JP3954215B2 - 複合焼結機械部品の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、形状の複雑な焼結機械部品の製造に用いられる複数の部分に分割成形した圧粉体を組み合わせて焼結することにより1箇の焼結部品を得る方法を応用した、圧粉体の部分と鋼材(溶製材)の部分とを焼結により接合する方法の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
複数の圧粉体を組み合わせて1箇の焼結部品とするためには、一方の圧粉体は軸部を有する形状に,他方の圧粉体は孔部を有する形状に成形しておき、軸部を有する部材(嵌め合わせで内側になることから、以下内側部材という)と孔部を有する部材(以下外側部材という)の軸部と孔部を嵌め合わせた状態で焼結して拡散接合により一体化させるのが通例である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、部品の機能面その他の必要から部材の一方には鋼材(溶製材)を使用したい場合があるが、その場合単に圧粉体と鋼材を嵌め合わせて焼結しても、通常の焼結条件では圧粉体同士のような高い接合強度は得られない。長時間高温の焼結を行なえば接合強度は向上するが、生産性とコストに問題が生じ実用にはなり難かった。そこでこの対策として、圧粉体と嵌め合わせる前に、予め鋼材の接合面に浸炭処理を施しておく接合法が開発された。この方法は、圧粉体の炭素含有量よりも高い濃度の浸炭層を鋼材表面に形成しておくと焼結時に浸炭層から圧粉体への炭素の拡散が充分に進行し、圧粉体同士の場合と同様の高い接合強度が得られるという現象を利用している。
【0004】
しかし、この方法にはイオン浸炭法などの浸炭処理を長時間施す必要があり、鋼材の処理コストが従って製品のコストが高くつくこと,浸炭を好まない場合や浸炭に向かない材質があるため、実施の対象が制約されるなどの問題があった。この発明は、圧粉体との焼結による接合に際し鋼材の浸炭処理を要しない方法の開発を目的とするものあでり、とくに外側部材が鋼材,内側部材が圧粉体という組み合わせを対象としている。ちなみに、この明細書における鋼材は純鉄,炭素鋼,合金鋼など鉄系金属の溶製材を総称している。
【0005】
【課題を解決するための手段】
鋼材の外側部材に圧粉体の内側部材を嵌め合わせて焼結接合する場合、得られる複合部品が高い接合強度を持つためには単なる機械的な焼き嵌めだけでなく、両部材の接合面が十分に密着した状態での焼結によって、合金成分の固相拡散による接合を図る必要がある。それには先ず、両部材を嵌め合わせる際の嵌め合い寸法差(鋼材の孔部の内径寸法と圧粉体の軸部の外径寸法の差)が重要で、圧粉体の方を太め(締まり嵌め)に設定して鋼材に圧入するのが好ましく、締め代は大きいほど両者の密着度が高くなる。ただし焼結前で強度が低い圧粉体の破損を避けるため、緩衝作用のある圧粉体同士の場合より締め代を小さく、好ましくは30μm以内,多くとも40μm以内に止める必要がある。通り嵌めを選ぶ場合でも隙間は小さいほどよく、5μm以下に止めるべきである。
【0006】
次の要因としては焼結中における各部材の寸法的挙動(膨脹・収縮)が重要であって、即ち合金成分の固相拡散は鉄系金属の場合は略800℃以上の高温域で生じるので、この高温域での圧粉体の膨張量が鋼材の膨張量より大きくなれば、鋼材が圧粉体を締め付けて両部材が密着する。従ってこの状態で圧粉体の焼結と合金成分の固相拡散が進行して両部材が一体化され、高い接合強度が得られる。ところが、焼結合金では焼結過程で粉末粒子の隙間の気孔化〜気孔の消失による緻密化(収縮)を生じるので、普通に焼結した場合の熱膨張量は同等組成の鋼材に比べて原則的に小さくなる。そのため内側部材(圧粉体)の方が相対的に収縮して外側部材(鋼材)との密着を緩める方向に作用し、接合強度が低くなる。
【0007】
