形、六角形など角形の管でも良い。乳化状態の反応液をピストンフロー方式で流し、かつ設備効率を上げるために、管型反応器の管の直径と管の長さの比率は1:150〜1:7000が好ましく、さらには1:500〜1:3000がより好ましい。またピストンフロー方式で流すために、滞留部分のない単純な管型反応器で良いが、実質的に本発明の効果の発現を妨げない範囲、即ちRe数2000以下の層流範囲で使用する邪魔板、仕切り板などの管型反応器内への設置は可能である。また該反応器を構成する材料の材質はSUS304ステンレス鋼、グラスライニング鋼材など通常使用される物で良い。
【0032】
本発明においては縮重合反応温度の制御について効率的な方法を提案している。従来の重合反応温度制御の方法は、重合設備にジャケット等を設置し冷却または加温する方法が一般的であるが、本発明の方法は原料温度を所定温度に制御し、ジャケット等の代わりに保温材を用いる方法である。即ち、オリゴマー反応液の温度を制御して、次いで行われる界面縮重合反応において、反応の発熱と送液ポンプおよび乳化機等の動力エネルギーによる発熱の昇温によって目標の温度に到らしめ、ジャケット等による外部からの強制的な冷却および/または加温を実施せず、保温のみで縮重合反応温度を所定範囲に維持する方法である。ポリカーボネートの縮重合反応において、一定の反応条件において、重合反応の発熱および動力エネルギーによる発熱はほぼ一定であり、原料系の温度を一定にすれば、管型重合反応器に保温材による適切な保温を実施することによって、放熱量または吸熱量を少なくかつほぼ一定に押さえ、結果として途中および最終の重合反応温度は一定の温度範囲に維持することが可能である。
【0033】
一態様として温度20℃のホスゲン化反応終了時のオリゴマー反応液に分子量調節剤およびアルカリ水溶液を混合した際に温度24℃となり、本発明の重合反応の終了時に目標の30±1℃に維持できる。
【0034】
本発明における縮重合反応の温度範囲は20〜40℃で可能であり、好ましくは24〜36℃であり、より好ましくは28〜34℃である。この温度を達成するためにオリゴマー反応液は10〜30℃、分子量調節剤およびアルカリ水溶液を加えた反応液の温度は15℃〜35℃とすることが適当である。
【0035】
放熱または吸熱を防止する保温材の材質はケイ酸カルシウム、ロックウール、ガラスウール、或いはウレタンフォーム、ポリスチレンフォームなどがあり、これらを利用できる。
【0036】
この反応温度維持方式を採用することによって、ジャケット、加熱・冷却設備など設備費が不要(保温設備費用は必要)となり、また加熱・冷却の運転動力費も不要となり、大きなコストメリットが得られる。
【0037】
乳化状態の反応液を管型反応器の内部に流し、その乳化状態を維持するためには層流が必要である。即ち、該反応液の流動状態を表わす無次元数であるRe数が2000以下の層流とすることが必要である。Re数については成書における記述も多く、良く知られた指標であるが、次式で表わされる。
Re数=ρud/μ
ここで、 ρ〔kg/m3〕:流体密度
u〔m/s〕:流体代表速度
d〔m〕:代表長さ(管の直径)
μ〔Pa・s〕:流体粘度
【0038】
Re数が4000以上の乱流の場合は流れの乱れが激しく、分散水相の液滴は互いに衝突を起こし、液滴の破壊、サイズアップが生じ、乳化状態は高度から弱い状態、そしてさらに非乳化の状態となって行く。
【0039】
2000<Re数<4000の遷移流の場合も乱流に比べ、流れの乱れの程度は弱いが好ましくない。
【0040】
Re数は2000以下とすることが必要であるが、Re数の好ましい範囲は1000以下であり、より好ましい範囲は500以下である。また、流動性の点からRe数は1以上が好ましい。
【0041】
本発明の方法では、反応速度向上のため縮重合触媒を使用する。添加する縮重合触媒はトリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン等の第三級アミン、およびトリメチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アミンが単独または併用して用いられるが、容易に入手可能で触媒効果の優れているトリエチルアミンが最も好ましい。縮重合触媒の使用量は、二価フェノールの使用モル数に対して0.002〜2.0モル%の量が好ましく、さらに0.05〜0.5モル%の量がより好ましい。使用量が0.002モル%より少ない触媒量では触媒効果が現れ難く、反応時間が短縮できず、また2.0モル%より多い触媒量ではクロロホーメート基およびカーボネート結合の分解作用が起こり易く、洗浄工程での縮重合触媒の除去、回収に多くの労力を費やすこととなる。
