JP3955655B2 - 新規ジアリルヘプタノイド系化合物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なジアリルヘプタノイド系化合物およびその製造方法に関するものであり、該化合物は、飲食品、化粧品、医薬品等に配合でき、優れた細胞増殖作用および抗酸化作用を呈する。
【0002】
【従来の技術】
老化皮膚においては表皮および真皮の細胞活性の低下が見られ、そのため角質層の機能低下による乾燥肌や、真皮線維芽細胞の機能低下による弾力性の無い肌になる。このような老化皮膚の活性を回復させるために、細胞賦活剤、細胞増殖剤の探索がおこなわれている。しかしながら、例えばビタミン類やプラセンタ・エキスのような細胞賦活作用を持つ成分を化粧品に配合する試みがなされてきたものの、シワの発生や肌荒れを十分に抑える事はできなかった。
【0003】
また、生体内で生成する活性酸素は、通常、カタラーゼやスーパーオキサイドジスムターゼのような酵素により消去されているが、このような働きが不十分だったり、活性酸素が過剰に存在すると様々な組織障害が起こる。活性酸素が過剰に存在するとこれにともない過酸化脂質の生成がおこり、メラニン色素の生成、シミ、シワ等の障害をおこしやすい。さらに皮膚は、紫外線など外的環境因子の刺激による酸化傷害を直接受けやすく、皮膚表面に存在する皮脂等の脂質の過酸化が特に起こりやすい器官である。また、化粧品、食品においても、過酸化脂質が品質劣化、酸敗臭を引き起こすことは重要な問題であり、酸化防止は重要な問題である。
【0004】
上述のような各種障害を予防または治療するため、抗酸化剤を化粧品や食品に添加する試みがなされていたが、従来酸化防止のため広く用いられているブチルヒドロキシトルエン(BHT)等の合成品は安全性の面で問題があり、また、ビタミンCやビタミンEのような天然物も広く用いられているが褐変、変臭、高価というような問題がある。このように従来の抗酸化剤には安全性、安定性、経済性等問題が多く、安全で、安定な天然からの抗酸化剤の開発が望まれていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、安心で安定な、化粧品、食品、医薬品等に配合可能な、細胞増殖促進剤および抗酸化剤として有効な新規化合物およびその製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の問題点を解決すべく鋭意検討した結果、カバノキ科に属する植物等から抽出される特定のジアリルヘプタノイド系化合物がかかる効果を有することを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、その第1の態様として、5−ヒドロキシ−1,7−ビス−[4−ヒドロキシフェニル]−3−へプタノール−5−O−β−D−グルコピラノサイドの新規ジアリルヘプタノイド系化合物を提供する。
本発明の新規ジアリルヘプタノイド系化合物は、立体異性体として存在しえ、本発明においては、それらの単離された異性体およびその混合物、すなわち、(3S),(5S)−5−ヒドロキシ−1,7−ビス−[4−ヒドロキシフェニル]−3−へプタノール−5−O−β−D−グルコピラノサイド、(3R),(5S)−5−ヒドロキシ−1,7−ビス−[4−ヒドロキシフェニル]−3−へプタノール−5−O−β−D−グルコピラノサイドおよびそれらの混合物を包含する。
また、本発明は、その第2の態様として、カバノキ科に属する植物から抽出、精製することを特徴とする上記化合物の製造方法を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の新規ジアリルヘプタノイド系化合物は、各々、下式:
5−ヒドロキシ−1,7−ビス−[4−ヒドロキシフェニル]−3−へプタノール−5−O−β−D−グルコピラノサイド(以後、化合物1という)
【0009】
【化1】
Figure 0003955655
【0010】
(3S),(5S)−5−ヒドロキシ−1,7−ビス−[4−ヒドロキシフェニル]−3−へプタノール−5−O−β−D−グルコピラノサイド(以後、化合物2という)
