JP3955240B2 - アクリル系エマルション型粘着剤及び粘着シート - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面基材と該表面基材上に形成されたアクリル系エマルション型粘着剤からなる粘着剤層とを有する粘着シート、及びアクリル系エマルション型粘着剤に関する。さらに詳しくは、難接着性のポリオレフィン等に対しても強い粘着力を発揮し得るアクリル系エマルション型粘着剤と、これを使用した粘着シートに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、粘着シートに用いられる粘着剤としては、粘着性ポリマーを有機溶剤に溶解させた溶剤型粘着剤が多く使用されてきたが、近年、環境保護、作業環境の安全性、省資源、コスト等の観点から、有機溶剤を用いない無溶剤型のものへの切り替えが進められている。無溶剤型粘着剤のうち、粘着性ポリマーを水性媒体に分散させたエマルション系粘着剤は、幅広い種類の粘着性ポリマーに適用できる汎用性、可使時間が長いなどの作業性の点から、特に好適とされている。
このようなエマルション型粘着剤では、水不溶性の粘着性ポリマーを水性媒体中に分散させるため、乳化剤等の分散剤が必要であり、この分散剤が水溶性物質であることから、粘着剤皮膜の耐水性が劣るという問題がある。
【0003】
このため、国際公開WO96/29373号や特開2000−198973号公報に開示されているように、親水性の高い特定の種類の分散剤や粘着付与剤とともに、これらの分散剤や粘着付与剤と化学結合し得る化合物を配合したエマルション型粘着剤が提案されている。この種の粘着剤によれば、皮膜化後に前記両物質が反応することによって、分散剤や粘着付与剤の親水性が低下するので、耐水性の高い粘着剤製品を得ることができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述のエマルション型粘着剤によっても、粘着シートの耐水性、耐洗剤性、基材密着性が十分ではなく、粘着シートが温水や、洗剤液等に接触する状況では、浮いたり剥がれたりするおそれがある。また、粘着剤が吸湿、吸水することにより白化して外観が損われるという問題がある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、耐水性、耐洗剤性、耐水白化性、基材密着性に優れたアクリル系エマルション型粘着剤、及びこれを用いた粘着シートを提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するための本発明のアクリル系エマルション型粘着剤は、
ガラス転移温度が−80〜−20℃、重量平均分子量15万以上、かつカルボキシル基による酸価が30以下の粘着性ポリマー(A)、
重量平均分子量が10万以下で、アルカリ化する前のカルボキシル基による酸価が190以上であり、このカルボキシル基の一部または全部がアルカリ塩となっているカルボキシル基含有ロジン誘導体(B)、
重量平均分子量が10万以下で、カルボキシル基を有しておらず、かつカルボキシル基と反応し得る官能基を1分子中に少なくとも1個有する化合物(C)、
重量平均分子量が10万以下で、酸価が190未満の粘着付与剤(D)、
重量平均分子量が10万以下で、分子中にロジン骨格を有しておらず、1分子中に少なくとも1つのカルボキシル基を持ち、このカルボキシル基の一部または全部がアルカリ塩となっているカルボキシル基含有乳化剤(E)、および
ノニオン型の浸透剤(F)
を必須として含むことを特徴とするアクリル系エマルション型粘着剤である。
また、前記課題を解決するための本発明の粘着シートは、表面基材と該表面基材上に形成された粘着剤層とを有する粘着シートであって、前記粘着剤層を構成する粘着剤が上記アクリル系エマルション型粘着剤であることを特徴とする粘着剤シートである。
【0006】
前記アクリル系エマルション型粘着剤としては、予め、前記カルボキシル基含有乳化剤(E)で前記粘着付与剤(D)を水分散体化したものを、前記粘着性ポリマー(A)と前記カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)と前記化合物(C)とを含むエマルションに添加して得られたものとすることが好ましい。
前記粘着付与剤(D)の水分散体化にあたっては、前記粘着付与剤(D)100質量部に対し、前記カルボキシル基含有乳化剤(E)を0.5〜20質量部用いることが好ましい。
【0007】
また、前記アクリル系エマルション型粘着剤が、前記粘着性ポリマー(A)100質量部に対し、前記カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)、前記粘着付与剤(D)および前記カルボキシル基含有乳化剤(E)を合計で2〜100質量部含んでおり、かつ、前記化合物(C)を、前記カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)と前記カルボキシル基含有乳化剤(E)の有するカルボキシル基の合計1当量に対し、前記化合物(C)の有する前記官能基が0.05〜10当量となるように含んでいることが好ましい。
前記粘着付与剤(D)としては、ロジン誘導体を用いることが好ましい。
【0008】
前記表面基材としては、ポリオレフィン系フィルムまたはポリエステル系フィルムを用いて形成することが好ましい。前記ポリオレフィン系フィルムまたはポリエステル系フィルムとしては、二軸延伸されたフィルムが好ましい。特に、ポリプロピレンフィルムが好ましい。
前記表面基材には、前記粘着剤層を形成しない面に、印刷受容層を設けることが好ましい。前記印刷受容層としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、SBR樹脂、ポリオレフィン樹脂、酢酸ビニル樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むものが好ましい。特に、オキサゾリン基変性樹脂を含有するものが好ましい。
前記粘着剤層の前記表面基材と反対の面は、剥離シートにより保護しておくことが好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、実施の形態に基づいて、本発明を詳しく説明する。
本実施の形態の粘着シートは、表面基材と該表面基材上に形成された粘着剤層とを有する粘着シートである。
【0010】
まず、本実施の形態の粘着剤層を構成する粘着剤について説明する。
この粘着剤は、
ガラス転移温度が−80〜−20℃、重量平均分子量15万以上、かつカルボキシル基による酸価が30以下の粘着性ポリマー(A)、
重量平均分子量が10万以下で、アルカリ化する前のカルボキシル基による酸価が190以上であり、このカルボキシル基の一部または全部がアルカリ塩となっているカルボキシル基含有ロジン誘導体(B)、
重量平均分子量が10万以下で、カルボキシル基を有しておらず、かつカルボキシル基と反応し得る官能基を1分子中に少なくとも1個有する化合物(C)、
重量平均分子量が10万以下で、酸価が190未満の粘着付与剤(D)、
重量平均分子量が10万以下で、分子中にロジン骨格を有しておらず、1分子中に少なくとも1つのカルボキシル基を持ち、このカルボキシル基の一部または全部がアルカリ塩となっているカルボキシル基含有乳化剤(E)、および
ノニオン型の浸透剤(F)を必須成分として含むアクリル系エマルション型粘着剤である。
【0011】
このアクリル系エマルション型粘着剤においては、カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)を、アルカリ塩の形でエマルション中に安定に存在させるとともに、粘着付与剤(D)をカルボキシル基含有乳化剤(E)によりエマルション中に安定に存在させている。
また、皮膜化後に、カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)とカルボキシル基含有乳化剤(E)の持つカルボキシル基を化合物(C)と化学反応させてその親水性を失わせることによって、良好な耐水性を維持しつつ、カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)や粘着付与剤(D)の持つ粘着力改質効果を発揮させている。
さらに濡れ剤としてノニオン型浸透剤(F)を必須成分として含むことにより、耐水性、耐水白化性などの物性を劣化させることなく、耐エッジリフト性、耐洗剤性、表面基材との密着性、剥離シート(以下、剥離ライナーまたはセパレータということがある)への塗布性の向上を図っている。
【0012】
以下、粘着剤各成分について詳細に説明するが、以下の説明において、単に「ポリマー」というときは、ホモポリマーはもとより、コポリマーや三元以上の共重合体も含まれるものとする。
【0013】
本実施の形態のアクリル系エマルション型粘着剤の第1の必須成分は、粘着性ポリマー(A)である。この粘着性ポリマー(A)は、一般に粘着剤製品が使用される温度域において粘着性を示すとともに、通常、単独では水およびアルカリ水溶液に溶解せず、水溶性の乳化剤によって乳化されて水分散体(エマルション)を形成することができる物質である。
【0014】
または、粘着性ポリマー(A)を合成する際、そのモノマーとの反応性を有する反応性乳化剤(例えば、エチレン性不飽和二重結合などの官能基を有するものなど)を使用することにより得られるようなポリマーも、粘着性ポリマー(A)として好ましく使用できる。このようなポリマーは、乳化重合の際、粘着性ポリマー(A)の分子鎖中に、反応性乳化剤が化学的に結合して組み込まれ、その結果、他の乳化剤の助けがなくても、自らでエマルションになるものである。
【0015】
粘着性ポリマー(A)としては、ガラス転移温度(Tg)が−80〜−20℃のものを用いる。Tgが−20℃より高いポリマーは、常温で粘着性が発現しないことがあるので、ポリマーが粘着性を示す目安として、上記Tg要件を定めている。ただし、Tgが−80℃より低くなると、高温凝集力が低下する傾向にあるため、好ましくない。
【0016】
ポリマーのTg(K)は、DSC(示差走査熱量測定装置)やDTA(示差熱分析装置)によっても求めることができ、あるいは、主要なホモポリマーであれば、既知のデータを用いることができる。また、コポリマーや共重合体のTg(K)は、「POLYMER HANDBOOK 第3版」(John Wiley & Sons, Inc.発行)に記載された各ホモポリマーのTg(K)を元にして、下記式に基づき、計算により簡単に求められる。
【0017】
【数1】
【0018】
