JP3958485B2 - バトン昇降装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、劇場等において舞台演出用の各種吊物を昇降させるバトン昇降装置において、操作状況に応じて適切な補助力を付与しうる改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
劇場等において舞台演出用の各種吊物を昇降させるバトン昇降装置としては、例えば図9に示すようなものがある。
【0003】
このバトン昇降装置は、ワイヤーロープ101の両端にバトンパイプ102とカウンターウェイト103がそれぞれ吊り下げられており、上下の滑車104、105に掛け回された手引きロープ106を手動で循環させてカウンターウェイト103を昇降させることにより、バトンパイプ102を昇降させる。
【0004】
このバトン昇降装置における手動操作には、トルクモータ109による補助力の付与が可能となっている。トルクモータ109はワイヤーロープ101と連係しており、操作者はアシストコントローラ107をONにしてフットペダル108を踏むことによりトルクモータ109を正逆両方向に回転させ、これをもってバトンパイプ102の昇降に補助力を与える。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような従来のバトン昇降装置では、トルクモータ109からの補助力がトルクモータ109の速度・トルク特性に依存しているため、操作補助力指令値をバトン質量に応じた適切な値に設定したり、あるいは手動操作時の操作力に応じた適切な値に設定したりすることは難しい。
【0006】
さらに、カウンターウェイト102の質量をバトンの質量とほぼ平衡するように調整する必要があるが、ウェイトの積み込みによって十分に平衡がとれない場合や、使い勝手上どちらかの質量を大きく調整するような場合に、バトンの昇降に際して必要とする操作力が不均等になり、バトンが静止した状態で大きな操作力が必要になるという問題点があった。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、手引きバトンの操作状況に応じて適切な補助力を付与しうるバトン昇降装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、手引きロープの操作でバトンを昇降させるバトン昇降装置に適用する。
【0009】
そして、バトンを昇降させる補助力を付与するバトン駆動手段と、バトンを昇降させようとする重力に対抗するベース補助力指令値を設定する荷重平衡状態調整手段と、手引きロープに付与される操作力を検出する操作力検出手段と、操作力に応じてバトンを昇降させる操作補助力指令値を演算する操作補助力指令値演算手段と、ベース補助力指令値と操作補助力指令値とを加算した補助力指令値に応じてバトン駆動手段を制御する補助力制御手段とを備え、操作力検出手段は手引きロープに生じる上側張力と下側張力を検出する構成とし、手引きロープの移動方向に付与される操作力がしきい値以上のときに手引きロープの移動方向に付与する操作補助力を増大する構成とし、手引きロープの移動方向と反対方向に付与される操作力がしきい値以上のときに手引きロープの移動方向に付与する操作補助力を減少する構成とし、手引きロープに付与される操作力がしきい値より小さい場合に補助力指令値を略一定に保ち手引きロープの移動方向に付与する操作補助力を一定に保つ構成としたことを特徴とするものとした。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、手引きロープの移動速度を検出する速度センサを備え、手引きロープの移動速度が略零になると操作補助力指令値を略零としてベース補助力指令値に応じた補助力のみを付与する構成を特徴とするものとした。
【0014】
第3の発明は、第1または2の発明において、操作力検出手段として手引きロープの両端に生じる上側張力と下側張力を検出する張力センサを備えたことを特徴とするものとした。
【0015】
