JP3954362B2 - 非線形補償器と非線形補償方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば中波、短波、地上波・衛星・ケーブルテレビ等の伝送装置に用いられ、例えば送信装置の増幅器で生じる非線形特性を補償する非線形補償器及びその方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、アナログ方式のテレビジョン放送では、増幅器で生じる非線形特性と逆の特性を持たせた前置補償器で非線形補償を行っている。特に、増幅器の動作温度等により増幅器の非線形特性が変化するので、増幅器の動作条件によって補償特性を切り替えて対応している。
【0003】
ところで、アナログ方式のテレビジョン放送の場合、信号ピーク値は同期尖頭値で規定されるため、ほとんど一定である。また、クリップ値近傍は同期であるため、クリップレベル近傍で発生する位相ひずみを考慮する必要はなく、同期長が同じになるよう同期振幅のみ補正すればよい。また、ピークファクタ(ピーク値/平均値)が比較的小さいため、低レベル信号領域の線形性もそれほど要求されてはいない。
【0004】
一方、次世代のデジタル方式によるテレビジョン放送にあっては、OFDM(直交周波数分割多重)方式の採用が決定され、その実用化に向けて種々の開発がなされている。ここにおいて、OFDM方式では、OFDM信号の性質上、ピークファクタがアナログ方式に比較して極めて大きいため、低レベルから高レベルまでの線形性が要求される。また、各キャリアの位相が情報伝達のポイントとなるため、位相回転のわずかな乱れも特性劣化につながる。しかも、増幅器で生じる非線形特性には周波数依存性があるため、伝送帯域内で相互変調積(Inter Modulation:以下、IMと記す)のフロアレベルにアンバランスが生じる。このため、非線形特性、位相回転、周波数依存性について正確な補償が求められる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
以上述べたように、OFDM方式をはじめとしたデジタル信号伝送にあっては、非線形特性の正確な補償が求められるが、従来のアナログ方式ではそのようなニーズがなかったため、その開発が求められている。
【0006】
本発明は、上記の事情を考慮してなされたもので、調整が容易で、かつ、季節、天候、時間で変化する非線形特性や位相回転と共に、補償対象機器の非線形特性に生じる周波数依存性を適応補償することのできる非線形補償装置及びその方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明に係る非線形補償器及びその方法は、以下のような特徴的構成を有する。
【0008】
(1)伝送信号を扱う被補償電子装置の前段に配置され、前記伝送信号を被補償信号として入力して前記被補償電子装置の非線形特性を補償して前記被補償電子装置に送出する非線形補償器において、前記被補償信号及び前記被補償電子装置の出力信号を取り込み、適宜復調処理して同じ信号形式に合わせた後、両信号間の相関をとることで両信号間の時間差及び位相差を検出し、検出した時間差及び位相差に基づいて両信号の同期及び位相合わせを行う信号処理部と、この信号処理部により同期及び位相が合わせられた被補償信号及び被補償電子装置の出力信号から、被補償信号を基準信号として出力信号の振幅誤差及び位相誤差を検出し、検出結果を歪み成分として検出する歪み検出部と、この歪み検出部で検出された歪み成分に基づいて前記被補償電子装置の非線形歪み補償量を生成し、この歪み補償量で前記被補償信号を補償する歪み補正部と、前記被補償電子装置の出力信号におけるIM(相互変調積)レベルが許容レベルでかつ伝送帯域の上端と下端で等しくなるように、前記歪み補正部の歪み補償量を補正して、前記被補償電子装置が持つ非線形特性の周波数依存性を補償するIMレベル補正手段とを具備することを特徴とする。
【0009】