【0011】
【化2】
Figure 0003955655
【0012】
(3R),(5S)−5−ヒドロキシ−1,7−ビス−[4−ヒドロキシフェニル]−3−へプタノール−5−O−β−D−グルコピラノサイド(以後、化合物3という)
【0013】
【化3】
Figure 0003955655
【0014】
によって示され、例えば、カバノキ科カバノキ属(例えば、シラカンバ)に属する植物から抽出、単離することによって得られる。
【0015】
本発明の化合物1は、以下に示す物理化学的性質を有している。
色・性状:白色粉末 C25349
高分解能 FAB−MS
理論値 C25349Na(M+Na+):501.2101
実測値 :501.2119
UVλmax MeOH(nm):279、224
IR(KBr、cm-1):3398、830
1H−NMR(500MHz;CD3OD):
7.03〜6.68(8H、arom-H)、4.31〜3.66(7H、suger-H)、3.20〜3.05(3H、allyl-H)、2.70〜2.50(4H、allyl-H)、1.95〜1.30(6H、allyl-H)
【0016】
つぎに、本発明の化合物2は、以下に示す物理化学的性質を有している。
色・性状:白色粉末 C25349
旋光度:[α]25 D -11.5°(c=0.8、MeOH)
高分解能 FAB−MS
理論値 C25349Na(M+Na+):501.2101
実測値 :501.2108
UVλmax MeOH[nm(logε)]:279(3.5)、224(4.1)
IR(KBr、cm-1):3398、831
1H−NMR(500MHz;CD3OD):
7.01(2H、d、J=8.6、2'-H、6'-Hあるいは2''-H、6''-H)、6.99(2H、d、J=8.6、2'-H、6'-Hあるいは2''-H、6''-H)、6.69(4H、dd、J=2.3、8.6、3'-H、5'-H、3''-H、5''-H)、4.31(1H、d、J=7.6、Glu-H1)、3.87(1H、dd、J=2.1、11.7、Glu-H6)、3.83(1H、m、5-H)、3.71(1H、dd、J=5.1、11.7、Glu-H6)、3.66(1H、m、3-H)
13C−NMR(125MHz;CD3OD):
156.3、156.2(4'-Cあるいは4''-C)、134.7(1''-C)、134.4(1'-C)、130.4、130.4、130.3、157.3(2'-C、6'-Cあるいは2''-C、6''-C)、116.1、116.1、116.0、116.0(3'-C、5'-Cあるいは3''-C、5''-C)、103.7(Glu-C1)、79.7(5-C)、78.2(Glu-C3)、77.8(Glu-C5)、75.2(Glu-C2)、71.6(Glu-C4)、69.9(3-C)、62.8(Glu-C6)、42.9(4-C)、41.2(2-C)、38.6(6-C)、32.0(1-C)、31.4(8-C)
FAB−MS(m/z):
479(M+H)+、501(M+Na)+、477(M-H)-
【0017】
そして、本発明の化合物3は、以下に示す物理化学的性質を有している。
色・性状:白色粉末 C25349
旋光度 :[α]25 D -6.1°(c=0.3、MeOH)
高分解能 FAB−MS
理論値 C25349Na(M+Na+):501.2101
実測値 :501.2130
UVλmax MeOH[nm(logε)]:279(3.4)、224(4.0)
IR(KBr、cm-1):3398、828
1H−NMR(500MHz;CD3OD):
7.03(2H、d、J=8.5、2'-H、6'-Hあるいは2''-H、6''-H)、6.99(2H、d、J=8.5、2'-H、6'-Hあるいは2''-H、6''-H)、6.68(4H、dd、J=2.7、8.5、3'-H、5'-H、3''-H、5''-H)、4.38(1H、d、J=7.6、Glu-H1)、3.94(1H、m、3-H)、3.94(1H、m、3-H)、3.91(1H、m、5-H)、3.86(1H、dd、J=2.1、11.6、Glu-H6)、3.71(1H、dd、J=5.2、11.6、Glu-H6)