【0042】
縮重合触媒の添加設備および添加方法は、管型反応器の途中にパイプノズルを設置して触媒を圧入する方法(図−5参照)、あるいは管型反応器の途中にポットを設置して、そのポット中に反応液と共に触媒を添加する方法(図−6参照)など、種々の方法が選べる。触媒はそのまま或いは溶媒で希釈した溶液として添加使用できるが、反応液の有機相に拡散し易い塩化メチレンの溶液が最も好ましい。
【0043】
縮重合触媒の添加位置は、乳化設備によって反応液が高度に乳化された後に、縮重合反応を行う反応器である管型反応器の導入口から、該管型反応器の全容量の3分の2の容量の位置までの間に、乳化液に触媒を添加することが必要であり、導入口側の管型反応器全容量の1/10から6/10容量の間の位置とすることが好ましく、さらに導入口側の管型反応器全容量の1/4から1/2容量の間の位置とすることがより好ましい。
【0044】
管型反応器の導入口より前、すなわち乳化設備以前において反応混合液に触媒を添加することは、乳化設備中で高乳化と同時に重合反応が急激に進み、分離水が発生し非乳化状態となり反応後のポリカーボネート樹脂に末端クロロホーメート基が残り易く、かつまたアルカリとクロロホーメートの副反応の増大によりポリカーボネート樹脂の末端OH基量が増加し耐熱性に劣り好ましくない。
【0045】
また、該管型反応器の全容量の3分の2の容量の位置よりも後部で、乳化液に触媒を添加することは、所定の時間に反応を完結する事が難しくなり、また得られるポリカーボネート樹脂の残存クロロホーメート基量の増加となり好ましくない。
【0046】
本発明の縮重合反応の反応時間は、原材料使用モル比、反応温度、乳化の度合、触媒使用量などの反応条件によって変ってくるが、概ね5分〜30分であり、好ましくは10分〜20分である。
【0047】
本発明における芳香族ポリカーボネートの製造装置は、予め二価フェノールのアルカリ水溶液とホスゲンとを有機溶媒の存在下で反応させて得られたカーボネートオリゴマー反応液に、分子量調節剤およびアルカリ水溶液を混合する設備と、その混合した反応液を高度な乳化状態にする乳化設備、さらにそれに続き触媒の添加混合用具を設備の途中に備えた保温材付き管型反応器よりなることを特徴とするポリカーボネート連続製造装置であり、この概念の一例を示すと図−2のようになる。
【0048】
また、本発明には複数の並列の管型反応器より成る次の装置も含まれる。即ち、オリゴマー反応液に分子量調節剤およびアルカリ水溶液を混合する設備一基に対し、乳化設備を一基または複数基および管型反応器(触媒の添加混合用具含む)一基または複数基より構成されるポリカーボネート連続製造装置である。ここで、乳化設備および管型反応器の複数とは2〜16であり、好ましくは2〜8である。この概念の一例を示すと図−4のようになる。
【0049】
さらにまた、本発明においては縮重合反応温度を目標値に維持するために、管型反応器が、外部冷却設備および又は外部加温設備の代わりに、確実に保温効果を有する保温材等を備えていることが必要である。但し、この場合保温効果を有すれば保温材に拘らない、外気を遮断する密閉された室内など、外気の直接の影響を受けない状況であっても良い。
【0050】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨の範囲を越えない限り、これらに限定されるものではない。
(試験・分析方法)
(A)乳化液の分散水相平均液滴径の測定
乳化液をスライドグラス上に取り、キーエンス(株)デジタルHDマイクロスコープVH−7000型を用いて撮影し、分散水相の平均液滴径を求めた。
【0051】
(B)反応乳化液の粘度測定とRe数の算出
管型反応器内の乳化反応液をサンプリング配管により粘度計に導き、粘度を測定し、前述の関係式よりRe数を求めた(Re数=ρud/μ)。粘度計は山一電機(株)製 FVM−80A振動式粘度計を用いた。
またスタティックミキサー内の液体のRe数については東レエンジニアリング(株)Hi−Mixer技術資料(カタログ)に記載されており、次の関係式より求めた。(Re数=277ρud/μ)。ここで用語は上記に同じである。またHi−Mixerにおいて実験的に定義されたRe数と流動状況の関係は次の通りである。層流域:Re数<80、遷移域:80<Re数<800、乱流域:800<Re数
【0052】
(C)反応液の水相中のビスフェノールA濃度
重合反応終了時の反応液をサンプリングし、該反応液に同量の塩化メチレンを加え、遠心分離機にかけ水相を取り出す。この水相の一定量を希アルカリ水溶液で希釈し、UV分光光度計(日立製作所製 U−3000型)にて、波長294nmおよび330nmの吸光度を測定し、次式よりビスフェノールA濃度を求めた。