(2)(1)の構成において、前記IMレベル補正手段は、前記信号処理部で取り込まれた被補償電子装置の出力信号またはその復調処理信号から伝送帯域の上端と下端のIMレベルを検出するIMレベル検出手段と、このIMレベル検出手段で検出された上端及び下端のIMレベルの差をIMバランスデータとして求めるIMバランス演算部と、このIMバランス演算部で得られたIMバランスデータに基づいて前記歪み検出部の歪み検出結果を補正する歪み検出量補正部とを備えることを特徴とする。
【0010】
(3)(2)の構成において、前記歪み補償量補正部は、予め、前記IMバランスデータのステップ単位で前記被補償信号の振幅値に対する位相値の補正量を格納したテーブルを備え、このテーブルから前記IMバランスデータと前記被補償信号の振幅値とに対応する位相値の補正量を読み出し、この補正量で前記被補償信号の位相値を補正することを特徴とする。
【0011】
(4)(2)の構成において、前記歪み補償量補正部は、予め、前記IMバランスデータのステップ単位で前記被補償電子装置の出力信号の振幅値に対する位相値の補正量を格納したテーブルを備え、このテーブルから前記IMバランスデータと前記被補償電子装置の出力信号の振幅値とに対応する位相値の補正量を読み出し、この補正量で前記被補償電子装置の出力信号の位相値を補正することを特徴とする。
【0012】
(5)(2)の構成において、前記歪み補償量補正部は、予め、前記IMバランスデータのステップ単位で前記被補償信号の振幅値に対する位相値の補正量を格納したテーブルを備え、このテーブルから前記IMバランスデータと前記被補償信号の振幅値とに対応する位相値の補正量を読み出し、この補正量で前記歪み検出部で用いる基準信号の位相値を補正することを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
図1は本発明が適用されるOFDM送信装置の構成を示すもので、変調器1でRFのOFDM信号を出力し、本発明に係る非線形補償器2を介して、RF増幅器3にて電力増幅し、送信信号として出力する。RF増幅器3の出力は分配器(方向性結合器)4により一部分配されて非線形補償器2に供給される。この非線形補償器2は、RF増幅器3の入力信号及び出力信号に基づいて、その非線形特性を補償するものである。
【0015】
図2は上記非線形補償器2の構成を示すものである。図2において、アナログRF入力端子11には、上記変調器1からのRF信号(被補償信号)が供給される。この端子11に供給されたRF信号は、第1ダウンコンバータ(D/C1)12により局部発振器13からのローカル信号に基づいてIF信号に変換され、AGC(自動利得制御)回路14によって所定の振幅レベルに安定化される。このAGC回路14の出力は、スケルチ(SQ)回路15により信号の有無が判別され、第1アナログ・デジタルコンバータ(ADC1)16によりデジタルIF信号に変換された後、第1直交復調回路(Q−DEM1)17で直交復調され、複素形式のデジタルベースバンド信号I1、Q1となる。ここで得られたI1、Q1信号は、必要に応じてFIRフィルタ(またはLPF)18、19によりダウンサンプリングされる。以上により、入力復調部Aが構成される。
【0016】
一方、アナログPA入力端子21には、RF増幅器3から出力されるRF信号が供給される。この端子21に供給されたRF信号は、第2ダウンコンバータ(D/C2)22により移相器23で位相調整されたローカル信号に基づいてIF信号に変換される。このIF信号は、スケルチ(SQ)回路25により信号の有無の判別処理を受け、第2アナログ・デジタルコンバータ(ADC2)26によりデジタルIF信号に変換された後、第2直交復調回路(Q−DEM2)27で直交復調され、複素形式のデジタルベースバンド信号I2、Q2となる。ここで得られたI2、Q2信号は、必要に応じてFIRフィルタ(またはLPF)28、29によりダウンサンプリングされる。以上により、出力復調部Bが形成される。
【0017】