第4の発明は、第1から第3のいずれか一つの発明において、バトン駆動手段としてバトンを吊り下げるワイヤーロープと、ワイヤーロープを移動させるトラクションシーブと、トラクションシーブを回転駆動する回転アクチュエータと、回転アクチュエータからトラクションシーブへ伝達されるトルクを可変とする伝達力可変滑り継手とを備えたことを特徴とするものとした。
【0016】
第5の発明は、第1から第3のいずれか一つの発明において、バトン駆動手段としてバトンを吊り下げるワイヤーロープと、ワイヤーロープを移動させるトラクションシーブと、トラクションシーブを回転駆動する電動機とを備えたことを特徴とするものとした。
【0017】
【発明の作用および効果】
第1の発明では、操作者が手引きロープを手動で操作することによりバトンを昇降させるが、この操作力に応じた操作補助力がバトン駆動手段を介して付与されるため、操作力を軽減できる。
【0018】
そして、バトンを昇降させようとする重力に対抗するベース補助力がバトン駆動手段を介して付与されることにより、バトンの昇降に際して必要とする操作力を均等にするとともに、バトンが静止した状態でも重力に抗してバトンを定位置に保持するために必要な手引きロープに加える操作力を軽減または零にできるため、操作性を改善できる。
【0019】
そして、手引きロープの移動方向に付与される操作力がしきい値以上のときには操作補助力が必要と判断し、手引きロープの移動方向に操作補助力を増加させるので、操作に必要な補助力が得られる。
【0020】
そして、手引きロープの移動方向と反対方向に付与される操作力がしきい値以上のときには操作補助力が過大と判断し、手引きロープの移動方向に付与される操作補助力を減少さるので、適切なブレーキ力を作用させることができる。
【0021】
そして、手引きロープに付与される操作力がしきい値より小さい場合に補助力指令値を略一定に保つので、略一定の操作補助力が付与され、バトンを略一定速度で昇降させられる。
【0022】
第2の発明では、手引きロープの移動速度が略零になると、ロープ操作停止時と判定し、操作補助力指令値を略零としてベース補助力指令値に応じた補助力のみを付与する。これにより、バトンが静止した状態でも重力に抗してバトンを定位置に保持するために必要な手引きロープに加える操作力を軽減または零にして、操作性を改善できる。
【0023】
第3の発明では、手引きロープの両端に生じる上側張力と下側張力を操作力として検出し、操作力に応じた補助力の制御が可能となる。
【0024】
第4の発明では、伝達力可変滑り継手を介して回転アクチュエータからトラクションシーブへ伝達されるトルクを可変とする。
【0025】
第5の発明では、電動機からトラクションシーブへ伝達されるトルクを可変とする。電動機が手引きロープの速度に応じて回転制御されることにより、エネルギーロスを低減できる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
【0027】
図1に示すように、バトン昇降装置においては、ワイヤーロープ1の両端にカウンターウェイトユニット2とバトンパイプ(図示せず)が吊り下げられる。バトンパイプには、舞台演出用の各種吊物が装着される(以下、バトンパイプとこれに吊された吊物の全体を「バトン」という)。また、カウンターウェイトユニット2には、バトンの質量に応じた錘として複数のカウンターウェイトが積載される。
【0028】
手引きロープ(麻ロープ)3は、上下一対の滑車4、5に掛け回されるとともに、その上下端部がカウンターウェイトユニット2の上部と下部にそれぞれ連結されている。操作者は、この手引きロープ3を手動で循環操作することによりカウンターウェイトユニット2を昇降させ、これをもってバトンを昇降させる。
【0029】
手引きロープ3に付与される操作力を検出する手段として、カウンターウェイトユニット2の上部、下部と手引きロープ3の連結部には、それぞれ上側張力センサ31、下側張力センサ32(図3参照)を備える。これにより、カウンターウェイトユニット2の上下において手引きロープ3にかかる上側張力Fu、下側張力Fdがそれぞれ検出される。上側張力Fuが大きくなると、カウンターウェイトユニット2が引き上げられ、バトンが下降する。一方、下側張力Fdが大きくなると、カウンターウェイトユニット2が引き降ろされ、バトンが上昇する。
【0030】