ここで Wn ;各単量体の質量分率(%)
Tgn;各単量体のホモポリマーのTg(K)
【0019】
粘着性ポリマー(A)は、重量平均分子量(Mw)が15万以上である。このMwが15万より小さいと、粘着特性が劣ったものとなるため好ましくない。ポリマーの分子量は、一般に、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の値である(Mw、Mnとも、以下同じ)。ただし、分子量が大きい(Mwが約150万以上)ポリマーはGPC測定の際に用いられる溶媒(THF;テトラヒドロフラン)に溶解しなくなり、GPCによる分子量測定自体が不可能となるので、正確なMwは不明となる。しかし、換言すれば、THFに溶解しないポリマーは、Mwがだいたい150万以上であることが明らかなので、本実施の形態において好ましく用いることができる。
【0020】
粘着性ポリマー(A)は、酸価(カルボキシル基価)が30以下であり、さらに好ましくは酸価は15以下であり、特に好ましくは5以下である。ここで、本実施の形態における「酸価」とは、カルボキシル基を含有する化合物1gを適切な良溶媒に溶解して、KOHで中和滴定を行ったときに要したKOH量をmgで表した値である。
粘着性ポリマー(A)の酸価が30を超えると、Tgが−20℃よりも高くなることが多く、好ましくない。また、後述の「化合物(C)」が、該ポリマー中のカルボキシル基と反応して、ポリマー鎖が架橋してしまうので、粘着剤の粘着力が低下してしまうため好ましくない。
【0021】
粘着性ポリマー(A)としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主な構成成分とするアクリル系ポリマーが用いられる。
アクリル系ポリマーを構成する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等の炭素数4〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、これらのエステルを1種、または2種以上混合して、使用することができる。
【0022】
これらのアクリル系ポリマーは、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルのみで構成されていてもよいが、その他のモノマーを共重合させてもよい。そのときは、粘着特性の観点から、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル類をモノマー全体の60質量%以上用いることが好ましい。
その他のモノマーの例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸シクロアルキル類、炭素数3以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル類、カルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルのようなヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族不飽和炭化水素類、ビニルエステル類、メチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、アクリロニトリル等の不飽和シアン化合物、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等の窒素原子含有モノマー等、あるいはイソプレンやブタジエンを共重合させても良い。
【0023】
粘着性ポリマー(A)を合成するには、溶液重合法、塊状重合法等も利用可能であるが、乳化重合法によれば、粘着性ポリマー(A)をエマルション化された状態で簡単に得ることのできるので、好ましい。
【0024】
一般的な乳化重合に用いられる乳化剤としては、スルホン酸塩基やカルボキシレート基等の親水基と、炭化水素基等の疎水基を併せ持ち、乳化能を有する化合物であればよい。しかし、本実施の形態では、通常の乳化重合の条件下(0〜95℃)で、カルボキシル基と反応し得る官能基を持たないものを用いる(このような乳化剤を、以下、単に、「乳化剤(a)」という)。これは、カルボキシル基と反応し得る官能基を持つ化合物(C)が当該エマルション中に存在しているため、乳化剤(a)は、そのような官能基を持つ必要がないからである。
【0025】
さらに、乳化剤(a)は、重量平均分子量Mwが10万以下のものとする。分子量が小さい方がエマルションの表面張力を低下させる効果が高く、塗工性に優れるためである。この観点から、乳化剤(a)のMwは1万以下が好ましく、3000以下がより好ましい。なお、乳化剤(a)の酸価は、185以下とすることが、耐水性の点から好ましい。
【0026】
乳化剤(a)の種類としては、特に限定されない。例えば、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルアリル硫酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物等のアニオン型乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、アルキルアルカノールアミド、「SR−200」(荒川化学社製)、「レオコール」シリーズおよび「ライオノール」シリーズ(いずれもライオン社製)等のノニオン型乳化剤等が使用可能である。また、後述のカルボキシル基含有乳化剤(E)を用いてもよい。
【0027】
さらに、乳化重合時の乳化安定性に優れたカルボキシル基含有オリゴマー型乳化剤である、国際公開WO96/29373号に開示された分散剤(乳化剤)(以下、単に「乳化剤(b)」という。)を用いてもよい。この乳化剤(b)は、不飽和カルボン酸(例えばアクリル酸)を必須成分として含む重合性モノマーを炭素数が6〜18のアルキルメルカプタンの存在下に重合して得られる水溶性若しくは水分散性オリゴマーである。
【0028】
なお、以上の乳化剤(a)および(b)は、上述の反応性乳化剤とは異なり、粘着性ポリマー(A)用モノマーとの反応性は持っていない。従って、エマルション中では、これらの乳化剤(a)および(b)は、粘着性ポリマー(A)に吸着しているが、化学的に結合してはいない。また、これらの乳化剤(a)および(b)は、粘着性ポリマー(A)、後述のカルボキシル基含有ロジン誘導体(B)、化合物(C)、粘着付与剤(D)のいずれの化合物とも異なる化合物である。
【0029】
さらなる耐水性向上のためには、粘着性ポリマー(A)の合成用の乳化剤として、粘着性ポリマー(A)用のモノマーとの反応性を有する乳化剤、すなわち、エチレン性不飽和二重結合を有する反応性乳化剤(以下、「反応性乳化剤(c)」または単に「乳化剤(c)」という。)を使用することが好ましい。反応性乳化剤(c)を用いて乳化重合を行うと、粘着性ポリマー(A)用のモノマーの有するエチレン性不飽和二重結合と反応して、粘着性ポリマー(A)の分子鎖に反応性乳化剤(c)が重合反応で結合する。その結果、粘着性ポリマー(A)と反応性乳化剤(c)とが一体化して、エマルション中に反応性乳化剤(c)が単一の分子で存在しなくなるので、耐水性を低下させることがなくなるからである。
【0030】
二重結合を有する反応性乳化剤(c)の具体例は、以下の通りである。これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
【0031】
【化1】
【0032】
上記化学式1(ただしR1〜R3はアルキル基、または水素)で示されるアルケニル基を含有する場合、具体的には、R1がメチル基、R2およびR3が水素であるプロペニル基(CH3−CH=CH−)を有するものとしては、例えば、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテルの硫酸エステルアンモニウム塩:市販品として、「アクアロンHS」シリーズおよび「アクアロンBC」シリーズ(第一工業製薬社製)などのプロペニル基含有アニオンタイプ、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル:市販品として、「アクアロンRNシリーズ」(第一工業製薬社製)などのプロペニル基含有ノニオンタイプがある。
【0033】
また、アリル基(CH2=CH−CH2−)を有する反応性乳化剤も使用可能である。具体的には「アデカリアソープSE、SR」シリーズ(旭電化社製)、「エレミノールJS」シリーズ(三洋化成社製)、「ラテムル」シリーズ(花王社製)、「アクアロンKH」シリーズ(第一工業製薬社製)などのアリル基含有アニオンタイプ、「アデカリアソープNE,ER」シリーズ(旭電化社製)などのアリル基含有ノニオンタイプ、「RF−751」(日本乳化剤社製)などのアリル基含有カチオンタイプがある。
【0034】
【化2】
【0035】
上記化学式2(ただしRはアルキル基、または水素)で示される(メタ)アクリロイル基を含有する反応性乳化剤も使用可能である。市販品として、「エレミノールRS」シリーズ(三洋化成社製)、「Antox」シリーズ(日本乳化剤社製)等の(メタ)アクリロイル基含有アニオンタイプ、「RMA−560」シリーズ(日本乳化剤社製)等の(メタ)アクリロイル基含有ノニオンタイプがある。
これらの中でも、環境ホルモンの問題から、アルキルフェノール誘導体でないものを用いることが好ましい。
【0036】
乳化重合に際しては、乳化剤(a)〜(c)は、粘着性ポリマー(A)用のモノマー100質量部に対して0.5〜10質量部の範囲で使用する。上記した各種乳化剤(a)〜(c)を二種以上混合して用いてもよい。なお、乳化重合法は公知の条件で行うことができ、これにより粘着性ポリマー(A)のエマルションが得られる。
【0037】
エマルション状態での粘着性ポリマー(A)の平均粒子径は、1000nm以下が好ましい。より好ましくは、500nm以下、さらに好ましくは300nm以下である。できるだけ平均粒子径が小さい方が緻密な皮膜を形成でき、耐水性等の特性向上につながるからである。エマルションの平均粒子径の測定法としては、(1)電子顕微鏡写真法、(2)石鹸滴定法、(3)光散乱法、(4)遠心沈降法等が挙げられる。本発明の下記実施例では、光散乱法を採用した。
【0038】
本実施の形態のアクリル系エマルション型粘着剤の第2の必須成分は、カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)である。これは、ロジン誘導体のうち、重量平均分子量が10万以下で、アルカリ化する前のカルボキシル基による酸価が190以上であり、このカルボキシル基の一部または全部がアルカリ塩となっているものである。以下の説明では、このアルカリ化されたカルボキシル基含有ロジン誘導体(B)に対して、アルカリ化する前の遊離のカルボキシル基を含有するロジン誘導体を、ロジン誘導体(B’)ということにする。