ここで、上記第2直交復調回路27のIQ出力はIM検出部Hに供給される。このIM検出部Hは、具体的には図3に示すように構成される。図3において、直交復調回路27からの信号I1,Q1は第1及び第2のIMレベル検出回路81、82に供給される。第1のIMレベル検出回路81において、入力IQ信号は周波数シフト回路811によりベースバンド信号の中心周波数f0から+3MHz分周波数シフトされ、そのうち例えばI信号のみ(Q信号のみ、またはIQ信号の両成分を用いても同様の効果が得られる)が第1ローパスフィルタ(LPF)812によりf0+3MHzの周波数成分が抽出される。この抽出信号は検波回路813により全波整流されて直流信号となり、さらに第2ローパスフィルタ(LPF)814により振幅平均信号となる。この信号はf0+3MHz(OFDM信号伝送帯域の上端)のIMレベル値L1として出力される。第2のIMレベル検出回路82は、第1のIMレベル検出回路81と同一回路構成であり、f0−3MHz(OFDM信号伝送帯域の下端)のIMレベル値L2を検出出力する。このようにして得られたf0±3MHzのIMレベル検出信号L1、L2は後述の歪み検出部Fに供給される。
【0018】
上記入力復調部Aから出力されるデジタルベースバンド信号I1、Q1は、遅延調整部C及び歪み補正部Dに供給される。ここで、上記遅延調整部Cは、入力復調部Aからのデジタルベースバンド信号I1、Q1をそれぞれ所定時間遅延するRAM遅延器31、32を備える。RAM遅延器31、32で遅延されたデジタルベースバンド信号I3、Q3は、上記出力復調部Bから出力されるデジタルベースバンド信号I2、Q2と共に、遅延検出部E及び歪み検出部Fに供給される。
【0019】
上記遅延検出部Eにおいて、遅延調整部Cからのベースバンド信号I3、Q3と出力復調部Bからのベースバンド信号I2、Q2は複素乗算器41に供給される。この複素乗算器41は、両入力信号を複素乗算することで、両者の複素相関をとってREAL(実部)信号とIMAG(虚部)信号を求めるものである。ここで得られたREAL信号及びIMAG信号は、それぞれREAL積分器42及びIMAG積分器43に供給される。
【0020】
これらの積分器42、43は、例えば累積値/累積時間を求める区間積分を行うことでノイズ等の影響を除去するものである。積分器42、43の出力はピタゴラス変換器44に供給され、デカルト座標から極座標に変換される。ピタゴラス変換器44の出力うち、振幅値は相関ピーク検出器45に供給される。この相関ピーク検出器45は、2つの入力信号の相関出力におけるピーク位置を求めるものである。この相関ピーク検出器45で検出されたピーク位置情報はピタゴラス変換器44から出力される角度値(位相値)と共に遅延/角度検出器46に供給される。
【0021】
この遅延/角度検出器46は、ピークの位置情報から増幅器入力側(変調器出力側)のデジタルベースバンド信号I3、Q3と増幅器出力側のデジタルベースバンド信号I2、Q2との時間差及び位相差(角度)を求めるもので、ここで得られた時間差は遅延制御器47に供給され、位相差は位相制御器48に供給される。遅延制御器47は、与えられた時間差に応じて遅延調整部CのRAM遅延器31、32の遅延量を設定して粗同期を行い、さらに出力復調部BのFIRフィルタ28、29の係数値を制御して精密同期させるものである。これにより増幅器入力側のデジタルベースバンド信号I3、Q3と増幅器出力側のデジタルベースバンド信号I2、Q2との同期がとられる。また、位相制御器48は、与えられた位相差に応じて、出力復調部Bの移相器23の移相量を調整する。これにより増幅器入力側と増幅器出力側の位相合わせがなされる。
【0022】
尚、上記遅延制御器47及び位相制御器48は、いずれもデジタルベースバンド信号に信号成分が含まれていない場合には時間差及び位相差が得られないため、制御不能となり、誤動作するおそれがある。そこで、入力復調部A及び出力復調部Bに設けられたスケルチ回路15、25の出力から信号成分の有無を判別し、信号成分があるときのみ制御を行うものとする。