ビスフェノールA濃度(g/L)=(A1−A0)×n×1/22
但し、ここでA1、A0はそれぞれ294nmおよび330nmの吸光度、nは希釈倍率である。
【0053】
(D)オリゴマーの相対粘度
ホスゲン化反応終了時などの反応液をサンプリングし、有機相を分離し精製処理を行ない、有機相から溶剤を蒸発し、減圧乾燥しカーボネートオリゴマーを得た。該オリゴマーの0.700gを塩化メチレン100mlに溶解し、オストワルド粘度計にて20℃で測定する。オリゴマーの相対粘度は次式で求めた。
オリゴマーの相対粘度ηrel=t1/t0
但し、ここでt1、t0はそれぞれ、溶液および溶媒の測定秒数である。
【0054】
(E)ポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)
0.700gのポリカーボネートを100mlの塩化メチレンに溶解し、オストワルド粘度計にて20℃で測定して比粘度(ηsp)を求め、次式に挿入した。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]2c
[η]=1.23×10-4×(Mv)0.83
ここで、[η]は極限粘度、ηsp=ηrel−1、c=0.7である。
【0055】
(F)末端塩素量(ポリカーボネート末端クロロホーメート基由来の塩素量)
20mlメスフラスコに試料ポリカーボネート約1gを精秤し、塩化メチレンを加えて溶解し、これに4−(p−ニトロベンジル)ピリジンの0.50g/L塩化メチレン溶液を2ml加えて発色させて20mlに調整した後、分光光度計(日立製作所製 U−3000型)を使用し波長440nmの吸光度を測定した。別にクロロ炭酸フェニルを用いて作成した検量線を用い、試料中の末端塩素量を定量した。定量下限は試料中塩素量換算で0.1ppmであった。
末端塩素は耐熱性悪化の要因であり、0.3ppm以下が好ましい。
【0056】
(G)末端OH基量(ポリカーボネート末端OH基量)
試料ポリカーボネート28mgを重クロロホルム0.5mlに溶解して、核磁気共鳴スペクトルメーター(Varian製UNITY300(300MHz))を用いて、1H−NMRを測定し、OH価(eq/ton)を求めた。
末端OH基は耐乾熱性悪化の要因であり、3.0eq/t以下が好ましい。
【0057】
(H)成形滞留焼け
ポリカーボネートの乾燥ペレットを射出成形機(日本製鋼所(株)製J85ELII型)を用い、340℃で可塑化シリンダー内で45sec保持して厚さ2mmの50mm角の見本板を成形した。次に、可塑化シリンダー内で340℃で10分間滞留させて同見本板を成形した。色差計(日本電色(株)色差計Z−1001DP型)を使用しC光源で、見本板の色相(L値、a値、b値)を測定した。滞留前後の見本板の色相の差(ΔL値、Δa値、Δb値)よりΔE(次式)を求め、成形滞留焼けを評価した。
ΔE=[(ΔL)2+(Δa)2+(Δb)2]1/2
ΔEは0.2以下が好ましい。
【0058】
(I)乾熱試験
前記(H)における滞留前の見本板を20日間、150℃で熱風乾燥器で処理し、前記色差計で見本板の黄色度YIを測った。熱処理前後の黄色度差ΔYIを求め耐乾熱性を評価した。
ΔYIは2.0以下が好ましい。
【0059】
[参考例1](カーボネートオリゴマーの製造)
ビスフェノールA1500kgとハイドロサルファイト3kgを7.2重量%の苛性ソーダ水溶液8070kgに30℃で溶解して170g/LのビスフェノールAの苛性ソーダ水溶液を調整した。カーボネートオリゴマー製造のフローおよび主な機器は図−1に示す。即ち、冷却ジャケットおよび攪拌機付き実容量15Lの第1反応器(1)にビスフェノールAの苛性ソーダ水溶液530L/hr、メチレンクロライド220L/hr、ホスゲン43kg/hrを連続的に仕込み、液温18℃でホスゲン化反応を行う。実容量100Lの攪拌機付き第2反応器(2)の反応液は約5000L/hrの流量でポンプ循環され、熱交換器(4)に通され冷却され、第2反応器に戻る(配管11経由)が、そのうち1/10容量の約500L/hrは第1反応器に送られ(配管7経由)、原料液と混合されホスゲン化反応に供される。第1反応器をオーバーフローする反応液は第2反応器に流入し、第2反応器において液温20℃でホスゲン化反応を完了しカーボネートオリゴマーを生成し、第2反応器をオーバーフローする(配管6経由)。
【0060】
第2反応器のオーバーフロー排出口より排出されたオリゴマー反応液を、定常状態となった時点で5回サンプリングして、前記の方法で分析したところ、オリゴマーの相対粘度は1.033〜1.037、オリゴマー末端クロロホーメート由来の末端塩素は7.0〜7.5%、水相のpHは13以上、ビスフェノールAの濃度は26〜27g/Lと何れも安定した値を示していた。