そこでこの発明では、800℃以上の高温域における圧粉体の熱膨張量を鋼材より増大させる手段を施すことにより鋼材と圧粉体を密着状態で焼結させ、接合強度の向上を実現した。その手段としては、以下に述べるような鉄系焼結合金における銅膨脹現象の利用,鋼材の炭素量よりも0.2%以上多い炭素(黒鉛)を圧粉体に含有させておく手段,予め圧粉体に亜鉛を含有させて浸炭性雰囲気中で焼結する手段などが用いられる。焼結は固相焼結によるのが通常であるが、一部に液相を生じる状態で焼結すると拡散接合がさらに促進される。その際、液相の生成量が5%以内であれば浸蝕や形崩れなどの懸念はないが、焼結体の寸法精度も良好な状態に保つためには3%以内に止めることが好ましい。なおこの明細書中の組成等に関する%は、特に断らない限り重量%である。
【0008】
【発明の実施の形態】
先ず、鉄に銅を配合して焼結する際の銅膨脹現象は銅が鉄の格子内に侵入して膨脹させるもので、この膨脹が焼結に伴う収縮を相殺する結果、高温域での膨脹量が鋼材よりも大きくなる。なお銅膨脹は銅の融点(1083℃)以上で激しくなる。この作用は銅の配合量1%以上で有意となるが、嵌め合わせた外側部材と十分密着させ拡散接合を図るためには2%以上の配合が好ましい。なおこの作用は銅自身の量のほか、他の合金成分に影響される。例えばアルミニウム,硫黄,リチウムなどは膨脹を増大させる方向に、ホウ素,炭素,リンなどは膨脹を抑制する方向に作用する。従って成分組成を適切に選択することにより、所望の膨脹量に制御することができる。
【0009】
次に圧粉体の炭素量を多くすることの作用効果については、圧粉体が加熱膨脹する過程で鉄の焼結が始まると、焼結に伴う収縮分だけ熱膨張量は相殺される。ところが炭素は鉄の焼結の進行を遅らせるので黒鉛が多いほど収縮が遅くなり、その分膨張量が増大する。また、炭素は鉄格子中に侵入する形で拡散するため、鉄中に炭素が拡散するだけで鉄の格子定数が拡大し、全体として膨脹量が大きくなる。更に温度が上昇するとα→γ変態を起こして一旦収縮するが、この変態点は炭素が多いほど低温側に移行する。そして熱膨張係数はα相よりもγ相の方が大きいため、圧粉体の炭素量が多いほどα→γ変態が早くなり膨張が増大する。この様な理由から、経験的には炭素量を鋼材より0.2%以上多くすれば、圧粉体の高温域での熱膨張量が鋼材よりも大きくなる。
【0010】
この炭素による内側部材の膨脹は、焼結雰囲気に浸炭性ガスを用いることでも発生させることができる。圧粉体は基本的に多孔質なので内部まで焼結雰囲気に接することになり、雰囲気ガスからの浸炭が圧粉体内部まで容易に進むのに対して、鋼材は雰囲気ガスと接するのは最表面に限られるのでほとんど浸炭されないからである。
【0011】
次に圧粉体中の亜鉛と焼結雰囲気との関係については、亜鉛が含まれる鉄系の圧粉体を浸炭性の雰囲気中で焼結すると、鉄と雰囲気中の炭素との反応に対して亜鉛が微量で触媒作用を示し、亜鉛を含まない場合に比べて焼結中の熱膨脹量が大きくなる。亜鉛の添加は単味でも可能ではあるが、成形に必要な粉末潤滑剤を兼ねてステアリン酸亜鉛の形で添加するのが手間も掛からず、且つ亜鉛を均一に分散させる上でも好ましい。焼結雰囲気には天然ガスやメタン系炭化水素などを変成して作られる精製エキソサーミックガス,例えば浸炭性のブタン変成ガスが適している。
【0012】
なお上述の各手段を通じて、両部材が焼結過程の略800℃以上の全域で密着状態を保つことは望ましいが必須ではなく、この高温域の少なくとも一部の域で(所要時間は温度により異なるが合金成分の拡散深さが5μm前後に達する間)密着していれば十分な接合が行なわれる。
【0013】
(参考例1) 炭素鋼S45Cで内径30mm,外径36mm,長さ10mmの円板を作製して外側部材とし、その内周に内側部材を嵌め合わせて焼結により接合する。内側部材は配合が銅3%,黒鉛0.5%および鉄残部に粉末潤滑剤のアクラワックス(商品名)を0.7%添加した混合粉を外径30mm,内径10mm,長さ20mmの円筒に圧縮成形したもので、圧粉密度は7.0g/cm3 である。次いで外側部材に圧粉体を締め代20μmで圧入して嵌め合わせ、窒素雰囲気中1130℃で40分間焼結した。得られた焼結体を材料試験機に掛け、外側部材を架台上に支えて内側部材に負荷する破壊試験を行なった結果、両部材の接合強度は120MPaであった。