手引きロープ3が移動する手引きロープ速度センサ33(図3参照)を備える。これにより、手引きロープ3が移動中かどうかが検出される。
【0031】
手引きロープ3およびカウンターウェイトユニット2の上方には、手引きロープ3に補助力を付与するバトン駆動手段として、電動ウィンチ10を備える。図2にも示すように、電動ウィンチ10は、トラクションシーブ11、減速機付き電動機12、伝達力可変滑り継手20等から構成される。
【0032】
トラクションシーブ11はワイヤーロープ1が掛け回されるもので、その回転によりワイヤーロープ1を送る。伝達力可変滑り継手20は電動機12の回転をトラクションシーブ11に伝達する。
【0033】
伝達力可変滑り継手20は、同軸上に配置され相対回転可能な入力部(入力軸)21と出力部(出力軸)22から構成される。出力部22の回転軸上に備えられた中空シャフト23には、トラクションシーブ11の回転軸11Aが一体に装着される。一方、入力部21の同軸上にはスプロケット24が固定され、このスプロケット24は、電動機12の出力軸に固定されたスプロケット13とチェーン14を介して連係している。
【0034】
伝達力可変滑り継手20は、入力部21と出力部22間でのトルク伝達が可変であり、後述するように、制御装置40の電力増幅部43から入力される指令(制御電流)に応じて制御される(図3参照)。伝達力可変滑り継手20は、例えば粉体継手、流体継手、渦電流継手等が用いられる。
【0035】
図3には、バトン昇降装置の制御系の構成を示す。制御装置40は、CPU41、電動機駆動部42、電力増幅部43等を備える。電動機駆動部42は電動機12を駆動する回路で、電動機12に正転、逆転、停止のいずれかの状態を採り得る。電力増幅部43は、伝達力可変滑り継手20に補助力指令値に相当する制御電流を送り、伝達力可変滑り継手20は補助力指令値に相当するトルクを入力部21から出力部22に伝達する。
【0036】
上側張力センサ31、下側張力センサ32、手引きロープ速度センサ33からの検出信号は、CPU41に入力される。
【0037】
操作部50は、操作者により操作されるもので、電源スイッチ51と操作補助力調整器52と荷重平衡状態調整器53および補助開始スイッチ54を備えている。
【0038】
補助力調整器52は、後述する補助力制御における補助力調整値Fsを設定する。
【0039】
ところで、カウンターウェイトユニット2の質量はバトンの質量とほぼ平衡するように調整されることを前提としているが、カウンターウェイトの積み込みによって十分に平衡がとれない場合や、使い勝手上どちらかの質量を大きく調整するような場合がある。
【0040】
これに対処して、荷重平衡状態調整器53はカウンターウェイトユニット2とバトンの質量差に応じてベース補助力指令値Fub,Fdbを設定するものである。操作者は補助開始スイッチ54が投入される前に荷重平衡状態調整器53を介してベース補助力指令値Fub,Fdbを任意に設定する。なお、荷重平衡状態調整器53が本発明のバトンを昇降させようとする重力に対抗するベース補助力指令値を設定する荷重平衡状態調整手段に相当する。
【0041】
制御装置40は電源スイッチ51がONになると、設定されたベース補助力指令値Fub,Fdbを伝達力可変滑り継手20を介して電動機12がワイヤーロープ1に付与する。
【0042】
カウンターウェイトユニット2の方がバトンより重く、カウンターウェイトユニット2が勝手に下降する場合は、カウンターウェイトユニット2を引き上げるベース補助力指令値Fubが出力されるようにする。一方、バトンの方がカウンターウェイトユニット2より重くカウンターウェイトユニット2が勝手に上昇する場合は、カウンターウェイトユニット2を下降させるベース補助力指令値Fdbが出力されるようにする。これにより、バトンの昇降に際して必要とする操作力を均等にするとともに、バトンが静止した状態でも重力に抗してバトンを定位置に保持するために必要な手引きロープに加える力を軽減または零にできる。
【0043】
図4〜図7の各フローチャートは補助力を制御するルーチンを示しており、CPU41において一定周期毎に実行される。
【0044】
図4のフローチャートは操作者によって設定された各種補助力の値や手引きロープ3の操作を開始する前の手引きロープ3にかかる張力Fu,Fdを読み込み、その値を基にして適切なベース補助力を作用させ、また各種中間変数や係数を初期化するルーチンを示す。