【0039】
一般に、ロジン誘導体とは、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンに大別される松由来の天然ロジンのほか、水素添加ロジン(水添ロジン)、不均化ロジン、重合ロジン、ロジンエステル等の各種ロジン類を指す。天然ロジンの主成分は、アビエチン酸、レボピマル酸、ネオアビエチン酸等であり、いずれも分子中に環構造を有している。また、水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、ロジンエステルなどは、一般に、天然ロジンに水素添加、不均化、重合、エステル化などの各種処理を加えたものである。
【0040】
ロジン類は、よく知られているように、粘着付与剤として作用し、ロジン類の持つ粘着力改善効果によって、エマルション型粘着剤の皮膜化により得られる粘着剤皮膜の粘着力を向上させることができる。しかし、粘着シートを製造するため、例えば、シリコーン樹脂によって剥離処理されたような低表面エネルギーの基材上に、ロジン類を含む粘着性のエマルションを塗布すると、エマルションが弾いてしまって(塗膜にならずに、多数の液滴状になる)塗工が難しい。これを防ぐため、本実施の形態では、酸価が190以上のロジン誘導体(B’)を用い、アルカリ化により、粘着性のエマルション中にアルカリ化されたロジン誘導体(B)を存在させる。
【0041】
ロジン類は元来カルボキシル基を有しているが、大抵のロジン類は、カルボン酸変性が行われていなければ、酸価が190以上にはならない。従って、酸価が190以上のロジン誘導体(B’)を得るためには、例えば、酸価が190未満のロジン類に、アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボン酸を反応させて、カルボン酸変性を行い、ロジン中にカルボキシル基を導入することが好ましい。
ロジン誘導体(B’)の原料となる未変性ロジン類としては、特に水添ロジンが好ましく、粘着剤の耐候性および耐黄変性の向上に有用である。
【0042】
ロジン誘導体(B’)は、粘着付与性を有しているが、酸価が190以上であるので、後述する酸価190未満の粘着付与剤(D)とは異なる。また、カルボキシル基を含有しているが、ロジン骨格を有している点で、後述するカルボキシル基含有乳化剤(E)とは異なる。
【0043】
ロジン誘導体(B’)は、エマルションに配合された後にはアルカリ化され、カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)として存在する。このカルボキシル基含有ロジン誘導体(B)は、そのカルボキシル基がアルカリ塩となることによって、アルカリ性のエマルションの水相に溶解した状態と、ロジン誘導体(B’)および(B)自体の油滴がカルボキシル基またはカルボキシル基のアルカリ塩基によって安定化されてエマルション化した状態とで存在していると考えられる。
【0044】
また、アルカリ塩にされたカルボキシル基含有ロジン誘導体(B)の一部は、粘着性ポリマー(A)の油滴に吸着した状態で存在しているとも考えられ、ポリマー油滴を安定化させる乳化剤としても作用している。これらの作用が総合されて、エマルション中でカルボキシル基含有ロジン誘導体(B)が安定に存在しているのである。なお、アルカリ性とは、pH7以上の状態を指す。
【0045】
従って、カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)の存在によって、アルカリ塩となったカルボキシル基含有ロジン誘導体(B)がエマルションに溶解し、エマルションの動的表面張力を低下し、エマルションが安定化するとともに、塗布の際のエマルションの弾きが抑制され、塗布性が改善する。
【0046】
エマルション中、カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)が安定に存在するためには、アルカリ塩となる前のカルボキシル基含有ロジン誘導体(B’)の酸価が190以上でなければならない。より好ましくは、ロジン誘導体(B’)の酸価は210以上である。これにより水中(エマルション中)での安定性が向上する。
【0047】
ロジン誘導体(B’)の酸価が190未満では、ロジン誘導体(B’)の有するカルボキシル基の全部をアルカリ塩基にしても、エマルション中でカルボキシル基含有ロジン誘導体(B)が安定に存在できなくなる。すなわち、他の乳化剤でロジン誘導体(B’)の油滴を乳化しないと、エマルション中でロジン誘導体(B’)粒子同士が融着して、凝集沈降してしまうという不都合が起こる。しかしながら、これをエマルション中に安定に分散させるため、他の乳化剤を多量に添加すれば、この乳化剤の存在が粘着剤皮膜の耐水性を悪化させる。いずれにしても、耐水性と粘着性に優れた粘着シートを得るためには好ましくない。
【0048】
ただし、ロジン誘導体(B’)の酸価があまりにも大きいと、化合物(C)による親水性喪失作用があっても、粘着剤製品の耐水性が劣ったものとなることがある。このため、ロジン誘導体(B’)の酸価は270以下に抑えることが好ましい。
【0049】
カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)をエマルション中に存在させるためには、粘着性ポリマー(A)のエマルションを合成した後、アンモニア水等のアルカリ水溶液を添加してエマルションをアルカリ性にしてから、酸価190以上のロジン誘導体(B’)をエマルションに添加する方法が簡便であり、添加されたロジン誘導体(B’)のカルボキシル基の一部または全部がアルカリ塩となって、カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)となる。
【0050】
カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)は、上述のように乳化剤の力を借りなくても、エマルション中で安定に存在しているので、エマルション中の乳化剤(前述の乳化剤(a)〜(c)と後述のカルボキシル基含有乳化剤(E)との合計)の絶対量を減らすことができる。さらに、エマルションを皮膜化した後は、アルカリ分が飛散するので、皮膜中には、ロジン誘導体(B’)に由来する多数のカルボキシル基が遊離して存在することとなるが、本実施の形態では、このカルボキシル基と、後述する化合物(C)の持つ「カルボキシル基と反応し得る官能基」との化学反応によって、前記遊離のカルボキシル基を消費してその親水性を消失させることができるため、皮膜の耐水性が優れたものとなる。
【0051】
ロジン誘導体(B’)の重量平均分子量(Mw)は10万以下とする。Mwが10万を超えると、ロジン誘導体(B’)と粘着性ポリマー(A)との相溶性があまりよくない場合、得られる皮膜の透明性が悪くなることがある。Mwが1万以下が好ましく、より好ましくは6000以下、さらに好ましくは3000以下である。一方、Mwが100より小さいと粘着力を改質する効果に乏しいため、Mwは100以上とすることが好ましい。
【0052】
また、ロジン誘導体(B’)は、軟化点が200℃以下のものを選択することが好ましい。より好ましい軟化点の範囲は80〜180℃である。80℃より低い軟化点を有するロジン誘導体(B’)を使用すると、粘着剤の凝集力が劣る傾向にある。しかし、粘着剤製品を比較的低温で使用することが予想される場合や、粗面接着性を重視する場合は、80℃より低い軟化点のロジン誘導体(B’)を使用してもよい。
【0053】
ロジン誘導体(B’)の配合比は、粘着性ポリマー(A)100質量部に対し、1〜50質量部とすることが好ましい。1質量部より少ないと粘着特性を改善する効果に乏しく、50質量部を超えると粘着特性のバランスが崩れてしまうため好ましくない。より好ましい下限は2質量部であり、さらに好ましい下限は4質量部である。また、より好ましい上限は30質量部であり、さらに好ましい上限は20質量部である。
【0054】
本実施の形態のアクリル系エマルション型粘着剤の第3の必須成分は、化合物(C)である。これは、カルボキシル基を有しておらず、かつ、カルボキシル基と反応し得る官能基を1分子中に少なくとも1個有する。この化合物(C)は、アクリル系エマルション型粘着剤の皮膜化後に、ロジン誘導体(B’)や、後述するカルボキシル基含有乳化剤(E)の持つカルボキシル基と化合物(C)との官能基とを化学反応させて、カルボキシル基の親水性を失わせ、皮膜の耐水性を向上させるために用いられる。
【0055】
従って化合物(C)は、カルボキシル基と反応することのできる官能基を1個以上有している必要がある。このような官能基としては、エポキシ基、アジリジニル基、オキサゾリニル基、イソシアネート基や、カルボジイミド構造等が挙げられる。ただし、イソシアネート基を有する化合物(C)を用いる場合には、イソシアネート基がエマルションの媒体である水と反応してしまうので、イソシアネート基がブロックされているもの(ブロックイソシアネート)を用いることが好ましい。
【0056】
化合物(C)自体は、カルボキシル基を持っていてはならない。化合物(C)がカルボキシル基を持っていると、化合物(C)の持つ上記官能基と反応するため、化合物(C)同士で反応して上記官能基を消費してしまい、化合物(C)として必要なカルボキシル基との反応性を失ってしまうからである。化合物(C)は、上記のように皮膜化後の化学反応時に必要であるので、エマルションを皮膜化する前に、エマルション中に存在していればよい。皮膜化後における化合物(C)とカルボキシル基との反応は、150℃以下で行うことが好ましい。より好ましくは100℃以下であり、さらに好ましくは40℃以下である。
【0057】
化合物(C)は、皮膜化後の耐水性に優れることから油溶性であることが好ましい。重量平均分子量Mwが10万以下のものを用いる。Mwは1万以下がより好ましく、5000以下がさらに好ましい。あまり分子量が高いと、化合物(C)が、エマルション中へ溶解または分散しにくくなるためである。
【0058】
化合物(C)の具体例としては、下記の通りである。