【0014】
(参考例2) 炭素鋼S38Cで内径30mm,外径36mm,長さ10mmの円板を作製して外側部材とし、その内周に内側部材を嵌め合わせて焼結により接合する。内側部材は配合が銅1.5%,黒鉛0.7%および鉄残部に粉末潤滑剤ステアリン酸亜鉛を0.7%添加した混合粉を外径30mm,内径10mm,長さが20mmの円筒に成形したもので、圧粉密度は7.0g/cm3 である。次いで外側部材に圧粉体を締め代20μmで圧入して嵌め合わせ、窒素雰囲気中1130℃で40分間焼結した。得られた焼結体を材料試験機に掛け、外側部材を架台上に支えて内側部材に負荷する破壊試験を行なった結果、両部材の接合強度は100MPaであった。なお参考例1,2の場合は窒素ガスを主とする焼結雰囲気で十分に接合されるが、浸炭性雰囲気を用いればより有効である。
【0015】
(実施例1) 炭素鋼S38Cで内径30mm,外径36mm,長さ10mmの円板を作製して外側部材とし、その内周に内側部材を嵌め合わせて焼結により接合する。内側部材は配合が銅1.5%,黒鉛0.4%および鉄残部に粉末潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を0.7%添加した混合粉を外径30mm,内径10mm,長さ20mmの円筒に圧縮成形したもので、圧粉密度は7.0g/cm3 である。両部材を締め代30μmの圧入により嵌め合わせ、浸炭性のブタン変成ガス雰囲気中1130℃で40分間焼結した。得られた焼結体を材料試験機に掛け、外側部材を架台上に支えて内側部材に負荷する破壊試験を行なった結果、両部材の接合強度は150MPaであった。
【0016】
(比較例) 鋼材の外側部材,内側部材の圧粉体ともにそれぞれの材質・寸法および嵌め合いの条件は実施例1の場合と同様にして両部材を嵌め合わせた後、焼結条件のみ変更して、窒素雰囲気中1130℃で40分間焼結した。得られた焼結体を材料試験機に掛け、外側部材を架台上に支えて内側部材に負荷する破壊試験を行なった結果、両部材の接合強度は10MPaであった。
【0017】
【発明の効果】
外側部材を鋼材,内側部材を圧粉体とし、両部材を嵌め合わせた状態で焼結により一体化する場合、高い接合強度を得るためには、従来は予め鋼材の接合面に浸炭処理を施しておく必要があったが、この発明の方法によって浸炭処理が不要になりコストや生産性が改善される。また浸炭を好まない場合や浸炭に向かない材質でも接合できるため、複合部品の対象範囲が拡大される。

Claims (6)

  1. 溶製鋼材から形成された孔部を有する部材(以下外側部材という)と、鉄系の合金粉末または混合粉を圧縮成形して得た軸部を有する圧粉体(以下内側部材という)とを、それぞれの孔部と軸部を嵌め合わせた状態で一体に焼結するに際し、内側部材には焼結過程の800℃以上の高温域における熱膨張量が外側部材の熱膨張量よりも大きくなる組成の原料粉末を用い、原料粉に添加する粉末潤滑剤末には亜鉛を含有するものを用いて浸炭性雰囲気で焼結することを特徴とする複合焼結機械部品の製造方法。
  2. 外側部材の孔部と内側部材の軸部との嵌め合い寸法差が隙間5μm以下の通り嵌めもしくは締め代40μm以内の締まり嵌めである請求項1に記載の複合焼結機械部品の製造方法。
  3. 焼結雰囲気が精製エキソサーミックガスである請求項1または請求項2に記載の複合焼結機械部品の製造方法。
  4. 焼結雰囲気が浸炭性のブタン変成ガスである請求項1または請求項2に記載の複合焼結機械部品の製造方法。
  5. 焼結が固相焼結である請求項1,請求項2,請求項3または請求項4に記載の複合焼結機械部品の製造方法。
  6. 一部に液相が生じるとともにその液相生成量が3%(質量%)以内である、請求項5に記載の複合焼結機械部品の製造方法。
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