【0045】
これについて説明すると、ステップS1で電源スイッチ51がOFFならばENDに進んで本処理を終了するが、電源スイッチ51がONになったことが判定されると、ステップS2からステップS3に進んで全てのフラグを初期化する。
【0046】
続くステップS4でベース補助力指令値Fub,Fdbを読み込む。ベース補助力指令値Fub,Fdbは同時に作用させることはできない設定になっている。
【0047】
続くステップS5で手引きロープ3にかかる張力Fu,Fdを読み込み、それぞれFu*,Fd*に代入する。
【0048】
続くステップS6で操作補助力指令値の上限値を算出する。この上限値は伝達力可変滑り継ぎ手20の最大伝達力に相当する補助力指令値Foutからベース補助力指令値Fub,Fdbを差し引いた値となる。
【0049】
続くステップS7でベース補助力指令値Fub,Fdbを基に補助力指令値Foutを算出し、これを電力増幅部43に出力するとともに、補助力指令値Foutの値を中間変数Fiへ記憶する。ここで補助力指令値Foutは次のようにして算出される。
(1)Fub=Fdb=0ならFout=0
(2)Fub>0かつFdb=0ならFout=Fub
(3)Fub=0かつFdb>0ならFout=Fdb
そして、ステップS5で得られた値Fu*,Fd*をそれぞれしきい値Fua,Fdaと比較して符号反転係数mが次のように算出される。
(1)Fu*≧Fuaならm=1
(2)Fu*<FuaかつFd*<Fdaならm=1
(3)Fd*≧Fdaならm=−1
続くステップS8に進んで以下の条件でウェイト2を上昇させる方向に電動機12を駆動する。
(1)ベース補助力Fub(Fub>0)を補助力指令値Foutに採用した場合
(2)ベース補助力Fub,Fdbが共に零であり、かつ上側張力Fu*がしきい値Fua以上の場合
また、以下の条件でウェイト2を下降させる方向に電動機12を駆動する。
(1)ベース補助力Fdb(Fdb>0)を補助力指令値Foutに採用した場合
(2)ベース補助力Fub,Fdbが共に零であり、かつ下側張力Fd*がしきい値Fda以上の場合
また、電動機12を以下の条件で停止する。
(1)ベース補助力Fub,Fdbが共に零であり、下側張力Fd*がしきい値Fdaより小さく、かつ上側張力Fu*がしきい値Fuaより小さい場合続くステップS9で補助開始スイッチ54の状態を判定し、これがOFFの場合にステップS10に進んでフラグSに零を代入してステップS1へ戻る。一方、これがONの場合、ステップS11に進んでフラグSに1を代入する。
【0050】
続くステップS12で操作補助力指令値の調整値Fsを読み込む。この調整値Fsの値がステップS6で算出された操作補助力指令値の上限値以内なら調整値Fsはそのままの値を読み込むが、操作補助力の上限値を超えていたら調整値Fsはこの上限値を採用する。
【0051】
続くステップS13で中間変数Fjが次のようにして算出される。
(1)Fub=Fdb=0ならFj=Fs・m
(2)Fub>0かつFdb=0ならFj=Fs・m
(3)Fub=0かつFdb>0ならFj=−Fs・m
この後アシストルーチンを実行し、アシストルーチンから戻ったときに再びステップS9へ戻る。
【0052】
図5のフローチャートは電源スイッチ51と補助開始スイッチ54がONにされた後の、補助力を作用させるルーチンを示す。
【0053】
これについて説明すると、まずステップS51にて手引きロープ3を操作する前に手引きロープ3にかかる張力の大きさを判定する。この判定に用いられる張力は手引きロープ3の非操作時に検出されたFu*,Fd*である。
【0054】
ステップS51で手引きロープ3の非操作時の下側張力Fd*がしきい値Fda以上に大きい場合、ステップS52に進んで、手引きロープ速度センサ33の検出信号を基にバトンの移動方向を判定する。ここでウェイト2の下降時(バトン上昇時)と判定された場合、後述するDownアシスト制御のルーチンに進む。
【0055】