エポキシ基含有化合物としては、プロピレンオキサイド等の脂肪族オキサイド類、スチレンオキサイド等の芳香族オキサイド類、シクロヘキセンオキサイド等の脂環式エポキシド類、ブチルグリシジルエーテル、「エポライトM−1230」(共栄社油脂化学工業社製)等の脂肪族グリシジルエーテル類、フェニルグリシジルエーテル等の芳香族グリシジルエーテル類、グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジルエステル類、「TETRAD」シリーズ(三菱瓦斯化学社製)等のグリシジルアミン化合物、「デナコール」シリーズ(ナガセ社製)等のポリグリシジルエーテル類等が例示される。
【0059】
アジリジニル基含有化合物としては、ブチルアジリジン等の脂肪族アジリジン類、フェニルアジリジン等の芳香族アジリジン類、2−(1−アジリジニル)エチル(メタ)アクリレート等の不飽和基含有アジリジン類、「ケミタイト」シリーズ(日本触媒社製)等が例示される。
【0060】
オキサゾリニル基含有化合物としては、2−メチルオキサゾリン等の脂肪族オキサゾリン類、2−フェニルオキサゾリン等の芳香族オキサゾリン類、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン等の不飽和基含有オキサゾリン類、「エポクロス」シリーズ(日本触媒社製)等が例示される。
【0061】
イソシアネート基含有化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等の汎用イソシアネート類、「デスモジュールAPステーブル」・「デスモジュールCTステーブル」(住友バイエル社製)等のブロックポリイソシアネート類、「デスモカップ11」等のブロックイソシアネート含有プレポリマー類、「エラストロン」シリーズ、「エラストロンBN」シリーズ等の水分散型ブロックイソシアネート(第一工業製薬社製)類等が例示される。
【0062】
カルボジイミド化合物としては、「カルボジライト」シリーズ(日清紡社製)、「ユカーリンクXL−29SE」(ユニオンカーバイド社製)等が例示される。
【0063】
上記例示の化合物のうち、特に、グリシジルアミン化合物(「TETRAD−C」、「TETRAD−X」;三菱瓦斯化学社製)やアジリジニル基含有化合物(「ケミタイトPZ−33」、「ケミタイトDZ−22」;日本触媒社製)等は、反応性が高いため、特に好適である。
【0064】
化合物(C)は、カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)とカルボキシル基含有乳化剤(E)の有する総カルボキシル基(アルカリ塩となっているものも含む。実質的には、ロジン誘導体(B’)と乳化剤(E)の有するカルボキシル基の合計量である)の合計を1当量としたときに、化合物(C)が有しているカルボキシル基と反応し得る官能基が、0.05〜10当量の範囲となるように用いることが好ましい。0.05当量未満では、耐水性の向上効果が不充分となることがあり、10当量を超えると、ロジン誘導体(B’)の粘質特性改質効果が不十分となることがある。より好ましい下限は、0.1当量であり、上限は5当量である。
【0065】
本実施の形態のアクリル系エマルション型粘着剤の第4の必須成分は、粘着付与剤(D)である。これは、粘着付与性を有する物質のうち、重量平均分子量が10万以下で、酸価が190未満のものである。カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)も広義の粘着付与剤であるが、酸価が高いため、化合物(C)との反応量のバランスをとるのが難しく、配合比の制約が大きい。従って、粘着剤中に、酸価が190未満の粘着付与剤(D)を併せ用いることにより、該粘着剤のタック性、粘着力を改善し、耐エッジリフト性、耐洗剤性を向上させることができる。
【0066】
粘着付与剤(D)としては、重量平均分子量(Mw)が10万以下のものを用いる。好ましくはMwが1万以下であり、より好ましくは6000、さらに好ましくは3000以下である。一方、Mwが100より小さいと粘着力を改質する効果に乏しいため、Mwは100以上が好ましい。
【0067】
粘着付与剤(D)は、酸価が190未満でなければならない。これは、カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)とは異なり、化合物(C)に拘束されずにタック力を発現させるためである。より好ましい酸価の上限は50であり、さらに好ましくは30である。
【0068】
粘着付与剤(D)としては、ロジン誘導体(B’)の酸変性前のロジン類、すなわち、ガムロジン、ウッドロジン、トールロジン、水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等や、これらのロジン類のグリセリンエステル等のロジンエステル類等のロジン系樹脂のほか、テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂等のテルペン系樹脂等の天然樹脂系粘着付与剤が使用可能である。また、脂肪族系(C5系)石油樹脂、芳香族系(C9系)石油樹脂、共重合系(C5/C9)石油樹脂、脂環族系石油樹脂等の石油樹脂;クマロン・インデン樹脂、スチレン系石油樹脂等の重合系樹脂;フェノール系樹脂、キシレン樹脂等の縮合系樹脂等で代表される合成樹脂系粘着付与剤も用いることができる。粘質付与剤(D)の軟化点については、前記したロジン誘導体(B’)を選択するときと同様の基準を採用すればよい。
中でも、粘着特性の改質効果に優れ、かつカルボキシル基含有ロジン誘導体(B)との親和性の高い点で、ロジン類やロジンエステル類が好ましく使用できる。
【0069】
酸変性を行っていないロジン類や、その他の上記の各種粘着付与剤は、通常官能基を有しておらず、有しているとしてもカルボキシル基および/またはヒドロキシル基であり、この点で、粘着付与剤(D)と、カルボキシル基と速やかに反応し得る官能基を有している化合物(C)とは異なる化合物である。
これらの粘着付与剤(D)は、油溶性であり、単独では水に溶解しないため、エマルション型粘着剤中に分散させるために、カルボキシル基含有乳化剤(E)を用いる。
【0070】
本実施の形態のアクリル系エマルション型粘着剤の第5の必須成分はカルボキシル基含有乳化剤(E)である。これは、粘着付与剤(D)を安定に水分散体化するために用いられ、重量平均分子量(Mw)が10万以下で、分子中にロジン骨格を有さず、1分子中に少なくとも1つのカルボキシル基を持ち、このカルボキシル基の一部または全部がアルカリ塩となっているものである。以下、カルボキシル基含有乳化剤(E)を、単に乳化剤(E)という。
【0071】
この乳化剤(E)は、油溶性の粘着付与剤(D)をエマルションの水媒体中に分散させて、安定なエマルション状態を保つために必要な成分である。従って、乳化剤(E)は、水に分散または溶解して粘着付与剤(D)を乳化する能力を持つと共に、化合物(C)との反応点となるカルボキシル基を有することが必要である。乳化剤(E)が親水基としてカルボキシル基を有していれば、ロジン誘導体(B’)の持つカルボキシル基と同様に、皮膜化後に化合物(C)と反応し、親水性を低減することができるため、皮膜形成後には耐水性を向上させることができるからである。
【0072】
このため、乳化剤(E)は1分子中に少なくとも1個のカルボキシル基を持つ化合物とする。また、乳化能を持つ必要性から、カルボキシル基含有乳化剤(E)は疎水基を有していなければならないが、この疎水基としては、乳化能の点で炭素数8以上の直鎖状炭化水素基が好ましい。
疎水基としてロジン骨格を持つものは、乳化剤(E)としては用いない。すなわち、乳化剤(E)は、アビエチン酸、アビエチン酸の異性体(ネオアビエチン酸、リボピマル酸など)、あるいはこれらの変性体のいずれの化合物でもない。この点で、この乳化剤(E)と、分子中にロジン骨格を有するカルボキシル基含有ロジン誘導体(B’)とは、異なる化合物である。
【0073】
また、乳化剤(E)は、カルボキシル基と反応し得る官能基は有していない。乳化剤(E)はカルボキシル基を有しているので、このような官能基を持っていると乳化剤(E)同士で反応してしまい、乳化能を失うからである。この点で乳化剤(E)は化合物(C)とは異なる化合物となる。
【0074】
乳化剤(E)としては、重量平均分子量(Mw)は10万以下のものを用いる。分子量が小さい方がエマルションの表面張力を低下させる効果が高く、塗工性に優れるためである。この観点から、乳化剤(E)のMwは1万以下が好ましく、より好ましくは3000以下であり、さらに好ましくは1500以下である。
【0075】
乳化剤(E)はアニオン型のものが好ましく、具体例としては、高級脂肪酸(C12〜C18)のナトリウム塩やカリウム塩等の脂肪酸石鹸および脂肪酸;N−アシルアミノ酸(塩);「MX−RLM」シリーズ(花王社製)等のアルキルエーテルカルボン酸塩;アシル化ペプチド;アルキルジメチルベタインやラウリルジメチルベタイン等のカルボキシベタイン型乳化剤;アミノカルボン酸塩、「ラテムル」(花王社製;アルケニルコハク酸カリ塩);「デモール」、「ポイズ」、「ホモゲノール」(いずれも花王社製)等のポリカルボン酸型高分子乳化剤;「RA−1020」、「RA−1120」、「RA−1820」等の「RA−1000」シリーズおよび「RA−2320」(日本乳化剤社製);「SLB−12」、「ULB−20」、「SL−20」、「SB−20」、「IPU−22」、「IPS−22」(いずれも岡村製油社製);「PDSA−DB」、「PDSA−DA」、「DSA」、「サンビター150」(いずれも三洋化成工業社製)等が挙げられ、これらを一種以上用いることができる。中でも、「RA−1120」等の「RA−1000」シリーズおよび「RA−2320」が好ましい。
【0076】
乳化剤(E)の粘着付与剤(D)に対する配合比は、粘着付与剤(D)100質量部に対して、0.5〜20質量部が好ましい。より好ましい下限は1質量部、さらに好ましい下限は3質量部である。またより好ましい上限は10質量部、さらに好ましい上限は8質量部である。
【0077】
粘着付与剤(D)と乳化剤(E)の粘着性ポリマー(A)に対する配合比は、粘着性ポリマー(A)100質量部に対して、合計で1〜50質量部とすることが好ましい。より好ましい下限は2質量部、さらに好ましい下限は5質量部である。またより好ましい上限は30質量部、さらに好ましい上限は20質量部である。従って、粘着性ポリマー(A)100質量部に対して、カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)と粘着付与剤(D)と乳化剤(E)との合計は、2〜100質量部とすることが好ましい。
【0078】
粘着付与剤(D)は油溶性であり、単独では水に溶解しないので、粘着性ポリマー(A)のエマルションと混合する前に、予め乳化剤(E)を用いて水分散体化させておくことが好ましい。