【0061】
[実施例および比較例の設備概要]
本発明のフローおよび主な機器は図−2に示す(なお、以後( )内の数字等は図面上の符号を表すものとする)が、受け容器(21)、ポンプ(22)、乳化機(23)、保温材を備えた管型重合反応装置(24)(管内径55mmφ、管長50m)、縮重合触媒添加装置(27)(管型重合反応器全長50mのうちの管長10%、50%、65%、80%の位置に設置、ここで管長%は管容量%に対応する)、塩化メチレン希釈液注入部(31)(反応終了後にポリマー溶液の濃度を下げる)から成る。
【0062】
一方、比較例のフローおよび主な機器は図―3に示すが、受け容器(21)、ポンプ(22)、乳化機(23)、保温材を備えた管型重合反応装置(24)(管内径55mmφ、管長50m)、スタティックミキサー(25)(東レHi−Mixer 公称径50mm、エレメント数5ケ/1組、管型重合反応器の全長50m中に10組をほぼ等間隔に設置)、縮重合触媒添加装置(27)(管型重合反応器全長50mのうちの10%、50%、65%の位置に設置、ここで管長%は管容量%に対応する)、塩化メチレン希釈液注入部(31)から成る。
【0063】
すなわち両者の違いは、比較例においては攪拌機能を目的とする複数のスタティックミキサー(25)(以後スタティックミキサーをSMと略記することがある)を有するが、一方、本発明はスタティックミキサーをすべて排除した攪拌機能のない管型重合反応装置である。
【0064】
さらに、複数の乳化機および複数の管型重合反応器を有する本発明のフローおよび主な機器は図−4に示すが、受け容器(21)、ポンプ(22)、乳化機(23)2基、保温材を備えた管型重合反応装置(24)(管径55mmφ、管長50m)2基、触媒添加装置(27)(管型重合反応器全長50mのうちの50%の位置に設置)2基、塩化メチレン希釈液注入部(31)(反応終了後にポリマー溶液の濃度を下げる)から成る。
【0065】
[実施例1]
本発明の連続無攪拌管型重合の例であり、図−2に示す装置を使用した。受け容器(21)に参考例1におけるホスゲン化反応で生成したカーボネートオリゴマー反応液375L/hr(配管15経由)、分子量調節剤p−ターシャリーブチルフェノールの塩化メチレン(11wt%)溶液6.0L/hr(配管16経由)、および48%苛性ソーダ水溶液5.2L/hr(配管17経由)を連続的に仕込み、該混合液をポンプ(22)で送液し、乳化機(23)として2組のスタティックミキサー(東レHi−Mixer 公称径10mm、エレメント数5ケ/1組)(23−1)を用いて油中水型の高度の乳化状態となし(この際、乳化機出口部の乳化液の分散水相の平均液滴サイズは15μmであった。また同液中のオリゴマーの相対粘度ηrelは1.095であった。)、次に該乳化液を内径55mmの管型重合反応器(24)に通し、その全長50m中を層流で流し、かつ途中の触媒添加位置B点(27B)(容量50%点)において縮重合触媒であるトリエチルアミンの塩化メチレン溶液(1.0vol%)6.0L/hrを連続的に添加し、到達反応温度30±1℃で縮重合反応を実施した。所要重合反応時間は20分であった。反応終了まで乳化状態を維持しており、乳化液より分離した水分は少量であった。途中、サンプリングノズル(30−1および30−2)より反応液を採取し粘度を測定した。反応管最前部の反応乳化液の粘度は0.05Pa・sであり、Re数は70であった。また反応管中間部(60%点)で粘度は0.40Pa・sであり、Re数は8.6であった。両者ともRe数<2000で層流範囲を確認できた。反応終了時の反応液の水相中のビスフェノールA濃度を測定し0.11g/L(反応収率99.94%に相当)であった。反応終了時の反応液は連続的に塩化メチレン236L/hrを注加し、塩化メチレン層中のポリカーボネート濃度を10wt%とした。
【0066】
次に該希釈混合液をろ過層に通し水層分を分離除去した後、水洗分離1回、塩酸処理1回、水洗分離2回を行なって塩類、アルカリ、触媒等を除去し、精製ポリカーボネート溶液を得た。次いでこのポリカーボネート溶液を50℃温水入りニーダーに仕込み、溶媒を除去してポリカーボネートの粉粒体を造り、さらに脱水後、熱風乾燥機で140℃で12hr乾燥した後、押出機により280℃でペレット化した。このペレットの平均分子量、末端塩素量(クロロホーメート基由来の塩素)、末端OH基量を測定し、結果を表1に示した。
【0067】