13C−NMR(125MHz;CD3OD):
156.3、156.3(4'-Cあるいは4''-C)、134.7、134.6(1''-Cあるいは1''-C)、130.5、130.5、130.3、130.3(2'-C、6'-Cあるいは2''-C、6''-C)、116.1、116.1、116.1、116.1(3'-C、5'-Cあるいは3''-C、5''-C)、104.3(Glu-C1)、78.4(5-C)、78.3(Glu-C3)、77.9(Glu-C5)、75.5(Glu-C2)、71.7(Glu-C4)、68.4(3-C)、62.8(Glu-C6)、43.0(4-C)、41.3(2-C)、39.2(6-C)、32.3(1-C)、31.6(8-C)
FAB−MS(m/z):
479(M+H)+、501(M+Na)+、477(M-H)-
【0018】
以上のような物理化学的性質およびその他の検討から、本発明に係る化合物1、化合物2および化合物3は、それぞれ式1、式2および式3で示される構造を有する新規化合物であると認められた。
【0019】
本発明の新規ジアリルヘプタノイド系化合物は、カバノキ科の植物、例えば、シラカンバの樹皮細片を溶媒で加熱抽出し、濃縮した後、液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーなどの自体公知の方法で単離、精製し得る。
【0020】
【実施例】
以下に実施例をあげて本発明を更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を制限するものではない。
製造例
まず本発明の化合物の製造方法について、例を用いて説明する。
カバノキ科の植物シラカンバの樹皮細片1.5kgを3.0lの50%メタノールで3回、各3時間加熱抽出した。得られた抽出液についてメタノールのみを留去し、その際析出する不溶物を濾過する。得られた濾液について減圧下溶媒留去を行ない、シラカンバ樹皮のエキス119.2gを得た。
このエキスをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(2.1kg:φ120×430mm)に付し、クロロホルム−メタノール(4:1)〜メタノールの直線グラジエントを用いて溶出し、254nm UV光下蛍光発色型親水性シリカゲルプレート(製品名:HPTLC Silica gel 60F254)でクロロホルム:メタノール:水=65:35:10の下層を展開溶媒として展開した際、Rf値が0.21〜0.59の画分を得た。この画分を減圧下溶媒留去し、ODSクロマトレックス(富士シリシア化学製、DM1020T)のクロマトグラフィー(300g、φ80×140mm)に付し、20%メタノール〜メタノールの直線グラジエントを用いて溶出し、254nm UV光下蛍光発色型親油性アルキルシリカゲルプレート(製品名:HPTLC RP−18 WF254S)で50%メタノールを展開溶媒として展開した際、Rf値が0.39付近の画分を得た。この画分を減圧下溶媒留去し、再度同じシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、クロロホルム:メタノール:水=10:3:1の下層を用いて濃縮し、同じシリカゲルプレートでクロロホルム:メタノール:水=65:35:10の下層を展開溶媒として展開した際、Rf値が0.40付近の画分を集め、減圧下溶媒留去し、化合物2および化合物3の混合物(化合物1)87.3mgを得た。この混合物を45%メタノールを移動相とした逆相高速クロマトグラフィー(YMC社製、YMC−Pack ODS 250×20mmI.D.)により分画し、それぞれの画分を減圧下溶媒留去してそれぞれ化合物2および化合物3を得た。
【0021】
つぎに、本発明の化合物の作用について、評価方法と共に説明する。
1.表皮細胞増殖促進作用
培養細胞:表皮細胞は培養細胞として確立されているSV40トランスフォームヒトケラチノサイトを用いた。