【0079】
水分散体化の方法としては、機械的強制乳化法や転相乳化法等の一般的な手段が用いられる。具体的には、粘着付与剤(D)を酢酸エチル等の適当な溶剤に溶解した後、乳化剤(E)および脱イオン水を添加し、乳化機(ホモディスパー、ホモジナイザー、ホモミキサーなど)を用いてエマルション化した後、減圧下で溶剤を蒸留する方法、粘着付与剤(D)に少量の酢酸エチル等の適当な溶剤を混合し、続いて乳化剤(E)を練り込み、さらに熱水を徐々に添加して転相乳化させてエマルションを得た後、溶剤を減圧下に除去またはそのまま使用する方法、加圧下または常圧下にて粘着付与剤(D)の軟化点以上に昇温して乳化剤(E)を練り込み、熱水を徐々に添加して転相乳化させてエマルション化する方法等を挙げることができる。
【0080】
水分散体中の粘着付与剤(D)の平均粒子径は、1000nm以下が好ましい。より好ましくは500nm以下であり、さらに好ましくは300nm以下である。できるだけ平均粒子径が小さい方が耐水性等の向上に有利である。
【0081】
本実施の形態のエマルション型粘着剤の第6の必須成分は、ノニオン型浸透剤(F)である。これは、浸透剤のうち、イオン型でない、ノニオン型のものである。ここで、浸透剤は、濡れ剤あるいは湿潤剤ともいわれ、エマルションの表面張力を低下させることにより、エマルションを基材や基布へ塗布しやすくしたり、染み込ませやすくするための役割を担う添加剤であり、界面活性剤の一種である。
【0082】
ノニオン型浸透剤(F)は、上記(A)〜(E)とは異なる化合物である。ノニオン型浸透剤(F)は、分子量2000以下、酸価190未満、ロジン骨格を有さず、イオン性(ナトリウム塩、カリウム塩などの無機塩)を有さない化合物である。
【0083】
従来のエマルション型粘着剤は、浸透剤を含まない場合、ポリエチレンテレフタレートなどのフィルムにシリコーン処理した剥離シートへの塗布性が充分でなかった。乾燥後の糊厚が約30μm以下となるように薄く塗布すると、ピンホール状のはじきや端部の縮みなどの塗膜欠陥が生じた。通常よく使われるスルホコハク酸塩などのイオン性の濡れ剤を使用すると、剥離ライナーへの塗布性が改善されても、耐水白化性、耐洗剤性などが不良となっていた。また、濡れ剤を添加せずに粘度を高くすると、塗工筋が入り、きれいな塗膜が得られないといった問題があった。このため、特性の優れた粘着シートが得にくくなっていた。
【0084】
そこで、本実施の形態においては、ノニオン型浸透剤(F)を粘着剤に配合する。これにより、耐水白化性などを劣化させることなく、シリコーン処理したフィルム系の剥離ライナーへの塗布性を向上し、かつ基体フィルムとの密着性、耐エッジリフト性などにも優れ、塗布性から粘着物性までのトータルバランスに優れた粘着剤が得られる。よって、特性の優れた粘着シートを製造することができる。
【0085】
ノニオン型浸透剤(F)としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレングリセリド、アルキルアルカノールアミドなどの構造を有するものが挙げられ、これらの中でも、HLBが2以上、15以下のものが好ましく、より好ましくは3以上、10以下のものである。具体的には、「エマルゲン」シリーズ、「エマノーン」シリーズ、「レオドール」シリーズ、「エマゾール」シリーズ、「エキセル」シリーズ(いずれも花王社製)、「サーフィノール」シリーズ(エアープロダクツ社製)などが挙げられる。特に、アセチレンジオール骨格を有する化合物である「サーフィノール」シリーズは、分子の対称性が良く、かつ疎水性が高いため、ノニオン型浸透剤に好適に用いられる。
ノニオン型浸透剤(F)は、分子量2000以下、HLBが2以上、15以下、好ましくは3以上、10以下で、さらにロジン骨格を有さない化合物であり、上記(A)〜(E)とは異なる化合物である。
【0086】
ノニオン型浸透剤(F)の配合量は、本発明のアクリル系エマルション型粘着剤100質量%中(wet)、0.1〜5質量%であることが好ましい。0.1質量%より少ないと、フィルム系剥離ライナーへの塗布性が不良となり、5質量%より多いと、耐水白化性やフィルム基材密着性などへ悪影響を及ぼす。より好ましい下限は0.3質量%であり、さらに好ましい下限は0.5質量%である。より好ましい上限は3質量%であり、さらに好ましい上限は2質量%である。
ノニオン型浸透剤(F)の添加時期は限定されず、本発明のアクリル系エマルション型粘着剤を製造する工程の任意の段階、あるいは、粘着剤用エマルションの製造後、フィルム基材への塗工直前までの任意の段階で添加することができる。また、添加方法についても特に限定されず、水、アルコール、溶剤などの溶媒で希釈してから添加してもよい。
【0087】
以下、本発明の粘着シートに用いられる粘着剤の好ましい製造方法について説明する。
第1の製造方法は、まず、乳化剤(a)〜(c)を用いた乳化重合法で粘着性ポリマー(A)用のモノマーを重合して、得られた粘着性ポリマー(A)のエマルションをアルカリ性にしてから、別途、カルボキシル基含有乳化剤(E)を用いて水分散体化しておいた粘着付与剤(D)の水分散体とロジン誘導体(B’)と化合物(C)をこのエマルションに添加する方法である。粘着性ポリマー(A)の合成後、そのままエマルションとして使えるため、簡便な方法である。
【0088】
ロジン誘導体(B’)は、多数のカルボキシル基(親水性基)を有し、ロジンに由来する親油性部分も有しているので、乳化剤としても作用する。従って、最終的にエマルション中に存在すべきロジン誘導体(B)量の一部または全部に相当するロジン誘導体(B’)を、粘着性ポリマー(A)の乳化重合の最初から重合容器に添加して、乳化剤(a)〜(c)のいずれか一種以上と併用しながら重合してもよい。
【0089】
エマルションをアルカリ性にして、ロジン誘導体(B’)をロジン誘導体(B)に変換するのは、乳化重合のいずれの段階で行ってもよい。乳化重合の前、途中、重合後のいずれかのときに、重合のための水媒体のpHを7以上にして、ロジン誘導体(B’)をこのアルカリ水中に添加すれば、最終的に得られるエマルション中にロジン誘導体(B)が存在することとなる。ロジン誘導体(B’)の必要量を、一括して添加しても、逐次添加してもよく、ロジン誘導体(B’)が常温で固体であれば粉末にして加えてもよい。また、ロジン誘導体(B’)をアルカリ水溶液に溶解させて、予めロジン誘導体(B)にしたものを、生成したエマルションまたは重合容器に添加してもよい。
【0090】
ロジン誘導体を添加するときの温度は、0〜90℃の範囲が好ましい。また、ロジン誘導体のアルカリ化に使用できるアルカリとしては、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属化合物類、アルカリ土類金属化合物、メチルアミン等のアルキルアミン類、アンモニア等が挙げられるが、揮発性の高いアルキルアミン類やアンモニア等を用いると、乾燥後の皮膜に残存しないため、耐水性が向上するので好ましい。
【0091】
粘着付与剤(D)は、上述のように、予め、カルボキシル基含有乳化剤(E)により水分散体化しておいてから、粘着性ポリマー(A)のエマルションに添加することが好ましい。このとき、上記アルカリによって、アルカリ性の水分散体にしてもよい。
【0092】
化合物(C)をエマルションに添加する時期は特に限定されないが、化合物(C)と、ロジン誘導体(B)およびカルボキシル基含有乳化剤(E)との化学反応が、乳化重合中やエマルション型粘着剤の保存中に起こるのを防ぐために、化合物(C)は、乳化重合終了後で、エマルション型粘着剤を塗工する前に混合することが好ましい。化合物(C)は、そのままで、あるいは乳化剤(a)または(b)または(E)で水分散体にした状態で、エマルションに加えるとよい。ノニオン型浸透剤(F)の添加時期も特に限定されない。
【0093】
また、他の製造方法としては、例えば、予め、乳化重合以外の重合方法によって粘着性ポリマー(A)を得ておき、粘着付与剤(D)と水とカルボキシル基含有乳化剤(E)を加えて前記した水分散体化法等でエマルションを作製し、ロジン誘導体(B’)と化合物(C)をこのエマルションに添加する方法を採用することもできる。粘着性ポリマー(A)とロジン誘導体(B’)と粘着付与剤(D)を加熱溶融して混合してから、カルボキシル基含有乳化剤(E)でエマルション化する方法がある。
【0094】
また、粘着性ポリマー(A)と粘着付与剤(D)をエマルション化している途中や作製後に、エマルションをアルカリ性にしてから、ロジン誘導体(B’)をこのエマルションに加えてもよい。これらの粘着性ポリマー(A)の後乳化法では、カルボキシル基含有乳化剤(E)と共に、乳化剤(a)か(b)を一部併用してもかまわない。化合物(C)は、上述のように、ポリマー(A)のエマルション化後、表面基材上にエマルション型粘着剤を塗工する前に混合することが好ましい。この方法における粘着性ポリマー(A)の重合方法は、溶液重合法、塊状重合法等を採用すればよい。また、乳化重合や懸濁重合法で作製した後、ポリマーを水から分離して用いてもよい。
【0095】
エマルション型粘着剤中に含まれる固形分は、塗工性の点で、好ましい上限は70質量%であり、より好ましくは60質量%である。また、好ましい下限は30質量%であり、より好ましくは40質量%である。
エマルション型粘着剤には、公知の粘着付与剤、架橋剤、湿潤剤、粘性調節剤、増粘剤、消泡剤、改質剤、顔料、着色剤、充填剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤等の各種添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲で加えてもよい。
【0096】
次に、表面基材について説明する。
表面基材は、粘着シート中、粘着剤の支持体として機能するものである。中でも、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリカーボネートなどの樹脂からなるフィルムを基体フィルムとして用いて形成したものが好ましい。基体フィルムの素材となるこれらの樹脂は単独で使用してもよく、任意の組み合わせになる混合物も好適に使用できる。
特に、本発明の粘着シートに用いられる粘着剤は、耐水性等に優れるため、水による白濁化がなく透明なフィルムに好適に使用できる。
【0097】
ポリオレフィン系フィルムとしては、ポリプロピレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−n−ブチルアクリレート共重合体などが挙げられる。