ウェイト2の上昇時(バトン下降時)と判定された場合、ステップS53に進んで、手引きロープ3の操作時の上側張力Fuの大きさを判定する。ここで上側張力Fuがしきい値Fua以上に大きい場合、後述するUpアシスト制御のルーチンに進む。上側張力Fuがしきい値Fuaより小さい場合、ステップS54に進み、ここで手引きロープ3の移動速度が略零となるロープ操作停止時と判定された場合にアシストルーチンを終了して図4のステップS9へ進む。
【0056】
ステップS51で手引きロープ3の非操作時の上側張力Fu*がしきい値Fua以上に大きいと判定された場合、ステップS55に進んで、手引きロープ速度センサ33の検出信号を基にウェイト2の移動方向を判定する。ここでウェイト2の上昇時と判定された場合、Upアシスト制御のルーチンに進む。
【0057】
ウェイト2の下降時と判定された場合、ステップS56に進んで、手引きロープ3の操作時の下側張力Fdの大きさを判定する。ここで下側張力Fdがしきい値Fda以上に大きい場合、Downアシスト制御のルーチンに進む。下側張力Fdがしきい値Fdaより小さい場合、ステップS57に進み、ここで手引きロープ3の移動速度が略零となるロープ操作停止時と判定された場合にアシストルーチンを終了して図4のステップS9に進む。
【0058】
ステップS51で手引きロープ3の非操作時の上側張力Fu*がしきい値Fuaより小さく、かつ下側張力Fd*がしきい値Fdaより小さいと判定された場合、ステップS58に進んで、手引きロープ速度センサ33の検出信号を基にバトンの移動方向を判定する。
【0059】
ステップS58でウェイト2の下降時と判定された場合、ステップS59に進んで、手引きロープ3の操作時の下側張力Fdの大きさを判定する。ここで下側張力Fdがしきい値Fda以上に大きい場合、Downアシスト制御のルーチンに進む。下側張力Fdがしきい値Fdaより小さい場合、ステップS60に進み、ここで手引きロープ3の移動速度が略零となるロープ操作停止時と判定された場合にアシストルーチンを終了して図4のステップS9に進む。
【0060】
ステップS58でウェイト2の上昇時と判定された場合、ステップS61に進んで、手引きロープ3の操作時の上側張力Fuの大きさを判定する。ここで上側張力Fuがしきい値Fua以上に大きい場合、Upアシスト制御のルーチンに進む。上側張力Fuがしきい値Fuaより小さい場合、ステップS62に進み、ここで手引きロープ3の移動速度が略零となるロープ操作停止時と判定された場合にアシストルーチンを終了して図4のステップS9に進む。
【0061】
図6に示すフローチャートはUpアシスト制御のルーチンを示す。
【0062】
これについて説明すると、ステップS21で補助力指令値FoutをFout=Fi+Fjとして算出するとともに、これを電力増幅部43へ出力する。このFoutが負の場合は電動機12を一旦停止させ、当該負の値を正に反転させた上で電動機12を逆転させる。ステップS24に進んだときや、ステップS23でロープ操作停止と判断したときは電動機12の回転を元に戻す。ステップS22に進んで手引きロープ3の操作時の上側張力Fuがしきい値Fua以上と判定され、ステップS23でロープ操作継続時と判定された場合、上記Foutを継続して電力増幅部43に出力する。これにより、ウェイト2を上昇させる操作補助力がベース補助力に上乗せされて作用するので、操作に必要十分な補助力が得られ、バトンを速やかに下降させられる。また、図4のステップS6で操作補助力の上限値を与えることから、補助力は所定の上限値より大きくはならないので、過大となってしまうことがない。
【0063】
操作補助力指令値は操作補助力指令値調整器53を介して設定される操作補助力指令値調整値Fsによって図4のステップS6で算出される上限値以内で任意に調整できる。
【0064】
ステップS22で上側張力Fuがしきい値Fuaより小さいと判定された場合、ステップS24に進んで補助力指令値FoutをFout=Fiとして算出するとともに、これを電力増幅部43へ出力する。これにより、ワイヤーロープ1に付与される補助力がベース補助力となり、ウェイト2を略一定速度および略一定操作力で上昇させられる。
【0065】