【0023】
上記歪み検出部Fは、遅延調整部Cからのデジタルベースバンド信号I3、Q3と出力復調部Bからのデジタルベースバンド信号I2、Q2をそれぞれピタゴラス変換器51、52によってデカルト座標(I3、Q3)、(I2、Q2)から極座標(R3、θ3′)、(R2、θ2)に変換した後、角度補正部54にてθ3′をθ3に補正して、誤差演算器53にて両者の振幅誤差ΔR及び位相誤差Δθを求める。
ΔR=R3−R2
Δθ=θ3−θ2
ここで得られた振幅誤差ΔR及び位相誤差Δθは歪み補正部Dに供給される。
【0024】
この歪み補正部Dは、歪み検出部Fからの振幅誤差ΔR及び位相誤差Δθをそれぞれ積分器61で区間積分し、その積分結果を歪み補償量としてRAMテーブル62に登録しておく。一方、入力復調部Aからのデジタルベースバンド信号I1、Q1をピタゴラス変換器63によりデカルト座標(I1、Q1)から極座標(R1、θ1)に変換した後、R1の値に応じた歪み補償量(ΔR、Δθ)をRAMテーブル62から読み出して、その補償量を歪み補償量加算部64で加算し、逆ピタゴラス変換器65で元のデカルト座標(I1′、Q1′)に戻して出力する。この歪み補正部Dから出力されるデジタルベースバンド信号は出力変換部Gに供給される。
【0025】
この出力変換部Gは入力デジタルベースバンド信号をFIRフィルタ(またはLPF)71、72によって元のビットレートに戻し(オーバーサンプリング)、直交変調(Q−MOD)回路73で直交変調してIF信号とし、デジタル・アナログコンバータ(DAC)74でアナログ信号に変換した後、アップコンバータ(U/C)75で局部発振器13からのローカル信号に基づいてRF信号に変換し、RF出力端子76から歪み補償された信号として出力する。
【0026】
次に、上記歪み補正部D及び歪み検出部Fの具体的な構成を説明する。
【0027】
図4は歪み補正部Dと歪み検出部Fの具体的な構成を示すもので、歪み補正部DのRAMテーブル62は、デュアルポートメモリにより現用領域621と予備領域622を備え、個々に独立して動作するようになされている。現用領域621と予備領域622は、それぞれ振幅値(R)用と角度(θ)用を備え、外部から切換信号が与えられることにより、予備領域622に書き込まれたデータが現用領域621に移される。
【0028】
予備領域622の書き込み及び現用領域621の読み出しはアドレスタイミング制御部623からのアドレスに従って行われる。すなわち、このアドレスタイミング制御部623は、初期設定時に、歪み検出部Fから極座標変換された入力側ベースバンド信号の振幅値データR3を取り込んで予備領域622の書き込みアドレスを発生し、積分器61からの歪み補償量(ΔR、Δθ)をR3に対応付けて振幅値(ΔR)及び角度(Δθ)別に予備領域622に書き込んで、歪み補償量の更新データを生成する。また、運用時に、歪み補正部Dのピタゴラス変換器63から出力されるR1データを取り込んで現用領域621の読み出しアドレスを発生し、対応する歪み補償量を振幅値(ΔR)及び角度(Δθ)別に読み出して、歪み補償量加算部64に送る。
【0029】
現用領域621と予備領域622を切り替えるタイミングとしては、電源投入時またはリセット時から一定期間内に積分器61に蓄積された歪み補償量を予備領域622に書き込み、その後に現用領域621に予備領域622のデータを移し替えるものとする。
【0030】
一方、歪み検出部Fには、角度補正部54を備える。この角度補正部54は、具体的には図5に示すように、IMバランス演算部541、RAMテーブル542及び加算器543で構成される。IMバランス演算部541は、IM検出部Hから供給されるf0+3MHzのIMレベル検出信号L1とf0−3MHzのIMレベル検出信号L2を入力し、L1−L2を演算することで、上端と下端のレベル差と大小関係(IMバランスデータ)を求める。
【0031】