次にこのペレットを射出成形機(日本製鋼所(株)製J85ELII型)を用い340℃で可塑化シリンダー内で45sec保持して厚さ2mm、50mm角の見本板を成形した。また、可塑化シリンダー内で340℃で10分間滞留させて同見本板を成形した。滞留前後の見本板の色相の差(ΔE)より成形滞留焼けを評価した。さらに、滞留前の見本板を20日間、150℃で乾熱処理し、処理前後の黄色度差(ΔYI)より耐乾熱性を評価した。その結果を表1に示した。
【0068】
本実施例1は反応収率が良好で、末端塩素量、末端OH基量ともに低く、成形滞留焼け、耐乾熱性とも優れていた。
【0069】
[比較例1]
図−3に示す装置を使用した。受け容器(21)に参考例1におけるホスゲン化反応で生成したカーボネートオリゴマー反応液(15経由)、分子量調節剤p−ターシャリーブチルフェノールの塩化メチレン(11wt%)溶液(16経由)、および48%苛性ソーダ水溶液(17経由)の各々について実施例1と同量を連続的に仕込み、該混合液をポンプ(22)で送液し、乳化機(23)として2組のスタティックミキサー(23−1)(東レHi−Mixer 公称径10mm、エレメント数5ケ/1組)を用いて油中水型の高度の乳化状態となし(この際、乳化機出口部の乳化液の分散水相の平均液滴サイズは15μmであった。また同液中のオリゴマーの相対粘度ηrelは1.094であった。)、次に該乳化液を管型重合反応器(24)に通し、全長50m中に設置した10組のSM(スタティックミキサー)(25)で攪拌を行ない、さらに途中の触媒添加位置B点(27B)(容量50%点)において触媒トリエチルアミンの塩化メチレン溶液(1.0vol%)6.0L/hrを連続的に添加し、到達反応温度30±1℃で重合反応を実施した。所要重合反応時間は20分であった。覗流器(図示していない)で見ると、前方から6組目のSMの後部(触媒添加部の後方1組目のSMの後部)では、乳化液から多量の水分が分離していた。反応管最前部の反応乳化液の測定粘度は0.05Pa・sであり、Re数は70であった。また反応管中間部(60%点)では測定粘度は0.25〜0.45Pa・sと変動し、Re数は11.4〜6.9であった。変動は分離水分の影響があった。両者ともRe数<2000で層流範囲であった。一方、両者に隣接する位置のSM内部での反応液のRe数は18000および2600の乱流域の値であった。反応終了時の反応液の水相中のビスフェノールA濃度を測定し0.31g/L(反応収率99.84%に相当)であった。反応終了時の反応液は連続的に塩化メチレン236L/hrを注加し(31経由)、塩化メチレン相中のポリカーボネート濃度を10wt%とした。
【0070】
以後の精製、造粒、乾燥、押出しの操作は実施例1と同様に行ないペレットを得た。このペレットの品質測定を行ない、結果を表1に示した。また、射出成形滞留焼け試験および乾熱試験も実施例1と同様に行ない、結果を表1に示した。
【0071】
比較例1のサンプルは実施例1に比べ、末端塩素量および末端OH基量が多く、成形滞留焼けおよび耐乾熱性が劣っていた。SMの攪拌効果で乳化が弱まり、縮重合反応が遅く未完結であったためである。
【0072】
[実施例2]
実施例1において、触媒添加位置をB点からA点(27A)(容量10%点)に変更した以外はすべて同一条件で行なった。反応終了まで乳化状態を維持しており、乳化液より分離した水分は少量であった。
【0073】
また精製、造粒、乾燥、押出しの操作、ペレットの品質測定、射出成形滞留焼け試験および乾熱試験も実施例1と同様に行ない、結果を表1に示した。
【0074】
本実施例2は実施例1と同様に反応収率が良好で、末端塩素量、末端OH基量ともに低く、成形滞留焼け、耐乾熱性とも優れていた。
【0075】
[比較例2]
比較例1において、触媒添加位置をB点からA点(27A)(容量10%点)に変更した以外はすべて同一条件で行なった。覗流器で見ると、前方から3組目のSMの後部(触媒添加部の後方2組目のSMの後部)で乳化液から多量の水分が分離していた。
【0076】
また精製、造粒、乾燥、押出しの操作、ペレットの品質測定、射出成形滞留焼け試験および乾熱試験も比較例1と同様に行ない、結果を表1に示した。
【0077】
比較例2のサンプルは実施例2に比べ、末端塩素量および末端OH基量が多く、成形滞留焼けおよび耐乾熱性が劣っていた。SMの攪拌効果で乳化が弱まり、縮重合反応が遅く未完結であったためである。
【0078】
[実施例3]
実施例1において、触媒添加位置をB点からC点(27C)(容量65%点)に変更した以外はすべて同一条件で行なった。反応終了まで乳化状態を維持しており、乳化液から分離した水分は少量であった。
【0079】
また精製、造粒、乾燥、押出しの操作、ペレットの品質測定、射出成形滞留焼け試験および乾熱試験も実施例1と同様に行ない、結果を表1に示した。
【0080】