また、ポリエステル系フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートなどが例示される。
【0098】
これらの樹脂フィルムの中では、特に、ポリオレフィン系フィルムまたはポリエステル系フィルムが好ましく、さらにいえば、二軸に延伸処理されたものが好適である。中でも二次延伸処理したフィルムが好ましい。
より具体的には、安価で透明性に優れ、かつ加工適性に優れている二軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いることが特に好ましい。
【0099】
基体フィルムは、単層あるいは複数層の構造であってもよい。また、必要に応じて光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、充填剤などを添加することができる。基体フィルムの厚さは、用途により適宜選択できるが、例えば表示ラベル用としては、20〜200μm程度、好ましくは20〜100μm程度である。
【0100】
ポリプロピレンを主成分とする基体フィルムの種類を更に例示すると、ポリプロピレン、ポリプロピレン共重合体、またはこれらの混合物を主体とするポリプロピレン組成物であり、ポリプロピレンのホモポリマーは勿論のこと、エチレン、ブテン、4−メチルペンテンなどで代表されるα−オレフィン類や、スチレンに代表される芳香族系オレフィン類、ブタジエンに代表されるジエン類等のプロピレンと共重合可能なモノマーとプロピレンとの共重合体、あるいはポリプロピレンやポリプロピレン共重合体と、これらのものとの公知ブレンド物、例えばポリエチレン、各種エチレン共重合体のようなポリ−α−オレフィン類、ポリスチレン、合成ゴム、テルペン樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル等とのブレンド物、あるいはこれらの混合物等を主成分とするもので、ポリプロピレン共重合体の共重合成分あるいはブレンド組成物のブレンド成分等の種類と量は、ポリプロピレンフィルムとして特質を失わないものであれば良い。また、紫外線吸収剤などの助剤を含んでもかまわない。
【0101】
基体フィルムの製造方法については特に限定するものではない。例えば、ポリプロピレン系フィルムの製造方法としては、ポリプロピレン組成物を常法に従って溶融押出しし、縦延伸した後、横延伸したものでもあってよいし、または横延伸した後に縦延伸したものであってもよい。縦横延伸倍率はそれぞれ2倍〜20倍であることが好ましい。
ポリプロピレン以外の樹脂からなる基体フィルムも、それぞれ常法に従って製造することができる。
【0102】
基体フィルムの片面あるいは両面には、所望により、濡れ張力を増大させる目的でコロナ放電処理、火炎処理、サンドブラスト、帯電防止層の形成などの既知の方法により表面処理を施すことが好ましい。特に、所定の塗布液をコーティングして、アンカーコート層を形成することが好ましい。これにより、印刷受容層と基体フィルムとの密着性が向上する。
【0103】
アンカーコート用塗布液としては、特に限定はないが、エチレン系共重合体が密着性が優れるので好ましい。エチレン系共重合体とは、例えば、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体およびエチレン−(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸塩共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−グリシジル(メタ)アクリル酸エステル共重合体などから選ばれた少なくとも1種を挙げることができる。アンカーコート用塗布液の中には、必要に応じて、ブロッキング防止のための顔料を添加してもよい。
【0104】
アンカーコート用塗布液の塗布は、二軸延伸後の基体フィルムに塗布してもよく、または、フィルムを二次延伸する際、縦延伸工程と横延伸工程との間(または横延伸工程と縦延伸工程との間)で行うようにしてもよい。
二回の延伸工程の間に塗工を行う場合には、塗布後、二回目の延伸工程に先立って塗布層を十分に乾燥させることが好ましい。この場合、さらに横延伸後のフィルムの樹脂皮膜面にコロナ放電処理を施すこともできる。
【0105】
アンカーコート用塗布液を塗布する方法としては、公知の方法、例えば、メタリングバー方式、グラビアロール方式、エアナイフ方式、スプレー方式、リバースロール方式などの方法が利用できる。この場合の塗工量は、0.005〜1.0g/m2であることが好ましい。0.005g/m2より少ないと均一な表面改質ができず、1g/m2より多い場合は高い透明性が得られない。
【0106】
基体フィルムの少なくとも粘着剤層を形成しない面には、表面基材の印刷特性を向上するため、印刷受容層を形成することができる。勿論、基体フィルムの両面に印刷受容層を有しても構わないが、高透明度を有するためには、片面(粘着剤層を形成しない面)のみに形成することが好ましい。これにより、表面基材への印刷が容易になり、美観が向上する。
印刷受容層上には、感熱記録層、熱転写受像層、インクジェット記録層といった公知の各種記録層や、顔料塗被層などを形成することができる。
【0107】
印刷受容層を形成するために用いられる組成物としては、特に限定されるものではないが、ポリオレフィン系フィルム等の透明プラスチックフィルムとの密着性が高く、オフセット印刷、スクリーン印刷、UVフレキソ印刷などの各種印刷法に対してインキ密着性に優れていることから、特に、オキサゾリン基変性樹脂とバインダー樹脂を成分として含むものが好ましい。
【0108】
オキサゾリン基変性樹脂とは、樹脂中にオキサゾリン基が存在するものであれば、いかなるものでも構わない。例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、SBR樹脂、ポリオレフィン樹脂にオキサゾリン基をグラフト結合させたものを挙げることができる。オキサゾリン基変性樹脂は、印刷受容層中に0.5〜50質量%含有されていることが好ましく、より好ましくは1〜20質量%とすることが好ましい。0.5質量%未満の場合は、ポリオレフィン系、ポリエステル系樹脂等からなる基体フィルムと十分密着しない場合がある。
【0109】
オキサゾリン基変性樹脂と併用するバインダー樹脂は、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、SBR樹脂、オレフィン樹脂、酢酸ビニル樹脂から選ばれた少なくとも1種を挙げることができる。中でも、アクリル系樹脂が、印刷適性が良好であるため好ましい。
【0110】
ブロッキング防止のため、印刷受容層中に有機顔料や無機顔料等を配合することができる。中でも有機顔料は、透明性が優れるので好ましい。顔料の配合量は、有機顔料の場合、印刷受容層中5質量%以下であることが好ましい。また、無機顔料では、0.1〜2質量%であることが好ましい。顔料の配合量が上記上限値より多い場合は表面基材の透明性が低下し、透明な基材を得がたくなる。
【0111】
印刷受容層中に配合される有機顔料としては、アクリル系樹脂顔料、ポリスチレン系樹脂顔料、スチレン−アクリル共重合体樹脂顔料などが好ましい。また、無機顔料としては、二酸化珪素顔料が好ましい材料として例示できる。顔料の平均粒子径は、1〜10μmであることが好ましく、より好ましくは、4〜8μmであり、中でも真球状粒形のものが好ましい。
平均粒子径が1μm未満では、印刷中にブロッキングが起こる可能性があり、平均粒子径が10μmを超えると、顔料が印刷受容層から剥がれ易くなり、それによりブロッキングが生じることがあり、さらに凸版印刷において印刷ムラを発生することがある。
【0112】
基体フィルム上に印刷受容層を形成する方法としては、メタリングバー方式、グラビアロール方式、エアナイフ方式、スプレー方式、リバースロール方式、カーテン方式などの公知の方法が利用できる。印刷受容層の塗工量は0.05〜1.0g/m2であることが好ましい。より好ましくは0.1〜0.5g/m2である。塗工量が0.05g/m2より少ないと均一な塗布が難しく、1.0g/m2を超えると、透明性が低下したり、ブロッキングが生じやすくなるので好ましくない。
【0113】
次に、粘着シートを製造する方法について説明する。
表面基材上に粘着剤層を形成するには、該表面基材上に粘着剤を直接塗布する方法も可能ではあるが、一旦、所定の剥離シート上に粘着剤を塗布し、必要により乾燥して粘着剤層を形成したのち、表面基材と貼り合わせることにより、粘着シートを得る方法を用いることが作業性等の面から好ましい。
【0114】
粘着剤を塗布する装置としては、リバースロールコーター、ナイフコーター、バーコーター、スロットダイコーター、エアーナイフコーター、リバースグラビアコーター、バリオグラビアコーター、リップコーター等を使用することができる。粘着剤の塗布量は乾燥重量で5〜50g/m2の範囲が好ましく、より好ましくは10〜30g/m2の範囲で調節される。粘着剤の塗布量が5g/m2未満では、被着体に対する粘着力が不十分となり、一方、50g/m2を超えると粘着剤がはみ出したり、印刷加工適性が悪くなるおそれがある。
【0115】
剥離シートとしては、特に限定されるものではなく、グラシン紙のような高密度原紙、クレーコート紙、クラフト紙または上質紙にポリエチレンなどのフィルムをラミネートした紙、上質紙にポリビニルアルコールやアクリル酸エステル共重合体樹脂などを塗布した紙やポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンなどのプラスチックフィルムにフッ素樹脂やシリコーン樹脂等を乾燥重量で0.05〜3g/m2程度になるように塗布し、熱硬化や電離放射線硬化等によって剥離剤層を設けたものが適宜使用される。
【0116】
剥離剤層の塗布装置としては、バーコーター、エアーナイフコーター、ダイレクトグラビアコーター、オフセットグラビアコーター、多段ロールコーター、カーテンコーター等が適宜使用される。因みに透明性が要求される場合は紙系の剥離シートよりプラスチックフィルムの剥離シートを用いた方が透明性、平滑性の点で良い。また、プラスチックフィルムの剥離シートは、温度、湿度の影響を受けないため、紙系の剥離シートよりもカールが生じ難いので好ましい。
【0117】
【実施例】
以下実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお以下特にことわりのない場合、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ示すものとする。
【0118】
〔粘着性ポリマーの乳化重合〕