RAMテーブル542には、予め、IMバランスデータのステップ単位で、ピタゴラス変換器51から出力される振幅値R3と、これに対応する傾きの角度補正量(位相値の補正量)との対応関係が格納されており、振幅値R3が与えられると、RAMテーブル542から対応する角度補正量が出力され、加算器543にてピタゴラス変換器51からの角度θ3′に加算される。この加算器543の加算結果が補正角度値θ3として誤差演算器53に出力される。
【0032】
上記構成による非線形補償器2では、入力復調部Aと出力復調部BとでRF増幅器3のRF入力及びRF出力のデジタルベースバンド信号を抽出し、両信号の時間差、位相差を遅延検出部Eで相関演算により検出して、遅延調整部Cにより両信号の同期合わせを行う。また、移相器23にて両信号の位相合わせを行う。この状態で、歪み検出部Fにて入力復調部Aの出力側の信号を基準に出力復調部Bの出力側の信号の振幅誤差及び位相誤差を求め、歪み成分として歪み補正部Dに入力する。
【0033】
歪み補正部Dにて、振幅値に対応する補償量を予め登録された補償量の中から順次選び出し、この補償量を入力復調部Aで得られたデジタルベースバンド信号に加算することで歪み成分を補償し、出力変換部Gにて元の信号フォーマットに変換してRF増幅器3へ出力する。これにより、RF増幅器3の持つ非線形特性と逆の特性を持たせてRF信号をRF増幅器3に入力することができ、そのRF出力の非線形特性による歪み成分を補償することができる。
【0034】
補償量の更新は、電源投入時またはリセット時に行われ、通常運用時もRF増幅器の非線形特性の変動に追従するように適宜行うため、調整が容易であり、季節、天候、時間で変化する非線形特性や位相回転を適応補償することが可能となる。
【0035】
さらに、本発明の特徴とする点は、補償対象機器であるRF増幅器3の非線形特性に生じる周波数依存性を適応補償する点にある。以下に、その補償処理について説明する。
【0036】
日本のデジタルテレビジョン方式であるISDB−Tでは、伝送帯域幅が約5.6MHzに定められている。デジタル放送用の電力増幅器は、広帯域であることが望ましいが、現実的には非線形特性が周波数依存性を持つ。この非線形特性の周波数依存性の概要について、図6を参照して説明する。
【0037】
図6(a)は、伝送帯域におけるOFDM信号の周波数スペクトラム(実線)とRF増幅器3が持つ非線形特性により発生するIM成分(点線)との関係を示し、同図(b)は周波数帯域の下端の振幅−位相特性(Δθ1)と上端の振幅−位相特性(Δθ2)を示している。この図からわかるように、周波数帯域の下端の振幅−位相特性(Δθ1)と上端の振幅−位相特性(Δθ2)で特性に差があるため、単に中心周波数での平均的な振幅−位相特性(図3(c)のΔθ3)を検出して補償を行ったとしても、帯域全体で補償がアンバランスとなり、所望の特性が得られない。
【0038】
そこで、本実施形態では、IM検出部Hにて、補償状態で下端と上端の各IMフロアレベルIM1(=L1)、IM2(=L2)を検出し、歪み検出部Fに設けた角度補正部54にて、中心周波数f0を中心として上下対称となるように振幅−位相特性Δθの傾きを補正する。尚、ISDB−Tでは、IMレベルを測定する場合、中心周波数f0に対して±3MHzのポイントでレベル検出したとき、いずれも−50dB以上得られるようにすることが規定されている。
【0039】
以上のことから、図5に示した構成の角度補正部54の場合には、下端及び上端のIM検出レベルL1、L2の差分値をIMバランスデータとし、予め、IMバランスデータのステップ単位で、ピタゴラス変換器51から出力される振幅値R3と、これに対応する傾きの角度補正量との対応関係が格納されたRAMテーブル542を用意しておく。そして、このテーブル543から振幅値R3に対応する角度補正量を求め、この角度補正量をピタゴラス変換器51からの角度θ3′に加算して補正角度値θ3を得ている。このように、θ3′の角度補正、すなわち基準の位相をずらすことは、検出される振幅−位相特性(Δθ)の傾きを変化させることと等価である。