本実施例3は実施例1と同様に反応収率が良好で、末端塩素量、末端OH基量ともに低く、成形滞留焼け、耐乾熱性とも優れていた。
【0081】
[比較例3]
比較例1において、触媒添加位置をB点からC点(27C)(容量65%点)に変更した以外はすべて同一条件で行なった。覗流器で見ると、前方から8組目のSMの後部(触媒添加部の後方1組目のSMの後部)で乳化液から多量の水分が分離していた。
【0082】
また精製、造粒、乾燥、押出しの操作、ペレットの品質測定、射出成形滞留焼け試験および乾熱試験も比較例1と同様に行ない、結果を表1に示した。
【0083】
比較例3のサンプルは実施例3に比べ、末端塩素量および末端OH基量が多く、成形滞留焼けおよび耐乾熱性が劣っていた。SMの攪拌効果で乳化が弱まり、縮重合反応が遅く未完結であったためである。
【0084】
[比較例4]
実施例1(図−2に示す装置を使用)において、触媒添加位置をB点からD点(27D)(容量80%点)に変更した以外はすべて同一条件で行なった。反応終了まで乳化状態を維持しており、乳化液から分離した水分は少量であった。
【0085】
また精製、造粒、乾燥、押出しの操作、ペレットの品質測定、射出成形滞留焼け試験および乾熱試験も実施例1と同様に行ない、結果を表1に示した。
【0086】
比較例4のサンプルは末端塩素量が多く、成形滞留焼けが劣っていた。触媒添加時期が遅いため反応が未完結であった。
【0087】
[比較例5]
実施例1(図−2に示す装置を使用)において、触媒添加位置をB点から受け容器(21)に変更し配管16を経由して触媒を添加した以外はすべて同一条件で行なった。乳化機出口部の乳化液の分散水相の平均液滴サイズは、分離水の発生があり測定できなかった。反応終了時には多量の水分が分離していた。
【0088】
精製、造粒、乾燥、押出しの操作、ペレットの品質測定、射出成形滞留焼け試験および乾熱試験も実施例1と同様に行ない、結果を表1に示した。
【0089】
比較例5のサンプルは末端塩素量および末端OH基量が多く、成形滞留焼けおよび耐乾熱性が劣っていた。触媒添加時期が乳化機より前であるため、乳化機出口部の乳化液に分離水があり、分離した水分が多い状態で縮重合反応が行なわれ、反応が遅く未完結であったためである。
【0090】
[比較例6]
比較例1(図−3に示す装置を使用)において、触媒添加位置をB点から受け容器(21)に変更し配管16を経由して触媒を添加した以外はすべて同一条件で行なった。乳化機出口部の乳化液の分散水相の平均液滴サイズは、分離水の発生があり測定できなかった。反応終了時には多量の水分が分離していた。
【0091】
また精製、造粒、乾燥、押出しの操作、ペレットの品質測定、射出成形滞留焼け試験および乾熱試験も比較例1と同様に行ない、結果を表1に示した。
【0092】
比較例6のサンプルは末端塩素量および末端OH基量が多く、成形滞留焼けおよび耐乾熱性が劣っていた。触媒添加時期が乳化機より前であるため、乳化機出口部の乳化液に分離水があり、分離した水分が多い状態で縮重合反応が行なわれ、反応が遅く未完結であったためである。
【0093】
[実施例4]
本発明の複数の乳化機、複数の管型重合反応器を有する連続反応装置の実施例であり、図−4に示す装置を使用した。受け容器(21)に参考例1におけるホスゲン化反応で生成したカーボネートオリゴマー反応液750L/hr(配管15経由)、分子量調節剤p−ターシャリーブチルフェノールの塩化メチレン(11wt%)溶液12.0L/hr(配管16経由)、および48%苛性ソーダ水溶液10.4L/hr(配管17経由)を連続的に仕込み、該混合液をポンプ(22)で送液し、その内の1/2量を一方の流路(a)に流し、乳化機(23a)として2組のスタティックミキサー(東レHi−Mixer 公称径10mm、エレメント数5ケ/1組)(23−1)を用いて油中水型の高度の乳化状態となし(この際、乳化機出口部の乳化液の分散水相の平均液滴サイズは15μmであった。結果は表1に記載)、次に該乳化液を内径55mmの管型重合反応器(24)に通し、その全長50m中を層流で流し、かつ途中の触媒添加位置B点(27B)(容量50%点)において触媒トリエチルアミンの塩化メチレン溶液(1.0vol%)6.0L/hrを連続的に添加し、到達の反応温度30±1℃で重合反応を実施した。ポンプ出口の残量(全体の1/2量)を他方の流路(b)に流し、流路(a)と同様に重合反応を実施した(乳化機出口部の平均液滴サイズは16μmであった)。両者とも反応終了まで乳化状態を維持しており、乳化液より分離した水分は少量であった。重合反応終了時の両者の反応混合液は連続的に塩化メチレン472L/hrを注加し、塩化メチレン層中のポリカーボネート濃度を10wt%とした。