続くステップS25でウェイト2を上昇させるロープ操作継続時と判定された場合、ステップS26に進んで手引きロープ3の操作時の下側張力Fdがしきい値Fda以上かどうかを判定する。下側張力Fdがしきい値Fda以上の場合、補助力指令値を減少させてウェイト2の上昇速度を低下させる制御が必要であると判定し、ステップS27に進んでブレーキフラグに1をたて、ステップS28で補助力指令値FoutをFout=Fi−Fj・Rとして算出するとともに、これを電力増幅部43へ出力する。ただし、Rは減速時の操作補助力指令値出力係数であり、0≦R≦1の関係がある。また、Foutが負の場合は電動機12を停止させ、当該負の値を正に反転してブレーキ力を確実に作用させる。ステップS29でロープ操作継続時と判定されると、ステップS26,27,28,29のルーチンが繰り返し実行される。これにより、ウェイト2を上昇させる補助力指令値が小さくなるので、ウェイト2の上昇速度を抑えるブレーキ効果が得られ、ウェイト2は徐々に減速して円滑に停止する。ステップS29でロープ操作停止と判断されたときは、ステップS30へ進みブレーキフラグを0にする。
【0066】
一方、ステップS26で下側張力Fdがしきい値Fdaより小さいと判定され、ステップS31でブレーキフラグに1がたっていると判定された場合、ステップS32,33に進んで、ブレーキフラグがクリアされ、補助力指令値FoutをFout=Fiとして算出するとともに、これを電力増幅部43へ出力する。これにより、ワイヤーロープ1に付与される補助力が一定となり、ウェイト2を略一定速度および略一定の操作力で上昇させられる。
【0067】
続くステップS34に進んで、上側張力Fuがしきい値Fua以上に大きいかどうかを判定する。上側張力Fuがしきい値Fua以上に大きい場合、補助力指令値を増加させる制御が必要であると判定し、再びステップS21以降のルーチンを実行する。上側張力Fuがしきい値Fuaより小さい場合、ステップS35へ進み、ロープ操作継続時はステップS26からのルーチンが繰り返される。
【0068】
ステップS23,25,29,35でロープ操作停止と判断されたときは、ステップS29からはステップS30の処理を経てからになるが、それぞれUpアシストルーチンを終了し、図5のアシストルーチンへ戻る。
【0069】
図7に示すフローチャートはDownアシスト制御のルーチンを示す。図6、図7の各フローチャートでは補助力を付与する方向が異なるが、基本的に同様の処理が行われる。
【0070】
これについて説明すると、ステップS36で補助力指令値FoutをFout=Fi−Fjとして算出するとともに、これを電力増幅部43へ出力する。このFoutが負の場合は電動機12を一旦停止し、当該負の値を正に反転させたうえで電動機12を逆転させる。ステップS39に進んだときやステップS38でロープ操作停止と判断されたときは電動機12の回転を元に戻す。ステップS37に進んで下側張力Fdがしきい値Fda以上と判定され、ステップS38でロープ操作継続時と判定された場合、上記Foutを継続して電力増幅部43に出力する。これにより、ウェイト2を下降させる操作補助力がベース補助力に上乗せされて作用するので、操作に必要十分な補助力が得られ、バトンを速やかに上昇させられる。また、図4のステップS6で操作補助力の上限値を与えることから、補助力は所定の上限値より大きくはならないので、過大になってしまうことがない。
【0071】
ステップS37で下側張力Fdがしきい値Fdaより小さいと判定された場合、ステップS39に進んで補助力指令値FoutをFout=Fiとして算出するとともに、これを電力増幅部43へ出力する。これにより、ワイヤーロープ1に付与される補助力がベース補助力となり、ウェイト2を略一定速度および略一定の操作力で下降させられる。
【0072】
続くステップS40でウェイト2が下降するロープ操作継続時と判定された場合、ステップS41に進んで手引きロープ3の操作時の上側張力Fuがしきい値Fua以上かどうかを判定する。上側張力Fuがしきい値Fua以上の場合、補助力指令値を減少させてウェイト2の下降速度を減少させる制御が必要であると判定し、ステップS42に進んでブレーキフラグに1をたて、ステップS43で補助力指令値FoutをFout=Fi+Fj・Rとして算出するとともに、これを電力増幅部43へ出力する。上記Foutが負になる場合は電動機12を停止させ。当該負の値を正に反転させてブレーキ力を確実に作用させる。ステップS44でロープ操作継続時と判定されると、ステップS41,42,43,44のルーチンが繰り返し実行される。これにより、ウェイト2を下降させる補助力指令値が小さくなるので、ウェイト2の下降速度を抑える効果が得られ、ウェイト2は徐々に減速して円滑に停止する。ステップS44でロープ操作停止と判断されたときは、ステップS45へ進み、ブレーキフラグを零にする。