合成例1
表1に示した組成のモノマー成分100部と、分子量調節剤としてtert−ドデシルメルカプタン(以下TDMと省略する)0.02部、乳化剤(a)として「アクアロンKH10」(第一工業製薬社製;ポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸エステルアンモニウム塩を基本骨格とするタイプ)を1.5部および脱イオン水34部を混合して撹拌し、モノマープレエマルションを調製した。
【0119】
次いで、滴下ロート、撹拌機、温度計、窒素ガス導入管および還流冷却器を備えたフラスコに、モノマープレエマルション100%のうちの2%と、脱イオン水41部と、開始剤アゾビスシアノバレリックアシッド(以下ACVAと省略する。酸価400)0.1部を仕込み、窒素雰囲気下約80℃で、20分間反応させた。その後、モノマープレエマルション100%のうちの残りの98%および開始剤ACVA0.07部を約3時間かけて連続滴下して重合反応を行った。滴下終了後も約3時間80℃を維持した。不揮発成分が53%になるように水で希釈し、粘着性ポリマーエマルション(A−1)を得た。この感圧接着性ポリマーの酸価(計算値)は0.7mgKOH/gである。
【0120】
得られた粘着性ポリマーの計算Tg(℃)は−56℃、重量平均分子量(Mw)は77万、平均粒子径は243nmであった。なお、このTg(℃)は、後述する各モノマーのホモポリマーのTg(K)を用いて前述の数式によって計算した値であり、Mwは、GPCを用いて測定したテトラヒドロフラン可溶部分のポリスチレン換算値である。
【0121】
エマルションの平均粒子径の測定には、光散乱式粒度分布計(Particle Sizing System社製「NICOMP 380 ZLS」)を用いた。
【0122】
合成例2〜4
モノマー組成を表1に示したように変えた以外は合成例1と同様にして、粘着性ポリマーエマルション(A−2)〜(A−4)を合成した。Tg(℃)、Mwおよび平均粒子径(nm)および酸価(mgKOH/g;計算値)を表1に併記した。
【0123】
【表1】
【0124】
なお表1においては、各モノマー名を次のように略記した。右の数字は、ポリマーハンドブックに掲載されているホモポリマーのTg(K)の値である。
【0125】
BA :n−ブチルアクリレート 219K
2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート 223K
MMA :メチルメタクリレート 378K
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート 328K
MAA :メタクリル酸 501K
【0126】
〔エマルションの配合〕
配合例1
粘着性ポリマーエマルション(A−1)(設定固形分53%)100部の入ったフラスコに25%アンモニア水を1.3部((B)100部に対して24部)加えて、80℃に保ちながら、酸価245、軟化点131℃のカルボキシル基含有ロジン誘導体(B’)(酸変性ロジン;「KE−604B」;荒川化学社製;Mw=420、Mn=410)5.3部((A−1)の固形分100部に対して10部)を適当に粉砕したものをフラスコに投入した。約1時間撹拌を続けたところ、カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)が溶解したエマルション(AB−1)(理論固形分55%)が得られた。
【0127】
粘着付与剤(D)として、酸価10〜16の「ペンセルD160」(重合ロジンエステル;荒川化学社製;Mw=1890、Mn=1190)を用い、カルボキシル基含有乳化剤(E)として、「RA−2320」(酸価約48;日本乳化剤社製)を用いて、粘着付与剤水分散体(DE)を製造した。粘着付与剤水分散体(DE)は、まず、フラスコ中で「ペンセルD160」100部および「RA−2320」6部を酢酸エチル67部に溶解させ、次いで25%アンモニア水0.6部および脱イオン水105部を加えた後、ホモディスパーにて強制的に攪拌して乳化させた。この乳化物を加熱しながら、70〜90℃、6〜8時間減圧蒸留して酢酸エチルを除去した後、不揮発分が約50%、pH8程度になるように、脱イオン水やアンモニア水を適宜追加し、粘着付与剤水分散体(DE)を得た。粘着付与剤水分散体(DE)の平均粒子径は570nmであった。
【0128】
エマルション(AB−1)106.6部(設定固形分55%)に対し、この水分散体(DE)を5.3部((A−1)の固形分100部に対して(DE)の固形分5部)を添加して、よく撹拌した。さらに、60回転/1分の粘度が2000〜5000mPa・sとなるように、アルカリ可溶型増粘剤を適当量添加して、充分に攪拌混合し、粘性を調整した。最後に、ノニオン型浸透剤(F)として「サーフィノールPSA204」(エアープロダクツ社製、アセチレンジオール型浸透剤)1.1部を添加し充分に攪拌を行い、200メッシュ金網で濾過を行った。得られたエマルション(ABDEF−1)の固形分(%)、粘度(60回転/1分、6回転/1分;25℃;B型粘度計;ローターNo.4)およびpHを測定し、結果を表2に示した。
【0129】
配合例2〜10
表2および表3に示すように、各成分の配合量を変更した以外は、配合例1と同様にして、化合物(C)の配合前のエマルションABDEF−2〜ABDEF−10を調製した。このうちABDEF−5〜ABDEF−10は比較用のエマルションである。ABDEF−5および7は本発明の必須成分の粘着付与剤水分散体(DE)を配合していないもの、ABDEF−6はノニオン型浸透剤(F)を配合していないもの、ABDEF−8は、粘着付与剤水分散体(DE)とノニオン型浸透剤(F)を配合していないもの、ABDEF−9は粘着付与剤水分散体(DE)の替わりに市販の粘着付与剤水分散体(スーパーエステルE−788、荒川化学社製、主乳化剤としてカルボン酸型乳化剤は未使用)を配合したもの、ABDEF−10はノニオン型浸透剤(F)の替わりに、一般的な非ノニオン型(アニオン型)の浸透剤(ペレックスOT−P、花王製、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム)を配合したものである。
【0130】
【表2】
【0131】
【表3】
【0132】
〔エマルション型粘着剤の調製および粘着シートの製造〕
実施例1
表2に示したエマルションABDEF−1の100部に対し、化合物(C)として「TETRAD−C」(三菱瓦斯化学社製;1分子中に4個のエポキシ基を有する化合物;エポキシ当量92;カタログによる分子量366)を、表4に示すように1.0部添加し、よく撹拌して、エマルション型粘着剤を調製した。表4には、配合したTETRAD−Cの当量(カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)とカルボキシル基含有乳化剤(E)の有するカルボキシル基の合計を1当量としたときのエポキシ基の当量である)も併記している。なお当量計算においては、増粘剤の添加量を考慮せず、実測した固形分より算出した。
【0133】
次いで、アクリルエマルション型粘着剤No.1を、シリコーン処理されたフィルム系の剥離ライナーに、乾燥後の膜厚が25μmとなるように塗工し、105℃の熱風乾燥機で1分間乾燥した。これを、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)の片面に転着して、粘着シートを作製した。これを40℃で3日以上熟成した後、粘着特性を測定した。ただし、耐洗剤性、耐水白化性、吸水率の評価用には、コロナ放電処理した厚さ60μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)を用いて粘着シート試料を作製した。
【0134】
実施例2〜5
表2に示したエマルションABDEF−1〜ABDEF−4に、表4に示す量のTETRAD−Cを添加し、実施例1と同様にして、アクリルエマルション型粘着剤No.2〜5を調整し、さらに、実施例2〜5の粘着シートを得た。
【0135】
【表4】
【0136】
比較例1〜6
表2および表3に示したエマルションABDEF−5〜ABDEF−10に、表5に示した量のTETRAD−Cを添加し、実施例1と同様にして、比較例のアクリルエマルション型粘着剤No.1〜6を調製し、さらに、比較例1〜6の粘着シートを得た。
【0137】
【表5】
【0138】
〔粘着シートの粘着特性の評価方法〕
以上の実施例1〜5および比較例1〜6の粘着シートを用い、下記方法で粘着特性の評価を行った。
【0139】
1.塗工性
粘着シート作製工程中、剥離シート上にエマルション型粘着剤をウエットで50μmとなるように塗布したときの塗工適性を目視で評価した。判定は、はじき、縮み、筋(ストリーク)、ピンホール等の発生がなく、きれいな塗膜が得られるものを○(合格)、はじき、縮み、筋(ストリーク)、ピンホールのいずれかが発生するものを×(不合格)とした。
【0140】
2.PE粘着力
JIS Z 0237に準じて、25mm幅の粘着シート片をポリエチレン(PE)板に貼着し、これを180°方向で引き剥す時の抵抗力(23℃)を測定した。判定は、78N/m(200g/25mm)以上が○(合格)、78N/m(200g/25mm)未満を×(不合格)とした。
【0141】
3.SUS粘着力
PE粘着力測定の場合と同様に、JIS Z 0237に準じて、25mm幅の粘着シート片をステンレス(SUS)板に貼着し、これを180°方向で引き剥す時の抵抗力(23℃)を測定した。判定は、431N/m(1100g/25mm)以上が○(合格)、431N/m(1100g/25mm)未満を×(不合格)とした。
【0142】
4.耐水白化性
25mm×70mmに裁断された粘着シート片の剥離シートを除去し、これを23℃の水50mlに24時間浸漬した後の粘着剤層の白化度合いを目視で評価した。判定は、透明感があるものを○(合格)、僅かに白化したものを△(不合格)、白濁してしまったものを×(不合格)とした。
【0143】
5.吸水率
25mm×70mmに裁断された粘着シート片の剥離ライナーを除去し、この断片の質量を測定する。これをWaとする。さらに該粘着シート片を23℃の水50mlに24時間浸漬した後、水から取り出し、表面についた余分の水分を軽くふき取った後、再び質量を測定する。これをWbとする。25mm×70mmの表面基材のみ別途測定しておき、Wcとする。各質量を用い、吸水率を以下の式で算出した。
【0144】
吸水率(%)=(Wb−Wa)/(Wa−Wc)×100
【0145】
判定は、10%未満を○(合格)、10〜15%未満を△(不合格)、15%以上を×(不合格)とした。