【0094】
また、精製、造粒、乾燥、押出しの操作、ペレットの品質測定、射出成形滞留焼け試験および乾熱試験も実施例1と同様に行ない、結果を表1に示した。
【0095】
本実施例4は実施例1と同様に反応収率が良好で、末端塩素量、末端OH基量ともに低く、成形滞留焼け、耐乾熱性とも優れていた。
【0096】
[実施例5]
実施例1において、乳化機として2組のスタティックミキサー(東レHi−Mixer 公称径10mm、エレメント数5ケ/1組)の代わりに、ホモミキサー(特殊機化工業(株)製、T.K.ホモミックラインフロー500型)を用いてタービン翼回転数3600rpmで運転し、油中水型の高度の乳化状態とした(この際、乳化機出口部の乳化液の分散水相の平均液滴サイズは16μmであった。また同液中のオリゴマーの相対粘度ηrelは1.097であった)。それ以外はすべて同一条件で行なった。反応終了まで乳化状態を維持しており、乳化液より分離した水分は少量であった。途中、サンプリングノズル(30−1および30−2)より反応液を採取し粘度を測定した。反応管最前部の反応乳化液の粘度は0.05Pa・sであり、Re数は70であった。また反応管中間部(60%点)で粘度は0.41Pa・sであり、Re数は8.4であった。両者ともRe数<2000で層流範囲を確認できた。
【0097】
また精製、造粒、乾燥、押出しの操作、ペレットの品質測定、射出成形滞留焼け試験および乾熱試験も実施例1と同様に行ない、結果を表1に示した。
【0098】
本実施例5は実施例1と同様に反応収率が良好で、末端塩素量、末端OH基量ともに低く、成形滞留焼け、耐乾熱性とも優れていた。
【0099】
[実施例6]
実施例5において、乳化機として、ホモミキサー(特殊機化工業(株)製、T.K.ホモミックラインフロー500型)を用いてタービン翼回転数2700rpmで運転し、油中水相型の高度の乳化状態とした(この際、乳化機出口部の乳化液の分散水相の平均液滴サイズは31μmであった)。それ以外はすべて同一条件で行なった。反応終了まで乳化状態を維持しており、乳化液より分離した水分は少量であった。
【0100】
また精製、造粒、乾燥、押出しの操作、ペレットの品質測定、射出成形滞留焼け試験および乾熱試験も実施例1と同様に行ない、結果を表1に示した。
【0101】
本実施例6は実施例1と同様に反応収率が良好で、末端塩素量、末端OH基量ともに低く、成形滞留焼け、耐乾熱性とも優れていた。
【0102】
[比較例7]
比較例1に用いた図−3の装置のうち、内径55mmΦ、長さ50mの管型重合反応器にさらにスタティックミキサー5組を含む同径の長さ25mの管型重合反応器を接続し、全長75mの管型重合反応器として、それ以外はすべて比較例1と同じ条件で実験を行った。触媒の添加位置はB点であり、所要反応時間は30分であった。前方から6組目のSMの後部(触媒添加部の後方1組目のSMの後部)では、乳化液から多量の水分が分離していた。反応終了時の反応液の水相中のビスフェノールA濃度を測定し0.28g/L(反応収率99.86%に相当)であり、実施例1に比べて劣っていた。反応終了時の反応液は連続的に塩化メチレン236L/hrを注加し、塩化メチレン相中のポリカーボネート濃度を10wt%とした。
【0103】
また精製、造粒、乾燥、押出しの操作、ペレットの品質測定、射出成形滞留焼け試験および乾熱試験も比較例1と同様に行ない、結果を表1に示した。
【0104】
比較例7のサンプルは実施例1に比べ、末端塩素量および末端OH基量とも少し多く、成形滞留焼けおよび耐乾熱性が劣っていたが、比較例1に比べると末端塩素量および末端OH基量とも減少し成形滞留焼けおよび耐乾熱性は良くなっていた。SMの攪拌作用による乳化の弱まりと分離水の発生で、縮重合反応が遅くなったが、反応時間を20分から30分に延長したため反応はほぼ完結に到り品質面でかなりの改善が見られた。しかしながら実施例1に比べ反応が長時間を要する欠点を有している。
【0105】
[比較例8]
乳化機としてホモミキサーを用い、管型縮重合反応器の代わりに縮重合反応槽を用い、触媒は使用せず、無攪拌の静置重合を行なった。即ち、原材料の組成、仕込速度は実施例1と同様であり、実施例5と同様にホモミキサー(特殊機化工業(株)製、T.K.ホモミックラインフロー500型)を用いてタービン翼回転数3600rpmで運転し、油中水相型の高度の乳化状態とした(この際、乳化機出口部の乳化液の分散水相の平均液滴サイズは15μmであった)。該乳化液70Lを100リットル重合反応槽に投入し、無触媒で、攪拌せずに静置状態で30±1℃の温度に保持して2時間縮重合反応を行ない終了とした。反応終了時の反応液の水相中のビスフェノールA濃度を測定し1.2g/L(反応収率99.4%に相当)であった。該液に塩化メチレンを加えてポリカーボネート濃度10wt%とした後、精製、造粒、乾燥、押出しの操作、ペレットの品質測定、射出成形滞留焼け試験および乾熱試験も実施例1と同様に行ない、結果を表1に示した。