【0073】
一方、ステップS41で上側張力Fuがしきい値Fuaより小さいと判定され、ステップS46でブレーキフラグに1がたっていると判定された場合、ステップS47,48に進んで、ブレーキフラグがクリアされ、補助力指令値FoutをFout=Fiとして算出するとともに、これを電力増幅部43へ出力する。これにより、ワイヤーロープ1に付与される補助力が一定となり、ウェイト2を略一定速度および略一定の操作力で下降させられる。
【0074】
続くステップS49に進んで、下側張力Fdがしきい値Fda以上に大きいかどうかを判定する。下側張力Fdがしきい値Fda以上に大きい場合、補助力指令値を増加させる制御が必要であると判定し、再びステップS36以降のルーチンを実行する。下側張力Fdがしきい値Fdaより小さい場合、ステップS50でロープ操作継続時はステップS41からののルーチンが繰り返される。
【0075】
ステップS38,40,44,50でロープ操作停止と判断されたときは、ステップS44からはステップS45の処理を経てからになるが、Downアシストルーチンを終了し、図5のアシストルーチンへ戻る。
【0076】
電力増幅部43は補助力指令値Foutを電力増幅して、伝達力可変滑り継手20を介してワイヤーロープ1に補助力を付与する。図6、図7のフローチャートで説明したように手引きロープ3を操作したときの電動機12の回転方向は、手引きロープ3の操作の有無、操作方向、あるいは補助操作力Foutの算出値に応じて切換わり、伝達力可変滑り継手20を介してワイヤーロープ1に付与される補助力がUpアシスト側またはDownアシスト側に作用して操作力を軽減する。
【0077】
手引きロープ3の移動速度が略零になると、ロープ操作停止時と判定し、操作補助力指令値を略零としてベース補助力指令値Fub,Fdbに応じた補助力のみを付与する。これにより、バトンが静止した状態でも重力に抗してバトンを定位置に保持するのに必要な手引きロープ3に加える力を軽減または零にできる。
【0078】
このようにして、カウンターウェイトユニット2とバトンの質量差に応じて設定されたベース補助力指令値Fub,Fdbが電動機12および伝達力可変滑り継手20を介して作用することにより、バトンの昇降に際して必要とする操作力を均等にするとともに、バトンが静止した状態でも重力に抗してバトンを定位置に保持するのに必要な手引きロープ3に加える力を軽減または零にできるので、操作性を改善できる。
【0079】
なお、アシスト作動停止時は電動機12をアシスト作動開始前の状態に戻す。ブレーキ作動停止時は電動機12をブレーキ作動開始前の状態に戻す。
【0080】
また、電動機12の回転速度は、バトンが最大操作速度で操作された場合にも、入力軸21と出力軸22間に必要な相対速度差が確保されるように、十分に大きな速度とする。
【0081】
次に図8に示す他の実施の形態を説明する。なお、前記実施の形態と同一構成部には同一符号を付す。
【0082】
減速機付き電動機12とトラクションシーブのの結合は固定継手で行い、伝達力可変滑り継手を廃止する。制御装置40は電動機12に供給される電圧、電流、周波数を調節する電動機駆動用電力増幅部44を備える。電動機駆動用電力増幅部44は、CPU41からの指令値に応じた補助力がワイヤーロープに付与されるように制御される。
【0083】
CPU41は、電動機12の回転速度を手引きロープ3の速度と操作補助力指令値およびベース補助力指令値に応じて制御し、ワイヤーロープ1に付与される補助力を適切に調節する。電動機12の回転速度は、この手引きロープ3の速度に対応する速度よりも僅かに大きくなるように設定される。
【0084】
この場合も、操作力に応じた補助力を必要なタイミングで与えることが可能となり、舞台の演出に対応したバトンの動きを容易に実現できる。
【0085】
電動機12は手引きロープ3の速度に応じて回転制御されることにより、エネルギーロスを低減できる。