【0040】
さらに、上記非線形特性の周波数依存性に対するΔθ特性の傾き補正について詳述する。
【0041】
前述のように、電力増幅器の非線形特性が周波数依存性を持つ場合、非線形補償器のΔθ特性は信号の平均で作られるため、必ずしも最適な特性になるとは限らない。このとき、Δθ特性の傾きが周波数によって異なっている。そこで、Δθ特性の傾きに補正を加える方法を考えた場合、RF入力信号(変調器1の出力側の信号)の位相をずらす方法と基準信号(歪み検出部FのRF入力側の信号)の位相をずらす方法の2つの方法がある。以下にその2つの方法について説明する。但し、
θi(R):RF−IN入力信号位相
θp(R):PA−IN入力信号位相
θo(R):RF−OUT出力信号位相
Δθ(R):位相補償データ
θoffset(R):Δθ傾き補正値
とする。
【0042】
(1)入力信号位相をずらす方法
Δθ傾き補正なしの状態にて、位相補償データΔθは、
Δθ(R)=θi(R)−θp(R)
となり、出力信号位相θoは、
となる。
【0043】
一方、Δθ傾き補正ありの状態にて、位相補償データΔθは、
Δθ(R)=θi(R)+θoffset(R)−θp(R)
となり、出力信号位相θoは、
となる。このことから、入力信号位相をずらす場合にΔθ傾き補正を行うには、2倍のΔθ傾き補正値を加算すればよいことがわかる。
【0044】
(2)基準位相をずらす方法
Δθ傾き補正なしの状態にて、位相補償データΔθは、
Δθ(R)=θi(R)−θp(R)
となり、出力信号位相θoは、
となる。
【0045】
一方、Δθ傾き補正ありの状態にて、位相補償データΔθは、
Δθ(R)=θi(R)+θoffset(R)−θp(R)
となり、出力信号位相θoは、
となる。このことから、基準位相をずらす場合にΔθ傾き補正を行うには、1倍のΔθ傾き補正値を加算すればよいことがわかる。
【0046】
(1)、(2)の説明から明らかなように、基準位相をずらす方法でも、入力信号位相をずらす方法と同様にΔθ傾き補正を行うことができる。但し、回路規模が基準位相をずらす方法の方が少ないため、本実施形態では基準位相(θ3)をずらす方法で行っている。
【0047】
また、(1)、(2)の方法以外に、予め、RAMテーブル541には、IMバランスデータのステップ単位でRF増幅器3の出力側の信号の振幅値に対する位相値の補正量を格納しておき、このテーブル541からIMバランスデータとRF増幅器3の出力側の信号の振幅値とに対応する位相値の補正量を読み出し、この補正量でRF増幅器3の出力側の信号の位相値を補正するようにしても、同様の効果が得られる。
【0048】
したがって、上記構成による非線形補償器では、RF増幅器3が持つ、季節、天候、時間で変化する非線形特性や位相回転を自動的に補償することができ、さらに非線形特性に生じる周波数依存性をも適応補償することができる。
【0049】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0050】
例えば、上記実施形態では、IM検出部Hに第2直交復調回路27のIQ出力を入力するようにしたが、スケルチ回路25の出力を入力し、IM検出部H側でIQ信号に変換し処理するようにしてよい。
【0051】
また、上記実施形態では、出力復調部Bの移相器23の移相量を調整することによって位相合わせを行うようにしているが、入力復調部Aのダウンコンバータ12に供給されるローカル信号の位相を移相器によって調整するようにしても、同様に位相合わせを行うことができる。
【0052】
さらに、上記実施形態では、変調器1からアナログRF信号を入力する場合について説明したが、変調器1がデジタルベースバンド信号を直接出力する場合には、このデジタルベースバンド信号を入力して、入力復調部Aの出力に代わって遅延調整部C及び歪み補正部Dに直接供給するようにすれば、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0053】