試験方法:クリーンベンチ内において、SV40トランスフォームヒトケラチノサイトを、FBS 3%、抗生物質 1%を含むHEPES含有MCDB153培地を用いて96穴プレートに1wellあたり2000個播種し、37℃、CO2インキュベーター(5%CO2−air)中で培養した。24時間後に培養液を除去し、リノール酸 0.0002%、1M 塩化カリウム溶液 0.1%、抗生物質 1%、脂肪酸フリー牛血清アルブミン 0.01%を含むHEPES含有MCDB153培地:ダルベッコ変性イーグルMEM培地(1:1)調整培地に交換し、最終濃度0.01、0.1、1μg/mlになるよう薬物を添加して1週間培養した。培養液を除去し、ホルムアルデヒドで固定後細胞をクリスタルバイオレットにより染色し、その後メタノールで色素を抽出した後イムノリーダーで590nmの吸光度を測定した。式1:
【0022】
【数1】
Figure 0003955655
【0023】
により増殖比率を算出した。その結果を表1に示す。
【0024】
【表1】
Figure 0003955655
【0025】
表1に示すように、製造例で得られた化合物1、化合物2および化合物3には細胞増殖促進が認められた。
【0026】
2.ロダン鉄法による抗酸化作用の測定
リノール酸溶液 4.104ml、0.05M りん酸緩衝液(pH7.0) 8.0ml、エタノール 4.0ml、蒸留水 3.896mlに各濃度の検体を加えて37℃でインキュベートし、試料とする。経日的に試料を0.05mlとり、75%エタノール 4.85ml、30% ロダン鉄アンモニウム液0.05mlに2×10-2M 塩化第一鉄、3.5%塩酸溶液 0.05mlを加えよく撹拌する。正確に3分後の500nmにおける吸光度を測定した。結果を図1に示す。
【0027】
図1から明らかなように、このように製造例で得られた化合物2と化合物3の混合物はα−トコフェロールと同等の抗酸化作用を有していると認められた。
【0028】
3.TBA法による抗酸化作用の測定
2.で用いた試料2.0mlを、0.67% チオバルビツール酸 1.0ml、20% トリクロロ酢酸 2.0mlに加え、沸騰水浴で10分間加熱する。流水で冷却後遠心分離(3,000rpm×20分間)した後、目的層をとり、532nmにおける吸光度を測定する。この操作をインキュベート初日と33日目に行い、これらの吸光度差を用いて式2:
【0029】
【数2】
Figure 0003955655
【0030】
により過酸化抑制率(%)を算出した。結果を表2に示す。
【0031】
【表2】
Figure 0003955655
【0032】
表2から明らかなように、このように製造例で得られた化合物2と化合物3の混合物はα−トコフェロールと同等の過酸化脂質生成抑制作用を有していた。
【0033】
【発明の効果】
本発明によれば、例えば、化粧品、医薬品、食品などの分野で、それぞれ角化細胞増殖促進剤、過酸化脂質生成抑制剤、抗酸化剤などの用途に利用できる新規な化合物が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の化合物および既知の抗酸化剤の経日的な抗酸化作用を示す折れ線グラフである。

Claims (6)

  1. 5−ヒドロキシ−1,7−ビス−[4−ヒドロキシフェニル]−3−ヘプタノール−5−O−β−D−グルコピラノサイドである新規ジアリルヘプタノイド系化合物。
  2. (3S),(5S)−5−ヒドロキシ−1,7−ビス−[4−ヒドロキシフェニル]−3−ヘプタノール−5−O−β−D−グルコピラノサイドである請求項1記載の化合物。
  3. (3R),(5S)−5−ヒドロキシ−1,7−ビス−[4−ヒドロキシフェニル]−3−ヘプタノール−5−O−β−D−グルコピラノサイドである請求項1記載の化合物。
  4. 請求項2記載の化合物と請求項3記載の化合物との混合物である請求項1記載の化合物。
  5. カバノキ科に属する植物から抽出、精製することを特徴とする請求項1記載の化合物の製造方法
  6. 請求項1記載の化合物を配合した化粧品。
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