【0146】
6.耐熱保持力
JIS Z 0237に準じて、保持力測定を行った。幅25mm、長さ約150mmの粘着シート片をステンレス(SUS)板に貼着面積25mm×25mmで貼着して、テープの貼着されていない部分は内側に折り重ねて、これを試験片とする。この試験片を、60℃の恒温槽内に鉛直に吊り下げた後、テープの折り重ねた部分に1kgの荷重を吊り下げ、24時間放置した。24時間後のズレ距離(mm)、または落下までの時間を測定した。24時間で落下しないものを○(合格)、落下するものを×(不合格)とした。
【0147】
7.耐エッジリフト性
長さ20mm×幅16mmの粘着シート片を、ポリエチレンで表面を被覆した直径13mmの円柱体に貼着し、これを23℃雰囲気下で静置する。そして、24時間後の端部の浮き(エッジリフト)を測定することにより、耐エッジリフト性を測定した。判定は、粘着シート片の端部の浮きのないもの(10%未満)を○(合格)、浮きのあるものを×(不合格)とした。
【0148】
8.耐洗剤性
長さ20mm×幅16mmの粘着シート片を、厚さ50μmのPETフィルムに貼着し、23℃雰囲気下で24時間静置し、その後、市販の食器洗い用洗剤に浸漬する。40℃で3日間静置した後に取り出し、端部の白化、浮き、剥れを観察する。判定は、端部の白化、浮き、剥れのないものを○(合格)、いずれかがあるものを×(不合格)とした。
【0149】
上記試験の結果を表6および表7に示す。
【0150】
【表6】
【0151】
【表7】
【0152】
本発明の規定を満たす実施例1〜5は、良好なフィルム基材密着性、フィルム系剥離ライナーへの塗布性を示すと共に、耐エッジリフト性、耐洗剤性などと他の粘着特性にも優れていた。
【0153】
これに対して、比較例1は、粘着付与剤水分散体(DE)を含んでいないため、耐エッジリフト性に劣っていた。比較例2は、浸透剤(F)を含んでいないため、塗工性に劣るものであった。比較例3は、粘着付与剤水分散体(DE)を含んでいないため、耐溶剤性に劣っていた。比較例4は、浸透剤(F)を含んでいないため、塗工性に劣っており、また、粘着付与剤水分散体(DE)も含んでいないため、粘着性や耐エッジリフト性に劣っていた。比較例5は、粘着付与剤水分散体(DE)として比較品(主乳化剤にカルボン酸型乳化剤を未使用)を用いたため、粘着剤が被膜化した後も親水性を示す成分が残留しており、耐水性が向上せず、耐水白化性および吸水率に劣るものであった。比較例6は、浸透剤(F)として、非ノニオン型(アニオン型)の浸透剤を用いたため、塗工性は良好であるが、耐水白化性および吸水率に劣るものであった。
【0154】
【発明の効果】
上述のように、本発明のアクリル系エマルション型粘着剤、及びこれを用いた粘着シートは、高酸価のロジン誘導体(B)と、低酸価の粘着付与剤(D)、ノニオン型浸透剤(F)を組み合わせたため、良好な塗工性と粘着特性を発揮する。特に、エマルションから粘着剤層を形成するときに、高酸価のロジン誘導体(B)の有するカルボキシル基や、低酸価の粘着付与剤(D)を水分散体化させるために用いられる乳化剤(E)の有するカルボキシル基を、カルボキシル基と反応し得る官能基を1分子中に少なくとも1個有する化合物(C)と化学反応させることにより、親水性を消失させることができるので、耐水性や耐水白化性に優れる。かつ、ポリオレフィン等の難粘着性材料に対する接着性や耐エッジリフト性、粘着力と凝集力とのバランスにも優れる。さらに、ノニオン型浸透剤(F)の使用により耐水性、耐洗剤性や粘着物性に悪影響を与えることなく良好な塗工性を付与できるため、高性能なフィルムラベル用のアクリル系エマルション型粘着剤、及びこれを用いた粘着シートを提供することができる。
Claims (17)
- 表面基材と該表面基材上に形成された粘着剤層とを有する粘着シートであって、
前記粘着剤層を構成する粘着剤が、
ガラス転移温度が−80〜−20℃、重量平均分子量15万以上、かつカルボキシル基による酸価が30以下の粘着性ポリマー(A)、
重量平均分子量が10万以下で、アルカリ化する前のカルボキシル基による酸価が190以上であり、このカルボキシル基の一部または全部がアルカリ塩となっているカルボキシル基含有ロジン誘導体(B)、
重量平均分子量が10万以下で、カルボキシル基を有しておらず、かつカルボキシル基と反応し得る官能基を1分子中に少なくとも1個有する化合物(C)、
重量平均分子量が10万以下で、酸価が190未満の粘着付与剤(D)、
重量平均分子量が10万以下で、分子中にロジン骨格を有しておらず、1分子中に少なくとも1つのカルボキシル基を持ち、このカルボキシル基の一部または全部がアルカリ塩となっているカルボキシル基含有乳化剤(E)、および
ノニオン型の浸透剤(F)
を必須として含むアクリル系エマルション型粘着剤であることを特徴とする粘着シート。 - 前記アクリル系エマルション型粘着剤が、予め、前記カルボキシル基含有乳化剤(E)で前記粘着付与剤(D)を水分散体化したものを、前記粘着性ポリマー(A)と前記カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)と前記化合物(C)とを含むエマルションに添加して得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の粘着シート。
- 前記アクリル系エマルション型粘着剤が、前記粘着付与剤(D)の水分散体化にあたり、前記粘着付与剤(D)100質量部に対し、前記カルボキシル基含有乳化剤(E)を0.5〜20質量部用いたものであることを特徴とする請求項2に記載の粘着シート。
- 前記アクリル系エマルション型粘着剤が、前記粘着性ポリマー(A)100質量部に対し、前記カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)、前記粘着付与剤(D)および前記カルボキシル基含有乳化剤(E)を合計で2〜100質量部含んでおり、
かつ、前記化合物(C)を、前記カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)と前記カルボキシル基含有乳化剤(E)の有するカルボキシル基の合計1当量に対し、前記化合物(C)の有する前記官能基が0.05〜10当量となるように含んでいることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の粘着シート。 - 前記粘着付与剤(D)が、ロジン誘導体であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の粘着シート。
- 前記表面基材が、ポリオレフィン系フィルムまたはポリエステル系フィルムを用いて形成されたものであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の粘着シート。
- 前記ポリオレフィン系フィルムまたはポリエステル系フィルムが、二軸延伸されたフィルムであることを特徴とする請求項6に記載の粘着シート。
- 前記ポリオレフィン系フィルムが、ポリプロピレンフィルムであることを特徴とする請求項6または7に記載の粘着シート。
- 前記表面基材が、前記粘着剤層を形成しない面に、印刷受容層を有するものであることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の粘着シート。
- 前記印刷受容層が、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、SBR樹脂、ポリオレフィン樹脂、酢酸ビニル樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むものであることを特徴とする請求項9に記載の粘着シート。
- 前記印刷受容層が、オキサゾリン基変性樹脂を含有するものであることを特徴とする請求項9または10に記載の粘着シート。
- 前記粘着剤層の前記表面基材と反対の面が、剥離シートにより保護されていることを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載の粘着シート。
- フィルム基材に粘着剤層を形成するために用いられるアクリル系エマルション型粘着剤であって、
ガラス転移温度が−80〜−20℃、重量平均分子量15万以上、かつカルボキシル基による酸価が30以下の感圧接着性ポリマー(A)、
重量平均分子量が10万以下で、アルカリ化する前のカルボキシル基による酸価が190以上であり、このカルボキシル基の一部または全部がアルカリ塩となっているカルボキシル基含有ロジン誘導体(B)、
重量平均分子量が10万以下で、カルボキシル基を有しておらず、かつカルボキシル基と反応し得る官能基を1分子中に少なくとも1個有する化合物(C)、
重量平均分子量が10万以下で、酸価が190未満の粘着付与剤(D)、
重量平均分子量が10万以下で、分子中にロジン骨格を有しておらず、1分子中に少なくとも1つのカルボキシル基を持ち、このカルボキシル基の一部または全部がアルカリ塩となっているカルボキシル基含有乳化剤(E)、および
ノニオン型の浸透剤(F)を必須成分として含むことを特徴とするアクリル系エマルション型粘着剤。 - 予め、カルボキシル基含有乳化剤(E)で粘着付与剤(D)を水分散体化したものを、感圧接着性ポリマー(A)とカルボキシル基含有ロジン誘導体(B)と化合物(C)とを含むエマルションに添加して得られたものである請求項13に記載のアクリル系エマルション型粘着剤。
- 粘着付与剤(D)の水分散体化にあたり、粘着付与剤(D)100質量部に対し、カルボキシル基含有乳化剤(E)を0.5〜20質量部用いるものである請求項14に記載のアクリル系エマルション型粘着剤。
- 感圧接着性ポリマー(A)100質量部に対し、カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)、粘着付与剤(D)およびカルボキシル基含有乳化剤(E)が合計で2〜100質量部含まれており、
化合物(C)は、カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)とカルボキシル基含有乳化剤(E)の有するカルボキシル基の合計1当量に対し、化合物(C)の有する前記官能基が0.05〜10当量となるように含まれているものである請求項13〜15のいずれかに記載のアクリル系エマルション型粘着剤。 - 粘着付与剤(D)がロジン誘導体である請求項13〜16のいずれかに記載のアクリル系エマルション型粘着剤。
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