また、上記実施形態はOFDM送信装置に適用した場合であるが、本発明はこれに限定されるものではなく、他のアナログ通信系、デジタル通信系の電子回路、例えばNTSC方式によるアナログテレビジョン信号の送信装置、ATSC方式によるデジタルテレビジョン信号の送信装置等における非線形特性及び位相回転の補償についても適用可能である。
【0054】
また、上記実施形態では、歪み補正を極座標(R,θ)の加算により行うものとしたが、デカルト座標(I,Q)での乗算により行うことも可能である。
【0055】
さらに、上記実施形態では、全てループ構成とすることにより自動調整、自動制御で非線形特性や位相回転を適応補償するようにしているが、それぞれの検出部の検出結果を適宜表示し、この表示内容を見ながら手動で調整、補正を行うようにしてもよいことは勿論である。
【0056】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、調整が容易で、かつ、季節、天候、時間で変化する非線形特性や位相回転と共に、補償対象機器の非線形特性に生じる周波数依存性を適応補償することのできる非線形補償器とその方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明が適用されるOFDM送信装置の構成を示すブロック図。
【図2】 本発明の実施形態として、図1のRF増幅器の非線形特性を補償する非線形補償器の構成を示すブロック図。
【図3】 図2に示す実施形態のIM検出部の具体的な構成を示すブロック図。
【図4】 図2に示す実施形態の歪み補正部と歪み検出部の具体的な構成を示すブロック図。
【図5】 図2及び図4に示す実施形態における角度補正部の具体的な構成を示すブロック図。
【図6】 図2に示す実施形態における非線形特性の周波数依存性の概要を説明するための図。
【符号の説明】
1…変調器
2…非線形補償器
3…RF増幅器
4…分配器
A…入力復調部
B…出力復調部
C…遅延制御部
D…歪み補正部
E…遅延検出部
F…歪み検出部
G…出力変換部
H…IM検出部
11…アナログRF入力端子
12…第1ダウンコンバータ(D/C1)
13…局部発振器
14…AGC回路
15…スケルチ回路(SQ)
16…第1アナログ・デジタルコンバータ(ADC1)
17…第1直交復調回路(Q−DEM1)
18、19…FIRフィルタ
21…アナログPA入力端子
22…第2ダウンコンバータ(D/C2)
23…移相器
24…AGC回路
25…スケルチ回路(SQ)
26…第2アナログ・デジタルコンバータ(ADC2)
27…第2直交復調回路(Q−DEM2)
28、29…FIRフィルタ
30…局部発振器
31、32…RAM遅延器
41…複素乗算器
42…REAL積分器
43…IMAG積分器
44…ピタゴラス変換器
45…自己相関ピーク検出器
46…遅延/角度検出器
47…遅延制御器
48…位相制御器
49…キャリア同期回路
491…微分器
492…ループフィルタ
493…加算器
494…ループフィルタ
51、52…ピタゴラス変換器
53…誤差演算器
54…角度補正部
541…IMバランス演算部
542…RAMテーブル
543…加算器
61…積分器
62…RAMテーブル
621…現用領域
622…予備領域
623…アドレスタイミング制御部
63…ピタゴラス変換器
64…歪み加算部
65…逆ピタゴラス変換器
71、72…FIRフィルタ
73…直交変調回路(Q−MOD)
74…デジタル・アナログコンバータ(ADC)
75…アップコンバータ(U/C)
76…RF出力端子
77…局部発振器
81,82…IM検出回路
811,821…周波数シフト回路
812,822…第1ローパスフィルタ
813,823…検波回路
814,824…第2ローパスフィルタ
Claims (5)
- 伝送信号を扱う被補償電子装置の前段に配置され、前記伝送信号を被補償信号として入力して前記被補償電子装置の非線形特性を補償して前記被補償電子装置に送出する非線形補償器において、