【0106】
比較例8の結果は反応終了時の水相中ビスフェノールAが多く(反応収率が劣る)、サンプルのポリマー末端OH基量が多く、耐乾熱特性が劣っていた。また長時間の反応時間が必要であり生産性が劣っていた。
【0107】
【表1】
【0108】
【発明の効果】
従来、ポリカーボネートの縮重合反応は、攪拌機付き多段反応槽や、スタティックミキサー、オリフィスミキサーなどを具備した管型反応器のような攪拌装置を用いて実施していたが、本発明の縮重合反応によればそのような攪拌装置を排除した、攪拌機能のない管型反応器を用いて、その中に乳化状反応液を層流で流し触媒を添加するのみの簡単な設備・方法によって、たいへん短時間に縮重合反応を完了することができ、且つ反応収率に優れ、また得られるポリカーボネートの品質としてポリマー中の残存クロロホーメート基量や末端OH基量が少なく、成形時の熱安定性に優れ、更に成形品の乾熱着色の少ない耐熱性の良好なポリカーボネートを容易にかつ設備コストを安価に製造することが出来、本発明の工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】カーボネートオリゴマー製造装置を示す図である。
【図2】本発明(および一部比較例)のポリカーボネート連続縮重合反応装置を示す図である。
【図3】比較例のポリカーボネート連続縮重合反応装置を示す図である。
【図4】本発明のポリカーボネート連続縮重合反応装置(実施例4)を示す図である。
【図5】本発明の乳化機および触媒添加設備の一例を示す図である。
【図6】本発明の乳化機および触媒添加設備の一例を示す図である。
【符号の説明】
1. 第1反応器(図−1)
2. 第2反応器
3. 循環ポンプ
4. 熱交換器
5. オーバーフロー配管(第1反応器)
6. オーバーフロー配管(第2反応器)
7. 一部循環配管
8. ビスフェノールAの苛性ソーダ水溶液投入配管
9. ホスゲン投入配管
10. 塩化メチレン投入配管
11. 循環配管
15.カーボネートオリゴマー反応液投入配管(図−2、図−3、図−4)
16.分子量調節剤投入配管
17.苛性ソーダ水溶液投入配管
21.受け容器
22.送液ポンプ
23.乳化機
23a.流路aの乳化機(図−4)
23b.流路bの乳化機(図−4)
23−1.スタティックミキサー(乳化機)(図−5)
23−2.ホモミキサー(乳化機)(図−6)
24.管型縮重合反応器(保温材付き)
25.スタティックミキサー(反応液攪拌・混合用)(図−3)
26a.反応液流路a(図−4)
26b.反応液流路b(図−4)
27A. A点触媒添加装置(管容量10%点)
27B. B点触媒添加装置(管容量50%点)
27C. C点触媒添加装置(管容量65%点)
27D. D点触媒添加装置(管容量80%点)
27−1.圧入式触媒添加装置(図−5)
27−2.ポット式触媒添加装置(図−6)
28−1.触媒添加配管(図−5)
28−2.触媒添加配管(図−6)
28−P.触媒圧入用ポンプ(図−5)
29.反応液送液ポンプ(図−6)
30−1.サンプリングノズル(管型反応器最前部に設置)
30−2.サンプリングノズル(管型反応器中間部、前方より60%点に設置)
30−3.サンプリングノズル(管型反応器最後部:重合反応終了点)
31.希釈用塩化メチレン投入配管
Claims (3)
- 二価フェノールのアルカリ水溶液とホスゲンとを有機溶媒の存在下で反応させてカーボネートオリゴマー反応液を形成後、界面縮重合反応を行いポリカーボネート樹脂を連続的に製造する方法において、該オリゴマー反応液を油中水型の乳化状態とした後に、管型反応器を用いて該管型反応器中を流れる該オリゴマー反応液のRe数が2000以下の層流で乳化状態を維持しながら界面縮重合反応を行い、かつ該管型反応器の導入口から該管型反応器の全容量の3分の2の容量の位置までの間に縮重合触媒を添加することを特徴とするポリカーボネート樹脂の連続製造方法。
- 形成したカーボネートオリゴマー反応液に、分子量調節剤および/またはアルカリ水溶液を加えた後に、油中水型の乳化状態として管型反応器を用いて界面縮重合反応を行う請求項1記載のポリカーボネート樹脂の連続製造方法。
- 油中水型乳化状態とした際のオリゴマー反応液の分散水相の平均液滴サイズが50μm以下である請求項1記載のポリカーボネート樹脂の連続製造方法。
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