【0086】
前記各実施の形態においては、トラクションシーブを駆動する回転アクチュエータとして電動機を使用したが、これにかえて油圧モータ等を使用することも可能である。
【0087】
また、ベース補助力指令値Fub,Fdbを電動機12等の作動を停止した状態で上側張力センサ31または下側張力センサ32の検出値に応じて自動的に設定する構成としてもよい。
【0088】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態におけるバトン昇降装置を示す正面図。
【図2】同じく電動ウィンチの側面図。
【図3】同じくバトン昇降装置の制御系を示す構成図。
【図4】同じく手引きロープを操作してバトンを動かす前に行う初期化手順を示すフローチャート。
【図5】同じく手引きロープを操作して操作補助力を作用させるときの処理手順を示すフローチャート。
【図6】同じくUpアシスト制御の処理手順を示すフローチャート。
【図7】同じくDownアシスト制御の処理手順を示すフローチャート。
【図8】本発明の他の実施の形態におけるバトン昇降装置の制御系を示す構成図。
【図9】従来のバトン昇降装置を示す正面図。
【符号の説明】
1 ワイヤーロープ
2 カウンターウェイトユニット
3 手引きロープ
10 電動ウィンチ
11 トラクションシーブ
12 減速機付き電動機
20 伝達力可変滑り継手
31 上側張力センサ
32 下側張力センサ
33 速度センサ
40 制御装置
52 操作補助力調整器
53 荷重平衡状態調整器
Claims (5)
- 手引きロープの操作でバトンを昇降させるバトン昇降装置において、前記バトンを昇降させる補助力を付与するバトン駆動手段と、前記バトンを昇降させようとする重力に対抗するベース補助力指令値を設定する荷重平衡状態調整手段と、前記手引きロープに付与される操作力を検出する操作力検出手段と、操作力に応じて前記バトンを昇降させる操作補助力指令値を演算する操作補助力指令値演算手段と、前記ベース補助力指令値と前記操作補助力指令値とを加算した補助力指令値に応じてバトン駆動手段を制御する補助力制御手段とを備え、前記操作力検出手段は前記手引きロープに生じる上側張力と下側張力を検出する構成とし、前記手引きロープの移動方向に付与される操作力がしきい値以上のときに前記手引きロープの移動方向に付与する操作補助力を増大する構成とし、前記手引きロープの移動方向と反対方向に付与される操作力がしきい値以上のときに前記手引きロープの移動方向に付与する操作補助力を減少する構成とし、前記手引きロープに付与される操作力がしきい値より小さい場合に前記補助力指令値を略一定に保ち前記手引きロープの移動方向に付与する操作補助力を一定に保つ構成としたことを特徴とするバトン昇降装置。
- 前記手引きロープの移動速度を検出する速度センサを備え、前記手引きロープの移動速度が略零になると操作補助力指令値を略零としてベース補助力指令値に応じた補助力のみを付与する構成としたことを特徴とする請求項1に記載のバトン昇降装置。
- 前記操作力検出手段として前記手引きロープの両端に生じる上側張力と下側張力を検出する張力センサを備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のバトン昇降装置。
- 前記バトン駆動手段として前記バトンを吊り下げるワイヤーロープと、前記ワイヤーロープを移動させるトラクションシーブと、前記トラクションシーブを回転駆動する回転アクチュエータと、前記回転アクチュエータからトラクションシーブへ伝達されるトルクを可変とする伝達力可変滑り継手と、を備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載のバトン昇降装置。
- 前記バトン駆動手段として前記バトンを吊り下げるワイヤーロープと、前記ワイヤーロープを移動させるトラクションシーブと、前記トラクションシーブを回転駆動する電動機と、を備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載のバトン昇降装置。
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