前記被補償信号及び前記被補償電子装置の出力信号を取り込み、適宜復調処理して同じ信号形式に合わせた後、両信号間の相関をとることで両信号間の時間差及び位相差を検出し、検出した時間差及び位相差に基づいて両信号の同期及び位相合わせを行う信号処理部と、
この信号処理部により同期及び位相が合わせられた被補償信号及び被補償電子装置の出力信号から、被補償信号を基準信号として出力信号の振幅誤差及び位相誤差を検出し、検出結果を歪み成分として検出する歪み検出部と、
この歪み検出部で検出された歪み成分に基づいて前記被補償電子装置の非線形歪み補償量を生成し、この歪み補償量で前記被補償信号を補償する歪み補正部と、
前記信号処理部で取り込まれた被補償電子装置の出力信号またはその復調処理信号から伝送帯域の上端と下端のIMレベルを検出するIMレベル検出手段と、
このIMレベル検出手段で検出された上端及び下端のIMレベルの差をIMバランスデータとして求めるIMバランス演算部と、
このIMバランス演算部で得られたIMバランスデータに基づいて前記歪み検出部の歪み検出結果を補正する歪み検出量補正部と
を具備することを特徴とする非線形補償器。 - 前記歪み検出量補正部は、予め、前記IMバランスデータのステップ単位で前記被補償信号の振幅値に対する位相値の補正量を格納したテーブルを備え、このテーブルから前記IMバランスデータと前記被補償信号の振幅値とに対応する位相値の補正量を読み出し、この補正量で前記被補償信号の位相値を補正することを特徴とする請求項1記載の非線形補償器。
- 前記歪み検出量補正部は、予め、前記IMバランスデータのステップ単位で前記被補償電子装置の出力信号の振幅値に対する位相値の補正量を格納したテーブルを備え、このテーブルから前記IMバランスデータと前記被補償電子装置の出力信号の振幅値とに対応する位相値の補正量を読み出し、この補正量で前記被補償電子装置の出力信号の位相値を補正することを特徴とする請求項1記載の非線形補償器。
- 前記歪み検出量補正部は、予め、前記IMバランスデータのステップ単位で前記被補償信号の振幅値に対する位相値の補正量を格納したテーブルを備え、このテーブルから前記IMバランスデータと前記被補償信号の振幅値とに対応する位相値の補正量を読み出し、この補正量で前記歪み検出部で用いる基準信号の位相値を補正することを特徴とする請求項1記載の非線形補償器。
- 伝送信号を扱う被補償電子装置の前段に配置され、前記伝送信号を被補償信号として入力して前記被補償電子装置の非線形特性を補償して前記被補償電子装置に送出する非線形補償器に適用され、
前記被補償信号及び前記被補償電子装置の出力信号を取り込み、適宜復調処理して同じ信号形式に合わせた後、両信号間の相関をとることで両信号間の時間差及び位相差を検出し、検出した時間差及び位相差に基づいて両信号の同期及び位相合わせを行う信号処理ステップと、
この信号処理ステップにより同期及び位相が合わせられた被補償信号及び被補償電子装置の出力信号から、被補償信号を基準信号として出力信号の振幅誤差及び位相誤差を検出し、検出結果を歪み成分として検出する歪み検出ステップと、
この歪み検出ステップで検出された歪み成分に基づいて前記被補償電子装置の非線形歪み補償量を生成し、この歪み補償量で前記被補償信号を補償する歪み補正ステップと、
前記信号処理ステップで取り込まれた被補償電子装置の出力信号またはその復調処理信号から伝送帯域の上端と下端のIMレベルを検出するIMレベル検出ステップと、
このIMレベル検出ステップで検出された上端及び下端のIMレベルの差をIMバラン スデータとして求めるIMバランス演算ステップと、
このIMバランス演算ステップで得られたIMバランスデータに基づいて前記歪み検出ステップの歪み検出結果を補正する歪み検出量補正ステップと
を具備することを特徴とする非線形補償方法。
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